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明細書 :核酸検出法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-109826 (P2015-109826A)
公開日 平成27年6月18日(2015.6.18)
発明の名称または考案の名称 核酸検出法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
C12M 1/00 A
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 32
出願番号 特願2014-183933 (P2014-183933)
出願日 平成26年9月10日(2014.9.10)
優先権出願番号 2013223424
優先日 平成25年10月28日(2013.10.28)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】中野 道彦
【氏名】末廣 純也
出願人 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B029
4B063
Fターム 4B024AA11
4B024CA01
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024HA11
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC02
4B029CC08
4B029CC10
4B029CC11
4B029CC13
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS16
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
要約 【課題】核酸の検出方法及び回収方法の提供。
【解決手段】 核酸と誘電体微粒子との複合体を誘電泳動により微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出することを特徴とする核酸の検出方法、並びに増幅された核酸と誘電体微粒子との複合体を微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出する装置であって、核酸増幅ユニット及びインピーダンス計測ユニットを備える前記装置を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
核酸と誘電体微粒子との複合体を誘電泳動により微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出することを特徴とする核酸の検出方法。
【請求項2】
複合体の微細電極への捕集が誘電泳動特性の変化を利用するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
誘電泳動特性の変化は、誘電泳動の向きが正負逆転することによるものである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
電気的検出が、複合体の誘電泳動に伴う電極間のインピーダンス変化を計測するものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
光学的検出が蛍光によるものである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
微粒子の大きさが0.1μm~10μmである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
微粒子の材料が、高分子、シリカ、ガラス、セラミックス及び酸化アルミニウムからなる群から選択されるいずれかの誘電体材料である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
誘電泳動のための印加電圧の周波数が10kHz~10MHzである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
誘電泳動のための印加電圧は、微細電極の電極間距離1μm当たり0.1Vpp~50Vppである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
回収の対象となる核酸に対するプローブと誘電体微粒子との複合体1と、被検サンプルとを混合して、被検サンプル中の回収対象核酸とプローブとをハイブリダイズさせた複合体2を作製し、この複合体2を誘電泳動により微細電極に捕集し、捕集後の複合体から目的核酸を回収することを特徴とする核酸の回収方法。
【請求項11】
誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の塩基長を推定する方法。
【請求項12】
誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の数を推定する方法。
【請求項13】
誘電体微粒子と核酸との複合体のインピーダンスの周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の塩基長を推定する方法。
【請求項14】
誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を利用して、当該複合体に結合している核酸を、塩基長によって選択的に検出する方法。
【請求項15】
検出の対象となる核酸と誘電体微粒子との複合体の作製は、核酸増幅法による対象核酸の増幅反応中又は増幅反応後に連続して行うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
増幅された核酸と誘電体微粒子との複合体を微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出する装置であって、核酸増幅ユニット及びインピーダンス計測ユニットを備える前記装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の検出方法及び回収方法に関する。詳しくは、本発明は、核酸増幅後のDNA検出を迅速、簡便、かつ安価に行うための方法である。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅法、例えばPCR(polymerase chain reaction)は、対象とするDNAから任意の領域のDNAを増幅する技術であり、特異性が高くまた感度が高いため、ウイルス検査のみならず、分子生物学的に非常に有効な技術として広く用いられている。PCRは、逆転写反応と組み合わせることで、RNAからDNAを増幅することができる。
PCR後に増幅したDNAは、通常、何らかの方法で検出しなければならない。
PCR後のDNA検出には、一般に次の二つの方法がある。ゲル電気泳動による方法と固相DNAプローブによる方法である。
【0003】
ゲル電気泳動による方法は、アガロースなどのゲルを用いてDNAを電気泳動して、そのサイズごとに分離する。そして、電気泳動後に蛍光色素により染色し、目的DNAが存在するか調べる。この方法では、ゲルの作製、電気泳動、染色などの作業に1~2時間程度必要である。さらに、ノーザンハイブリダイゼーションを行うことで、電気泳動分離されたDNAが特定の塩基配列を含んでいるかどうかを調べることができる。通常、この作業は3時間以上必要である。
固相プローブによる方法は、対象DNAと相補的な一本鎖DNA(プローブDNA)を反応容器底面に固定して、そのプローブDNAと対象DNAとのハイブリダイゼーションを呈色反応で検出する。この方法では、多数のサンプルを同時に試験できるものの、工程が多く、時間がかかるため、通常、この作業は3時間程度必要である。
【0004】
これら従来の方法では、反応後のDNA検出に時間がかかり、操作が複雑で専門的な技術が必要であった。これは、PCRに限らず他の核酸増幅法でも同様である。
また、PCR中にそのDNA増幅反応を光学的にモニタリングするリアルタイムPCRがある。リアルタイムPCRであれば、PCR後のDNA検出反応が不要であり、PCR後直ちに目的DNAが増幅されたかどうかを知ることができる。しかし、リアルタイムPCRには、非常に高価な装置が必要であり、試薬も高価であることから、一反応当たりのコストが高いという問題があった。
【0005】
一方、誘電泳動インピーダンス計測法(DEPIM,dielectrophoretic impedance measurement)は、正の誘電泳動を利用して対象を微細電極へと捕集して、その捕集に伴う微細電極のインピーダンス変化を計測して、リアルタイムに対象を検出する(非特許文献1)。元々、DEPIMは水溶液中の細菌を検出するために開発された。誘電泳動によるDNA検出に関して、次のような知見が既に得られている。DNAの誘電泳動は広く研究されており、様々な条件でDNAを微細電極に誘電泳動捕集できることが示されている(非特許文献2)。また、DNAを誘電泳動し、微細電極への集積によるインピーダンスの変化を計測可能であることも既に示されている(非特許文献3、4)。しかし、非常に小さなDNA、例えば通常のPCR検査で増幅対象とされる100~1000 bpのDNAを誘電泳動捕集することは難しい。その理由は、後述のように誘電泳動力が対象物体の大きさに依存するためである。
また、DNAやタンパク質をサブミクロン微粒子に結合して、誘電泳動捕集することも研究されている(非特許文献5、6)。
【0006】
しかし、従来の微粒子を用いた方法では、微粒子そのものの誘電泳動特性、つまり、ごく小さい微粒子であれば、それ自体で正の誘電泳動を示す(そのままでも粒子が集まる)という特性を利用して目的物質を捕集するものであるため、DNA結合の有無にかかわらず微粒子が捕集される。
さらに、微粒子の誘電泳動を用いて、それによるインピーダンス変化を計測する方法も開示されている(特許文献1)。
しかし、凝集体の形成による誘電泳動の大きさの変化(力が大きくなる)、誘電泳動速度の差(速度が速まる)を利用するものであるため、この方法では、微粒子の初期位置によって、凝集体と凝集体を形成していない微粒子を区別することができない場合が想定され、また、最終的に全ての粒子が捕集(あるいは電極から反発)するため、光学的な検出は難しい。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2011-75539号公報
【0008】

【非特許文献1】J. Suehiro, R. Yatsunami, R. Hamada and M. Hara : “Quantitative estimation of biological cell concentration suspended in aqueous medium by using dielectrophoretic impedance measurement method,” J. Phys. D: Appl. Phys., Vol. 32, pp. 2814-2820 (1999)
【非特許文献2】M. Washizu : “Electrostatic manipulation of biological objects,” J. Electrostatics, Vol. 25, pp. 109-123 (1990).
【非特許文献3】A. Henning, F. F. Bier, R. Holzel : “Dielectrophoresis of DNA: Quantification by impedance measurements,” Biomicrofluidics, Vol. 4, 022803 (2010).
【非特許文献4】S. Li, Q. Yuan, B. I. Morshed, C. Ke, J. Wu and H. Jiang : “Dielectrophoretic responses of DNA and fluorophore in physiological solution by impedimetric characterization,” Bionsens. Bioelectron., Vol. 41, pp. 649-655 (2013).
【非特許文献5】R. Krishnan, B. D. Sullivan, R. L. Mifflin, S. C. Esener, M. J. Heller : “Alternating current electrokinetic separation and detection of DNA nanoparticles in high-conductance solutions,” Electrophoresis 2008, 29, 1765-1774
【非特許文献6】T. Kawabata, M. Washizu : “Dielectrophoretic Detection of Molecular Bindings,” IEEE TRANS. IND. APPLI., 2001, 37, 1625-1633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、誘電泳動特性を利用した選択的な核酸の検出方法及び核酸の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、核酸の結合による微粒子の誘電泳動特性の変化を利用することにより、核酸を選択的かつ簡易に検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、核酸と誘電体微粒子との複合体を誘電泳動により微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出することを特徴とする核酸の検出方法である。
複合体の微細電極への捕集は、例えば誘電泳動の特性変化を利用するものである。また、誘電泳動特性の変化は、誘電泳動の向きが正負逆転することによるものが挙げられる。さらに、複合体は、例えば、検出の対象となる核酸を誘電体微粒子に結合させることにより作製することができる。
【0011】
また、本発明において、電気的検出は、例えば複合体の誘電泳動捕集に伴う電極間のインピーダンス変化を計測することにより行うことができる。本発明においては、検出は光学的検出を蛍光により行うこともできる。検出の対象となる核酸と誘電体微粒子との複合体の作製は、核酸増幅法による対象核酸の増幅反応中又は増幅反応後に連続して行うことができる。
本発明において、核酸としては、例えばDNA又はRNAが挙げられる。
本発明において、微粒子の大きさは、例えば0.1μm~10μmである。また、微粒子の材料は、高分子、シリカ、ガラス、セラミックス及び酸化アルミニウム等からなる群から選択されるいずれかの誘電体材料が挙げられる。
本発明において、誘電泳動のための印加電圧の周波数は例えば10kHz~10MHzであり、 誘電泳動のための印加電圧は、例えば、微細電極の電極間距離1μm当たり0.1Vpp~50Vppである。
【0012】
本発明において、複合体の作製は、例えば核酸増幅反応中に行うこともできる。これによって、核酸増幅反応後に直ちに誘電泳動による核酸検出が行えるようなる。この機構を採用することで、核酸増幅反応装置と誘電泳動による核酸検出装置を一体化した装置を作製できる。
さらに、本発明は、回収の対象となる核酸に対するプローブと誘電体微粒子との複合体1と、被検サンプルとを混合して、被検サンプル中の回収対象核酸とプローブとをハイブリダイズさせた複合体2を作製し、この複合体2を誘電泳動により微細電極に捕集し、捕集後の複合体から目的核酸を回収することを特徴とする核酸の回収方法である。
【0013】
さらに、本発明は、誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の塩基長を推定する方法である。この方法は、発明者が見いだした複合体の周波数特性、すなわち、負の誘電泳動から正の誘電泳動に変化する周波数が異なるという性質を利用する。この方法によれば、特定の周波数の電圧を微細電極に印加することで、結合した核酸の塩基長に応じて複合体を選択的に捕集することができる。すなわち、異なる塩基長の核酸を結合した多種類の複合体が存在している場合に、その中から特定の塩基長の核酸が結合した複合体のみを選択的に微細電極に捕集し、検出できる。あるいは、複数の電極にそれぞれ異なる周波数の電圧を印加することで、それぞれの電極にその周波数に応じた特定の塩基長の核酸が結合した複合体を捕集・検出することができる。
【0014】
さらに、本発明は、誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の数を推定する方法である。
本発明は、誘電泳動捕集した複合体のインピーダンスの周波数特性を計測することを特徴とする、当該核酸の塩基長を推定する方法である。さらに、本発明は、誘電体微粒子と核酸との複合体の誘電泳動の周波数特性を利用して、当該複合体に結合している核酸を、塩基長によって選択的に検出する方法である。
本発明の方法では、誘電泳動によって微細電極に捕集した複合体に対して、印加電圧の周波数を変化させて、電極間のインピーダンス変化を計測する。発明者は、そのインピーダンス変化が複合体を形成している核酸の塩基長に依存して変化することを見いだした。すなわち、周波数を変化させたときに、それに応じて変化するインピーダンスを計測することで、複合体を形成している核酸の塩基長を知ることができる。
【0015】
さらに、本発明は、増幅された核酸と誘電体微粒子との複合体を微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出する装置であって、核酸増幅ユニット及びインピーダンス計測ユニットを備える前記装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、誘電泳動特性を利用した選択的な核酸の検出方法及び回収方法が提供される。
本発明の方法は下記の点で有用である。
○ 短時間:従来法が1~2時間以上かかるのに対して、15分程度で終了する。
○ 簡単:従来法(電気泳動や固相プローブ法)に比べて、工程が少なく簡単である。DEPIMは、電気的に操作し結果を数値として返す。スイッチひとつで操作できる。微粒子には高分子を基材として磁性物質を封入した磁性微粒子を使用できる。磁性微粒子を使用した場合は、操作の自動化を容易に実現できる。本発明による核酸検出装置は安価に製造販売することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法の概要を示す図である。
【図2】DNAを結合した粒子の誘電泳動を示す図である。
【図3】DEPIMの装置例を示す図である。
【図4】粒子の直径をパラメータとしたRe[K]の表面コンダクタンス特性図である。
【図5】DNA結合微粒子の誘電泳動のクロスオーバー周波数のDNA塩基長に対する依存性を示す図である。
【図6】DNA結合の有無による誘電泳動の様子を示す図である。
【図7】インピーダンス変化の計測結果(DEPIMの結果)を示す図である。
【図8】DNA結合の有無による誘電泳動の様子を示す図である。
【図9】インピーダンス変化の計測結果(DEPIMの結果)を示す図である。
【図10A】DNA結合微粒子のインピーダンスの周波数特性のDNA塩基長に対する依存性を示す図である。
【図10B】DNA結合微粒子のインピーダンスの周波数特性のDNA塩基長に対する依存性を示す図である。
【図11】インピーダンスの周波数応答を測定した結果を示す図である。
【図12】電極を核酸増幅用チューブに配置させた態様を示す図である。
【図13】核酸増幅室及びインピーダンス計測室を備えた図である。
【図14】核酸増幅とインピーダンスの計測手順を示す一態様を示す図である。
【図15】核酸増幅室内にインピーダンス計測用の微細電極を設置させた反応室を示す図である
【図16】ディスク型基板による核酸増幅及びインピーダンス計測の態様を示す図である。
【図17】本発明の核酸検出装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
水溶液中のDNAを検出する方法として、一般的にはゲル電気泳動法や吸光度法がある。ゲル電気泳動方法は、アガロースなどのゲル中でDNAを電気泳動することで、その塩基長ごとに分離し、分離後にDNAを染色することでDNAを検出する。吸光度法は、対象溶液に対して紫外線を照射してその吸光度でDNAを計測する手法であるが、感度が低いこと、溶液中の夾雑物に大きく影響を受けるなどの特徴があり、核酸増幅反応後のDNAの検出には用いられない。
ゲル電気泳動等の従来のDNA検出法では、長時間必要で工程も複雑である。
また、従来の微粒子の誘電泳動を用いた方法では、微粒子そのものの誘電泳動特性を利用するため、DNA結合の有無にかかわらず微粒子が捕集される。本発明では、DNA結合に伴う誘電泳動特性の変化(脱離→捕集)を利用するため、DNAが結合した粒子のみを選択的に捕集する。したがって、その微粒子の捕集を電気的あるいは光学的に検出することで、目的DNAの有無を知ることができる。

【0019】
そこで、本発明は、安価な装置で迅速かつ簡便にPCR後のDNA検出を可能にする核酸検出法を提供する。
特許文献1(特開2011-75539号公報)は、微粒子を凝集させることで誘電泳動力の大きさが変化することを利用しているのに対し、本発明は、核酸の結合に伴う微粒子の誘電泳動力の向きが変化することを利用している点で大きく異なる。すなわち、本発明によれば、核酸前の微粒子に働く誘電泳動力の向きは負方向、すなわち微細電極から反発する方向であり、核酸結合によって微粒子(複合体)に働く誘電泳動力の向きが正方向、すなわち微細電極に捕集される方向に変わる。本発明を実現するために、後述するように最適な微粒子材料、大きさ、あるいは微細電極に印加する電圧の周波数が必要である。

【0020】
本発明において、検出の対象となる核酸の種類は限定されるものではなく、DNAであってもRNAであってもよい。
また、核酸増幅法について、説明の便宜上PCRを例示するが、他の核酸増幅法についても同様である。核酸増幅法には、PCRを始めとして、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、LCR(Ligase Chain Reaction)、TMA(Transcription Mediated Amplification)等があり、これらにも応用可能である。また、核酸増幅法に限らず、核酸の検出に本発明を利用できる。

【0021】
本発明の方法では、対象核酸と誘電体微粒子との複合体(核酸-誘電体微粒子複合体)を誘電泳動により微細電極に捕集し、その捕集に伴う電極間のインピーダンス変化を計測するというものである。
本発明において、核酸と微粒子との複合体の形成方法としては、例えば以下の手法を採用することができる。

【0022】
(i) 核酸増幅時に増幅核酸の末端が何らかの化学物質で修飾し、それとの特異的結合によって微粒子に結合する方法.
(ii) 表面に化学的に核酸プロープを結合した微粒子を用いて、対象核酸とのハイブリダイゼーションによって結合する方法。
(iii) 目的DNAの末端を化学物質の修飾なしで微粒子と結合させる方法。例えばリン酸基又はOH基を利用する。
(iv)目的DNAの一部(例えば末端ではない部分)に化学物質を結合し、その化学物質と微粒子を結合する方法。例えば、配列を認識する制限酵素を利用したり、蛍光色素のように二本鎖の構造を認識する物質(インターカレーター、マイナー/メジャーグルーブバインダーなど)を利用したりする方法。すなわち、DNA及び制限酵素と、微粒子及び抗制限酵素抗体との組み合わせを利用することにより、複合体を形成する。

【0023】
(v) 物理吸着又は化学吸着を利用する方法。例えば、DNAが物理吸着又は化学吸着する微粒子を使う。微粒子と物理吸着又は化学吸着する化学物質をDNAに結合させて、DNAと微粒子の複合体を作製する。
(vi) DNAの特定の配列を認識したり、その構造を認識してDNAに結合する化学物質を結合・吸着した微粒子を用いる方法。
(vii) 微粒子上で目的DNAを合成する方法。この方法では、PCR後の目的DNAを微粒子に結合するのではなく、PCR中に微粒子上にDNAを合成する。例えば、PCRに使うプライマーの一つを微粒子に固定しておき、PCR中にそのプライマーが伸長するように目的DNAが合成されるようにする。DNAの合成には、PCRに限定されるものではなく、LAMP法などの他の遺伝子増幅法でも可能である。
以下、説明の便宜上、核酸としてDNAを例示する。
本発明者は、誘電体微粒子の誘電泳動がその表面の導電率に依存して変化するという性質に注目した。

【0024】
DNAは1塩基長当たり1個の負電荷を持っており、全体として大きな電荷を帯びている(PCRの対象は数十塩基対~千塩基対程度)。そのDNAを誘電体微粒子に結合することで、微粒子の表面電荷が増加し、表面コンダクタンスが増加する。その結果、微粒子の誘電泳動特性が変化する。即ち、通常の微粒子は微細電極に捕集されないが、DNAが結合することで微細電極に捕集されるようになる。この性質を利用してDNA検出を行う。
また、本発明においては、DNA結合微粒子の誘電泳動特性の周波数特性を計測することによって、核酸の塩基長又は核酸の数を推定することができる。

【0025】
核酸が結合した微粒子の誘電泳動の周波数特性、即ち誘電泳動の正負が逆転する周波数を測定することで、その微粒子に結合した核酸の塩基長または核酸の数を知ることができる。これは、微粒子の誘電泳動特性の周波数特性がその表面コンダクタンスによって依存するためで、その表面コンダクタンスは結合する核酸の量や塩基長に依存するためである。
あるいは、誘電泳動捕集したDNA結合微粒子による電極間インピーダンスの周波数特性を調べることで、その微粒子に結合したDNAの塩基長を知ることができる。インピーダンスの周波数特性とは、DNA結合微粒子を捕集した微細電極に周波数を変化させて交流電圧を印加して、その周波数の変化に伴うインピーダンスの変化をいう。

【0026】
PCR中又はPCR後のDNA検出手法の工程例を、本発明の方法の概要として図1に示す。
具体的には、PCR中又はPCR後に微粒子と目的DNAとを結合させる。結合の方式は、ビオチン/アビジン、DIG/Anti-DIG等のDNA末端修飾分子と微粒子修飾タンパクとの相互作用を利用したものや、プローブDNAを介したハイブリダイゼーションによる方法、その他前記した方法が考えられる。PCR後に結合させる場合のDNA結合反応は、およそ15分程度である(図1(a))。
その後、DNA結合微粒子(DNAと微粒子との複合体)を誘電泳動にて微細電極に捕集し、その捕集に伴う電極間のインピーダンス変化を計測する(DEPIM)(図1(b))。

【0027】
ここで、誘電泳動のための印加電圧の周波数は、10kHz~10MHzであり、好ましくは100kHz~2MHzである。印加電圧の周波数の調整機能はDEPIM装置が備えており、ユーザーにより適宜調整することができる。
また、誘電泳動のための印加電圧は、微細電極の電極間距離1μm当たり0.1Vpp~50Vpp、好ましくは0.2Vpp~2Vppである。この電極間距離は、ユーザーの好ましい微細電極形状に加工することにより調整することができる。
インピーダンス変化の計測は、例えば次のように行う。以下、具体例を示すが当然本発明の利用がこれに限定されることはない。

【0028】
ガラス基板上に電極間距離5 μmの櫛歯型微細電極(クロム)をフォトリソグラフィー技術によって作製する。この微細電極に外部の電源装置、インピーダンス検出装置と接続する。微細電極上に試料懸濁液を滴下し、微細電極に外部電源より電圧を印加する。印加電圧は例えば、5 VPP、100 kHzである。微細電極に接続したインピーダンス検出装置により、微細電極のインピーダンス変化を計測する。DEPIMの装置例を図3に示す。インピーダンス検出装置は、例えば、1 kΩのシャント抵抗とその抵抗における電圧降下を測定するロックインアンプおよび計測電圧をインピーダンスへと換算する計算機からなる。試料溶液は検出や回収の対象となる核酸を含有する溶液であり、ポンプにより微細電極に送られる。微細電極に生じた電圧降下はロックインアンプにより計測され、インピーダンスに換算される。インピーダンスの時間変化を計測して、試料懸濁液中の試料濃度を知ることができる。この換算されたインピーダンスは、グラフ等によりパーソナルコンピュータに表示される。
捕集の検出は、インピーダンス計測に限らず蛍光微粒子あるいは蛍光色素を結合したDNAプローブの利用等で光学的に検出することも可能である。目的DNAが検体にない場合は、微粒子に結合するDNAが無く、その場合微粒子は微細電極に捕集されない。微細電極への捕集→検出の工程は、例えば1分程度である。従って、本発明によるDNA検出は例えば15分程度で終了する。
DNAと微粒子との結合には、主として、二つの方法が考えられる。

【0029】
(1) PCR後に結合:
PCR後の増幅DNAに対して、ビオチン/アビジン、DIG/Anti-DIG等のDNA末端修飾分子と微粒子修飾タンパクとの相互作用を利用したり、プローブDNAを介したハイブリダイゼーションを利用したりする。プローブDNAを介したハイブリダイゼーションによる方法では、誤ったPCR増幅産物に対しての偽陽性を防ぐことができる。つまり、目的DNAのみを微粒子に結合することができる。
(2) PCR中に結合:
PCR溶液に微粒子を投入して、その微粒子上にDNAを合成する方法。PCRのプライマーの一方を微粒子上に固定しておき、DNA合成反応によって微粒子上にDNAが合成されるようにする。これによって、PCRと同時にDNA結合微粒子が作製され、その微粒子を検出する工程のみでよくなる。

【0030】
微粒子の大きさ
微粒子は、数μm程度が望ましい。0.1 μmよりも小さい場合は、DNAが結合していなくても誘電泳動捕集される。10 μmを越えると表面コンダクタンスの影響が小さくなり、DNAが結合しても誘電泳動の変化が起こらない。従って、微粒子の大きさ(粒径)は0.1 μm~10 μmであり、好ましくは1 μm~5 μmである。
使用される微粒子の材質は非金属製のものであり、ラテックス、ポリスチレン等の高分子だけでなくガラスやセラミックス、シリカ、酸化アルミニウム等のいわゆる誘電体材料(絶縁体材料)を使用できる。また、微粒子に磁性材料を封入して、外部磁界によって操作可能にした磁性ビーズ(磁性粒子)も用いることができる。蛍光材料を封入したあるいは自身が蛍光を発する蛍光ビーズも使用できる。しかし、これら材料に特に限定されるものではない。
さらに、本発明の方法は、次の検出方法に利用することができる。

【0031】
1.DNAの精製:
PCRは分子生物学の中心的な技法である。様々な場面で応用されており、PCR後に増幅DNAを精製、回収する手法も広く存在する。本発明は、それらのいずれにも当たらず新しい方法である。簡便、短時間に目的DNAを精製できるため有用である。また、本発明による方法は、PCRだけに限定されずその他の場合における核酸精製即ち必要な核酸の混合溶液から必要な核酸のみを回収する手法として利用できる。
本発明による手法は、μTAS(micro total analysis system)やLab-on-a-chipと呼ばれる微細加工技術によって作製した基板上での化学反応に応用することが可能である。

【0032】
2.遺伝子ライブラリーからの目的遺伝子の選択的検出および回収:
mRNAやcDNAライブラリーから目的の遺伝子配列を選択的に回収する。プローブDNAを結合した微粒子をライブラリーに投入し、プローブと相補的なDNA/RNAを微粒子上に結合する。その結合微粒子を誘電泳動によって検出及び回収する。
より具体的には、まず、回収の対象となる核酸(DNAやmRNA)に対するプローブを設計及び合成し、そのプローブをポリマー微粒子に結合させる。このプローブと微粒子との結合体を複合体1とする。次に、回収の対象となる核酸が含まれることが想定される被検サンプルを用意し、複合体1と被検サンプルとを混合して、被検サンプル中の回収対象核酸とプローブとをハイブリダイズさせる。核酸とプローブとがハイブリダイズしたものが微粒子に結合したものを複合体2とする。この複合体2を誘電泳動によって微細電極に捕集すれば、捕集後の複合体から目的核酸を回収することができる。複合体から核酸を回収するには、例えば、プローブDNAからの熱変性による脱離やプローブ配列の制限酵素による切断、プローブDNAを微粒子から脱離させる等の方法がある。

【0033】
3.DNA切断反応を利用した環境センシング:
DNA結合微粒子を用意しておき、そのDNAが切断することで、微粒子の誘電泳動が変化することを利用して環境センシングを行う。DNAは様々な環境ストレスによって切断されることが分かっている。例えば、紫外線や放射線あるいはニコチン等の酸化性物質である。これらのセンシングに利用する。
本発明において利用される誘電泳動の原理を以下に説明する。

【0034】
誘電泳動力FDEPは複素数表現すると、理論的に以下の(数1)で与えられる。
(数1)
DEP=2πεm・a・Re[K]▽E
ここで、係数Kは(数2)で表され、
(数2)
K=(εp-ε)/(εp+2ε
また、懸濁液の複素誘電率εは(数3、数4)で表され、
(数3)
ε=ε-j・σ/ω
(数4)
εp=εp-j・σp/ω
ε :溶媒の複素誘電率
ε :粒子の複素誘電率
ε :溶媒の誘電率
εp :粒子の誘電率
σ :溶媒の導電率
σp :粒子の導電率
ω :電界の角周波数
j :j=-1

【0035】
また、
a :粒子の半径
Re[K] :複素数Kの実部で、粒子と懸濁液の複素誘電率に依存するパラメータ
E :電界強度
である。
この(数1)(数2)(数3)(数4)から明らかなように、誘電泳動力FDEPはパラメータRe[K]に比例することがわかる。Re[K]は理論的に+1から-0.5の間の値を取る。Re[K]が正の値であれば対象粒子は電界が強い領域に引き寄せられ(正の誘電泳動)、負の値の場合、電界が弱い領域に引き寄せられる(負の誘電泳動)。

【0036】
ここで、粒子の導電率σpは理論的に粒子表面の導電率に依存する。
(数5)
σp=σb+2・SS/a
σb :粒子材料の導電率
SS :粒子の表面コンダクタンス

【0037】
即ち、(数5)より粒子の導電率は粒子の表面コンダクタンスが上昇すると、それに伴って大きくなる。特に粒子半径が小さい場合、その効果は大きくなる。
(数2)(数3)(数4)(数5)より、粒子の表面コンダクタンスが変化すると、Kが変化して結果としてRe[K]も変化する。(数1)より、Re[K]の変化に伴って誘電泳動力も変化する。

【0038】
図4は、粒子の直径をパラメータとしたRe[K]の表面コンダクタンス特性図である。図4において、粒子の表面コンダクタンスと誘電泳動力の関係を示している。図4において、溶媒の導電率および比誘電率は200 μS/mと78、粒子の比誘電率は2とした。
図4(a)は、印加電圧の周波数を100 kHzとした場合である。それぞれの粒子直径に対して、その表面コンダクタンスが大きくなるにつれて誘電泳動力のパラメータであるRe[K]が大きくなっていることが分かる。一般に、ポリマー粒子の表面コンダクタンスは0.1 nS~1 nSであるといわれる。粒子の直径が大きくなるにつれて、その範囲内でRe[K]が負になる。一方で、この範囲において表面コンダクタンスの変化に対するRe[K]の変化が大きい。即ち、負の誘電泳動を示していた粒子の表面コンダクタンスが増加することで、Re[K]が負から正に変化し易いことを示している。
図4(b)は、印加電圧の周波数を1MHzとした場合である。図4(a)と比較して、Re[K]が負から正になるために、より高い表面コンダクタンスが必要であることが分かる。このことを利用すると、粒子の誘電泳動の周波数依存性を調べることで、その粒子の表面コンダクタンスを知ることができる。後述のように核酸は塩基長に依存した電荷量を持っているため、核酸結合に伴う表面コンダクタンスは、核酸の塩基長あるいは核酸の数に依存して変化すると考えられる。この性質を利用すると、核酸結合粒子の誘電泳動の周波数特性を調べるとことで、粒子に結合した核酸の長さあるいは数を知ることができる。

【0039】
核酸は一塩基長当たり1個の負電荷を有しているため、全体として大きな電荷を持っている。その核酸が粒子表面に結合すると、核酸の電荷によって粒子の表面コンダクタンスが上昇する。上述の説明のように、結果として誘電泳動が負から正に変わる。
DNAの塩基長に依存するDNA結合微粒子の誘電泳動特性について、発明者が実験により明らかにした結果を図5に示す。図5は、DNA結合微粒子の誘電泳動の周波数特性において、その誘電泳動が負から正に変化する周波数(クロスオーバー周波数という)を溶媒の導電率に対してプロットしたものである。PCRによって作製した204bp、391bp、796bpのDNAをそれぞれアビジン-ビオチン反応を利用して直径2.8μmの微粒子に結合した。それぞれの微粒子のクロスオーバー周波数を測定すると、その塩基長に応じてクロスオーバー周波数が大きくなることがわかった。クロスオーバー周波数よりも低い周波数で、それぞれの微粒子は正の誘電泳動によって微細電極に捕集されるが、クロスオーバー周波数よりも高い周波数では、負の誘電泳動となる。それぞれの塩基長のクロスオーバー周波数を考慮して、微細電極に印加する電圧の周波数を選択すると、特定の塩基長のDNAが結合した微粒子を選択的に捕集することができる。

【0040】
また、発明者はDNA結合微粒子のインピーダンスの周波数依存性が、結合しているDNAの塩基長に依存していることを見いだした。この性質を利用することで、微細電極に捕集したDNA結合微粒子のDNAの塩基長を計測することができる。詳細は実施例4に示すが、次のように実施することができる。まず、比較的低い周波数の印加電圧でDNA結合微粒子を微細電極に捕集する。その後、印加電圧の周波数を変化させ、そのときのインピーダンスを記録する。このときの周波数変化に伴うインピーダンスの変化はDNA結合微粒子の結合DNAの塩基長に依存する。この周波数依存性を計測することで、DNA結合微粒子の結合DNAの塩基長を計測することができる。

【0041】
本発明は、核酸増幅反応と組み合わせて一体化装置として利用することができる。例えば、PCRに利用されるサーマルサイクラーとインピーダンス計測装置を組み合わせて、反応中あるいは反応後に本発明によるインピーダンス計測を行う。
従って、本発明は、増幅された核酸と誘電体微粒子との複合体を微細電極に捕集し、捕集後の複合体を電気的又は光学的に検出する装置であって、核酸増幅ユニット及びインピーダンス計測ユニットを備える前記装置を提供する。図1では、PCR中又はPCR後に微粒子と目的核酸(DNA)と微粒子とを結合させた後、核酸結合微粒子(核酸と微粒子との複合体)を誘電泳動にて微細電極に捕集し、その捕集に伴う電極間のインピーダンス変化を計測する(DEPIM)(図1(b))。本発明では、さらにこれらの装置を一体化させた検出装置を提供する。

【0042】
核酸増幅ユニットでは、核酸増幅用チューブ内に電極を配置させておくことができる(図12)。チューブ内に電極を配置させる方法は特に限定されるものではない。例えば図12において、 (a)は電極が配置された基板をチューブ内に固定又は投入した態様である。例えば、フレキシブル基板上に微細電極を作製し(図12(c))、これを円筒形に丸めてチューブ内に入れることで、円筒状の基板表面に電極が配置される。(b)は核酸増幅用チューブ内壁に電極を形成することにより、チューブに直接電極を配置させた態様である。フレキシブル基板上に微細電極を作製し(図12(c))、これをチューブ内部に貼り付ける。
核酸増幅用チューブにポリマー微粒子を予め入れておいて、増幅の対象核酸をポリマー微粒子に結合させておくと、核酸の増幅、核酸と微粒子との複合体作製及びインピーダンス計測を一つのチューブ内で行うことができる。核酸の増幅は、図12に示すチューブを核酸増幅装置に設置し、所定の増幅サイクル処理を行えばよい。

【0043】
核酸増幅ユニットとインピーダンス計測ユニットとを一体化させた装置では、核酸増幅ユニットを微細加工技術によって一枚の基板上に形成したものを利用可能である。以下にその形態を説明するが、当然のごとく、本発明がその形態に限定されるものではない。
核酸増幅ユニットは核酸増幅反応、例えばPCRを行うための核酸増幅室とインピーダンス計測を行うためのインピーダンスユニットとを有する。図13は、核酸増幅室及びインピーダンス計測室を備えた図である。図14は、核酸増幅とインピーダンスの計測手順を示す一態様を示す図である。図14において、微粒子には核酸増幅中あるいは終了後に検出対象核酸が結合するように表面を修飾しておき、核酸増幅反応液と混合して核酸増幅室に入れる。核酸増幅室はその内部あるいは外部に設置された温度変化装置によってその核酸増幅反応を実施する(図14(1))。例えば、微粒子として、その内部に磁性体を封入したものを用いる。核酸増幅反応途中あるいは終了後に磁石を核酸増幅室の外部に置き、微粒子を捕集し(図14(2))、インピーダンス計測室に微粒子を移動させる(図14(3))。インピーダンス計測室は、インピーダンス計測に最適な水溶液で満たされている。例えば、イオン交換水である。核酸増幅室とインピーダンス計測室との境界はあってもなくてもよい。但し、互いの水溶液が混合されないように、例えば空気層で隔絶させることができるインピーダンス計測室に移動された微粒子は、いったん分散されたのち、インピーダンス計測室内に設置された微細電極によって誘電泳動捕集およびインピーダンス計測が行われる(図14(4))。このようなインピーダンス計測は、核酸増幅途中で行うことができる。例えば、PCRであれば1サイクル毎あるいは数サイクル毎に核酸増幅室からインピーダンス計測室へと移動し、インピーダンス計測後再び磁石で捕集し、核酸増幅室に戻し、PCRを継続する。

【0044】
本発明においては、核酸増幅室とインピーダンス計測室の二つの部屋が必ずしも必要ということではない。例えば図15に示すように、核酸増幅室内にインピーダンス計測用の微細電極を設置しておけば、核酸増幅とインピーダンス計測を一つの反応室内で行うことができる。溶液加熱用のヒータ電極を設置することができる。例えば、定温反応であるLAMP法で核酸増幅を行えば、外部冷却装置が不要である。

【0045】
本発明においては、磁石を使用しないでインピーダンス計測を行うことができる。その方法としては、以下のものが想定される。例えば、図16のようなディスク型基板が使用できる。核酸増幅中あるいは終了後に検出対象核酸が微粒子に結合するように、微粒子の表面を修飾しておき、核酸増幅反応液と混合して核酸増幅室に入れる。核酸増幅室とインピーダンス計測室は、互いの水溶液が混合されないように、例えば空気層で隔絶されている。核酸増幅反応終了後、ディスクを回転させることで遠心力が発生し、その遠心力によって微粒子がインピーダンス計測室に移動する。インピーダンス計測室は、インピーダンス計測に最適な水溶液で満たされている。一方、遠心操作後にインピーダンス計測に最適な水溶液に変更してもよい。ディスク型基板の使用は、centrifugal microfluidic biochipなどと呼ばれる手法の応用であるが、その構成要素として核酸増幅室とインピーダンス計測室との組み合わせは、これまでに無く、本発明によって実現される。
インピーダンス検出ユニットでは、例えば1 kΩのシャント抵抗と、その抵抗における電圧降下を計測するロックインアンプとを備え、当該計測電圧をインピーダンスへと換算する。

【0046】
図17は、本発明の核酸検出装置の制御部の構成を示すブロック図である。本発明の核酸検出装置100は、コンピュータ等の制御部101を備える。この制御部101は、試料溶液を微細電極に送達させるポンプ102と、試料溶液を核酸増幅用チューブに分注する分注器103と、電圧を印加する電圧印加部104と、インピーダンス情報やプログラムを記憶するRAM及びROM等を含む記憶部105とを備える。さらに、制御部101は、ユーザから制御条件等が入力される操作インターフェース106と、各種情報が表示される表示部107と、各工程の時間を計時する計時部108と、増幅ユニットの反応容器の温度を測定する温度センサ109と、反応容器の温度を制御する温度制御部110と、インピーダンス計測制御部111とを備える。
また、核酸検出装置100は、PCRなどの増幅ユニットにおいて、温度センサ109が測定した温度に基づき温度制御部110を用いて反応容器を加熱又は冷却して所定温度に制御し、PCRサイクルを実行することができる。さらに、核酸検出装置100は、インピーダンス計測制御部111において電圧印加及び解除の制御を行って核酸/微粒子複合体を電極間に捕集し、複合体のインピーダンスの周波数特性を計測する。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
磁性粒子の誘電泳動の変化
磁性粒子にStreptavidin修飾磁気粒子(Dynabeads M-280 Streptavidin、Life Technologies)、核酸に391 bpの二本鎖DNA(以下、391 bp DNAと呼ぶ)を用いた。391 bp DNAは、pUC 19 DNA(Takara bio)を鋳型にし、PCRを行い、ゲル電気泳動から切り出して精製した。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
プライマー1:5’-TTGCCGGGAAGCTAGAGTAA(配列番号1)
プライマー2:5’-GCTATGTGGCGCGGTATTAT(配列番号2)
プライマー1は、5’末端がビオチンで修飾されている。そのため、391 bp DNAの片端にはビオチンが結合している。Streptavidin修飾磁気粒子(直径2.8 μm)にビオチン/アビジン結合を介して391 bp DNAを結合させて、その結合の有無によって粒子の誘電泳動が変化するかどうかを検証した。
【実施例1】
【0048】
磁性粒子(3.25x103 個/μl)と391 bp DNA(1.5 ng/μl=3.5x109 個/μl)を反応溶液(5 mM Tris-HCl (pH7.5)、0.5 mM EDTA、1 M NaCl)に懸濁して、15分室温で反応させた。その後、磁石を用いて粒子を分離し、Milli-Q水に懸濁した。キャッスルウォール型電極(最短ギャップ:5 μm)を用いて、正弦波電圧10 VPP、1 MHzを印加して誘電泳動を顕微鏡観察した。
DNAを結合していない粒子は、図2 (a)に示すように、負の誘電泳動を示した。磁性粒子はポリスチレンに可磁化物質を分散させたものであるが、その誘電泳動特性はポリスチレンのみの場合とほぼ同様であることが示された。一方、DNAを結合させた場合、対象粒子は正の誘電泳動を示した(図2(b))。この結果は、DNAの結合によって粒子表面の電気特性(導電率)が変化したことで磁性粒子の誘電泳動特性が変化したことを示している。
【実施例2】
【0049】
HIV由来RNAの検出
Human Immunodeficiency Virus(HIV)由来RNAからRT-PCR(逆転写PCR、reverse transcription polymerase chain reaction)によってDNAを増幅し、そのDNAを本発明による方法で検出できるかどうかを試みた。
HIV由来RNAにはArmored RNA Human Immunodeficiency Virus (Subtype B)(Asuragen Inc.)を用いた。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
SK462:5’-AGTGGGGGGACATCAAGCAGCCATGCAAAT(配列番号3)
SK431:5’-TGCTATGTCACTTCCCCTTGGTTCTCT(配列番号4)
【実施例2】
【0050】
SK431の5’末端にはビオチンが結合している。RT-PCRには、ThermoScript RT-PCR System(Life Technologies)を用いた。上記RNAとプライマーセットによるRT-PCRによって142 bpの二本鎖DNAを得た。RT-PCR後にゲル濾過カラム(MicroSpin S-400HR、GE Healthcare)によって、反応溶液を精製した。反応溶液(5 mM Tris-HCl (pH7.5)、0.5 mM EDTA、1 M NaCl)に1×106 個/μlのStreptavidin修飾磁気粒子(Dynabeads M-280 Streptavidin、Life Technologies)と精製後のRT-PCR溶液を10 μl加えて15分間、室温で結合反応させた。その後、磁石を用いて粒子を分離し、イオン交換水に懸濁した。キャッスルウォール型電極(最短ギャップ:5 μm)を用いて、正弦波電圧10 VPP、100 kHzを印加して誘電泳動を顕微鏡観察した。
【実施例2】
【0051】
DNA結合有無による誘電泳動の様子を図6に示す。DNA結合が無いときは図6(a)のように電極の最短ギャップから反発する誘電泳動(負の誘電泳動)を示した。一方、DNA結合させた場合は、図6(b)のように電極の最短ギャプに集積する誘電泳動(正の誘電泳動)を示した。図6(d)は、印加電圧の周波数を1 MHzにしたときの誘電泳動の様子を示す。この周波数では、粒子は負の誘電泳動を示した。これは、結合したDNAが142bpと比較的短いため、このような周波数特性を示したと考えられる。
次に、作製したDNA結合粒子のインピーダンス計測(DEPIM)を示す。上述のキャッスルウォール型電極を用いた。試料溶液5 μlを電極上に滴下し、カバーガラスをその上から被せた。電極間に2 VPP、100 kHzを印加した。インピーダンス変化は、微細電極に接続したシャント抵抗の電圧降下をロックインアンプで計測し、その計測電圧から計算した。
【実施例2】
【0052】
図7にインピーダンス変化の計測結果(DEPIMの結果)を示す。DNAが結合した粒子の場合にのみ大きなインピーダンス変化(コンダクタンスおよびキャパシタンスの上昇)が現れた。これによって、本発明による方法でHIV由来RNAを検出できることが示された。
【実施例3】
【0053】
ノロウイルス由来RNAの検出
イノロウイルス由来RNAからRT-PCRによって、二本鎖DNAを増幅し、それを本発明による方法で検出可能かどうかを確かめた。
ノロウイルス由来RNAにはSynthetic Norovirus G2(II) RNA(ATCC VR-3200SD、American Type Culture Collection)を用いた。プライマーセットは次の通り。
G2-SKF:5’-CNTGGGAGGGCGATCGCAA(配列番号5)
G2-SKR:5’-CCRCCNGCATRHCCRTTRTACAT(配列番号6)
G2-SKFは、5’末端がビオチンで修飾されている。RT-PCRによって得られる二本鎖DNAの大きさは、344 bpである。RT-PCRには、ThermoScript RT-PCR System(Life Technologies)を用いた。RT-PCR後にゲル濾過カラム(MicroSpin S-400HR、GE Healthcare)によって、反応溶液を精製した。反応溶液(5 mM Tris-HCl (pH7.5)、0.5 mM EDTA、1 M NaCl)に1×106 個/μlのStreptavidin修飾磁気粒子(Dynabeads M-280 Streptavidin、Life Technologies)と精製後のRT-PCR溶液を10 μl加えて15分間、室温で結合反応させた。その後、磁石を用いて粒子を分離し、イオン交換水に懸濁した。キャッスルウォール型電極(最短ギャップ:5 μm)を用いて、正弦波電圧10 VPP、100 kHzを印加して誘電泳動を顕微鏡観察した。DNA結合有無による誘電泳動の様子を図8に示す。DNA結合させた場合、電極の最短ギャプに集積する誘電泳動(正の誘電泳動)を示した。
【実施例3】
【0054】
次に、作製したDNA結合粒子のインピーダンス計測(DEPIM)を示す。上述のキャッスルウォール型電極を用いた。試料溶液5 μlを電極上に滴下し、カバーガラスをその上から被せた。電極間に0.5 VPP、100 kHzを印加した。インピーダンス変化は、微細電極に接続したシャント抵抗の電圧降下をロックインアンプで計測し、その計測電圧から計算した。
図9にインピーダンス変化の計測結果(DEPIMの結果)を示す。DNAが結合した粒子の場合にのみ大きなインピーダンス変化(コンダクタンスおよびキャパシタンスの上昇)が現れた。これによって、本発明による方法でノロウイルス由来RNAを検出できることが示された。
【実施例4】
【0055】
DNA塩基長によるDNA結合微粒子のインピーダンスの周波数依存性
PCRによって、142bp、204bp、391bp、796bpのDNAを作製した。それぞれのDNAは次のように作製した。
○142bp DNA:HIV由来RNAであるArmored RNA Human Immunodeficiency Virus (Subtype B)(Asuragen Inc.)を用いた。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
SK462:5’-AGTGGGGGGACATCAAGCAGCCATGCAAAT(配列番号3)
SK431:5’-TGCTATGTCACTTCCCCTTGGTTCTCT(配列番号4)
SK431の5’末端にはビオチンが結合している。ThermoScript RT-PCR System(Life Technologies)を用いてRT-PCRを行い、142 bpの二本鎖DNAを得た。
【実施例4】
【0056】
○204bp DNA:pUC 19 DNA(Takara bio)を鋳型DNAとし、PCRを行った。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
プライマー3:5’-CCGGCTCCAGATTTATCAGC (配列番号7)
プライマー4:5’- TGAAGCCATACCAAACGACG(配列番号8)
プライマー3の5’末端にはビオチンが結合している。
○391bp DNA:pUC 19 DNA(Takara bio)を鋳型DNAとし、PCRを行った。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
プライマー1:5’-TTGCCGGGAAGCTAGAGTAA(配列番号1)
プライマー2:5’-GCTATGTGGCGCGGTATTAT(配列番号2)
プライマー1の5’末端にはビオチンが結合している。
【実施例4】
【0057】
○796bp DNA:pUC 19 DNA(Takara bio)を鋳型DNAとし、PCRを行った。PCRに用いたプライマーは以下の通り。
プライマー5:5’- TCGGTGATGACGGTGAAAAC(配列番号9)
プライマー6:5’- TCTTTCCTGCGTTATCCCCT(配列番号10)
【実施例4】
【0058】
プライマー5の5’末端にはビオチンが結合している。
それぞれのDNAには片端にビオチンが結合しており、ビオチン-アビジン結合を介して磁性微粒子(直径2.8μm)に結合した。PCR後の反応溶液をゲル濾過スピンカラム(S-400HR、GEヘルスケアバイオサイエンス)で精製し、PCR溶液40μlに対して、Streptavidin修飾磁気粒子(Dynabeads M-280 Streptavidin、Life Technologies)を5μl(3×106個)加えた。15分間室温で反応させた後、DNA結合微粒子をイオン交換水に3x104/μlの濃度で再懸濁した。DNA結合微粒子を含む試料溶液を100μl微細電極上に滴下した。微細電極上にはPDMS(polydimethylsiloxane)で作製したウェルを配置してある。
【実施例4】
【0059】
インピーダンス計測は次のように行った。まず、100kHz、2Vppを微細電極に1分間印加した。次に、100kHz~1MHzまで周波数を変化させて、その間のインピーダンスの変化を測定した。
図10A及び図10Bにそれぞれの塩基長のDNAを結合したDNA結合微粒子のコンダクタンスの周波数依存性を示す。図10A(a)は周波数を低周波から高周波に変化させたときのコンダクタンスの変化を示す。高周波になるにつれてコンダクタンスが減少するが、そのプロファイルが微粒子に結合しているDNAの塩基長によって異なることがわかる。図9(a)をシグモイド曲線(a+b/(1+exp(-(x-c)/d)): a、b、c、dはパラメータ)にパラメータフィッティングした近似曲線に対して、一次微分をとり(-1)を乗じたものを図10A(b)に示す。また、図10A(b)におけるそれぞれのグラフの頂点をDNAの塩基長に対してプロットしたものを図10Bに示す。このように、インピーダンスの周波数特性は微粒子に結合したDNAの塩基長に依存することがわかる。
【実施例4】
【0060】
図11は、塩基長142bpのDNAを結合した微粒子と塩基長391bpのDNAを結合した微粒子を混合して、インピーダンスの周波数応答を測定した結果である。図11中の測定結果の一次微分に(-1)を乗じたグラフを見ると、2つのピークが確認できる。このピークはそれぞれの塩基長のDNAに由来するものである。このように、インピーダンスの周波数応答を計測することで、複数種類のDNA結合微粒子が存在していた場合に、それぞれを検出することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0061】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号5:nはa, c, g又はtを表す(存在位置:2)。
配列番号6:合成DNA
配列番号6:nはa, c, g又はtを表す(存在位置:6)。
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10A】
9
【図10B】
10
【図11】
11
【図12】
12
【図13】
13
【図14】
14
【図15】
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【図16】
16
【図17】
17