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明細書 :GAP43の免疫学的分析方法及び当該方法を実行するためのキット、並びに成長円錐を検出するための試薬及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6150395号 (P6150395)
登録日 平成29年6月2日(2017.6.2)
発行日 平成29年6月21日(2017.6.21)
発明の名称または考案の名称 GAP43の免疫学的分析方法及び当該方法を実行するためのキット、並びに成長円錐を検出するための試薬及び方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAD
G01N 33/543 501A
C12Q 1/06
C07K 16/18
請求項の数または発明の数 5
全頁数 24
出願番号 特願2013-539717 (P2013-539717)
出願日 平成24年10月19日(2012.10.19)
国際出願番号 PCT/JP2012/077163
国際公開番号 WO2013/058388
国際公開日 平成25年4月25日(2013.4.25)
優先権出願番号 2011230577
優先日 平成23年10月20日(2011.10.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年9月7日(2015.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】武内 恒成
【氏名】五十嵐 道弘
【氏名】野住 素広
【氏名】河嵜 麻実
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】北村 悠美子
参考文献・文献 Brain Research,1998年,Vol.781,p.320-328
THE JOURNAL OF BIOLOGICACL CHEMISTRY,1991年,Vol.266, No.16,p.10544-10551
THE JOURNAL OF BIOLOGICACL CHEMISTRY,1992年,Vol.267, No.13,p.9059-9064
THE JOURNAL OF CELL BIOLOGY,1991年,Vol.112, No.5,p.991-1005
JOURNAL OF NEUROBIOLOGY,1992年,Vol.23, No.3,p.309-321
調査した分野 G01N 33/48-33/98
C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)以下の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体と、被験試料とを接触させることと、
(A) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)に結合することにより、リン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(B) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)に結合することにより、リン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;及び、
(C) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)に結合することにより、リン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(2)前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量することと、
を含む、神経の発生及び再生の少なくとも一方を評価するためのGAP43の免疫学的分析方法。
【請求項2】
前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体の検出又は定量は、ELISA法、ウエスタンブロット法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集法、及び免疫組織化学法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を利用することを含む請求項に記載の免疫学的分析方法。
【請求項3】
以下の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体と、
(A) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)に結合することにより、リン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(B) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)に結合することにより、リン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;及び、
(C) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)に結合することにより、リン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
前記抗GAP43抗体を検出又は定量するための試薬と、
を含む、請求項1又は請求項2に記載の免疫学的分析方法を実行するためのキット。
【請求項4】
以下の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体を含む、成長円錐を検出するための試薬:
(A) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)に結合することにより、リン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(B) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)に結合することにより、リン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;及び、
(C) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)に結合することにより、リン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体。
【請求項5】
(1)以下の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体と、被験試料とを接触させることと、
(A) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)に結合することにより、リン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(B) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)に結合することにより、リン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;及び、
(C) 配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)に結合することにより、リン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な抗GAP43抗体;
(2)前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量することと、
を含む、成長円錐を検出するための方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、成長円錐を特異的に検出可能な抗体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経の発生及び再生では、神経細胞が発生又は再生する段階(1)と、発生又は再生した神経細胞が軸索を正しく伸長し、シナプスを正しく形成する段階(2)とが必要である。発生及び再生した神経細胞の軸索先端部には、成長円錐と呼ばれる運動性の高い扇状の構造体が存在する。この成長円錐は、中央領域(central domain)と、葉状仮足及び糸状仮足を含む辺縁領域(peripheral domain)とを有する。成長円錐は、シナプス形成のために、糸状仮足の伸長又は退縮をしながら軸索を適切に誘導する。
【0003】
growth associated protein 43(neuromodulin)(以下、「GAP43」という。)は、成長円錐に豊富に存在し、糸状仮足の伸長や神経突起の枝分れで重要な役割を果たす。GAP43はタンパク質キナーゼCによってリン酸化される一方、カルシニューリンによって脱リン酸化される。非リン酸化GAP43はアクチンキャップタンパク質として機能し、糸状仮足の伸長を低下させる。また、マウスGAP43の第41番目のセリン残基(S41)のリン酸化が、糸状仮足の伸長のためのアクチンの安定化に重要であると考えられている(例えば、Denny,JB.、Curr Neuropharmacol.,Vol.4(12):pp.293-304 (2006)参照)。
【0004】
従来、前記段階(2)を評価するために、リン酸化S41を認識する抗GAP43抗体が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記抗GAP43抗体は、神経細胞全体でGAP43に反応し、成長円錐のみを特異的に検出できない。したがって、前記抗GAP43抗体は、神経の発生又は再生を定量的に評価することができない。このように、発生及び再生過程において、成長円錐を特異的に検出できる抗体はほとんどなかった。
本発明の課題は、成長円錐を特異的に検出できる抗体と、該抗体を利用する免疫学的分析方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、成長円錐のリン酸化プロテオミクス解析によって、マウスGAP43の第89番目のスレオニン残基(T89)、第96番目のセリン残基(S96)、及び、第172番目のスレオニン残基(T172)が顕著にリン酸化される一方、前記S41は、ほとんどリン酸化されないことを新たに見出した。この発見は、軸索伸長では、前記T89、S96及びT172のリン酸化が重要であることを示す。本発明によれば、前記T89、S96又はT172がリン酸化されたGAP43を特異的に検出することによって、神経の発生及び/又は再生を定量的に評価することを可能となった。
【0007】
本発明は、(A)配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)に結合することにより、リン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐の特異的な検出に用いられる、抗GAP43抗体を提供する。
【0008】
本発明は、(B)配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)に結合することにより、リン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐の特異的な検出に用いられる、抗GAP43抗体を提供する。
【0009】
本発明は、(C)配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)に結合することにより、リン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐の特異的な検出に用いられる、抗GAP43抗体を提供する。
【0010】
本発明は、(1)本発明の上述した3種の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1の抗GAP43抗体と、被験試料とを接触させることと、(2)前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量することとを含む、神経の発生及び再生の少なくとも一方を評価するためのGAP43の免疫学的分析方法を提供する。
【0012】
本発明の免疫学的分析方法において、前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体の検出又は定量は、ELISA法、ウエスタンブロット法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集法、及び免疫組織化学法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を利用する場合がある。
【0013】
本発明の3種の抗GAP43抗体はそれぞれ、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の場合がある。
【0014】
本発明は、本発明の前述した3種のモノクローナル抗体のいずれかを産生するハイブリドーマを提供する。
【0015】
本発明は、本発明の上述した3種の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体と、前記抗GAP43抗体を検出又は定量するための試薬と、を含む、本発明の免疫学的分析方法を実行するためのキットを提供する
【0016】
本発明は、本発明の上述した3種の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1つの抗GAP43抗体を含む成長円錐を検出するための試薬を提供する。
本発明は、(1)本発明の上述した3種の抗体(A)~(C)からなる群より選択された少なくとも1の抗GAP43抗体と、被験試料とを接触させることと、(2)前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量することとを含む、成長円錐を検出するための方法を提供する。
【0017】
本明細書において「工程(process)」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
本明細書でアミノ酸を表す場合、セリン、スレオニン等の化合物名で表す場合と、Ser、Thr等の慣用の3文字表記で表す場合と、S、T等の慣用の1文字表記で表す場合とがある。
本明細書において、用語「非リン酸化ポリペプチド」とは、リン酸化されていないアミノ酸残基のみを含むポリペプチドを意味し、用語「リン酸化ポリペプチド」とは、リン酸化されているアミノ酸残基を少なくとも1つ含むポリペプチドを意味する。
【0019】
配列番号1のポリペプチドのアミノ酸配列は、CEGDGSATTDAAPAである。配列番号2のポリペプチドのアミノ酸配列は、CDAAPATSPKAEEである。配列番号3のポリペプチドのアミノ酸配列は、CVTDAAATTPAAEDである。配列番号4のポリペプチドのアミノ酸配列は、CTDAAATTPAAEDである。配列番号5のポリペプチドのアミノ酸配列は、CKATTDNSPSSKAである。配列番号6のポリペプチドのアミノ酸配列は、CTTDNSPSSKAEDGである。配列番号7のポリペプチドのアミノ酸配列は、CVTDAAATTPAAEDである。配列番号8のポリペプチドのアミノ酸配列は、CKKEGDGSATTDAである。配列番号9のポリペプチドのアミノ酸配列は、CTDAAPATSPKAEである。配列番号10のポリペプチドのアミノ酸配列は、CPKAEEPSKAGDAである。配列番号11のポリペプチドのアミノ酸配列は、CSEEKAGSAETESである。配列番号12のポリペプチドのアミノ酸配列は、CTETAESSQAEEEである。配列番号13のGAP43のアミノ酸配列は、GenBank アクセッション番号AAH28288の配列である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ラット成長円錐画分(GCP)に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真。
【図2】マウスGAP43の融合タンパク質の発現検出実験の結果を示すウエスタンブロット写真。
【図3】さまざまな試料に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験(1)の結果を示すウエスタンブロット写真。
【図4】さまざまな試料に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験(2)の結果を示すウエスタンブロット写真。
【図5】さまざまな試料に対する抗GAP43 pT172抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真。
【図6】さまざまな抗GAP43抗体で免疫細胞化学染色されたラット大脳皮質神経細胞の蛍光顕微鏡写真。
【図7】抗GAP43モノクローナル抗体及び抗GAP43 pS96抗体で免疫細胞化学染色されたラット大脳皮質神経細胞の蛍光顕微鏡写真。
【図8】抗GAP43 pS96抗体で免疫細胞化学染色されたラット脊髄後根神経節細胞の蛍光顕微鏡写真。
【図9】抗GAP43 pS96抗体及び抗ニューロフィラメント モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された脊髄後根神経節損傷部位の蛍光顕微鏡写真。
【図10】抗GAP43 pS96抗体及び抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された脊髄損傷部位の蛍光顕微鏡写真。
【図11】抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、 抗GAP43 pS41抗体および抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された脊髄損傷後7日目の脊髄損傷部位の顕微鏡写真。
【図12】抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、 抗GAP43 pS41抗体および抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された発生過程の胎児脳のA:胎生期15日目の視床大脳皮質路、B:胎生期12日目の嗅覚神経の顕微鏡写真。
【図13】アカゲザルに対する抗GAP43抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の抗体は、以下のものである:
配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化されていない第89番目のスレオニン残基(T89)と、リン酸化された第89番目のスレオニン残基(pT89)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な、抗GAP43抗体と、
配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化されていない第96番目のセリン残基(S96)と、リン酸化された第96番目のセリン残基(pS96)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な、抗GAP43抗体と、
配列番号13に示されるマウスGAP43のリン酸化されていない第172番目のスレオニン残基(T172)と、リン酸化された第172番目のスレオニン残基(pT172)とを識別でき、成長円錐を特異的に検出可能な、抗GAP43抗体。

【0022】
また、本発明の免疫学的分析方法は、(1)本発明の上述した3種の抗体からなる群より選択された少なくとも1種の抗GAP43抗体と、被験試料とを準備することと、(2)前記抗GAP43抗体と、前記被験試料とを接触させることと、(3)前記被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量することとを含む、GAP43の免疫学的分析方法である。本発明のキットは、前記免疫学的分析方法を実行するためのものであり、あるいは、本発明の上述した3種の抗体からなる群より選択された少なくとも1種の抗GAP43抗体を含み、更に当該抗GAP43抗体を検出又は定量するための試薬を含む場合がある。本発明の成長円錐を検出するための試薬は、本発明の上述した3種の抗体からなる群より選択された少なくとも1種の抗GAP43抗体を含むものである。
本発明では、上述したこれらの3種の抗GAP43抗体(以下、特に断らない限り、これらの3種を総称して「本発明の抗GAP43抗体」と表記することがある)は、T86、S96又はT172がリン酸化されたGAP43を特異的に認識することができるので、本発明の抗GAP43抗体の結合状態に基づいて神経の発生及び/又は再生を評価することができる。
以下、本発明について説明する。

【0023】
本明細書におけるポリペプチドは、生物学的手順で作製されたポリペプチドの場合がある。前記生物学的手順は、前記ポリペプチドのアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを、無生物発現系か、宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系かを用いて発現させて調製することを含むが、これらに限定されない。前記宿主生物は、大腸菌、枯草菌等のような原核生物と、酵母、菌類、植物、動物等のような真核生物とを含む。前記宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系は、細胞又は組織のような生物の一部か、生物の個体全体かの場合がある。代替的には、本明細書におけるポリペプチドは、Fmoc法、Boc法等を用いる化学的手順で作製された合成ポリペプチドの場合がある。前記ポリペプチドは、精製された状態で使用されることが好ましい。前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、マウスGAP43のアミノ酸配列の一部分を含む場合がある。前記ポリペプチドは、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化される場合がある。

【0024】
前記ポリペプチドは、キャリア高分子と結合した複合体として、本発明の抗体の作製、及び/又は、本発明の免疫学的分析方法の実施に用いられる場合がある。本明細書における「キャリア高分子」とは、ハプテンに免疫原性を付与することのできるいずれかの高分子をいい、タンパク質、多糖類等の生体高分子でも、ポリリジン等の合成高分子でもかまわない。前記複合体のキャリア高分子に用いられるタンパク質は、ウシ血清アルブミン、ニワトリオボアルブミン及びスカシ貝ヘモシアニンを含むがこれらに限定されない。前記キャリア高分子と、配列番号1ないし12のいずれかのアミノ酸配列が含まれ、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチドとの複合体は、アミノ酸のいかなる官能基とキャリア高分子との間で結合されてもかまわない。例えば、アミノ酸のアミノ基又はカルボキシル基とキャリア高分子のいずれかの側鎖とが適当な架橋剤を介して共有結合される場合がある。前記架橋剤は、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(MBS)、グルタルアルデヒド(GA)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を含むがこれらに限定されない。前記キャリア高分子と、配列番号1ないし14のいずれかのアミノ酸配列が含まれ、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチドとの複合体は、リン酸化された特定のセリン残基及びスレオニン残基の免疫原性を高めるためにさまざまな保護、修飾等が行われる場合がある。

【0025】
本発明の抗GAP43抗体それぞれは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体と、該抗体の抗原結合断片と、該抗原結合断片を含む組換え抗体又はキメラ抗体とからなるグループから選択される場合がある。

【0026】
本発明の抗GAP43抗体及びハイブリドーマは、当業者に知られたさまざまな方法によって調製される場合がある。例えば、Current Protocols in Immunology(John E. Coliganら編、John Wiley & Sons, Inc.)を参照せよ。

【0027】
前記ポリペプチド又は前記複合体は、本発明の抗GAP43抗体を含む抗血清を採取するために、哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ又はヤギ)又は鳥類(例えばニワトリ)のいずれかの動物宿主に免疫原として注射される。前記免疫原は、前記キャリア高分子と連結される場合に優れた免疫応答が誘発される場合がある。前記免疫原は、1回又は2回以上のブースター免疫を取り込んだ予め定められたスケジュールに従って、前記動物宿主に注射されることが好ましい。前記免疫原は、完全又は不完全フロイントアジュバントその他の免疫増強剤に混合して前記動物宿主に注射される場合がある。本発明の抗GAP43抗体は、適当な固体支持体に結合された前記ポリペプチドを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって抗血清から精製される場合がある。

【0028】
本発明の抗GAP43抗体を産生するハイブリドーマは、免疫されたマウスから調製された脾臓細胞が、例えば、前記マウスと同種又は異種の動物由来のミエローマ細胞との融合によって調製される。前記脾臓細胞とミエローマ細胞とは非イオン性界面活性剤と数分間混合され、その後、ハイブリドーマの増殖は支持するが、ミエローマ細胞の増殖は支持しない選択培地に低濃度で播種される。選択技術はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を用いることが好ましい。通常約1ないし2週間後、ハイブリドーマのコロニーが観察される。シングルコロニーが選択され、その培養上清が前記ポリペプチドに対する結合活性についてテストされる。限界希釈法によるクローニングを繰り返すことにより、反応性及び特異的が高い抗体を安定的に大量に産生するハイブリドーマのクローンが選択される。モノクローナル抗体は増殖中の選択されたハイブリドーマクローン由来の細胞株のコロニーの上清から単離される場合がある。さらに、マウスのような適当な脊椎動物宿主の腹腔内に前記ハイブリドーマを注射するような、収率を向上させるためのさまざまな技術が用いられる場合がある。前記モノクローナル抗体は、適当な固体支持体に結合された前記ポリペプチドを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製される場合がある。

【0029】
本明細書における「抗体の抗原結合断片」とは、抗原結合に参加する抗体の部分をいう。前記抗原結合部位は、重(H)鎖及び軽(L)鎖のN末端の可変(V)領域のアミノ酸残基によって形成される。前記抗原結合断片は、インタクトなポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体をそれぞれタンパク質分解酵素パパイン又はペプシンで分解して得られるFab断片又はF(ab’)断片の他、天然抗体分子の抗原認識能及び結合能の多くを保持する抗原結合部位を含む非共有結合的なV及びV領域のヘテロ2量体を含むFv断片を含む。

【0030】
本発明の抗GAP43抗体において、組換え抗体は、適当な細菌宿主への形質転換か、適当な哺乳類細胞宿主へのトランスフェクションかを含む抗体遺伝子の発現クローニングによって調製される場合がある。本発明の抗GAP43抗体において、キメラ抗体は、前記本発明の抗GAP43抗体の抗原結合部位が、GAP43のリン酸化されていない特定のセリン残基及びスレオニン残基と、リン酸化された特定のセリン残基及びスレオニン残基とを識別できるように同種又は異種の抗体の定常ドメインによって支持された融合タンパク質の場合がある。前記特定のセリン残基及びスレオニン残基は、マウスGAP43の第86番目のセリン残基(S86)、第89番目のスレオニン残基(T89)、第95番目のスレオニン残基(T95)、第96番目のセリン残基(S96)、第103番目のセリン残基(S103)、第128番目のセリン残基(S128)、第142番目のセリン残基(S142)、第145番目のセリン残基(S145)、第171番目のスレオニン残基(T171)、第172番目のスレオニン残基(T172)、又は、第192番目のセリン残基(S192)の場合がある。前記キメラ抗体には、抗体軽鎖可変領域(V)に操作可能に連結された抗体重鎖可変領域(V)を含む単鎖可変部抗体(scFv)と、ラクダ科(Camelidae、ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマを含む)の動物が産生する軽鎖がないIgGのクラスであるラクダ重鎖抗体(HCAb)又はその重鎖可変部ドメイン(VD)とを含む。前記組換え抗体は原核生物及び真核生物由来の遺伝子発現システムを用いて大量に調製することができる。

【0031】
本発明の免疫学的分析方法における「本発明の抗GAP43抗体を準備する」工程は、本発明の抗GAP43抗体を入手すること、又は本発明の抗GAP43抗体を調製することを含む。本発明の抗GAP43抗体を入手する方法としては、既に作製された本発明の抗GAP43抗体を、特定の供給元から無償又は有償で入手することが挙げられる。本発明の抗GAP43抗体を調製する方法は、前述の当業者に知られたさまざまな方法によって実施される場合がある。

【0032】
本発明の免疫学的分析方法における「被験試料を準備する」工程は、本発明の免疫学的分析方法に適用可能な被験試料を入手すること、又は本発明の免疫学的分析方法に適用可能な被験試料を調製することを含む。被験試料を入手する方法としては、既に調製された被験試料を、特定の供給源から無償又は有償で入手することが挙げられる。被験試料を調製する方法は、生体からの採取、細胞培養等によって実施される場合がある。前記被験試料は、採取した細胞、組織及び器官と、培養細胞と、細胞溶解物と、合成ポリペプチドとを含むがこれらに限定されない。前記被験試料は、配列番号13のアミノ酸配列の少なくとも一部分を含む、GAP43、その変異体又はポリペプチドか、あるいは融合タンパク質を含むことが一般的である。前記融合タンパク質は、配列番号13のアミノ酸配列の少なくとも一部分を含むGAP43、その変異体又はポリペプチドと、タグタンパク質又はタグペプチドとの融合タンパク質の場合がある。前記タグタンパク質は、緑色蛍光タンパク質(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(EYFP)及びシアン色蛍光タンパク質(ECFP)を含むがこれらに限定されない。前記タグペプチドは、Hisタグ、Mycタグ、HAタグ及びFLAGタグを含むがこれらに限定されない。配列番号13のアミノ酸配列の少なくとも一部分を含む、GAP43、その変異体又はポリペプチドと、融合タンパク質とは、リン酸化される場合がある。前記被験試料の生物種は、本発明の抗GAP43抗体によって、リン酸化されていない特定のセリン残基又はスレオニン残基と、リン酸化された特定のセリン残基又はスレオニン残基とを識別できることを条件として、ヒト、サル、マウス及びラットを含むがこれらに限定されない。前記特定のセリン残基及びスレオニン残基は、マウスGAP43の第86番目のセリン残基(S86)、第89番目のスレオニン残基(T89)、第95番目のスレオニン残基(T95)、第96番目のセリン残基(S96)、第103番目のセリン残基(S103)、第128番目のセリン残基(S128)、第142番目のセリン残基(S142)、第145番目のセリン残基(S145)、第171番目のスレオニン残基(T171)、第172番目のスレオニン残基(T172)、又は、第192番目のセリン残基(S192)の場合がある。

【0033】
本発明の免疫学的分析方法における「前記抗GAP43抗体と、前記被験試料とを接触させる」工程は、前記被験試料が固定された固体支持体を用いて実施される場合がある。前記固体支持体は、前記被験試料の免疫原性を失うことなく固定できるものであればよく、さまざまな材料又は形状の固体を利用することができる。前記固体支持体は、ポリマー材料、ガラス、セラミック、ゲル、膜、天然繊維、シリコーン、金属及びそれらの複合材料を含むがこれらに限定されない材料から加工される場合がある。前記固体支持体は、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、マルチアレイチップ、センサーチップ又はラテックス凝集法用微粒子のような、自動分析システムによって取り扱うのに適する形状を有する固体支持体が含まれる。前記接触させる工程では、複数の抗GAP43抗体が組み合わせて用いられる場合がある。本発明の免疫学的分析方法は、本発明の抗GAP43抗体以外の他の抗体と、前記被験試料とを接触させる工程を含む場合がある。前記他の抗体は、商業的に入手可能な抗β-アクチン抗体及び抗ニューロフィラメント抗体を含むがこれらに限定されない。

【0034】
本発明の免疫学的分析方法における「被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量する」工程は、被験試料に結合した抗GAP43抗体又は二次抗体等の標識により検出又は定量される場合がある。前記抗GAP43抗体は、ビオチンのような低分子リガンド、酵素、放射性同位元素、色素、蛍光色素等で標識される場合がある。前記抗GAP43抗体に対する二次抗体か、前記ビオチンのような低分子リガンドに特異的に結合するアビジンのような生体高分子かは、酵素、放射性同位元素、色素、蛍光色素等で標識される場合がある。前記酵素は、ペルオキシダーゼ(POD)、ベータ-ガラクトシダーゼ(β-Gal)、アルカリホスファターゼ(ALP)等である。前記酵素は、適切な基質と組み合わせて用いられることが一般的である。検出する工程は、イメージングプレートに感光する工程か、CCDカメラで撮影する工程か、顕微鏡で観察する工程かを含む場合がある。定量する工程は、既知の濃度又は量の被験試料に結合した抗GAP43抗体の量を数値化してプロットした検量線を作成する工程と、前記検量線を用いて、未知の濃度又は量の被験試料に結合した前記抗GAP43抗体の量から該被験試料の濃度又は量を算出する工程とを含む場合がある。検量線を作成するために、濃度又は量が知られた被験試料が少なくとも2種類あればよいが、定量精度を確保するために3種類又は4種類以上あることが好ましい。検出又は定量する工程は、被験試料に結合しなかった抗GAP43抗体及び他の抗体を洗浄により除去する工程を含む場合がある。

【0035】
本発明の免疫学的分析方法において、神経の発生及び/又は再生を評価するとき、被験試料に結合した抗GAP43抗体の量が、基準値よりも高い値を示す場合に、神経の発生及び/又は再生は良好であると判断される場合がある。前記基準値は、当業者に周知な統計処理によって算出することができる。前記基準値は、特定の母集団から調製された被験試料に結合した抗GAP43抗体の量の平均値として決定される場合がある。この場合に用いられる母集団は、正常な被験動物か、神経が再生された被験動物かの場合がある。前記母集団の被験動物と、評価される被験動物とは、生物種、年齢及び性別が同じであることが好ましい。

【0036】
本発明の免疫学的分析方法における「被験試料に結合した前記抗GAP43抗体を検出又は定量する」工程は、当業者に知られたさまざまな手法によって実施される場合がある。例えば、前記手法は、ELISA法、ウエスタンブロット法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集法、免疫組織化学法、又はこれらの2種以上の組み合わせを含むが、これらに限定されない。前記表面プラズモン共鳴(SPR)法とは、光学現象を利用して、固体支持体上に固定化された分子と、相互作用の相手となる分子との固体支持体上における特異的相互作用を微細な質量変化として測定する手法をいう。SPR法を実施するためのシステムとしては、例えばBIAcoreシステム(BIAcore、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)が利用できる。前記ラテックス凝集法とは、分光光度計を利用して、固体支持体であるラテックス等の微粒子又はナノ微粒子に結合した抗体の量に応じた微粒子の凝集反応の程度を比濁度の変化として測定する手法をいう。

【0037】
本発明の免疫学的分析方法を実行するためのキットは、本発明の抗GAP43抗体の他、検量線を作成するための既知の濃度又は量の対照試料を含む場合がある。前記対照試料は、配列番号13のアミノ酸配列の少なくとも一部分が含まれ、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化された、GAP43、その変異体又はポリペプチドか、融合タンパク質かの場合がある。前記特定のセリン残基及びスレオニン残基は、マウスGAP43の第86番目のセリン残基(S86)、第89番目のスレオニン残基(T89)、第95番目のスレオニン残基(T95)、第96番目のセリン残基(S96)、第103番目のセリン残基(S103)、第128番目のセリン残基(S128)、第142番目のセリン残基(S142)、第145番目のセリン残基(S145)、第171番目のスレオニン残基(T171)、第172番目のスレオニン残基(T172)、又は、第192番目のセリン残基(S192)の場合がある。本発明の免疫学的分析方法を実行するためのキットは、更に、本発明の抗GAP43抗体を検出又は定量するための試薬を含む場合がある。前記試薬としては、前記抗GAP43抗体を検出又は定量するための手法に応じて適宜選択された試薬を含み、例えば、希釈液としてのリン酸緩衝液等の緩衝液、発色剤を挙げることができる。

【0038】
本発明は、前記免疫学的分析方法を実行できるように構成される、GAP43の免疫学的分析装置を提供する。前記装置には、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、CCDカメラ等の検出ユニット、分光光度計、蛍光分光光度計、表面プラズモン共鳴測定器等の測定ユニット、試薬、洗浄液及び/又は試料の注入及び/又は除去のためのディスペンサーユニット、ELISA用マルチウェルプレートや表面プラズモン共鳴用センサーチップのハンドリングのためのロボットアームユニット、それらの制御のための制御ユニット等が含まれる。

【0039】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。

【0040】
以下の実験は、新潟大学動物実験倫理委員会によって承認された後に実施された(承認番号:新大研第44号、承認日:2006年9月27日)。
【実施例1】
【0041】
抗GAP43抗体の作製
1 材料及び方法
1.1 ポリペプチドの入手
非リン酸化ポリペプチド12種類と、リン酸化ポリペプチド12種類とがシグマ アルドリッチ ジャパン株式会社から購入された。前記非リン酸化ポリペプチド12種類のアミノ酸配列は、配列番号1ないし12に列挙される。リン酸化ポリペプチド12種類それぞれについては以下に説明される。
リン酸化ポリペプチド第1番は、配列番号1に示されるアミノ酸残基14個のアミノ酸配列を含み、第9番目のスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pT89」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第2番は、配列番号2に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS96」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第3番は、配列番号3に示されるアミノ酸残基14個のアミノ酸配列を含み、第9番目のスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pT172」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第4番は、配列番号4に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pT172(♯2)」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第5番は、配列番号5に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS142」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第6番は、配列番号6に示されるアミノ酸残基14個のアミノ酸配列を含み、第9番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS145」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第7番は、配列番号7に示されるアミノ酸残基14個のアミノ酸配列を含み、第8番目のスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pT171」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第8番は、配列番号8に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS86」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第9番は、配列番号9に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のスレオニン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pT95」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第10番は、配列番号10に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS103」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第11番は、配列番号11に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS128」という。)であった。リン酸化ポリペプチド第12番は、配列番号12に示されるアミノ酸残基13個のアミノ酸配列を含み、第8番目のセリン残基がリン酸化されたポリペプチド(以下、「GAP43 pS192」という。)であった。
【実施例1】
【0042】
1.2 抗原の作製
12種類のペプチド抗原が、当業者に周知の方法に従って作製された。簡潔には、12種類のポリペプチド抗原は、それぞれ、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(MBS)(カタログ番号M2786、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いてスカシ貝ヘモシアニン(KLH)(カタログ番号H7017、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と結合された。
【実施例1】
【0043】
1.3 抗血清の調製
初回免疫では、前記ペプチド抗原200μgがフロイント完全アジュバント(FCA)(カタログ番号F5881、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と混合され、ウサギに投与された。初回免疫後、GAP43 pT89、GAP43 pS96、GAP43 pS145、GAP43 pT171、及び、GAP43 pT172についてのペプチド抗原100μgが、フロイント不完全アジュバント(以下、「FIA」という。)(カタログ番号F5506、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と混合され、7日毎に投与された。採血が初回免疫から49日後に行われ、抗血清が得られた。初回免疫後、GAP43 pS86、GAP43 pT95、GAP43 pS103、GAP43 pS128、GAP43 pS142、GAP43 pT172(♯2)、及び、GAP43 pS192についてのペプチド抗原100μgがFIAと混合され、14日毎に投与された。採血が初回免疫から84日後に行われ、抗血清が得られた。
【実施例1】
【0044】
1.4 抗GAP43抗体の精製
前記抗血清は、当業者に周知な方法でアフィニティー精製された。簡潔には、前記抗血清はPD-10カラム(カタログ番号54805、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)で脱塩され、前記リン酸化ポリペプチドを固定化した担体(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と混合された。前記リン酸化ポリペプチドを固定化したTOYOPEARL AF-Tresyl-6504B担体(カタログ番号14471、東ソー株式会社)と混合された。混合後、沈降した担体はリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」という。)で洗浄された。抗体は0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH 2.5)で溶出され、1M トリス塩酸緩衝液(pH 8.0)で中和された。前記抗体はPBS/50%グリセロール/15ppmプロクリン溶液で調製され、-20℃で保存された。以下、GAP43 pT89、GAP43 pS96、GAP43 pT172、GAP43 pT172(♯2)、GAP43 pS142、GAP43 pS145、GAP43 pT171、GAP43 pS86、GAP43 pT95、GAP43 pS103、GAP43 pS128、及び、GAP43 pS192についてのペプチド抗原に対する抗GAP43抗体それぞれを、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43 pT172(♯2)抗体、抗GAP43 pS142抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、抗GAP43 pS86抗体、抗GAP43 pT95抗体、抗GAP43 pS103抗体、抗GAP43 pS128抗体、及び、抗GAP43 pS192抗体という。
【実施例1】
【0045】
1.5 ELISA法を用いた抗GAP43抗体の特異性の評価
抗GAP43抗体の交叉反応性がELISA法で調べられた。簡潔には、前記非リン酸化ポリペプチド12種類と、前記リン酸化ポリペプチド12種類とが、それぞれ、マルチウェルプレートに添加され、前記プレート上に固定化された。ブロッキング後、前記抗GAP43抗体が、それぞれ、一次抗体として前記プレートに添加された。その後、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体が二次抗体として添加された。基質溶液の添加後、吸光度(405nm)がマイクロプレートリーダーによって測定された。
【実施例1】
【0046】
1.6 ウエスタンブロット法を用いた抗GAP43抗体の特異性の評価
GAP43に対する抗GAP43抗体それぞれの交叉反応性がウエスタンブロット法で調べられた。前記ウエスタンブロット法は、当業者に周知の標準的な方法に従って実施された。簡潔には、ラット新生仔の前脳の成長円錐画分(2μg/mL、50μL)(以下、「GCP」という。)が用いられた。一次抗体の抗GAP43ウサギ抗体のそれぞれの最終濃度は以下のとおりであった。抗GAP43 pS86抗体(0.7μg/mL)、抗GAP43 pT89抗体(0.35μg/mL)、抗GAP43 pT95抗体(0.09μg/mL)、抗GAP43 pS96抗体(0.5μg/mL)、抗GAP43 pS103抗体(0.6μg/mL)、抗GAP43 pS128抗体(1.26μg/mL)、抗GAP43 pS142抗体(1.37μg/mL)、抗GAP43 pS145抗体(0.75μg/mL)、抗GAP43 pT171抗体(0.78μg/mL)、抗GAP43 pT172抗体(0.26μg/mL)、抗GAP43 pT172(#2)抗体(0.37μg/mL)、及び、抗GAP43 pS192抗体(0.08μg/mL)。0.156μg/mLのペルオキシダーゼ標識ロバ抗ウサギIgG抗体(カタログ番号NA934、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)が二次抗体として用いられた。検出は、ECLウエスタンブロッティング検出試薬(カタログ番号RPN2108、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて実施された。
【実施例1】
【0047】
2 結果
2.1 ELISA法を用いた抗GAP43抗体の特異性の評価
抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43 pT172(♯2)抗体、抗GAP43 pS142抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、抗GAP43 pS86抗体、抗GAP43 pT95抗体、抗GAP43 pS103抗体、抗GAP43 pS128抗体、及び、抗GAP43 pS192抗体は、それぞれ、GAP43 pT89、GAP43 pS96、GAP43 pT172、GAP43 pT172(♯2)、GAP43 pS142、GAP43 pS145、GAP43 pT171、GAP43 pS86、GAP43 pT95、GAP43 pS103、GAP43 pS128、及び、GAP43 pS192に対して交叉反応性を有する一方、非リン酸化ポリペプチドに対して交叉反応性を有さなかった(データは示されない。)。したがって、前記抗体全ては、非リン酸化ポリペプチドと、リン酸化ポリペプチドとを明確に識別できることが示された。
【実施例1】
【0048】
2.2 ウエスタンブロット法を用いた抗GAP43抗体の特異性の評価
図1は、ラット成長円錐粒子由来の試料(GCP)に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真である。抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、抗GAP43 pS142抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体は、GCPに対して特異的な交叉反応性を有した。また、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体は、特に強い交叉反応性を有した。なお、抗GAP43 pS86抗体、抗GAP43 pT95抗体、抗GAP43 pS103抗体、抗GAP43 pS128抗体、及び、抗GAP43 pS192抗体は、GCPに対して特異的な交叉反応性を有さなかった(データは示されない。)。
【実施例1】
【0049】
本実施例の実験結果から、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、抗GAP43 pS142抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体それぞれは、GCPに対して特異的な交叉反応性を有することが示された。したがって、前記抗体は、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、特定のセリン残基又はスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できることが示唆された。
【実施例2】
【0050】
抗GAP43 pS96抗体及び抗GAP43 pT172抗体の性状解析
1 材料及び方法
抗GAP43 pS96抗体及び抗GAP43 pT172抗体の性状が、実施例1に記載のウエスタンブロット法で解析された。緑色蛍光タンパク質(maxGFP)か、マウスGAP43の融合タンパク質かをエンコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターがCOS-7細胞にトランスフェクションされた。前記融合タンパク質は、(1)緑色蛍光タンパク質(EGFP)及びGAP43の融合タンパク質(以下、「EGFP-GAP43」という。)か、(2)EGFPと、GAP43の第96番目のアミノ酸残基をセリン残基(S)からアラニン残基(A)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「EGFP-GAP43 S96A」という。)か、(3)EGFPと、GAP43の第96番目のアミノ酸残基をセリン残基(S)からアスパラギン酸残基(D)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「EGFP-GAP43 S96D」という。)か、(4)EGFPと、GAP43の第172番目のアミノ酸残基をスレオニン残基(T)からアラニン残基(A)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「EGFP-GAP43 T172A」という。)か、(5)EGFPと、GAP43の第172番目のアミノ酸残基をスレオニン残基(T)からアスパラギン酸残基(D)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「EGFP-GAP43 T172D」という。)か、(6)フラッグタグ(FLAG)及びGAP43の融合タンパク質(以下、「FLAG-GAP43」という。)か、(7)FLAGと、GAP43の第96番目のアミノ酸残基をセリン残基(S)からアラニン残基(A)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「FLAG-GAP43 S96A」という。)か、(8)FLAGと、GAP43の第96番目のアミノ酸残基をセリン残基(S)からアスパラギン酸残基(D)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「FLAG-GAP43 S96D」という。)か、(9)FLAGと、GAP43の第172番目のアミノ酸残基をスレオニン残基(T)からアラニン残基(A)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「FLAG-GAP43 T172A」という。)か、(10)FLAGと、GAP43の第172番目のアミノ酸残基をスレオニン残基(T)からアスパラギン酸残基(D)に置換した変異体との融合タンパク質(以下、「FLAG-GAP43 T172D」という。)かであった。前記maxGFPか、前記融合タンパク質かを含む細胞溶解液が、前記発現ベクターをトランスフェクションしたCOS-7細胞から調製された。なお、GCPと、未分化神経細胞であるPC12D細胞から調製された細胞溶解液(以下、「PC12D」という。)と、神経成長因子(NGF)で刺激されたPC12D細胞から調製された細胞溶解液(以下、「PC12D/NGF(+)」という。)と、トランスフェクションされていないCOS-7細胞から調製された細胞溶解液(以下、「COS-7」という。)とが対照として用いられた。EGFP-GAP43 S96A、EGFP-GAP43 S96D、EGFP-GAP43 T172A、及び、EGFP-GAP43 T172Dの発現を検出するために、最終濃度1μg/mLの抗EGFPモノクローナル抗体(カタログ番号M048-3、株式会社医学生物学研究所)が一次抗体として用いられ、最終濃度0.156μg/mLのペルオキシダーゼ標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(カタログ番号NA931、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)が二次抗体として用いられた。EGFP-GAP43 S96A、EGFP-GAP43 S96D、EGFP-GAP43 T172A、及び、EGFP-GAP43 T172Dに対する交叉反応性を比較するために、市販の抗GAP43モノクローナル抗体(カタログ番号G9264、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と、実施例1で調製された抗GAP43抗体とが一次抗体として用いられた。前記抗GAP43モノクローナル抗体に対する二次抗体は、ペルオキシダーゼ標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(カタログ番号NA931、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)が用いられた。
【実施例2】
【0051】
2 結果
2.1 融合タンパク質の発現
図2は、マウスGAP43の融合タンパク質の発現検出実験の結果を示すウエスタンブロット写真である。COS-7細胞におけるEGFP-GAP43 S96A、EGFP-GAP43 S96D、EGFP-GAP43 T172A、及び、EGFP-GAP43 T172Dの発現が確認された。
【実施例2】
【0052】
2.2 抗GAP43 pS96抗体の性状解析
図3は、さまざまな試料に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験(1)の結果を示すウエスタンブロット写真である。抗GAP43モノクローナル抗体は、GCP、EGFP-GAP43 S96A、EGFP-GAP43 S96D、EGFP-GAP43 T172A、及び、EGFP-GAP43 T172Dに対して交叉反応性を有した一方、PC12D、COS-7、及び、maxGFPに対して交叉反応性を有さなかった。また、抗GAP43 pS96抗体は、GCP、EGFP-GAP43 T172A、及び、EGFP-GAP43 T172Dに対して交叉反応性を有した一方、PC12D、COS-7、maxGFP、EGFP-GAP43 S96A、及び、EGFP-GAP43 S96Dに対して交叉反応性を有さなかった。図4は、さまざまな試料に対する抗GAP43抗体の交叉反応実験(2)の結果を示すウエスタンブロット写真である。抗GAP43モノクローナル抗体は、GCP、EGFP-GAP43、及び、EGFP-GAP43 S96Aに対して交叉反応性を有した。抗GAP43 pS96抗体は、GCP及びEGFP-GAP43に対して交叉反応性を有した一方、EGFP-GAP43 S96Aに対して交叉反応性を有さなかった。なお、抗GAP43モノクローナル抗体及び抗GAP43 pS96抗体は、PC12D/NGF(+)に対して交叉反応性を有した(データは示されない。)。
【実施例2】
【0053】
2.4 抗GAP43 pT172抗体の性状解析
図5は、さまざまな試料に対する抗GAP43 pT172抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真である。抗GAP43 pT172抗体は、FLAG-GAP43、FLAG-GAP43 S96A及びFLAG-GAP43 S96Dに対して交叉反応性を有した一方、FLAG-GAP43 T172A、及び、FLAG-GAP43 T172Dに対して交叉反応性を有さなかった。
【実施例2】
【0054】
本実施例の実験結果から、抗GAP43モノクローナル抗体は、第96番目のセリン残基又は第172番目のスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、第96番目のセリン残基又は第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できないことが示された。
これに対して、抗GAP43 pS96抗体は、第96番目のセリン残基がリン酸化されていないGAP43と、第96番目のセリン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できることが示された。また、抗GAP43 pT172抗体は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できることが示された。さらに、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、抗GAP43 pS142抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体それぞれは、GCPに特異的な交叉反応性を有するため、第89番目のスレオニン残基、第145番目のセリン残基、第171番目のスレオニン残基、第142番目のセリン残基、又は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、第89番目のスレオニン残基、第145番目のセリン残基、第171番目のスレオニン残基、第142番目のセリン残基、又は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できることが示唆された。
【実施例3】
【0055】
抗GAP43抗体の免疫細胞化学染色解析
1 材料及び方法
1.1 ラット大脳皮質神経細胞の初代培養
大脳皮質神経細胞は、ラット(SDラット、雌、日本エスエルシー株式会社)の新生仔の脳から調製された。簡潔には、大脳皮質神経細胞が、細胞分散用試薬(Accumax(登録商標)、Innovative Cell Technologies, Inc.、フナコシ株式会社)で処理され、0.05%ポリエチレンイミン(カタログ番号P3143、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)でコーティングしたカバーガラス上に播種された。前記カバーガラスは培養ディッシュ(カタログ番号353002、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に載置され、前記細胞は、B27サプリメント(カタログ番号0050129SA、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(カタログ番号G6784、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を含む市販培地(Neurobasal Medium、カタログ番号21103-049、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、37℃、5%CO及び飽和水蒸気雰囲気下で3日間培養された。
【実施例3】
【0056】
1.2 ラット脊髄後根神経節(DRG)細胞の初代培養
脊髄後根神経節細胞は、ラット(SDラット、雌及び雄、生後1日齢、日本エスエルシー株式会社)から調製された。簡潔には、頸椎から腰椎までが摘出され、脊髄後根神経節細胞が採取された。前記脊髄後根神経節細胞は、ポリL-リジン(カタログ番号P4832、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)でコーティングしたカバーガラス上に播種された。前記カバーガラスは培養ディッシュ(カタログ番号353002、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に載置され、前記細胞は、B27サプリメント(カタログ番号0050129SA、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(カタログ番号G6784、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を含む市販培地(Neurobasal Medium、カタログ番号21103-049、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、37℃、5%CO及び飽和水蒸気雰囲気下で3日間培養された。
【実施例3】
【0057】
1.3 免疫細胞化学染色
培養後、前記細胞はブアン固定液(飽和ピクリン酸水溶液:ホルマリン溶液=3:1<体積比>)で10分間固定された。PBSで洗浄後、前記細胞は、0.1%Triton X-100/PBSで10分間透過処理された。その後、免疫細胞化学染色が実施された。
【実施例3】
【0058】
染色には、一次抗体として、実施例1で作製された抗GAP43抗体12種類と、市販の抗リン酸化GAP43pS41ポリクローナル抗体(カタログ番号G8043、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、抗GAP43モノクローナル抗体と、抗α-チューブリンモノクローナル抗体(カタログ番号T9026、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)とが、100~500倍希釈で用いられた。また、二次抗体として、Alexa488蛍光標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(カタログ番号A11034、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)と、Alexa568蛍光標識ヤギ抗マウス抗体(カタログ番号A11031、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)とが、それぞれ1000倍希釈で用いられた。その後、ProLong Gold退色防止試薬(カタログ番号P36930、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)で包埋され、倒立蛍光顕微鏡(Axiovert200、カールツァイス株式会社)で観察された。
結果を図6~図7に示す。図6において上段の左は抗GAP43S41抗体、中央は成長円錐と軸索全体を認識する抗微小管抗体(マイクロチュブリン抗体(カタログ番号MAB3408,ケミコン株式会社))、右はそのマージ像を示し、下段の左は抗GAP43pT171抗体、中央は抗微小管抗体、右はそのマージ像を示す。マージとは、それぞれリン酸化抗体と他の抗体との2重染色像の重ね合わせを意味する。図8の上段は、抗GAP43pS96抗体を用いた結果であり、下段は、抗GAP43pS171抗体を用いた結果であり、それぞれ、左側は位相差顕微鏡像であり、右側は蛍光顕微鏡写真像である。
【実施例3】
【0059】
2 結果
2.1 ラット大脳皮質神経細胞の免疫細胞化学染色
図6は、さまざまな抗GAP43抗体で免疫細胞化学染色されたラット大脳皮質神経細胞の蛍光顕微鏡写真である。抗GAP43pS41ポリクローナル抗体及び抗GAP43 pT171抗体は、神経細胞全体に反応した(図6下段参照)。一方、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、及び、抗GAP43 pT89抗体は、神経細胞の先端に位置する成長円錐、特に中央域で特異的に反応した。
【実施例3】
【0060】
図7は、抗GAP43モノクローナル抗体及び抗GAP43 pS96抗体で免疫細胞化学染色されたラット大脳皮質神経細胞の蛍光顕微鏡写真である。抗GAP43モノクローナル抗体は、樹状突起を含む神経細胞全体で反応した。
【実施例3】
【0061】
2.2 ラット脊髄後根神経節細胞の免疫細胞化学染色
図8は、抗GAP43 pS96抗体で免疫細胞化学染色されたラット脊髄後根神経節細胞の蛍光顕微鏡写真である。抗GAP43 pS96抗体は、神経節細胞の成長円錐の中央域で特異的に反応した。
【実施例3】
【0062】
ラットGAP43及びマウスGAP43のアミノ酸配列は、ともに、第41番目がセリン残基、第89番目がスレオニン残基、第96番目がセリン残基、第171番目がスレオニン残基、第172番目がスレオニン残基である。また、ラットGAP43には、配列番号1ないし12のアミノ酸配列が保存される。そこで、本実施例のリン酸化GAP43特異的抗体は、マウスGAP43だけでなく、ラットGAP43にも反応すると予測された。本実施例の実験結果からこの予測が確認された。さらに、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、及び、抗GAP43 pT89抗体は、抗GAP43モノクローナル抗体と比較して成長円錐を特異的に検出できることが示された。また、第89番目のスレオニン残基、第96番目のセリン残基、又は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43は、神経細胞の成長円錐に局在することが示された。さらに、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43は成長円錐に局在し、第171番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43は神経細胞全体で存在した。したがって、GAP43のリン酸化は、神経細胞が軸索を正しく伸長し、シナプスを正しく形成するために厳密に制御されていることが示唆された。特に成長円錐では、GAP43の第89番目のスレオニン残基と、第96番目のセリン残基と、第172番目のスレオニン残基とのリン酸化が、GAP43の第41番目のセリン残基のリン酸化よりも重要であることが示唆された。なお、抗GAP43 pT172抗体と同一のリン酸化スレオニンを認識する抗GAP43 pT172(♯2)抗体も成長円錐を特異的に検出できることが示唆された。
【実施例4】
【0063】
抗GAP43抗体の免疫組織化学染色解析
1 材料及び方法
1.1 脊髄損傷モデルマウスの作製(中枢神経損傷再生モデル)
脊髄損傷処置が当業者に周知な方法で実施された。簡潔には、マウス(C57BL6J、雄、8週齢、日本チャールス・リバー株式会社)は麻酔下で背部を切開され、脊椎が露出された。第8-11番胸椎(T8-11)の椎弓が電気ドリルで切除された。その後、市販の装置(IH Impactor、Precision Systems)を用いて、錘(2.5g)が2cm垂直上方から前記胸椎に3回落下され、脊髄が損傷された。免疫組織化学染色解析が、処置後21日目に実施された。脊髄損傷処置が施されていないマウスが、対照として用いられた。
【実施例4】
【0064】
1.2 末梢神経再生モデルマウスの作製(末梢神経再生モデル)
末梢神経再生モデルマウス作成が当業者に周知な方法で実施された。簡潔には、マウス(C57BL6J、雄、8週齢、日本チャールス・リバー株式会社)は麻酔下で足関節部を切開され、筋皮神経を尺骨神経にバイパス移植が行われた。免疫組織化学染色解析が、処置後7日目に実施された。
【実施例4】
【0065】
1.3 発生過程の胎児脳
妊娠マウス(Slc:ICR、雌、妊娠15日齢及び12日齢、日本エスエルシー株式会社)は麻酔下で切開され、胎児が摘出された。
【実施例4】
【0066】
1.4 凍結組織切片の作製
凍結組織切片が当業者に周知な方法で作製された。簡潔には、脊髄損傷処置及び脊髄後根神経節損傷処置後、または胎仔が摘出された後、前記マウスは4%パラホルムアルデヒド/PBS(PFA液)で灌流固定された。脊髄損傷部位及び脊髄後根神経節損傷部位が摘出され、さらにPFA液で固定された。固定された前記部位はスクロース溶液で置換され、凍結組織包埋剤(Tissue-tek OCT compound、カタログ番号4583、サクラファインテックジャパン株式会社)で包埋された。厚さ10μmの切片が凍結切片作製装置(クリオスタット、ライカ マイクロシステムズ株式会社)によって作製され、ゼラチンでコーティングしたスライドガラスに載置された。
【実施例4】
【0067】
1.5 免疫組織化学染色
脊髄損傷モデルマウス実験では、免疫組織化学染色が実施例3に記載の方法に従って実施された。抗GAP43 pS96抗体と抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43モノクローナル抗体及び抗GAP43 pS41抗体が一次抗体として用いられた。また、Alexa488蛍光標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(カタログ番号A11034、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)と、Alexa568蛍光標識ヤギ抗マウス抗体(カタログ番号A11031、Invitrogen、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)とが二次抗体として用いられた。
【実施例4】
【0068】
発生過程の胎児脳に関する実験では、抗GAP43 pS96抗体と抗GAP43 pT172抗体、抗GAP43モノクローナル抗体及び抗GAP43 pS41抗体が一次抗体として用いられた。また、ビオチン標識ウマ抗マウス抗体(カタログ番号BA-2001、VECTOR Laboratories社)と、ビオチン標識ヒツジ抗ウサギ抗体(カタログ番号BA-1000、VECTOR Laboratories社)とが二次抗体として用いられた。
【実施例4】
【0069】
末梢神経再生モデルマウス実験では、免疫組織化学染色が市販のキット(Vectorstain Elite ABC standard kit、カタログ番号PK6100、Vector Laboratories, Inc.、フナコシ株式会社)を用いて製造者の指示書に従って実施された。前記染色では、抗GAP43 pS96抗体と、抗ニューロフィラメント(NF)抗体(カタログ番号ab77745、アブカム株式会社)とが一次抗体として用いられた。また、ビオチン標識ヒツジ抗マウス抗体(カタログ番号RPN1001、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)と、ビオチン標識ロバ抗ウサギ抗体(カタログ番号RPN1004、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)とが二次抗体として用いられた。
【実施例4】
【0070】
2 結果 (末梢神経・中枢神経双方の再生神経の認識)
2.1 末梢神経再生モデルマウス実験の解析
図9は、尺骨神経にバイパス移植された筋皮神経が尺骨神経内に新しく移植神経からの再生する様子を移植後1週間にて免疫組織化学で解析した写真である。抗NF(ニューロフィラメント(中間径線維))抗体で染色をするとすべての神経を認識している。 一部の神経は筋皮神経からの再生神経を含んでいるが、抗NF抗体はすべての神経線維を認識するため再生神経のみをとらえることはできない。抗GAP43 pS96抗体ではこのうち再生神経のみを正しく認識し反応した。拡大写真からも伸長過程にある形状の筋皮神経からの再生神経に対して反応した。
【実施例4】
【0071】
2.2 脊髄損傷モデルマウス(中枢神経再生モデル)の解析
図10は、抗GAP43 pS96抗体及び抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された損傷後21日目の脊髄損傷部位の蛍光顕微鏡写真である。抗GAP43モノクローナル抗体は、非損傷部位及び損傷部位の神経細胞に反応した。抗GAP43 pS96抗体は、非損傷部位の神経細胞に反応しない一方、損傷部位の神経細胞に反応した。
図11は、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、 抗GAP43 pS41抗体および抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された脊髄損傷後7日目の脊髄損傷部位の顕微鏡写真である。抗GAP43 pS41抗体は、損傷部位の神経細胞に反応しない。抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体は、損傷部位の神経細胞に反応した。
【実施例4】
【0072】
2.3 発生過程の胎児脳に関する解析
図12は抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、 抗GAP43 pS41抗体および抗GAP43モノクローナル抗体で免疫組織化学染色された発生過程の胎児脳のA:胎生期15日目の視床大脳皮質路、B:胎生期12日目の嗅覚神経の顕微鏡写真である。抗GAP43 pS41抗体は、A,Bの神経回路に反応しない。抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体は、A,Bの神経回路に激しく反応した。
【実施例4】
【0073】
2.4 ウエスタンブロット法を用いた哺乳動物間での抗GAP43抗体の交差性の評価
図13は、アカゲザルに対する抗GAP43抗体の交叉反応実験の結果を示すウエスタンブロット写真である。抗GAP43 pT172抗体は、アカゲザルの視覚野に対し強い交叉反応性を有した。なお、抗GAP43 pT96抗体は、アカゲザルに対して特異的な交叉反応性を有さなかった。
【実施例4】
【0074】
本実施例の実験結果から、中枢神経及び末梢神経の再生過程の神経細胞は、抗GAP43 pS96抗体によって選択的に検出できる一方、抗GAP43モノクローナル抗体では選択的に検出できないことが示された。また、成長円錐に特異的に反応した抗GAP43 pT89抗体及び抗GAP43 pT172抗体と、該抗GAP43 pT172抗体と同一のリン酸化スレオニンを認識する抗GAP43 pT172(♯2)抗体とは、前記抗GAP43 pS96抗体と同様に、発生及び再生過程の神経細胞を選択的に検出できることが示唆された。
【実施例4】
【0075】
結論
これらの実施例の実験結果から、抗GAP43 pS96抗体及び抗GAP43 pT172抗体は、第96番目のセリン残基又は第172番目のスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、第96番目のセリン残基又は第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できることが示された。また、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS142抗体、抗GAP43 pS145抗体、抗GAP43 pT171抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体は、それぞれ、GCPに対して特異的な交叉反応性を有するため、第89番目のスレオニン残基、第142番目のセリン残基、第145番目のセリン残基、第171番目のスレオニン残基、又は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されていないGAP43と、第89番目のスレオニン残基、第142番目のセリン残基、第145番目のセリン残基、第171番目のスレオニン残基、又は、第172番目のスレオニン残基がリン酸化されたGAP43とを識別できる。また、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS96抗体、及び、抗GAP43 pT172抗体は、抗GAP43モノクローナル抗体と比較して、成長円錐に特異的に反応することが示された。さらに、抗GAP43 pT89抗体、抗GAP43 pS96抗体、抗GAP43 pT172抗体、及び、抗GAP43 pT172(♯2)抗体は、中枢神経及び末梢神経の発生・再生過程の神経細胞を検出できることが示唆された。したがって、本発明の抗GAP43抗体と、該抗体を利用する免疫学的分析方法とは、神経の発生及び/又は再生を定量的に評価するのに有用である。
【実施例4】
【0076】
2011年10月20日に出願された日本国特許出願第2011-230577号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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