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明細書 :手術用ロボット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5754820号 (P5754820)
公開番号 特開2015-100677 (P2015-100677A)
登録日 平成27年6月5日(2015.6.5)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
公開日 平成27年6月4日(2015.6.4)
発明の名称または考案の名称 手術用ロボット
国際特許分類 A61B  19/00        (2006.01)
B25J  13/08        (2006.01)
B25J  19/02        (2006.01)
FI A61B 19/00 502
B25J 13/08 Z
B25J 19/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 16
出願番号 特願2013-245948 (P2013-245948)
出願日 平成25年11月28日(2013.11.28)
審査請求日 平成27年1月30日(2015.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】見上 慧
【氏名】只野 耕太郎
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100064414、【弁理士】、【氏名又は名称】磯野 道造
審査官 【審査官】寺澤 忠司
参考文献・文献 特開2008-6517(JP,A)
米国特許出願公開第2013/0300537(US,A1)
特表2010-533045(JP,A)
調査した分野 A61B 19/00
B25J 13/08
B25J 19/02
特許請求の範囲 【請求項1】
手術器具と、前記手術器具が装着されたロボットアームとを備える手術用ロボットであって、
前記手術器具の先端に加わる力を測定する第1測定手段と、
前記ロボットアームに装着された前記手術器具の基端に加わる力及びモーメントを測定する第2測定手段と、
前記手術器具の先端及び基端に加わる力に基づいて、前記手術器具の合力がゼロとなるように、前記手術器具の先端から基端までの間に加わる外力を算出する外力算出手段と、
前記手術器具の先端に加わる力と、前記手術器具の基端に加わる力及びモーメントと、前記手術器具の先端及び基端の位置とに基づいて、前記手術器具のモーメントの合計がゼロとなるように、前記外力算出手段で算出した外力が加わった外力作用点を算出する外力作用点算出手段と、
前記外力算出手段が算出した外力、又は、前記外力作用点算出手段が算出した外力作用点の少なくとも一方に基づいて、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したか否かを判定する接触判定手段と、
前記接触判定手段で接触したと判定された場合、前記手術器具の接触を警告する、又は、前記手術器具が前記物体に接触しないように前記ロボットアームを制御する接触対応動作を実行する接触対応動作実行手段と、
を備えることを特徴とする手術用ロボット。
【請求項2】
前記外力算出手段は、式(2)を用いて、前記手術器具の先端から基端までの間に加わる外力Fとして、前記手術器具の先端に加わる力Fと、前記手術器具の基端に加わる力Fとの合計値の反数を算出し、
【数1】
JP0005754820B2_000015t.gif
前記外力作用点算出手段は、前記手術器具の先端位置P及び前記手術器具の基端位置Pが含まれる式(3)を用いて、前記手術器具の先端におけるモーメントF×(P-P)と、前記手術器具の外力作用点におけるモーメントF×(P-P)と、前記手術器具の基端におけるモーメントMとの合計がゼロとなるように、前記外力作用点Pを算出することを特徴とする請求項1に記載の手術用ロボット。
【数2】
JP0005754820B2_000016t.gif

【請求項3】
前記接触判定手段は、
前記外力作用点の変化量が予め設定された閾値を超えたか否かを判定し、
前記外力作用点の変化量が前記閾値を超えた場合、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したと判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の手術用ロボット。
【請求項4】
前記手術器具は、鉗子であり、
前記鉗子を開閉させるエアシリンダと、
前記エアシリンダを加圧又は減圧するサーボバルブと、をさらに備え、
前記第1測定手段は、前記エアシリンダの圧力変化により、前記鉗子の先端に加わる力を測定する圧力センサであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の手術用ロボット。
【請求項5】
前記外力作用点算出手段は、前記ロボットアームが配置された空間の基底平面毎に、前記基底平面上の直線と前記外力作用点の基底平面上の写像との交点に前記手術器具の姿勢を示す重み付けを行って、前記外力作用点の推定値をさらに算出し、
前記接触判定手段は、前記外力作用点の代わりに前記外力作用点の推定値を用いて、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したか否かを判定することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の手術用ロボット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、鉗子、内視鏡等の手術器具が装着されたロボットアームを備える手術用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科手術において、患者の痛みの低減、入院期間の短縮や傷跡の縮小といったQOL(Quality Of Life)重視の観点から、腹腔鏡下手術が広く行なわれている。腹腔鏡下手術とは、術者が細い筒(トロッカール)から鉗子を入れ、腹腔鏡の映像を観察しながら手術を行うものである。この内視鏡手術は、開腹手術より傷口が小さくて済むことから、患者への負担が少ない。
【0003】
ここで、腹腔鏡下手術では、鉗子、内視鏡等の手術器具を保持するロボットアームを備えた手術用ロボット(鉗子ロボット)が広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。従来の手術用ロボットは、鉗子の先端に備えられたセンサ、カメラ等の接触検知手段により、患者体内に挿入された鉗子と、患者の血管、筋肉、臓器等の物体との接触を検知する。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2013-132747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の手術ロボットは、鉗子の先端にしか接触検知手段が設けられていないので、鉗子の先端以外では物体の接触を検知できず、患者を傷つけてしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本願発明は、前記した問題を解決し、手術器具の先端以外でも物体の接触を検知できる手術用ロボットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題に鑑みて、本願第1発明に係る手術用ロボットは、手術器具と、前記手術器具が装着されたロボットアームとを備える手術用ロボットであって、前記手術器具の先端に加わる力を測定する第1測定手段と、前記ロボットアームに装着された前記手術器具の基端に加わる力及びモーメントを測定する第2測定手段と、前記手術器具の先端及び基端に加わる力に基づいて、前記手術器具の合力がゼロとなるように、前記手術器具の先端から基端までの間に加わる外力を算出する外力算出手段と、前記手術器具の先端に加わる力と、前記手術器具の基端に加わる力及びモーメントと、前記手術器具の先端及び基端の位置とに基づいて、前記手術器具のモーメントの合計がゼロとなるように、前記外力算出手段で算出した外力が加わった外力作用点を算出する外力作用点算出手段と、前記外力算出手段が算出した外力、又は、前記外力作用点算出手段が算出した外力作用点の少なくとも一方に基づいて、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したか否かを判定する接触判定手段と、前記接触判定手段で接触したと判定された場合、前記手術器具の接触を警告する、又は、前記手術器具が前記物体に接触しないように前記ロボットアームを制御する接触対応動作を実行する接触対応動作実行手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、手術用ロボットは、手術器具の先端から基端までの間に接触検知手段を備えることなく、梃子の原理により、手術器具の先端から基端までの間に加わる外力及び外力作用点を算出することができる。
【0009】
また、本願第2発明に係る手術用ロボットは、前記外力算出手段が、後記する式(2)を用いて、前記手術器具の先端から基端までの間に加わる外力Fとして、前記手術器具の先端に加わる力Fと、前記手術器具の基端に加わる力Fとの合計値の反数を算出し、前記外力作用点算出手段が、前記手術器具の先端位置P及び前記手術器具の基端位置Pが含まれる式(3)を用いて、前記手術器具の先端におけるモーメントF×(P-P)と、前記手術器具の外力作用点におけるモーメントF×(P-P)と、前記手術器具の基端におけるモーメントMとの合計がゼロとなるように、前記外力作用点Pを算出することが好ましい。
かかる構成によれば、手術用ロボットは、簡易な演算式で外力及び外力作用点を算出することができる。
【0010】
また、本願第3発明に係る手術用ロボットは、前記接触判定手段が、前記外力作用点の変化量が予め設定された閾値を超えたか否かを判定し、前記外力作用点の変化量が前記閾値を超えた場合、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したと判定することが好ましい。
【0011】
ここで、手術器具は、手術器具を患者体内に挿入するためのポートと接触していることが多い。このため、外力作用点算出手段が算出する外力作用点は、通常、手術器具が接触するポート位置になり、あまり変化しない。従って、手術用ロボットは、外力作用点が大きく変化した場合、手術器具の先端から基端までの間に物体が接触した可能性が高いので、接触があったと判定する。
【0012】
また、本願第4発明に係る手術用ロボットは、前記手術器具が、鉗子であり、前記鉗子を開閉させるエアシリンダと、前記エアシリンダを加圧又は減圧するコンプレッサと、をさらに備え、前記第1測定手段が、前記エアシリンダの圧力変化により、前記鉗子の先端に加わる力を測定する圧力センサであることが好ましい。
かかる構成によれば、手術用ロボットは、鉗子を空気圧駆動すると共に、この鉗子に加わる力を空気圧による力覚応答から求めることができる。
【0013】
また、本願第5発明に係る手術用ロボットは、前記外力作用点算出手段が、前記ロボットアームが配置された空間の基底平面毎に、前記基底平面上の直線と前記外力作用点の基底平面上の写像との交点に前記手術器具の姿勢を示す重み付けを行って、前記外力作用点の推定値をさらに算出し、前記接触判定手段が、前記外力作用点の代わりに前記外力作用点の推定値を用いて、前記手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したか否かを判定することが好ましい。
かかる構成によれば、手術用ロボットは、手術器具の姿勢の影響を受けにくく、外力作用点を高い精度で推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本願第1発明によれば、梃子の原理により、手術器具の先端から基端までの間に加わる外力及び外力作用点を算出し、手術器具の先端以外でも物体の接触を検知することができる。さらに、本願第1発明によれば、手術器具の先端から基端までの間にセンサを備える必要がないので、簡易な構成を実現し、低コスト化を図ることができる。
【0015】
本願第2発明によれば、簡易な演算式で外力及び外力作用点を算出できるので、演算負荷を軽減し、演算処理の高速化を図ることができる。
本願第3発明によれば、手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したことを、正確に検知することができる。
本願第4発明によれば、鉗子を空気圧駆動し、手術用ロボットの操作者にリアルな力覚提示を行うことができるので、手術用ロボットの操作性を向上させることができる。
本願第5発明によれば、外力作用点を高い精度で推定できるので、手術器具の先端から基端までの間に物体が接触したことを、より正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の実施形態に係る手術用ロボットの構成を示すブロック図である。
【図2】図1の接触判定手段による判定手法を説明するための説明図であり、(a)は鉗子がポートに接触している状態を示し、(b)は鉗子が臓器に接触している状態を示す。
【図3】本願発明の実施形態において、鉗子に作用する外力及び外力作用点を模式的に表した模式図である。
【図4】本願発明の実施形態において、外力作用点の算出を説明するための説明図である。
【図5】本願発明の実施形態において、鉗子に作用する外力の3次元成分を模式的に表した模式図である。
【図6】図1の接触警告装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[手術用ロボットの構成]
図1を参照し、本願発明の実施形態に係る手術用ロボット1の構成について、詳細に説明する。
図1に示すように、手術用ロボット1は、腹腔鏡下手術に用いられる鉗子ロボットであり、鉗子10と、ロボットアーム20と、接触警告装置30とを備える。
また、手術用ロボット1は、図示を省略した操作手段(例えば、マスタマニピュレータ)に接続されている。この操作手段は、手術用ロボット1の操作者(例えば、医師)が鉗子10及びロボットアーム20を操作するためのインターフェースである。
そして、手術用ロボット1は、操作手段からの操作信号に応じて、鉗子10及びロボットアーム20が駆動する。このとき、鉗子10が患者の体内で血管、筋肉又は臓器に接触した場合、鉗子10が患者を傷つける恐れがある。そこで、接触警告装置30が、この接触を検知して、操作者に警告する。

【0018】
<鉗子>
鉗子10は、患者に取り付けられたポート90から、患者の腹腔92に挿入される手術器具である(図2)。この鉗子10は、空気圧駆動式であり、開閉部11と、エアシリンダ13と、力センサ(第2測定手段)15と、圧力センサ(第1測定手段)17と、サーボバルブ19aと、コンプレッサ19bとを備える。

【0019】
開閉部11は、物体(例えば、患者の血管、筋肉、臓器)を掴む、抑える、牽引するためのものである。この開閉部11は、開閉可能な構造を有しており、鉗子10の先端に設けられている。また、開閉部11は、エアシリンダ13とワイヤ(不図示)を介して、接続されている。

【0020】
エアシリンダ13は、開閉部11を開閉させるものである。例えば、エアシリンダ13は、円筒形で内壁が滑らかに形成され、エアシリンダ13の長手方向に移動可能なピストン13aを備える。また、エアシリンダ13は、このエアシリンダ13の内壁及びピストン13aにより、空気が満たされた気密室13bを形成する。また、エアシリンダ13は、この気密室13bを加圧及び減圧できるように、サーボバルブ19aに接続されている。

【0021】
力センサ15は、鉗子10のベース(基端)に加わる力F及びモーメントMを測定し、後記する接触警告装置30に出力するものである。例えば、力センサ15として、歪ゲージを用いた力センサ、又は、圧電効果を利用した力センサがあげられる。
なお、ベースとは、鉗子10をロボットアーム20に取り付けた場所のことである。

【0022】
圧力センサ17は、エアシリンダ13の圧力変化により、鉗子10の先端に加わる力Fを測定し、接触警告装置30に出力するものである。例えば、圧力センサ17として、歪ゲージ又は圧電効果を利用したものがあげられる。

【0023】
サーボバルブ19aは、エアシリンダ13を加圧又は減圧するものである。
例えば、サーボバルブ19aは、操作手段から、開閉部11を開くことを示す操作信号(不図示)が入力されると、エアシリンダ13の気密室13bを加圧する。これによって、ピストン13aが開閉部11に近づいてワイヤが伸び、開閉部11が開く。
一方、サーボバルブ19aは、操作手段から、開閉部11を閉じることを示す操作信号が入力されると、エアシリンダ13の気密室13bを減圧する。これによって、ピストン13aが開閉部11から遠ざかってワイヤが縮み、開閉部11が閉じる。
コンプレッサ19bは、外気を圧縮して、サーボバルブ19aに供給するものである。

【0024】
<ロボットアーム>
ロボットアーム20は、鉗子10が装着されたシリアルリンクマニピュレータである。このロボットアーム20は、複数のアーム21と、アーム21同士を接続する関節部23とで構成されている。また、ロボットアーム20は、図示を省略したホルダに、腹腔鏡下手術が行いやすい向き及び位置で保持されている。

【0025】
また、ロボットアーム20は、エンコーダ付き駆動モータ(不図示)が関節部23に内蔵されている。このエンコーダ付き駆動モータは、操作手段からの操作信号が入力されると、この操作信号に従ってアーム21を駆動する。また、エンコーダ付き駆動モータは、関節部23の角度を示す計測信号を接触警告装置30に出力する。この計測信号は、鉗子10のベース位置P及び先端位置Pを算出するために利用される。

【0026】
<接触警告装置>
接触警告装置30は、鉗子10と物体(例えば、患者の血管、筋肉、臓器)との接触を検知し、接触を検知したときに警告するものである。この接触警告装置30は、入出力手段31と、外力算出手段32と、位置算出手段33と、外力作用点算出手段34と、接触判定手段35と、警告手段(接触対応動作実行手段)36とを備える。

【0027】
入出力手段31は、鉗子10から、接触警告装置30での演算に必要な各種パラメータとして、力F,Fと、モーメントMが入力され、ロボットアーム20から計測信号が入力されるものである。

【0028】
この入出力手段31は、力F,Fを外力算出手段32に出力する。また、入出力手段31は、計測信号を位置算出手段33に出力する。さらに、入出力手段31は、力F,Fと、モーメントMとを外力作用点算出手段34に出力する。

【0029】
外力算出手段32は、入出力手段31から入力された力F,Fに基づいて、鉗子10の合力がゼロとなるように、鉗子10の先端からベースまでの間に加わる外力Fを算出するものである。この外力算出手段32は、算出した外力Fを外力作用点算出手段34及び接触判定手段35に出力する。
なお、外力算出手段32による外力Fの算出は、詳細を後記する。

【0030】
位置算出手段33は、入出力手段31から入力された計測信号に基づいて、鉗子10の先端位置Pと、鉗子10のベース位置Pとを算出するものである。例えば、位置算出手段33は、ベース位置Pを、ロボットアーム20のリンク長と、関節部23の角度を示す計測信号とから、幾何学演算により算出できる。また、ロボットアーム20の先端に取り付けられた鉗子10の長さ及び方向が既知である。従って、位置算出手段33は、鉗子10の長さ及び方向と、ベース位置Pとから、先端位置Pを幾何学演算により算出できる。そして、位置算出手段33は、鉗子10のベース位置Pと、先端位置Pとを外力作用点算出手段34に出力する。

【0031】
外力作用点算出手段34は、力F,F及びモーメントMと、鉗子10のベース位置P及び先端位置Pとに基づいて、鉗子10のモーメントの合計がゼロとなるように、外力Fが加わった外力作用点Pを算出するものである。
ここで、外力作用点算出手段34は、入出力手段31から力F,F及びモーメントMが入力され、外力算出手段32から外力Fが入力され、位置算出手段33からベース位置P及び先端位置Pが入力される。
そして、外力作用点算出手段34は、算出した外力作用点Pを接触判定手段35に出力する。
なお、外力作用点算出手段34による外力作用点Pの算出は、詳細を後記する。

【0032】
接触判定手段35は、外力算出手段32から入力された外力F、又は、外力作用点算出手段34から入力された外力作用点Pの少なくとも一方に基づいて、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したか否かを判定するものである。

【0033】
以下、図2を参照し、接触判定手段35による判定手法について、具体的に説明する(適宜図1参照)。
図2(a)に示すように、腹腔鏡下手術では、患者の腹腔92に挿入された鉗子10は、患者の体表91に取り付けられたポート90と接触していることが多い。このため、外力作用点算出手段34は、外力作用点Pとして、鉗子10が接触するポート90の位置を算出する。従って、腹腔鏡下手術中、外力作用点Pは、あまり変化しない。

【0034】
ここで、図2(b)に示すように、鉗子10が患者の臓器93に接触した場合を考える。この場合、外力作用点算出手段34は、外力作用点Pとして、鉗子10が患者の臓器93に接触した位置を算出する。つまり、図2(a)及び図2(b)のように、外力作用点Pが大きく変化した場合、鉗子10が患者の臓器93に接触した可能性が高い。

【0035】
具体的には、接触判定手段35は、予め設定された時間内における外力作用点Pの変化量ΔPを算出する。そして、接触判定手段35は、算出した変化量ΔPが、予め設定された閾値th1を超えたか否かを判定する。

【0036】
そして、接触判定手段35は、変化量ΔPが閾値th1を超えた場合、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したと判定する。この場合、接触判定手段35は、警告(接触対応動作)の実行を、警告手段36に指令する。

【0037】
図1に戻り、手術用ロボット1の構成について、説明を続ける。
警告手段36は、接触判定手段35から警告の実行を指令された場合、鉗子10の接触を警告するものである。この警告手段36は、警告手法が特に制限されず、例えば、操作手段の振動、警告音の出力又は警告メッセージの表示を行うことができる。さらに、警告手段36は、前記した警告手法を複数組み合わせてもよい。

【0038】
<外力の算出>
図3を参照し、外力算出手段32による外力Fの算出について、具体的に説明する(適宜図1参照)。
図3の鉗子10では、下記の式(1)で表されるように、鉗子10の先端に加わる力Fと、外力作用点Pに加わる外力Fと、鉗子10のベースに加わる力Fとの合力がゼロになる。

【0039】
【数1】
JP0005754820B2_000002t.gif

【0040】
従って、外力算出手段32は、式(2)を用いて、外力作用点Pに加わる外力Fとして、鉗子10の先端に加わる力Fと、鉗子10のベースに加わるFとの合計値の反数を算出する。

【0041】
【数2】
JP0005754820B2_000003t.gif

【0042】
<外力作用点の算出>
図3~図5を参照し、外力作用点算出手段34による外力作用点Pの算出について、具体的に説明する(適宜図1参照)。
図3では、鉗子10の外周面に位置する外力作用点Pが鉗子10の中心軸上に位置するとみなしている。

【0043】
外力作用点算出手段34は、下記の式(3)を用いて、外力作用点Pを算出できる。この式(3)は、鉗子10の先端位置PにおけるモーメントF×(P-P)と、外力作用点PにおけるモーメントF×(P-P)と、鉗子10のベース位置PにおけるモーメントMとの合計がゼロとなることを表している。

【0044】
【数3】
JP0005754820B2_000004t.gif

【0045】
ここで、鉗子10が配置された空間に、x軸、y軸及びz軸からなる3次元座標系を設定する。この場合、式(3)のモーメントMは、下記の式(4)に示すように、モーメントMのx軸まわり成分M、y軸まわり成分M及びz軸まわり成分Mに分解することができる。

【0046】
【数4】
JP0005754820B2_000005t.gif

【0047】
ここで、F,F,Fは、それぞれ、力Fのx軸成分、y軸成分及びz軸成分である。
また、F,F,Fは、それぞれ、力Fのx軸成分、y軸成分及びz軸成分である。
また、P,P,Pは、それぞれ、先端位置Pのx軸座標、y軸座標及びz軸座標である。
また、P,P,Pは、それぞれ、ベース位置Pのx軸座標、y軸座標及びz軸座標である。
また、P,P,Pは、それぞれ、外力作用点Pのx軸座標、y軸座標及びz軸座標である。

【0048】
この式(4)から、下記の式(5)のように、外力作用点Pのx軸座標Pとz軸座標Pzとの関係を表すことができる。また、外力作用点Pのx軸座標Pとy軸座標Pyとの関係は、下記の式(6)で表すことができる。

【0049】
【数5】
JP0005754820B2_000006t.gif

【0050】
【数6】
JP0005754820B2_000007t.gif

【0051】
また、外力作用点Pのy軸座標Pとx軸座標Pとの関係は、下記の式(7)で表すことができる。さらに、外力作用点Pのy軸座標Pとz軸座標Pとの関係は、下記の式(8)で表すことができる。

【0052】
【数7】
JP0005754820B2_000008t.gif

【0053】
【数8】
JP0005754820B2_000009t.gif

【0054】
また、外力作用点Pのz軸座標Pとy軸座標Pとの関係は、下記の式(9)で表すことができる。さらに、外力作用点Pのz軸座標Pとx軸座標Pとの関係は、下記の式(10)で表すことができる。

【0055】
【数9】
JP0005754820B2_000010t.gif

【0056】
【数10】
JP0005754820B2_000011t.gif

【0057】
外力作用点Pは、鉗子10のベース位置Pから先端位置Pまでを結ぶ直線の上に位置することから、求められる。つまり、式(5)から、x軸-z軸平面での鉗子10のベース位置Pから先端位置Pまでを結ぶ直線と、x軸-z軸平面での外力作用点Pの写像との交点から、外力作用点Pのx軸座標Pを求められる。このとき、外力作用点Pのx軸座標Pの算出には、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が必要である。

【0058】
図4に示すように、式(5)から、ベース位置Pを原点としたx軸-z軸平面において、傾きa及び切片bの直線を定義した式(11)を導きだすことができる。図4では、この直線を符号94で図示した。また、x軸-z軸平面において、ベース位置Pから先端位置Pまでを結ぶ直線を定義した式(12)を導き出すことができる。図4では、この直線を符号95で図示した。つまり、図4では、ベース位置Pから直線94,95の交点までのx軸方向の長さlが外力作用点Pのx軸座標Pを表すので、この長さlを求めればよい。

【0059】
【数11】
JP0005754820B2_000012t.gif

【0060】
【数12】
JP0005754820B2_000013t.gif

【0061】
図4のF=Fと、F=Fと、モーメントM=Mが測定されているので、長さlは、下記の式(13)で求められる。
=a・P+b=c・P
=b/(c-a)
l=b・c/(c-a) …式(13)

【0062】
式(5)と同様、式(6)から、x軸-y軸平面上で力F,Fの和と同じ傾きを有する直線と、x軸-y軸平面への外力作用点Pの写像との交点から、外力作用点Pのx軸座標Pを求められる。図5に示すように、x軸-y軸平面であれば、外力作用点算出手段34は、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が既知なので、式(6)を用いて、外力作用点Pのx軸座標Pを算出することができる。

【0063】
前記と同様、y軸-x軸平面において、式(7)を用いて、外力作用点Pのy軸座標Pを算出するには、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が必要である。
前記と同様、y軸-z軸平面において、式(8)を用いて、外力作用点Pのy軸座標Pを算出するには、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が必要である。

【0064】
前記と同様、z軸-y軸平面において、式(9)を用いて、外力作用点Pのz軸座標Pを算出するには、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が必要である。
前記と同様、z軸-x軸平面において、式(10)を用いて、外力作用点Pのz軸座標Pを算出するには、5つのパラメータ(F,F,F,F,M)が必要である。

【0065】
以上のように、外力作用点算出手段34は、異なるパラメータから外力作用点P(P,P,P)を算出することができる。
なお、鉗子10に複数の外力が加わった場合、外力算出手段32が算出する外力F、及び、外力作用点算出手段34が算出する外力作用点Pは、鉗子10に加わった外力を合成したものとなる。

【0066】
[接触警告装置の動作]
図6を参照し、接触警告装置30の動作について、説明する(適宜図1参照)。
接触警告装置30は、入出力手段31によって、各種パラメータとして、鉗子10から力F,Fが入力され、モーメントMと、ロボットアーム20から計測信号が入力される(ステップS1)。

【0067】
接触警告装置30は、外力算出手段32によって、ステップS1で入力された力F,Fに基づいて、鉗子10の合力がゼロとなるように、鉗子10の先端からベースまでの間に加わる外力Fを算出する(ステップS2)。

【0068】
接触警告装置30は、位置算出手段33によって、ステップS1で入力された計測信号に基づいて、鉗子10の先端位置Pと、鉗子10のベース位置Pとを算出する(ステップS3)。

【0069】
接触警告装置30は、外力作用点算出手段34によって、ステップS1で入力された力F,F及びモーメントMと、ステップS3で算出したベース位置P及び先端位置Pとに基づいて、鉗子10のモーメントの合計がゼロとなるように、外力が加わった外力作用点Pを算出する(ステップS4)。

【0070】
接触警告装置30は、接触判定手段35によって、ステップS4で算出した外力作用点Pの変化量ΔPが、閾値th1を超えたか否かを判定する(ステップS5)。
変化量ΔPが閾値thを超えた場合(ステップS5でYes)、接触警告装置30は、ステップS6の処理に進む。

【0071】
接触警告装置30は、警告手段36によって、鉗子10の接触を警告する。例えば、警告手段36は、操作手段の振動、警告音の出力又は警告メッセージの表示といった警告を行う(ステップS6)。
変化量ΔPが閾値thを超えない場合(ステップS5でNo)、又は、ステップS6の後、接触警告装置30は、処理を終了する。

【0072】
以上のように、手術用ロボット1は、梃子の原理により、鉗子10の先端からベースまでの間に加わる外力F及び外力作用点Pを算出し、鉗子10の先端以外でも物体の接触を検知することができる。これによって、手術用ロボット1は、鉗子10の先端からベースまでの間にセンサを備える必要がなく、簡易な構成を実現し、低コスト化を図ることができる。さらに、手術用ロボット1は、鉗子10の接触を警告できるので、腹腔鏡下手術の安全性を向上させることができる。

【0073】
さらに、手術用ロボット1は、式(2)及び式(3)のような簡易な演算式により、外力F及び外力作用点Pを算出できるので、演算負荷を軽減し、演算処理の高速化を図ることができる。
さらに、手術用ロボット1は、鉗子10を空気圧駆動し、手術用ロボット1の操作者にリアルな力覚提示を行うことができるので、手術用ロボット1の操作性を向上させることができる。

【0074】
(変形例1)
本願発明に係る手術用ロボット1は、前記した実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で変形を加えることができる。

【0075】
前記した式(6)で外力作用点Pを算出すると、外力作用点Pの精度が鉗子10の姿勢の影響により低下し、鉗子10がy軸に平行な場合、外力作用点Pの算出が困難になる。

【0076】
そこで、外力作用点算出手段34は、ロボットアーム20が配置された空間の基底平面毎に、基底平面上の直線と外力作用点Pの基底平面上の写像との交点に鉗子10の姿勢を示す重み付けを行って、外力作用点Pの推定値P^を算出することが好ましい。具体的には、外力作用点算出手段34は、下記の式(14)を用いて、外力作用点Pの推定値P^を算出する。

【0077】
【数13】
JP0005754820B2_000014t.gif

【0078】
この式(14)では、Pxz^が、式(5)で求めた外力作用点Pのx軸座標Pである。また、Pyx^が、式(7)で求めた外力作用点Pのy軸座標Pである。また、Pzy^が、式(9)で求められる外力作用点Pのz軸座標Pである。

【0079】
また、(|P|-|P|)/2|P|、(|P|-|P|)/2|P|、及び、(|P|-|P|)/2|P|は、それぞれ、鉗子10の姿勢を示す重み付けである。

【0080】
以上のように、本願発明の変形例1に係る手術用ロボット1によれば、鉗子10の姿勢に影響を抑え、外力作用点Pの推定値P^が高い精度になる。従って、手術用ロボット1によれば、外力作用点Pの代わりにその推定値P^を用いることで、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したことを、正確に検知することができる。

【0081】
(変形例2)
接触判定手段35は、外力Fが予め設定された閾値th2を超えたか否かにより、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したか否かを判定してもよい。

【0082】
また、接触判定手段35は、予め設定された時間内における外力Fの変化量ΔFを算出する。そして、接触判定手段35は、算出した外力Fの変化量ΔFが予め設定された閾値th3を超えたか否かにより、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したか否かを判定してもよい。

【0083】
さらに、接触判定手段35は、外力Fと外力作用点Pとを組み合わせて、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したか否かを判定してもよい。
例えば、接触判定手段35は、外力作用点Pの変化量ΔPが閾値th1を超え、かつ、外力Fの変化量ΔFが閾値th3を超えた場合、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したと判定する。
一方、接触判定手段35は、外力作用点Pの変化量ΔPが閾値th1を超えないか、又は、外力Fの変化量ΔFが閾値th3を超えない場合、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触していないと判定する。

【0084】
また、接触判定手段35は、外力作用点Pの変化量ΔPが閾値th1を超えるか、又は、外力Fの変化量ΔFが閾値th3を超えた場合、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触したと判定してもよい。
一方、接触判定手段35は、外力作用点Pの変化量ΔPが閾値th1を超えず、かつ、外力Fの変化量ΔFが閾値th3を超えない場合、鉗子10の先端からベースまでの間に物体が接触していないと判定してもよい。

【0085】
(その他変形例)
前記した実施形態では、ロボットアーム20をモータ駆動として説明したが、本願発明は、これに限定されない。例えば、ロボットアーム20は、鉗子10と同様、空気圧駆動としてもよい。
また、ロボットアーム20は、その構造が特に制限されず、パラレルリンクマニピュレータであってもよい。

【0086】
前記した実施形態では、接触対応動作として、警告手段36が警告を行うとして説明したが、本願発明は、これに限定されない。
つまり、手術用ロボット1は、接触対応動作実行手段として、鉗子10が物体に接触しないようにロボットアーム20を制御する制御手段(不図示)を備えてもよい。例えば、この制御手段は、接触判定手段35が鉗子10の接触を判定した場合、前記したロボットアーム20の制御を行う。
【符号の説明】
【0087】
1 手術用ロボット
10 鉗子
11 開閉部
13 エアシリンダ
15 力センサ(第2測定手段)
17 圧力センサ(第1測定手段)
19a サーボバルブ
19b コンプレッサ
20 ロボットアーム
21 アーム
23 関節部
30 接触警告装置
31 入力手段
32 外力算出手段
33 位置算出手段
34 外力作用点算出手段
35 接触判定手段
36 警告手段(接触対応動作実行手段)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5