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明細書 :植物の種子休眠性を支配するQsd1遺伝子およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年4月27日(2015.4.27)
発明の名称または考案の名称 植物の種子休眠性を支配するQsd1遺伝子およびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A01H   1/02        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01H 5/00 A
A01H 1/00 A
C12Q 1/68 A
C12N 15/00 G
A01H 1/02 Z
C07K 14/415
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 36
出願番号 特願2013-547167 (P2013-547167)
国際出願番号 PCT/JP2012/080631
国際公開番号 WO2013/080973
国際出願日 平成24年11月27日(2012.11.27)
国際公開日 平成25年6月6日(2013.6.6)
優先権出願番号 2011259028
優先日 平成23年11月28日(2011.11.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】佐藤 和広
【氏名】小松田 隆夫
【氏名】松本 隆
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】110001047、【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B024
4B063
4B065
4H045
Fターム 2B030AA02
2B030AB04
2B030AD20
2B030CA14
4B024AA08
4B024AA11
4B024BA80
4B024CA04
4B024CA09
4B024DA20
4B024HA12
4B024HA14
4B063QA01
4B063QA17
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B065AA88X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA46
4B065CA53
4H045BA10
4H045EA05
要約 ポジショナルクローニングの手法により、オオムギの種子休眠性を支配するQsd1遺伝子を同定することに成功した。さらに、これら遺伝子において、その種子休眠性と相関する一塩基多型(SNP)を特定するとともに、弱種子休眠性型の遺伝子が優性であり、当該遺伝子がヘテロの個体は、弱種子休眠性の表現型を有することを解明することにも成功した。さらに、オオムギのQsd1遺伝子の配列情報を基に、対応するコムギのQsd1遺伝子を同定することにも成功した。そして、同定した遺伝子を利用して、効率的に、植物の種子休眠性の程度を判定することや種子休眠性が改変された植物を作出することが可能であることを見出した。
特許請求の範囲 【請求項1】
植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1、3、7、9または10に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2、8または11に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1、3、7、9または10に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
【請求項2】
植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:4または6に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:4または6に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
【請求項3】
植物の種子休眠性の形質を強める活性を有する、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)請求項1に記載のDNAの転写産物と相補的な二重鎖RNAをコードするDNA
(b)請求項1に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(c)請求項1に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のDNAが導入された植物細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞を含む植物体。
【請求項7】
請求項6に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の植物体の繁殖材料。
【請求項9】
植物に請求項1に記載のDNAを導入する工程を含む、種子休眠性の形質が弱められた植物の作出方法。
【請求項10】
植物における請求項1に記載のDNAの発現または機能を抑制することを特徴とする、種子休眠性の形質が強められた植物の作出方法。
【請求項11】
植物に請求項2または3に記載のDNAを導入する工程を含む、種子休眠性の形質が強められた植物の作出方法。
【請求項12】
請求項1に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の種子休眠性の形質を弱めるための薬剤。
【請求項13】
請求項2もしくは3に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の種子休眠性の形質を強めるための薬剤。
【請求項14】
植物における種子休眠性の程度を判定する方法であって、被検植物における請求項1もしくは2に記載のDNAの塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。
【請求項15】
弱い種子休眠性の形質の植物を育種する方法であって、
(a)弱い種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、請求項14に記載の方法により判定する工程、および
(c)弱い種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む方法。
【請求項16】
強い種子休眠性の形質の植物を育種する方法であって、
(a)強い種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、請求項14に記載の方法により判定する工程、および
(c)強い種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の種子休眠性を支配するQsd1遺伝子、並びに、それを利用した植物の種子休眠性の程度の判定および休眠性が改変された植物の作出に関する。
【背景技術】
【0002】
種子休眠性は野生植物の環境適応的な形質の一つであり、特に中近東など乾燥地帯のムギ類の野生植物では、夏季の不良条件を発芽しないで経過するのに重要である。一方、栽培植物では、収穫から播種までの期間を短くする強い農業上の選抜から、休眠性の浅いのが普通であるが、休眠が浅すぎると収穫期の降雨によって穂発芽し収穫物に致命的な品質低下をもたらす。さらに、醸造用オオムギでは休眠が深すぎると斉一な発芽せず、麦芽製造に影響をもたらす。このように、作物の進化および産業的な観点から種子の休眠は極めて重要である。また、ゲノムの相同性からオオムギの種子休眠性遺伝子と共通の遺伝子がコムギにも存在することが確認されており(非特許文献1)、オオムギの休眠性遺伝子を同定すれば、より穂発芽の被害の深刻なコムギの休眠性の制御にも応用可能であると予想される。
【0003】
栽培オオムギ「はるな二条」と野生オオムギ「H602」の交配による雑種後代で分離する野生オオムギ由来の種子休眠性QTLはこれまで4座が同定されており(非特許文献2)、そのうちの1つがQsd1である。これらのQTLは、ESTマーカーによる高密度連鎖地図に座乗している(非特許文献3)。また、Qsd1に連鎖するマーカーは知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、その困難性ゆえ、いまだQsd1遺伝子の同定の成功には至っていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許4298538号公報
【0006】

【非特許文献1】K.Hori, et al., Breeding Sci. 57:39-45, 2007
【非特許文献2】K.Hori, et al., Theor. Appl. Genet. 115:869-876, 2007
【非特許文献3】K. Sato, et al., Heredity 103:110-117, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物における種子休眠性の程度を支配する新規な遺伝子を同定することにある。また、本発明は、同定された遺伝子を利用して、植物の種子休眠性の程度を効率的に判定する方法を提供することを目的とする。さらなる本発明の目的は、同定された遺伝子を利用して、種子休眠性が改変された植物を効率的に作出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Qsd1は、その形質が量的なものであり、特に、弱休眠性ホモの個体とヘテロの個体とを表現型で明確に区別することができず、表現型と遺伝子型との関係を結びつけることが困難である。従って、高密度連鎖地図や連鎖マーカーが知られていても、一般的なポジショナルクローニングの手法で、責任遺伝子を絞り込むこと自体が困難である。
【0009】
そこで、本発明者らは、Qsd1については、25℃で5週間の休眠覚醒を行ったオオムギの種子の発芽率を調査し、その条件で発芽率が0~49%を強休眠性ホモ、50~89%をヘテロ、90~100%を弱休眠性ホモとして遺伝子型を推定し、この推定を基に責任遺伝子の絞込みを試みた。しかも、その際に、複数のQTLのうち、Qsd1のみを分離する大規模集団(BC3F2世代910個体、およびBC3F3世代4,792個体)を利用した。また、Qsd1領域のオオムギESTはイネ第9染色体の遺伝子と極めて相同性が高いことから、イネゲノム上の遺伝子の順に対応するオオムギのESTを並べ、組換えの確認も行った。このような創意工夫をも行うことにより、ようやくQsd1遺伝子の候補を2つの候補遺伝子にまで絞り込むことができた。しかしながら、いずれがQsd1遺伝子であるかを特定することまではできなかった。
【0010】
そこで、次に、絞り込んだ2つの遺伝子のいずれがQsd1遺伝子であるかを特定するために、2つの遺伝子の配列を決定し、それらを比較した。その結果、複数のアレルを見出した。さらに、BC3F4世代の大規模集団をも利用しながら、これらアレルの中に、Qsd1のアレルと一致するアレルが存在するか否かの検証を行った。その結果、Qsd1のアレルと完全に一致するアレルを持つ1つの遺伝子を特定するに至った。
【0011】
すなわち、本発明者らは、オオムギの種子休眠性を支配するQsd1遺伝子を同定し、種子休眠性と相関する一塩基多型(SNP)を特定するとともに、弱種子休眠性型の遺伝子が優性であり、当該遺伝子がヘテロの個体は、弱種子休眠性の表現型を有することを解明することに成功した。
【0012】
さらに、本発明者らは、オオムギのQsd1遺伝子の配列情報を基に、対応するコムギのQsd1遺伝子を同定することにも成功した。
【0013】
そして、本発明者らは、同定したQsd1遺伝子を利用して、効率的に、植物の種子休眠性の程度を判定することや種子休眠性が改変された植物を作出することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、植物の種子休眠性を支配するQsd1遺伝子、並びに、それを利用した植物の種子休眠性の程度の判定および休眠性が改変された植物の作出に関し、より詳しくは、下記を提供するものである。
【0015】
[1] 植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1、3、7、9または10に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2、8または11に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1、3、7、9または10に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
[2] 植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:4または6に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:4または6に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
[3] 植物の種子休眠性の形質を強める活性を有する、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)[1]に記載のDNAの転写産物と相補的な二重鎖RNAをコードするDNA
(b)[1]に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(c)[1]に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【0016】
[5] [1]~[3]のいずれかに記載のDNAが導入された植物細胞。
【0017】
[6] [5]に記載の細胞を含む植物体。
【0018】
[7] [6]に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。
【0019】
[8] [6]または[7]に記載の植物体の繁殖材料。
【0020】
[9] 植物に[1]に記載のDNAを導入する工程を含む、種子休眠性の形質が弱められた植物の作出方法。
【0021】
[10] 植物における[1]に記載のDNAの発現または機能を抑制することを特徴とする、種子休眠性の形質が強められた植物の作出方法。
【0022】
[11] 植物に[2]または[3]に記載のDNAを導入する工程を含む、種子休眠性の形質が強められた植物の作出方法。
【0023】
[12] [1]に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の種子休眠性の形質を弱めるための薬剤。
【0024】
[13] [2]もしくは[3]に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の種子休眠性の形質を強めるための薬剤。
【0025】
[14] 植物における種子休眠性の程度を判定する方法であって、被検植物における[1]もしくは[2]に記載のDNAの塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。
【0026】
[15] 弱い種子休眠性の形質の植物を育種する方法であって、
(a)弱い種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、[14]に記載の方法により判定する工程、および
(c)弱い種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む方法。
【0027】
[16] 強い種子休眠性の形質の植物を育種する方法であって、
(a)強い種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、[14]に記載の方法により判定する工程、および
(c)強い種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む方法。
【0028】
なお、本発明において「種子休眠性」とは、種子の発芽に適した条件下においても発芽しない性質を意味する。また、本発明において「弱い種子休眠性の形質」とは、種子が成熟した後に休眠性の維持される期間が短く、発芽に適した検定条件下において高い発芽率を示すことを意味する。また、本発明において「強い種子休眠性の形質」とは、種子が成熟した後に休眠性の維持される期間が長く、発芽に適した検定条件下において低い発芽率を示すことを意味する。休眠性の強弱の指標となる発芽率は、実施例(1)に記載の方法により検定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、植物の種子休眠性を支配する新規な遺伝子Qsd1が同定され、該遺伝子の染色体上の位置および構造が解明された。これによりQsd1遺伝子を標的とした植物の種子休眠性の程度の判定方法、および該判定方法を利用した種子休眠性が改変された植物の育種方法が提供された。さらに、Qsd1遺伝子を利用した、休眠性が改変された植物の作出方法が提供された。本発明による植物の種子休眠性の程度の判定や休眠性が改変された植物の作出や育種は、種子休眠性の程度を支配するQsd1遺伝子に着目しているため、連鎖マーカーを利用する方法に比して、精度が高い。このため、特異的かつ効率的に、植物の種子休眠性の程度の判定や休眠性が改変された植物の作出や育種を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】はるな二条×H602のBC3F2集団910個体における発芽率(休眠性)を示すグラフである。5週間の休眠覚醒後に発芽率を調査した。P1は、H602における値を、P2は、はるな二条における値を示す。
【図2】休眠性QTL(5H-1)のイネゲノム上の相同位置を示す図である。
【図3】はるな二条×H602の高密度連鎖地図とイネ9番染色体上の遺伝子との対応関係を示す図である。ESTは、オオムギEST由来のマーカーを、括弧内の数は、隣接するマーカー間の組換え個体数を示す。
【図4】BC3F3 4,792個体におけるQTL近傍の組換えを示す図である。QTLのタイピングは、Bが「H602」型(強休眠性)を、Aが「はるな二条」型(弱休眠性)を、Hがヘテロ型を示す。また、Iは組換型検出マーカーを、IIはイネ第9染色体上の遺伝子の並び(1と22の間には20の遺伝子がゲノム上に存在することを示す)を、IIIはDH93個体で作製した遺伝地図の5H染色体短腕末端からの地図距離(cM)を、IVはイネ遺伝子と相同性の高いオオムギEST由来のマーカーを示す。
【図5】遺伝子1と遺伝子2における、遺伝子内組換えの位置を示す図である。
【図6】はるな二条×H602の遺伝子1と遺伝子2における塩基多型を示す図である。
【図7】解析した9集団の各親系統のQsd1における強休眠性型(sd)及び弱休眠性型(wd)のアレルを示す図である。
【図8】解析した9集団の両親におけるSNPを示す図である。
【図9】はるな二条とH602の遺伝子2がコードするタンパク質のアミノ酸配列の整列図である。
【図10】器官別の遺伝子1(上)および遺伝子2(下)の転写産物量の比較を示すグラフである。
【図11】野生オオムギ(休眠型)の開花後19日目の胚における遺伝子2のin situハイブリダイゼーションの結果を示す写真である。
【図12】オオムギ完全長配列NIASHv3013O02とコムギ完全長配列RFL_Contig4246の整列図である。
【図13】図12の続きの図である。
【図14】図13の続きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<弱種子休眠性型DNA、強種子休眠性型DNA>
本発明は、植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下、「弱種子休眠性型DNA」と称する)を提供する。本発明者らにより同定された、オオムギの弱種子休眠性品種である、はるな二条由来のQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、はるな二条由来のQsd1ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:3に示す。

【0032】
また、本発明者らにより同定された、コムギの弱種子休眠性品種である、Chinese SpringにおけるRFL_Contig4246由来のQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:7に、該DNAによりコードされるアミノ酸配列を配列番号:8に示した。また、Chinese Springにおけるcontig6由来のQsd1ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:9に、contig6由来のQsd1ゲノムDNAから抽出したQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:10に、これらDNAによりコードされるアミノ酸配列を配列番号:11に示す。

【0033】
本発明の弱種子休眠性型DNAの1つの態様は、配列番号:2、8または11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(典型的には、配列番号:1、3、7、9または10に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA)である。

【0034】
現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の弱種子休眠性植物品種(例えば、オオムギのはるな二条、コムギのChinese Spring)における弱種子休眠性型DNAの塩基配列情報が得られた場合、その塩基配列を改変し、そのコードするアミノ酸配列は異なるが、同じく弱種子休眠性型であるDNAを取得することが可能である。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。従って、本発明は、オオムギのはるな二条やコムギのChinese SpringにおけるQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2、8、11)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。ここで「複数」とは、改変後のQsd1タンパク質が植物の種子休眠性の形質を弱める活性を維持する範囲における、アミノ酸の改変数であり、通常、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸)である。

【0035】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の弱種子休眠性植物品種(例えば、オオムギのはるな二条、コムギのChinese Spring)から弱種子休眠性型DNAが得られた場合、その弱種子休眠性型DNAの塩基配列情報を利用して、他のオオムギ品種(例えば、ハルビン二条、Russia6、交A)や他のコムギ品種(例えば、春よ恋)、その他の植物品種(例えば、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物)から、同じく弱種子休眠性型である相同遺伝子をコードするDNAを取得することが可能である。従って、本発明は、オオムギのはるな二条におけるQsd1DNA(配列番号:1または3)やコムギのChinese SpringにおけるQsd1DNA(配列番号:7、9または10)とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。

【0036】
こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、遺伝子組み換え技術または交配により、これらDNAを導入した強種子休眠性型の品種から種子を採取し、本実施例に記載の発芽試験を行い、その発芽率が高まるか否かを検定することにより、判定することができる。発芽率が高くなれば、植物の種子休眠性の形質を弱める活性を有すると評価される。

【0037】
本発明は、また、植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下、「強種子休眠性型DNA」と称する)を提供する。本発明者らにより同定された、オオムギの強種子休眠性品種であるH602由来のQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:4に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:5に示す。また、H602由来のQsd1ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:6に示す。本発明の強種子休眠性型DNAの1つの態様は、配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(典型的には、配列番号:4または6に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA)である。

【0038】
本実施例において示されたように、オオムギのH602由来のQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:5)は、弱種子休眠性品種である、はるな二条由来のQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)と比較すると214位においてアミノ酸の置換(F→L)が生じている(図8、9を参照のこと)。このため、本来のQsd1タンパク質の機能が抑制され、これにより個体に強種子休眠性の形質が付与されていると考えられる。現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の強種子休眠性植物品種(例えば、オオムギのH602)のQsd1DNAの塩基配列において、そのコードするタンパク質の強種子休眠性の形質が維持されるような改変を行うことが可能である。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。従って、本発明は、オオムギのH602におけるQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:5)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質からなり、植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。ここで「複数」とは、改変後のQsd1タンパク質が植物の種子休眠性の形質を強める活性を有する範囲における、アミノ酸の改変数である。植物におけるQsd1タンパク質が本来の機能を発揮しなければ、強い種子休眠性の形質になると考えられるため、当該アミノ酸改変数は、本質的に制限はない。改変は、例えば、100アミノ酸以内(50アミノ酸以内、30アミノ酸以内、10アミノ酸以内、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸)である。

【0039】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の強種子休眠性植物品種(例えば、オオムギのH602)からQsd1DNAが得られた場合、そのDNAの塩基配列情報を利用して、他のオオムギ品種(例えば、HES4、I767、T602、T615、I626、I765、木石港3)や他の植物品種(例えば、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物)から、強種子休眠性型である相同遺伝子をコードするDNAを取得することができる。従って、本発明は、オオムギのH602におけるQsd1DNA(配列番号:4または6)とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。

【0040】
こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物の種子休眠性の形質を強める活性を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、当該DNAで、弱種子休眠性品種のQsd1遺伝子を組換え、当該DNAをホモで保持する植物を作出し、該植物から種子を採取し、本実施例に記載の発芽試験を行い、その発芽率が低くなるか否かを検定することにより、判定することができる。発芽率が低くなれば、植物の種子休眠性の形質を強める活性を有すると評価される。

【0041】
本発明の弱種子休眠性型DNAは、その導入により、植物の種子休眠性の形質を弱めることが可能であるという意味において、植物の種子休眠性の形質を弱めるための薬剤であり、一方、本発明の強種子休眠性型DNAは、その導入により、植物の種子休眠性の形質を強めることが可能であるという意味において、植物の種子休眠性を強めるための薬剤である。

【0042】
なお、上記した変異DNAを作製するための、DNAへの人為的な変異の導入は、例えば、部位特異的変異誘発(site-directed mutagenesis)法(Kramer, W. & Fritz, HJ., Methods Enzymol, 154:350-367, 1987)により行うことができる。

【0043】
また、上記した相同遺伝子を単離するための方法としては、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, 98:503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, 230:1350-1354, 1985、Saiki, R. K. et al. Science, 239:487-491, 1988)が挙げられる。相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。単離されたDNAは、核酸レベルあるいはアミノ酸配列レベルにおいて、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。

【0044】
本発明のQsd1タンパク質をコードするDNAとしては、その形態に特に制限はなく、cDNA、ゲノムDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、Qsd1遺伝子(例えば、配列番号:1,3,4,6,7,9,10のいずれかに記載のDNA)の塩基配列を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、Qsd1遺伝子に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。

【0045】
<植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNA>
また、本発明は、植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAを提供する。これらのDNAの導入により、植物の種子休眠性の形質を強めることが可能である。この意味において、植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAは、植物の種子休眠性の形質を強めるための薬剤である。ここで「Qsd1遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制の双方が含まれる。また、「発現の抑制」には、発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。また、これらDNAを導入する植物としては特に制限はないが、オオムギ、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物が好ましく、オオムギとコムギが特に好ましい。

【0046】
植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの一つの態様は、上記した本発明の弱種子休眠性型DNAの転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するdsRNAを細胞内に導入することにより、導入した外来遺伝子および標的内因性遺伝子の発現がいずれも抑制される、RNAi(RNA干渉、RNA interference)と呼ばれる現象を引き起こすことができる。細胞に約40~数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼが、ATP存在下で、dsRNAを3'末端から約21~23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)が生じる。このsiRNAに、特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子の転写産物(mRNA)を切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。

【0047】
本発明のdsRNAをコードするDNAは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)のいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスDNAと、該mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスDNAを含み、該アンチセンスDNAおよび該センスDNAより、それぞれアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することができる。

【0048】
本発明のdsRNAの発現システムをベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNAとセンスRNAを発現させる場合がある。同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入する構成である。

【0049】
また、異なる鎖上に対向するように、アンチセンスDNAとセンスDNAとを逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNAとセンスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備える。この場合には、センスRNAとアンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類は異なっていることが好ましい。

【0050】
また、異なるベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットとをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させる構成である。

【0051】
本発明に用いるdsRNAとしては、siRNAが好ましい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味する。標的Qsd1遺伝子の発現を抑制することができ、かつ、毒性を示さなければ、その鎖長に特に制限はない。dsRNAの鎖長は、例えば、15~49塩基対であり、好適には15~35塩基対でり、さらに好適には21~30塩基対である。

【0052】
本発明のdsRNAをコードするDNAとしては、標的配列のインバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self-complementary 'hairpin' RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith, N.A., et al. Nature, 407:319, 2000、Wesley, S. V. et al. Plant J. 27:581, 2001、Piccin, A. et al. Nucleic Acids Res. 29:E55, 2001)を用いることもできる。

【0053】
本発明のdsRNAをコードするDNAは、標的Qsd1遺伝子の塩基配列と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は上述した手法(BLASTプログラム)により決定できる。

【0054】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。

【0055】
植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの他の態様は、上記した本発明の弱種子休眠性型DNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)である。アンチセンスDNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などが挙げられる。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人, pp.319-347, 1993)。本発明で用いられるアンチセンスDNAは、上記のいずれの作用で標的Qsd1遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、標的遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。

【0056】
アンチセンスDNAは、本発明の弱種子休眠性型DNA(例えば、配列番号:1、7または10に記載の塩基配列からなるDNA)の配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, Nucleic Acids Res., 16:3209-3221, 1988)などにより調製することが可能である。調製されたDNAは、後述する公知の方法で、植物へ導入できる。アンチセンスDNAの配列は、植物が持つ内因性の弱種子休眠性Qsd1遺伝子の転写産物と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有する。効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。

【0057】
植物の弱種子休眠性型Qsd1遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの他の態様は、本発明の弱種子休眠性型DNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAである。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素, 35:2191, 1990)。

【0058】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(Koizumi et. al., FEBS Lett. 228:225, 1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(Koizumi et. al., FEBS Lett. 239:285, 1988、小泉誠および大塚栄子,蛋白質核酸酵素,35:2191, 1990、Koizumi et. al., Nucleic. Acids. Res. 17:7059, 1989)。

【0059】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, Nature 323:349, 1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Kikuchi and Sasaki, Nucleic Acids Res. 19:6751, 1992、菊池洋,化学と生物 30:112, 1992)。標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(Yuyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186:1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて標的となるQsd1遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。

【0060】
<ベクター、形質転換植物細胞、形質転換植物体>
本発明は、また、上記本発明のDNA(弱種子休眠性型DNA、強種子休眠性型DNA、Qsd1遺伝子の発現を抑制するためのDNA)を含むベクター、上記本発明のDNAまたはそれを含むベクターが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫またはクローンである植物体、および、これら植物体の繁殖材料を提供する。

【0061】
本発明のベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。本発明のベクターは、本発明のDNAを恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどが挙げられる。また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネのlip19遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネのhsp80遺伝子とhsp72遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、rab16は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。

【0062】
本発明のベクターを導入する植物細胞の由来する植物としては特に制限はないが、オオムギ、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物が好ましく、オオムギとコムギが特に好ましい。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス、未熟胚、花粉などが含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。

【0063】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、オオムギに関する形質転換植物体を作出する手法としては、Tingayら(Tingay S. et al. Plant J. 11: 1369-1376, 1997)、Murrayら(Murray F et al. Plant Cell Report 22: 397-402, 2004)、およびTravallaら(Travalla S et al. Plant Cell Report 23: 780-789, 2005)に記載された方法を挙げることができる。また、コムギにおける形質転換植物体を作出する手法としては、例えば、コムギ種子未熟胚にパーティクルガンを用いて遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(特開2008-212048号公報)に記載された方法を挙げることができる。その他の植物についても、植物体を再生させるための公知の方法を用いることができる。

【0064】
一旦、ゲノム内に本発明の閉花性型DNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、上記本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、ならびに該植物体、その子孫およびクローンの繁殖材料が含まれる。

【0065】
<種子休眠性の形質が改変された植物の作出方法>
本発明は、また、種子休眠性の形質が改変された植物の作出方法を提供する。本発明の方法により、種子休眠性の形質を改変する植物としては特に制限はないが、オオムギ、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物が好ましく、オオムギとコムギが特に好ましい。

【0066】
本発明の方法の1つの態様は、植物に本発明の弱種子休眠性型DNAを導入する工程を含む、種子休眠性の形質が弱められた植物の作出方法である。本発明において、植物の種子休眠性の形質を「弱める」とは、強種子休眠性の形質を有する品種の種子休眠性の形質を弱めることのみならず、既に、一定の弱種子休眠性の形質を有している品種の種子休眠性をさらに減弱させることをも含む意である。

【0067】
本発明の方法の他の1つの態様は、植物において、本発明の弱種子休眠性型DNA(弱種子休眠性型Qsd1遺伝子)の発現または機能を抑制する工程を含む、種子休眠性の形質が強められた植物の作出方法である。本発明において、植物の種子休眠性の形質を「強める」とは、弱種子休眠性の形質を有する品種の種子休眠性の形質を強めることのみならず、既に、一定の強種子休眠性の形質を有している品種の種子休眠性をさらに増大させることをも含む意である。

【0068】
植物における本発明の弱種子休眠性型DNAの発現または機能の抑制は、植物に、上記本発明の強種子休眠性型DNAを導入することにより実施することができる。植物における強種子休眠性の形質は、単一劣性遺伝子支配であるため、植物に強種子休眠性の形質を付与するためには、通常、個体におけるQsd1対立遺伝子の双方を強種子休眠性型DNAにする必要がある。これにより個体中で強種子休眠性型DNAのみが発現し、植物の種子休眠性の形質を強めることができる。植物染色体への本発明の強種子休眠性型DNAの導入は、例えば、交配や相同組換えにより行うことができる。強種子休眠性型DNAを導入することに代えて、植物染色体上の弱種子休眠性型DNAに、特定のDNA配列を導入し、その機能を破壊してもよい。

【0069】
また、植物における本発明の弱種子休眠性型DNAの発現または機能の抑制は、植物に上記本発明のQsd1遺伝子の発現を抑制するためのDNA(例えば、dsRNAをコードするDNA、アンチセンスDNA、リボザイム活性を有するRNAをコードするDNAなど)を導入することにより実施することができる。これにより個体中の弱種子休眠性型DNAから、弱種子休眠性型の翻訳産物が生産されなくなるため、植物の種子休眠性の形質を強めることができる。

【0070】
植物における本発明の弱種子休眠性型DNAの発現または機能の抑制には、例えば、弱種子休眠性型DNAの発現を抑制する薬剤や弱種子休眠性型の翻訳産物に結合し、その機能を抑制する薬剤の利用も考えられる。

【0071】
<植物における種子休眠性の程度を判定する方法>
本発明は、また、植物の種子休眠性の程度を判定する方法を提供する。本発明の方法により、種子休眠性の程度を判定する植物としては特に制限はないが、オオムギ、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物が好ましく、オオムギとコムギが特に好ましい。

【0072】
本発明の判定方法の一つの態様は、植物におけるQsd1遺伝子の塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法である。

【0073】
Qsd1遺伝子の塩基配列の解析に際しては、Qsd1遺伝子をPCRにより増幅した増幅産物を用いることができる。前記PCRを実施する場合において、用いられるプライマーは、Qsd1遺伝子を特異的に増幅できるものである限り制限はなく、Qsd1遺伝子の配列情報(例えば、配列番号:1,3,4,6,7,9,10)に基づいて適宜設計することができる。設計したプライマーを適宜組み合わせて、Qsd1遺伝子の特定の塩基配列を増幅することができる。

【0074】
被検植物におけるQsd1遺伝子の塩基配列と比較する「対照の塩基配列」は、典型的には、弱種子休眠性型品種または強種子休眠性型品種におけるQsd1遺伝子の塩基配列である。決定したQsd1遺伝子の塩基配列と弱種子休眠性型品種における塩基配列(例えば、配列番号:1,3,7,9,10)または強種子休眠性型品種における塩基配列(例えば、配列番号:4,6)とを比較することにより、被検植物におけるQsd1遺伝子が、強種子休眠性型であるか弱種子休眠性型であるかを評価することができる。例えば、本実施例において示されたように、オオムギの強種子休眠性品種であるH602由来のQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:5)は、弱種子休眠性品種である、はるな二条由来のQsd1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)と比較すると214位においてアミノ酸の置換(F→L)が生じている(図8、9を参照のこと)。この214位のアミノ酸は、このような評価の好ましい指標となる。

【0075】
また、Qsd1遺伝子においては、弱種子休眠性型DNAが優性であるため、被検DNAがコードするタンパク質の機能を喪失させる変異が存在する場合には、強種子休眠性型である蓋然性が高いと判定される。

【0076】
被検植物におけるQsd1遺伝子の塩基配列が、対照の塩基配列と相違するか否かは、上記した直接的な塩基配列の決定以外に、種々の方法により間接的に解析することができる。このような方法としては、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用したRFLP法やPCR-RFLP法、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法が挙げられる。

【0077】
なお、本発明の判定方法における、被検植物からのDNAの調製は、常法、例えば、CTAB法を用いて行うことができる。DNAの調製には、例えば、植物の種子、幼植物体、成長した植物体を用いることができる。また、塩基配列の決定は、常法、例えば、ジデオキシ法やマキサム-ギルバート法などにより行なうことができる。塩基配列の決定においては、市販のシークエンスキットおよびシークエンサーを利用することができる。

【0078】
<種子休眠性の形質が改変された植物を育種する方法>
本発明は、また、種子休眠性の形質が改変された植物を育種する方法を提供する。本発明の方法により育種する植物としては特に制限はないが、オオムギ、コムギ、ライムギなどのコムギ連(Triticeae)植物が好ましく、オオムギとコムギが特に好ましい。

【0079】
本発明の育種方法の1つの態様は、強種子休眠性の形質の植物を育種する方法であり、(a)強種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、(b)交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、上記本発明の判定方法により判定する工程、および(c)強種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む。

【0080】
強種子休眠性の形質の植物品種と交配させる「任意の植物品種」としては、例えば、弱種子休眠性の形質を有する品種、弱種子休眠性の形質を有する品種と強種子休眠性の形質を有する品種との交配により得られた個体が挙げられるが、これらに制限されない。

【0081】
本発明の育種方法の他の1つの態様は、弱種子休眠性の形質の植物を育種する方法であり、(a)弱種子休眠性の形質の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、(b)交配により得られた個体における種子休眠性の程度を、上記本発明の判定方法により判定する工程、および(c)弱種子休眠性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む。

【0082】
弱種子休眠性の形質の植物品種と交配させる「任意の植物品種」としては、例えば、強種子休眠性の形質を有する品種、強種子休眠性の形質を有する品種と弱種子休眠性の形質を有する品種との交配により得られた個体が挙げられるが、これらに制限されない。

【0083】
本発明の育種方法を利用すれば、種子休眠性の形質が改変された植物を、種子や幼植物の段階で選抜することが可能となり、種子休眠性の形質が改変された品種の育成を短期間で行うことが可能となる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0085】
(1)休眠性の判定
-オオムギ-
生理的登熟に達した種子(穂首および頴の緑色が退色)を収穫し、30℃、相対湿度10%で2日間乾燥後、脱粒して、-20℃で冷凍保存した。
【実施例】
【0086】
保存していた種子に対して、25℃で休眠覚醒を行い、その後、シャーレに播種して吸水させ、25℃の条件で催芽の誘導を行った。そして、播種後4日目における発芽率(発根粒歩合)によって休眠性を評価した。
【実施例】
【0087】
以下(2)の実験では、25℃で5週間の休眠覚醒を行った種子の発芽率を調査し、発芽率が0~49%を強休眠性ホモ、50~89%をヘテロ、90~100%を弱休眠性ホモとして遺伝子型を推定した。必要に応じて、25℃で10週間の休眠覚醒を行った種子の発芽率を調査した(図1)。
【実施例】
【0088】
なお、ヘテロの個体は、弱種子休眠性の表現型を有することから、弱種子休眠性型の遺伝子が優性であり、機能的なタンパク質をコードしていると考えられた。
【実施例】
【0089】
-コムギ-
開花後60日目に生理的登熟に達した種子を収穫し、その後、シャーレに播種し、20℃の条件で催芽の誘導を行い、播種後7日目における発芽率によって休眠性を評価することができる。発芽率が0~39%を強休眠性ホモ、40~59%をヘテロ、60~100%を弱休眠性ホモとして遺伝子型を推定することができる(Nakamura S. et al., Plant Cell. 2011 Sep;23(9):3215-29.におけるFigure5Aとその実験手法を参照のこと)。
【実施例】
【0090】
(2)オオムギQsd1遺伝子の同定
栽培オオムギ「はるな二条」と野生オオムギ「H602」の交配による雑種後代で分離する野生オオムギ由来の種子休眠性QTLはこれまで4座を同定されており、これらのQTLはすでにESTマーカーによる高密度連鎖地図に座乗している(非特許文献2、3)。これらQTLのうち、Qsd1のみの分離する大規模分離集団を育成して、BC3F2世代910個体によってQsd1と密接に連鎖し共分離するESTマーカーを選抜した。さらに、その後代のBC3F3世代4,792個体を得て、それらにおける組換え型を同定した。Qsd1領域のオオムギESTはイネ第9染色体の遺伝子と極めて相同性が高いことから(図2)、イネゲノム上の遺伝子の順に対応するオオムギのESTを並べ(図3)、組換えを確認した。その結果、休眠性の判定結果から推定されるQTLの遺伝子型と共分離するマーカーEST4が得られた(図4)。このESTマーカーを用いて「はるな二条」(D.Saisho et al., Breed. Sci. 57:29-38, 2007)および「H602」のBACクローンを選抜して、その塩基配列の解析を行った。この配列情報を、はるな二条の完全長配列(K.Sato et al., DNA Research 16:81-89, 2009、T.Matsumoto, et al., Plant Physiol. 156:20-28, 2011)上に位置付け、Rice Genome Automated Annotation System(RiceGAAS)を用いて遺伝子予測を行った。その結果、2つの候補遺伝子が推定された。
【実施例】
【0091】
さらにBC3F4世代の大規模集団を得てそれを利用しながら遺伝子型の後代検定を行った結果、種子休眠性に関与する突然変異は遺伝子1の5’側から868塩基目と遺伝子2の5’側から3394塩基目にわたる9467塩基の中に存在することが示唆された(図5)。遺伝子1と遺伝子2は互いに3'端をこの遺伝子間領域に向け、3'端同士の距離はPolyA tailを除いて345塩基であった。遺伝子予測に使用したそれぞれの完全長配列が転写されたと仮定すると、両遺伝子の間で転写領域を共有している可能性は低く、また、5'側の調節領域によって種子の休眠性が制御されている可能性はない。
【実施例】
【0092】
はるな二条および野生オオムギのそれぞれについて遺伝子配列をアミノ酸に翻訳したところ、遺伝子1はエクソン内に2カ所SNPが認められたものの、アミノ酸の置換はなかった。一方、遺伝子2はアミノ酸置換のあるSNPが4カ所認められ、推定ドメイン上に存在していた(図6、9)。この事実から、種子休眠性に関与するQsd1遺伝子の正体は遺伝子2であり、非同義置換を伴うSNPがこの形質を司る変異であることが示唆された。
【実施例】
【0093】
なお、2つの遺伝子についてアノテーションの調査を行ったが、いずれの遺伝子にも、種子の休眠に直接関連する記載は認められなかった。
【実施例】
【0094】
次いで、オオムギの種子休眠性を解析しQsd1が同定された9集団(非特許文献2)について、休眠型(d)および非休眠型(nd)のアレルを特定し(図7)、遺伝子1と遺伝子2のSNPの塩基と比較した。その結果、遺伝子2の最も5’端に位置する非同義SNPのアレルとQsd1のアレルが完全に一致したことから、このSNPが休眠性を制御すると判定した(図8)。
【実施例】
【0095】
さらに、上記9集団の両親について、遺伝子1および遺伝子2の発現量を種子、幼葉、成葉、幼根、成根において確認した結果、遺伝子2においては種子以外の発現はほとんど認められず、発現量も極めて高かった(図10)。さらに、登熟中の野生オオムギにおいて、in situハイブリダイゼーション法にて遺伝子産物の組織局在性を確認した結果、遺伝子2の産物は種子胚全体に発現していた(図11)。
【実施例】
【0096】
(3)コムギQsd1遺伝子の同定
(i)コムギの相同性遺伝子配列の取得
オオムギの種子休眠性遺伝子Qsd1の完全長配列に対する普通系コムギ(Triticum aestivum、2n=6x=42)の相同遺伝子を取得するため、TriFLDB: Triticeae Full-Length CDS DataBase ver.2.0(http://trifldb.psc.riken.jp/ver.2.0/)にオオムギQsd1の完全長配列NIASHv3013O02を投入してコムギの完全長cDNAデータをBlast検索し、相同性の極めて高い(evalue=0)コムギ完全長配列(RFL_Contig4246, GenBank: AK333743.1)を取得した。RFL_Contig4246の塩基配列を配列番号:12に示した。なお、本配列はコムギ品種Chinese Springに由来する。
【実施例】
【0097】
(ii)プライマー作成
ソフトウエアPrimer 3を使用して、RFL_Contig4246の配列からBACクローンを選抜するためのプライマーを3対(Contig4246-1LおよびContig4246-1R、Contig4246-2LおよびContig4246-2R、Contig4246-3LおよびContig4246-3R)を作成した。なお、プライマーの配列は下記の通りである。
Contig4246-1_L:GTGACTCTTTGCCCCAACAT(配列番号:13)
Contig4246-1_R:CCTGTGGCTTGTGTAGCTGA(配列番号:14)
Contig4246-2_L:GAGATTCGCAAAGTGGCTTC(配列番号:15)
Contig4246-2_R:GAAGATGCACATCAGCTTCG(配列番号:16)
Contig4246-3_L:GACCATAAACCCCAAGGTGA(配列番号:17)
Contig4246-3_R:AATGGACGCCGAGTATAACG(配列番号:18)
PCRによってChinese SpringのゲノムDNAに対する増幅を確認したところ、Contig4246-3LおよびContig4246-3Rのプライマー対では増幅が確認されなかった。残りの2対のプライマーについては単一のPCR産物が得られたので、以降の解析に用いた。
【実施例】
【0098】
(iii)BACクローンの選抜
上記2対のプライマーを用いてChinese SpringのBACライブラリーのDNAプールをPCR増幅したところ、4クローンについてそれぞれのプライマー対で増幅が得られた。これらのクローンのそれぞれについて、Not Iで消化し、インサートサイズを確認したところ、WCS0897G21(75.6Kb)が最小(75.6kb)だったので、このクローンを以後の解析に用いた。
【実施例】
【0099】
(iv)BAC配列解析と遺伝子配列の同定
WCS0897G21のショットガンライブラリーを作成して、サンガー法によって約30倍量の塩基配列を解析した。それぞれの配列をPhred/Prap(http://www.phrap.org/phredphrapconsed.html)によって品質調整し、アッセンブルしてコンティグ配列を作成した。これらのコンティグ配列にプライマー配列を位置づけたところ、contig6のゲノム配列に選抜に用いた2対のプライマー配列が同定できた。さらに、コムギ完全長配列RFL_Contig4246の塩基配列はcontig6に含まれていた。
【実施例】
【0100】
(v)遺伝子配列の同定
CLUSTALW(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)によってRFL_Contig4246とcontig6をアラインメントし、遺伝子配列のエキソンとイントロンを推定した。さらに翻訳開始コドンと終始コドンを推定した。さらにGENETYX10によって、アミノ酸配列を解析した。
【実施例】
【0101】
以上の解析により得られた、Chinese SpringにおけるRFL_Contig4246由来のQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:7に、該DNAによりコードされるアミノ酸配列を配列番号:8に示した。また、Chinese Springにおけるcontig6由来のQsd1ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:9に、contig6由来のQsd1ゲノムDNAから抽出したQsd1cDNAの塩基配列を配列番号:10に、これらDNAによりコードされるアミノ酸配列を配列番号:11に示した。
【実施例】
【0102】
また、オオムギ完全長配列NIASHv3013O02(配列番号:19)とコムギ完全長配列RFL_Contig4246(配列番号:12)のアラインメントをCLUSTALWにて解析した。その結果を図12~14に示す。
【産業上の利用可能性】
【0103】
上記した通り、本発明により、植物の種子休眠性の程度を支配する新規な遺伝子Qsd1が同定され、同定されたQsd1遺伝子を利用して、植物の種子休眠性の程度の判定や種子休眠性が改変された植物の作出・育種が可能となった。本発明における種子休眠性の程度の判定は、それを支配する遺伝子を標的としており、しかも、育成早期の個体(例えば、種子)を用いて実施することが可能である。このため、本発明の判定方法を利用すれば、種子休眠性が改変された品種を特異的かつ効率的に育種することが可能である。
【0104】
こうして作出・育種された弱種子休眠性の植物は、休眠が深くて発芽が著しく遅延する場合や乾燥地域で降水量が少ないために発芽が遅延する場合に、十分かつ早期に発芽個体を確保できる点で有用である。また、強種子休眠性の植物は、降雨の多い地域で穂発芽による種子の品質劣化を防げる点で有用である。また、種子休眠性を制御することにより、醸造用オオムギにおける斉一な発芽を促すことができ、引いては効率的な麦芽製造が可能となる。従って、本発明は、特に農作物の収穫量の向上及び品質劣化による経済的損失の軽減に大きく貢献することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0105】
配列番号13~18
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
図面
【図1】
0
【図7】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13