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明細書 :アトピー性角結膜炎の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-081796 (P2015-081796A)
公開日 平成27年4月27日(2015.4.27)
発明の名称または考案の名称 アトピー性角結膜炎の検出方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/53 Q
G01N 33/53 D
C07K 14/47 ZNA
C07K 16/18
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2013-218612 (P2013-218612)
出願日 平成25年10月21日(2013.10.21)
発明者または考案者 【氏名】出原 賢治
【氏名】有馬 和彦
【氏名】鈴木 章一
【氏名】太田 昭一郎
【氏名】斉藤 博久
【氏名】松本 健治
【氏名】岡田 直子
【氏名】藤島 浩
出願人 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】独立行政法人国立成育医療研究センター
【識別番号】505055985
【氏名又は名称】学校法人 総持学園 鶴見大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100149010、【弁理士】、【氏名又は名称】星川 亮
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4H045
Fターム 4B024AA01
4B024AA11
4B024BA43
4B024BA61
4B024CA04
4B024CA12
4B024CA20
4B024DA02
4B024GA05
4B024HA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA50
要約 【課題】より簡便かつ正確に行うことができるアトピー性角結膜炎の検出方法が求められていた。
【解決手段】被験者から採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、アトピー性角結膜炎の検出方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、アトピー性角結膜炎の検出方法。
【請求項2】
涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度の上昇が、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定したタンパク質濃度が、涙液中濃度で400ng/mL以上であるときに、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(i)被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(i)被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃よりも高いときに、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
正常試料が、春季カタルおよび季節性アレルギー性結膜炎からなる群から選択される少なくとも1つの疾患に罹患している患者から採取した涙液である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
アトピー性角結膜炎の治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、治療の有効性を確認する方法。
【請求項8】
(i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行うことを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃よりも低いときに、治療が有効であると判断することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
測定が免疫測定法によるものである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ペリオスチンを認識する抗体を含有する、アトピー性角結膜炎の検出薬。
【請求項12】
請求項11に記載の検出薬を含有する、アトピー性角結膜炎の検出用キット。
【請求項13】
採取した涙液の分析方法において、涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、涙液の分析方法。
【請求項14】
ペリオスチンタンパク質濃度の測定が免疫測定法により行われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性角結膜炎の検出方法、当該検出方法に関係する生体試料の分析方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性結膜炎は、充血や痒みを症状とする角結膜疾患であり、季節性アレルギー性結膜炎、通年性アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性角結膜炎などに分類される。
【0003】
アレルギー性結膜炎のうち、季節性アレルギー性結膜炎、通年性アレルギー性結膜炎及び春季カタルはアトピー性皮膚炎を伴わない疾患である。
【0004】
一方、アトピー性角結膜炎は、主に顔面にアトピー性皮膚炎を伴う疾患であり、重症例では高度の炎症を起こして、円錐角膜、白内障及び網膜剥離といった失明に通じる疾患を合併することもある。このため、アトピー性角結膜炎は、他のアレルギー性結膜炎とは予後や治療方針が大きく異なる疾患である。アトピー性角結膜炎の予後を正確に予測し、また、有効な治療方針を決定するためには、アトピー性角結膜炎の正確な診断が求められる。
【0005】
しかしながら、アトピー性角結膜炎の正確な診断が困難な場合がある。例えば、明らかなアトピー性皮膚炎の合併が認められない場合である。
【0006】
このように正確な診断が困難な場合であっても、専門医が精度よくアトピー性角結膜炎を診断可能な、あるいは、非専門医が簡便かつ正確にアトピー性角結膜炎を診断可能なツールが求められる。
【0007】
ここで、近年、ペリオスチンがアトピー性皮膚炎の病態において重要な役割を果たすことが明らかになっている(特許文献1及び非特許文献1)。ペリオスチンの測定方法として、免疫組織学的方法、リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティングなどによる方法が知られている。しかし、これらの方法はいずれも煩雑で、施行可能な施設が限られること、結果を得るまで長時間を要すること、結膜組織を必要とすることなどの問題がある。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2010-096748号公報
【特許文献2】WO2002/052006
【特許文献3】WO2009/148184
【特許文献4】特開2010-145294号公報
【特許文献5】WO2013/065671
【特許文献6】特開2011-220969
【特許文献7】WO2011/068176
【0009】

【非特許文献1】中澤満、臨床眼科(2012.9.15.) Vol.66, No.9, 1300-1302
【非特許文献2】Masuoka M et al., J Clin Invest, vol.122, 2590-2600, 2012
【非特許文献3】Horiuchi K, et al. J Bone Miner Res.1999 Jul;14(7):1239-49.
【非特許文献4】G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, Vol.118, Page 98-104, 2006
【非特許文献5】Okamoto M et al., Eur Respir J, vol.37, 1119-1127, 2011
【非特許文献6】Uchida M et al., Am J Respir Cell Mol Biol, vol.46, 677-686, 2012
【非特許文献7】Ishida I et al., Allergology Int, vol.61, 589-595, 2012
【非特許文献8】Yoshida S et al., Invest Ophthalmol Vis Sci, vol.52, 5670-5678, 2011
【非特許文献9】Fujimoto K et al., Oncol Rep, vol.25, 1211-1216, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記状況に鑑み、本発明は、より簡便かつ正確にアトピー性角結膜炎を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アトピー性角結膜炎の患者由来の涙液において、ペリオスチンタンパク質の濃度が高いこと、患者から採取された涙液におけるペリオスチンタンパク質の濃度を分析することにより、より簡便に迅速かつ低侵襲でアトピー性角結膜炎を診断又は検出する際に有用な分析値が得られること、などを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の検出方法、検出薬などを提供する。
【0012】
[1] 被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、アトピー性角結膜炎の検出方法。
[2] 涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度の上昇が、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われることを示す、上記[1]に記載の方法。
[3] 測定したタンパク質濃度が、涙液中濃度で400ng/mL以上であるときに、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断することを含む、上記[1]に記載の方法。
[4] (i)被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行うことを含む、上記[1]に記載の方法。
[5] (i)被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃よりも高いときに、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断することを含む、上記[4]に記載の方法。
[6] 正常試料が、春季カタルおよび季節性アレルギー性結膜炎からなる群から選択される少なくとも1つの疾患に罹患している患者から採取した涙液である、上記[4]又は[5]記載の方法。
[7] アトピー性角結膜炎の治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、治療の有効性を確認する方法。
[8] (i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行うことを含む、上記[7]に記載の方法。
[9] (i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃よりも低いときに、治療が有効であると判断することを含む、上記[8]に記載の方法。
[10] 測定が免疫測定法によるものである、上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] ペリオスチンを認識する抗体を含有する、アトピー性角結膜炎の検出薬。
[12] 上記[11]に記載の検出薬を含有する、アトピー性角結膜炎の検出用キット。
[13] 採取した涙液の分析方法において、涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、涙液の分析方法。
[14] ペリオスチンタンパク質濃度の測定が免疫測定法により行われることを特徴とする上記[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被験者由来の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を分析することで、簡便かつ正確にアトピー性角結膜炎の診断を行う際に有用な分析値を得て、得られた分析値に基づきアトピー性角結膜炎を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アレルギー性結膜炎の疾患分類に基づき分類した各患者群及び対照群で涙液中のペリオスチン濃度を比較した結果を示すグラフである。
【図2】結膜増殖の程度に基づき分類した各アトピー性角結膜炎患者群及び対照群で涙液中のペリオスチン濃度を比較した結果を示すグラフである。
【図3】角膜上皮障害の有無に基づき分類した各アトピー性角結膜炎患者群で涙液中のペリオスチン濃度を比較した結果を示すグラフである。
【図4】結膜組織における免疫組織染色の結果を示す写真である。
【図5】結膜組織におけるペリオスチン発現量(mRNA量)を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

【0016】
本発明は、被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパクの濃度を測定することを含む、分析方法であり、当該分析結果を指標として用い、アトピー性角結膜炎と関連付けることを特徴とするものである。より具体的には、涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度の上昇が、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われることを示す。

【0017】
本発明者らは、アトピー性角結膜炎を、より簡便に迅速かつ低侵襲で検出できる方法を探索すべく鋭意検討を重ねた。その結果、アトピー性角結膜炎の患者由来の涙液において、ペリオスチンタンパク濃度が健常人又は他のアレルギー性結膜炎患者と比較して高いことなどを見出し、患者の涙液におけるペリオスチンタンパク濃度の分析値が、アトピー性角結膜炎が簡便に迅速かつ低侵襲で診断又は検出(以下、単に「診断」と記載する。)する際に有用であることを見出した。

【0018】
ここで、「他のアレルギー性結膜炎」とは、アトピー性角結膜炎以外のアレルギー性結膜炎であり、具体的には、季節性アレルギー性結膜炎、通年性アレルギー性結膜炎及び春季カタルが挙げられ、好ましくは、季節性アレルギー性結膜炎及び春季カタルである。

【0019】
本発明におけるペリオスチン(periostin)は、骨芽細胞特異因子2とも呼ばれる、約90kDaのタンパク質である(OSF2;非特許文献3)。

【0020】
ペリオスチンには、alternative splicingによるC末側の長さの違いで区別できるいくつかの転写物が存在することが知られている。ここで、配列番号1に、ヒトのペリオスチン遺伝子の全てのエクソンによる転写産物のDNA配列を示す(Accession No. D13666)。また、ヒトのペリオスチンのその他のsplicing variantのDNA配列の例を、配列番号3、5に示す(それぞれ、Accession No. AY918092、AY140646)。また、配列番号2、4、6に、それぞれ、配列番号1、3、5のポリヌクレオチドによってコードされるペリオスチンのアミノ酸配列を示す。

【0021】
本発明の好ましい態様では、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその配列から派生するvariant(例えば、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列からなるペリオスチン)を含むペリオスチンが分析の対象として用いられる。

【0022】
従来、ペリオスチン遺伝子の発現レベルを指標としてアレルギー性疾患を検出できることが知られている(特許文献2及び非特許文献4)。また、ペリオスチン遺伝子の発現レベルの測定を指標として特発性間質性肺炎(特許文献3及び非特許文献5)、アトピー性皮膚炎(特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2)、薬剤性間質性肺炎などの非特発性間質性肺炎(特許文献4及び非特許文献6)、慢性副鼻腔炎(特許文献5及び非特許文献7)、増殖糖尿病網膜症(特許文献6及び非特許文献8)、胆管細胞癌(特許文献7及び非特許文献9)などを検出できることが知られている。

【0023】
しかしながら、アトピー性角結膜炎の患者において涙液のペリオスチンタンパク質濃度が有意に上昇すること、及び、アトピー性角結膜炎の患者と他のアレルギー性結膜炎の患者においては涙液のペリオスチンタンパク質濃度に有意な差が生じることは、従来明らかにされていなかった。

【0024】
本発明において、アトピー性角結膜炎の診断に有用に活用される分析値は、直接的には、被験者由来の生体試料の内で涙液であり、涙液に含まれるペリオスチンタンパク質の含有量を測定することによりアトピー性角結膜炎の診断に有用な分析値を得ることが可能となる。

【0025】
涙液の採取、調製及び保存は公知の方法を適宜用いて行うことができる。例えば、後記の実施例では、涙液は、グラスキャピラリ(リングキャップス;吸引容量10μL)を用いて被験者の目じり側より無刺激の状態で採取した。グラスキャピラリに吸引された涙液は0.6mL マイクロチューブに回収し、これを何度か繰り返した。その後、涙液中に存在する細胞や異物を除去する目的で速やかに遠心分離を行い、上清のみを新しいマイクロチューブに回収した。涙液は少量ずつ小分けし、測定等に使用するまで超低温冷凍庫(マイナス80度)で保存した(Fujishima H, Takeyama M, Takeuchi T, Saito I, Tsubota K. Elevated levels of substance P in tears of patients with allergic conjunctivitis and vernal keratoconjunctivitis. Clin Exp Allergy 27: 372-378,1997)。

【0026】
ここで、「被験者より採取した涙液」には、涙液自体又はそれに由来する被測定物が含まれる。

【0027】
涙液自体又はそれに由来する被測定物中のペリオスチンタンパク質の量の具体的な測定は、適宜の方法で行うことが可能であり、例えば、免疫測定法などにより行うことができる。免疫測定法としては、放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA))などが挙げられる。好ましくは、ELISAで行う。

【0028】
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、又は32Pを利用することができる。

【0029】
FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、又はTexas-Redなどの蛍光物質を利用することができる。

【0030】
免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等を用いることができる。

【0031】
酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等を用いることができる。

【0032】
さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。

【0033】
いずれの方法による場合であっても、涙液におけるペリオスチンタンパク質の分析値、すなわちペリオスチンのタンパク質濃度を指標として用い、アトピー性角結膜炎と関連付けるのが好ましい。そして涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が、所定タンパク質濃度以上となる場合、あるいはアトピー性角結膜炎を発症していない被験者のものに対して高い値を示す場合には、当該涙液が、アトピー性角結膜炎を発症していることが疑われる被験者由来のものであることの有力な根拠として扱うようにしてよい。

【0034】
涙液がアトピー性角結膜炎を発症していると疑われる被験者由来のものであると判断するための基準となる「所定タンパク質濃度」は、例えば、次のように求めることができ、アトピー性角結膜炎の発症が疑われる患者の涙液におけるペリオスチンタンパク質の量が当該「所定タンパク質濃度」以上となる場合にはアトピー性角結膜炎を発症していると疑われる被験者由来の生体試料であると判断することができる。

【0035】
上記「所定タンパク質濃度」を求めるためには、先ず、従来知られる他の診断手法により、アトピー性角結膜炎を発症していると判断される複数の被験者と、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される複数の被験者について、それぞれに由来する涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定し、測定された各ペリオスチンタンパク質濃度を統計処理することにより「所定タンパク質濃度」を求めることが好ましい。このとき、測定の対象となる被験者の例数はそれぞれ2例以上が必要であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、又は100例以上であって、大きな例数を用いることでより信頼できる「所定タンパク質濃度」を求めることができる。

【0036】
統計処理としては、例えば、Receiver-Operating-Characteristics(ROC)曲線を用いた解析等が挙げられる。

【0037】
ここで、ROC曲線から、「所定タンパク質濃度」としての至適閾値(cut-off値)を求める方法としては、Youden index(感度 + 特異度 -1)を用いる方法が一般的である(Akobeng, AK. et al. Acta Paediatrica 96:644-647, 2007)。この方法では、Youden index(感度 + 特異度 -1)が最大となりうる点が感度及び特異度ともにバランスのとれた値を示す点であることから、この診断成績を示す値をcut-off値とし、「所定タンパク質濃度」として採用することが好ましい。

【0038】
なお、従来知られる他の診断手法によりアトピー性角結膜炎を発症していないと判断される被験者においても、例えば、他のアレルギー疾患などで涙液中のペリオスチンタンパク質の濃度が上昇する可能性があることから、上記の統計処理において、特にアトピー性角結膜炎を発症していない群について、特異なペリオスチンタンパク質濃度を示す例は統計処理から除外することが望ましい。

【0039】
本発明において、アトピー性角結膜炎の発症を疑う基準となるペリオスチンタンパク質の「所定タンパク質濃度」について、本発明者の検討によれば、涙液における濃度として、例えば60 ng/mL、65 ng/mL、70 ng/mL、75 ng/mL、80 ng/mL、81 ng/mL、82 ng/mL、83 ng/mL、84 ng/mL、85 ng/mL、86 ng/mL、87 ng/mL、88 ng/mL、89 ng/mL、90 ng/mL、91 ng/mL、92 ng/mL、93 ng/mL、94 ng/mL、95 ng/mL、96 ng/mL、97 ng/mL、98 ng/mL、99 ng/mL、100 ng/mL、105 ng/mL、110 ng/mL、115 ng/mL、120 ng/mL、125 ng/mL、130 ng/mL、135 ng/mL、140 ng/mL、145 ng/mL、150 ng/mL、160 ng/mL、170 ng/mL、 180 ng/mL、190 ng/mL、200ng/mL、250 ng/mL、300ng/mL、350 ng/mL、400ng/mL、450 ng/mL、500ng/mL、600ng/mL、700ng/mL、800ng/mL、900ng/mL、1000ng/mL、1100ng/mL、1200ng/mL、1300ng/mL、1400ng/mL、1500ng/mL、1600ng/mL、1700ng/mL、1800ng/mL、1900ng/mL又は2000ng/mLであり、好ましくは、87 ng/mL、88 ng/mL、89 ng/mL、90 ng/mL、91 ng/mL、92 ng/mL、93 ng/mL、94 ng/mL、95 ng/mL、96 ng/mL、97 ng/mL、98 ng/mL、99 ng/mL、100 ng/mL、105 ng/mL、110 ng/mL、115 ng/mL、120 ng/mL、125 ng/mL、130 ng/mL、135 ng/mL、140 ng/mL、145 ng/mL、150 ng/mL、160 ng/mL、170 ng/mL、 180 ng/mL、190 ng/mL、200ng/mL、250 ng/mL、300ng/mL、350 ng/mL、400ng/mL、450 ng/mL、500ng/mL、600ng/mL、700ng/mL、800ng/mL、900ng/mL、1000ng/mL、1100ng/mL、1200ng/mL、1300ng/mL、1400ng/mL、1500ng/mL、1600ng/mL、1700ng/mL、1800ng/mL、1900ng/mL又は2000ng/mLであり、典型的には、87ng/ml、好ましくは、400ng/mLが挙げられる。診断を受ける患者の涙液中のペリオスチンタンパク質濃度が、上記「所定タンパク質濃度」以上であるときには、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断できる。

【0040】
なお、上述した涙液における「所定タンパク質濃度」は例示であり、本発明が実施される際に各実施者により予め上記した手法によって適切な「所定タンパク質濃度」が求められることが望ましいことはいうまでもない。

【0041】
また、涙液が、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われる被験者由来のものであると判断するための基準を提供する手法として、以下のような手法を採用することもできる。

【0042】
すなわち、(i)被験者から採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行う。

【0043】
「正常試料」(あるいは、「対照試料」ともいう)は、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される被験者から採取した涙液である。アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される被験者としては、健常人の他、アトピー性角結膜炎以外の疾患(例、他のアレルギー性結膜炎、好ましくは、春季カタル又は季節性アレルギー性結膜炎)を発症している者でもよい。本発明のいくつかの態様では、正常試料は、健常人から採取した涙液である。本発明の別のいくつかの態様では、正常試料は、他のアレルギー性結膜炎、好ましくは、春季カタル及び季節性アレルギー性結膜炎からなる群から選択される少なくとも1つの疾患に罹患している患者から採取した涙液である。「正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃度」として、例えば、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される複数の被験者に由来する涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定してペリオスチンタンパク質濃度の平均値を求め、そのアトピー性角結膜炎を発症していない被験者における平均値を採用してもよい。平均値を求める際においては、測定の対象となる被験者の例数は2例以上が必要であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、又は100例以上であって、大きな例数を用いることでより信頼できる平均値を求めることができる。

【0044】
そして、(i)被験者から採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が、(ii)正常試料におけるペリオスチンタンパク質濃度よりも高いときに、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断することができる。

【0045】
この場合において、より好ましくは、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断するための基準を提供する手法として、以下のような手法を採用する。先ず、従来知られる他の診断手法により、アトピー性角結膜炎を発症していると判断される複数の被験者と、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される複数の被験者について、それぞれに由来する涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定し、それぞれの被験者群毎に測定されたペリオスチンタンパク質濃度の平均値を求める。そして、アトピー性角結膜炎を発症している被験者における平均値をA、アトピー性角結膜炎を発症していない被験者における平均値をBとしたとき、C=[(A-B)/B]x 100(%)を求める。ここで求められるC値は、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される被験者由来の涙液に対してアトピー性角結膜炎の患者由来の涙液において増加するペリオスチンタンパク質濃度の平均値であり、この値を基準としてアトピー性角結膜炎の発症の有無を判断することができる。

【0046】
つまり、アトピー性角結膜炎の発症が疑われる患者に由来する涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定し、その測定値がB x (C/100+1)で求められる値Dを上回る場合には、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断できる。

【0047】
上記A及びB値を求める際においては、測定の対象となる被験者の例数はそれぞれ2例以上が必要であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、又は100例以上であって、大きな例数を用いることでより信頼できるA及びB値を求めることができる。A及びB値の信頼性が増すことにより、A及びB値に基づいて求められる、C及びD値の信頼性も増す。

【0048】
本発明に係る分析値結果は、上記例示したような判断手法により、アトピー性角結膜炎を発症していることが疑われる被験者由来の涙液を、アトピー性角結膜炎を発症していないと判断される被験者由来の涙液(例、他のアレルギー性結膜炎患者由来の涙液、健常人由来の涙液など)から鑑別する際に有用であって、簡便に迅速かつ低侵襲でアトピー性角結膜炎を検出することを可能とする。

【0049】
本発明による分析結果は、例えばアトピー性角結膜炎の確定診断を行う場合の補助とすることができる。アトピー性角結膜炎の確定診断を行う場合には、上記分析結果に加えて、理学所見の結果、画像的検査、組織学的検査、生化学的検査、微生物学的検査などからなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断するようにしてもよい。

【0050】
ここで、前述のように、ペリオスチンを指標として、アレルギー性疾患、特発性間質性肺炎、アトピー性皮膚炎、薬剤性間質性肺炎などの非特発性間質性肺炎、慢性副鼻腔炎、増殖糖尿病網膜症、胆管細胞癌などを検出できることが知られている。しかしながら、上記分析結果に加えて、理学所見の結果、画像的検査、組織学的検査、生化学的検査、微生物学的検査などからなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断することで、これらの疾患から、アトピー性角結膜炎を区別することができる。

【0051】
また、アトピー性角結膜炎の患者の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が、炎症の沈静化により減少し、重症化により増加することを利用して、本発明に係る分析方法は、各患者におけるアトピー性角結膜炎の程度とその変化を把握する方法としても用いることができる。つまり、本発明に係る分析方法により、又は、他の診断方法により、アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断された患者の生体試料について、継続的に本発明に係る分析方法を適用することにより、当該患者におけるアトピー性角結膜炎の程度の変化を検出して経過を明らかにすることにより、当該患者になされる各種治療方法の妥当性等を知る手段として用いることができる。
具体的には、本発明は、アトピー性角結膜炎の治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度を測定することを含む、治療の有効性を確認する方法を提供する。より具体的には、涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度の減少が、アトピー性角結膜炎の治療が有効であることを示す。

【0052】
この場合、(i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度と、(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度との比較を行う。測定の対象となる被験者の例数は、前述と同様である。

【0053】
そして、(i)治療を受けている被験者より採取した涙液におけるペリオスチンタンパク質濃度が(ii)当該被験者より採取した治療前の涙液におけるペリオスチンタンパク質濃よりも低いときに、治療が有効であると判断することができる。この場合において、治療が有効であると判断する手法は、例えば、前述の「アトピー性角結膜炎を発症していると疑われると判断するための基準を提供する手法」と同様の手法により行うことができる。

【0054】
また、本発明は、更にペリオスチンを認識する抗体を含む、アトピー性角結膜炎の診断薬を包含する。当該診断薬は、涙液中のペリオスチンタンパク質濃度を測定してアトピー性角結膜炎を検出するために用いられる。当該発明において使用されるペリオスチンを認識する抗体としては、当業者に周知のものであってもよく、例えば、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(Milstein C, et al., 1983, Nature 305(5934): 537-40)等が挙げられる。例えば、ペリオスチンに対するポリクローナル抗体は、抗原(ペリオスチン又はその部分ペプチド)を感作した哺乳動物の血液を取り出し、この血液から公知の方法により分離して得られる血清中に含まれるものをそのまま使用することができる。あるいは必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して用いることもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させて得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。

【0055】
本発明に係るペリオスチンを認識する抗体を含むアトピー性角結膜炎の診断薬は、容器およびラベルを含むことによりペリオスチンを認識する抗体を含むアトピー性角結膜炎の診断キットとされてもよい。当該キットは、涙液中のペリオスチンタンパク質濃度を測定してアトピー性角結膜炎を検出するために用いられる。当該容器上の又は容器に伴うラベルには、キットがアトピー性角結膜炎の検出又は診断に使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。

【0056】
上記本発明に係るアトピー性角結膜炎の診断薬、及びアトピー性角結膜炎の診断キットは、涙液中のペリオスチンタンパク質濃度を測定してアトピー性角結膜炎を検出するために用いられ、例えば、上記したような本発明に係るアトピー性角結膜炎の検出又は診断方法に用いることができる。
また、上記本発明に係るアトピー性角結膜炎の診断薬、及びアトピー性角結膜炎の診断キットは、上記したようなアトピー性角結膜炎の患者の経過を観察する際にも使用できることはいうまでもない。

【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1:
事前にインフォームド・コンセントを得た被験者より採取した涙液におけるペリオスチン濃度の分析は、抗ペリオスチン抗体を用いるELISA法により以下のように行った。
【実施例】
【0059】
涙液中に存在する細胞や異物を除去する目的で速やかに遠心分離を行い、上清のみを新しいマイクロチューブに回収し、その後-80度(摂氏)で保存した。サンプルが集まったところで、ELISA法にて測定した。
【実施例】
【0060】
その際、涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml以上の場合と10 ng/ml未満の場合に分けて分析を行った。ここで、涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml以上の場合と10 ng/ml未満の場合とは、次のようにして分けた。まず、下記「涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml以上の場合」の方法を用いて涙液ペリオスチン濃度測定を行い、涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml未満の場合は、さらに高感度で測定できる、下記「涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml未満の場合(高感度法)」の方法を用いて、より正確に涙液ペリオスチン濃度を測定した。
【実施例】
【0061】
涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml以上の場合:
ELISA用96穴プレートのウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) [137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム及び8.04 mM リン酸水素二ナトリウムを含有する水溶液(pH 7.4)]で2 μg/mlに希釈したSS18A(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25°Cで12時間以上静置して、SS18Aをウェル底に吸着させた。ウェルを洗浄液[0.05% Tween-20を含有するPBS]で3回洗浄した後、ブロッキング液[0.5% カゼイン、100 mM 塩化ナトリウム及び0.1% アジ化ナトリウムを含有する50 mM Tris緩衝液(pH8.0)]を250 μl注入し、4°Cで12時間以上静置した。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の検体希釈溶液で201倍に希釈した涙液を100 μl注入し、25°Cで12時間以上静置して、涙液中のペリオスチンをウェルに吸着しているSS18Aに捕捉させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の緩衝液で50 ng/mlに希釈したPODで標識されたSS17B(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25°Cで90分静置して、SS18Aに捕捉されたペリオスチンにPOD標識SS17Bを結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、HRPの基質液[0.8 mM TMBZ、2.5 mM 過酸化水素、30 mM リン酸水素二ナトリウム及び 20 mM クエン酸緩衝液]を100 μl注入し、25°Cで10分間反応させた後、0.7N 硫酸により反応を停止させた。その後、吸光度計を用いて450 nmの吸光度を測定した。また、精製ペリオスチンタンパク質の希釈系列を同様に測定して、このELISA法におけるペリオスチン濃度-吸光度標準曲線を作成した。涙液を測定した吸光度を、作成した標準曲線に当てはめ、涙液中のペリオスチン濃度を算出した。
【実施例】
【0062】
涙液ペリオスチン濃度が10 ng/ml未満の場合(高感度法):
ELISA用96穴プレートのウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) [137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム及び8.04 mM リン酸水素二ナトリウムを含有する水溶液(pH 7.4)]で2 μg/mlに希釈したSS18A(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25°Cで12時間以上静置して、SS18Aをウェル底に吸着させた。ウェルを洗浄液[0.05% Tween-20を含有するPBS]で3回洗浄した後、ブロッキング液[0.5% カゼイン、100 mM 塩化ナトリウム及び0.1% アジ化ナトリウムを含有する50 mM Tris緩衝液(pH8.0)]を250 μl注入し、4°Cで12時間以上静置した。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の検体希釈溶液で201倍に希釈した涙液を100 μl注入し、25°Cで12時間以上静置して、涙液中のペリオスチンをウェルに吸着しているSS18Aに捕捉させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の緩衝液で50 ng/mlに希釈したビオチンで標識されたSS17B(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25°Cで90分静置して、SS18Aに補足されたペリオスチンにビオチン標識SS17Bを結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、15,000倍に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたストレプトアビジン[streptavidin-PolyHRP40 (Stereospecific Detection Technologies社)]を100 μl注入し、25°Cで60分静置して、ビオチン標識SS17Bと結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、HRPの基質液[0.8 mM TMBZ、2.5 mM 過酸化水素、30 mM リン酸水素二ナトリウム及び 20 mM クエン酸緩衝液]を100 μl注入し、25°Cで10分間反応させた後、0.7 N 硫酸により反応を停止させた。その後、吸光度計を用いて450 nm(主波長)、550 nm(副波長)の吸光度を測定した。また、精製ペリオスチンタンパク質の希釈系列を同様に測定して、このELISA法におけるペリオスチン濃度-吸光度標準曲線を作成した。涙液を測定した吸光度を、作成した標準曲線に当てはめ、涙液中のペリオスチン濃度を算出した。
【実施例】
【0063】
ここで、上記SS18AおよびSS17Bは、次のように作製したものである。すなわち、ウィスターラット(日本チャールスリバー株式会社)の足底部にリコンビナントペリオスチンタンパク質を注入し、3日後膝窩、鼠径、腸骨リンパ節を取り出し、Sp2/Oミエローマ細胞と融合した。生育した融合細胞株の中から2つのクローンを確立し、SS18A、SS17Bと命名した。尚、リコンビナントペリオスチンタンパク質として、Journal of Allergy Clinical Immunology, vol.118, 98-104, 2006に記載の方法によって調製したものを用いた。
【実施例】
【0064】
上記方法により、従来法によりアトピー性角結膜炎に罹患していると診断された被験者(AKC)と、アトピー性角結膜炎の罹患が見られない健常人(control)及び他のアレルギー性結膜炎を罹患していると診断された被験者(VKC: 春季カタル及びSAC: 季節性アレルギー性結膜炎)について、涙液中のペリオスチン濃度(ng/ml)の測定を行った結果を図1に示す。なお、今回の解析においてはタリムス点眼液を投与中の患者については除外した。図1に示す通り、アトピー性角結膜炎患者(AKC)( 30例)の涙液中のペリオスチン濃度の中央値は、451.0ng/mLであった。一方、健常人(control)(18例)、春季カタル(VKC)患者(6例)及び季節性アレルギー性結膜炎(SAC)患者(18例)の涙液中のペリオスチン濃度の中央値は、それぞれ、0.2ng/mL、46.1ng/mL及び10.9ng/mLであった。アトピー性角結膜炎(AKC)において、健常人(control)、春季カタル(VKC)患者および季節性アレルギー性結膜炎(SAC)患者それぞれと比較して涙液中のペリオスチン濃度が有意に高いことが確認できた(Kruskal-Wallis検定(p<0.001)後、各群をMann-Whitney検定(p<0.05))。【0065】
上記により測定された涙液中のペリオスチン濃度に関して、母集団(涙液中ペリオスチン濃度を測定した全例(72例))からアトピー性角結膜炎を抽出しうる至適閾値(cut-off値)を探すためにReceiver-Operating-Characteristics(ROC)曲線を用いて検討を行った。すなわち、以下のようにcut-off値の設定と、設定したcut-off値を用いた場合の診断精度の測定を行った。
【実施例】
【0066】
先ず、涙液中ペリオスチン濃度の測定結果に基づき、ROC解析を行った。その結果、ROC曲線下面積(area under curve [AUC])は0.917(95%CI, 0.855-0.980)で統計学的に有意であり(P < 0.001、t検定)、cut-off値の候補として、87 ng/mLが設定できた。
【実施例】
【0067】
尚、アトピー性角結膜炎患者群(n=30)について平均値の95%信頼区間の上限値を求めたところ、上限値は1968 ng/mlであった。
【実施例】
【0068】
涙液中のペリオスチンタンパク質濃度のcut-off値を87 ng/mlに設定した場合、感度83.3 %、特異度88.1 %である。このことから、cut-off値を 87 ng/mlに設定した場合には、アトピー性角結膜炎を比較的高い精度で検出できることが分かった。
【実施例】
【0069】
本実施例においては、上記設定したcut-off値を「所定タンパク質濃度」に設定することにより、アトピー性角結膜炎を高精度で検出できることが示唆された。
【実施例】
【0070】
実施例2:涙液中ペリオスチン濃度とアトピー性角結膜炎の重症度との関係
本実施例においては、アトピー性角結膜炎患者由来の涙液中ペリオスチン濃度とアトピー性角結膜炎の重症度との関係を検討した。
アトピー性角結膜炎の症状の重症度と関連する指標としては、結膜増殖の程度(増殖スコア)、角膜上皮障害の有無などが挙げられる。そして、増殖スコアがより高い場合、あるいは角膜上皮障害がある場合、アトピー性角結膜炎の症状がより重症であると考えられる。
【実施例】
【0071】
(1) 涙液中ペリオスチン濃度と増殖スコアとの関係
図2に、実施例1に記載の方法に従って測定した下記3群の患者おける涙液中ペリオスチン(POSTN)濃度(ng/ml)を示す。
【実施例】
【0072】
(a) 増殖スコア(proliferation score)1-0のアトピー性角結膜炎患者 (score =1-0、7例)
(b) 増殖スコア3-2のアトピー性角結膜炎患者 (score =3-2、23例)
【実施例】
【0073】
ここで、増殖スコアは、次のように求めた。増殖スコアは直径1mm以上の結膜巨大乳頭がどれほどの範囲に認められたかで判断した。直径1mm以上の結膜乳頭が上眼瞼結膜の1/3以下に認められたものをScore=1とし、それ以下はScore=0とした。また、直径1mm以上の結膜乳頭が上眼瞼結膜の1/2以下に認められたものをScore=2とし、それ以上認められたものをScore=3とした。(Wakamatsu TH, Satake Y, Igarashi A, Dogru M, Ibrahim OM, Okada N, Fukagawa K, Shimazaki J, Fujishima H: IgE and eosinophil cationic protein (ECP) as markers of severity in the diagnosis of atopic keratoconjunctivitis, Br J Ophthalmol, 96:581-586, 2012)。
【実施例】
【0074】
したがって、「増殖スコア1-0」とは、直径1mm以上の結膜乳頭が上眼瞼結膜の1/3以下に認められたものであることを指し、「増殖スコア3-2」とは直径1mm以上の結膜乳頭が上眼瞼結膜の1/3以上に認められたものであることを指す。増殖スコアが高いことは、症状がより重いことを示す。
増殖スコア1-0の患者の涙液中ペリオスチン濃度の中央値は27.9ng/mlであり、増殖スコア3-2の患者の涙液中ペリオスチン濃度の中央値は678.8ng/mlであった。増殖スコア3-2の患者の涙液中ペリオスチン濃度は増殖スコア1-0の患者と比較して有意に高かった(p<0.001、Mann-Whitney検定)。【0075】
このことは、涙液中ぺリオスチン濃度が高い群では、結膜に増殖性変化が見られる重症のアトピー性角結膜炎患者が多いことを示す。
【実施例】
【0076】
(2) 涙液中ペリオスチン濃度と角膜上皮障害の有無との関係
図3に、実施例1に記載の方法に従って測定した下記2群の患者おける涙液中ペリオスチン(POSTN)濃度(ng/ml)を示す。
【実施例】
【0077】
(a) 角膜上皮障害の無いアトピー性角結膜炎患者(SPK(-)、7例)
(b) 角膜上皮障害の有るアトピー性角結膜炎患者(SPK(+)、19例)
【実施例】
【0078】
ここで、角膜上皮障害の有無は、通常の方法に従って医師が確認した。具体的には、眼科専門医によるフルオレセイン染色を用いた細障灯顕微鏡検査によって角膜上皮障害の有無を確認した。
【実施例】
【0079】
角膜上皮障害の無い患者(SPK(-))の涙液中ペリオスチン濃度の中央値は130.3 ng/mlであり、角膜上皮障害の有る患者(SPK(+))の患者の涙液中ペリオスチン濃度の中央値は629.3ng/mlであった。SPK(+)の患者の涙液中ペリオスチン濃度はSPK(-)の患者と比較して有意に高かった(p<0.01、Mann-Whitney検定)。【0080】
このことは、涙液中のぺリオスチン濃度が高い場合には、角膜上皮障害を有する重症のアトピー性角結膜炎である可能性が高いことを示す。
【実施例】
【0081】
上記結果を総合して検討すると、症状がより重症であるほど、アトピー性角結膜炎患者由来の涙液における涙液中ペリオスチン濃度がより高くなる傾向にあることが分かった。
【実施例】
【0082】
参考例1:結膜組織におけるペリオスチン発現
(1) 免疫染色
結膜組織におけるペリオスチンの発現レベルを確認するため、健常人及びアトピー性角結膜炎患者におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルを、組織染色により確認した。組織染色は、具体的には、次のように行った。
アトピー性角結膜炎患者由来の結膜巨大乳頭組織および正常結膜組織を、それぞれ文書による同意説明を行った上で外科的切除により採取した。各組織片を生理食塩水で軽く洗った後、速やかにOCTコンパウンドを用いて凍結標本ブロックを作成し、超低温冷凍庫(マイナス80度(摂氏))で保存した。これらの染色凍結標本ブロックをクリオスタットにて5μmの厚さで薄切し、スライドグラスに貼付し、標本切片を作成した。標本切片を冷アセトン液中に浸して固定した後、内因性のペルオキシダーゼの除去のため3%過酸化水素を添加したメタノール液を湿潤箱の中で10分反応させた。標本切片をPBSで5分間洗浄した後、Vectastain universal Elite ABCキット(ベクターラボラトリーズ社)に添付のブロッキング用正常血清を用いて、30分間反応させ、さらにブロッキング用正常血清を用いて3000倍に希釈した抗ペリオスチン抗体(ab14041、アブカム社)を一晩反応させた。標本切片をPBSで5分間ずつ2回洗浄した後、ビオチン化2次抗体(キット添付)を規定のとおり希釈し、30分間反応させた。標本切片を同様に洗浄し、規定通り希釈したVECTORSTAIN ABC Reagent(キット添付)を、30分間反応させた。さらに標本切片を同様に洗浄した後、発色基質(DAB substrate kit for peroxidase、ベクターラボラトリーズ社)を用いてペリオスチンタンパク質の検出を行った。対比染色としては、ヘマトキシリン液を用いた。
【実施例】
【0083】
図4は、結膜組織における免疫組織染色の結果を示す写真である。具体的には、アトピー性角結膜炎患者(Patient 1及びPatient 2)由来の結膜巨大乳頭組織、及び健常人(control)由来の正常結膜組織における免疫染色の結果を示す。図4中、上段は、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)の結果を示し、下段は、抗ペリオスチン (Anti-periostin) 抗体を用いた染色の結果を示す。
【実施例】
【0084】
上記組織免疫染色により、ペリオスチンの発現部位が茶色に染まる(図4の下段)。染色の結果、アトピー性角結膜炎患者由来の結膜巨大乳頭においてペリオスチンタンパク質量が高いことが分かった。例えば、図4のPatient 1及びPatient 2の下段の写真を見ると、アトピー性角結膜炎患者ではペリオスチンが強く発現していることが分かる。
一方、対照群として用いた健常人では、ペリオスチンタンパク質量がきわめて低かった(図4のcontrolの下段)。
【実施例】
【0085】
(2) mRNA量
結膜組織におけるペリオスチンの発現レベルを確認するため、健常人及びアトピー性角結膜炎患者におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルを、mRNA量を測定することにより確認した。mRNA量の測定は、具体的には次のようにして行った。
【実施例】
【0086】
アトピー性角結膜炎患者由来の結膜巨大乳頭組織および正常結膜組織片を、1.5mLのマイクロチューブに回収し、RNA抽出用組織保存専用液(RNA later、キアゲン社)を入れて冷蔵(4度(摂氏))で一晩浸潤させた後、抽出を行うまで超低温冷凍庫(マイナス80度(摂氏))で保存した。Total RNA抽出の際、組織を専用のペッスルを用いて十分に破砕した後、1mLのISOGEN(ニッポンジーン社)で溶解し、ボルテックスにより撹拌させた。200μLのクロロホルムを加え、さらによく撹拌させた後、4度(摂氏)に冷却した遠心機で15分間、15,000rpmの条件で遠心分離を行った。この時、水層を新しい1.5mLのマイクロチューブに回収し、500μLの2-プロパノールおよび2μLグリコーゲン溶液(10mg/ml)を入れてボルテックスにより撹拌させた後、同様に10分間、15,000rpmの条件で遠心分離した。この時形成されたペレットを、上清を除去後500μLの80%エタノール溶液で洗浄し、SpeedVac(減圧濃縮装置、サーモサイエンティフィック社)を用いて完全に乾燥させた。さらにペレットを滅菌蒸留水にて溶解後、RNeasy mini kit(QIAGEN社)を用いて規定のとおりにtotal RNAのclean upおよびDNase処理を行った。滅菌蒸留水にて溶出させた各組織由来のtotal RNAは、濃度測定後、一定量(~1μg)をiScript cDNA Synthesis Kit (バイオラッド社)を用いてcDNA合成した。これらをSYBR Green Realtime PCR Master Mix (東洋紡社)試薬およびヒトペリオスチン遺伝子(mRNA)を特異的に認識させるように設計したプライマーを用い、Bio-Rad CFX96にて各組織における遺伝子発現を定量解析した。PCRプログラムは初期活性化(95℃、1分)と、2ステップのサイクリング(変性;95℃、5秒、アニーリング/エクステンション;60℃、15秒)を組み合わせた方法を用い、サイクル数は40で設定した。この際、内標準コントロール遺伝子としてGAPDHを用い、ペリオスチン遺伝子の発現量を補正した。本検討に用いたペリオスチン遺伝子のプライマーの配列は以下のとおりである。
ペリオスチン
プライマー1:GATGGAGTGCCTGTGGAAAT (配列番号7)
プライマー2:AACTTCCTCACGGGTGTGTC (配列番号8)
【実施例】
【0087】
図5は、結膜組織におけるペリオスチン発現量(mRNA量)を測定した結果を示すグラフである。図5中、AKCは、アトピー性角結膜炎の結膜巨大乳頭であり、controlは、健常人由来の正常結膜粘膜組織である。
【実施例】
【0088】
上記mRNA量の測定の結果、アトピー性角結膜炎患者由来の結膜巨大乳頭において、正常結膜粘膜組織と比較して、ペリオスチン遺伝子の発現レベルが亢進していることを確認できた。
【実施例】
【0089】
以上、実施例に示した通り、アトピー性角結膜炎の患者由来の涙液においてペリオスチンタンパク質の濃度が増加していることが見出され、被験者由来の涙液におけるペリオスチンタンパク質の濃度を分析することにより、アトピー性角結膜炎についての診断に有用な情報とすることができる。特に、アトピー性角結膜炎患者では、涙液中のペリオスチン濃度が他のアレルギー性結膜炎に比しても高値であることから、涙液中のペリオスチンタンパク質の分析値は、アトピー性角結膜炎と他のアレルギー性結膜炎を分離して検出する際に有用であることが示された。また、涙液中のペリオスチンタンパク質の濃度は、アトピー性角結膜炎の重症度に応じて増加することから、涙液中のペリオスチンタンパク質の分析値は、アトピー性角結膜炎の重症度を測定するのにも有用であることが示されたことも示された。
【実施例】
【0090】
さらに、参考例1における免疫組織染色及びmRNA量の測定する方法と比較して、涙液においてペリオスチンタンパク質の濃度を分析し、アトピー性角結膜炎を検出する方法は、簡便に行えることが確認できた。
【配列表フリ-テキスト】
【0091】
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4