TOP > 国内特許検索 > 拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法 > 明細書

明細書 :拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-109459 (P2016-109459A)
公開日 平成28年6月20日(2016.6.20)
発明の名称または考案の名称 拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法
国際特許分類 G01T   1/169       (2006.01)
G01T   1/203       (2006.01)
FI G01T 1/169 C
G01T 1/203
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2014-244466 (P2014-244466)
出願日 平成26年12月2日(2014.12.2)
発明者または考案者 【氏名】古 田 悦 子
【氏名】上 島 良 司
出願人 【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
【識別番号】514307659
【氏名又は名称】株式会社プラケン
個別代理人の代理人 【識別番号】100117787、【弁理士】、【氏名又は名称】勝沼 宏仁
【識別番号】100082991、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 泰和
【識別番号】100103263、【弁理士】、【氏名又は名称】川崎 康
【識別番号】100107582、【弁理士】、【氏名又は名称】関根 毅
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
Fターム 2G188AA16
2G188BB05
2G188CC10
2G188CC12
2G188CC15
2G188CC21
2G188DD42
2G188DD43
2G188EE01
2G188EE12
2G188EE16
要約
【課題】拭き取りにより放射線検出を行う際に、コストをかけることなく、また廃液を生じさせることなく、高精度に放射線の検出を行う。
【解決手段】拭き取り装置1は、円筒形の芯材3と、芯材の外周面側に周状に配置される拭き取り材4と、芯材の外周面側に周状に拭き取り材を配置した状態で、芯材を回転させながら拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う拭き取り具5と、対象領域の拭き取り後に拭き取り材の外周面に着脱自在に密着配置されるプラスチックシンチレータの第1薄膜6と、を備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
円筒形の芯材と、
前記芯材の外周面側に周状に配置される拭き取り材と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う拭き取り具と、
前記対象領域の拭き取り後に前記拭き取り材の外周面に着脱自在に密着配置されるプラスチックシンチレータの第1薄膜と、を備える拭き取り装置。
【請求項2】
前記第1薄膜は、周状に配置された前記拭き取り材の外周面の形状に準じた形状を記憶した形状記憶部材であり、
前記第1薄膜は、前記拭き取り材の外周面に嵌めこまれると、記憶した形状に従って、前記拭き取り材の外周面に密着配置される請求項1に記載の拭き取り装置。
【請求項3】
前記芯材は、中空または中実の円筒状樹脂またはガラス部材である請求項1または2に記載の拭き取り装置。
【請求項4】
前記第1薄膜の外周面側は粗面化されている請求項1乃至3のいずれかに記載の拭き取り装置。
【請求項5】
前記芯材の外周面の少なくとも一部は粗面化されている請求項1乃至4のいずれかに記載の拭き取り装置。
【請求項6】
前記芯材の外周面と前記拭き取り材との間に周状に配置されるプラスチックシンチレータの第2薄膜を備える請求項1乃至5のいずれかに記載の拭き取り装置。
【請求項7】
前記第2薄膜は、前記芯材の外周面の形状に準じた形状を記憶した形状記憶部材であり、
前記第2薄膜は、前記芯材の外周面に嵌めこまれると、記憶した形状に従って、前記芯材の外周面に密着配置される請求項6に記載の拭き取り装置。
【請求項8】
前記芯材の長手方向両端面側に配置され、前記プラスチックシンチレータで発生した蛍光を乱反射させる反射部材を備える請求項1乃至7のいずれかに記載の拭き取り装置。
【請求項9】
前記拭き取り具は、
前記芯材の回転軸方向と交差する方向に延在する柄と、
前記柄の一端部側に設けられ、前記対象領域の拭き取りを行う際に人間によって把持される把持部と、
前記柄の他端側に設けられ、前記芯材の両端面側を支持する2つの支持部と、
前記柄から延びる軸部材と前記2つの支持部とを接続する連結部と、
前記連結部と前記柄の他端部との間に設けられ、前記連結部の前記軸部材方向への移動に応じて伸縮する伸縮部材と、を有する請求項1乃至8のいずれかに記載の拭き取り装置。
【請求項10】
円筒形の芯材と、
前記芯材の外周面側に配置される拭き取り材と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う拭き取り具と、
前記対象領域の拭き取り後に前記拭き取り材の外周面に着脱自在に密着配置されるプラスチックシンチレータの第1薄膜と、
前記第1薄膜を前記拭き取り材の外周面に密着配置させた前記芯材を収納する容器と、
前記容器内の前記第1薄膜から発光された蛍光を測定する光電子増倍管と、を備える放射線検出装置。
【請求項11】
円筒形の芯材の外周面側に拭き取り材を配置する工程と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材の長手方向両端面を拭き取り具の支持部により回動自在に支持する工程と、
前記拭き取り具の把持部を把持して、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う工程と、
前記支持部から前記芯材を取り外して、前記拭き取り材の外周面に、プラスチックシンチレータの第1薄膜を密着配置する工程と、を備える拭き取り方法。
【請求項12】
前記第1薄膜を密着配置する工程は、
前記拭き取り具による拭き取り後に、前記拭き取り具の一つの前記支持部と対向する前記芯材の端面との間に芯材置き台を挿入する工程と、
前記芯材置き台を下にした状態で、前記拭き取り具から前記芯材を取り外して、前記芯材置き台の上に前記芯材を縦置きする工程と、
外径が連続的に変化する三角コーン部材の頂部側に前記第1薄膜を差し込む工程と、
前記三角コーン部材を前記縦置きされた芯材の上方に配置して、前記三角コーン部材の底面側に前記第1薄膜を押し込んで、前記第1薄膜を前記芯材の外周面側に配置された前記拭き取り材の外周面に密着配置する工程と、を備える請求項11に記載の拭き取り方法。
【請求項13】
円筒形の芯材の外周面側に拭き取り材を配置する工程と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材の長手方向両端面を拭き取り具の支持部により回動自在に支持する工程と、
前記拭き取り具の把持部を把持して、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う工程と、
前記支持部から前記芯材を取り外して、前記拭き取り材の外周面に、プラスチックシンチレータの第1薄膜を密着配置する工程と、
前記第1薄膜を前記拭き取り材の外周面に密着配置させた前記芯材を容器の中に収納して密封する工程と、
前記容器内の前記第1薄膜から発光された蛍光を光電子増倍管にて測定する工程と、を備える放射線検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出するために対象領域を拭き取る拭き取り装置および拭き取り方法と、拭き取った後に放射線検出を行う放射線検出装置および放射線検出方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
非密封放射性物質取扱施設や原子力発電所などでは、施設の法定汚染検査を行う義務がある。このため、スメア濾紙を用いた拭き取り検査が行われており、スメア濾紙の汚染度を評価するための測定には、液体シンチレーションカウンタ(LSC:Liquid Scintillation Counter)を使用するのが一般的である。この測定法は、すべての放射性核種に対して測定効率が優れているが、スメア濾紙に拭き取られた放射性汚染物質を溶かすために使用される液体シンチレータが測定後に放射性の有機廃液となり、廃棄処理にコストがかかるという問題がある。実際、放射能汚染が見つかる試料数は全検査試料の1割以下であり、無駄な廃液を多く発生させる結果となっていた。
【0003】
また、液体シンチレータは、発がん性のある有機溶媒を用いており、放射線検出を行う作業者に健康被害を生じさせるおそれがある。このように、液体シンチレータを用いることは、環境負荷が大きく、また、その廃液処理には時間やコストがかかるという問題がある。
【0004】
そこで、本発明者は、無駄な廃液を生じさせない手法として、プラスチックシンチレータを用いた放射線検出手法を提案した(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】2011年10月7日 日本保健物理学会研究発表会講演要旨集、「新表面汚染拭き取り法の提案」
【非特許文献2】2009年12月2日 日本放射線安全管理学会学術大会講演予稿集、「プラスチックシンチレータを用いたスミア測定」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
提案した手法によれば、プラスチックシンチレータを用いることで、廃液の発生が抑制されることに加えて、放射性核種の同定が可能であり、拭き取り効率の個人差も低減できた。
【0007】
しかしながら、プラスチックシンチレータの材料および加工費が高いことから、この手法が普及されるまでには至っていないのが実状である。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、拭き取りにより放射線検出を行う際に、コストをかけることなく、また廃液を生じさせることなく、高精度に放射線の検出を行うことができる拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、円筒形の芯材と、
前記芯材の外周面側に周状に配置される拭き取り材と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う拭き取り具と、
前記対象領域の拭き取り後に前記拭き取り材の外周面に着脱自在に密着配置されるプラスチックシンチレータの第1薄膜と、を備える拭き取り装置が提供される。
【0010】
前記第1薄膜は、周状に配置された前記拭き取り材の外周面の形状に準じた形状を記憶した形状記憶部材であり、
前記第1薄膜は、前記拭き取り材の外周面に嵌めこまれると、記憶した形状に従って、前記拭き取り材の外周面に密着配置されてもよい。
【0011】
前記芯材は、中空または中実の円筒状樹脂またはガラス部材であってもよい。
【0012】
前記第1薄膜の外周面側は粗面化されていてもよい。
【0013】
前記芯材の外周面の少なくとも一部は粗面化されていてもよい。
【0014】
前記芯材の外周面と前記拭き取り材との間に周状に配置されるプラスチックシンチレータの第2薄膜を備えていてもよい。
【0015】
前記第2薄膜は、前記芯材の外周面の形状に準じた形状を記憶した形状記憶部材であり、
前記第2薄膜は、前記芯材の外周面に嵌めこまれると、記憶した形状に従って、前記芯材の外周面に密着配置されてもよい。
【0016】
前記芯材の長手方向両端面側に配置され、前記プラスチックシンチレータで発生した蛍光を乱反射させる反射部材を備えてもよい。
【0017】
前記拭き取り具は、
前記芯材の回転軸方向と交差する方向に延在する柄と、
前記柄の一端部側に設けられ、前記対象領域の拭き取りを行う際に人間によって把持される把持部と、
前記柄の他端側に設けられ、前記芯材の両端面側を支持する2つの支持部と、
前記柄から延びる軸部材と前記2つの支持部とを接続する連結部と、
前記連結部と前記柄の他端部との間に設けられ、前記連結部の前記軸部材方向への移動に応じて伸縮する伸縮部材と、を有していてもよい。
【0018】
円筒形の芯材と、
前記芯材の外周面側に配置される拭き取り材と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う拭き取り具と、
前記対象領域の拭き取り後に前記拭き取り材の外周面に着脱自在に密着配置されるプラスチックシンチレータの第1薄膜と、
前記第1薄膜を前記拭き取り材の外周面に密着配置させた前記芯材を収納する容器と、
前記容器内の前記第1薄膜から発光された蛍光を測定する光電子増倍管と、を備える放射線検出装置が提供されてもよい。
【0019】
円筒形の芯材の外周面側に拭き取り材を配置する工程と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材の長手方向両端面を拭き取り具の支持部により回動自在に支持する工程と、
前記拭き取り具の把持部を把持して、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う工程と、
前記支持部から前記芯材を取り外して、前記拭き取り材の外周面に、プラスチックシンチレータの第1薄膜を密着配置する工程と、を備える拭き取り方法が提供されてもよい。
【0020】
前記第1薄膜を密着配置する工程は、
前記拭き取り具による拭き取り後に、前記拭き取り具の一つの前記支持部と対向する前記芯材の端面との間に芯材置き台を挿入する工程と、
前記芯材置き台を下にした状態で、前記拭き取り具から前記芯材を取り外して、前記芯材置き台の上に前記芯材を縦置きする工程と、
外径が連続的に変化する三角コーン部材の頂部側に前記第1薄膜を差し込む工程と、
前記三角コーン部材を前記縦置きされた芯材の上方に配置して、前記三角コーン部材の底面側に前記第1薄膜を押し込んで、前記第1薄膜を前記芯材の外周面側に配置された前記拭き取り材の外周面に密着配置する工程と、を備えていてもよい。
【0021】
円筒形の芯材の外周面側に拭き取り材を配置する工程と、
前記芯材の外周面側に周状に前記拭き取り材を配置した状態で、前記芯材の長手方向両端面を拭き取り具の支持部により回動自在に支持する工程と、
前記拭き取り具の把持部を把持して、前記芯材を回転させながら前記拭き取り材にて対象領域の拭き取りを行う工程と、
前記支持部から前記芯材を取り外して、前記拭き取り材の外周面に、プラスチックシンチレータの第1薄膜を密着配置する工程と、
前記第1薄膜を前記拭き取り材の外周面に密着配置させた前記芯材を容器の中に収納して密封する工程と、
前記容器内の前記第1薄膜から発光された蛍光を光電子増倍管にて測定する工程と、を備える放射線検出方法が提供されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、拭き取りにより放射線検出を行う際に、コストをかけることなく、また廃液を生じさせることなく、高精度に放射線の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による拭き取り装置の分解斜視図。
【図2】拭き取り装置の斜視図。
【図3】プラスチックシンチレータの第1薄膜の斜視図。
【図4】図1の拭き取り装置を用いた放射線検出装置2を示す図。
【図5】図1の拭き取り装置を用いた放射線検出方法の手順を説明するフローチャート。
【図6】拭き取り具から芯材を取り外して放射線検出装置2で放射線検出を行うまでの手順を模式的に示す図。
【図7】(a)と(b)は芯材に反射部材を配置しない場合の蛍光の進行方向を示す図。
【図8】芯材の両端面に反射部材を配置する例を示す図。
【図9】(a)と(b)は芯材に反射部材を配置する場合の蛍光の進行方向を示す図。
【図10】反射部材の断面構造の一例を示す断面図。
【図11】第1薄膜、拭き取り材および第2薄膜の取付手順を示す図。
【図12】図11(c)の短手方向断面図。
【図13】第1薄膜と第2薄膜の形状記憶加工処理の一例を示すフローチャート。
【図14】(a)と(b)はプラスチックシンチレータ薄膜の製造工程を示す図。
【図15】拭き取り具の要部の構造を示す図。
【図16】図1の拭き取り装置を用いた放射線検出方法の手順の変形例を示すフローチャート。
【図17】図16の手順を図式化した図。
【図18】(a)と(b)は核種同定性能を比較した実験結果を示す図。
【図19】(a)~(d)は拭き取り具による拭き取り性能を示す実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態では、拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法についての特徴的な構成および動作を中心に説明するが、拭き取り装置、放射線検出装置、拭き取り方法および放射線検出方法には以下の説明で省略した構成および動作が存在しうる。ただし、これらの省略した構成および動作も本実施形態の範囲に含まれるものである。

【0025】
(拭き取り装置の構成)
図1は本発明の一実施形態による拭き取り装置1の分解斜視図、図2は拭き取り装置1の斜視図、図3はプラスチックシンチレータの第1薄膜6の斜視図、図4は図1の拭き取り装置1を用いた放射線検出装置2を示す図である。

【0026】
図1の拭き取り装置1は、芯材3と、拭き取り材4と、拭き取り具5と、プラスチックシンチレータの第1薄膜6とを備えている。

【0027】
芯材3は、ガラスまたは樹脂を円筒形状に加工したものである。芯材3は、中空構造でもよいし、内部が詰まった中実構造でもよい。芯材3は、プラスチックシンチレータで発生された蛍光をできるだけ損失なく透過させることが可能な材料で形成されている。芯材3の具体的な材料の一例は、アクリル樹脂であり、可視光透過率が高いものほど望ましい。アクリル樹脂は、安価に入手できる透明基材であり、放射能検出精度を落とさずに、部材コストの削減を図ることができる。

【0028】
拭き取り材4は、芯材3の外周面側に周状に配置されるものである。例えば、芯材3の外周面と拭き取り材4の表面との少なくとも一方に接着剤を付着させて、芯材3の外周面に拭き取り材4を周状に接着する。拭き取り材4の一具体例は、濾紙である。例えば、10cm四方の対象領域10を拭き取る場合には、5cm四方の濾紙を用意し、対象領域10を5cm幅で2回に分けて拭き取れば、短時間で対象領域10の拭き取りを行うことができる。本実施形態では、対象領域10を拭き取り材4で拭き取って放射線検出を行う、いわゆるスミア法を実施することを念頭に置いており、拭き取り材4として用いられる濾紙は、スミア濾紙とも呼ばれている。

【0029】
後述するように、拭き取り材4は、必ずしも芯材3の外周面に接着されるとは限らないが、少なくとも拭き取り材4は、芯材3の外周面側に配置されている。

【0030】
拭き取り材4は、必ずしも濾紙に限定されるわけではなく、放射性物質を拭き取れる材料であれば具体的な材料は問わない。例えば、拭き取り材4として、市販されている両面テープを用いてもよい。この場合、芯材3の外周面に直接両面テープを貼り付ければよい。

【0031】
拭き取り具5は、芯材3の外周面側に拭き取り材4を配置した状態で、芯材3を回転させながら拭き取り材4にて対象領域10の拭き取りを行う。拭き取り具5の詳細構造とその使い方については、後述する。

【0032】
プラスチックシンチレータの第1薄膜6は、対象領域10の拭き取り後に拭き取り材4の外周面に着脱自在に密着配置される。第1薄膜6は、後述するように、周状に配置された拭き取り材4の外周面の形状に準じた形状を記憶している。第1薄膜6は、拭き取り材4の外周面に嵌めこまれると、記憶した形状に従って、拭き取り材4の外周面に密着配置される。

【0033】
このように、図1の拭き取り装置1は、まず芯材3の外周面に拭き取り材4を接着し、拭き取り材4が接着された芯材3を拭き取り具5により回動自在に支持した状態で、拭き取り具5を対象領域10内で移動させる。これにより、拭き取り材4が対象領域10に面接触ながら回転し、対象領域10内の拭き取りが行われる。対象領域10の拭き取りが終了すると、拭き取り材4が接着された芯材3を拭き取り具5から取り外して、拭き取り材4の外周面に第1薄膜6を密着配置する。

【0034】
図3(a)に示すように、プラスチックシンチレータの第1薄膜6は、芯材3の外周形状を記憶している形状記憶部材である。第1薄膜6は、丸まっていない平板状の薄膜に対して、後述する加工処理を施すことで、周状に配置された拭き取り材4の外周面の形状に準じた中空の円筒形状を記憶している。この形状を記憶している第1薄膜6は、その長手方向に沿って両端部が配置されており、この両端部を人間の手で掴んで外側に広げることで、図3(b)に示すように人間の手で容易に両端部間の隙間を広げることができる。人間が手を離すと、図3(a)に示す元の形状記憶した形状に復帰する。元の形状では、薄膜の両端部の間には隙間ができないように、薄膜の一部が重なるように配置されている。

【0035】
本実施形態では、芯材3の外周面に拭き取り材4を接着させた状態で、拭き取り具5にて対象領域10の拭き取りを行った後、拭き取り材4が接着された芯材3を拭き取り具5から取り外す。そして、芯材3の外周形状を記憶している第1薄膜6の両端部間を少し広げて、その内部に、拭き取り材4が接着された芯材3を嵌めこむ。第1薄膜6は、芯材3の外周形状を記憶しているため、自動的に両端部の隙間が閉じられて、第1薄膜6と拭き取り材4とは密着されることになる。このはめ込み作業は、手慣れていない作業者でも容易に行うことができる。

【0036】
プラスチックシンチレータの第1薄膜6は、対象領域10を拭き取った後の拭き取り材4の外周面に嵌めこむだけで、第1薄膜6と拭き取り材4との隙間をほとんどなくして、両者を密着配置することができる。例えば、放射線としてトリチウムのβ線を検出する場合、このβ線のエネルギーは元々低いため、プラスチックシンチレータと拭き取り材4との隙間が少し開いているだけでも、検出できなくなるおそれがあるが、本実施形態の第1薄膜6は、隙間がほとんど無い状態で拭き取り材4に密着配置できるため、トリチウムのβ線であっても、検出可能である。

【0037】
(放射線検出装置2の構成)
図4の放射線検出装置2は、バイアル11と、2つの光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube、フォトマル)12と、同時計数回路13とを有する。

【0038】
バイアル11は、ガラスまたはプラスチックで形成された蓋付きの容器であり、蓋11aを開けて、第1薄膜6が拭き取り材4に密着配置された芯材3を容器の内部に収納した後、蓋11aが閉じられる。芯材3は、その長手方向をバイアル11の上下に配置した状態で、バイアル11の内部に収納される。

【0039】
2つの光電子増倍管12は、バイアル11を間に挟んでその両側に配置される。これら光電子増倍管12は、バイアル11から出射された蛍光の量に応じた電気パルス信号を生成する。電気パルス信号は、蛍光の光量に応じた振幅と、蛍光の発光時間に応じたパルス幅と、蛍光の数に応じたパルス数を有する。

【0040】
同時計数回路13は、2つの光電子増倍管12が共通して検出した電気パルス信号を抽出する。同時計数回路13を設けることで、2つの光電子増倍管12のノイズを相殺して、真の蛍光の量を検出可能となる。

【0041】
(放射線検出方法の手順)
図5は図1の拭き取り装置1を用いた放射線検出方法の手順を説明するフローチャート、図6は拭き取り具5から芯材3を取り外して放射線検出装置2で放射線検出を行うまでの手順を模式的に示す図である。

【0042】
まず、芯材3の外周面に拭き取り材4を接着する(ステップS1)。次に、拭き取り材4が接着された芯材3の長手方向両端面を回動自在に拭き取り具5に支持する。すなわち、芯材3を拭き取り具5に装着する(ステップS2)。そして、拭き取り具5の把持部5aを作業者が把持して、対象領域10に拭き取り材4を接触させながら、芯材3を回転移動させて、対象領域10の拭き取りを行う(ステップS3)。

【0043】
対象領域10の拭き取りが終了すると、作業者は、図6(a)に示すように、拭き取り材4が接着された芯材3を拭き取り具5から取り外す(ステップS4)。続いて、作業者は、図6(b)に示すように、拭き取り材4の外周面に第1薄膜6を被せて、拭き取り材4と第1薄膜6とを密着配置させる(ステップS5)。次に、作業者は、図6(c)に示すように、第1薄膜6で外表面が覆われた拭き取り材4および芯材3を、バイアル11の内部に収納し、収納後に図6(d)に示すようにバイアル11の蓋11aを閉じる(ステップS6)。その後、バイアル11を2つの光電子増倍管12の間に配置して、同時計数回路13にて、拭き取り材4に付着した放射線の検出を行う(ステップS7)。

【0044】
(芯材3の構造)
図1に示すように、円筒状の芯材3の長手方向両端面3aには、その中央部に孔部3bが設けられている。この孔部3bには、拭き取り具5の突起部5gを嵌めこむことができる。突起部5gが孔部3bに嵌めこまれた状態で、芯材3は突起部5gの周りを回転することができる。このように、芯材3は、拭き取り具5に回動自在に支持されている。

【0045】
なお、芯材3の長手方向両端面3aには、光学プリズムなどの反射部材を対向配置するのが望ましい。その理由は、拭き取り材4に付着したβ線などの放射線は、プラスチックシンチレータの第1薄膜6内で蛍光を生じさせるが、蛍光の一部は、拭き取り材4を通過して、芯材3の内部に入り込む。芯材3の内部に入り込んだ蛍光のうち、臨界角度未満の角度で芯材3の外周面の裏面側に入射された蛍光は、図7(a)に示すように、芯材3の外周面を通過せずに反射されて、芯材3の長手方向両端面3aの方向に進行する。両端面3aに達した蛍光は、両端面3aに反射部材がない場合は、そのまま両端面3aを通過して外側に抜けてしまう。光電子増倍管12は、図4に示すように芯材3の側方に配置されるため、芯材3の両端面3aから抜けた光は光電子増倍管12では検出できず、検出可能な蛍光が減ってしまい、放射線の検出精度が低下してしまう。

【0046】
図7(a)では、芯材3の外周面側に配置された拭き取り材4の中の一点(図示の左側中央部)Pで放射線が発生した例を示している。バイアル11の左側の光電子増倍管12には、図7(a)の矢印線で示すように、比較的多くの蛍光が検出されるが、蛍光の一部は、芯材3の両端面3a方向に進行して、両端面3aから外部に抜けてしまうため、右側の光電子増倍管12で検出される蛍光の量は少なくなる。

【0047】
この結果、図7(b)に示すように、左側の光電子増倍管12から出力される電気パルス信号はディスクリ値(検査閾値)を超えるのに、右側の光電子増倍管12から出力される電気パルス信号はディスクリ値(検査閾値)を超えない場合が生じ、同時計数回路13で計数される放射線の数が減ってしまう。

【0048】
そこで、図8に示すように、拭き取りが終わって、拭き取り具5から芯材3を取り外した後に、芯材3の両端面3aに、反射部材8を取り付けてもよい。反射部材8は、例えばプリズムシートであり、このシートのプリズム面を水で濡らして芯材3の両端面3aに接触させると、特に接着剤を用いなくても、プリズムシートを芯材3の両端面3aに接着できる。あるいは、反射特性に影響を与えないように、薄く接着剤を塗布して反射部材8を芯材3の両端面3aに接着してもよい。

【0049】
プリズムシートのような反射部材8を芯材3の長手方向両端面3a側に配置することで、芯材3の内面で反射しながら両端面3aに到達した蛍光は、図9(a)に示すように両端面3aで反射されるため、芯材3の外周面(側面)を再度貫通して、光電子増倍管12にて検出される蛍光の割合を増やすことができる。

【0050】
例えば、図9(a)の例では、図7(a)と同様に、拭き取り材4の左側中央部の一点Pで蛍光が発生した例を示している。芯材3の両端面3aの方向に進行した蛍光は、反射部材8で乱反射されるため、左側の光電子増倍管12だけでなく、右側の光電子増倍管12にも、入射される。

【0051】
この結果、図9(b)に示すように、2つの光電子増倍管12から出力される電気パルス信号は、同じようにディスクリ値を超える結果となり、同時計数回路13で計数される放射線の量を増やすことができる。

【0052】
なお、反射部材8は、鏡面反射を生じさせるものではなく、乱反射を生じさせるものが望ましい。その理由は、芯材3の一端面で鏡面反射した蛍光は、芯材3の外周面を通り抜けずに、他端面の方向に進行し、両端面3a間で反射を繰り返すだけで、芯材3の外周面を通り抜ける蛍光が増えないおそれがあるためである。一方、両端面3aに達した蛍光が乱反射されると、芯材3の外周面を通り抜ける蛍光を増やすことができ、光電子増倍管12により検出される蛍光の量を増やすことができる。

【0053】
乱反射を生じさせる反射部材8は、例えばプリズムシートである。また、ガラスビーズ等を用いることで、乱反射を生じさせてもよい。

【0054】
図10は反射部材8の断面構造の一例を示す断面図である。図10の反射部材8は、剥離層21と、芯材3の両端面に接着される接着層22と、膠着層23と、反射膜24と、蜂の巣状の空気層25の間に配置されるガラスビーズ26と、透明プラスチックフィルム27とを有する。反射膜24とガラスビーズ26により、入射光を乱反射するようにしている。図10の反射部材8は一例であり、乱反射を生じさせる反射部材8であれば、その構造は問わない。

【0055】
(プラスチックシンチレータ薄膜の多層化)
上述した例では、プラスチックシンチレータの第1薄膜6を、拭き取り材4の外側に被せているが、これに加えて、芯材3と拭き取り材4との間にも、別のプラスチックシンチレータ薄膜を配置してもよい。以下では、芯材3と拭き取り材4との間に配置されるプラスチックシンチレータ薄膜を第2薄膜7と呼ぶ。

【0056】
第2薄膜7も、第1薄膜6と同様に、芯材3の外周面の形状に準じた形状に加工された形状記憶部材である。第2薄膜7は、第1薄膜6よりも内側に配置されるため、第2薄膜7の形状記憶された径は、第1薄膜6の形状記憶された径よりも小さい。一例として、第2薄膜7の径は第1薄膜6の径よりも約2mm小さく設定される。

【0057】
図11は、第1薄膜6、拭き取り材4および第2薄膜7の取付手順を示す図である。また、図12は図11(c)の短手方向断面図である。まず、図11(a)に示すように、芯材3に第2薄膜7を接着する。上述したように、第2薄膜7は、芯材3の外周面に準じた形状に予め加工されているため、第2薄膜7の両端部を少し広げるだけで、容易に第2薄膜7に被せることができ、被せた状態では、第2薄膜7は芯材3に密着配置される。第2薄膜7と芯材3の外周面との少なくとも一方には、予め接着剤を付着しておけば、芯材3の外周面に第2薄膜7を被せるだけで、芯材3と第2薄膜7とを接着することができる。

【0058】
第2薄膜7は、拭き取り材4に付着された放射線による汚染を受ける可能性があり、その場合には、第2薄膜7を除染または交換しなければならない。そこで、第2薄膜7と芯材3との接着力は、あまり強くない方が望ましい。

【0059】
次に、図11(b)に示すように、第2薄膜7の外周面に拭き取り材4を接着する。その後、図11(c)に示すように、第1薄膜6が拭き取り材4の外周面に沿って嵌めこまれる。

【0060】
芯材3と拭き取り材4との間に、プラスチックシンチレータの第2薄膜7を配置することで、拭き取り材4から芯材3側に放射する放射線により、第2薄膜7で蛍光を生じさせることができる。すなわち、拭き取り材4から外周側に放射する放射線は第1薄膜6で蛍光を生じさせ、拭き取り材4から内周側に放射する放射線は第2薄膜7で蛍光を生じさせることができるため、第1薄膜6だけを設けた場合よりも、より多くの蛍光を生じさせることができ、放射線の検出精度を向上できる。

【0061】
第2薄膜7は、拭き取り材4の内側に配置されており、拭き取り具5で対象領域10を拭き取る際に拭き取り材4に付着した放射線は、拭き取り材4の外表面側に存在するため、拭き取り材4の内側の第2薄膜7が放射線による汚染を受けるおそれは少ないと考えられる。よって、第2薄膜7は、拭き取り材4を交換するたびに交換する必要はなく、再利用が可能である。

【0062】
(プラスチックシンチレータ薄膜の粗面化)
図8のような反射部材8を芯材3の長手方向両端面3a側に設ける場合、芯材3の長手方向両端面3aに向かって進行する蛍光は、芯材3の内部に入り込んだ蛍光である。芯材3の内部に入り込む蛍光を減らすことができれば、芯材3の長手方向両端面3aから外側に向ける蛍光の量も低減できると考えられる。そこで、プラスチックシンチレータの第1薄膜6の外周面側を粗面化してもよい。第1薄膜6の外周面側を粗面化することで、第1薄膜6の内部で生じた蛍光が、粗面化された外周面で外側に散乱されやすくなり、結果として、光電子増倍管12に入射される蛍光を増やせるとともに、芯材3の方向に伝搬する蛍光の量を減らすことができる。

【0063】
第1薄膜6の外周面の粗面化は、紙やすりなどの凹凸部材で外周面をこすればよい。あるいは、エッチング液等の化学的手法により粗面化してもよい。

【0064】
なお、第1薄膜6の内周面は粗面化せずに、平坦な状態を維持していた方がよい。その理由は、第1薄膜6の内周面は、拭き取り材4が接する面であり、この面が粗面化されていると、拭き取り材4に付着した放射線により、第1薄膜6が汚染するおそれがあるためである。

【0065】
なお、芯材3と拭き取り材4との間に第2薄膜7を設ける場合、第2薄膜7を粗面化する必要はない。

【0066】
一方、芯材3の外表面を粗面化してもよい。特に、芯材3の外表面に拭き取り材4を周状に配置する際、芯材3の両端面に近い側の外表面は、拭き取り材4が配置されずに露出することが考えられる。この露出部から蛍光を側方に散乱させることができるように、この露出部は少なくとも粗面化するのが望ましい。

【0067】
(プラスチックシンチレータ薄膜の形状記憶化)
上述したように、プラスチックシンチレータの第1薄膜6と第2薄膜7は、芯材3の外周面に準じた形状に加工されており、この形状を変形させても、元の形状に復帰するようにしている。以下では、第1薄膜6と第2薄膜7の形状記憶加工について説明する。

【0068】
図13は第1薄膜6と第2薄膜7の形状記憶加工処理の一例を示すフローチャートである。まず、例えばポリビニールトルエンを基材として、所定の波長変換材と所定の溶媒とを混合させる(ステップS11)。

【0069】
これら3つの材料を混合すると、混合物の中に空気による泡が生じるため、窒素雰囲気で真空脱泡するなどの泡抜き処理を行った上で、プラスチックシンチレータ薄膜の型に流し込んで、加熱する(ステップS12)。これにより、モノマーからポリマーへの変換が徐々に進行する。

【0070】
この変換処理は、条件にもよるが、数日から数週間程度を要する。ポリマーへの変換率が悪いと、第1薄膜6と第2薄膜7のプラスチックシンチレータとしての性能が徐々に劣化するため、最終的には完全にポリマー化するのが望ましい。ところが、ポリマー化すると、硬くなって加工性が悪くなるため、完全にポリマー化する前に、型から取り出す(ステップS13)。

【0071】
型から取り出した状態では、まだ完全には硬化しておらず、柔軟性を有した平板状の薄膜シンチレータである。ここで、サンドブラスタなどで、薄膜シンチレータの表面に細かな傷を付けて粗面化する(ステップS14)。次に、粗面化した薄膜シンチレータを、図14(a)に示すように、第1薄膜6と第2薄膜7のサイズに合わせて切り出す(ステップS15)。

【0072】
そして、切り出した薄膜シンチレータを、図14(b)に示すように、芯材3の径よりも大きな径の円筒15の外周面に貼り付けて、所定の温度に加熱して、薄膜シンチレータを円筒15の外周面の形状に加工する(ステップS16)。ここでは、径の異なる円筒15を複数個用意し、径の大きい円筒15から順に用いて、円筒15の形状を記憶させる処理を繰り返して、最終的には、芯材3の外径に準じた形状まで加工する。

【0073】
上述したように、第2薄膜7は、第1薄膜6よりも数mm径が小さいため、第1薄膜6と第2薄膜7を形成する際には、少なくとも最終的に用いられる円筒の径サイズを相違させて、それぞれ所望の径サイズに丸められた形状に加工する。

【0074】
最後に、第1薄膜6と第2薄膜7用の薄膜シンチレータを完全にポリマー化するために、高温乾燥器に入れて硬化させて、第1薄膜6と第2薄膜7が形成される(ステップS17)。

【0075】
第1薄膜6と第2薄膜7の膜厚は、型を変えることで、任意に調整可能である。よって、本実施形態によれば、第1薄膜6と第2薄膜7の膜厚を、検出すべき放射線のエネルギーに応じた最適な膜厚に設定可能である。

【0076】
従来の液体シンチレーションカウンタでは、バイアル11の中で試料と液体シンチレータを混和させて放射線の検出を行うため、クエンチング現象と呼ばれる消光現象が起こって、放射性核種の同定ができないという問題がある。これに対して、本実施形態のように、プラスチックシンチレータ薄膜を用いた場合には、原理的にクエンチング現象が起きず、放射性核種の同定が可能である。

【0077】
なお、市販されている0.5mm厚のプラスチックシンチレータ板には、製造時に細かな空気粒が混入しており、透明性が若干劣っており、クエンチング現象が起きないとは言い切れない。これに対して、本実施形態が第1薄膜6と第2薄膜7の材料として使用するプラスチックシンチレータ薄膜では、空気粒が残存しないように真空脱泡以外の処理も合わせて行って、完全に空気泡を抜くため、プラスチックシンチレータ薄膜の透明性を十分に高くでき、クエンチング現象の発生を抑制できる。

【0078】
(拭き取り具5の構造)
図15は拭き取り具5の要部の構造を示す図である。拭き取り具5は、図15(a)に示すように、柄5aの一端側に設けられる把持部5b(図1参照)と、柄5aの他端側に設けられる2つの支持部5cと、柄5aから延びる軸部材5hと2つの支持部5cとを接続する連結部5eと、連結部5eの移動に応じて伸縮する伸縮部材5fとを有する。

【0079】
伸縮部材5fは、柄5aから延びる軸部材5hに巻回されており、軸部材5hは連結部5eに皿ネジ5iにより固定されている。

【0080】
把持部5bは、拭き取り具5にて対象領域10の拭き取りを行う際に作業者によって把持される。作業者が把持部5bを把持して柄5aを前後に動かすことで、拭き取り材4が接着された芯材3が回転して、拭き取り材4は対象領域の拭き取りを行うことができる。

【0081】
柄5aは、作業者が立ったままでも拭き取り作業ができる程度の高さにすることができ、しゃがんだままで拭き取り作業を行う場合よりも、格段に作業性がよくなる。また、柄5aを前後に動かすだけで拭き取り作業を行えるため、拭き取り効率のばらつきを軽減できる。よって、手慣れた作業者でなくても、拭き取り作業を行うことができ、例えば、多くの作業員を必要とする広範囲の放射線検出でも、放射能検出精度のばらつきが起きにくくなる。

【0082】
2つの支持部5cは、その一端側に突起部5g(図1参照)を有し、これら突起部5gを芯材3の長手方向両端面3aの孔部3bに嵌めこんで、芯材3を回動自在に支持する。2つの支持部5cの他端側には連結部5eが接続されている。2つの支持部5cの他端側を人間の指で同時に押しつけることで、支持部5cを孔部3bから分離させることができ、これにより、芯材3を直接指で触らなくても、拭き取り具5から取り外すことができる。

【0083】
伸縮部材5fは、連結部5eと柄5aの他端部との間に設けられており、芯材3の傾斜角度に応じて連結部5eが移動すると、その移動に合わせて伸縮し、連結部5eと柄5aの他端部との間の距離を調整する。

【0084】
傾斜面や若干の段差がある箇所を拭き取り材4で拭き取る場合には、図15(b)に示すように、芯材3の回転軸方向に直交する方向が柄5aの延在方向から傾斜してしまう。この場合、芯材3の傾斜角度に応じて、連結部5eが弾性部材を伸縮させ、柄5aを前後左右に若干移動させる。これにより、傾斜面や若干の段差がある箇所でも、作業者は柄5aに無理な力をかけることなく、拭き取りが可能となる。

【0085】
(検出可能な放射線の種類)
上述した例では、主にβ線を検出する場合について説明したが、プラスチックシンチレータ薄膜(第1薄膜6や第2薄膜7)にZnS(Ag)を塗布することでα線も検出可能となる。塗布する面は拭き取り材4に対向する面である。例えば塗布厚さ5~10mg/cm程度とすることで、α線だけでなくβ線も検出可能となる。ZnS(Ag)シンチレータは、α線により励起されることによってシンチレータ光を発するものであり、ZnSに微量のAgを活性体として添加した結晶(粉末)であり、粉末を接着材に混ぜて塗布する。

【0086】
なお、トリチウムのような弱いβ線エネルギーはZnSで遮蔽され測定できなくなるため、H,14C,35Sなどのβ線を検出したい場合はZnSの塗布は望ましくない。一方、137Cs,90Sr-90Yなどの核種はプラスチックシンチレータ薄膜にZnSを塗布することで、α線とβ線をともに測定可能となる。

【0087】
プラスチックシンチレータ薄膜を例えば1mm厚程度まで厚くすることで、γ線に対する効率が向上し、γ線も測定可能となる。今回は原料からプラスチックシンチレータ薄膜を作製しているため、その厚みを0.2~1.0mm厚等の範囲で任意に調整可能であり、測定核種のγエネルギーに応じて、最適な膜厚のプラスチックシンチレータ薄膜を作製できる。

【0088】
ただし、プラスチックシンチレータ薄膜の膜厚を厚くすると、モノマーからポリマーへの変換時間及び湾曲加工に時間を要し、コスト面で課題が出るため、測定核種を予め決めてプラスチックシンチレータ薄膜を選択することが望ましい。

【0089】
上述した拭き取り具5では、拭き取り後に2つの支持部5cの端部を同時に指で押し込むことで、指で触ることなく、拭き取り材4付きの芯材3を取り外すことができるが、その後に、プラスチックシンチレータの第1薄膜6を拭き取り材4に被せるときに、指が拭き取り材4に触れて、放射能に汚染されてしまうおそれがある。また、第1薄膜6を拭き取り材4に被せる際には、図3(b)に示すように、丸まった第1薄膜6の両端部を広げて隙間を開けなければならないが、その際に無理な力が加わると、第1薄膜6が破断するおそれがある。

【0090】
このような放射能汚染と第1薄膜6の破断を防止するには、例えば図16および図17に示すような手法が考えられる。図16は図1の拭き取り装置1を用いた放射線検出方法の手順の変形例を示すフローチャート、図17は図16の手順を図式化したものである。

【0091】
図16のステップS21~S23は、図5のステップS1~S3と同様である。拭き取り具5による対象領域10の拭き取りが終了すると、一方の支持部5cの端部を押し込んで、その支持部5cと芯材3の端面との間に隙間を作り、この隙間に芯材置き台31を挿入する(ステップS24、図17(a))。そして、拭き取り具5を約180度回転させて、芯材置き台31を下にして、その上に拭き取り材4付きの芯材3を縦置きする(ステップS25、図17(b))。図17の例では、芯材置き台31の端部を湾曲させているが、これは、この湾曲部分を手で掴んで芯材置き台31を動かせるようにするためである。これは一例であり、芯材置き台31の形状は種々に変更して構わない。

【0092】
ステップS24~S25の処理に前後して、外径が連続的に変化している三角コーン部材32の頂部側から、丸まった第1薄膜6を差し込む(ステップS26、図17(c))。なお、三角コーン部材32の底面の外径は、芯材3に巻かれた拭き取り材4の外径よりも少し大きめにしておく必要がある。

【0093】
次に、三角コーン部材32を縦置きした芯材の上に配置して、第1薄膜6を三角コーン部材32の底面側すなわち芯材3側に押し込む(ステップS27、図17(d))。これにより、第1薄膜6の内径は徐々に広がって、その両端部の間に隙間ができ、芯材3に巻かれた拭き取り材4の表面に密着配置される(ステップS28、図17(e))。その後は、図5のステップS6~S7と同様の処理を行う(ステップS29、S30、図17(g)、図17(h))。

【0094】
ステップS27の処理を行う際には、三角コーン部材32の頂部側を指で掴んで第1薄膜6を押し込めばよいため、拭き取り材4に指を触れることなく、第1薄膜6を拭き取り材4に被せることができ、放射能汚染を防止できる。また、三角コーン部材32の外周面に沿って、徐々に第1薄膜6の内径を広げるため、第1薄膜6に無理な力が加わることがなく、第1薄膜6の破断を防止できる。

【0095】
このように、本実施形態では、プラスチックシンチレータの第1薄膜6を、芯材3の外周面の形状に準じた形状に加工し、対象領域10を拭き取った拭き取り材4の外表面に第1薄膜6を被せるため、拭き取り材4の外表面に第1薄膜6を密着配置することができる。その後、拭き取り材4が接着された芯材3に第1薄膜6を被せたままでバイアル11の中に入れて、液体シンチレーションカウンタにて放射線検出を行うため、拭き取り材4から放射された放射線に応じた蛍光を効率よく第1薄膜6で生じさせることができ、放射線の検出精度を向上できる。

【0096】
また、芯材3と拭き取り材4との間にも、プラスチックシンチレータの第2薄膜7を設けることで、より多くの蛍光を発光させることができ、放射線の検出精度をより向上できる。

【0097】
さらに、プラスチックシンチレータの第1薄膜6や第2薄膜7にZnS等の材料を塗布することで、β線だけでなく、α線の検出も可能となる。

【0098】
また、本実施形態では、高価なプラスチックシンチレータを薄膜化した第1薄膜6や第2薄膜7を用いるため、プラスチックシンチレータの芯材を使用する従来例と比べて、プラスチックシンチレータの使用量を格段に減らすことができ、放射線検出に要するコストを低減できる。さらに、第1薄膜6と第2薄膜7は、予め、芯材3の形状に準じた形状に加工しておくため、第1薄膜6と拭き取り材4とを容易に密着配置でき、同様に、第2薄膜7と芯材3とも容易に密着配置でき、トリチウムのβ線などの微弱な放射線でも精度よく検出可能となる。

【0099】
さらに、図16および図17に示すように、人間の指が触れないように第1薄膜6を拭き取り材4に被せることもできるため、作業者が放射能に汚染するおそれを防止でき、また第1薄膜6の破断も防止できる。
【実施例】
【0100】
図18は、芯材3をプラスチックシンチレータにして第1薄膜6を持たない一比較例と、芯材3をアクリル棒にして第1薄膜6を有する一実施例とについて、核種同定性能を比較した実験結果を示す図である。図18の横軸はβ線のエネルギー、縦軸は蛍光のカウント数を示している。
【実施例】
【0101】
この実験では、複数の放射線を含む汚染物を対象領域に滴下して、この対象領域を拭き取り具5に取り付けた拭き取り材4で拭き取って、その後に図4に示すようなバイアル11に入れて、光電子増倍管12にて蛍光のカウント数を計測した。
【実施例】
【0102】
図18(a)は一比較例の実験結果を示し、図18(b)は一実施例の実験結果を示している。一比較例の場合、14Cの最大エネルギーは156keVであるのに対し、120keV程度にまで減衰している。これは、クエンチング現象によるものと思われる。これに対して、一実施例の場合、ほとんど最大エネルギーの減衰は起きていないことがわかる。また、トリチウム(H)の場合も、同様に、一実施形態では、ほとんど最大エネルギーの減衰が起きておらず、放射線物質の核種同定性能が優れていることがわかる。これに対して、一比較例の場合、最大エネルギーが167keVの35Sの場合も、同様にかなりの最大エネルギーの減衰が生じており、正確な核種同定が困難となる。
【実施例】
【0103】
以上より、芯材3をプラスチックシンチレータにするよりも、安価なアクリル棒からなる芯材3とプラスチックシンチレータの第1薄膜3を用いる方が、核種同定性能が優れていることがわかる。
【実施例】
【0104】
図19は図2の拭き取り具5による拭き取り性能を示す実験結果である。図19(a)~図19(d)は、対象領域の中央に放射性物質を滴下した状態で、拭き取り材にて対象領域を拭き取った後の、対象領域内の放射性物質の広がりを画像化した図である。
【実施例】
【0105】
図19(a)は拭き取り具5を用いずに手拭きをした例を示しているが、手拭きの場合は、熟練者であっても、一定の押圧力で一定の方向に拭き取りを行うことは困難であるため、図示のように、放射性物質が対象領域内にランダムに広がってしまい、汚染範囲を広げる結果となる。
【実施例】
【0106】
これに対して、図19(b)~図19(d)は、図2に示す拭き取り具5を用いて拭き取った例を示しており、図19(b)はスリーエムジャパン(株)製の両面テープを拭き取り材4として用いた例、図19(c)は同社製のHCPスコッチパッドを拭き取り材4として用いた例、図19(d)はトリコン販売(株)製のSP-100マスキングテープを拭き取り材4として用いた例をそれぞれ示している。
【実施例】
【0107】
図19(b)~図19(d)のいずれにおいても、拭き取り具5の移動方向(図示の上下左右方向)に沿って、放射性物質が拡散しているものの、それ以外の方向への拡散はほとんどなく、手拭きの場合と比べて、放射性物質の汚染範囲を狭めることができることがわかる。
【実施例】
【0108】
図19の実験結果を見ても、図1および図2に示す拭き取り具5が対象領域の拭き取りに優れていることがわかる。
【実施例】
【0109】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 拭き取り装置、2 放射線検出装置、3 芯材、4 拭き取り材、5 拭き取り具、6 第1薄膜、7 第2薄膜、8 反射部材、10 対象領域、11 バイアル、12 光電子増倍管、13 同時計数回路、21 剥離層、22 接着層、23 膠着層、24 反射膜、25 空気層、26 ガラスビーズ、27 透明プラスチックフィルム、
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図15】
13
【図16】
14
【図18】
15
【図14】
16
【図17】
17
【図19】
18