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明細書 :画像解析装置、画像解析装置の作動方法及び画像解析プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6041356号 (P6041356)
登録日 平成28年11月18日(2016.11.18)
発行日 平成28年12月7日(2016.12.7)
発明の名称または考案の名称 画像解析装置、画像解析装置の作動方法及び画像解析プログラム
国際特許分類 A61B   5/055       (2006.01)
FI A61B 5/05 380
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2013-536329 (P2013-536329)
出願日 平成24年9月26日(2012.9.26)
国際出願番号 PCT/JP2012/074701
国際公開番号 WO2013/047583
国際公開日 平成25年4月4日(2013.4.4)
優先権出願番号 2011213535
優先日 平成23年9月28日(2011.9.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年9月24日(2015.9.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】米田 哲也
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
審査官 【審査官】右▲高▼ 孝幸
参考文献・文献 特開2009-125582(JP,A)
国際公開第2010/073923(WO,A1)
T.Yoneda et al.,”Triple-layer Appearance of Human Cerebral Cortices on Phase-Difference Enhanced Imaging using 3D P,Proceedings of International Society for Magnetic Resonance in Medicine,2009年 4月18日,#2764
Shingo Kakeda et al.,”A novel tract imaging technique of the brainstem using phase difference enhanced imaging: normal a,European Radiology,2011年10月 1日,Volume 21, Issue 10,p.2202-2210
調査した分野 A61B 5/055
特許請求の範囲 【請求項1】
生体から得られた核磁気共鳴画像を解析するための画像解析装置であって、
生体の所定領域から得た核磁気共鳴信号の位相差分布を作成する位相差分布作成部と、
位相差分布作成部により作成された前記位相差分布に対し、複数の関数群でフィッティングするフィッティング部と、
前記フィッティング部により前記位相差分布に対してフィッティングされた前記複数の関数群のパラメータによって特定される前記所定領域に含まれる組織の磁化率に基づいて、前記所定領域に含まれる生体の正常性を検証する検証部と、
を備えることを特徴とする、画像解析装置。
【請求項2】
前記複数の関数群は、少なくとも1つのガウス分布を含む請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項3】
前記複数の関数群は、2つのガウス分布で構成され、
前記2つのガウス分布のうち、標準偏差の大きいガウス分布が他方のガウス分布に比べて大きい位相を有する画素を強調した核磁気共鳴画像を作成する画像生成部を、更に備える請求項1又は請求項2に記載の画像解析装置。
【請求項4】
生体から得られた核磁気共鳴画像を解析するための画像解析装置の作動方法であって、
生体の所定領域から得た核磁気共鳴信号の位相差分布を作成する位相差分布作成工程と、
前記位相差分布に対し、複数の関数群でフィッティングするフィッティング工程と、
前記位相差分布に対してフィッティングされた前記複数の関数群のパラメータによって特定される前記所定領域に含まれる組織の磁化率に基づいて、前記所定領域に含まれる生体の正常性を検証する検証工程と、
を備えることを特徴とする、画像解析装置の作動方法。
【請求項5】
生体から得られた核磁気共鳴画像を解析する機能をコンピュータに実現させるための画像解析プログラムであって、
生体の所定領域から得た核磁気共鳴信号の位相差分布を作成する位相差分布作成機能と、
前記位相差分布に対し、複数の関数群でフィッティングするフィッティング機能と、
前記位相差分布に対してフィッティングされた前記複数の関数群のパラメータによって特定される前記所定領域に含まれる組織の磁化率に基づいて、前記所定領域に含まれる生体の正常性を検証する検証機能と、
を備えることを特徴とする、画像解析プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は画像解析装置、画像解析装置の作動方法及び画像解析プログラムに関し、特に、生体から得られた核磁気共鳴画像を解析するための画像解析装置、画像解析装置の作動方法及び画像解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
痴呆症の一つであるアルツハイマー病は、現在大きな問題であり、世界中でこぞって研究が進んでいる。このアルツハイマー病を引き起こす主原因の一つは、脳内に蓄積するアミロイドβと呼ばれるたんぱくであることが知られている。しかし、アミロイドβの直径は、約0.1mm以下であり、現行のいかなる保険診療用画像検出機器をもってしても、直接の描出は不可能であると考えられる。
【0003】
ところが、MRIを含む医療用画像機器のほとんどは、対象とする組織や病変を直接に描出することを目的としている。しかし、医療現場には撮像時間の制限があり、制限された時間の中で撮像できる画像には解像度の限界がある。このような制限下では、対象とする組織や病変を直接に描出できない。むろん、高解像度の画像機器であれば描出が可能であるが、このような画像機器は保険診療の範囲外であり、機器も高額である。
【0004】
むろん、超高磁場MRI(例えば、7テスラのMRI等)を用いれば、直接描出の可能性もあるが、このような超高磁場MRIは保険診療の範囲外である。保険診療の範囲外となる高額な器具を必要とする画像診断法は、現在の火急ともいえる医療問題への解決策とは言えず、現在の保険診療の範囲内で現実的に、現在のMRIを含む医療用画像機器では描出できない組織や病変を、検出する方法が求められている。
【0005】
このような背景から、例えば、特許文献1に記載のMRシステムは、3次元(3D)傾斜2重エコー・パルスシーケンスを用いて3テスラ以上の磁場強度において高分解能のMR画像を撮像し、3D位相画像が収集されるように2つの異なるエコー時間でMR画像の画像データを収集している。
【0006】
そして、磁場の不均一性に関する一定成分と線形成分を推定するためにMRIの間に収集される計測値から平滑化球面調和関数を差し引いて、関心領域内の磁場の局所変動を得ている。MRIによって脳内の磁場変動を計測できる能力はB0の二乗に従って増加するため、特許文献1に係る技術によれば、脳の磁性及び鉄の計測がより高感度になる。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-28151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術は、MRIにおける全体的な感度向上を目的としたものであり、あくまで、MR画像の直接の描出を目的としている。また、現在の保険診療の範囲内で、現在のMRIを含む医療用画像機器で描出できない組織や病変を検出できるか不明である。さらに、上述した特許文献1に記載の技術を採用していないMRIは、感度向上の恩恵を受けられない。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、MRIを含む医療用画像機器で描出できなかった組織や病変を、現在の保険診療の範囲内で現実的に検知することが可能な画像解析装置、画像解析装置の作動方法及び画像解析プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術に係る画像解析装置の態様の1つは、生体から得られた核磁気共鳴画像を解析するための画像解析装置であって、生体の所定領域から得た核磁気共鳴信号の位相差もしくは位相(以下、統一して位相差と呼ぶ。)の分布を作成する位相差分布作成部と、前記位相差分布に対し、複数の関数群でフィッティングするフィッティング部と、前記位相差分布に対してフィッティングされた前記複数の関数群のパラメータによって特定される前記所定領域に含まれる組織の磁化率に基づいて、前記所定領域に含まれる生体の正常性を検証する検証部と、を備える構成としてある。
【0011】
なお、上述した画像解析装置は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本技術は前記画像解析装置を備える画像解析システム、上述した装置の構成に対応した工程を有する画像解析方法、上述した装置の構成に対応した機能をコンピュータに実現させる画像解析プログラム、該画像解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。
【発明の効果】
【0012】
組織の微小な磁性変化に鋭敏なMRI位相画像を用いて、微小な組織変化を検出することができる。即ち、組織の部分容積効果(partial volume effect)に由来する位相変化を、対象とする所定領域(後述の実施形態においては、関心領域)の位相差分布変化としてとらえることにより、撮像時間が短く、磁場強度が低いMRIを用いても、安定して対象組織の存在を確認することができる。
【0013】
長い撮像時間をかけ非現実的な手法により作成する直接かつ確度の高いpixel by pixelの画像作成ではなく、短時間の撮像や低磁場の機器を用いても検出可能な本手法は、産業界や医療現場に受け入れられやすいと考えられる。さらに、本方法はソフトウェアによる処理であるため、従来の機器を改変したり、追加の機器を導入したりせずに、利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】MRI装置(磁気共鳴画像化装置)の概略構成を表した図である。
【図2】RFコイル部の変形例を示す断面構成図である。
【図3】位相差画像を作成するまでのデータ処理の流れを示した図である。
【図4】関心領域内の組織が正常か否か判断する処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】正常組織における位相差分布をフィッティングしたグラフである。
【図6】非正常組織における位相差分布をフィッティングしたグラフである。
【図7】非正常組織における位相差分布をフィッティングしたグラフである。
【図8】二重ガウス分布モデルにより得られるフィッティング関数と、強調すべき位相差との関係を示す図である。
【図9】位相差分布とLPFサイズとの関係について説明するための模式図である。
【図10】形態画像を作成するまでのデータ処理の流れを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、下記の順序に従って本技術を説明する。
(1)本実施形態の構成:
(2)位相差画像の作成:
(3)判断処理:
(4)形態画像の作成:
(5)まとめ:

【0016】
(1)本実施形態の構成:
図1は、本実施形態に係るMRI装置1(磁気共鳴画像化装置)の概略構成を表した図である。MRI装置1は、NMR現象を利用して被検体2内の内部情報を画像化する装置である。MRI装置1は、後述するように、核磁気共鳴画像(MR画像)として、核磁気共鳴信号(MR信号)の強度成分を画像化した強度画像の他に、磁化ベクトルの回転角を画像化した位相画像を利用して形態画像を描画する、新しいタイプのMRI装置である。なお、本実施形態においては、MRI装置1と後述の制御システム20や情報処理装置26のいずれかが、画像解析装置を構成する。

【0017】
図1に示すMRI装置1は、コイルシステム10、制御システム20を備えている。
[コイルシステム10]
コイルシステム10は、例えば、静磁場コイル部11、傾斜磁場コイル部12、RF(Radio Frequency)コイル部13を含んで構成されている。これらは、例えば、概ね円筒状の形状となっており、それぞれの中心軸(図示せず)が互いに同軸となるように配置されている。その中心軸を含む面内に、被検体2を支持する寝台部30が設けられている。

【0018】
寝台部30は、コイルシステム10のボア10A(内部空間)に設置されている。寝台部30上の被検体2は、図示しない搬送手段による寝台部30の移動により、ボア10Aに搬入されたり、搬出されたりするようになっている。なお、本実施形態では、図1に示すように、中心軸と平行な方向をZ軸とし、Z軸と直交し、かつ互いに直交する2方向をX軸、Y軸とする。

【0019】
静磁場コイル部11は、ボア10Aに静磁場を形成する。静磁場コイル部11は、例えば、超伝導コイルや、常伝導コイル等によって構成されている。静磁場コイル部11によって形成される静磁場の方向は、概ねZ軸方向と平行となっている。なお、図1では、被検体2の体軸方向が、静磁場の方向と平行となっている場合が例示されているが、静磁場の方向と直交する方向となっていてもよい。

【0020】
傾斜磁場コイル部12は、例えば、互いに垂直な3つの軸、即ち、スライス軸、位相軸および周波数軸のそれぞれの方向に傾斜磁場(勾配磁場)を形成するものである。この傾斜磁場コイル部12は、例えば、スライス軸方向用コイル、位相軸方向用コイル、周波数軸方向用コイルの3種類のコイルからなる。このとき、X軸、Y軸およびZ軸のいずれの軸についてもスライス軸とすることが可能である。例えば、Z軸をスライス軸とした場合には、X軸を位相軸とし、Y軸を周波数軸とすることが可能である。

【0021】
なお、MR信号の収集は上で想定されているカーテシアン座標系以外の座標系(例えば極座標系)でも行うことは可能であり、そのような座標系でMR信号の収集を行う場合には、その座標系に適した軸(例えば動径方向、角度方向)が設定される。

【0022】
RFコイル部13は、静磁場の空間に、被検体2内のスピンを励起するRF磁場を形成すると共に、RF磁場によって励起されたスピンに伴い発生するMR信号を受信する。なお、RFコイル部13において、MR信号を受信するコイルは、RF磁場を形成するコイルと兼用されてもよいし、RF磁場を形成するコイルと別体に設けられてもよい。また、RFコイル部13は、単一のコイルで構成されていてもよいし、例えば、図2に示したように、複数のコイル13-1~13-8(多チャンネル)で構成されてもよい。なお、RFコイル部13が多チャンネルで構成されている場合には、チャンネルごとにMR信号が得られる。

【0023】
前記のMR信号は、例えば、GE(gradient echo;グラディエントエコー)系のパルスシーケンスによって得られるものであり、周波数ドメイン、即ち、フーリエ空間(k空間(k-space))についてのサンプリング信号となっている。GE系には、GEの他に、例えば、ステディステート(steady state)が含まれる。なお、パルスシーケンスは、例えば、Balanced SSFP(Steady State Free Precession)、TrueFISP(True Fast Imaging with Steady-state Precession)であってもよく、SE(Spin Echo;スピンエコー)などのGE以外ものであってもよい。

【0024】
[制御システム20]
制御システム20は、例えば、図1に示したように、静磁場電源21、傾斜磁場電源22、送信部23と、受信部24と、シーケンス制御部25とを備えている。

【0025】
静磁場電源21は、静磁場コイル部11に電力を供給し、コイルシステム10を駆動する。この電力が静磁場コイル部11へ供給されると、ボア10Aに静磁場が形成される。傾斜磁場電源22は、シーケンス制御部25から入力された制御信号に基づいて傾斜磁場コイル部12に電力を供給するものである。傾斜磁場コイル部12への電力の供給により、所望の傾斜磁場(勾配磁場)がスライス軸、位相軸および周波数軸のそれぞれの方向に形成される。

【0026】
送信部23は、例えば、シーケンス制御部25から入力された制御信号に基づいてRF信号をRFコイル部13に印加する。

【0027】
受信部24は、コイルシステム10の駆動により発生したMR信号を受信する。例えば、RFコイル部13で受けたMR信号を検波して、所要の信号処理を実行すると共に、A/D(Analog-to-Digital)変換することにより、デジタル化された複素データ(生データ)を生成する。むろん、受信部24は、検波したMR信号を直接にA/D変換して生データを生成してもよい。受信部24が生成した生データは、例えば、シーケンス制御部25に出力される。

【0028】
シーケンス制御部25は、MRI装置1を駆動するための、傾斜磁場電源22と送信部23と受信部24とを駆動する。例えば、シーケンス制御部25は、制御信号を傾斜磁場電源22、送信部23および受信部24に印加することにより、傾斜磁場電源22と送信部23と受信部24とを駆動する。

【0029】
この制御信号は、例えば、傾斜磁場電源22、送信部23および受信部24に印加するパルス電流の大きさ、印加時間および印加タイミングなどを規定したパルスシーケンスに従って生成される。このパルスシーケンスについての情報は、後述の情報処理装置26からシーケンス制御部25に入力される。また、シーケンス制御部25は、例えば、受信部24から入力された生データを情報処理装置26に出力する。

【0030】
制御システム20は、さらに、例えば、図1に示したように、情報処理装置26を備えている。この情報処理装置26は、例えば、演算部26A、入力部26B,表示部26C、記憶部26Dを含んで構成されている。

【0031】
入力部26Bは、例えば、ユーザからの情報をデジタルデータとして情報処理装置26内部に取り込む装置であり、例えばキーボードやマウス、スキャナなどによって構成されている。

【0032】
表示部26Cは、演算部26Aにより処理された結果(例えば形態画像)や、撮像条件などのデータ入力用のダイヤログ等を表示するためのもので、例えば液晶表示装置等のディスプレイデバイスで構成されている。

【0033】
記憶部26Dには、MRI装置1を制御する種々のプログラムが記憶されており、例えば、後述する判断処理に用いられるプログラム27や、後述する形態画像の作成に用いられる位相差強調画像化プログラム、等が記憶されている。

【0034】
演算部26Aは、例えば、各種プログラムの命令を解釈し、実行するためのものであり、例えばCPU(Central Processing Unit)により構成されている。この演算部26Aには、例えば、記憶部26Dに記憶されたプログラム27がMRI装置1の起動に併せてロードされ、それにより、演算部26Aは、例えば、ユーザからの指示に応じて、プログラム27の命令を解釈し、実行するようになっている。

【0035】
なお、演算部26Aは、各種プログラム(例えばプログラム27)の機能に対応したハードウェアによって構成されていてもよい。以下、演算部26Aにおいてプログラム27の各種命令が実行されることによって位相画像が作成されるものとする。

【0036】
(2)位相差画像の作成:
次に、MRI装置1にて行われる位相差画像の作成について説明する。
位相差画像を得るためには、強度画像と位相画像が必要である。これら画像を得る際は、GEのパルスシーケンスを用いることが好ましいが、例えば、GE系に含まれる他のパルスシーケンスや、GE系以外のパルスシーケンスを用いてもよい。

【0037】
GE系のパルスシーケンスによって得られた位相画像は、各ピクセル内に含まれる組織が作る局所磁場(外部磁場に比べた局所磁場)の変化量ΔBと、撮像に要したエコータイム(TE)の積(ΔB×TE)に比例している。そのため、位相画像から、大きな位相(差)情報を取り出すためには、TEを大きくしたり、ΔBを強調する関数(いわゆる強調関数)をより強いものに変えたりする。

【0038】
具体的には、所定のパルスシーケンスを用いて撮像を行う。撮像回数は、1回でもよいし、統計的に扱えるように複数回としてもよい。また、RFコイル部13が多チャンネルで構成され、チャンネルごとにMR信号が得られる場合には、チャンネルごとに得られたMR信号の相加平均を算出し、相加平均されたMR信号を用いて強度画像および位相画像を作成する。なお、相加平均を算出するにあたって、事前に、個々のMR信号に対して感度補正を行っておいてもよい。

【0039】
(生データRの取得)
図3は、位相差画像を作成するまでのデータ処理の流れを示した図である。同図に示すデータ処理は、演算部26Aの制御の下、制御システム20において実行されるものである。演算部26Aは、ユーザからの指示を受けて、同図に示すデータ処理の演算を開始する。

【0040】
演算部26Aは、まず、シーケンス制御部25に対して、所定のパルスシーケンスを用いて、生データを取得することを要求する制御信号を出力する。すると、シーケンス制御部25から、傾斜磁場電源22、送信部23および受信部24に対して、所定のパルスシーケンスに従った制御信号が出力される。

【0041】
この制御信号が入力されると、傾斜磁場電源22および送信部23は、コイルシステム10に対して所定の電流パルスを出力するため、RFコイル部13は、MR信号を検波する。ここで検波されるMR信号は、受信部24における所定の信号処理によって生データRに変換される。

【0042】
受信部24は、この生データRをシーケンス制御部25に入力し、シーケンス制御部25は、この生データRを演算部26Aに転送(入力)する。このようにして、演算部26AはMR信号に対応したデータ(生データR)を取得する。

【0043】
(強度画像M(x),位相画像P(x)の作成)
次に、演算部26Aは、シーケンス制御部25から入力された生データRを、不図示の内部メモリに設定したk空間に配置する。以下では、k空間に配置したデータをk空間データS(k)と呼ぶことにする。

【0044】
演算部26Aは、k空間データS(k)に対して逆フーリエ変換を施して複素画像ρ(x)を再構成する。複素画像ρ(x)は、下記式(1)で示されるように、リアル画像を実部に持ち、イマジナリ画像を虚部に持つ画像である。
【数1】
JP0006041356B2_000002t.gif
演算部26Aは、複素画像ρ(x)から、強度画像M(x)と位相画像P(x)を得る。

【0045】
(位相差画像PD(x)の作成)
本実施の形態では、MR信号の取得に際して、長いTEを用いている。そのため、位相画像P(x)にフェーズラッピング(phase wrapping)が発生し、位相が2πを超えるものが、実際の位相から2πn(nは整数)を差し引いた位相値を取る。そのため、位相画像P(x)が縞模様の画像となり、本来の位相値を示さなくなる。そこで、演算部26Aは、このフェーズラッピングを取り除くと共に、位相差を取り出す処理を行う。

【0046】
具体的には、演算部26Aは、まず、複素画像ρ(x)に対してフーリエ変換を施して、複素画像ρ(x)を一度、k空間データS(k)に戻す。もしくは、k空間に配置しておいたk空間データS(k)を読み出す。次に、演算部26Aは、k空間データS(k)に対してLPF(Low Pass Filter;ローパスフィルタ)をかけ、それにより得られたデータL(k)×S(k)に対して逆フーリエ変換を施して、複素画像ρ’(x)を得る。なお、前記のL(k)はLPFの関数である。

【0047】
次に、演算部26Aは、複素画像ρ(x)およびρ’(x)を利用して、位相差画像PD(x)を作成する。具体的には、演算部26Aは、複素画像ρ(x)を複素画像ρ’(x)で除算し、複素商の演算を行うことにより、位相差画像PD(x)を作成する。これにより、位相部分のフェーズラッピングが取り除かれる。

【0048】
このとき、位相差画像PD(x)に含まれる位相差は、2πの幅を持っており、本実施の形態では、位相差画像PD(x)に含まれる位相差を、-π≦PD(x)<πと仮定する。位相差画像PD(x)に含まれる位相差の符号は、-γ×ΔB×TEで決定されるものである。

【0049】
ただし、LPFの定義と、位相差画像PD(x)を取り出すときの複素商の定義と、を変えることにより、位相差の大きさは変わらなくても、位相差画像PD(x)に含まれる位相差の符号が変わることがある。そこで、それに対応するために、特に静脈血に対しては符号が負となるように、前記の定義がなされている。なお、前記のγは、正の比例定数であり、例えば、水素の磁気回転比に相当するものである。

【0050】
(3)判断処理:
次に、この位相差画像に対し、MRI装置1の利用者が関心を持つ領域(以下、関心領域と記載する。)を設定し、当該関心領域に含まれる位相差画像に対して所定の演算処理を行う。この演算処理により、関心領域に含まれる組織の正常性(又は、非正常性)を判断することができる。

【0051】
以下、図4を参照しつつ、関心領域に含まれる組織の正常性(又は、非正常性)を判断する処理について説明する。同図に示すデータ処理は、演算部26Aの制御の下、制御システム20において実行されるものである。演算部26Aは、位相差画像の作成が完了したとき、又は、ユーザからの指示を受けて、同図に示すデータ処理の演算を開始する。

【0052】
[領域指定インターフェースの表示]
処理が開始されると、表示部26Cの画面に、MRI装置1にて撮像した断面もしくは空間の一部を指定するためのインターフェースを表示する(S1)。このインターフェースには、例えば、MR信号に基づいて作成された強度画像や位相画像等を表示し、画像上の所定領域を、閉曲線(枠線等)や座標値等の領域指定手段によって、指定できるようになっている。

【0053】
[関心領域の設定]
次に、MRI装置1の操作者は、表示部26Cに表示されたインターフェースを介して、MRI装置1にて撮像した断面もしくは空間の一部を、領域指定する(S2)。ここで操作者によって指定される領域が関心領域である。操作者は、例えば、表示部26Cに表示された画像を観察したときに、非正常組織を含む可能性があると考えた領域を、関心領域に指定する。なお、関心領域は、二次元領域であっても良いし、三次元領域であってもよい。

【0054】
[位相差分布を作成]
関心領域が設定されると、演算部26Aは、関心領域に含まれる組織から取得されたMR信号の全位相データを取得し、これら位相データを統計し、例えば、横軸を位相値とし、縦軸をデータ数とした位相差分布を作成する(S3)。

【0055】
次に、位相差分布のフィッティングに用いる関数群を選択する(S4)。ここでは、操作者が、目的とする組織、病変、病態、撮像法等に応じて、適切な関数群を選択する。なお、目的が予め決まっている場合は、ステップS4をスキップし、目的に応じた既定の関数群が自動的に適用されるようにしてもよい。また、目的とする組織、病変、病態、撮像法等に応じた既定の関数群を用意しておき、選択画面から目的を選択することにより、目的に応じた適切な関数群が選択されるようにしてもよい。

【0056】
[フィッティング]
次に、1つの関心領域に対して作成された1つの位相差分布に対し、複数の関数によって同時にフィッティングを行う(S5)。即ち、複数の関数を重ね合わせた曲線にて、1つの位相差分布を近似する。複数の関数には様々な関数を採用可能であり、ガウス分布、ローレンツ分布、二項分布等が例示される。

【0057】
むろん、複数の関数は、分布関数に限る必要はなく、互いに直交する必要もない。また、複数の関数は、異なる種類の関数を組み合わせて構成されてもよい。なお、コンピュータの演算によってフィッティングを行う際は、複数の関数は、有限個である必要がある。

【0058】
ここで、フィッティングに用いる複数の関数の少なくとも1つは、ガウス分布を用いることが好ましい。ランダムな組織により得られる信号分布は、独立な多数の因子の和として表される確率変数であり、中心極限定理によってガウス分布に従うことが保証されるからである。

【0059】
フィッティングに用いる各関数は、関数形状を変更するための1乃至複数のパラメータを有するため、複数の関数を用いてフィッティングを行う際は、少なくとも、フィッティングに使用する関数の数以上のパラメータを調整する必要がある。

【0060】
実際には、複数のパラメータを適宜に変更しつつ、位相差分布と複数の関数の重ね合わせとが最も近似するパラメータセットを探索することになる。このとき、フィッティング関数がガウス分布であれば、パラメータが3つと少なく、パラメータの調整が容易である。なお、複数の関数と位相差分布との近似度合いは、例えば、最小二乗法等によって評価することができる。

【0061】
後述する実施例では、複数の関数として2つのガウス分布を用いる二重ガウス分布モデルを採用してある。ガウス分布は、高さ、中心位置(平均)、標準偏差σ(又は分散σ^2)、の3つのパラメータを有するため、二重ガウス分布モデルでは、6つのパラメータを調整しつつフィッティングを行うことになる。

【0062】
下記(2)式は、二重ガウス分布モデルにおいて、フィッティングに用いる関数である。
【数2】
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前記(2)式において、A1は第1のガウス分布の高さに対応し、B1は第1のガウス分布の分散の逆数に対応し、C1は第1のガウス分布の中心位置に対応する。また、A2は第2のガウス分布の高さに対応し、B2は第2のガウス分布の分散の逆数に対応し、C2は第2のガウス分布の中心位置に対応する。

【0063】
[表示]
以上説明したフィッティングによって求められるパラメータセットは、関心領域に含まれる組織の磁化率を特徴付ける値の組み合わせとなる。即ち、関心領域が正常組織とは磁化率の異なる非正常組織を含有している場合のパラメータセットと、関心領域が正常組織のみを含有している場合のパラメータセットとは異なるものとなる。

【0064】
そこで、フィッティングによって求められたパラメータセットを、表示部26Cに表示したり(S6)、パラメータセットに基づいて、関心領域に含まれる組織の正常組織からの乖離度合い(組織の正常性(又は、非正常性))を算出し、この度合いを表示部26Cに表示したりする(S7)。このような表示を行えば、操作者は、関心領域に含まれる組織が正常か非正常かを判断する基準を得ることができるし、正常組織からの乖離度合いの目安を得ることができる。

【0065】
[実験結果の説明]
ここで、マウスの脳実質から得られた位相差分布に対し、二重ガウス分布モデルでフィッティングを行った実験の結果について説明する。本実験では、ヒトでアルツハイマーを起こすアミノ酸の置換を持つ変異型APP(Amyloid precursor protein)の遺伝子改変マウスと、いろいろな性質が一定であるように遺伝的にコントロールされたコントロールマウスと、で、脳内位相差分布の検討を行った。

【0066】
具体的には、遺伝子改変マウスおよびコントロールマウスの脳を取り出した後、7T-MRI装置で3D-FLASHを用いて撮像を行い、強度画像と位相画像を同時に取得した。主な撮像条件は、TR/TE:50/12.8ms、Flip Angle:20°、Matrix Size:194×128×82(0.08mm isovoxel)、加算:24回、である。

【0067】
本実験では、脳の中でも、皮質、海馬および視床から得た強度画像と位相画像を用いている。皮質、海馬および視床は、アルツハイマーの病理変化の1つである老人斑が特に多く集積するためである。なお、老人斑内には、鉄が沈着することが知られており、この鉄による磁化率の変化を位相信号として捉えることができるものと考えられる。具体的には、老人斑があると考えられる部位を含むように関心領域を設定し、これらの脳実質から収集した各磁気共鳴信号の位相値の位相差分布に対し、二重ガウス分布モデルにてフィッティングを行った。

【0068】
図5は、コントロールマウスに設定した関心領域から取得した位相をプロットしたグラフであり、図6、7は、遺伝子改変マウスに設定した関心領域から取得した位相をプロットしたグラフである。これらのグラフでは、横軸が位相(ラジアン)を示し、縦軸が検出数(例えば、画素数)を示している。なお、位相値は、上述したように、フェーズラッピングが取り除かれ、-πからπの範囲に調整されているが、図5~7には、位相差分布の中心(位相0)付近を拡大して示してある。

【0069】
ここで、フィッティングカーブにおける各ガウス分布の寄与率(高さ)を比較すると、図5では、第1のガウス分布が第2のガウス分布の7~8倍の高さであるのに対し、図7では、第1のガウス分布と第2のガウス分布とがほぼ同じ高さである。しかし、図6でも、図5と同様に、第1のガウス分布が第2のガウス分布の8~9倍の高さを有している。即ち、各ガウス分布の寄与率(高さ)は、同じ病変であっても各症例で異なり、非正常組織の有無の判断基準に採用できないことが分かる。

【0070】
次に、ガウス分布の標準偏差(幅)を比較すると、図5では、第1のガウス分布と第2のガウス分布の双方がシャープな分布を示し、特に、第1のガウス分布に比べて第2のガウス分布は幅(例えば、半値幅)が狭くなっており、また、いずれのガウス分布も、位相差分布に比べて幅(例えば、半値幅)が狭い。一方、図6,7では、いずれも第1のガウス分布に比べて第2のガウス分布の幅(例えば、半値幅)が広く、また、第2のガウス分布は、位相差分布に比べて幅(例えば、半値幅)が広い。即ち、ガウス分布の標準偏差(幅)は、コントロールマウスの正常組織と遺伝子改変マウスの老人斑を含む組織とで、明確な差異が認められ、非正常組織の有無の判断基準になり得ることが分かる。

【0071】
以上の実験結果に基づくと以下の考察が為される。
まず、図5~7に示すフィッティングカーブを構成する第1のガウス分布は、ノイズ成分に起因すると考えられる。MRI装置1では、電気的な熱雑音やカットオフにより生じるデジタライズノイズ等により位相差に誤差が発生することが当然に予測される。これらノイズはガウス分布に従うことが知られており、比較的高いガウス分布が発生すると考えられるためである。従って、複数の関数で位相差分布をフィッティングする場合、複数の関数の少なくとも1つに、ガウス分布を採用すると良好なフィッティング結果が得られると考えられる。

【0072】
また、図6,7に示すフィッティングカーブに現れる第2のガウス分布は、何らかの磁性物質を含む組織に関係すると考えられる。図6,7に示す位相差分布は、老人斑を含むように設定された関心領域から取得されている。老人斑は、上述したように磁性を有する鉄を含む組織であり、磁性物質を含む組織の位相差分布をガウス分布でフィッティングすると、比較的大きな標準偏差を有するためである。

【0073】
さらに、図5と図6,7とで位相差分布の裾を比べると、図5に示す位相差分布は、ガウス分布に比較的近いシャープな立ち上がりを有するが、図6,7に示す位相差分布は、同じ高さのガウス分布と比べると裾が広く、何らかのブロードな位相差分布が混在していることを示唆している。即ち、位相差分布の裾が、同程度の高さのガウス分布に比べて広い場合は、関心領域に何らかの磁性物質を含む組織が含まれていることを示唆する。

【0074】
また、中心が+側にずれたガウス分布がフィッティングされる場合は、関心領域に、位相が+側にシフトした磁性物質を含む組織があると考えられ、中心が-側にずれたガウス分布がフィッティングされる場合は、関心領域に、位相が-側にシフトした磁性物質を含む組織があると考えられる。このことから、正常組織の磁化率の分布と、非正常組織の磁化率の分布の重ね合わせが、位相画像の分布になっていると考えることができる。

【0075】
さらに、位相差分布と第2のガウス分布との中心のずれは、図5に比べると図6,7の方が大きい。その理由は、正常組織が位相差0であると考えると、この位相差0に近い中心を有するガウス分布は正常組織の示すガウス分布であると考えられ、この位相差0から離れた中心を有するガウス分布ほど、正常組織でない組織を多く含む可能性の高い組織と考えられる。即ち、正常組織に対応するガウス分布の中心と、正常でない組織に対応するガウス分布の中心との距離は、関心領域に含まれる組織の正常性(又は、非正常性)を示す目安になると考えられる。

【0076】
(4)形態画像の作成:
次に、二重ガウス分布モデルを用いて得られるフィッティング関数を利用して行う、特定の位相差を強調する位相差強調画像化法について説明する。なお、位相差強調画像化法とは、得られた位相差画像PD(x)の一部を選択し、その一部もしくは全部を取捨選択し、強調関数w(θ)によって強調することによって選択された位相情報に対応する画像の部分を強度画像M(x)上に表現する方法である。位相差強調画像化法によれば、強調関数w(θ)によって作成された画像を提供することができる。

【0077】
図8は、二重ガウス分布モデルにより得られるフィッティング関数と、強調すべき位相差との関係を示してある。なお、図8には、図6の実験結果を例に取り、強調すべき位相範囲を示している。図8では、第2のガウス分布と第1のガウス分布が交差する位相をθ1とし、第2のガウス分布が第1のガウス分布に比べて大きくなる位相範囲(θ>θ1)を、強調範囲としてある。

【0078】
二重ガウス分布モデルにおいては、上述したように、関心領域に磁性物質を含む非正常組織が含まれる場合、第2のガウス分布が第1のガウス分布に比べて標準偏差が大きく、広い裾野を有する。従って、非正常組織の分布を示唆する第2のガウス分布が正常組織の分布を示唆する第1のガウス分布を超える位相を有する組織を強調することにより、非正常組織の視認容易性を向上した形態画像を提供できると考えられる。

【0079】
(強調画像w(PD(x))の作成)
図10は、形態画像を作成するまでのデータ処理の流れを示した図である。まず、演算部26Aは、位相差画像PD(x)の位相θがθ1より大きくなる位相を選択し、その選択した位相θを強調する。

【0080】
位相差分布は、例えば、LPFサイズの変更により、例えば、図9(A)~(C)に示したモデルのように変化する。即ち、LPFサイズの増加とともに、位相差ゼロを中心としたほぼ対称な位相差分布の幅が減少する。このため、位相差画像は位相差ゼロおよびその近傍の値を主に持ち、位相差画像として組織のコントラストが付けづらくなる。一方、細かい構造を持つ組織においては、サイズの大きなLPFを用いた方が、サイズの小さなLPFを用いたときよりもコントラストが付け易くなるという側面もある。

【0081】
このような現象の単純な理解は、位相差画像を得るに際して用いられる複素商が指数上の減算に相当することを考慮すれば容易である。即ち、exp(φ-φ´)(φ:フェーズラップを含む全位相、φ´:フェーズラップを主に含むローパス成分(低周波成分)の位相)において、LPFサイズが全画像サイズとなっている場合には、全ての周波数を含むことを意味するので、φ=φ´となり、位相差はゼロに近づくはずである。このため、位相差分布の幅が狭くなっていく。

【0082】
しかし、これはあくまでも極限傾向であり、一般的な組織において、どのフィルタを用いた場合にどの分布になるかを予測するのは事実上不可能である。このような位相差分布の変化に対応するために、本実施の形態では、後述する強調関数として柔軟に対応可能なものを選び出し、図9(A)~(C)に示したような、同じ位相差に対して異なる度数分布を示すものに対して、同じコントラストを付けられるように工夫を行っている。

【0083】
例えば、演算部26Aは、目的とする組織のコントラストが所望の大きさとなるように、位相差の幅および、その中心値を選択する。なお、位相差の幅および、その中心値の選択については、演算部26Aに任せず、MRI装置1のユーザに委ねてもかまわない。その場合には、演算部26Aは、目的とする組織の位相θを、フィルタ処理による位相差分布の変化が加味された上で選択することになる。

【0084】
続いて、演算部26Aは、その選択した位相θを強調関数w(θ)で強調することにより、強調画像w(PD(x))を得る。

【0085】
ここで、強調関数w(θ)としては指数関数が用いられる。本実施の形態では、指数関数の一例として、π関数を用いる。このπ関数は、以下の2つの式で表される。

【0086】
w(θ)=1…(-σ≦θ≦σ)
w(θ)=exp(-a×(Abs(θ)-σ))…(θが前記の範囲以外のとき)

【0087】
(a、b、σの決定)
パラメータa、b、σはいずれも、実数の値をとる。パラメータa、bは、位相差強調の度合いを調整するものであり、LPFのフィルタサイズによって決定される。パラメータa、bは、また、目的とする組織と、そのバックグラウンドとのコントラストCもしくはコントラスト・ノイズ比CNRを最大にするように決定される。パラメータσは、位相差画像PD(x)上のノイズを低減するものであり、例えば、位相差画像PD(x)上の位相平均値が0(ゼロ)付近をとる組織の標準偏差によって決定される。パラメータσは、多くの実験から得られるデータに基づいて求めることが可能である。ただし、位相平均値が0(ゼロ)付近をとる組織が一度に撮像された全ての位相差画像PD(x)上に存在しない場合もある。その場合には、パラメータσは、例えば、コントラストCまたはコントラスト・ノイズ比CNRによって決定される。

【0088】
なお、上述したコントラストCは、以下の式で示したように、画像上の位置x1にある目的とする組織の強調後の信号w(PD(x1))×M(x1)と、画像上の位置x2にある強調された組織のバックグラウンドの信号w(PD(x2))×M(x2)との差分を絶対値で表したものによって決定される。

【0089】
また、コントラスト・ノイズ比CNRについては、以下の式で示したように、C/σ’で表される。なお、σ’は、目的とする組織の強調画像上の標準偏差か、または目的とする組織のバックグラウンドの強調画像上の標準偏差によって決定される。

【0090】
ただし、σ’の決定に際して、上述したいずれの標準偏差も採用できないことがある。その場合には、被検体2の外部信号の標準偏差か、または差分法による標準偏差を採用するものとする。このようにして決定されたσによって規定されたπ関数を用いることにより、位相差が持つノイズ部分のみを除去することができ、高いS/N比の位相差強調画像を作成することが可能となる。

【0091】
C=Abs(w(PD(x1))×M(x1)-w(PD(x2))×M(x2))
CNR=C/σ’

【0092】
また、Abs(θ)は、θの絶対値を表している。π関数は、Abs(θ)≦σの範囲でPD(x)を強調せず、その他の範囲で位相差画像PD(x)の強調を行う関数である。このπ関数は、任意の冪関数を任意の精度で近似することの可能なものであることから、強調関数として多項式を用いた場合と比べて、より柔軟な強調を行うことが可能である。

【0093】
例えば、撮像領域のサイズに合わせてLPFのフィルタサイズを変更すると、これに伴って位相差の分布も若干、変化する。一方、撮像領域のサイズを一定に固定した状態で、LPFのフィルタサイズを変更すると、これに伴って位相差の分布が大幅に変化する。このように、撮像条件などが互いに異なる場合には、位相差の分布も互いに異なる。従って、撮像条件などとは無関係に常に同一の強調関数を用いた場合には、それぞれのコントラストが変わってしまい、目的とした組織の強調を確実に行うことができなくなってしまう。一方、本実施の形態では、上述したように、強調関数のパラメータa、b、σは実数の値をとり、これらを撮像条件などに応じて柔軟に変更することが可能である。これにより、撮像条件を変えた場合であっても、コントラストを同一もしくは同等に維持することが可能である。

【0094】
(形態画像I(x)の作成)
次に、演算部26Aは、例えば、所定のモード(ルール)に従って、強調画像w(PD(x))で強度画像M(x)をマスクし、それにより形態画像I(x)を得る。強調画像w(PD(x))で強度画像M(x)をマスクする際の具体的な条件は、強調したい対象に応じて設定することが可能なものであり、基本的には以下に例示した4種類(組織強調、血管強調、全強調、構造強調)の強調モードに対応して設定される。

【0095】
例えば、パラメータσと位相差画像PD(x)とが共に正であるか負であるかで、組織強調および血管強調のいずれか一方を選択することが可能である。全強調については、パラメータσおよび位相差画像PD(x)の符号に依らないが、構造強調の場合には、例えば、皮質内構造が作り出す位相差α(以下、単に位相差αと称する)の値をあらかじめ実験で求めておき、位相差αと位相差画像PD(x)との大小関係に応じて条件式を設定する。

【0096】
強調モードA(組織強調)
I(x)=w(PD(x))×M(x)…(PD(x)≧0)
I(x)=M(x)…(PD(x)<0)

【0097】
強調モードB(血管強調)
I(x)=w(PD(x))×M(x)…(PD(x)≦0)
I(x)=M(x)…(PD(x)>0)

【0098】
強調モードC(全強調)
I(x)=w(PD(x))×M(x)

【0099】
強調モードD(構造強調)
|α|≦σ
PD(x)≦0のとき
I(x)=w(PD(x))×M(x)…(-|α|≦PD(x)≦-σ)
I(x)=M(x)…(PD(x)<-|α|)
PD(x)>0のとき
I(x)=w(PD(x))×M(x)

【0100】
強調モードAでは、演算部26Aは、位相差画像PD(x)が0(ゼロ)以上となる部分を取り出し、その部分についてだけ強調を行うことにより、形態画像I(x)を作成する。このとき、位相差画像PD(x)が負となる部分については、強調を行わない。強調モードAでは、形態画像I(x)は、組織強調された画像となる。

【0101】
強調モードBでは、演算部26Aは、位相差画像PD(x)が0(ゼロ)以下となる部分を取り出し、その部分についてだけ強調を行うことにより、形態画像I(x)を作成する。このとき、位相差画像PD(x)が正となる部分については、強調を行わない。強調モードBでは、形態画像I(x)は、血管強調された画像となる。

【0102】
強調モードCでは、演算部26Aは、位相差画像PD(x)全体を強調するにより、形態画像I(x)を作成する。強調モードCでは、形態画像I(x)は、組織や血管などを含む全体が強調された画像となる。

【0103】
強調モードDでは、演算部26Aは、位相差画像PD(x)が0(ゼロ)以下となっているときに、-|α|≦PD(x)≦-σを満たす部分を強調することにより、形態画像I(x)を作成する。このとき、PD(x)<-|α|を満たす部分については、強調を行わない。また、演算部26Aは、位相差画像PD(x)が0(ゼロ)よりも大きいときにも、前記の条件式を用いて、形態画像I(x)を作成する。強調モードDでは、形態画像I(x)は、構造強調された画像となる。なお、位相差αは、皮質内構造によって作り出されたものであることから、形態画像I(x)は、実際には、皮質構造が強調された画像となる。

【0104】
このように、本実施の形態では、強調画像w(PDr(x))、w(PDa(x))の、強度画像M(x)へのマスクの仕方を変えることにより、各形態画像I(x)が示す組織コントラストを背景とした、より正確な脳機能の解剖学的位置を特定することができる。

【0105】
(5)まとめ:
以上説明した実施形態によれば、生体から得られたMR画像を解析するにあたり、関心領域から得たMR信号の位相差分布を作成し、この位相差分布を複数の関数群で同時にフィッティングし、位相差分布に対してフィッティングされた前記複数の関数群のパラメータによって特定される、関心領域に含まれる組織の磁化率に基づいて、関心領域に含まれる生体の正常性を検証する。よって、MRIを含む医療用画像機器で描出できなかった組織や病変を、現在の保険診療の範囲内で現実的に検知することが可能となる。

【0106】
なお、本技術は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態や変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態や変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。また,本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本技術は、MRIを用いた各種診断に用いることができると考えられる。特に、アミロイドβのような微小な病変組織を検出する際に、大きく貢献できる。組織中に散漫に存在するものを検出するときにも、本手法は同様に適用可能であり、例えば、健康診断等で必ず検査対象となる肝臓中に含まれる脂肪の割合などを定量的に計測できると考えられる。
【符号の説明】
【0108】
1…MRI装置、2…被検体、10…コイルシステム、10A…ボア、11…静磁場コイル部、12…傾斜磁場コイル部、13…RF(Radio Frequency)コイル部、20…制御システム、21…静磁場電源、22…傾斜磁場電源、23…送信部、24…受信部、25…シーケンス制御部、26…情報処理装置、26A…演算部、26B…入力部、26C…表示部、26D…記憶部、27…プログラム、30…寝台部、13-1~13-8…コイル
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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