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明細書 :磁気ディスク及び磁気記憶装置の復旧方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6108950号 (P6108950)
公開番号 特開2014-225308 (P2014-225308A)
登録日 平成29年3月17日(2017.3.17)
発行日 平成29年4月5日(2017.4.5)
公開日 平成26年12月4日(2014.12.4)
発明の名称または考案の名称 磁気ディスク及び磁気記憶装置の復旧方法
国際特許分類 G11B   5/84        (2006.01)
G11B  33/14        (2006.01)
FI G11B 5/84 Z
G11B 5/84 B
G11B 33/14 501Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2013-102816 (P2013-102816)
出願日 平成25年5月15日(2013.5.15)
審査請求日 平成28年5月11日(2016.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】谷 弘詞
個別代理人の代理人 【識別番号】100074332、【弁理士】、【氏名又は名称】藤本 昇
【識別番号】100114432、【弁理士】、【氏名又は名称】中谷 寛昭
審査官 【審査官】岩井 健二
参考文献・文献 特開2008-090886(JP,A)
特開2001-357502(JP,A)
特開平07-312077(JP,A)
特開平04-364265(JP,A)
特開昭61-123076(JP,A)
調査した分野 G11B 5/84 - 5/858
G11B 33/14
特許請求の範囲 【請求項1】
最表面側に配された潤滑層、及び、該潤滑層よりも内側に配された磁気層を有する磁気ディスクと、該磁気ディスクに記憶されたデータを読み出すように組み込まれた磁気ヘッドとを備え、前記磁気ディスクが異物によって前記最表面側から前記磁気層に到達する損傷を受けて、前記磁気層に記憶されたデータが部分的に消失している磁気記憶装置の復旧方法であって、
前記潤滑層の表面にクリーニング処理を施すことによって前記異物を除去する異物除去工程を備え、
前記クリーニング処理は、前記潤滑層の表面を研磨可能なシート材を用い、前記磁気ディスクを回転させつつ前記潤滑層の表面に前記シート材を押し当てることによって、前記潤滑層の表面をクリーニングする処理であり、
前記異物除去工程の後に、予め組み込まれていた前記磁気ヘッドに代えて、新たな磁気ヘッドを組み込み、前記磁気ディスクに記憶された前記データのうち前記部分的に消失しているデータ以外のデータの少なくとも一部を前記新たな磁気ヘッドで読み出す工程をさらに備えた磁気記憶装置の復旧方法。
【請求項2】
前記新たな磁気ヘッドで読み出す工程を行った後、読み出したデータを前記磁気ディスクとは異なる新たな磁気ディスクに記憶する工程をさらに備えた請求項1に記載の磁気記憶装置の復旧方法。
【請求項3】
前記異物除去工程を行った後、前記磁気ディスクから前記潤滑層を除去し、該磁気ディスクの最表面側に新たな潤滑層を形成する潤滑層形成工程と、
該潤滑層形成工程で形成された前記新たな潤滑層の表面に前記クリーニング処理を施すことによって前記潤滑層を平滑化する平滑化工程とをさらに備えた請求項1または2に記載の磁気記憶装置の復旧方法。
【請求項4】
前記磁気記憶装置は、その内部に前記磁気ディスクを収容する容器と、ヘリウムガスが充填された状態で前記容器を密封した蓋部とを備えており、
前記蓋部を開け、前記異物除去工程及び前記新たな磁気ヘッドで読み出す工程を実施した後、ヘリウムガスが再充填された状態で前記蓋部を閉めて前記容器を密封する請求項1~3のいずれかに記載の磁気記憶装置の復旧方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク及び磁気記憶装置の復旧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記憶装置として、最表面側に配された潤滑層と、該潤滑層よりも内側に配された磁気層とを有する磁気ディスクを備えたものが、コンピューターに搭載されたり、コンピューターの外部に配され、該コンピューターに電気的に接続されたりして使用されている。このような磁気記憶装置は、ハードディスク装置と呼ばれている。
【0003】
前記磁気層は、情報を磁気データとして記憶することができるようになっており、前記磁気ディスクは、毎分5400~10000回転といった高速で回転するようになっている。また、前記磁気記憶装置は、前記磁気層に情報を書き込み、及び、該磁気層に記憶された情報を読み出す磁気ヘッドをさらに備えている。該磁気ヘッドは、磁気ディスクが高速回転すると、流体潤滑(気体潤滑)効果によって磁気ディスクの表面(潤滑層の表面)から数nm程度浮上するようになっている。このように、該磁気ヘッドと磁気ディスクの表面との間に隙間が形成された状態で、磁気ディスクの表面上を磁気ヘッドが非接触に走査しながら、上記読み書きを行うようになっている。
【0004】
この種の磁気記憶装置においては、コンピューターや、磁気記憶装置が不意に落下したり、磁気ディスクと磁気ヘッドとが不意に接触したりして、磁気ディスク表面に、引っ掻き傷(スクラッチ)等の物理的な傷が発生する場合がある。この場合、さらに、磁気ディスク表面が引っ掻かれることによって発生した粉が異物として磁気ディスク表面に付着したり、引っ掻き傷の端縁が隆起して潤滑層よりも外側に突出した突起が異物として形成されたりする場合がある。また、磁気記憶装置が海水や汚水中に落下し、磁気記憶装置内に海水等が浸入し、該海水等に含まれる成分が乾燥して、磁気ディスク表面に異物が付着する場合もある。このように磁気ディスク表面に存在する異物を、布等を用いて拭き取ろうとしても、比較的大きな異物は除去できても、磁気ヘッドと磁気ディスクとの微細な隙間程度といった微細な異物は十分に除去することが困難である。
【0005】
このように、磁気ディスクの表面に異物が形成された状態、または、形成された異物が十分に除去されていない状態で磁気ディスク表面上を磁気ヘッドが走査すると、該磁気ヘッドが異物と衝突し、磁気ディスクに記憶された情報を読み出すことが困難となる。
【0006】
ここで、磁気ディスクが損傷した場合に、記憶された情報を1回だけでも読み出すことができれば、読み出した情報を別の磁気ディスク等に記憶させることが可能となる。また、磁気ディスクに記憶された情報のうち、一部分でも読み出すことが可能であれば、情報消失の被害は軽減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点等に鑑み、損傷が生じた磁気ディスクの読み出しを可能とする磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明に係る磁気ディスクの復旧方法は、
最表面側に配された潤滑層と、該潤滑層よりも内側に配された磁気層とを有する磁気ディスクの復旧方法であって、
前記潤滑層に異物が存在することによって前記磁気ディスクが損傷したとき、該潤滑層の表面にクリーニング処理を施すことによって前記異物を除去する異物除去工程を備え、
前記クリーニング処理は、前記潤滑層の表面を研磨可能なシート材を用い、前記磁気ディスクを回転させつつ前記潤滑層の表面に前記シート材を押し当てることによって、前記潤滑層の表面をクリーニングする処理である。
【0009】
ここで、「異物」とは、磁気ディスクが回転したとき、磁気ヘッドと接触して、該磁性ヘッドの安定浮上を妨げるようなものを意味し、この「異物」には、例えば、潤滑層に付着した付着物や、潤滑層が隆起した突起等が含まれる。
また、「潤滑層に異物が存在する」には、例えば、磁気ディスク表面が引っ掻かれることによって発生した粉が異物として潤滑層に付着して存在することや、磁気ディスク表面が引っ掻かれることによって引っ掻き傷(溝)の端縁が隆起し、この隆起によって突起が異物として形成されて存在すること等が含まれる。
【0010】
かかる構成によれば、異物が存在する磁気ディスクの表面(潤滑層の表面)にクリーニング処理を施して磁気ディスクの表面から異物を除去することができる。これによって、処理された磁気ディスクを磁気記憶装置に搭載したとき、磁気ヘッドと異物との衝突を回避して、磁気ディスクに記憶された情報を読み出すことが可能となる。
従って、かかる構成の磁気ディスクによれば、損傷が生じた磁気ディスクの読み出しが可能となる。
【0011】
上記構成の磁気ディスクの復旧方法においては、
前記異物除去工程を行った後、前記磁気ディスクから前記潤滑層を除去し、該磁気ディスクの最表面側に新たな潤滑層を形成する潤滑層形成工程と、
該潤滑層形成工程で形成された前記新たな潤滑層の表面に前記クリーニング処理を施すことによって前記潤滑層を平滑化する平滑化工程とをさらに備えることが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、異物を除去した後、新たな潤滑層を形成することによって、新たな潤滑層に対する異物の混入や付着を回避することができる。また、古い潤滑層を除去して新たな潤滑層を形成することによって、より十分に異物を除去することができる。また、磁気ヘッドが滑り易くなるため、磁気ヘッドによる読み出しの際、磁気ヘッドと異物との衝突や、磁気ヘッドと潤滑層との不意な接触を、より回避できる。
従って、かかる構成の磁気ディスクによれば、損傷が生じた磁気ディスクのより確実な読み出しが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る磁気記憶装置の復旧方法は、前記磁気ディスクの復旧方法を備える。
【0014】
上記構成の磁気記憶装置の復旧方法においては、
前記磁気記憶装置は、その内部に前記磁気ディスクを収容する容器と、ヘリウムガスが充填された状態で前記容器を密封した蓋部とを備えており、
前記蓋部を開け、前記磁気ディスクの復旧方法を実施した後、ヘリウムガスが再充填された状態で前記蓋部を閉めて前記容器を密封する。
【0015】
かかる構成によれば、磁気記憶装置として、内部にヘリウムガスが充填されたものを用いた場合には、上記磁気ディスクの復旧方法を実施した後、磁気記憶装置の内部に再度ヘリウムガスを充填することによって、磁気ディスクのより確実な読み取りが可能となる。すなわち、磁気ディスクを復旧させた後、磁気記憶装置を、その本来の作動状態に戻すことによって、復旧させた磁気ディスクの、より確実な読み取りが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、損傷が生じた磁気ディスクの読み出しが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の磁気ディスクの復旧方法が適用される磁気記憶装置の内部構成を模式的に示す概略斜視図
【図2】磁気ディスクの層構成を示す概略側面図
【図3】磁気ディスクが損傷した状態を模式的に示す図
【図4】実施例1のクリーニング処理の前後での磁気ディスクの状態を模式的に示す図
【図5】実施例1のクリーニング処理後の磁気ディスクの状態を模式的に示す図
【図6】比較例1及び実施例1における磁気ヘッドの浮上安定性を示すグラフ
【図7】実施例2のクリーニング処理後の磁気ディスクの状態を模式的に示す図
【図8】実施例1及び実施例2における磁気ヘッドの浮上安定性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法の一実施形態について説明する。
まず、本実施形態の磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法が適用される磁気記憶装置、及び、磁気ディスクについて説明する。

【0019】
図1に示すように、本実施形態の磁気記憶装置1は、情報を記憶する磁気ディスク5と、該磁気ディスク5を回転させる駆動部としてのスピンドルモータ7と、磁気ディスク5に情報を書き込み、及び、該磁気ディスク5から情報を読み出す情報読み書き部9と、情報読み書き部9で読み出した情報を再生する情報再生処理回路20と、これらを収容する容器3と、これらが容器3に配された状態で容器3を密封する不図示の蓋部とを備えている。

【0020】
なお、磁気記憶装置1は、上記各部材が収容された容器3内にヘリウムガスが充填され、前記蓋部で密封されて構成されていてもよい。

【0021】
前記情報読み書き部9は、磁気ディスク5に情報を書き込み、及び、該磁気ディスク5に記憶された情報を読み出す磁気ヘッド11と、該磁気ヘッド11を磁気ディスク5表面上の半径方向に走査させる走査部13とを備えている。該走査部13は、磁気ヘッド11を先端部に有し、基端部を中心として揺動するアーム部材15と、アーム部材15を揺動させる揺動部としてのボイスコイルモータ(VCM)17と、アーム部材11をボイスコイルモータ17に固定する固定部としてのピボットベアリング19とを備えている。なお、磁気ヘッド11は、磁気ディスク5に記憶された情報を消去することもできるようになっている。

【0022】
前記磁気ディスク5、スピンドルモータ7及び情報読み書き部9は、容器3内に1つ備えられていても、複数備えられていてもよい。

【0023】
前記情報読み書き部9で読み出した情報は、情報再生処理回路20で再生されるようになっている。

【0024】
かかる磁気記憶装置1は、磁気ヘッド11が磁気ディスク5に接触した状態でスピンドルモータ7によって磁気ディスク5が回転し、この回転速度が増加すると、流体効果によって磁気ヘッド11が磁気ディスク5から浮上するようになっている。そして、このように磁気ディスク5を浮上させた状態で走査部13によって磁気ヘッド11を磁気ディスク5の半径方向に走査させることによって、磁気ディスク5に情報を書き込み、及び、磁気ディスク5に記憶された情報を読み出すようになっている。

【0025】
前記磁気記憶装置1に用いられる前記磁気ディスク5は、図2に示すように、基板21と、該基板21上に積層された下地層22と、該下地層22上に積層された中間層23と、該中間層23上に積層された磁性層24と、該磁性層24上に積層された保護層25と、該保護層25上に積層された潤滑層26とを有している。

【0026】
基板21は、磁気ディスク5の主体をなすものであり、非磁性の材料から形成されている。かかる材料としては、ガラスやアルミニウム等が挙げられる。

【0027】
下地層22は、基板21に磁性層24を接着させるための層であり、中間層23は、磁性層24の磁性配向性を調整するための層である。磁性層24は、CoCrPt合金等の磁性材料を主成分とする磁性膜から形成されて、磁気ヘッド11によって情報が磁気情報として書き込まれ、且つ、該情報が記憶される層であり、保護層25は、磁性層24を保護する層である。これら下地層22、中間層23、磁性層24及び保護層25としては、従来公知のものを適宜採用し得る。また、これら下地層22、中間層23、磁性層24及び保護層25は、従来公知の方法を適宜用いて形成され得る。

【0028】
潤滑層26は、磁気ディスク5に対して磁気ヘッド11を滑り易くして両者の摩擦を低減するものである。磁気ディスク5が、その最表面側に潤滑層26を有していることによって、磁気ヘッド11が磁気ディスク5から浮上し易くなる。かかる潤滑層26を形成する材料としては、従来公知の材料が挙げられ、例えば、下記化学式に示すような化学構造を有するパーフルオロポリエーテル化合物等が挙げられ、該パーフルオロポリエーテル化合物としては、例えば、市販品であるフォンブリンZ-テトラオール(Z-tetraol、ソルベイソレクシス社製)等が挙げられる。

【0029】
【化1】
JP0006108950B2_000002t.gif

【0030】
かかる潤滑層26は、例えば、上記フォンブリンZ-テトラオールが、フッ素系溶剤に0.01質量%含有されてなる潤滑剤溶液を用い、ディップ法によって、基板21上に下地層22、中間層23、磁性層24及び保護層25が形成された積層体に該潤滑剤溶液を塗布することによって、形成することができる。上記のフッ素系溶剤としては、分子式C5210で示されるフッ素系特殊溶剤として市販されているバートレル(三井デュポン社製)が挙げられる。
また、潤滑層26を形成する潤滑剤は、上記フォンブリンZ-テトラオールに特に限定されるものではなく、データの復旧率等に応じて適宜選択されればよい。

【0031】
より具体的には、潤滑層26は、基板21上に下地層22、中間層23、磁性層24及び保護層25が形成された積層体を、上記潤滑剤溶液に3分間浸漬した後、引き上げ速度2mm/秒で引き上げることによって、前記積層体上に潤滑剤が塗布されることによって形成される。また、これにより、磁気ディスク5が作製される。

【0032】
次に、本実施形態の磁気ディスク5の復旧方法について説明する。

【0033】
本実施形態の磁気ディスク5の復旧方法は、最表面側に配された潤滑層26と、該潤滑層26よりも内側に配された磁気層24とを有する磁気ディスク5の復旧方法であって、前記潤滑層26に異物Rが存在することによって損傷が生じたとき、該潤滑層26の表面にクリーニング処理を施すことによって前記異物Rを除去する異物除去工程を備えている。また、前記クリーニング処理は、前記潤滑層の表面を研磨可能なシート材(不図示)を用い、前記磁気ディスク5を回転させつつ前記潤滑層26の表面に前記シート材を押し当てることによって、前記潤滑層26の表面をクリーニングする処理である。

【0034】
また、本実施形態の磁気ディスクの復旧方法は、前記異物除去工程を行った後、前記磁気ディスク5から前記潤滑層26を除去し、該磁気ディスク5の最表面側に新たな潤滑層27を形成する潤滑層形成工程と、該潤滑層形成工程で形成された前記新たな潤滑層27の表面にクリーニング処理を施すことによって前記潤滑層27を平滑化する平滑化工程とをさらに備えている。

【0035】
具体的には、本実施形態では例えば、磁気記憶装置1が落下すること等によって、磁気ディスク5の表面に溝状の引っ掻き傷Sが形成されたとする(図1、3参照)。図3では、引っ掻き傷Sは、磁気ディスク5と垂直な方向(図3の上下方向)において、潤滑層26から磁性層24に亘って形成された状態を示す。また、この引っ掻き傷Sが形成されることによって、削られた(摩耗によって生じた)粉体(摩耗粉)が微細な異物Rとなって潤滑層26表面に付着した(異物Rが存在する)こととする。

【0036】
かかる微細な異物Rは、直径が数ナノメーター(nm)のものから数十マイクロメーター(μm)のものまで、引っ掻き(クラッシュ)の程度によって異なる。しかし、磁気ヘッド11と磁気ディスク5との間の隙間が数ナノメーター(nm)であることから、発生した異物Rは、磁気ヘッド11と衝突し、その浮上を阻害して、磁気ヘッド11が安定浮上することを困難とする。このような異物Rが付着した磁気ディスク5が搭載された磁気記憶装置1は、磁気ヘッド11が安定浮上しないため、磁性層24に記憶された情報を読み出すことができない。また、読み出そうとして磁気ヘッド11を無理に磁気ディスク5上で走査させると、異物Rによって磁気ヘッド11と磁気ディスク5との接触を増加させることとなり、かえって物理損傷を大きくするおそれがある。

【0037】
なお、異物Rとしては、上記した引っ掻き傷Sの他、磁性ヘッド11と衝突し、磁性ヘッド11の安定浮上を妨げるような異物Rであれば、特に限定されるものではない。異物Rとしては、上記の他、有機物による潤滑層26の汚染(コンタミネーション)といった付着物や、引っ掻き傷Sの端縁が隆起して形成された突起等が挙げられる。

【0038】
このように、潤滑層26表面に異物Rが付着した状態で、磁気ヘッド11が磁気ディスク5上を走査すると、磁気ヘッド11が異物Rと衝突し、磁気ディスク5に記憶された情報を読み出すことができない。

【0039】
そこで、このような損傷が磁気ディスク5に生じたとき、潤滑層26にクリーニング処理を施すことによって異物Rを除去する異物除去工程を行う(図4、図5参照)。

【0040】
クリーニング処理は、前記潤滑層の表面を研磨可能なシート材を用い、前記磁気ディスク5を回転させつつ前記潤滑層26の表面に前記シート材を押し当てることによって、前記潤滑層26の表面をクリーニングする処理である。

【0041】
具体的には、シート材としては、例えば、シート状の支持体と該支持体に支持された研磨粒子とを有するもの(クリーニングテープ)や、布製のワイピングクロスをテープ状に切断して形成したもの(ワイピングテープ)等が挙げられる。

【0042】
前記クリーニングテープの支持体は、最表面に粘着層を有していてもよい。また、前記支持体の形状としては、例えば、テープ状の形状が挙げられる。また、このような支持体としては、最表面に粘着層を有するテープ材が挙げられ、前記クリーニングテープとしては、該テープ材の粘着層に研磨粒子を固着または埋設させてなるものが挙げられる。また、前記研磨粒子としては、アルミナ粒子が挙げられる。

【0043】
そして、シート材として前記クリーニングテープを用いた場合、磁気ディスク5を回転させつつ、クリーニングテープの背面側(粘着層と反対の側)から荷重を加えて回転する磁気ディスク5の表面に押し当てて、磁気ディスク5(潤滑層26)表面の異物Rを除去することによって、潤滑層26の表面をクリーニングすることができる。

【0044】
また、このように、前記支持体が前記研磨粒子と前記粘着層とを有する場合には、前記研磨粒子によって掻き取った異物Rを前記粘着層に付着させて除去することができる。

【0045】
かかるクリーニング処理に用いるクリーニング装置としては、図示しないが、磁気記憶装置1から取り出した磁気ディスク5を支持しつつこれを回転させる回転部と、シート材を磁気ディスク5に押し付けるゴムパッドとを備え、回転部によって回転している磁気ディスク5上にゴムパッドによってシート材を押し付けるように構成されたものが挙げられる。

【0046】
前記潤滑層形成工程では、まず、前記異物除去工程を行った後の前記磁気ディスク5から前記潤滑層26を除去する。具体的には、異物Rが除去された磁気ディスク5を、上記したバートレルに浸漬し、潤滑層26を溶解させて除去する。このとき、バートレルに浸漬された磁気ディスク5に超音波を照射することによって、潤滑層26をより溶解させ易くすることができる。また、異物除去工程で除去しきれなかった異物Rが存在する場合には、残存する異物Rをさらに除去することができる。

【0047】
次に、該磁気ディスク5の最表面側に新たな潤滑層27を形成する。具体的には、上記したようなフォンブリンZ-テトラオールを溶解させたバートレル溶液に、潤滑剤26が除去された磁気ディスク5を浸漬し、引き上げることによって、潤滑剤26に代えて新たな潤滑層27を形成する(図7参照)。
なお、新たな潤滑層27を形成する潤滑剤は、上記フォンブリンZ-テトラオールに特に限定されるものではなく、データの復旧率等に応じて適宜選択されればよい。

【0048】
また、新たな潤滑層27を形成する材料には、上記パーフルオロポリエーテル潤滑剤の他、極圧添加剤を含有されることもできる。該極圧添加剤としては、下記化学式によって示される化学構造を有する極圧添加剤(A-20H、モレスコ社製)を含有させることもできる。かかるA-20Eは、金属に化学吸着し易いため、新たな潤滑層27を形成する際、磁性層に含まれる磁性材料(金属)が潤滑層27に混入した場合であっても、この金属が新たな潤滑層27表面に存在することを回避することができる。これにより、該金属と磁気ヘッド11との衝突を軽減することができ、新たな潤滑層27の浮上安定性を、より向上させることができる。

【0049】
【化2】
JP0006108950B2_000003t.gif

【0050】
前記平滑化工程では、該潤滑層形成工程で形成された前記新たな潤滑層27の表面にクリーニング処理を施すことによって前記潤滑層27を平滑化する。このクリーニング処理としては、上記異物除去工程で行ったクリーニング処理と同様の処理を行うことができる(図7参照)。

【0051】
そして、上記した工程を行った後、磁気ディスク5を、もとの磁気記憶装置1、または、別途の磁気記憶装置に搭載し、磁気ヘッド11による読み出しを行う。

【0052】
また、本実施形態の磁気記憶装置の復旧方法は、上記磁気ディスクの復旧方法を備えている。

【0053】
また、磁気記憶装置1が、その内部に前記磁気ディスク5を収容する前記容器3と、ヘリウムガスが充填された状態で前記容器を密封した前記蓋部(不図示)とを備えている場合には、前記蓋部を開け、損傷した磁気ディスク5を容器3から取り出し、上記した磁気ディスクの復旧方法を実施した後、復旧された磁気ディスク5を容器3に収容し、ヘリウムガスが再充填された状態で前記蓋部を閉めて前記容器3を密封する。このようにして、ヘリウムガスが充填された磁気記憶装置1を復旧する。

【0054】
上記の通り、本実施形態に係る磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法は、上記異物除去工程を備えている。かかる構成によれば、異物Rが付着した磁気ディスク5の表面(潤滑層26の表面)にクリーニング処理を施して磁気ディスク5の表面から異物Rを除去することができる。これによって、処理された磁気ディスク5を磁気記憶装置1に搭載したとき、磁気ヘッド11との衝突を回避して、磁気ディスク5に記憶された情報を読み出すことが可能となる。
従って、かかる構成によれば、損傷が生じた磁気ディスク5の読み出しが可能となる。

【0055】
また、本実施形態の磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法は、上記潤滑層形成工程と、上記平滑化工程とをさらに備えている。かかる構成によれば、異物Rを除去した後、新たな潤滑層27を形成することによって、新たな潤滑層27に対する異物Rの混入や付着を回避することができる。また、新たに潤滑層27を形成することによって、磁気ヘッド11による読み出しの際、磁気ヘッド11と潤滑層27との不意な接触を、より回避できる。
従って、かかる構成によれば、損傷が生じた磁気ディスク5のより確実な読み出しが可能となる。

【0056】
また、磁気記憶装置1が、その内部に前記磁気ディスク5を収容する前記容器3と、ヘリウムガスが充填された状態で前記容器を密封した前記蓋部(不図示)とを備えている場合には、前記蓋部を開け、上記した磁気ディスクの復旧方法を実施した後、ヘリウムガスが再充填された状態で前記蓋部を閉めて前記容器3を密封することによって、磁気ディスク5のより確実な読み取りが可能となる。すなわち、磁気ディスク5を復旧させた後、磁気記憶装置1を、その本来の作動状態に戻すことによって、復旧させた磁気ディスク5の、より確実な読み取りが可能となる。

【0057】
本発明に係る磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記の作用効果を奏するものに限定されるものでもない。本発明に係る磁気ディスクの復旧方法及び磁気記憶装置の復旧方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で変形することも可能である。

【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(比較例1)
磁気記憶装置内の磁気ディスクの全面にデータを書き込んだ後、蓋を開け、スピンドルモータを駆動させて磁気ディスクを回転させながら、該磁気ディスクの表面(潤滑層の表面)にダイヤモンド製のけがきペンを軽く接触させて、該磁気ディスク1周に亘る引っ掻き傷(クラッシュ傷)を形成した(図3参照)。その後、蓋を閉じて、データの読み出しを行った。かかる傷の形成及びデータの読み出しを、10台の磁気記憶装置について行ったところ、全ての磁気記憶装置においてデータの読み出しができなかった。
なお、データの読み出し後、各磁気記憶装置の磁気ヘッドを観察したところ、いずれの磁気ヘッドにも摩耗粉が付着していた。
【実施例】
【0060】
(比較例2)
比較例1と同様にして磁気ディスクに傷の形成を行った後、磁気ヘッド及び走査部を別のものと交換し、蓋を閉じてデータの読み出しを行った。かかる傷の形成、磁気ヘッド及び走査部の交換、並びにデータの読み出しを、10台の磁気記憶装置について行ったところ、全ての磁気記憶装置においてデータの読み出しができなかった。
なお、データの読み出し後、各磁気記憶装置の磁気ヘッドを観察したところ、いずれの磁気ヘッドにも摩耗粉が付着していた。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
比較例1と同様にして磁気ディスクに傷の形成を行った後、表面を汚さないようにしながら磁気ディスクを取り外した。取り外す際、取り外す前の磁気ディスクとスピンドルモータとの相対角度が分かるように、それぞれに印を付けた。こうして取り外した磁気ディスクの表面(潤滑層)の表面に対して、クリーニング装置を用いてクリーニング処理を施した。
【実施例】
【0062】
シート材としては、材質がポリエチレンテレフタレートであるテープに平均粒子径が約0.3μmのアルミナ粒子が埋め込まれて形成されたテープ材(商品名WA30000、日本ミクロコーティング社製)を用いた。また、クリーニング装置としては、磁気ディスクを回転させながら、テープ材をゴムパッドによって磁気ディスクの表面に押し当てて走査させることによって、磁気ディスク表面の異物を除去するように構成されたテープクリーニング装置(商品名、ハードディスクバニッシング装置ALTB-100TC型式、日本ミクロコーティング社製)を用いた。また、ゴムパッドによる押付荷重を200gf、磁気ディスクの回転速度を2000rpm、テープ材の送り速度を100mm/分に設定し、磁気ディスクの内周側から外側に向かってテープ材を走査させた。このような条件で、クリーニング処理として、テープ材を用いたクリーニング処理(テープクリーニング処理)を行った。
【実施例】
【0063】
また、このクリーニング処理の前後での摩耗粉の付着状況を調べるため、光学式表面検査装置(商品名OSA5100、Candela社製)を用いて、磁気ディスク表面における摩耗粉の付着分布を計測した。結果を図4に示す。図4に示すように、クリーニング処理前(図4(a))は、引っ掻き傷Sよりも外周側に多くの摩耗粉が異物Rとして付着していた。また、引っ掻き傷Sよりも内周側にも摩耗粉が付着していた。これに対し、クリーニング処理後(図4(b))は、摩耗粉の付着が大きく低減していた。
【実施例】
【0064】
この結果の基づき、クリーニング処理後の磁気ディスクの状況を概念図として表すと、図5のようになる。すなわち、磁気ディスクの表面に付着していた摩耗粉Rは、クリーニング処理によって除去されているが、引っ掻き傷Sは、そのまま残った状態となっている。また、潤滑層には、クリーニング処理によってわずかに減少している部分が観察された。
【実施例】
【0065】
さらに、テストヘッドと、アコースティックエミッション(AE)センサとを備えたスピンスタンド(商品名HDFテスタ、クボタコンプス社製)を用いて、クリーニング処理前後での磁気ヘッドの浮上安定性を調べた。具体的には、テストヘッドを磁気ディスク表面で浮上させたときの該テストヘッドと磁気ディスク表面との接触信号を、AEセンサによって定量化した。テストヘッドは、磁気ディスクの中心から半径30mmの位置から、同20mmの位置まで内周側へとシーク(走査)して、該30mmから20mmまでのAE信号(接触信号)の出力をモニタした。結果を図6に示す。
【実施例】
【0066】
図6から明らかなように、引っ掻き傷Sをつけた位置(中心から半径25mmの位置)近傍を除いて、テストヘッドが安定して浮上したことがわかった。逆に、比較例1の場合には、引っ掻き傷Sの半径位置に依らず、大きなAE信号が計測され、この結果、磁気ヘッドが摩耗粉の付着による浮上阻害によって、安定的に浮上できなかった。
【実施例】
【0067】
この結果、実施例1は、引っ掻き傷Sが発生した領域以外では磁気ヘッドが安定するため、このように引っ掻き傷以外の領域に記録されたデータを読み出す可能性が高いと推測された。
【実施例】
【0068】
そこで、クリーニング処理した磁気ディスクを、スピンドルモータに対して取り出す直前と同じ位置関係で磁気記憶装置に装着し、さらに、磁気ヘッドを新しい磁気ヘッドに交換して、記録されたデータの読み出しを行った。
このようなクリーニング処理後の磁気ディスクの装着、磁気ヘッドの交換及びデータの読み出しを10台の磁気記憶装置について行ったところ、10台中3台で、データの読み出しが可能であった。この結果、比較例1と比較して、クリーニング処理によって、データ復旧率が向上したことがわかった。
【実施例】
【0069】
(実施例2)
実施例1と同様にして、クリーニング処理を行った。その後、磁気ディスクを、潤滑層形成材料を溶解する溶媒としてのバートレルに10分間浸漬した後、引き上げ速度2mm/秒で引き上げた。引き上げた後、さらに再度、バートレルに浸漬した状態で超音波洗浄を3分間行い、上記と同じ引き上げ速度で引き上げ、潤滑層と、残存している摩耗粉の除去を行った。その後、下記化学式に示す化学構造を有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤であるフォンブリンZ-tetraol(ソルベイソレクシス社製)を含有する溶液で、ディップ法によって、新たな潤滑層を形成した。具体的には、Z-tetraolの含有量が0.01重量%(wt%)となるようにZ-tetraolを上記バートレルに溶解して潤滑剤溶液を調整し、該溶液中に3分間浸漬させた後、引き上げ速度2mm/秒で引き上げた。
【実施例】
【0070】
そして、形成(塗布)された潤滑層の層厚を、エリプソメータ(商品名MARY-102、ファイブラボ社製)を用いて測定した。具体的には、潤滑層を有する磁気ディスクの厚みと、潤滑層が除去された磁気ディスクの厚みとの差を、潤滑層の厚みとして測定した。これを、10台の磁気記憶装置について行ったところ、塗布後の層厚は、1.0mmであった。その後、100℃の温度で1時間の熱処理を行った後、再度、上記と同様してクリーニング処理を行った。
【実施例】
【0071】
この状態では、磁気ディスクは、図7に概念的に示すように、摩耗粉及び潤滑層が除去された後、再度、新たな潤滑層が形成されたことによって、クラッシュ傷Sの部分にも(窪んだ部分)にも潤滑層が形成されている。
【実施例】
【0072】
このようにして作製した磁気ディスクを用いて、実施例1と同様にして、テストヘッドの浮上安定性を評価した。結果を、実施例1との比較により、図8に示す。図8に示すように、実施例2の場合、クラッシュ傷Sの部分のAE信号の出力が、実施例1よりも大きく低減している。このことから、クラッシュ傷部分にも潤滑層を形成したことによって、磁気ヘッドの浮上安定性が向上したと推察された。
【実施例】
【0073】
次いで、新たな潤滑層が形成された磁気ディスクを、実施例1と同様に、スピンドルモータに対してクリーニング処理直前と同じ位置となるように磁気記憶装置に装着し、磁気ヘッドも交換して、データの読み出しを行った。これを、10台の磁気記憶装置について行ったところ、10台中、5台において、一部のデータの読み出しが可能であった。この結果、比較例1、2、実施例1よりも、データ復旧率が向上したことが明らかであった。
【実施例】
【0074】
(実施例3)
内部にヘリウムガスが充満されて密封された磁気記憶装置を用い、実施例1、2とそれぞれ同様の処理を施した。その後、処理された磁気ディスクを磁気記憶装置に装着し、内部にヘリウムガスを充満させて、データの読み出しを行った。その結果、10台中5台の磁気記憶装置において、データの読み出しが可能となった。この結果、内部がヘリウムガスで充満されている場合であっても、実施例1、2と同様のクリーニング処理及び新たな潤滑層の形成を行うことによって、データの読み出しが可能となることがわかった。
【符号の説明】
【0075】
1:磁気記憶装置、3:容器、5:磁気ディスク、7:スピンドルモータ(駆動部)、9:情報読み書き部、11:磁気ヘッド、13:走査部、15:アーム部材、17:ボイスコイルモータ(揺動部)、19:ピボットベアリング、20:情報再生処理回路、S:引っ掻き傷、R:異物
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7