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明細書 :抗腫瘍水溶液とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-169164 (P2016-169164A)
公開日 平成28年9月23日(2016.9.23)
発明の名称または考案の名称 抗腫瘍水溶液とその製造方法
国際特許分類 A61K  33/40        (2006.01)
A61K  33/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
H05H   1/26        (2006.01)
FI A61K 33/40
A61K 33/00
A61P 35/00
A61P 43/00 105
A61K 9/08
H05H 1/26
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2015-047884 (P2015-047884)
出願日 平成27年3月11日(2015.3.11)
発明者または考案者 【氏名】堀 勝
【氏名】倉家 尚之
【氏名】水野 正明
【氏名】吉川 史隆
【氏名】梶山 広明
【氏名】中村 香江
【氏名】石川 健治
【氏名】田中 宏昌
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100087723、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 修
【識別番号】100165962、【弁理士】、【氏名又は名称】一色 昭則
審査請求 未請求
テーマコード 2G084
4C076
4C086
Fターム 2G084AA24
2G084BB02
2G084CC03
2G084CC18
2G084CC34
2G084DD03
2G084DD21
2G084EE15
2G084FF38
2G084GG02
2G084GG04
2G084GG07
2G084GG30
4C076AA12
4C076CC27
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA15
4C086HA22
4C086MA03
4C086MA06
4C086MA17
4C086ZB21
4C086ZB26
要約 【課題】比較的単純な構成で抗腫瘍効果を奏する抗腫瘍水溶液とその製造方法の提供。
【解決手段】培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンとを含有する抗腫瘍水溶液。過酸化水素の濃度は好ましくは30μM~100mMであり、亜硝酸イオンの濃度は好ましくは300μM~1Mである。更に、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより、過酸化水素と亜硝酸イオンとを培養液中に発生させることが好ましいが、プラズマ発生装置は必ずしも必要としない。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液において、
培養液と、
過酸化水素と、
亜硝酸イオンと、
を含有すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項2】
請求項1に記載の抗腫瘍水溶液において、
過酸化水素の濃度が、
30μM以上100mM以下であること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の抗腫瘍水溶液において、
亜硝酸イオンの濃度が、
300μM以上1M以下であること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液において、
培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより、過酸化水素と亜硝酸イオンとを培養液中に発生させたものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項5】
癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液の製造方法において、
培養液に過酸化水素水と亜硝酸イオン水とを添加して混合溶液とすること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記混合溶液中の過酸化水素の濃度を、
30μM以上100mM以下とすること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記混合溶液中の亜硝酸イオンの濃度を、
300μM以上1M以下とすること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、抗腫瘍水溶液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。そして、近年においては、医療への応用が活発に研究されるようになってきた。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラズマを直接照射することにより、血液凝固(特許文献1の実施例4、段落[0063]-[0068]参照)と、組織滅菌(特許文献1の実施例5、段落[0069]-[0074]参照)と、リーシュマニア症(特許文献1の実施例6、段落[0075]-[0077]参照)と、に対して効果があることが記載されている。そして、プラズマは、メラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)を死滅させる効果があると記載されている(特許文献1の実施例7、段落[0078]参照)。
【0004】
また、特許文献2には、pHが4.8以下となるように調整された液体にプラズマを照射することにより、液体中の菌を殺菌する技術が開示されている(特許文献2の段落[0020]等参照)。また、スーパーオキシドアニオンラジカルやヒドロペルオキシラジカル等が殺菌効果を担っている可能性がある旨が記載されている(特許文献2の段落[0090]-[0099]等参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2008-539007号公報
【特許文献2】国際公開第2009/041049号
【特許文献3】国際公開第2013/128905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような癌の治療においては一般に、1)癌細胞を死滅させるとともに、2)正常細胞に影響を与えないように、癌細胞を選択的に死滅させることが好ましい。たとえ、癌細胞を死滅させることができたとしても、そのために多数の正常細胞を死滅させると、患者に加わる肉体的負担が大きいからである。そのため、このように癌細胞を選択的に死滅させる治療技術が望まれている。しかし、癌細胞を選択的に死滅させることは容易ではない。また、特許文献1では、正常細胞への影響の程度が明らかではない。
【0007】
そのため特許文献3に記載されているように、本発明者らは、癌細胞を選択的に死滅させる抗腫瘍水溶液に関する技術を研究開発した(特許文献3の段落[0085]-[0087]および図16等参照)。この抗腫瘍水溶液は、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射したものである。この抗腫瘍水溶液は、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができる。また、この抗腫瘍水溶液は、培養した細胞のみならずマウスに対しても抗腫瘍効果を発揮した(特許文献3の段落[0145]-[0152]および図45、46等参照)。
【0008】
しかし、この抗腫瘍水溶液のどのような成分が抗腫瘍効果を有するのかを特定するのは困難である。非平衡大気圧プラズマを照射することにより、多数の種類の活性種が発生するからである。このように、プラズマを照射した抗腫瘍水溶液は、多数の種類の活性種を有しており、複雑な構成をしている。
【0009】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、比較的単純な構成で抗腫瘍効果を奏する抗腫瘍水溶液とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様における抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる水溶液である。この抗腫瘍水溶液は、培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンと、を含有する。
【0011】
この抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる。また、その組成も比較的単純である。そのため、この抗腫瘍水溶液を製造する際に、プラズマ発生装置を必ずしも必要としない。
【0012】
第2の態様における抗腫瘍水溶液においては、過酸化水素の濃度が、30μM以上100mM以下である。
【0013】
第3の態様における抗腫瘍水溶液においては、亜硝酸イオンの濃度が、300μM以上1M以下である。
【0014】
第4の態様における抗腫瘍水溶液は、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより、過酸化水素と亜硝酸イオンとを培養液中に発生させたものである。
【0015】
第5の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法は、癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液の製造方法である。この製造方法では、培養液に過酸化水素水と亜硝酸イオン水とを添加して混合溶液とする。
【0016】
第6の態様における抗腫瘍水溶液においては、混合溶液中の過酸化水素の濃度を、30μM以上100mM以下とする。
【0017】
第7の態様における抗腫瘍水溶液においては、混合溶液中の亜硝酸イオンの濃度を、300μM以上1M以下とする。
【発明の効果】
【0018】
本明細書では、比較的単純な構成で抗腫瘍効果を奏する抗腫瘍水溶液とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態のプラズマ照射装置を走査するロボットアームの構成を説明するための概念図である。
【図2】図2.Aは第1のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図2.Bは電極の形状を示す図である。
【図3】図3.Aは第2のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図3.Bはプラズマ領域の長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【図4】培養液にプラズマを照射した場合に培養液中に発生する過酸化水素および亜硝酸イオンの濃度を示す表である。
【図5】プラズマの照射時間と培養液中に発生する過酸化水素の濃度との関係を示すグラフである。
【図6】プラズマの照射時間と培養液中に発生する亜硝酸イオンの濃度との関係を示すグラフである。
【図7】プラズマを90秒照射した培養液およびそれに対応する培養液とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。
【図8】プラズマを180秒照射した培養液およびそれに対応する培養液とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。
【図9】プラズマ照射時間およびそれに対応する添加物の量とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、具体的な実施形態について、抗腫瘍水溶液とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。

【0021】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。

【0022】
1.抗腫瘍水溶液
1-1.抗腫瘍水溶液の含有物
本実施形態の抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる水溶液である。この抗腫瘍水溶液は、培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンと、を含有する。ここで、培養液は、市販の培養液である。例えば、DMEMである。

【0023】
DMEMは、次の培養成分を含んでいる。その培養成分とは、塩化カルシウム、硝酸第二鉄・9H2 O、硫酸マグネシウム(無水)、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸-ナトリウム(無水)、L-アルギニン・HCl、L-シスチン・2HCl、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン・HCl・H2 O、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン・HCl、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン・2Na・2H2 O、L-バリン、塩化コリン、葉酸、myo-イノシトール、ナイアシンアミド、D-パントテン酸、ピリドキシン・HCl、リボフラビン、チアミン・HCl、D-グルコース、フェノールレッド・Naである。

【0024】
過酸化水素および亜硝酸イオンは、培養液中で相乗効果を奏する。つまり、培養液中に過酸化水素および亜硝酸イオンの双方が存在する場合の抗腫瘍効果は、過酸化水素および亜硝酸イオンの一方のみが存在する場合の抗腫瘍効果よりも高い。

【0025】
1-2.過酸化水素の濃度
この抗腫瘍水溶液における過酸化水素の濃度は、30μM以上である。過酸化水素の濃度は、30μM以上100mM以下であるとよい。好ましくは、過酸化水素の濃度は、40μM以上50mM以下である。より好ましくは、過酸化水素の濃度は、50μM以上10mM以下である。

【0026】
1-3.亜硝酸イオンの濃度
この抗腫瘍水溶液における亜硝酸イオンの濃度は、300μM以上である。亜硝酸イオンの濃度は、300μM以上1M以下であるとよい。好ましくは、亜硝酸イオンの濃度は、400μM以上500mM以下である。より好ましくは、500μM以上100mM以下である。

【0027】
2.抗腫瘍水溶液の効果
本実施形態の抗腫瘍水溶液は、もちろん、抗腫瘍効果を奏する。つまり、癌細胞を死滅させる。そして、その抗腫瘍効果は、第2の実施形態で説明する培養液に非平衡大気圧プラズマを照射した抗腫瘍水溶液の抗腫瘍効果に匹敵する。また、前述したように、培養液中に過酸化水素および亜硝酸イオンの双方が存在する場合の抗腫瘍効果は、過酸化水素および亜硝酸イオンの一方のみが存在する場合の抗腫瘍効果よりも高い。

【0028】
3.抗腫瘍水溶液の製造方法
3-1.培養液準備工程
まず、培養液を準備する。ここで、準備する培養液は、例えば、市販の培養液である。また、純水に所定の培養成分を添加して培養液を作製してもよい。

【0029】
3-2.過酸化水素添加工程
次に、培養液に過酸化水素水を添加する。過酸化水素水は、例えば、市販の過酸化水素水である。

【0030】
3-3.亜硝酸イオン添加工程
次に、培養液に亜硝酸イオン水を添加する。亜硝酸イオン水は、例えば、亜硝酸ナトリウム水溶液である。または、亜硝酸カリウム水溶液である。その他、亜硝酸塩を含む水溶液であればよい。このようにして、培養液に過酸化水素水と亜硝酸イオン水とを添加して混合溶液が製造される。この混合溶液が、抗腫瘍水溶液である。なお、過酸化水素水と亜硝酸イオン水とを添加する順序は、逆であってもよい。

【0031】
3-4.製造された抗腫瘍水溶液
製造された抗腫瘍水溶液は、過酸化水素と亜硝酸イオンとを含有する。抗腫瘍水溶液の過酸化水素の濃度は、30μM以上である。抗腫瘍水溶液の亜硝酸イオンの濃度は、300μM以上である。

【0032】
4.変形例
本実施形態の抗腫瘍水溶液は、培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンと、を有する。培養液として、例えば、DMEMを用いる。もちろん、その他の培養液を用いてもよい。例えば、RPMI、YPD、NB等が挙げられる。

【0033】
5.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる水溶液である。この抗腫瘍水溶液は、培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンと、を含有する。また、培養液中に過酸化水素および亜硝酸イオンが存在することにより、過酸化水素および亜硝酸イオンは、相乗効果を奏する。

【0034】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより、培養液中に過酸化水素および亜硝酸イオンを発生させる。

【0035】
1.抗腫瘍水溶液製造装置
1-1.抗腫瘍水溶液製造装置の構成
本実施形態の抗腫瘍水溶液製造装置PMは、図1に示すように、プラズマ照射装置P1と、アームロボットM1とを有している。プラズマ照射装置P1は、プラズマを発生させるとともに、そのプラズマを溶液に向けて照射するためのものである。

【0036】
アームロボットM1は、図1に示すように、プラズマ照射装置P1の位置をx軸、y軸、z軸方向のそれぞれの方向に移動させることができるようになっている。なお、説明の便宜上、プラズマを照射する向きを-z軸方向としている。これにより、溶液の液面と、プラズマ照射装置P1との間の距離を調整することができる。また、この抗腫瘍水溶液製造装置PMは、予めプラズマ照射時間を設定することにより、その時間だけプラズマを照射することができるものである。

【0037】
プラズマ照射装置P1には、後述するように、2種類の方式(第1のプラズマ発生装置P10および第2のプラズマ発生装置P20)がある。そして、いずれの方式を用いてもよい。

【0038】
1-2.第1のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。図2.Bは、図2.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。

【0039】
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。

【0040】
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに凹部(ホロー)Hが多数形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。

【0041】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、20cm以上25cm以下である。電極2a、2b間の距離は、これ以外の距離であってもよい。

【0042】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。

【0043】
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。

【0044】
1-3.第2のプラズマ発生装置
図3.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。図3.Bは、図3.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。

【0045】
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ領域Pの直上までのスリット幅(図3.Bの左右方向の幅)は1mmである。

【0046】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。

【0047】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、図1に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。

【0048】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。

【0049】
2.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
2-1.第1のプラズマ発生装置および第2のプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。

【0050】
本実施の形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生する。また、このプラズマは大気中に放出されているため、大気中の分子に由来するラジカル等を発生させる。

【0051】
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3以上1×1013cm-3以下の程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。

【0052】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から液面までの距離を異なる条件とすることにより、液面の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。

【0053】
3.抗腫瘍水溶液(プラズマ培養液)
本実施形態の抗腫瘍水溶液は、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射した水溶液である。この抗腫瘍水溶液は、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより、培養液中に過酸化水素(H2 2 )および亜硝酸イオン(NO2 - )を発生させたものである。このプラズマ培養液は、抗腫瘍効果を奏する。

【0054】
4.抗腫瘍水溶液の製造方法
本実施形態の抗腫瘍水溶液の製造方法には、2種類の方法がある。よって、それぞれの方法について説明する。

【0055】
4-1.抗腫瘍水溶液の製造方法(第1の方法)
4-1-1.水溶液準備工程(第1の方法)
まず、第1の方法について説明する。水溶液として、市販の培養液を準備する。または、純水に培養成分を添加した培養液を作製する。

【0056】
4-1-2.プラズマ照射工程(第1の方法)
次に、前述したプラズマ発生装置P10、P20によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを培養液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、1cmである。また、この距離は、0.5cm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。プラズマ条件を表1に示す。これにより、培養液中に過酸化水素と亜硝酸イオンとが発生する。

【0057】
[表1]
条件 数値範囲
液面-噴出口距離 0.5cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
酸素ラジカル密度 2×1014cm-3以上 1.6×1015cm-3以下

【0058】
4-2.抗腫瘍水溶液の製造方法(第2の方法)
4-2-1.水溶液準備工程(第2の方法)
ここでは、培養成分のうち、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する。

【0059】
4-2-2.プラズマ照射工程(第2の方法)
次に、前述したプラズマ発生装置P10、P20によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを水溶液に照射する。プラズマを照射する際の種々の条件は、第1の方法と同様である。これにより、水溶液中に過酸化水素と亜硝酸イオンとが発生する。

【0060】
4-2-3.培養成分添加工程(第2の方法)
次に、大気圧プラズマを照射済みの水溶液に、培養成分を添加する。これにより、培養液中に過酸化水素と亜硝酸イオンとが存在する抗腫瘍水溶液が製造される。

【0061】
5.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる水溶液である。この抗腫瘍水溶液は、培養液と、過酸化水素と、亜硝酸イオンと、を含有する。また、培養液中に過酸化水素および亜硝酸イオンが存在することにより、過酸化水素および亜硝酸イオンは、相乗効果を奏する。
【実施例】
【0062】
1.実験A(プラズマ照射により発生する過酸化水素および亜硝酸イオン)
図4は、培養液にプラズマを照射した場合に培養液中に発生する過酸化水素および亜硝酸イオンの濃度を示す表である。亜硝酸イオン水として、亜硝酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製、製造元コード192-12565)を用いた。図4に示すように、培養液にプラズマを30秒照射した場合には、過酸化水素(H2 2 )の濃度は、11μMであり、亜硝酸イオン(NO2 - )の濃度は、104μMであった。培養液にプラズマを60秒照射した場合には、過酸化水素(H2 2 )の濃度は、21μMであり、亜硝酸イオン(NO2 - )の濃度は、207μMであった。培養液にプラズマを180秒照射した場合には、過酸化水素(H2 2 )の濃度は、64μMであり、亜硝酸イオン(NO2 - )の濃度は、621μMであった。培養液にプラズマを300秒照射した場合には、過酸化水素(H2 2 )の濃度は、106μMであり、亜硝酸イオン(NO2 - )の濃度は、1036μMであった。
【実施例】
【0063】
図5は、プラズマの照射時間と培養液中に発生する過酸化水素の濃度との関係を示すグラフである。図5の横軸は、プラズマの照射時間である。図5の縦軸は、過酸化水素の濃度である。図5に示すように、過酸化水素の濃度は、プラズマの照射時間に比例する。また、培養液がFBSを含有していると、過酸化水素の濃度は、わずかに低下する。つまり、FBSは、過酸化水素の一部を捕捉する。
【実施例】
【0064】
図6は、プラズマの照射時間と培養液中に発生する亜硝酸イオンの濃度との関係を示すグラフである。図6の横軸は、プラズマの照射時間である。図6の縦軸は、亜硝酸イオンの濃度である。図6に示すように、亜硝酸イオンの濃度は、プラズマの照射時間に比例する。培養液中のFBSの有無は、亜硝酸イオンの濃度に影響を及ぼさない。
【実施例】
【0065】
2.実験B(抗腫瘍水溶液の種類と抗腫瘍効果)
2-1.実験方法
実験にあたって、表2に示す5種類の培養液を準備した。ここで、培養液(b)として、プラズマを90秒照射したものと180秒照射したものとの2種類作製した。培養液(c)-(e)は、図4に基づいて、プラズマを90秒照射した場合と180秒照射した場合とに対応する過酸化水素と亜硝酸イオンとを添加した。つまり、培養液(c)では、90秒に対応する32μMの過酸化水素を含有する培養液と、180秒に対応する64μMの過酸化水素を含有する培養液と、の2種類を準備した。培養液(d)、(e)についても、同様に2種類を準備した。
【実施例】
【0066】
そして、抗腫瘍効果を調べるための癌細胞として、グリオブラストーマ細胞を準備した。具体的には、培養液中でグリオブラストーマ細胞を5000個培養した。次に、その培養液を表2の5種類の培養液に交換した。そして、5種類の培養液を用いて、各サンプルを24時間培養した。その後、MTSアッセイにより、生存しているグリオブラストーマ細胞を数えた。
【実施例】
【0067】
[表2]
培養液の種類 培養液の性質
培養液(a) 培養液(プラズマ照射無し、添加無し)
培養液(b) 培養液(90秒間または180秒プラズマを照射)
培養液(c) 培養液(過酸化水素を添加)
培養液(d) 培養液(過酸化水素および亜硝酸イオンを添加)
培養液(e) 培養液(亜硝酸イオンを添加)
【実施例】
【0068】
2-2.実験結果
図7は、プラズマを90秒照射した培養液およびそれに対応する培養液とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。図7に示すように、プラズマを照射せず、過酸化水素等も添加しない通常の培養液(a)は、抗腫瘍効果を示さなかった。プラズマを90秒照射した培養液(b)は、抗腫瘍効果を示した。5000個のグリオブラストーマ細胞のうち、50%を死滅させた。過酸化水素を添加した培養液(c)は、抗腫瘍効果を示さなかった。過酸化水素および亜硝酸イオンの両方を添加した培養液(d)は、抗腫瘍効果を示した。5000個のグリオブラストーマ細胞のうち、50%を死滅させた。つまり、培養液(d)は、プラズマを90秒照射した培養液(b)と同程度の抗腫瘍効果を示した。亜硝酸イオンを添加した培養液(e)は、抗腫瘍効果を示さなかった。
【実施例】
【0069】
上記のように、過酸化水素のみを添加した培養液(c)と、亜硝酸イオンのみを添加した培養液(e)とでは、抗腫瘍効果を示さなかった。しかし、過酸化水素および亜硝酸イオンの両方を添加した培養液(d)は、抗腫瘍効果を示した。つまり、過酸化水素および亜硝酸イオンは、培養液中で相乗効果を示すことが明らかとなった。そして、培養液に過酸化水素を30μM以上、亜硝酸イオンを300μM以上、添加すると、その培養液は、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0070】
図8は、プラズマを180秒照射した培養液およびそれに対応する培養液とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。図8に示すように、通常の培養液(a)は、抗腫瘍効果を示さなかった。プラズマを180秒照射した培養液(b)は、非常に強い抗腫瘍効果を示した。5000個のグリオブラストーマ細胞のうち、98%程度を死滅させた。過酸化水素を添加した培養液(c)は、抗腫瘍効果を示した。5000個のグリオブラストーマ細胞のうち、80%程度を死滅させた。過酸化水素および亜硝酸イオンの両方を添加した培養液(d)は、強い抗腫瘍効果を示した。5000個のグリオブラストーマ細胞のうち、90%程度を死滅させた。つまり、培養液(d)は、プラズマを180秒照射した培養液(b)と近い程度の抗腫瘍効果を示した。亜硝酸イオンを添加した培養液(e)は、抗腫瘍効果を示さなかった。
【実施例】
【0071】
したがって、やはり、過酸化水素および亜硝酸イオンは、培養液中で相乗効果を示すことが明らかとなった。また、培養液に過酸化水素を621μM程度添加すると、抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。そのため、過酸化水素の濃度は、単独で500μM以上で抗腫瘍効果を奏する。
【実施例】
【0072】
図9は、プラズマ照射時間およびそれに対応する添加物の量とグリオブラストーマ細胞の生存率との関係を示すグラフである。図9の横軸は、プラズマの照射時間である。また、プラズマを照射したとした場合に培養液に発生する過酸化水素もしくは亜硝酸イオンを添加した添加量を、プラズマの照射時間に換算したものである。図9に示すように、亜硝酸イオンのみを単独で培養液に添加した場合には、添加量によらず、抗腫瘍効果を示さなかった。プラズマを照射した培養液(b)が、最も強い抗腫瘍効果を示した。また、過酸化水素および亜硝酸イオンの両方を添加した培養液(d)は、培養液(b)の次に強い抗腫瘍効果を示した。過酸化水素のみを添加した培養液(c)は、培養液(d)の次に強い抗腫瘍効果を示した。
【実施例】
【0073】
図9では、プラズマの照射時間が240秒以上の場合、培養液(b)、(c)、(d)に違いは見られなくなった。ただし、グリオブラストーマ細胞の数を増やせば、これらの培養液の違いは表れると考えられる。
【符号の説明】
【0074】
P1…プラズマ照射装置
M1…ロボットアーム
PM…抗腫瘍水溶液製造装置
P10、P20…プラズマ発生装置
10、11…筐体部
10i、11i…ガス導入口
10o、11o…ガス噴出口
2a、2b…電極
P…プラズマ領域
H…凹部(ホロー)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8