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明細書 :血圧推定装置、血圧推定システム、および制御プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-230671 (P2014-230671A)
公開日 平成26年12月11日(2014.12.11)
発明の名称または考案の名称 血圧推定装置、血圧推定システム、および制御プログラム
国際特許分類 A61B   5/022       (2006.01)
FI A61B 5/02 337E
A61B 5/02 337H
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2013-113486 (P2013-113486)
出願日 平成25年5月29日(2013.5.29)
発明者または考案者 【氏名】鈴木 哲
【氏名】隅岡 義史
出願人 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
Fターム 4C017AA08
4C017AB01
4C017AB02
4C017AB03
4C017AB04
4C017AB10
4C017AC40
4C017BC08
4C017CC02
要約 【課題】被検者に意識させることなく血圧を測定する。
【解決手段】血圧推定装置(10)は、マイクロ波が生体の体幹部で反射したセンサ信号と、抹消部で反射したセンサ信号とからそれぞれ心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出部(11)と、心拍性信号を解析して血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出部(12)と、該パラメータから上記相関関係に基づく所定の演算により血圧の推定値を算出する血圧推定値演算部(13)を備えている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
生体の血圧の推定値を算出する血圧推定装置であって、
上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出手段と、
抽出された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定手段と、を備えていることを特徴とする血圧推定装置。
【請求項2】
上記パラメータ算出手段は、上記第1心拍性信号と上記第2心拍性信号との位相のズレを上記パラメータの1つとして算出することを特徴とする請求項1に記載の血圧推定装置。
【請求項3】
上記パラメータ算出手段は、上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の周期または周波数を上記パラメータの1つとして算出すると共に、上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の振幅を上記パラメータの他の1つとして算出することを特徴とする請求項1または2に記載の血圧推定装置。
【請求項4】
上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の一周期の波形には、振幅の異なる2つのピークが含まれており、
上記パラメータ算出手段は、上記2つのピークの振幅の比を上記パラメータの1つとして算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の血圧推定装置。
【請求項5】
上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号を受信する第1マイクロ波センサと、
上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号を受信する第2マイクロ波センサと、
請求項1から4のいずれか1項に記載の血圧推定装置と、を備える、
ことを特徴とする血圧推定システム。
【請求項6】
生体の血圧の推定値を算出する血圧推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、
上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出ステップと、
取得された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、
算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定ステップと、を上記コンピュータに実行させることを特徴とする制御プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者に触れることなく血圧の推定値を算出する血圧推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な血圧測定方法として、直接法と間接法とが知られている。直接法とは、観血的方法とも呼ばれるもので、被検者の動脈の内圧を直接連続して測定する方法である。具体的には、被検者の血管にカテーテルを導入し、血液凝固を抑制するための抗血小板凝固薬(ヘパリンなど)を血管内に微量注入しながら、血管内から血液の一部をカテーテル内へ導き、血圧測定を行う方法である。この直接法は、測定される血圧値の信頼性が高いことから、手術中の血圧モニタに利用される。しかし、医療機関など以外(例えば、家庭)で手軽に実施できる血圧測定法ではなく、この方法を実施する際には衛生面での注意が必要で、合併症を起こす可能性もある。また、解析も複雑である。
【0003】
一方の間接法は、非観血的方法とも呼ばれ、被検者の血圧を非連続的に測定する方法と、連続的に測定する方法とがある。非連続的に測定する方法としては、聴診法(コロトコフ法)、振動法(オシロメトリック法)、および超音波ドップラー法が挙げられ、連続的に測定する方法としては、トノメータ(トノメトリ)法および容積補償法が挙げられる。この間接法は、基本的には、測定の際に被検者の体に接触して外力を加えるアクティブな方法である。
【0004】
すなわち、間接法は、減圧時に止められていた血流が再び生じる時に加えられている圧力が血圧に相当するとの考え方に基づいている。このため、間接法では、被検者の血管に加圧して血流が止められた状態を作り、その後、血流が生じるまで徐々に減圧する工程が含まれる。被検者の体の一部に圧力を加える器具としては、カフやマンシェットなどが知られている。間接法は、自動で血圧を測定する血圧計に利用されており、間接法を利用した血圧計は、医療上の専門技術を必要とせず手軽であり、健康診断や家庭での日常的な健康管理などの用途に広く用いられている。
【0005】
ここで、図8を参照して、上記の直接法または間接法で測定される血圧値について簡単に説明する。図8はヒトの血圧値の経時的変化を模式的に示したものである。血圧は、心臓の拍動によって生じるものであり、収縮期に上昇し、拡張期に下降する。このため、血圧値の経時変化は、図示のような周期的な変動となる。
【0006】
この波形において、一周期における血圧の最大値を収縮期血圧(最高血圧)と呼び、図8では、
【0007】
【数1】
JP2014230671A_000003t.gif

【0008】
と表記している。
【0009】
一方、一周期における血圧の最小値を拡張期血圧(最低血圧)と呼び、図8では、
【0010】
【数2】
JP2014230671A_000004t.gif

【0011】
と表記している。また、脈圧Pは、
【0012】
【数3】
JP2014230671A_000005t.gif

【0013】
として算出され、平均血圧Paveは、
【0014】
【数4】
JP2014230671A_000006t.gif

【0015】
として算出される値である。脈圧Pは、太い血管に生じる動脈硬化の指標とされ、平均血圧Paveは、細い血管の動脈硬化の指標とされる。
【0016】
ここで、病院や保健所で看護師や医師を目の前にすると血圧が異常値を示す「白衣血圧」と呼ばれる現象が知られているように、血圧は被検者の情動の変化によって敏感に変化する。そのため、被検者の血圧を計測する場合、理想的には、血圧が計測されていることに被検者が無自覚であることが望ましい、と考えられている。
【0017】
しかし、間接法による血圧測定を受ける被検者は、指先あるいは上腕部など体の一部にカフやマンシェットを取り付けられ、該体の一部を加圧され、また、血圧測定の際に作動するポンプ、およびサーボモータが発する音を聞くことになる。また、カフ圧によって圧迫された箇所においてうっ血が生じる可能性があり、高血圧患者や高齢者に対する負担を強いる。さらに、被検者の皮膚の状態によってはカフの取り付けが困難である場合もある。したがって、上述の間接法は、被検者にストレスを感じさせることなく血圧を測定することができないので、理想的な血圧測定法とはいえない。
【0018】
このため、カフ等を用いることなく、心電信号や脈波信号などを用いて血圧の推定値を算出する方法が検討されている。例えば、下記の特許文献1には、光学式の脈波センサから得た脈波信号を解析して取得した特徴量を所定の算出式に代入することによって、血圧の推定値を算出することが記載されている。また、下記の特許文献2にも、心電信号および脈波信号から得られる特徴量を用いて血圧の推定値を算出することが記載されている。さらに、特許文献3には、超音波エコー信号を用いて血管径を測定することにより、血圧の推定値を算出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【0019】

【特許文献1】特開2008-302127号公報(2008年12月18日公開)
【特許文献2】特開2012-071018号公報(2012年 4月12日公開)
【特許文献3】特開2005-021477号公報(2005年 1月27日公開)
【0020】

【非特許文献1】村杉雅秀、日野恒和、板岡俊成、笠置康、ら,「オシロメトリックによる持続的血圧測定の臨床研究」,医器学,Vol.54,p.160-162,Suppl.,1984
【非特許文献2】中村祥太,「トノメトリ法を応用した新たな血圧計の開発」,日本機械学会,福祉工学シンポジウム,p.126-128,2008
【非特許文献3】加茂力、米山公啓、山崎みどり、ら,「トノメトリ法を用いた非観血的連続血圧測定装置の信頼性に関する検討」,医器学,Vol.61,No.7,p.298-391,1991
【非特許文献4】山越憲一、島津秀昭、庄司孝雄、ら,「容積補償法による間接的動脈血圧連続測定装置」,医器学,Vol.48,p.54-56,Suppl.,1978
【非特許文献5】神村仁弘、陸渭明、塚田章、ら,「容積補償法を用いた無侵襲長時間連続血圧測定が末梢部組織に与える影響」,信学技報,p.25-31,MBE2001-4,2001-05
【非特許文献6】鈴木里実、小栗宏次,「心血管特性を考慮したデータ分類による光電脈波信号を用いたカフレス血圧推定」,信学技報,p.1-4,MBE2008-70,2008-12
【非特許文献7】鈴木里実、小栗宏次,「高齢者の心血管特性を考慮したクラス分類による光電脈波信号を用いたカフレス血圧推定」,電気学会論文誌C,Vol.130,No.2,p.261-266,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記特許文献1および2の技術では、脈波信号を取得するために被検者の指先に光を照射してその反射波を受光する必要があり、心電信号を取得するために被検者に電極を装着する必要がある。また、特許文献3の技術では、超音波エコー信号を取得するためにプローブを被検者に装着する必要がある。
【0022】
すなわち、従来の技術では、被検者の体に直接、あるいは被検者の体のごく近傍にセンサ等を配置する必要があり、測定中であることを意識させずに、血圧を測定(血圧の推定値を算出)することはできなかった。
【0023】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検者に意識させることなく血圧を測定(血圧の推定値を算出)することができる血圧推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明の血圧推定装置は、生体の血圧の推定値を算出する血圧推定装置であって、上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出手段と、抽出された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出手段と、算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定手段と、を備えていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の制御プログラムは、上記課題を解決するために、生体の血圧の推定値を算出する血圧推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出ステップと、取得された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定ステップと、を上記コンピュータに実行させることを特徴としている。
【0026】
上記の構成によれば、生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波の反射波の信号、および同生体の四肢のいずれかに対して照射されたマイクロ波の反射波の信号から心拍性信号を抽出し、これらの心拍性信号を解析してパラメータを算出し、算出されたパラメータから所定の演算により血圧の推定値を算出する。マイクロ波は、視認されることがなく、マットレスや被検者の衣服などを透過し、また被検者からある程度離れた位置から照射しても反射波の信号を得ることができるため、上記の構成によれば、被検者に意識させることなく血圧の変動を推定(血圧の推定値を算出)することができる。
【0027】
なお、本願の発明者らによる研究により、マイクロ波が生体で反射した反射波には、血管の伸展性や剛性に関する情報が含まれており、これを解析することによって血圧値の変動に相関のあるパラメータを算出できることが判明している。つまり、上記の構成によれば、生体に直接的な接触を一切行わないにもかかわらず、信頼性のある血圧の推定値を算出することが可能である。
【0028】
また、上記パラメータ算出手段は、上記第1心拍性信号と上記第2心拍性信号との位相のズレを上記パラメータの1つとして算出することが好ましい。
【0029】
血管壁の硬化の程度は、血圧値に影響を与えることが知られており、また血管壁の硬化の程度によって、体幹部から抹消部への脈波伝播速度が速くなることが知られている。したがって、上記第1心拍性信号と上記第2心拍性信号との位相のズレは、血管壁の硬化の程度を反映していると考えられる。つまり、上記の構成によれば、血管の硬化の程度に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。
【0030】
また、上記パラメータ算出手段は、上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の周期または周波数を上記パラメータの1つとして算出すると共に、上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の振幅を上記パラメータの他の1つとして算出することが好ましい。
【0031】
ここで、本願の発明者らによる研究により、心拍性信号の振幅が定常状態に比べて大きいときには、血圧が高いことが分かっている。また、心拍性信号の周期または周波数は、血圧値と相関があることが知られている。つまり、これらは血圧推定値への影響が大きいパラメータである。よって、これらのパラメータを用いる上記構成によれば、精度の高い血圧推定値を算出することができる。
【0032】
また、上記第1心拍性信号または上記第2心拍性信号の一周期の波形には、振幅の異なる2つのピークが含まれており、上記パラメータ算出手段は、上記2つのピークの振幅の比を上記パラメータの1つとして算出することが好ましい。
【0033】
心拍性信号には、心臓の拍動によって生じる波形と、心臓からの血流が血管で反射することによって生じる反射波の波形とが含まれることが知られている。そして、マイクロ波の生体での反射波を含む信号から、振幅の異なる複数のピークを含む波形の心拍性信号を取得できることが分かっている。また、脈波の経時変化をグラフ化したときにも、このような振幅の異なる複数のピークを含む波形が現れることが知られており、これらピークの振幅の比には、血圧値に影響を与える要因の一つである血管の伸展性が反映されると考えられている。よって、心拍性信号に含まれるピークの振幅比も、血管の伸展性を反映していると考えられる。つまり、上記の構成によれば、血管の伸展性に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。
【0034】
また、上記生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号を受信する第1マイクロ波センサと、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号を受信する第2マイクロ波センサと、上記血圧推定装置とを備える血圧推定システムであれば、上記血圧推定装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明の血圧推定装置は、生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出手段と、抽出された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出手段と、算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定手段、を備えている構成である。
【0036】
また、本発明の制御プログラムは、以上のように、生体の体幹部に対して照射されたマイクロ波が該体幹部で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第1心拍性信号を抽出すると共に、上記生体の四肢の何れかに対して照射されたマイクロ波が該四肢で反射した反射波の信号であって、上記生体の血圧の情報を含む信号から第2心拍性信号を抽出する心拍性信号抽出ステップと、取得された上記第1心拍性信号および上記第2心拍性信号を解析して、血圧値に相関関係のある所定のパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算により、上記生体の血圧の推定値を算出する血圧推定ステップと、をコンピュータに実行させる構成である。
【0037】
マイクロ波は、視認されることがなく、透過性があり、また離れた位置から照射しても反射波の信号を得ることができるため、上記の構成によれば、生体に意識させることなく血圧を測定(血圧の推定値を算出)することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る血圧推定システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の血圧推定システムを用いて被検者の血圧を計測する様子を説明するための説明図である。
【図3】本発明のある実施形態に係る血圧推定システムの動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明のある実施形態に係る血圧推定装置が行うパラメータ算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の血圧推定装置が心拍性信号に基づいて算出するパラメータを説明するための説明図である。
【図6】位相ズレと従来法で測定された血圧値との相関関係を示すグラフであり、(a)は収縮期血圧とズレ時間との相関を示し、(b)は脈波とズレ時間との相関を示している。
【図7】本発明のある実施形態に係る血圧推定システムによってもとめられた収縮期血圧予想値と、従来法で計測された収縮期血圧値と、の間の相関関係を示すグラフである。
【図8】従来の血圧測定法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、血圧測定の対象がヒトである場合の例を説明するが、ヒト以外の動物(生体)を対象とすることも可能である。

【0040】
(血圧推定システム100を用いた血圧測定方法)
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る血圧推定システム100の使用例を説明する。図示のように、血圧推定システム100は、マイクロ波センサ3a(第1マイクロ波センサ)および3b(第2マイクロ波センサ)の2つのマイクロ波センサ3と、血圧推定装置10とを含む。

【0041】
血圧推定システム100では、マイクロ波センサ3aおよび3bから被検者に対してマイクロ波を照射する。そして、マイクロ波センサ3aは、自らが照射したマイクロ波が被検者で反射した反射波を含むセンサ信号を受信して血圧推定装置10に出力し、マイクロ波センサ3bは、自らが照射したマイクロ波が被検者で反射した反射波を含むセンサ信号を受信して血圧推定装置10に出力する。この後、血圧推定装置10は、マイクロ波センサ3aおよび3bのそれぞれから出力されたセンサ信号を解析することにより、被検者の血圧の推定値を算出する。

【0042】
このように、血圧推定システム100では、マイクロ波の照射によって得たセンサ信号を用いて血圧の推定値を算出する。マイクロ波は、視認されることがなく、マットレスや被検者の衣服などを透過し、また被検者からある程度離れた位置から照射してもセンサ信号を得ることができるため、図示の例のようにマットレスの下方にマイクロ波センサ3aおよび3bを配置することもできる。

【0043】
これにより、被検者は、マットレスの上で横になっているだけで、血圧の測定を受けることができ、血圧の測定中(マイクロ波の照射中)であることを意識することもないので、被検者にストレスを与えることなく血圧の推定値を算出することができる。また、血圧の推定値は連続的に算出することができるので、例えば被検者の就寝中の血圧変動をモニタリングするといった用途にも利用できる。なお、被検者の姿勢はこれに限定されない。例えば、被検者は椅子等に座っていてもよいし、立っていてもよい。

【0044】
(血圧推定システム100の構成例)
続いて、血圧推定システム100のより詳細な構成を、図1を用いて説明する。図1は、血圧推定システム100の概略構成および血圧推定装置10の要部構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、血圧推定システム100は、マイクロ波センサ3、操作入力部4、表示部5、および血圧推定装置10を含む。

【0045】
マイクロ波センサ3は、マイクロ波を発信して、被検者で反射した反射波を含むセンサ信号を受信するマイクロ波レーダーである。なお、出力波形は特に限定されず、例えば、マイクロ波センサ3として、連続波(CW)レーダー、FMCWレーダー、パルスレーダー、あるいはドップラーレーダーを適用することもできる。また、波長も特に限定されず、波長0.1mm~1mのマイクロ波に対応する周波数帯の電磁波などが適用され得る。また、マイクロ波の出力にも特に制限はなく、如何なる出力のマイクロ波を用いてもよい。ただし、被検者の身体への影響を考慮すれば、周波数に応じて上限値を設定し、その上限値以下の出力とすることが望ましい。例えば、10GHz以上の周波数のマイクロ波を用いる場合には、10mW以下のマイクロ波を用いることが好ましい。

【0046】
なお、図1では、マイクロ波センサ3aおよびマイクロ波センサ3bという2つのマイクロ波センサ3を備える例を示している。例えば、マイクロ波センサ3aは被検者の体幹部に向けてマイクロ波を照射し、該体幹部からのセンサ信号を受信し、マイクロ波センサ3bは被検者の末梢部に向けてマイクロ波を照射し、該末梢部からのセンサ信号を受信する。しかし、マイクロ波センサ3の数は、2つに制限されることはなく、2つより多く設けられてもよい。

【0047】
体幹部としては、背部あるいは胸郭周辺、末梢部としては、四肢(腕、手、足、脚)などが挙げられる。例えば、図2の例のように、被検者がマットレス上に仰向けで横になった状態での測定を行う場合、背部の直下にマイクロ波センサ3aを配置し、脚または腕の直下にマイクロ波センサ3bを配置してもよい。

【0048】
操作入力部4は、入力操作を受け付ける。例えば、血圧推定に用いるパラメータの1つである個人特性パラメータは、操作入力部4を介して入力される。

【0049】
表示部5は、血圧推定システム100によって測定された血圧値を表示する表示装置である。なお、表示部5の表示面にタッチパネルを積層して、操作入力部4の入力面が表示部5の表示面を兼ねる構成としてもよい。

【0050】
(血圧推定装置10の構成例)
次に、血圧推定装置10の構成について説明する。図1に示すように、血圧推定装置10は、血圧推定装置10を統括して制御する制御部1と、血圧推定装置10にて使用される各種データを記憶する記憶部2とを備えている。そして、制御部1は、心拍性信号抽出部(心拍性信号抽出手段)11、パラメータ算出部(パラメータ算出手段)12、および血圧推定値演算部(血圧推定手段)13を備えており、記憶部2には数式記憶部21が含まれている。

【0051】
心拍性信号抽出部11は、マイクロ波センサ3aが受信したセンサ信号、およびマイクロ波センサ3bが受信したセンサ信号を取得し、これらのセンサ信号から心拍性信号の抽出を行う。例えば、センサ信号に含まれる、心拍に特徴的な0.8Hz~3Hz程度の周波数を抽出するバンドパスなどのフィルタ処理を行うことで、該センサ信号から心拍と相関した波形の心拍性信号を抽出することが可能である。心拍性信号は、被検者の心臓の拍動に起因する周期に対応する波形を含む信号である。なお、心拍性信号の抽出を行う方法としては、フィルタ処理に制限されず、如何なる方法を用いてもよい。

【0052】
パラメータ算出部12は、心拍性信号抽出部11がセンサ信号から抽出した心拍性信号を取得し、該心拍性信号を解析することにより、血圧推定を行うために用いる各パラメータを算出する。

【0053】
具体的には、パラメータ算出部12は、周波数算出部121、位相ズレ算出部122、振幅算出部123、振幅比算出部124、および個人特性算出部125を含み、これらの各部によってそれぞれ異なるパラメータを算出する。これらのパラメータは、何れも血圧値に相関関係のあるパラメータである。なお、パラメータ算出部12が備える、周波数算出部121、位相ズレ算出部122、振幅算出部123、および振幅比算出部124が算出する各パラメータとその算出方法については、後に詳述する。

【0054】
血圧推定値演算部13は、算出された上記パラメータから、上記相関関係に基づく所定の演算によって血圧の推定値を算出する。具体的には、記憶部2の数式記憶部21において予め記憶されている数式に、パラメータ算出部12が算出した各パラメータを代入して、血圧の推定値を算出する。また、血圧推定値演算部13は、算出した血圧値を表示部5に出力して表示させる。

【0055】
数式記憶部21には、下記の数式が予め記憶されており、血圧推定値演算部13は、上述の各パラメータを式(1)に代入することで、血圧推定値PEstを計算する。
Est=α・pfreq+β・ppwtt+γ・pamp1+δ・pa_diff+ε・pBMI+ζ 式(1)
上記の式(1)において、pfreqは周波数のパラメータ、ppwttは位相ズレのパラメータ、pamp1は振幅のパラメータ、pa_diffは振幅比のパラメータ、そしてpBMIは個人特性のパラメータである。これらのパラメータは、パラメータ算出部12によって算出または取得される。なお、この数式の詳細は後述する。

【0056】
以上のように、血圧推定システム100では、マイクロ波センサaおよびbからマイクロ波を被検者に照射して、反射してきたマイクロ波であるセンサ信号を受信する。そして、血圧推定装置10が該センサ信号から心拍性信号を抽出し、抽出された心拍性信号に基づいて各パラメータを算出し、血圧の推定値を算出する。これにより、血圧推定システム100によれば、被検者に接触することなく、また被検者に気付かれることすらなく血圧の推定値を出力することができる。よって、精神的、および物理的なストレスを被検者に与えることなく、血圧の推定を行うことができる。

【0057】
(血圧推定システム100による血圧測定における処理の流れの概要)
次に、血圧推定システム100による血圧推定における処理の流れの概要について、図3を用いて説明する。図3は、本発明のある実施形態に係る血圧推定システム100における処理の流れの一例を示すフローチャートである。

【0058】
血圧推定システム100のマイクロ波センサ3aおよび3bは、図3のS1において、マイクロ波を被検者に対して発信する。マイクロ波センサ3aおよび3bは、S2において、発信したマイクロ波が被検者により反射した信号をセンサ信号として受信し、該センサ信号を血圧推定装置10に出力する。なお、ここでは、マイクロ波センサ3aは被検者の体幹部からの反射波を含むセンサ信号を受信し、マイクロ波センサ3bは被検者の末梢部からの反射波を含むセンサ信号を受信するものとする。

【0059】
S3において、血圧推定装置10の心拍性信号抽出部11は、マイクロ波センサ3から出力されたセンサ信号を取得し、例えばバンドパスフィルタなどを用いて、センサ信号から心拍性信号を抽出する(心拍性信号抽出ステップ)。なお、心拍性信号抽出部11は、マイクロ波センサ3aから取得したセンサ信号と、マイクロ波センサ3bから取得したセンサ信号のそれぞれから心拍性信号を抽出する。以下では、マイクロ波センサ3aから取得したセンサ信号から抽出した心拍性信号を信号A(第1心拍性信号)と呼び、マイクロ波センサ3bから抽出した心拍性信号を信号B(第2心拍性信号)と呼ぶ。

【0060】
S4において、血圧推定装置10のパラメータ算出部12は、信号A、Bを解析して、血圧推定に用いる各パラメータを算出する(パラメータ算出ステップ)。なお、このパラメータ算出処理については、後に詳述する。

【0061】
S5において、血圧推定装置10の血圧推定値演算部13は、S4で算出されたパラメータを、記憶部2の数式記憶部21に記憶されている上述の式(1)に代入して、血圧値を算出する(血圧推定ステップ)。

【0062】
S6において、血圧推定値演算部13は、また、計算によって求められた血圧値を表示部5に出力し、表示させる。

【0063】
(パラメータ算出処理の流れ)
続いて、図3のS4で行われるパラメータ算出処理の流れを図4に基づいて説明する。また、心拍性信号から算出される各パラメータについて図5を用いて説明する。図4は、パラメータ算出処理の一例を示すフローチャートであり、図5は、血圧推定装置10が心拍性信号(信号Aおよび信号B)に基づいて算出する各パラメータを説明するための説明図である。なお、図5に含まれるグラフの縦軸は「V」となっているが、これは得られた心拍性信号の電圧値を示している。

【0064】
信号Aおよび信号Bは、何れも心臓の拍動に起因する周期的な波形を有している。図5では、i~(i+2)周期の3周期を示している。図示のように、心拍性信号の1拍に対応する1周期の波形には、振幅の大きい上に凸のピーク(以下、第1ピークと呼ぶ)と、第1ピークよりも振幅の小さい上に凸のピーク(以下、第2ピークと呼ぶ)とが含まれている。この第2ピークは、心臓からの血流が血管で反射することによって生じる反射波であり、連続測定された血圧や、脈波にも出現し得る。なお、第2ピークは、図5に示すように第1ピークと常に区別できるピークとして得られるわけでなく、図8に示す血圧の波形のように第1ピークの肩(shoulder)として得られる場合がある。このような場合には、肩における振幅を図5における第2ピークの振幅と見做して計算してもよい。

【0065】
周波数算出部121は、図4のS10において、周波数のパラメータを算出する。具体的には、心拍性信号の周期(1周期の継続時間)を算出する。例えば、周波数算出部121は、図5に示すように、信号Aにおいて、周期iで第1ピークの極大値が検出された時刻tと、次の周期i+1で第2ピークの極大値が検出されたti+1との差を算出してもよい。この場合、周波数算出部121は、周波数のパラメータpfreqを下記の式で算出することになる。なお、周波数算出部121は、上記の値の逆数である周波数、すなわち1/(t-ti+1)を周波数のパラメータとしてもよい。

【0066】
【数5】
JP2014230671A_000007t.gif

【0067】
位相ズレ算出部122は、図4のS11において、位相ズレのパラメータを算出する。具体的には、体幹部からの心拍性信号と、末梢部からの心拍性信号との時間のズレを算出する。例えば、位相ズレ算出部122は、図5に示すように、信号Aの第1ピークにおける極大値の時刻tと、信号Bの第1ピークにおける極大値の時刻t’との差を算出してもよい。この場合、位相ズレ算出部122は、位相ズレのパラメータppwttを下記の式で算出することになる。ppwttは、心拍性信号の波形の元となる波動が体幹部から末梢部へ伝搬するまで要した時間を意味する。

【0068】
【数6】
JP2014230671A_000008t.gif

【0069】
振幅算出部123は、図4のS12において、振幅のパラメータを算出する。具体的には、心拍性信号における第1ピークの極大値と極小値の差を算出する。例えば、振幅算出部123は、図5に示すように、信号Aの第1ピークの極大値pi_1maxと極小値pi_1minとの差を算出してもよい。この場合、振幅算出部123は、振幅のパラメータpamp1を下記の式で算出することになる。

【0070】
【数7】
JP2014230671A_000009t.gif

【0071】
振幅比算出部124は、図4のS13において、振幅比のパラメータを算出する。具体的には、心拍性信号における第2ピークの極大値と極小値の差、すなわち第2ピークの振幅を算出して、振幅算出部123が算出した振幅パラメータpamp1との比を算出する。例えば、振幅比算出部124は、図5に示すように、信号Aの第2ピークの極大値pi_2maxと極小値pi_2minとの差pamp2を算出してもよい。この場合、振幅比算出部124は、振幅比のパラメータpa_diffを下記の式で算出することになる。

【0072】
【数8】
JP2014230671A_000010t.gif

【0073】
個人特性算出部125は、図4のS14において、個人特性のパラメータを取得する。ここでは、操作入力部4から入力されたBMI(Body Mass Index)の値を個人特性のパラメータpBMIとして使用する。なお、個人特性のパラメータは、BMIに限られず、例えば、被検者の年齢、性別、身長、体重、体脂肪率などであってもよく、複数種類のパラメータを併用してもよい。また、個人特性パラメータは、操作入力部4から入力された値を用いて、個人特性算出部125が所定の演算によって算出する値であってもよい。

【0074】
(血圧推定に用いるパラメータと血圧との関連性)
以下では、パラメータ算出部12が算出したパラメータと血圧との関係について説明する。

【0075】
血圧は、心拍出量の変動に応じて図8に示すように周期的に変化する。また、その値は心臓の駆出力、動脈壁の弾力性、末梢血管抵抗、および個人特性などの影響を受けることが分かっている。また、脈波の波形にもこれらの影響が反映されること、すなわち脈波が血圧の情報を含むことが分かっており、脈波を利用した血圧推定法が存在することは背景技術で説明した通りである。

【0076】
そして、本願の発明者らによる研究により、マイクロ波がヒト(あるいは他の動物)で反射した反射波(上述のセンサ信号)にも血管の伸展性や剛性に関する情報が含まれていることが分かってきた。このように、センサ信号に血圧の情報が含まれることの機序は、完全に解明されてはいないが、体表面における微細な動き(体表面微動)がセンサ信号に反映されることにより、センサ信号に血圧の情報が含まれることになると推測される。

【0077】
ここで、心拍出量は、当然のことながら心臓における心拍数(心拍周期)の影響を受ける。つまり、心拍数の増加により、心拍出量が増加するという関係が成り立つ。また、心拍数が増加することにより、脈波の周期は早く(短く)なる。このような心臓や脈波の周期の変動は、体表面における微細な動き(体表面微動)の周期に影響を与え、これがマイクロ波の反射波に反映されると考えられる。したがって、マイクロ波の反射波から抽出した心拍性信号の周期にも、心拍出量の増減の周期が反映されていると考えられる。よって、周波数のパラメータpfreqを用いることにより、心拍出量の増減の周期に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。

【0078】
また、心拍出量の増加は、心臓における心駆出量の増加に関連し、心駆出量が増加することにより、血管壁にかかる圧力が上昇して、脈波の振幅は増加する(脈圧が上昇する)。このような血管壁にかかる圧力や脈圧の上昇は、マイクロ波の反射波に反映されると考えられる。したがって、マイクロ波の反射波から抽出した心拍性信号の振幅にも、脈圧と同様に心駆出量の増減が反映されていると考えられる。よって、振幅のパラメータpamp1を用いることにより、心駆出量の増減に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。

【0079】
さらに、心駆出量が増加して血管壁圧力が上昇すると、その圧力で血管が伸長するが、その度合いは血管の伸展性に応じたものとなる。血管壁の硬化もこの伸展性に影響がある。そして、血管の伸展性は、脈波における第1峰(ピーク)の振幅と、第2峰の振幅との比に影響を与えることが知られている。このため、脈波や、従来法で測定した血圧値(図8参照)と同様に1周期に2つのピークが現れる図5のような心拍性信号における第1ピークおよび第2ピークの振幅比pa_diffには、血管の伸展性が反映されていると考えられる。よって、振幅比のパラメータpa_diffを用いることにより、血管の伸展性に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。

【0080】
末梢血管抵抗は、血管壁の収縮時に血管壁が硬化していることによって増加する。そして、血管壁の硬化によって、体幹部から抹消部への脈波伝播速度が速くなることが知られている。なお、脈波伝播速度は、心電図におけるR波の発生時刻と、脈波ピークの発生時刻とのズレ(PWTT)によって表される。このため、体幹部からの反射波の情報を含む心拍性信号(A信号)と、末梢部からの反射波の情報を含む心拍性信号(B信号)とのピークの発生時刻のズレである位相ズレのパラメータppwttには、血管壁の硬化の程度が反映されていると考えられる。よって、位相ズレのパラメータppwttを用いることにより、血管の硬化の程度に関する情報が加味された血圧の推定値を算出することができる。

【0081】
個人特性も血圧値に相関があることが分かっており、例えば、被検者の年齢、性別、身長、体重、体脂肪率、BMI値等は、血圧値に相関がある。したがって、BMIの値を個人特性のパラメータとしたpBMIを用いることにより、個人特性が加味された血圧の推定値を算出することができる。

【0082】
以上のように、周波数pfreq、振幅pamp1、振幅比pa_diff、および位相ズレppwttは、何れも被検者の心臓の拍動、血管の状態、および脈波の少なくとも何れかに密接に関係するパラメータであり、血圧値と相関があると考えられる。

【0083】
なお、本実施形態では、これらのパラメータの全てを用いて血圧推定値を算出する例を示したが、一部のみを使用して算出する構成としてもよい。この場合、推定精度は低下するが、演算量が減少するため、迅速な算出が可能になる。また、血管壁の硬化の程度が低い若年層の血圧を推定する場合には、位相ズレのパラメータを省略する等、被検者に応じて使用するパラメータを変更してもよい。血管壁の硬化の程度が低ければ、その程度を血圧の推定値に反映させるためのパラメータの重要性も低くなるからである。また、心拍性信号から取得するパラメータは、血圧値と相関のあるパラメータであればよく、これらの例に限られない。

【0084】
本願の発明者らは、位相ズレppwttが、血圧値と相関があることを確認している。これについて、図6に基づいて説明する。図6は、位相ズレと従来法で測定された血圧値との相関関係を示すグラフであり、(a)は収縮期血圧とズレ時間(ppwtt)との相関を示し、(b)は脈圧とズレ時間(ppwtt)との相関を示している。なお、ズレ時間は、位相ズレのパラメータppwttの値を意味する。

【0085】
図6の(a)では、縦軸を血圧値、横軸をズレ時間とする座標平面上に、ズレ時間の測定時における収縮期血圧値をプロットしている。同様に、同図の(b)では、縦軸を血圧値、横軸をズレ時間とする座標平面上に、ズレ時間の測定時における脈圧値をプロットしている。

【0086】
すなわち、被検者の収縮期血圧を、血圧が変動し得るさまざまな負荷を与えながら複数回測定すると共に、その各測定時において上記の血圧推定システム100を使用して位相ズレppwttを算出した。そして、各測定について、位相ズレppwttを横軸の値とし、収縮期血圧値を縦軸の値とする点をプロットしたグラフが図6の(a)である。

【0087】
図6の(a)に示すように、収縮期血圧と位相ズレppwttとの間には、負の相関があり、その相関係数rの値は0.758であった。このように、収縮期血圧と、位相ズレppwttとの間には、強い負の相関関係がある。

【0088】
また、図6の(b)に示すように、脈圧と、位相ズレppwttとの間にも、負の相関係数があり、その相関係数rの値は0.771であった。このように、脈圧値と位相ズレppwttとの間にも、強い負の相関関係がある。脈圧の方が収縮期血圧よりも相関係数の値が大きいこと、および脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧との差であることから、拡張期血圧値と位相ズレppwttとの間にも強い負の相関関係があると考えられる。

【0089】
よって、位相ズレのパラメータppwttを血圧の推定値に換算する係数を決定することができる。つまり、重相関により係数を決定することができる。他のパラメータについても同様であり、それぞれのパラメータの値を血圧の推定値に換算する係数を決定することができる。

【0090】
そして、PEstの値が実際の血圧値に近づくように、各パラメータから換算された血圧の推定値のそれぞれに重み付けをして、重み付け後の血圧の推定値を加算することによって、PEstの値を算出することができる。例えば、各パラメータの変動が血圧推定値PEstの変動に寄与する寄与率に応じて係数を決定してもよい。

【0091】
つまり、上述の式(1)における係数α~εは、各パラメータの値を血圧の推定値に換算する係数に、所定の重みを乗じた値である。また、式(1)におけるζは、重相関における一般項(y切片を示す値)である。

【0092】
なお、各パラメータの値を血圧の推定値に反映させる方法はこの例に限られず、例えば単純な重み付け以外の方法で、各パラメータから換算された血圧の推定値からPEstの値を算出してもよい。

【0093】
このように、式(1)における係数α~εおよびζは、重相関によって決定するものであるから、血圧の推定を行うときには、係数α~εおよびζを決定したときと同じ条件でマイクロ波を照射し、同じ条件で心拍性信号を抽出する必要がある。また、最適な係数は、収縮期血圧を推定するか、拡張期血圧を推定するか、あるいは脈圧を推定するかで異なり、血圧推定の対象者の年齢等によっても異なると考えられる。このため、収縮期血圧用の係数、拡張期血圧用の係数、若年層用の係数、高齢者用の係数、等のように複数組の係数を予め決定しておき、推定したい血圧の種別や対象者に応じた係数の組を使用して推定値の算出を行うようにしてもよい。

【0094】
(血圧推定システム100の精度)
以下では、血圧推定システム100の血圧推定精度について、図7に基づいて説明する。図7は、2人の被検者(被検者S、被検者S)について、血圧推定システム100によって求めた収縮期血圧の血圧推定値PEstと、従来法で計測された収縮期血圧値Pとの間の相関関係を示すグラフである。なお、図7の縦軸の「収縮期血圧予測値」は、血圧推定値PEstである。

【0095】
図7に示すように、血圧推定値PEstと従来法で計測された収縮期血圧値Pとはよく一致しており、その相関係数は、被検者Sに対してはr=0.95、被検者Sに対してはr=0.84であった。このように、血圧推定システム100の血圧の推定精度は、推定のために被検者に一切触れる必要がないにもかかわらず、極めて高精度である。

【0096】
〔ソフトウェアによる実現例〕
血圧推定装置10の制御部1(特に心拍性信号抽出部11、パラメータ算出部12および血圧推定値演算部13)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。

【0097】
後者の場合、血圧推定装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。

【0098】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、血圧の推定に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
3a 第1マイクロ波センサ
3b 第2マイクロ波センサ
10 血圧推定装置
11 心拍性信号抽出部(心拍性信号抽出手段)
12 パラメータ算出部(パラメータ算出手段)
13 血圧推定値演算部(血圧推定手段)
100 血圧推定システム
S3 心拍性信号抽出ステップ
S4 パラメータ算出ステップ
S5 血圧推定ステップ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7