TOP > 国内特許検索 > 成熟マスト細胞の製造方法 > 明細書

明細書 :成熟マスト細胞の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6011815号 (P6011815)
登録日 平成28年9月30日(2016.9.30)
発行日 平成28年10月19日(2016.10.19)
発明の名称または考案の名称 成熟マスト細胞の製造方法
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/34        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/078       (2010.01)
FI C12Q 1/02 ZNA
C12Q 1/34
C12N 15/00 A
C12N 5/078
請求項の数または発明の数 10
全頁数 15
出願番号 特願2013-536256 (P2013-536256)
出願日 平成24年9月24日(2012.9.24)
国際出願番号 PCT/JP2012/074378
国際公開番号 WO2013/047428
国際公開日 平成25年4月4日(2013.4.4)
優先権出願番号 2011209585
優先日 平成23年9月26日(2011.9.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年4月16日(2015.4.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】田中 智之
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100062144、【弁理士】、【氏名又は名称】青山 葆
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2003-299481(JP,A)
田中智之,マスト細胞の成熟とヒアルロン酸,表面,2007年 9月 1日,第45巻 第9号,第12-21頁
TAKANO, H., et al.,Restriction of Mast Cell Proliferation through Hyaluronan Synthesis by Co-cultured Fibroblasts,Biological & Pharmaceutical Bulletin,2012年 3月 1日,Vol. 35, No. 3,pp. 408-412
田中智之,皮膚型マスト細胞モデルの確立とその解析,YAKUGAKU ZASSHI,2011年 1月 1日,Vol. 131(1),pp. 63-71
調査した分野 C12Q 1/02
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
WPIDS/WPIX(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
マスト細胞の応答を調節する物質を同定する方法であって、以下の工程を含む方法:
(i)線維芽細胞のヒアルロン酸合成酵素-2が阻害された条件下、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養することにより得られた、成熟マスト細胞を含むマスト細胞の集団と、前記物質の候補物質とを接触させる工程;および
(ii)マスト細胞の応答を測定する工程。
【請求項2】
ヒアルロン酸合成酵素-2が、ヒアルロン酸合成酵素-2のノックアウトまたはノックダウンにより阻害されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヒアルロン酸合成酵素-2が、培地へのヒアルロン酸合成酵素阻害剤の添加により阻害されている、請求項1記載の方法。
【請求項4】
マスト細胞の応答を調節する物質を同定する方法であって、以下の工程を含む方法:
(i)ヒアルロン酸分解酵素の存在下、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養することにより得られた、成熟マスト細胞を含むマスト細胞の集団と、前記物質の候補物質とを接触させる工程;および
(ii)マスト細胞の応答を測定する工程。
【請求項5】
ヒアルロン酸分解酵素が0.005%~0.05%の終濃度で培地に添加されている、請求項4記載の方法。
【請求項6】
未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを4~16日間共培養する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)が、脱顆粒応答の測定または細胞増殖の測定により行われる、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
マスト細胞を活性化する物質を同定する方法である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
マスト細胞の活性化を阻害する物質を同定する方法である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ハイスループットスクリーニングに使用される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、成熟マスト細胞の製造方法および製造用キットに関する。また、本発明は、前記方法により製造された成熟マスト細胞を用いる、マスト細胞の応答を調節する物質の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や機能食品成分、あるいは新素材分子の開発では、様々な未知化合物や新規化合物が精製および合成されており、これらの化合物の人体に対する安全性の検証は重要である。こうした背景のもと、化合物の利用者や、合成に携わる人たちの安全性を確保するために、新物質のアレルギー原性を確認する簡便な手法の開発が望まれている。
【0003】
マスト細胞はアレルギー応答において主要な役割を果たす免疫細胞であり、その細胞質に顆粒を多数有し、刺激に応じて脱顆粒と呼ばれる反応により、ヒスタミンをはじめとする顆粒内の起炎物質を細胞外へと放出し、アレルギー症状を誘発する。こうしたマスト細胞応答を再現する評価系は、化合物によるアレルギー応答発症の可能性を検証するシステムとして利用できるが、生体内の応答を再現する細胞培養系はまだない。現時点では、各企業においては実際に動物実験を行うことによりアレルギー応答を検証するという方法を採用せざるを得ない状況であり、莫大な手間と費用が必要となっている。
【0004】
マスト細胞は骨髄の造血幹細胞に由来し、前駆細胞として循環血中を移動し組織へ浸潤した後、最終的な分化を遂げると考えられている。生体内に存在する成熟マスト細胞は、最終的に分化を遂げる組織の影響を受けており、齧歯類では、皮膚や腹腔内に存在する組織結合型マスト細胞(CTMC, connective tissue type mast cell)と、寄生虫感染の際に消化管に誘導される粘膜型マスト細胞(MMC, mucosal mast cell)に分類され、これらは異なる性質を有する。例えば、CTMCは、カチオン性刺激に対する応答性(ポリカチオンであるcompound 48/80に対する脱顆粒応答)を示す点でMMCとは異なる。また、神経ペプチドであるサブスタンスPによる脱顆粒も、CTMCでのみ見られる応答である。ヒトと齧歯類には相違点もあるが、ヒト皮膚組織に分布するマスト細胞はCTMCに類似した性質を示すことが知られている。皮膚炎やじんま疹等、マスト細胞の関与する疾患を考慮すると、皮膚マスト細胞の培養モデルの重要性は高いが、現時点でモデルとして利用できる培養系はない。
【0005】
マスト細胞および培養系については、以下に例示するように、多数の報告がある。
・マスト細胞株(マウスP-815、MC9、C57、ラットRBL-2H3、ヒトHMC-1、LAD2)
・IL-3依存性マウス骨髄由来培養マスト細胞 (BMMCs) (Razin E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 2559-2561, 1981)
・BMMCs-線維芽細胞共培養系 (Levi-Schaffer F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 6485-6488, 1986)
・マスト細胞再構成マウスモデル (Grimbaldeston MA. Am J Pathol. 167, 835-848, 2005)
・マウス胎児皮膚由来マスト細胞 (Matsue H. et al., J. Invest. Dermatol. 129, 1120-1125, 2009)
・マウス腹腔マスト細胞培養系 (Malbec, O. et al. J. Immunol. 178, 6465-6475, 2007)
・ヒト末梢血単核球由来培養マスト細胞 (Saito H. et al. Nat. Protoc. 1, 2178-2183, 2006)
・ヒト臍帯血由来培養マスト細胞 (Kempuraj D et al. Blood, 93, 3338-3346, 1999)
・成熟マスト細胞の生産方法(特開2003-299481号公報、特許第4271955号公報)
・不死化マスト細胞株(特開2005-168492号公報)
【0006】
マスト細胞は全身の様々な組織に分布しているが、特定の部位に集積するわけではないため、生体組織からマスト細胞を精製することは一般に困難である。最も容易な方法として、腹腔細胞を回収後、密度勾配遠心法によりマスト細胞を精製するものがある。しかしながら、この方法は、回収後精製まで時間がかかり、また密度勾配遠心の過程で細胞にダメージが加わるという欠点があり、さらに1匹あたりのマスト細胞回収量が極めて少なく、採取した細胞で実施可能な実験が限られてしまう。
【0007】
細胞株やがん化細胞として樹立されたマスト細胞は数多く報告されているが、これらに共通した性質として、幹細胞因子(SCF: stem cell factor)の受容体であるc-kitに常時活性型の遺伝子変異があることがあげられる。c-kitはマスト細胞の分化、成熟、増殖を制御する重要な因子であるため、これらの細胞株やがん化細胞では増殖応答が優先されており、マスト細胞特異的な性質の解析が難しいことが多い。
【0008】
有力なマスト細胞モデルとして、初代培養マスト細胞がある。これは、骨髄の造血幹細胞をもとに、添加するサイトカインの組合せを最適化することで、マスト細胞集団を選択的に増幅、純化するという方法である。マウスの場合はIL-3、ヒトの場合はSCFやIL-6を添加することにより、骨髄細胞や臍帯血、あるいは末梢血単核球を素材にしてマスト細胞集団を得ることができる。こうした培養モデルは汎用性が高いが、一方で生体内のマスト細胞の性質を一部しか反映しない(compound 48/80や神経ペプチド(サブスタンスP)による脱顆粒応答が検出されない、など)という欠点がある。また、ヒト由来初代培養細胞では、個体差に基づくロット間のばらつきが問題視されることがある。
【0009】
近年、確立された手法として、c-kit遺伝子に変異を有し、マスト細胞を遺伝的に欠損するマウスに、局所的、あるいは全身レベルで骨髄由来培養マスト細胞を移植し、再構成するというアプローチがある。マスト細胞は移植された組織環境に応じて分化するため、マスト細胞が関与する反応をin vivoで検討できるというメリットがある。しかしながら、この方法ではマスト細胞がどのように刺激に応答し、どのメディエーターを産生しているかといった細胞レベルでの情報を得ることはできない。
【0010】
未成熟な骨髄由来培養マスト細胞(Bone marrow-derived cultured mast cells;BMMCs)を線維芽細胞と共培養するモデルは、皮膚型のマスト細胞と類似した培養マスト細胞を得る方法として有望である。しかしながら、この方法においても調製可能なマスト細胞数に限界があること、および共培養の継代の際の操作の煩雑さが欠点としてあげられる。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2003-299481号公報
【特許文献2】特許第4271955号公報
【特許文献3】特開2005-168492号公報
【0012】

【非特許文献1】Razin E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 2559-2561, 1981
【非特許文献2】Levi-Schaffer F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 6485-6488, 1986
【非特許文献3】Grimbaldeston MA. Am J Pathol. 167, 835-848, 2005
【非特許文献4】Matsue H. et al., J. Invest. Dermatol. 129, 1120-1125, 2009
【非特許文献5】Malbec, O. et al. J. Immunol. 178, 6465-6475, 2007
【非特許文献6】Saito H. et al. Nat. Protoc. 1, 2178-2183, 2006
【非特許文献7】Kempuraj D et al. Blood, 93, 3338-3346, 1999
【0013】
前記文献はいずれも引用により本明細書に含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、生体内の成熟マスト細胞と同様の性質を有する成熟マスト細胞を得る簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、骨髄細胞から得た未成熟マスト細胞を線維芽細胞と共培養して成熟マスト細胞を得る共培養系において、系中のヒアルロン酸量を低下させることにより、高効率に、生体内における成熟マスト細胞と同様の性質を有する培養マスト細胞を生産することに成功した。即ち、本発明者らは、共培養系におけるヒアルロン酸産生が線維芽細胞によるものであること、線維芽細胞において主要なヒアルロン酸合成酵素サブタイプはヒアルロン酸合成酵素-2 (hyaluronan synthase-2, HAS-2)であることを見いだし、これをノックダウンすることにより成熟マスト細胞を高収量で得ることに成功した。また、培養系にヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)を添加し、ヒアルロン酸を分解することによっても同様の結果を得た。以上の結果に基づき、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、共培養系におけるヒアルロン酸量が低下した条件下で、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養する工程を含む、成熟マスト細胞の製造方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、以下のいずれかを含む、成熟マスト細胞の製造用キットを提供する:
(a)ヒアルロン酸合成酵素-2がノックアウトまたはノックダウンされた線維芽細胞;
(b)線維芽細胞およびヒアルロン酸合成酵素阻害剤;または
(c)線維芽細胞およびヒアルロン酸分解酵素。
【0018】
本発明はまた、マスト細胞の応答を調節する物質を同定する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(i)本発明の成熟マスト細胞の製造方法により製造された成熟マスト細胞と前記物質の候補物質とを接触させる工程;および
(ii)成熟マスト細胞の応答を測定する工程。
【0019】
本発明はまた、マスト細胞の成熟を阻害する物質を同定する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(i)共培養系におけるヒアルロン酸量が低下した条件下で、候補物質の存在下、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養する工程;および
(ii)工程(i)により得られたマスト細胞が成熟マスト細胞の性質を示すか否かを確認する工程。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、ポリカチオンや神経ペプチド等の刺激に応答した脱顆粒(これは皮膚炎やじんま疹において重要な応答である)を評価できる均質な成熟マスト細胞を大量に供給することができる。本発明の方法は、共培養の手法を用いるものの、手技は簡便であり、スケールアップ可能であることから、ハイスループットスクリーニングに用いる細胞の製造に利用可能である。本発明は、従来は細胞レベルでの解析や評価系の構築が困難であった、成熟マスト細胞のモデルを提供するものである。本発明の方法により得られる成熟マスト細胞は、化合物による免疫毒性(特にマスト細胞が関与する即時型応答をともなうもの)の評価、マスト細胞を標的とした医薬品(例えば抗アレルギー薬)の開発、及び接触性皮膚炎のメカニズムの解明および治療薬の開発に有用である。さらに、本発明は、マスト細胞の成熟過程、およびそれに伴う機能発現を標的とした医薬品のスクリーニングを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】共培養系におけるヒアルロン酸量の低下によるマスト細胞分布の変化。共培養時にヒアルロン酸合成酵素-2 (HAS2)遺伝子をノックダウンしたSwiss 3T3細胞を用いた場合(HAS2-KD)、あるいは共培養系にヒアルロニダーゼ(0.03%)を添加した場合(+HAse)、4日間で培地中に放出されるヒアルロン酸(Hyaluronan)量は激減した(A)。この際のマスト細胞の分布を調べたところ、無処理では70%程度がヒアルロン酸を主体としたマトリックスに結合しているのに対して、ヒアルロン酸量低下群では80%近くが遊離状態であった(B)。
【図2】共培養系におけるヒアルロン酸量の低下によるマスト細胞の分化指標への影響。Swiss 3T3細胞のHAS2遺伝子のノックダウン(HAS2-KD)およびヒアルロニダーゼの添加(+HAse)はいずれも、共培養16日目の分化指標に影響を及ぼさなかった。(A, B)顆粒プロテアーゼ活性の測定結果。(C) Compound 48/80 (10μg/ml)およびA23187 (1μM)による脱顆粒応答をβ-ヘキソサミニダーゼ活性を指標に測定した。
【図3】共培養系におけるヒアルロン酸量の低下によるマスト細胞数の増大。Swiss 3T3細胞のHAS2遺伝子のノックダウン(HAS2-KD)、あるいはヒアルロニダーゼの添加(+HAse)により、共培養期間のマスト細胞の増殖が2-3倍程度に促進された(A)。HAS2遺伝子をノックダウンしたSwiss 3T3細胞との共培養では、マスト細胞のCD44の発現の有無による細胞増殖の相違は見られなかった(B)。また、このときマスト細胞のクラスターは殆ど形成されなかった(C)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.成熟マスト細胞の製造方法
本発明は、共培養系におけるヒアルロン酸量が低下した条件下で、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養する工程を含む、成熟マスト細胞の製造方法に関する。

【0023】
「マスト細胞」は、骨髄の造血幹細胞に由来する血球細胞であって、前駆細胞として循環血中を移動し組織へ浸潤した後、最終的な分化を遂げることが知られている。その特徴は、c-kitおよび高親和性IgE受容体(FcεRI)をともに形質膜表面に発現していることにある。

【0024】
本発明において、「未成熟マスト細胞」は、最終的な分化を遂げる前の全てのマスト細胞であって、本発明の方法により培養したとき、目的の成熟マスト細胞を与える細胞を意味する。本発明の方法の出発物質としては次の条件を満たすものが好ましい。
(1)c-kitおよび高親和性IgE受容体(FcεRI)をともに形質膜表面に発現し、
(2)サフラニン染色陰性であり、および/または
(3)カチオン性刺激(例えばcompound 40/80による刺激)および/または神経ペプチド(例えばサブスタンスP)による刺激に対して脱顆粒を起こさない。
さらに、次の条件をも満たすものが、より好ましい。
(4)酸性トルイジンブルー染色において異染性を示す。

【0025】
細胞が形質膜表面にc-kitおよびFcεRIを発現するか否かは、これらに対する抗体を用いてフローサイトメトリーにより調べることができる。

【0026】
サフラニン染色および酸性トルイジンブルー染色の方法は、例えば「新染色法のすべて」(医歯薬出版、1999年)(引用により本明細書に含まれる)に記載されている。

【0027】
脱顆粒応答の測定は、前述の(3)に記載の物質(例えばcompound 40/80やサブスタンスP)により刺激したマスト細胞が、かかる刺激を与えていない対照の細胞と比較して、有意な量の顆粒内物質(ヒスタミン、セロトニン、各種プロテアーゼ、またはプロテオグリカン)を放出するかを調べることにより行えばよい。かかる方法としては、本明細書の実施例に記載の方法が例示される。

【0028】
本発明の方法において使用可能な未成熟マスト細胞の生物種は特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、サル、ヒトが例示されるが、好ましくはマウスまたはヒトである。また、未成熟マスト細胞の調製方法も特に制限されず、任意の方法で得た細胞を用いることができる。例えば、本発明における未成熟マスト細胞は、マウス骨髄細胞をIL-3存在下で約1ヶ月培養することにより得ることができる。具体的には、Takano, H. et al. FEBS Lett. 582, 1440-1450, 2008(引用により本明細書に含まれる)の記載に従いマウス骨髄細胞から調製した骨髄由来培養マスト細胞(BMMCs)を、本発明の方法において使用することができる。また、Razin E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 2559-2561, 1981(引用により本明細書に含まれる)に記載の方法により得た細胞を、本発明の方法において未成熟マスト細胞として使用してもよい。

【0029】
本発明の方法における「成熟マスト細胞」は、(1)サフラニン染色陽性である、および/または(2)カチオン性刺激(例えばcompound 40/80による刺激)および/または神経ペプチド(例えばサブスタンスP)による刺激に対して脱顆粒を起こす細胞を意味する。すなわち、成熟マスト細胞が得られたか否かは、サフラニン染色または脱顆粒応答の測定により確認することができる。(1)および(2)の両方により確認することが好ましい。

【0030】
共培養系におけるヒアルロン酸量は、未成熟マスト細胞と線維芽細胞との共培養系において、線維芽細胞からのヒアルロン酸の産生を抑制または低下することにより、または線維芽細胞から産生されたヒアルロン酸を分解することにより、低下させることができる。

【0031】
線維芽細胞からのヒアルロン酸の産生は、線維芽細胞のヒアルロン酸合成酵素-2を阻害することにより抑制または低下することができる。ヒアルロン酸合成酵素-2の阻害には、ヒアルロン酸合成酵素-2のノックアウトおよびノックダウンが含まれる。

【0032】
本発明において「ノックアウト」とは、遺伝子を破壊または不活性化すること、または遺伝子の転写を阻害することを意味する。ヒアルロン酸合成酵素-2のノックアウトは、前記酵素をコードする遺伝子の他の遺伝子への置換や、前記酵素をコードする遺伝子(調節配列も含む)に対する機能消失変異の導入により行うことができる。ヒアルロン酸合成酵素-2のノックアウトには、当業界にて知られるいずれの方法も使用可能である。

【0033】
本発明において「ノックダウン」とは、遺伝子の転写量を減少させる、または翻訳を阻害することを意味する。ヒアルロン酸合成酵素-2のノックダウンは、前記酵素をコードする遺伝子に対するsiRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドなど(以下、「siRNA等」という)を細胞に導入するか、前記siRNA等、または前記酵素をコードする遺伝子に対するsiRNAを生じるshRNAを細胞内で発現させることにより行うことができる。当業者は、ヒアルロン酸合成酵素-2のノックダウンに有効なsiRNAの配列を、例えば、Dharmacon siDESIGN center (http://www.dharmacon.com/sidesign/)やClontech RNAi Designer (http://bioinfo.clontech.com/rnaidesigner/frontpage.jsp)を用いて決定することができる。

【0034】
ヒアルロン酸合成酵素-2をノックダウンする場合、合成したsiRNA等を培地に直接添加してもよいが、操作の簡便性や効果の持続性などの観点から、細胞内でsiRNA等またはshRNAを発現するベクターを利用することが好ましい。かかるベクターとしては、レトロウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノウイルスベクターなどが挙げられるが、目的のsiRNA等を長期間安定に発現する線維芽細胞が得られる点で、レトロウイルスベクターまたはプラスミドベクターを用いることが好ましい。

【0035】
本発明の方法における線維芽細胞の生物種は、未成熟マスト細胞の生物種と同じであっても異なっていてもよく、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、サル、ヒトが例示されるが、好ましくはマウスまたはヒトである。本発明の方法において使用可能な線維芽細胞としては、例えばSwiss 3T3細胞、NIH-3T3細胞、3T3-L1細胞などが挙げられる。ヒアルロン酸合成酵素-2の遺伝子の配列は、GeneBankにNM_008216(マウス)、NM_005328(ヒト)、NM_013153(ラット)、NM_001082010(ウサギ)、XM_539153(イヌ)、NM_214053(ブタ)、XM_001098841(サル、マカク)として開示されている。

【0036】
ヒアルロン酸合成酵素-2は、培地へのヒアルロン酸合成酵素阻害剤の添加により阻害してもよく、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤としては、4-メチルウンベリフェロン(methylumbelliferone) (Sigma-Aldorich)などが例示される。

【0037】
共培養系におけるヒアルロン酸量は、培地へのヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)の添加によっても低下させることができる。ヒアルロン酸分解酵素としては一般に入手可能なものを使用すればよく、例えばSigma-Aldrichから入手することができる。培地へのヒアルロン酸分解酵素の添加量は、共培養系における細胞数や培地の組成に応じて適宜決定されるが、通常終濃度で0.005%~0.05%、好ましくは0.01%~0.03%である。

【0038】
本発明の製造方法に用いる培養容器は、細胞培養に一般的に用いられるものであればよく、例えば、ディッシュ、プレート(例えば2~384穴)、シャーレ、T-フラスコ、ローラーボトル、マイクロキャリアビーズ、およびホローファイバーが挙げられる。培養容器の材質は、細胞培養に使用できるものであればいずれも使用でき、例えば、プラスチック、ガラスが挙げられる。

【0039】
本発明の製造方法に用いる培地としては、RPMI培地、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMEM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、およびWE培地等(朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁(引用により本明細書に含まれる)に記載の基礎培地)、これらの培地に血清成分(例えばウシ胎児血清)等を添加したもの、並びに市販の無血清培地(例えば、ASF103、ASF104、ASF301(味の素(株))、CHO-SFM、VP-SFM(Gibco))が例示される。なかでも、前記基礎培地のいずれかに血清成分を加えたものが好ましく、RPMI-1640培地にウシ胎児血清を加えたものがより好ましい。

【0040】
培地には、使用する未成熟マスト細胞や線維芽細胞の種類に応じて、サイトカイン(例えばインターロイキン(IL)、幹細胞因子(SCF)、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフォーミング成長因子(TGF))やケモカイン、細胞増殖因子(例えば、FGF、VEGF、HGF、EGF、PDGF、IGF、およびBMP)を添加してもよい。さらに培地には、必要に応じて、アミノ酸類(グルタミン、アラニルグルタミン、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、セリン及びグリシン等)、ビタミン類(コリン、塩化コリン、パントテン酸カルシウム、葉酸、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、イノシトール、ニコチンアミド、グルタミン、ビタミンA及びビタミンB12等)、成長促進剤(アルブミン、ウシ脳下垂体抽出物、ニワトリ胚抽出液、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン及びエタノールアミン等)、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、ネオマイシン及びアクチノマイシン等)、安定化剤(例えば、酸化防止剤等)及びpH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム、HEPES、炭酸ナトリウム及びリン酸ナトリウム等)等を含有させることができる。

【0041】
本発明の方法における未成熟マスト細胞と線維芽細胞の細胞数は、当業者が適宜調節可能であるが、例えば、1 x 105 ~ 5 x 106 細胞/ml、好ましくは2 x 105 ~ 1 x 106 細胞/mlである。未成熟マスト細胞と線維芽細胞の細胞数の比は、1:0.1~5、好ましくは1:0.5~1の範囲である。

【0042】
培養時のCO2濃度は、1~20%、好ましくは5~10%、より好ましくは5%であり、培養温度は、20~40℃、好ましくは37℃である。培養期間は、1時間~100日間、好ましくは1~36日、より好ましくは4~16日間であり、必要に応じて1~7日毎、好ましくは2~4日毎に一部または全ての培地を交換する。

【0043】
本発明の製造方法によれば、成熟マスト細胞の大部分が遊離細胞として得られるため、成熟マスト細胞を回収するためにEDTA等のキレート剤やトリプシン等の蛋白質分解酵素を使用する必要がない。本発明の方法によれば、成熟マスト細胞を簡便かつ大量に得ることができる。よって、本発明の方法により得られる成熟マスト細胞は、ハイスループットスクリーニングに使用可能である。

【0044】
2.成熟マスト細胞の製造用キット
本発明のキットは、
(a)ヒアルロン酸合成酵素-2がノックアウトまたはノックダウンされた線維芽細胞;
(b)線維芽細胞およびヒアルロン酸合成酵素阻害剤;または
(c)線維芽細胞およびヒアルロン酸分解酵素
のいずれかを含む。

【0045】
本発明のキットに含まれる線維芽細胞、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロン酸分解酵素は、上記「1.成熟マスト細胞の製造方法」に記載のとおりである。本発明のキットは、さらに成熟マスト細胞の製造に必要な、培地、培養容器、添加物(例えば血清、サイトカインなど)を含んでいてもよい。

【0046】
3.マスト細胞の応答を調節する物質を同定する方法
本発明は、マスト細胞の応答を調節する物質を同定する方法であって、
(i)本発明の成熟マスト細胞の製造方法により製造された成熟マスト細胞と前記物質の候補物質とを接触させる工程;および
(ii)成熟マスト細胞の応答を測定する工程
を含む方法に関する。

【0047】
本発明における「マスト細胞の応答」には、脱顆粒応答(例えば、ヒスタミン、セロトニン、プロテアーゼ、プロテオグリカンの放出)、脂質メディエーター(例えば、ロイコトリエンまたはプロスタグランジン)の産生、サイトカインまたはケモカイン(例えば、IL-3、IL-4、IL-6、IL-10、IL-13、TNF-α、TGF-β)の産生、細胞増殖が含まれる。マスト細胞の応答の調節には、前記応答のいずれかの誘導、増強、抑制、および減弱が含まれる。マスト細胞が活性化されると前記応答が誘導または増強されることから、本発明の方法は、マスト細胞を活性化する物質、またはマスト細胞の活性化を阻害する物質の同定に使用することができる。工程(ii)における測定は、上述した「マスト細胞の応答」のタイプに応じて、既知の方法により行うことができる。例えば、脱顆粒応答を測定する場合は、実施例1の1(6)に記載の方法が例示される。

【0048】
マスト細胞の応答を調節する物質の候補物質としては、低分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸、またはこれらのライブラリーが例示される。本発明の同定方法は、ハイスループットスクリーニングにおいて使用することができる。

【0049】
4.マスト細胞の成熟を阻害する物質を同定する方法
本発明は、マスト細胞の成熟を阻害する物質を同定する方法であって、
(i)共培養系におけるヒアルロン酸量が低下した条件下で、候補物質の存在下、未成熟マスト細胞と線維芽細胞とを共培養する工程;および
(ii)工程(i)により得られたマスト細胞が成熟マスト細胞の性質を示すか否かを確認する工程
を含む方法に関する。

【0050】
前記方法における「成熟マスト細胞の性質」には、以下の性質が含まれる:(1)サフラニン染色陽性である、および(2)カチオン性刺激(例えばcompound 40/80による刺激)および/または神経ペプチド(例えばサブスタンスP)による刺激に対して脱顆粒を起こす。例えば、候補物質の非存在下の共培養により得られたマスト細胞がサフラニン染色陽性であって、工程(i)の候補物質の存在下の共培養により得られたマスト細胞がサフラニン染色陰性である場合、候補物質はマスト細胞の成熟を阻害する物質として同定される。また、工程(i)の候補物質の存在下の共培養により得られたマスト細胞が、候補物質の非存在下の共培養により得られたマスト細胞よりも減弱された脱顆粒応答を示す場合、候補物質はマスト細胞の成熟を阻害する物質として同定される。

【0051】
前記方法における共培養系におけるヒアルロン酸量が低下した条件下での未成熟マスト細胞と線維芽細胞との共培養は、前記「1.成熟マスト細胞の製造方法」に記載のとおり実施すればよい。候補物質は、培養期間の一部または全てにおいて培地中に存在していればよく、好ましくは全期間にわたり培地中に存在する。

【0052】
サフラニン染色および脱顆粒応答の測定は、前記「1.成熟マスト細胞の製造方法」に記載のとおり行えばよい。

【0053】
マスト細胞の成熟を阻害する物質の候補物質としては、低分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸、またはこれらのライブラリーが例示される。本発明の同定方法は、ハイスループットスクリーニングにおいて使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は如何なる意味においても本実施例に限定されない。
【実施例】
【0055】
実施例1
1.方法
(1)骨髄由来培養マスト細胞の作製:
Balb/cマウス(8週齢)、あるいはC57Bl6マウス(8週齢)の脛骨を採取し、骨髄細胞を得た。骨髄細胞を、5 x 105 細胞/mlの密度で、RPMI-1640培地(10 ng/ml マウス組換えIL-3、10%非働化ウシ胎仔血清、100 U/mlペニシリン、0.1 g/Lストレプトマイシン、0.1 mM 非必須アミノ酸、50μM β-メルカプトエタノールを含む)中で培養し、4日おきに継代した。約1ヶ月の培養により、95%以上がトルイジンブルー染色に異染性を示す骨髄由来培養マスト細胞(BMMCs)が得られた。
【実施例】
【0056】
(2)ヒアルロン酸合成酵素-2 (HAS2)をノックダウンした線維芽細胞(Swiss 3T3細胞)の製造
レトロウイルスを利用したshRNAの導入により、HAS2-ノックダウン線維芽細胞を調製した。マウスHAS2 mRNA (NM_008216)に対して標的配列を3箇所設定し、これをもとにshRNA配列をデザインし、レトロウイルスベクターpSINsi-mU6(タカラバイオ株式会社)に導入した。また、有効な標的配列に変異を3箇所導入した変異体を対照として作製した。標的配列および導入配列は以下のとおりである。

(標的配列;導入配列(ベクター構築に使用したオリゴDNA))
配列1: 5’-CAA TTG GTC TTG TCT AAC A-3’(配列番号1);5’-GAT CCA GAA TCA CAT CTG TTT ATA TTT CAA GAG AAT ATA AGC A GC TGT GAT TCT TTT TTT AT-3’ (配列番号2)
配列2: 5’-GAA TCA CAG CTG CTT ATA T-3’ (配列番号3);5’-GAT CCA GAA TCA CAT CTG TTT ATA TTT CAA GAG AAT ATA AGC A GC TGT GAT TCT TTT TTT AT-3’ (配列番号4)
配列3: 5’-ATA TCG TCA TGG TAT TCA T-3’ (配列番号5);5’-GAT CCA ATA TCT TCA TGT TAT TCA TTT CAA GAG A ATG AAT ACC ATG ACG ATA TTT TTT TTA T-3’ (配列番号6)
対照(配列3の変異体、変異させた塩基を下線で示す):5’-GAT TCA CTG CTG CTA ATA T-3’ (配列番号7);5’-GAT CCA GAT TCA CTG CTT CTA ATA TTT CAA GAG AAT ATT AGC AGC AGT GAA TCT TTT TTT AT-3’ (配列番号8)

ウイルスのパッケージング細胞として293FT細胞を利用し、組換えshRNAレトロウイルスを作製し、Swiss 3T3細胞に感染させた。感染1日後にウイルスを含む培地を通常の培地に交換し、3日後に250μg/mlのG418を含む培地に交換し、ウイルス配列がゲノムに挿入された細胞を選択した。G418を含む培地で2週間培養を継続することにより、HAS2 mRNAに対するshRNAを構成的に発現する細胞を濃縮した。
【実施例】
【0057】
(3)Has2ノックダウンSwiss 3T3細胞との共培養
1ディッシュあたり2.6 x 106 細胞/100 mmの密度で、Has2ノックダウンSwiss 3T3細胞を播種した。培地は、(1)に記載のBMMCsの調製用培地と同じものを使用した(ただし、IL-3は添加しなかった)。線維芽細胞のディッシュへの接着後、3μg/mlのマイトマイシンCで細胞を3時間処理し、RPMI-1640培地で洗浄し、さらに3時間培養後、もう一度培地で洗浄して、BMMCsと共培養した。共培養は、RPMI-1640培地(100 ng/ml マウス組換SCF、10%非働化ウシ胎仔血清、100 U/mlペニシリン、0.1 g/Lストレプトマイシン、0.1 mM 非必須アミノ酸、50μM β-メルカプトエタノールを含む)中で行い、BMMCsは4 x 105 細胞/mlの密度で播種した。2日後に同量の培地(SCF含有)を追加し、浮遊細胞を回収して4日後に継代した。一般的な線維芽細胞との共培養方法(Takano, H. et al. FEBS Lett. 582, 1440-1450, 2008(引用により本明細書に含まれる))と異なり、マスト細胞の大部分が浮遊細胞として回収可能であり、トリプシン-EDTAを用いたマスト細胞の分離は行わなかった。このサイクルを4回繰り返すことにより、共培養16日目に、組織結合型マスト細胞(CTMC)の指標であるサフラニン染色陽性の細胞が80%以上含まれる成熟マスト細胞の集団を得た。
【実施例】
【0058】
(4)ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)存在下における共培養
上記(3)と同様にして、親Swiss 3T3細胞を播種し、培地に終濃度0.03%のヒアルロニダーゼ(Sigma-Aldrich)を添加した。この場合もトリプシン-EDTAを用いたマスト細胞の分離は行わなかった。
【実施例】
【0059】
(5)ヒアルロン酸量の測定
培養4日目に培地を回収し、800 x gで5分間遠心分離して細胞片を除いた。培地中のヒアルロン酸量は、ヒアルロン酸結合タンパク質を利用したELISA様キット(生化学工業株式会社)を用いて製造元の説明にしたがい測定した。
【実施例】
【0060】
(6)脱顆粒応答の測定
マスト細胞を回収し、PIPESバッファー(25 mM PIPES-NaOH、pH7.4、125 mM NaCl、2.7 mM KCl、5.6 mM グルコース、および1 mM CaCl2、0.1 %ウシ血清アルブミンを含む)で洗浄した。細胞をPIPESバッファー中で1μM A23187(Calbiochem)または10μg/ml compound 40/80(Sigma-Aldrich)の存在下、37℃で30分間インキュベートした。マスト細胞の脱顆粒は、顆粒酵素であるβ-ヘキソサミニダーゼの酵素活性を測定することにより評価した。
【実施例】
【0061】
(7)顆粒プロテアーゼの測定
マスト細胞を回収し、PBS(2 M NaClおよび0.5 % Triton X-100を含む)中において4℃で溶解した。溶解物を 10,000 x gで30分間4℃で遠心分離した。得られた上清を顆粒プロテアーゼ活性の評価に使用した。プロテアーゼ活性は、特定の発色ペプチド基質(キマーゼ、S-2586(Chromogenix);トリプターゼ、S-2288(Chromogenix);カルボキシペプチダーゼ A、M-2245(Bachem))を使用して測定した。
【実施例】
【0062】
(8)細胞数の計測
分布様式の異なるマスト細胞の数を以下のように計測した。非結合型の遊離マスト細胞を含む培養上清を回収し、800 x gで3分遠心分離し、非接着細胞を得た。残りの培養細胞をPBSで穏やかに洗浄し、0.1 %ヒアルロニダーゼ(ウシ精巣由来)によりPBS(0.3 %ウシ血清アルブミンを含む)中で1分間処理した。遊離した細胞を遠心分離により回収し、ヒアルロン酸結合細胞とした。ヒアルロニダーゼ抵抗性の接着細胞をトリプシンで処理し、この細胞を播種して、線維芽細胞を接着細胞として除去した。非接着細胞を回収し、線維芽細胞結合細胞とした。
【実施例】
【0063】
2.結果
Has2ノックダウンSwiss 3T3細胞との共培養、およびヒアルロニダーゼ存在下における共培養のいずれによっても、培養系のヒアルロン酸量は劇的に低下し、マスト細胞が共培養時に形成するクラスターが解消し、遊離のマスト細胞が増加した(図1A、B)。この時、CTMC様マスト細胞の顆粒プロテアーゼの活性や、脱顆粒応答のレベルには有意な変化はなく、マスト細胞の成熟プロセスは共培養系のヒアルロン酸量の低下による影響を受けないことが推察された(図2A-C)。
【実施例】
【0064】
一方、共培養時の増殖応答については、ヒアルロニダーゼ存在下や、Swiss 3T3のHas2をノックダウンした系において有意な亢進が認められた(図3A)。Swiss 3T3細胞のHas2ノックダウンによるマスト細胞の増殖応答の増強は、主要なヒアルロン酸受容体であるCD44を欠損するマスト細胞においても認められ、Swiss 3T3細胞でHas2がノックダウンされている場合は、マスト細胞のCD44の発現の有無は増殖に影響を及ぼさないことが明らかとなった(図3B)。以上の結果より、共培養系におけるヒアルロン酸を中心としたマトリックスの形成は、マスト細胞の増殖を制約する要因であることが明らかとなった。
【実施例】
【0065】
以上のとおり、未成熟マスト細胞と線維芽細胞の共培養系においてヒアルロン酸量を低下させることにより、継代操作の簡便性が向上し、成熟マスト細胞の収量が3倍以上増大した。
【実施例】
【0066】
実施例2
実施例1と同様にして、BMMCsとHas2ノックダウンSwiss 3T3細胞との共培養により得られるマスト細胞におけるcompound 40/80およびサブスタンスPに対する脱顆粒応答を測定した。マスト細胞は、10μg/ml compound 40/80(Sigma-Aldrich)または100 μM サブスタンスP(Sigma-Aldrich) の存在下、37℃で30分間インキュベートした。
【実施例】
【0067】
共培養前のBMMCsでは、compound 48/80あるいはサブスタンスPに対する脱顆粒応答はほとんど認められなかったが、共培養16日目のマスト細胞では、いずれの刺激に対しても有意なレベルの脱顆粒応答が観察された(表1)。本発明の方法により得られるマスト細胞は、カチオン性刺激のみならず神経ペプチドによる刺激に対しても脱顆粒を起こすことが示された。
【表1】
JP0006011815B2_000002t.gif
【実施例】
【0068】
実施例3
実施例1と同様にして、BMMCsをHas2ノックダウンSwiss 3T3細胞と共培養する際に、合成糖質ステロイドホルモンであるデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)を終濃度1 μMにて、継代および培地追加の際に添加した。共培養16日目にマスト細胞を回収し、compound 48/80による脱顆粒応答を測定した。
【実施例】
【0069】
デキサメタゾン存在下で共培養したマスト細胞では、顕著に脱顆粒応答が減弱していた(表2)。この結果から、強力な抗炎症薬として知られる合成糖質ステロイドホルモンがマスト細胞の成熟段階で影響を及ぼし、その機能獲得を強く抑制することが示された。
【表2】
JP0006011815B2_000003t.gif

【配列表フリ-テキスト】
【0070】
配列番号1:siRNAの標的配列
配列番号2:オリゴヌクレオチド
配列番号3:siRNAの標的配列
配列番号4:オリゴヌクレオチド
配列番号5:siRNAの標的配列
配列番号6:オリゴヌクレオチド
配列番号7:siRNAの標的配列
配列番号8:オリゴヌクレオチド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2