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明細書 :モデル動物の作出方法及びモデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6232668号 (P6232668)
登録日 平成29年11月2日(2017.11.2)
発行日 平成29年11月22日(2017.11.22)
発明の名称または考案の名称 モデル動物の作出方法及びモデル動物
国際特許分類 C12N  15/873       (2010.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
FI C12N 15/00 ZNAK
A01K 67/027
C12N 15/00 A
C12N 5/10
C12N 5/0735
請求項の数または発明の数 12
微生物の受託番号 NITE NITE BP-1172
全頁数 22
出願番号 特願2013-550146 (P2013-550146)
出願日 平成24年6月19日(2012.6.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 (1)平成23年6月25日に日本膵臓学会発行の第42回日本膵臓学会大会プログラム・抄録(日本膵臓学会誌「膵臓」第26巻第3号)にて発表 (2)平成23年7月30日に日本膵臓学会主催の第42回日本膵臓学会大会にて発表
国際出願番号 PCT/JP2012/065668
国際公開番号 WO2013/094240
国際公開日 平成25年6月27日(2013.6.27)
優先権出願番号 2011282413
優先日 平成23年12月22日(2011.12.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年6月12日(2015.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】大村谷 昌樹
【氏名】荒木 喜美
個別代理人の代理人 【識別番号】100156959、【弁理士】、【氏名又は名称】原 信海
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 Investigative Ophthalmology and Visual Science,1996年,Vol. 37, No. 3,p. S699
Gastroenterology,2005年,Vol. 129,p. 696-705
Zoological Science,2005年,Vol. 22,p. 1145-1156
Genome Research,2010年,Vol. 20,p. 1154-1164,Supplemental Table2
調査した分野 C12N 15/00
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合
前記目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体を得ておき、
前記目的遺伝子の相同遺伝子を含むフラグメントを作製するフラグメント作製工程と、
前記動物の対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞を用い、
該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と、
得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程と
を実施し、
前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させる
ことを特徴とするモデル動物の作出方法。
【請求項2】
非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合
前記動物の第1ES細胞を用いて前記目的遺伝子を欠損させる工程と、
得られた第1ES細胞を用いて前記目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を産生させる工程と
を実施する一方、
前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを作製するフラグメント作製工程と、
前記動物の対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と、
得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程と
を実施し、
前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させる
ことを特徴とするモデル動物の作出方法。
【請求項3】
前記第1個体と第2個体とを交配させて、身体を構成し、前記生体反応の発生に関与する細胞内の一部の細胞において、前記相同遺伝子を発現させたメスを産生させ、
所定の生体反応が現れる一方、所要の寿命を有するモデル動物を得る
請求項1又は2記載のモデル動物の作出方法。
【請求項4】
前記動物としてマウスを用いる請求項から3のいずれかに記載のモデル動物の作出方法。
【請求項5】
前記第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いる請求項1から4のいずれかに記載のモデル動物の作出方法。
【請求項6】
前記目的遺伝子はSpink3とし、前記相同遺伝子はSpink1とする請求項4又は5記載のモデル動物の作出方法。
【請求項7】
前記フラグメント作製工程では、前記相同遺伝子の上流側にCAGプロモータを配し、これらCAGプロモータ及び前記相同遺伝子の上下流側にそれぞれ変異loxを配する請求項1から6のいずれかに記載のモデル動物の作出方法。
【請求項8】
非ヒト哺乳動物であって、
前記動物に係る目的遺伝子はホモ欠損させてあり、
対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内に前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントが導入してあり、身体を構成する細胞内の一部の細胞において、当該相同遺伝子を発現させたメスである
ことを特徴とするモデル動物。
【請求項9】
身体を構成し、前記生体反応の発生に関与する細胞内の一部の細胞における前記相同遺伝子の発現によって、所定の生体反応が現れる一方、所要の寿命を有する請求項8記載のモデル動物。
【請求項10】
前記動物はマウスであり、前記目的遺伝子はSpink3であり、前記相同遺伝子はSpink1である請求項8又は9記載のモデル動物。
【請求項11】
前記フラグメントは、前記相同遺伝子の上流側にCAGプロモータが配してあり、これらCAGプロモータ及び前記相同遺伝子の上下流側にそれぞれ変異loxが配してある請求項8から10のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項12】
目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出するために用いられる非ヒト哺乳動物のES細胞であって、
該ES細胞は、対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成してなるES細胞(NITE BP-1172)であることを特徴とする非ヒト哺乳動物のES細胞。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子を改変した非ヒト哺乳類のモデル動物を作出する方法、及び当該方法によって作出されたモデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性膵炎の疾患に対するより効果的な治療法の開発が望まれており、かかる治療法の開発過程においては、慢性膵炎を発症するモデル動物を利用することが効率的である。
【0003】
膵炎の発症は、膵臓が産生するトリプシンの活性と当該トリプシンの活性を阻害する阻害因子(インヒビター)の活性とのバランスに起因するものと考えられている。つまり、阻害因子の活性に比べてトリプシンの活性が相対的に高い場合、又はトリプシンの活性に比べて阻害因子の活性が相対的に低い場合に膵炎が発症する。
【0004】
そのため、膵炎を発症するモデル動物として、エステラーゼプロモータ並びに野生マウスの膵臓トリプシノーゲン、β-グロビン及びSV40のポリアデニレーション部位をそれぞれコードした各フラグメント等を用いて構築された転写遺伝子をC57B1/6マウスの受精卵の前核に注入することによって、トリプシノーゲンを過剰に発現するようになしたモデル動物が作出されていた(非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、このような従来の方法にて作出されたモデルマウスにあっては、ヒト慢性膵炎に特徴な所見である膵腺細胞の脱落、又は膵臓の線維化等が観察されないという問題があった。すなわち、前述した従来の方法では慢性膵炎のモデルマウスを作出することはできないのである。
【0006】
そこで、本発明者らはヒトのSPINK1(Serine protease inhibitor Kazal type 1)遺伝子に対するマウスのホモログであるSpink3(Serine protease inhibitor Kazal type 3)遺伝子をノックアウトしたノックアウトマウスを作出した(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】ハーバート・アーチャー(HERBERT ARCHER)、他4名、「R122Hトリプシノーゲンの遺伝子導入により遺伝的に膵炎を招来されたマウスモデル(A Mouse Model of Hereditary PancreatitisGenerated by Transgenic Expression of R122H Trypsinogen)」、胃腸病学(GASTRORNTEROLOGY)、2006年、131巻、p1844-1855
【非特許文献2】大村谷 昌樹、他11名、「セリンプロテアーゼ阻害因子カーザルタイプ3欠損マウスにおける膵臓の腺房細胞の自食細胞死(Autophagic Cell Death of Pancreatic AcinarCell in Serine Protease Inhibitor Kazal type 3-Deficient Mice)」、胃腸病学(GASTRORNTEROLOGY)、2005年、129巻、p696-705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、作出したノックアウトマウスは、出生直後に全ての腺房細胞が細胞死を来し、これによって外分泌機能不全を発症して生後2週間以内に死亡してしまった。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、所要の寿命を有する一方、例えばヒト慢性膵炎に特徴的な所見というように、所定の生体反応を招来することができるモデル動物の作出方法、及び該方法によって作出されたモデル動物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るモデル動物の作出方法は、非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合、前記目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体を得ておき、前記目的遺伝子の相同遺伝子を含むフラグメントを作製する工程と、前記動物のX染色体内の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と、得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程とを実施し、前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させることを特徴とする。
【0011】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、常法によって目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を得ておく。
【0012】
一方、前述した目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを作製する。かかる工程は、相同遺伝子をクローニングしてもよいし、相同遺伝子を構成する各エクソンを含むように設計した遺伝子配列を合成してもよい。次いで、前記動物のX染色体の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞内に前記フラグメントを、例えばCre発現ベクターといった発現ベクターと共に導入することによって、前記所定領域を相同遺伝を含むフラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する。次に、得られた置換ES細胞を適宜処理した後、疑似妊娠させた動物内に移入させて個体を産生させ、得られた個体からX染色体の所定領域を相同遺伝子で置換させた第2個体を選択する。
【0013】
これら第1個体と第2個体とを交配させて、前記目的遺伝子がホモ欠損しており、対をなすX染色体の一方で前記相同遺伝子が発現し得るメスのモデル動物を産生させる。
【0014】
ここで、哺乳動物における遺伝子量補償は、メスの2本のX染色体のうちの一方が不活性にすることで達成されており、かかる現象をX染色体不活性化と呼ばれている。そして、2本のX染色体のうちのどちらが不活化されるかはランダムである。そのため、前述した如く産生されたモデル動物にあっては、対象部分を構成する各細胞が、目的遺伝子が欠損しているがX染色体の相同遺伝子によって救済されているものと、目的遺伝子が欠損しておりそのような救済がなされていないものとがランダムに混在している。かかるモデル動物にあっては、所要の寿命を有する一方、所定の生体反応を招来する。
【0015】
また、本発明に係るモデル動物の作出方法は、非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合、前記動物の第1ES細胞を用いて前記目的遺伝子を欠損させる工程と、得られた第1ES細胞を用いて前記目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を産生させる工程とを実施する一方、前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを作製する工程と、前記動物のX染色体内の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と、得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程とを実施し、前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させることを特徴とする。
【0016】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、目的遺伝子に対応するターゲッティングベクターを作製し、該ターゲッティングベクターを非ヒト哺乳動物の第1ES細胞内に導入させることによって、目的遺伝子を欠損させた第1ES細胞を得る。次いで、得られた第1ES細胞を適宜処理した後、疑似妊娠させた前記動物内に移入させて個体を産生させ、得られた個体から目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を選択する。これによって、所要の目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を確実に得ることができる。
【0017】
一方、前同様、目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを作製し、前記動物のX染色体の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞内に前記フラグメントを導入することによって、前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成し、得られた置換ES細胞を適宜処理した後、疑似妊娠させた動物内に移入させて個体を産生させ、得られた個体からX染色体の所定領域を相同遺伝子で置換させた第2個体を選択する。
【0018】
そして、前記第1個体と第2個体とを交配させて、前記目的遺伝子がホモ欠損しており、対をなすX染色体の一方で前記相同遺伝子が発現し得るメスのモデル動物を産生させる。これによって、前同様、所要の寿命を有する一方、所定の生体反応を招来するモデル動物を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係るモデル動物の作出方法は、前記第2ES細胞として、対をなすX染色体の一方のX染色体内の所定領域を置換可能に構成してなるES細胞を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、対をなすX染色体の一方のX染色体内に例えば適宜のベクターを導入することによって、当該X染色体の所定領域を置換可能に構成した第2ES細胞を用いる。このとき、他の遺伝子を導入するX染色体の位置は、当該第2ES細胞から派生したモデル動物の生態に影響が生じない遺伝子がよい。これによって、前述したX染色体の不活性化を適用させて目的とするモデル動物を効率良く、確実に得ることができる。
【0021】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、前記動物としてマウスを用い、前記第2ES細胞として、前記所定領域がX染色体のDiap2遺伝子領域内に設けてあるES細胞を用いることを特徴とする。
【0022】
Diap2遺伝子はX染色体にあり、Diap2遺伝子を欠損させたマウスは正常であることが確認されている。従って、第2ES細胞として、前記所定領域がX染色体のDiap2遺伝子領域内に設けてあるES細胞を用いた場合、得られたモデルマウスに悪影響を及ぼすことなく、所定の生体反応を招来させることができる。
【0023】
本発明に係るモデル動物の作出方法は、前記第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いることを特徴とする。
【0024】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いる。かかる第2ES細胞は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2011年12月1日(原寄託日)に国内寄託されており、NITE P-1172の受託番号が付与されている。更に、本ES細胞は、2012年5月30日(移管日)に前記特許微生物センターに対して国際寄託への移管請求がなされ、2012年6月11日にNITE BP-1172の受託番号が付与されている。
【0025】
この第2ES細胞(NITE BP-1172)は、前述したDiap2遺伝子内にトラップベクターであるpU-21Bを導入することによって構成されており、トラップベクターpU-21Bの所定領域は外来フラグメントと置換可能になっている。従って、この置換可能領域と相同遺伝子を含むフラグメントとを置換させてDiap2遺伝子内に相同遺伝子を導入することができる。一方、前述したように、Diap2遺伝子を欠損させてもそのマウスは正常であるので、第2ES細胞としてES細胞(NITE BP-1172)を用いた場合、得られたモデルマウスに悪影響を及ぼすことなく、所定の生体反応を招来させることができる。
【0026】
本発明に係るモデル動物の作出方法は、前記目的遺伝子はSpink3とし、前記相同遺伝子はSpink1とすることを特徴とする。
【0027】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、目的遺伝子はSpink3とし、相同遺伝子はSpink1としたので、得られたモデルマウスには、ヒト慢性膵炎に特徴な所見を観察することができる。
【0028】
本発明に係るモデル動物は、非ヒト哺乳動物であって、目的遺伝子はホモ欠損させてあり、X染色体内に前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントが導入してあり、身体を構成する細胞内の一部の細胞において、当該相同遺伝子を発現させたメスであることを特徴とする。
【0029】
本発明のモデル動物にあっては、目的遺伝子はホモ欠損させてあるので、例えば目的遺伝子が生命維持に必要である場合、このままではモデル動物の生命を維持することができない。そこで、モデル動物の染色体に前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子をノックインさせるのであるが、単にノックインさせただけでは目的遺伝子の欠損が救済されるだけであるので、例えば、目的遺伝子が疾病に関与する場合にあっては、そのような疾病をモデル動物が発症せず、正常なモデル動物が得られるだけである。
【0030】
そこで、本発明にあっては、モデル動物のX染色体内に、前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを導入して、該相同遺伝子を発現させ得るようにしてある。
【0031】
前述したX染色体不活性化によって、モデル動物の身体を構成する各細胞にあっては、一部の細胞では前述した相同遺伝子が発現しており、他の細部では相同遺伝子が発現していない。すなわち、目的遺伝子がホモ欠損しているがX染色体の相同遺伝子によって救済されているものと、目的遺伝子がホモ欠損しておりそのような救済がなされていないものとがランダムに混在する。これによって、当該モデル動物は、所要の寿命を有する一方、所定の疾病といった生体反応を招来する。
【0032】
本発明に係るモデル動物は、非ヒト哺乳動物であって、目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体と、前記動物のX染色体内に、前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを導入した第2個体とを交配させてなり、前記目的遺伝子はホモ欠損しており、身体を構成する細胞の内の一部の細胞において前記相同遺伝子が発現しているメスであることを特徴とする。
【0033】
本発明のモデル動物にあっては、非ヒト哺乳動物であって、目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体と、前記動物のX染色体内に、前記目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを導入した第2個体とを交配させてなる。第1個体及び第2個体は安定して形質を保存することができ、従って本発明のモデル動物の形質も安定している。
【0034】
また、モデル動物は、目的遺伝子はホモ欠損しており、身体を構成する細胞の内の一部において、前述したようにX染色体に導入された相同遺伝子が発現しているメスであるので、前同様、所要の寿命を有する一方、所定の疾病といった生体反応を招来する。
【0035】
本発明に係るモデル動物は、前記フラグメントはX染色体のDiap2遺伝子領域内に導入してあることを特徴とする。
【0036】
本発明のモデル動物にあっては、前記フラグメントはX染色体のDiap2遺伝子領域内に導入してあるので、前同様、当該モデル動物に悪影響を及ぼすことなく、所定の生体反応を招来させることができる。
【0037】
本発明に係るモデル動物は、前記動物はマウスであり、前記目的遺伝子はSpink3であり、前記相同遺伝子はSpink1であることを特徴とする。
【0038】
本発明のモデル動物にあっては、前記動物はマウスであり、目的遺伝子はSpink3であり、前記相同遺伝子はSpink1であるので、前同様、得られたモデルマウスには、ヒト慢性膵炎に特徴な所見を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るモデル動物の作出手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係るモデル動物の作出手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係るモデル動物の作出手順を示すフローチャートである。
【図4】Spink1ミニ遺伝子の作製手順の一例を説明するフローチャートである。
【図5】Spink1ミニ遺伝子をクローニングしたpBluescript II SK(+)ベクターの構造図である。
【図6】置換ベクターの構造図である。
【図7】本発明方法によって作出したモデルマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。
【図8】本発明方法によって作出したSpink3-/-XCAG-SP1/wildの8週齢のモデルマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。
【図9】本発明方法によって作出したSpink3-/-XCAG-SP1/wildの8週齢のモデルマウスの膵臓の切片をアザン染色した結果を示す顕微鏡画像図である。
【図10】種々のマーカに対する発現の有無をウェスタンブロッティング法によって調べた結果を示す画像図である。
【図11】種々のマーカに対する発現の有無をウェスタンブロッティング法によって調べた結果を示す画像図である。
【図12】従来のモデルマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。
【図13】Spink3をヘテロ欠損(Spink3+/-)させた8週齢のマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。
【図14】Spink3をヘテロ欠損(Spink3+/-)させた8週齢のマウスの膵臓の切片をアザン染色した結果を示す顕微鏡画像図である。
【図15】pU-21Bの構造を模式的に説明する説明図である。
【図16】Diap2遺伝子領域内に導入された後のpU-21Bの構造を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明について図面を用いて詳述する。なお、本発明は後述する実施の形態に何ら限定されるものではない。請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形様態もこの発明に含まれる。
図1~図3は本発明に係るモデル動物の作出手順を示すフローチャートであり、慢性膵炎を発症するモデルマウスの作出に適用した場合を示している。

【0041】
[Spink3をヘテロ欠損させたマウスの樹立](ステップS1)
図2に示したように、近交系であるC57BL/6Jマウス(日本クレア株式会社製)から適宜の部位、好ましくは腎臓を採取し、当該部位の細胞に含まれるDNAを抽出・精製する。(ステップS11)

【0042】
DNAの抽出・精製は、例えば次のようにして行うことができる。なお、以後にあっても同様であるが、本発明にあってはかかる例示に限定されないことはいうまでもなく、所要の目的を達成し得る方法であれば適宜適用することができる。

【0043】
すなわち、採取した部位を細かく切断し、適量をマイクロチューブに投入する。このマイクロチューブに溶解用緩衝液(1×SSC、1mMEDTA、20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))を600μlと10質量/容量%のSDS溶液を80μlとを注入して、55℃で適宜の間隔で撹拌しつつ2~3時間程度反応させた後、20mg/mlプロテインキナーゼKを0.5μl~1μl添加して撹拌し、更に1時間程度反応させることによってマイクロチューブ内の細胞を溶解させる。

【0044】
次に、フェノール・クロロホルム混液をマイクロチューブ内の液体と等量になるように添加し、撹拌機によって十分に撹拌した後、12000~15000rpmの回転速度で遠心分離し、有機溶媒層である上層を取り除く。同様の操作を繰り返した後、イソプロピルアルコールをマイクロチューブ内の液体と等量になるように添加し、DNAの糸屑が生成するまで十分に撹拌する。

【0045】
DNAの糸屑が沈降する適宜の回転数で遠心分離して上清を廃棄した後、70%容量/容量%エタノール、次いで100%エタノールで順次、DNAの洗浄・遠心分離・上清の廃棄を繰り返してDNAを洗浄し、残留するエタノールを蒸発・除去する。このようして得られたDNAにトリス-EDTA緩衝液といった適宜の緩衝液を50μl程度添加して当該DNAを溶解させ、鋳型として用いるDNA溶液とする。

【0046】
このようにしてマウスのDNAが調製されると、Spink3遺伝子を欠損させたノックアウトマウスを作出するためのターゲッティングベクターを次のようにして作製する(ステップS12)。

【0047】
ここで、Spink3遺伝子はSpink1遺伝子と同様、エクソン1~エクソン4までの4つのエクソンにて構成されている。そこで、エクソン1の相同領域である5´側の適宜領域及び3´側の適宜領域をクローニングした。なお、エクソン1の5´側の適宜領域及び3´側の適宜領域は両者合わせて10kb程度になるように設計するとよい。

【0048】
かかるクローニングは例えば次のようにして行うことができる。
すなわち、予め所要の設計をした以下のプライマーを用いて、PCR法にてSpink3のエクソン1の5´側の2.2kbの領域と、3´側の8kbの領域をそれぞれ増幅した。なお、Gene Amp PCR system 9700(アプライドバイオシステムス社製)のPCR装置、及びDNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用い、94℃で5分間保持した後、(90℃で20秒間、60℃で30秒間、68℃で3分間)保持する操作を40回繰り返し、その後、68℃で7分間保持するPCR反応を実施した。
mPSTI-13:5´-tacgtctccggtcttcttct-3´(配列番号1)
loxP-B:5´-gatccggaacccttaatataa-3´(配列番号2)

【0049】
得られた増幅断片は例えば精製キットであるMaxiprep(キアゲン社製)を用いて精製した後、例えば、(Spink3のエクソン1の5´側の2.2kb)-(変異lox)-(PGKプロモータ)-(neoカセット)-(変異lox)-(Spink3のエクソン1の3´側の8kb)となるように互いに連結することによってターゲッティングベクターを得た。なお、(変異lox)-(PGKプロモータ)-(neoカセット)-(変異lox)は、Spink3のエクソン1の開始コドンであるATGの直前のBglIIの制限酵素サイトに挿入されるようにデザインした。

【0050】
なお、真核細胞プロモータであるPGKプロモータ、及びネオマイシン耐性遺伝子を包含するneoカセットは、例えば国立大学法人熊本大学生命資源研究・支援センターから入手することができる。

【0051】
また、変異loxは、変異を含む部分に5b程度加えたプライマーと、loxPの外側のT3又はT7のプライマーを用いてPCRし、得られたフラグメントをサブクローニングすることによって作製することができる。

【0052】
一方、変異loxとして次の配列を合成によって作製することもできる。
Lox71:5´-taccgttcgtatagcatacattatacgaagttat-3´(配列番号3)
Lox66:5´-ataacttcgtatagcatacattatacgaacggta-3´(配列番号4)
loxKMR:5´-ataacttcgtatagcatacattataccttgttat-3´(配列番号5)

【0053】
次に、このようにして得られたターゲッティングベクターを複数のES細胞(TT2株)内に例えばエレクトロポレーション法によって導入して、Spink3(目的遺伝子)を欠損させる(ステップS13)。なお、TT2株は、C57BL/6の雌マウスとCBAの雄マウスとを交配させたF1を用いて樹立されたES細胞であり、例えば国立大学法人熊本大学生命資源研究・支援センターから入手することができる。ここで、エレクトロポレーションを実施する装置としてはGENE PULSERII(バイオラッド社製)を用いることができ、エレクトロポレーションの条件としては800V、30μFを設定することができる。なお、ターゲッティングベクターのES細胞への導入法及びその条件は本例示に限られないことはいうまでもない。

【0054】
エレクトロポレーションが終了すると、全てのES細胞をネオマイシンであるG418を200μg/mlの濃度になるように添加した培地に移し、CO2濃度が5%であり、温度が37℃になした培養器内で数日間培養した。なお、培地としては例えば次表に示す組成のものを用いることができる。また、常法に従ってネオマイシン耐性のTT2株を予めフィーダーしておくとよい。

【0055】
【表1】
JP0006232668B2_000002t.gif

【0056】
適宜日数培養した後に生育してきたES細胞の塊をそれぞれ採取し、各塊を個々のES細胞に分離して、それぞれを各別に保存する。そして、これら各ES細胞について目的とする相同組み換えが生じているか否かを遺伝子解析し、相同組み換えが生じているものをSpink3欠損ES細胞とする(ステップS14)。

【0057】
このようにして得られたSpink3欠損ES細胞を用い、凝集法(アグリゲーション法)によってブラストシストを生成させ、得られたブラストシストを疑似妊娠させたC57BL/6J雌マウスの子宮内に移植して個体になすことによってキメラマウス(F0)を産生させる(ステップS15)。そして、得られたキメラマウスとC57BL/6Jマウスとを交配させて、Spink3ヘテロ欠損マウス(F1)を産生させる(ステップS16)。

【0058】
[X染色体の所定領域とSpink1とを置換させたマウスの樹立](ステップS3)
図3に示したように、当該マウスを樹立するためにSpink1ミニ遺伝子(置換遺伝子)を例えば次のようにして作製する(ステップS30)。

【0059】
図4はSpink1ミニ遺伝子の作製手順の一例を説明するフローチャートである。同意を得た提供者から血液を採取し、当該血液からリンパ球を分離し、得られたリンパ球から前述したステップS11の操作と同様の操作を行ってヒトDNAを得る(ステップS301)。

【0060】
Spink1はエクソン1~エクソン4まで4つのエクソンで構成されているが、各エクソンについて5´側のイントロンと3´側のイントロンとをそれぞれ200bp~300bp程度ずつ包含するようにクローニングを行う(ステップS302)。なお、エクソン1の5´側のイントロンと、エクソン4の3´側のイントロンの部分はクローニングしないように設計する。また、Spink1ミニ遺伝子の大きさは、後述するX染色体の置換対象領域(本実施の形態にあってはDiap2遺伝子)の大きさに応じて定める。

【0061】
かかるクローニングは、例えば次のようなプライマーを用いて実施することができる。

【0062】
エクソン1に対するプライマーは次の通りである。
SPINK1-ex1s1:5´-ttc cag tcc cag gct tct gaa-3´(配列番号6)
SPINK1-in1a1:5´-ggt cag cca cat caa tag agg-3´(配列番号7)

【0063】
エクソン2に対するプライマーは次の通りである。
SPINK1-in1s1Spe:5´-gct cag tgc ctg att cat ttc cac tag t-3´(配列番号8)
SPINK1-in2a2:5´-tcc acc cca aat act tgt cta c-3´(配列番号9)

【0064】
エクソン3に対するプライマーは次の通りである。
SPINK1-in2s1Bam:5´-acg gat cca tgt aaa tct aaa tct cac aac-3´(配列番号10)
SPINK1-in3a1Bam:5´-tag gct tgg atc cta caa gtg act tct a-3´(配列番号11)

【0065】
エクソン4に対するプライマーは次の通りである。
SPINK1-in3s2:5´-gag gca tca gga gca aaa gct tca-3´(配列番号12)
SPINK1-pAa2Hind:5´-ggt ata atc aaa caa agc ttt gag g-3´(配列番号13)

【0066】
このようにして得られた各フラグメントはそれぞれ、pGEM-T Easy Vector Systems(プロメガ社製)にクローニングした。

【0067】
次に各フラグメントを順に結合させるため、エクソン1を含むフラグメントを対応するクローニングベクターからSacII及びSpeIの制限酵素を用いて切り出し、それをpBluescript II SK(+)ベクターのクローニングサイトに結合させる。次いで、エクソン2を含むフラグメントを対応するクローニングベクターからSpeIの制限酵素を用いて切り出し、それを前記ベクターのエクソン1を含むフラグメントの下流に結合させる。同様の操作をエクソン3を含むフラグメント、及びエクソン4を含むフラグメントについて順次実施することによって、図5に示した如く、エクソン1を含むフラグメント~エクソン4を含むフラグメントを順に結合させてなるSpink1ミニ遺伝子を得る(ステップS303)。なお、前者の切り出しにはBamHIの制限酵素を用い、後者の切り出しにはHindIIIの制限酵素を用いることができる。

【0068】
なお、このようなSpink1ミニ遺伝子はその全てを合成によって作製することもできる。Spink1ミニ遺伝子を合成する場合の遺伝子配列を配列番号14に例示する。Spink1ミニ遺伝子を合成によって作製する場合、ヒトの血液を採取することなくSpink1ミニ遺伝子を作製できるため好適である。

【0069】
次に、このようにしてSpink1ミニ遺伝子が得られると、図3に示したように、当該Spink1ミニ遺伝子をCAGプロモータ(国立大学法人熊本大学生命資源研究・支援センターより入手可能)の下流に連結した後、Spink1ミニ遺伝子の3´側にポリA配列を結合させて(CAG)-(Spink1ミニ遺伝子)-(ポリA配列)のフラグメントを得る。

【0070】
変異lox、PGKプロモータ、PAC(puromycin N-acetyl-transferase gene)、ポリA、及び変異loxをこの順に包含する置換ベクターを予め作製しておき、該置換ベクターの前記変異loxとPGKプロモータとの間に前述した如く得たフラグメントを挿入させることによって(変異lox)-(CAG)-(Spink1ミニ遺伝子)-(ポリA配列)-(PGKプロモータ)-(PAC)-(ポリA)-(変異lox)を包含する置換ベクターを作製する(ステップS32)。この置換ベクターの構造を図6に示す。

【0071】
次に、C57BL/6JマウスのDiap2遺伝子をヘテロ欠損させたES細胞(第2ES細胞)、及びCre発現ベクター(国立大学法人熊本大学生命資源研究・支援センターより入手可能)を予め準備しておく。なお、本ES細胞は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2011年12月1日(原寄託日)に国内寄託されており、NITE P-1172の受託番号が付与されている。更に、本ES細胞は、2012年5月30日(移管日)に前記特許微生物センターに対して国際寄託への移管請求がなされ、2012年6月11日にNITE BP-1172の受託番号が付与されている。

【0072】
なお、本ES細胞の科学的性質は次の通りである。
すなわち、本ES細胞(第2ES細胞)は、B6マウスとCBAマウスのF1である胚盤胞(ブラストシスト)から作製されたTT2 ES細胞を、フィーダーフリー化した後、トラップベクターであるpU-21Bを導入し、さらに抗生物質(G418)耐性にしたものである。トラップベクターはdiaphanous homolog 2(Drosophila)(Diap2)遺伝子に挿入されており、Diap2遺伝子プロモータの活性により、レポータ遺伝子β-geoが発現するようになっている。

【0073】
このDiap2遺伝子はX染色体にあり、前述したように本ES細胞にあっては、一対のX染色体の一方のDiap2遺伝子領域内にトラップベクターpU-21B(国立大学法人熊本大学生命資源研究・支援センターより入手可能)を導入して、当該Diap2遺伝子を欠損させてある。なお、Diap2遺伝子を欠損させたマウスは正常であることが確認されている。

【0074】
図15はpU-21Bの構造を模式的に説明する説明図であり、図16はDiap2遺伝子領域内に導入された後のpU-21Bの構造を模式的に説明する説明図である。かかるpU-21Bは、前記ES細胞にあっては、Diap2遺伝子の第29エクソンの下流側に隣接するイントロン内の第29エクソンから5.3kb下流の位置に導入されている。

【0075】
図15に示したようにpU-21Bは5´側より順に、(EN2イントロン)-(lox71)-(EN2-SA)-(β-geo)-(pA1)-(FRT)-(loxP)-(pA2)-(FRT)-(lox2272)-(pSP73)-(lox511)にて構成されており、lox71とloxPとの間の領域が他の遺伝子と置換し得るようになっている。なお、置換対象の他の遺伝子の5´側及び3´側にはそれぞれ、lox71及びloxPを付加しておく。

【0076】
一方、Diap2遺伝子領域内に導入されたpU-21Bの構造を解析したところ、図16に示したように、5´側の1321bpの領域及び3´側の1kb以上の領域が欠失していた。すなわち、5´側ではEN2イントロンの一部領域が欠失しており、3´側ではlox511の全領域及びpSP73の一部領域が欠失していた。

【0077】
なお、本実施の形態では第2ES細胞として、一方のX染色体のDiap2遺伝子にpU-21Bを導入して当該遺伝子を他の遺伝子と置換可能に欠損させた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、他のトラップベクターを用いてもよいことはいうまでもない。その場合、Diap2遺伝子に導入されるトラップベクターの位置は、使用するトラップベクターの構造に応じて、前述したpU-21Bとは異なってもよい。また、トラップベクター内の置換可能な遺伝子構成も種々構築することができる。

【0078】
複数のDiap2ヘテロ欠損ES細胞(第2ES細胞)に、前記置換ベクター及びCre発現ベクターをエレクトロポレーション法により導入する(ステップS33)。なお、導入条件としては400V、125μFを設定することができる。これによって、X染色体のDiap2遺伝子欠損内の前述した特定領域と、(CAG)-(Spink1ミニ遺伝子)-(ポリA配列)-(PGKプロモータ)-(PAC)とを置換させた置換体を生成させることができる。

【0079】
エレクトロポレーションが終了すると、全てのES細胞をピューロマイシンを2μg/mlの濃度になるように添加した培地に移し、CO2濃度が6.5%であり、温度が37℃になした培養器内で数日間培養した。なお、常法に従ってピューロマイシン耐性のES細胞を予めフィーダーしておくとよい。

【0080】
適宜日数培養した後に生育してきたES細胞の塊をそれぞれ採取し、各塊を個々のES細胞に分離して、それぞれを各別に保存する。そして、これら各ES細胞について目的とする置換が生じているか否かを遺伝子解析し、当該置換が生じているものを置換ES細胞とする(ステップS34)。

【0081】
このようにして得られた置換ES細胞を用い、凝集法によってブラストシストを生成させ、得られたブラストシストを疑似妊娠させたC57BL/6J雌マウスの子宮内に移植して個体になすことによって、X染色体の所定領域とSpink1とを置換させた、すなわちX染色体にSpink1をノックインさせたマウス(第2個体)が産生される(ステップS35)。

【0082】
[モデル動物の樹立]
このようにしてSpink3ヘテロ欠損マウス、及びX染色体にSpink1をノックインさせたSpink1ノックインマウスが得られると、図1に示したように、両者を交配させて、Spink3+/-YXCAG-SP1(オス)と、Spink3+/-XCAG-SP1/wild(メス)とが樹立される。

【0083】
そして、両マウスを交配することによって、Spink3-/-XCAG-SP1/wildのモデルマウスを樹立する(ステップS5)。

【0084】
ここで、哺乳動物における遺伝子量補償は、雌の2本のX染色体のうちの一方が不活性にすることで達成されており、かかる現象はX染色体不活性化と呼ばれている。そして、2本のX染色体のうちのどちらが不活化されるかはランダムである。そのため、前述した如く樹立されたモデルマウスの膵臓を構成する各細胞にあっては、Spink3が欠損しているがX染色体のSpink1によって救済されているSpink3-/-XCAG-SP1のものと、Spink3が欠損しており前記救済がなされていないSpink3-/-Xwildのものとがランダムに混在しており、これによって当該モデルマウスは、後述するように慢性膵炎を発症する。

【0085】
次に、このようにして得られたSpink3-/-XCAG-SP1/wildのモデルマウスについて病理解析を実施した結果について説明する。

【0086】
図7は本発明方法によって作出したSpink3-/-XCAG-SP1/wildのモデルマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。また、図12(a)はSpink3をヘテロ欠損(Spink3+/-)させたマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図であり、図12(b)はSpink3をホモ欠損(Spink3-/-)させたマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。なお、いずれの結果も生後0.5日のマウスのものであり、HE(ヘマトキシリン-エオジン)染色してある。

【0087】
図12(a)に示されたように、Spink3のヘテロ欠損マウスの膵臓では、膵実質(腺房細胞)は正常であるが、図12(b)に示されたように、Spink3をホモ欠損(Spink3-/-)させたマウスの膵臓では、腺房細胞が殆ど脱落している。

【0088】
これらに対して図7から明らかな如く、本発明に係るモデルマウスの膵臓にあっては、腺房細胞も観察される一方、図中(d)で示したように脱落した腺房細胞も観察された。つまり、Spink3が欠損しているがX染色体のSpink1によって救済されているSpink3-/-XCAG-SP1の腺房細胞は残存しており、Spink3が欠損しており前記救済がなされていないSpink3-/-Xwildの腺房細胞は脱落しているのである。

【0089】
一方、図8は本発明方法によって作出したSpink3-/-XCAG-SP1/wildの8週齢のモデルマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図であり、図13はSpink3をヘテロ欠損(Spink3+/-)させた8週齢のマウスの膵臓の切片の顕微鏡画像図である。なお、両切片ともHE染色してある。

【0090】
図13から明らかな如く、Spink3をヘテロ欠損させたマウスの膵臓では膵管の拡張は観察されなかった。これに対して図8から明らかな如く、本発明に係るモデルマウスの膵臓にあっては、膵管に明らかな拡張が観察された。

【0091】
更に、両図8及び図13に示した膵臓の切片を、膠原線維と筋線維とを染め分けるアザン染色した結果を図9及び図14に示す。

【0092】
両図9及び図14を比較すると、Spink3をヘテロ欠損させたマウスの膵管の周囲組織はさほど線維化されていないが、本発明に係るモデルマウスの膵管の周囲組織には過剰な線維化が生じていた。

【0093】
このように、本発明に係るモデルマウスは8週齢以上生存する一方、その膵臓には膵実質(腺房細胞)の脱落と膵管の拡張、またその周囲の過剰な線維化が確認され、ヒト慢性膵炎の病理像と酷似していた。

【0094】
次に、本発明に係るモデルマウスの膵臓を構成する細胞の遺伝子発現について検討した結果について説明する。

【0095】
図10及び図11は、種々のマーカに対する発現の有無をウェスタンブロッティング法によって調べた結果を示す画像図であり、図中、Aは本発明に係るモデルマウスの膵臓を用いた場合を、一方S1はSpink3をヘテロ欠損(Spink3+/-)させたマウスの膵臓を用いた場合を、またS2はSpink3-/-XCAG-SP1/CAG-SP1のマウスの膵臓を用いた場合をそれぞれ示している。なお、いずれのマウスの膵臓も8週齢のものを用いている。また、Spink3-/-XCAG-SP1/CAG-SP1のマウスは、前述した如くSpink3+/-YXCAG-SP1とSpink3+/-XCAG-SP1/wildとを交配させた場合に派生するものであり、それを用いた。

【0096】
両図10、11から明らかな如く、組織の繊維化を促す物質のマーカであるTGFβ、膵星細胞のマーカであるDesmin及びαSMA、発癌、癌の増殖促進のマーカであるHer2、発癌、癌の増殖促進のマーカであるRasについて、本発明に係るモデルマウスでは大きな反応が示されていたが、Spink3ヘテロ欠損マウス及びSpink3-/-XCAG-SP1/CAG-SP1のマウスは正常であるので、それらのマーカとの反応は示されなかった。

【0097】
一方、消化酵素であるアミラーゼ(Amylase)については、正常マウスであるSpink3ヘテロ欠損マウス及びSpink3-/-XCAG-SP1/CAG-SP1のマウスは、いずれも大きな反応が示されていたが、本発明に係るモデルマウスでは殆ど反応が示されなかった。

【0098】
なお、本実施の形態では慢性膵炎を発症するモデルマウスを作出する方法について説明したが、本発明はこれに限らず、糖尿病、膵臓癌等を発症するモデルマウスの作出に適用し得る。また、膵星細胞の大量精製、臓器の線維化、等、疾患以外にも適用し得る。一方、対象動物はマウスに限らず、ラット、ラビット等、哺乳類であって非ヒトの他のモデル動物にも適用できる。

【0099】
また、本実施の形態では対をなすX染色体の一方に相同遺伝を含むフラグメントを導入した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、対をなすX染色体の両方に相同遺伝子を導入してもよい。この場合、例えば、相同遺伝子とプロモータとを含むフラグメントと、相同遺伝子は含むがプロモータは含まない他のフラグメントとを準備しておき、対をなす両X染色体の所定領域を置換可能に構成してなるES細胞に両フラグメントを導入することによって、対をなすX染色体の一方には前記フラグメントが導入される一方、対をなすX染色体の他方には前記他のフラグメントが導入されたES細胞を得るようにする。つまり、対をなす両X染色体に相同遺伝子を導入するが、一方のX染色体に導入された相同遺伝子は発現し得るが、他方のX染色体に導入された相同遺伝子は発現し得ないようになすのである。

【0100】
これによって、前同様にX染色体不活性化が適用されるので、対象部分を構成する各細胞が、目的遺伝子が欠損しているがX染色体の相同遺伝子によって救済されているものと、目的遺伝子が欠損しておりそのような救済がなされていないものとがランダムに混在しているモデル動物が得られる。かかるモデル動物にあっては、前同様、所要の寿命を有する一方、所定の生体反応を招来する。ただし、このような方法に比べて、前述したように対をなすX染色体の一方に相同遺伝を含むフラグメントを導入する方法の方が、モデル動物の作出効率は高い。

【0101】
追記
ところで、以上の説明から明らかなように、本実施の形態からは更に以下の発明が導かれる。

【0102】
(1) 非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合、
前記目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体を得る一方、
前記目的遺伝子の相同遺伝子を含むフラグメントを作製する工程と、
前記動物の対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成した第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を当該フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と
得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程と
を実施し、
前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させる
ことを特徴とするモデル動物の作出方法。

【0103】
(2) 前記動物としてマウスを用い、
前記第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いる(1)記載のモデル動物の作出方法。

【0104】
(3) 前記目的遺伝子はSpink3とし、前記相同遺伝子はSpink1とする(2)記載のモデル動物の作出方法。

【0105】
(1)記載のモデル動物の作出方法は、非ヒト哺乳動物のES細胞を用いて目的遺伝子を欠損させたモデル動物を作出する場合、前記目的遺伝子をヘテロ欠損させた第1個体を得る一方、前記目的遺伝子の相同遺伝子を含むフラグメントを作製する工程と、前記動物の対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成した第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を当該フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する工程と得られた置換ES細胞を用いて第2個体を産生させる工程とを実施し、前記第1個体と第2個体とを交配させてモデル動物を産生させることを特徴とする。

【0106】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、常法によって目的遺伝子がヘテロ欠損した第1個体を得ておく。

【0107】
一方、前述した目的遺伝子と相同性を有する相同遺伝子を含むフラグメントを作製する。かかる工程は、相同遺伝子をクローニングしてもよいし、各エクソンを含むように設計した遺伝子配列を合成してもよい。

【0108】
次いで、対象動物の対をなすX染色体の一方のX染色体のDiap2遺伝子内の所定領域を置換可能に構成した第2ES細胞を用い、該第2ES細胞に前記フラグメントを導入して前記所定領域を当該フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する。Diap2遺伝子はX染色体にあり、Diap2遺伝子を欠損させたマウスは正常であることが確認されている。このDiap2遺伝子内に、例えば適宜のベクターを導入することによって、当該X染色体の所定領域を置換可能に構成してなる第2ES細胞を用い、この第2ES細胞内に、前記フラグメントを、例えばCre発現ベクターといった発現ベクターと共に導入することによって、前記所定領域を前記フラグメントにて置換した置換ES細胞を生成する。

【0109】
次に、得られた置換ES細胞を適宜処理した後、疑似妊娠させた動物内に移入させて個体を産生させ、得られた個体からX染色体の所定領域を相同遺伝子で置換させた第2個体を選択する。

【0110】
そして、これら第1個体と第2個体とを交配させて、前記目的遺伝子がホモ欠損しており、前記相同遺伝子が対をなすX染色体の一方に導入されたメスのモデル動物を産生させる。

【0111】
ここで、哺乳動物における遺伝子量補償は、メスの2本のX染色体のうちの一方が不活性にすることで達成されており、かかる現象をX染色体不活性化と呼ばれている。そして、2本のX染色体のうちのどちらが不活化されるかはランダムである。そのため、前述した如く産生されたモデル動物にあっては、対象部分を構成する各細胞が、目的遺伝子が欠損しているがX染色体の相同遺伝子によって救済されているものと、目的遺伝子が欠損しておりそのような救済がなされていないものとがランダムに混在しているものが得られる。かかるモデル動物にあっては、所要の寿命を有する一方、所定の生体反応を招来する。

【0112】
また、前述したようにX染色体のDiap2遺伝子を欠損させた対象動物は正常であるので、第2ES細胞として、X染色体のDiap2遺伝子を欠損させてなるES細胞を用いた場合、得られたモデル動物に悪影響を及ぼすことなく、所定の生体反応を招来させることができる。

【0113】
(2)記載のモデル動物の作出方法は、前記動物としてマウスを用い、前記第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いることを特徴とする。

【0114】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、前記動物としてマウスを用い、第2ES細胞として、ES細胞(NITE BP-1172)を用いる。かかる第2ES細胞は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2011年12月1日(原寄託日)に国内寄託されており、NITE P-1172の受託番号が付与されている。更に、本ES細胞は、2012年5月30日(移管日)に前記特許微生物センターに対して国際寄託への移管請求がなされ、2012年6月11日にNITE BP-1172の受託番号が付与されている。

【0115】
この第2ES細胞(NITE BP-1172)は、前述したDiap2遺伝子内にトラップベクターであるpU-21Bを導入することによって構成されており、トラップベクターpU-21Bの所定領域は他のフラグメントと置換可能になっている。従って、この置換可能領域と相同遺伝子とを置換させてDiap2遺伝子内に相同遺伝子を導入することができる。一方、前述したように、Diap2遺伝子を欠損させてもそのマウスは正常であるので、第2ES細胞としてES細胞(NITE BP-1172)を用いた場合、得られたモデルマウスに悪影響を及ぼすことなく、所定の生体反応を招来させることができる。

【0116】
(3)記載のモデル動物の作出方法は、前記目的遺伝子はSpink3とし、前記相同遺伝子はSpink1とすることを特徴とする。

【0117】
本発明のモデル動物の作出方法にあっては、目的遺伝子はSpink3とし、相同遺伝子はSpink1とするので、得られたモデルマウスには、ヒト慢性膵炎に特徴な所見を観察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上のように本発明は、慢性膵炎、糖尿病、膵臓癌等を発症するモデル動物作出に適用し得る。また、膵星細胞の大量精製、臓器の線維化、等、疾患以外にも適用し得る。
【符号の説明】
【0119】
d 脱落した腺房細胞
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15