TOP > 国内特許検索 > 細胞・組織内酸素濃度測定のための高感度近赤外りん光イリジウム錯体 > 明細書

明細書 :細胞・組織内酸素濃度測定のための高感度近赤外りん光イリジウム錯体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6218073号 (P6218073)
公開番号 特開2015-101567 (P2015-101567A)
登録日 平成29年10月6日(2017.10.6)
発行日 平成29年10月25日(2017.10.25)
公開日 平成27年6月4日(2015.6.4)
発明の名称または考案の名称 細胞・組織内酸素濃度測定のための高感度近赤外りん光イリジウム錯体
国際特許分類 C07F  15/00        (2006.01)
C07D 231/12        (2006.01)
C07D 207/32        (2006.01)
G01N  31/00        (2006.01)
G01N  31/22        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
FI C07F 15/00 CSPE
C07D 231/12 F
C07D 207/32
G01N 31/00 L
G01N 31/22
G01N 21/78 C
C09K 11/06 660
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2013-244120 (P2013-244120)
出願日 平成25年11月26日(2013.11.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 2013年光化学討論会講演要旨集 発行日 平成25年9月7日 2013年光化学討論会 開催日 平成25年9月11日~13日
審査請求日 平成28年11月22日(2016.11.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】吉原 利忠
【氏名】小野寺 研一
【氏名】菊池 俊毅
【氏名】飛田 成史
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
審査官 【審査官】安藤 倫世
参考文献・文献 国際公開第2008/094187(WO,A1)
特表2008-501780(JP,A)
特開2010-044059(JP,A)
特開2008-281467(JP,A)
Inorg. Chem.,2010年,49(13),6077-6084
Cancer Res.,2010年,70(11),4490-4498
調査した分野 C07F
C07D
C09K
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】
JP0006218073B2_000021t.gif
1はそれぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、又は炭素数1~20の炭化水素基を、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を、nは1~5の整数を示す。
【請求項2】
下記いずれかの化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
JP0006218073B2_000022t.gif

【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む酸素濃度測定試薬。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物を含む癌診断薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規イリジウム錯体およびそれを用いた酸素濃度測定試薬、癌診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内における低酸素環境は、我国の3大死亡原因であるがん、脳卒中、心筋梗塞などで共通して観測される。そのため、細胞および組織中の酸素濃度を非侵襲的にリアルタイムで測定する方法の開発は、細胞生物学や医療の分野において重要な課題である。
生体組織中における酸素濃度の定量方法としてこれまで(1)微小電極を組織に挿入して測定する方法、(2)常磁性プローブ分子のESR信号を用いる方法、(3)ニトロイミダゾール系プローブ分子の還元反応を用いる方法、(4)水溶性ポルフィリン、ルテニウム錯体の発光を用いる方法が知られている。(1)の微小電極を用いる方法は、電極近傍の一点における酸素分圧しか測定できず、また、侵襲性であるという欠点を持つ。(2)のESR信号に基づく方法ではリアルタイムでの酸素濃度計測はできない、(3)のニトロイミダゾール系薬剤を用いる方法は低酸素細胞内でニトロイミダゾールが還元されて細胞内タンパク質に結合しトラップされることを利用するが、この方法では、薬剤の代謝に時間を要するため、薬剤投与後数時間経過しないとデータが得られない、という欠点がある。一方、(4)の方法は、水溶性ポルフィリン誘導体やルテニウム錯体のりん光寿命が血中酸素濃度に依存して変化する(消光を受ける)ことを利用して酸素濃度を定量する方法である。この方法は、非侵襲で組織における酸素分圧を可視化できるという大きな利点を有するが、試薬が水溶性であるため、得られるデータは血中酸素濃度に限られる(非特許文献1)。
【0003】
そこで、本発明者らのグループは、イリジウム錯体(BTP)の室温りん光(強度、寿命)を用いた生体組織中における酸素濃度計測方法を開発した(特許文献1)。BTPのりん光強度、寿命の測定から、リポソーム膜中の酸素濃度の定量、がん細胞を用いたりん光イメージング、担がんマウス中の腫瘍の可視化に成功した(非特許文献2)。さらに、近赤外光領域にりん光を示すイリジウム錯体BTPHSAを開発し、皮膚から約6-7mmにある腫瘍の可視化にも成功した(非特許文献2、特許文献2)。
しかしながら、BTPHSAは、りん光寿命が2.0μsと短く酸素応答性が低いため、正常組織と低酸素組織を区別することが難しい。一般に、近赤外光領域に発光(蛍光、りん光)を示す化合物の発光寿命は、エネルギーギャップ則に従い短寿命化する傾向にあり、室温でμs以上の発光寿命を与えるイリジウム錯体はほとんどない(非特許文献3)。
【化1】
JP0006218073B2_000002t.gif

【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特許第4930943号明細書
【特許文献2】特許第5353509号明細書
【0005】

【非特許文献1】T. V. Esipova et al., Anal. Chem., 83, 8756-8765, 2011.
【非特許文献2】S. Zhang et al., Cancer Res., 70, 4490-4498, 2010.
【非特許文献3】K. Hanson et al., Inorg. Chem., 49, 6077-6084, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は低酸素細胞・組織をイメージングあるいはそれらの酸素濃度定量のための長いりん光寿命(5μs以上)を有する近赤外りん光イリジウム錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(I)で表される化合物(以下、本発明の化合物又は本発明のイリジウム錯体と呼ぶことがある)が近赤外光領域でも長いりん光寿命を有し、低酸素細胞・組織のイメージングに有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]下記一般式(I)で表される化合物。
【化2】
JP0006218073B2_000003t.gif
1はそれぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、又は炭素数1~20の炭化水素基を、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を、nは1~5の整数を示す。
[2]下記いずれかの化合物である、[1]に記載の化合物。
【化3】
JP0006218073B2_000004t.gif
[3][1]または[2]の化合物を含む酸素濃度測定試薬。
[4][1]または[2]の化合物を含む癌診断薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物は、近赤外光領域に5μs以上のりん光寿命を有するため、低酸素細胞・組織のイメージングや酸素濃度の定量を効率よく行うことが可能である。本発明の化合物は、低酸素組織イメージング試薬、細胞および組織内酸素濃度測定試薬、酸素センサー、バイオセンサー、癌診断薬などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】PPZMD、PPZ4DMMD、PPZ3DMMDおよびBTPHSAの吸収・りん光スペクトル。
【図2】HeLa細胞の培養液にPPZ3DMMD、PPZ4DMMDを2 mM添加し、2時間培養後に測定したりん光顕微画像を示す図(写真)。
【図3】HeLa細胞の培養液にBTPHSA、PPZ4DMMD、PPZ3DMMを2 mM添加し、常酸素(20 %)、低酸素(2.5 %)培養下で2時間培養後に測定したりん光顕微画像を示す図(写真)。
【図4】培養細胞のりん光寿命測定装置を示す図。
【図5】図4の装置を使って得られたBTPHSA、PPZ3DMMDを取り込んだHeLa細胞のりん光減衰を示す図。
【図6】In vivo酸素計測用の寿命測定システムの概略図を示す図。
【図7】図6のシステムを用いて測定した担がんマウスの正常組織のりん光減衰曲線を示す図(写真あり)。
【図8】図6のシステムを用いて測定した担がんマウスの腫瘍組織のりん光減衰曲線を示す図(写真あり)。
【図9】正常組織と腫瘍部のりん光減衰曲線を示す図。
【図10】ゲート付ICCDカメラを用いて、担がんマウスの腫瘍部の寿命イメージングを行った結果を示す図(写真あり)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のイリジウム錯体を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。

【0012】
本発明の化合物は下記一般式(I)で表される化合物である。
【化4】
JP0006218073B2_000005t.gif

【0013】
1はそれぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、又は炭素数1~20の炭化水素基を示す。ここで、ハロゲンとしてはCl、BrまたはFが好ましい。アミノ基は、-NH2でもよいし、アルキルアミノ基でもよい。炭素数1~20の炭化水素基は、直鎖アルキル基でもよいし、分岐鎖アルキル基でもよいし、環状アルキル基でもよい。また、不飽和結合を含んでいてもよいし、1以上の水素原子がハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基などで置換されていてもよい。炭素数は好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3である。

【0014】
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を示すが、直鎖アルキル基でもよいし、分岐鎖アルキル基でもよいし、環状アルキル基でもよい。また、不飽和結合を含んでいてもよいし、1以上の水素原子がハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基などで置換されていてもよい。炭素数は好ましくは1~3である。

【0015】
nは1~5の整数を示すが好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは2である。

【0016】
より具体的には、R1およびR2がいずれもメチル、nが2である以下の化合物が例示される。
【化5】
JP0006218073B2_000006t.gif

【0017】
本発明のイリジウム錯体は、後述の実施例に記載の方法に従って合成することができる。

【0018】
上記のようなイリジウム錯体は、細胞や組織などの環境下においたときに、該環境中の酸素濃度が低いときにより強いりん光を発する。したがって、りん光の強度に基づいて酸素濃度を測定することができる。すなわち、りん光が強いときに酸素濃度が低いというような判定ができる。また、あらかじめ酸素濃度とりん光強度の関係を求めておくことにより、酸素濃度を定量的に測定することも可能である。

【0019】
また、マウスやラットなどの実験動物あるいはヒトにイリジウム錯体を投与し、酸素濃度が低下している部位の検出などを行うこともできる。癌組織では酸素供給が不足しているので、酸素濃度が低下している部位の検出を行うことにより、癌組織を特異的に染色し、癌の診断薬として使用することもできる。

【0020】
細胞内の酸素濃度を検出する場合は、イリジウム錯体を生体に添加してインキュベートした後、イリジウム錯体を励起してりん光を観察できるような蛍光顕微鏡、蛍光測定装置、蛍光イメージング装置などを用いてりん光を観察することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0022】
メシチルジピリナート(MD)とフェニルピラゾール(PPZ)を配位子に有するイリジウム錯体PPZMDを合成した。さらにPPZMDの細胞親和性を高めるためジメチルアミノ基をPPZに導入したPPZ4DMMD、PPZ3DMMDを設計、合成した。
【実施例】
【0023】
合成手順を以下に示す。
【実施例】
【0024】
PPZ4DMMDの合成
PPZ4COOH(1054mg,5.61mmol) (和光純薬より入手)をEtOH(60ml)に溶かし0.5MH2SO4を1ml加え100℃で一晩還流しPPZ4COOEt(956.8mg,4.42mmol)を得た。PPZ4COOEt(956.8mg,4.42mmol)と塩化イリジウム(III)・三水和物(IrCl33H2O)(790mg,2.24mmol)を2-エトキシエタノール(2EtOEtOH,60ml)、脱イオン水(20ml)に加え、140℃で一晩還流後ろ過し、PPZ4COOEt塩素架橋二核錯体(1.4g,1.06mmol)を得た。5-メシチルジピロメタン(290mg,1.10mmol)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノリン(DDQ)(250mg,1.10mmol)テトラヒドロフランに加え室温で1時間攪拌後、炭酸カリウム(K2CO3)(1g,7.23mmol)を加え再び15分攪拌し、さらにPPZ4COOEt塩素架橋二核錯体(730mg、0.055mmol))を加えて窒素ガス雰囲気下、100℃で一晩還流し、得られた生成物をクロロホルムで洗浄し、ろ過してカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:酢酸エチル=9:1)で原料を除去した後、リサイクル分取HPLC(日本分析工業、LC9225NEXT)で精製しPPZ4COOEtMDを得た。その後THF:H2O:EtOH=3:1:3溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)を大過剰量用いて85℃で一晩還流し、その後pHが1程度になるまで0.1MHClを用いて、その後クロロホルムで分液を行いPPZ4COOHMD(173mg,0.21mmol)を得た。PPZ4COOHMD(83mg,0.10mmol)にN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:34.5mg,0.30mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボキシイミド塩酸塩(EDCHCl:57.5mg,0.30mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加え窒素雰囲気下で一晩攪拌した。その後トリメチルアミンを大過剰量加え一晩攪拌し得られた生成物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=97:3、充填剤:アルミナ)を用いて精製し、目的物PPZ4DMMD(60mg,0.062mmol)を得た。

1H NMR (400MHz CDCl3) σ:8.026(d,2H), 7.39-7.37(s,1H),7.21-7.20(d,1H),7.052(s,2H),6.89-6.75(d,4H),6.78(s,1H),6.58-6.49(m,3H),6.38-6.37(d,2H),6.15-6.14(d,2H),3.40(d,2H),3.23-3.16(m,2H),2.88(s,1H),2.44-2.40(m,4H),2.34(s,2H),2.251-2.192(m,12H),2.207(s,6H),1.063(q,1H),1.24(s,1H),1.20(t,2H)
ESI-MS(positive):calcd.for C46H51IrN10O2:968.38,found:m/z=969.5([M]+)
【化6】
JP0006218073B2_000007t.gif
【化7】
JP0006218073B2_000008t.gif
【化8】
JP0006218073B2_000009t.gif
【化9】
JP0006218073B2_000010t.gif
【化10】
JP0006218073B2_000011t.gif
【実施例】
【0025】
PPZ3DMMDの合成
3-ヒドラジノ安息香酸(1g,6.57mmol)と1,1,3,3-テトラメトキシプロパン(0.6ml,3.66mg)を酢酸(3.0ml)イオン水(1.0ml)混合溶液に加え、マイクロウェーブ合成装置を用いて、150℃で5分加熱しPPZ3COOH(850mg,4.52mmol)を得た。PPZ3COOH(850mg,4.52mmol)をEtOH(60ml)に溶かし、0.5MH2SO4を1ml加え100℃で一晩還流しPPZ3COOEt(750mg,3.47mmol)を得た。PPZ3COOEt(750mg,3.47mmol)と塩化イリジウム(III)・三水和物(IrCl3・3H2O)(630mg,1.79mmol)を2-エトキシエタノール(2EtOEtOH,60ml)、脱イオン水(20ml)に加え、140℃で一晩還流後、ろ過しPPZCOOEt塩素架橋二核錯体を得た。
5-メシチルジピロメタン(423mg,1.60mmol)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノリン(DDQ,)(363mg,1.86mmol)テトラヒドロフランに加え室温で1時間攪拌後、炭酸カリウム(K2CO3)(1g,7.23mmol)を加え再び15分攪拌、PPZ3COOEt塩素架橋二核錯体を加えて窒素ガス雰囲気下、100℃で一晩還流し、得られた生成物をクロロホルムで洗浄し、ろ過してカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=9:1)で原料を除去した後、リサイクル分取HPLC(日本分析工業、LC9225NEXT)で精製しPPZ3COOEtMD(484mg、0.55mg)を得た。その後PPZ3COOEtMDにTHF:H2O:EtOH=3:1:3溶液と水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)大過剰量用いて85℃で一晩還流し、その後pHが1程度になるまで0.1MHClを用い、その後クロロホルムで分液を行いPPZ3COOHMD(369mg,0.446mg)を得た。PPZ3CCOHMD(110mg,0.133mmol)にN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)(46mg,0.400mol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボキシイミド塩酸塩(EDC・HCl)(77mg,0.402mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加え窒素雰囲気下で一晩攪拌した。その後トリメチルアミンを大過剰量加え得られた生成物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=97:3、充填剤:アルミナ)を用いて精製し、目的物PPZ3DMMD(80mg,0.083mmol)を得た。

1H NMR (400MHz CDCl3) σ:8.12(d,2H), 7.80(s,2H),7.07-6.98(m,4H),6.88-6.79(m,5H),6.48-6.39(m,6H),6.14-6.13(d,2H),2.48(m,3H),2.34(s,3H),2.25-2.23(s,12H),2.03(s,6H),1.68(m,3H),1.24(s,2H),0.86(s,1H)
ESI-MS(positive):calcd.for C46H51IrN10O2
ESI-MS(positive):calcd.for C46H51IrN10O2:968.38,found:m/z=969.4([M]+)
【化11】
JP0006218073B2_000012t.gif
【化12】
JP0006218073B2_000013t.gif
【化13】
JP0006218073B2_000014t.gif
【化14】
JP0006218073B2_000015t.gif
【化15】
JP0006218073B2_000016t.gif
【化16】
JP0006218073B2_000017t.gif
【実施例】
【0026】
<吸収・りん光スペクトルの測定>
PPZMD、PPZ4DMMD、PPZ3DMMDをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、室温で吸収・りん光スペクトルを測定した。BTPHSAも同様に測定した。結果を図1に示す。また、これらのイリジウム錯体の光極大波長λabs、りん光極大波長λphos、空気中、脱気下のりん光量子収率(Φp、Φp0)、りん光寿命(τp、τp0)および酸素応答性τp0/τpを表1に示す。吸収スペクトルの波長は、BTPHSAに比べると短波長シフトしているが、りん光スペクトルは近赤外領域まで延びていることがわかる(図1)。
【表1】
JP0006218073B2_000018t.gif
【実施例】
【0027】
また、PPZ,PPZ4DMMD,PPZ3DMMDは、483 nmでのモル吸光係数が3.59×104 M-1cm-1、3.60×104 M-1cm-1、3.45×104 M-1cm-1となり、BTPHSAに比べて吸収効率が増大した。さらに、PPZ4DMMD、PPZ3DMMDでは、りん光寿命τp0が10-20 μsと大幅な増大が見られ、それに伴って酸素応答性も40以上まで増加させることができた(表1)。
【実施例】
【0028】
なお、表1において、りん光寿命は以下のようにして計算した。
酸素によるりん光消光は次のStern-Volmerの式に従うと考えられる。
【数1】
JP0006218073B2_000019t.gif
ここでτp0は酸素が存在しないとき、すなわち酸素分圧pO2 = 0 mmHg のときのりん光寿命、τpは、酸素分圧がpO2のときのりん光寿命である。kqは消光速度定数で、プローブの励起状態と酸素との相互作用の大きさに関係する量である。従って、酸素分圧pO2は、原理的には(2)式に基づいて、細胞、組織からの発光のりん光寿命τpを計測することにより求めることができる。
【数2】
JP0006218073B2_000020t.gif
【実施例】
【0029】
<細胞での評価>
HeLa細胞の培養液にPPZ3DMMD、PPZ4DMMDを2 mM添加し、2時間培養後に測定したりん光顕微画像を図2に示す。その結果、PPZMDは脂溶性が高いため細胞にほとんど取り込まれなかったが(図示せず)、カチオン性のアミノ基を導入したPPZ3DMMD、PPZ4DMMDは細胞に取り込まれ、PPZ3DMMDの方が高い取り込み効率を示した(図2)。
【実施例】
【0030】
また、HeLa細胞の培養液にBTPHSA、PPZ4DMMD、PPZ3DMMを2 mM添加し、常酸素(20 %)、低酸素(2.5 %)培養下で2時間培養後に測定したりん光顕微画像を図3に示す。その
結果、PPZ3DMMD、PPZ4DMMDは、細胞内においてBTPHSAに比べてより高い酸素応答性を示した。
【実施例】
【0031】
図4に培養細胞のりん光寿命測定装置を示す。励起光にはNd:YAGレーザーの第2高調波(532 nm、パルス幅:1 ns、繰り返し20 kHz)または半導体レーザー(488 nm、パルス幅:25 ns、繰り返し15 kHz)を使用し、時間相関単一光子計数法に基づいて発光減衰曲線を測定した。
【実施例】
【0032】
図5にこの装置を使って得られたBTPHSA、PPZ3DMMDを取り込んだHeLa細胞のりん光減衰を示す。図5のりん光減衰は、どれも2成分からなる指数関数減衰にフィットできる。BTPHSAの20 % O2条件下、2.5 % O2条件下の平均りん光寿命は、それぞれ0.797 μs、1.45 μsとなり、低酸素下では寿命の増加が見られた。PPZ3DMMDでは、それぞれ2.71 μs、9.62 μsとなり、著しい寿命の増加が見られた。すなわち、τp0が増加したことにより酸素応答性が増大したことがわかる。
【実施例】
【0033】
<インビボでの評価>
図6に、In vivo酸素計測用の寿命測定システムの概略図を示す。励起用のファイバー(1本)に対して受光側のファイバーを6本のバンドルとして検出系の感度を向上させた。図6のシステムを用いて測定した担がんマウスの正常組織、腫瘍組織のりん光減衰曲線をそれぞれ図7、図8に示す。プローブとしてPPZ4MDDMを用いた。PPZ4MDDM 50 nmolを担がんマウス(マウス扁平上皮がんSCC7細胞を移植後約2週間)の尾静脈から投与し、LD (488
nm)を励起光としてりん光減衰を観測した。正常組織4箇所(図7左図の1-4)のPPZ4MDDMのりん光減衰速度はほぼ等しいのに対し、腫瘍部のりん光減衰は位置依存性が見られ、正常組織との境界に近いところ(図8、下側の実線)では減衰速度の増加すなわち酸素濃度の増加が見られた(図8)。
【実施例】
【0034】
図9に正常組織と腫瘍部のりん光減衰曲線を比較して示す。腫瘍組織では正常組織に比べてPPZ4MDDMのりん光寿命が大きく増加しているのがわかる。すなわち、腫瘍が低酸素状態に陥っていることを明確に示すことができた。
【実施例】
【0035】
図10にゲート付ICCDカメラを用いて、図8と同一の担がんマウスの腫瘍部の寿命イメージングを行った結果を示す。担がんマウスの尾静脈からPPZ4DMMDを50 nmol投与し、腫瘍部(直径0.5-1.0 cm)にLD (488 nm、 25 ns)のパルス光を照射し、ゲート付ICCDカメラを使って励起後1.5 ~30 μsの時間分解画像を測定した。腫瘍の中で中心部は赤、周辺は黄色となり(白黒写真では中心部が黒、周辺は白となり)、中心部の方が長寿命すなわち低酸素に陥っていることがわかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9