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明細書 :不可視包囲体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5717202号 (P5717202)
登録日 平成27年3月27日(2015.3.27)
発行日 平成27年5月13日(2015.5.13)
発明の名称または考案の名称 不可視包囲体
国際特許分類 H01Q  15/08        (2006.01)
FI H01Q 15/08
請求項の数または発明の数 9
全頁数 16
出願番号 特願2012-507061 (P2012-507061)
出願日 平成23年3月24日(2011.3.24)
国際出願番号 PCT/JP2011/057188
国際公開番号 WO2011/118710
国際公開日 平成23年9月29日(2011.9.29)
優先権出願番号 2010073063
優先日 平成22年3月26日(2010.3.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年2月25日(2014.2.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】真田 篤志
個別代理人の代理人 【識別番号】100093687、【弁理士】、【氏名又は名称】富崎 元成
【識別番号】100106770、【弁理士】、【氏名又は名称】円城寺 貞夫
【識別番号】100139789、【弁理士】、【氏名又は名称】町田 光信
審査官 【審査官】米倉 秀明
参考文献・文献 特開2008-023517(JP,A)
特開平03-119807(JP,A)
Hai-Ying Yao,Cheng-Wei Qiu,Le-Wei Li,Scattering Characteristics from Conducting Cylinder with Reconstructing Electromagnetic Cloaking Lay,Microwave Conference, 2009. APMC 2009. Asia Pacific,2009年12月10日,p.960-963
調査した分野 H01Q 15/08
特許請求の範囲 【請求項1】
内部に空洞部(10)を備えた円筒状の中央包囲体(11)と、
前記中央包囲体(11)の外部を取り囲むように配置された外郭体(2)とからなり、
前記空洞部(10)に存在する物体および前記中央包囲体(11)自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、
前記中央包囲体(11)は、誘電率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、
さらに、前記中央包囲体(11)は、前記中央包囲体(11)の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の誘電率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体(11)各部における誘電率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、
前記誘電率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体(11)の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体(2)の誘電率よりも小さい所定値となるようにされており、
前記誘電率テンソルの円周方向成分は、ほぼ一定の値となるようにされたものである不可視包囲体。
【請求項2】
請求項1に記載した不可視包囲体であって、
前記積層膜は、2層からなる2重膜であり、その2層のうちの1層の誘電率を一定値としたものである不可視包囲体。
【請求項3】
請求項1に記載した不可視包囲体であって、
前記積層膜は、3層からなる3重膜であり、3層の誘電率を一定値として、3層の厚さを調整するようにしたものである不可視包囲体。
【請求項4】
内部に空洞部(10)を備えた円筒状の中央包囲体(11)と、
前記中央包囲体(11)の外部を取り囲むように配置された外郭体(2)とからなり、
前記空洞部(10)に存在する物体および前記中央包囲体(11)自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、
前記中央包囲体(11)は、誘電率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、
さらに、前記中央包囲体(11)は、前記中央包囲体(11)の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の誘電率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体(11)各部における誘電率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、
前記誘電率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体(11)の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体(2)の誘電率よりも小さい所定値となるようにされており、
前記誘電率テンソルの円周方向成分は、最内周から最外周にわたり半径に応じて順次減少する値とされたものである不可視包囲体。
【請求項5】
内部に空洞部(10)を備えた円筒状の中央包囲体(11)と、
前記中央包囲体(11)の外部を取り囲むように配置された外郭体(2)とからなり、
前記空洞部(10)に存在する物体および前記中央包囲体(11)自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、
前記中央包囲体(11)は、透磁率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、
さらに、前記中央包囲体(11)は、前記中央包囲体(11)の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の透磁率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体(11)各部における透磁率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、
前記透磁率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体(11)の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体(2)の透磁率よりも小さい所定値となるようにされており、
前記透磁率テンソルの円周方向成分は、ほぼ一定の値となるようにされたものである不可視包囲体。
【請求項6】
請求項5に記載した不可視包囲体であって、
前記積層膜は、2層からなる2重膜であり、その2層のうちの1層の透磁率を一定値としたものである不可視包囲体。
【請求項7】
請求項5に記載した不可視包囲体であって、
前記積層膜は、3層からなる3重膜であり、3層の透磁率を一定値として、3層の厚さを調整するようにしたものである不可視包囲体。
【請求項8】
内部に空洞部(10)を備えた円筒状の中央包囲体(11)と、
前記中央包囲体(11)の外部を取り囲むように配置された外郭体(2)とからなり、
前記空洞部(10)に存在する物体および前記中央包囲体(11)自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、
前記中央包囲体(11)は、透磁率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、
さらに、前記中央包囲体(11)は、前記中央包囲体(11)の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の透磁率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体(11)各部における透磁率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、
前記透磁率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体(11)の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体(2)の透磁率よりも小さい所定値となるようにされており、
前記透磁率テンソルの円周方向成分は、最内周から最外周にわたり半径に応じて順次減少する値となるようにされたものである不可視包囲体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載した不可視包囲体であって、
前記外郭体(2)は均質材料からなるものである不可視包囲体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波(光を含む)に対して、物体を不可視あるいはほぼ不可視にするための包囲体に関する。詳しくは、物体を包囲可能な包囲体を構成し、その包囲体自体と包囲体によって包囲された物体がある範囲の電磁波に対してほぼ不可視となるような不可視包囲体に関する。なお、ここで言う不可視とは、包囲体および物体を通過後の電磁波の伝播状態が、物体が存在していない場合と全く同一となることである。
【背景技術】
【0002】
特殊な包囲体によって物体を包囲することにより、包囲体自体と包囲された物体がある範囲の電磁波に対してほぼ不可視となるような不可視包囲体は、クローク媒質などとも呼ばれ、その実現のための研究が進められている。従来から、研究や試作が行われてきた不可視包囲体は、共振現象を利用したメタマテリアル(metamaterials)を使ったものであった。ここで、このメタマテリアルについてまず説明する。
【0003】
金属、誘電体、磁性体、超伝導体などの小片(単位構造体)を、波長に対して十分短い間隔(波長の10分の1程度以下)で並べることで自然にはない性質を持った媒質を人工的に構成することができる。この媒質を自然にある媒質のカテゴリに比べてより大きいカテゴリに属する媒質と言う意味でメタマテリアルと呼んでいる。メタマテリアルの性質は、単位構造体の形状、材質およびそれらの配置により様々に変化する。
【0004】
このようなメタマテリアルによる人工磁性体として、下記の特許文献1に記載されたような技術が公知である。特許文献1には、従来技術としてスプリットリング共振器を用いた人工磁性体が記載されており、また、誘電体を挟んで対向する導体片対を配列して構成した人工磁性体が記載されている。
【0005】
そして、このようなメタマテリアルを利用すると、任意の物体を包囲する包囲体によって包囲体およびその物体を不可視とすることが可能である。このような包囲体は、クローク媒質などとも呼ばれ、被せたものが見えなくなるという、いわゆる透明マントの機能を実現するものである。
【0006】
なお、ここで言う不可視とは、包囲体および物体を通過後の電磁波の伝播状態が、包囲体および物体が存在していない場合と全く同一となることである。このような不可視の状態では、包囲体および物体を通過した電磁波が、それらが存在しない場合と全く同一の状態で伝搬するため、その電磁波によってそれらが存在するか否かを検出することはできない。すなわち、包囲体および物体は全く見えない。
【0007】
この明細書では、このような不可視の状態あるいは不可視に近いほぼ不可視の状態を作り出すことのできる包囲体を不可視包囲体と呼ぶことにする。このような不可視包囲体をメタマテリアルからなる人工磁性体によって構成することは、下記の非特許文献1などに記載されているように公知である。非特許文献1には、非磁性金属のスプリットリング共振器を円筒状に多数配列した包囲体が、特定の周波数の電磁波に対してほぼ不可視の状態を作り出すことが示されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2008-28010号公報
【0009】

【非特許文献1】D. Schurig, J. J. Mock, B. J. Justice, S. A. Cummer, J. B. Pendry, A. F. Starr, D. R. Smith,“Metamaterial electromagnetic cloak at microwave frequencies”, Science Express, Manuscript Number 113362, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載された不可視包囲体は、金属のスプリットリング共振器を利用した人工磁性体によって構成されている。そして、不可視特性を示す周波数は、スプリットリング共振器の共振周波数の近傍である。このため、不可視特性を示す周波数が共振周波数近傍のごく限られた範囲になってしまうという問題点があった。すなわち、不可視特性を示す周波数の帯域が非常に狭いものとなってしまう。また、金属による損失が共振周波数の近傍において大きく現れてしまい、不可視包囲体の損失も大きくなってしまうという問題点があった。不可視包囲体の損失が大きくなると、それだけ不可視特性も損なわれてしまうことになる。
【0011】
そこで、本発明は、共振現象を利用した媒質や複雑な構造のメタマテリアルを使用せず、通常媒質材料による簡単な構造体によって不可視包囲体を構成し、従来よりも大幅に広範囲の帯域において不可視特性を実現することのできる広帯域および低損失の不可視包囲体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の不可視包囲体は、内部に空洞部を備えた円筒状の中央包囲体と、前記中央包囲体の外部を取り囲むように配置された外郭体とからなり、前記空洞部に存在する物体および前記中央包囲体自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、前記中央包囲体は、誘電率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、さらに、前記中央包囲体は、前記中央包囲体の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の誘電率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体各部における誘電率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、前記誘電率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体の誘電率よりも小さい所定値となるようにされており、前記誘電率テンソルの円周方向成分は、ほぼ一定の値となるようにされたものである。
【0014】
また、上記の不可視包囲体において、前記積層膜は、2層からなる2重膜として、その2層のうちの1層の誘電率を一定値とすることができる。
【0015】
また、上記の不可視包囲体において、前記積層膜は、3層からなる3重膜として、3層の誘電率を一定値とすることができる。そして、3層の厚さを調整することにより誘電率分布を実現する。
【0016】
また、本発明の不可視包囲体は、内部に空洞部を備えた円筒状の中央包囲体と、前記中央包囲体の外部を取り囲むように配置された外郭体とからなり、前記空洞部に存在する物体および前記中央包囲体自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、前記中央包囲体は、誘電率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、さらに、前記中央包囲体は、前記中央包囲体の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の誘電率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体各部における誘電率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、前記誘電率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体の誘電率よりも小さい所定値となるようにされており、前記誘電率テンソルの円周方向成分は、最内周から最外周にわたり半径に応じて順次減少する値とされたものである。
【0017】
また、本発明の不可視包囲体は、内部に空洞部を備えた円筒状の中央包囲体と、前記中央包囲体の外部を取り囲むように配置された外郭体とからなり、前記空洞部に存在する物体および前記中央包囲体自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、前記中央包囲体は、透磁率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、さらに、前記中央包囲体は、前記中央包囲体の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の透磁率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体各部における透磁率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、前記透磁率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体の透磁率よりも小さい所定値となるようにされており、前記透磁率テンソルの円周方向成分は、ほぼ一定の値となるようにされたものである。
【0019】
また、上記の不可視包囲体において、前記積層膜は、2層からなる2重膜として、その2層のうちの1層の透磁率を一定値とすることができる。
【0020】
また、上記の不可視包囲体において、前記積層膜は、3層からなる3重膜として、3層の透磁率を一定値とすることができる。そして、3層の厚さを調整することにより透磁率分布を実現する。
【0021】
また、本発明の不可視包囲体は、内部に空洞部を備えた円筒状の中央包囲体と、前記中央包囲体の外部を取り囲むように配置された外郭体とからなり、前記空洞部に存在する物体および前記中央包囲体自体を電磁波に対してほぼ不可視とする不可視包囲体であって、前記中央包囲体は、透磁率の異なる複数種類の材料を半径方向に積層した円筒状の積層膜を中心線が共通となるように多数積層したものであり、さらに、前記中央包囲体は、前記中央包囲体の中心線からの距離すなわち半径に応じて前記積層膜の各層の透磁率と半径方向の厚さとを調整することにより、前記中央包囲体各部における透磁率テンソルの各成分の実効的な値を調整されたものであり、前記透磁率テンソルの半径方向成分は、前記中央包囲体の最内周から最外周にわたり半径に応じて順次増加する値とされ、最外周では前記外郭体の透磁率よりも小さい所定値となるようにされており、前記透磁率テンソルの円周方向成分は、最内周から最外周にわたり半径に応じて順次減少する値となるようにされたものである。
【0022】
また、上記の不可視包囲体において、前記外郭体は均質材料からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0024】
共振現象を利用した媒質や複雑な構造のメタマテリアルを使用せず、通常媒質材料による簡単な構造体によって不可視包囲体を構成することができる。このような不可視包囲体では、共振現象を利用していないため、従来よりも大幅に広い帯域において不可視特性を実現することができる。また、共振現象による損失もないので低損失とすることができ、広帯域および低損失の不可視包囲体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、不可視包囲体1の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、不可視包囲体1に必要な誘電率と透磁率の値を示す図である。
【図3】図3は、本発明の不可視包囲体1aの構成を示す斜視図である。
【図4】図4は、2種類の誘電体による2層構造の積層膜3の構成を示す図である。
【図5】図5は、3種類の誘電体による3層構造の積層膜4の構成を示す図である。
【図6】図6は、2層構造の積層膜により形成した単位円筒7を示す斜視図である。
【図7】図7は、単位円筒7を積層した中央包囲体11の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、金属棒による電磁波の散乱状態を示す図である。
【図9】図9は、不可視包囲体を配置した場合の電磁波の状態を示す図である。
【図10】図10は、2種類の磁性体による2層構造の積層膜5の構成を示す図である。
【図11】図11は、3種類の磁性体による3層構造の積層膜6の構成を示す図である。
【図12】図12は、数2による媒質の誘電率と透磁率の分布を示す図である。
【図13】図13は、数9による媒質の誘電率と透磁率の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明の理論的根拠について説明する。動径r、偏角θ、z軸方向の位置zによる円筒座標系(r,θ,z)において、0≦r≦bなる領域をa≦r´≦bなる環状の領域(r´,θ´,z´)に変換するには、次の数1による座標変換を行えばよい。
【数1】
JP0005717202B2_000002t.gif

【0027】
この座標変換により、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの各要素は以下の数2のようになる。ただし、数式の表示を簡素化するために、座標系(r´,θ´,z´)を改めて座標系(r,θ,z)と置き直した。なお、添字はその座標方向の要素を示しており、各要素は比誘電率および比透磁率で表されている。
【数2】
JP0005717202B2_000003t.gif

【0028】
上記の数2で表される媒質による環状領域は完全な不可視特性を有する。しかし、数2で表される媒質は、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの要素の中の半径rに依存して変化する要素の数が多いため、それらの要素の値を実現するのが難しくなる。いま、簡単のため入射波の磁界の方向はz軸方向とする。このとき、電磁波の伝搬にはμz 、εr およびεθだけが関係する。いま次の数3で表される分散性を持つ媒質を考える。

【0029】
【数3】
JP0005717202B2_000004t.gif

【0030】
数3の媒質は、数2の媒質と同じ分散特性を持つ。ただし、この数3の媒質への入射波は完全には無反射とはならず反射波を生じる。このことは、若干の反射を許せば、半径方向の誘電率テンソル成分εr のみの制御で媒質に不可視特性を持たせることが可能であることを示している。すなわち、数3の媒質は、誘電率テンソル成分εr のみを制御して、透過波の軌道を数2の媒質と同じにすることができる。

【0031】
図1に、環状領域の媒質としての不可視包囲体1を示す。不可視包囲体1は、内径2aと外径2bを有する円筒体であり、その中央部に空洞部10が有り、中心軸方向には無限に存在している。不可視包囲体1の中心軸をz軸とし、半径方向をr軸とすると、a≦r≦bの範囲に不可視包囲体1を構成する媒質が存在している。r<aの領域は空洞部10である。不可視包囲体1が完全な不可視特性を有していれば、r<aの空洞部10に存在する物体を完全に隠して不可視とすることができる。

【0032】
実例として、a:b=1:3の場合の不可視包囲体1に必要な誘電率と透磁率を数3から計算した。図2が数3から求めた誘電率と透磁率の理論値である。図2の横軸はr/aの値であり、縦軸は比誘電率および比透磁率で表している。透磁率μz と誘電率εθの値は、不可視包囲体1内部の位置によらず一定の値である。誘電率εr の値はa≦r≦bの範囲で0~約0.45に変化している。

【0033】
数3から、不可視包囲体1の最内周(r=a)ではεr =0、最外周(r=3a)ではεr =4/9となることが分かる。このように誘電率εr の値は、最内周では0、最外周では1より小さい所定値となる。なお、最外周でのεr の値は、数3においてr=bとした場合の値であり、内径と外径との比によって定まるものである。

【0034】
そして、図2に示すような各誘電率・透磁率テンソル成分の値を設定できれば、不可視包囲体1に不可視特性を与えることができる。図2の値は数3に基づいて求めたものである。また、不可視包囲体1最内周の誘電率εr の値は、完全に0としなくても十分に小さな値とすればかなり良い不可視特性が得られることが分かっている。

【0035】
ここで、不可視包囲体を通常の媒質によって実現するために、図3のような構造を考える。図3は、本発明の不可視包囲体1aの構成を示す図である。図1の不可視包囲体1に相当する中央包囲体11に対し、その外側に一様な均質材料からなる外郭体2を配置している。中央包囲体11の中央部は空洞部10として形成されている。なお、外郭体2は均質材料ということであるが、通過する電磁波の波長に比べて十分に小さい構造であれば、気泡、スリット等の微細構造が均一に分布していてもよい。

【0036】
外郭体2として十分に大きな誘電率を持つ媒質を配置すると、中央包囲体11の内部の誘電率の分布もそれに比例した値とすることができる。すなわち、図2のような誘電率の分布は中央包囲体11の外界の誘電率に対する比であるとしてもよいので、外郭体2の誘電率を大きくすれば、それに比例して中央包囲体11の内部の誘電率も大きな値でよいことになる。外郭体2の比誘電率をεe とすれば、中央包囲体11内部の誘電率εr は、比εr/εeの値が図2のεr のような分布となればよいのである。外郭体2を配置することにより、中央包囲体11の内部の誘電率は通常の誘電体で実現することができるようになる。

【0037】
図1の不可視包囲体1では、数3の透磁率μz を実現するために磁性材料(透磁率μ≠1)を用いる必要がある。磁性材料の代わりに非磁性材料(透磁率μ=1)を用いると外部と不可視包囲体1との境界面での反射が増大してしまう。図3の不可視包囲体1aでは、外郭体2の誘電率を調整することにより外郭体2と中央包囲体11の境界面での反射をなくし、磁性材料を不要とすることができる。具体的には、外郭体2の比誘電率εe をεθ・(1-a/b)2 とすれば整合がとれ、外郭体2と中央包囲体11の境界面での反射がなくなる。すなわち、磁性材料を使用しなくとも、不可視包囲体1aの外郭体2と中央包囲体11の境界面での反射を、磁性材料を用いた図1の不可視包囲体1と同等とすることができる。

【0038】
また、外郭体2を配置しない場合は、包囲体内部の誘電体として、図2に示すように比誘電率が1以下の媒質が必要となり、共振現象を利用したメタマテリアルなどが不可欠となる。本発明の不可視包囲体1aでは、外郭体2を配置することにより、共振現象を利用したメタマテリアルなどが不要となる。共振現象を利用したメタマテリアルは微細な金属パターンやその他の共振構造が必要であり、メタマテリアルの構造が複雑となり製造コストも増加してしまう。本発明では、不可視包囲体を通常の媒質からなる比較的簡単な構造によって実現することができる。

【0039】
次に、中央包囲体11内部の誘電率分布を実現するための構成として、図4および図5に示すような、互いに異なる誘電率を持つ複数の層の積層構造を考える。図4は2種類の誘電体による2層構造の積層膜3であり、図5は3種類の誘電体による3層構造の積層膜4である。ここで、複数の層が積層されている方向を中央包囲体11の半径r方向とし、その半径r方向と直交する方向を偏角θ方向とすれば、図4の2層構造の積層膜3におけるr方向の実効的な誘電率εr(eff)とθ方向の実効的な誘電率εθ(eff)は次の式によって計算できる。

【0040】
(d1+d2)/εr(eff)=d1/ε1+d2/ε2
(d1+d2)εθ(eff)=d1ε1+d2ε2

【0041】
ただし、積層膜3は、図示のように誘電率ε1 ,厚さd1 の層と誘電率ε2 ,厚さd2 の層が積層されたものである。これにより、誘電率ε1 ,ε2 と厚さd1 ,d2 を変更することにより、誘電率εθ(eff)を一定値に保ちながら、誘電率εr(eff)を変更することが可能である。さらに、一方の誘電率(例えば、誘電率ε1 )が一定値(例えば、空気の誘電率)であるとしても、誘電率εθ(eff)を一定値に保ちながら、誘電率εr(eff)を変更することが可能である。厚さd1 ,d2 に関しても、さらに条件が加わってもよく、例えば、積層膜3の全体の厚さが一定であるとしてもよい。

【0042】
なお、積層膜3の誘電率ε1 ,ε2 を変更するには、各層を微小な気泡を含む誘電体で構成し、その気泡の密度を変更することにより各層の実効的な誘電率を変更するというような方法が考えられる。気泡の代わりに微細スリットや微小孔としてもよい。また、積層膜3の1層の誘電率は一定値として、残る1層の誘電率だけを変更するようにしてもよい。

【0043】
また、図5の3層構造の積層膜4におけるr方向の実効的な誘電率εr(eff)とθ方向の実効的な誘電率εθ(eff)は以下の式によって計算できる。ただし、積層膜4は、図示のように誘電率ε1 ,厚さd1 の層と誘電率ε2 ,厚さd2 の層と誘電率ε3 ,厚さd3 の層が積層されたものとする。

【0044】
(d1+d2+d3)/εr(eff)=d1/ε1+d2/ε2+d3/ε3
(d1+d2+d3)εθ(eff)=d1ε1+d2ε2+d3ε3

【0045】
これにより、誘電率ε1 ~ε3 と厚さd1 ~d3 を変更することにより、誘電率εθ(eff)を一定値に保ちながら、誘電率εr(eff)を変更することが可能である。3層構造の積層膜4の場合、さらに、全ての層の誘電率を変更せずに厚さd1 ~d3 のみを変更して、誘電率εθ(eff)を一定値に保ちながら、誘電率εr(eff)を変更することが可能である。厚さd1 ~d3 に関しても、さらに条件が加わってもよく、例えば、積層膜4全体の厚さが一定であるとしてもよい。

【0046】
この積層膜4の場合、各層の誘電率を変更せずに、各層の厚さだけを変更することにより、比較的簡単に必要な誘電率分布を実現することができる。各層の厚さだけの変更でよいので、それにより不可視包囲体1aの製造コストを低減させることができる。

【0047】
また、図4および図5に示す積層膜と同様に、さらに多層の積層膜でもそれぞれの層の誘電率と厚さを変更することにより、誘電率εθ(eff)を一定値に保ちながら、誘電率εr(eff)を変更することが可能である。これらの2層構造の積層膜3、3層構造の積層膜4またはさらに多層の積層膜を円筒状に形成して単位円筒とする。

【0048】
図6は、2層構造の積層膜3により形成した単位円筒7を示す斜視図である。単位円筒7として直径および誘電率εr(eff)の異なるものを多数作成し、これらの単位円筒7を中心線が一致するように半径方向に積層することにより、中央包囲体11を形成する。図7は、単位円筒7を積層して形成した中央包囲体11を示す斜視図である。このように中央包囲体11を構成すれば、中央包囲体11内部の誘電率として、誘電率εθを一定値に保ちながら、誘電率εr を図2に相当するように変更調整することが可能である。

【0049】
なお、単位円筒7を同心に多数積層する際の、単位円筒7の積層数は少なくとも10以上であることが好ましい。1つの単位円筒7の厚さを薄くして積層数を増加するほど、図2で示すような誘電率εr の分布を正確に近似することができる。単位円筒7の積層数が少なすぎると、誘電率εr の分布の近似が不十分となり、不可視包囲体の不可視特性が悪化することになる。さらに、1つの単位円筒7の厚さは、不可視特性の対象とする電磁波の波長に比べて十分に小さいことが好ましく、実用的には波長の1/10以下であることが好ましい。

【0050】
次に、このような不可視包囲体の不可視特性を数値シミュレーションにより確認してみた。数値シミュレーションは、有限要素法による電磁界シミュレーションを行うコンピュータ・ソフトウェアによって計算したものである。まず、図8に不可視包囲体を使用しない場合の金属棒による電磁波(平面波)の散乱状態を示す。中央の白い円形部分が金属棒であり、電磁波(平面波)は図の右側から左方向に入射している。図示のように、後方および前方への散乱波が見られ、それらの散乱波と入射波が干渉して複雑な散乱状態を呈している。

【0051】
次に、図9に金属棒の周囲に不可視包囲体を配置した場合の電磁波の状態を示す。中央の白い円形部分が金属棒であり、金属棒の周囲の多層の環状部分が中央包囲体である。中央包囲体の外側は全て外郭体となっている。図示のように、不可視包囲体を配置した場合には、入射した電磁波(平面波)にはほとんど乱れがなく、金属棒を通過した後にまた平面波に戻っている。すなわち、この電磁波では金属棒が不可視になっていることを示している。

【0052】
以上に説明した不可視包囲体において、数3および図2に示すような誘電率と透磁率の分布は、入射電磁波の磁界の方向がz軸方向であるという条件があった。すなわち、以上に説明した不可視包囲体は、磁界の方向がz軸方向の入射波に適用でき、その場合に不可視特性を示すものである。

【0053】
ただし、入射波の電界の方向がz軸方向である場合にも、以上に説明した不可視包囲体と同様な手法により、不可視包囲体を構成することができる。入射波の電界の方向がz軸方向である場合は、電磁波の伝搬にはεz 、μr およびμθだけが関係する。また、誘電率および透磁率の分布は、数3および図2に示すような分布に対して誘電率εと透磁率μを交換した分布とすればよい。すなわち、中央包囲体内部のz軸方向の誘電率εz とθ方向の透磁率μθは一定とし、r方向の透磁率μr は内周側から外周側に増加するような分布とすればよい。

【0054】
さらに、図4および図5と同様の、図10および図11のような透磁率に注目した積層膜を考える。図10は透磁率の異なる2種類の磁性体材料による2層構造の積層膜5であり、図11は透磁率の異なる3種類の磁性体材料による3層構造の積層膜6である。ここで、複数の層が積層されている方向を中央包囲体11の半径r方向とし、その半径r方向と直交する方向を偏角θ方向とする。

【0055】
図10の積層膜5は、図示のように透磁率μ1 ,厚さd1 の層と透磁率μ2 ,厚さd2 の層が積層されたものである。この積層膜5におけるr方向の実効的な透磁率μr(eff)とθ方向の実効的な透磁率μθ(eff)は次の式によって計算できる。

【0056】
(d1+d2)/μr(eff)=d1/μ1+d2/μ2
(d1+d2)μθ(eff)=d1μ1+d2μ2

【0057】
このような積層膜5の透磁率μ1 ,μ2 と厚さd1 ,d2 を変更することにより、透磁率μθ(eff)を一定値に保ちながら、透磁率μr(eff)を変更することが可能である。さらに、一方の透磁率(例えば、透磁率μ1 )が一定値(例えば、空気の透磁率)であるとしても、透磁率μθ(eff)を一定値に保ちながら、透磁率μr(eff)を変更することが可能である。厚さd1 ,d2 に関しても、さらに条件が加わってもよく、例えば、積層膜3の全体の厚さが一定であるとしてもよい。

【0058】
図11の積層膜6は、透磁率μ1 ,厚さd1 の層と、透磁率μ2 ,厚さd2 の層と、透磁率μ3 ,厚さd3 の層が積層されたものである。このような積層膜6の透磁率μ1 ,μ2 ,μ3 と厚さd1 ,d2 ,d3 を変更することにより、透磁率μθを一定値に保ちながら、透磁率μr を変更することが可能である。

【0059】
図11の積層膜6は、図示のように透磁率μ1 ,厚さd1 の層と、透磁率μ2 ,厚さd2 の層と、透磁率μ3 ,厚さd3 の層が積層されたものである。このような3層構造の積層膜6におけるr方向の実効的な透磁率μr(eff)とθ方向の実効的な透磁率μθ(eff)は以下の式によって計算できる。

【0060】
(d1+d2+d3)/μr(eff)=d1/μ1+d2/μ2+d3/μ3
(d1+d2+d3)μθ(eff)=d1μ1+d2μ2+d3μ3

【0061】
積層膜6の透磁率μ1 ~μ3 と厚さd1 ~d3 を変更することにより、透磁率μθ(eff)を一定値に保ちながら、透磁率μr(eff)を変更することが可能である。さらに、全ての層の透磁率を変更せずに厚さd1 ~d3 のみを変更して、透磁率μθ(eff)を一定値に保ちながら、透磁率μr(eff)を変更することが可能である。厚さd1 ~d3 に関しても、さらに条件が加わってもよく、例えば、積層膜6全体の厚さが一定であるとしてもよい。

【0062】
この積層膜6の場合、各層の透磁率を変更せずに、各層の厚さだけを変更することにより、比較的簡単に必要な透磁率分布を実現することができる。各層の厚さだけの変更でよいので、それにより不可視包囲体1aの製造コストを低減させることができる。

【0063】
また、図10および図11に示す積層膜と同様に、さらに多層の積層膜でもそれぞれの層の透磁率と厚さを変更することにより、透磁率μθ(eff)を一定値に保ちながら、透磁率μr(eff)を変更することが可能である。これらの2層構造の積層膜5、3層構造の積層膜6またはさらに多層の積層膜を円筒状に形成して単位円筒とする。

【0064】
さらに、透磁率μr(eff)を変更調整した多数の単位円筒から中央包囲体11を形成すれば、中央包囲体11内部の透磁率として、透磁率μθを一定値に保ちながら、透磁率μr を変更調整することが可能である。このような中央包囲体11を使用すれば、入射波の電界の方向がz軸方向である場合の不可視包囲体を構成することができる。

【0065】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。動径r、偏角θ、z軸方向の位置zによる円筒座標系(r,θ,z)において、0≦r≦bなる領域をa≦r´≦bなる環状の領域(r´,θ´,z´)に変換するには、前述の数1による座標変換(1次変換)以外にも、種々の座標変換が考えられる。例えば、次の数4による座標変換(2次変換)が可能である。
【数4】
JP0005717202B2_000005t.gif

【0066】
数4による座標変換により、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの各要素は以下の数5のようになる。ただし、数式の表示を簡素化するために、座標系(r´,θ´,z´)を改めて座標系(r,θ,z)と置き直した。なお、添字はその座標方向の要素を示しており、各要素は比誘電率および比透磁率で表されている。
【数5】
JP0005717202B2_000006t.gif

【0067】
円筒座標系(r,θ,z)において、0≦r≦bなる領域をa≦r´≦bなる環状の領域(r´,θ´,z´)に変換するには、次の数6による座標変換(1/2次変換)も可能である。
【数6】
JP0005717202B2_000007t.gif

【0068】
数6による座標変換により、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの各要素は以下の数7のようになる。ただし、数式の表示を簡素化するために、座標系(r´,θ´,z´)を改めて座標系(r,θ,z)と置き直した。なお、添字はその座標方向の要素を示しており、各要素は比誘電率および比透磁率で表されている。
【数7】
JP0005717202B2_000008t.gif

【0069】
そして、円筒座標系(r,θ,z)において、0≦r≦bなる領域をa≦r´≦bなる環状の領域(r´,θ´,z´)に変換するには、次の数8による座標変換(双曲線変換)も可能である。
【数8】
JP0005717202B2_000009t.gif

【0070】
数8による座標変換により、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの各要素は以下の数9のようになる。ただし、数式の表示を簡素化するために、座標系(r´,θ´,z´)を改めて座標系(r,θ,z)と置き直した。なお、添字はその座標方向の要素を示しており、各要素は比誘電率および比透磁率で表されている。
【数9】
JP0005717202B2_000010t.gif

【0071】
前述の数2で表される媒質による環状領域が完全な不可視特性を有するのと同様に、上記の数5、数7、数9で表される媒質による環状領域も完全な不可視特性を有する。しかし、数2、数5、数7で表される媒質は、誘電率テンソルおよび透磁率テンソルの要素の中の半径rに依存して変化する要素の数が多いため、それらの要素の値を実現するのが難しくなる。ここで注目すべきは、数9で表される媒質である。数9の媒質では、誘電率εz および透磁率μz が半径rの値によらず一定値になっている。

【0072】
数9の媒質の誘電率εr 、誘電率εθおよび透磁率μz の分布をグラフにより、他の媒質と比較する。例えば、数2による媒質では、誘電率εr 、誘電率εθおよび透磁率μz が図12に示すような分布となる。これに対して、数9による媒質では、誘電率εr 、誘電率εθおよび透磁率μz が図13に示すような分布となる。図12および図13は、内径:外径=a:b=1:3の場合である。横軸はr/aの値であり、縦軸は比誘電率および比透磁率で表している。図13では透磁率μz が半径rの値によらず一定値になっている。

【0073】
すなわち、数9の媒質では、入射電磁波の磁界の方向がz軸方向である場合、誘電率εr と誘電率εθを図13に示すような分布となるように半径rに応じて調整すれば、不可視特性を実現できる。中央包囲体内部のz軸方向の透磁率μz は一定とし、θ方向の誘電率εθは内周側から外周側に減少させ、r方向の誘電率εr は内周側から外周側に増加させるような分布とすればよい。数9の媒質を実現するためには、図4、図5に示すような積層膜を利用できる。

【0074】
図4、図5に示す積層膜やさらに多層の積層膜を使用して、それぞれの層の誘電率と厚さを変更することにより、誘電率εθ(eff)および誘電率εr(eff)を変更することが可能である。これら積層膜を円筒状に形成して単位円筒とし、多数の単位円筒を積層することにより中央包囲体11を構成する。このようにして、中央包囲体11内部の誘電率εθおよび誘電率εr を図13に相当するように変更調整し、不可視特性を実現することができる。

【0075】
数9の媒質において、入射電磁波の電界の方向がz軸方向である場合、電磁波の伝搬にはεz 、μr およびμθだけが関係する。誘電率および透磁率の分布は、図13に示すような分布に対して誘電率εと透磁率μを交換した分布とすれば不可視特性を実現することができる。すなわち、中央包囲体内部のz軸方向の誘電率εz は一定とし、θ方向の透磁率μθは内周側から外周側に減少させ、r方向の透磁率μr は内周側から外周側に増加させるような分布とすればよい。この場合、図10、図11に示すような積層膜を利用できる。

【0076】
以上のように、本発明の不可視包囲体では、共振現象を利用した媒質や複雑な構造のメタマテリアルを使用せず、通常媒質材料による簡単な構造体によって不可視包囲体を構成することができる。また、そのような構成による不可視特性も電磁界シミュレーションによって確認されている。本発明の不可視包囲体では、共振現象を利用していないため、従来よりも大幅に広い帯域において不可視特性を実現することができる。本発明により、広帯域および低損失の不可視包囲体を提供することができる。そして、このような不可視包囲体によって建築物などを覆うことにより電波障害を防止したり、何らかの構造物を覆うことによりその構造物による電磁波の散乱を防止することができる。

【0077】
なお、本発明の不可視包囲体では、外郭体を設けたことにより外界と外郭体の境界面で電磁波の反射が生じることが考えられる。その場合、外郭体の境界面に多層コーティングのような反射防止処理を施すようにしてもよい。また、液体中や固体中での不可視包囲体の実現には、その液体や固体自体を外郭体とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、通常媒質材料による簡単な構造体によって不可視包囲体を実現することができ、広帯域および低損失の不可視包囲体を提供することができる。このような不可視包囲体によって建築物などを覆うことにより電波障害を防止したり、何らかの構造物を覆うことによりその構造物による電磁波の散乱を防止することができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1a 不可視包囲体
2 外郭体
3,4,5,6 積層膜
7 単位円筒
10 空洞部
11 中央包囲体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12