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明細書 :キシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6210487号 (P6210487)
公開番号 特開2015-073508 (P2015-073508A)
登録日 平成29年9月22日(2017.9.22)
発行日 平成29年10月11日(2017.10.11)
公開日 平成27年4月20日(2015.4.20)
発明の名称または考案の名称 キシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法
国際特許分類 C12N   1/16        (2006.01)
C12P   7/06        (2006.01)
FI C12N 1/16 G
C12N 1/16 F
C12P 7/06
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2013-213277 (P2013-213277)
出願日 平成25年10月11日(2013.10.11)
審査請求日 平成28年8月24日(2016.8.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】山田 守
【氏名】スカンヤ ニチヨン
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100188352、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 一弘
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
【識別番号】100150902、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 正子
【識別番号】100177714、【弁理士】、【氏名又は名称】藤本 昌平
【識別番号】100141391、【弁理士】、【氏名又は名称】園元 修一
審査官 【審査官】西 賢二
参考文献・文献 特表2008-501348(JP,A)
特開2012-210169(JP,A)
特開2012-231794(JP,A)
特開2012-183013(JP,A)
LANE, M. M. et al.,"Kluyveromyces marxianus: A yeast emerging from its sister's shadow",Fungal Biology Reviews,2010年,Vol. 24,pp. 17-26
RODRUSSAMEE, N. et al.,"Growth and ethanol fermentation ability on hexose and pentose sugars and glucose effect under various conditions in thermotolerant yeast Kluyveromyces marxianus",Appl. Microbiol. Biotechnol.,2011年,Vol. 90,pp. 1573-1586
調査した分野 C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)

特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を備えたことを特徴とするキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法。
(a)鉄塩を5~30mM含有する培地でクルイベロマイセス・マルシアヌス(K.marxianus)を好気的に培養する工程;
(b)工程(a)において生育した鉄耐性変異クルイベロマイセス・マルシアヌスを単離する工程;
(c)キシロースを炭素源とした培地で、工程(b)において単離した鉄耐性変異クルイベロマイセス・マルシアヌスを48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度が、工程(a)の培養に用いたクルイベロマイセス・マルシアヌスを48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度の1.5倍以上である鉄耐性変異クルイベロマイセス・マルシアヌスを選抜する工程;
【請求項2】
工程(a)において、鉄塩が硫酸第一鉄又はその水和物であることを特徴とする請求項1記載のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生産する方法により得られたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を、キシロースを炭素源として加えた培地で培養することを特徴とするエタノールの生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、キシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法や、かかる方法により得られたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を用いたエタノールの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が世界中で問題となっている中、微生物が様々な原料から発酵生産するバイオエタノールが注目されている。バイオエタノールはバイオマスから生成した糖を発酵して生産されるエタノールであり、再生可能な自然エネルギーであること、及びその燃焼によって大気中の二酸化炭素量を増やさないことから、化石燃料、特にガソリンに代替する燃料としての将来性が期待されている。
【0003】
現在、工業的なバイオエタノールの生産において、原料としてはサトウキビ、糖蜜等の糖質や、トウモロコシ、ジャガイモ、キャッサバ等のデンプンが用いられているため、食料や飼料の生産と競合するという問題が生じている。そこで、草本系や木質廃材等のリグノセルロース系バイオマスが次世代のバイオエタノール原料として着目されている。リグノセルロース系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等から構成される。これまでにリグノセルロース系バイオマスを原料としたエタノール生産についての研究が進められ、リグノセルロースを物理的、化学的処理により糖化してエタノールを生産する方法として、例えば、雑草を使用し、前記雑草を緩衝液に浸漬して当該緩衝液に電圧を印加することにより雑草の通電処理物を得る通電処理工程と、前記通電処理物を酵素により糖化物とする糖化工程と、前記糖化物を原料として酵母を添加してエタノール発酵を行う発酵工程とからなる処理方法(特許文献1参照)や、酵素糖化処理によって糖を製造し、さらにエタノール発酵によって糖からエタノールを製造する方法において、酵素糖化処理の前に、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物のエタノール水溶液を用いて、リグノセルロース系バイオマスを蒸解処理することにより糖を製造することを特徴とする前処理方法(特許文献2参照)が報告されているが、リグノセルロースの物理的、化学的処理はコストや環境負荷の問題が解決しておらず、未だ実用化には至っていない。
【0004】
リグノセルロースの約25%を占める五炭糖の一種であるキシロースをバイオエタノール生産の原料とすることができれば、リグノセルロース系バイオマス活用が拡大すると期待される。しかしながら、一般的なエタノール生産酵母であるサッカロマイセス・セレビシエはキシロース資化能を有さないため、サッカロマイセス・セレビシエを用いた場合、キシロースをエタノール生産の原料とすることができない。
【0005】
近年、遺伝子組換え等によりキシロース資化能を付与した微生物、例えば、キシロース異性化酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物で形質転換し、キシロースを炭素源として利用する能力を付与された真菌宿主細胞(特許文献3参照)や、ADH1遺伝子及びADH4遺伝子を減弱化することで、キシロースからのエタノール収率を向上するように改変されたクルイベロマイセス属に属する変異体酵母(特許文献4参照)や、グリシン合成系タンパク質の遺伝子及び/又はメチオニン合成系タンパク質の遺伝子の発現機能を喪失させ、かつキシロース代謝酵素遺伝子を導入することで、キシロースの資化速度が上昇した微生物(特許文献5参照)が報告されている。
【0006】
しかしながら、遺伝子組換え微生物は、自然界に存在しない微生物であるため、生態系への影響の関係上、遺伝子組換え微生物を用いてエタノール生産を行わせる場合には、エタノール生産を行った発酵タンクから遺伝子組換え微生物が絶対に漏出しないように、気密性の高い設備を用意する必要がある等、いわゆる生物学的封じ込めに関する多くの制約を生じる。さらに、漏出した場合に備えた付随装置も必要となると共に、発酵終了時には、完全に殺菌して廃棄しなければならない等のコスト高の要因となる。
【0007】
また、本発明者らは、耐熱性エタノール生産株であるクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042を用い、炭素源として様々な五炭糖や六炭糖を用いてエタノール生産を検討したが、五炭糖のみを炭素源とするとエタノール生産性は非常に低いこと(非特許文献1参照)や、エタノールを生産可能な耐熱性細菌であるザイモモナス菌において高温等の酸化ストレスに対してシトクロムCペルオキシダーゼが関与していること(非特許文献2参照)を報告した。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2005-058055号公報
【特許文献2】特開2013-042727号公報
【特許文献3】特開2012-231794号公報
【特許文献4】特開2012-210169号公報
【特許文献5】特開2012-183013号公報
【0009】

【非特許文献1】Rodrussamee N et al. (2011) Appl. Microbiol. Biotechnol. 90: 1573-1586
【非特許文献2】Charoensuk K et al. (2011) J. Mol Microbiol. Biotechnol. 20 (2): 70-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、キシロースを資化してエタノールを生産する酵母を得る方法として遺伝子組換え技術を利用した方法が提案されているが、遺伝子組換え微生物の漏出防止等のコスト高の問題がある。そこで、本発明の課題は、遺伝子組換え技術を用いずに、キシロースを資化してエタノールを高効率に生産する酵母を生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、耐熱性を更に高めるために種々の実験を実施した。その中で、過剰な鉄イオンを含む培地で好気的に耐熱性酵母であるクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042を培養して鉄耐性株を分離し、詳しく解析した。
【0012】
その結果、鉄耐性株は親株と同程度の耐熱性を有していたが、予想外にも、キシロースを炭素源として加えた培地で培養してエタノールを生産した場合に、親株であるクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042よりもエタノール生産性が高いことを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は[1](a)鉄塩を5~30mM含有する培地でクルイベロマイセス属に属する酵母を好気的に培養する工程;(b)工程(a)において生育した鉄耐性変異酵母を単離する工程;(c)キシロースを炭素源とした培地で、工程(b)において単離した鉄耐性変異酵母を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度が、工程(a)の培養に用いた酵母を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度の1.5倍以上である鉄耐性変異酵母を選抜する工程;の工程(a)~(c)を備えたことを特徴とするキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法や、[2]工程(a)において、鉄塩が硫酸第一鉄又はその水和物であることを特徴とする上記[1]記載のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法や、[3]上記[1]又は[2]記載の生産する方法により得られたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を、キシロースを炭素源として加えた培地で培養することを特徴とするエタノールの生産方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明におけるキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法で生産されたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母は、キシロースを炭素源とした培地で培養することで、エタノールを効率的に生産可能である。また、前記エタノール生産酵母は、遺伝子組換え酵母ではないため、前記エタノール生産酵母を用いてエタノールを生産すると、遺伝子組換え微生物を用いてエタノールを生産する場合と比べてエタノール生産コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】鉄過剰YPD寒天培地で生育したコロニーをピックアップし、新しい鉄過剰YPD寒天培地に塗布して培養した結果を示す図である。
【図2】鉄耐性変異酵母を培養した培養液の懸濁度(OD660)を測定した結果を示す図である。
【図3】鉄耐性変異酵母を培養した培養液中のエタノール濃度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明におけるキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法としては、鉄塩を5~30mM含有する培地でクルイベロマイセス属に属する酵母を好気的に培養する工程(a);工程(a)において生育した鉄耐性変異酵母を単離する工程(b);キシロースを炭素源とした培地で、工程(b)において単離した鉄耐性変異酵母を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度が、工程(a)の培養に用いた酵母を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度の1.5倍以上である鉄耐性変異酵母を選抜する工程(c);の工程(a)~(c)を備えた方法(以下、「本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法」という場合がある)であれば特に制限されず、かかる方法により、キシロースを資化し、エタノールを効率的に生産する鉄耐性変異酵母を生産することが可能となる。

【0017】
本発明において、キシロース資化能とは、キシロースを代謝する能力を意味する。かかるキシロース資化能は、キシロースを含有する培地で酵母を培養し、培養開始からの培地に含まれるキシロースの消費量を指標にして評価することができ、具体的にはYP培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、pH7.0)にキシロースを2%添加した液体培地(以下、「YPXyl培地」という場合がある)で30℃の条件下で酵母を48~72時間培養し、キシロースが50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上消費される場合に、前記酵母はキシロース資化能を有するということができる。なお、キシロースの消費量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた公知の手法により測定することができる。

【0018】
本発明において、エタノール生産酵母とは、糖を分解してエタノールを生成しうる酵母を意味し、かかるエタノール生産酵母としては、YPXyl培地で30℃の条件下で48~72時間酵母を培養した場合に、0.15%(W/V)以上のエタノールを生産しうる酵母を例示することができ、0.2%(W/V)以上のエタノールを生産しうる酵母を好適に例示することができ、0.3%(W/V)以上のエタノールを生産しうる酵母をより好適に例示することができ、0.35%(W/V)以上のエタノールを生産しうる酵母を特に好適に例示することができ、0.4%(W/V)以上のエタノールを生産しうる酵母を最も好適に例示することができる。

【0019】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(a)において、鉄塩を5~30mM含有する培地(鉄過剰培地)としては、一般的に酵母の培養に用いられるYPD寒天培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース、2%寒天)、YPAD寒天培地(2%バクトペプトン、1%酵母エキス、2%グルコース、40μl/ml硫酸アデニン、2%寒天)、SD寒天培地(2%グルコース、0.67%Lアミノ酸不含イーストニトロジェンベース、2%寒天)、YM寒天培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽抽エキス、0.5%ペプトン、1%グルコース、2%寒天)等の培地に鉄塩を添加した培地を例示することができ、培地中に含有される鉄塩の濃度としては、5~30mM、好ましくは10~20mMを例示することができる。鉄塩としては、2価の鉄イオン(Fe2+)を生成するものであれば特に制限されないが、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、塩化第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、オロチン酸第一鉄、酢酸第一鉄、及びこれらの水和物等を例示することができるが、硫酸第一鉄又はその水和物を好適に例示することができる。かかる鉄塩は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。

【0020】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(a)において、クルイベロマイセス属に属する酵母を好気的に培養する際の培養温度としては、30℃~37℃を例示することができる。また、好気的に培養するとは、分子状酸素の存在下で培養することを意味する。培地のpHとしては、pH4~8、好ましくはpH5~7を例示することができる。

【0021】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(a)において、クルイベロマイセス属に属する酵母としては、クルイベロマイセス・マルシアヌス(K.marxianus)、クルイベロマイセス・エスツアリー(K.aestuarii)、クルイベロマイセス・アフリカヌス(K.africanus)、クルイベロマイセス・バシリスポラス(K.bacillisporus)、クルイベロマイセス・ブラタエ(K.blattae)、クルイベロマイセス・ブルガリカス(K.bulgaricus)、クルイベロマイセス・デルフェンシス(K.delphensis)、クルイベロマイセス・ドブザンスキー(K.dobzhanskii)、クルイベロマイセス・ドロソフィラム(K.drosophilarum)、クルイベロマイセス・ヒュベイエンシス(K.hubeiensis)、クルイベロマイセス・ラクティス(K.lactis)、クルイベロマイセス・ロデリ(K.lodderae)、クルイベロマイセス・ノンファーメンタス(K.nonfermentans)、クルイベロマイセス・ピセア(K.piceae)、クルイベロマイセス・ファフィー(K.phaffii)、クルイベロマイセス・ファゼオロスポラス(K.phaseolosporus)、クルイベロマイセス・ポリスポラス(K.polysporus)、クルイベロマイセス・シネンシス(K.sinensis)、クルイベロマイセス・サーモトレランス(K.thermotolerans)、クルイベロマイセス・バヌデニー(K.vanudenii)、クルイベロマイセス・ベロネ(K.veronae)、クルイベロマイセス・ウィケニー(K.wikenii)、クルイベロマイセス・ワルティ(K.waltii)、クルイベロマイセス・ウィッカーハミー(K.wickerhamii)及びクルイベロマイセス・ヤロウィ(K.yarrowii)を例示することができるが、耐熱性酵母として知られているクルイベロマイセス・マルシアヌスを好適に例示することができ、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042をより好適に例示することができる。

【0022】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(b)において、工程(a)において生育した鉄耐性変異酵母を単離する方法としては、工程(a)によってクルイベロマイセス属に属する酵母を好気的に培養し、生育したコロニーを鉄耐性変異酵母として分離する方法を例示することができるが、工程(a)によってクルイベロマイセス属に属する酵母を好気的に培養し生育したコロニーを分離し、分離した株を、親株が生育できない鉄塩を5~30mM含有する培地で30℃~37℃の温度条件下で培養し、大きいコロニーを鉄耐性変異酵母として分離する方法を好適に例示することができる。

【0023】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(c)において、キシロースを炭素源とした培地とは、エタノール合成の基質となる糖成分としてキシロースを含み、キシロース以外の糖類、すなわち、グルコース、セルロース、アラビノース、マンノース、キシラン、マンナン等の糖類、特に糖類の中でも六炭糖、を含まない液体培地を意味し、前記液体培地としては、YPXyl培地を例示することができる。

【0024】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(c)において、工程(b)において単離した鉄耐性変異酵母を48~72時間培養する場合と、工程(a)の培養に用いた酵母(親株)を48~72時間培養する場合には、互いに同じ培地、培養温度、培地のpHで培養するものとし、前記単離した耐熱性変異酵母及び前記酵母(親株)それぞれをYPXyl培地で30℃の条件下で48~72時間培養することを例示することができる。また、培養方法としては、振とう培養や静置培養を例示することができるが、振とう培養を好適に例示することができる。さらに、エタノール生産効率を高めるためには好気的に培養することが好ましい。

【0025】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(c)において、培地中のエタノール濃度を測定する方法としては特に制限されないが、培地を低速で遠心分離し、酵母や含有固形分を除いて上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析する方法や、酢酸菌由来の精製アルコールデヒドロゲナーゼを用いた方法(Adachi O.et al.(1978) Agric.Biol.Chem.42:2045-56)を例示することができる。

【0026】
本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法の工程(c)において、工程(b)において単離した鉄耐性変異酵母を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度が、工程(a)の培養に用いた酵母(親株)を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度の1.5倍以上である鉄耐性変異酵母を選抜する方法としては、工程(b)において単離した鉄耐性変異酵母をキシロースを炭素源とした培地で48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度と、工程(a)の培養に用いた酵母(親株)を48~72時間培養したときの培地中のエタノール濃度とを測定し、前者のエタノール濃度が後者のエタノール濃度の1.5倍以上である鉄耐性変異酵母を選抜する方法を例示することができるが、2倍以上、好ましくは3.5倍以上、より好ましくは4.5倍以上である鉄耐性変異酵母を選抜する方法を特に好適に例示することができる。

【0027】
選抜された鉄耐性変異酵母は、遺伝子組換え手法を用いていない自然変異酵母のため、エタノールの生産に前記変異酵母を用いた場合においても、前記変異酵母の漏出防止のための設備が不要であると共に、30℃以上の高温でエタノールを発酵生産する能力を有しており、発酵装置の冷却コストの低減、他種の微生物のコンタミネーションの低減等、エタノール発酵生産のコスト削減と効率化が可能となる。

【0028】
本発明におけるエタノールの生産方法としては、前記キシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法により得られたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を、キシロースを炭素源として加えた培地で好ましくは30℃以上の温度条件下で培養するエタノールの生産方法(以下、「本発明のエタノールの生産方法」という場合がある)であれば特に制限されず、かかる本発明のエタノール生産方法により、キシロースからエタノールを効率的に生産することが可能となる。

【0029】
本発明のエタノールの生産方法における、キシロースを炭素源として加えた培地とは、エタノール合成の基質となる糖成分として少なくともキシロースを含有する培地を意味する。かかるキシロースを含有する培地としては、YPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)、YPAD培地(2%バクトペプトン、1%酵母エキス、2%グルコース、40μl/ml硫酸アデニン)、SD培地(2%グルコース、0.67%Lアミノ酸不含イーストニトロジェンベース)、YM培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽抽エキス、0.5%ペプトン、1%グルコース)、YP培地等の酵母に一般的に用いられる培地にキシロースを加えた培地を例示することができ、キシロースと共にグルコース、スクロース、又はフルクトースといった純粋な糖やそれらの混合物を加えてもよく、また、補助成分として窒素源、カリウム源、又はマグネシウム源等の微量金属を加えてもよい。

【0030】
さらに、キシロースを炭素源として加えた培地として、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を加えた培地を用いてもよく、糖化液を作製する方法としては特に制限されないが、多糖類を分解する酵素を用いて資化可能な単糖類にまで分解することにより作製する方法や、多糖類を分解する能力を有する微生物により多糖類を加水分解し、資化可能な単糖類にまで分解することにより作製する方法を例示することができる。

【0031】
なお、本発明のクルイベロマイセス・マルシアヌスの鉄耐性変異酵母は30℃以上の高温でのエタノール発酵が可能であることから、培地中でリグノセルロース系バイオマスの酵素による糖化処理とエタノール発酵を同時に行ってもよい。培地に含有するキシロース量としては、0.5~20%を例示することができ、1.0~15%を好適に例示することができる。

【0032】
本発明のエタノールの生産方法において、培養する温度としては好ましくは30℃以上であり、より好ましくは30℃~37℃を例示することができる。また、培養方法としては、振とう培養、撹拌培養、振とう撹拌培養、連続培養静置培養、又はこれらの組み合わせを例示することができ、振とう培養又は撹拌培養を好適に例示することができる。培養時間としては、1~10日を例示することができ、2~7日を好適に例示することができ、2~3日をより好適に例示することができる。

【0033】
本発明におけるエタノールの生産方法において、培地から生産されたエタノールを回収する方法としては、従来公知のいかなる方法も適用することができ、例えば、固液分離操作によってエタノールを含む液層と、酵母や固形成分を含有する固層とを分離し、その後、液層に含まれるエタノールを蒸留法によって分離・精製することで回収する方法を例示することができる。
【実施例】
【0034】
[鉄過剰培地におけるクルイベロマイセス属に属する酵母の培養]
YPD培地(pH7)5mlにクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042を一白金耳植菌し、30℃で18時間好気的条件下で培養した。培養液0.1mlを、18mMとなるように硫酸第一鉄・七水和物を添加したYPD寒天培地(以下、「鉄過剰YPD寒天培地」という場合がある)に播いて、30℃で2日好気的条件下で培養した。生育した複数のコロニーをピックアップし、新しい鉄過剰YPD寒天培地に塗布し、再度30℃で2日好気的条件下で培養した。結果を図1に示す。
【実施例】
【0035】
図1中、再上段左はクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042(親株)、その他は鉄過剰YPD寒天培地で生育した複数のコロニーをそれぞれ塗布して培養した結果である。新しい鉄過剰YPD寒天培地で培養した結果、特に生育がよい株、すなわちコロニーが大きい株を7株ほど選択し、鉄耐性変異酵母として、それぞれの株をSNT01、SNT02、SNT03、SNT04、SNT05、SNT06、SNT07と命名した。
【実施例】
【0036】
[鉄耐性変異酵母の増殖及び培地中のエタノール濃度]
上述で得られた鉄耐性変異酵母(SNT01~07)及びクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042(親株)を、三角フラスコ中のYP培地(pH7)5mlに一白金耳植菌して、30℃の温度条件下、18時間振とう培養(160rpm)して前培養液を得た。次に、三角フラスコ中のYPxyl培地100mlに懸濁度(OD660)=0.1となるように前培養液を移し、30℃の温度条件下で振とう培養(160rpm)した。
【実施例】
【0037】
培養開始から24時間、48時間、72時間、96時間後の鉄耐性変異酵母及びクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042の増殖及び培地中のエタノール濃度を測定した。鉄耐性変異酵母及びクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042の増殖は、培養液の懸濁度(OD660)を分光光度計で測定することで求めた。培地中のエタノール濃度は、培養液を遠心分離(1,400rpm、1分)し、上清をメンブレンフィルター(日本ポール社製)でろ過して検液とし、高速液体クロマトグラフィー(日立ハイテクノロジーズ社製)で測定することで求めた。培地中のエタノール濃度の測定における高速液体クロマトグラフィーの分析条件として、カラムはGelpack(登録商標)GL-C610-S(日立ハイテクノロジーズ社製)を使用し、計測時のオーブン温度は60℃、カラム内の流速は0.3ml/分とし、移動相にはイオン交換水を用いた。
【実施例】
【0038】
培養液の懸濁度(OD660)の測定結果を図2に示す。縦軸はOD660の値を、横軸は培養開始からの時間(hour)を表す。図2に示すように、鉄耐性変異酵母もクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042も48時間までOD660の値が増加し、その後72時間まではほぼ一定となるが、72時間を超えると再びOD660の値が増加した。また、鉄耐性変異酵母におけるOD660の値は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042におけるOD660よりは低いものの、あまり差はみられなかった。
【実施例】
【0039】
次に、培地中のエタノール濃度の測定結果を図3に示す。縦軸はエタノール濃度%(w/v)を、横軸は培養開始からの時間(hour)を表す。図3に示すように、いずれの株においても培養開始から48時間、72時間においてエタノール濃度が高く、培養開始から72時間を超えるとエタノール濃度が減少していた。また、培養開始から24時間、48時間、72時間、96時間のいずれにおいても、鉄耐性変異酵母のエタノール濃度はクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042のエタノール濃度に対して高濃度であり、48時間の場合、SNT01で4.1倍、SNT02で4.4倍、SNT03で2.4倍、SNT04で4.5倍、SNT05で4.4倍、SNT06で3.9倍、SNT07で4.6倍であり、72時間の場合、SNT01で5.2倍、SNT02で5.5倍、SNT03で2.9倍、SNT04で5.6倍、SNT05で4.3倍、SNT06で4.2倍、SNT07で5.1倍であった。さらに、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042では96時間後にはエタノール濃度が0となっていたが、鉄耐性変異酵母は培養後72時間のエタノール濃度に対してSNT01で72%、SNT02で73%、SNT03で34%、SNT04で76%、SNT05で64%、SNT06で76%、SNT07で82%のエタノール濃度を維持していた。
【実施例】
【0040】
上記結果より、本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法によって、親株であるクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042よりもキシロースを資化し、エタノールを効率的に生産できる酵母を生産することが可能であること、及び本発明のキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を生産する方法によって得られたキシロース資化能を有するエタノール生産酵母を、キシロースを炭素源として加えた培地で30℃以上の温度条件下で培養することでエタノールの効率的な生産が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によると、キシロースを資化してエタノールを効率的に生産可能な酵母を生産することができ、エタノール生産分野において有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2