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明細書 :組織自己接合型体内挿入管及び該体内挿入管と体内器官組織との接合方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-255789 (P2013-255789A)
公開日 平成25年12月26日(2013.12.26)
発明の名称または考案の名称 組織自己接合型体内挿入管及び該体内挿入管と体内器官組織との接合方法
国際特許分類 A61M   1/10        (2006.01)
FI A61M 1/10 520
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2013-102403 (P2013-102403)
出願日 平成25年5月14日(2013.5.14)
優先権出願番号 2012111902
優先日 平成24年5月15日(2012.5.15)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】増澤 徹
【氏名】青代 敏行
出願人 【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100176164、【弁理士】、【氏名又は名称】江口 州志
審査請求 未請求
テーマコード 4C077
Fターム 4C077AA04
4C077CC03
4C077EE01
4C077JJ03
要約 【課題】体内器官組織との接合を従来より迅速で、且つ簡便に行うとともに、細菌が侵入する隙間が形成されることなく高い接合強度を得るために、複合低エネルギー接合方法に適用できる組織自己接合型体内挿入管及び該体内挿入管と体内器官組織との接合方法を提供する。
【解決手段】本発明は、体内器官組織に覆われた状態で前記体内器官組織と接触して接合される体内挿入管であって、体内挿入管には、少なくとも、体内器官組織と接触する側に体内器官組織の一部が変形又は変位により侵入することにより投錨効果が得られる大きさの溝、孔又は窪みが形成され、体内挿入管と体内器官組織との接合時に溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路が形成されていることを特徴とする。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
体内器官組織に覆われた状態で前記体内器官組織と接触して接合される体内挿入管であって、
前記体内挿入管には、少なくとも、前記体内器官組織と接触する側に前記体内器官組織の一部が変形又は変位により侵入することにより投錨効果が得られる大きさの溝、孔又は窪みが形成され、前記体内挿入管と前記体内器官組織との接合時に前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路が形成されていることを特徴とする組織自己接合型体内挿入管。
【請求項2】
請求項1に記載の組織自己接合型体内挿入管は、前記の体内器官組織の変形又は変位を起こさせるための溝、孔又は窪みが形成された管を外管とし、該外管の内部に、さらに血液、輸液又は配線の通路として機能する内部空洞を有する内管を備え、前記の溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路が、前記の外管及び内管の少なくとも何れか一つに形成されていることを特徴とする組織自己接合型体内挿入管。
【請求項3】
請求項2に記載の組織自己接合型体内挿入管は、次の(A)、(B)、及び(C)、すなわち
(A)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記体内挿入管の外部に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引することによって前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記の外管又は内管に備えること、
(B)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記内管の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引することによって前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記内管に備えること、及び
(C)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記内管の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引することによって前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記の外管と内管の両者に備えること、
から成る構成群の中から選ばれる何れか一つを有することを特徴とする組織自己接合型体内挿入管。
【請求項4】
前記の外管と内管は、緩衝剤又は弾性体を介して固定されることを特徴とする請求項2又は3に記載の組織自己接合型体内挿入管。
【請求項5】
前記組織自己接合型体内挿入管、若しくは前記の外管又は内管は、前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路と直結する排出口又は吸引口を備えることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管。
【請求項6】
前記組織自己接合型体内挿入管、若しくは前記の外管又は内管は、加熱用熱源を備えることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管。
【請求項7】
前記体内挿入管が、人工心臓脱血管であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管。
【請求項8】
請求項1、5、6、7の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を用いて、
(D)前記体内挿入管が前記体内器官組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と体内器官組織とを接触させる工程、
(E)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって、前記体内挿入管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び
(F)前記負圧を取り除いた後、若しくは前記の負圧にした状態で、前記前記体内組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記の体内挿入管と体内器官組織とを接合する工程、を有する前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法。
【請求項9】
請求項2~7の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を用いて、
(G)前記体内挿入管の外管が前記体内組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と前記体内器官組織とを接触させる工程、
(H)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって、前記外管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び(I)前記負圧を取り除いた後、若しくは前記の負圧にした状態で、前記体内組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記体内挿入管の外管と体内器官組織とを接合する工程、を有する前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法。
【請求項10】
前記の(E)若しくは(H)の工程は、前記負圧にする工程を、前記体内器官組織との接触部に外部から圧力を付与する工程と組み合わせて行い、前記の(F)若しくは(I)の工程は、前記の圧力及び負圧の少なくとも何れかを取り除いた後、若しくは前記の圧力と負圧を同時に付与した状態で、前記体内器官組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えることを特徴とする請求項8又は9に記載の前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内組織との接合が行われる体内挿入管、特に、人工心臓と接合される脱血管や送血管又はそれらの一部として使用されるものであり、細菌等による感染症の防止に大きな効果を有する組織自己接合型体内挿入管及び該体内挿入管と体内器官組織との接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補助人工心臓を取付けるには、脱血管や送血管を介して心臓に取り付ける必要がある。その際、脱血管の心臓への取付けは、図15の(a)に示すように、脱血管17のカフ(つば)18を用いて心臓19に針と糸を用いた巾着縫合20で行われている。同様に、図15の(b)に示すように、送血管21の動脈19への取付けも縫合で行われている。しかし、このような縫合は、脱血管とカフの接続部分又は送血管と心臓との接続部分にわずかな隙間が生じて、その隙間から細菌が侵入し様々な感染症を引き起こすことが報告されている。
【0003】
人工心臓の脱血管や送血管を心臓に取り付けるときに生じる接合部分の隙間を除去する方法としては、超音波メスや電気メス等の高エネルギーや医療用接着剤等を用いた生体組織接合が考えられる。超音波メスは、冠動脈バイパス手術等で使用されており、数mmの血管を切断する際、血管の切断面を接合して閉鎖することで止血を行う方法に用いられる。電気メスは、対極板間に電圧をかけ生体組織に電流を流し、それによって発生する熱を利用し接合する装置である。それ以外にも、アルゴン(Ar)レーザやYAGレーザを用いて組織を変性させる組織凝固を利用するレーザメスがある。しかし、これらの高エネルギーを利用する装置は、高エネルギーによって組織を炭化させやすく生体組織損傷が激しいという問題を抱えている。また、電気メスは、人体への電気ショックや他機器への雑音障害等が懸念されている。
【0004】
医療用接着剤は、例えば、生体血管の代替として使用する人工血管等の軟組織用の接着に利用されており、材料としてはシアノアクリレートやフィブリン系が主に利用されている。医療用接着剤は、作業性に優れ、短時間接着が特徴であるが、生体への毒性と抗菌性の点で問題がある。また、使用中に接着剤劣化や接着剤成分浸み出しなどによって、生体への悪影響だけでなく、接着性の大幅な低下も起こる場合があり、使用範囲が限定される。
【0005】
上記の高エネルギーや医療用接着剤等に依存しない生体組織接合方法として、特許文献1には、一部又は全体が、線状から形成される多孔性構造体又は多孔性成形体から構成される多孔性構造体からなる血液循環補助用インフローカニューレが開示されている。前記の特許文献1及び特許文献2に記載の多孔性構造体は、血栓による血行障害や疾患の防止のために、前記多孔性構造体の凹凸や孔によって生じる空隙を利用して血栓を安定的にアンカリングするために配置・固定されるものである。
【0006】
また、特許文献3には、心臓の心内膜がカニューレの外周面に沿って延伸してその延伸部が切れ、この切れた心内膜片が血液中に混入して血管を閉塞してしまうのを防止するために、管状の本体部と、その本体部の外周面を周回するように配置された筒状の多孔質体とを有するカニューレが提案されている。
【0007】
さらに、特許文献4及び5には、生体内組織として消化管や血管等の吻合、又は人工血管と生体血管との接続のために利用する体内挿入管が提案されている。前記の特許文献4に記載の生体吸収性連結管は、抜け止めのためにフランジを有する構造を備えるものである。また、前記の特許文献5には、耐食性の金属材料より一体に形成された中空の円筒部材からなり、該円筒部材の周壁には、複数の貫通孔が形成され、該円筒部材の外周には、周方向に沿った少なくとも1つの周方向溝が形成された人工血管用接続部が開示されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2010-264274号公報
【特許文献2】特開2010-104806号公報
【特許文献3】特開2008-279188号公報
【特許文献4】特開平9-38119号公報
【特許文献5】特許第3568756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記で述べたように、脱血管や送血管の心臓への取付け又は血管の接合や接続を行う際に、従来の巾着縫合では細菌が浸入しないように接合部分を隙間なく高強度で接合することが難しい。また、高エネルギーや医療用接着剤等を用いた生体組織接合は、生体への損傷や毒性等の悪影響があるだけでなく、高い接合強度を得るには高度の熟練と技術を要する。
【0010】
前記の特許文献1及び2には、多孔性構造体からなる血液循環補助用インフローカニューレ(挿入管)が開示されているが、この多孔性構造体からなるテクストチャードサーフェースは、血栓を安定的にアンカリングするために形成されるものであり、接合部分に該当する心臓壁と接触する部分だけでなく、さらに心臓内部まで延びる構造となっている。また、このインフローカニューレはカフ(つば)とカフ押さえねじを有することから、心臓との接合強度を向上するために多孔性構造体が形成されたものではないことは明らかであり、多孔性構造体による接合強度の向上という技術課題については全く認識されていなかった。
【0011】
前記の特許文献3に記載のカニューレは、心内膜と接する部分に多孔質体を配置することによって、心内膜が該多孔質体に侵潤することにより、心内膜がカニューレの外周面に沿って延伸するのを抑制するものである。したがって、この多孔質体は心臓との接合強度を向上するために形成されたものではない。さらに、多孔質体の材料として例示された樹脂は弾性特性を有するため、強固な接合強度を期待することはできない。
【0012】
また、前記の特許文献4に記載の生体吸収性連結管、及び前記の特許文献5に記載の人工血管接続具は、それぞれ消化管や血管等の糸針による縫合や医療用接着剤による接着接合、及び人工血管と生体血管との縫着を助けるためのものである。したがって、これらの体内挿入管は、生体組織と強固に接合できるような構造を有しておらず、縫合や縫着等による接合部分から細菌が浸入するという問題を解決することはできない。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、補助人工心臓の脱血管又は送血管と心臓との接合、又は人工血管と生体血管との接合を、従来より迅速で、且つ簡便に行うとともに、細菌が侵入する隙間が形成されることなく高い接合強度を得るために、人工心臓装着支援を始めとする生体組織との高強度接合技術の確立の一環として、複合低エネルギー接合方法に適用できる組織自己接合型体内挿入管及び該体内挿入管と体内器官組織との接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、従来行われていた縫合や縫着に代わるものとして、心臓や血管等の体内器官組織との接合強度を上げることができる組織自己接合型体内挿入管の構造と構成について鋭意検討した結果、体内挿入管の体内器官組織と接触する側に、体内器官組織の変形又は変位による投錨(アンカリング)効果が得られるような表面形状を形成すること、さらに、この投錨効果を高めるために体内器官組織の変形又は変位を容易にするような構造を体内挿入管に具備させることによって、上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0015】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
(1)本発明は、体内器官組織に覆われた状態で前記体内器官組織と接触して接合される体内挿入管であって、前記体内挿入管には、少なくとも、前記体内器官組織と接触する側に前記体内器官組織の一部が変形又は変位により侵入することにより投錨効果が得られる大きさの溝、孔又は窪みが形成され、前記体内挿入管と前記体内器官組織との接合時に前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路が前記体内挿入管に形成されていることを特徴とする組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(2)本発明は、前記(1)に記載の組織自己接合型体内挿入管が、前記の体内器官組織の変形又は変位を起こさせるための溝、孔又は窪みが形成された管を外管とし、該外管の内部に、さらに血液、輸液又は配線の通路として機能する内部空洞を有する内管を備え、前記の溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路が、前記外管及び内管の少なくとも何れか一つに形成されていることを特徴とする組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(3)本発明は、前記(2)に記載の組織自己接合型体内挿入管が、次の(A)、(B)、及び(C)、すなわち(A)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記体内挿入管の外部に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引することによって前記の溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記の外管又は内管に備えること、(B)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記内管の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引することによって前記の溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記内管に備えること、及び(C)前記外管の溝、孔又は窪みから、前記内管の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引するによって前記の溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を前記外管と内管の両者に備えること、から成る構成群の中から選ばれる何れか一つを有することを特徴とする組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(4)本発明は、前記の外管と内管が、緩衝剤又は弾性体を介して固定されることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(5)本発明は、前記の組織自己接合型体内挿入管、若しくは前記の外管又は内管が、前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路と直結する排出口又は吸引口を備えることを特徴とする前記(1)~(4)の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(6)本発明は、前記の組織自己接合型体内挿入管、若しくは前記の外管又は内管が、加熱用熱源を備えることを特徴とする前記(1)~(5)の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(7)本発明は、前記の体内挿入管が、人工心臓脱血管であることを特徴とする前記(1)~(6)の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を提供する。
(8)本発明は、前記(1)、(5)、(6)、(7)の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を用いて、(D)前記体内挿入管が前記体内器官組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と体内器官組織とを接触させる工程、(E)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって、前記体内挿入管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び(F)前記負圧を取り除いた後、若しくは前記の負圧にした状態で、前記前記体内組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記の体内挿入管と体内器官組織とを接合する工程、を有する前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法を提供する
(9)本発明は、前記(2)~(7)の何れかに記載の組織自己接合型体内挿入管を用いて、(G)前記体内挿入管の外管が前記体内組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と前記体内器官組織とを接触させる工程、(H)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって、前記外管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び(I)前記負圧を取り除いた後、若しくは前記負圧にした状態で、前記前記体内器官組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記体内挿入管の外管と体内器官組織とを接合する工程、を有する前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法を提供する。
(10)本発明は、前記の(E)若しくは(H)の工程は、前記負圧にする工程を、前記体内器官組織との接触部に外部から圧力を加える工程と組み合わせて行い、前記の(F)若しくは(I)の工程は、前記の圧力及び負圧の少なくとも何れかを取り除いた後、若しくは前記の圧力と負圧を同時に付与した状態で、前記前記体内器官組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の前記体内挿入管と体内器官組織との接合方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による体内器官挿入管は、体内器官組織と接触する側に、前記体内器官組織の変形又は変位による投錨(アンカリング)効果が得られるような溝、孔又は窪みを有するだけでなく、体内挿入管と体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引して前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を備えることによって、接合部分に負圧が付与されるときに、体内器官組織の前記の溝、孔又は窪みへの変形又は変位が容易となり、接合界面に接合強度を低下させるようなボイドや隙間の発生を防止して、接合強度を高める効果が期待できる。
【0017】
また、本発明によれば、体内挿入管を外管と内管の二重管構造とすることによって、体内器官組織との接合強度を高めるための機能及び血液、輸液又は配線の通路としての機能を別々に分けて、それぞれ外管及び内管として形成できるため、外管形状の設計変更だけで体内挿入管の形状を自由に変えることができる。それによって、外管の形状を体内器官組織の形状との接合位置に合わせたような体内挿入管を作製することができるようになり、様々な形状からなる体内器官組織との接合が可能となる。さらに、外管及び内管の少なくとも何れか一つは前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を備えるため、体内挿入管と体内器官組織との間に存在する空気の排出又は吸引によって大きな投錨効果が得られるような体内器官組織の変形と変位が起こり、接合強度の一層の向上を図ることができる。
【0018】
本発明による体内挿入管と体内器官組織との接合方法は、複合低エネルギー接合で行うことができるだけでなく、接合部分に隙間が無く高い接合強度が得られるため、従来よりも、接合を迅速で、且つ簡便に行うことができる。さらに、接合部分からの細菌浸入の防止は、接合後に細菌の浸入によって誘因される血栓の発生を抑制する効果を生むため、安心で安全性の高い接合方法を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の組織自己接合型体内挿入管の一例として脱血管を示す図である。
【図2】本発明の組織自己接合型体内挿入管に形成される、負圧を作用させるための通路を備えた溝、孔及び窪みを示す断面模式図である。
【図3】複合低エネルギーによる体内器官組織と本発明の体内挿入管との接合メカニズムの一例を示す図である。
【図4】本発明による負圧を作用させるための通路を備えた一重管構造の体内挿入管を、心臓の脱血管として適用した例を示す図である。
【図5】本発明による一重管構造の体内挿入管において、溝の部分及び排出口又は吸引口の部分の各切断面を示す図である。
【図6】本発明による一重管構造の体内挿入管において、負圧を作用させるための通路の形成例を示す図である。
【図7】溝、孔又は窪みが形成され、内部に負圧を作用させるための通路を備える外管と内管とを有する本発明による二重管構造の体内挿入管を示す図である。
【図8】外管と内管とを有し、外管又は内管が負圧を作用させるための通路を備える二重管構造の体内挿入管の断面を模式的に示す図である。
【図9】外管と内管とを有し、内管の周囲に負圧を作用させるための通路を備える体内挿入管を示す図である。
【図10】外管と内管とを有し、内管の周囲に負圧を作用させるための通路を備える体内挿入管と体内器官組織との接合状態を示す図である。
【図11】外管と内管とを有し、負圧を作用させるための通路が外観の溝から内管の内部空洞に繋がる構造を有する別の形態の体内挿入管を示す図である。
【図12】本発明の体内挿入管と体内器官組織との接合において、ピエゾ素子による微小振動を利用した接合方法を示す図である。
【図13】本発明による組織自己接合型脱血管の試作機の概略図を示す図である。
【図14】本発明の体内挿入管と心臓との接合部分における引張による接合強度測定結果を示す図である。
【図15】脱血管のカフを用いて心臓と縫合する従来方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の組織自己接合型体内挿入管の一例として脱血管を示す図である。図1の(a)には、本発明の体内層挿入管1において、心臓との接合が行われる上部の周辺に切込み溝2が4本形成された脱血管の例である。図1の(b)は、溝2が環状に断続して形成された脱血管の例である。また、図2は、本発明の組織自己接合型体内挿入管に形成される溝、孔及び窪みの断面模式図を示す。本発明の体内挿入管1には、体内器官組織との接合部分に溝2の形状だけでなく、孔3又は窪み4を形成する。溝2、孔3及び窪み4は、それぞれ負圧を作用させるための通路5を介して体内挿入管1の内部空洞7と繋がっている。図2に示す溝2、孔3及び窪み4は、図1の(a)又は(b)に示すように、体内器官組織との接合部分に周回するように、又はそれぞれ独立して形成することができる。

【0021】
本発明の体内挿入管1は、生体器官組織との接合部分に隙間なく、高い接合強度を有する組織自己接合を行うために、前記体内器官組織と接触する側に、溝2、孔3又は窪み4を形成することを特徴とする。これらの溝2、孔3又は窪み4は、圧力が付与された状態で熱や微小振動等の低エネルギー接合を行う際に、体内器官組織に覆われた接合部分で、前記体内器官組織の変形や変位を行わせて投錨効果を得る目的で形成する。効果的な投錨効果は、通路5を通じて形成される負圧で体内器官組織の一部が変形又は変位し、溝2、孔3又は窪み4へ浸入した後、それらの内部に確実に保持されることによって達成される。そのため、糸等による縫合や縫着又は医療用接着剤を使用しないで、高い接合強度を有する組織自己接合を行うことができる。したがって、縫合や縫着で使用されるカフ(つば)等の特別な構造を形成しなくてもよい。

【0022】
図3は、複合低エネルギーによる体内器官組織と本発明の体内挿入管との接合メカニズムの一例を示す。心臓や血管等の体内器官組織はタンパク質のコラーゲン分子やコラーゲン線維等を多く含んでいる。これらの体内器官組織を、表面に溝、孔又は窪みを形成した体内挿入管に配置して(図3の(a))、通路5によって体内挿入管から負圧を作用することで密着させ(図3の(b))、同時に加熱する(図3の(c))。それによって、図3の(d)に示すように、体内器官組織内のコラーゲン線維が変形又は変位して、体内挿入管の凹凸内へ侵入すると同時に又は侵入後に、コラーゲン線維等を含む体内器官組織がゲル化する。加熱を止めてから温度が下がり始め、ゲル化した部分が凝固することで体内器官組織を体内挿入管に接合させることができる。図3に示すような組織自己接合型の接合方法は、体内挿入管の凹凸内へ侵入した体内器官組織によって投錨効果が十分に得られる場合に接合強度が高くなる。しかしながら、高強度の接合を達成するためには、負圧を作用させるための通路の形成及び接合方法や接合条件だけではなく、体内挿入管の材質及び体内器官組織と接触する側に形成する溝、孔又は窪みの開口部の径又は面積及び深さ等について十分に検討を行う必要がある。

【0023】
まず、体内挿入管については、図3に示す負圧状態の時に変形が少ないことが求められる。また、加熱処理の際に体内挿入管から体内器官組織への熱伝導性が高くなければ、加熱温度を高くしたり加熱時間を長くする必要があるため、体内器官組織への熱的ダメージの問題が起こる。低エネルギー接合において、加熱処理の代わりに、又は加熱処理とともに微小振動を付与する場合は、体内挿入管が柔らかいと微小振動エネルギーの伝達が低下するため、体内挿入管にはある程度の剛性が求められる。したがって、本発明においては、体内挿入管の材質としては、高剛性の金属、セラミックス又は樹脂複合材料が好適である。さらに、体内挿入管は生体内で使用されるため、生体適合性に優れるものでなければならない。そのため、ステンレス、チタニウム、シリコン又は繊維強化プラスチックからなる体内挿入管がさらに好ましい。これらの体内挿入管としては、表面がフッ素、炭素又はチタニウム等の原子を含むように表面処理したものを使用してもよい。

【0024】
図3に示すように、体内器官組織が高分子のタンパク質やコラーゲン線維を含むため、体内器官組織と接触する側に表面粗さ(JIS B 0601で定義されるRa)が1~20μmの範囲で形成した表面凹凸を一様に有する体内挿入管では、体内器官組織の変形又は変位が小さな表面凹凸に十分に追随することができず、微小なボイドや界面剥離等が発生して十分な投錨効果が得られず、結果的に接合強度が低下する。

【0025】
このように、体内挿入管と体内器官組織との接合強度(接着力)を向上させるには、単に体内挿入管の表面粗さだけでは限界がある。本発明は、表面粗さで接合強度を上げる従来方法とは異なり、接合時に確実な投錨効果が得られるように、負圧を作用させたときに体内器官組織の変形又は変位を十分に起こさせ、それによって接合強度の大幅な向上を図った点に大きな特徴を有する。そのため、本発明の体内挿入管は、従来の表面粗さよりもやや大きな表面凹凸を形成する必要がある。したがって、本発明の体内挿入管に形成する溝、孔又は窪みは、図1の(a)に示すように体内挿入管1の周方向に連続的に形成される場合、溝2の溝幅、又は孔3及び窪み4の開口径が20μmを超え10mm以下であることが好ましい。溝幅又は開口径が20μm以下では体内器官組織の変形又は変位が不十分となり投錨効果がほとんど得られず、一方、10mmを超えると、溝2、孔3又は窪み4に侵入していた体内器官組織が簡単に抜ける現象が発生して、同様に十分な投錨効果が得られない。ここで、溝2、孔3又は窪み4は、体内挿入管1の周方向でいくつかに分割された形状としてもよい。また、図1の(b)に示すように、溝2、孔3又は窪み4が独立して形成される場合には、体内器官組織の変形又は変位による投錨効果が十分に得られるように、溝2の溝幅、又は孔3及び窪み4の開口面積は、3×10-4mm(円直径に換算して約20μm)以上であることが好ましい。開口面積の上限は、前記体内器官組織との接合強度が確保されるように、80mm(円直径に換算して約10mm)であることが好ましい。

【0026】
さらに、溝、孔又は窪みの開口部の最大深さは、20μmを超え10mm以下であることが好ましい。開口部の最大深さが20μm以下では、投錨効果がほとんど得られず、一方、10mmを超えると、溝、孔又は窪みに侵入していた体内器官組織が簡単に抜ける現象が発生して、同様に十分な投錨効果が得られない。本発明においては、体内器官組織との接合後に行う引張試験において、体内挿入管を長手軸方向に引張ったときに測定される引張による接合強度が0.01MPa以上、好ましくは0.02MPa以上であれば、溝、孔又は窪みの開口部の径又は面積と最大深さは、前記の範囲内で任意に設定することができる。

【0027】
本発明の接合方法は、圧力、熱及び微小振動の少なくとも1つを用いて、好ましくは2つ以上を組み合わせた低エネルギー接合を行う。接合の際に負荷される圧力、熱及び微小振動の各条件は、それぞれ0.01~10MPa、50~250℃、及び1Hz~1MHzの範囲である。加熱時の圧力が0.01MPa未満で、温度が50℃未満で、振動が1Hz未満であると、単独付与の場合はもちろんのこと、振動と熱及び圧力を合わせて複合エネルギーにして付与した場合でも、体内器官組織との接合強度を十分に高めることができない。仮に、接合作業後に両者が接合しているように見えても、使用中に体内挿入管の剥離や抜けが発生するため、振動と熱及び圧力の条件は上記に示す下限値以上でなければならない。また、圧力が10MPa、加熱時の温度が250℃、振動が1MHzをそれぞれ超えると、体内起案組織へのダメージが大きくなったり、体内挿入管の破損が起きる。また、体内器官組織の接合部分において応力や発熱による局所的な剥離が起きるため、体内接合組織に対する接合強度が全体的に低下すると共に、耐久信頼性や安全性の点でも問題がある。そのため、振動と熱及び圧力の条件は前記に示す上限値以下にする必要がある。

【0028】
上記の加熱処理は、体内挿入管を体内器官組織で覆った状態で前記体内器官組織の外部から加熱治具を用いて行うか、挿入前の体内挿入管を恒温槽に入れて所定の温度に加温して行う。また、体内挿入管の中にニクロム線等の抵抗加熱線を挿入するか、又は体内挿入管の周方向に抵抗加熱線を巻回して、外部から加熱する方法を採用することもできる。このとき、加熱方式としては、抵抗加熱方式だけでなく、アーク加熱、誘導加熱、誘電加熱又は赤外線加熱等の別の方法を用いてもよい。

【0029】
本発明の体内挿入管は、低エネルギー接合時に、高分子のタンパク質やコラーゲン線維を含む体内器官組織の溝、孔又は窪みへの変形又は変位を助けて投錨効果を確実に得るために、体内挿入管の外部表面に形成する溝、孔又は窪みから、前記体内挿入管の血液、輸液又は配線の通路として機能する内部空洞又は前記体内挿入管の外部に向けて、前記体内挿入管と前記体内組織との間に存在する空気を排出又は吸引するための連結通路、すなわち溝2、孔3又は窪み4に負圧を作用させるための通路を備える必要がある。

【0030】
図4に、溝2に負圧を作用させるための通路5を備えた一重管構造の体内挿入管1を、心臓の脱血管として使用した例を示す。通路5は、体内連結管1に形成された溝2の底部と空間的に繋がっており、排出口又は吸引口6を通して、体内挿入管1の外部に向けて該外部の大気に開放される形状を有している。図4の(a)に示すように、本発明の体内挿入管は、血液、輸液又は配線の通路として機能する内部空洞7を有する。体内挿入管の内部空洞7内に示す矢印は、血液又は輸液の流路方向となる。体内挿入管1の周囲にはニクロム線等の加熱抵抗線8が巻回されており、加熱処理は、体内挿入管が体内器官組織によって覆われて圧着された後、前記加熱抵抗線8を用いて温度を上げて行う。この方法は、接合部分の局所的な加熱を行うことができるため、温度を必要以上に上げる必要がなく、加えて、加熱部分を最小の面積で行うことができ、体内器官組織への熱的ダメージを低減する効果がある。

【0031】
図4の(b)に示すように、通路5は、接合時に体内器官組織9と体内挿入管1との間に存在する空気22を排出する機能を有するものである。体内挿入管の表面に形成する溝2には排出用の通路が無いと接合時の体内器官組織9の変形又は変位によって空気22が溜まりやすい。溝2に代えて、孔又は窪みを形成した体内挿入管の場合も同じような現象が見られる。表面に空気22を逃す構造を採用しない場合は、開口深部の圧力が高くなって体内器官組織の変形又は変位を阻害するように作用する。そのため、体内器官組織9の密着性を上げるには、接合時に外部から付与する圧力を高くしなければならなくなる。しかし、図4の(b)に示すように、通路5を有する構造であれば、開口深部に溜まる空気22は、減圧処理等によって排出口又は吸引口6を通して排出又は吸引されるため負圧が発生し、体内挿入管と体内器官組織との密着性が向上して両者の界面に隙間や剥離が無くなり、結果的に体内器官組織の変形又は変位による投錨効果が確実に得られて、接合強度を向上することができる。

【0032】
図4に示す一重管構造の体内挿入管において、左側半分の溝2の部分及び排出口(又は吸引口)6の部分の各切断面を図5に示す。図5の(a)に示す溝2の部分及び排出口(又は吸引口)6の部分の各切断面をA-A’及びB-B’として、それぞれ示したのが図5の(b)及び(c)である。図5に示すように、溝2に負圧を作用させる通路5は、溝2と排出口又は吸引口6と連結している。通路5の形成は、例えば、体内挿入管1の内部にドリル等の掘削治具によって通路5を形成した後、掘削入口部分を金属又はプラスチック等の気密栓23によって塞ぐことによって行うことができる。このとき、気密栓23の脱落防止と気密性向上のために、接着剤等による固定又は補強を行っても良い。また、図5に示す一重管構造の体内挿入管は、コンピュータ制御による3次元造形装置(3次元プリンター)を使用して製作することもできる。

【0033】
図6は、本発明による一重管構造の体内挿入管において、負圧を作用させるための通路の形成例を示す図である。図6には本発明の体内挿入管1の右側断面図だけを示しており、連結通路5が体内連結管に形成された溝2の底部から体内挿入管1の内部空洞7に向けて直接繋がって開放される形状を有している。図6の(a)に示す通路5は、開口径が溝2の底面から内部空洞に向かって一定の大きさを有する。通路5の開口径を一定の大きさで形成する場合は、接合時に減圧吸引による負圧を調整する必要がある。それに対して、図5の(b)に示す通路5は、開口径が内部空洞7に向けて次第に小さくなる形状を有する。これは、接合時に体内器官組織9が内部空洞7にまで侵入するのを抑える効果がある。

【0034】
次に、外管と内管からなる二重管構造を有する組織自己接合型体内挿入管について図面を用いて説明する。

【0035】
図7は、上記で述べた体内器官組織の変形又は変位を起こさせるための溝、孔又は窪みが形成された管を外管10とし、外管10の内部に、さらに血液、輸液又は配線の通路として機能する内部空洞7を有する内管11を備える体内挿入管を示す図である。図7の(a)は体内挿入管の外観を、図7の(b)は体内挿入管の断面図をそれぞれ示す図である。

【0036】
図7に示すように、本発明の体内挿入管は外管10と内管11の二重管構造とすることによって、体内器官組織との接合強度を高めるための機能及び血液、輸液又は配線の通路としての機能を別々に分けることができる。それによって、血液、輸液又は配線の通路として機能する内管形状はそのままにして、体内器官組織との接合強度を高めるための機能を有する外管の形状を自由に設計変更することが可能となる。したがって、体内器官組織の形状と接合位置に合わせたような外管形状を有する体内挿入管を作製することができるため、様々な形状からなる体内器官組織との接合に適用が可能となり、幅広い適用を図ることができる。

【0037】
図7に示す体内挿入管1は、体内挿入管と体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、負圧を作用させるための通路5を外管に備えた例を示している。負圧を作用させる通路5は、図7に示す外管10だけでなく、内管11又は外管と内管とが接する面で両者の管に備えることもできる。

【0038】
図8は、本発明の体内挿入管に具備される、溝、孔又は窪みに負圧を作用させる通路の構成群であり、体内挿入管の左側断面図だけを模式的に示している。図8の(a)は、(A)外管10の溝2、孔3又は窪み4から体内挿入管の外部に向けて、前記体内挿入管と前記体内組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、負圧を作用させるための通路5を外管10に備える構成である。図8の(a)に示す体内挿入管は、通路5が外管10の内部に形成されているが、本発明では内管11と接する側の外管10の表面を所定の厚さで切削して段差を設けて、その段差を通路として用いても良い。逆に、外管10と接する側の内管11の表面を所定の厚さで切削して段差を設けて、その段差を通路として用いて排出口又は吸引口6と繋げることもできる。図8の(b)は、(B)外管10の溝、孔又は窪みから内管11の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、負圧を作用させるための通路5を前記内管11に備える構成であり、例として表面に溝2と孔3が形成された体内挿入管を示している。また、図8の(c)は、(C)外管10の溝、孔又は窪みから内管11の内部空洞に向けて、前記体内挿入管と前記体内組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、負圧を作用させるための通路5を前記外管と内管の両者に備える構成であり、例として表面に窪み4が形成された体内挿入管を示している。図8の(c)に示す窪み4は、外管に備える通路5を経由して、内管に備える通路5に繋がっており、結果的に、窪みから内管の空洞までは空間的に連結している。図8に示す溝2、孔3又は窪み4は、上記で述べたように、開口の径又は面積及び最大深さが図2の場合と同じ範囲に規定される。

【0039】
図8に示す外管10又は内管11は、体内挿入管1と体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、負圧を作用させるための通路5を備えるため、溝、孔又は窪みの開口深部に溜まる空気は減圧処理によって排出口又は吸引口6を通して排出又は吸引される。これは、体内挿入管と体内器官組織との密着性が向上して両者の界面に隙間や剥離が無くなる効果を生む。それによって、体内器官組織の変形と変位による投錨効果が大きくなるため、接合強度の一層の向上を図ることができる。

【0040】
以上のように、本発明の二重管構造を有する体内挿入管は、溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を、二重管の外管、内管、及び外管と内管の間の何れかに形成することができる。

【0041】
図9は、外管10と内管11とから構成され、内管11の周囲に負圧を作用させる通路5を備える二重構造の体内挿入管を示す。図9の(a)及び(b)は、それぞれ体内挿入管の外観図と断面図である。図9の(b)に示すように、内管11に備える通路5は、外管11に形成した溝2と繋がっている。図9の12は、負圧の状態にするときに減圧処理を行うための空気吸引穴であり、外管10の形成される通路5の一部としてみなすことができる。さらに、図9に示す外管10と内管11からなる二重管構造は、外管と内管がゴムや熱可塑性エラストマー等からなるOリング13を介して固定される。Oリング13は弾性体であるため、外管と内管との装着が容易であり、同時に両者の密着性を向上できる。Oリング13を用いることによって、両者を高い気密性を有した状態で強固に固定できる。本発明では、Oリング等の弾性体の代わりに、発泡性プラスチック、不織布又は金属製の緩衝リング等の緩衝剤を使用してもよい。

【0042】
図9に示すOリング13は、外管の材質よりも熱伝導性が低い材料を使用することによって、外管と内管の断熱性を確保することができる。この場合、体内器官組織との接合において、体内器官組織に覆われた外管をその周囲に巻かれたニクロム線等の抵抗加熱線8によって加熱するときに、温度の上昇は外管で大きいものの、内管では熱伝導が抑えられるため温度上昇を抑えることができ、接合作業が行いやすくなる。また、接合部分のみの加熱が可能となるため、接合部分を除く体内器官組織への熱的なダメージを小さくできるという利点もある。本発明においては、外管及び内管が金属で作製され、Oリングとして金属よりも熱伝導性の低いゴムや熱可塑性エラストマー等を使用することによって、Oリングによる断熱性の効果を奏することができる。本発明において加熱時の温度上昇を短時間で効率的に行う場合は、抵抗加熱線などから構成される加熱用熱源を外管だけでなく、内管にも備えることができる。

【0043】
図9に示す体内挿入管1を用いて、体内器官組織との接合を行ったときの接合状態を図10に示す。図10に示すように、体内挿入管1は、加熱及び/又は微小振動等の低エネルギー接合時に、体内挿入管1の外部表面に形成する溝2から、内管11の周囲に形成された通路5を介して、外管10の外部に向けて、体内挿入管1と体内組織9との間に存在する空気を排出又は吸引して負圧状態を形成する。それによって、体内器官組織9の溝2への変形又は変位を助けて投錨効果が確実に得られるようになり、低エネルギー接合後は体内挿入管1と体内器官組織9との間の接合強度(接着力)が大幅に向上する。

【0044】
図11は、内管と外管とからなる二重管構造を有する別の形態の体内挿入管を示す図である。図11の(a)及び(b)は、それぞれ体内挿入管の外観図と断面図である。この体内挿入管は、図11の(b)に示すように、負圧を作用させるための通路5が外管10の溝2から内管11の内部空洞7に繋がる構造を有する。また、接合時に外管10と体内器官組織との間に存在する空気を内管11の内部空洞7を介して外部へ排出又は吸引する構造であるために、図10の示す体内挿入管とは異なり、排出口又は吸引口6が内管11に形成されている。それら以外は、図9及び図10に示す体内挿入管と基本的に同じ構造と構成を有する。

【0045】
本発明の体内挿入管は、人工心臓装着の際に使用される脱着管及び送血管、特に、従来の技術では接合が困難であった脱血管として使用されるときに、接合強度の向上に対して大きな効果を示す。また、本発明の体内挿入管はカフ(つば)等を有する特殊な構造とする必要がなくなるため、それ以外の生体内組織の接合又は接続のために適用でき、例えば消化管や血管等の吻合、人工血管と生体血管との接続、胃瘻、人工肛門など消化器と挿入管の接合、又はその挿入管が皮膚貫通して体外に出てくる部分の接合に使用可能である。その他にも人工心臓のエネルギー供給ケーブルの皮膚貫通部接合等にも使用可能である。その際に、体内挿入管の形状をこれらの用途の形状に合わせて設計することは、通常行われる設計変更の範囲内で容易である。

【0046】
本発明の体内挿入管と体内器官組織との接合方法は、次に示す工程を含んで行われる。

【0047】
まず、図4~図7に示すように、一重管構造を有する組織自己接合型体内挿入管の工程としては、(D)本発明の体内挿入管が体内器官組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と体内器官組織とを接触させる工程、(E)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させる通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって前記体内挿入管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び(F)前記負圧を取り除いた後、又は前記負圧にした状態で、前記体内器官組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記の体内挿入管と体内器官組織とを接合する工程、を含む。

【0048】
次に、図7~図11に示すように、二重管構造を有する組織自己接合型体内挿入管の場合は、(G)前記体内挿入管の外管が前記体内組織によって覆われるような状態で、前記体内挿入管と前記体内器官組織とを接触させる工程、(H)前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させる通路に直結する排出口又は吸引口から空気を吸引することによって前記外管と前記体内器官組織との接触部を負圧にする工程、及び(I)前記負圧を取り除いた後、若しくは前記負圧にした状態で、前記体内器官組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えて前記体内挿入管の外管と体内器官組織とを接合する工程、を含む。

【0049】
さらに、上記の2つの接合方法において、前記負圧にする工程を、体内器官組織との接触部に外部から圧力を加える工程と組み合わせて行うこともできる。すなわち、本発明の一重管構造又は二重管構造を有する体内挿入管を用いて、前記の(E)若しくは(H)の工程は、前記負圧にする工程を、体内器官組織との接触部に外部から圧力を加える工程と組み合わせて行い、前記の(F)若しくは(I)の工程は、前記の圧力及び負圧の少なくとも何れかを取り除いた後、若しくは前記の圧力と負圧を同時に付与した状態で、前記前記体内組織との接触部を加熱及び/又は微小振動を加えることを特徴とする接合方法である。

【0050】
上記の負圧にする工程において、負圧状態は真空ポンプ等を用いて減圧処理を行って形成できる。このときの負圧は、-0.01MPa以上(圧力の絶対値としては0.01MPa以下)であれば良く、あえて高真空状態にする必要はない。本発明による接合を負圧状態で行う場合は、体内挿入管の外部に備える排出口又は吸引口が体内器官組織に完全に覆われていなければ、減圧処理によって連結通路を高い負圧にすることができない。そのため、体内器官組織の接合部分は減圧処理時に使用する真空ポンプ圧力計で容易に確認することができ、さらに、圧力計を見ながらその接合位置の調整を行うこともできる。このようにして連結通路を高い負圧にすることができる位置を定めることができれば、その負圧によって体内器官組織の接合部分がずれることがない。したがって、本発明においては、接合部分の検知と調整及び強固な固定を行うため、負圧処理によって体内器官組織の接合を行うことが大きな特徴である。

【0051】
上記の負圧にする工程と同時に、又はその工程の後にで行われる接合工程で利用する加圧、加熱、及び微小振動は、上記でも述べたように、それぞれ0.01~10MPa、50~250℃、及び1Hz~1MHzの範囲で行う。微小振動による接合方法としては、例えば、図12に示すように、圧電素子を利用した受動素子であるピエゾ素子24を用いる方法が挙げられる。図12に示す体内挿入管1は一重管構造を有するものを例として示したものであり(なお、体内挿入管1の表面に形成される溝、孔又は窪みは図示を省略している。)、体内器官組織9の周囲に配置するピエゾ素子24によって、体内挿入管1と体内器官組織9との接合界面に微小振動エネルギーを加える。

【0052】
本発明においては、上記の負圧処理とともに、体内器官組織の周囲から圧力の付与を同時に行ってもよい。体内器官組織の接合部分と接合強度だけでなく、接合方法、接合条件(時間等)及び接合装置に応じて、負圧処理又は負圧処理と圧力付与の両者の方法を組み合わせることができる。

【0053】
次に、具体的な実施形態によって本発明を説明する。

【0054】
<第1の実施形態>
図11の(a)に示す体内挿入管において破線で囲んだ部分を抽出して試作を行った組織自己接合型血管を図13に示す。図13の(a)及び(b)は、それぞれ外観図及び断面図である。組織自己接合型脱血管1は、生体適合性に優れるステンレス製であり、全長が37mm、外径が21mm、内径が14mmの外管10と内管11からなる二重管構造である。外管10と内管11は、Oリング13によって固定・断熱される。本実施形態は試作用のため血流又は輸流の通路はなくし、上下に栓14をして、内管の排出口又は吸引口6を介して、真空ポンプを用いて減圧処理することによって負圧の発生が容易な構造とした。また、図13の(b)に示すように、外管10の溝側面には加熱用抵抗加熱線8としてニクロム線が取り付けられており、さらに、溝近くに温度測定用として熱電対15が配置されている。抵抗加熱線8であるニクロム線と熱電対15はそれぞれ配線されて内管内の空洞を通して、導線出口16から外部へ引き出されている。導線出口16は内管内の空洞を密封するため、シリコーンゴムで埋める。

【0055】
本実施形態の組織自己接合型脱血管の外管表面に形成した溝は、開口幅が2.5mmであり、深さが1.5mmにしたものの2本を外管の周方向に連続して形成する。2本の溝の間隔は2mmである。接合時における外管の加熱温度は、温度制御システムによって制御する。本実施形態の組織自己接合型脱血管は、図13の(a)に示す幅Wの領域で体内組織器官と接合する。体内組織器官としては、具体的に豚の心臓を使用した。

【0056】
接合後の組織自己接合型脱血管と心臓との接合強度は、引張試験を行うことによって求める。引張強度は、上側に荷重変換器を固定し、下側に固定した直動アクチュエータによって鉛直方向に引張荷重を加える引張試験機を用いて、心臓-脱血管径方向と心臓-脱血管軸方向との2方向を測定する。心臓-脱血管径方向の場合は、荷重変換器に心臓を取付ける上部チャックを固定し、直動アクチュエータに脱血管を取付ける下部チャックを固定して、鉛直方向に引張荷重を加えて測定する。一方、心臓-脱血管軸方向の場合は、荷重変換器に心臓を乗せる溝形鋼(チャンネル)を固定し、直動アクチュエータに脱血管を取付けるチェックを固定して、鉛直方向に引張荷重を加えて測定する。

【0057】
径方向引張及び軸方向引張による接合強度の測定結果を、それぞれ図14の(a)及び(b)に示す。図14には、真空ポンプによる減圧処理で脱血管内の圧力を-0.1MPaの負圧に設定し、接合温度及び接合時間をそれぞれ80℃~100℃及び60~90秒の範囲で変えて引張で測定した接合強度の結果が示されている。

【0058】
図14の(a)及び(b)から分かるように、径方向引張及び軸方向引張で測定した接合強度は、接合温度の上昇とともに高くなる。また、接合時間も長くなるほど、両者の接合強度が高くなる傾向にある。また、引張による接合強度は軸方向が径方向よりも高くなる。これは、接合によって形成された心筋組織の凹凸部が軸方向に対して抵抗になるためと考えられる。このように、本実施形態の組織自己接合型脱血管は心臓との接合強度が高く、優れた接合性を有する。また、接合後の心臓の接合面を分解して観察すると、すべての接合条件において心臓の接合断面は脱血管の外管の溝と対になる凹凸が形成されており、接合によって形成される心臓の凹凸は、外管の溝側面でも接合されていることが確認できた。したがって、本実施形態の組織自己接合型脱血管を使用する接合方法は接合部分に隙間無く高強度で接合を行うことができるため、細菌の浸入を防止できる優れた接合方法である。

【0059】
<第2の実施形態>
図13に示す体内挿入管はOリング13を有するものであり、外管10と内管11との間で断熱効果を奏する。この外管10と内管11との間の断熱効果を、Oリングを用いないで外管を内管の外側にはめ合いで固定した脱血管の場合と対比するために、100℃120秒間加熱したときの外管と内管との温度差を過渡伝熱解析シミュレーションによって求めた。解析シミュレーションにおいて、各材料(ステンレス鋼、栓として使用するフッ素ゴム、及びニクロム線等)の物性値は、密度、熱伝導率及び比熱を用いた。その結果、第1の実施形態の脱血管は、外管が一様に100℃で内管が50℃であるのに対して、Oリング無しの脱血管は外管及び内管がともに90℃であることが分かった。この結果は、実測値とも良く合っており、Oリングを使用することによって、本発明の二重管構造の脱血管は、外管と内管との間で断熱効果を得ることができる。

【0060】
また、Oリング有りの場合は外管の温度が100℃であるのに対して、Oリング無しでは外管の温度が90℃とやや低くなっている。これは、Oリング無しの場合は、内管への熱伝達が大きいために外管の温度が上がりきれず、やや低下するためと考えられる。このように、Oリングは、外管の設定温度を保持する効果が得られることから、本発明の接合において効率的な加熱を行う際に、脱血管を含め体内挿入管の構成として有用である。

【0061】
<第3の実施形態>
図9に示すように、外管10と、外管10と接する境界面に負圧を作用させる通路5を形成し、内部空洞を有する内管11とを備える二重管構造の脱血管を試作した。この体内挿入管の外管は、周方向に開口幅が2.5mmであり、深さが1.0mmである溝2が2本形成され、2本の溝の間は2mmに設定されている。溝2の底部には、外管10と接する内管11の境界面に深さ0.5mmの部分を切削加工して形成した通路5と連結する穴が設けてある。

【0062】
本実施形態の組織自己接合型脱血管に加温性能を実験したところ,第1の実施形態と同様の性能を確認した。第1の実施形態と同じ方法、条件で体内組織器官として使用する豚の接合を行い,同様の接合性能、接合強度結果を得た。

【0063】
第1~第3の実施形態においては、主に二重管構造の脱血管について具体的に説明したが、図4及び図5に示すような一重管構造の脱血管においても同様な効果が得られることは言うまでもない。

【0064】
以上のように、本発明によれば、体内器官組織との接合において接合部分に隙間無く、高い接合強度を得ることができる。これは、体内器官組織と接触する側に前記体内器官組織の変形又は変位を起こさせるための溝、孔又は窪みを形成するだけでなく、さらに、体内挿入管と体内器官組織との間に存在する空気を排出又は吸引して、前記溝、孔又は窪みに負圧を作用させるための通路を備えることによって、大きな投錨(アンカリング)効果が得られるためである。それによって、接合部分に負圧が付与されるときに体内器官組織の前記の溝、孔又は窪みへの変形又は変位が容易となり、接合界面に接合強度を低下させるようなボイドや隙間の発生が抑制され、接合強度の一層の向上を図ることができる。したがって、本発明による体内挿入管と体内器官組織との接合方法は、従来方法で問題となっていた細菌の浸入を防止することができ、安全性が高く、且つ耐久信頼性に優れる方法である。また、本発明の体内挿入管はカフ(つば)等を有する特殊な構造とする必要が無くなるため、心臓の脱血管や送血管としてだけではなく、それ以外の生体内組織の接合又は接続のために適用できる。例えば消化管や血管等の吻合、又は人工血管と生体血管との接続に使用できるため、その有用性は極めて高い。
【符号の説明】
【0065】
1・・・体内挿入管、2・・・溝、3・・・孔、4・・・窪み、5・・・連結通路、6・・・排出口又は吸引口、7・・・内部空洞、8・・・加熱抵抗線、9・・・体内器官組織、10・・・外管、11・・・内管、12・・・空気吸引孔、13・・・Oリング、14・・・栓、15・・・熱電対、16・・・導線出口、17・・・脱血管、18・・・カフ(つば)、19・・・心臓、20・・・巾着縫合、21・・・送血管、22・・・空気、23・・・・気密栓、24・・・ピエゾ素子。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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