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明細書 :シクロデキストリン誘導体及び医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6180241号 (P6180241)
公開番号 特開2015-044961 (P2015-044961A)
登録日 平成29年7月28日(2017.7.28)
発行日 平成29年8月16日(2017.8.16)
公開日 平成27年3月12日(2015.3.12)
発明の名称または考案の名称 シクロデキストリン誘導体及び医薬組成物
国際特許分類 C08B  37/16        (2006.01)
A61K  47/40        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  31/409       (2006.01)
FI C08B 37/16
A61K 47/40
A61P 35/00
A61K 31/409
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2013-178090 (P2013-178090)
出願日 平成25年8月29日(2013.8.29)
審査請求日 平成28年7月6日(2016.7.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】加納 航治
【氏名】北岸 宏亮
【氏名】茶井 文彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
【識別番号】100117097、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 充浩
審査官 【審査官】前田 憲彦
参考文献・文献 国際公開第2009/041666(WO,A1)
特開2007-063355(JP,A)
国際公開第2013/078500(WO,A1)
特表2004-523502(JP,A)
Organic & Biomolecular Chemistry,2013年 5月21日,11(19),p.3203-3211,Abstract,図1
調査した分野 C08B 37/00
A61K 31/00
A61K 47/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体。
【化1】
JP0006180241B2_000006t.gif
(式中、nは6~8の何れかの数字を表し、mは6~12の何れかの数字を表す。Rはそれぞれ独立してH、CH3、 CH2CH3、 CH2CH2CH2OH、CH2CH(OH)CH3、CH2CH(CH3)OCH2CH(OH)CH3の何れかを表す。X-は対アニオンを表す。)
【請求項2】
m=8、n=7、Rの全てがCH3である請求項1に記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項3】
ポルフィリンを、請求項1又は請求項2に記載のシクロデキストリン誘導体の疎水性空洞に包接させた包接錯体を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項4】
ポルフィリンが、下記一般式(2)又は(3)で表される請求項に記載の医薬組成物。
【化2】
JP0006180241B2_000007t.gif
【化3】
JP0006180241B2_000008t.gif
(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表す。)
【請求項5】
ポルフィリンが、5,10,15,20‐テトラキス(4‐スルホナトフェニル)ポルフィリンである請求項に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、シクロデキストリン誘導体及びこれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
D-グルコースがα-1,4グリコシド結合によって環状に結合したシクロデキストリン(以下、CDと省略する。) は、内部に疎水性空洞を有しており、水中において様々な疎水性化合物を包接できるとともに、水溶性が高く、生体適合性にも優れている。
【0003】
そのため、CDをドラッグデリバリーシステム(DDS)における薬物運搬体として利用する試みがこれまでに数多くなされてきている(例えば、非特許文献1を参照。)。一方、薬物運搬体としてではなく、CD自体にも特定の疾患に対して薬効があるケースが最近報告されている(非特許文献2を参照。)。このように、CDには薬物運搬体又は薬物としての大きな可能性が期待されている。
【0004】
ただ、CDを薬物運搬体又は薬物として使用する場合、利用効率(バイオアベイラビリティ)が低く、有効な効果を示すためには実際の必要量の何倍もの量を継続的に投与し続けなければならないとの問題点があった。これは、CDが生体分子に比べてサイズの小さい水溶性分子であるため、血管内に投与してもすみやかに代謝又は腎排泄されてしまうからであると考えられている。
【0005】
この問題点を解決するため、CDの骨格に化学修飾を施して細胞表面への親和性を持たせる、体内での滞留性を向上させる、細胞膜透過性を向上させる等の工夫が従来からなされている。例えば、熊本大学の有馬らは、D-グルコースが7つ結合したβ-CDの第一級水酸基側に癌細胞と特異的に結合する葉酸誘導体を結合させた誘導体を合成し、この誘導体によって抗癌剤であるドキソルビシンを癌細胞へと効率よく運搬するシステムを報告している(非特許文献3を参照。)。
【0006】
しかし、この方法によっても、CDの利用効率は不十分であり、CDを薬物運搬体又は薬物として使用する場合には、患者に点滴等によって大量に投与しなければならないとの問題は解決できていなかった。
【0007】
一方、京都大学の二木らをはじめとするいくつかの研究グループは、細胞膜透過性を示す分子ツールとしてオリゴアルギニンに着目し、その応用例について報告している(例えば、非特許文献4を参照。)。発明者らも、ポルフィリン骨格にオクタアルギニンを導入し、ポルフィリン/CD包接錯体を細胞内に運搬する研究について報告している(非特許文献5を参照。)。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Uekama, K.; Hirayama, F.; Irie, T. Chem. Rev. 1998, 98, 2045-2076
【非特許文献2】山下他, 日本医療薬学会年会講演要旨集 (suppl.2), 426, 2010, P2-216
【非特許文献3】Okamatsu, A.; Motoyama, K.; Onodera, R.; Higashi, T.; Koshigoe, T.; Shimada, Y.; Hattori, K.; Takeuchi, T.; Arima, H. Bioconjugate Chem. 2013, 24, 724-733
【非特許文献4】Nakase, I.; Akita, H.; Kogure, K.; Graslund, A.; Langel, U.; Harashima, H.; Futaki, S. Acc. Chem. Res. 2012, 45, 1132-1139.
【非特許文献5】Kitagishi, H.; Hatada, S.; Itakura, T.; Maki, Y.; Maeda, Y.; Kano, K. Org. Biomol. Chem. 2013, 11, 3203-3211.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、薬物を高効率で細胞内に運搬する薬物運搬体として利用可能なシクロデキストリン誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意検討の結果、シクロデキストリンの第一級水酸基にオリゴアルギニンを導入したシクロデキストリン誘導体が優れた細胞透過性を備えており、薬物を高効率で細胞内に運搬できることを見出し、この発明を完成させた。
【0011】
すなわち、この発明のシクロデキストリン誘導体は、 下記一般式(1)で表されるものである。
【0012】
【化1】
JP0006180241B2_000002t.gif

【0013】
(式中、nは6~8の何れかの数字を表し、mは6~12の何れかの数字を表す。Rはそれぞれ独立してH、 CH3、CH2CH3、 CH2CH2CH2OH、CH2CH(OH)CH3、CH2CH(CH3)OCH2CH(OH)CH3の何れかを表す。X-は対アニオンを表す。)
【0014】
また、この発明の医薬組成物は、この発明のシクロデキストリン誘導体の疎水性空洞にポルフィリンなどの薬物を包接させた包接錯体を有効成分として含むものである。

【発明の効果】
【0015】
この発明のシクロデキストリン誘導体を薬物運搬体として使用することによって、薬物を効率よく細胞内に搬送できる。そのため、患者に投与する薬物の量を減らせるとともに、投与時間も減らせる。これによって、患者の生活の質の向上に寄与でき、薬物の無駄も減らせる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明に係るシクロデキストリン誘導体の合成経路を示す図である。
【図2】図2は、Alkyne-R8の同定結果を示すMALDI-TOFマススペクトルである。
【図3】図3は、R8-CDの同定結果を示すMALDI-TOFマススペクトルである。
【図4】図4は、R8-CDMeの同定結果を示すMALDI-TOFマススペクトルである。
【図5】図5は、R8-CDMeの純度を調べた結果を示すHPLCチャートである。
【図6】図6は、重水中におけるR8-CDMe19F及び1H NMRスペクトルである。
【図7】図7は、一定濃度のTPPSを含むリン酸緩衝液に対してR8-CDMeを段階的に加えて、UV-visスペクトルの変化を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図8は、一定濃度のTPPSを含むリン酸緩衝液に対してTMe-β-CDを段階的に加えて、UV-visスペクトルの変化を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図9は、図7と図8のUV-visスペクトルを比較した図である。
【図10】図10は、細胞内移行能試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は、細胞毒性試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【図12】図12は、光毒性試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.シクロデキストリン誘導体
(1)シクロデキストリン誘導体
この発明のシクロデキストリン誘導体は、下記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体である。

【0018】
【化2】
JP0006180241B2_000003t.gif

【0019】
この発明のシクロデキストリン誘導体の原料としては、α-シクロデキストリン(n=6)、βーシクロデキストリン(n=7)、及びγ-シクロデキストリン(n=8)の何れも使用でき、包接する薬物の種類に応じて自由に選択できる。なお、薬物としてポルフィリンを使用する場合は、βーシクロデキストリン(n=7)が好ましい。

【0020】
シクロデキストリンの第一級水酸基に導入されたアルギニン残基の数であるmは、6~12の何れかであり、中でも細胞膜透過能が特に高くなるといわれる最小の重合度であるm=8が好ましい。なお、mが6未満の場合には細胞への浸透性が低下し、mが13を超えると合成の効率が低下するとの問題が生じる。

【0021】
Rは、H、 CH3、 CH2CH3、 CH2CH2CH2OH、CH2CH(OH)CH3、CH2CH(CH3)OCH2CH(OH)CH3の何れかであり、互いに独立している。すなわち、Rは互いに互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、細胞膜との親和性が高いことから、全てのRがCH3であるのが好ましい。また、Rによって置換されたD-グルコースは特に限定することなく、どの位置にも配置できる。

【0022】
X-は、対アニオンを表しており、薬理学的にヒトや動物に投与可能なアニオンであれば特に限定することなく使用できる。具体的には、CF3COO-、Cl-、Br-、I-、HSO4-、ClO4-、H2PO4-が挙げられる。中でも、最終段階の精製で使用するHPLCの溶離液に含まれるCF3COO-が対アニオンとなる場合が多く、そのまま使用することが可能であるため好ましい。

【0023】
(2)シクロデキストリン誘導体の合成方法
この発明のシクロデキストリン誘導体は、公知の方法を組み合わせることによって合成できる。具体的には、例えば、モノアジド化シクロデキストリンとオリゴアルギニンから、Cu(I)触媒アジド-アルキンヒュスゲン反応(クリック反応)によって合成できる。なお、この反応については、文献:Hong, V.; Presolski, S. I.; Ma, C.; Finn, M. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 9879-9883に、その詳細が記載されている。

【0024】
なお、合成の材料であるモノアジド化シクロデキストリンは、文献: Muderawan, I. W.; Ong, T. T.; Lee, T. C.; Young, D. J.; Ching, C. B.; Ng, S. C. Tetrahedron Lett. 2005, 46, 7905-7907に記載の方法に従って、シクロデキストリンから合成できる。また、オリゴアルギニンは、文献:Kitagishi, H.; Hatada, S.; Itakura, T.; Maki, Y.; Maeda, Y.; Kano, K. Org. Biomol. Chem. 2013, 11, 3203-3211に記載の方法によって、Pbf基で保護されたアルギニンなどからFmoc固相合成法により合成できる。

【0025】
2.医薬組成物
この発明の医薬組成物は、この発明のシクロデキストリン誘導体の疎水性空洞にポルフィリンなどの薬物を包接させた包接錯体を有効成分として含むものである。そこで、その詳細について以下に説明する。

【0026】
(1)薬物
この発明の医薬組成物を構成する薬物は、シクロデキストリン誘導体の疎水性空洞に包接可能な公知の薬物であれば、疾患を特に限定することなく使用できる。中でも、細胞内で効果を生じる薬物が好ましく、難病である癌の治療に使用する薬物がより好ましい。

【0027】
このような薬物としては、例えば、ポルフィリン及びその金属錯体(鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等)が挙げられる。なお、ポルフィリンは、光照射により周辺の酸素を活性酸素種である一重項酸素(1O2)へと変換する性質があり、この性質を利用した光線力学療法が非外科的な癌の治療法として注目されている。

【0028】
ポルフィリンは、置換基の異なる膨大な化合物の総称ではあるが、公知の化合物であれば特に限定することなく使用できる。中でも、入手し易いことから、下記一般式(2)又は(3)で表されるポルフィリンが好ましく、5,10,15,20‐テトラキス(4‐スルホナトフェニル)ポルフィリンがより好ましい。

【0029】
【化3】
JP0006180241B2_000004t.gif

【0030】
【化4】
JP0006180241B2_000005t.gif

【0031】
なお、ポルフィリンのほか、抗癌剤として知られるドキソルビシンのようなCDに包接することが知られる疎水性の高い薬物なども利用可能な薬物の候補として挙げられる。

【0032】
(2)包接錯体
この発明の医薬組成物の有効成分である包接錯体は、例えば、一般式(1)で表すシクロデキストリン誘導体と、前記一般式(2)又は(3)で表す水溶性金属ポルフィリンとをリン酸緩衝液などの水中で混ぜ合わせることにより製造できる。

【0033】
(3)投与形態等
この発明の医薬組成物は、種々の形態でヒト又は動物に投与することができ、その投与形態は特に限定されるものではない。具体的には、経口投与でもよいし、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与等の非経口投与でもよい。さらに、埋め込み用ペレットや公知の技術により持続性製剤としてもよい。なお、好ましい投与形態や製剤形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師又は獣医が適宜選択すればよい。

【0034】
経口投与に適する製剤形態としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などが例示でき、非経口投与に適する医薬組成物としては、注射剤、点滴剤、点鼻剤、噴霧剤、吸入剤、坐剤、又は軟膏、クリーム、粉状塗布剤、液状塗布剤、貼付剤等の経皮吸収剤等が例示できる。

【0035】
この発明の医薬組成物を錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤とする場合には、前記包接錯体を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤または希釈剤等と適宜混合して製造することができる。錠剤等は、必要に応じて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、酸化チタン等のコーティング剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等を施してもよい。

【0036】
また、この発明の医薬組成物を注射剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、噴霧剤、ローション剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤とする場合には、前記包接錯体を、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソーム又はエマルジョン等として調製できる。この際、注射剤は、生理学的なpH、具体的にはpH6~8の範囲であることが好ましい。

【0037】
さらに、この発明の医薬組成物を、ローション剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤とする場合には、前記包接錯体を脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤等と適宜混和することにより製造することができる。

【0038】
(4)含有量、投与量等
この発明の医薬組成物に含まれる包接錯体の含有量は、投与形態、患者の重篤度や医薬組成物の投与量などによって任意に調整すればよい。

【0039】
また、この発明の医薬組成物の投与量は、例えば患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜医者等が決定すればよい。前記投与量の医薬組成物は一日一回に投与してもよいし、数回に分けて投与してもよい。

【0040】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、この発明の特許請求の範囲は、以下の実施例によって如何なる意味においても制限されない。
【実施例1】
【0041】
1.シクロデキストリン誘導体の合成
この発明に係るシクロデキストリン誘導体であるオリゴアルギニン修飾シクロデキストリンを図1の合成経路に沿って合成した。なお、理解しやすくするため、以下の説明では、同じ化合物については図1と同じ略称を使用した。
【実施例1】
【0042】
(1)モノアジド化シクロデキストリンの合成
β-CDの第一級水酸基のうちの一つをアジド基で置換したモノアジド化シクロデキストリン、具体的には、mono-6-azido-6-deoxy-β-CD (以下N3-CDと省略する。)及びそのパー-O-メチル化体(以下、N3-CDMeと省略する。)は、前記文献に記載の方法に従って合成した。
【実施例1】
【0043】
(2)オクタアルギニンの合成
アルキンを末端に持つオクタアルギニン(以下、Alkyle-R8と省略する。) は、前記文献に記載の方法に従って合成した。具体的には、以下のようにして合成した。
【実施例1】
【0044】
まず、Fmoc-NH-SAL-PEG樹脂(渡辺化学社製)を出発物質として、HBTU/HOBtを縮合剤とするFmoc固相合成法により、前記樹脂上にPbf基で保護されたアルギニンを8個連結した。つぎに、4-ペンチン酸をHATU/HOBtを縮合剤としてN末端に縮合した。縮合したのち、トリフルオロ酢酸(TFA)/1,2-エタンジチオール/トリイソプロピルシラン/チオアニソール/水混合溶液(86/5/5/1.5/2.5, v/v/v/v/v)の組成を有する切り出し溶液を使用して、ペプチドを樹脂から切り出すとともに、Pbf基を脱保護した。最後に、得られた切り出し溶液にジエチルエーテルを加えて、生じた沈殿をジエチルエーテルで繰り返し洗浄し、Alkyne-R8を得た。得られたAlkyne-R8はMALDI-TOFマススペクトル(autoflex(登録商標)speed、Bruker Daltonics、マトリックス;α-CHCA, positive mode)の測定結果から同定した。その結果を図2に示す。
【実施例1】
【0045】
(3)オクタアルギニン修飾シクロデキストリンの合成
オクタアルギニン修飾シクロデキストリンは、Alkyne-R8とN3-CD又はN3-CDMeとを、水溶液中でCu(I)触媒アジド-アルキンヒュスゲン反応(クリック反応)により合成した。具体的には、前記文献を参考にして、以下のようにして合成した。
【実施例1】
【0046】
(a)R8-CDの合成
N3-CD(3.5 mg, 3.0 μMol)及びAlkyne-R8 (6.8 mg, 3.0 μMol)を水3 mLに溶解し、 そこに硫酸銅五水和物(0.75 mg, 3.0 μMol)、 リガンド(1,10-フェナントロリン, 1.2 mg, 6.0 μMol)及びアスコルビン酸ナトリウム(1.2 mg, 6.0 μMol)を加え、嫌気下で3時間攪拌した。
【実施例1】
【0047】
反応液をHPLC装置(AKTA purifier FPLC system、 GE healthcare)に取り付けた分取用カラム(Wakosil-II 5C18AR、和光純薬、20 mm × 250 mm)に注入し, 0.1% TFAを含む水と0.1% TFAを含むアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル比を20%から60%までリニアグラジエントで変化させた。) を使用して溶出させた。230 nmで検出しながらR8-CDを含むフラクションを分取し、このフラクションを凍結乾燥させて白色粉末であるR8-CDを得た(収率48 %)。得られたR8-CDはMALDI-TOFマススペクトル(autoflex(登録商標) speed、Bruker Daltonics、マトリックス;α-CHCA, positive mode)の測定結果から同定した。その結果を図3に示す。
【実施例1】
【0048】
(b)R8-CDMeの合成
N3-CDMe (4.4 mg, 3.0 μMol)及びAlkyne-R8 (13.6 mg, 6.0 μMol)を水3 mLに溶解し、 そこに硫酸銅・五水和物(7.5 mg, 30 μMol)、 リガンド(THTPA, 13.0 mg, 30 μMol、 文献:Hong, V.; Presolski, S. I.; Ma, C.; Finn, M. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 9879-9883に従って合成したもの。)、 アミノグアニジン(3.3 mg, 30 μMol)、及びアスコルビン酸ナトリウム(5.9 mg, 30μMol)を加えて、 嫌気下で3時間攪拌した。
【実施例1】
【0049】
反応液をHPLC装置(AKTA purifier FPLC system, GE healthcare)に取り付けた分取用カラム(Wakosil-II 5C18-AR、和光純薬、20 mm×250 mm)に注入し、0.1% TFAを含む水と0.1% TFAを含むアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル比を20%から60%までリニアグラジエントで変化させた。)を使用して溶出させた。230 nmで検出しながら、R8-CDMeを含むフラクションを分取し、このフラクションを凍結乾燥させることによって白色粉末であるR8-CDMeを得た(収率52%)。得られたR8-CDMeはMALDI-TOFマススペクトル(autoflex(登録商標) speed、Bruker Daltonics、マトリックス;α-CHCA, positive mode)の測定結果から同定した。その結果を図4に示す。
【実施例1】
【0050】
また、得られたR8-CDMeの純度を逆相HPLCにより調べた。具体的には、R8-CDMeを0.1% TFAを含む水に溶解して、HPLC装置(AKTA purifier FPLC system, GE healthcare)に取り付けた逆相カラム(Wakosil-II 5C18AR、和光純薬、4.6 mm × 250 mm) に注入し、0.1% TFAを含む水と0.1% TFAを含むアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル比を0%から60%までリニアグラジエントで変化させた。)を使用して溶出(溶出速度: 0.5 mL/min)させながら、230 nmにおける吸光度を測定した。
【実施例1】
【0051】
230 nmにおける測定結果(HPLCチャート)を図5に示す。この図から得られたR8-CDMeの純度が98%以上であることが確認できた。なお、この図において、溶出時間16分のピークはインジェクション溶液の混入による溶媒組成の変化によるものである。また、溶出時間40分のピークはR8-CDMeの溶出によるものである。なお、参考のためアセトニトリル比の変化を図中に示す。
【実施例1】
【0052】
さらに、得られたR8-CDMeの重水中における19F及び1H NMRスペクトル(ECA-500、JEOL)を測定した。その結果を図6に示す。なお、図6(a)は、19F NMRによる測定結果を示し、図6(b)は1H NMRによる測定結果を示している。19F NMRによる測定結果から、R8-CDMeのアルギニン残基の対アニオンは、HPLC精製の際に使用したTFAアニオン(CF3COO-)であることが確認できた。
【実施例2】
【0053】
2.薬物運搬体としての有用性試験
シクロデキストリン誘導体である水酸基をメチル基で置換したβ-CD (以下、TMe-β-CDと省略する。)は、水溶液中において5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(TPPS)を非常に強く包接して2 : 1の包接錯体を形成することが分かっている(文献:Kano, K.; Nishiyabu, R.; Aasada, T.; Kuroda, Y. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 9937-9944を参照。)。一方、ポルフィリンは、前記のように光線力学療法への利用が注目されている。
【実施例2】
【0054】
そのため、もし、合成したR8-CDMeが、薬物として利用できるポルフィリン分子を包接し、ポルフィリン分子を細胞内へと運搬することができるのであれば、効率の良い癌治療法が確立できる。そこで、実施例1で合成したR8-CDMeのドラッグデリバリーにおける薬物運搬体としての有用性を、TMe-β-CDと比較して調べた。
【実施例2】
【0055】
(1)包接錯体形成試験
R8-CDMeが、水溶液中においてTPPSと包接錯体を形成するかを調べた。具体的には、一定濃度のTPPS (1.6μM)を含むリン酸緩衝液(pH 7.4)に対してR8-CDMeを段階的に加え、その際のUV-visスペクトル変化を25 ℃で測定(UV-2450、SHIMADZU)した。その結果を図7に示す。また、加えたR8-CDMeに対して420 nmにおける吸光度変化をプロットした滴定曲線を図7右上の挿入図に示す。また、同様にして、TPPSを含むリン酸緩衝液に対してTMe-β-CDを段階的に加え、その際のUV-visスペクトル変化を測定した結果を図8に示す。
【実施例2】
【0056】
図8から、吸収スペクトルは等吸収点を示しながら変化し、加えたTMe-β-CDの濃度比がTPPS : TMe-β-CD = 1 : 2となった時点で吸光度変化が飽和することが観察された。この結果から、TPPS : TMe-β-CD = 1 : 2包接錯体が形成されたと考えられる。一方、図7から、R8-CDMeの添加にともなってTPPSの413 nmにあるソーレー帯の吸光度が減少し、その後徐々に416 nmの吸光度が増加するといった変化が観測された。変化が飽和して最終的に観測されたスペクトルの形状をTMe-β-CDを加えた場合のものと比較すると、図9に示すように両者はよく一致した。また、R8-CDMeの場合においてもTPPSに対して約2当量加えた時点で変化が飽和したことから、R8-CDMeもTMe-β-CDと同様にTPPS : R8-CDMe = 1 : 2包接錯体を形成したものと考えられる。
【実施例2】
【0057】
(2)細胞内移行能試験
R8-CDMe/TPPS包接錯体の細胞内移行能を調べた。具体的には、デッシュに付着したHeLa細胞の培養液(OPTI-MEM, Invitrogen, 無血清培地として使用。)に包接錯体(終濃度; [TPPS] = 5μM, [R8-CDMe] = 15μM)を添加し、37 ℃で2時間培養した。その後、培地を新しいものに交換し、顕微鏡(BZ-9000、キーエンス、倍率100倍)を使用して細胞を観測した。また、同濃度のTMe-β-CD/TPPS包接錯体を同様にしてHeLa細胞に添加したのち、顕微鏡を使用して観測した。観測結果を図10に示す。
【実施例2】
【0058】
なお、図10A及びBはTMe-β-CD/TPPSを細胞に加えた後に撮影したものであり、図10C及びDはR8-CDMe/TPPSを細胞に加えた後に撮影したものである。また、図10A及びCは位相差顕微鏡画像であり、図10B及びD蛍光顕微鏡画像(励起波長435 ± 25 nm, ポルフィリンが励起される。)である。
【実施例2】
【0059】
図10の蛍光顕微鏡画像から、TMe-β-CD/TPPS包接錯体を加えた細胞の場合(図10Bを参照。)には、胞内にポルフィリン由来の蛍光は細胞内で全く観測されなかった。これに対して、R8-CDMe/TPPS包接錯体を加えた細胞の場合(図10Dを参照。)には、ポルフィリン由来の蛍光が細胞内において観測された。この結果から、元々細胞内移行能のないポルフィリン分子が、R8-CDMeに包接されることによって、R8-CDMeの持つオクタアルギニン鎖の働きにより、細胞内へ移行できるようになったことが確認できた。
【実施例2】
【0060】
(3)細胞毒性試験
R8-CDMe及びR8-CDMe/TPPS包接錯体の細胞毒性を調べた。具体的には、(2)細胞内移行能試験と同様に、R8-CDMe、R8-CDMe/TPPS包接錯体を上記と同様の条件でHeLa細胞の培養液に加えて37 ℃で2時間培養した。新しい培地に入れ替えたのち、この新しい培地にカルセイン-AM(DOJINDO)を加えて、生細胞のみを蛍光染色した。これらの細胞を顕微鏡を使用して観測した結果を図11に示す。
【実施例2】
【0061】
なお、図11A及びBはカルセイン-AMで生細胞蛍光染色したものであり、図11C及びDはR8-CDMeを細胞に加えたのち、カルセイン-AMで生細胞蛍光染色したものであり、図11E及びFはR8-CDMe/TPPS包接錯体を細胞に加えたのち、カルセイン-AMで生細胞蛍光染色したものである。また、図11A、C及びEは位相差顕微鏡画像であり、図11B、D及びFは蛍光顕微鏡画像(励起波長470 ± 20 nm, カルセイン色素が励起される。)である。
【実施例2】
【0062】
図11から、R8-CDMeを加えた細胞(図11Dを参照。)及びR8-CDMe/TPPS包接錯体を加えた細胞(図11Fを参照。)は、何も加えていない細胞(図11Bを参照。)と同様にカルセイン由来の蛍光が細胞内に観測された。そのため、これらには顕著な細胞毒性がないことが確認できた。
【実施例2】
【0063】
(4)光毒性試験
R8-CDMe/TPPS包接錯体を細胞に導入したのち、細胞に光照射して光毒性を評価した。具体的には、(2)細胞内移行能試験と同様に、R8-CDMe/TPPS包接錯体をHeLa細胞に添加して、37 ℃で2時間培養した。新しい培地に入れ替えたのち、150 Wキセノンランプ光源から発生しフィルター(B-390、HOYA)を通して310-510 nmの範囲にカットした光を、培地中の細胞に15分間照射した。最後に、培地にカルセイン-AM (DOJINDO)を加えて、生細胞のみを蛍光染色してたのち、蛍光顕微鏡で観察(倍率20倍、励起波長470 ± 20 nm、カルセイン色素が励起される。)した。また、光照射していない対照実験についても同様にして蛍光染色しのち、蛍光顕微鏡で観察した。その結果を図12に示す。
【実施例2】
【0064】
なお、図12Aは暗条件でR8-CDMe/TPPS包接錯体を細胞に加えたのち、カルセイン-AMで生細胞蛍光染色したものであり、図12Bは暗条件でR8-CDMe/TPPS包接錯体を細胞に加えたのち、15分間光照射して、カルセイン-AMで生細胞蛍光染色したものである。
【実施例2】
【0065】
図12Aに示すように、光照射していない細胞では全ての細胞内にカルセイン由来の蛍光が観測された。これに対し、図12Bに示すように、光照射を行った細胞ではカルセイン由来の蛍光が全く観測されず、生細胞がほとんど存在しなかった。
【実施例2】
【0066】
すなわち、R8-CDMeは、そのポルフィリン包接能及び細胞膜透過能の両方の効果によって、細胞内に光線力学療法で使用するポルフィリン分子を効率的に運搬して細胞内に拡散し、光照射によって細胞を死滅させた。このことは、この発明の医薬組成物による光治療の可能性を示唆している。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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