TOP > 国内特許検索 > 新規ホスファチジルイノシトール3キナーゼ阻害剤及び医薬組成物 > 明細書

明細書 :新規ホスファチジルイノシトール3キナーゼ阻害剤及び医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年3月26日(2015.3.26)
発明の名称または考案の名称 新規ホスファチジルイノシトール3キナーゼ阻害剤及び医薬組成物
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  35/02        (2006.01)
C07K  11/02        (2006.01)
FI A61K 37/02
A61P 43/00 111
A61P 35/00
A61P 35/02
C07K 11/02
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 67
出願番号 特願2013-536294 (P2013-536294)
国際出願番号 PCT/JP2012/074542
国際公開番号 WO2013/047509
国際出願日 平成24年9月25日(2012.9.25)
国際公開日 平成25年4月4日(2013.4.4)
優先権出願番号 2011217378
優先日 平成23年9月30日(2011.9.30)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】西條 憲
【氏名】石岡 千加史
【氏名】加藤 正
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100113402、【弁理士】、【氏名又は名称】前 直美
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA16
4C084BA26
4C084BA27
4C084CA59
4C084MA31
4C084MA32
4C084MA35
4C084MA36
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA57
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB262
4C084ZB272
4C084ZC202
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA32
4H045EA20
4H045FA20
要約 本発明は、新規のPI3K阻害剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、PI3K阻害作用とHDAC阻害作用とを併せ持つ物質を提供することを目的とする。最終的に、本発明は、これらの物質を含有する新規抗がん用医薬組成物、特に難治性がんに対しても有効な抗がん用医薬組成物を提供する。
本発明の一つの態様は、式1で示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩からなるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤である。
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の式1で示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩からなるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤。
【化1】
JP2013047509A1_000050t.gif
式1

(式中、Aは、-CONH-又は-CH(OH)-を表し、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のアラルキル基を表す。)
【請求項2】
式1において、R3が水素原子である、請求項1記載のPI3K阻害剤。
【請求項3】
式1において、R1が置換もしくは無置換のアラルキル基である、請求項1又は2記載のPI3K阻害剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のPI3K阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、難治性がんの治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記PI3K阻害剤が体重1kgあたり約1mg/日~10,000mg/日の投与用量で投与されることを特徴とする、請求項4記載の難治性がんの治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記PI3K阻害剤が、以下の式2~20のいずれかで示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩である、請求項4又は5記載の難治性がんの治療用医薬組成物。

【化2】
JP2013047509A1_000051t.gif
式2

【化3】
JP2013047509A1_000052t.gif
式3

【化4】
JP2013047509A1_000053t.gif
式4

【化5】
JP2013047509A1_000054t.gif
式5

【化6】
JP2013047509A1_000055t.gif
式6

【化7】
JP2013047509A1_000056t.gif
式7

【化8】
JP2013047509A1_000057t.gif
式8

【化9】
JP2013047509A1_000058t.gif
式9

【化10】
JP2013047509A1_000059t.gif
式10

【化11】
JP2013047509A1_000060t.gif
式11

【化12】
JP2013047509A1_000061t.gif
式12

【化13】
JP2013047509A1_000062t.gif
式13

【化14】
JP2013047509A1_000063t.gif
式14

【化15】
JP2013047509A1_000064t.gif
式15

【化16】
JP2013047509A1_000065t.gif
式16

【化17】
JP2013047509A1_000066t.gif
式17

【化18】
JP2013047509A1_000067t.gif
式18

【化19】
JP2013047509A1_000068t.gif
式19

【化20】
JP2013047509A1_000069t.gif
式20

【請求項7】
以下の式1で示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩。
【化21】
JP2013047509A1_000070t.gif
式1

(式中、Aは、-CONH-又は-CH(OH)-を表し、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のアラルキル基を表す;但し、A、R1、R2及びR3の組合せが、A=-CONH-かつR1=エチリデン基かつR2=R3=イソプロピル基、A=-CH(OH)- かつR1=イソプロピル基かつR2=メチル基かつR3=水素原子、A=-CH(OH)- かつR1=sec-ブチル基かつR2=メチル基かつR3=水素原子、A=-CH(OH)- かつR1=R2=イソプロピル基かつR3=水素原子、A=-CONH- かつR1=エチリデン基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、A=-CONH- かつR1=R3=水素原子かつR2=イソプロピル基、A=-CONH- かつR1=メチル基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、及び、A=-CONH- かつR1=ベンジル基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、のいずれかである化合物を除く)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のホスファチジルイノシトール3キナーゼ阻害剤及びこれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの薬物療法は、分子標的薬の登場により目覚ましい進歩を遂げているが、未だ克服できない難治性がんは数多く存在する。そのため、より治療効果の高い、新しいがん分子標的薬の開発が望まれている。
【0003】
ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(Phosphatidyl inositol 3-kinase;以下「PI3K」という)は、細胞膜上に存在するリン脂質ホスファチジルイノシトール4,5-ビホスフェート(PIP2)のイノシトール環の3位リン酸基をリン酸化してホスファチジルイノシトール3,4,5-トリホスフェート(PIP3)を生成する酵素であり(非特許文献1:Fruman et al., Annual Rev Biochem 67, 481-507, doi:10.1146/annurev. biochem. 67.1.481 (1998))、様々な増殖因子受容体チロシンキナーゼにより活性化され、下流のAKTの活性化を介して、細胞の生存及び増殖を促進するように作用する(非特許文献2:Cantley, L. C. Science 296, 1655-1657, doi:10.1126/science. 296.5573.1655 (2002))。PI3Kは、がんに関連していることがわかっている。
【0004】
PI3Kは、触媒サブユニット(catalytic subunit)と調節サブユニット(regulatory subunit)とからなるヘテロダイマーを形成している。PIK3CA遺伝子は、クラスIA PI3Kの触媒サブユニットであるp110αをコードする。このPIK3CA遺伝子については、乳がんや大腸がん等の様々ながん種において、高頻度の遺伝子増幅や機能獲得型の点突然変異が報告されている(非特許文献3:Samuels et al. Science 304, 554 (2004);非特許文献4:Ikenoue et al. Cancer Res 65, 4562 (2005);非特許文献5:Kang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 802 (2005))。
また、PI3Kとは逆反応を触媒する脱リン酸化酵素であるPTEN(Phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10)は、シグナルメッセンジャーであるPIP3を減少させることによって細胞の増殖を抑制する(非特許文献6:Maehama et al., J. Biol. Chem. 273, 13375-13378 (1998))。PTEN遺伝子については、子宮内膜がんや悪性黒色腫など多くのがん種で欠失や点突然変異が見られ(非特許文献7:Salmena et al., Cell 133, 403-414 (2008))、その点突然変異のほとんどで脱リン酸化酵素活性が低下していることが報告されている(非特許文献8:Han et al. Cancer Res 60, 3147 (2000))。
これらの変異の結果、PI3K/AKT経路の異常な恒常的活性化が生じ、がん細胞の生存シグナルが伝達されると考えられている。
【0005】
そのため、PI3Kは、がん治療における有力な標的分子として注目されており、近年、PI3K阻害剤の開発が盛んに行われている。いくつかの低分子PI3K阻害剤は臨床試験の段階に入っているが、未だ医薬品化されるに至ったものはない(非特許文献9:Kong & Yamori, Current Medicinal Chemistry 16, 2839-2854 (2009))。
【0006】
一方、がんの発生にはエピジェネティックスの異常が深く関わっていることが明らかにされている。ヒストンアセチル化はエピジェネティックス制御の重要なメカニズムの一つであり(非特許文献10:Carew et al., Giles, Cancer Let 269, 7-17 (2008))、そのアセチル化を解除するヒストンデアセチラーゼ(以下「HDAC」という)の阻害により、遺伝子発現変化が生じ、それに伴って細胞分化やアポトーシスが引き起こされることがわかっている。このため、HDAC阻害剤は、新しいがん分子標的薬として注目を集めている。
【0007】
デプシペプチド類化合物(特許文献1~4)は、1つ以上のアミド結合(-CONHR-)がエステル結合(-COOR)に置換されたペプチドの総称である。デプシペプチド類化合物の中でも、FK228(FR901228、ロミデプシンとも呼ばれている)は、クロモバクテリウム・ビオラセウムから発酵産物として単離された化合物であり(非特許文献11:Ueda et al. J. Antibiotics 47, 301 (1994))、クラスI HDACを選択的に阻害する強力なHDAC阻害剤である(非特許文献12:Furumai et al. Cancer Res 62, 4916 (2002))。FK228は、このHDAC阻害活性に基づいて抗がん剤として臨床試験が進められ、同じくHDAC阻害剤であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)とともに、皮膚T細胞リンパ腫に対する治療薬として米国FDAの認可を受けている。
なお、用語「デプシペプチド」は、狭義ではFK228を指すが、本明細書においては上記の意義を有する用語として使用する。
【0008】
ヒトがん細胞株において、PI3K阻害剤とHDAC阻害剤の併用は、殺細胞効果の増強や相乗作用をもたらすことが報告されている(非特許文献13:Wozniak et al. Haematologica 95, 613 (2010))。
HDAC阻害剤がそれ自体でPI3K/AKT経路に影響するか否かに関しては議論がある(非特許文献14:Hanker et al., J Molecular Signaling 4, 5 (2009);非特許文献15:Graham et al. Clinical Cancer Res 12, 223 (2006))。古典的なHDAC阻害剤であるトリコスタチンA(trichostatin A;TSA)は、プロテインホスファターゼ1(protein phosphatase 1)を介してリン酸化AKTを抑えることが報告されている(非特許文献16:Chen et al., J Biol Chem 280, 38879 (2005))。
【0009】
FK228に関しても、細胞選択的にリン酸化AKTの発現を抑制するとした報告がある(非特許文献17:Kodani et al., Oncology Reports 13, 477-483 (2005))。しかし、その機序については明らかにされておらず、FK228のキナーゼ阻害活性を検討した文献もない。さらに、デプシペプチド類化合物がPI3K阻害活性を有することについては報告されていない。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開平2-85296号公報
【特許文献2】特開平4-79892号公報
【特許文献3】特表2008-542347号公報
【特許文献4】特表2009-519224号公報
【0011】

【非特許文献1】Fruman, D. A., Meyers, R. E. & Cantley, L. C. Annual Review of Biochemistry 67, 481-507, doi:10.1146/annurev.biochem.67.1.481 (1998)
【非特許文献2】Cantley, L. C. Science 296, 1655-1657, doi:10.1126/science.296.5573.1655 (2002)
【非特許文献3】Samuels, Y. et al. Science 304, 554 (2004)
【非特許文献4】Ikenoue, T. et al. Cancer Research 65, 4562 (2005)
【非特許文献5】Kang, S., Bader, A. G. & Vogt, P. K. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 802 (2005)
【非特許文献6】Maehama, T. & Dixon, J. E. The Journal of Biological Chemistry 273, 13375-13378 (1998)
【非特許文献7】Salmena, L., Carracedo, A. & Pandolfi, P. P. Cell 133, 403-414 (2008)
【非特許文献8】Han, S. Y. et al. Cancer Research 60, 3147 (2000)
【非特許文献9】Kong, D. & Yamori, T. Current Medicinal Chemistry 16, 2839-2854 (2009)
【非特許文献10】Carew, J. S., Giles, F. J. & Nawrocki, S. T. Cancer Letters 269, 7-17 (2008)
【非特許文献11】Ueda, H. et al. The Journal of Antibiotics 47, 301 (1994)
【非特許文献12】Furumai, R. et al. Cancer Research 62, 4916 (2002)
【非特許文献13】Wozniak, M. B. et al. Haematologica 95, 613 (2010)
【非特許文献14】Hanker, A. B., Healy, K. D., Nichols, J. & Der, C. J.. Journal of Molecular Signaling 4, 5 (2009)
【非特許文献15】Graham, C. et al. Clinical Cancer Research 12, 223 (2006).
【非特許文献16】Chen, C. S., Weng, S. C., Tseng, P. H. & Lin, H. P. Journal of Biological Chemistry 280, 38879 (2005)
【非特許文献17】Kodani, M. et al. Oncology reports 13, 477-483 (2005)
【非特許文献18】Tugendreich, S. et al. Genome Research 11, 1899 (2001)
【非特許文献19】Rodriguez-Escudero, I. et al. Biochemical Journal 390, 613 (2005)
【非特許文献20】Cid, V. et al. Oncogene 27, 5431-5442 (2008)
【非特許文献21】日本がん分子標的学会 第15回学術集会 抄録 2011年5月31発行 演題番号P10-5「出芽酵母をスクリーニングツールとした新規PI3K阻害剤の探索」
【非特許文献22】Narita, K. et al. Chemistry-A European Journal 15, 11174-11186 (2009)
【非特許文献23】Takizawa et al. Chemical Communication, 1677-1679 (2008)
【非特許文献24】Takizawa et al. Heterocycles 76, 275-290 (2008)
【非特許文献25】Rogers, B. et al. Journal of Molecular Microbiology and Biotechnology 3, 207-214 (2001)
【非特許文献26】Alani, E., Cao, L. & Kleckner, N. Genetics 116, 541 (1987)
【非特許文献27】Walker, E. H. et al. Molecular Cell 6, 909-919 (2000)
【非特許文献28】Grunwald, V. et al. Cancer Research 62, 6141 (2002)
【非特許文献29】Ropero, S. et al. Nature 200, 6
【非特許文献30】Hanigan, C. L. et al. Gastroenterology 135, 1654-1664. e1652 (2008)
【非特許文献31】Ree, A. H., Folkvord, S. & Flatmark, K. Nature Genetics 40, 812-813 (2008)
【非特許文献32】Xu, W., Parmigiani, R. & Marks, P. Oncogene 26, 5541-5552 (2007)
【非特許文献33】Richon, V. M., Sandhoff, T. W., Rifkind, R. A. & Marks, P. A. Proc. Natl. Acad. Sci. 97, 10014 (2000)
【非特許文献34】Nakajima, H., Kim, Y. B., Terano, H., Yoshida, M. & Horinouchi, S. Experimental Cell Research 241, 126-133 (1998)
【非特許文献35】Kumagai, T. et al. International Journal of Cancer 121, 656-665 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、新規のPI3K阻害剤を提供することを目的とする。さらに、PI3KとHDACとをともに阻害する薬剤の開発は、難治性がんの克服に多大な貢献をするものと考えられる。したがって、本発明は、PI3K阻害作用とHDAC阻害作用とを併せ持つ物質を提供することを目的とする。最終的に、本発明は、これらの物質を含有する新規抗がん用医薬組成物、特に難治性がんに対しても有効な抗がん用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決するために、まず、新規のPI3K阻害剤を見出すべく、スクリーニングを行った。具体的には、出芽酵母にヒトのp110αを発現させると細胞増殖障害を生じるが、PI3K阻害剤を作用させると細胞増殖障害が回避される事象(非特許文献18:Tugendreich et al., Genome Research 11, 1899 (2001);非特許文献19:Rodriguez-Escudero et al. Biochemical Journal 390, 613 (2005);非特許文献20:Cid et al. Oncogene 27, 5431-5442 (2008))を利用したスクリーニング系(非特許文献19;非特許文献21:日本がん分子標的学会 第15回学術集会 抄録 2011年5月31発行 演題番号P10-5「出芽酵母をスクリーニングツールとした新規PI3K阻害剤の探索」)を用いて、化合物ライブラリーのスクリーニングを行った。その結果、HDAC阻害剤であるデプシペプチド類化合物、すなわちFK228及びその類縁体を候補物質として選択した。
【0014】
本発明者らは、インビトロでPI3K阻害活性の評価を行い、これらの化合物がμMオーダーの濃度でPI3Kの直接阻害活性をもつことを確認した。また、ヒト培養細胞を用いたウェスタンブロット解析において、これらの化合物がリン酸化AKTとAKT経路の下流分子を抑制することを見出した。さらに、MTTアッセイの結果から、これらの化合物が特定の濃度範囲でHDAC阻害剤に抵抗性の細胞に対しても強い殺細胞効果を発揮することを見出した。そして、その細胞死がアポトーシスであること、さらに、そのアポトーシスが、デプシペプチド類化合物のHDAC/PI3K二重阻害活性により誘導されることを確認し、本発明を完成した。
【0015】
したがって、本発明によれば、
〔1〕 以下の式1で示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩からなるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤
【化1】
JP2013047509A1_000003t.gif
式1

(式中、Aは、-CONH-又は-CH(OH)-を表し、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のアラルキル基を表す。);
〔2〕 式1において、R3が水素原子である、前記〔1〕記載のPI3K阻害剤;
〔3〕 式1において、R1が置換もしくは無置換のアラルキル基である、前記〔1〕又は〔2〕記載のPI3K阻害剤;
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載のPI3K阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、難治性がんの治療用医薬組成物;
〔5〕 前記PI3K阻害剤が体重1kgあたり約1mg/日~10,000mg/日の投与用量で投与されることを特徴とする、前記〔4〕記載の難治性がんの治療用医薬組成物;
〔6〕 前記PI3K阻害剤が、以下の式2~20のいずれかで示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩である、前記〔4〕又は〔5〕記載の難治性がんの治療用医薬組成物
【化2】
JP2013047509A1_000004t.gif
式2

【化3】
JP2013047509A1_000005t.gif
式3

【化4】
JP2013047509A1_000006t.gif
式4

【化5】
JP2013047509A1_000007t.gif
式5

【化6】
JP2013047509A1_000008t.gif
式6

【化7】
JP2013047509A1_000009t.gif
式7

【化8】
JP2013047509A1_000010t.gif
式8

【化9】
JP2013047509A1_000011t.gif
式9

【化10】
JP2013047509A1_000012t.gif
式10

【化11】
JP2013047509A1_000013t.gif
式11

【化12】
JP2013047509A1_000014t.gif
式12

【化13】
JP2013047509A1_000015t.gif
式13

【化14】
JP2013047509A1_000016t.gif
式14

【化15】
JP2013047509A1_000017t.gif
式15

【化16】
JP2013047509A1_000018t.gif
式16

【化17】
JP2013047509A1_000019t.gif
式17

【化18】
JP2013047509A1_000020t.gif
式18

【化19】
JP2013047509A1_000021t.gif
式19

【化20】
JP2013047509A1_000022t.gif
式20

〔7〕 以下の式1で示されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩
【化21】
JP2013047509A1_000023t.gif
式1

(式中、Aは、-CONH-又は-CH(OH)-を表し、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のアラルキル基を表す;但し、A、R1、R2及びR3の組合せが、A=-CONH-かつR1=エチリデン基かつR2=R3=イソプロピル基、A=-CH(OH)- かつR1=イソプロピル基かつR2=メチル基かつR3=水素原子、A=-CH(OH)- かつR1=sec-ブチル基かつR2=メチル基かつR3=水素原子、A=-CH(OH)- かつR1=R2=イソプロピル基かつR3=水素原子、A=-CONH- かつR1=エチリデン基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、A=-CONH- かつR1=R3=水素原子かつR2=イソプロピル基、A=-CONH- かつR1=メチル基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、及び、A=-CONH- かつR1=ベンジル基かつR2=イソプロピル基かつR3=水素原子、のいずれかである化合物を除く);
が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規なPI3K阻害剤が提供される。この新規なPI3K阻害剤は、従来公知のPI3K阻害剤とは全く異なる構造を有する化合物である。本発明のPI3K阻害剤は、HDAC阻害活性をも有し、HDAC阻害剤としても作用しうるが、特定の濃度で用いた場合には、HDAC阻害剤抵抗性のがん細胞に対しても、アポトーシスを誘導することにより殺細胞活性を発揮する。したがって、本発明のPI3K阻害剤は、HDAC阻害剤を含む従来の抗がん剤には耐性のがん細胞に対して有効な医薬組成物を提供することができる。
本発明のPI3K阻害剤は、HDAC阻害活性のほか、他のキナーゼをも阻害する可能性を有していることが見出され、がん細胞を制御する上で有利に働くことが推測される多分子標的の薬剤である可能性がある。
また、本発明のPI3K阻害剤は、がん特異的に作用する分子標的薬として使用されるものであるから、がん細胞以外の細胞や組織に与える影響は比較的少ないと考えられ、実際、FK228については、長期投与によっても何ら副作用を生じない例や、何らかの副作用を生じた場合であっても比較的軽く、これを抑える薬剤との併用によって抑えることが可能であることがわかっている。FK228の類縁体については、後述するようにFK228よりも副作用が低いと考えられ、したがって、本発明の医薬組成物は、生体に対して高用量で使用しても重篤な副作用が起こる可能性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の化合物の合成経路を表す図である。「Boc」=tert-ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl)、「TBS」=tert-ブチルジメチルシリル(tert-butyldimethylsilyl)、「Tr」=トリチル(trityl)、「PMB」=p-メトキシベンジル(p-methoxybenzyl)をそれぞれ表す。
【図2A】図2Aは、FK228及びその類縁体のPI3K阻害活性の測定を表す図である。20μMでのFK228及びその類縁体(SP-1、SP-2、SP-3、SP-5、FK228、FK-A1、FK-A2、FK-A3、FK-A4、FK-A5、FK-A6)のPI3K阻害活性を、PI3K活性の阻害率として示す。
【図2B】図2Bは、同様に測定したLY294002のPI3K阻害曲線を示す。縦軸は、PI3K活性に対する阻害率を示す。
【図2C】図2Cは、同様に測定したFK228のPI3K阻害曲線を示す。縦軸は、PI3K活性に対する阻害率を示す。
【図2D】図2Dは、同様に測定したFK-A5のPI3K阻害曲線を示す。縦軸は、PI3K活性に対する阻害率を示す。
【図2E】図2Eは、異なるATP濃度条件下で同様に測定したFK228のPI3K阻害曲線を示す。縦軸は、PI3K活性に対する阻害率を示す。実線はATP濃度50μM、点線はATP濃度500μMでの結果を示す。
【図3】図3は、ウェスタンブロッティングによるAKT経路の抑制の評価を表す図である。 パネルAは、化合物処理の時間経過によるリン酸化AKTの変化を表す。PC3細胞にそれぞれ10μMのLY294002、FK228又はFK-A5を、5分、30分又は180分作用させ、細胞を回収してウェスタンブロッティングによりリン酸化(p-)AKT及びAKTを検出した結果を表す。 パネルBは、FK228、FK-A5の濃度変化によるAKT経路の抑制を表す。PC3細胞を、図に示した濃度(μM)のFK228、FK-A5で180分処理し、回収したサンプルを用いて、リン酸化AKT(Ser-473、Thr-308)及びAKT、リン酸化GSK-3β(Ser-9)、リン酸化mTOR(Ser-2448)、リン酸化p70S6K(Thr-389)、リン酸化4E-BP1(Thr-37/46)、リン酸化MEK1/2(Ser-217/221)、リン酸化ERK1/2(Thr-202/Tyr-204)の発現レベルを検出したウェスタンブロット解析の結果である。
【図4A】図4Aは、HCT116細胞、RKO細胞、CO115細胞におけるHDAC2、HDAC1の発現をウェスタンブロットにて確認した結果を表す図である。
【図4B】図4Bは、HCT116細胞におけるFK228及びFK-A5の殺細胞効果の評価を表す図である。LY294002(50μM)、SAHA(2.5μM)、同濃度のLY294002(50μM)及びSAHA(2.5μM)の併用(SAHA+LY)、及び図に示した濃度のFK228、FK-A5、FK228又はFK-A5とLY294002との併用の存在下で24時間培養した後、MTTアッセイを行い、生細胞数を測定することにより殺細胞効果を検討した結果である。グラフの縦軸はDMSO添加時の吸光度に対する比を示す。
【図4C】図4Cは、図4Bと同様に測定した、RKO細胞におけるFK228及びFK-A5の殺細胞効果の評価を表す図である。
【図4D】図4Dは、図4Aと同様に測定した、CO115細胞におけるFK228及びFK-A5の殺細胞効果の評価を表す図である。
【図5A】図5Aは、図に示した濃度のFK228又FK228及びLY294002(50μM)の存在下で24時間培養したHCT116細胞についてのFACS解析の結果を示す図である。上段は、比較のための50μM LY294002、2.5μM SAHA、同濃度のLY294002(50μM)及びSAHA(2.5μM)で同様に処理した結果である。
【図5B】図5Bは、FK228の代わりにFK-A5を用いて図5Aと同様に行った解析の結果を示す図である。
【図5C】図5Cは、FK-A5についての図5Bの結果を解析し、G2/M、S、G1/G0、subG1分画のパーセンテージを算出した結果を示す図である。
【図5D】図5Dは、HCT116細胞を図に示した濃度のSAHA、FK-228で24時間処理し、PARP、cleaved PARP、リン酸化AKT(S473)、AKT、アセチル化ヒストンH3、アセチル化ヒストンH4の発現についてウェスタンブロット解析を行った結果を表す図である。
【図6】図6は、図3パネルBに示した実験と同様にして行ったウェスタンブロッティングによるAKT経路の抑制の評価を表す図である。 左から、FK-A11、FK-A5、FK228の濃度変化によるAKT経路の抑制を表す。PC3細胞を、図に示した濃度(μM)の各化合物で180分処理し、回収したサンプルを用いて、リン酸化AKT(Ser-473、Thr-308)及びAKTの発現レベルを検出したウェスタンブロット解析の結果である。
【図7A】図7Aは、HCT116細胞におけるFK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。LY294002(「LY」;50μM)、SAHA(2.5μM)、同濃度のLY294002(50μM)及びSAHA(2.5μM)の併用(SAHA+LY)、及び図に示した濃度のFK-A11の存在下で24時間培養した後、MTTアッセイを行い、生細胞数を測定することにより殺細胞効果を検討した結果である。グラフの縦軸はDMSO添加時の吸光度に対する比を示す。
【図7B】図7Bは、図7Aと同様に測定した、RKO細胞におけるFK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。
【図7C】図7Cは、図7Aと同様に測定した、CO115細胞におけるFK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。
【図7D】図7Dは、図7Aと同様に測定した、正常細胞KMST6細胞(非腫瘍性、線維芽細胞)におけるFK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。
【図8A】図8Aは、図7Aと同様に測定した、HCT116細胞におけるFK228、FK-5、FK-A11の殺細胞効果の比較を表す図である。横線を付したバーはコントロール(DMSO、SAHA、LY、又はSAHA+LY)、斜線を付したバーはFK228、黒塗りのバーはFK-5、白塗りのバーはFK-A11をそれぞれ示す。
【図8B】図8Bは、図7Aと同様に測定した、RKO細胞におけるFK228、FK-5、FK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。横線を付したバーはコントロール(DMSO、SAHA、LY、又はSAHA+LY)、斜線を付したバーはFK228、黒塗りのバーはFK-5、白塗りのバーはFK-A11をそれぞれ示す。
【図8C】図8Cは、図7Aと同様に測定した、CO115細胞におけるFK228、FK-5、FK-A11の殺細胞効果の評価を表す図である。横線を付したバーはコントロール(DMSO、SAHA、LY、又はSAHA+LY)、斜線を付したバーはFK228、黒塗りのバーはFK-5、白塗りのバーはFK-A11をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のPI3K阻害剤は、以下の式1で表されるデプシペプチド類化合物又は生理学的に許容可能なその塩からなることを特徴とする。

【0019】
【化22】
JP2013047509A1_000024t.gif
式1


【0020】
(式中、Aは、-CONH-又は-CH(OH)-を表し、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のアラルキル基を表す。)

【0021】
好ましくは、R1は水素原子、低級アルキル基、低級アルキリデン基又は置換もしくは無置換のアラルキル基であり、R2は低級アルキル基であり、R3は水素原子又は低級アルキル基である。本発明において、「低級アルキル基」としては、メチル、エチル、n‐プロピル、i‐プロピル、シクロプロピル、n‐ブチル、s‐ブチル、t‐ブチル、シクロブチル、n‐ペンチル、i‐ペンチル、2‐メチルブチル、シクロペンチル、n‐ヘキシル、シクロヘキシル等の直鎖もしくは分枝した炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。「低級アルキリデン基」としては、メチレン、エチリデン、プロピリデン、シクロプロピリデン、ブチリデン、ペンチリデン、ヘキシリデン等の直鎖もしくは分枝した炭素数1~C6のアルキリデン基が挙げられる。「アリール基」としては、フェニル、ナフチル、ピリジニル、フラニル等が挙げられ、その置換基としては水酸基、保護基で保護された水酸基、アミノ基及び保護基で保護されたアミノ基等が挙げられる。「アラルキル基」としては、ベンジル、1‐フェニルエチル、ナフチルメチル、ピリジニルメチル等が挙げられ、その置換基としては水酸基、保護基で保護された水酸基、アミノ基及び保護基で保護されたアミノ基等が挙げられる。

【0022】
特に好ましい化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【化23】
JP2013047509A1_000025t.gif
FK228

【化24】
JP2013047509A1_000026t.gif
SP-1

【化25】
JP2013047509A1_000027t.gif
SP-2

【化26】
JP2013047509A1_000028t.gif
SP-3

【化27】
JP2013047509A1_000029t.gif
SP-5

【化28】
JP2013047509A1_000030t.gif
FK-A1

【化29】
JP2013047509A1_000031t.gif
FK-A2

【化30】
JP2013047509A1_000032t.gif
FK-A3

【化31】
JP2013047509A1_000033t.gif
FK-A4

【化32】
JP2013047509A1_000034t.gif
FK-A5

【化33】
JP2013047509A1_000035t.gif
FK-A6

【化34】
JP2013047509A1_000036t.gif
FK-A7

【化35】
JP2013047509A1_000037t.gif
FK-A8

【化36】
JP2013047509A1_000038t.gif
FK-A9

【化37】
JP2013047509A1_000039t.gif
FK-A10

【化38】
JP2013047509A1_000040t.gif
FK-A11

【化39】
JP2013047509A1_000041t.gif
FK-A12

【化40】
JP2013047509A1_000042t.gif
FK-A13

【化41】
JP2013047509A1_000043t.gif
FK-A17

3が水素原子のもの、及び/又はR1が置換もしくは無置換のアラルキル基のものがさらに好ましい。

【0023】
また、本発明のPI3K阻害剤において、生理学的に許容可能な塩としては、具体的には、例えば、無機塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩;カルシウム塩、マグネシウム塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩;アンモニウム塩等)をはじめとして、各種の有機塩、ハロゲン化水素酸塩、無機酸塩、有機酸塩及びアミノ酸塩等が挙げられる。

【0024】
本発明においては、これらのデプシペプチド類化合物又は塩の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。

【0025】
本発明に係るデプシペプチド類化合物、すなわちFK228及び類縁体の製造方法は、公知である。FK228は、微生物によって産生された天然物を単離精製して得てもよく、従来公知の方法で半合成又は全合成により製造してもよい。具体的には、本発明の化合物の合成については、例えば、Narita et al. Chemistry-A European Journal 15, 11174-11186 (2009)(非特許文献22);Takizawa et al. Chemical Communication, 1677-1679 (2008) (非特許文献23); Takizawa et al. Heterocycles 76, 275-290 (2008) (非特許文献24)に記載された方法にしたがって行うことができる。

【0026】
本発明の医薬組成物が治療する対象のがんは、FK228について有効性が知られている各種のがんであり、中でも特に難治性のがんである。具体的には、皮膚がん、中皮腫、肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん、食道がん、膵臓がん、子宮がん(頚がん、内膜がん)、卵巣がん、皮膚がん、泌尿器がん、頭頚部がん、原発不明がん、造血器腫瘍(白血病、リンパ腫)、骨軟部肉腫等のがんであって、他の治療による効果が認められない又は低いものが挙げられる。さらに、PIK3CA遺伝子に高頻度で変異が報告されている、乳がん、子宮内膜がん、泌尿器がん、大腸がん、卵巣がん、頭頚部がん、肺がん等(非特許文献3)には、特に本薬剤の有効性が期待される。

【0027】
本発明の医薬組成物は、本発明のPI3K阻害剤と製薬業界で公知の種々の添加剤等とを用いて、当該技術分野で公知の方法により適宜製造することができる。

【0028】
本発明の医薬組成物の投与経路は、公知の経路、例えば経口、経鼻、舌下、点眼、経皮、注射、経腸、直腸内等から任意の経路を選択することができる。好ましくは経口又は注射である。

【0029】
したがって、本発明の医薬組成物は、経口剤(錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤等)、注射剤のほか、座剤、貼付剤、点滴剤、含嗽剤、点眼剤、トローチ等の剤型で使用に供することができる。このような各種製剤の製造方法は、当業者には充分公知である。

【0030】
所望の剤型に応じて、添加剤として、製薬業界において使用されている各種の賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、香料等を、適宜本発明の医薬組成物の製造において用いることができる。

【0031】
さらに、本発明の医薬組成物には、公知の他の薬学的有効成分をも含有させることができる。例えば、制吐剤、消化剤、及び他の抗がん剤等が挙げられる。

【0032】
さらに、本発明の医薬組成物は、公知のドラッグデリバリーシステムと組み合わせることができる。例えば、リポソーム、無機ナノ粒子、無機-有機ハイブリッドナノ粒子、インプラント等が挙げられる。

【0033】
これらの他の有効成分をさらに含有させることによって、あるいは本発明の医薬組成物を他の薬剤と組み合わせて使用することによって、一層の治療効果を期待できる。

【0034】
本発明の医薬組成物の投与量及び投与剤型は、個別に、治療対象のがん、投与方法、投与される患者の年齢、体重、病態等に応じて定めることができる。
一般的には、有効成分として体重1kgあたり約1mg/日~10,000mg/日、より好ましくは約10mg/日~約5,000mg/日、さらに好ましくは約20mg/日~約5,000mg/日、最も好ましくは約50mg/日~約5,000mg/日を1日1回あるいは1日2~3回に分割して、本発明の医薬組成物による治療が必要とされている患者に投与することができる。
【実施例】
【0035】
1.出芽酵母によるPI3K阻害剤スクリーニング
本発明において用いたスクリーニング系は、出芽酵母にヒトのp110αを発現させることにより生じる細胞増殖障害に基づいており、基本的に、Rodriguez-Escuderoらの方法(非特許文献19:Biochemical Journal 390, 613 (2005))に記載された方法にしたがってスクリーニングを行った。ただし、このスクリーニングにおいては、出芽酵母として、一般的に使用されている野生型株YPH499の代わりに、7つのABCトランスポーター遺伝子及びABCトランスポーターの活性化に関与する2つの転写因子の遺伝子をノックアウトした薬剤感受性株AD1-9(MAT alpha, yor1, snq2, pdr5, pdr10, pdr11, ycf1, pdr3, pdr15, pdr1, his1, ura3)を用いた(非特許文献25:Rogers et al. J. of Mol. Microbiol. Biotechnol. 3, 207-214 (2001))。AD1-9株は、Nader Nourizad(Stanford Genome Technology Center Stanford University, CA, USA)より入手可能である。
【実施例】
【0036】
本発明者らは、AD1-9に栄養要求性のマーカーを追加するため、hisG-Ura3-hisGカセットを使った手法(非特許文献26:Alani et al., Genetics 116, 541 (1987))で、LEU2遺伝子破壊AD1-9株を作製して用いた。
【実施例】
【0037】
形質転換したAD1-9株は、ウラシル及びロイシン不含最少完全培地SC-U-L又は2%グルコースを2%ガラクトースで置き換えたSGal-U-Lにて30℃で培養した。
【実施例】
【0038】
これらの酵母株について、公知のPI3K阻害剤であるLY294002(Cayman Chemical Companyより購入)に対する感受性の違いを評価したところ、細胞増殖障害の回復が、YPH499においてはLY294002濃度50μMでみられるのに対して、スクリーニングに使用したAD1-9では5μMでみられた。すなわち、スクリーニングに使用したAD1-9は、YPH499に比べ、LY294002に対して約10倍感受性が高いことが確認された。
【実施例】
【0039】
上記の系を用いて、文部科学省がん特定領域研究・統合がん化学療法基盤情報支援班より供与を受けた化合物ライブラリーのスクリーニングを行った。各化合物を、濃度が0.5μM、5μMになるようにSGal-U-L液体培地に添加し、AD1-9の形質転換体を24時間振盪培養し、A600を測定した。コントロールとしてDMSO、LY294002を同様のスクリーニングに供した。独立した3回の繰り返し実験を行い、A600の平均値を算出し、その値の降順に羅列し、上位となった化合物を、p110αによる細胞増殖障害を回復させる化合物として選択した。
【実施例】
【0040】
0.5μMの化合物濃度では、DMSOよりもA600が高値になる化合物は認められなかった。5μMの濃度では、いくつかの化合物でLY294002と同程度の細胞増殖障害の回復が認められた。表1に、各化合物のライブラリー内でのID、化合物名、A600値を表す。
【実施例】
【0041】
表1: 化合物ライブラリーのスクリーニング結果
【表1】
JP2013047509A1_000044t.gif
【実施例】
【0042】
p110αを発現させた形質転換体においてA600が高値となった上位の化合物は、いずれも、FK228及びその類縁体であった。
【実施例】
【0043】
本スクリーニングにおいてPI3K阻害活性をもつ可能性が示唆されたFK228及びその類縁体の構造式、及び文部科学省がん特定領域研究・統合がん化学療法基盤情報支援班により評価されたHDAC1、HDAC6に対する50%阻害濃度(IC50)を表2に示す。
【実施例】
【0044】
表2: FK228及びその類縁体の構造式及びHDAC1、HDAC6に対する50%阻害濃度(IC50
【表2-1】
JP2013047509A1_000045t.gif
【表2-2】
JP2013047509A1_000046t.gif
【実施例】
【0045】
HDAC1及びHDAC6に対するIC50の比は、心臓に対する影響を起こすリスクと関連があると考えられている。いずれの類縁体も、FK228と比較して、そのようなリスクが低いことが期待される。
【実施例】
【0046】
2.デプシペプチド類化合物の合成
その後の実験に使用したFK228及びFK228類縁体は、全て、本発明者の東北薬科大学医薬合成教室の加藤正教授のグループによって公知の技術にしたがって合成されたものをDMSOに溶解して用いた。
各化合物の合成経路及び詳しい合成方法は、図1及びNarita et al. Chemistry-A European Journal 15, 11174-11186 (2009)(非特許文献22);Takizawa et al. Chemical Communication, 1677-1679 (2008) (非特許文献23); Takizawa et al. Heterocycles 76, 275-290 (2008) (非特許文献24)に記載のとおりである。
【実施例】
【0047】
図1を参照して説明すると、まず、段階(A)において、側鎖R1を有するアルデヒド誘導体に酢酸エチルを反応させて、付加体を得た。段階(B)において、その付加体の水酸基の保護、アミノ基の脱保護及びエステル交換を順次行い、アミノエステル誘導体を生じさせた。段階(C)において、そのアミノエステル誘導体とシステインから調製したカルボン酸誘導体を縮合させて、ペプチド誘導体(I)を得た。
段階(D)において、文献既知のカルボン酸誘導体と側鎖R2を有するアミノ酸エステル誘導体を縮合させて、ペプチド誘導体(II)を得た。
段階(E)において、上記で得られた2種類のペプチド誘導体(I)及び(II)を縮合させて、トリペプチド誘導体を得た。段階(F)において、分子内ラクトン化、ジスルフィド結合形成、水酸基の脱保護を順次行い、デプシペプチド類化合物の合成を行った。
一方、段階(G)において、従来の経路を用いて調製可能な側鎖R1及びR3を有するトリペプチド誘導体とカルボン酸誘導体(II)を縮合させて、テトラペプチド誘導体を生じさせた。段階(H)において、分子内ラクトン化、ジスルフィド結合形成、水酸基の脱保護を順次行い、デプシペプチド類化合物の合成を完了した。
【実施例】
【0048】
3.FK228及び類縁体のインビトロでのPI3K阻害活性の評価
FK228、SP-1、SP-2、SP-3、FK-A1、FK-A2、FK-A3、FK-A4、FK-A5、FK-A6及びSP-5の計11種類の化合物について、20μMの濃度におけるPI3K阻害活性の評価を行った。
【実施例】
【0049】
PI3K(p110α/p85α)阻害活性は、カルナバイオサイエンス社(神戸)に委託し、基質とリン酸化基質をキャピラリー中の移動度で分離・定量するモビリティ シフト アッセイ法で評価した(https://www.carnabio.com/japanese/product/search.cgi?mode=profiling)。各化合物を、21nM PI3K、1000nM ホスファチジルイノシトール、50μM ATP、5mM MgCl2とともにアッセイバッファー(20mM HEPES,2mM DTT,25μMコール酸ナトリウム(sodium cholate)、75mM NaCl、20μM カンタリジン(cantharidine))に混和し、室温で5時間反応させた後、モビリティ シフト アッセイを行った。試験は2回繰り返して行った。
阻害率は、以下のようにして計算した:
コントロールとして、キナーゼ反応をMSA(モビリティ シフト アッセイ)で算出された産生物/基質+産生物の値で評価し、それを0%阻害率とした。そこに薬剤が添加された場合の産生物/基質+産生物の値を同様に算出し、コントロール値との差から阻害率を算出した。
【実施例】
【0050】
その結果を図2Aに表す。いずれの化合物についてもPI3Kに対する直接阻害活性が認められた。その中で、SP-5、FK-A1、FK-A2、FK-A3、FK-A5、FK-A6については、FK228よりも高い阻害率が示され、最も強い阻害活性が認められたFK-A5では、66.8%のPI3K活性阻害率であった。
【実施例】
【0051】
次に、最も阻害活性の強かったFK-A5及び元の化合物であるFK228について、PI3Kに対する50%阻害濃度(IC50)を測定し、LY294002と比較した。結果を図2B、C及びDに示す。
【実施例】
【0052】
FK228及びFK-A5は、濃度依存性にPI3K活性を阻害した。LY294002、FK228、FK-A5のIC50は、それぞれ0.7μM、57.1μM、26.2μMであった。FK228は5~500μM、FK-A5は1~300μMの範囲で阻害活性が観察された。また、FK-A5の方がFK228よりも強くPI3Kを阻害することがわかった。
なお、FK228のPI3Kの阻害曲線において10μMでの阻害率は6.5%であった(図2C)。
【実施例】
【0053】
これらの結果から、類縁体の間でその阻害活性に差があるものの、FK228及びそのすべての類縁体について、PI3K阻害活性が示された。
【実施例】
【0054】
上記のとおり、FK228及びその類縁体において、最もPI3K阻害活性が強かったのがFK-A5、次がFK-A6であった(図2B)。FK-A5とFK-A6とは立体異性体であり、7位にベンジル(フェニルメチル)基が付いている特徴的な構造をもつ(表2)。この特徴が、FK228と比べ、FK-A5とFK-A6とが高い阻害活性をもたらすことに寄与している可能性がある。
【実施例】
【0055】
4.PI3K-FK228ドッキングシュミレーション
従来のPI3K阻害剤は、すべてp110触媒サブユニットのATP結合部位に結合するとされている(非特許文献27:Walker et al. Molecular Cell 6, 909-919 (2000))。FK228も同じようにATP結合部位に結合するかを検証した。
【実施例】
【0056】
ドッキングシュミレーションは、シュミレーションソフトウェアとして商品名「eHiTS」(Simulated Biomolecular Systems)を用い、鋳型となるPI3Kの立体構造としてPI3K(p110αH1047R/p85α)-wortmanninの複合体の結晶構造データ(Protein Data Bank Identification Code: 3HHM)を利用して行われた。FK228は、細胞内に取り込まれた後、細胞内の還元作用によりジスルフィド結合が切断され、その結果生成したチオール基がHDACの活性中心の亜鉛と配位してHDAC阻害作用を発揮することが明らかにされている(非特許文献12:Furumai et al. Cancer Res 62, 4916 (2002))。したがって、細胞内でPI3Kを阻害する場合においてもFK228は還元型であると予測し、PI3Kとのドッキングモデルにおいても還元型のFK228の構造を用いた。ドッキングモデルは候補モデルのうち、ソフトウエア上で構造の妥当性を評価するスコアが最も高いものを採用した。
【実施例】
【0057】
その結果、還元型のFK228は、p110αのATP結合部位に深く入りこみ、チオールやイソプロピルをポケットの奥に差し込む形で結合するものと予測された。
このことは、上記3.に記載した実験において、異なるATP濃度条件下(50μM及び500μM)でFK228のPI3K阻害活性を測定することにより確認された。結果を図2Eに示す。FK228のPI3K阻害活性は、高濃度のATP存在下で低減した。標準的ATP濃度(50μM)及び高ATP濃度(500μM)でのIC50値は、それぞれ57.2μM及び125.0μMであった。これらの結果は、FK228がATP競合的なPI3K阻害剤であること、すなわちATP結合部位に結合することを示唆する。
【実施例】
【0058】
5.ウェスタンブロッティングによるAKT経路の抑制の評価
PTENが欠失しており、PI3Kの下流のAKTが恒常的に活性化しているPC3(前立腺がん)細胞を用いて(非特許文献28:Grunwald et al. Cancer Res 62, 6141 (2002))、FK228及びFK-A5によるAKTのリン酸化の抑制を評価した。
【実施例】
【0059】
PC3細胞は東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより入手した。細胞は、非働化したウシ胎児血清を10%の濃度で含んだRPMI1640培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で培養した。
【実施例】
【0060】
ウェスタンブロッティングは、以下のようにして行った。各化合物で処理を行った各種の細胞を回収後、リシスバッファー(Lysis buffer: 500mM Tris-HCl pH7.5、100mM NaCl、2mM EDTA、1mM オルトバナジン酸ナトリウム(sodium orthovanadate)、1% NP-40、 1%プロテアーゼインヒビターカクテル(Protease Inhibitor cocktail、SIGMA-ALDRICH社製)で溶解し、遠心後上清を回収した。サンプルを12.5%のポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、PVDF膜(Immobilon-FL, millipore)に転写した。
【実施例】
【0061】
一次抗体として以下のものを用いた。抗AKT抗体(「total AKT」又は「AKT」)、抗リン酸化AKT(Ser-473)抗体(「p-AKT(S473)」)、抗リン酸化AKT(Thr-308)抗体(「p-AKT(T308)」)、抗リン酸化GSK-3β(Ser-9)抗体(「p-GSK-3β」)、抗リン酸化mTOR(Ser-2448)抗体(「p-mTOR」)、抗リン酸化p70S6K(Thr-389)抗体(「p-p70S6K」)、抗リン酸化4E-BP1(Thr-37/46)抗体(「p-4EBP1」)、抗リン酸化MEK1/2(Ser-217/221)抗体(「p-MEK1/2」)、抗リン酸化ERK1/2(Thr-202/Tyr-204)抗体(「p-ERK1/2」)(以上、すべてポリクローナル抗体、Cell Signaling Technology)、抗β-アクチンモノクローナル抗体(Sigma Aldrich)。
二次抗体としては、商品名「Alexa Fluor680IgG」(Invitrogen)を用いた。商品名「Odyssey Infrared Imaging system」(LI-COR)を用いて目的とするタンパク質の発現を検出した。
【実施例】
【0062】
まず、化合物を作用させてからの時間経過によるリン酸化AKTの変化を検討した。結果を図3、パネルAに示す。
LY294002と同様に、FK228、FK-A5ともに5分から180分という短時間で、全AKTの発現レベルは変化させずに、リン酸化AKT(Ser-473、Thr-308)の発現レベルを減少させた。
【実施例】
【0063】
次に、FK228、FK-A5の濃度の変化によるAKT及びAKT経路の下流分子のリン酸化の変化を検討した。化合物の作用時間は180分とした。結果を図3、パネルBに示す。
【実施例】
【0064】
FK228、FK-A5ともに、濃度依存的にリン酸化AKT(Ser-473、Thr-308)、さらにそのシグナル伝達経路の下流の、リン酸化GSK-3β(Ser-9)、リン酸化mTOR(Ser-2448)、リン酸化p70S6K(Thr-389)、リン酸化4E-BP1(Thr-37/46)の発現レベルを抑制した。また、RAS-MAP経路のリン酸化MEK1/2は抑制されなかったが、リン酸化ERK1/2はやや抑制された。
【実施例】
【0065】
また、この結果においては、10μMの濃度で、リン酸化AKT(S473)、(T308)の発現レベルは、コントロールと比べてそれぞれ66%又は86%減少している。これは、図2Aのデータが過小評価されている可能性があることを示すものである。すなわち、インビトロのPI3K阻害活性の評価系においては、還元剤を含んでいたものの、細胞内での還元力には及ばず、活性をもつ還元型FK228の割合が少なかった可能性が考えられる。
【実施例】
【0066】
以上から、FK228、FK-A5がPI3Kの阻害を介してAKT経路を抑制することが示された。また、リン酸化ERK1/2を阻害することから、これらの化合物が、PI3K以外に、他のキナーゼに対する阻害活性をも有するか、又は他のタンパク質の作用を介してERK1/2を阻害する可能性が示唆された。
【実施例】
【0067】
6.FK228及びFK-A5の殺細胞効果の評価
FK228は、HDAC1に対して1.6~3.6nMのIC50をもつ強力なHDAC阻害剤であり(非特許文献12:Furumai et al. Cancer Res 62, 4916 (2002);非特許文献22:Narita et al. Chemistry-A European Journal 15, 11174-11186 (2009))、多くのヒトがん細胞株に対してnMの範囲で50%成長阻害を発揮することが示されている。ここまでの実験結果より、FK228及びFK-A5がPI3K阻害活性を示すのはμMの範囲であるため、HDAC阻害剤に抵抗性の細胞を用いてFK228及びFK-A5の殺細胞効果を検討した。
【実施例】
【0068】
用いたヒト培養細胞は、大腸がん(HCT116、CO115、RKO)の細胞株であった。HCT116及びRKOは、American Type Culture Collection(ATCC)より、それぞれ入手した。CO115は、John M. Mariadason(Ludwig Institute for Cancer Research, Melbourne, Australia)より入手した。細胞は、非働化したウシ胎児血清を10%の濃度で含んだRPMI1640培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で培養した。
【実施例】
【0069】
HCT116、RKO、CO115はいずれもマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)陽性の細胞であり、HCT116はHDAC阻害剤感受性であるが、RKO及びCO115はHDAC阻害剤に抵抗性である。RKO及びCO115については、HDAC2両対立遺伝子のエクソン1にあるA9(アデニンの9回繰り返し)配列にフレームシフト変異が生じた結果、HDAC2タンパクが欠失しており、HDAC2の機能喪失によってアポトーシスプロテアーゼ活性化因子1(apoptotic protease-activating factor 1;APAF1)発現レベルの上昇がもたらされ、それによりアポトーシス制御異常が生じるため、HDAC阻害剤であるTSA、SAHAに抵抗性になっていることが報告されている(非特許文献29:Ropero et al. Nature 200, 6;非特許文献30:Hanigan et al. Gastroenterology 135, 1654-1664. e1652 (2008))。そこで、まず、ウェスタンブロットによってこれらの細胞におけるHDACの発現レベルを確認した。
【実施例】
【0070】
一次抗体として抗HDAC2モノクローナル抗体(Cell Signaling Technology)(「HDAC2」)又は抗HDAC1ポリクローナル抗体(Santa Cruz)(「HDAC1」)を使用したこと以外は、基本的に上記と同様にしてウェスタンブロッティングを行った。
【実施例】
【0071】
その結果を図4Aに示す。従来の報告と異なり、RKO、CO115においてもHDAC2の弱い発現が認められた。RKOについては、HDAC2の発現にバリエーションがあることが報告されている(非特許文献31:Ree et al., Nature Genetics 40, 812-813 (2008))。HDAC1はいずれの細胞においても発現が認められたが、CO115での発現レベルはやや低かった。
【実施例】
【0072】
次に、HCT116、RKO、CO115細胞を用いて、MTTアッセイにより殺細胞効果を検討した。
【実施例】
【0073】
各種の細胞を8×103 cells/wellの密度で96穴プレートに播き、24時間の前培養の後、LY294002(50μM)、SAHA(Cayman Chemical Companyより購入;2.5μM)、LY294002(50μM)+SAHA(2.5μM)の併用、FK228又はFK-A5(それぞれ5nM、50nM、500nM、5μM又は50μM)、FK228又はFK-A5(それぞれ5nM、50nM又は500nM)+LY294002(50μM)の併用を含んだ培地に置き換えてさらに培養した。
【実施例】
【0074】
24時間後に商品名「Cell counting kit-8」(同仁化学研究所)を用いて生細胞数を評価した。このキットは、水溶性テトラゾリウム塩WST-8を発色試薬として用いており、WST-8は細胞内脱水素酵素によりホルマザンを生じる。ホルマザン色素量と生細胞数は比例関係にあり、ホルマザンの450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(商品名「SpectraMax M2e」、Molecular devices)で測定し、生細胞数を計測した。
【実施例】
【0075】
結果を図4B,C及びDに示す。
HDAC阻害剤に感受性であるHCT116細胞では、SAHA、低濃度(5nM~500nM程度のレベル)のFK228、FK-A5により約50%(43~70%)の細胞死を生じた。これに対し、RKO、CO115細胞においては、HDAC2の弱発現が認められたものの、SAHA、50nM程度までのFK228及びFK-A5に対して抵抗性(6~15%の細胞死)であった。LY294002に対してはいずれの細胞も感受性(50~60%の細胞死)であったが、SAHAとLY294002との併用に対しては、HCT116、RKOでは殺細胞効果の増強(相加効果)が認められた一方、CO115の場合は増強が認められなかった。
PI3K阻害活性が発揮される高濃度(μMレベル)のFK228及びFK-A5は、いずれの細胞においても極めて強く細胞数を減少させた。
【実施例】
【0076】
また、低濃度のFK228又はFK-A5とLY294002との併用については、RKO及びCO115細胞では相乗効果が認められたが、高濃度(5μM)の単独のFK228及びFK-A5よりは低い殺細胞効果であった(図4B)。
【実施例】
【0077】
これらの結果から、HDAC阻害剤に抵抗性の細胞に対しても、高濃度(μMレベル)のFK228及びFK-A5は極めて強い殺細胞効果を示し、高濃度において発揮されるPI3K阻害活性が殺細胞効果を増強している可能性が示唆された。
【実施例】
【0078】
7.FK228及びFK-A5による細胞死の解析及びアポトーシス誘導に関する評価
FK228及びFK-A5の投与による細胞死の特徴を解析するため、まず、細胞周期解析としてFACS解析(fluorescence-activated cell sorting analysis)を行った。
HCT116細胞を6穴プレートに2×105個ずつ播き、24時間の前培養後、各薬剤存在下でさらに24時間培養し、SAHA、LY294002、FK228、FK-A5を上記6.に記載した実験と同条件で作用させた。細胞を回収し、エタノールで固定後、ヨウ化プロピジウム/PBS溶液で染色し、商品名「Cytomics FC500 Flow Cytometry System」(Beckman Coulter)を用いて解析した。細胞周期分画は商品名「Multicycle software」(Phenomix Flow Systems)を用いて算出した。
【実施例】
【0079】
結果を図5A、B及びCに示す。HDAC阻害剤は、p21WAF1の発現の上昇を介して細胞周期停止を誘導するが(非特許文献32:Xu et al. Oncogene 26, 5541-5552 (2007))、HDAC阻害剤の濃度や細胞の種類の違いによりG1/S期とG2/M期のどちらを優位に停止させるかについてはさまざまな報告がある(非特許文献33:Richon et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 97, 10014 (2000);非特許文献34:Nakajima et al. Exp. Cell Res. 241, 126-133 (1998); 非特許文献35:Kumagai et al. Int. J. of Cancer 121, 656-665 (2007))。
【実施例】
【0080】
本実験においては、SAHAはHCT116細胞に対して著明なG2/M期の停止を誘導した。低濃度のFK228及びFK-A5も、SAHAと同様にG2/M期優位の細胞周期の停止を誘導した(図5A~C)。
【実施例】
【0081】
一方、LY294002については、G0/G1期の停止を引き起こし、アポトーシス誘導は弱いことが示されているが、本実験においてもLY294002はHCT116細胞に対してG0/G1期での停止を誘導した(図5A~C)。SAHA+LY294002の併用、低濃度のFK228及びFK-A5+LY294002の併用については、subG1分画が20~40%と著明に増加し、強いアポトーシスが誘導された(図5A~C)。
【実施例】
【0082】
これに対し、高濃度(5μM)のFK228及びFK-A5は、単独で強いアポトーシス(subG1分画36~37%)を誘導し、DNAヒストグラムは、SAHA+LY294002の併用、低濃度のFK228、FK-A5+LY294002の併用の場合と類似の結果を示した(図5A及びB)。細胞周期分画の解析においても、高濃度のFK-A5の場合は、SAHAや低濃度のFK-A5+LY294002の併用の場合の分画と類似していた(図5C)。
【実施例】
【0083】
以上から、高濃度(μMレベル)のFK228及びFK-A5が細胞周期に与える影響及び誘導されるアポトーシスは、HDAC阻害剤とPI3K阻害剤とを併用した場合に類似することが示された。
【実施例】
【0084】
また、FK228による細胞死がアポトーシス誘導によるものであることをさらに確認するために、SAHA(2.5μM)、図に示した濃度のFK228で処理したサンプルを用い、一次抗体として抗PARP-1/2ポリクローナル抗体(Santa Cruz)(「PARP」)、抗リン酸化(p)AKT抗体(S473)(Cell signaling)(「pAKTS473」)、抗AKT抗体(「total AKT」)、抗アセチル化ヒストンH3抗体(Upstate)(「Acetylated H3」)、抗アセチル化ヒストンH4抗体(Upstate)(「Acetylated H4」)を使用したこと以外は、基本的に上記と同様にしてウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロットでは、HCT116細胞を所定濃度のSAHA、FK-228で24時間処理し、PARP、cleaved PARP、リン酸化AKT(S473)、AKT、アセチル化ヒストンH3、アセチル化ヒストンH4の発現について解析した。
【実施例】
【0085】
結果を図5Dに示す。FK228によるアポトーシス誘導は、HCT116細胞におけるCleaved PARPの増加によって裏付けられた。FCAS解析の結果と同様、Cleaved PARPは高濃度のFK228(5μM)で最も増加し、強いアポトーシス誘導が示された。また、このとき同時に、高濃度のFK228(5μM)はリン酸化AKTを抑制し、アセチル化ヒストンの発現を増加させていたことも判明した。
【実施例】
【0086】
以上より、高濃度(μMレベル)のFK228及びFK-A5は、強力にアポトーシスを誘導し、その際にはHDACとPI3Kの二重阻害剤としての活性を発揮していることが示された。
【実施例】
【0087】
8.デプシペプチド類化合物の合成(2)
上記2.と同様にして、さらにデプシペプチド類化合物FK-A7~A13及びFK-A17を合成し、特性を調べた。表3に、それらの化合物の構造式、及び上記3.と同様にして測定したPI3K(p110α/p85α)に対する50%阻害濃度(IC50)を、比較のためFK228、SAHA、LY294002とともに示す。表3中、FK228、SAHAのHDAC1に対する50%阻害濃度(IC50)は、文部科学省がん特定領域研究・統合がん化学療法基盤情報支援班により評価された。
【実施例】
【0088】
表3: FK-A7~A13、A17の構造式及びPI3K、HDAC1に対する50%阻害濃度(IC50
【表3-1】
JP2013047509A1_000047t.gif
【表3-2】
JP2013047509A1_000048t.gif
【表3-3】
JP2013047509A1_000049t.gif
【実施例】
【0089】
9.FK-A11についての、ウェスタンブロッティングによるAKT経路の抑制の評価
上記5.と同様にして、FK-A11によるAKTのリン酸化の抑制を評価し、FK-A5、FK228と比較した。ただし、作用時間は180分とし、一次抗体としては、抗リン酸化AKT(Ser-473)抗体(「p-AKT(S473)」)、抗リン酸化AKT(Thr-308)抗体(「p-AKT(T308)」)、抗AKT抗体(「AKT」)、抗β-アクチンモノクローナル抗体(「B-actin」)を使用した。
【実施例】
【0090】
結果を、図6に示す。FK-A11については、FK228、FK-A5よりも低濃度で、AKTのリン酸化を抑制することが示された。
【実施例】
【0091】
10.FK-A11の殺細胞効果の評価
上記6.と同様にして、MTTアッセイによりFK-A11の殺細胞効果を検討した。ただし、ヒト培養細胞としては、大腸がん(HCT116、CO115、RKO)の細胞株、及び正常細胞として非腫瘍性線維芽細胞株KMST6を使用し、FK-A11は、5nM、50nM、500nM、5μM又は50μMで使用した。
【実施例】
【0092】
結果を図7A~Dに示す。
HCT116、RKO細胞では、低濃度(5nM~500nM程度のレベル)のFK-A11により顕著な細胞死を生じた。これに対し、HDAC阻害剤に対して抵抗性であるCO115細胞においては、50nM程度までのFK-A11に対して抵抗性であったが、PI3K阻害活性が発揮されると推測される500nMからは強い細胞死を生じた。一方、その濃度においては、非がん細胞であるKMST6は顕著な細胞死を生じなかった。
【実施例】
【0093】
FK228、FK-A5、FK-A11の結果の比較を図8A~Cに示す。
これらの結果から、p110αに対する阻害活性が非常に強いFK-A11は、いずれのがん細胞株に対しても、FK228、FK-A5よりも強力な細胞増殖抑制効果を示すことが明らかになった。
【実施例】
【0094】
この出願は、平成23年9月30日出願の日本特許出願、特願2011-217378に基づくものであり、特願2011-217378の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図2C】
3
【図2D】
4
【図2E】
5
【図3】
6
【図4A】
7
【図4B】
8
【図4C】
9
【図4D】
10
【図5A】
11
【図5B】
12
【図5C】
13
【図5D】
14
【図7A】
15
【図7B】
16
【図7C】
17
【図7D】
18
【図8A】
19
【図8B】
20
【図8C】
21
【図6】
22