TOP > 国内特許検索 > 透明磁性金属膜とその製造方法 > 明細書

明細書 :透明磁性金属膜とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-154192 (P2016-154192A)
公開日 平成28年8月25日(2016.8.25)
発明の名称または考案の名称 透明磁性金属膜とその製造方法
国際特許分類 H01F  10/14        (2006.01)
FI H01F 10/14
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2015-032022 (P2015-032022)
出願日 平成27年2月20日(2015.2.20)
発明者または考案者 【氏名】生田 博志
【氏名】畑野 敬史
【氏名】飯田 和昌
【氏名】角谷 直紀
【氏名】千原 真志
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100087723、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 修
【識別番号】100165962、【弁理士】、【氏名又は名称】一色 昭則
審査請求 未請求
テーマコード 5E049
Fターム 5E049AA01
5E049BA30
5E049DB04
5E049FC10
要約 【課題】金属の薄膜でありながら光を透過する透明磁性金属膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】透明磁性金属膜体100は、基板110と、透明磁性金属膜120と、を有している。透明磁性金属膜120は、Feを成分とするものである。透明磁性金属膜120では、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって光の透過率が50%以上である。また、この透明磁性金属膜120は、強磁性を示す薄膜である。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
透明磁性金属膜において、
Feを成分とするものであり、
400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって光の透過率が50%以上であること
を特徴とする透明磁性金属膜。
【請求項2】
請求項1に記載の透明磁性金属膜において、
電気絶縁性であること
を特徴とする透明磁性金属膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透明磁性金属膜において、
平均膜厚は30nm以下の範囲内であること
を特徴とする透明磁性金属膜。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の透明磁性金属膜において、
基板に成膜されたものであり、
前記基板の格子定数とα-Feの格子定数とが、次式
0.01 ≦ |b1-b2|/b1 ≦ 0.10
a1:α-Feの格子定数
a2:基板の格子定数
b1=(2)12 ×a1 または b1=a1
b2=a2/n
n:自然数
を満たす自然数nが存在すること
を特徴とする透明磁性金属膜。
【請求項5】
透明磁性金属膜の製造方法において、
真空容器に基板を配置し、
前記真空容器の内圧を10-5Pa以下とし、
第1の温度の前記基板にFeを成膜し、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記基板を熱処理すること
を特徴とする透明磁性金属膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の透明磁性金属膜の製造方法において、
前記第2の温度は、
670℃以上1000℃以下の範囲内であること
を特徴とする透明磁性金属膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の透明磁性金属膜の製造方法において、
平均膜厚を30nm以下の範囲内として成膜すること
を特徴とする透明磁性金属膜の製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載の透明磁性金属膜の製造方法において、
前記基板の格子定数とα-Feの格子定数とが、次式
0.01 ≦ |b1-b2|/b1 ≦ 0.10
a1:α-Feの格子定数
a2:基板の格子定数
b1=(2)12 ×a1 または b1=a1
b2=a2/n
n:自然数
を満たす自然数nが存在するような前記基板を用いること
を特徴とする透明磁性金属膜の製造方法。
【請求項9】
請求項5から請求項8までのいずれか1項に記載の透明磁性金属膜の製造方法において、
分子線エピタキシー法により前記基板にFeを成膜すること
を特徴とする透明磁性金属膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、透明磁性金属膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性薄膜は、ハードディスクドライブの磁気ヘッド、磁気センサー、電流センサー、電力センサー、といった広範にわたる応用分野を有する技術である。
【0003】
例えば、Fe-Pt系の合金がハードディスクドライブの媒体用材料として用いられている。特許文献1には、Pt-Fe-Pを成分とする磁性薄膜について開示されている。PtとFeに、Pを添加して合金化することにより、Pt-Fe二元系合金よりも低い温度で規則化することができる磁性薄膜が得られる旨が開示されている(特許文献1の段落[0008])。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-60347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、強磁性を備える薄膜を成膜するには、金属を用いることが多い。金属は一般に、金属光沢を備える。そのため、光を透過する金属薄膜は、これまでに知られていない。
【0006】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。その課題とは、金属の薄膜でありながら光を透過する透明磁性金属膜とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における透明磁性金属膜は、Feを成分とするものである。また、透明磁性金属膜では、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって光の透過率が50%以上である。
【0008】
この透明磁性金属膜は、鉄を成膜されたものである。また、透明磁性金属膜は、光を透過する。また、透明磁性金属膜は、強磁性を示す。この透明磁性金属膜は、自己組織化によりポーラス構造となったものである。その立体的構造は、壁状に配置された鉄が迷路に近い構造をとる。
【0009】
第2の態様における透明磁性金属膜は、電気絶縁性である。
【0010】
第3の態様における透明磁性金属膜においては、平均膜厚は30nm以下の範囲内である。
【0011】
第4の態様における透明磁性金属膜は、基板に成膜されたものである。基板の格子定数とα-Feの格子定数とが、次式
0.01 ≦ |b1-b2|/b1 ≦ 0.10
a1:α-Feの格子定数
a2:基板の格子定数
b1=(2)12 ×a1 または b1=a1
b2=a2/n
n:自然数
を満たす自然数nが存在する。
【0012】
第5の態様における透明磁性金属膜の製造方法においては、真空容器に基板を配置する。真空容器の内圧を10-5Pa以下とする。第1の温度の基板にFeを成膜する。そして、第1の温度より高い第2の温度で基板を熱処理する。
【0013】
第6の態様における透明磁性金属膜の製造方法においては、第2の温度は、670℃以上1000℃以下の範囲内である。
【0014】
第7の態様における透明磁性金属膜の製造方法においては、平均膜厚を30nm以下の範囲内として成膜する。
【0015】
第8の態様における透明磁性金属膜の製造方法においては、基板の格子定数とα-Feの格子定数とが、次式
0.01 ≦ |b1-b2|/b1 ≦ 0.10
a1:α-Feの格子定数
a2:基板の格子定数
b1=(2)12 ×a1 または b1=a1
b2=a2/n
n:自然数
を満たす自然数nが存在するような基板を用いる。
【0016】
第9の態様における透明磁性金属膜の製造方法においては、分子線エピタキシー法により基板にFeを成膜する。
【発明の効果】
【0017】
本明細書では、金属の薄膜でありながら光を透過する透明磁性金属膜とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態における成膜装置の構造を示す概略構成図である。
【図2】実施形態における透明磁性金属膜体の構造を示す図である。
【図3】実施形態における透明磁性金属膜の製造方法の温度プロファイルである。
【図4】実施形態における透明磁性金属膜の光の透過性を示すグラフである。
【図5】実施形態における透明磁性金属膜の磁化曲線を示すグラフである。
【図6】図5の拡大図である。
【図7】実施形態における透明磁性金属膜のX線回折分析の結果を示すグラフである。
【図8】800℃で熱処理した透明磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図9】750℃で熱処理した透明磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】700℃で熱処理した透明磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】650℃で熱処理した磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図12】熱処理を実施しなかった磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図13】膜厚を60nmとして800℃で熱処理した磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図14】成膜後に成膜装置から一旦取り出した後に再び成膜装置に戻してから800℃で熱処理した場合の磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図15】成膜後に成膜装置から取り出してガラス管に真空封管して800℃で熱処理した磁性金属膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図16】鉄の格子定数を示す図である。
【図17】基板の種類と800℃で熱処理した磁性金属膜の立体的構造との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、具体的な実施形態について、透明磁性金属膜とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。

【0020】
1.成膜装置
1-1.成膜装置の構成
図1は、本実施形態の成膜装置1000の概略構成を示す図である。成膜装置1000は、通常の分子線エピタキシー装置である。そのため、成膜装置1000は、分子線エピタキシー法(MBE)により基板110の上に薄膜を成膜する。成膜装置1000は、チャンバー1100と、ホルダー1200と、ヒーター1300と、回転軸1400と、原材料供給部1500と、電子銃1600と、スクリーン1700と、を有する。

【0021】
チャンバー1100は、成膜する基板110を収容するための真空容器である。また、チャンバー1100は、ホルダー1200と、ヒーター1300と、回転軸1400と、原材料供給部1500と、電子銃1600と、スクリーン1700と、を内部に収容している。

【0022】
ホルダー1200は、基板110を支持するための基板支持部である。ヒーター1300は、ホルダー1200に支持される基板110を加熱するためのものである。回転軸1400は、ホルダー1200を回転させるためのものである。この回転軸1400の回転により、ホルダー1200に取り付けられた基板110が回転することとなる。

【0023】
原材料供給部1500は、原材料を収容するとともに、原材料を加熱することにより分子線を発生させるためのものである。電子銃1600およびスクリーン1700は、反射高速電子回折(RHEED)法により、成膜状態をその場観察するためのものである。

【0024】
1-2.成膜装置の内圧
チャンバー1100の内部の圧力は、10-5Pa以下である。成膜装置1000は、チャンバー1100の内圧を10-9Pa以上10-5Pa以下の範囲内で保持することができる。好ましくは、チャンバー1100の内圧は、10-9Pa以上10-6Pa以下の範囲内である。より好ましくは、10-9Pa以上10-7Pa以下の範囲内である。もちろん、チャンバー1100の真空度は、これより高くてもよい。

【0025】
2.透明磁性金属膜
2-1.透明磁性金属膜の構造
図2は、透明磁性金属膜の基本的な構成を示す概略構成図である。図2に示すように、透明磁性金属膜体100は、基板110と、透明磁性金属膜120と、を有する。基板110の材質は、MgOである。透明磁性金属膜120の材質は、単一成分の鉄(Fe)である。ただし、成膜に際して、非常にわずかな不純物が混入する可能性がある。透明磁性金属膜120の平均膜厚は、30nm以下である。磁性金属膜120の平均膜厚は、0.3nm以上30nm以下の範囲内であるとよい。より好ましくは、透明磁性金属膜120の平均膜厚は、5nm以上25nm以下の範囲内である。さらに好ましくは、透明磁性金属膜120の平均膜厚は、10nm以上25nm以下の範囲内である。

【0026】
ここで、基板110の格子定数と、透明磁性金属膜120の格子定数との間に、ある程度のミスマッチングがある。この基板110と透明磁性金属膜120との関係については、後に詳しく述べる。

【0027】
2-2.透明性
透明磁性金属膜120は、可視光を透過する薄膜である。この透明磁性金属膜120は、鉄の薄膜であるにもかかわらず、金属光沢を呈することなく、光を透過する。この透明磁性金属膜120においては、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって、光の透過率が50%以上である。具体的には後述するが、この透明磁性金属膜120においては、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって、光の透過率が50%以上60%以下の範囲内である。

【0028】
2-3.強磁性
透明磁性金属膜120は、強磁性を示す。これについては、後ほど詳しく述べる。

【0029】
2-4.電気絶縁性
透明磁性金属膜120は、電気絶縁性である。ただし、後述するように、製造条件によっては、透明磁性金属膜120は、電気伝導性である。

【0030】
3.透明磁性金属膜の製造方法
ここで、透明磁性金属膜120の製造方法について説明する。この製造方法は、成膜工程と、熱処理工程と、を有する。

【0031】
3-1.サーマルクリーニング
図3は、透明磁性金属膜の製造方法における基板温度を示す温度プロファイルである。まず、成膜装置1000のホルダー1200に基板110を配置する。ここで、チャンバー1100の内部の圧力を、10-9Pa以上10-5Pa以下にする。この内圧は、10-6Pa以下であるとよい。そして、基板110のサーマルクリーニングを実施する。このサーマルクリーニングにおける基板110の温度は、300℃程度である。

【0032】
3-2.成膜工程
次に、原料供給部1500からFeを基板110に供給する。このときの基板110の温度は、例えば150℃である。基板温度は、15℃以上650℃以下の範囲内であるとよい。このときのチャンバー1100の内部の圧力は、10-9Pa以上10-5Pa以下のままである。特に、内圧は、10-6Pa以下であるとよい。このようにして、第1の温度の基板110にFeを成膜する。

【0033】
3-3.昇温工程
次に、基板110の温度を熱処理温度まで上昇させる。このときのチャンバー1100の内部の圧力は、10-9Pa以上10-5Pa以下のままである。特に、内圧は、10-6Pa以下であるとよい。

【0034】
3-4.熱処理工程(アニール工程)
ここでは、30分以上2時間以下の程度の熱処理を実施する。このときの基板110の温度は、670℃以上1000℃以下の温度である。好ましくは、基板110の温度は、680℃以上900℃以下の範囲内である。より好ましくは、基板110の温度は、700℃以上850℃以下の範囲内である。このときのチャンバー1100の内部の圧力は、10-9Pa以上10-5Pa以下のままである。特に、内圧は、10-6Pa以下であるとよい。このようにして、第1の温度より高い第2の温度で基板110を熱処理する。

【0035】
3-5.冷却工程
そして、この熱処理が終わった後に、基板110の温度を室温まで冷却する。基板110の温度が室温程度まで下がった後に、基板110をロードロック室に移動する。その後、ロードロック室の内圧を大気圧程度にする。そして、基板110を成膜装置1000から取り出す。

【0036】
4.透明磁性金属膜の性質
4-1.光の透過性(透明性)
図4は、透明磁性金属膜120の透明性を示すグラフである。図4の横軸は、光の波長(nm)である。図4の縦軸は、光の透過率(%)である。図4に示すように、この透明磁性金属膜120においては、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって、光の透過率が50%以上である。具体的には、この透明磁性金属膜120においては、400nm以上1000nm以下の波長領域にわたって、光の透過率が50%以上60%以下の範囲内である。

【0037】
4-2.強磁性
図5は、透明磁性金属膜120の磁化曲線(ヒステリシス曲線)である。図5の横軸は、外部磁場である。図5の縦軸は、磁化である。図6は、図5の拡大図である。図5および図6に示すように、透明磁性金属膜120は、ヒステリシスを示す。つまり、透明磁性金属膜120は、強磁性体である。

【0038】
4-3.電気絶縁性
また、透明磁性金属膜120は、電気絶縁性である。この透明磁性金属膜120は、鉄の膜であるにもかかわらず、電気を通さない。ただし、後述するように、製造条件によっては、透明磁性金属膜120は、電気伝導性である。

【0039】
4-4.鉄の成分
図7は、X線回折分析の結果を示すグラフである。図7に示すように、MgOの基板110のピークと、Fe(200)のピークと、が観測されている。そのため、透明磁性金属膜120は、まぎれもなく鉄(Fe)からできている。

【0040】
5.透明磁性金属膜の構造
5-1.立体的構造
図8は、透明磁性金属膜120の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。図8において、明るく見える箇所が、鉄が存在する箇所である。暗く見える箇所が、鉄が存在しない箇所である。このように、透明磁性金属膜120は、壁部と、空隙と、を有している。

【0041】
透明磁性金属膜120は、図8に示すような構造を有している。つまり、透明磁性金属膜120では、鉄が壁状に形成されている。鉄の壁は、基板110の表面を縦横に仕切っている。鉄の壁は、格子状に近い形状で配置されているが、ところどころ切断されている。その結果、壁状の鉄は、迷路に近い構造である。

【0042】
5-2.立体的構造と性質との関係
透明磁性金属膜120がこのような構造であるため、鉄の壁がない箇所では光は透過すると推測される。また、鉄の壁が、ところどころ切断されているため、電流パスは切断されている。その結果、透明磁性金属膜120は、電気絶縁性を呈すると推測される。

【0043】
5-3.立体的構造の基板温度依存性
図9は、熱処理工程における基板110の温度を750℃とした場合の透明磁性金属膜120の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この透明磁性金属膜120は、図8に示した迷路構造に比べて格子状に近い構造を有している。また、格子状の部分がほとんど切断されていないので、この透明磁性金属膜120は、導電性を備える。

【0044】
図10は、熱処理工程における基板110の温度を700℃とした場合の透明磁性金属膜120の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この透明磁性金属膜120は、図8に示した迷路構造に比べて格子状に近い構造を有している。また、格子状の部分がほとんど切断されていないので、この透明磁性金属膜120は、導電性を備える。

【0045】
図11は、熱処理工程における基板110の温度を650℃とした場合の磁性金属膜の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。図11では、図8等に存在したような迷路構造(立体的構造)は存在しない。そのため、この磁性金属膜は、光をほとんど透過しない。つまり、この磁性金属膜は、透明ではない。

【0046】
図12は、熱処理工程を実施しなかった磁性金属膜の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この場合にも、図8等に存在したような迷路構造(立体的構造)は存在しない。そのため、この磁性金属膜は、光をほとんど透過しない。つまり、この磁性金属膜は、透明ではなく、金属光沢を呈する。

【0047】
したがって、ある程度真空度の高い環境下で磁性金属膜の熱処理を行うことにより、磁性金属膜における鉄の原子が自己組織化して図8等に示す立体的構造を形成する。これにより、透明磁性金属膜120が製造されると考えられる。

【0048】
5-4.立体的構造の膜厚依存性
図13は、基板110に膜厚60nmの磁性金属膜を成膜して800℃で熱処理した場合の表面構造を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この場合には、図8等に存在したような迷路構造(立体的構造)は存在しない。そのため、この磁性金属膜は、光をほとんど透過しない。つまり、この磁性金属膜は、透明ではなく、金属光沢を呈する。

【0049】
したがって、透明磁性金属膜120の平均膜厚は、5nm以上30nm以下の範囲内である。より好ましくは、透明磁性金属膜120の平均膜厚は、10nm以上25nm以下の範囲内である。ここで、平均膜厚とは、原子間力顕微鏡(AFM)により、アニール工程前の磁性金属膜の微細な凹凸を平均化した値である。

【0050】
5-5.立体的構造の真空度依存性
図14は、成膜装置1000の内部において150℃の基板温度で成膜したものを一旦取り出した後に再度成膜装置1000の内部に戻して熱処理を行った鉄膜を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この鉄膜の膜厚は20nmである。チャンバー1100の内部の圧力は、成膜時も熱処理時も10-6Pa程度である。この鉄膜は、図8等に示した迷路構造を有しない。図14に示すように、鉄は、壁状でなく、柱状になっている。そのため、この鉄膜は、光を透過する。

【0051】
このように成膜装置1000から一旦取り出すと、膜の表面がある程度酸化するおそれがある。そのため、表面の酸化により、鉄の自己組織化に影響を及ぼしたと考えられる。

【0052】
図15は、成膜装置1000の内部において150℃の基板温度で成膜したものを一旦取り出した後にガラス管に真空封管して熱処理を行った鉄膜を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。この鉄膜の膜厚は20nmである。チャンバー1100の内部の圧力は、成膜時には10-7Pa程度であるが、熱処理時には10-4Pa程度である。この鉄膜は、図8等に示した迷路構造を有しない。そして、平坦な膜が形成されている。したがって、この鉄膜は、光を透過せず、金属光沢を呈する。

【0053】
このように真空度のそれほど高くない真空封管状態で熱処理する場合には、鉄の自己組織化がほとんど進まない。そのため、この鉄膜は、通常の平坦な金属膜である。

【0054】
5-6.立体的構造と透明性
本実施形態の透明磁性金属膜120は、格子状に近い立体的構造を有している。そして、この格子状の壁が部分的に切断されて迷路形状になっている。透明磁性金属膜120は、このようにポーラスになっている。つまり、多孔性の材質である。そのため、光は、この立体的構造の空隙を透過することとなる。また、この立体的構造は、強磁性秩序を形成することを許容している。そのため、透明磁性金属膜120は、強磁性を示す。

【0055】
6.基板の種類と立体的構造
図16は、鉄(Fe)の格子定数を説明する図である。鉄は室温で体心立方格子の構造をとる。鉄の体心立方格子の格子定数a1は、2.86Åである。また、図16に示すように、本明細書では、鉄(α-Fe)の格子定数a1の(2)12 倍を鉄(α-Fe)の有効格子定数b1ということとする。透明磁性金属膜120は、基板110の面内で45°回転した状態で基板110の上に成膜されるからである。鉄(α-Fe)の有効格子定数b1は、4.05Åである。

【0056】
図17は、基板の種類と成膜された鉄膜との関係をまとめた表である。ここで、基板110の表面は、いずれも(100)面である。LaAlO3 の格子定数は、3.79Åである。MgAl2 4 の格子定数は、8.08Åである。そして、MgAl2 4 の格子定数の1/2は、4.04Åである。MgOの格子定数は、4.21Åである。

【0057】
上記の基板材料の有効格子定数b2と、鉄(α-Fe)の有効格子定数b1と、の差については、次式で評価することができる。
c1=(b2-b1)/b1
c1:格子定数差
LaAlO3 の格子定数差c1は、-6.4%である。MgAl2 4 の格子定数差c1は、-0.25%である。MgOの格子定数差c1は、+4.0%である。

【0058】
したがって、MgAl2 4 基板と鉄の結晶構造との間の格子整合性が最も高い。しかし、図17に示すように、MgAl2 4 基板では、透明磁性金属膜120を成膜することはできなかった。一方、LaAlO3 基板およびMgO基板では、透明磁性金属膜120を成膜することができた。つまり、基板とFeとの間で格子定数にある程度のミスマッチがあると、鉄膜は自己組織化する。

【0059】
したがって、基板の格子定数と鉄(α-Fe)の格子定数とが、次式
0.01 ≦ |b1-b2|/b1 ≦ 0.10
a1:α-Feの格子定数
a2:基板の格子定数
b1=(2)12 ×a1 または b1=a1
b2=a2/n
n:自然数
を満たす場合に、透明磁性金属膜120を成膜することができる。透明磁性金属膜120が基板110の面内で45°回転した状態で基板110の上に成膜される場合には、b1=(2)12 ×a1である。基板110の上に透明磁性金属膜120がそのまま成膜される場合には、b1=a1である。

【0060】
7.変形例
7-1.電気伝導性
本実施形態の透明磁性金属膜120は、電気絶縁性である。前述したように、格子状の立体的構造は、部分的に切断されている。しかし、熱処理温度の処理条件を調整すれば、格子状の立体的構造を形成することも可能である。その場合には、透明磁性金属膜は、電気伝導性であると考えられる。

【0061】
7-2.他の成膜方法
本実施形態では、分子線エピタキシー法(MBE)を用いて基板110の上に透明磁性金属膜120を成膜した。しかし、真空度が十分に高ければ、分子線エピタキシー法以外の成膜方法を用いてもよい。ただし、その後の熱処理工程については、成膜したその成膜装置から取り出さずに、そのまま実施することが好ましい。

【0062】
8.本実施形態のまとめ
本実施形態の透明磁性金属膜の製造方法は、基板110の上に鉄の薄膜を成膜する成膜工程と、成膜した鉄の薄膜を熱処理する熱処理工程と、を有する。この鉄の薄膜は、熱処理により、自己組織化して特有の立体的構造をとる。この透明磁性金属膜120は、鉄の薄膜でありながら光を透過する。また、この透明磁性金属膜120は、強磁性を備えている。また、この透明磁性金属膜120は、電気絶縁性を呈する。
【符号の説明】
【0063】
100…透明磁性金属膜体
110…基板
120…透明磁性金属膜
1000…成膜装置
1100…チャンバー
1200…ホルダー
1300…ヒーター
1400…回転軸
1500…原材料供給部
1600…電子銃
1700…スクリーン
図面
【図2】
0
【図4】
1
【図1】
2
【図3】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16