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明細書 :糸状菌に対する抗真菌薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-116137 (P2015-116137A)
公開日 平成27年6月25日(2015.6.25)
発明の名称または考案の名称 糸状菌に対する抗真菌薬
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  31/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/47
A61K 37/02
A61P 31/10
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 8
出願番号 特願2013-260325 (P2013-260325)
出願日 平成25年12月17日(2013.12.17)
発明者または考案者 【氏名】森田 栄伸
【氏名】チョウ ゾウ ヘイン
【氏名】イェンツ ミハエル シュレーダー
出願人 【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100116861、【弁理士】、【氏名又は名称】田邊 義博
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4C084
4H045
Fターム 4B024AA01
4B024BA67
4B024CA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA21
4C084CA18
4C084DA42
4C084NA14
4C084ZB322
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA31
要約 【課題】糸状菌に対し新たな作用機序を有する抗真菌薬の提供。
【解決手段】特定の配列からなるアミノ酸配列において、先頭から47番目と96番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、糸状菌に対する抗真菌活性を有するタンパク質、並びに当該タンパク質の還元状態下における、人への病原性を有する糸状菌(ただし、カンジダ属菌を除く)に対する抗真菌薬としての使用する方法。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において、先頭から47番目と96番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、糸状菌に対する抗真菌活性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において、先頭から47番目と96番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、糸状菌に対する抗真菌活性を有するタンパク質、をコードするDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質、請求項2に記載のDNAによりコードされるタンパク質、または、S100A7タンパク質を用いた、人への病原性を有する糸状菌(ただし、カンジダ属菌を除く)に対する抗真菌薬。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質、請求項2に記載のDNAによりコードされるタンパク質、または、S100A7タンパク質、の還元状態下における、人への病原性を有する糸状菌(ただし、カンジダ属菌を除く)に対する抗真菌薬としての使用。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌に対する抗真菌物質ないし抗真菌薬に関し、特にS100A7タンパク質類を用いた抗真菌物質ないし抗真菌薬に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌症は真菌による感染症であり、例えば、白癬菌による白癬症、カンジダ属菌によるカンジダ症、クリプトコッカス属菌によるクリプトコッカス症、アスペルギルス属菌によるアスペルギルス症、放線菌による放線菌症、ケカビ目の真菌によるムコール症、マラセチア菌によるマラセチア症、ノカルジア属菌によるノカルジア症などが知られている。
【0003】
従来、真菌症の治療は、主として、真菌の細胞膜や細胞壁の構成成分の合成を阻害する薬や核酸の合成を阻害する薬が使用されている。
【0004】
しかしながら、その種類はまだ少なく、特に、糸状菌に対しては効果のないものもあった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2013-521322号公報
【特許文献2】特表平9-506098号公報
【特許文献3】特表2013-521300号公報
【特許文献4】特表2006-514106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、新たな作用機序を有する抗真菌薬を提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、先頭から47番目と96番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、糸状菌に対する抗真菌活性を有するタンパク質である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、先頭から47番目と96番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、糸状菌に対する抗真菌活性を有するタンパク質、をコードするDNAである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のタンパク質、請求項2に記載のDNAによりコードされるタンパク質、または、S100A7タンパク質を用いた、人への病原性を有する糸状菌(ただし、カンジダ属菌を除く)に対する抗真菌薬である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のタンパク質、請求項2に記載のDNAによりコードされるタンパク質、または、S100A7タンパク質、の還元状態下における、人への病原性を有する糸状菌(ただし、カンジダ属菌を除く)に対する抗真菌薬としての使用である。
【0011】
なお、還元状態下とは、還元作用のある物質を添加するほか、使用環境自体が還元状態となる、または、還元状体である場合も含むものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真菌、特に糸状菌を死滅させ、人体への安全性の高い抗真菌薬を提供可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ヒトの皮膚上の物質に抗菌活性があり、それがS100A7であることを確認した一連の実験結果を示した図である。
【図2】使用環境の異なるS100A7の抗菌活性を示したグラフである。
【図3】各種糸状菌に対するS100A7の抗菌活性を評価したグラフである。
【図4】白癬菌にS100A7を採用させたときの細胞死の様子を蛍光法で示した写真である。
【図5】白癬菌内にS100A7が進入し細胞死する様子を示した電子顕微鏡写真である。
【図6】免疫抑制状体のマウスを用いたS100A7の投与の有無による生存実験結果を示したグラフである。
【図7】S100A7の投与の有無によるアスペルギルスの蔓延の様子を示したマウスの肺組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
タンパク質S100A7は、皮膚炎や感染症などにおいてその過剰発現が知られ、例えば乾癬の炎症マーカーとして把握されている。カルシウム結合タンパク質としても知られている。
また、過去の知見としては、S100A7は、黄色ブドウ球菌には効果がないものの、大腸菌その他の一部の細菌に対して死滅作用があることが知られていた。
一方、カンジダのみの検討結果であるが、真菌に対しては死滅作用がないことも知られていた。

【0015】
本願発明者らは、皮膚疾患を研究する過程で、S100A7の特定場所のアミノ酸(システイン)の組が亜鉛をキレートし、これにより、カンジダを除く真菌、特に糸状菌に対して抗菌作用があることを発見して本発明に想到した。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。

【0016】
まず、ヒトの皮膚上の物質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。最終的にひとつのピークに(図1a上)、白癬菌(T.rubrum)に対する高い抗菌活性が見られた(図1a下)。

【0017】
電気泳動(SDS-PAGE)とウェスタンブロッティング(WB)によって、このピークを示す物質がS100A7であることを確認した(図1b)。また、マトリックス支援レーザ離脱イオン化法(MALDI)により分子量の観点からもS100A7であることを確認した(図1c)。なお、S100A7のアミノ酸配列を配列番号2に示す(アクセッション番号:CR542164)。

【0018】
次に、S100A7の白癬菌に対する抗菌活性について詳細に検討した。図2aは、濃度を変えたS100A7の、還元状態下のもの(図中redPso)、酸化状態下のもの(図中oxPsoriasin)、システインをアルキル化したもの(図中red/alkPso)、システインを硫酸化したもの(図中sulfPso)の白癬菌に対する抗菌活性を示したグラフである。★印は有意な差を示す。図から100A7の還元状態下における抗菌活性が特に優れていることが確認できた。

【0019】
また、S100A7のアミノ酸配列のうち、先頭から46番目のシステインと95番目のシステインに関し、片方またはいずれをもアラニンに置換した配列を作出し、これらについて、大腸菌(E.Coli)、アスペルギルス・フミガータス(A.fumigatus)、白癬菌(T.rubrum)に対する抗菌活性を評価した。図2bに結果を示す。なお、★印は有意な差を示す。なお、配列番号中では先頭にメチオニンがあるためシステインは47番目と96番目に位置する。

【0020】
図から、糸状菌である白癬菌やアスペルギルス属菌については、S100A7の特定箇所、すなわち、46番目と95番目との両方がシステインであることが重要であり、これらの場所がシステインでなければ抗菌活性を発揮しないことを確認した。一方、大腸菌に関しては当該アミノ酸は重要な役割を果たさず、ミュータントについても死滅作用が維持されることを確認した。なお、別途評価により、このシステインの組がZnをキレートすることも確認した。

【0021】
以上の結果から、糸状菌についてS100A7、および、46番目および95番目のシステインを維持して変異させたタンパク質に抗菌活性があることが分かった。

【0022】
次に、他の真菌(糸状菌)についても有効であることを確認する試験をおこなった。図3は、S100A7(還元状態)の濃度を変えて、各種糸状菌に対する、抗菌活性を測定した結果を示した図である。

【0023】
抗菌活性を測定した菌は、アスペルギルス・フミガータス(A.fumigatus)、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)、ミクロスポルム・カニス(M.canis)、マラセチア・ファーファー(M.furfur)、リゾプス・オリゼ(R.oryze)、トリコフィトン‐メンタグロフィテス(T.mentagrophytes:毛瘡白癬菌)、白癬菌(T.rubrum)である。

【0024】
図から明らかなように、従来知見であるところのカンジダへの抗菌活性は示さないものの、それ以外の糸状菌については、一定濃度以上、すなわち、4μM程度以上の添加により抗菌活性(死滅作用)があることが確認できた。

【0025】
白癬菌に還元状態下でS100A7を4μMの濃度で添加し、TUNEL法とSYTOX(米国Molecular Probe Inc社登録商標)グリーン染色法にて蛍光観察をおこなった。図4に示したように、コントロールと対比して、S100A7が細胞内に進入し、DNAを分断して細胞死を誘導していることを確認した。なお、図中スケールは200μmである。なお、図示は省略するがアスペルギルスについても同様の観察結果が得られた。

【0026】
また、S100A7を4μMの濃度で添加した白癬菌の経時変化の透過型電子顕微鏡写真を図5に示す。図中、矢印は高電子密度物質を示し、細胞内小器官の変性像を示す。スケールは0.2μmである。図示したように、添加24時間後には、アポトーシスが生じていることが確認できた。

【0027】
次に動物実験をおこなった。抗がん剤投与にて免疫抑制状態のマウスにアスペルギルスを投与し、アスペルギルス肺炎を発症させたものと、更に、S100A7を投与した個体とについて生存実験をおこなった。個体数はいずれも7とし、体重1kgあたり5mgのS100A7(還元状態)を経鼻的に投与した図6に生存曲線を示す。S100A7を投与しない群は、投与後5日以内に総て死滅してしまったが、投与した群は、4割程度しか死滅せず、S100A7の抗菌活性が実際に生体内でも維持・発揮されることが確認できた。

【0028】
また、図7は、マウスの肺組織の写真である。グロコット-ゴモリ染色(GMS)、ヘマトキシリン・エオシン染色(H&E)、走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ示す。S100A7を投与しない場合は、アスペルギルス(矢頭印)が蔓延しているが、投与したものについてはほとんど観測されないことを確認した。なお、図中Aは肺胞、Adはアスペルギルス菌糸、Bは細気管支、Rは隔壁を表す。電子顕微鏡写真から、S100A7を投与した場合アスペルギルス菌糸が変形していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
S100A7は、ヒトがもともと皮膚や肺等で形成するタンパク質であるため安全性が高く、S100A7若しくは特定システインを維持しつつ残余を組み換えたタンパク質を用いて、抗真菌薬、特に糸状菌に対する抗真菌薬を提供し、また、当該タンパクを使用した真菌症治療に役立てることができる。
【0030】
なお、これらのタンパク質をコードするDNA自体も有用である。当該DNAによりコードされるタンパク質が発現可能な形態で導入された細胞株を定法により増殖させ、抗真菌物質ないし抗真菌薬を得ることもできる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6