TOP > 国内特許検索 > RAGEポリペプチドの新規用途 > 明細書

明細書 :RAGEポリペプチドの新規用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4951755号 (P4951755)
公開番号 特開2007-244253 (P2007-244253A)
登録日 平成24年3月23日(2012.3.23)
発行日 平成24年6月13日(2012.6.13)
公開日 平成19年9月27日(2007.9.27)
発明の名称または考案の名称 RAGEポリペプチドの新規用途
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C07K  14/705       (2006.01)
FI C12Q 1/02 ZNA
C12N 1/20 Z
A61K 37/02
A61P 31/04
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C07K 14/705
請求項の数または発明の数 10
全頁数 18
出願番号 特願2006-069908 (P2006-069908)
出願日 平成18年3月14日(2006.3.14)
審査請求日 平成21年2月26日(2009.2.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】山本 博
【氏名】米倉 秀人
【氏名】渡邉 琢夫
【氏名】山本 靖彦
【氏名】原島 愛
【氏名】唐澤 忠宏
【氏名】志村 敏史
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 特開2003-12586(JP,A)
Clin Diagn Lab Immunol. ,1999年,Vol. 6, No. 4,p. 537-541
Infect Immun,1998年,Vol. 66, No. 1,p. 43-51
J Biol Chem.,1992年,Vol. 267, No. 21,p. 14998-15004
J Clin Invest.,2005年,Vol. 115, No. 5,p. 1267-1274
J Clin Invest.,2004年,Vol. 113, No. 11,p. 1641-1650
調査した分野 C12Q 1/00
C12N 1/20
A61K 38/00
A61P 31/04
C07K 14/705
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
Receptor for advanced gylcation endproducts (RAGE) ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に対する被検物質の作用に基づいて、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価する方法。
【請求項2】
RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に対する増強的効果に基づいて該被検物質を評価することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
下記の工程を含む請求項1または2記載の方法:
1) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌と、被検物質とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(A)を測定する、
2) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(B)を測定する、
3) 結合量(A)と結合量(B)との相違に基づき、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価する。
【請求項4】
被検試料中の、鞭毛を有する細菌を検出する方法であって、
RAGE ポリペプチドと被検試料とを接触させ、RAGE ポリペプチドと結合した細菌を鞭毛を有する細菌として検出する方法。
【請求項5】
RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の検出用試薬。
【請求項6】
RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の検出用キット。
【請求項7】
試料中の、鞭毛を有する細菌を収集する方法であって、
RAGE ポリペプチドと試料とを接触させ、該試料中の、鞭毛を有する細菌をRAGE ポリペプチドと結合させる工程を含む方法。
【請求項8】
RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の収集用試薬。
【請求項9】
RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の収集用キット。
【請求項10】
RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌に関連する疾患の治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング方法、鞭毛を有する細菌の検出方法、鞭毛を有する細菌の収集方法、および鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
膜結合型RAGE (Receptor for advanced gylcation endproducts)は、Sternらのグループにより,AGE (advanced gylcation endproducts, 後期糖化反応生成物)の細胞表面特異受容体として分離されその一次構造が決定された(非特許文献1)。膜結合型RAGEは,イムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の受容体で、V,C1,C2の3つのイムノグロブリンドメインからなる細胞外領域と短い細胞内領域とを有する。AGEとはグルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応、グリケーションによって生ずる構造体の総称であり、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患さらには老化にも関与すると注目されているものである。膜結合型RAGEにAGEが結合すると、活性酸素種の産生を経て転写因子NFκBの活性化を引き起こし、血管障害性の遺伝子群の活性化をおこすと考えられている。
【0003】
RAGEの分子量は当初35 kDaとされたが、これは精製途中で分解されたものと考えられ、現在では糖鎖修飾を受けたヒトRAGEの完全長は55 kDaであることが分かっている。RAGEは免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、細胞外領域に3つの免疫グロブリン様ドメインを持つ。そして最もN末端にある免疫グロブリン可変領域様ドメイン部分の内部にAGEリガンド結合部位がある。近年、RAGEはマルチリガンドレセプターとして認識されるに至り、AGE以外のリガンドとして、アルツハイマー病の脳に蓄積するアルツハイマー・アミロイドタンパク、癌転移との関連および炎症との関連が指摘されているhigh mobility group box 1 (HMGB-1)、免疫系細胞から分泌される炎症メディエーターS100/calgranulinなどが報告され、RAGEが様々な病態に関与している可能性が考えられている。
【0004】
本発明者らは、RAGEには一つの遺伝子から選択的スプライシングによって作り出される新しい分子種が存在することを見出した。以前から知られている完全長膜結合型RAGEに比べ、新たに見出されたアイソフォームの一つはC端側の膜貫通領域を欠き分泌型となるRAGEである。この分泌型RAGEタンパクは血管内皮培養細胞から実際に分泌され、ヒトの血中や様々な組織にも存在することより、内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)と命名した(特許文献1)。esRAGEはリガンド結合部位を持つため、細胞外でリガンドを捕捉することによりリガンドと細胞表面の膜型RAGEとの結合を阻害する働きを持つと考えられる。
【0005】
これまでにRAGEポリペプチドの機能に関しては種々の報告がある(非特許文献2および3)。しかしながら、RAGEポリペプチドと細菌の鞭毛との結合に関する報告はなされていない。
【0006】

【特許文献1】特開2003-12586号公報
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992)
【非特許文献2】J. Clin. Invest. 113: 1641-1650 (2004)
【非特許文献3】J. Clin. Invest. 115: 1267-1274 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、RAGE本来の機能を推定するため、我々はヒトにおけるRAGE/esRAGEの発現とその分布を免疫組織化学的に検討した。その結果、esRAGEが血管、消化管などの管腔粘膜、皮膚、腎・尿路系、外分泌腺、気管支粘膜・肺胞上皮、マクロファージ・好中球などに発現しているということが分かった。つまり外界と接触する場所での発現が特徴的であるという結果から、本来のRAGE/esRAGEの役割は外界からの防御を担うのではないかという可能性が考えられた。そこで本発明者らは鞭毛を有する病原性細菌とRAGE/esRAGEとの関連性について検討した。
【0008】
本発明は、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング方法、鞭毛を有する細菌の検出方法、鞭毛を有する細菌の収集方法、および鞭毛を有する細菌に関連する疾患の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは膜結合型または可溶型のRAGEポリペプチドが、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌と結合することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
(1) Receptor for advanced gylcation endproducts (RAGE) ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に対する被検物質の作用に基づいて、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価する方法。
(2) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に対する増強的効果に基づいて該被検物質を評価することを特徴とする、(1)記載の方法。
【0011】
(3) 下記の工程を含む(1)または(2)記載の方法:
1) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌と、被検物質とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(A)を測定する、
2) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(B)を測定する、
3) 結合量(A)と結合量(B)との相違に基づき、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価する。
【0012】
(4) 被検試料中の、鞭毛を有する細菌を検出する方法であって、
RAGE ポリペプチドと被検試料とを接触させ、RAGE ポリペプチドと結合した細菌を鞭毛を有する細菌として検出する方法。
(5) RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の検出用試薬。
(6) RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の検出用キット。
【0013】
(7) 試料中の、鞭毛を有する細菌を収集する方法であって、
RAGE ポリペプチドと試料とを接触させ、該試料中の、鞭毛を有する細菌をRAGE ポリペプチドと結合させる工程を含む方法。
(8) RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の収集用試薬。
(9) RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の収集用キット。
(10) RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌に関連する疾患の治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング方法が提供される。
本発明によればまた、鞭毛を有する細菌の検出方法が提供される。
本発明によればまた、鞭毛を有する細菌の収集方法が提供される。
本発明によればまた、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(RAGEポリペプチド)
本発明において「Receptor for advanced gylcation endproducts (RAGE)ポリペプチド」とは、advanced gylcation endproducts (AGE, 後期糖化反応生成物)の受容体として機能しうるすべてのポリペプチドを意味し、天然物であっても、天然物の変異体であっても、人為的に合成されたものであってもよい。更にまた、RAGEポリペプチドは糖鎖修飾を受けたものであってもよい。
【0016】
天然に存在するRAGEポリペプチドとしては、ヒト、マウス、ラット、ウシなどの哺乳動物に由来するものが挙げられる。天然に存在するRAGEポリペプチドには膜結合型のものと可溶型のものが存在するが、本発明には両者とも好適に使用できる。天然に存在する可溶型RAGEポリペプチドには、内在性分泌型RAGE(esRAGE)と呼ばれるポリペプチドが包含される。また、天然に存在する膜結合型RAGEポリペプチドを人為的に可溶性に改変したものもまた同様に使用できる。本発明には、AGEを受容しうるポリペプチドである限り、天然に存在するRAGEポリペプチドの変異体や、天然に存在するRAGEポリペプチドの部分ポリペプチドや、当該部分ポリペプチドの変異体などもまた好適に使用できる。
【0017】
本発明においてRAGEポリペプチドとして好適に使用可能な、天然に存在するRAGEポリペプチドとしては、配列番号1のアミノ酸配列で表されるヒト由来膜結合型RAGEポリペプチド、配列番号2のアミノ酸配列で表されるヒト由来esRAGEポリペプチド、配列番号3のアミノ酸配列で表されるマウス由来膜結合型RAGEポリペプチド、配列番号4のアミノ酸配列で表されるマウス由来esRAGEポリペプチド、配列番号5のアミノ酸配列で表されるラット由来膜結合型RAGEポリペプチド、および、配列番号6のアミノ酸配列で表されるウシ由来膜結合型RAGEポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本発明には、配列番号1,2,3,4,5,および6からなる群から選択される1つにより表されるアミノ酸配列において1~数個(例えば、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、最も好ましくは1~3個)のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつAGEを受容しうるポリペプチドもまたRAGEポリペプチドとして好適に使用可能である。
【0018】
本発明においてRAGEポリペプチドとして好適に使用可能な、天然に存在するRAGEポリペプチドの部分配列としては、配列番号1のCys38~Cys99のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号1のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは62であるポリペプチド)、配列番号2のCys38~Cys99のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号2のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは62であるポリペプチド)、配列番号3のCys38~Cys98のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号3のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは61であるポリペプチド)、配列番号4のCys38~Cys98のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号4のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは61であるポリペプチド)、配列番号5のCys38~Cys98のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号5のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは61であるポリペプチド)、および、配列番号6のCys38~Cys98のアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、配列番号6のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド(好ましくはアミノ酸残基数100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、最も好ましくは61であるポリペプチド)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
本発明には、前段落で言及した部分ポリペプチドのアミノ酸配列において1~数個(例えば、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、最も好ましくは1~3個)のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつAGEを受容しうるポリペプチドもまたRAGEポリペプチドとして好適に使用可能である。
【0020】
本発明に用いるRAGEポリペプチドの調製方法は特に限定されず、例えば、通常のクローニング法を用いた発現法により調製してもよいし、天然物から単離することにより調製してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0021】
本明細書において、「RAGEポリペプチド」を「RAGE」と、「esRAGEポリペプチド」を「esRAGE」とそれぞれ称する場合があるが、同義である。
【0022】
(鞭毛を有する細菌)
本発明における「鞭毛を有する細菌」としては、具体的には、具体的には、腸内細菌科((Citrobacter属(Citrobacter freundii等)、Enterobacter属(Enterobacter cloacae complex等)、Escherichia属(Escherichia coli等), Klebsiella属(Klebsiella pneumoniae等)、Proteus属(Proteus mirabilis等)、Salmonella属(Salmonella cholerasuis等)、Serratia属(Serratia marcescens等)、Shigella属(Shigella dysenteriae等)、Yersina属(Yersinia pestis等)等)、クラミジア科(Chlamydia属(Chlamydia trachomatis等)等)、コクシエラ科(Coxiella属(Coxiella burnetii等)等)、レジオネラ科(Legionella属(Legionella pneumophila等)等)、パスツレラ科(Haemophilus属(Haemophilus influenzae等)、Pasteurella属(Pasteurella multocida等)等)Fusobacterium科(Fusobacterium属(Fusobacterium nucleatum等)等)、Bartonella科、Brucella科、Rickettsia科((Rickettsia属(Rickettsia rickettsii等)、Orientia属(Orientia tsutsugamushi等)等)、Moraxella科(Acinetobacter 属(Acinetobacter baumannii等)、Branhamella 属、Moraxella属等)、Pseudomonas科(Pseudomonas属(Pseudomonas aeruginosa等)等),Vibrio科(Vibrio属(Vibrio cholerae等)等)、Neiserria科(Neisseria属(Neisseria meningitidis等)、Kingella属(Kingella denitrificans等)等)、スピロヘータ科(Borrelia属(Borrelia burgdorferi等)、Treponema属(Treponema pallidum等)等)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0023】
(鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング方法)
実施例に記載の通り、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌とは結合することができる。したがって、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に対する被検物質の作用に基づいて、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価することが可能である。ここで「鞭毛を有する細菌に関連する疾患」とは、鞭毛を有する細菌の感染により引き起こされる疾患を意味する。
【0024】
鞭毛を有する病原性細菌にRAGE ポリペプチドが結合すると、病原性細菌の運動量が顕著に低下する(実施例2参照)。また、RAGE ポリペプチドの存在は、マクロファージが、鞭毛を有する病原性細菌を処理する能力を向上させる(実施例6参照)。更にまた、RAGE ポリペプチドは鞭毛を有する病原性細菌の感染に対して防御的に働いていると推定される(実施例7参照)。これらの知見から、RAGE ポリペプチドと鞭毛を有する病原性細菌とが結合することにより、病原性細菌の運動量が低下し、マクロファージによる病原性細菌の処理が促進され、病原性細菌に起因する疾患状態が改善されるという一連の機構が推定される。よって、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合を増強する作用を有する物質は、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬として有用であると考えられる。
【0025】
本発明のこの実施形態においてフラジェリンを使用する場合は、当該フラジェリンは、スクリーニングされるべき治療薬に対応する疾患の原因となる細菌から単離されたものであることが好ましいが、それには限定されない。
【0026】
使用できるフラジェリンとしては具体的には、配列表に記載の配列番号7~24のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるフラジェリンが挙げられる。配列番号7~24のアミノ酸配列からなるフラジェリンはそれぞれ以下の細菌に由来するものである。配列番号7: Listeria monocytogenes; 配列番号8: Campylobacter jejuni subsp. jejuni NCTC 11168; 配列番号9: Campylobacter coli; 配列番号10: Helicobacter pylori; 配列番号11: Sinorhizobium meliloti; 配列番号12: Vibrio cholerae O1 biovar eltor str. N16961; 配列番号13: Pseudomonas aeruginosa; 配列番号14: Proteus mirabilis; 配列番号15: Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi; 配列番号16: Bordetella pertussisTohama I; 配列番号17: Yersinia pestis CO92; 配列番号18: Escherichia coli; 配列番号19: Shigella flexneri; 配列番号20: Listeria innocua; 配列番号21: Bacillus cereus; 配列番号22: Burkholderia cepacia; 配列番号23: Borrelia burgdorferi; 配列番号24: Clostridium difficile。
【0027】
本発明のこの実施形態において鞭毛を使用する場合は、当該鞭毛は、スクリーニングされるべき治療薬に対応する疾患の原因となる細菌から単離されたものであることが好ましいが、それには限定されない。細菌から鞭毛を単離する方法は文献(J. General Microbiol. 134, 2171-2178, 1988)に従い行うことができる。Listeria monocytogenesをまず1liter trypticasa soy brothで20℃、24時間培養する。その培養液を8,000 rpm、4℃、10分間遠心し、上清を捨て、PBSで2回洗浄する。その沈澱物を5mlのPBSで再浮遊し、菌浮遊液とする。その菌浮遊液にガラスビーズ(直径5 mm)を15個入れ、1分間混和を5回行う。菌体を破砕後、破砕液を2 mlチューブに分注する。13,000 rpm、4℃で10分間遠心し、上清を回収する。遠心後の沈澱物を1ml PBSで再浮遊させ、先ほどの条件で遠心し、上清を回収する。再度、PBSにて再浮遊させ、遠心後、上清を回収する。回収した上清を13,000 rpm、4℃で40分間遠心する。遠心後、回収した上清を200,000 g、4℃で90分間遠心する。上清を除去し、その沈澱物をPBSで懸濁し鞭毛精製物とする。
【0028】
本発明のこの実施形態において鞭毛を有する細菌を使用する場合は、当該鞭毛を有する細菌は、スクリーニングされるべき治療薬に対応する疾患の原因となる細菌であることが好ましいが、それには限定されない。鞭毛を有する細菌の具体例は上述の通りである。
【0029】
本発明に係る、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング方法は、典型的には次の3つの工程を含む。
1) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌と、被検物質とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(A)を測定する、
2) RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌とを混合し、該混合物中における、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合量(B)を測定する、
3) 結合量(A)と結合量(B)との相違に基づき、該被検物質の、鞭毛を有する細菌に関連する疾患に対する治療薬としての効果を評価する。
【0030】
結合量(A)または(B)の測定方法は、RAGE ポリペプチドと、フラジェリン、細菌由来の鞭毛、または鞭毛を有する細菌との結合に伴う物理量の変化を検出することができる方法であればいずれの方法であってもよい。例えば、表面プラズモン共鳴センサーを用いる方法、イムノアッセイ、細胞膜上のRAGE ポリペプチドへのリガンド結合により生じるシグナル伝達を検出する方法(例えば実施例に示すNFκB-ルシフェラーゼアッセイ)など種々の方法が利用できる。
【0031】
この方法において、RAGE ポリペプチド、またはフラジェリン、細菌由来の鞭毛、もしくは鞭毛を有する細菌は、必要に応じて、固相担体に固定化された形態で用いることができる。このとき、使用できる固相担体とは、結合させる反応系で溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に制限されず、公知の固相担体が使用できる。固相担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すれば良く、例えば、テストプレート状、ビーズ状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。また、その材質としては、通常のイムノアッセイ用担体として用いられるもの、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、または、これらに公知の方法によりスルホン酸基、アミノ基などの反応性官能基を導入したもの、ガラス、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物等が例示できる。
【0032】
固相担体へのRAGE ポリペプチド等の固定化方法は、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用できる。
【0033】
イムノアッセイに用いる標識物質としては、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、補酵素、あるいはラジオアイソトープ等が挙げられる。なかでも、アルカリホスファターゼやパーオキシダーゼのような酵素標識は、安全性や経済性に優れ、しかも必要な感度を比較的容易に達成できる上で好ましい。標識物質は、RAGE ポリペプチドや、抗RAGE ポリペプチド抗体や、該抗体に対する二次抗体に直接結合して標識することができる。あるいは標識物質を認識する抗体やアビジン-ビオチン系などを利用して間接標識することもできる。
【0034】
本発明のこの形態において「被検物質」は特に限定されず、天然化合物であっても、合成化合物であっても、それらの混合物であってもよい。
【0035】
(鞭毛を有する細菌の検出方法)
本発明の第二の形態は、被検試料中の、鞭毛を有する細菌を検出する方法であって、RAGE ポリペプチドと被検試料とを接触させ、RAGE ポリペプチドと結合した細菌を鞭毛を有する細菌として検出する方法に関する。この方法は、例えば、食品試料中に、食中毒の原因となる大腸菌やサルモネラ菌などの鞭毛を有する細菌が含まれるか否かを定性的に判別したり、食品試料中の、鞭毛を有する細菌の存在量を定量的に測定したりする目的で使用できる。
【0036】
RAGE ポリペプチドと鞭毛を有する細菌との結合は、上記と同様にして測定できる。
本発明はまた、RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の検出用試薬に関する。
【0037】
当該試薬は、必要な他の試薬とともにキット化することもできる。例えばイムノアッセイ用の試薬キットの場合は、構成試薬として、例えばRAGE ポリペプチド、蛍光標識した抗RAGE ポリペプチド抗体などを含有する。RAGE ポリペプチドは予め固相担体に固定化されていてもよく、あるいは使用時に固相担体に固定化する形態であってもよい。この場合、試薬キットに、RAGE ポリペプチドを固定化するための固相担体が含まれていてもよい。また、凝集反応用の試薬キットの場合は、RAGE ポリペプチドを固定化した担体粒子を含有することができる。
【0038】
上記の構成試薬の他に、標準試料、緩衝液、溶解液、洗浄液、反応停止液、使用説明書などが含まれていてもよい。上記各構成試薬は、懸濁液、溶液、または凍結乾燥品の形態とすることができる。
【0039】
また、RAGE ポリペプチドは、それを高密度に貼り付けたプロテインチップ(プロテインアレイ)としてよく、このようなプロテインチップも本発明のキットに含まれる。この場合、キットには、質量分析計、測定・解析に必要なソフト、該ソフトを導入したコンピューターなどが含まれていてよい。
【0040】
(鞭毛を有する細菌の収集方法)
本発明の第三の形態は、試料中の、鞭毛を有する細菌を収集する方法であって、RAGE ポリペプチドと試料とを接触させ、該試料中の、鞭毛を有する細菌をRAGE ポリペプチドと結合させる工程を含む方法に関する。本方法は試料中の、鞭毛を有する細菌を単離または濃縮する目的で使用することができる。
【0041】
本発明のこの形態では、RAGE ポリペプチドは予め固相担体に固定化されていているか、あるいは使用時に固相担体に固定化する形態であることが好ましい。このとき、使用できる固相担体とは、結合させる反応系で溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に制限されず、公知の固相担体が使用できる。固相担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すれば良く、例えば、テストプレート状、ビーズ状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。また、その材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、または、これらに公知の方法によりスルホン酸基、アミノ基などの反応性官能基を導入したもの、ガラス、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物等が例示できる。固相担体へのRAGE ポリペプチド等の固定化方法は、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用できる。
【0042】
典型的な実施形態としては、例えばRAGE ポリペプチドを表面に固定化したビーズをカラムに充填し、充填後のカラムに鞭毛を有する細菌を含有する試料を流し、試料中の、鞭毛を有する細菌をビーズ上のポリペプチドに捕捉する方法が挙げられるがこれには限定されない。
【0043】
本発明はまた、RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌の収集用試薬に関する。
【0044】
当該試薬は、必要な他の試薬とともにキット化することもできる。当該試薬またはキットにおいて、RAGE ポリペプチドは予め固相担体に固定化されていているか、あるいは使用時に固相担体に固定化する形態であることが好ましいことは上記の通りである。試薬キットには、RAGE ポリペプチドを固定化するための固相担体が含まれていてもよい。
【0045】
上記の構成試薬の他に、標準試料、緩衝液、溶解液、洗浄液、反応停止液、使用説明書などが含まれていてもよい。上記各構成試薬は、懸濁液、溶液、または凍結乾燥品の形態とすることができる。
【0046】
また、RAGE ポリペプチドは、それを高密度に貼り付けたプロテインチップ(プロテインアレイ)としてよく、このようなプロテインチップも本発明のキットに含まれる。この場合、キットには、質量分析計、測定・解析に必要なソフト、該ソフトを導入したコンピューターなどが含まれていてよい。
【0047】
(鞭毛を有する細菌に関連する疾患の治療剤)
上述の通り、RAGE ポリペプチドと鞭毛を有する病原性細菌とが結合することにより、病原性細菌の運動量が低下し、マクロファージによる病原性細菌の処理が促進され、病原性細菌に起因する疾患状態が改善されるという一連の機構が推定される。よって、RAGE ポリペプチドを投与することにより、鞭毛を有する細菌に関連する疾患を治療できるものと考えられる。すなわち、本発明の第四の形態は、RAGE ポリペプチドを含有する、鞭毛を有する細菌に関連する疾患の治療剤に関する。ここで「鞭毛を有する細菌に関連する疾患」とは、鞭毛を有する細菌の感染により引き起こされる疾患を意味する。
【0048】
本発明のこの実施形態ではRAGE ポリペプチドは血中に可溶性のものであることが好ましく、例えばヒト等に由来する内在性分泌型RAGE(esRAGE)ポリペプチドが好ましい。
【0049】
投与形態は経口投与または非経口投与のいずれであってもよいが、急激なショック症状を迅速に緩和するためには非経口投与が好ましい。
【0050】
製剤形態への調製は、常法に従って行うことができ、その際に利用できる担体や賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、希釈剤も、慣用されている各種のものから適宜選択することができる。形態には、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、経鼻剤、経腸剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として製剤化される。
RAGE ポリペプチドの投与量は特に限定されないが、1日当たり0.1~10 mg/kg体重が好適といえる。
【実施例1】
【0051】
表面プラズモン共鳴センサーを用いたアッセイ1
方法
鞭毛を有する病原性細菌とヒトesRAGEとの結合を、表面プラズモン共鳴センサーであるビアコア (BIAcore 2000)を用いて直接検出した。
鞭毛を有する病原性細菌としては、感染実験でよく用いられるListeria monocytogenesを用いた。ヒトesRAGEは、CM5センサーチップ表面のカルボキシメチルデキストランにアミンカップリング法によって5,500 RU(110 fmol/mm2)固定した。ランニング緩衝液は10 mM HEPES (pH 7.4), 0.15 M NaCl, 3 mM Na-EDTA および0.005% surfactant P-20を使用し、25℃、流速20 mL/minでListeria monocytogenesをセンサーチップ表面に流した。ウサギIgGを固定化したセンサーチップを対照とした。
【0052】
結果
結果を図1に示す。Listeria monocytogenesの生菌は、固定化したesRAGE と結合し、センサーグラム上でRU値の上昇が観測された。
【実施例2】
【0053】
共焦点レーザー顕微鏡を用いた分析
方法
共焦点レーザー顕微鏡は 、Zeiss社のLSM5 PASCAL (LSM410)を使用し、解析にはLSM Image Browser(Zeiss社)を用いた。Listeria monocytogenesをPKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kits (Sigma)で生体染色し赤色とした。ヒトesRAGEタンパクをAlexa Flour488 Protein Labeling Kit (Sigma)でラベリングし緑色とした。Nalge Nunc Int.社製のLab-tek Chamber Slide (cover permanox slide sterile) 8穴プレートに、緑でラベルしたヒトesRAGEタンパクを107分子/ml、赤でラベルしたListeria monocytogenesが105 菌体/mlとなるように混和して15分後に観察した。
【0054】
結果
Listeria monocytogenesとヒトesRAGEタンパクの両者を混合し観察した結果、すべてのListeria monocytogenesにおいて菌体と少し離れて、しかし菌の動きに伴って移動するesRAGEタンパクシグナルを認めた(図2)。図3に示すとおり、Listeria monocytogenesは、菌体本体の周囲に鞭毛が存在する構造を有する。よって、esRAGEタンパクは鞭毛に付着しているものと考えられる。
【0055】
また、上記実験操作においてesRAGEタンパクを添加しない実験も行い、esRAGEタンパクを添加した場合と比較したところ、図4、5に示すようにListeria monocytogenes菌体の運動(単位時間あたりの移動距離)がesRAGEタンパクの添加によって抑制された。図4の上段は添加なしの場合で、赤で示される菌体は左から右に移動した。図4の下段はesRAGEタンパクを添加した場合を示し、赤と緑のシグナルが一体化し、移動距離が明らかに減少した。図4において同一の印が付された菌体は同一の菌体である。図4に示す顕微鏡像から定量的に菌体の運動速度を計算するとesRAGEタンパクの添加なしではこれまでの報告のように約10 um/secであったが、esRAGEタンパクの添加によって有意に低下した(図5)。このことからesRAGEは鞭毛による菌体の推進力を抑制し、運動能を低下させるものと考えられる。運動能は、Listeria monocytogenesの感染性と相関することから、esRAGEによるListeria monocytogenesの鞭毛への付着により、Listeria monocytogenesの感染性が低下すると言うことができる。
【実施例3】
【0056】
表面プラズモン共鳴センサーを用いたアッセイ2
方法
Listeria monocytogenesから鞭毛を精製し、esRAGEとの結合を表面プラズモン共鳴センサーであるビアコア (BIAcore 2000)を用いて直接検出した。
【0057】
Listeria monocytogenesの鞭毛は次の方法で精製した。Listeria monocytogenesをまず1liter trypticasa soy brothで20℃、24時間培養した。その培養液を8,000 rpm、4℃、10分間遠心し、上清を捨て、PBSで2回洗浄した。その沈澱物を5mlのPBSで再浮遊し、菌浮遊液とした。その菌浮遊液にガラスビーズ(直径5 mm)を15個入れ、1分間混和を5回行った。菌体を破砕後、破砕液を2 mlチューブに分注した。13,000 rpm、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。遠心後の沈澱物を1ml PBSで再浮遊させ、先ほどの条件で遠心し、上清を回収した。再度、PBSにて再浮遊させ、遠心後、上清を回収した。回収した上清を13,000 rpm、4℃で40分間遠心した。遠心後、回収した上清を200,000 g、4℃で90分間遠心した。上清を除去し、その沈澱物をPBSで懸濁し鞭毛精製物とした。
【0058】
鞭毛タンパクflagellinを精製して還元条件でSDS-PAGEにて展開、銀染色(Silver strain)を行ったところ、約29 kDaのシングルバンドが得られた(図6左図)。Anti-Listeria flagella serum (デンカ生研)を用いたウエスタンブロット(Western blot)では、同位置に一致したシグナルが検出された(図6右図)。つまり、高純度にflagellinタンパクが精製されたものと判断した。
【0059】
上記方法により得られたListeria monocytogenesの鞭毛を、CM5センサーチップ表面のカルボキシメチルデキストランにアミンカップリング法によって固定した。ランニング緩衝液は10 mM HEPES (pH 7.4), 0.15 M NaCl, 3 mM Na-EDTA 及び0.005% surfactant P-20を使用し、25℃、流速20 mL/minでヒトesRAGEタンパクをセンサーチップ表面に流した。ウサギIgGを固定化したセンサーチップを対照とした。インジェクションする試料中のヒトesRAGEタンパクの濃度は100, 200, 400μg/mlの3種類に設定した。
【0060】
結果
図7には、上から、esRAGEを400, 200, 100μg/mlの各濃度でインジェクションした場合の鞭毛との結合曲線(ビアコア法)を示す。結合解離定数KD=約10-8 Mであった。
【実施例4】
【0061】
細胞膜上の膜型RAGEとListeria monocytogenesとの結合アッセイ
方法
分泌型のesRAGEのみならず、細胞膜上に発現する全長型(膜型)RAGEにもListeria monocytogenesが結合するか検討した。
まずアフリカミドリザル腎由来培養細胞株COS7細胞を用いた。pCI-neo mammalian expression vector (Promega)にヒトRAGE cDNAを組み込んだ発現ベクターを作製し、ヒト全長型(膜型)RAGEをCOS7細胞に強制発現して樹立した安定細胞株と、その対照である空ベクターだけを発現して樹立した細胞株を用いて実験を行った。ヒト全長型(膜型)RAGEの発現はウエスタンブロット法にて確認した。Nalge Nunc Int.社製のLab-tek Chamber Slide (cover permanox slide sterile) 8穴プレートにそれぞれをコンフルエントになるように培養し、PKH26 (Sigma)で赤にラベリングしたListeria monocytogenesを104 菌数/mlとなるように添加、30分後、PBSで2回洗浄し、その後の培養細胞表面に結合している菌数を共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社、LSM5 PASCAL (LSM410))でカウントした。
【0062】
結果
RAGEを培養COS7細胞に強制発現した安定細胞株又はmock細胞株(対照細胞株)とListeria monocytogenesとを結合させ、Listeria monocytogenesを可視化して観察した場合の共焦点レーザー顕微鏡による像を図8に示す。各顕微鏡像の視野中に確認されたListeria monocytogenesの数を図9に示す。図8及び9に示されるとおりListeria monocytogenesは、RAGE発現COS7細胞株に有意に多く結合した。
【実施例5】
【0063】
NFκB-luciferaseアッセイ
方法
アッセイに用いたC6-RAGE-NFκB-luc 細胞は、C6 glioma にレポーターベクターpNF-κB-Luc(NFκB応答配列の下流にluciferase遺伝子を含む) とヒト由来膜結合型RAGE cDNA発現ベクターをTransIT-LT1(TaKaRa, リポソーム型導入試薬)を用いて同時に導入することで樹立した安定発現細胞株である。RAGEへのリガンド結合により、下流のシグナル伝達が起こりNFκBが活性化することは既に知られている。従って本系を用いれば、RAGEとリガンドとの相互作用をluciferase活性の上昇として検出することができる。樹立したクローン株を96穴プレートにてサブコンフルエントにまで培養し、RAGE siRNA(RAGEの発現を抑制)あるいはdominant negative RAGE(dn RAGE, 細胞内ドメインを欠失し細胞内シグナルを生じないもの)発現ベクターを導入(GenomeONE-neo)した。2日後コンフルエントの状態で、0.1%ウシ血清培地に置換し、精製flagellin 1 ug/ml、もしくはListeria monocytogenesの死菌(熱処理を加えたもの、106 菌数/well, 5 x 106 菌数/ml)で刺激した。刺激開始4時間後にLuciferase活性 (Luciferase activity) をDual-luciferase reporter assay system (Promega)を用いてluminometer (Fluoroscan Ascent FL, Labosystems)にて測定した。精製flagellinは、実施例3と同様な方法で得た。
【0064】
結果
結果を図10に示す。C6-RAGE-NFκB-luc細胞においては、ウエスタンブロッティング法により導入したRAGE遺伝子の過剰発現が認められた。またRAGE siRNAによるRNA干渉によってその発現は抑制された。dominant negative RAGE発現ベクターを導入した細胞においてその発現を確認した。luciferaseアッセイにおいて、無刺激の対照群(Control)と比較して精製flagellin 1 ug/mlで刺激した細胞においては顕著なluciferase活性の上昇が認められた(flagellin)。またこの活性上昇は、RAGE siRNAあるいはdominant negative RAGEによって部分的にではあるが、しかし有意に抑制した。flagellinが特異的にRAGEを介する作用によるものであると結論した(siRNA, dnRAGE)。これは分泌型RAGE 200 μg/mlの添加によってluciferase活性が有意に抑制されることからも確認できた(sRAGE 200 μg/ml)。sRAGEはマウスのRAGE cDNAの細胞外領域だけをvaculocirusを用いて昆虫細胞で発現させ、精製したものである。完全抑制されない原因としては、RAGE以外にもtoll-like receptor 5などの他のflagellinをリガンドとする受容体が存在し、NFkBシグナルを生じさせていることが考えられる。flagellin に代えて、Listeria monocytogenesの死菌(106 菌数/well, 5 x 106 菌数/ml)により刺激を行った場合にも同様な結果が得られた。
【実施例6】
【0065】
マウスマクロファージの細菌処理能力
方法
マウスの遺伝的背景がC57BL/6JのRAGE欠損マウス(-/-)とその対照の野生型マウス(+/+)から、腹腔マクロファージを回収した。具体的には、チオグリコレート培地をマウスの腹腔内に注入し、その3日後に浸潤してきたものを採取して使用した。
【0066】
Listeria monocytogenesをPKH2 Green Fluorescent Cell Linker Kits (Sigma)で緑に染色し、腹腔マクロファージをPKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kits (Sigma)で赤に染色した。Listeria monocytogenesと腹腔マクロファージをNalge Nunc Int.社製のLab-tek Chamber Slide (cover permanox slide sterile) 8穴プレートを用いて無血清培地(Macrophage-SFM medium, GIBCO社)中で混合培養し、その後時間を追って(60分、180分)培養物を共焦点レーザー顕微鏡にて観察し、マクロファージ細胞外のListeria monocytogenesの菌数を評価した。腹腔マクロファージ数は4.0 x 105 cells/wellであり、Listeria monocytogenes数は8.8 x 107 菌数/wellである。
【0067】
また、標識をしない腹腔マクロファージとListeria monocytogenesを6穴プレートを用いて、無血清培地(Macrophage-SFM medium, GIBCO社)中で混合培養し、その後、1時間、2時間後、マクロファージ細胞外のListeria monocytogenesをゲンタマイシン処理することによって殺菌し、マクロファージ細胞内に生きて残っているListeria monocytogenesのみをプレートでコロニーアッセイし、その菌数の違いを評価した。実際に使用した腹腔マクロファージ数は5 x 105 cells/wellであり、Listeria monocytogenes数は1.7 x 107cells/wellあるいは1.7 x 108 cells/wellである。
【0068】
結果
図11には、培養物を共焦点レーザー顕微鏡にて観察して得られた、顕微鏡の視野当たりの、マクロファージ細胞外のListeria monocytogenesの数を示す。図12には、マクロファージ細胞内に生き残っているListeria monocytogenesから得られたコロニー数を示す。
【0069】
マクロファージ細胞外のListeria monocytogenesの数は対照マウス由来マクロファージを用いた場合(+/+)の方が、RAGEノックアウトマウス由来マクロファージを用いた場合(-/-)に比べて有意に低かった。同様に、マクロファージ細胞内のListeria monocytogenesの数は、対照マウス由来マクロファージを用いた場合(+/+)の方が、RAGEノックアウトマウス由来マクロファージを用いた場合(-/-)よりも有意に低かった。これらの結果から、RAGEノックアウトマウスでは、マクロファージによるListeria monocytogenesの処理能力が低下すると判断した。
【実施例7】
【0070】
マウスを用いた感染実験
方法
RAGE欠損マウス (-/-)とその対照の野生型マウス(+/+)を用いて、Listeria monocytogenesを腹腔感染させた後の生存率 (survival rate) を検討した。マウスとしては、6-8週齢の雄性マウスで、遺伝的背景が異なるC57BL/6JとCD-1マウスの2種類を用いた。腹腔内にListeria monocytogenesを7.4 x 106/mouseとなるように投与、あるいは1.1 x 107/25 g BWとなるように投与し、その後300時間経過観察し、生存率の違いを比較した。
【0071】
結果
結果を図13及び図14に示す。C57BL/6JマウスとCD-1マウスのいずれについても、RAGE+/+野生型とRAGE-/-ノックアウトマウスとの比較では、RAGE+/+野生型マウスの方が有意に生存率が高かった。このことから、RAGEはListeria monocytogenesの感染に対し防御的に働いていると考えられた。
【実施例8】
【0072】
表面プラズモン共鳴センサーを用いたアッセイ3
方法
Pseudomonas aeruginosaから鞭毛を実施例3のListeria monocytogenesの場合と同様な手法で精製し、esRAGEとの結合を表面プラズモン共鳴センサーであるビアコア (BIAcore 2000)を用いて直接検出した。得られたPseudomonas aeruginosaの鞭毛を、CM5センサーチップ表面のカルボキシメチルデキストランにアミンカップリング法によって固定した。ランニング緩衝液は10 mM HEPES (pH 7.4), 0.15 M NaCl, 3 mM Na-EDTA 及び0.005% surfactant P-20を使用し、25℃、流速20 mL/minでヒトesRAGEタンパクをセンサーチップ表面に流した。ウサギIgGを固定化したセンサーチップを対照とした。インジェクションする試料中のヒトesRAGEタンパクの濃度は200, 400μg/mlの2種類に設定した。
【0073】
結果
結果を図15に示す。上から、esRAGEを400, 200μg/mlの各濃度でインジェクションした場合の鞭毛との結合曲線(ビアコア法)を示す。結合性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1はListeria monocytogenesの生菌体とesRAGEとの結合曲線(ビアコア法)を示す。
【図2】図2はListeria monocytogenesとヒトesRAGEタンパクの両者を混合し観察した結果を示す。図中、緑色はesRAGEを示し、赤色は菌体を示す。
【図3】図3はListeria monocytogenesの顕微鏡写真を示す。
【図4】図4はesRAGE の添加時(+esRAGE、下段)と無添加時(-、上段)の、各時点におけるListeria monocytogenes菌体の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す。図4中、白色のバーは20μmの長さを示す。
【図5】図5はesRAGE の添加時(+esRAGE、右)と無添加時(-、左)の、Listeria monocytogenes菌体の一秒当たりの運動量(μm/sec)を示す。
【図6】図6は実施例3で調製した鞭毛のタンパク質を精製してSDS-PAGE法を行った結果を示す。
【図7】図7は、上から、esRAGEを100, 200, 400μg/mlの各濃度でインジェクションした場合の鞭毛との結合曲線(ビアコア法)を示す。
【図8】図8は、RAGEを培養COS7細胞に強制発現した安定細胞株(下段)又はmock細胞株(上段)とListeria monocytogenesとを結合させ、Listeria monocytogenesを可視化して観察した場合の共焦点レーザー顕微鏡による像を図8に示す。図8中、白色のバーは20μmの長さを示す。
【図9】図9は、顕微鏡像の視野中に確認されたListeria monocytogenesの数を示す。
【図10】図10はルシフェラーゼ活性の結果を示す。
【図11】図11は、共焦点レーザー顕微鏡により観察された、視野当たりのListeria monocytogenesの数を示す。
【図12】図12は、マクロファージ細胞内に生き残っているListeria monocytogenesから得られたコロニー数を示す。
【図13】図13は、C57BL/6Jマウスに対するListeria monocytogenes感染実験による生存率を示す。
【図14】図14は、CD-1マウスに対するListeria monocytogenes感染実験による生存率を示す。
【図15】図15は、Pseudomonas aeruginosaの鞭毛とesRAGEとの結合曲線(ビアコア法)を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14