TOP > 国内特許検索 > タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法 > 明細書

明細書 :タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-048268 (P2015-048268A)
公開日 平成27年3月16日(2015.3.16)
発明の名称または考案の名称 タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法
国際特許分類 C30B  29/58        (2006.01)
C30B   7/00        (2006.01)
C30B  30/00        (2006.01)
C30B  33/00        (2006.01)
C07K   1/30        (2006.01)
C12N   9/36        (2006.01)
C12N   9/00        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI C30B 29/58
C30B 7/00
C30B 30/00
C30B 33/00
C07K 1/30
C12N 9/36
C12N 9/00 101
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2013-179848 (P2013-179848)
出願日 平成25年8月30日(2013.8.30)
発明者または考案者 【氏名】山西 陽子
【氏名】新井 史人
【氏名】栗木 宏樹
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
【識別番号】100098729、【弁理士】、【氏名又は名称】重信 和男
【識別番号】100173048、【弁理士】、【氏名又は名称】小椋 正幸
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4G077
4H045
Fターム 4B050CC10
4B050DD11
4B050FF17C
4B050FF20C
4B050LL01
4G077AA01
4G077BF05
4G077CC10
4G077EG25
4G077EJ10
4G077FG18
4G077HA20
4G077KA11
4G077KA15
4G077RA09
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA34
4H045GA40
要約 【課題】タンパク質溶液に熱影響を与えることなくタンパク質結晶を生成できるタンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、タンパク質結晶に熱影響を与えることなくタンパク質結晶を切削できるタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法、並びに前記装置に用いることができる気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材を提供する。
【解決手段】タンパク質結晶装置に用いられる気泡噴出部材1であって、導電材料で形成された芯材3と、絶縁材料2で形成され、芯材3の先端より延伸した延伸部5を含み、且つ芯材3に少なくとも一部が密着して芯材3を覆う外郭部6、及び、延伸部5及び芯材3の先端との間に形成され且つ気泡噴出口8を有する空隙7、を含む。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
タンパク質結晶装置に用いられる気泡噴出部材であって、
導電材料で形成された芯材と、
絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、
前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、
を含むことを特徴とする気泡噴出部材。
【請求項2】
前記外郭部の延伸部がテーパー状であることを特徴とする請求項1に記載の気泡噴出部材。
【請求項3】
タンパク質結晶装置に用いられるタンパク質吸着気泡噴出部材であって、
請求項1又は2に記載の気泡噴出部材の外郭部の外側に、
前記外郭部の中心軸と同心軸を有し、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成し、タンパク質吸着気泡噴出口を有する外側外郭部、
を含むことを特徴とするタンパク質吸着気泡噴出部材。
【請求項4】
前記延伸部の外側に形成された前記外側外郭部の部分が、テーパー状であることを特徴とする請求項3に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材。
【請求項5】
前記外郭部と前記外側外郭部との間の空間及び/又は前記気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、タンパク質溶液を含むことができることを特徴とする請求項3又は4に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の気泡噴出部材、対向電極及び電気出力手段を含むことを特徴とするタンパク質結晶装置。
【請求項7】
請求項3~5の何れか一項に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材、対向電極及び電気出力手段を含むことを特徴とするタンパク質結晶装置。
【請求項8】
請求項6に記載のタンパク質結晶装置の気泡噴出部材の少なくとも気泡噴出口をタンパク質溶液に浸漬し、且つ前記タンパク質溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記気泡噴出口からタンパク質溶液中に気泡を噴出させる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶化方法。
【請求項9】
請求項7に記載のタンパク質結晶装置のタンパク質吸着気泡噴出部材の外郭部と外側外郭部との間の空間及び/又は気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、タンパク質溶液を導入する工程、
タンパク質吸着気泡噴出部材の少なくともタンパク質吸着気泡噴出口をタンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液に浸漬し、タンパク質吸着気泡噴出部材の芯材と対向電極とが通電できる状態にする工程、
前記タンパク質吸着気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記タンパク質吸着気泡噴出口から界面にタンパク質及び/又はタンパク質溶液が吸着した気泡を、前記タンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液中に噴出させる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶化方法。
【請求項10】
前記タンパク質溶液が、送液ポンプにより前記空間に導入される、又は、タンパク質溶液にタンパク質吸着気泡噴出口を浸漬させ毛細管現象により導入される、ことを特徴とする請求項9に記載のタンパク質結晶化方法。
【請求項11】
導電材料で形成された芯材と、絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、を含む気泡噴出部材、
対向電極、及び
電気出力手段
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削装置。
【請求項12】
前記外郭部の延伸部がテーパー状であることを特徴とする請求項11に記載のタンパク質結晶切削装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の気泡噴出部材の外郭部の外側に、前記外郭部の中心軸と同心軸を有し、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成し、界面に溶液が吸着した気泡を噴出する噴出口を有する外側外郭部、を含む界面に溶液が吸着した気泡を噴出する部材、
対向電極、及び
電気出力手段
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削装置。
【請求項14】
前記延伸部の外側に形成された前記外側外郭部の部分が、テーパー状であることを特徴とする請求項13に記載のタンパク質結晶切削装置。
【請求項15】
請求項11又は12に記載のタンパク質結晶切削装置の気泡噴出部材の少なくとも気泡噴出口を、タンパク質結晶を含む溶液に浸漬し且つ噴出した気泡がタンパク質結晶の切削面に当たる位置に配置するとともに、前記タンパク質結晶を含む溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記気泡噴出口から噴出した気泡をタンパク質結晶の切削面に当てる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削方法。
【請求項16】
請求項13又は14に記載のタンパク質結晶切削装置の界面に溶液が吸着した気泡を噴出する部材の、外郭部と外側外郭部との間の空間及び/又は気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、電気を通すことができる溶液を導入する工程、
界面に溶液が吸着した気泡を噴出する噴出口を、タンパク質結晶を含む溶液に浸漬し且つ噴出した界面に溶液が吸着した気泡がタンパク質結晶の切削面に当たる位置に配置するとともに、前記タンパク質結晶を含む溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記噴出口から噴出した界面に溶液が吸着した気泡をタンパク質結晶の切削面に当てる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法に関するもので、特に、気泡噴出部材の気泡噴出口から気泡を噴出、又はタンパク質吸着気泡噴出部材のタンパク質吸着気泡噴出口から界面にタンパク質が吸着した気液を噴出することで、タンパク質結晶を容易に生成することができるタンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、前記気泡噴出部材又はタンパク質吸着気泡噴出部材を含むタンパク質結晶装置、及び該タンパク質結晶装置を用いたタンパク質結晶化方法に関するものである。更に、本発明は、タンパク質結晶をX線構造解析等に用いるために、角状のタンパク質結晶の角を切削する等、タンパク質結晶を切削して成形するためのタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構造や機能を知るためには、タンパク質の構造解析が不可欠である。タンパク質の構造解析の最も一般的な手法はX線構造解析法であるが、このX線構造解析法によりタンパク質の三次元結晶構造を解析するためには、タンパク質の良質な単結晶を得る必要がある。
【0003】
タンパク質のX線構造解析用の結晶を生成する方法としては、従来より蒸気拡散法、沈殿法等が知られている。しかしながら、蒸気拡散法では、タンパク質の結晶化に数週間程度必要であり、時間がかかるという問題がある。また、沈殿法ではタンパク質の結晶化に必要な時間は1週間程度であるが、沈殿材を用いるため、沈殿材が不純物となりタンパク質の結晶の純度が低下するという問題がある。
【0004】
上記問題を解決するため、非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、静置後の前記タンパク質に撹拌、超音波、電磁波等の刺激を与える刺激付与工程とを含む方法により、沈殿剤を不要とする方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、下記特許文献1に記載の方法においては、タンパク質を静置する工程が必要であり、依然として結晶化に時間を要するという問題がある。
【0005】
タンパク質を溶解した溶液(以下、「タンパク質溶液」と記載することがある。)に刺激を与えることでタンパク質を結晶化する方法としては、タンパク質溶液にピコ秒パルスレーザー又はフェムト秒パルスレーザーを照射する方法も知られている(特許文献2参照)。しかしながら、上記レーザーを照射するための装置は大きく且つ高価で、また、レーザーをタンパク質溶液に照射するためには光学系機器が必要であり、焦点を合わす等、操作が煩雑であるという問題がある。また、下記特許文献2に記載されている方法では、パルスレーザーを集光した時に、焦点で急激な光吸収による爆発現象(レーザーアブレーション)が起き、焦点付近の溶液が瞬間的に蒸発し、溶液の濃縮が起こるため結晶核が生成すると考えられているが、焦点では急激な熱上昇が起こり、タンパク質が変性する恐れがある。
【0006】
また、X線構造解析法によりタンパク質の三次元結晶構造を解析するためには、得られたタンパク質結晶の角を落とす等の加工成形を行うことが好ましく、タンパク質結晶をフェムト秒レーザーで切削することが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、フェムト秒レーザーを用いたタンパク質結晶の切削は、高密度エネルギーが局所的にあたることから、タンパク質結晶の切削面タンパク質が変性する恐れがある。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2004-277255号公報
【特許文献2】国際公開第2004/018744号
【0008】

【非特許文献1】Masafumi KASHII et.al., “Femtosecond Laser Processing of Protein Crystals in Crystallization Drop”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.44, No.27, 2005, pp. L873-L875
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、導電材料で形成された芯材と、絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙を含む気泡噴出部材の気泡噴出口をタンパク質溶液に浸漬し、気泡噴出部材の芯材及び対向電極に電気を出力して気泡噴出口からタンパク質溶液中に気泡を噴出することで、タンパク質溶液に熱影響を与えることなく、タンパク質結晶を生成できることを新たに見出した。
【0010】
また、上記気泡噴出部材1の外周に、前記外郭部の中心軸と同心軸を有し、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成し且つタンパク質吸着気泡噴出口を有する外側外郭部を配置したタンパク質吸着気泡噴出部材を作製し、前記タンパク質吸着気泡噴出部材の芯材及び対向電極に電気を出力してタンパク質吸着気泡噴出口からタンパク質が吸着した気泡を噴出することで、タンパク質溶液に熱影響を与えることなく、タンパク質結晶を生成できることを新たに見出した。
【0011】
また、本発明は、気泡噴出部材からの気泡をタンパク質結晶に連続的に当てることで、タンパク質結晶を切削できることを新たに見出した。本発明は、これら新たに見出された知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下に示す、タンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法に関する。
【0014】
(1)タンパク質結晶装置に用いられる気泡噴出部材であって、
導電材料で形成された芯材と、
絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、
前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、
を含むことを特徴とする気泡噴出部材。
(2)前記外郭部の延伸部がテーパー状であることを特徴とする上記(1)に記載の気泡噴出部材。
(3)タンパク質結晶装置に用いられるタンパク質吸着気泡噴出部材であって、
上記(1)又は(2)に記載の気泡噴出部材の外郭部の外側に、
前記外郭部の中心軸と同心軸を有し、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成し、タンパク質吸着気泡噴出口を有する外側外郭部、
を含むことを特徴とするタンパク質吸着気泡噴出部材。
(4)前記延伸部の外側に形成された前記外側外郭部の部分が、テーパー状であることを特徴とする上記(3)に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材。
(5)前記外郭部と前記外側外郭部との間の空間及び/又は前記気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、タンパク質溶液を含むことができることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材。
(6)上記(1)又は(2)に記載の気泡噴出部材、対向電極及び電気出力手段を含むことを特徴とするタンパク質結晶装置。
(7)上記(3)~(5)の何れか一に記載のタンパク質吸着気泡噴出部材、対向電極及び電気出力手段を含むことを特徴とするタンパク質結晶装置。
(8)上記(6)に記載のタンパク質結晶装置の気泡噴出部材の少なくとも気泡噴出口をタンパク質溶液に浸漬し、且つ前記タンパク質溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記気泡噴出口からタンパク質溶液中に気泡を噴出させる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶化方法。
(9)上記(7)に記載のタンパク質結晶装置のタンパク質吸着気泡噴出部材の外郭部と外側外郭部との間の空間及び/又は気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、タンパク質溶液を導入する工程、
タンパク質吸着気泡噴出部材の少なくともタンパク質吸着気泡噴出口をタンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液に浸漬し、タンパク質吸着気泡噴出部材の芯材と対向電極とが通電できる状態にする工程、
前記タンパク質吸着気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記タンパク質吸着気泡噴出口から界面にタンパク質及び/又はタンパク質溶液が吸着した気泡を、前記タンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液中に噴出させる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶化方法。
(10)前記タンパク質溶液が、送液ポンプにより前記空間に導入される、又は、タンパク質溶液にタンパク質吸着気泡噴出口を浸漬させ毛細管現象により導入される、ことを特徴とする上記(9)に記載のタンパク質結晶化方法。
(11)導電材料で形成された芯材と、絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、を含む気泡噴出部材、
対向電極、及び
電気出力手段
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削装置。
(12)前記外郭部の延伸部がテーパー状であることを特徴とする上記(11)に記載のタンパク質結晶切削装置。
(13)上記(11)又は(12)に記載の気泡噴出部材の外郭部の外側に、前記外郭部の中心軸と同心軸を有し、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成し、界面に溶液が吸着した気泡を噴出する噴出口を有する外側外郭部、を含む界面に溶液が吸着した気泡を噴出する部材、
対向電極、及び
電気出力手段
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削装置。
(14)前記延伸部の外側に形成された前記外側外郭部の部分が、テーパー状であることを特徴とする上記(13)に記載のタンパク質結晶切削装置。
(15)上記(11)又は(12)に記載のタンパク質結晶切削装置の気泡噴出部材の少なくとも気泡噴出口を、タンパク質結晶を含む溶液に浸漬し且つ噴出した気泡がタンパク質結晶の切削面に当たる位置に配置するとともに、前記タンパク質結晶を含む溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記気泡噴出口から噴出した気泡をタンパク質結晶の切削面に当てる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削方法。
(16)上記(13)又は(14)に記載のタンパク質結晶切削装置の界面に溶液が吸着した気泡を噴出する部材の、外郭部と外側外郭部との間の空間及び/又は気泡噴出部材の先端と前記外側外郭部で形成される空間に、電気を通すことができる溶液を導入する工程、
界面に溶液が吸着した気泡を噴出する噴出口を、タンパク質結晶を含む溶液に浸漬し且つ噴出した界面に溶液が吸着した気泡がタンパク質結晶の切削面に当たる位置に配置するとともに、前記タンパク質結晶を含む溶液に対向電極が接触できるようにする工程、
前記気泡噴出部材の芯材と前記対向電極とで構成される一対の電極に電気を出力し、前記噴出口から噴出した界面に溶液が吸着した気泡をタンパク質結晶の切削面に当てる工程、
を含むことを特徴とするタンパク質結晶切削方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、タンパク質結晶装置の気泡噴出部材の気泡噴出口から気泡を噴出、又はタンパク質吸着気泡噴出部材のタンパク質吸着気泡噴出口からタンパク質が界面に吸着した気泡を噴出することで、タンパク質結晶を生成することができる。したがって、装置を小型化することができ、且つ、簡単な操作でタンパク質結晶を生成することができる。
また、気泡を用いてタンパク質結晶を生成することから、タンパク質が熱変性する恐れが無い。
本発明のタンパク質結晶装置は、汎用の医療用電気メスに気泡噴出部材又はタンパク質吸着気泡噴出部材を取り付けることで作製できる。したがって、既存の装置と組み合わせることで、簡単にタンパク質結晶装置を作製することができ、安価に提供できる。
本発明のタンパク質切削装置及びタンパク質結晶切削方法は、気泡を用いてタンパク質結晶を切削することから、タンパク質を熱変性することなくX線構造解析用に成形することができる。
更に、本発明のタンパク質結晶装置は、タンパク質結晶切削装置としても用いることができるので、単一の装置を用いて、タンパク質結晶生成とX線構造解析用にタンパク質を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、本発明のタンパク質結晶装置に用いられる気泡噴出部材の製造方法を示す図である。図1(b)は図面代用写真で、実施例1で作製した気泡噴出部材の拡大写真、図1(c)は図面代用写真で、図1(b)を更に拡大した写真である。
【図2】図2は、本発明の気泡噴出部材1を含むタンパク質結晶装置10を用いたタンパク質結晶化方法を説明する図で、図2(1)は容器12と対向電極11を別体として設けた例、図2(2)は容器12に対向電極11を貼り付けた例を示している。
【図3】図3は、タンパク質結晶装置10の全体構成を示す図である。
【図4】図4(a)~(d)は、本発明のタンパク質結晶装置に用いられるタンパク質吸着気泡噴出部材の製造方法を示す図である。図4(e)は、図面代用写真で、実施例2で作製したタンパク質吸着気泡噴出部材の拡大写真である。
【図5】図5は、図面代用写真で、実施例4において、タンパク質結晶装置10の気泡噴出部材1の先端部分及び対向電極11をタンパク質溶液13に挿入した状態を示す写真である。
【図6】図6(1)は、図面代用写真で、実施例4で生成したタンパク質溶液中のリゾチーム結晶を示す写真である。図6(2)は、図面代用写真で、比較例1のタンパク質溶液を示す写真である。
【図7】図7(1)は、図面代用写真で、実施例5で生成したタンパク質溶液中のチトクロームC結晶を示す写真で、図7(2)は図面代用写真で、図7(1)を更に拡大した写真である。図7(3)は、図面代用写真で、比較例2のタンパク質溶液を示す写真である。
【図8】図8(1)は、図面代用写真で、実施例7で生成したタンパク質溶液中のリゾチーム結晶を示す写真である。図8(2)は、図面代用写真で、実施例8で生成したタンパク質溶液中のリゾチーム結晶を示す写真である。図8(3)は、図面代用写真で、比較例3のタンパク質溶液を示す写真である。
【図9】図9(1)は、図面代用写真で、実施例9において、溶液中のリゾチーム結晶に気泡を当てる前の写真、図9(2)は、図面代用写真で、リゾチーム結晶に気泡を当てた後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のタンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材、タンパク質結晶装置及びタンパク質結晶化方法、並びにタンパク質結晶切削装置及びタンパク質結晶切削方法について図面を参照しながら詳しく説明する。各図の説明において、同一の符号は同じ物を示す。

【0018】
図1(a)は本発明の気泡噴出部材1の作製方法の一例を示す図である。図1(a)に示す作製方法では、(1)中空の絶縁材料2を準備し、(2)前記中空の絶縁材料2に導電材料で形成された芯材3を挿入し、(3)熱4をかけて引き切ると、(4)気泡噴出部材1を作製することができる。本製造方法では、絶縁材料2と芯材3の粘弾性の差により、図1(b)に示すように、芯材3の先端から絶縁材料2が更に延伸した延伸部5を含む外郭部6が芯材3の外周に密着するように形成され、前記延伸部5と前記芯材3の先端部分とで形成され且つ気泡噴出口8を有した空隙7を含む気泡噴出部材1を作製することができる。上記の方法により気泡噴出部材1を作製すると、芯材3は先鋭形状になる。また、外郭部の延伸部5がテーパー状になり、噴出された気泡が指向性を持つことから好ましい。

【0019】
絶縁材料2としては、電気を絶縁するものであれば特に限定はなく、例えば、ガラス、マイカ、石英、窒化ケイ素、酸化ケイ素、セラミック、アルミナ、等の無機系絶縁材料、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等ゴム材料、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、シラン変性オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン系樹脂、弗素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系樹脂、UV硬化樹脂等の絶縁性樹脂が挙げられる。

【0020】
芯材3を形成する導電材料としては、電気を通す電極として使用できるものであれば特に制限はないが、好ましくは金属で、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等、これらにスズ、マグネシウム、クロム、ニッケル、ジルコニウム、鉄、ケイ素などを少量加えた合金等が挙げられる。上記のとおり、空隙7は、芯材3の先端及び該先端から絶縁材料2が更に延伸した延伸部5とで形成されることから、絶縁材料2の粘弾性が芯材3の粘弾性より大きくなるように適宜材料を組み合わせればよく、例えば、絶縁材料2及び芯材3の組み合わせとしては、ガラス及び銅、ガラス及びプラチナ、ガラス及びアルミニウム、ガラス及び金、ガラス及び銀、ガラス及びニッケル、エポキシ樹脂及び銅、エポキシ樹脂及びプラチナ、エポキシ樹脂及びアルミニウム、エポキシ樹脂及び金、エポキシ樹脂及び銀、エポキシ樹脂及びニッケル、アクリル樹脂及び銅、アクリル樹脂及びプラチナ、アクリル樹脂及びアルミニウム、アクリル樹脂及び金、アクリル樹脂及び銀、アクリル樹脂及びニッケル、シリコン樹脂及び銅、シリコン樹脂及びプラチナ、シリコン樹脂及びアルミニウム、シリコン樹脂及び金、シリコン樹脂及び銀、シリコン樹脂及びニッケル等が挙げられる。

【0021】
なお、気泡噴出部材1を用いて気泡を噴出する際には、電気を出力すると後述するように空隙7で一端形成された気泡が引き千切られるように気泡噴出口8から噴出されるので、気泡噴出部材1に外部から気体を供給する必要は無い。したがって、図1(b)に示すように、本発明の芯材3は導電材料が延伸した緻密な状態で形成され、空気を供給する管等は形成されていない。また、絶縁材料2と芯材3との粘弾性の差により、気泡噴出部材1の先端付近において、外郭部6の少なくとも一部は芯材3に密着するようになっている。

【0022】
図1(c)は、図1(b)を更に拡大した写真である。本発明の気泡噴出部材1と図示しない対向電極11に電気を出力すると、気泡噴出口8から気泡が連続的に噴出するが、その際、空隙7において、気泡噴出口8の内径(以下、「直径D」又は「D」と記載することがある。)に近い大きさの気泡が生成され、気泡噴出口8から前記気泡が引き千切られるように噴出する。したがって、前記空隙7の深さ(芯材3の先端から気泡噴出口8までの長さ。以下、「L」と記載することがある。)は、少なくとも空隙7内で気泡が生成できる大きさである必要があり、L/Dは少なくとも1以上であることが好ましい。一方、L/Dの上限は、気泡が連続的に噴出できる大きさであれば特に制限はないが、気泡噴出部材の先端は非常に細く破損しやすいため、取扱いの利便性等を考えると、L/Dは、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が更に好ましく、1~2が特に好ましい。L/Dは、製造に用いる絶縁材料及び導電性材料の温度と粘度の関係を考慮し、加熱する際の温度及び引き切るスピードを変化させることで調整することができる。

【0023】
噴出する気泡の大きさは、気泡噴出口8の直径Dを変えることで調整することができる。気泡噴出口8の直径Dは、タンパク質溶液中に気泡を噴出することでタンパク質結晶が得られる大きさであれば特に制限は無く、1μm~50μmが好ましく、5μm~15μmがより好ましい。1μmより小さいとタンパク質の結晶核生成の可能性が減り、50μmより大きいとタンパク質溶液に大きな攪乱を与え、単結晶ではなく、針状結晶や多結晶になる恐れがあるので好ましくない。気泡噴出口8の直径Dは、加熱する際の温度及び引き切るスピードを変化させることで調整することができる。

【0024】
気泡噴出部材1の製造方法は、上記の例に限定されず、例えば、芯材3の先端にフォトレジスト、熱硬化性樹脂等の部材を設け、窒化ケイ素、酸化ケイ素等の絶縁材料をスパッタリングにより芯材3の周囲に設けた後、フォトレジスト、光硬化樹脂等を除去することで製造してもよい。また、芯材3の先端にテーパー状のフォトレジスト、熱硬化性樹脂等を設けることで、スパッタリング後の外郭部をテーパー状にすることができる。また、スパッタリングで気泡噴出部材1を製造する場合、上記のL/Dを調整するには、芯材3の先端に設ける延伸部5の長さを適宜調整すればよい。

【0025】
図2は、本発明の気泡噴出部材1を含むタンパク質結晶装置10を用いたタンパク質結晶化方法を説明する図である。図2(1)はタンパク質結晶装置10の一例を示す図で、気泡噴出部材1、対向電極11、気泡噴出部材1の導電性材料で形成された芯材3及び対向電極11に電気を出力する図示しない電気出力手段を含んでいる。図2(1)に示すタンパク質結晶装置10を用いてタンパク質溶液からタンパク質結晶を生成する場合は、生化学分野で一般的に使用されているウェルプレート等の容器12にタンパク質溶液13を注入し、該タンパク質溶液13に気泡噴出部材1の少なくとも気泡噴出口8を浸漬し、且つ対向電極11をタンパク質溶液13に接触するように配置し、芯材3及び対向電極11に電気を出力すればよい。

【0026】
本発明においては、気泡噴出口8から噴出した気泡の界面は電荷を帯びているため、タンパク質溶液13中に噴出された気泡界面に電荷を帯びているタンパク質及び/又はタンパク質溶液が吸着し、そして、気泡が収縮すると気泡界面に吸着したタンパク質及び/又はタンパク質溶液(以下、「タンパク質及び/又はタンパク質溶液」を単に「タンパク質」と記載することもある。)が濃縮され、タンパク質が結晶化すると考えられる。なお、タンパク質のアミノ基とカルボキシル基は水素イオン濃度によって変化する。そのため、タンパク質の電荷(プラス又はマイナスチャージ)は、pHを変化させることで調整できるので、タンパク質の種類に応じてタンパク質溶液のpHを適宜調整し、気泡に吸着できるように調整すればよい。

【0027】
図2(2)はタンパク質結晶装置10の他の例を示す図で、気泡噴出部材1、対向電極11を貼り付けたウェルプレート等の容器12、芯材3及び対向電極11に電気を出力する図示しない電気出力手段を含んでいる。なお、容器12には、対向電極11と電気出力手段とを接続する電気回路を設けてもよいし、使用時に対向電極11と電気出力手段を電線等で接続してもよい。図2(2)に示すタンパク質結晶装置10を用いてタンパク質溶液からタンパク質結晶を生成する場合は、タンパク質溶液13を容器12に注入し、該タンパク質溶液13に気泡噴出部材1の少なくとも気泡噴出口8を浸漬し、芯材3及び対向電極11に電気を出力すればよい。

【0028】
対向電極11は、電気が通るものであれば特に制限は無く、芯材3と同様の導電材料で作製すればよい。また、図2(2)に示す例の場合は、作製した対向電極11を接着剤・溶接等により容器12に設けてもよいし、スパッタ等で容器に蒸着してもよい。また、電気回路を設ける場合は、電気回路を容器に貼り付けてもよいし、スパッタ等で対向電極11と同時に容器12面に蒸着してもよい。図2(1)及び図2(2)に示す何れのタンパク質結晶装置であっても、タンパク質溶液13を入れた際に、対向電極11がタンパク質溶液に接触するようにすればよい。また、図2に示す容器12のウェルは一つであるが、一つの容器12に複数のウェルを設けてもよい。

【0029】
図3は、タンパク質結晶装置10の全体構成を示す図である。電気出力手段は、一般商用交流電源装置20、並びに気泡噴出部材1の芯材3(アクティブ電極)と対向電極11とで回路を形成するための電線21、を少なくとも含み、必要に応じて、無誘導抵抗22、電圧増幅回路23、図示しないDIO(Digital Input Output)ポート等を設けてもよい。電気出力手段は、従来の電気メス用電気回路に無誘導抵抗22やDIOポート等を組み込み、微小対象用の出力構成にセッティングすることで簡単に作成することができる。

【0030】
芯材3及び対向電極11に出力する電気の電流、電圧及び周波数は、タンパク質結晶が生成でき且つ気泡噴出部材1を損傷しない範囲であれば特に制限は無いが、例えば、電流は、10mA~80mAが好ましく、25mA~75mAがより好ましい。電流が10mAより小さいと気泡をうまく生成できないことがあり、80mAより大きいと電極摩耗を生じることとなり好ましくない。電圧は、100V~800Vが好ましく、200V~600Vがより好ましい。電圧が100Vより小さいと気泡生成が困難となり、800Vより大きいと芯材3の摩耗や気泡噴出部材1が破損する恐れがあり好ましくない。周波数は、1kHz~1GHzが好ましく、5kHz~1MHzがより好ましく、10kHz~60kHzが特に好ましい。周波数が1kHzより小さいと、タンパク質溶液に与える衝撃が大きく、また、気泡噴出部材1が破損する恐れがあり、1GHzより大きいと気泡が生成できなくなる恐れがあり好ましくない。

【0031】
タンパク質を溶解する溶液としては、電気を通すことができ、タンパク質が変性しなければ特に制限はなく、水に酢酸ナトリウムを溶解した溶液等、公知のタンパク質溶解用の溶液を用いればよい。また、結晶生成に影響を与えない範囲で、必要に応じて、溶液中に溶解しているタンパク質の析出を促進するための沈殿剤を加えてもよい。沈殿剤としては、水溶性高分子、結晶化剤、緩衝液等、公知の沈殿剤を用いることができる。水溶性高分子としては、PEG、グリセロール等が挙げられる。結晶化剤としては、塩化ナトリウム等の金属塩、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。緩衝液としては、酢酸、リン酸、トリス等が挙げられる。これらの沈殿剤は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。タンパク質の溶解濃度は、過飽和状態であっても、不飽和状態であってもよく、必要に応じて適宜調整すればよい。上記のとおり、本発明では、気泡の界面にタンパク質が吸着し、気泡が収縮する時に気泡界面に吸着したタンパク質が濃縮されてタンパク質が結晶化すると考えられるので、電荷を調整することで気泡界面に多くのタンパク質が吸着すればタンパク質の結晶が生成されやすくなる。したがって、タンパク質溶液は過飽和状態にすることが好ましいものの必須の条件ではなく、タンパク質溶液は不飽和状態であってもよい。

【0032】
本発明のタンパク質結晶装置10を用いて、タンパク質溶液13中に気泡を噴出することでタンパク質結晶を生成できるが、生成した結晶を成長させるために、タンパク質溶液より濃度の濃いリザーバー溶液を入れたタンパク質結晶成長装置に、生成した結晶を含む容器12を入れて結晶成長させてもよい。リザーバー溶液を入れたタンパク質結晶成長装置は、ハンギングドロップ用装置、シッティングドロップ用装置等、公知のタンパク質結晶成長装置を用いればよい。

【0033】
図4(a)~(d)は、本発明のタンパク質結晶装置用のタンパク質吸着気泡噴出部材30の作製手順の概略を示す図である。なお、本発明において、「タンパク質吸着気泡」とは、界面にタンパク質及び/又はタンパク質溶液が吸着した気泡を意味する。本発明のタンパク質吸着気泡噴出部材30は、図1(a)の(1)~(4)と同様の手順で気泡噴出部材1を製造した後(図4の(a)~(b)に相当)、ポリマーフィルムやゴムワッシャ、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を使用したソフトリソグラフィー・3次元光造形法等の方法により作製した同心軸位置決めワッシャ31を気泡噴出部材1に嵌め、ガラス管、プラスチック管等を熱により引き切って作製し、且つ前記外郭部6の中心軸と同心軸を有し前記外郭部6より大きな直径を有する外側外郭部32をワッシャ31に外挿することで、図4(d)外郭部6と外側外郭部32の間に、タンパク質溶液13を挿入することができる空間36を有するタンパク質吸着気泡噴出部材30を作製することができる。また、図示しないポンプにより、タンパク質溶液13を送液できるようにするため、前記ワッシャ31は孔33を含むことが望ましい。また、外側外郭部32は、前記のようにガラス管やプラスチック管を引き切って作製したものを直接ワッシャ31に嵌めてもよいし、図4(c)に示すように、引き切ったガラス34等の周りにプラスチック等(例えば、エッペンドルフチューブ(アイビス(R)ピペットチップ)、IN12403Y)から作製したガイド35を接着剤等で接着して外側外郭部32を作製し、ガイド35部分をワッシャ31に嵌合してもよい。また、外側外郭部32は、多層となるように設けて、各層間に異なる種類のタンパク質溶液を導入できるようにしてもよい。また、図示はしていないが、上記図4(c)において、対向電極11を外郭部6の外面又は外側外郭部32の内面に配置してもよい。外側外郭部32を形成する材料は、外郭部6と同じ材料であればよい。

【0034】
噴出するタンパク質吸着気泡の大きさは、気泡噴出口8の直径Dとタンパク質吸着気泡噴出口37の内径を変えることで調整することができる。気泡噴出口8の直径Dは、空間36に導入されるタンパク質溶液中に気泡を噴出することで気泡界面にタンパク質を吸着することができれば特に制限は無く、上記と同様に1μm~50μmが好ましく、5μm~15μmがより好ましい。一方、タンパク質吸着気泡噴出口37の内径は、1μm~800μmが好ましく、30μm~200μmがより好まく、50μm~150μmが特に好ましい。タンパク質吸着気泡噴出口37の内径が1μmより小さいと送液が困難になる。一方、タンパク質サンプルは微量であることから、容器12にタンパク質溶液を入れる場合は数μl程度の量になる。そのため、タンパク質吸着気泡噴出口37の内径が800μmより大きい場合、タンパク質吸着気泡噴出口37の一部がウェルに入れたタンパク質溶液13から出やすくなり、操作が煩雑になるので好ましくない。タンパク質吸着気泡噴出口37の内径は、加熱する際の温度及び引き切るスピードを変化させることで調整することができる。

【0035】
タンパク質吸着気泡噴出部材30を用いたタンパク質結晶装置の場合、図2に示すように対向電極11をタンパク質吸着気泡噴出部材30とは別体として設けることもできるが、対向電極11をタンパク質吸着気泡噴出部材30に設けることもできる。対向電極11をタンパク質吸着気泡噴出部材30に設ける場合、対向電極11は芯材3と回路が形成できればよいので、図4(e)に示すように、外郭部6と外側外郭部32で形成される空間36又は気泡噴出部材1の先端と外側外郭部32で形成される空間36に導入されるタンパク質溶液13と接触する場所であれば特に制限は無い。

【0036】
図4(e)に示すタンパク質吸着気泡噴出部材30を用いたタンパク質結晶装置を用いてタンパク質結晶を生成する場合は、タンパク質吸着気泡噴出部材30の先端をタンパク質溶液13に浸漬して毛管現象により空間36にタンパク質溶液を導入、又はタンパク質吸着気泡噴出部材30の先端と反対側からポンプ等によりタンパク質溶液13を空間36に予め導入しておく。次いで、タンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を溶解した溶液にタンパク質吸着気泡噴出部材30の少なくともタンパク質吸着気泡噴出口37を浸漬し、対向電極11が別体の場合は図2に示すようにタンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液に接触させ、そして、タンパク質吸着気泡噴出部材30の芯材3及び対向電極11に電気を出力することで、先ず、気泡噴出口8から気泡が噴出し、次いで、噴出された気泡の界面にタンパク質が吸着し、タンパク質吸着気泡噴出口37からタンパク質吸着気泡を噴出することができる。なお、タンパク質吸着気泡噴出部材30を用いた場合、容器12に入れる溶液は、タンパク質溶液、緩衝液又は沈殿剤を含む溶液の何れであってもよい。空間36に導入されるタンパク質溶液13の濃度が高く、気泡に吸着するタンパク質量が結晶を生成するのに十分な量の場合は、タンパク質吸着気泡を緩衝液又は沈殿剤を含む溶液に噴出してもよい。一方、空間36に導入されるタンパク質溶液13の濃度が低く気泡に吸着するタンパク質量が少ない場合は、タンパク質吸着気泡をタンパク質溶液中に噴出すればよく、空間36に導入するタンパク質溶液13の濃度に応じて、容器12に注入する溶液は適宜調整すればよい。

【0037】
容器12に入れるタンパク質溶液13には、上記のとおり沈殿剤を含むことがあるが、沈殿剤の濃度を高くするとタンパク質溶液13の粘度が高くなる。そのため、気泡噴出部材1を用いた場合は、噴出した気泡がタンパク質溶液13中で移動しにくくなり、その結果、タンパク質結晶の生成が難しくなる場合がある。一方、タンパク質吸着気泡噴出部材30を用いた場合は、空間36に導入するタンパク質溶液13に含む沈殿剤の濃度を低くしておき、気泡界面にタンパク質を十分吸着したタンパク質吸着気泡をタンパク質溶液中に噴出することで、容器12に注入するタンパク質量や沈殿剤の濃度を低くすることができる。したがって、結晶生成のために比較的多くの沈殿剤を要する種類のタンパク質の結晶を生成する場合には、タンパク質吸着気泡噴出部材30を用いたタンパク質結晶装置を用いることが好ましい。

【0038】
本発明のタンパク質結晶装置は、そのままの構成でタンパク質結晶切削装置としても使用することができる。タンパク質切削装置を用いてタンパク質結晶を切削する際には、電気を通すことができ、タンパク質が変性しない溶液、例えば、上記のタンパク質溶解用の溶液又は緩衝液等の中にタンパク質結晶を入れる。そして、電気を出力して芯材3及び対向電極11が通電すると、気泡噴出口8から数百~数千個/秒の気泡を高速で連続的に噴出することができ、噴出した気泡を直接タンパク質結晶に当てることでタンパク質結晶を切削することができる。タンパク質結晶切削装置の電気出力は、気泡噴出部材1を含むタンパク質結晶装置の電気出力と同じでよい。本方法により、従来は困難であったタンパク質結晶の角を落とす等の加工をすることができる。

【0039】
また、タンパク質吸着気泡噴出部材を用いたタンパク質結晶装置をタンパク質結晶切削装置として使用することもできる。その場合は、タンパク質吸着気泡噴出部材の空間に、タンパク質溶液に換えて緩衝液等の電気を通すことができる溶液を導入しておき、タンパク質吸着気泡噴出部材を、界面に溶液が吸着した気泡を噴出する部材として用い、噴出された界面に溶液が吸着した気泡をタンパク質結晶に当てて、タンパク質結晶を切削すればよい。

【0040】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
〔タンパク質結晶装置用又はタンパク質結晶切削装置用の気泡噴出部材の作製〕
ガラス中空管(Drummond社製、外径1.37mm、内径0.93mm)に直径30μmの銅線を挿入し、ガラスプラー(サッター社製、P-1000IVF)によって、加熱しながら引き切って気泡噴出部材1を作製した。図1(b)は実施例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真、図1(c)は図1(b)を更に拡大した写真で、気泡噴出口8の直径Dは約10μmであった。
【実施例】
【0042】
<実施例2>
〔タンパク質結晶装置用のタンパク質吸着気泡噴出部材の作製〕
ガラスプラー(サッター社製、P-1000IVF)によって、気泡噴出部材1の作製に用いたガラス中空管より一回り大きいガラス中空管(Drummond社製、外径33mm、内径1.63mm)を加熱しながら引き切って外側外郭部32を作製した。次いで、実施例1と同様の手順で作製した気泡噴出部材1にポリマーフィルムを積層して作製したワッシャを嵌め、作製した外側外郭部32をワッシャの外側に挿入してタンパク質吸着気泡噴出部材30を作製した。図4(e)は実施例2で作製したタンパク質吸着気泡噴出部材30の先端部分の写真で、タンパク質吸着気泡噴出口37の内径は約100μmであった。
【実施例】
【0043】
<実施例3>
〔タンパク質結晶装置の作製〕
医療用電気メス(ConMed社製、Hyfrecator300)のメスに換え実施例1で作製した気泡噴出部材1を組み込み、更に、無誘導抵抗及びDIOポートを電気出力手段に組み込んでタンパク質結晶装置10を作製した。
【実施例】
【0044】
〔タンパク質(リゾチーム)の結晶化〕
<実施例4>
5MのNaCl溶液を30μl、80%のグリセロール溶液(和光純薬社製)を46.8μl、純水を65.7μl、及び1M酢酸緩衝液(pH5.5)を7.55μl、を混合してタンパク質溶解用溶液を作製した。70mg/mlのリゾチーム溶液(和光純薬社製)を1μl及び上記タンパク質溶解用溶液1μlを混合して、2μlのタンパク質溶液13を作製した。
次いで、ウェルに上記タンパク質溶液13を入れ、実施例3で作製したタンパク質結晶装置10の気泡噴出部材1の先端部分及びタングステン製の対向電極11を、図5に示すように、タンパク質溶液13中に挿入した。電圧27.7mA、電流309V、アウトプット周波数は32.5kHz、インピーダンスマッチングのためのサンプリング周波数は450kHz、3.5kHzでフィードバックを行い、芯材3と対向電極11に電気を出力した。電気の出力回数は10回で、タンパク質溶液13中に気泡を噴出した。電気の出力後は、ウェルの上面をフィルムで覆い、タンパク質結晶の生成を観察した。図6(1)は、22時間50分経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、タンパク質溶液13中にリゾチームの結晶が生成したことを確認できた。
【実施例】
【0045】
<比較例1>
電気を出力しなかった以外は、実施例4と同様の手順でタンパク質結晶の生成を観察した。図6(2)は、22時間50分経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、比較例1では、リゾチーム結晶の生成は確認されなかった。
【実施例】
【0046】
〔タンパク質(チトクロームC)結晶の生成〕
<実施例5>
4.0Mの硫酸アンモニウム溶液を6μl及び2.5Mの硝酸ナトリウム溶液を4μl、を混合してタンパク質溶解用溶液(pH5.7)を作製した。ウシ心筋由来の1wt%のチトクロームC溶液(シグマアルドリッチ社製)を1μl及び上記タンパク質溶解用溶液を1μl、を混合して2μlのタンパク質溶液13を作製した。
次いで、ウェルに上記タンパク質溶液13を入れ、実施例4と同様の手順でタンパク質結晶の生成を観察した。図7(1)は、12時間経過後のタンパク質溶液13の写真で、図7(2)は、図7(1)の○で囲った部分を拡大した写真である。写真から明らかなように、タンパク質溶液13中にチトクロームCの結晶が生成したことが確認できた。
【実施例】
【0047】
<比較例2>
電気を出力しなかった以外は、実施例5と同様の手順でタンパク質結晶の生成を観察した。図7(3)は、12時間経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、比較例2では、チトクロームCの結晶の生成は確認されなかった。
【実施例】
【0048】
<実施例6>
〔タンパク質結晶装置の作製〕
実施例3のタンパク質結晶装置の気泡噴出部材1に換え、実施例2で作製したタンパク質吸着気泡噴出部材30を組み込んだ以外は、実施例3と同様の構成でタンパク質結晶装置10を作製した。
【実施例】
【0049】
〔実施例3及び6で作製したタンパク質結晶装置10を用いたタンパク質(リゾチーム)結晶の生成〕
<実施例7>
5MのNaCl溶液を100μl、80%のグリセロール溶液(和光純薬社製)を156.2μl、純水を218.8μl、及び1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を25μl、を混合してタンパク質溶解用溶液を作製した。次いで、80mg/mlのリゾチーム溶液(和光純薬社製)を1μl及び上記タンパク質溶解用溶液を1μl、を混合して2μlのタンパク質溶液13を作製した。
次いで、ウェルに上記タンパク質溶液13を入れ、実施例3で作製したタンパク質結晶装置10を用い、実施例4と同様の電気出力及び手順で、タンパク質溶液13中に気泡を噴出した。電気出力後は、上記タンパク質溶解用溶液をリザーバー溶液としたハンギングドロップ法用の装置にウェルを載置し、結晶成長させた。図8(1)は、20時間経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、タンパク質溶液中にリゾチームの結晶が生成したことを確認できた。
【実施例】
【0050】
<実施例8>
実施例3で作製したタンパク質結晶装置10に換え、実施例6で作製したタンパク質結晶装置10を用い、電気を出力する前に、タンパク質吸着気泡噴出部材30のタンパク質吸着気泡噴出口37の反対側から、ぜん動型ポンプ(アクアテック社製リングポンプ(RP-Q1.5S-P01A))を用いて空間36にタンパク質溶液13を導入した以外は、実施例7と同様の電気出力及び手順でタンパク質結晶の成長を観察した。図8(2)は20時間経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、実施例7と比較して、より多くのリゾチームの結晶が生成したことを確認できた。
【実施例】
【0051】
<比較例3>
電気を出力しなかった以外は、実施例7と同様の手順でタンパク質結晶の生成を観察した。図8(3)は、20時間経過後のタンパク質溶液13の写真である。写真から明らかなように、比較例3では、リゾチームの結晶の生成は確認されなかった。
【実施例】
【0052】
〔タンパク質結晶の切削〕
<実施例9>
実施例3で作製したタンパク質結晶装置をタンパク質結晶切削装置とし、タンパク質結晶の切削実験を行った。
先ず、5MのNaCl溶液を30μl、80%のグリセロール溶液(和光純薬社製)を46.8μl、純水を65.7μl、及び1M酢酸緩衝液(pH4.0)を7.5μl、を混合してタンパク質溶解用溶液を作製した。100mg/mlのリゾチーム溶液(和光純薬社製)を1μl及び上記タンパク質溶解用溶液を1μl、を混合して2μlのタンパク質溶液13を作製した。次いで、実施例4と同様の電気出力及び手順でタンパク質溶液13中に気泡を噴出し、18時間放置することで、リゾチーム結晶を含むタンパク質溶液を準備した。
次に、タンパク質切削装置の気泡噴出部材1の気泡噴出口8を、噴出した気泡がリゾチーム結晶の切削面に当たる位置に配置し、電流27.7mA、電圧309V、アウトプット周波数は32.5kHz、インピーダンスマッチングのためのサンプリング周波数は450kHz、3.5kHzでフィードバックを行い、リゾチーム結晶に気泡を当てた。図9(1)はリゾチーム結晶に気泡を当てる前の写真で、図9(2)はリゾチーム結晶に気泡を当てた後の写真である。図9(1)及び(2)から明らかなように、タンパク質結晶に気泡を当てることでタンパク質結晶を切削できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るタンパク質結晶装置用の気泡噴出部材及びタンパク質吸着気泡噴出部材を、従来より用いられている医療用電気メス等に組み込むことで、タンパク質結晶装置を簡単に作製することができる。また、本発明のタンパク質結晶装置は、気泡を用いてタンパク質結晶を生成することから、タンパク質が熱変性する恐れがない。更に、本発明のタンパク質結晶装置は、タンパク質切削装置としても用いることができることから、単一の装置を用いて、タンパク質の結晶を生成するとともにX線構造解析用にタンパク質を成形することができる。したがって、医療機関、大学、企業などの研究機関等において、タンパク質結晶構造の解析に利用が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…気泡噴出部材、2…絶縁材料、3…芯材(導電材料)、5…延伸部、6…外郭部、7…空隙、8…気泡噴出口、10…タンパク質結晶装置、11…対向電極、12…容器、13…タンパク質溶液、20…一般商用交流電源装置、21…電線、22…無誘導抵抗、23…電圧増幅回路、30…タンパク質吸着気泡噴出部材、31…同心軸位置決めワッシャ、32…外側外郭部、33…孔、34…ガラス、35…ガイド、36…空間、37…タンパク質吸着気泡噴出口
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図1】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8