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明細書 :光電極及びその製造方法、並びに該光電極を備えた海洋微生物燃料電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-082549 (P2015-082549A)
公開日 平成27年4月27日(2015.4.27)
発明の名称または考案の名称 光電極及びその製造方法、並びに該光電極を備えた海洋微生物燃料電池
国際特許分類 H01G   9/20        (2006.01)
H01M   8/16        (2006.01)
H01M   4/90        (2006.01)
H01M   4/86        (2006.01)
H01M   4/88        (2006.01)
B01J  35/02        (2006.01)
FI H01G 9/20 111B
H01M 8/16
H01M 4/90 B
H01M 4/90 X
H01M 4/86 M
H01M 4/88 K
H01G 9/20 111A
H01G 9/20 317
H01G 9/20 115Z
B01J 35/02 J
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2013-219060 (P2013-219060)
出願日 平成25年10月22日(2013.10.22)
発明者または考案者 【氏名】元田 慎一
【氏名】盛田 元彰
【氏名】田村 翔
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100090343、【弁理士】、【氏名又は名称】濱田 百合子
【識別番号】100105474、【弁理士】、【氏名又は名称】本多 弘徳
審査請求 未請求
テーマコード 4G169
5H018
Fターム 4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169HB02
4G169HB03
4G169HD07
4G169HD10
4G169HD15
4G169HE20
5H018BB07
5H018BB08
5H018EE12
5H018HH03
要約 【課題】金属酸化物層が形成された光電極であって、電極性能と防食性(耐久性)により優れた光電極を提供する
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられる金属酸化物層(A)と、前記金属酸化物層(A)上に設けられる金属酸化物層(B)とを含む光電極であって、前記金属酸化物層(A)及び前記金属酸化物層(B)が共に光触媒作用を有し、前記金属酸化物層(A)のバンドギャップが前記金属酸化物層(B)のバンドギャップよりも狭い、光電極。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられる金属酸化物層(A)と、前記金属酸化物層(A)上に設けられる金属酸化物層(B)とを含む光電極であって、
前記金属酸化物層(A)及び前記金属酸化物層(B)が共に光触媒作用を有し、
前記金属酸化物層(A)のバンドギャップが前記金属酸化物層(B)のバンドギャップよりも狭い、光電極。
【請求項2】
前記金属酸化物層(A)がルチル型酸化チタン皮膜であり、前記金属酸化物層(B)がアナターゼ型酸化チタン皮膜である、請求項1に記載の光電極。
【請求項3】
前記ルチル型酸化チタン皮膜の表面粗さが2~4μmであり、かつ
前記ルチル型酸化チタン皮膜の膜厚が60μm以上である、請求項2に記載の光電極。
【請求項4】
基板と、前記基板上に設けられるルチル型酸化チタン皮膜と、前記ルチル型酸化チタン皮膜上に設けられるアナターゼ型酸化チタン皮膜とを含む光電極であって、前記ルチル型酸化チタン皮膜が溶射法によって形成された光電極。
【請求項5】
前記アナターゼ型酸化チタン皮膜の膜厚が10~80μmである、請求項2~4のいずれか1項に記載の光電極。
【請求項6】
前記アナターゼ型酸化チタン皮膜がスキージ法、ゾル-ゲル法又は塗布法によって形成された、請求項2~5のいずれか1項に記載の光電極。
【請求項7】
前記基板が耐食性金属である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の光電極をアノード電極として備えた海洋微生物燃料電池。
【請求項9】
基板上にルチル型酸化チタン皮膜を溶射法により形成する工程、及び
前記ルチル型酸化チタン皮膜上にアナターゼ型酸化チタン皮膜をスキージ法、ゾル-ゲル法又は塗布法により形成する工程を含む、光電極を製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光電極及びその製造方法に関し、特に海洋微生物燃料電池のアノード電極に用いられる光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell;MFC)は、自然海水中のバイオフィルム付着電極をカソード(正極)に、光触媒電極(光電極)をアノード(負極)にすることで発生する電位差を使った自然エネルギー利用型電池である(図1)。MFCでは、カソードで水及び微生物活動を促進する海水中有機物を、アノードでは水をそれぞれ活物質(燃料)とし、電解質は自然海水をそのまま利用する。
【0003】
電気を取り出した後の反応生成物は水(HO)の分解生成物のみであり、非プロトン(H)供給型ながら一般の燃料電池と同じ動作原理の低環境負荷型電源である。しかし、この電池は正極にバイオフィルムの微生物活性を利用することから発生電力が低く、実用化には光電極(負極)の電子伝達性の向上が必須とされている。また、光電極としてより防食性(耐食性)に優れた電極が求められている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1には、金属材料の表面に異種元素(Fe、V等)を含む酸化チタン皮膜を形成し、さらにその表面に酸化チタン皮膜を形成した酸化チタン電極が開示されている。
特許文献2には反応性スパッタリング法を用いて、導電体上にルチル型酸化チタン層が配置され、その上にさらにアナターゼ型酸化チタン層が配置された光電気化学電池が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第3884538号公報
【特許文献2】特開2012-114017号公報
【0006】

【非特許文献1】“材料と環境”,篠原正,Vol.50,No.4,p.170-176(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、光電極において、電極の防食性及び電極性能の向上を目的として、酸化チタン皮膜を二層構造にした電極が検討されている。しかしながら、その防食性及び電極性能には、依然として改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明では、金属酸化物層が形成された光電極であって、電極性能と防食性(耐久性)により優れた光電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、バンドギャップの異なる金属酸化物層を積層することで、電極性能と耐久性に優れた光電極を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、上記課題を解決するものであり、下記[1]~[9]に関するものである。
【0010】
[1] 基板と、前記基板上に設けられる金属酸化物層(A)と、前記金属酸化物層(A)上に設けられる金属酸化物層(B)とを含む光電極であって、前記金属酸化物層(A)及び前記金属酸化物層(B)が共に光触媒作用を有し、前記金属酸化物層(A)のバンドギャップが前記金属酸化物層(B)のバンドギャップよりも狭い、光電極。
[2] 前記金属酸化物層(A)がルチル型酸化チタン皮膜であり、前記金属酸化物層(B)がアナターゼ型酸化チタン皮膜である、前記[1]に記載の光電極。
[3] 前記ルチル型酸化チタン皮膜の表面粗さが2~4μmであり、かつ前記ルチル型酸化チタン皮膜の膜厚が60μm以上である、前記[2]に記載の光電極。
[4] 基板と、前記基板上に設けられるルチル型酸化チタン皮膜と、前記ルチル型酸化チタン皮膜上に設けられるアナターゼ型酸化チタン皮膜とを含む光電極であって、前記ルチル型酸化チタン皮膜が溶射法によって形成された光電極。
[5] 前記アナターゼ型酸化チタン皮膜の膜厚が10~80μmである、前記[2]~[4]のいずれか1に記載の光電極。
[6] 前記アナターゼ型酸化チタン皮膜がスキージ法、ゾル-ゲル法又は塗布法によって形成された、前記[2]~[5]のいずれか1に記載の光電極。
[7] 前記基板が耐食性金属である、前記[1]~[6]のいずれか1に記載の光電極。
[8] 前記[1]~[7]のいずれか1に記載の光電極をアノード電極として備えた海洋微生物燃料電池。
[9] 基板上にルチル型酸化チタン皮膜を溶射法により形成する工程、及び前記ルチル型酸化チタン皮膜上にアナターゼ型酸化チタン皮膜をスキージ法、ゾル-ゲル法又は塗布法により形成する工程を含む、光電極を製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光触媒作用を持つ金属酸化物層(A)及び(B)のうち、バンドギャップの狭い方の金属酸化物層(A)を基板上に設け、その上にバンドギャップの広い金属酸化物層(B)を設けることによって、金属酸化物層の光触媒作用を基板に効率よく伝え、電極性能の優れた光電極を得ることができる。また、上記構成とすることにより、金属酸化物層(B)から金属酸化物層(A)に電子が移動し、電極の腐食も電気化学的に抑制することができることから、防食性能にも優れた光電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、海洋微生物燃料電池(MFC)の概要を示した模式図である。
【図2】図2(A)は、実施例1に係る酸化チタン皮膜を用いた光電極の構造を示した模式図であり、図2(B)は比較例1に係る酸化チタン皮膜を用いた光電極の構造を示した模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る電極を用いた起電の仕組みを説明した模式図である。
【図4】図4は、プラズマガスアーク溶射法により形成されたルチル型酸化チタン皮膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】図5は、スキージ法により形成されたアナターゼ型酸化チタン皮膜表面の光学顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例1(Double layer)及び比較例1(Single layer)に係る電極の光電位(vs.SCE)の経時変化を表したグラフである。
【図7】図7は、実施例1(Double layer)及び比較例1(Single layer)に係る電極の光電位(vs.SCE)の繰り返し依存性を表したグラフである。
【図8】図8は、実施例1に係る電極に対して光照射を5回繰り返した後の電極表面を観察した光学顕微鏡写真である。
【図9】図9は、比較例1に係る電極に対して光照射を3回繰り返した後の電極表面を観察した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る光電極は、基板と、前記基板上に設けられる金属酸化物層(A)と、前記金属酸化物層(A)上に設けられる金属酸化物層(B)とを含み、前記金属酸化物層(A)及び(B)は共に光触媒作用を有し、前記金属酸化物層(A)のバンドギャップが前記金属酸化物層(B)のバンドギャップよりも狭いことを特徴とする。

【0014】
<金属酸化物層(A)及び(B)>
バンドギャップの狭い金属酸化物層(A)を基板上に設け、バンドギャップの広い金属酸化物層(B)を前記金属酸化物層(A)上に設けることにより、金属酸化物層の光触媒作用を基板に効率よく伝えることができる。そのため、本発明では電極性能の優れた光電極を得ることができる。
また、金属酸化物層(A)がポーラス構造等を取ることによって電解液が透過する場合には基板の腐食原因となることから、当該金属酸化物層(A)を金属酸化物層(B)で完全に被覆することにより物理的な封孔作用を示すと共に、金属酸化物層(B)から金属酸化物層(A)に電子が移動し、電極が腐食することを電気化学的に抑制して防食性にも優れた光電極を得ることができる。

【0015】
本発明における金属酸化物層(A)及び(B)は光触媒作用を有する。具体的には、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)等が挙げられ、これらは様々な結晶構造を取ることができる。これらは一種を用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。中でも、酸化チタンが光電位の安定性の点から好ましい。

【0016】
金属酸化物層(A)及び(B)として酸化チタンを用いる場合、酸化チタンはルチル型、アナターゼ型及びブルカイト型の3種の結晶形態を取ることができるが、ルチル型とアナターゼ型が工業的に利用可能な点からより好ましい。ルチル型酸化チタンのバンドギャップは3.0eVであり、アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップは3.2eVである。

【0017】
<ルチル型酸化チタン皮膜>
金属酸化物層(A)としてルチル型酸化チタン皮膜を用いる場合、その表面粗さRaは2~4μmが好ましく、2.6~3.4μmがより好ましい。表面粗さが上記範囲内にあれば、ルチル型酸化チタン皮膜はポーラス構造(多孔構造)を取っているということができ、皮膜の比表面積、すなわち反応面積が大きくなることから好ましい。

【0018】
ルチル型酸化チタン皮膜の表面粗さは、溶射法を用いて皮膜を形成する場合には、溶射材とするルチル型酸化チタン粉末の粒子サイズや粉末の溶解条件、溶射距離、溶射雰囲気等を調整することにより制御することができる。また、表面粗さRaは表面粗さ測定機により測定することができる。

【0019】
ルチル型酸化チタン皮膜は基板との密着性が強いことが好ましい。またより低い光電位が得られる点から、皮膜の膜厚は60μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましい。また膜厚の上限は300μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
皮膜の膜厚は、溶射法を用いて皮膜を形成する場合には、溶射材とするルチル型酸化チタン粉末の粒子サイズや粉末の溶解条件、溶射回数や溶射時間を調整することにより制御できる。またゾル-ゲル法やスキージ法等を用いて皮膜を形成する場合にも、重ね塗りを行う回数を調整することにより、皮膜の厚さを制御することができる。なお、膜厚はマイクロメーターおよびレーザー顕微鏡により測定することができる。

【0020】
上記特性を有するルチル型酸化チタン皮膜は、例えば溶射法、ゾル-ゲル法、固相法等により得ることができ、中でもより良好なポーラス構造を得られる点から溶射法が好ましい。溶射法の具体例としてはプラズマガスアーク溶射法、フレーム溶射法、電気溶射法、爆発溶射法等が挙げられるが、溶射に用いる材料(溶射材)の結晶構造を変化させずに溶射皮膜を形成することができれば、特にこれらに限定されない。

【0021】
溶射法とは、皮膜材料の粒子を加熱して溶解またはそれに近い状態とし、物体表面に吹き付けて皮膜を形成する表面処理法である。また、プラズマガスアーク溶射法とは、皮膜材料を溶解し、ガスと共に基板に高速で吹き付けることで成膜する方法である。
溶射法により皮膜を形成する場合、溶解した皮膜材料が基板に叩き付けられて成膜されるので、基板との密着性が高くなり、得られた皮膜はポーラス構造となる。また、膜の導電性は皮膜中の酸素欠陥の量により異なるが、溶射法ではこの酸素欠陥の量、すなわち導電性の制御が可能であることから、導電体に近い半導体を作製することができる。

【0022】
例えば、ルチル型酸化チタン皮膜を溶射法により形成する場合には、ルチル型の酸化チタンパウダーを溶射材とする。
ルチル型酸化チタンパウダーの粒子サイズは50nm~200μmが皮膜形成性の点から好ましく、1~50μmがより好ましい。ルチル型酸化チタンパウダーの純度は高いほど好ましいが、95%以上であればよく、99%以上であればより好ましい。

【0023】
溶射法を用いる場合には、溶射材を溶解させる条件として2次キャリアガスにN又はCOを用いることが好ましく、COがより好ましい。
溶射距離は50~200mmが皮膜の均一性の点から好ましく、60~100mmがより好ましい。
また、光電位の高い安定性が得られることから、溶射を2回以上行うことが好ましい。

【0024】
<アナターゼ型酸化チタン皮膜>
金属酸化物層(B)としてアナターゼ型酸化チタン皮膜を用いる場合、ルチル型酸化チタン皮膜上に、アナターゼ型酸化チタン皮膜を形成する。
先述したように、アナターゼ型酸化チタン皮膜のバンドギャップは3.2eVであり、ルチル型酸化チタン皮膜のバンドギャップ3.0eVよりも広いことから、本発明に係る光電極に好適に用いられる。

【0025】
アナターゼ型酸化チタン皮膜はルチル型酸化チタン皮膜を覆うことができればよいが、アナターゼ型酸化チタン皮膜の膜厚がナノオーダーである場合、皮膜が薄すぎてルチル型酸化チタン皮膜表面の孔(又は凹凸)を塞ぐ封孔効果が出にくい。そのため、アナターゼ型酸化チタン皮膜の膜厚は10~80μmであることが好ましく、55~75μmであることがより好ましい。また、上記範囲にすることにより、より低い光電位が得られることからも好ましい。
皮膜の膜厚はメンディングテープ又はエマルジョン厚さを変化することにより制御できる。また、膜厚はレーザー顕微鏡により測定することができる。

【0026】
アナターゼ型酸化チタン皮膜を形成する方法は、ルチル型酸化チタン皮膜を覆うことができれば特に制限されないが、スキージ法、ゾル-ゲル法又は塗布法によって形成することが好ましい。
上記方法によれば、ルチル型酸化チタン皮膜に食い込む形でアナターゼ型酸化チタン皮膜が形成されるものと考えられることから、当該ルチル型酸化チタン皮膜表面の孔(又は凹凸)を塞ぐ封孔効果が期待できる。光電極をMFC用電極等に適用した場合、前記皮膜表面の孔(又は凹凸)から腐食が始まるものと考えられるので、当該封孔効果により光電極の防食性を高めることができ、非常に有用である。

【0027】
アナターゼ型酸化チタン皮膜は、ルチル型酸化チタン皮膜表面の孔(又は凹凸)を塞ぐ封孔効果を得て、かつルチル型酸化チタン皮膜を完全に被覆しやすいことから、スキージ法または塗布法で形成することがより好ましい。また、得られるアナターゼ型酸化チタン皮膜の膜厚を制御し、さらには皮膜表面を光触媒作用に適した平滑な面としやすいことから、スキージ法が特に好ましい。なお、スキージ法とは皮膜材料の溶液を基板に塗布、乾燥した後に焼結する成膜方法であるが、この方法で得られた皮膜は絶縁体に近い半導体を作製することができる。

【0028】
スキージ法によりアナターゼ型酸化チタン皮膜を形成する場合には、材料として用いられるアナターゼ型の酸化チタンペーストの粒子サイズは10~300nmが皮膜形成性の点から好ましい。また、乾燥条件は100~150℃で0.5~1時間乾燥させることが好ましく、乾燥後300~450℃で0.5~1時間焼成することが好ましい。焼成時の雰囲気は大気下でも不活性雰囲気下でもよい。
皮膜の膜厚は、後述する実施例に記載のメンディングテープ又はエマルジョンの厚さによって調整することができる。

【0029】
以上より、本発明におけるルチル型酸化チタン皮膜及びアナターゼ型酸化チタン皮膜は、酸化チタンによる光触媒作用を基板へ効率よく伝えることができ、電極としての性能が向上するとともに、電極の防食性も向上することができる。
また、ルチル型酸化チタン皮膜がポーラス構造を取ることによって反応面積が大きくなることから電極性能をさらに向上でき、アナターゼ型酸化チタンによる封孔効果によって防食性能をさらに向上できることから、より優れた光電極を得ることができる。

【0030】
<基板>
本発明に係る酸化チタン電極に用いられる基板は光電極に一般的に用いられるものであれば特に制限されない。中でも耐食性の点から、耐食性金属であることが好ましく、具体的にはステンレス鋼(SUS)や金属チタン、白金等の金属基板が好ましく用いられる。これらは一種を用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。

【0031】
<電極>
本発明に係る光電極は、図2(A)に酸化チタン皮膜を例として示されるように、基板と、前記基板上に設けられるルチル型酸化チタン皮膜[金属酸化物層(A)]と、前記ルチル型酸化チタン皮膜上に設けられるアナターゼ型酸化チタン皮膜[金属酸化物層(B)]とを含む。
電極全体の厚さは100~200μmが剥離耐久性の点から好ましく、120~140μmがより好ましい。

【0032】
本発明に係る酸化チタン電極には、本発明における効果を妨げない限り、他に酸化スズ、酸化ニッケル、酸化銅等が含まれていてもよい。

【0033】
<海洋微生物燃料電池:MFC>
本発明に係る光電極を用いた起電の仕組みを図3に示す。図3は、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンに代表される、2種類の金属酸化物層(皮膜)からなるオーミックな接合状態にある半導体のバンド構造を模した図である。なお、オーミックとは、半導体で電荷移動に障壁がないことを意味する。
金属酸化物皮膜が光エネルギーhν(J)を受けて、価電子帯から伝導帯へ電子が励起し、価電子帯にはホール(h)が、伝導帯には電子(e)がそれぞれ過剰に生成する。過剰な当該ホール及び電子は各バンド帯末の曲がりにより、それぞれ金属酸化物内を移動して電解液界面付近にホール(h)、基板との接合界面付近に電子(e)が帯電するようになる。この電子とホールの分離により内蔵電位の勾配ができ、そのエネルギー差が電極の起電力として取り出される。

【0034】
本発明に係る光電極は、海洋微生物燃料電池用のアノード電極として好適に用いられる。アノード電極では、図1に示すように2HO+4h→O+4Hといった電極反応が起こり、その電極電位はカロメル電極に対して-0.6V(-0.6V vs.SCE)である。

【0035】
アノード電極では、海洋中に存在する微生物が光触媒の存在の下、光を照射することによって有機物を電解し、反応生成物として水(HO)の分解生成物が得られる。当該光触媒に、本発明における酸化チタン皮膜等、光触媒作用を有する金属酸化物層が用いられる。

【0036】
一方、カソード電極では、O+2HO+4e→4OHといった電極反応が起こり、その電極電位はカロメル電極に対して+0.4V(+0.4V vs.SCE)である。
以上より、MFCは1.0Vの起電力が得られる。

【0037】
カソード電極は基板と、前記基板上に自然海水中のバイオフィルムを付着させたものを用いる。
カソード基板は耐食性金属材料であることが必要であるが、中でもステンレス鋼、チタン合金が好ましい。
前記基板を自然海水中に浸漬することにより、バイオフィルムが付着したカソード電極を得ることができる。

【0038】
海洋微生物燃料電池に用いられる電解質は自然海水をそのまま利用することができる。中でもタンク汲み上げ海水が有殻生物の付着を防止する点から好ましい。

【0039】
本発明に係る海洋微生物燃料電池には、本発明における酸化チタン電極の効果を妨げない限り、他に配線およびその接合部、シール材等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1>
ルチル型酸化チタンパウダーを溶射材として、直径36mmのステンレス鋼基板(Type329J4L)上に下記条件でプラズマガスアーク溶射法によりルチル型酸化チタン皮膜を形成した。溶射回数は2回とし、いずれも和光純薬工業社製の酸化チタン(IV)ルチル型、純度99%)を用いた。
得られた皮膜の任意の2点について膜厚をレーザー顕微鏡により測定したところ、平均の膜厚は64μmであった。ステンレス鋼基板の組成を表1に、得られたルチル型酸化チタン皮膜の表面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4にそれぞれ示す。またX線回折測定(XRD)により、得られた皮膜はルチル型の酸化チタンであることが確認された。
【実施例】
【0041】
【表1】
JP2015082549A_000003t.gif
【実施例】
【0042】
(プラズマガスアーク溶射条件)
アーク電流、電圧 650A、40V
溶射距離 80mm
一次ガス Ar:50L/分
二次ガス CO:6.4L/分
皮膜厚さ 80~100μm
(酸化チタン粉末)
結晶系 ルチル型
酸化チタン純度 (溶射1回目)99.9%
(溶射2回目)95.2%(不純物 Fe:0.7%、ZrO:0.6%、SiO:1.10%、Al:0.40%、P:0.01%、S:0.02%)
粒子サイズ 直径10~44μm
【実施例】
【0043】
次いで、ルチル型酸化チタン皮膜上にスキージ法によりアナターゼ型酸化チタン皮膜を形成した。スキージ法の手順を以下に示す。
上記で基板上に形成されたルチル型酸化チタン皮膜表面の左右の縁に厚さ60μmのメンディングテープを張ることで26mm×26mmの正方形の溝を作り、当該溝内に酸化チタンペースト(ペクセルテクノロジー社製、PECC-01-06)で均一な膜を作った。これを150℃で1時間乾燥させ、さらに450℃で1時間焼結することで、アナターゼ型酸化チタン皮膜を形成した。
得られた皮膜の任意の2点について膜厚をレーザー顕微鏡により測定したところ、平均の膜厚は66μmであった。なお、アナターゼ型酸化チタン皮膜でルチル型酸化チタン皮膜をすべて被覆することができなかったため、アナターゼ型酸化チタン皮膜で覆われていない部分については、シリコン系接着剤を塗布することで、ルチル型酸化チタン皮膜が表層に出ないようにした。
得られたアナターゼ型酸化チタン皮膜の表面を観察した光学顕微鏡写真を図5に示す。またX線回折測定(XRD)により、得られた皮膜はアナターゼ型の酸化チタンであることが確認された。
以上の手順によりルチル型酸化チタンとアナターゼ型の酸化チタンの2種類の皮膜が異種積層された酸化チタン電極(以下、“Double layer film”と称することがある。)を作製した(図2(A))。
【実施例】
【0044】
<比較例1>
ステンレス鋼基板上にルチル型酸化チタン皮膜を形成せず、直接スキージ法で皮膜厚さ120μmのアナターゼ型酸化チタン皮膜を形成した。基板表面の左右の縁に厚さ120μmのメンディングテープを張って26mm×26mmの正方形の溝を作る以外は実施例1におけるスキージ法と同様にして、アナターゼ型酸化チタン1種類のみの皮膜が形成された酸化チタン電極(以下、“Single layer film”と称することがある。)を作製した(図2(B))。
【実施例】
【0045】
<表面粗さRa>
実施例1において、アナターゼ型酸化チタン皮膜を形成する前のルチル型酸化チタン皮膜の表面粗さと、アナターゼ型酸化チタン皮膜を形成した後の表面粗さを測定した結果を表2に示す。
ここで表面粗さは、サーフコーダー製表面粗さ測定機SE-2300を用い、以下の条件で測定を行った。
(測定条件)
測定距離 4mm
駆動速度 0.1mm/秒
カットオフ 0.8mm G
【実施例】
【0046】
【表2】
JP2015082549A_000004t.gif
【実施例】
【0047】
表2より、溶射法により形成したルチル型酸化チタン皮膜よりも、スキージ法により形成したアナターゼ型酸化チタン皮膜の方がいずれの値についても小さく、表面が平滑であることが分かった。また、アナターゼ型酸化チタン皮膜はルチル型酸化チタン皮膜上に形成された状態で測定を行っていることから、下地となるルチル型酸化チタン皮膜表面の孔(凹凸)の影響を受けているにも関わらず、すべての値がルチル型酸化チタン皮膜よりも小さい結果となった。そのため、ルチル型酸化チタン皮膜表面の凹凸がアナターゼ型酸化チタン皮膜の形成により塞がれ、表面が平滑となったことが分かる。以上より、アナターゼ型酸化チタン皮膜の形成によって、ルチル型酸化チタン皮膜表面の孔に対する封孔効果が発現しているものと考えられる。
【実施例】
【0048】
<光電位>
得られた電極の光電位(Photo potential)の経時変化を測定した結果を図6に示す。ここで光電位とは、電極に照射強度10.5mW/cmで標準光源のキセノン光を照射した場合の電極電位である。
図6より、実験開始から5分後に光照射を開始したところ、直ちに電極電位は低下し、その後5分以内に電位は一定の値に落ち着いた。実施例1、比較例1共に、実験終了(実験開始から2時間)までほぼ安定した光電位を示すものの、実施例1(Double layer film)の方が、比較例1に比べて安定性が高いことが分かった。また、光を2時間照射した後の光電位は、比較例1が-480mV vs.SCEであったのに対して、実施例1では-620mV vs.SCEと140mV程度低く、光触媒能に優れ、良好な電極性能が得られることが分かった。
【実施例】
【0049】
また、得られた電極に対して光照射のオン-オフを2時間-24時間のサイクルで5回繰り返した際の光電位と繰り返し数(Number of run cycles)との関係を測定した結果を図7に示す。ここで、光照射後60~120分における光電位を定常値であるとみなして用いた。なお、実施例1の電極、比較例1の電極について、同じ条件で2回測定を行い、再現性が得られるかについても併せて確認した。
その結果、比較例1(図7:●及び+)では3サイクル目以降で光電位が上昇するのに対し、実施例1(図7:□及び×)では3サイクル目以降も低い光電位を保つことが分かった。なお、電極によって光電位の測定値に若干のバラツキは見られたものの、3サイクル目以降の光電位の傾向については再現性のある結果が得られた。
【実施例】
【0050】
<電極表面観察>
上記で光照射を5サイクル繰り返した後の、実施例1に係る電極表面を光学顕微鏡で観察した(図8)。その結果、皮膜表面上で目視による点錆(腐食痕)は確認されなかった。一方、光照射を3サイクル繰り返した後の、比較例1に係る電極表面では、点錆(腐食痕)が確認された(図9)。
【実施例】
【0051】
比較例1に係る電極において、赤錆が発生している部分は膜の剥離が生じているので、当該剥離部分の面積を測定することで点錆の発生している面積比率を算出した。その結果、点錆の発生面積比率は3.14%(標準偏差1.153)であった。
具体的には、解像度72ピクセル/インチの電極表面画像から、(赤錆部のピクセル数/全ピクセル数)を求め、点錆部の面積比率とした。点錆部の面積比率は同じ条件で作製した計3枚の電極に対し、電極1枚当たり5箇所、すなわち合計15箇所について求め、その平均値を比較例1に係る電極の点錆部の面積比率とした。
【実施例】
【0052】
<電極抵抗>
実施例1及び比較例1に係る電極について、交流インピーダンス(EIS)測定により電極抵抗の測定を行った。交流インピーダンス測定は以下の条件で行った。
その結果、実施例1の電極抵抗は2.8kΩであり、比較例1の電極抵抗は3.26kΩであったことから、本発明に係る電極は電極抵抗が小さく、優れた電極性能が得られることが分かった。
【実施例】
【0053】
(交流インピーダンス測定条件)
測定装置 エヌエフ回路設計ブロック社製、FRA5014
測定周波数 1mHz~100kHz
交流加算電流 2.4μA
【実施例】
【0054】
以上より、従来の光電極では光照射を繰返し行うことで発生する腐食によって酸化チタン等による光触媒反応が阻害されるのに対し、本発明に係る光電極では、光照射を繰返し行っても基板の腐食を防ぐことができることが分かった。
また、本発明に係る光電極では、プラズマガスアーク溶射法により形成されたルチル型酸化チタン皮膜が、中間層として表面層(アナターゼ型酸化チタン皮膜)の電子伝達を媒介(メディエーション)し、かつアナターゼ型酸化チタン皮膜が封止効果を示して腐食を抑制することで、光電極の光触媒能(電極性能)と耐久性(防食性)の両方を同時に向上させるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る光電極は、バンドギャップの狭い金属酸化物層(A)を基板上に形成し、その上にバンドギャップの広い異なる種類の金属酸化物層(B)を積層させることで、電極性能と耐久性(防食性)に共に優れた電極を得ることができる。そのため、本発明に係る光電極を海洋微生物燃料電池のアノード電極に適用することは特に有用であり、その技術的意義は極めて大きなものである。
【符号の説明】
【0056】
1 ステンレス鋼基板
2 アナターゼ型酸化チタン皮膜(スキージ法による成膜)
3 ルチル型酸化チタン皮膜(プラズマガスアーク溶射法による成膜)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図8】
7
【図9】
8