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明細書 :硫黄基材表面に被覆層が形成された硫黄複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-043300 (P2015-043300A)
公開日 平成27年3月5日(2015.3.5)
発明の名称または考案の名称 硫黄基材表面に被覆層が形成された硫黄複合体
国際特許分類 H01M   4/38        (2006.01)
H01M   4/36        (2006.01)
FI H01M 4/38 Z
H01M 4/36 C
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2013-174918 (P2013-174918)
出願日 平成25年8月26日(2013.8.26)
発明者または考案者 【氏名】堤 宏守
【氏名】小橋 亜依
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100188352、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 一弘
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
【識別番号】100150902、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 正子
【識別番号】100177714、【弁理士】、【氏名又は名称】藤本 昌平
【識別番号】100141391、【弁理士】、【氏名又は名称】園元 修一
審査請求 未請求
テーマコード 5H050
Fターム 5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA23
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA13
要約 【課題】本発明の課題は、正極材料として好適な、導電性や反応性が高く、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出を防止でき、正極中の硫黄の含有量を増加させることのできる硫黄材料や、該硫黄材料を用いた高容量であり充放電による容量低下の少ない長期間安定的に常温で作用する正極や二次電池を提供することにある。
【解決手段】硫黄基材表面に導電性高分子からなる被覆層が形成され、該導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層が形成されたことを特徴とする硫黄複合体や、該硫黄複合体が含まれる正極活物質層と、集電体とを備えたことを特徴とする正極や、該正極、電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
硫黄基材表面に導電性高分子からなる被覆層が形成され、該導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層が形成されたことを特徴とする硫黄複合体。
【請求項2】
イオン性高分子が、アニオン性高分子であることを特徴とする請求項1記載の硫黄複合体。
【請求項3】
硫黄基材の形状が、粒子状又は繊維状であることを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄複合体。
【請求項4】
導電性高分子が、ポリチオフェン又はその誘導体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の硫黄複合体。
【請求項5】
アニオン性高分子が、ポリスチレンスルホン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩であることを特徴とする請求項2~4のいずれか記載の硫黄複合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の硫黄複合体が含まれる正極活物質層と、集電体とを備えたことを特徴とする正極。
【請求項7】
請求項6記載の正極、電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池。
【請求項8】
硫黄基材の表面でモノマーを重合させることにより、硫黄基材の表面に導電性高分子からなる被覆層を形成した後、前記硫黄基材をイオン性高分子溶液に浸漬し、乾燥させて、前記導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層を形成することを特徴とする硫黄複合体の製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄基材表面に導電性高分子からなる被覆層と、該被覆層の上にさらにイオン性高分子からなる被覆層が形成された硫黄複合体や、該硫黄複合体を含む正極や二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電子機器や電気自動車の急速な普及に伴い、高容量で繰り返し充放電可能な二次電池の開発が盛んに行われている。なかでもリチウム電池が、軽量で高出力が期待されることから特に注目されている。現在、リチウム電池としては、正極にLiCoO、LiMn、LiFePO等が、負極にカーボン、リチウム等が用いられているケースが多い。しかし、負極にカーボンやリチウムを用いた場合、カーボンの容量が300~370Ah/kg、リチウムの容量が3830Ah/kgであるのに対し、正極に用いるLiCoOやLiMnの容量は110~140Ah/kg程度、LiFePOの容量は150~170Ah/kg程度と、正極材料の容量が小さいため、高容量の正極材料の開発が望まれている。
【0003】
硫黄は、LiSまでリチウムと完全に反応する場合、2600Wh/kgの理論エネルギー密度と1672Ah/kgという理論的に高い容量を有する高エネルギー密度の正極材料である。さらに、硫黄は毒性が低く、資源も豊富であるため安価であるという利点もある。そのため、正極材料として、硫黄が着目されている。
【0004】
しかしながら、硫黄は反応性に乏しく、また絶縁体であるため、正極材料に用いるためには、硫黄の活性を高め、更に導電性を付与する必要がある。そこで、これらの問題点を補うための開発がなされている。例えば、金属ナトリウムを負極材料とし、硫黄を正極材料とする二次電池として、硫黄の活性を高めるために、作動温度を300℃以上とする提案がなされている。また、このような高温下での作動を改良するナトリウム/硫黄電池として、硫黄と導電剤である炭素とポリエチレンオキサイドとの混合物を正極に、ナトリウムやナトリウム含有炭素等を負極に、ナトリウム塩を含むグリミド(grymid)溶液を電解液に用いた常温作動のナトリウム/硫黄電池が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、硫黄と炭素を単に混合する代わりに、硫黄粒子の表面に炭素粒子を機械的に付着させる方法が提案され、この炭素粒子付着硫黄粒子を正極に、リチウムを負極に用いたリチウム/硫黄電池が提案されている(特許文献2、3)。
【0006】
しかし、300℃もの高温下で作動する電池では、装置の大型化が必要となり、作動の安定性にも欠ける。また、電池を常温で作動させるために、硫黄と炭素を混合したり硫黄に炭素を機械的に付着させたりしても、硫黄への導電性や反応性の付与は十分ではなかった。さらに、硫黄を正極材料として用いた二次電池では、充放電の繰り返しにより容量が低下するとの問題があった。
【0007】
これらの問題点を改善するために、本発明者らは、繊維状の硫黄に導電性ポリマーを被覆した複合体を開発し、これを正極材料として用いる提案を行っている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2007-522633号公報
【特許文献2】特開2004-119367号公報
【特許文献3】特開2006-92885号公報
【特許文献4】特開2011-222389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
硫黄は、理論的には高い電気容量を得られるため、正極材料としての開発が望まれているが、高容量であり長期間安定的に常温で作用する硫黄を用いた正極材料は、いまだ開発されていない。硫黄と炭素を用いる従来の技術では、絶縁体であり反応性の低い硫黄に十分な導電性や反応性を付与することができなかった。さらに、硫黄粒子の表面に炭素粒子を付着させても、充放電時に正極で生じる硫黄化合物の電解液中への溶出を防止することはできなかった。また、電池の容量は、正極に含まれる活物質の量が多いほど大きくなるため、硫黄高含有の正極が望まれているが、絶縁性の硫黄を用いるには炭素等の導電剤を多量に配合する必要があり、正極中の硫黄の含有量を高めることができなかった。
【0010】
本発明の課題は、これらの問題点を解決し、正極材料として好適な、導電性や反応性が高く、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出を防止でき、正極中の硫黄の含有量を増加させることのできる硫黄材料や、該硫黄材料を用いた高容量であり充放電による容量低下の少ない長期間安定的に常温で作用する正極や二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、硫黄を用いて、高容量であり長期間安定的に常温で作用する正極材料を開発するために、硫黄と炭素を混合して用いる方法、硫黄粒子の表面に炭素粒子を付着させる方法等の検討を行った。しかし、これらの従来の方法の改良では、ある程度導電性の向上は見られるものの、十分な導電性や反応性は得られなかった。さらに、使用時に出力の低下がみられたので、その原因を調べたところ、硫黄の還元反応時に生成する硫黄化合物が電解液中へ溶出していることがわかった。硫黄と炭素を単に混合する方法では、硫黄表面の改質はできず、硫黄粒子の表面に炭素粒子を付着させる方法でも、付着した炭素粒子と炭素粒子の間に間隙が存在し、硫黄化合物の電解液への溶出を防止することができなかった。そこで、硫黄の表面を被覆することに着目し、被覆に用いる物質、被覆方法の検討を開始した。検討過程で、硫黄の表面でモノマーを重合させて導電性ポリマーを合成し、硫黄を導電性ポリマーで被覆した複合体を開発したところ(特許文献4)、導電性ポリマーの被覆により硫黄の導電性や反応性を高めることができることはわかったが、導電性ポリマーの被覆では、生成する硫黄化合物の電解液中への溶出を抑える効果は低かった。本発明者らは、更に検討を進めた結果、導電性高分子とイオン性高分子を組み合わせて硫黄を被覆することにより、両高分子が相乗的に作用し、従来に比べて高い導電性や反応性を硫黄に付与することができ、加えて、硫黄の還元反応時に生成する硫黄化合物の電解液中への溶出防止効果に優れた硫黄材料が得られることを見いだした。以上の知見に基づき、本発明は完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)硫黄基材表面に導電性高分子からなる被覆層が形成され、該導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層が形成されたことを特徴とする硫黄複合体。
(2)イオン性高分子が、アニオン性高分子であることを特徴とする上記(1)記載の硫黄複合体。
(3)硫黄基材の形状が、粒子状又は繊維状であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の硫黄複合体。
(4)導電性高分子が、ポリチオフェン又はその誘導体であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の硫黄複合体。
(5)アニオン性高分子が、ポリスチレンスルホン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩であることを特徴とする上記(2)~(4)のいずれか記載の硫黄複合体。
(6)上記(1)~(5)のいずれか記載の硫黄複合体が含まれる正極活物質層と、集電体とを備えたことを特徴とする正極。
(7)上記(6)記載の正極、電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池。
(8)硫黄基材の表面でモノマーを重合させることにより、硫黄基材の表面に導電性高分子からなる被覆層を形成した後、前記硫黄基材をイオン性高分子溶液に浸漬し、乾燥させて、前記導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層を形成することを特徴とする硫黄複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、正極材料として好適な、導電性や反応性が高く、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出が抑えられた硫黄複合体を提供することができる。また、正極中の硫黄の含有量を高めることのできる硫黄複合体を提供することができる。さらに、前記硫黄複合体を用いた、充放電による容量低下の少ない正極や二次電池を提供することができ、高容量であり長期間安定的に常温で作用する正極や二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は、表面被覆する前の硫黄粒子(S)のSEMによる観察像を、図1(b)は、表面にポリチオフェンを被覆した硫黄粒子(S-PTh)のSEMによる観察像を、図1(c)は、ポリチオフェン被覆層上にポリスチレンスルホン酸リチウムを被覆した硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)のSEMによる観察像をそれぞれ示す。
【図2】図2は、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)、比較例1の硫黄粒子(S)、比較例2の硫黄粒子(S-PTh)をそれぞれ用いた電極のサイクリックボルタモグラム(第1回目のサイクル)を示す。
【図3】図3は、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)、比較例1の硫黄粒子(S)、比較例2の硫黄粒子(S-PTh)をそれぞれ用いた電極のサイクリックボルタモグラム(第5回目のサイクル)を示す。
【図4】図4は、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)、比較例1の硫黄粒子(S)、比較例2の硫黄粒子(S-PTh)をそれぞれ用いた電極のサイクリックボルタモグラムを積分して算出した電極の見かけの容量の電位走査サイクルに伴う変化を示す(各放電サイクルにおける相対的な容量をS電極基準で示す)。
【図5】図5は、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を正極活物質として用いたコイン型電池の充放電特性を示す。
【図6】図6は、比較例1の硫黄粒子(S)を正極活物質として用いたコイン型電池の充放電特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硫黄複合体は、硫黄基材表面に導電性高分子からなる被覆層が形成され、該導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層が形成されたことを特徴とする。本発明における導電性高分子としては、その主鎖がπ共役系からなる電子導電性を発現する高分子であれば特に限定されず、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリアセン、これらの誘導体等を挙げることができるが、中でも、硫黄基材との密着性がよく、導電性に優れるため、ポリチオフェン又はその誘導体が好ましい。また、かかる導電性高分子からなる被覆層としては、例えば、前記導電性高分子から選ばれる1種又は2種以上からなる被覆層を挙げることができる。

【0016】
本発明におけるイオン性高分子は、側鎖又は主鎖に、解離可能な官能基を有する高分子であり、解離によりアニオンとなるアニオン性官能基を有するアニオン性高分子でも、解離によりカチオンとなるカチオン性官能基を有するカチオン性高分子でもよい。上記アニオン性高分子としては、特に限定されず、例えば、官能基として、カルボキシ基、スルホ基等を有する高分子を挙げることができ、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸、若しくはその誘導体、又はそれらの塩を挙げることができる。中でも、ポリスチレンスルホン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩であることが、スルフィドイオンの溶出を防ぐ点や、塩の解離度が高い点で好ましい。上記塩としては、アニオン性高分子において、対イオンとなるカチオンの塩であればよく、金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができ、これらの中でもリチウム、ナトリウム、カリウム等のアリカリ金属塩や、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩であることが好ましく、リチウム塩であることが、リチウムイオン二次電池あるいはリチウム二次電池の電解液組成を変化させない点でより好ましい。また、上記カチオン性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、官能基として、4級アンモニウム基、アミノ基等を有する高分子を挙げることができ、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルピリジン、ポリリジン、ポリアクリルアミド、これらの誘導体等を挙げることができる。本発明におけるイオン性高分子からなる被覆層は、例えば、上記アニオン性高分子やカチオン性高分子から選ばれる1種又は2種以上からなる被覆層を挙げることができるが、アニオン性高分子からなる被覆層が好ましく、中でも、ポリスチレンスルホン酸リチウムからなる被覆層が、スルフィドイオンの溶出をより良く防ぎ、塩の解離度が高く、更にリチウムイオン二次電池あるいはリチウム二次電池の電解液組成を変化させない点でより好ましい。

【0017】
本発明の硫黄複合体は、硫黄基材表面に、まず一層目として導電性高分子からなる被覆層が形成されている。硫黄基材の表面全体が導電性高分子で被覆されていても、表面の一部が導電性高分子で被覆されていてもよいが、電気化学的活性を損なわない程度、また硫黄化合物の電解液中への溶出防止効果を損なわない程度に、硫黄の表面が導電性高分子で被覆されていることが好ましい。本発明の硫黄複合体は、前記導電性高分子からなる被覆層上に、更に二層目としてイオン性高分子からなる被覆層が形成されている。前記導電性高分子からなる被覆層の全体がイオン性高分子で被覆されていても、被覆層の一部がイオン性高分子で被覆されていてもよく、イオン性高分子の一部が前記導電性高分子からなる被覆層中に入り込んでいてもよいが、電気化学的活性を損なわない程度や、硫黄化合物の電解液中への溶出防止効果を損なわない程度に、前記導電性高分子からなる被覆層がイオン性高分子で被覆されていることが好ましい。

【0018】
本発明の硫黄基材の形状としては特に制限されず、例えば、球状、板状、柱状、不定形等の粒子状、繊維状などを挙げることができる。球状、板状、柱状、不定形等の粒子状の硫黄基材の場合、その大きさは特に制限されないが、粒子の大きさが小さくなるほど、単位質量又は単位体積あたりの表面積が大きくなり、反応に寄与する硫黄粒子の表面部分の面積が増大するので、電極での反応効率を向上させることができる。この観点から、硫黄の一次粒子の直径又は最長辺の長さの上限値は、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。また、一次粒子の直径又は最長辺の長さの下限値は特に限定されるものではないが、正極に用いる場合の作業性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。以上のことから、粒子状の硫黄基材の一次粒子の直径又は最長辺の長さは、例えば、0.5~500μmであることが好ましく、1~300μmであることがより好ましい。

【0019】
他方、繊維状の硫黄基材の場合、繊維の直径は特に制限されないが、直径が小さくなるほど、単位質量又は単位体積あたりの表面積が大きくなり、反応に寄与する硫黄粒子の表面部分の面積が増大するので、電極での反応効率を向上させることができる。この観点から、繊維の直径の上限値は、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。また、繊維の直径の下限値は、実質的に使用できる程度であれば特に制限されず、繊維としての強度を強くする観点から、繊維の直径は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。以上のことから、繊維の直径は、例えば、5~60μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましい。繊維の長さとしては、特に限定されるものではないが、不織布のマット状として用いる場合には、不織布をマット状に容易に形成できるという観点から、繊維の長さは1~40cmであることが好ましく、5~30cmであることがより好ましく、5~20cmであることが更に好ましい。さらに、繊維の長さ(L)と直径(d)との比(L/d)は50以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。

【0020】
本発明の硫黄複合体は、硫黄基材の表面に導電性高分子からなる被覆層が形成され、加えて、導電性高分子からなる被覆層上にイオン性高分子からなる被覆層が形成されているため、導電性や反応性が高く、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出が抑えられるので、正極材料として好適に用いることができる。被覆されている導電性高分子は、絶縁体である硫黄に導電性を付与することができるので、充放電時の電子の移動性を向上させることができる。また、硫黄の反応性を高めることができるので、正極での硫黄の酸化還元反応の反応効率を向上させることができる。

【0021】
例えば、硫黄を正極に、リチウムを負極に用いる場合、放電反応時には正極の硫黄表面でリチウムイオンが硫黄と反応し、硫黄が還元されてLi、Li、LiS等の硫黄化合物が生成する。充電反応時には、これらの硫黄化合物からリチウムイオンが放出される。ここで、LiSは電解液に溶け難いが、Li、Li等の多硫化物は、電解液に可溶であり、電解液中に溶出する。溶出した多硫化物は負極に達し、負極で難溶性のLiSを生成して正極と負極間の充放電反応を阻害するため、従来は充放電を繰り返すと容量の低下を引きおこしていた。硫黄表面を導電性高分子で被覆しただけでは、生成する多硫化物の電解液への溶出を効果的に防止することはできないが、本発明の硫黄複合体では、硫黄表面を導電性高分子で被覆した上に、さらにイオン性高分子で被覆しているため、充放電時の電子の移動性や硫黄の反応性を高めるだけではなく、生成する多硫化物の電解液への溶出を防止することができる。リチウムイオンは、導電性高分子層とイオン性高分子層で形成された被覆層を通過して、硫黄表面と電解液との間を行き来できるが、Li、Li、LiS等の硫黄化合物やS2-、S2-等の多硫化物イオンは導電性高分子層とイオン性高分子層で形成された被覆層を容易に通過することはできない。これは、おそらく導電性高分子被覆層に存在する、硫黄化合物や多硫化物イオンが通過する経路を、イオン性高分子の被覆層が、密着性よく、しかもリチウムイオンの透過性を妨げることなく塞ぐためではないかと考えられる。このため、本発明の硫黄複合体は、正極でのリチウムと硫黄との反応を阻害することなく、生成する硫黄化合物や多硫化物イオンの電解液中への溶出を防止できる。

【0022】
本発明の硫黄複合体における導電性高分子からなる被覆層やイオン性高分子からなる被覆層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、それぞれ0.01~5μmであることが好ましく、0.1~3μmであることがより好ましい。かかる導電性高分子被覆層やイオン性高分子被覆層は、厚みが場所により異なっても構わないが、均一な厚みを有することが好ましい。導電性高分子被覆層やイオン性高分子被覆層の厚みが、それぞれ0.01~5μmであると、硫黄に導電性や反応性を付与する効果と、硫黄化合物が電解液中に溶出するのを防止する効果がより高まる。また、本発明の硫黄複合体においては、導電性高分子からなる被覆層やイオン性高分子からなる被覆層が複数回の被覆により形成されていてもよく、さらにイオン性高分子からなる被覆層の上に、電気化学的活性や硫黄化合物の溶出防止効果を妨げない範囲において、他の被覆層が更に形成されていてもよい。

【0023】
本発明の硫黄複合体の製造方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。まず、硫黄基材の表面に、導電性高分子の合成原料であるモノマーを吸着させる。吸着させる方法としては、例えば、導電性高分子の合成原料であるモノマーの溶液を用意し、硫黄粒子等の硫黄基材を、前記溶液中に浸漬させる方法を挙げることができる。次いで、吸着させたモノマーを硫黄上で重合させる。重合させる場合、必要に応じて重合触媒や、導電性を向上させるためのヨウ素や臭素等のドープ物質をモノマー溶液に添加しておくことができ、モノマーを重合させることにより、硫黄粒子の表面に導電性高分子からなる被覆層を形成する。その他、重合後の導電性高分子の溶液中に、硫黄基材を浸漬させ、乾燥させることにより導電性高分子からなる被覆層を形成してもよい。こうして得られた表面が導電性高分子で被覆された硫黄基材を、イオン性高分子溶液に浸漬し、乾燥することにより導電性高分子の被覆層上に、イオン性高分子の被覆層を形成することができる。

【0024】
本発明の正極としては、上記本発明の硫黄複合体が含まれる正極活物質層と、集電体とを備えたものであれば特に制限されず、上記集電体としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレススチール箔、カーボン等を挙げることができる。上記正極活物質層には、本発明の硫黄複合体の他、必要に応じてバインダーや導電助剤や他の正極活物質を含むことができる。かかるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができ、導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、炭素繊維等を挙げることができる。上記正極活物質層中における本発明の硫黄複合体の含有量は特に制限されず、本発明の硫黄複合体の特性を発揮し、高容量で充放電による容量低下の少ない二次電池を得る観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。

【0025】
本発明の正極の製造方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。本発明の硫黄複合体と、必要に応じて溶媒、上記のバインダーや導電助剤等を混合する。この混合物を集電体上に塗布し、乾燥して集電体上に正極活物質層を形成する。上記溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、キシレン、トルエン等を挙げることができる。繊維形状の硫黄複合体の場合、繊維長を長くしてマット状にすることもでき、この場合は、集電体上にマット状の硫黄複合体を設置してバインダーで固定し、正極活物質層を形成することもできる。

【0026】
本発明の二次電池は、本発明の正極の他、電解質及び負極を備えており、その他にセパレータ等を備えてもよい。上記電解質としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiI、LiTFSI等を挙げることができる。かかる電解質は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジオキソラン、ジメトキシエタン等の非水系の溶媒に溶解して用いることができる。上記負極としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金等のリチウムを含む物質や黒鉛等のリチウムを吸蔵放出する物質を挙げることができる。本発明の二次電池では、例えば、負極に金属リチウムを用いる場合、リチウムイオンが、本発明の導電性高分子被覆層やイオン性高分子被覆層を通って硫黄基材表面に達し、硫黄と反応する。また、この硫黄の還元反応時には、電解液に可溶なリチウムポリスルフィド等の硫黄化合物が生成するが、導電性高分子被覆層やイオン性高分子被覆層により電解液中への溶出は抑制される。そのため、充放電の繰り返しによる容量低下の少ない二次電池を得ることができる。さらに、導電性の高い導電性高分子被覆層やイオン性高分子被覆層を通して電子が移動し、集電体との間の電子の授受を行うため、高容量の二次電池を得ることができる。本発明の二次電池は、本発明の正極、上記電解質及び負極を組み合わせて製造することができ、二次電池の形状としては、特に限定されるものではないが、コイン型、積層型、円筒型等を挙げることができる。

【0027】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(硫黄複合体の調製)
硫黄基材として用いる硫黄粒子を、チオ硫酸ナトリウム水溶液に塩酸を滴下して調製した。調製された硫黄粒子(S)は、一次粒子の直径がほぼ1~10μmの範囲であった。クロロフォルム3.3mlに、得られた硫黄粒子(S)0.299gと塩化鉄(III)1.38gを加え、30分間攪拌した。攪拌後の溶液に、別に用意したクロロフォルム1.6mlにチオフェン0.17mlを加えた溶液を、ゆっくりと加え、0℃で10時間攪拌した。攪拌後、メタノールを加え、その後、濾過し、1Mの塩酸とイオン交換水とで洗浄を行った後、60℃で24時間真空乾燥させて、硫黄の表面にポリチオフェンを被覆した硫黄粒子(S-PTh)を得た。
【実施例1】
【0029】
上記で得た硫黄粒子(S-PTh)を、2wt%のポリスチレンスルホン酸リチウム溶液に加え、40℃で12時間攪拌した。攪拌後、ろ過し、残分を60℃で12時間真空乾燥させ、常温でさらに12時間以上真空乾燥させて、ポリチオフェン被覆層上にポリスチレンスルホン酸リチウム被覆層を形成した硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を調製した。表面被覆する前の硫黄粒子(S)の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像を図1(a)に、ポリチオフェンを被覆した硫黄粒子(S-PTh)のSEMによる観察像を図1(b)に、更にポリスチレンスルホン酸リチウムを被覆した硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)のSEMによる観察像を図1(c)に示す。また、ポリチオフェンの被覆層の厚みは約0.1μm、ポリスチレンスルホン酸リチウムの被覆層の厚みは約0.5μmであった。
【実施例1】
【0030】
(二次電池正極材料としての性能試験)
1.サイクリックボルタンメトリー(CV)測定
実施例1で調製した硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)とアセチレンブラックの混合物を充填してペースト状電極を作製し、これを作用極としてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定には、電気化学システム[北斗電工株式会社製 HZ-5000]を使用し、電位走査範囲1V~3V(対リチウム参照極、走査速度0.5mVs-1で測定を行い、電解液には、1,3-ジオキソラン(DOX)と1,2-ジメトキシエタン(DME)を体積比1:1で混合した溶媒に、LiN(SOCF(LiTFSA)を1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。また、実施例1で調製した表面被覆する前の硫黄粒子(S)を比較例1とし、実施例1で調製したポリチオフェンを被覆した硫黄粒子(S-PTh)を比較例2として、実施例1と同様にサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。その結果を図2及び図3に示す(縦軸の電流値は、硫黄の単位重量あたりに換算した値)。また、各材料の性能の差を明確にするために、それぞれの材料を用いたボルタモグラムを積分して算出した電極の見かけの容量の電位走査サイクルに伴う変化を、各放電サイクルにおける比較例1の硫黄粒子(S)電極を基準とした相対的な容量として図4に示す。
【実施例1】
【0031】
2.充放電試験
実施例1で調製した硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)と、アセチレンブラック、結着剤(ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、溶媒(N-メチルピロリドン)を混練してペーストを作製し、ステンレス箔上に塗布後、溶媒を加熱除去(60℃、24時間、真空下)して電極を作製した。ペースト中の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi):アセチレンブラック:結着剤の質量比は、8:1:1とした。これを正極とし、リチウム箔を負極に用いたコイン型セル(サイズ2032、直径20mm、厚さ3.2mmの円形電池)を作製し、その充放電特性を測定した。電解液には、1,3-ジオキソラン(DOX)と1,2-ジメトキシエタン(DME)を体積比1:1で混合した溶媒に、LiN(SOCF(LiTFSA)を1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。また、実施例1で調製した硫黄粒子(S)を比較例1として、実施例1と同様に充放電試験を行った。その結果を図5及び図6に示す。
【実施例1】
【0032】
サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果から、図2や図3に示すように、実施例1(S-PTh-PSSLi)、比較例1(S)、比較例2(S-PTh)のいずれの場合も、最初に還元方向に電位走査を行うと、硫黄の還元(スルフィドイオンの生成)に対応する電流ピークあるいは電流の増加がみられた。また、比較例1の硫黄粒子(S)を用いた電極では、酸化方向に電位を走査しても、あまり大きなピークが観測されなかったものの、比較例2の硫黄粒子(S-PTh)を用いた電極と実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を用いた電極では、比較的大きな酸化ピークが観測され、スルフィドイオンの再酸化反応が確認された。しかし、比較例1の硫黄粒子(S)を用いた電極では、電位走査を繰り返すと次第に電流値は減少した。これは、生成したスルフィドイオンが作用極内部から有機電解液中に溶出してしまうためと考えられる。また、比較例2の硫黄粒子(S-PTh)を用いた電極では、電位走査を繰り返すと、硫黄粒子(S)以上に電流値は減少し、硫黄表面にポリチオフェンのみを被覆しても、スルフィドイオンの溶出は抑えられなかった。一方、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を用いた電極では、電位走査を繰り返すことによる電流値の減少が抑制されていた。これらのことは、図4からも明らかである。
【実施例1】
【0033】
充放電試験の測定結果から、図5に示すように、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を用いた正極を備えたコイン型電池では、放電容量が212Ah/kgとなり、比較例1の硫黄粒子(S)を用いた正極を備えたコイン型電池の放電容量140Ah/kgに比べて高い放電容量が得られた。また、実施例1の硫黄複合体(S-PTh-PSSLi)を用いた正極を備えたコイン型電池では、充電時においても電位の平担部が現れ、充電反応が安定的に行われていることが示されていた。
【実施例1】
【0034】
図1の(a)、(b)、(c)を比較すると、被覆を行っていない比較例1の硫黄粒子(S)では、やや凹凸が観察された(a)。これに対し、ポリチオフェンで被覆した比較例2の硫黄粒子(S-PTh)では、多孔性の膜により硫黄粒子の表面が被覆されているのがわかった(b)。さらに、ポリスチレンスルホン酸リチウムで被覆を行うと、比較的平滑な膜により表面全体が被覆されていることが明らかになった(c)。このように、ポリチオフェンからなる多孔性の被覆層の孔を、ポリスチレンスルホン酸リチウムが被覆することにより、硫黄の還元時に生成する多硫化物イオンが、これらの孔を通じて電解液中に溶出するのを抑制しているものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の硫黄複合体は、二次電池の正極活物質として用いるのに優れた特性を備えているので、正極材料や二次電池に利用でき、高容量であり充放電による容量低下が少なく、長期間安定的に常温で作用する正極や二次電池を提供することができる。
図面
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
4
【図1】
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