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明細書 :PTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-219467 (P2016-219467A)
公開日 平成28年12月22日(2016.12.22)
発明の名称または考案の名称 PTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子
国際特許分類 H01C   7/02        (2006.01)
FI H01C 7/02
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2015-099467 (P2015-099467)
出願日 平成27年5月14日(2015.5.14)
発明者または考案者 【氏名】石田 順彦
【氏名】小橋 眞
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100087723、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 修
【識別番号】100165962、【弁理士】、【氏名又は名称】一色 昭則
審査請求 未請求
テーマコード 5E034
Fターム 5E034AB01
5E034AC01
5E034AC11
5E034DA03
要約 【課題】 クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有する母相材料を有するとともに比較的低温で動作するとともに、必要な大きさの「PTC効果」を実現するPTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子を提供することである。
【解決手段】 PTCサーミスタ素子1は、PTCサーミスタ部材2と、電極3a、3bと、を有している。PTCサーミスタ部材2は、電気絶縁性の無機材料を含有する母相と、導電粒子と、を含有する。無機材料は、第1の元素群のうちの少なくとも1種類と第2の元素群のうちの少なくとも1種類とを含有する。第1の元素群は、Al、P、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Ce、もしくはこれらの酸化物を含む。第2の元素群は、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Ba、もしくはこれらの酸化物を含む。導電粒子は、金属、金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物のうちの少なくとも1種類を含む。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
電気絶縁性の無機材料を含有する母相と、
前記母相の全体に分散された導電粒子と、
を含有するPTCサーミスタ部材において、
前記無機材料は、
相転移温度で結晶構造が相転移するとともに体積変化するものであり、
クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有するとともに、
第1の元素群のうちの少なくとも1種類と第2の元素群のうちの少なくとも1種類とを含有し、
前記第1の元素群は、
Al、P、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Ce、もしくはこれらの酸化物を含み、
前記第2の元素群は、
Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Ba、もしくはこれらの酸化物を含み、
前記導電粒子は、
金属、金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物のうちの少なくとも1種類を含むこと
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項2】
請求項1に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記無機材料は、
第3の元素群として、GeもしくはGeの酸化物を含むこと
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記PTCサーミスタ部材の動作温度が、
200℃以下であること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記無機材料は、
クリストバライト型二酸化珪素と、トリジマイト型二酸化珪素と、クリストバライト型リン酸アルミニウムと、トリジマイト型リン酸アルミニウムと、のうち少なくとも1つ以上の材料を含有すること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記第1の元素群は、
前記無機材料中に0.1mol%以上20mol%以下の範囲内でドープされていること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
300℃における電気抵抗率が、
25℃における電気抵抗率の100倍以上であること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
25℃における電気抵抗率が、
1Ω・cm以下であること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記無機材料の前記相転移温度における体積膨張が、
0.5%以上1.9%以下の範囲内であること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記母相に占める前記導電粒子の体積分率は、
10%以上45%以下の範囲内であること
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材において、
前記導電粒子は、
金属珪化物、金属炭化物、金属窒化物、融点が2000℃以上の金属、のうちのいずれか1種類を含むこと
を特徴とするPTCサーミスタ部材。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のPTCサーミスタ部材と、
前記PTCサーミスタ部材と電気的に接続された第1電極および第2電極と、
を有すること
を特徴とするPTCサーミスタ素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、PTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子に関する。より詳細には、PTCヒーター、過電流保護素子、温度感知型電流抑制素子等に好適に用いられるPTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PTC(Positive Temperature Coefficient of resistance)材料は、特定の温度において急激に電気抵抗値が増加する性質を有する。そのため、例えばリチウムイオン二次電池の短絡電流を抑制する用途、モーターの過負荷電流を防止する用途の限流素子として利用されている。また、通電することで自発的に一定の温度を保持するヒーター材料として利用されている。
【0003】
PTCサーミスタ材料としては、特許文献1に示すように、所定の温度で電気的特性が変化するチタン酸バリウム系セラミックスが最もよく知られている。しかし、室温におけるチタン酸バリウム系セラミックスの電気抵抗率は高い。そのため通電による損失が大きい。また、仕様により鉛を添加する必要がある。そのため、地球環境面で問題がある。さらには、製造コストが高い。そこで、他のPTCサーミスタ材料が探索されてきている。
【0004】
その結果、ポリマーを母材とするとともに導電性物質を添加剤とする複合材料にPTC特性が見出された。ここで、PTC特性とは、特定の温度において急激に電気抵抗率が増加する定性的な特性のことである。例えば、特許文献2には、絶縁体であるポリエチレン等の結晶性ポリマーにカーボン等の導電粒子を混合した複合材料が開示されている。この複合材料では、特定の混合比においてポリマーマトリックス中に導電パスが形成される。そのため、導電粒子の増加にともなって、電気抵抗率が急激に減少する混合比が存在する。
【0005】
このような混合比で製造された複合材料では、ポリマーの熱膨張は導電粒子の熱膨張よりもはるかに大きい。そのため、この複合材料の温度を上昇させていくと、結晶性ポリマーが溶解する際にこの結晶性ポリマーが急激に膨張する。この膨張する結晶性ポリマーが、ポリマー中で導電パスを形成している導電粒子同士を引き離す。そのため、導電パスは切断されて電気抵抗率は急激に上昇する。これにより、PTC特性が発現する。
【0006】
一方、ポリマー等の有機材料を母材とする複合材料では、耐熱性が低い。そのため、150℃以上の高温に保持するヒーター用途では安定に動作しない。また、カーボンを導電粒子とするため比抵抗が1Ω・cm程度のものしか得られない。すなわち、用途が非常に限定される。
【0007】
そこで、クリストバライトもしくはトリジマイトに導電粒子を混合した複合材料が開発されてきている。クリストバライトおよびトリジマイトは、熱膨張率の高い無機材料である。特許文献3-5には、ポリマー等を母材とする複合材料に比べて1桁から2桁程度低い室温抵抗率を備える無機複合PTCサーミスタ部材が開示されている。この無機複合PTCサーミスタ部材では、ポリマーを用いたPTCサーミスタ部材に比べて耐熱性が優れている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】WO/2010/038770号
【特許文献2】特公昭62-50505号公報
【特許文献3】特開平9-180906号公報
【特許文献4】特開平10-261505号公報
【特許文献5】特開平10-261506号公報
【0009】

【非特許文献1】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社、PolySwitch Strap Battery Resettable Devices
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年急速に発展した携帯情報端末では、比較的出力電流の大きなリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そのため、過大放電や加熱からリチウムイオン二次電池を保護するニーズが急速に拡大している。このような用途のために、(1)安全使用限界温度である100℃前後という比較的低温で動作すること、(2)保持電流(定格電流)が数アンペア程度以上を実現できる低抵抗であること、(3)保持電流が外気温によって大きく変化しないこと、の条件を満たすPTCサーミスタ材料が要請されている。
【0011】
また、表面実装型の小型の保護素子が実用化される可能性がある。そして、その小型の保護素子は、電子回路基板の上に直接実装される場合がある。その場合には、その小型の保護素子は、140℃程度以下の温度で動作することが好ましい。これは、高分子製の電子回路基板の耐熱性からの要請である。
【0012】
これらのニーズに最も近い材料は、低温動作型のポリマーPTCサーミスタ素子である。しかし、このポリマーPTCサーミスタ素子では、母相が高分子材料であるため、母相は大きく熱膨張する。したがって、非特許文献1に示すように、外気温が40℃程度以上で比抵抗が増加し始めるという問題がある。つまり、保持電流が外気温によって大きく変化する。
【0013】
一方、クリストバライトまたはトリジマイトを母相とするPTC複合材料の熱膨張率は、ポリマーを母相とするPTC材料の熱膨張率の10%から30%程度である。そのためクリストバライト等を母相とするPTC複合材料では、保持電流が外気温によって大きく左右されない。また、クリストバライト等を母相とするPTC複合材料は、低抵抗である。つまり、上記の(2)、(3)の条件を満たす。しかし、クリストバライトまたはトリジマイトの相転移温度は、やや高い。例えば、クリストバライトの相転移温度は、230℃である。トリジマイトの相転移温度は、150℃である。したがって、上記の(1)の条件を十分に満たさない。また、トリジマイトはクリストバライトに比べて低い相転移温度を示すが、相転移に伴う熱膨張量がやや低い。そのため、PTC複合材料のPTC効果が比較的小さいという課題がある。
【0014】
クリストバライト型結晶構造もしくはトリジマイト型結晶構造を有する二酸化珪素やリン酸アルミニウムは、本来の高純度な結晶材料では相転移温度は決まっている。つまり、これらの材料は、上記のような低温で相転移を示さない。これらの材料の相転移温度を下げるために、これらの材料に含まれる原子の原子半径に近い原子半径を備えるイオンを添加する技術が知られている。例えば、二酸化珪素のSiの原子半径に近い原子半径を有するイオンが挙げられる。また、リン酸アルミニウムのAl、Pの原子半径に近い原子半径を有するイオンが挙げられる。しかし、これらの不純物イオンを添加した場合、その添加量が多いほど、これらの無機材料の相転移時における熱膨張量は小さい。つまり、PTC複合材料のPTC効果が小さい。したがって、「PTC効果」と、「動作温度の低温化」とは、トレードオフの関係にある。
【0015】
なお、本明細書において、「PTC効果」とは、室温における電気抵抗率に対する高温での相転移後の電気抵抗率の比のことをいうものとする。
【0016】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有する母相材料を有するとともに比較的低温で動作するとともに、必要な大きさの「PTC効果」を実現するPTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様におけるPTCサーミスタ部材は、電気絶縁性の無機材料を含有する母相と、母相の全体に分散された導電粒子と、を含有する。無機材料は、相転移温度で結晶構造が相転移するとともに体積変化するものである。また、無機材料は、クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有する。そして、無機材料は、第1の元素群のうちの少なくとも1種類と第2の元素群のうちの少なくとも1種類とを含有する。第1の元素群は、Al、P、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Ce、もしくはこれらの酸化物を含む。第2の元素群は、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Ba、もしくはこれらの酸化物を含む。導電粒子は、金属、金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物のうちの少なくとも1種類を含む。
【0018】
このPTCサーミスタ部材においては、無機材料が第1の元素群の元素と第2の元素群の元素とを含有する。クリストバライト型結晶構造もしくはトリジマイト型結晶構造を有する二酸化珪素等に第1群の元素を添加することにより、二酸化珪素等の無機材料の相転移温度は低下する。つまり、この無機材料の相転移温度は、これらの元素がドープされていない無機材料の相転移温度よりも低い。そのため、比較的低温で動作するPTCサーミスタ部材が実現されている。また、第2の元素群は、クリストバライト型結晶構造ないしトリジマイト型結晶構造を安定化させる効果を有する。そのため、無機材料の相転移温度が低下しても、この無機材料は十分な熱膨張量を備えている。また、導電粒子として、低抵抗材料である金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物、高融点金属を含むため、このPTCサーミスタ部材は、低抵抗である。そして、このPTCサーミスタ部材においては、保持電流が外気温によって大きく左右されない。
【0019】
このPTCサーミスタ部材は、比較的低温で動作するとともに、高いPTC効果を有している。そのため、このPTCサーミスタ部材について、高い定格電圧が必要となる用途の車載用電気機器、家電製品、情報機器などに内蔵される過電流抑制素子として好適に利用できる。また、PTCヒーター用素子として好適に利用できる。
【0020】
第2の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、無機材料は、第3の元素群として、GeもしくはGeの酸化物を含有する。第1の元素群および第2の元素群を無機材料に添加すると、無機材料の熱膨張量は低下する。第3の元素群は、この無機材料の熱膨張量の低下を抑制する。
【0021】
第3の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、PTCサーミスタ部材の動作温度が、200℃以下である。このPTCサーミスタ部材については、例えば、携帯情報端末のリチウムイオン二次電池の過電流保護素子として適用することができる。前述のように複数の元素の組み合わせと添加量を制御することにより、動作温度とPTC効果を制御することができる。つまり、用途に応じたPTCサーミスタ部材を提供することができる。
【0022】
第4の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、無機材料は、クリストバライト型二酸化珪素と、トリジマイト型二酸化珪素と、クリストバライト型リン酸アルミニウムと、トリジマイト型リン酸アルミニウムと、のうち少なくとも1つ以上の材料を含有する。
【0023】
第5の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、第1の元素群は、無機材料中に0.1mol%以上20mol%以下の範囲内でドープされている。
【0024】
第6の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、300℃における電気抵抗率が、25℃における電気抵抗率の100倍以上である。
【0025】
第7の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、25℃における電気抵抗率が、1Ω・cm以下である。
【0026】
第8の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、無機材料の相転移温度における体積膨張が、0.5%以上1.9%以下の範囲内である。
【0027】
第9の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、母相に占める導電粒子の体積分率は、10%以上45%以下の範囲内である。
【0028】
第10の態様におけるPTCサーミスタ部材においては、導電粒子は、金属珪化物、金属炭化物、金属窒化物、融点が2000℃以上の金属、のうちのいずれか1種類を含む。
【0029】
第11の態様におけるPTCサーミスタ素子は、上記のPTCサーミスタ部材と、PTCサーミスタ部材と電気的に接続された第1電極および第2電極と、を有する。
【発明の効果】
【0030】
本明細書では、クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有する母相材料を有するとともに比較的低温で動作するとともに、必要な大きさの「PTC効果」を実現するPTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態におけるPTCサーミスタ素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。以下の実施形態では、PTCサーミスタ部材およびPTCサーミスタ素子について説明する。以下の実施形態において、「PTC効果」とは、室温における電気抵抗率に対する高温での相転移後の電気抵抗率の比のことをいうものとする。具体的には、25℃における電気抵抗率に対する300℃における電気抵抗率の比である。また、「PTC動作温度」とは、PTC材料の比抵抗が最小値の10倍となる温度のことをいう。

【0033】
(第1の実施形態)
1.PTCサーミスタ素子
図1は、本実施形態のPTCサーミスタ部材を備えるPTCサーミスタ素子の概略構成を示す図である。PTCサーミスタ素子1は、無機材料を含有する無機複合PTCサーミスタ素子である。図1に示すように、PTCサーミスタ素子1は、PTCサーミスタ部材2と、電極3a、3bと、を有している。電極3a、3bは、PTCサーミスタ部材2の両側の面にそれぞれ形成されている。

【0034】
2.PTCサーミスタ部材
PTCサーミスタ部材2は、母相と、母相の全体に分散された導電粒子と、を含有する。母相は、電気絶縁性の無機材料を含有する。無機材料は、相転移温度で結晶構造が相転移するとともに体積変化するものである。

【0035】
PTCサーミスタ部材2の電気的特性および機械的特性は、原材料の条件や製造工程の条件に依存する。例えば、導電粒子の材質や平均粒子径、無機材料の材質や平均粒子径を変えることにより、異なる特性のPTCサーミスタ部材2が得られる。

【0036】
2-1.無機材料
無機材料は、粒子状の電気絶縁性の無機材料である。また、無機材料は、相転移温度で結晶構造が相転移するとともに体積変化するものである。つまり、無機材料は、低温型の結晶構造と高温型の結晶構造とを有している。そのため、PTCサーミスタ部材2の温度が上昇すると、相転移温度で低温型の結晶構造から高温型の結晶構造に相転移する。このように、母相は、熱膨張性を備えている。

【0037】
無機材料は、クリストバライト結晶構造またはトリジマイト結晶構造を有する。具体的には、無機材料は、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウム、のうち少なくとも1つ以上の材料を含有する。

【0038】
クリストバライト型二酸化珪素と、トリジマイト型二酸化珪素と、クリストバライト型リン酸アルミニウムと、トリジマイト型リン酸アルミニウムとについては、急激な熱膨張が起こる相転移温度が120℃以上250℃以下の範囲内にある。そのため、これらの材料は、PTCサーミスタ部材2の母相として好適である。

【0039】
これらの無機材料における相転移温度前後での熱膨張率は、0.5%以上1.6%以下の程度である。表1に示すように、クリストバライト型二酸化珪素の熱膨張率は、1.3%~1.6%である。トリジマイト型二酸化珪素の熱膨張率は、0.8%~1.1%である。クリストバライト型リン酸アルミニウムの熱膨張率は、0.6%~0.9%である。トリジマイト型リン酸アルミニウムの熱膨張率は、0.5%~0.8%である。なお、これらの無機材料では、高温での結晶構造における体積は、低温での結晶構造の体積よりも大きい。

【0040】
[表1]
無機材料 熱膨張率
クリストバライト型二酸化珪素 1.3%~1.6%
トリジマイト型二酸化珪素 0.8%~1.1%
クリストバライト型リン酸アルミニウム 0.6%~0.9%
トリジマイト型リン酸アルミニウム 0.5%~0.8%

【0041】
無機材料の平均粒子径は、1μm以上50μm以下であるとよい。平均粒子径の測定は「JIS Z 8827-1:2008 粒子径解析-画像解析法」に基づく。試料には対象の無機材料の研磨面試料を用い、研磨面の電子顕微鏡写真から対象粒子を抽出して「円相当径」を用いる。計測対象サンプリング数は「JIS Z 8827-1:2008 」中の表3に定義される最小サンプリング数を適用する。無機材料の平均粒子径が50μm以下の場合には、焼結温度を低く設定しても母相全体の焼結密度は高い。

【0042】
ここで、無機材料は、第1の元素群の元素と第2の元素群の元素とをドープされた粒子である。つまり、無機材料は、第1の元素群のうちの少なくとも1種類の元素と第2の元素群のうちの少なくとも1種類の元素とを含有する。第1の元素群は、Al、P、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Ce、もしくはこれらの酸化物を含む。第2の元素群は、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Ba、もしくはこれらの酸化物を含む。

【0043】
2-2.導電粒子
導電粒子は、母相に導電性を付与するためのものである。導電粒子は、導電性フィラーと呼ばれることもある。導電粒子として、比較的融点の高い金属である、鉄、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル等を用いることができる。また、導電粒子として、比較的融点の高いニッケル合金、ステンレス合金等の合金やNi3 Al等の金属間化合物を用いることもできる。また、導電粒子として、金属、金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属窒化物、を用いることもできる。ここで、金属を用いる場合には、その金属の融点は2000℃以上であるとよい。

【0044】
導電粒子の平均粒子径は、10μm以上60μm以下である。また、導電粒子の平均粒子径が10μm以上50μm以下であると、PTCサーミスタ部材2は、顕著なPTC効果と高い通電耐久性を示す。導電粒子の平均粒子径の測定方法は、無機材料の平均粒子径の測定方法と同じである。母相に占める導電粒子の体積分率は、10%以上45%以下の範囲内であるとよい。また、母相に占める導電粒子の体積分率は、15%以上30%以下の範囲内であるとなおよい。なお、導電粒子の平均粒子径や母相に占める体積分率により、PTCサーミスタ部材2の内部における導電パスの様相が変わる。

【0045】
3.PTCサーミスタ部材の特性
3-1.PTCサーミスタ部材のPTC動作温度およびPTC効果
本実施形態のPTCサーミスタ部材2は、相転移温度で結晶構造が相転移する無機材料を含有している。無機材料は、熱膨張により、導電粒子を引き離す役割を担っている。この熱膨張により、導電粒子が形成する導電パスのうちの大部分が切断される。そのため、高いPTC効果が発揮される。

【0046】
また、熱膨張量の大きなクリストバライト型SiO2 やトリジマイト型SiO2 の高純度結晶材料を母相に用いるとともに、適切な粒径の導電粒子を用いることにより、PTC効果の高いPTCサーミスタ部材2が得られる。相転移温度以上の温度におけるPTCサーミスタ部材2の電気抵抗率は、室温でのPTCサーミスタ部材2の電気抵抗率に比べて100倍以上大きい。PTCサーミスタ部材2のうちには、1万倍から100万倍程度と高いPTC効果を示すとともに、通電耐久性も備えているものもある。

【0047】
また、本実施形態で用いる無機材料は、PTCサーミスタ部材の母材として好適である。無機材料の融点あるいは分解温度は全て1000℃以上と高い。また、無機材料は、有機材料であるポリマーに比して耐熱性に優れ、長時間高温にさらされた場合でも母材の溶融等による変化がない。

【0048】
高純度のクリストバライト型SiO2 やトリジマイト型SiO2 の結晶材料は、大きな熱膨張性を有している。そのため、これらの材料を用いると、そのPTCサーミスタ部材2のPTC効果は大きい。本実施形態では、無機材料に第1の元素群および第2の元素群の元素がドープされている。そのため、このPTCサーミスタ部材2では、通常のクリストバライト型二酸化珪素等に比べて相転移温度が低く、かつ、PTC効果は大きい。

【0049】
また、導電粒子の条件を設定することにより、PTCサーミスタ部材2の電気抵抗率を0.005Ωcmから1000Ωcmまでの範囲内で調整することができる。例えば、導電粒子の体積分率を増やせば電気抵抗率は小さくなる。そして、このようなPTCサーミスタ部材2のうち、電気抵抗率の小さいものは、過電流保護素子として好適である。一方、電気抵抗率の大きいものは、PTCヒーターに好適である。

【0050】
3-2.低温動作および低抵抗および外気温の影響
また、このPTCサーミスタ素子1は、(1)安全使用限界温度である100℃に近い比較的低温で動作すること、(2)保持電流(定格電流)が数アンペア程度の低抵抗であること、(3)保持電流が外気温によって大きく変化しないこと、という条件を満たす。

【0051】
本実施形態のPTCサーミスタ部材2の母相は、(3)の条件を満たすクリストバライトもしくはトリジマイトである。また、導電粒子の混合比を調整することにより、(2)を満たす。そして、無機材料に第1の元素群の元素と第2の元素群の元素とをドープしているため、(1)の条件のように低温で動作させることができる。具体的には、本実施形態のPTCサーミスタ部材2の動作温度(PTC動作温度)は200℃以下である。

【0052】
4.原材料の調製方法
4-1.無機材料の調製方法
無機材料のうち工業原料として販売されているものについてはそのまま利用すればよい。例えば、クリストバライト型二酸化珪素は、コート紙のコーティング材等として用いられている。また、クリストバライト型リン酸アルミニウムおよびトリジマイト型リン酸アルミニウムは、鋼板の化成処理剤として広く工業的に生産されている。これらの原材料のうち粒度が大きいものは湿式ポットミル粉砕などの方法により粉砕すればよい。

【0053】
クリストバライト型二酸化珪素およびトリジマイト型二酸化珪素は、出発原料に石英(SiO2 )粉末を用いるとともに、結晶系を安定化させるアルカリ金属やアルカリ土類金属の存在下では比較的低温の仮焼により得ることができる。または、石英を原料として用いるとともに、結晶系の安定化剤としてアルカリ金属やアルカリ土類金属を添加して、例えば成形後の焼成工程などの工程中に石英をクリストバライト型二酸化珪素またはトリジマイト型二酸化珪素に変換してもよい。

【0054】
このようにして得られた無機材料のうち、平均粒子径の好適なものについては、そのまま用いればよい。また、平均粒子径の大きな無機材料については、その粉末を湿式ポットミルで粉砕する。これにより、例えば、平均粒子径が1μm以上50μm以下の粉末が得られる。

【0055】
4-2.導電粒子の調製方法
導電粒子は、工業原料として入手できるものは所定の粒度に篩分級する。また、新たに合成した導電粒子については粉砕後に分級して用いる。

【0056】
5.無機材料への元素のドープ法
本実施形態では、上記のように調製した無機材料に第1の元素の化合物および第2の元素の化合物を添加する。第1の元素の化合物は、酸化物微粉末または水溶性の塩である。酸化物粉末として、例えば、Al2 3 が挙げられる。また、水溶性の塩として、Li2 CO3 が挙げられる(表2等参照)。また、これ以外の炭酸塩、炭酸水素塩、シュウ酸塩、酢酸塩等を用いてもよい。そして、純水を適切な量加えて湿式混合した後に乾燥させる。

【0057】
第1の元素群の化合物および第2の元素群の化合物を酸化物微粉末として添加する場合には、これらを900℃以上1600℃以下の温度で大気中で仮焼する。添加物として元素の水溶性塩を用いる場合には、該当する塩が熱分解と酸化が起きる温度で熱処理した後に、900℃以上1600℃以下の温度で大気中で仮焼する。この仮焼の段階で、添加した化合物のうち一部または全てが、最終的には、母相材料と固相反応する。そして、均一なクリストバライト結晶構造ないしトリジマイト結晶構造を主体とする結晶構造が得られる。このようにして、粉末状の母相原料を得ることができる。

【0058】
または、上記のように調製した無機材料にゾル・ゲル法として知られている例えば所定金属元素のアルコキシド溶液を所定量加えて、湿式混合する。そして、加水分解および縮重合反応によりコロイド溶液と無機材料粉末の混合物を調製する。そしてそれを乾燥させる。その後に、該当するアルコキシド等が熱分解する温度で熱処理した後に、900℃以上1600℃以下の温度で仮焼することで粉末原料を得ることができる。

【0059】
あるいは、所定の元素を含む酸化物粉末を1μm以下の微細な粒子にしたものを乾式や湿式で混合する。その後に、900℃以上1350℃以下の温度で仮焼することで粉末原料を得ることができる。

【0060】
元素をドープする順番は、第1群の元素を先にドープしてもよいし、第2群の元素を先にドープしてもよい。また、出発原料の性質で双方を同時に混ぜることによる凝集が起こらなければ、同時にドープしてもよい。そして、無機材料の調製の過程で、ドープする元素を含む無機材料との化学反応などにより凝集や揮発等が起こらない場合には、無機材料の調製とドープの工程を同時に行ってもよい。

【0061】
第2群の元素は、クリストバライト型結晶構造もしくはトリジマイト型結晶構造を安定化させる働きを担う。そのため、ドープする順序に係わらず、添加量と仮焼温度を適切に選択することにより、クリストバライト型結晶構造もしくはトリジマイト型結晶構造の生成割合を調整できる。

【0062】
6.PTCサーミスタ素子の製造方法
以下、本実施形態のPTCサーミスタ素子1の製造方法について説明する。

【0063】
6-1.原材料の調製工程
上記に示した方法により、無機材料と、導電粒子と、を調製する。また、無機材料に、前述のように第1の元素群の元素および第2の元素群の元素をドープする。これにより、平均粒子径等の好適な原材料が得られる。

【0064】
6-2.混合工程
次に、無機材料と導電粒子とを混合する。そこで、無機材料と導電粒子とをそれぞれ所定の割合で計量する。そして、これらの原材料にバインダーを乾式混合もしくは湿式混合することにより、混合物が得られる。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、あるいはセルロース系の材料などが挙げられる。

【0065】
また、成形助剤として粘土粉末を乾式または湿式で混合してもよい。また、焼結助剤としてガラス粉末や、無機材料と反応して液相を形成する材料を加えてもよい。なお、粘土粉末は焼結助剤としても機能する。

【0066】
6-3.成形工程
次に、この混合物を成形する。そのために、上記の混合物を乾式プレス成形することにより成形体を得る。もしくは、成形用のバインダーを添加して湿式押出成形することにより成形体を得る。

【0067】
6-4.焼結工程
次に、成形体を焼結する。そのために、成形体を水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性ガス気流中で導電粒子が酸化しない条件で焼結する。焼結における処理温度は、例えば、1000℃以上1500℃以下の範囲内である。もちろん、上記以外の温度範囲であってもよい。ただし、処理温度は、出発原料の無機材料と添加する元素の組み合わせで決まる状態図において、所定の結晶相が安定となる温度領域であることが好ましい。また、焼結における圧力は大気圧である。この焼結工程により、緻密な焼結体が得られる。昇温速度や降温速度を調整することで結晶相の量や結晶度を調整し、これによりPTC効果の大きさを調製することもできる。

【0068】
6-5.電極形成工程
そして、PTCサーミスタ部材2に電極3a、3bを焼き付ける。これにより、PTCサーミスタ素子1が製造される。

【0069】
6-6.製造条件とPTCサーミスタ部材の特性との関係
本実施形態においては、焼結したPTC材料の相対密度を95%以上に緻密化することが好ましい。そのためには、無機材料の平均粒子径を小さくするとよい。また、無機材料に合わせた焼結助剤の材質および粒度を選定し、焼結条件を設定する。これにより、相対密度を95%以上にすることができる。相対密度が95%未満の場合には欠陥やクラックが比較的多く内在していることがある。そのため、通電動作の繰り返しによりこれらを基点に破壊が進行し、通電耐久性が損なわれることがある。

【0070】
PTC効果の大きいPTCサーミスタ部材2を製造するためには、次の事項が重要である。つまり、母相の熱膨張率の大きいものを選定するとともに、導電粒子の平均粒子径の大きいものを選定する。表1に示す無機材料では、相転移点における熱膨張の変化率が無機材料としては非常に大きい。そのため、無機材料の熱膨張を阻害しないようにするとよい。

【0071】
母相全体の熱膨張率を小さくするためには、第2群の元素の添加量を減少させる方法、無機材料の粒径を小さくする方法、膨張量の小さいガラス相を導入する方法、焼成温度を高温にして無機材料の結晶構造を一部他の相に変換する方法、等を用いればよい。

【0072】
逆に、母相の熱膨張率を大きくするためには、第2群の元素の添加量を増加させる方法、第3群の元素を添加する方法、無機材料の粒径を大きくする方法、等を用いればよい。焼成を酸素分圧の低い水素気流中で行うことも、無機材料の熱膨張を上げることに効果がある。導電粒子の粒径を大きくすると、母相が膨張する際に導電粒子の連結ネットワークが切断される確率が上昇する。したがって、平均粒子径の大きな導電粒子を用いることが、そのまま「PTC効果」の向上につながる。

【0073】
また、以上の製造方法により得られたPTCサーミスタ部材2を構成する母相は、第1の元素群の元素および第2の元素群の元素とを含有させた状態では、クリストバライト結晶構造もしくはトリジマイト結晶構造を主体とする結晶構造になっている。原料として添加した元素の化合物の結晶は熱膨張特性には影響しない。第3の元素群の元素についても、同様である。

【0074】
7.2種類の元素のドーピングの効果
本実施形態では、無機材料に第1の元素群の元素と第2の元素群の元素とをドープする。ここで、第1の元素群の元素のみを無機材料にドープした場合について説明する。その場合には、第1の元素群が遷移金属元素である場合は、焼結の際に還元雰囲気で還元される。そして、還元により遷移元素の価数が変化し、大気中で結晶相転移温度の低温化を実現していた効果をほとんど失う。遷移金属元素で無い場合でもクリストバライト型の結晶構造、トリジマイト型の結晶構造が不安定化するため、低温化効果は大きくない。また、第1の元素群のみの添加では無機材料の熱膨張効果がある程度失われることがある。

【0075】
そこで、第1の元素群に加えて、第2の元素群を無機材料にドープする。第2の元素群の元素は、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Ba、もしくはこれらの酸化物を含む。これらの元素の陽イオンは、クリストバライト型の結晶構造、トリジマイト型の結晶構造を安定化させる効果を有する。そして、第2の元素群の元素は、第1群の元素の添加による相転移温度の低温化を促進する効果を有する。さらに、無機材料の熱膨張量の減少を抑制することができる。

【0076】
本発明者らは、この理由を次のように考えた。第1の元素群の元素のイオン半径は、母相材料の結晶構造を構成する骨格となるSi、Al-Pのイオン半径と近い。そのため、第1の元素群の元素は母相の骨格構造の一部を置換して結晶構造を変形させる。これにより、母相の相転移温度は低温化すると考えられる。

【0077】
第1の元素群の元素が遷移金属元素である場合には、還元雰囲気での熱処理によりイオンが還元される。これにより、遷移金属元素のイオン半径が変化する。そのため、第1の元素群の元素は、結晶の骨格中に留まることができず、元のSiイオンの位置から外れる。そして、結晶の骨格構造が元に戻ってしまう。よって、相転移温度の低温化効果が失われる。

【0078】
ここで、第2の元素群の陽イオンを添加すると、何らかの理由で元の骨格構造が安定化されると考えられる。そのため、第1の元素群の元素の添加効果が失われない。また、骨格構造が安定化されることにより熱膨張量の減少も防止される。

【0079】
8.変形例
8-1.成形工程
成形工程において、湿式押出成形の際に、シート状の成形体に圧縮ねじりを加える方法を適用してもよい。また、この成形体に対して、さらに等方加圧を行ってもよい。さらに密度の高い成形体を得ることができる。

【0080】
8-2.焼結工程
焼結工程では、同様の非酸化性ガス気流中で、所定の荷重をかけながら高温下で保持するホットプレスを施してもよい。これにより、より高密度の焼結体を得ることができる。この焼結体に対し、乾燥後にさらに等方加圧成形を行い密度の高い焼結体を得ることもできる。そして、ホットプレス法での焼成時に圧縮と同時にねじりを加える圧縮ねじり法を用いてもよい。また、成形体の乾燥後に必要に応じて有機バインダーを300℃程度の温度で分解する脱バインダー工程を加えてもよい。

【0081】
8-3.原材料の調製方法
本実施形態では、無機材料を調製済みの状態で混合するとともに、高温で焼結する。しかし、焼結工程の最中に、最終的に無機材料が母相中に生成するようにしてもよい。

【0082】
9.本実施形態のまとめ
本実施形態のPTCサーミスタ素子1は、PTCサーミスタ部材2と、電極3a、3bと、を有している。PTCサーミスタ部材2は、無機材料から成る母相と、母相に分散された導電粒子と、を有している。母相の無機材料は、クリストバライト等の熱膨張性の材料に、第1の元素群の元素と第2の元素群の元素とをドープしたものである。そのため、PTCサーミスタ部材2の相転移温度は、通常のクリストバライトもしくは通常のトリジマイトの相転移温度よりも低い。これにより、比較的低温で動作するPTCサーミスタ部材2およびPTCサーミスタ素子1が実現されている。

【0083】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、無機材料に第1の元素群および第2の元素群に加えて第3の元素群を添加する。

【0084】
1.第3の元素群
本実施形態では、無機材料に第1の元素群および第2の元素群に加えて第3の元素群を添加する。第3の元素群は、Geである。つまり、無機材料は、第1の元素群の元素と、第2の元素群の元素と、第3の元素群のGeもしくはGeの酸化物を含有する。

【0085】
2.第3の元素群の効果
前述したように、第1の元素群および第2の元素群の元素をクリストバライト型結晶構造もしくはトリジマイト型結晶構造の無機材料にドープすると、相転移温度が低下する。それとともに、無機材料の熱膨張量も減少する。これにより、PTCサーミスタ部材2のPTC効果は減少する。

【0086】
ここで、第3の元素群としてGeを無機材料にドーピングすると、無機材料の熱膨張量の減少は抑制される。つまり、第2の実施形態のPTCサーミスタ部材2のPTC効果は、第1の実施形態のPTCサーミスタ部材2のPTC効果よりも高い。
【実施例】
【0087】
(A)実験1
ここで、実験1について説明する。この実験では、母相材料のみからなる試験体を合成した。つまり、PTCサーミスタ部材を製造したわけではない。この実験では、母相材料のみからなる試験体を合成した。そのため、この試験体は、導電粒子を含まない。そして、この試験体の熱膨張特性を評価した。この試験体の熱膨張特性から、実際のPTCサーミスタ部材における相転移温度の低温化と、総熱膨張率の値と、を評価することができる。
【実施例】
【0088】
1.試験体の作製
まず、無機材料から試験体を作製した。ここで、無機材料として、クリストバライト型二酸化珪素と、トリジマイト型二酸化珪素と、クリストバライト型リン酸アルミニウムと、を用いた。これらの無機材料に、第1の元素群および第2の元素群および第3の元素群の酸化物微粉末もしくは水溶性の塩を混合して湿式粉砕した。そして、粉砕した無機材料を1400℃で8時間かけて仮焼した。この後、これらの無機材料を再度粉砕して母相の原料とした。
【実施例】
【0089】
このようにして種々の元素を添加した母相材料粉末を得た。この母相材料粉末を棒状にプレス成型した。そしてプレス成型した成型体をPTC複合材料と同様の還元雰囲気中で焼成した。試験体の寸法は、5mm×5mm×20mmであった。
【実施例】
【0090】
2.評価方法
本実験では、試験体の相転移温度および総熱膨張量について測定した。ここで、試験体(母相材料)の相転移温度は、80℃程度以上、かつ、低いほうが好ましい。また、総熱膨張量が大きいほど、PTCサーミスタ部材としたときにPTC効果が高いと考えられる。
【実施例】
【0091】
3.実験結果
表2に実施例1.1-1.47を示す。実施例1.1-1.47では、第1の元素群の元素および第2の元素群の元素をクリストバライト型二酸化珪素に添加した。第1の元素群の元素および第2の元素群の元素の添加量は、いずれも5.0mol%である。
【実施例】
【0092】
例えば、実施例1.1では、無機材料は、クリストバライト型二酸化珪素である。第1の元素群の元素は、Alである。実際には、Al2 3 の状態で無機材料に添加した。第2の元素群の元素は、Caである。実際には、Ca(HCO3 2 の状態で無機材料に添加した。
【実施例】
【0093】
表2に示すように、実施例1.1-1.47では、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、101℃以上167℃以下の範囲内である。また、実施例1.1-1.47では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、130℃以上189℃以下の範囲内である。また、実施例1.1-1.47では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は0.8%以上1.8%以下の範囲内である。
【実施例】
【0094】
クリストバライト型二酸化珪素の相転移温度は230℃程度である。したがって、第1の元素群の元素および第2の元素群の元素を添加することにより、PTCサーミスタ部材(試験体)の動作温度は十分に低くなった。なお、これらの元素を添加しない場合には、そのPTCサーミスタ部材の動作温度は、230℃程度である。
【実施例】
【0095】
【表2】
JP2016219467A_000003t.gif
【実施例】
【0096】
表3に示すように、実施例2.1-2.13では、第1の元素群および第2の元素群に加えて第3の元素群を無機材料に添加した。第3の元素群はGeである。第1の元素群の元素および第2の元素群の元素および第3の元素群の元素の添加量は、いずれも5.0mol%である。
【実施例】
【0097】
表3に示すように、実施例2.1-2.13では、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、101℃以上151℃以下の範囲内である。また、実施例2.1-2.13では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、130℃以上175℃以下の範囲内である。また、実施例2.1-2.13では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は1.3%以上1.9%以下の範囲内である。
【実施例】
【0098】
このように、第3の元素群としてGeを添加したほうが、相転移温度のばらつきは小さくなる。また、第3の元素群としてGeを添加することにより、膨張率は大きくなる傾向にある。
【実施例】
【0099】
【表3】
JP2016219467A_000004t.gif
【実施例】
【0100】
表4に示すように、比較例1.1-1.9では、第1の元素群のみを無機材料に添加した。第1の元素群の元素の添加量は、いずれも5.0mol%である。
【実施例】
【0101】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、201℃以上240℃以下の範囲内である。また、比較例1.1-1.9では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、238℃以上276℃以下の範囲内である。また、比較例1.1-1.9では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は1.5%以上1.8%以下の範囲内である。
【実施例】
【0102】
このように、比較例1.1-1.9では、動作温度が200℃以上と高い。これは、第2の元素群の元素を無機材料に添加しなかったためであると考えられる。
【実施例】
【0103】
【表4】
JP2016219467A_000005t.gif
【実施例】
【0104】
表5に示すように、比較例2.1-2.9では、第1の元素群および第3の元素群を無機材料に添加した。第3の元素群はGeである。第1の元素群の元素および第3の元素群の元素の添加量は、いずれも5.0mol%である。
【実施例】
【0105】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、201℃以上240℃以下の範囲内である。また、比較例2.1-2.9では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、238℃以上276℃以下の範囲内である。また、比較例2.1-2.9では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は1.4%以上1.7%以下の範囲内である。
【実施例】
【0106】
このように、比較例2.1-2.9では、動作温度が200℃以上と高い。これは、第2の元素群の元素を無機材料に添加しなかったためであると考えられる。
【実施例】
【0107】
【表5】
JP2016219467A_000006t.gif
【実施例】
【0108】
表6に示すように、実施例3.1-3.18では、第1の元素群および第2の元素群を無機材料に添加した。第2の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第1の元素群の元素の添加量は、0.1mol%から25mol%まで変化させた。
【実施例】
【0109】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、122℃以上199℃以下の範囲内である。また、実施例3.1-3.18では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、148℃以上218℃以下の範囲内である。また、実施例3.1-3.18では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は0.5%以上1.7%以下の範囲内である。
【実施例】
【0110】
このように、第1の元素群の元素を2mol%以上5mol%以下の範囲内で添加すると、PTCサーミスタ部材の動作温度は好適に低下する。第1の元素群の元素を15mol%以上添加すると、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、190℃以上となる。第1の元素群の元素を20mol%以上添加すると、300℃での熱膨張率は0.7%以下となる。
【実施例】
【0111】
したがって、第1の元素群の元素を添加する添加量は、無機材料に対して、0.1mol%以上20mol%以下であるとよい。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、198℃以下である。好ましくは、1mol%以上7mol%以下の範囲内である。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、155℃以下である。より好ましくは、2mol%以上5mol%以下の範囲内である。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、131℃以下である。
【実施例】
【0112】
【表6】
JP2016219467A_000007t.gif
【実施例】
【0113】
表7に示すように、実施例4.1-4.14では、第1の元素群および第2の元素群を無機材料に添加した。第1の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第2の元素群の元素の添加量は、0.5mol%から25mol%まで変化させた。
【実施例】
【0114】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、122℃以上180℃以下の範囲内である。また、実施例4.1-4.14では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、148℃以上199℃以下の範囲内である。また、実施例4.1-4.14では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は0.5%以上1.3%以下の範囲内である。
【実施例】
【0115】
このように、第2の元素群の元素を無機材料に対して2mol%以上5mol%以下の範囲内で添加すると、PTCサーミスタ部材の動作温度は好適に低下する。第2の元素群の元素を15mol%以上添加すると、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、170℃以上となる。第2の元素群の元素を20mol%以上添加すると、300℃での熱膨張率は0.7%以下となる。
【実施例】
【0116】
したがって、第1の元素群の元素を添加する添加量は、0.5mol%以上20mol%以下であるとよい。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、180℃以下である。好ましくは、1mol%以上5mol%以下の範囲内である。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、144℃以下である。より好ましくは、2mol%以上5mol%以下の範囲内である。このとき、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、135℃以下である。
【実施例】
【0117】
【表7】
JP2016219467A_000008t.gif
【実施例】
【0118】
表8に示すように、実施例5.1-5.6では、クリストバライト型二酸化珪素ではなく、トリジマイト型二酸化珪素に第1の元素群および第2の元素群を添加した。第1の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第2の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。
【実施例】
【0119】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、78℃以上117℃以下である。また、実施例5.1-5.6では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、107℃以上144℃以下である。また、実施例5.1-5.6では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は0.7%以上0.8%以下である。
【実施例】
【0120】
このように、トリジマイト型二酸化珪素を母相に用いても、母相の相転移温度は、降下する。また、膨張率もある程度の数値を維持している。
【実施例】
【0121】
【表8】
JP2016219467A_000009t.gif
【実施例】
【0122】
表9に示すように、実施例6.1-6.6では、クリストバライト型二酸化珪素ではなく、クリストバライト型リン酸アルミニウムに第1の元素群および第2の元素群を添加した。第1の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第2の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。
【実施例】
【0123】
この場合には、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、95℃以上134℃以下である。また、実施例6.1-6.6では、膨張率が300℃の膨張率の50%となる温度は、117℃以上154℃以下である。また、実施例6.1-6.6では、室温(25℃)の体積を基準とした300℃での熱膨張率は0.9%以上1.1%以下である。
【実施例】
【0124】
このように、クリストバライト型リン酸アルミニウムを母相に用いても、母相の相転移温度は、降下する。また、膨張率もある程度の数値を維持している。無機材料の相転移温度における体積膨張は、0.5%以上1.9%以下の範囲内である。好ましくは、0.8%以上1.9%以下である。より好ましくは、1.2%以上1.9%以下である。
【実施例】
【0125】
本実験では、トリジマイト型リン酸アルミニウムを母相に用いた実験結果を掲載していない。しかし、同様の結果が得られると考えられる。
【実施例】
【0126】
【表9】
JP2016219467A_000010t.gif
【実施例】
【0127】
(B)実験2
ここで、実験2について説明する。この実験では、PTCサーミスタ部材を実際に作製した。
【実施例】
【0128】
1.試験体の作製
まず、無機材料から試験体を作製した。ここで、無機材料として、クリストバライト型二酸化珪素を用いた。これらの無機材料に、第1の元素群および第2の元素群および第3の元素群の酸化物微粉末もしくは水溶性の塩を混合して湿式粉砕した。そして、粉砕した無機材料を1400℃で8時間かけて仮焼した。この後、これらの無機材料を再度粉砕して母相の原料とした。
【実施例】
【0129】
このようにして種々の元素を添加した母相材料粉末を得た。この母相材料粉末に導電粒子を混合し、その混合したものを棒状にプレス成型した。導電粒子は、MoSi2 であった。導電粒子の平均粒子径は、45μmであった。導電粒子の体積分率は、23体積%であった。そしてプレス成型した成型体をPTC複合材料と同様の還元雰囲気中で焼成した。試験体の寸法は、5mm×5mm×2mmであった。
【実施例】
【0130】
2.評価方法
本実験では、試験体の相転移温度および総熱膨張量について測定した。ここで、試験体(母相材料)の相転移温度は、80℃程度以上、かつ、低いほうが好ましい。また、総熱膨張量が大きいほど、PTCサーミスタ部材としたときにPTC効果が高いと考えられる。
【実施例】
【0131】
3.実験結果
表10に示すように、実施例7.1-7.5では、第1の元素群および第2の元素群を無機材料に添加した。実施例7.6-7.8では、第1の元素群および第2の元素群および第3の元素群を無機材料に添加した。第1の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第2の元素群の元素の添加量は、5.0mol%である。第3の元素群の元素の添加量は、1.0mol%である。
【実施例】
【0132】
表10に示すように、膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度と、PTC動作温度と、はほぼ同じである。PTC動作温度は、前述したように、PTC材料の比抵抗が最小値の10倍となる温度である。したがって、表2から表9までに示した膨張率が300℃の膨張率の28%となる温度は、PTC動作温度と読み替えることができる。
【実施例】
【0133】
表10に示すように、実施例7.1-7.8では、PTC動作温度は112℃以上149℃以下である。このように、実施例7.1-7.8では、PTC動作温度は十分に低い。
【実施例】
【0134】
表10に示すように、実施例7.1-7.5では、PTC効果は、5800倍から12000倍である。また、実施例7.6-7.8では、PTC効果は、58000倍から170000倍である。このように、第3の元素群の元素を添加することにより、PTC効果の高いPTCサーミスタ部材が得られる。
【実施例】
【0135】
【表10】
JP2016219467A_000011t.gif
【実施例】
【0136】
このようにして得られたPTCサーミスタ部材の25℃における電気抵抗率は1Ω・cm以下であった。また、300℃における電気抵抗率は、25℃における電気抵抗率の100倍以上であった。また、300℃における電気抵抗率は、25℃における電気抵抗率の10000倍以上の試験体もあった。
【実施例】
【0137】
本明細書の技術の範囲は、以上の実施例で示した無機材料および導電粒子についての材料の種類、材料の組合せ、粒径、製法について、各例で記載した内容に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本明細書の技術は、車載用電気機器、家電製品、情報機器などに内蔵される過電流抑制素子として好適に利用できる。また、本明細書の技術は、PTCヒーター用素子として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0139】
1…PTCサーミスタ素子
2…PTCサーミスタ部材
3a、3b…電極
図面
【図1】
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