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明細書 :育苗期病害耐病性植物種子の製造方法及び育苗期病害の発病予防及び防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-195451 (P2014-195451A)
公開日 平成26年10月16日(2014.10.16)
発明の名称または考案の名称 育苗期病害耐病性植物種子の製造方法及び育苗期病害の発病予防及び防除方法
国際特許分類 A01C   1/00        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
FI A01C 1/00 Z
A01N 63/00 F
A01P 3/00
A01G 7/00 604Z
C12N 1/00 P
C12N 1/14 A
C12N 1/20 A
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2014-045598 (P2014-045598)
出願日 平成26年3月7日(2014.3.7)
優先権出願番号 2013047121
優先日 平成25年3月8日(2013.3.8)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】有江 力
【氏名】寺岡 徹
【氏名】野中 陽子
【氏名】加藤 亮宏
【氏名】田中 淳
【氏名】徳永 智美
【氏名】倉内 賢一
【氏名】鈴木 智貴
出願人 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
【識別番号】591074736
【氏名又は名称】宮城県
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180954、【弁理士】、【氏名又は名称】漆山 誠一
審査請求 未請求
テーマコード 2B022
2B051
4B065
4H011
Fターム 2B022EA10
2B051AA01
2B051AB01
2B051BA09
2B051BA19
2B051BA20
2B051BB02
4B065AA15X
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4B065AA50X
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4B065AA65X
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4B065AC20
4B065CA47
4H011AA01
4H011BB21
4H011DA15
4H011DD03
要約 【課題】安定的な食料生産と供給のために、イネばか苗病等の育苗期病害に対して高い耐病効果を有し、安全かつ安価に供給可能な微生物農薬を開発することである。
【解決手段】種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を微生物農薬として開花期前後の宿主植物花部に接触させ、その後に得られる前記非病原性菌が定着した宿主植物の種子を回収することによって調製される育苗期病害耐病性植物の種子製造方法および、その種子を用いた育苗期病害の防除方法を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を開花期前後の宿主植物の花部に接触させる工程、
前記工程後に得られる前記非病原性菌が定着した宿主植物の種子を回収する工程
を含む、育苗期病害耐病性植物の種子製造方法。
【請求項2】
前記宿主植物がイネ科植物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記イネ科植物がイネである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非病原性菌がFusarium属菌、Nectria属菌、Gibberella属菌、Calonectria属菌、Hypomyces属菌、Trichoderma属菌、Penicillium属菌、Talaromyces属菌、Acremonium属菌、Alternaria属菌、Verticillium属菌、Bacillus属細菌、Pseudomonas属細菌、Xanthomonas属細菌及びStreptomyces属細菌からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記非病原性菌がFusarium oxysporum、Fusarium moniliforme、Fusarium fujikuroi、Fusarium proliferatum、及びFusarium sacchariからなる群から選択されるFusarium属菌由来である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記非病原性菌が受託番号NITE BP-01538又はNITE BP-01539である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を開花期前後の宿主植物の花部に接触させることによって得られる育苗期病害耐病性植物の種子。
【請求項8】
前記宿主植物がイネ科植物である、請求項7に記載の種子。
【請求項9】
前記非病原性菌が請求項4~6のいずれかに記載の非病原性菌である、請求項7又は8に記載の種子。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の育苗期病害耐病性植物の種子を用いる育苗期病害の発病予防及び防除方法。
【請求項11】
前記植物がイネ科植物である、請求項10に記載の予防及び防除方法。
【請求項12】
前記育苗期病害が種子伝染性病害及び土壌伝染性病害である、請求項10又は11に記載の予防及び防除方法。
【請求項13】
種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を有効成分とする育苗期病害防除用微生物農薬。
【請求項14】
イネ科植物適用用である、請求項13に記載の微生物農薬。
【請求項15】
前記非病原性菌が請求項4~6のいずれかに記載の非病原性菌である、請求項13又は14に記載の微生物農薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、種子伝染性病原菌に対応する非病原菌を利用した育苗期病害耐病性植物種子を製造する方法、及び育苗期病害耐病性植物種子を用いて翌世代での育苗期病害の発病を予防、防除する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の種子伝染性病害は、土壌伝染性病害と共に育苗期病害に位置づけられる。種子伝染性病害を引き起こす種子伝染性病原菌は、保菌種子によって翌世代に伝搬され、翌世代の苗植物に感染することで拡大する場合が多い。
【0003】
例えば、イネばか苗病は、Fusarium fujikuroi(完全世代名Gibberella fujikuroi)に属するイネばか苗病菌によって引き起こされる農業上重要なイネの種子伝染性病害である。このイネばか苗病菌が定着したイネ種子(種籾)が発芽すると、周辺の健康なイネ苗に病原菌が伝播するのみならず、感染した植物体は異常な徒長及び黄化症状を示し、その後枯死に至る。枯死した植物体では、葉鞘下部表面に本菌の分生子が多数形成され、この分生子が飛散して周辺の健全株の花部や雌蕊や葯や葯骸に付着して籾が汚染される。その籾は、保菌種子として翌年の伝染源となる(非特許文献1)。
【0004】
本病害はベノミル剤やペフラゾエート等の化学農薬による種子消毒によって効果的に防除可能であり、それ故、圃場では長らく沈静化していた。ところが、化学農薬への過度の依存は耐性菌の出現を早めることから、これらの薬剤の無効化が懸念された。さらに、イプコナゾール等の作用機作が異なる殺菌剤を用いることで、本病は沈静化していた。しかし、化学農薬の使用には耐性菌の出現のリスクが常に存在しており、また環境汚染、及び米への残留等の問題も残る。さらに、昨今は環境への関心の高まりと共に、環境と調和した持続可能な農業への移行が求められており、化学農薬の代替防除技術として、例えば、温湯浸漬法のような物理的防除法や、微生物農薬による生物的防除法が普及し始めている。これらの方法は、安全な農産物を生産して消費者に安心感を与え、植物保護による環境負荷を低減し、また化学農薬を利用し難い病害虫等を制御することを目標としている。
【0005】
しかし、その一方で従来の物理的防除法や生物的防除法は、化学農薬に比べて効果が不安定で、イネばか苗病をはじめとする種子伝染性病害の発生を十分に抑制できないという問題や、処理にかかる労働力が増加するという問題があった。その他にも、微生物農薬の場合にはコスト面での問題が、また物理的防除法の場合には処理の煩雑さや種子発芽率低下等の問題があった。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】作物病害事典、岸國平編、全国農村教育協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安定的な食料生産と供給のために、種子伝染性病害及び土壌伝染性病害を含む育苗期病害に対して高い防除効果を有し、安全、かつ安価に供給可能な生物的防除資材微生物を開発し、それを有効成分とする微生物農薬を提供すること、及び当該微生物農薬の効果的な処理方法を確立し、育苗期病害を効果的に防除することによって、栽培者の労力やコストを低減し、安全な農産物を安定的に栽培できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述のように微生物農薬を用いる生物的防除法は、その効果が安定しないという大きな問題がある。その原因の一つとして、有効成分である微生物が防除効果を発揮するまでの期間、植物体上や組織内、根圏等に定着することの困難性が挙げられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、種子伝染性病原菌に対応し、植物に定着性を有する非病原性菌を、開花期の宿主植物の花部に噴霧等の方法で処理して予め非病原性菌が定着した種子を製造することによって、翌世代の植物体に非病原菌を定着させ、育苗期病害に対する生物的防除能を引き出す技術を着想した。実験の結果、翌世代の苗等の植物体は、非病原性菌に占有され、及び/又は病原菌に対する抵抗性を獲得することによって、種子伝染性病害のみならず、土壌伝染性病害を含む育苗期病害の発生を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、当該知見に基づくものであり、以下を提供する。
(1)種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を開花期前後の宿主植物の花部に接触させる工程、前記工程後に得られる前記非病原性菌が定着した宿主植物の種子を回収する工程を含む、育苗期病害耐病性植物種子の製造方法。
(2)前記宿主植物がイネ科植物である、(1)に記載の製造方法。
(3)前記イネ科植物がイネである、(2)に記載の製造方法。
(4)前記非病原性菌がFusarium属菌、Nectria属菌、Gibberella属菌、Calonectria属菌、Hypomyces属菌、Trichoderma属菌、Penicillium属菌、Talaromyces属菌、Acremonium属菌、Alternaria属菌、Verticillium属菌、Bacillus属細菌、Pseudomonas属細菌、Xanthomonas属細菌及びStreptomyces属細菌からなる群から選択される、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記非病原性菌がFusarium oxysporum、Fusarium moniliforme、Fusarium fujikuroi、Fusarium proliferatum、及びFusarium sacchariからなる群から選択されるFusarium属菌である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記非病原性菌が受託番号NITE BP-01538又はNITE BP-01539である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(7)種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を開花期前後の宿主植物の花部に接触させることで得られる育苗期病害耐病性植物の種子。
(8)前記宿主植物がイネ科植物である、(7)に記載の種子。
(9)前記非病原性菌が、(4)~(6)のいずれかに記載の非病原性菌である、(7)又は(8)に記載の種子。
(10)(7)又は(8)に記載の育苗期病害耐病性植物の種子を用いる育苗期病害の発病予防及び防除方法。
(11)前記植物がイネ科植物である、(10)に記載の予防及び防除方法。
(12)前記育苗期病害が種子伝染性病害及び土壌伝染性病害である、(10)又は(11)に記載の予防及び防除方法。
(13)種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を有効成分とする育苗期病害防除用微生物農薬。
(14)イネ科植物適用用である、(13)に記載の微生物農薬。
(15)前記非病原性菌が、(4)~(6)のいずれかに記載の非病原性菌である、(13)又は(14)に記載の微生物農薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明の育苗期病害耐病性植物種子によれば、育苗期病害に耐病性の実生個体(苗)を製造、提供することができる。
【0011】
本発明の育苗期病害耐病性植物種子の製造方法によれば、育苗期病害に耐病性の植物種子を、簡便かつ効率的に製造することができる。
【0012】
本発明の育苗期病害の発病予防及び防除方法によれば、育苗期病害の発病の予防及び防除ができる。
【0013】
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬によれば、育苗期病害を効率的に予防及び防除するための、安価で高効率な微生物農薬を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.育苗期病害耐病性植物種子の製造方法
本発明の第1の態様は、育苗期病害耐病性植物種子の製造方法(本明細書ではしばしば「製造方法」と称する)に関する。本発明の製造方法によれば、生物的防除資材微生物の利用により、育苗期病害に対してあたかも抵抗性品種のような耐病性を獲得した植物種子を製造し、それを提供することができる。

【0015】
1-1.定義
以下で本明細書において使用する各用語について定義する。
「育苗期病害」とは、育苗期に感染し、あるいは、発病する植物病害で、種子伝染性病害及び土壌伝染性病害が含まれる。

【0016】
「種子伝染性病害」は、種子伝染性病原菌の感染により発生する植物病害で、浸種時又は発芽時に種子伝染性病原菌が定着した種子等を介して当該植物株のみならず周辺株に伝播する病害である。一方、「土壌伝染性病害」は、元来、土壌中に生存する病原菌の感染により発生する植物病害である。

【0017】
「種子伝染性病原菌」とは、宿主植物に形成される花部に感染した後、種子に定着し、その実生個体に病害症状をもたらす微生物をいう。本明細書において「実生個体」とは、種子から発芽した苗及びそれが生長した植物個体をいう。また、本明細書において「微生物」とは、通常、肉眼での認識が困難な微小生物、例えば、細菌(バクテリア)や菌をいう。菌は、生物分類上で菌界(Kingdom of fungi)に属する真核生物群で、時に、真菌、糸状菌と呼ばれることもある。菌は、酵母のような単細胞真核微生物、又は肉眼での認識が比較的困難な糸状菌(かびを含む)若しくはきのこのような多細胞真核微生物を含む。

【0018】
種子伝染性病原菌は、前述のように、ある特定の微生物種に包含される病原性を有する集団である。種子伝染性病原菌を包含する微生物の例として、細菌であればBacillus属細菌、Pseudomonas属細菌(現Burkholderia属細菌及びAcidovorax属細菌を含む)、Xanthomonas属細菌、Streptomyces属細菌等が、また菌であればFusarium属菌、Nectria属菌、Gibberella属菌、Calonectria属菌、Hypomyces属菌、Trichoderma属菌、Penicillium属菌、Talaromyces属菌、Acremonium属菌、Alternaria属菌、Verticillium属菌等が挙げられる。Fusarium属菌には、例えば、F. oxysporum、F. moniliforme、F. fujikuroi、F. proliferatum、又はF. sacchariが含まれる。なお、Fusarium属は、Gibberella属の主要な不完全世代名であり、本明細書でGibberella属は、Fusarium属のシノニムとする。種子伝染性病原菌の宿主植物への感染経路や感染時期は、種類によって多少の差異はあるものの、一般には宿主植物の花期に花部に感染し、その後、種子及び/又は子房(イネ科植物においては頴果)に定着する。種子伝染性病原菌は、それを保菌した種子の発芽、及び実生個体の生長と共に植物組織や根圏等に定着し、さらに周辺の健康な株に伝播して増殖し、その菌種に特有の種子伝染性病害を発病させる。種子伝染性病害の具体例としては、イネばか苗病(Gibberella fujikuroiによる)、いもち病(Magnaporthe oryzaeによる)、苗立枯病(Fusarium属菌、Pythium属菌、Rhizoctonia属菌、Trichoderma属菌による)、ごま葉枯病(Cochliobolus miyabeanusによる)、苗立枯細菌病(Pseudomonas plantarii(現Burkholderia plantarii)による)、もみ枯細菌病(Pseudomonas glumae(現Burkholderia glumae)による)、褐条病(Pseudomonas avenae(現Acidovorax avenae))が挙げられる。

【0019】
種子伝染性病原菌の宿主植物は、被子植物及び裸子植物が該当する。被子植物は、双子葉植物又は単子葉植物のいずれであってもよい。単子葉類植物では、例えば、イネ科(Poaceae)植物が挙げられる。また、双子葉類植物であれば、バラ科(Rosaceae)植物、ナス科(Solanaceae)植物、マメ科(Fabaceae)植物、ウリ科(Cucurbitaceae)植物、アブラナ科(Brassicaceae)植物等が挙げられる。好ましくはイネ科植物である。本明細書におけるイネ科植物には、例えば、イネ(Oryza sativa及びO. glaberrima)、コムギTriticum aestivum、T. compactum、及びT. durum)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライムギ(Secale cereale)、キビ(Panicum miliaceum)、アワ(Setaria italica)、ヒエ(Echinochloa esculenta)、モロコシ(Sorghum bicolor)、トウモロコシ(Zea mays)、サトウキビ(Saccharum officinarum)等の農業上重要な種が含まれる。好ましくはイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、サトウキビであり、より好ましくはイネである。

【0020】
「生物的防除資材微生物」とは、本願明細書における「種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌」と同義である。ここでいう「対応する」とは、分類学上互いに主に同種又は同属又は近縁であること、あるいは、生物的防除効果を持つことを意味する。したがって、「種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌」とは、前述のように、ある特定の微生物種において、種子伝染性病原菌と分類学上同種でありながら病原性を有さない集団をいう。例えば、イネばか苗病菌に対応する非病原性菌であれば、Fusarium属菌、例えば、F. oxysporumやF. fujikuroiの非病原性菌が該当する。生物的防除資材微生物は、宿主植物への高い感染性と定着性を保持しながら、宿主植物に対して病害症状を示さないという特徴を有する。生物的防除資材微生物が定着した宿主植物は、種子伝染性病害のみならず土壌伝染性病害を含む育苗期病害全般に対しても耐病性となる。生物的防除資材微生物の具体例としては、Fusarium oxysporum 非病原性株W3(受託番号:NITE BP-01538)又はFusarium oxysporum 非病原性株W5(受託番号:NITE BP-01539)が挙げられる。これらの生物的防除資材微生物は、2013年2月13日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に日本に原寄託されている。

【0021】
「育苗期病害耐病性植物」とは、生物的防除資材微生物が定着した植物であって、種子伝染性病害及び土壌伝染性病害を含む育苗期病害全般に対して耐病性を示し、それらの病害の明瞭な症状が現われない植物をいう。

【0022】
1-2.生物的防除資材微生物の分離方法
本明細書に記載の発明において使用する生物的防除資材微生物の分離方法について説明する。前述のように、生物的防除資材微生物は自然界に広く存在することから、植物体から比較的容易に分離することができる。例えば、Tateishi H. & Chida T. 2000, J. Gen. Plant Pathol., 66: 353-359に記載の方法を参照すればよい。

【0023】
(1)分離源
生物的防除資材微生物の分離源は、種子伝染性病害の発生圃場内においてその病害に罹患した植物株の周辺に生育する健全な同種株の植物組織(葉、胚軸、葉鞘、葉柄、茎、花器、果実、根部等)やその根圏土壌とすればよい。前記植物組織を分離源とする場合には、組織表面を消毒しておくことが好ましい。消毒は、例えば、採取した植物組織片約1cm2を70%エタノールに30秒間、続いて1%次亜塩素酸に3分間浸漬して組織表面を殺菌後、滅菌水で洗浄すればよい。ただし、エタノールや次亜塩素酸の濃度及び浸漬時間は特に限定するものでなく、植物組織の部位等によって当該分野で公知の技術に基づき、適宜調整すればよい。

【0024】
(2)分離方法
生物的防除資材微生物が真菌の場合、表面殺菌後の植物組織を滅菌したピンセット、メス等を用いて1cm2程度の組織片に切り分けて培地上に置床する。培地は、PSA(ジャガイモ煎汁寒天培地:200 g/L ジャガイモ煎汁、0.5%[w/v]ショ糖、1.5%[w/v]寒天)やWA(素寒天培地:1% 寒天)を用いればよい。その他、分離すべき生物的防除資材微生物の属名が明確な場合には、その属に適合した選択培地を用いることもできる。細菌のコンタミネーションを防ぐため、培地上に予め20%乳酸を塗布しておくことが望ましい。前記植物組織を置床した培地を25~30℃で2~5日培養する。培地プレート上で生育した単一コロニー(単細胞真核微生物の場合)、菌糸先端(糸状菌又は担子菌の場合)、胞子又は分生子を新しい培地プレートに再移植して単一コロニー株を確立する。

【0025】
また、生物的防除資材微生物が細菌の場合も同様に、表面殺菌後の植物組織を滅菌したピンセット、メス等を用いて1cm2程度の組織片に切り分けて培地上に置床する。培地は、PSAやKing B培地(2%[w/v]ペプトン、1%[w/v]グリセリン、0.15%[w/v]リン酸水素二カリウム、0.15%[w/v]硫酸マグネシウム・七水和物、1.5%[w/v]寒天)の他、分離すべき生物的防除資材微生物の属名が明確な場合には、その属に適合した選択培地を用いることもできる。前記植物組織を置床した培地を25~30℃で1~3日培養する。発生した単一コロニーを掻き取り、新しい培地プレートに移植して、再び生育したコロニーを単一株として確立する。

【0026】
(3)非病原性菌の分離
分離した種子伝染性病原菌が非病原性菌、すなわち、本発明に使用する生物的防除資材微生物であるか否かは、上記(2)で単一株として確立した微生物を、宿主植物の苗に感染させ、その苗に特徴的な病害症状が現れないことを確認することによって分離すればよい。

【0027】
1-3.構成
本発明の育苗期病害耐病性植物の種子製造方法は、接触工程及び回収工程を含む。以下、各工程について具体的に説明をする。

【0028】
(1)接触工程
「接触工程」とは、開花期前後の宿主植物の花部に生物的防除資材微生物を接触させる工程である。

【0029】
この工程では、宿主植物の花部に種子伝染性病原菌が感染し、その種子に定着する前に、いずれかの生物的防除資材微生物を宿主植物に定着させる。

【0030】
本明細書において「開花期」とは、宿主植物が開花している期間をいう。「開花期前後」とは、宿主植物の開花が始まる前及び開花が終了した後を含む期間をいう。この期間は、開花期を挟んで前後2週間、好ましくは前後10日間、より好ましくは前後1週間又は前後5日間である。例えば、宿主植物がイネで、開花期を挟んで前後2週間の場合、イネにおいて幼穂が急速に生長する幼穂発育期からその株における開花期が完了して種子が成熟する前までの期間が該当する。

【0031】
前述のように、生物的防除資材微生物を宿主植物の花部に接触させる時期は、所定の地域で発生している又は発生のおそれがある種子伝染性病原菌が宿主植物に感染する前とする。種子伝染性病原菌が生物的防除資材微生物よりも先に宿主植物に感染した場合、種子伝染性病原菌による他の微生物の感染を排除する作用(競合作用)により生物的防除資材微生物が宿主植物に感染できず、本発明の効果を得ることができないためである。

【0032】
接触させる生物的防除資材微生物の種類は特に問わない。一般に、いずれかの生物的防除資材微生物が未感染の宿主植物に感染した場合、その感染した生物的防除資材微生物による占有と競合作用により、及び/又は生物的防除資材微生物の感染で宿主植物において誘導される抵抗性により、他の種子伝染性病原菌の感染が困難となる。本発明はこの原理を利用したものであって、生物的防除資材微生物を宿主植物に接触させることにより、微生物種を問わず、種子伝染性病原菌を含む育苗期病害の病原菌がその後に感染することを防除できる。それ故、本製造方法で得られる宿主植物の種子は、育苗期病害に対して耐病性となり得る。通常は、育苗期病害耐病性植物の種子を播種すべき地域で発生している又は発生する恐れのある種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌を用いればよい。例えば、イネばか苗病が発生している圃場であれば、イネばか苗病菌に対応するFusarium属菌の非病原性菌を生物的防除資材微生物として用いればよい。例えば、Fusarium属菌由来の非病原性菌であるFusarium oxysporum W3株(受託番号:NITE BP-01538)又はFusarium oxysporum W5株(受託番号:NITE BP-01539)を用いることができる。もちろん、前述の理由から、他の種子伝染性病原菌に対応する非病原性菌由来の生物的防除資材微生物であっても同等の効果を得ることが可能である。ただし、接触させる生物的防除資材微生物は、異なる複数菌種の混合物ではなく、単一菌種を接触させることが望ましい。

【0033】
生物的防除資材微生物の接触回数は限定しない。イネ科植物のように小穂に含まれる小花が連続して開花する種では、全ての花部にくまなく生物的防除資材微生物を感染させるために数回にわたって本工程を行ってもよい。ただし、各回で接触させる生物的防除資材微生物は、前述の理由から同一株であることが望ましい。

【0034】
生物的防除資材微生物の宿主植物への接触方法は、生物的防除資材微生物を接触することができる方法であれば特に制限はしない。例えば、後述する生物的防除資材微生物の培養液、懸濁液、粉剤等を噴霧、散布、塗布、浸漬する等の方法が挙げられる。宿主植物への接触場所は、宿主植物体の一部又は全体のいずれであってもよいが、植物体の一部に接触させる場合、生物的防除資材微生物の宿主植物感染経路に関連する部位、すなわち花部に接触させる点に留意する。

【0035】
(2)回収工程
「回収工程」とは、前記接触工程後に得られる前記生物的防除資材微生物が定着した宿主植物の種子を回収する工程である。前記接触工程で宿主植物の花部に接触した生物的防除資材微生物は、通常、頴娃や種皮や胚珠組織に定着する。宿主植物は、受粉後に非病原性変異株が定着した種子を発達させる。したがって、本工程では、発芽能力を有するまで十分に成熟した種子を当該分野で公知の方法により回収すればよい。接触工程後の宿主植物から得られる種子は、原則、育苗期病害耐病性植物の種子とみなすことができる。

【0036】
回収工程後、保存性を向上させるために必要に応じて種子を乾燥させてもよい。乾燥方法は、種子の発芽能を保持し、定着している生物的防除資材微生物が死滅しない範囲において、種子中の水分を適度に減じる方法であれば、いずれの方法であってもよい。例えば、外気に晒す自然乾燥法、除湿剤とともに密閉容器内に入れる除湿乾燥法、送風装置等を用いて温風や冷風を送り乾燥させる風乾燥法又はそれらの組み合わせが挙げられる。その後の種子保管方法は、当該分野で周知の方法に従えばよい。

【0037】
また、必要であれば回収工程後の種子が生物的防除資材微生物の定着した保菌種子であるか否かを確認することもできる。保菌種子候補の一部又は全部から核酸を調製後に、接触させた生物的防除資材微生物の遺伝子に特有の塩基配列をプライマーとして設計し、PCR等の核酸増幅法により、当該技術に基づき容易に確認すればよい。例えば、生物的防除資材微生物がFusarium oxysporumの場合であれば、リボソームDNA IGS領域が生物的防除資材微生物か否かを同定し得る特有の塩基配列となり得る。それ故、その領域を増幅するプライマーセットとして用いればよい。具体的には、例えばFIGS11(5’-GTAAGCCGTCCTTCGCCTCG-3’:配列番号1)及びFIGS12(5’-GCAAAATTCAATAGTATGGC-3’:配列番号2)が挙げられる。このプライマーセットを用いることで、Fusarium oxysporum W3株(受託番号:NITE BP-01538)であれば配列番号3に記載の塩基配列を有するDNA断片が、またFusarium oxysporum W5株(受託番号:NITE BP-01539)であれば配列番号4に記載の塩基配列を有するDNA断片が、増幅される。したがって、Fusarium oxysporum由来のいずれの生物的防除資材微生物が定着しているかを確認、及び同定することができる。

【0038】
得られた育苗期病害耐病性植物の種子の実生個体は、生物的防除資材微生物の保菌種子であることから生物的防除資材微生物が有する競合作用により、育苗期病害耐病の株として病害症状を発病することなく生育できる。

【0039】
1-4.効果
本発明の育苗期病害耐病性植物の種子製造方法によれば、その種子の実生個体があたかも育苗期病害抵抗性品種のようにあらゆる育苗期病害に対して耐病性となる植物種子を簡便に製造し、提供することができる。

【0040】
本発明の育苗期病害耐病性植物の種子製造方法は、少なくとも採種用の植物に対してのみ行えば足りることから、生物的防除資材微生物の散布域も最小限に限定することが可能で、それ故、環境影響も小さく、また経済的にも優れている。

【0041】
本発明の育苗期病害耐病性植物の種子によれば、播種前の種子に種子伝染性病害に対する防除処理又は発病抑制処理を行う必要がなく、通常通り播種するだけで育苗期病害を発病しない宿主植物を栽培することができるので、労力削減やコスト削減も可能となる。また、化学農薬による種子消毒が不要となるか、低減できる。

【0042】
本発明の育苗期病害耐病性植物の種子製造方法は、自然界に存在する非病原性菌を利用した微生物農薬であることから安全性が高く、化学農薬と比較して環境に対する影響が小さい。

【0043】
2.育苗期病害の発病予防及び防除方法
本発明の第2の態様は、育苗期病害の発病予防及び防除方法に関する。本発明によれば、育苗期病害耐病性植物種子の実生個体及び該実生個体周辺の他植物個体における育苗期病害の発病を予防し、また防除することができる。

【0044】
2-1.構成
本発明の育苗期病害の発病方法(以下、本明細書ではしばしば「予防防除方法」と称する)は、生物的防除資材微生物を定着させた第1態様に記載の育苗期病害耐病性植物の種子を用いる。本発明の予防防除方法の基本的工程は、育苗期病害耐病性植物の植物種における通常の栽培方法を行うだけでよい。ただし、播種に先立って行われる種子消毒については、行う必要はない。

【0045】
イネを例に挙げて説明すると、育苗期病害耐病性イネの種籾を催芽させ、培養土を入れた容器(苗箱等)に播種して育苗する。その後、苗を圃場に定植し、常法により栽培すれば足りる。

【0046】
第1態様に記載の育苗期病害耐病性植物の種子は、生物的防除資材微生物が定着している。しかし、生物的防除資材微生物は、非病原性菌であるため育苗期病害を発病することはない。したがって、その苗は、種子伝染性病害や土壌伝染性病害を含む育苗期病害の病原菌の感染を効率的に予防及び防除することができる。

【0047】
さらに、育苗期病害耐病性植物の種子に定着している生物的防除資材微生物は、非病原性菌ではあるが感染性を保持していることから、育苗期病害耐病性植物の種子を種子伝染性病原菌非感染の種子と共に栽培した場合、浸種~育苗期に周辺の健苗にも伝播し得る。しかし、それによって生物的防除資材微生物の占有や、それに感染した植物自身により誘導される病原菌抵抗性が生じ、その後の種子伝染性病害や土壌伝染性病害を含む育苗期病害の病原菌の感染を効率的に予防及び防除することができる。

【0048】
2-2.効果
本発明の予防防除方法によれば、種子伝染性病害や土壌伝染性病害を含む育苗期病害を、特別な処理を必要とすることなく、効率的に予防及び防除することができる。

【0049】
本発明の予防防除方法によれば、従来播種前に行われていた種子消毒が必須ではなくなることから、労力削減やコスト削減が可能となる。

【0050】
本発明の予防防除方法によれば、第1態様に記載の育苗期病害耐病性植物の種子の実生個体のみならず、それと共に栽培した健苗個体においても種子伝染性病害や土壌伝染性病害を含む育苗期病害の病原菌の感染を効率的に予防及び防除することができる。

【0051】
3.育苗期病害防除用微生物農薬
本発明の第3の態様は、育苗期病害防除用微生物農薬に関する。本発明の育苗期病害防除用微生物農薬は、所望の植物に施用することで、その植物に育苗期病害耐病性を賦与することができる。

【0052】
3-1.構成
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬は、生物的防除資材微生物を有効成分とする。
生物的防除資材微生物は、第1態様に記載の生物的防除資材微生物を用いればよい。生物的防除資材微生物の具体例としては、例えば、イネばか苗病菌を発病させるFusarium fujikuroiに近縁種の非病原性菌Fusarium oxysporum W3株(受託番号:NITE BP-01538)又はFusarium oxysporum W5株(受託番号:NITE BP-01539)が挙げられる。本発明の効果を奏するためには、生物的防除資材微生物が宿主植物に対して定着性を維持している必要がある。したがって、本発明の微生物農薬中の生物的防除資材微生物は生存状態で保持されていなければならない。

【0053】
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬の所定量あたりにおける生物的防除資材微生物の量は、その種類、施用対象植物の種類、剤形、及び施用(接触)方法等の諸条件によって左右される。通常は、本発明の微生物農薬を施用する際に有効成分の生物的防除資材微生物が施用対象植物に接触、定着する上で十分な量を含んでいることが好ましい。この量は、当該分野の技術常識の範囲において本発明の微生物農薬に含有される生物的防除資材微生物が施用後に対象植物に対して所望の量となるように各条件を勘案し、生物的防除資材微生物の含有量を決定すればよい。例えば、生物的防除資材微生物がFusarium属由来で、本発明の微生物農薬が液体状態の場合には、その分生子が溶液中に1.0×104個/mL以上、好ましくは5.0×104個/mL以上含まれていればよい。上限は特に制限はしないが、感染率が低い生物的防除資材微生物であっても通常は1.0×109個/mLもあれば足りる。

【0054】
本発明の微生物農薬は、生物的防除資材微生物の宿主植物感染活性を阻害又は抑制しない範囲において農薬製剤上許容可能な担体を含むことができる。

【0055】
「農薬製剤上許容可能な担体」とは、微生物農薬の施用を容易にし、有効成分である生物的防除資材微生物の生存性及び感染性を維持又は/及び微生物農薬の作用速度を制御する物質であって、野外及び屋内を含む植物の栽培に施用しても土壌及び水質等の環境に対する有害な影響がないか又は小さい、又は動物、特にヒトに対する有害性がないか又は低い物質をいう。例えば、賦形剤が挙げられる。好適な賦形剤としては、粉砕天然鉱物、粉砕合成鉱物、乳化剤、分散剤及び界面活性剤等が挙げられる。

【0056】
粉砕天然鉱物には、例えば、カオリン、クレイ、タルク及びチョークが挙げられる。
粉砕合成鉱物には、例えば、高分散シリカ及びシリケートが挙げられる。乳化剤としては、非イオン性乳化剤やアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、アルキルスルホネート及びアリールスルホネート)が挙げられる。

【0057】
分散剤としては、例えば、リグノ亜硫酸廃液及びメチルセルロースが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、リグノスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルフェート、アルキルスルホネート、脂肪アルコールスルフェート、脂肪酸及び硫酸化脂肪アルコールグリコールエーテル、さらに、スルホン化ナフタレン及びナフタレン誘導体とホルムアルデヒドの縮合物、ナフタレン又はナフタレンスルホン酸とフェノール及びホルムアルデヒドの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、エトキシル化イソオクチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、トリステアリルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、アルコール及び脂肪アルコール/エチレンオキシドの縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エトキシル化ポリオキシプロピレン、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセタール、ソルビトールエステル、リグノ亜硫酸廃液、及びメチルセルロースが挙げられる。

【0058】
本発明の微生物農薬は、前記農薬製剤上許容可能な担体を1以上包含することが可能である。また、この他に、生物的防除資材微生物の感染に影響しない範囲において、他の薬理作用を有する有効成分、すなわち、除草剤、殺菌剤、殺虫剤、肥料(例えば、尿素、硝酸アンモニウム、過リン酸塩)を包含することもできる。

【0059】
本発明の微生物農薬の剤形は、生物的防除資材微生物の宿主植物定着性を保持し得る状態であれば、いかなる状態であってもよく、たとえば、生物的防除資材微生物を適当な溶液に懸濁した液体状態、固体状態(粉末状態を含む)、又はその組み合わせとすることができる。液体状態の場合、有効成分である生物的防除資材微生物を適切な溶液に懸濁したものであればよい。適切な溶液としては、例えば、水、バッファー、その生物的防除資材微生物用の培地が挙げられる。固体状態の場合、有効成分である生物的防除資材微生物が、宿主植物に作用し得る状態であれば、特に制限はしない。たとえば、顆粒状態、粉末状態、ゲルのような半固体状態が挙げられる。接触等により宿主植物に付着し、増殖、作用することを鑑みれば、粉末状(特に接着性を有する粉末状)、ゲル状であることが好ましい。

【0060】
3-2.効果
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬によれば、育苗期病害耐病性植物を簡便に製造するための、又は宿主植物の感染を予防するための、安価で効率のよい剤を提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下で本発明の実施例について具体例を示して説明するが、本発明はこの実施例の形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
育苗期病害耐病性植物における育苗期病害防除効果(1)
(目的)
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬の調製、それを用いた育苗期病害耐病性植物種子の製造方法による種子の調製、及びその種子の実生個体が育苗期病害に対して耐病性となることをポットスケールで検証した。
【実施例】
【0063】
(材料と方法)
生物的防除資材微生物には、Fusarium oxysporumの非病原性菌W3株(受託番号:NITE BP-01538)、及びW5株(受託番号:NITE BP-01539)を用いた。
【実施例】
【0064】
各生物的防除資材微生物は、PSB(ジャガイモ煎汁)培地(200 g/L ジャガイモ煎汁、0.5%[w/v]ショ糖)で28℃にて5日間振とう培養した。遠心分離(1,500×g、20分間)によって培養液中の分生子を回収し、滅菌水に1.0×105~1.0×10個/mLになるように希釈した胞子懸濁液を育苗期病害防除用微生物農薬とした。
【実施例】
【0065】
宿主植物はイネ(品種:短銀坊主)を用いた。200mLのプラスチックポットに床土として滅菌培養土を80g入れて灌水後、前記イネ2粒を親イネとして播種し、滅菌培養土20gを覆土して再度灌水した。播種後、26℃に設定した自然光条件下の人工気象室内で100日間栽培した。
【実施例】
【0066】
前記微生物農薬を親イネに接触させる方法は、親イネの最初の開花から1週間後に、イネが開花する午前中(10時~11時頃)の時間にハンドスプレーを用いて前記微生物農薬を花部に直接噴霧した(接触工程)。噴霧量は1穂当り約5mLとした。噴霧処理後の親イネを、26℃に設定した自然光条件下の人工気象室内で種子が登熟するまで栽培した。親イネの地上部が黄色く変化した頃に脱穀して種籾を採取した(回収工程)。この処理で採取した種籾を以下「W3処理済種籾」及び「W5処理済種籾」(本発明の育苗期病害耐病性植物の種子に相当する)とする。一方、微生物農薬の代わりに滅菌水を噴霧した以外、同様の操作によって採取した対照種籾を以下「無処理種籾」とする。各処理済種籾と無処理種籾は、発芽処理前にそれぞれ乾燥した。
【実施例】
【0067】
各種籾をイネばか苗病菌の原因菌である病原性Fusarium fujikuroiの胞子懸濁液(1.0×103個/mL、調製方法は生物防除資材微生物の胞子懸濁液と同じ)に浴比1:1で浸し、15℃で4日間浸漬処理を行った。その後、30℃で1日間催芽処理を行った。200mLのプラスチックポットに滅菌培養土を床土として80g入れて灌水後、各処理済種籾と無処理種籾をポットに播種し、滅菌培養土20gを覆土して再度灌水した。1ポット当りの種籾量は、浸種処理前の乾燥重量で約2 g(70粒程度)とした。W3処理済種籾、W5処理済種籾及び無処理種籾を播種したポットをそれぞれW3処理区、W5処理区及び無処理区とした。播種後、28℃に設定した自然光条件下の人工気象室内で14日間栽培し、各ポットにおけるイネの生長比較によって、本発明の効果を検定した。
【実施例】
【0068】
病徴評価は、草丈の徒長、及び黄化が観察された株をイネばか苗病罹病苗として、下記の式を用いてイネばか苗病の発病苗率、及び防除価を算出した。
【実施例】
【0069】
発病苗率(%)=罹病苗数/全立苗数×100
防除価=(無処理区の発病苗率-処理区の発病苗率)/無処理区の発病苗率×100
なお、発芽率は、各処理区間で有意な差は無く、概ね90%以上であった。
【実施例】
【0070】
(結果)
表1に結果を示す。
【表1】
JP2014195451A_000002t.gif
【実施例】
【0071】
表1に示すように、陰性対照である無処理区では、実生イネの約30.5%がイネばか苗病を発病したのに対して、育苗期病害耐病性イネの種子を播種したW3処理区及びW5処理区の実生イネの発病苗率は5%以下であった。これにより、本発明の微生物農薬を用いて育苗期病害耐病性植物の種子製造方法によって得られた種子は、育苗期病害に対して極めて高い耐病性を獲得することが実証された。また、Fusarium oxysporumの非病原性菌W3株又はW5株で処理した育苗期病害耐病性イネの種子が、別種であるFusarium fujikuroiを原因とするイネばか苗病に対して耐病性を示したことから、生物的防除資材微生物で処理し、それを定着させた育苗期病害耐病性イネの種子は、その生物的防除資材微生物種以外の病原菌を原因とする育苗期病害に対しても高い予防防除力を発揮することが立証された。
【実施例】
【0072】
<実施例2>
育苗期病害耐病性植物における育苗期病害防除効果(2)
(目的)
本発明の育苗期病害防除用微生物農薬の調製、それを用いた育苗期病害耐病性植物の種子の製造方法による種子の調製、及びその種子の実生個体が育苗期病害に対して耐病性となることを圃場スケールで検証した。
【実施例】
【0073】
(材料と方法)
Fusarium oxysporumの非病原性菌W5株(受託番号:NITE BP-01539)を用いた育苗期病害防除用微生物農薬の調製は、実施例1に準じて行った。培養液中の分生子の濃度は、1.0×105個/mLとした。
【実施例】
【0074】
宿主親植物をイネ(品種:短銀坊主)とし、上記非病原性菌を接触させるために以下の方法で栽培した。基本操作は実施例1に準じる。まず、250 mg/Lのイプコナゾール/230 mg/Lの水酸化第二銅水和剤の200倍希釈液からなる消毒剤に上記親イネの種籾を24時間浸漬し、種子消毒を行った。得られた消毒処理済の親イネ種籾を当該分野で公知の方法(慣行法)に従って育苗した。なお、前記消毒剤での処理以外には、イネばか苗病害防除を一切行っていない。
【実施例】
【0075】
一方、圃場におけるイネばか苗病の感染源には、イネばか苗病に自然感染したイネ(品種:コシヒカリ)を用いた。この感染源の種籾は、種子消毒を行わず育苗した。
両苗は発病前の播種後32日目に本田に定植した。
【実施例】
【0076】
親イネへの本発明の非病原性菌の接触は、出穂率40~50%となる定植後88日目の出穂期と、出穂率80~90%となる定植後91日目の穂揃期の2回にわたって親イネが開花する午前中(10時~11時頃)の時間にハンドスプレーを用いて前記非病原性菌を花部に直接噴霧した。噴霧量は約140mL/m2とした。噴霧処理後の親イネは慣行法に従い栽培した。親イネの定植後155日目にイネを刈り取り、脱穀して種籾を採取した。
【実施例】
【0077】
得られた各種籾についてイネばか苗病発病率を検証した。基本操作は実施例1に準じる。ただし、本実施例では、圃場でのばか苗病感染コシヒカリからの自然感染を汚染源としているため、原則、種籾を病原菌接種する必要がない。したがって、種籾の浸漬処理のみ、イネばか苗病菌胞子懸濁液に換えて滅菌水を用い、実施例1に準じて発病抑制効果を検定した。病徴評価は、草丈の徒長、及び黄化が観察された株を罹病苗として、実施例1に記載の式を用いて発病苗率、及び防除価を算出した。
【実施例】
【0078】
(結果)
表2に結果を示す。
【表2】
JP2014195451A_000003t.gif
【実施例】
【0079】
表2に示すように、育苗期病害耐病性イネの種子を播種した非病原性菌W3処理区又はW5処理区の実生イネにおけるイネばか苗病の発病苗率は、W3処理区では約30%にとどまり、防除価は65%以上であった。またW5処理区では発病苗率は約6.6%に過ぎず、90%以上の防除価を有していた。この実験により圃場スケールであっても本発明の効果が実証された。
【実施例】
【0080】
<実施例3>
(目的)
育苗期病害耐病性植物における育苗期病害防除効果(3)
本発明の育苗期病害耐病性植物種子の実生個体が育苗期病害に対して耐病性となることを実施例2よりも厳しい条件で病原菌を接種して検証した。
【実施例】
【0081】
(材料と方法)
材料及び基本操作は、実施例1及び2に準じた。ただし、本実施例では実施例2と同様に圃場で非病原性菌処理を行い、ばか苗病感染コシヒカリからの自然感染を汚染源として種籾を調製するものの、催芽処理において、種籾を滅菌水ではなく実施例1と同じ条件でイネばか苗病菌Fusarium fujikuroi胞子懸濁液に浸漬して、追加で病原菌接種を行った。これは、種子中にばか苗病菌の汚染したものが残存していて、育苗時に隣接株に拡大することを想定した防除試験である。
【実施例】
【0082】
(結果)
表3に結果を示す。
【表3】
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【実施例】
【0083】
実施例2と同様の自然感染に加え、イネばか苗病菌胞子を懸濁液で接種することで、より厳しい発病条件で処理したにもかかわらず、非病原性菌W3処理区ではイネばか苗病の発病苗率が約20%、防除価が62%、また非病原性菌W5処理区でもイネばか苗病の発病苗率が約15%、防除価が70%以上であった。したがって、育苗期病原菌による感染条件の寛厳にかかわらず本発明の効果が実証された。
【実施例】
【0084】
<実施例4>
(目的)
育苗期病害耐病性植物における育苗期病害防除効果(4)
Fusarium属菌以外の菌株を用いた場合であっても、本発明の育苗期病害耐病性植物種子の実生個体が育苗期病害に対して耐病性となることを、Trichoderma属菌株を用いてポットスケールで検証した。
【実施例】
【0085】
(材料と方法)
材料及び基本操作は、実施例1に準じた。ただし、本実施例では、Fusarium oxysporumの非病原性菌W5と共に、微生物農薬として市販されているTrichoderma atrovidide SKT-1菌株(商品名:エコホープ、クミアイ化学)を用いた。また、分生子は液体培養でなく、平板培養で形成されたものをかきとって使用した。分生子の濃度は1.0×105個/mLとし、花部への噴霧は、定植後87日目から、2日ごとに計4回行った。
【実施例】
【0086】
(結果)
表4に結果を示す。
【表4】
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【実施例】
【0087】
表4に示すように、Trichoderma菌処理区では、発病苗率は約6.0%にとどまり、防除価は50%以上であった。この実験により、Fusarium oxysporumの非病原性菌であるW3株及びW5株のみならず、Trichoderma属菌を用いた場合であっても、本発明の効果が実証された。したがって、本発明は、Fusarium属菌及びTrichoderma属菌を含む広範な菌を用いて実施可能であると考えられる。