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明細書 :リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のバイオマーカー及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5924502号 (P5924502)
登録日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発行日 平成28年5月25日(2016.5.25)
発明の名称または考案の名称 リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のバイオマーカー及びその用途
国際特許分類 G01N  33/564       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI G01N 33/564 Z
G01N 33/53 N
C07K 16/18 ZNA
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2013-547092 (P2013-547092)
出願日 平成24年11月16日(2012.11.16)
国際出願番号 PCT/JP2012/079776
国際公開番号 WO2013/080811
国際公開日 平成25年6月6日(2013.6.6)
優先権出願番号 2011258387
優先日 平成23年11月28日(2011.11.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年9月8日(2015.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】椙村 益久
【氏名】大磯 ユタカ
【氏名】岩間 信太郎
【氏名】榎本 篤
【氏名】加藤 琢哉
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 椙村益久,下垂体後葉ホルモンの最前線 II.尿崩症及び関連疾患 リンパ球性漏斗下垂体後葉炎,ホルモンと臨床,2011年 5月 1日,Vol.59, No.5, Page.471-474
Tabaska, J. E.,An RNA folding method capable of identifying pseudoknots and base triples,Bioinformatics,1998年,Vol.14, No.8,p.691-699
大磯ユタカ等,間脳下垂体機能障害に関する調査研究 リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の診断マーカーとしての抗76kD蛋白抗体の,間脳下垂体機能障害に関する調査研究 平成23年度 総括・分担研究報告書,2012年 3月,Page.141-146
島津章等,下垂体炎の臨床例からみた''リンパ球性''漏斗下垂体炎の診断について,日本内分泌学会雑誌,2012年 8月20日,Vol.88 No.Suppl. (Aug),Page.68-71
調査した分野 G01N 33/564
C07K 16/18
G01N 33/53
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
抗ラブフィリン3a抗体からなる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎マーカー。
【請求項2】
抗ラブフィリン3a抗体の検体中レベルを指標として用いることを特徴とする、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査法。
【請求項3】
以下のステップ(1)を含む、請求項2に記載の検査法:
被検者由来の検体中の抗ラブフィリン3a抗体を検出するステップであって、抗ラブフィリン3a抗体のレベルが高いことが、罹患している疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎であることの指標、及びリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の発症可能性が高いことの指標となるステップ。
【請求項4】
前記検体が血清である、請求項2又は3に記載の検査法。
【請求項5】
ラブフィリン3a又はその抗体結合断片を含む、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査試薬。
【請求項6】
請求項に記載のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査試薬を含む、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎のバイオマーカーに関する。詳しくは、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎のバイオマーカー及びそれを利用した検査法などに関する。本出願は、2011年11月28日に出願された日本国特許出願第2011-258387号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
リンパ球性下垂体炎は視床下部漏斗部や下垂体にリンパ球や形質細胞が浸潤する自己免疫性の慢性炎症性疾患である。漏斗部及び後葉に炎症が限局し、中枢性尿崩症を呈する疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎(以下、「LINH」と略称する)である。LINHの診断は困難な場合があり、確定診断には下垂体の生検が必要であるが侵襲的であるため施行されることは少なく、また、誤診され不必要な手術を施行されてしまう症例も少なくない。病因も不明であり、治療法は確立されていない。
【0003】
リンパ球性下垂体炎に関して、いくつかの診断マーカー(バイオマーカー)が報告されているが(例えば、非特許文献1~5を参照)、感度と特異度の両者が優れたものはなく、臨床応用はされていない。また、LINHに特異的な診断マーカーについては報告がない。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】J Clin Endocrinol Metab. 87(2):752-7, 2002
【非特許文献2】Horm Res. 55(6):288-92, 2001
【非特許文献3】Eur J Endocrinol. 147(6):767-75, 2002
【非特許文献4】J Endocrinol Invest, 30(2):153-62, 2007
【非特許文献5】Clin Endocrinol. 69(2):269-78, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の背景の下で本発明は、LINHの鑑別や信頼度の高い診断等を可能にすべく、LINH特異的なバイオマーカー及びその用途、即ちLINHの検査に有用な技術を提供することを課題とする。具体的には、本発明の課題は、LINHの検査に有用なバイオマーカー、当該バイオマーカーを利用した検査法、及び当該検査法に利用される検査試薬などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、LINHに特異的なバイオマーカーを見出すべく研究を進めた。具体的には、まず、LINH患者の他に、脳腫瘍などで中枢性尿崩症を呈する疾患コントロール症例及び健常者から血清を収集し、IgGを精製した。一方、ラット下垂体から下垂体後葉蛋白抽出液を作製した。そして、血清から精製されたIgGと下垂体後葉蛋白抽出液を混和し、プロテインGビーズを用いて免疫沈降した後、免疫沈降物から抗原を溶出した。溶出した抗原をLC-MS/MSシステムであるPradigmMS4-PAL-LTQ Orbitrap XL(ThermoFisher SCIENTIFIC)による解析に供した(ショットガンプロテオミクス)。公共のデータベース及び解析ソフトを用いてMSデータを解析し、自己抗原候補蛋白を同定した。次に、自己抗原蛋白候補である6種類の蛋白についてリコンビナント蛋白を合成した後、これらリコンビナント蛋白と患者血清との反応性をウエスタンブロット法で検討した。その結果、LINH患者9例中8例(8/9)でラブフィリン3a(Rabphilin3a)に対する自己抗体が認められた。一方、対照中で本自己抗体が認められたのは、健常人で1/10、リンパ球性下垂体前葉炎症例で0/3、尿崩症を伴うIgG4関連下垂体炎症例で1/3、腫瘍などに伴う尿崩症症例で1/10であった。このように、ラブフィリン3aがLINHに対して特異性の高い自己抗原であることが判明した。換言すれば、ラブフィリン3aに対する自己抗体(抗ラブフィリン3a抗体)がLINHのバイオマーカーとして極めて有用であり、当該抗体を指標にすれば感度及び特異度の極めて高いLINHの検査(鑑別のための検査など)が可能になることが明らかとなった。
【0007】
更なる検討の結果、ラット視床下部室傍核と視索上核及び下垂体後葉にもラブフィリン3aが発現することが見いだされた。この知見はラブフィリン3aがLINHの病態形成に直接的に関与することを示唆するものであり、LINHの病態を把握する目的にも、当該分子に対する自己抗体、即ち抗ラブフィリン3a抗体が有用であることが判明した。
【0008】
検体を増やして検討した結果、腫瘤性病変に伴う尿崩症(DI)とLINHとの鑑別、及び特発性若しくは二次性の中枢性尿崩症とLINHとの鑑別において非常に高い特異度を認めるとともに、他の自己免疫疾患とLINHとの鑑別においても高い特異度を認め、抗ラブフィリン3a抗体がLINHのバイオマーカーとして有用であることが更に裏付けられた。
以下の発明は、主として上記の成果に基づく。
[1]抗ラブフィリン3a抗体からなる、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎マーカー。
[2]抗ラブフィリン3a抗体の検体中レベルを指標として用いることを特徴とする、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査法。
[3]以下のステップ(1)~(3)を含む、[2]に記載の検査法:
(1)被検者由来の検体を用意するステップ;
(2)前記検体中の抗ラブフィリン3a抗体を検出するステップ;及び
(3)検出結果に基づいて、罹患している疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎であるか否か、又はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の発症可能性、を判定するステップ。
[4]抗ラブフィリン3a抗体のレベルが高いことが、罹患している疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎であることの指標、及びリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の発症可能性が高いことの指標となる、[3]に記載の検査法。
[5]ステップ(2)で得られた検出値と対照検体の検出値との比較に基づきステップ(3)の判定を行う、[3]又は[4]に記載の検査法。
[6]ステップ(2)で得られた検出値と、同一の被検者から過去に採取された検体中の検出値との比較に基づきステップ(3)の判定を行う、[3]又は[4]に記載の検査法。
[7]前記検体が血液、血漿、血清、脳脊髄液又は尿である、[2]~[6]のいずれか一項に記載の検査法。
[8]ラブフィリン3a又はその抗体結合断片を含む、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査試薬。
[9][8]に記載のリンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査試薬を含む、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査用キット。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】患者血清とラブフィリン3aを用いたウエスタンブロットの結果。LINH患者(症例1~3)においてラブフィリン3aに対する反応が認められた。一方、二次性尿崩症(DI)や健常人では同様の反応は認められなかった。
【図2】ラブフィリン3aに対する自己抗体陽性率のまとめ。疾患毎に陽性症例の割合を示した。例えば、8/9は9症例中の8症例で自己抗体陽性であることを示す。
【図3】ラブフィリン3aをトランスフェクションしたHEK293FT細胞とLINH患者血清との反応性(免疫組織化学の結果)。抗V5抗体との反応性(左)、血清との反応性(中央)、二つの像の合成(右)を示す。
【図4】LINH特異的抗原の発現。ラット下垂体後葉(上段)、及び視床下部視索上核(SON)(下段)の免疫組織化学。AVP(左)及びラブフィリン3a(中央)の局在を調べた。右は二つの像の合成。
【図5】ラブフィリン3aに対する自己抗体陽性率のまとめ。検体を増やし、ラブフィリン3aの有用性を検討した。自己免疫疾患患者の検体についても自己抗体陽性率を調べた。
【図6】鑑別の感度及び特異度のまとめ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の第1の局面:リンパ球性漏斗下垂体後葉炎(LINH)のバイオマーカー)
本発明の第1の局面はLINHのバイオマーカー(以下、「本発明のバイオマーカー」とも呼ぶ)に関する。本発明のバイオマーカーはLINHの鑑別、或いはLINHの発症可能性を評価する上で有用な指標である。ここでの「鑑別」は、被験者が罹患している疾患がLINHであるか、それとも別の疾患であるかを判定することである。特に、尿崩症の患者がLINHを罹患しているか否かを把握する上で本発明のバイオマーカーは有用である。とりわけ、LINHに伴う中枢性尿崩症と、腫瘤性病変に伴う尿崩症とを区別する指標として本発明のバイオマーカーは重要である。

【0011】
「発症可能性」には、現在の発症可能性と将来の発症可能性がある。「現在の発症可能性」は、検査時においてLINHを発症しているか否か又は発症している確率を表すことになる。他方、「将来の発症可能性」はLINHを将来発症する可能性(リスク)を表す。

【0012】
本発明のバイオマーカーは、LINH特異的な抗原分子ラブフィリン3aに対する抗体(自己抗体)、即ち抗ラブフィリン3a抗体からなる。ラブフィリン3aは、RPH3A遺伝子によってコードされる蛋白質で、RAB3Aのエフェクターであり、神経伝達物質やホルモンの開口放出に関与することが知られている。尚、ラブフィリン3a(DEFINITION: Homo sapiens rabphilin 3A homolog (mouse), mRNA (cDNA clone MGC:29559 IMAGE:3510158), complete cds. ACCESSION: BC017259)のアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号1及び配列番号2にそれぞれ示す。尚、原則として、生体中に存在する抗ラブフィリン3a抗体ではなく、生体から採取された(即ち分離された)検体中の抗ラブフィリン3a抗体が本発明のバイオマーカーとして利用される。

【0013】
(本発明の第2の局面:LINH検査法)
本発明の第2の局面は上記本発明のバイオマーカーの用途に関し、罹患している疾患がLINHであるか否か、又はLINHの発症可能性を検査する方法(以下、「本発明の検査法」とも呼ぶ)を提供する。本発明の検査法によればLINHの鑑別が可能になる(罹患している疾患がLINHであるか否かを判定する場合)。本発明の検査法は、LINHを現在発症しているか否かを判定するための手段として、或いはLINHを将来発症する可能性を判定するための手段としても有用である(LINHの発症可能性を判定する場合)。このように、本発明の検査法はLINHの診断上、有用な情報を与える。本発明の検査法は、例えば、簡便且つ客観的なLINHの確定診断に役立つ。

【0014】
本発明の検査法では、被検者由来の検体中における、本発明のバイオマーカーのレベルが指標として用いられる。ここでの「レベル」は、典型的には「量」ないし「濃度」を意味する。但し、慣例及び技術常識に従い、本発明のバイオマーカーを検出できるか否か(即ち見かけ上の存在の有無)を表す場合にも用語「レベル」が用いられる。

【0015】
本発明の検査法では以下のステップを行う。
(1)被検者由来の検体を用意するステップ
(2)前記検体中の抗ラブフィリン3a抗体を検出するステップ
(3)検出結果に基づいて、罹患している疾患がリンパ球性漏斗下垂体後葉炎であるか否か、又はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の発症可能性を判定するステップ

【0016】
ステップ(1)では被検者由来の検体を用意する。検体としては被検者の血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等を用いることができる。被検者は特に限定されない。即ち、LINHの鑑別が必要な者、LINHの現在又は将来の発症可能性(即ち、LINHを発症しているか否か、LINHを発症している可能性の程度、LINHを将来発症する可能性の程度)の判定が必要な者に対して広く本発明を適用することができる。例えば、中枢性尿崩症の症状を認める者が「LINHの鑑別が必要な者」に該当し得る。また、医師の問診やその他の検査などによってLINHであると診断された患者に対して本発明を適用した場合、バイオマーカーのレベルという客観的な指標に基づいて当該診断の当否を判定することができる。即ち、本発明の検査法によれば従来の診断を補助或いは裏付ける情報を得ることも可能である。当該情報は、より適切な治療方針の決定に有益であり、治療効果の向上や患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上を促す。一方、罹患状態のモニターに本発明を利用し、難治化、重篤化、再発等の防止を図ることもできる。

【0017】
MRI検査などの画像検査で下垂体茎の肥厚や下垂体の腫大が認められる症例はLINHの罹患リスクが高いと推定され(高リスク者)、好適な被検者である。このような被検者に対してLINHの症状が現れる前に本発明を適用することは、発症の阻止又は遅延或いは早期の治療介入を可能にする。LINHの罹患リスクが高い者を特定する目的にも本発明は有用である。このような特定は、例えば、予防的措置や生活習慣の改善等による発症可能性(罹患可能性)の低下を可能にする。自覚症状がない者など、従来の診断ではLINHであるか否かの判定が不能又は困難な者も本発明の好適な被検者である。尚、健康診断の一項目として本発明を実施することにしてもよい。

【0018】
ステップ(2)では検体中におけるバイオマーカーを検出する。バイオマーカーのレベルを厳密に定量することは必須でない。即ち、後続のステップ(3)において所定の判定が可能となる程度にバイオマーカーのレベルを検出すればよい。例えば、検体中のバイオマーカーのレベルが所定の基準値を超えるか否かが判別可能なように検出を行うこともできる。

【0019】
バイオマーカーの検出方法は特に限定されないが、好ましくは免疫学的手法を利用する。免疫学的手法によれば迅速且つ感度のよい検出が可能である。また、操作も簡便である。免疫学的手法による測定では、バイオマーカーに特異的結合性を有する物質を使用する。当該物質として、典型的には、ラブフィリン3a又はその抗体結合断片が用いられる。「抗体結合断片」とは、抗ラブフィリン3a抗体と結合するエピトープを含む、ラブフィリン3aの断片であり、全長ラブフィリン3aと同様に抗ラブフィリン3a抗体に対する結合性を有する。

【0020】
測定法として、ラテックス凝集法、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、ウエスタンブロット法を例示することができる。好ましい測定法としては、FIA法及びEIA法(ELISA法を含む)を挙げることができる。これらの方法によれば高感度、迅速且つ簡便に検出可能である。FIA法では蛍光標識した抗体を用い、蛍光をシグナルとして抗原抗体複合体(免疫複合体)を検出する。一方、EIA法では酵素標識した抗体を用い、酵素反応に基づく発色ないし発光をシグナルとして免疫複合体を検出する。

【0021】
ELISA法は検出感度が高いことや特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法を利用する場合の具体的な操作法の一例を以下に示す。まず、ウサギやヤギなどを免疫することで調製した抗ラブフィリン3a抗体を不溶性支持体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗ラブフィリン3a抗体で感作する(コートする)。このように固相化した抗体に対し、検体と酵素標識したラブフィリン3aを接触させる。この操作の結果、固相化抗体とラブフィリン3aが結合して免疫複合体が形成されるが、抗ラブフィリン3a抗体(自己抗体)が検体中に存在していれば、固相化抗体との間で競合が生じ、固相化抗体へのラブフィリン3aの結合量が減少する。洗浄操作によって非特異的結合成分を除去した後、酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。尚、ELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。尚、競合法に限らず、非競合法を用いることにしてもよい。また、固相化したラブフィリン3a(又はその抗体結合断片)に対して検体を接触させることで免疫複合体を形成させた後、当該免疫複合体を2次抗体などを用いて検出する方法や、或いはサンドイッチ法等を採用してもよい。

【0022】
プロテインアレイやプロテインチップ等、多数の検体を同時に検出可能な手段を用いることにしてもよい。

【0023】
ステップ(3)では、検出結果に基づいて、罹患している疾患がLINHであるか否かを判定する。別の態様では、検出結果に基づいて、LINHの発症可能性を判定する。精度のよい判定を可能にするため、ステップ(2)で得られた検出値を対照検体(コントロール)の検出値と比較した上で判定を行うとよい。対象検体としては、健常者の検体、腫瘤性病変に伴う尿崩症患者の検体、特発性若しくは二次性中枢性尿崩症患者の検体、他の自己免疫疾患患者の検体などを用いることができる。判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。

【0024】
(定性的判定の例1:鑑別)
基準値よりも検出値(例えば標識量や蛍光量)が高いときに「罹患している疾患はLINHである」と判定し、基準値よりも検出値が低いときに「罹患している疾患はLINH以外である」と判定する。特定の疾患との鑑別を行う場合にあっては、典型的には、基準値よりも検出値が高いときに「罹患している疾患はLINHである」と判定し、基準値よりも検出値が低いこときに「罹患している疾患は当該特定の疾患である」と判定する。ここでの「特定の疾患」は、例えば、リンパ球性下垂体前葉炎症、尿崩症を伴うIgG4関連下垂体炎症、尿崩症を伴う腫瘤性病変である(以下の例でも同様)。

【0025】
(定性的判定の例2:鑑別)
反応性が認められた(陽性の)ときに「罹患している疾患はLINHである」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「罹患している疾患はLINH以外である」と判定する。特定の疾患との鑑別を行う場合にあっては、典型的には、反応性が認められた(陽性の)ときに「罹患している疾患はLINHである」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「罹患している疾患は当該特定の疾患である」と判定する。

【0026】
(定性的判定の例3:発症可能性)
基準値よりも検出値(例えば標識量や蛍光量)が高いときに「LINHを発症している可能性が高い」と判定し、基準値よりも検出値が低いときに「LINHを発症していない」又は「LINHを発症していない可能性が高い」と判定する。将来の発症可能性を判定する場合にあっては、基準値よりも検出値が高いときに「LINHを発症する」又は「LINHを発症する可能性が高い」と判定し、基準値よりも検出値が低いときに「LINHを発症しない」又は「LINHを発症しない可能性が高い」と判定する。

【0027】
(定性的判定の例4:発症可能性)
反応性が認められた(陽性の)ときに「LINHを発症している」又は「LINHを発症している可能性が高い」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「LINHを発症していない」又は「LINHを発症していない可能性が高い」と判定する。将来の発症可能性を判定する場合にあっては、反応性が認められた(陽性の)ときに「LINHを発症する」又は「LINHを発症する可能性が高い」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「LINHを発症しない」又は「LINHを発症しない可能性が高い」と判定する。

【0028】
(定量的判定の例1:鑑別)
以下に示すように検出値の範囲毎に「罹患している疾患がLINHである可能性(%)」を予め設定しておき、検出値から「罹患している疾患がLINHである可能性(%)」を判定する。
検出値a~b:LINHである可能性は10%以下
検出値b~c:LINHである可能性は10%~30%
検出値c~d:LINHである可能性は30%~50%
検出値d~e:LINHである可能性は50%~70%
検出値e~f:LINHである可能性は70%~90%

【0029】
(定量的判定の例2:発症可能性)
以下に示すように測定値の範囲毎に発症可能性(%)を予め設定しておき、測定値から発症可能性(%)を判定する。
測定値a~b:発症可能性は10%以下
測定値b~c:発症可能性は10%~30%
測定値c~d:発症可能性は30%~50%
測定値d~e:発症可能性は50%~70%
測定値e~f:発症可能性は70%~90%

【0030】
判定区分の数、及び各判定区分に関連付けられるバイオマーカーのレベル及び判定結果はいずれも上記の例に何らとらわれることなく、予備実験等を通して任意に設定することができる。例えば、所定の閾値を境界としてLINHであるか否かの判定(鑑別)を行う場合やLINHの発症可能性の高低を判定する場合の「閾値」や、LINHであるか否かの判定(鑑別)又はLINHの発症可能性の高低に係る区分に関連づける「バイオマーカーのレベル範囲」は、多数の検体を用いた統計的解析によって決定することができる。

【0031】
本発明の一態様では、同一の被検者について、ある時点で測定されたバイオマーカーのレベルと、過去に測定されたバイオマーカーのレベルとを比較し、バイオマーカーのレベルの増減の有無及び/又は増減の程度を調べる。その結果得られる、バイオマーカーのレベル変化に関するデータはLINHの発症の有無又は発症可能性をモニターするため、治療効果を把握するため、或いは予後推定に有用な情報となる。具体的には例えば、バイオマーカーレベルの変動を根拠として、前回の検査から今回の検査までの間に発症可能性が高くなった又は低くなった或いは変化がないとの判定を行うことができる。このような評価をLINHの治療と並行して行えば、治療効果の確認が行えることはもとより、LINHの再発の兆候を事前に把握することができる。これによって、より適切な治療方針の決定が可能となる。このように本発明は、治療効果の最大化及び患者のQOL(生活の質)向上に多大な貢献をし得る。

【0032】
(本発明の第3の局面:LINHの発症可能性検査用試薬及びキット)
本発明はさらに、LINHの検査法に使用される試薬及びキットも提供する。本発明の試薬は、本発明のバイオマーカーに特異的結合性を示す物質である、ラブフィリン3a又はその抗体結合断片(以下、「有効成分」と呼ぶ)を含む。本発明の試薬の有効成分は、例えば、組換え(リコンビナント)蛋白として調製することができる。例えば、目的の有効成分(ラブフェリン3a又はその抗体結合断片)をコードするDNAで適当な宿主細胞を形質転換し、形質転換体内で発現された蛋白を回収することにより調製することができる。回収された蛋白は目的に応じて適宜精製される。このように組換え蛋白として結合分子を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、結合分子をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換え蛋白の生産を行えば、任意のペプチドが連結された組換え蛋白からなる有効成分を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換え蛋白の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。尚、有効成分の調製法は遺伝子工学的手法によるものに限られない。例えば天然に存在するものであれば、天然材料から標準的な手法(破砕、抽出、精製など)によって、本発明の試薬の有効成分を調製することもできる。

【0033】
無細胞合成系を用いて有効成分を調製することにしてもよい。無細胞合成系(無細胞転写系、無細胞転写/翻訳系)とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAや蛋白質をin vitroで合成することをいう。無細胞合成系では一般に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。細胞抽出液には一般に、蛋白合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNAなどの各種酵素が含まれる。蛋白質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、蛋白質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、蛋白合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。

【0034】
蛋白合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系の開発も報告されている(Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。この合成系では、バクテリアの蛋白質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いて蛋白質合成系をin vitroで再構成している。本発明ではこのような再構成した合成系を利用してもよい。

【0035】
無細胞蛋白質合成系には以下の利点がある。まず第1に、生細胞を維持する必要がないため操作性が良好で系の自由度も高い。したがって、目的の蛋白質の性質に応じて様々な修正や修飾を施した合成系を設計することが可能となる。次に、細胞系の合成では使用する細胞に毒性のある蛋白質の合成は基本的にできないが、無細胞系ではそのような毒性の蛋白質であっても生産することができる。さらに、多種類の蛋白質を同時にかつ迅速に合成できることからハイスループット化が容易である。生産される蛋白質の分離・精製が容易であるという利点も備え、これはハイスループット化に有利に働く。加えて、非天然型のアミノ酸を取り込ませるなどして非天然型蛋白質を合成することも可能であるという利点も併せ持つ。

【0036】
現在広く利用されている無細胞蛋白質合成系には以下のものがある。即ち、大腸菌S30抽出液の系(原核細胞の系)、コムギ胚芽抽出液の系(真核細胞の系)、及びウサギ網状赤血球可溶化物の系(真核細胞の系)である。これらの系はキットとしても市販されており、容易に利用することが可能である。

【0037】
コムギ胚芽抽出液の系は、高品質の真核生物蛋白質を効率的に合成できるという利点を有し、大腸菌S30抽出液の系では合成が困難な真核生物の蛋白質を合成する際によく利用される。最近になって、種子胚乳成分を洗浄除去した胚芽から抽出液を調製することによって高効率かつ安定な合成系が構築されることが報告され注目を集めている(Madin, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 559-564, 2000)。その後、高翻訳促進能を有するmRNA非翻訳配列、PCRを利用した多品目機能解析用の蛋白質合成法、専用高発現ベクターの構築などの技術開発が行われ(Sawasaki, T. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99: 14652-14657, 2002)、様々な分野への応用が期待されている。

【0038】
コムギ胚芽抽出液は、コムギ胚芽をすり潰して遠心分離した後、上澄み液をゲルろ過で分離することによって得ることができる。翻訳反応については、Andersonらの方法(Anderson, C. W. et al.: Methods Enzymol., 101, 638-644(1983))を参考にできる。改良法についても報告されており、例えば河原崎らの方法(Kawarasaki, Y. et al.: Biotechnol. Prog., 16, 517-521(2000))やMadinらの方法(Madin, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 559-564, 2000)等を参考にできる。その他、コムギ胚芽抽出液の系についてはWO 00/68412 A1、WO 01/27260 A1、WO 2002/024939 A1、WO 2005/063979 A1、特開平6-7134号公報、特開2002-529531号公報、特開2005-355513号公報、特開2006-042601号公報、特開2007-097438号公報、特開2008-029203号公報等が参考になる。

【0039】
尚、本発明の実施に際して利用できる無細胞合成系は上記のものに限られるものではなく、例えば大腸菌以外のバクテリアやコムギ以外の植物の抽出液、昆虫由来の抽出液、動物細胞由来の抽出液、又はゲノム情報を基に構築した系などを利用してもよい。

【0040】
本発明の試薬の有効成分として標識化されたものを使用すれば、標識量を指標に結合抗体量を直接検出することが可能である。従って、より簡便な検査法を構築できる。一方、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法、二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法など、間接的検出方法を利用することも、検出感度の観点などから好ましい。

【0041】
標識物質の例は、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコース-6-リン酸脱水素酵素などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)及びユーロピウムなどの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びに131I及び125Iなどの放射性物質である。

【0042】
一態様では、本発明の試薬はその用途に応じて固相化されている。固相化に用いる不溶性支持体は特に限定されない。例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂や、ガラス等の水に不溶性の物質からなる不溶性支持体を用いることができる。不溶性支持体への担持は物理吸着又は化学吸着によって行うことができる。

【0043】
本発明のキットは主要構成要素として本発明の試薬を含む。検査法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)をキットに含めてもよい。また、標準試料として、本発明の試薬の有効成分(ラブフィリン3a又はその抗体結合断片)をキットに含めることが好ましい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0044】
1.LINH特異的抗原の探索
LINH患者の血清、脳腫瘍などで尿崩症を呈する疾患コントロール症例の血清、及び健常者の血清を収集し、常法でIgGを精製した。一方、ラット下垂体から下垂体後葉蛋白抽出液を作製した。精製したIgGと下垂体後葉蛋白抽出液を混和し、プロテインGビーズを用いて免疫沈降した後、免疫沈降物から抗原を溶出した。溶出した抗原を還元、アルキル化した後にトリプシン消化(in-solution digestion)した。このようにして調製したサンプルをLC-MS/MSシステムであるPradigmMS4-PAL-LTQ Orbitrap XL(ThermoFisher SCIENTIFIC)による解析に供した(ショットガンプロテオミクス)。NCBI RefSeq及びSwissProtデータベースを基に、Mascot(Matrix Science Ltd.)ソフトウェアを用い、得られたMSデータを解析した。解析の結果、自己抗原候補蛋白6種が同定された。
【実施例】
【0045】
2.LINH特異的抗原と患者血清との反応性
(1)ウエスタンブロット
次に、自己抗原蛋白候補である6種類の蛋白を発現ベクター(pcDNA3.1D/V5-His-TOPO(登録商標))にサブクローニングした。その後、Lipofectamine 2000(登録商標)を用いて発現ベクターを哺乳類細胞株(HEK293FT)にトランスフェクションし、リコンビナント蛋白を合成した。HEK293FT細胞で合成した6種類の自己抗原候補のリコンビナント蛋白をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)で展開し、患者血清を一次抗体として、患者血清とリコンビナント蛋白との反応性をウエスタンブロット法で検討した。検討に用いた血清は次の通りである。
(a)LINH 9例
(b)リンパ球性下垂体前葉炎(LAH) 3例
(c)IgG4関連下垂体炎 3例
(d)疾患コントロール(合計10例)
胚細胞性腫瘍+は尿崩症(DI) 3例
鞍上部松果体腫瘍術後+DI 1例
視床下部腫瘍術後+DI 1例
ラトケ嚢胞+DI 1例
頭蓋咽頭腫+DI 2例
Glioma術後+DI 1例
サルコイドーシス+DI 1例
(e)健常コントロール(健常者) 10例
【実施例】
【0046】
ウエスタンブロットの結果(代表例)を図1に示す。LINH患者9例中8例(8/9)において、76kDa蛋白であるラブフィリン3a(Rabphilin3a)に対する自己抗体が認められた。一方、対照中で本自己抗体が認められたのは、健常人で1/10、リンパ球性下垂体前葉炎症例で0/3、尿崩症を伴うIgG4関連下垂体炎症例で1/3、腫瘍などに伴う尿崩症症例で1/10であった(図2)。検討した全例については、本自己抗体の感度は88.9%(8/9)、特異度は87.0%(20/23)であり(IgG4関連下垂体炎症例を加えた場合は88.5%(23/26))、臨床的にLINHとの鑑別に苦慮する腫瘤性病変に伴うDIの症例との鑑別においても特異度90%(9/10)を示した(図2)。
【実施例】
【0047】
(2)免疫組織化学
ラブフィリン3aをトランスフェクションしたHEK293FT細胞とLINH患者血清との反応性を免疫組織化学で調べた。結果を図3に示す。LINH血清(最上段)では、抗V5抗体の認識する細胞に一致して反応が認められた(共局在)。別のLINH患者血清を用いた場合(上から3段目)にも同様の染色性を認めた。一方、空ベクターをトランスフェクションした場合(上から2段目)、抗V5抗体及び血清ともに反応を認めなかった。また、腫瘍術後の尿崩症患者血清を用いた場合(最下段)、共局在を認めず、ラブフィリン3aに対する抗体はLINH患者特異的であることが示唆された。
【実施例】
【0048】
3.LINH特異的抗原の発現
ラット下垂体後葉、及び視床下部視索上核(SON)のバゾプレシン(AVP)ニューロンにおけるラブフィリン3aの発現を免疫組織化学(抗AVP抗体と抗ラブフィリン抗体による2重染色)で検討した。免疫組織化学の結果を図4に示す。下垂体後葉及び視床下部SONのAVPニューロンにおいて、ラブフィリン3aの発現が認められた。LINHの病変部位でラブフィリン3aの発現が認められたことは、当該蛋白がLINHの病態へ関与する可能性を強く示唆する。
【実施例】
【0049】
4.まとめ
LINH特異的な抗原蛋白ラブフィリン3aを見出すことに成功した。抗ラブフィリン3a抗体はLINHのバイオマーカーとなる。抗ラブフィリン3a抗体を指標にすれば、極めて高い感度及び特異度をもってLINHの検査(例えば鑑別)が可能になる。抗ラブフィリン3a抗体はLINHの病態把握にも有用である。
2.LINH特異的抗原と患者血清との反応性
(1)ウエスタンブロット
次に、自己抗原蛋白候補である6種類の蛋白を発現ベクター(pcDNA3.1D/V5-His-TOPO(登録商標))にサブクローニングした。その後、Lipofectamine 2000(登録商標)を用いて発現ベクターを哺乳類細胞株(HEK293FT)にトランスフェクションし、リコンビナント蛋白を合成した。HEK293FT細胞で合成した6種類の自己抗原候補のリコンビナント蛋白をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)で展開し、患者血清を一次抗体として、患者血清とリコンビナント蛋白との反応性をウエスタンブロット法で検討した。検討に用いた血清は次の通りである。
【実施例】
【0050】
5.検体を増やした検討(他の自己免疫疾患の検体を含む)
検体及び症例の種類を増やし、抗ラブフィリン3a抗体のバイオマーカーとして有用性を更に検討した。結果を図5及び6に示す。腫瘤性病変に伴う尿崩症とLINHとの鑑別、及び特発性若しくは二次性の中枢性尿崩症とLINHとの鑑別では、それぞれ92.8%及び95.2%と特異度は非常に高く、また各種自己免疫疾患とLINHとの鑑別でも高い特異度(89.9%)を示した。このように、即ち、抗ラブフィリン3a抗体がLINHのバイオマーカーとして極めて有用であることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の検査法では、抗ラブフィリン3a抗体を指標としてLINHの鑑別等を行う。本発明の検査法によれば、極めて高い感度及び特異度をもってLINHを鑑別できる。従って、本発明の検査法は誤診の防止、適切な治療方針の決定などに多いに役立つものといえる。
【0052】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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