TOP > 国内特許検索 > 微生物を用いた炭化水素の製造方法 > 明細書

明細書 :微生物を用いた炭化水素の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-096050 (P2015-096050A)
公開日 平成27年5月21日(2015.5.21)
発明の名称または考案の名称 微生物を用いた炭化水素の製造方法
国際特許分類 C12P   5/00        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12P 5/00
C12M 1/00 D
請求項の数または発明の数 21
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2013-237266 (P2013-237266)
出願日 平成25年11月15日(2013.11.15)
発明者または考案者 【氏名】渡邉 信
【氏名】彼谷 邦光
【氏名】小瀬 良治
【氏名】松浦 裕志
【氏名】小出 昌弘
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100182730、【弁理士】、【氏名又は名称】大島 浩明
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B064
Fターム 4B029AA02
4B029BB04
4B029DB01
4B029DB15
4B029DF08
4B029GB02
4B029GB07
4B064AB04
4B064CA05
4B064CC12
4B064CC22
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA20
要約 【課題】炭化水素を産生する微生物の培養において炭化水素を効率よく産生することを可能にする方法の提供。
【解決手段】本発明者らは、炭化水素産生微生物の培養において、KLa(酸素移動容量係数)が一定であるにも拘らず、撹拌動力の増減に伴い炭化水素の生産効率が増減するという現象を初めて見出し、かかる現象は、撹拌動力が、培養系への酸素の移動量から独立して、微生物の生理活性に影響を及ぼしていることを示唆する。かかる新規かつ驚異的な知見を利用して、本発明者らは、撹拌動力と通気量の関数により導き出される酸素移動容量係数、及び撹拌動力から導き出される撹拌器線速度の両変数を調整制御して、それらを微生物の炭化水素産生効率が最大となる所定の数値範囲内に維持することにより、従来技術よりも確実に微生物の最適な培養条件を特定できること見出し、本発明を完成するに至った。
【選択図】図7
特許請求の範囲 【請求項1】
炭化水素を産生することができる微生物を、少なくとも炭素源および窒素源を含む培地中で、撹拌動力と通気量が調整制御可能な培養装置を用いて、撹拌動力と通気量で制御される酸素移動容量係数及び撹拌動力で制御される撹拌器線速度の両変数を制御しながら培養すること、を特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記培養装置を用いて、酸素移動容量係数(KLa)が10(hr-1)から30(hr-1)となるように、撹拌動力と通気量が調整制御されること、を特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸素移動容量係数が、15(hr-1)から20(hr-1)であること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養装置を用いて、撹拌器線速度が40(m/ min)から60(m/min)となるように、撹拌動力と通気量が調整制御されること、を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記撹拌器線速度が43(m/ min)から56(m/ min)であること、を特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記培養が、72~120時間実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記培養が、84~108時間実施される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素がスクワレンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記微生物がラビリンチュラ綱生物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記微生物がオーランチオキトリウム属生物である、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記微生物がオーランチオキトリウム属tsukuba-3株(FERM AP-22047)である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記培養装置が、培養槽、スパージャ、撹拌器、邪魔板、及び造波板のいずれか1つ以上を備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記培養装置が撹拌器と培養槽を備える場合であって、その撹拌器の直径が培養槽の内径の55~65%である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養装置が撹拌器と培養槽を備える場合であって、その撹拌器の直径が培養槽の内径の57~60%である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記培養装置が邪魔板と撹拌器と培養槽を備える場合であって、その邪魔板と撹拌器との間隙が培養槽の内径の20~25%である、請求項12~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記培養装置が邪魔板と撹拌器と培養槽を備える場合であって、その邪魔板と撹拌器との間隙が培養槽の内径の22~24%である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記培養装置の培養槽内上部に造波板を備える場合であって、その造波板の高さの下部20~60%が培養液中に浸漬するように設置する、請求項12~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~17の方法を実施するための培養装置において、
培養槽と、
該培養槽内に配設された撹拌器と、
前記培養槽内において前記撹拌器の上方部分に配置された造波板と、
前記培養槽の底部に配置されたスパージャとを具備した培養装置。
【請求項19】
前記撹拌器は、前記培養槽内を上下方向に延びる回転軸に固定された少なくとも2枚の羽根を具備しており、該羽根は、前記回転軸からオフセットされ該回転軸に対して平行な平面内に配置されている請求項17に記載の培養装置。
【請求項20】
前記少なくとも2枚の羽根の各々は、その上方部分にのみ複数の開口部が形成されている請求項19に記載の培養装置。
【請求項21】
前記造波板は、前記培養槽内の培地の表面を横断するように配置された複数の開口部を有した板部材より成る請求項18に記載の培養装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を産生することができる微生物を、撹拌動力と通気量が調整制御可能な培養装置を用いて、撹拌動力と通気量で制御される酸素移動容量係数及び撹拌動力で制御される撹拌器線速度の両変数を制御しながら培養することを特徴とする炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物細胞が産生する産物から得られるバイオマス、特にバイオ燃料は、近年、地球温暖化又は埋蔵資源の枯渇等の問題から注目を集めている。このバイオマスの中でも、微生物が産生する炭化水素やトリアシルグリセロール等のオイル又は多糖類は、食料と競合せず、大量培養が可能であることから、工業的利用の期待が高く、微生物からのバイオ燃料やその他の有用成分の獲得が有望視されている。しかしながら、工業的に微生物の大量培養を行うには、運転コストや、培地に用いる大量の水資源および栄養塩の確保等の、経済的な問題点を解決せねばならない。
【0003】
一方で、微生物の増殖速度及び所望の化合物の生産速度は微生物の培養条件により著しく変動するため、微生物が最大の効率で目的の化合物を生産する培養条件の最適化は、工業的生産におけるコストを削減するのに極めて有用である。
【0004】
従って、微生物を利用した有用成分の生産技術を工業的スケールで実現するにあたり、微生物の培養条件の最適化は、当該技術の経済的側面での有用性を向上させる点で、重要な技術である。
【0005】
微生物を用いた炭化水素製造方法において、微生物の培養条件の僅かな差異により、生産効率が数倍、数十倍の尺度で変動することがある。故に、特に医薬や化粧品の材料等の希少な炭化水素を生産する場合や、大規模な培養系による生産を行う場合、予め実験段階で最適な培養条件を検討し、最大の効率で生産物を取得するように努めることにより、目的の生産技術の利用価値を飛躍的に高めることが出来る。
【0006】
好気性微生物の培養において、培養環境への持続的な酸素の供給は必須であり、酸素供給のレベルは、微生物の増殖速度又は目的の化合物の生合成速度に顕著な影響を及ぼす。
【0007】
液体培養の培養環境への酸素の供給は、酸素を含有する気体を液体培地に通気することにより行われる。この場合に、酸素の供給レベルを表現するパラメーターとして最も単純なのは、通気量である。しかしながら、通気量は、通気したガス中の酸素が液体培地中に移動する効率を直接反映するパラメーターではない。例えば通気量が一定であっても、液体培地を撹拌する速度が増大すれば、液体への酸素の移動量も増大することになる。
【0008】
KLa(酸素移動容量係数)は、酸素が液体に移動する効率を表し、通気量と撹拌器回転数の関数で求められる。特に、培養槽の形式や規模が異なっても、KLaを等しくすれば同一の培養成績を得られるため、スケールアップが考慮される培養技術において重要視される。
【0009】
微生物培養の増殖効率又は微生物による物質生産効率を最適化する指標としてKLaを採用している先行技術は幾つか存在する。
【0010】
特開2007-195542(特許文献1)には、微生物農薬に用いられるバシルス属細菌の胞子を高濃度且つ高発芽率の状態で取得するために、KLaに基づく酸素供給量及び撹拌機の回転数調節が行われることが記載されている。
【0011】
特開2010-213669(特許文献2)には、D-乳酸を生成する活性を有する微生物をKLaが所定の範囲内となる好気的条件下、グリセロールを炭素源とする培地で培養することにより、効率良くD-乳酸を得る方法が記載されている。また、特開2008-029272(特許文献3)には、5-アミノレブリン酸生産微生物であるロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides )を、KLaを好気条件での微生物の呼吸速度で除した値が所定の範囲となる条件下で培養することにより、当該微生物による高い生産性が実現すること、及び、この値が培養槽のスケールによらないことが記載されている。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開2007-195542号公報
【特許文献2】特開2010-213669号公報
【特許文献3】特開2008-029272号公報
【特許文献4】特開平7-115981号公報
【特許文献5】特開平5-90号公報
【特許文献6】特許第2663039号公報
【特許文献7】WO 2012/077799
【0013】

【非特許文献1】BioScience, Biotechnology, and Biochemistry 75, 2246-2248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、炭化水素を産生する微生物の培養において炭化水素を効率よく産生することを可能にする条件を見出すべく鋭意研究した結果、驚くべきことに、培養装置を用いて酸素移動容量係数が所定の数値範囲内となるように撹拌動力と通気量を調整制御した場合であっても、撹拌動力の増減に伴い、炭化水素の生産効率が増減することを見出した。例えば、微生物のスクワレン生産効率と撹拌器線速度との関係を示す本願図7のグラフにおいて、KLaをいずれの数値に維持した場合も、撹拌器線速度(撹拌動力のパラメーター)45~50m/minにおいて明確なピークが認められる。このことから、酸素移動容量係数は、従来考えられていたように、単独で微生物の培養効率を最適化するのに十分なパラメーターではなく、撹拌動力の制御と組み合わせることにより、更に培養条件を最適化できることが示唆された。
【0015】
従来技術において、撹拌動力が微生物の培養成績に影響するのは、当該パラメーターが、培養系の液相への酸素の移動量を規定するものであるためと認識されていた。そのため、KLaを培養条件の指標とする従来の微生物培養方法において、撹拌動力を指標とした更なる培養条件の検討は行われていなかった。
【0016】
しかしながら、KLaが一定であるにも拘らず撹拌動力の増減に伴い炭化水素の生産効率が増減するという現象を本発明者らが初めて見出し、かかる現象は、撹拌動力が、培養系への酸素の移動量から独立して、微生物の生理活性に影響を及ぼしていることを示唆する。
【0017】
以上の新規かつ驚異的な知見を利用して、本発明者らは、撹拌動力と通気量の関数により導き出される酸素移動容量係数、及び撹拌動力から導き出される撹拌器線速度の両変数を調整制御して、それらを微生物の炭化水素産生効率が最大となる所定の数値範囲内に維持することにより、従来技術よりも確実に微生物の最適な培養条件を特定できること見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本願は、以下の発明を提供する。
1.炭化水素を産生することができる微生物を、少なくとも炭素源および窒素源を含む培地中で、撹拌動力と通気量が調整制御可能な培養装置を用いて、撹拌動力と通気量で制御される酸素移動容量係数及び撹拌動力で制御される撹拌器線速度の両変数を制御しながら培養すること、を特徴とする炭化水素の製造方法。
2.前記培養装置を用いて、酸素移動容量係数(KLa)が10(hr-1)から30(hr-1)となるように、撹拌動力と通気量が調整制御されること、を特徴とする1に記載の製造方法。
3.前記酸素移動容量係数が、15(hr-1)から20(hr-1)であること、を特徴とする2に記載の方法。
4.前記培養装置を用いて、撹拌器線速度が40(m/ min)から60(m/min)となるように、撹拌動力と通気量が調整制御されること、を特徴とする1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
5.前記撹拌器線速度が43(m/ min)から56(m/ min)であること、を特徴とする4に記載の製造方法。
6.前記培養が、72~120時間実施される、1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
7.前記培養が、84~108時間実施される、6に記載の製造方法。
8.前記炭化水素がスクワレンである、1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
9.前記微生物がラビリンチュラ綱生物である、1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
10.前記微生物がオーランチオキトリウム属生物である、1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
11.前記微生物がオーランチオキトリウム属tsukuba-3株(FERM AP-22047)である、1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
12.前記培養装置が、培養槽、スパージャ、撹拌器、邪魔板、及び造波板のいずれか1つ以上を備える、1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
13.前記培養装置が撹拌器と培養槽を備える場合であって、その撹拌器の直径が培養槽の内径の55~65%である、12に記載の製造方法。
14.前記培養装置が撹拌器と培養槽を備える場合であって、その撹拌器の直径が培養槽の内径の57~60%である、13)に記載の製造方法。
15.前記培養装置が邪魔板と撹拌器と培養槽を備える場合であって、その邪魔板と撹拌器との間隙が培養槽の内径の20~25%である、12~14のいずれか1項に記載の製造方法。
16.前記培養装置が邪魔板と撹拌器と培養槽を備える場合であって、その邪魔板と撹拌器との間隙が培養槽の内径の22~24%である、15に記載の製造方法。
17.前記培養装置の培養槽内上部に造波板を備える場合であって、その造波板の高さの下部20~60%が培養液中に浸漬するように設置する、12~16のいずれか1項に記載の製造方法。
18.1~17の方法を実施するための培養装置において、
培養槽と、
該培養槽内に配設された撹拌器と、
前記培養槽内において前記撹拌器の上方部分に配置された造波板と、
前記培養槽の底部に配置されたスパージャとを具備した培養装置。
19.前記撹拌器は、前記培養槽内を上下方向に延びる回転軸に固定された少なくとも2枚の羽根を具備しており、該羽根は、前記回転軸からオフセットされ該回転軸に対して平行な平面内に配置されている17に記載の培養装置。
20.前記少なくとも2枚の羽根の各々は、その上方部分にのみ複数の開口部が形成されている19に記載の培養装置。
21.前記造波板は、前記培養槽内の培地の表面を横断するように配置された複数の開口部を有した板部材より成る18に記載の培養装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、微生物による炭化水素産生効率を最適化して、炭化水素製造にかかるコストの軽減を図ることができる。
【0020】
驚くべきことに、スクワレン産生藻類オーランチオキトリウムTsukuba-3は、KLa及び撹拌器線速度が一定範囲内となるように撹拌動力と通気量を調節することで、顕著に良好な効率でスクワレンが生産されることが判明した。撹拌器線速度及びKLaは生産系のスケールにより変動しないので、本発明の如く必要に応じてスケールアップが見込まれる培養系において、これらを指標として培養条件を最適化するのは有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明においてスクワレン産生藻類オーランチオキトリウム・tsukuba-3株の培養に用いられる、3.5Lの培養装置10を示す。
【図2】図1の培養装置10を上方から見た略示断面図である。
【図3】図3は、3.5Lの培養装置における、通気量及び撹拌器回転数とKLaとの関係を示す。
【図4】図4は、10Lの培養装置における、通気量及び撹拌器回転数とKLaとの関係を示す。
【図5】図5は、3.5Lの培養装置の造波板の有無とKLaの関係を示す。
【図6】図6は、3.5Lの培養装置においてKLa20で撹拌器線速度を幾つかの数値に設定した培養系の、スクワレン生産量のタイムコースを示す。
【図7】図7は、KLa及び撹拌器線速度を幾つかの数値に設定した培養系の、96時間時点でのスクワレン生産量を示す。
【図8】図8は、KLa及び撹拌器線速度を幾つかの数値に設定した培養系の、96時間時点での培養液濁度を示す(OD660)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の炭化水素製造方法に使用される炭化水素産生能を有する微生物は、炭化水素産生能を有する微生物であれば、いずれのものでもよく、真正細菌又は古細菌等の原核生物、及び藻類、原生動物、植物、菌又は動物等の真核生物の全ての細胞が含まれる。当該細胞は、好ましくは藻類、植物、菌の細胞であり、特に藻類の細胞である。「藻類」には、ラビンリンチュラ類、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類、真正眼点藻類、クロララクニオン藻類、ユーグレナ藻類、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類などがあり、好ましくは、微細藻類とよばれる、ラビンリンチュラ類、藍藻類、珪藻類、真正眼点藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類、ユーグレナ藻類、プラシノ藻類や緑藻類がある。

【0023】
本発明の炭化水素製造方法に使用される炭化水素産生微生物は、好ましくは、ラビリンチュラ(Labyrinthula)類に属する。ラビリンチュラ類は、卵菌類に属するものであるが、系統的には他の菌類とちがって褐藻類や珪藻類等の不等毛植物と近縁の系統であり、不等毛植物とともにストラメノパイル系統を構成するものである。これまで知られている本科の株は、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)等の高度不飽和脂肪酸を多量に蓄積する性質を有する株(SR21株、特許第2764572号)がある。スクワレンを産生する株も知られている(G. Chen. et al. New Biotechnology 27, 382-289 (2010);Q. Li et al., J. Agric. Food Chem. 57(10), 4267-4272 (2009);及びK. W. Fan et al., World J. Microbiol. Biotechnol. 26, 1303-1309 (2010))。

【0024】
更に好ましくは、本発明の炭化水素製造方法に使用される炭化水素産生微生物は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属し、従属栄養性で、細胞内に多量のスクワレンを蓄積する株である。具体的には、例えば、本発明者が単離した新規微生物である、オーランチオキトリウム・tsukuba-3株を用いることができる(特許文献7:WO 2012/077799)。

【0025】
なお、オーランチオキトリウム・tsukuba-3株は、独立行政法人産業技術総合研究所に2010年12月7日付で寄託し、受領番号FERM AP-22047を得ている。

【0026】
本発明の方法において、炭化水素産生微生物は、その培養細胞中に所望の炭化水素を高濃度に蓄積させた後、その炭化水素分画を採取し、既知の方法で炭化水素を抽出及び精製することで、炭化水素を製造することができる。

【0027】
本発明の炭化水素製造方法は、上記炭化水素産生微生物を、天然水又は人工海水で調製した適当な培地に播種し、定法にしたがって培養することにより行われる。培地としては、炭素源及び窒素源を含む、任意の公知の培地を使用できる、例えば、炭素源としてはグルコース、フルクトース、サッカロース、デンプンなどの炭水化物の他、オレイン酸、大豆油などの油脂類や、グリセロール、酢酸ナトリウムなどがある。これらの炭素源を、例えば、培地1リットル当たり20~120gの濃度で使用する。窒素源としては、酵母エキス、コーンスチープリカー、ポリペプトン、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素、又は酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、又はタンパク質消化物等がある。無機塩としては、リン酸カリウム等を適宜組み合わせて使用できる。また、上記培地は適宜ビタミン類や、プロテアーゼペプトン、酵母抽出物等を含むこともできる。培養液中、天然水又は人工海水の割合は、約50質量%である。上記の培地は、調製後、適当な酸又は塩基を加えることにより適宜pHを調整できる。培地のpHは、pH2.0~11.0、好ましくはpH3.0~10.0、より好ましくはpH4.0~9.0、より好ましくはpH4.5~9.0であり、通常はpH6.5を用いる。当該培地に、上記炭化水素産生株を含有する溶液を添加前又は添加後に、好ましくは添加後に、当該培地をオートクレーブにより殺菌する。培養は、培養温度5~40℃、好ましくは10~35℃、より好ましくは10~30℃にて、通常3~7日間、好ましくは3~4日間培養を行う。

【0028】
本発明において炭化水素産生微生物の培養は、撹拌動力と通気量が調整制御可能な培養装置を用いて行われる。撹拌動力及び通気量を調整することにより、これらの関数で表されるKLa(酸素移動容量係数)及び撹拌器線速度を、培養する炭化水素産生微生物が最高の効率で炭化水素を産生する数値範囲内に維持する。

【0029】
前記培養装置は、撹拌動力と通気量を調整制御するための構造を備える。好ましくは、均一かつ効率的な撹拌及び通気を達成するために、前記培養装置は、円柱型の培養槽、当該培養槽中の液体培養系に空気を供給するスパージャ、当該培養槽内に設けられ液体培養系を撹拌する撹拌器、当該撹拌器の回転により生じる液体培養系の流動を撹乱する邪魔板、及び液体培養系の水面に微小な波を形成する造波板のいずれか1つ以上を備える。図1に培養装置の一例を示す。

【0030】
図1において、培養装置10は、上方に開口した有底状の容器または培養槽12、培養槽12の上方開口部を閉塞する閉蓋部材14、培養槽12内に回転自在に配設された撹拌器22、培養槽12内において撹拌器22の上方に配置された造波板26、培養槽12の底部に配置されたスパージャ30を主要な構成要素として具備している。閉蓋部材14には継ぎ手を介して空気供給管路16と排気管路18が連結されている。空気供給管路16は、培養槽12内に延設されている管路(図示せず)を介してスパージャ30に接続されている。また、閉蓋部材14は、該閉蓋部材14の中心を鉛直方向に貫通して延びる回転軸20を回転支持する。更に、閉蓋部材14は、該閉蓋部材14から培養槽12内に垂下された複数の、本例では4本の支柱24を支持している。支柱24は、閉蓋部材14の中心に対して同一円周上に等間隔に配置されている。

【0031】
図2を参照すると、パドル22は、回転軸20に取り付けられた少なくとも2枚、本例では4枚の羽根32を具備している。羽根32は、回転軸20を中心として周方向に等間隔に配置されている。羽根32は、回転軸20の中心軸線Oを通過する鉛直面内には配置されておらず、回転軸20の中心軸線Oから所定距離を以ってオフセットされ回転軸20の中心軸線Oに平行に延びる平面内に配置されている。

【0032】
羽根32の各々は、上方部分に複数の開口部32aを有し、下方部分には開口部が形成されていない。これによって、羽根32の下方部分によって、培地は培養槽12の半径方向に外側へ押し出される。羽根32の上方部分に形成された複数の開口部32aによって、羽根32の下方部分で生じた外側への流れが攪拌される。また、羽根32の各々を回転軸20に対して上述したようにオフセットすることによって、隣接する羽根32の間にふところ部Rが形成され、該ふところ部Rに抱えられた培地に流れ(流体流)が生じるようになっている。図1から理解されるように、撹拌器22は、培養槽12の底部近傍に配置されており、撹拌器22によって、外側へと押し出された培地は、培養槽12の側壁に衝突した後に上方への流動し、培地上面で、培養槽12の内方へ向かう流れ(渦流)(回転流)となり、培養槽12の中心部で下方流へとなる。

【0033】
造波板26は、回転軸20を中心として放射状に延びる4枚の板部材より成り、該板部材を厚さ方向に貫通する複数の開口部が形成されている。本例において、造波板26は、環状の板部材より成るフランジ部26aに固定されており、該フランジ部26aは支柱24によって、培養槽12内の所定高さ位置に固定されている。このように、造波板26は、培地表面の渦流(回転流)をさえぎるように設けられており、培地が開口部を乗り越えることによって、培地の表面積が増し、液面の空気層に触れることによる通気空気の培地への溶け込みが増大する。

【0034】
スパージャ30は、撹拌器22によって生じる上下流の下方流部分に設置されている。これによって、スパージャ30から気泡となって培地内に供給される通気空気と培地との接触時間が長くなり、培地中への空気の溶け込みが促進される。スパージャ30は、多数の微小孔、例えば、直径100μの微小孔を有している。

【0035】
また、本例では、培養槽12内には環状の板部材28が配置されている。板部材28は、好ましくは、培養槽12内において、撹拌器22の羽根32において開口部32aが形成されている領域と開口部が形成されていない領域の間の高さ位置に配置される。本例において、板部材28は支柱24に固定されている。また、本例では、支柱24は培養槽12内に配置された邪魔板として作用する。

【0036】
培養装置10は、特に撹拌器22、造波板26およびスパージャ30を設けることによって、以下の効果を奏する。
1)少ない通気空気量により、培養に必要な培地中への空気濃度を確保することが可能となり、通気に必要なポンプ等のエネルギー費用を低減できる。
2)培地表面からの空気の排出を低減することが可能となり、排出される空気と共に蒸発する培地の蒸発量が低減され、培地中で培養される微生物の収穫量の減少が防止され、ひいては、培地量が減少することによる培地濃度の変動を防止でき、培養条件の管理が容易になる。(培地量が変動すると、通気空気量も変化させなくてはならないが、変動しなければ変化させる必要がなくなる。)

【0037】
好ましい態様において、培養装置10の撹拌器22の直径(図2において二点鎖線で示す円Cの直径)が培養槽の内径の55~65%であり、特に好ましくは57~60%である。

【0038】
好ましい態様において、前記培養装置の邪魔板と撹拌器との間隙(図2において二点鎖線で示す円Cと支柱24の外表面との間の最短距離)は、培養槽の内径の20~25%、特に好ましくは22~24%である。

【0039】
好ましい態様において、前記培養装置上部に造波板を、造波板の高さの下部20~60%が培養液中に浸漬するように設置する。

【0040】
酸素移動容量係数(KLa)は、通気撹拌条件下で気相から液相に酸素を移動させる能力を示す係数である。hr-1で表され、同一条件ではKLaの値が大きい方が酸素移動の能力が大きい。微生物による代謝生産物の生産の場合、微生物による酸素の取り込み可能な量よりも過剰に酸素を供給することにより高効率で生産される代謝生産物もあれば、酸素の取り込み可能な量より過小に酸素を供給した方が良好に生産される代謝生産物もある。目的とする代謝生産物に応じて至適な酸素供給レベルを設定することが重要となる。

【0041】
通気撹拌条件下での気相から液相への酸素の移動は、次の式で表される。
【化1】
JP2015096050A_000003t.gif
式中、Cは溶存酸素濃度、KLaは酸素移動容量係数(hr-1)、Cは飽和酸素濃度(定数)を示す。

【0042】
f(t)=C-Cとおいてこれを微分すると、
【化2】
JP2015096050A_000004t.gif
となる。これを上記式(1)に代入して変形すると、
【化3】
JP2015096050A_000005t.gif
となる。これをtで積分すると、
【化4】
JP2015096050A_000006t.gif
となる。この式のf(t)をC-Cに戻して変形すると、
【化5】
JP2015096050A_000007t.gif
の関係式が得られる。

【0043】
上記式(2)において、時間tからt(hr)の酸素濃度の変化をみるとする。t時点の溶存酸素濃度をCとし、t時点の溶存酸素濃度をCとすると、
【化6】
JP2015096050A_000008t.gif
となり、これを変形すると、
【化7】
JP2015096050A_000009t.gif
の関係式が得られる。

【0044】
従って、KLaは、培養時に実際に用いられる培養槽中の培地に撹拌及び通気を行い、一定時間の通気前後の溶存酸素濃度を測定し、それらの数値を上記式(3)に入力することにより、求めることが出来る。溶存酸素濃度は、当業者に既知の任意の方法を用いて測定され得る。例えば、本願下記実施例では、溶存酸素計(OX3200、丸菱バイオエンジ)によるリアルタイム測定が用いられている。

【0045】
更に、ある培養槽において、上記のKLaを様々な通気量及び撹拌器回転数において求め、それらの関係式を算出する。KLaと通気量及び撹拌器回転数は、以下の関係式で表される。
【化8】
JP2015096050A_000010t.gif
式中、Nは撹拌器回転数(rpm)、Vは通気量(mL/min)を示す。撹拌器回転数又は通気量のいずれか一方を固定してもう一方の変動に応じたKLaの変化の関係性を導くことにより、定数a、b、cが求められる。これらの定数は、培養槽の同一性に依存して一定であるので、当該関係式を予め導いておけば、同一の培養槽においてKLaを所望の範囲内に収めるために必要な撹拌器回転数及び通気量を推定することが出来る。

【0046】
当該培養に採用されるKLaの範囲は、10(hr-1)~30(hr-1)、好ましくは15(hr-1)から20(hr-1)である。

【0047】
本発明において、上記KLaに加えて、撹拌動力を表す撹拌器線速度も、所定の範囲内に調整される。従って、本発明の方法は、通気量及び撹拌動力から導き出されるKLa並びに撹拌動力から導き出される撹拌器線速度の2つのパラメーターに基づいて培養条件が規定されることを特徴とする。

【0048】
当該培養に採用される撹拌動力は、撹拌器線速度で40(m/ min)~60(m/min)、好ましくは撹拌器線速度で43(m/ min)~56(m/ min)である。

【0049】
上記KLaと通気量及び撹拌器回転数の関係式が示すように、KLaを規定する変数として、撹拌器線速度と同様に撹拌動力を表す数値である撹拌器回転数が用いられている。従って、撹拌器線速度を所定の範囲内に維持した上でKLaを調整するためには、通気量が適宜増減させられることになる。

【0050】
本発明の方法において、微生物が生産した炭化水素は、当業者に既知の方法で抽出及び分析することができる。例えば、上記の通り炭化水素産生微生物を培養及び増殖させ、得られた培養液から遠心分離又は濾過等により回収したペレットを、凍結乾燥又は加温による乾燥等により乾燥させる。または、培養後の培地をそのまま炭化水素の抽出ステップに用いてもよい。

【0051】
得られた微生物の乾燥体、又は培養後の細胞を含有する培地から、有機溶媒を用いて所望の炭化水素を含有する脂質を抽出できる。抽出は、異なる有機溶媒を用いて複数回行ってもよい。有機溶媒としては、クロロホルム・メタノール混合溶媒(例えば、1:1、1:2)、又はエタノール・ジエチルエーテル混合溶媒等の極性溶媒と弱極性溶媒の混合液を用いることができる。上記抽出後に、例えば窒素気流下で濃縮乾固したサンプルから、n-ヘキサンを用いて抽出する。得られた抽出液を、当業者に既知の方法で精製する。例えば、シリカゲルや酸性白土を用い、極性脂質を吸着させて精製することができる。また、精製した炭化水素をNMR,IR、ガスクロマトグラフィー、GC/MS等により分析する。

【0052】
好ましい態様において、本発明の方法において製造される「炭化水素」とは、水素原子と炭素原子だけを含んでいる分子および前記炭素原子が共有結合して、線形、分岐、環状または部分的に環状である主鎖を形成し、その主鎖に水素原子が付着する分子である。炭化水素化合物の分子構造は、天然ガスの成分であるメタン(CH4)のような最も単純なものから、原油、石油およびビチューメンで見つかるアスファルテンのようないくつかの分子のように重質の複合体であってもよい。炭化水素は、ガスであるか、液状であるか、固形物またはこれらの形のいかなる組合せであってもよく、主鎖と隣接した炭素原子との間に一つ以上の二重または三重結合を有することができる。したがって、「炭化水素」という用語は、線形、分枝、環状または部分的に環状のアルカン、アルケンおよびパラフィンを含む。具体例としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン及びスクワレンを含む。

【0053】
特に好ましくは、本発明の方法において製造される炭化水素は、スクワレンである。

【0054】
スクワレンは、ステロール類の合成中間体であるが、従来から健康食品として世界中で使用されてきた。近年、スクワレン自体に生理活性があり、放射線障害防止効果、細胞のがん化防止効果が発見され、話題となっている。また、スクワレンを還元したスクワランは化粧品の保湿剤として広く利用される他、機械の潤滑油、及び熱交換媒体としても利用されている。

【0055】
スクワレンの主要な供給源は深海鮫であり、従来のスクワレン抽出精製法は深海鮫の肝臓を集め、熱湯中で細胞を破砕することによって遊離してくるオイル状油脂を集め、吸着剤等で精製するものであった。しかしながら、鮫は自然界より捕獲されるためその漁獲高は極めて不安定であり、供給不安の価格の変動が問題となる。また近年、深海鮫は絶滅危惧種に指定され捕獲が制限されており、自然環境保護の観点からも、深海鮫から抽出する以外の代替的スクワレン製造方法の開発が望まれている。

【0056】
有望な代替的スクワレン製造方法として、微生物によるスクワレンの生産が考案されている。例えば、原生動物に属するユーグレナから培養液1リットル当たり最大49.4mgのスクワレンを産生することが報告されている(特許文献4:特開平7-115981)。ここで乾燥重量当たりの産生量は不明だが、最高含量の脂質産生条件における全産生脂質類中のスクワレンの含量は30%程度に留まる。また、フザリウム(Fusarium)属の微生物により最大で29.176mg/g(乾燥細胞)のスクワレンが得られたことが報告されるが、特定の微生物に変異誘導する必要がある(特許文献5:特開平5-90)。さらに、酵母等から最大155.3mg/g(乾燥細胞)のスクワレンが得られたことが報告されているが、スクワレンを体内に蓄積するよう変異誘導し、且つ培地にステロール類を添加する必要がある(特許文献6:特許第2663039号)。

【0057】
本発明者らは、スクワレンを大量に産生し、増殖性に優れる、ラビリンチュラ(Labyrinthula)類、スラウストキトリウム(Thraustochytrid)科、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する新規株を見出した(非特許文献1;BioScience, Biotechnology, and Biochemistry 75, 2246-2248)。また、本発明者らは、当該オーランチオキトリウム新規株を培地中で培養させ、増殖した当該株の産生するスクワレンを採取することによる、スクワレンの製造方法も開示している(特許文献7:WO 2012/077799)。

【0058】
以下に、本発明に係る炭化水素製造方法の一例として、上記スクワレン産生微生物オーランチオキトリウム・tsukuba-3株の培養及びスクワレン収率の評価を示すが、本願発明の請求の範囲は、これらの実施例により制限されるものではない。
【実施例】
【0059】
実施例1. 酸素移動容量係数の計測
本実施例で使用される培養装置の酸素移動容量係数を、Gassing out法を用いて計測した(Stanbry, Whitaker 著、石崎訳、発酵工学の基礎 学会出版センター、1988、 p173-175)。2%グルコース(和光純薬)、1%トリプトン(Difco)、0.5%酵母エキス(Difco)1.75%コーラルプロソフト(レッドシー)を蒸留水に溶かしたGTY培地を、培養装置3.5L槽に2L、10L槽に6L充填し、121℃、30分間オートクレーブした。オートクレーブ後十分に冷まし、培養槽を25℃に設定した恒温槽中に入れた。窒素ガスを槽内に通気し溶存酸素量を十分に低下させた後、フローメーター(FCC3000-G1、コフロック)で流量を設定した乾燥空気を通気した。溶存酸素量は、溶存酸素計(OX3200、丸菱バイオエンジ)でリアルタイム測定し、通気時に溶存酸素量を2秒間隔でプロットした。プロットしたデータを、上記式(3)に代入し、酸素移動容量係数を求めた。
【実施例】
【0060】
3.5L槽では210rpm、230rpm、260rpmの条件でそれぞれ25mL/min、50mL/min、100mL/min通気した。210rpmに関しては、更に75mL/min通気時の酸素移動容量係数も求めた(図3)。10L槽では120rpm、148rpm、180rpmの条件で、それぞれ100mL/min、200mL/min、400mL/min、600mL/min通気した。148rpmに関しては、更に450mL/min通気時の酸素移動容量係数も求めた(図4)。
【実施例】
【0061】
酸素移動容量係数を求めた後、通気量とKLaを両対数グラフにプロットして上記式(4)のbを求め、撹拌器回転数とKLaを両対数グラフにプロットして上記式(4)のaを求め、KLaを求めたポイントの通気量、撹拌器回転数を上記式(4)に代入して上記式(4)のcを求めた。係数a、b及びcが決定した上記式(4)を、図3及び図4の各グラフの下に記載する。これらの関係式に基づいて、培養槽の通気量及び撹拌器回転数を調整することにより、KLaを所望の範囲内に収めることが出来る。
【実施例】
【0062】
3.5L培養槽内部にある造波板の有無によるKLaの影響をみるため、更に、造波板を有しない培養槽においても、撹拌器回転数210rpm、通気量25mL/min、50mL/min、100mL/min通気時の酸素移動容量係数を求めた。
【実施例】
【0063】
上記プロットを、造波板を有する培養槽の同条件でのプロット(図3の3.5L-2の210rpmのプロット)と比較したところ、造波板を有する培養槽は、有しないものよりもKLaが35-40%増大することが判明した(図5)。
【実施例】
【0064】
実施例2. 3.5 L培養槽培養実験
方法
オーランチオキトリウムtsukuba-3(FERM AP-22047)株を用いて試験を実施した。凍結保存用バイアル中に入れ、液体窒素中に保管していたtsukuba-3株を、37℃の恒温槽中に1分半から2分程度投入して解凍した。これをGTY培地の入った坂口フラスコに播種し、25℃、100strokes/min、72時間で前培養を実施した。培養液として、2%グルコース(和光純薬)、1%トリプトン(Difco)、0.5%酵母エキス(Difco)1.75%コーラルプロソフト(レッドシー)を蒸留水に溶かしたGTY培地を用いた。2Lの当該培地を3.5L培養槽に充填し、121℃、30分間オートクレーブをした。当該培養槽に、上記前培養した株を2 mL(当該培養槽に充填した培養液の0.1%)植菌し、25℃で培養した。本培養と同時に、オートクレーブ滅菌されたGTY培地を300mL 充填した500mL三角フラスコにも、上記前培養した株を300μL植菌した。培養後24時間、48時間、72時間、96時間、120時間後に濁度(OD660)とスクワレン量を測定した。濁度はUV-1800(島津製作所)を用いて660nmの吸光度を測定した。
【実施例】
【0065】
スクワレン量はオクタデシルベンゼンを内部標準物質として用いたHPLC法を用いた。培養液10mLを採取し、クロロホルム/メタノール(2:1、v/v)20mL、1mg/mLオクタデシルベンゼン(ACROS)クロロホルム溶液0.1mLを添加し、撹拌後有機層を減圧濃縮した。有機溶媒を除去した有機層に0.5M水酸化カリウムエタノール溶液を1mL加え、90℃1時間でけん化させた。けん化後ヘキサンで抽出し、得られた抽出物をアセトニトリル/THF(9:1、v/v)に溶解したものをサンプルとして、ODSカラム(Mightysil RP-18GP、 5μm、2.0x150mm、関東化学)、カラム温度30℃、PDA検出器を用いた210nmでの検出、移動相アセトニトリル/THF(8:2、v/v)アイソクラティック0.2mL/minの条件でHPLCシステム(Agilent1200)を用いて定量した。スクワレン量は、本培養と同時に培養した三角フラスコ培養サンプルのスクワレン量との比で求めた。
【実施例】
【0066】
実施例1で求めた関係式から、KLaが10, 15, 20, 25, 30 (hr-1)で、撹拌器回転数がそれぞれ130, 210, 260, 310 [rpm]となる時の通気量を算出し、それぞれの培養条件で培養した。通気量は、オートクレーブ時に約3%培地が減少したことから、算出した通気量を3%減少させた。3.5L槽の撹拌器の半径が38.1mmであることから、撹拌器回転数から撹拌器先端の線速度を求めた。
【実施例】
【0067】
結果
撹拌器回転数が130、210、260、310rpmの時の撹拌器先端の線速度はそれぞれ31.1、50.2、62.2、74.2(m/min)となった。KLa=20の時のスクワレン量の経時変化を図6に示した。更に、図6においてスクワレン量が最大となった96時間の、KLaが10、15、20、25、30(hr-1)における各撹拌器線速度のスクワレン量を、図7に示した。その結果、撹拌器線速度が50.2(m/min)の時にスクワレン量が最大となり、かつKLaが20のときにスクワレン量が三角フラスコ培養の1.39倍となった。
【実施例】
【0068】
96時間後の濁度を、図8に示す。KLa=10の時に濁度が低く、KLa=30の時に濁度が高い傾向が見られたが、おおむね細胞濃度は2.2-2.6の範囲内にあった。
【実施例】
【0069】
以上の実験から、本実施例で採用した培養条件において、酸素移動容量係数が約20(hr-1)、撹拌器線速度が約50(m/ min)、培養時間が約96時間で、スクワレン産生効率が最大となることが判明した。
【実施例】
【0070】
実施例3. 10L培養槽培養実験
方法
オーランチオキトリウムtsukuba-3(FERM AP-22047)株を用いて試験を実施した。凍結保存用バイアル中に入れ、液体窒素中に保管していたtsukuba-3株を、37℃の恒温槽中に1分半から2分程度投入して解凍した。これをGTY培地の入った坂口フラスコに播種し、25℃、100strokes/min、72時間で前培養を実施した。培養液として、2%グルコース(和光純薬)、1%トリプトン(Difco)、0.5%酵母エキス(Difco)1.75%コーラルプロソフト(レッドシー)を蒸留水に溶かしたGTY培地を用いた。6Lの当該培地を10L培養槽に充填し、121℃、30分間オートクレーブをした。当該培養槽に、上記前培養した株を6mL(当該培養槽に充填した培養液の0.1%)植菌し、25℃で培養した。本培養と同時に、オートクレーブ滅菌されたGTY培地を300mL充填した500mL三角フラスコにも、上記前培養した株を300 μL植菌した。培養後24時間、48時間、72時間、96時間、120時間後に濁度(OD660)とスクワレン量を測定した。濁度およびスクワレンは3.5L槽の測定方法と同一であった。スクワレン量は、本培養と同時に培養した三角フラスコ培養サンプルのスクワレン量との比で求めた。
【実施例】
【0071】
KLaが20(hr-1)で、撹拌器回転数が148rpmとなる時の通気量を実施例1で求めた関係式から算出し、それぞれの培養条件で培養した。通気量は、オートクレーブ時に約3%培地が減少したことから、算出した通気量を3%減少させた。10L槽の撹拌器の半径が54.1mmであることから、撹拌器回転数から撹拌器先端の線速度を求めた。
【実施例】
【0072】
結果
撹拌器回転数が148rpmの時の撹拌器先端の線速度は50.2m/minとなった。96時間後のスクワレン量を図7に示す。その結果、三角フラスコ培養時の1.44±0.15倍となった。96時間後の濁度を図8に示した。おおむね細胞濃度は3.5 L槽と同様2.49であった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7