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明細書 :遺伝子発現抑制用二本鎖核酸分子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6137484号 (P6137484)
登録日 平成29年5月12日(2017.5.12)
発行日 平成29年5月31日(2017.5.31)
発明の名称または考案の名称 遺伝子発現抑制用二本鎖核酸分子
国際特許分類 C12N  15/113       (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAG
C12N 15/00 A
A61K 31/713
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 20
全頁数 34
出願番号 特願2013-541839 (P2013-541839)
出願日 平成24年11月1日(2012.11.1)
国際出願番号 PCT/JP2012/078348
国際公開番号 WO2013/065791
国際公開日 平成25年5月10日(2013.5.10)
優先権出願番号 2011241547
優先日 平成23年11月2日(2011.11.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年10月30日(2015.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
発明者または考案者 【氏名】立花 亮
【氏名】田辺 利住
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】小林 薫
参考文献・文献 特表2010-537640(JP,A)
国際公開第2011/132672(WO,A1)
特表2008-512500(JP,A)
ChemBioChem, 2008, Vol.9, p.2722-2729
EMBO J., 2001, Vol.20, No.23, p.6877-6888
第83回日本生化学会大会・第33回日本分子生物学会年会合同大会講演要旨集, 2010, 4P-0803
Mol. Cancer Ther., 2007, Vol.6, No.3, p.833-843
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
二本鎖核酸分子を含む、遺伝子発現抑制剤であって、
該二本鎖核酸分子は、
18~28塩基長のアンチセンス鎖、及び
アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5’末端に~100塩基長の一本鎖突出部分とを含む、センス鎖
を含み、
該相補的部分を介してセンス鎖とアンチセンス鎖が塩基対合し、
該一本鎖突出部分は、その長さに基づいて40%~100%のG含量を有し、かつ、gna又はgnna(ここで各nは独立に任意の塩基である)からなるループ部分を有するヘアピン構造を形成せず、また、
該センス鎖の3’末端は、1塩基若しくは2塩基の突出末端、平滑末端、又は1塩基若しくは2塩基の陥凹末端である、遺伝子発現抑制剤
【請求項2】
アンチセンス鎖がリボヌクレオチドからなる、請求項1に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項3】
アンチセンス鎖がmiRNAである、請求項1又は2に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項4】
アンチセンス鎖が標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項5】
センス鎖に含まれる相補的部分がリボヌクレオチドからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項6】
センス鎖がリボヌクレオチドからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項7】
センス鎖がデオキシリボヌクレオチドからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項8】
一本鎖突出部分が1つ又は複数のGリッチな領域を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項9】
一本鎖突出部分が2重鎖、3重鎖又は4重鎖を形成する、請求項1~のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項10】
一本鎖突出部分が4重鎖を形成する、請求項9に記載の遺伝子発現抑制剤。
【請求項11】
センス鎖に含まれる相補的部分が、アンチセンス鎖に対して0~30%のミスマッチ塩基を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤を製造する方法であって、
(a)標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列を含むアンチセンス鎖を設計するか、又はmiRNAであるアンチセンス鎖を選択する工程、
(b)アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5’末端に一本鎖突出部分とを含むセンス鎖を設計する工程、
(c)アンチセンス鎖及びセンス鎖を合成する工程、並びに
(d)合成されたアンチセンス鎖及びセンス鎖を塩基対合させる工程
を含む方法によって二本鎖核酸分子を製造し、該二本鎖核酸分子を含む遺伝発現抑制剤を調製することを含む、方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の遺伝子発現抑制剤を含有する医薬組成物。
【請求項14】
製薬上許容可能な担体を含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
アンチセンス鎖が、配列番号1に示す塩基配列を含む、請求項1に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項16】
センス鎖が、配列番号12、14、15、17及び47~59のいずれかに示す塩基配列を含む、請求項15に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項17】
センス鎖が、配列番号57に示す塩基配列を含む、請求項16に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項18】
アンチセンス鎖が、配列番号2に示す塩基配列を含む、請求項1に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項19】
センス鎖が、配列番号30、31、38~44、66、72~74及び76のいずれかに示す塩基配列を含む、請求項18に記載の遺伝子発現抑制剤
【請求項20】
センス鎖が、配列番号40に示す塩基配列を含む、請求項19に記載の遺伝子発現抑制剤
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子サイレンシング機構を介した遺伝子発現抑制に関与する改良された二本鎖核酸分子及びその製造方法に関する。また本発明は、そのような二本鎖核酸分子を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
約20~30塩基長の小分子RNAが媒介する遺伝子発現抑制機構を遺伝子サイレンシングと呼ぶ。この機構は、酵母からヒトに至る様々な生物種において広く保存されており、発生、代謝及びウイルス感染防御等の多くの重要な生命現象の制御に関与していることが明らかになってきた。さらに、小分子RNAを利用して遺伝子サイレンシング機構により遺伝子発現をノックダウンさせるRNAi(RNA干渉)法が、現在、生物学の研究分野で必須の遺伝子機能解析ツールとしての地位を確立しつつある。また、こうした小分子RNAは、生体内の遺伝子又はウイルス等に対して発現抑制効果を示すため、次世代の核酸医薬品としても期待されている。
【0003】
遺伝子サイレンシングを媒介する小分子RNAの一つとして、siRNA(small interfering RNA)がある。これは、例えば、外来の長い二本鎖RNA又はヘアピン構造のRNAからDicer酵素によりプロセシングされることによって生成される。生成されたsiRNA二本鎖のうち一方の鎖(アンチセンス鎖と称される)が、RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれ、相補的な配列を持つ標的mRNAに結合し、標的mRNAの切断を誘導することによって配列特異的に遺伝子発現が抑制される。一方、細胞にはmiRNA(microRNA、マイクロRNA)と称される一群の機能性小分子RNAも存在する。miRNAは細胞内で元々発現される内在性小分子RNAであり、他の遺伝子発現を制御すると考えられている。miRNAは、ヘアピン構造を有する長い前駆体miRNAからDrosha酵素、次いでDicer酵素によるプロセシングによって生成される。生成されたmiRNA二本鎖のうち一方の鎖が、siRNAと同様にRISC複合体に取り込まれる。その後、配列が部分的に相補的な3'非翻訳領域を持つmRNAに結合し、タンパク質への翻訳を阻害すると考えられている(概説について、非特許文献1を参照のこと)。
【0004】
遺伝子サイレンシングを媒介する小分子二本鎖RNAは、上述のようにDicer酵素によって生成されるため、一定の構造、すなわち約21~約24塩基の2本のRNAからなり、両鎖の3'末端に2塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAを形成する。そのため、一般に現在RNAi法で用いられるsiRNAも、3'末端に2塩基のオーバーハングを有する化学合成品である場合が多い。こうしたsiRNAの構造と活性との相関についてこれまでいくつかの研究がされてきた。例えば、Elbashirらは、3'又は5'末端に様々な長さのオーバーハングを有する各鎖21塩基長のsiRNA分子の活性を試験し、3'末端の2塩基オーバーハングが最も効率がよいことを確かめた(非特許文献2)。さらに、siRNAの一方の鎖又は両方の鎖を完全に2'-デオキシリボヌクレオチドに置換すると、RNAi活性は消滅するが、2塩基の3'オーバーハングのみを同様に置換してもRNAi活性に影響がないことを報告している(非特許文献2)。Sunらは、センス鎖を21塩基長の典型的なsiRNAより短くした非対称性二本鎖RNA(aiRNA)が有効なRNAi活性を有し、センス鎖によるオフターゲット効果が低減されることを示した(非特許文献3)。Bramsenらは、インタクトなアンチセンス鎖と、2つの短い(10~12塩基長)センス鎖からなる新たなsiRNA(sisiRNA)の設計を示した(非特許文献4)。sisiRNAは通常のsiRNAと同等の活性を有し、オフターゲット効果が低いとされている。これらの新規構造のsiRNA分子は、LNA(ロックド核酸)修飾等を有する場合もあり、もともと合成コストが高いRNAより、さらにコストが高く、実用的な用途には困難を伴う。また、siRNAの遺伝子発現抑制効果は配列デザインによって大きく左右され、その効果が不十分な場合が多い。そのような場合には、siRNAの用量を増やす必要があり、オフターゲット効果等の望ましくない効果の発現の可能性が高くなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Ghildiyal M. and Zamore P.D., 2009, Nat Rev Genet., 10, 94-108
【非特許文献2】Elbashir et al., 2001, EMBO J., 20, 6877-6888
【非特許文献3】Sun et al., 2008, Nat Biotechnol, 26, 1379-1382
【非特許文献4】Bramsen et al., 2007, Nucleic Acid Res, 35, 5886-5897
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い遺伝子発現抑制活性を有する、遺伝子サイレンシング機構を媒介する二本鎖核酸分子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、アンチセンス鎖に対して相補的な部分に加え、5'末端に突出部分を有するセンス鎖を含む二本鎖核酸分子が高い遺伝子発現抑制活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0009】
[1] 18~28塩基長のアンチセンス鎖、及び
アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に2~100塩基長の一本鎖突出部分とを含む、センス鎖
を含み、
該相補的部分を介してセンス鎖とアンチセンス鎖が塩基対合する
遺伝子発現抑制用二本鎖核酸分子。
【0010】
[2] アンチセンス鎖がリボヌクレオチドからなる、[1]に記載の二本鎖核酸分子。
【0011】
[3] アンチセンス鎖がmiRNAである、[1]又は[2]に記載の二本鎖核酸分子。
【0012】
[4] アンチセンス鎖が標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0013】
[5] センス鎖に含まれる相補的部分がリボヌクレオチドからなる、[1]~[4]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0014】
[6] センス鎖がリボヌクレオチドからなる、[1]~[5]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0015】
[7] センス鎖がデオキシリボヌクレオチドからなる、[1]~[4]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0016】
[8] 一本鎖突出部分のG含量が、一本鎖突出部分の長さに基づいて30%~80%である、[1]~[7]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0017】
[9] 一本鎖突出部分が1つ又は複数のGリッチな領域を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0018】
[10] 一本鎖突出部分が2重鎖、3重鎖又は4重鎖を形成する、[1]~[9]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0019】
[11] センス鎖に含まれる相補的部分が、アンチセンス鎖に対して0~30%のミスマッチ塩基を有する、[1]~[10]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子。
【0020】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子を製造する方法であって、
(a)標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列を含むアンチセンス鎖を設計するか、又はmiRNAであるアンチセンス鎖を選択する工程、
(b)アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に一本鎖突出部分とを含むセンス鎖を設計する工程、
(c)アンチセンス鎖及びセンス鎖を合成する工程、並びに
(d)合成されたアンチセンス鎖及びセンス鎖を塩基対合させる工程
を含む、前記方法。
【0021】
[13] [1]~[11]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子を有効成分として含有する医薬組成物。
【0022】
[14] 製薬上許容可能な担体を含む、[13]に記載の医薬組成物。
【0023】
[15] 細胞、組織又は個体に[1]~[11]のいずれかに記載の二本鎖核酸分子を導入する工程を含む、細胞、組織又は個体における遺伝子発現抑制方法。
【0024】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011-241547号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の二本鎖核酸分子によれば、遺伝子発現を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る二本鎖核酸分子の構成を示す概念図である。(A)典型的な構成である。1つのアンチセンス鎖(100)と1つのセンス鎖(101)とからなり、センス鎖は5'側の一本鎖突出部分(102)とアンチセンス鎖に対する相補的部分(103)とからなる。(B)センス鎖とアンチセンス鎖がスペーサ配列(104)によって連結されている構成である。(C)一本鎖突出部分内で2重鎖構造が形成される構成である。
【図2】本発明に係る二本鎖核酸分子の構成を示す概念図である。(A)一本鎖突出部分内に特定の配列を含むことによって3重鎖構造を形成する例である。ここでは、図示する3列の核酸鎖の塩基配列間において、枠内の3つの塩基(GGC又はAAT)が互いに塩基対合することで、3つの核酸鎖が3重鎖を形成する例を示している。(B)一本鎖突出部分内に特定の配列を含むことによって4重鎖構造を形成する例である。ここでは、グアニンリッチな配列によってGカルテット(105)を形成する例を示している。
【図3】センス鎖として天然型miRNA*鎖又はDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。用いた二本鎖核酸に含まれるセンス鎖をグラフの下に示す。以下同様とする。
【図4】センス鎖として様々な塩基長の突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。(A)の縦軸を拡大したものが(B)である。図中の濃度はトランスフェクションに使用した二本鎖核酸分子の濃度を示す。以下同様とする。
【図5】センス鎖として様々な塩基長及び塩基配列の5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図6】センス鎖として様々なG含量の5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図7】センス鎖として様々な塩基長の5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図8】実施例1で用いた分子の名称、構造、塩基配列及び配列番号を示す。DNAを大文字で、RNAを小文字で表示する。枠で囲まれた配列領域は、Gリッチな領域を示す。
【図9】センス鎖として様々な5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図10】センス鎖として様々な5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図11】実施例1で用いた分子の名称、構造、塩基配列及び配列番号を示す。DNAを大文字で、RNAを小文字で表示する。枠で囲まれた配列領域は、Gリッチな領域を示す。
【図12】センス鎖として様々な5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図13】センス鎖として様々な5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図14】センス鎖として様々な5'突出部分を有するDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(siPolR2A-AS)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図15】(A)センス鎖として5'突出部分を有するRNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。(B)低濃度での遺伝子発現抑制活性を示す。
【図16】センス鎖として様々な塩基長の5'突出部分を有するRNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図17】2種類のアッセイ系によって得られる結果を比較する。(A)及び(B)は、各アッセイ系に用いたプラスミドの略図を示し、(C)及び(D)はそれぞれのアッセイ系を用いて得られた結果を示す。
【図18】センス鎖としてRNA/DNAキメラ鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図19】センス鎖として3'突出部分を有するRNA鎖又はDNA鎖を用いた場合のRNAアンチセンス鎖(miR-143)の遺伝子発現抑制活性を示す。
【図20】ヒトHeLa-S3細胞の内在性RNAポリメラーゼPolR2A遺伝子に対する遺伝子発現抑制効果を示す。
【図21】ヒト大腸癌DLD-1細胞における細胞増殖抑制効果を示す。
【図22】ヒトHeLa-S3細胞における自然免疫応答性を示す。A~CはそれぞれIFNβ、OAS1及びIP10 mRNAのqRT-PCRの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0028】
1.二本鎖核酸分子
1-1.概要
本発明の第1の態様は、遺伝子発現抑制用二本鎖核酸分子である。本発明の二本鎖核酸分子は、アンチセンス鎖、及びアンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に一本鎖突出部分とを含むセンス鎖を含むことを特徴とする。

【0029】
1-2.定義
本明細書において「核酸」とは、天然型核酸、非天然型核酸及び/又は核酸類似体をいう。

【0030】
本明細書において「天然型核酸」とは、ヌクレオチドを構成単位とし、それらがホスホジエステル結合によって連結した自然界に存在する生体高分子をいう。通常は、アデニン、グアニン、シトシン及びウラシルのいずれかの塩基を有するリボヌクレオチドが連結したRNA、アデニン、グアニン、シトシン及びチミンのいずれかの塩基を有するデオキシリボヌクレオチドが連結したDNAが該当する。

【0031】
本明細書において「非天然型核酸」とは、非天然型ヌクレオチドを含む又はそれからなる核酸をいう。ここで「非天然型ヌクレオチド」とは、人工的に構築された又は人工的に化学修飾された自然界に存在しないヌクレオチドであって、前記天然に存在するヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオチド、又は天然に存在するヌクレオシド若しくは塩基に類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオシド若しくは塩基を含むヌクレオチドをいう。例えば、脱塩基ヌクレオシド、アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシドが挙げられる。さらに、置換五単糖(2'-O-メチルリボース、2'-デオキシ-2'-フルオロリボース、3'-O-メチルリボース、1',2'-デオキシリボース)、アラビノース、置換アラビノース糖;置換六単糖及びアルファ-アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。また、非天然型ヌクレオチドは、人工的に構築された塩基類似体又は人工的に化学修飾された塩基(修飾塩基)を包含するヌクレオチドも含む。「塩基類似体」には、例えば、2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、5位置換-2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-オキサゾリル)プリン-9-イル基等が挙げられる。「修飾塩基」には、例えば、修飾化ピリミジン(例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル)、修飾化プリン(例えば、6-メチルアデニン、6-チオグアノシン)及び他の複素環塩基等が挙げられる。メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2'-O-メチル型DNA/RNA等の化学修飾核酸や核酸類似体も含むこともできる。

【0032】
本明細書において「核酸類似体」とは、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された化合物をいう。例えば、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、架橋化核酸(BNA/LNA:Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)、モルホリノ核酸等が挙げられる。

【0033】
また、本発明の核酸は、必要に応じて、リン酸基、糖及び/又は塩基が核酸用標識物質で標識されていてもよい。核酸用標識物質は、当該分野で公知のあらゆる物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。

【0034】
本明細書において「二本鎖核酸分子」とは、2本の核酸分子であって、両核酸分子の少なくとも一部が塩基対合した核酸分子(図1Aを参照)、及び1本の核酸分子であって、その内部で塩基対合することによって二本鎖領域を形成するヘアピン型の核酸分子(図1Bを参照)を意味する。1本の核酸分子の場合、一般にshRNA(ショートヘアピンRNA)と称される。

【0035】
本明細書において「相補的」とは、2つの塩基間で(例えばワトソン・クリック型の)塩基対合をし得る関係を意味し、例えば、アデニンとチミン又はウラシルとの関係、並びにシトシンとグアニンとの関係をいう。本明細書において「完全に相補的」とは、第一の核酸配列の連続する塩基がすべて第二の核酸配列中の同じ数の連続する塩基と相補的であることを意味する。本明細書において「十分に相補的」とは、完全に相補的である必要はなく、一方又は両方の核酸配列に1つ又は複数の塩基の置換、付加及び/又は欠失を含んでよいことを意味する。このような置換はミスマッチ塩基を生じさせ、付加及び欠失は不対塩基(バルジ塩基)を生じさせ得る。

【0036】
本明細書において「遺伝子サイレンシング」(一般に「RNAサイレンシング」とも称される)とは、タンパク質をコードする遺伝子の発現の阻害又は抑制をもたらす、一般にRNA分子によって媒介される一群の配列特異的調節メカニズム(例えば、RNA干渉(RNAi)、転写遺伝子サイレンシング(TGS)、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、共抑制(co-suppression)、翻訳阻害、ヘテロクロマチン形成等)を指す。遺伝子サイレンシングは、植物、動物及び真菌を含む多くの種類の生物で観察されている。遺伝子サイレンシングについては、例えば、Sharp P.A., 2001, Genes Dev., 15, 485-490;Zamore P.D., 2002, Science, 296, 1265-1269;Dernburg ,A.F. and Karpen, G.H., 2002, Cell, 111,159-162;Ghildiyal M. and Zamore P.D., 2009, Nat Rev Genet., 10, 94-108を参照されたい。なお、本明細書では、遺伝子サイレンシングを介した遺伝子の転写及び/又は転写後段階での発現抑制を、「遺伝子発現抑制」又は「遺伝子発現を抑制する」という。本明細書において、これらの用語は、遺伝子の発現をその遺伝子のmRNA又はタンパク質の発現量を指標に判定した場合に、本発明に係る二本鎖核酸分子を導入しない場合に対して、100%抑制される場合のみならず、75%以上、50%以上又は20%以上抑制される場合も意味する。遺伝子発現抑制の程度は、例えば、遺伝子のmRNA又はタンパク質の産生量を本発明の二本鎖核酸分子を導入した細胞又は個体と、非導入若しくは無関係な対照二本鎖核酸を導入した細胞又は個体とで比較することによって決定できる。mRNAの産生量は、ノーザンハイブリダイゼーション又はRT-PCR等により測定することができ、タンパク質の産生量は、ウエスタンブロッティング、ELISA、タンパク質の活性測定、又は蛍光タンパク質からの蛍光強度等により測定することができる。

【0037】
1-3.二本鎖核酸分子の構成
本発明に係る二本鎖核酸分子は、後述のアンチセンス鎖及びセンス鎖を含んでなり、その典型的な模式図(2本の核酸分子からなる場合)を図1Aに示す。なお、本明細書におけるアンチセンス鎖は、一般にsiRNA及びmiRNAの場合にはそれぞれガイド鎖及びmiRNA鎖と称される鎖に対応し、本明細書におけるセンス鎖はそれぞれパッセンジャー鎖及びmiRNA*(miRNAスター)鎖と称される鎖に対応する。本発明に係る二本鎖核酸分子は、細胞内又は生体内において遺伝子サイレンシングを誘導することによって、特定の遺伝子の発現を転写段階及び/又は転写後段階で抑制することができる。

【0038】
「アンチセンス鎖」とは、上述の遺伝子サイレンシングを誘導する能力を有し、特定の遺伝子の発現を抑制することができる核酸分子を意味する。アンチセンス鎖の長さは、18~28塩基長、好ましくは20~25塩基長、より好ましくは21~24塩基長、特に21又は22塩基長である。

【0039】
一実施形態において、アンチセンス鎖はmiRNAである。miRNAは、ゲノム上にコードされる内在性の約21~24塩基長の機能性RNAであり、他の遺伝子の抑制に関与すると考えられている。miRNAの配列は、公知のデータベースmiRbase(http://www.mirbase.org/、Griffiths-Jones S., 2004, Nucleic Acid Res., 32, 109-111)等から取得することができる。例示的な天然miRNAは、miR-143(ヒトmiR-143の配列を配列番号1に示す)、miR-145、lin-4、let-7、miR-10、miR-15、miR-16、miR-168、miR-175、miR-196及びそれらのホモログであり、ヒト、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、線虫(Caenorhabditis elegans)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、マウス及びラットを含む、モデル生物由来の他の天然miRNAを含む。

【0040】
別の実施形態において、アンチセンス鎖は、標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列からなる核酸分子である。このようなアンチセンス鎖は、標的遺伝子の発現を抑制するために用いることができる。アンチセンス鎖は、その鎖長に基づいて、標的遺伝子の標的配列に対して0~30%、0~20%又は0~10%のミスマッチ塩基を有することができるが、特に限定はしない。このアンチセンス鎖を含む本発明の二本鎖核酸分子が、標的とする遺伝子の発現抑制を達成し得る範囲で適宜定めればよい。具体的には、アンチセンス鎖は、標的遺伝子の標的配列に対して1~8個、好ましくは1~6個、1~4個、1~3個、特に2個又は1個のミスマッチ塩基を有していてもよく、又はミスマッチ塩基を有さず完全に相補的であってもよい。例えば、アンチセンス鎖が21塩基長の場合には、標的遺伝子の標的配列に対して6個、5個、4個、3個、2個又は1個のミスマッチ塩基を有してよい。あるいは又は加えて、アンチセンス鎖は、標的遺伝子の標的配列に対して1個又は2個のバルジ塩基を有してもよい。

【0041】
本明細書において標的遺伝子は、以下に限定されるものではないが、本発明の二本鎖核酸分子を導入しようとする生物由来の遺伝子、又は生体に感染し生体内部に存在するウイルス、細菌若しくは真菌等の遺伝子、あるいは人為的に導入された遺伝子(例えばトランスフェクションによって細胞内に導入されたプラスミド上に存在する遺伝子)を含む。生物由来の遺伝子としては、癌遺伝子、癌抑制遺伝子、発生に関与する遺伝子、疾患を引き起こす疾患関連遺伝子、又は生存に必須の遺伝子(例えば、RNAポリメラーゼ2 Aサブユニット遺伝子)等が挙げられる。また、ウイルス及び細菌としては、HIV、HBV、HCV、HTLV-1、HTLV-2、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、腸管出血性大腸菌、結核菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、溶連菌、カンジダ、ヘリコバクターピロリ等が挙げられる。人為的に導入された遺伝子としては、慣用のレポーター遺伝子、例えば、GFP、dsRed等の蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、及びβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子が挙げられる。

【0042】
本明細書において「標的配列」は、本発明の二本鎖核酸分子が発現抑制しようとする標的遺伝子のエキソン、イントロン、5’及び3’非翻訳領域(UTR)、調節要素(例えばプロモータ、エンハンサ、サイレンサ)等における特定の連続する配列を意味する。標的配列の長さは、約16~約30塩基長、例えば18~28塩基長、好ましくは20~25塩基長、より好ましくは21~24塩基長、特に21又は22塩基長である。

【0043】
本発明で用いる「センス鎖」は、後述の「相補的部分」と「一本鎖突出部分」とを含む核酸分子である。本発明に係る二本鎖核酸分子は、センス鎖に含まれる当該相補的部分を介してセンス鎖とアンチセンス鎖が塩基対合している。

【0044】
センス鎖に含まれる「相補的部分」とは、アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる部分をいう。センス鎖に含まれる「相補的部分」は、その「相補的部分」の長さに基づいて、アンチセンス鎖に対して0~30%、0~20%又は0~10%のミスマッチ塩基を有することができるが、特に限定はしない。このセンス鎖を含む本発明の二本鎖核酸分子が、標的とする遺伝子の発現抑制を達成し得る範囲で適宜定めればよい。具体的には、センス鎖に含まれる該「相補的部分」は、アンチセンス鎖に対して1~8個、好ましくは1~6個、1~4個、1~3個、特に2個又は1個のミスマッチ塩基を有していてもよく、又はミスマッチ塩基を有さず完全に相補的であってもよい。例えば、センス鎖に含まれる該「相補的部分」が21塩基長の場合には、アンチセンス鎖に対して6個、5個、4個、3個、2個又は1個のミスマッチ塩基を有してよい。あるいは又は加えて、センス鎖に含まれる該「相補的部分」は、アンチセンス鎖に対して1個又は2個のバルジ塩基を有してもよい。

【0045】
一般的に、アンチセンス鎖は標的配列との相補性が高くなるように選択し、センス鎖は、オフターゲット効果、すなわち標的配列以外の配列に作用して遺伝子サイレンシングを誘導する効果を低減させるため、標的配列以外の配列に対して1つ又は複数のミスマッチを含むように選択し得る。好適なミスマッチの数及び位置は、製造された二本鎖核酸分子の遺伝子発現抑制活性を、例えば、後述の実施例に記載の方法に従って測定することによって決定することができる。

【0046】
本明細書において「一本鎖突出部分」又は「突出部分」とは、上記相補的部分の5'側に隣接し、センス鎖とアンチセンス鎖を塩基対合させたときセンス鎖の5'末端に一本鎖のままで存在するアンチセンス鎖と塩基対合しない部分を意味する。この突出部分は、2~100塩基長、好ましくは3~50塩基長、4~45塩基長、5~40塩基長、5~35塩基長、5~30塩基長、5~25塩基長、6~24塩基長、9~23塩基長、11~22塩基長、13~21塩基長、15~20塩基長又は16~19塩基長であってよい。この突出部分の配列は任意に設定することができるが、グアニン(G)の含量が高いと遺伝子発現抑制活性が高くなるため好ましい。突出部分のG含量は、該突出部分の長さに基づいて、0~100%、0~80%、好ましくは20~70%、より好ましくは30~70%、40~70%、30~80%、40~80%、50~70%又は50~80%とすることができる。G含量が30%以上、特に40%以上の場合にG含量は高いという。

【0047】
突出部分に1つ又は複数のGリッチな領域を有する場合も、遺伝子発現抑制活性が高くなるため好ましい。「Gリッチな領域」は、突出部分内の連続した高G含量の配列、又は突出部分が高次構造を形成し、その結果形成される高G含量の領域を指す。連続した高G含量の配列は、2~100塩基長、好ましくは3~50塩基長、4~50塩基長、5~50塩基長、5~25塩基長、10~20塩基長であってよい。Gリッチな領域内のG含量は、30~100%、好ましくは40~100%、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、90~100%、50~90%、60~90%、70~90%、80~90%、50~80%、60~80%、又は70~80%であり得る。Gリッチな領域は、例えば、グアニンが5~10個連続する配列とすることができる。Gリッチな領域は、一本鎖突出部分内のいずれの場所に存在してもよい。例えば、一本鎖突出部分の5'末端に存在してもよく、又は一本鎖突出部分内部に存在してもよく、又は一本鎖突出部分の3'末端に(すなわちセンス鎖の相補的部分に隣接して)存在してもよい。

【0048】
本発明のセンス鎖は、上述の相補的部分及び5'末端の一本鎖突出部分を含むが、本発明の二本鎖核酸分子が遺伝子発現抑制活性を有する限り、それ以外の任意の配列を含んでもよい。すなわち、3'末端に任意の長さの任意の配列を含むこともでき、この場合、センス鎖の3'末端は突出末端となる。具体的には、1塩基又は2塩基(例えば、UU若しくはTT)の3'突出末端が想定される。あるいは、センス鎖の3'末端は、平滑末端又は1若しくは2塩基の陥凹を有する陥凹末端とすることもできる。好ましくは、センス鎖の3'末端は平滑末端である。

【0049】
本発明に係る二本鎖核酸分子は、その構成成分であるアンチセンス鎖及び/又はセンス鎖の一部又は全部が天然型核酸、非天然型核酸及び/又は核酸類似体であってよい。非天然型核酸及び/又は核酸類似体は、例えば、核酸分子の安定性を増強するため、及び/又はオフターゲット効果を低減させるために用いることができる。

【0050】
本発明に係る二本鎖核酸分子において、アンチセンス鎖はリボヌクレオチドからなることが好ましい。一実施形態では、センス鎖はデオキシリボヌクレオチドからなる。従来技術では、センス鎖にDNA鎖を用いると、遺伝子発現抑制活性は著しく低下していた(Elbashir et al., 2001, EMBO J., 20, 6877-6888)。しかしながら、本発明の構造を有するセンス鎖を用いると、DNA鎖であっても高い遺伝子発現抑制活性が観察された(下記実施例1を参照)。別の実施形態では、センス鎖はリボヌクレオチドからなる。この場合、著しく高い遺伝子発現抑制活性が見られ、下記実施例2では天然型miRNA二本鎖を用いた場合より、約5~7倍高い活性を検出した。

【0051】
また、アンチセンス鎖、センス鎖、又はセンス鎖に含まれる相補的部分若しくは一本鎖突出部分がリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドのキメラ鎖である実施形態も本発明の範囲に含まれる。具体的には、アンチセンス鎖、センス鎖、上記相補的部分又は一本鎖突出部分は、一部がデオキシリボヌクレオチドに置換されたリボヌクレオチドからなるキメラ鎖であってよい。逆に、アンチセンス鎖、センス鎖、上記相補的部分又は一本鎖突出部分は、一部がリボヌクレオチドに置換されたデオキシリボヌクレオチドからなるキメラ鎖であってもよい。本発明の好ましい実施形態では、センス鎖に含まれる相補的部分はリボヌクレオチドからなる。この場合、当該相補的部分がデオキシリボヌクレオチドからなる場合に比べて、高い遺伝子発現抑制活性が見られた(下記実施例3を参照)。なおこの場合、センス鎖に含まれる一本鎖突出部分は、デオキシリボヌクレオチドからなっても、リボヌクレオチドからなってもよい。

【0052】
以下に図を参照して、本発明の二本鎖核酸分子の構成をさらに説明する。典型的には、本発明の二本鎖核酸分子は、図1Aに示すように1つのアンチセンス鎖(100)と1つのセンス鎖(101)とからなり、センス鎖は5'末端の一本鎖突出部分(102)とアンチセンス鎖に対する相補的部分(103)とからなる。

【0053】
本発明の二本鎖核酸分子は図1Bに示すようなヘアピン型であってもよい。この場合、アンチセンス鎖の5'末端とセンス鎖の3'末端とがスペーサ配列(104)を介して連結される。スペーサ配列は、通常3~24塩基、好ましくは、4~15塩基からなる自己塩基対合しない任意の塩基配列とすることができる。従って、例えばセンス鎖領域に含まれる相補的部分及びアンチセンス鎖領域が21塩基長であり、突出部分が5~25塩基長のヘアピン型二本鎖核酸分子とする場合、分子全体は50塩基(21×2+5+3)~91塩基(21×2+25+24)からなる。このようなヘアピン型二本鎖核酸分子では、センス鎖領域に含まれる相補的部分とアンチセンス鎖領域とが互いに塩基対合し、その間に位置するスペーサ配列がループ構造を形成することによって、分子全体がヘアピン型のステム-ループ構造をなす。

【0054】
本発明の二本鎖核酸分子は、その一本鎖突出部分の一部又は全部において高次構造を形成することも好ましい。図1Cは、一本鎖突出部分(102)の一部に2重鎖構造が形成される構成の例である。

【0055】
図2Aは、一本鎖突出部分内で3重鎖構造が形成される二本鎖核酸分子の例である。3重鎖構造は、3本の核酸鎖が特定の塩基配列を含む場合に各核酸鎖間で構成される。「特定の塩基配列」とは、例えば、グアニン(G)及びアデニン(A)の連続した配列(GA配列)とチミン(T)及びシトシン(C)の連続した配列(TC配列)が挙げられる。3本の核酸鎖のうち2本がGA配列を含み、1本がCT配列を含むことにより、3つの塩基間、すなわち、GGC間(各塩基は、塩基配列上で互いに離れて存在する)及びAAT間(同前)で塩基対合が形成される。

【0056】
図2Bは、一本鎖突出部分内で4重鎖構造が形成される二本鎖核酸分子の例である。この図で示す4重鎖構造は、Gカルテット(G-quartet)と呼ばれる構造(105)であり、4つのGが水素結合によって互いに同一平面内に配置され、そのような平面が二段以上形成されることを特徴とする。Gカルテットは、例えば、GGTTGGTGTGGTTGG(配列番号84)のようなGリッチな塩基配列を含む1本鎖において分子内フォールディングによって形成され得る。

【0057】
本発明は、18~28塩基長のアンチセンス鎖、及びアンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に2~100塩基長の一本鎖突出部分とを含む、センス鎖を含み、該相補的部分を介してセンス鎖とアンチセンス鎖が塩基対合する遺伝子発現抑制用二本鎖核酸分子を提供し得る。

【0058】
また、本発明は、18~28塩基長のアンチセンス鎖、及びアンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に2~100塩基長の一本鎖突出部分とを含む、センス鎖を含み、該相補的部分を介してセンス鎖とアンチセンス鎖が塩基対合する二本鎖核酸分子を含む、遺伝子発現抑制剤を提供し得る。

【0059】
1-4.製造方法
上記二本鎖核酸分子は、当業者であれば容易に設計し、製造することができる。具体的には、上記二本鎖核酸分子を製造する方法は、
(a)標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列からなるアンチセンス鎖を設計するか、又はmiRNAであるアンチセンス鎖を選択する工程、
(b)アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分と、5'末端に一本鎖突出部分とを含むセンス鎖を設計する工程、
(c)アンチセンス鎖及びセンス鎖を合成する工程、並びに
(d)合成されたアンチセンス鎖及びセンス鎖を塩基対合させる工程
を含む。

【0060】
工程(a)における一実施形態では、標的遺伝子の標的配列に対して十分に相補的な配列からなるアンチセンス鎖を設計する。できる限り標的遺伝子のみの発現を抑制するため、まず標的遺伝子中でその遺伝子に特異的な領域を標的配列として選択することが好ましい。ここで「特異的な領域」とは、標的遺伝子の発現抑制を行う細胞内において、他の核酸分子には見られない配列を有する領域を意味する。このため、既知の生物種(例えばヒト、マウス、ラット等)の適切なゲノムデータベースと比較し、他の配列に対する有意な相同性を有するいずれの標的配列も考慮から排除する。そのような配列相同性検索のための1つの方法はBLASTとして公知であり、これは、National Center for Biotechnology Informationウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)で利用可能である。次いで、上記選択した標的配列に対して十分に相補的な配列をアンチセンス鎖として設計する。この場合の「十分に相補的な配列」の詳細は、「1-3.二本鎖核酸分子の構成」に述べる通りであり、完全に相補的である必要はなく、1つ又は複数のミスマッチ等を含んでよい。

【0061】
工程(a)における別の実施形態では、前記二本鎖核酸分子のアンチセンス鎖としてmiRNAを選択する。miRNAの配列は、公知のデータベースmiRbase(http://www.mirbase.org/)等から取得することができる。ここでmiRNAには、公知のmiRNAのホモログも含まれる。

【0062】
工程(b)において、工程(a)で設計又は選択したアンチセンス鎖の配列を基に、センス鎖に含まれる、アンチセンス鎖に対して十分に相補的な配列からなる相補的部分を設計する。この場合の「十分に相補的な配列」の詳細は、「1-3.二本鎖核酸分子の構成」に述べる通りであり、完全に相補的である必要はなく、1つ又は複数のミスマッチ等を含んでよい。また、上記相補的部分に隣接して5'末端に一本鎖突出部分を設計する。一本鎖突出部分の詳細は、「1-3.二本鎖核酸分子の構成」を参照のこと。センス鎖は、本発明の二本鎖核酸分子が遺伝子発現抑制活性を有する限り、3'末端に任意の配列を含むように設計してもよい。

【0063】
工程(c)において、工程(a)及び(b)で設計又は選択したアンチセンス鎖及びセンス鎖は、手動又は自動の反応により、酵素的に又は化学合成によって製造することができる。これらの鎖は、上に記載したように、天然型核酸、非天然型核酸及び/又は核酸類似体から構成することができる。RNA又はDNA分子を合成する方法、特に化学合成方法は当技術分野において公知である(Verma S. and Eckstein F., 1998, Annul Rev. Biochem., 67, 99-134)。あるいは、RNA分子は、合成DNA鋳型からのインビトロ転写によって調製することもできる。典型的には、T7、T3又はSP6RNAポリメラーゼ等のファージRNAポリメラーゼを用いて、プロモータ配列の下流に合成しようとするアンチセンス鎖又はセンス鎖の配列を連結させた合成DNA鋳型から転写して製造する(Milligan J.F. and Uhlenbeck O.C., 1989, Methods Enzymol., 180, 51-62)。ヘアピン型RNAをインビトロ転写によって調製するには、プロモータ配列の下流にセンス鎖、スペーサ配列及びアンチセンス鎖が5'から3'方向に連結したDNA鋳型から転写して製造する。RNA又はDNA分子を化学合成する場合、各メーカー(例えば、タカラバイオ、Life Technologies、Sigma-Aldrich等)の受託製造サービスを利用してもよい。合成されたアンチセンス鎖及びセンス鎖は、例えば溶媒又は樹脂を用いる抽出、沈降、電気泳動、クロマトグラフィー又はそれらの組合せによって、混合物から精製することができる。あるいは、試料の処理による製造物の損失を避けるために、全く精製を行わなくてもよいし、最低限の精製を行ってもよい。

【0064】
工程(d)において、工程(c)で合成されたアンチセンス鎖及びセンス鎖は、例えば、適切なアニーリングバッファー中(例えば、100mM KOAc, 2mM MgOAc,30mM HEPES-KOH pH7.4)でその後の使用に適切な濃度(典型的には、アンチセンス鎖及びセンス鎖は等モル濃度である)となるように混合し、加熱処理後、徐々に冷却することによって塩基対合させる。温度条件は、一例として、95℃3分間、次いで70℃2分間、次いで37℃60分間とすることができる。製造された二本鎖核酸分子は、上に記載したように精製してもよい。

【0065】
あるいは、本発明の二本鎖核酸分子は、本発明の二本鎖核酸分子を細胞内で発現するベクターを、目的とする細胞に導入することによって製造することもできる。この場合、二本鎖核酸分子を構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖のそれぞれを発現する2種のベクターを用いてもよいし、又は二本鎖核酸分子のセンス鎖をコードするDNA断片及びアンチセンス鎖をコードするDNA断片の両方を含む単一のベクターを用いてもよい。一方、二本鎖核酸分子がヘアピン型の一本鎖分子の場合、当該一本鎖分子をコードするDNA断片を含むベクターを使用すればよい。

【0066】
上記ベクターは、本発明の二本鎖核酸分子の一方の鎖又は両方の鎖を細胞内で発現できるものであればよい。発現ベクターの種類は、特に限定はしないが、プラスミド又はウイルスが好ましい。これらは、導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。例えば、導入する宿主がヒトの場合には、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス等のウイルス、あるいは非ウイルスベクターを基礎とするベクターを使用することができる。

【0067】
このようなベクターは、当業者であれば容易に構築することができ、例えば、必要に応じて、プロモータ、エンハンサ、若しくはターミネータ等の調節要素、又は選抜マーカー遺伝子等の標識領域を含むことができる。それぞれの種類は、特に限定されず、発現ベクターを導入する宿主に応じて当該分野で公知のものを適宜選択すればよい。

【0068】
プロモータとしては、目的とする細胞内において機能し得るものであればよく、例えば、構成的プロモータ、誘導性プロモータなどを用いてよい。また、標的遺伝子の発現を制御するものと同じプロモータを用いることもできる。この場合、例えば、標的遺伝子の転写産物が生成すると同時に、該転写産物を分解するための本発明の二本鎖核酸分子を生成させることができる。なお、異なる2つのベクターのそれぞれにセンス鎖及びアンチセンス鎖をコードするDNA断片を挿入した場合、各鎖が同程度の量で発現するように、プロモータは、同一のプロモータ又は同程度の発現活性を有する異なるプロモータを用いることが好ましい。

【0069】
1-5.使用方法
上記二本鎖核酸分子は、細胞、組織又は個体において遺伝子発現を抑制する方法に使用することができる。この方法は、細胞、組織又は個体に上記のように製造された二本鎖核酸分子を導入する工程、又は本発明の二本鎖核酸分子を発現するベクターを導入する工程を含む。

【0070】
本発明の二本鎖核酸分子又は本発明の二本鎖核酸分子を発現するベクターの導入は、当技術分野で公知の方法により、当業者であれば適切に行なうことができる。例えば、物理的方法としては、当該分子又はベクターを含有する溶液の注入、当該分子又はベクターによって被覆される粒子を用いたボンバードメント、あるいは当該分子又はベクターの存在下でのエレクトロポレーション等が挙げられる。さらに、脂質媒介担体輸送、化学媒介輸送(例えばリン酸カルシウム法)等の、核酸を細胞に導入するための当技術分野において公知の他の方法を用いることができる。また、当該核酸分子取り込みの増加、二本鎖アニーリングの促進、アニールした二本鎖の安定化、及び/又は標的遺伝子発現抑制の促進の作用を行う成分と共に、本発明の二本鎖核酸分子又はベクターを導入してもよい。

【0071】
本発明の二本鎖核酸分子又はベクターを導入しようとする細胞、組織又は個体は動物をはじめとするいずれの生物に由来するものでもよい。好ましいのは脊椎動物である。脊椎動物の例は、以下に限定されるものではないが、魚類、哺乳動物、例えばウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、げっ歯類(例えば、ハムスター、マウス、及びラット)及び霊長類(例えば、アカゲザル、チンパンジー、及びヒト)を含む。

【0072】
さらに、本発明の二本鎖核酸分子は、研究用試薬として用いることができ、この場合、遺伝子発現抑制剤、RNAi試薬等として用いることができる。

【0073】
本発明の二本鎖核酸分子は、導入される用量に応じて細胞、組織又は個体において特定の遺伝子発現を抑制する。当該核酸分子は、細胞当たり少なくとも1コピーの送達を可能とする量で導入することができる。高用量(例えば、細胞当たり少なくとも5、10、100、500又は1000コピー)の当該核酸分子はより効果的な抑制を生じさせることができる。

【0074】
1-6.効果
本発明に係る二本鎖核酸分子を用いれば、遺伝子サイレンシングを誘導することによって細胞、組織又は個体において配列特異的に遺伝子発現を抑制することができる。特に、センス鎖がリボデオキシヌクレオチドからなる場合に著しく高い遺伝子発現抑制活性が見込まれる。一方、センス鎖がデオキシリボヌクレオチドからなる場合、従来技術では遺伝子発現抑制活性はほとんど見られなかったが、本発明の二本鎖核酸分子は遺伝子発現を有意に抑制することができる。さらにこの場合、製造コストを大きく低下させるという利点が期待できる。

【0075】
2.本発明の二本鎖核酸分子を含む医薬組成物
2-1.概要
本発明の第2の態様は、有効成分として前記態様1の二本鎖核酸分子を含む医薬組成物である。この組成物は、被検体において疾患の予防用及び/又は治療用に使用することができる。

【0076】
2-2.医薬組成物の構成
一実施形態では、医薬組成物の有効成分である本発明の二本鎖核酸分子に含まれるアンチセンス鎖は、予防及び/又は治療対象の疾患に関与する遺伝子の発現を抑制することができるものであってよい。予防及び/又は治療対象の疾患として、具体的には、APC遺伝子(大腸癌)、BRCA1/BRCA2遺伝子(乳癌)等が関与する癌、PS1遺伝子(アルツハイマー)等が関与する神経変性症、LPL遺伝子(高脂血症)、INS/INSR遺伝子(糖尿病)等が関与する疾患が挙げられる。予防及び/又は治療対象となる癌としては、例えば、胃癌、食道癌、大腸癌、肝細胞癌、膵癌、胆管癌、乳癌、肺癌、肺腺癌、腎癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮体癌、子宮頚癌、甲状腺癌、卵巣癌、皮膚癌、白血病、骨髄腫、リンパ腫、リンパ肉腫等が含まれる。また、ウイルスや細菌等の感染症において、本発明の二本鎖核酸分子をウイルス遺伝子又は細菌遺伝子の発現を抑制するために用いることができる。ウイルス及び細菌としては、HIV、HBV、HCV、HTLV-1、HTLV-2、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、腸管出血性大腸菌、結核菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、溶連菌、カンジダ、ヘリコバクターピロリ等が挙げられる。これらの全部又は部分的なゲノム配列と遺伝子情報は公知であり、該ゲノムおよび遺伝子情報に従って、標的配列を選択し、それにより、医薬組成物の有効成分である本発明の二本鎖核酸分子を構成するアンチセンス鎖を設計することができる。

【0077】
別の実施形態では、予防及び/又は治療対象の疾患は、miRNA等の内在性小分子RNAの機能又は発現等の異常が原因となる疾患である。この場合、医薬組成物の有効成分である本発明の二本鎖核酸分子を構成するアンチセンス鎖として、天然型のmiRNA等を用いることができる。

【0078】
癌の予防及び/又は治療用の医薬組成物において、癌抑制性miRNA、例えばmiR-122、miR-223、miR-124、miR-194、miR-152、miR-16、miR-141、miR-143、miR-145、miR-200c等を二本鎖核酸分子のアンチセンス鎖とすることができる。細胞の増殖及び/又は生存に重要な遺伝子(例えばRNAポリメラーゼPolR2A)を標的としたアンチセンス鎖を用いることも好ましい。

【0079】
本発明の医薬組成物は、有効成分である本発明の二本鎖核酸分子の媒体を含む。媒体には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の溶媒が挙げられる。このような媒体は、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。

【0080】
本発明の医薬組成物は、必要に応じてさらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。

【0081】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。

【0082】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。

【0083】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。

【0084】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。

【0085】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。

【0086】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。

【0087】
このような担体は、主として剤形形成を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、pH調整剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、増量剤、安定剤、吸収促進剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、保存剤、着色剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。

【0088】
本発明の医薬組成物は、前記二本鎖核酸分子が有する薬理効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。例えば、注射剤の場合であれば、抗生物質を所定量含有していても良い。また、二本鎖核酸分子を標的組織及び/又は標的細胞に送達するために有効な他の薬剤を含有することもできる。

【0089】
さらに、実施形態の医薬組成物は、製薬上許容可能な範囲内で、かつ本発明の二本鎖核酸分子を失活させない範囲において、他の有効成分を包含する、いわゆる複合製剤とすることができる。

【0090】
本実施形態の医薬組成物の剤形は、有効成分である二本鎖核酸分子、さらには他の付加的な有効成分を不活化させない形態であれば特に限定しない。例えば、液体、固体又は半固体のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、クリーム剤、点鼻剤、軟膏剤、硬膏剤、シップ剤及び座剤等の非経口剤形又は液剤、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ剤等の経口剤形が挙げられる。好ましくは注射剤である。

【0091】
2-3.投与方法
本実施形態の医薬組成物は、目的とする疾患の治療のために製薬上有効な量を生体に投与することができる。投与する対象となる生体は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒトである。

【0092】
本明細書において「製薬上有効な量」とは、本発明の医薬組成物に含まれる二本鎖核酸分子が、対象とする疾患を予防する、治療する又は症状を軽減する上で必要な用量(例えば、疾患原因である遺伝子の発現を抑制することができる用量)であって、かつ投与する生体に対して有害な副作用(例えば、オフターゲット効果、自然免疫応答等)がほとんどないか又は全くない用量をいう。アンチセンス鎖がリボヌクレオチドからなる本発明の二本鎖核酸分子は、一般的な構造のsiRNA分子に比べて遺伝子発現抑制活性が高いため、医薬組成物中に含有される量を抑えることができるという利点を有する。また、アンチセンス鎖がデオキシリボヌクレオチドからなる本発明の二本鎖核酸分子は、RNA鎖に比べてヌクレアーゼに対して安定であると見込まれるため、用量の低下をもたらし得る。具体的な用量は、予防及び/又は治療対象となる疾患の原因遺伝子の種類、その遺伝子の発症作用機序、本発明に係る二本鎖核酸分子の遺伝子発現抑制活性及び安定性、使用する剤形、被検体の情報及び投与経路によって異なる。ヒトに投与する場合には、製薬上有効な量の範囲及び好適な投与経路は、一般に細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータに基づいて策定される。最終的な投与量は、個々の被験体に応じて、例えば医師の判断により決定され、調整される。その際に、勘案される被験体の情報には、病気の進行度若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性及び治療に対する耐性等が含まれる。

【0093】
本発明の二本鎖核酸分子の投与は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。疾患の種類、発症箇所又は進行度等に応じて適宜選択することができる。発症箇所が局部的な疾患であれば、注射等により発症箇所及びその周辺に直接投与する局所的投与が好ましい。治療すべき箇所(組織又は器官)に本発明の二本鎖核酸分子を十分量投与することができ、また他の組織に影響を及ぼしにくいからである。一方、転移性癌のように治療箇所を特定できない場合や発症が全身性の疾患の場合には、限定はしないが、静脈注射等による全身投与が好ましい。血流を介して本発明の二本鎖核酸分子を全身に行き渡らせることで、診断で発見できない病変部にも投与が可能となるからである。

【0094】
本発明の二本鎖核酸分子は、含有される有効成分が失活しないあらゆる適当な方法で投与することができる。例えば、非経口(例えば、注射、エアロゾル、塗布、点眼、点鼻)又は経口のいずれであってもよい。好ましくは、注射である。

【0095】
注射による投与の場合、注入部位は、特に限定しない。本発明の二本鎖核酸分子がその機能を発揮し、医薬組成物の目的を達し得ればいずれの部位であってもよい。例えば、静脈内、動脈内、肝臓内、筋肉内、関節内、骨髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内又は舌下等が挙げられる。好ましくは、静脈内注射又は動脈内注射等の血管内への注射である。前述のように血流を介して本発明の医薬組成物を全身に行き渡らせることが可能であり、また侵襲性も比較的低いからである。

【0096】
2-4.効果
本発明の二本鎖核酸分子を有効成分として含む医薬組成物は、低用量かつコストの安い遺伝子発現抑制剤として有効であり、アンチセンス鎖の配列を適切に設計することによって、様々な遺伝子の発現を抑制することが期待され、幅広い疾患の予防及び/又は治療に適用できる。さらに、通常のsiRNAは二重鎖RNAの認識により自然免疫応答を引き起こすことが知られているが、本発明の二本鎖核酸分子はこのような副作用がほとんどなく、安全性の高い医薬組成物を提供することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
(合成オリゴヌクレオチド)
以下の実施例で使用したオリゴヌクレオチドの配列を表1-1、1-2、2-1、2-2及び3に示す。アンチセンス鎖は3'-5'方向に、センス鎖は5'-3'方向に示す(双方の鎖で塩基対合する塩基の位置をそろえて表示する)。大文字はデオキシリボヌクレオチドを、小文字はリボヌクレオチドを示す。斜体太文字はセンス鎖に含まれる一本鎖突出部分を、下線太文字はセンス鎖上のアンチセンス鎖に対するミスマッチ塩基を示す。
【表1-1】
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【表1-2】
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【表2-1】
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【表2-2】
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【表3】
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【実施例】
【0099】
表1-1及び1-2には、図3、4、15~19及び21に結果を示す実施例で使用したオリゴヌクレオチドの配列を示す。これらの実施例では、遺伝子発現抑制活性を測定する二本鎖核酸分子に含まれるRNAアンチセンス鎖としてmiR-143(配列番号1)を使用し、センス鎖として表1-1及び1-2に記載の各DNA鎖、RNA鎖又はDNA/RNAキメラ鎖を使用した。表2-1及び2-2には、図5~7、10、13、14及び20に結果を示す実施例で使用したオリゴヌクレオチドの配列を示す。これらの実施例では、RNAアンチセンス鎖としてsiPolR2A-AS(配列番号2)を使用し、センス鎖として表2-1及び2-2に記載の各DNA鎖又はRNA鎖を使用した。表3には、図22に示す実施例で使用したオリゴヌクレオチドの配列を示す。この実施例では、RNAアンチセンス鎖としてsiGFP-AS(配列番号80)を使用し、センス鎖として表3に記載の各オリゴヌクレオチドを使用した。
【実施例】
【0100】
DNAオリゴヌクレオチドは株式会社ファスマックに合成依頼した。RNAオリゴヌクレオチドは株式会社ファスマック及びシグマアルドリッチジャパン株式会社に合成依頼した。オリゴヌクレオチドはD-PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)に溶解した。遺伝子発現抑制活性の評価を行うアンチセンス鎖とセンス鎖の各ペアを混合後、90℃に加熱し、徐々に温度を下げてアニーリングさせた。
【実施例】
【0101】
(プラスミド)
pDsRed2-C1(Clontech社、カタログ番号632407)のマルチクローニングサイト(1288位~1363位)を改変して5'-AGATCTCGAGAAGCTTAGATATCGTCGACCCGGGATCCACCGGATCTAGATAACTGA-3'(配列番号3)としたpDsRed2ERVSMAを作製した。作製に用いた遺伝子工学的手法、例えば、プラスミドDNAの抽出・精製、コンピテントセルの調製、大腸菌の形質転換、DNAクローニング、リガーゼ反応等は標準の手順(Sambrook J, Fritsh EF, Maniatis T (1989) Molecular Cloning: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, Now York)に従った。この配列はDsRed2タンパク質のC末端としてArg-Ser-Arg-Glu-Ala-翻訳停止コドンをコードし、その直後にEcoRV部位(GATATC)を有する。pDsRed2ERVSMAをEcoRVで切断した平滑末端に、5'-GTAGGAGCTACAGTGCTTCATCTCAGAGCTACAGTGCTTCATCTCAGAGCTACAGTGCTTCATCTCA-3'(配列番号4)/5'-TGAGATGAAGCACTGTAGCTCTGAGATGAAGCACTGTAGCTCTGAGATGAAGCACTGTAGCTCCTAC-3'(配列番号5)又は5'-GTAGCAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAACAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAACAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAA-3'(配列番号6)/5'-TTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGTTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGTTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGCTAC-3'(配列番号7)をアニーリングさせたDNA鎖を連結し、それぞれpDsRed2-miR143標的及びpDsRed2-siPolR2A標的を作製した。これらの連結した配列には、miR-143(配列番号1)又はsiPolR2A-AS(配列番号2)に完全に相補的な配列が3回繰り返して設計されている。
【実施例】
【0102】
導入効率の違いを補正するために、二本鎖核酸分子の活性に関わらずGFPを発現するpCAGGS-AFP(Momose T et al., 1999, Dev Growth Differ, 41, 335-44)を用いた。
【実施例】
【0103】
(遺伝子発現抑制活性の測定法)
特に断りがない限り、二本鎖核酸分子の遺伝子発現抑制活性は次のように測定した。
【実施例】
【0104】
24ウェルプレートにHEK293T細胞(ヒト胎児腎細胞)を60,000細胞/ウェルで播種した。24時間後、所定量の二本鎖核酸分子、GFPを発現するプラスミドpCAGGS-AFP(50ng)、及びpDsRed2-miR143標的(二本鎖核酸分子のアンチセンス鎖がmiR-143の場合)若しくはpDsRed2-siPolR2A標的(二本鎖核酸分子のアンチセンス鎖がsiPolR2A-ASの場合)(50ng)を、LipofectamineTM LTX(Invitrogen)を用いて細胞にトランスフェクションした。方法はInvitrogen社のプロトコルに従った。コントロールとして、無関係な配列を有する対照siRNA(5'-gcgcgcuuuguaggauucgTT-3'(配列番号8)/5'-cgaauccuacaaagcgcgcTT-3'(配列番号9)、大文字:デオキシリボヌクレオチド、小文字:リボヌクレオチド)をアニーリングさせ、同濃度トランスフェクションしたものを用いた。48時間後、細胞を界面活性剤を含む緩衝液TBST(20mM Tris, pH7.4、0.15M NaCl、0.05%Triton X-100)で破壊し、遠心(13,000 x g、30分)し、上清を蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent FL, Thermofisher Scientific)で蛍光測定した。波長は、GFPについては励起485nm、蛍光538nm、DsRed2については励起544nm、蛍光590nmで測定した。
【実施例】
【0105】
(測定原理)
pDsRed2-miR143標的及びpDsRed2-siPolR2A標的にはCMVプロモータ下流にDsRed2遺伝子がある。この遺伝子の3'-非翻訳領域(3'-UTR)には、活性測定対象の二本鎖核酸分子に含まれるアンチセンス鎖に完全に相補的な配列が3回繰り返して設計されている。アンチセンス鎖によって、標的配列を3'-UTRに有するDsRed2の遺伝子サイレンシングが誘導され、発現が著しく抑制される。このプラスミドと同時にトランスフェクションしたGFP発現ベクターpCAGGS-AFPからの蛍光を用いて、導入効率の違いを補正する(GFPは二本鎖核酸分子の活性に関わらず発現する)。対照siRNAを用いた場合の比「DsRed2蛍光/GFP蛍光」を1としたときの、各二本鎖核酸分子を用いた場合の比「DsRed2蛍光/GFP蛍光」は、二本鎖核酸分子の遺伝子発現抑制活性がある場合、1以下の値を取る。実験毎に値は変動するが、典型的には、この値が0.2以下の場合に十分な遺伝子発現抑制活性があるとみなす。この値を正規化DsRed2/GFP比(相対値)とした。
【実施例】
【0106】
[実施例1]
(5'突出部分を有するDNAセンス鎖)
(1)5'突出部分を有するDNAセンス鎖を用いた場合の遺伝子発現抑制活性
天然型miRNA/miRNA*二本鎖を用いて、上記活性測定法によって遺伝子発現抑制活性を確認した。miR-143(配列番号1)/miR143*(配列番号10)(表1-1)を用いたところ、濃度の増加に伴って正規化DsRed2/GFP比は低下し、濃度依存的な遺伝子発現抑制活性が見られた(図3、miR-143*)。
【実施例】
【0107】
次に、miR-143に十分に相補的なDNAセンス鎖(表1-1、D143(4m)、配列番号11)を用いて、遺伝子発現抑制活性を評価した。濃度が高いとき(25nM及び10nM)には弱い活性が見られたものの、天然型miRNA/miRNA*に比べて活性は大きく低下した(図3、D143(4m))。
【実施例】
【0108】
次に、5'末端に16塩基の突出部分を有するDNAセンス鎖(表1-1、D143(4m)16L、配列番号12)を用いた。すると驚くべきことに、広い濃度範囲にわたって天然型miRNA*を用いた場合とほぼ同程度の活性が検出された(図3、D143(4m)16L)。先行技術では、siRNA二本鎖の一方の鎖をDNA鎖にすると活性が大幅に低下することが示されていた(Elbashir et al., 2001, EMBO J., 20, 6877-6888)。これに対し、本発明者らは、センス鎖の全てをDNA鎖にしても、5'突出部分を有すれば、高い遺伝子発現抑制活性を示すことを初めて見出した。
【実施例】
【0109】
(2)一本鎖突出部分の長さ及び配列、並びにアンチセンス鎖-センス鎖間のミスマッチの検討
様々なDNAセンス鎖を作製して、さらに活性を評価した。
【実施例】
【0110】
図4は、アンチセンス鎖として上と同様にmiR-143を用いた結果を示す。DNAセンス鎖として1塩基のミスマッチを有し、様々な長さの突出部分を有するDNA鎖を用いた(表1-1;D143(4m)、D143(4m)4L~D143(4m)16L;配列番号11~15)。その結果、様々な長さの5'突出部分を有するDNAセンス鎖を用いるといずれも、突出部分がないものに比べて高い活性を有することが明らかとなった(図4A及びB)。12又は16塩基長の5'突出部分を有するものが特に高い活性を有することが示唆された(図4B)。また、ミスマッチのないDNAセンス鎖(表1-1、D143(comp)、配列番号16)を用いたところ、ミスマッチを有する場合より活性は低下した(図4A、D143(4m)とD143(comp)を比較)。しかし、ミスマッチがない場合でも、5'突出部分を有すると活性が増加した(図4A、D143(comp)とD143(comp)16Lを比較)。
【実施例】
【0111】
図4の結果から、5'突出とミスマッチは相乗的に遺伝子発現抑制活性の上昇に寄与し得ることが示唆された。
【実施例】
【0112】
図5は、アンチセンス鎖としてsiPolR2A-AS(配列番号2)を用いた結果を示す。DNAセンス鎖として、1塩基のミスマッチを有し、様々な塩基長のTからなる5'突出部分を有するDNA鎖を用いた(表2-1、7m及びT3~T15、配列番号19~24)。その結果、様々な長さの5'突出部分を有するセンス鎖を用いるといずれも、突出部分がないものに比べて高い遺伝子発現抑制活性を示した(図5)。また、5'突出部分にランダムなDNA配列を有するDNAセンス鎖1~7を用いた(表2-1、配列番号25~31)。その結果、グアニン(G)の含量がより高い鎖6及び7(G含量47%)で、より高い活性が検出される傾向が見られた(図5)。
【実施例】
【0113】
図5の結果から、5'突出部分がいずれの長さでも5'突出部分がないものに比べて高い遺伝子発現抑制活性を有すること、そして5'突出部分の配列は任意でかまわないが、G含量の高いものが有利であり得ることが示唆された。
【実施例】
【0114】
図6は、アンチセンス鎖として上と同様にsiPolR2A-ASを用い、DNAセンス鎖として、1塩基のミスマッチを有し、かつ様々な配列からなる一定の塩基長(6塩基長)の5'突出部分を有するDNA鎖(表2-1、配列番号32~39)を用いた場合の遺伝子発現抑制活性を示す。その結果、G含量がより高いGGA-6及びGGT-6(G含量67%)で、より高い活性が検出された(図6)。
【実施例】
【0115】
図7は、アンチセンス鎖として上と同様にsiPolR2A-ASを用い、DNAセンス鎖として、1塩基のミスマッチを有し、かつグアニン(G)とアデニン(A)からなり一定のG含量(67%)である様々な塩基長の5'突出部分を有するDNA鎖(表2-1、GGA-6~GGA-21、配列番号38、40~44)を用いた場合の遺伝子発現抑制活性を示す。その結果、DNAセンス鎖の5'突出部分がいずれの長さでも5'突出部分がないものに比べて活性が高い傾向が示された(図7)。
【実施例】
【0116】
以上の結果をまとめると、RNAアンチセンス鎖及び5'突出部分を有するDNAセンス鎖からなる二本鎖核酸分子は、典型的なRNA二本鎖と同程度の遺伝子発現抑制活性を有し、5'突出部分の長さ及び配列は任意でかまわないがG含量が多い場合に活性がより高いことが示唆された。また、DNAセンス鎖の5'突出と、アンチセンス鎖及びセンス鎖間のミスマッチとは相乗的に遺伝子発現抑制活性の上昇に寄与し得ることが示唆された。
【実施例】
【0117】
(3)様々な一本鎖突出部分を有する分子のさらなる検討
突出部分をさらに改変して遺伝子発現抑制活性を調べた。なおここでは、アンチセンス鎖としてsiPolR2A-ASを用い、DNAセンス鎖の一本鎖突出部分を改変し、測定方法は以下のとおり行った。
【実施例】
【0118】
96ウェルプレートにHEK293T細胞を12000細胞/ウェルで播種した。次の日、二本鎖核酸分子(5 nM)、前述のGFPを発現するプラスミドpCAGGS-AFP(5ng)及びpDsRed2-siPolR2A標的(5ng)をMultiFectam(Promega)を用いて細胞にトランスフェクションした。その翌日に培地を交換した。さらに1日後、細胞をRIPA bufferで粉砕抽出し、遠心し、上述のとおり上清の蛍光強度を測定した。正規化DsRed2/GFP比(相対値)を用いて活性を評価した。
【実施例】
【0119】
図9は、Gリッチな領域を突出部分の5'末端側及び/又は相補的部分側に有する分子の活性を示す。用いた分子の構造を図8に示す。Gリッチな領域は突出部分内のどこにあっても同様に活性を有していた。また、突出部分が高次構造を有していても活性があることがわかった。
【実施例】
【0120】
図10は、突出部分全体がGリッチな場合と、突出部分の5'末端にGリッチな領域を有する場合の結果を示す(表2-2、G15、G30及びG15_T15、配列番号66~68)。突出部分の一部にGリッチな領域を有する場合も、全体に有する場合と同様に高い活性を示した。
【実施例】
【0121】
図12は、Gリッチな領域が突出部分内のループに1つ又は複数存在する場合の結果を示す。用いた分子の構造を図11に示す。いずれも高い活性を示した。
【実施例】
【0122】
図13は、突出部分にGカルテット構造が形成される場合の結果を示す(表2-2、Gq2~Gq5、配列番号72~75)。Gq2、Gq3等はそれぞれ、図2Bに示すようなグアニンの平面構造が2段又は3段等形成されることを意味する。いずれの場合も高い活性を示した。
【実施例】
【0123】
図14は、突出部分のGカルテット構造と相補的部分の間にチミン(T)からなるスペーサを入れた結果を示す(表2-2、Gq3(3)~Gq3(9)、配列番号76~78)。いずれも高い活性を示した。
【実施例】
【0124】
以上のことから、センス鎖の5'突出部分は、1つ又は複数のGリッチな領域を有すると活性が高くなり、また、その領域は突出部分内のどこにあっても同様に活性が高くなることが明らかとなった。さらに、突出部分内にGカルテット等の高次構造を有することも好ましいことが明らかとなった。
【実施例】
【0125】
[実施例2]
(5'突出部分を有するRNAセンス鎖)
(1)5'突出部分を有するRNAセンス鎖を用いた場合の高い遺伝子発現抑制活性
実施例1では、5'突出部分を有するDNAセンス鎖を用いるとRNAアンチセンス鎖による遺伝子発現抑制活性が見られることが明らかとなった。実施例2では、5'突出部分を有するRNAセンス鎖を用いた場合の活性を評価した。
【実施例】
【0126】
図15は、アンチセンス鎖としてmiR-143を用いた結果を示す。RNAセンス鎖として、天然型miR-143*、miR-143の相補鎖(表1-1、R143(comp)、配列番号45)、1塩基ミスマッチを有するRNA鎖(表1-1、R143(4m)、配列番号46)、及び1塩基ミスマッチと16塩基長の5'突出部分を有するRNA鎖(表1-1、R143(4m)16L、配列番号47)を用いた。その結果、予期せぬことに、5'突出部分を有するRNAセンス鎖(R143(4m)16L)を用いると、天然型miRNA*に比べて著しく高い遺伝子発現抑制活性が検出された(図15A)。驚くべきことに、100pMでは約7倍強い遺伝子発現抑制活性を示した(図15A、miR-143*とR143(4m)16Lを比較)。
【実施例】
【0127】
さらに低濃度における遺伝子発現抑制活性を測定したところ、5'突出部分を有するRNAセンス鎖の場合には、50pMでも約0.2まで抑制活性があり、このような低濃度でも十分効果があることが示された(図15B)。IC50を比べると、天然型(miR143*)が53.9pMであったのに対し、突出型(R143(4m)16L)では24.4pMと2倍以上の活性を示した(図15B)。
【実施例】
【0128】
(2)一本鎖突出部分の長さの検討
様々なRNAセンス鎖を作製して、さらに活性を評価した。
【実施例】
【0129】
図16は、アンチセンス鎖としてmiR-143を用いた結果を示す。RNAセンス鎖として、1塩基のミスマッチを有し、かつ様々な塩基長の5'突出部分を有するRNA鎖を用いた(表1-1;R143(4m)、R143(4m)9L~24L;配列番号46~57)。その結果、様々な長さの5'突出部分を有するRNAセンス鎖を用いるといずれも、突出部分がないものに比べて高い遺伝子発現抑制活性を示した(図16)。
【実施例】
【0130】
(3)アッセイ系による遺伝子発現抑制活性の変化の検討
ここまでの実施例では、断りがない限り上述の「遺伝子発現抑制活性の測定法」に従って活性を評価した。異なるアッセイ系でも同様の結果が得られることを確かめるために、正規化用に使用したGFPと、遺伝子発現抑制活性評価に使用したDsRed2を置換した。すなわち、正規化用プラスミドとしてpDsRed2-C1(Clontech社)を使用し、活性評価用プラスミドとしてpCAGGS-AFP-miR143標的を使用した(図17A)。pCAGGS-AFP-miR143標的は、pCAGGS-AFPのGFP遺伝子の3'側をEcoRVで切断した平滑末端に、上記配列番号4及び配列番号5のDNA鎖をアニーリングさせた分子を連結して作製した。アンチセンス鎖としてmiR-143を用い、センス鎖として5'突出部分を持たないRNA鎖(表1-1、R143(4m)、配列番号46)、9又は16塩基長の5'突出部分を有するRNA鎖(表1-1、R143(4m)9L、配列番号48;R143(4m)16L、配列番号47)を用いた。その結果、アッセイ系を変えた場合(図17C)でも、これまでのアッセイ系(図17D)と同様の活性の傾向が見られ、5'突出部分を有するRNAセンス鎖を用いると著しく高い活性が見られた。このことから、ここまでの活性評価から得られた結果の有効性が裏付けられた。
【実施例】
【0131】
[実施例3]
(5'突出部分を有するDNA/RNAキメラセンス鎖)
センス鎖に含まれるアンチセンス鎖に対する相補的部分及び5'突出部分を、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの様々な組み合わせで有するDNA/RNAキメラセンス鎖を有する場合について、遺伝子発現抑制活性を検討した。
【実施例】
【0132】
結果を図18に示す。アンチセンス鎖としてmiR-143を用いた。アンチセンス鎖に対する相補的部分をDNAとして、5'突出部分を持たないセンス鎖(表1-2、D143(4m)、配列番号11)、DNA若しくはRNAからなる5'突出部分を有するセンス鎖(表1-2、D143(4m)16L、配列番号12;D143(4m)R16L、配列番号58)を用いた。逆に、アンチセンス鎖に対する相補的部分をRNAとして、5'突出部分を持たないセンス鎖(表1-2、R143(4m)、配列番号46)、RNA若しくはDNAからなる5'突出部分を有するセンス鎖(表1-2、R143(4m)16L、配列番号47;R143(4m)D16L、配列番号59)を用いた。
【実施例】
【0133】
相補的部分がDNAの場合、D143(4m)16L(5'突出がDNA)及びD143(4m)R16L(5'突出がRNA)では同様に、D143(4m)より高い活性を示した。一方、相補的部分がRNAの場合、R143(4m)16L(5'突出がRNA)及びR143(4m)D16L(5'突出がDNA)では同様に、R143(4m)より高い活性を示した。このことから、5'突出部分がDNAであるかRNAであるかは活性に重要ではないことが示唆された。また、相補的部分がRNAであるR143(4m)16L及びR143(4m)D16Lは、高い活性を有しており、アンチセンス鎖に対する相補的部分がRNAであることが活性に重要であることが示された。
【実施例】
【0134】
[比較例]
図19では、3'突出部分を有するセンス鎖を用いて、活性を検討した。用いたオリゴヌクレオチドは表1-2に示す。その結果、DNA鎖及びRNA鎖ともに、センス鎖の3'末端に突出部分を有しても有効な遺伝子発現抑制活性は見られなかった。
【実施例】
【0135】
[実施例4]
(ヒトHeLa-S3細胞における内在性遺伝子に対する効果)
内在性遺伝子に対する遺伝子発現抑制効果を調べるため、ヒトHeLa-S3細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼPolR2A遺伝子を標的とする遺伝子抑制実験を行った。RNAポリメラーゼPolR2はmRNAの転写を担う酵素である。このサブユニットをコードするPolR2A遺伝子の発現を、高濃度の二本鎖核酸分子によって、かつレポーター遺伝子などの外来性標的の非存在下で、強く抑制すると細胞の増殖が低下するか、又は致死になると考えられる。
【実施例】
【0136】
次の方法によって遺伝子発現抑制効果を調べた。HeLa-S3細胞(8000細胞)を96ウェルプレートに播種した。1日後、アンチセンス鎖siPolR2A-AS(配列番号2、表2-1)と、センス鎖siPolR2A-S(配列番号18、表2-1)又はgga-5(配列番号79、表2-2)からなる二本鎖核酸分子、あるいは上述の対照siRNA二本鎖核酸分子(配列番号8及び9)を50nMでX-tremeGENE siRNA Transfection Reagent(Roche Applied Science)を用いて細胞にトランスフェクションした。さらに2日後にCell Counting Kit-8(Dojindo)を用いて細胞生存率を測定した。
【実施例】
【0137】
図20に示すように、本発明の二本鎖核酸分子(センス鎖gga-5を含む)を用いると、通常のsiRNA(センス鎖siPolR2A-Sを含む)の場合と同様に細胞生存率は低下した。よって、本発明の二本鎖核酸分子が内在性遺伝子に対しても発現抑制効果を有することが明らかとなった。このことは、本発明の二本鎖核酸分子が内在性の遺伝子を標的とすることができる汎用性の高いツールであることを示唆するものである。
【実施例】
【0138】
[実施例5]
(ヒト癌細胞における腫瘍抑制効果)
miR-143は癌細胞に導入されると細胞増殖が阻害され、腫瘍抑制効果があることが報告されている(Akao Y, et al., 2010, Cancer Gene Ther, 17, 398-408)。本発明の二本鎖核酸分子が、天然型のmiRNAと同様に癌細胞内で機能し、腫瘍抑制効果を有するか次の方法によって調べた。ヒト大腸癌DLD-1細胞(8000細胞)を96ウェルプレートに播種した。1日後、アンチセンス鎖miR-143(配列番号1、表1-1)と、センス鎖miR-143*(配列番号10、表1-1)又はR143(4m)D16L(配列番号59、表1-2)からなる二本鎖核酸分子、あるいは上述の対照siRNA二本鎖核酸分子(配列番号8及び9)を50nMでLipofectamineTM RNAiMAX(Invitrogen)を用いて細胞にトランスフェクションした。さらに3日後、1ウェルあたりの細胞数をカウントし単位面積当たりの細胞数を求めた(細胞/mm2)。
【実施例】
【0139】
図21の結果から、センス鎖R143(4m)D16Lを含む本発明の二本鎖核酸分子は、センス鎖miR-143*を含む天然型miRNAよりも高い癌細胞増殖抑制効果を有することが示された。このことは、本発明の二本鎖核酸分子を有効成分とする癌治療薬が、天然型miRNAのものよりも有効であることを示している。
【実施例】
【0140】
[実施例6]
(自然免疫応答に対する影響)
一般に、通常のsiRNAは二重鎖RNAの認識により自然免疫応答を引き起こすことが知られている。自然免疫系の過剰な応答は、医薬開発において障害となる。本発明の二本鎖核酸分子が、自然免疫応答を引き起こすか、次の方法によって調べた。HeLa-S3細胞(8000細胞)を96ウェルプレートに播種した。1日後、X-treamGENE siRNA Transfection Reagent(Roche Applied Science)を用いて、表3に示すアンチセンス鎖(siGFP-AS、配列番号80)とセンス鎖(siGFP-S、配列番号81;siGFP(7m)、配列番号82;またはsiGFP(7m)12L、配列番号83)とからなる3種の二本鎖核酸分子(各40nM)又はpoly I:C(50ng)をトランスフェクションした。9時間後、全RNAを回収し定量的RT-PCR(qRT-PCR)を行って、自然免疫において誘導されるIFNβ、IP10及びOAS1 mRNAの発現量を調べた。この際、以下のプライマーの組み合わせ、IFNβフォワード(5'-TCACTGTGCCTGGACCATAG-3'、配列番号85)とIFNβリバース(5'-CAGCATCTGCTGGTTGAAGA-3'、配列番号86)、OAS1フォワード(5'-GCAGAAGAGGACTGGACCTG-3'、配列番号87)とOAS1リバース(5'-TAGAAGGCCAGGAGTCAGGA-3'、配列番号88)又はIP10フォワード(5'-GCTCTACTGAGGTGCTATGTTC-3'、配列番号89)とIP10リバース(5'-CCCTTGGAAGATGGGAAAGGT-3'、配列番号90)を用いた。結果を、プライマーGAPDHフォワード(5'-TCCCATCACCATCTTCCA-3'、配列番号91)とGAPDHリバース(5'-CATCACGCCACAGTTTCC-3'、配列番号92)を用いて内在性コントロールGAPDHに対して補正した。
【実施例】
【0141】
図22の結果から、センス鎖がDNAからなる本発明の二本鎖核酸分子(センス鎖siGFP(7m)12Lを含む)は自然免疫応答を引き起こさないか、又は通常のsiRNA(センス鎖siGFP-Sを含む)と比べて低レベルでしか引き起こさないことが示された。このことから、本発明の二本鎖核酸分子は自然免疫応答等の副作用の可能性が少ないため、安全性の高い医薬組成物の有効成分となり得ることが示された。
【実施例】
【0142】
なお、本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の二本鎖核酸分子を利用して、高効率に遺伝子発現抑制を実現することができる。特に、センス鎖としてDNA鎖を用いることもでき、その場合、RNA鎖に比べコストの低下が期待できる。この二本鎖核酸分子を利用した医薬組成物は、様々な疾患の予防及び/又は治療において効果が期待できる。
【配列表フリ-テキスト】
【0144】
配列番号8、9、58及び59:合成DNA/RNAキメラ
配列番号1、2、10、18、45~57、61及び79~81:合成RNA
配列番号3~7、11~17、19~44、60、62~78及び82~84:合成DNA
配列番号85~92:プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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