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明細書 :有機化合物触媒体とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-209798 (P2016-209798A)
公開日 平成28年12月15日(2016.12.15)
発明の名称または考案の名称 有機化合物触媒体とその製造方法
国際特許分類 B01J  31/02        (2006.01)
B01J  37/34        (2006.01)
B01J  37/04        (2006.01)
B01J  37/02        (2006.01)
H01M   8/10        (2016.01)
H01M   4/90        (2006.01)
FI B01J 31/02 102M
B01J 37/34
B01J 37/04 101
B01J 37/02 301M
H01M 8/10
H01M 4/90 Y
請求項の数または発明の数 22
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2015-094302 (P2015-094302)
出願日 平成27年5月1日(2015.5.1)
発明者または考案者 【氏名】齋藤 永宏
【氏名】橋見 一生
【氏名】西脇 祐太
【氏名】許 容康
【氏名】上野 智永
【氏名】ブラテスク・マリア
出願人 【識別番号】500254354
【氏名又は名称】公益財団法人科学技術交流財団
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
審査請求 未請求
テーマコード 4G169
5H018
5H026
Fターム 4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA21C
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE14C
4G169BE21C
4G169BE37C
4G169BE38C
4G169CC32
4G169DA05
4G169EB19
4G169EC28
4G169FA02
4G169FB07
4G169FB34
4G169FB58
4G169FB80
4G169FC02
4G169FC06
4G169FC08
5H018AA06
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE08
5H018HH05
5H018HH10
5H026AA06
要約 【課題】白金触媒の代替触媒として有用な、新規な有機化合物触媒体とその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機原料化合物として、炭素、水素および酸素以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意すること、導電性炭素材料を用意すること、有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより炭素系触媒を合成すること、炭素系触媒と導電性炭素材料とを接触させて有機化合物触媒体を得ること、を含む、有機化合物触媒体の製造方法とする。
【選択図】図8
特許請求の範囲 【請求項1】
有機原料化合物として、炭素、水素および酸素以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意すること、
導電性炭素材料を用意すること、
前記有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより炭素系触媒を合成すること、
前記炭素系触媒と前記導電性炭素材料とを接触させて有機化合物触媒体を得ること、
を含む、有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記環式化合物は、前記環構造の骨格に前記異種元素を含む複素環式化合物である、請求項1に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物触媒体は、前記炭素系触媒と前記導電性炭素材料とを混合することで得る、請求項1または2に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記環式化合物は、少なくとも一部に5員環と6員環とが縮合した化学構造を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記環式化合物は、少なくともインドールまたはその誘導体を含む、請求項4に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項6】
前記有機化合物触媒体は、前記有機原料化合物と前記導電性炭素材料とを含む液中でプラズマを発生させることにより、前記導電性炭素材料の表面に前記炭素系触媒を付着させることで得る、請求項1または2に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項7】
前記環式化合物は、6員環を1つ有する単環化合物である、請求項6に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項8】
前記環式化合物は、少なくともピリジンまたはその誘導体を含む、請求項7に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項9】
前記有機原料化合物を含む前記液は、常温で液体の芳香族化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項10】
前記導電性炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンブラックおよびグラフェンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~9のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物触媒体は、前記炭素系触媒と前記導電性炭素材料との合計を100質量%としたとき、前記炭素系触媒を30質量%以上100質量%未満の割合で含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項12】
前記プラズマは、前記液中に一対の線状電極を配置し、前記電極間にパルス幅が0.1μs~5μsで、周波数が10~10Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させる、請求項1~11のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体の製造方法。
【請求項13】
炭素系触媒と導電性炭素材料とを含み、
前記炭素系触媒は、
炭素、水素および酸素以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を有機原料化合物とし、
前記有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより合成されている、有機化合物触媒体。
【請求項14】
前記環式化合物は、前記環構造の骨格に前記異種元素を含む複素環式化合物である、請求項13に記載の有機化合物触媒体。
【請求項15】
前記炭素系触媒と前記導電性炭素材料とが混合されている、請求項13または14に記載の有機化合物触媒体。
【請求項16】
前記環式化合物は、少なくとも一部に5員環と6員環とが縮合した化学構造を有する、請求項13~15のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体。
【請求項17】
前記環式化合物は、少なくともインドールまたはその誘導体を含む、請求項16に記載の有機化合物触媒体。
【請求項18】
前記導電性炭素材料の表面に前記炭素系触媒が担持されている、請求項13または14に記載の有機化合物触媒体。
【請求項19】
前記環式化合物は、6員環を1つ有する単環化合物である、請求項18に記載の有機化合物触媒体。
【請求項20】
前記環式化合物は、少なくともピリジンまたはその誘導体を含む、請求項19に記載の有機化合物触媒体。
【請求項21】
前記炭素系触媒と前記導電性炭素材料との合計を100質量%としたとき、前記炭素系触媒を30質量%以上100質量%未満の割合で含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の有機化合物触媒体。
【請求項22】
請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法により製造された有機化合物触媒体を備える、固体高分子形燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物触媒体とその製造方法に関する。より詳細には、酸素還元反応(ORR)活性を示す有機化合物触媒体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、高いエネルギー変換効率に加えて、排ガスがクリーンであることから、環境負荷の少ない新しい電源として注目を集めている。この燃料電池は、使われる電解質の種類によって様々な方式に分類され、なかでもプロトン導電性の固体高分子電解質膜を使用する固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC、以下、単に「PEFC」と記す。)は、小型軽量化が可能で、100℃以下という低い温度で動作すること等から、電気自動車や携帯機器等用の電源あるいは電気と熱を併給(コジェネレーション)する家庭用据え置き用電源等として実用化が進められている。
【0003】
PEFCは、一般的にアノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配される高分子電解質膜とを含む、膜-電極接合体によって構成されている。そしてPEFCのアノードには、主として燃料として用いられる水素を酸化する水素酸化反応(Hydrogen Oxidation Reaction:HOR)を促進させる触媒が備えられ、カソードには、酸化剤を還元する酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction:ORR)を促進させる触媒が備えられている。ここで、反応速度の遅いカソードには、高いORR活性を示す白金触媒が広く一般に使用されているが、白金触媒は価格が高いことや、PEFCに使用した場合の耐久性が低いこと等から、白金触媒に代わる新たな触媒が求められている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2014-100617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金代替触媒の一つとして、異種元素含有カーボン触媒等に代表されるカーボン系触媒が注目を集め、その開発が進められている。カーボン材料(炭素質材料)については、異なる混成軌道を有する炭素は異なる成分系であるとみなした場合に、カーボン材料自体がカーボン原子の集合体を主体とした多成分系からなると考えることができ、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用を見出すことができる。中でも、カーボン材料の結晶格子点に異種原子を置換した異種元素含有カーボン材料については、ORR活性が発現され得ることが知られており、異種元素含有カーボン触媒等と呼ばれている。
【0006】
この異種元素含有カーボン触媒は、典型的には、ポリマーやカーボンナノチューブ等の炭素質材料に異種元素を含む化合物を導入して重合体または複合体等とした後、400℃~1500℃程度の加熱処理を施し炭化させることで製造されている。しかしながら、このような製造方法では、導入した異種元素が熱処理により脱離してしまうなどの問題があった。したがって、潜在的に、異種元素含有カーボン触媒のより簡便な触媒の製造方法が求められている。また、触媒の使用量をより低減して、高い触媒活性を得ることが求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて創出されたものであり、白金触媒の代替触媒として有用な、新規な有機化合物触媒体とその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願は、上記の課題を解決するものとして、有機化合物触媒体の製造方法を提供する。この製造方法は、有機原料化合物として、炭素、水素および酸素以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意すること、導電性炭素材料を用意すること、上記有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより炭素系触媒を合成すること、上記炭素系触媒と上記導電性炭素材料とを接触させて有機化合物触媒体を得ること、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明者らは、異種元素を含む有機原料化合物を原料とし、かかる有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより炭素系触媒を合成する手法を既に提案している(例えば、特許文献1参照)。かかる炭素系触媒の化学構造の詳細は明確ではないが、酸化還元(ORR)反応に対する触媒作用を示すことが確認されている。本発明者らがこの炭素系触媒の実際的な応用について鋭意研究を重ねてきた結果、上記炭素系触媒を導電性炭素材料と接触させるという簡便な手法により、これまでに知られていない特異な触媒活性挙動が発現されることが見いだされた。ここに開示される技術は、かかる知見に基づき完成されたものであり、炭素系触媒と導電性炭素材料との欠点を互いに補いつつ両者の利点を協奏的に活かして、これまでにない新規な有機化合物触媒体を提供するものである。またこれにより、炭素系触媒の触媒機能を十分に引き出し、その使用量の削減を可能とする。
【0010】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様において、上記有機化合物触媒体は、上記炭素系触媒と上記導電性炭素材料とを混合することで得ることを特徴としている。ここで、上記環式化合物は、少なくとも一部に5員環と6員環とが縮合した化学構造を有することが好ましい。上記環式化合物は、例えば、少なくともインドールまたはその誘導体を含むことが好ましい。
液中プラズマにより合成された炭素系触媒は、電子伝導性に優れた導電性炭素材料と接触させることで、当該炭素系触媒が本来有していた触媒活性が如何なく発揮され得る。このような構成により、例えばPEFC等の電極用触媒として好適な有機化合物触媒体を簡便に提供することができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様において、上記有機化合物触媒体は、上記有機原料化合物と上記導電性炭素材料とを含む液中でプラズマ(単に、液中プラズマという場合がある。)を発生させることにより、上記導電性炭素材料の表面に上記炭素系触媒を付着させることで得ることを特徴としている。ここで上記環式化合物は、6員環を1つ有する単環化合物であることが好ましい。上記環式化合物は、例えば、少なくともピリジンまたはその誘導体を含むことが好ましい。
液中プラズマにより合成された炭素系触媒の中には、単独では触媒活性が十分に発現され難い構造のものも存在し得る。また、一次粒子が凝集し易く、その反応表面が有効に活用されない場合もあり得る。このような炭素系触媒については、当該炭素系触媒の合成と同時に、担体として機能し得る導電性炭素材料に好適な分散状態で担持させることが好ましい。これにより、特別な手間をかけることなく、例えば単独の炭素系触媒よりも高活性な有機化合物触媒体を実現することができる。
【0012】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様において、上記有機原料化合物を含む上記液は、常温で液体の芳香族化合物であることを特徴としている。このような構成により、例えば、原料化合物と芳香族化合物とからなるより触媒活性に優れた有機化合物触媒体を製造することができる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様において、上記導電性炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンブラックおよびグラフェンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴としている。このような構成により、炭素系触媒により変換された電気エネルギーをより低損失で取り出すことができる。
【0014】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様において、上記有機化合物触媒体は、上記炭素系触媒と上記導電性炭素材料との合計を100質量%としたとき、上記炭素系触媒を30質量%以上100質量%未満の割合で含むことを特徴としている。かかる構成により、例えば、炭素系触媒の単体よりも還元反応において高い電流密度が得られる有機化合物触媒体を製造することができる。
【0015】
ここに開示される有機化合物触媒体の製造方法の好ましい一態様において、上記プラズマは、上記液中に一対の線状電極を配置し、上記電極間にパルス幅が0.1μs~5μsで、周波数が10~10Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させることを特徴としている。かかる構成によると、線状電極間に生じるジュール熱によって液中に発生する気泡の大部分を水面に向かって浮上させることなく、液中に安定した状態で維持することができ、この気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態で炭素系触媒を合成することができる。
【0016】
以上のここに開示される技術によると、炭素系触媒と導電性炭素材料とを含む有機化合物触媒体が提供される。この有機化合物触媒体は、例えば原料有機化合物を含む液中でのプラズマ発生により合成された炭素系触媒と、導電性炭素材料とを、炭素系触媒の製造後に導電性炭素材料と混合したり、炭素系触媒の製造と同時に導電性炭素材料に担持させたりして、互いが接触するように調製されている。かかる構成により、この有機化合物触媒体は、炭素系触媒が単独では十分に具備し得なかった電子伝導性が導電性炭素材料により付与されるとともに、かかる良好な電子伝導性を備える材料の接触により炭素系触媒が単独ではこれまで発現し得なかった触媒活性が如何なく発揮されると考えられる。これにより、少ない炭素系触媒の使用で、より高い触媒活性を示し得る有機化合物触媒体が実現される。
【0017】
この有機化合物触媒体は、ORR反応に対する活性を示し得る。したがって、かかる有機化合物触媒体は、例えば、固体高分子形燃料電池用のカソード用触媒として好適に用いることができる。かかる観点において、ここに開示される技術は、例えば、上記の有機化合物触媒体を電極の触媒材料として用いたPEFCを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】炭素系触媒の製造に用いる液中プラズマ発生装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る有機化合物触媒体のサイクリックボルタモグラムを例示した図である。
【図3】図2における還元ピークのピーク電流密度と炭素系触媒の配合割合との関係を例示したグラフである。
【図4】参考例に係る炭素系触媒のサイクリックボルタモグラムを例示した図である。
【図5】参考例に係る炭素系触媒のサイクリックボルタモグラムを例示した図である。
【図6】他の実施形態に係る有機化合物触媒体のサイクリックボルタモグラムを例示した図である。
【図7】図6における還元ピークのピーク電流密度と導電性炭素材料の配合量との関係を例示したグラフである。
【図8】一実施形態に係る有機化合物触媒体の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図9】他の実施形態に係る有機化合物触媒体の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の有機化合物触媒体の製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」を意味する。

【0020】
ここに開示される有機化合物触媒体の製造方法は、下記の工程S1~S4を含むことを特徴としている。
(S1)有機原料化合物として、炭素、水素および酸素以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意すること。
(S2)導電性炭素材料を用意すること。
(S3)上記の有機原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより炭素系触媒を合成すること。
(S4)炭素系触媒と導電性炭素材料とを接触させて有機化合物触媒体を得ること。

【0021】
なお、上記工程S1とS2とは、特に順不同に実施することができる。また、工程S3は、工程S1の後の任意のタイミングで実施することができる。工程S4は、工程S2の後で実施することができる。そして工程S3とS4とは、S3の後にS4を実施しても良いし、S3とS4とを同時にまたは平行して実施しても良い。以下、各工程について詳しく説明するとともに、ここに開示される有機化合物触媒体についても併せて説明を行う。

【0022】
[S1:有機原料化合物の用意]
工程S1において有機原料化合物を用意する。
代表的なカーボン材料であるグラファイトは、炭素原子がsp結合してなる六員環構造を有するグラフェンシートが多数積層された構造を有している。そしてこのようなカーボン材料は、その結晶構造に特殊な「乱れ」が生じることで、酸化還元(ORR)反応に対する触媒作用を示す炭素系触媒となり得ることが知られている。かかる結晶構造の乱れは、例えば、カーボン材料を製造する際に鉄(Fe)やコバルト(Co)等の異種金属を添加してナノシェル化することや、グラフェン構造における炭素(C)サイトに窒素(N)やホウ素(B)等の異種原子を置換してドープカーボンとすること等で、導入することができる。すなわち、カーボン材料に異種元素を適切に導入し、電子軌道および結晶空間等を制御することで、酸化還元(ORR)触媒としての機能を発現させることができる。
そこで、本発明では、有機原料化合物として、上記のグラフェン構造を形成するとともに、このグラフェン構造に特殊な「乱れ」を誘起し得るよう、化学構造に異種元素と環構造とを備える有機質の原料化合物を用いるようにしている。

【0023】
異種元素としては、炭素(C)、水素(H)および酸素(O)以外の異種元素を含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を特に制限なく考慮することができる。例えば、グラフェン構造をナノシェル化したり、グラフェン構造にドープ可能で、その結晶構造に乱れを生じさせ得るものを特に制限なく採用することができる。かかる異種元素としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)等に代表される遷移金属、ホウ素(B)やケイ素(Si)、リン(P)に代表される半金属、窒素(N)や硫黄(S)に代表される非金属等を考慮することができる。
なお、炭素は原子番号6の元素であり、例えばグラフェンシートにおける炭素サイトには、元素周期律表で炭素の両隣りに位置するホウ素(原子番号5)または窒素(原子番号7)が比較的安定して存在できるとともに、グラフェンの活性化に効果的に寄与し得る。したがって、より高い触媒活性を示す炭素系触媒を製造するためには、異種元素として、ホウ素または窒素の何れか、あるいはその両方を含む環式化合物を用いることが好ましい。

【0024】
また、環構造を有する環式化合物とは、化学構造において構成原子が環状に結合した化合物の一群を意味する。すなわち、炭素骨格を基本とした環状構造を有する有機化合物を総称するものである。したがって、この環式化合物には、一つの分子中に一つの環が存在する単環化合物や、2以上の環が存在する多環化合物であってよく、また、1種類の元素により環が構成される単素環式化合物や、2種以上の元素により環が構成される複素環式化合物等の多様な環式化合物であってよい。好ましくは、炭素と異種元素とから環が構成される複素環式化合物である。かかる炭素骨格を有する有機化合物が炭化されることで、上記グラフェン構造が構築されると考えられる。

【0025】
また、環式化合物は、さらには、共役不飽和環構造を有する芳香族環状化合物(典型的には、芳香族炭化水素)や、芳香族性を有しない飽和または不飽和の炭素環を1以上含む脂環式化合物であってよい。好ましくは、不飽和結合を少なくとも一つ有する環状化合物である。かかる環構造を構成する原子の数には制限はなく、例えば、小員環、中員環または大員環を有する化合物であってよい。典型的には、3員環~10員環程度の環式化合物を考慮することができる。

【0026】
以上の環式化合物は置換基を有していても良い。かかる置換基としては、任意の有機官能基であってよく、例えば、一例として、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲノ基、ケイ素含有官能基、硫黄含有官能基、窒素含有官能基、リン含有官能基が挙げられる。より好ましくは、例えば、炭素数1~10の直鎖,分岐又は環状のアルキル基,ビニル基,アリール基等に代表される炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、フルオロ基,クロロ基,ブロモ基等のハロゲノ基、アルキルシリル基等に代表されるケイ素含有官能基、チオール基、スルホ基等に代表される硫黄含有官能基、アルデヒド基、ニトロ基等に代表される窒素含有官能基、ホスホン酸基等に代表されるリン含有官能基が挙げられる。
以上のことからも明らかなように、本発明における有機原料化合物には、異種元素としてでなければ、水素および酸素が当然のものとして含まれ得る。

【0027】
なお、グラフェンシートに類似の化学構造を有する炭素系触媒を好適に製造するためには、5員環または6員環あるいはその両方を化学構造に有する環式化合物を用いるのが好ましい。ここで開示される炭素系触媒は、有機原料化合物である環式化合物の構造を基本として、これがいくつか重合された化学構造を有していると考えられる。例えば、環式化合物をモノマー成分とし、これを重合および炭素化することで炭素系触媒が構成されると考えることができる。ここで、窒素等の異種元素は、例えば、一例として、グラフェンシートの端部において、6員環のピリジン型の構造や、5員環のピロール型の構造を形成しつつ存在することができる。したがって、有機原料化合物においても、5員環または6員環の環構造を有するものであると、異種元素を好適に構造内に導入することができるために好ましい。

【0028】
より具体的には、例えば、製造される炭素系触媒の化学構造をより詳細に制御するために、環式化合物として、例えば、化学構造内に5員環または6員環の環構造を1つ有する単環化合物を用いるのが好ましい。より好ましくは6員環の環構造を1つ有する化合物である。かかる環式化合物としては、例えば、アニリン、ピリジン、ピラジン、トリアジン、ピリダジン、ピリミジン、ピコリンまたはこれらの誘導体が例示される。これらの6員環の単環化合物については良好な炭素系触媒および有機化合物触媒体が得られることを確認している。また、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であるよりは、環構造に炭素以外の元素を含む複素環式化合物を用いるのが好ましい。この場合の異種元素としては、窒素,硫黄,ホウ素のいずれかであることが好ましい。かかる複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、トリアジンおよびその誘導体等が例示される。特に、有機原料化合物は、少なくともピリジンおよびその誘導体を含んでいることが好適な例として示される。

【0029】
また、例えば、5員環と6員環とが縮合した化学構造を有する環式化合物を用いることも好ましい。かかる環式化合物としては、例えば、インドール、イソインドール、インドリン、イソインドリン、インドリジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾールまたはこれらの誘導体が例示される。また、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であるよりは、環構造に炭素以外の元素を含む複素環式化合物を用いるのが好ましい。この場合の異種元素としては、窒素,硫黄,ホウ素のいずれかであることが好ましい。かかる複素環式化合物としては、例えば、インドール、ベンゾチアゾールおよびその誘導体等が例示される。特に、有機原料化合物は、少なくともトリアジンおよびその誘導体を含んでいることが好適な例として示される。
以上の有機原料化合物は、いずれか1種の環式化合物の単体であっても良いし、あるいは2種以上の環式化合物が組み合わされた混合物等であっても良い。

【0030】
以上の有機原料化合物は、例えば、常温常圧(典型的には、25℃、1atm。以下同じ。)において固体であっても良いし液体であっても良い。後述のプラズマの発生に際し、有機原料化合物を含む液(以下、有機原料化合物含有液という場合がある。)を調製し得る形態のものであることが好ましい。かかる観点において、有機原料化合物は好ましくは常温常圧で液体であり得る。また、有機原料化合物含有液としては、有機原料化合物100%からなる液体を好ましく用いることができる。また、かかる有機原料化合物が適切な液(溶媒)で希釈された溶液であっても良い。この場合の溶媒は特に制限されず、水、アルコールやベンゼン等の有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒等であってよい。好ましくは、炭素6員環構造を有するベンゼンであり得る。なお、有機原料化合物が常温常圧において固体である場合には、有機原料化合物含有液としては、有機原料化合物を適切な液(溶媒)に溶解した溶液や、有機原料化合物を適切な液(分散媒)に分散させた分散液の形態であってよい。

【0031】
液中に含まれる有機原料化合物の量は、特に制限されない。例えば、有機原料化合物含有液が溶液の場合は、溶液の場合は、溶解度限界の濃度で有機原料化合物が含まれていてもよい。有機原料化合物および液の種類や組み合わせにもよるため一概には言えないが、例えば、有機原料化合物含有液中に有機原料化合物は1質量%~100質量%の間で含まれていてよく、好ましくは10質量%~100質量%、より好ましくは20質量%~100質量%、例えば30質量%~100質量%とすることができる。また有機原料化合物は、溶解度限界を超える量で含まれていてもよい。あるいは、液中に有機原料化合物が固体状態で含まれていてもよい。かかる場合は、固体状態の有機原料化合物が適切に分散されるように有機原料化合物含有液は撹拌されていると良い。

【0032】
[S2:導電性炭素材料の用意]
工程S2では、導電性炭素材料を用意する。導電性炭素材料としては、電子伝導性を有する炭素質材料を特に制限なく使用することができる。例えば、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー等のカーボンナノ材料や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックア、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックが挙げられる。かかる導電性炭素材料の形態は特に制限されず、製造後の炭素系触媒を好適に担持して、目的の性状の有機化合物触媒体を実現しるものを好ましく用いることができる。

【0033】
[S3:炭素系触媒の合成]
工程S3では、上記の有機原料化合物を含む液中でプラズマ(以下、単に液中プラズマともいう。)を発生させることにより炭素系触媒を合成する。特許文献1に開示されているように、かかる手法を採用することで、有機原料化合物を重合させたカーボン材料を、異種元素を導入しつつ、生成することができる。ここで、有機原料化合物の重合および炭素化(グラフェン化)において炭素系触媒に異種元素が導入されることにより、結晶構造に特殊な「乱れ」が生じ得、合成された炭素系触媒酸素還元反応に対する活性を備えたものとなる。

【0034】
ここで、上記の反応場となる液中プラズマは、液体中に発生された気体(気相)にマイクロ波や高周波を印加して当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることで、形成することができる。液中プラズマの発生のための条件については、当業者であれば特許文献1を参照することで把握することができるため、ここでは詳細な説明は省略する。典型的には、例えば図1に示すような液中プラズマ発生装置10を用いて好適に発生させることができる。図1において、有機原料化合物含有液2は、ガラス製のビーカー5などの容器に入れられている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔を以て有機原料化合物含有液2中に配置され、絶縁部材9を介してビーカー5に保持されている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。これによって、一対の電極6間に、定常的に液中プラズマ4を発生させることができる。なお、プラズマ4は電極6間に局所的に発生されるため、有機原料化合物とプラズマ4との接触効率を高めるために、マグネチックスターラー7等の撹拌装置を用いて有機原料化合物含有液2を撹拌するようにしても良い。

【0035】
液中プラズマ発生装置10において、液中プラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、液2中に含まれる有機原料化合物の種類やその濃度等の条件、さらには装置10の構成条件等にもよるため厳密には制限されない。液中で非平衡の低温プラズマを安定して発生させるためには、例えば、電圧(二次電圧):約1~2kV、周波数:約10~200kHz、パルス幅:約0.5~3μsの範囲とすることが例示される。かかるプラズマ発生条件で発生される液中プラズマを、特にソリューションプラズマということがある。

【0036】
液中プラズマ発生装置10により発生されるプラズマ反応場は、例えば、有機原料化合物含有液(液相)2中に気相が形成され、この気相中にソリューションプラズマ(プラズマ相)4が形成されている。このプラズマ反応場は、電極6間に定常的に維持されている。かかるプラズマ反応場では、プラズマ相4から液相2に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル等の活性種が供給される。一方、液相2から気相およびプラズマ相4に向けては、液相2に含まれる有機原料化合物が供給される。そして有機原料化合物と活性種とは、主として液相2と気相の界面において接触(衝突)する。これにより、有機原料化合物が重合されて炭素化され、炭素系触媒が形成される。この炭素系触媒は、例えばごく微細な微粒子として液中に分散された状態で生成される。かかる微粒子は、典型的には、直径が数nm~数十nm程度(例えば、20nm~50nm程度)の一次粒子が集合した、粒径が数μm程度の二次粒子の形態であり得る。したがって、例えば、ろ過や乾燥等の手段により溶媒を除去することで回収することができる。

【0037】
[S4:有機化合物触媒体の製造]
工程S4では、合成された炭素系触媒と、用意した導電性炭素材料とを接触させることで、有機化合物触媒体を得ることができる。ここで、有機化合物触媒体における炭素系触媒と導電性炭素材料との割合は特に制限されない。炭素系触媒に極少量でも導電性炭素材料が添加されることで、炭素系触媒の電子伝導性を高めることができ、炭素系触媒の電気化学反応を促進させることができる。かかる観点から、有機化合物触媒体(炭素系触媒と導電性炭素材料との合計)に占める炭素系触媒の割合は、100質量%未満であればよく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が特に好ましく、例えば、60質量%以下とすることができる。しかしながら、炭素系触媒の割合が少なすぎると有機化合物触媒体の触媒活性が十分に得られないために好ましくない。かかる観点から、有機化合物触媒体(炭素系触媒と導電性炭素材料との合計)に占める炭素系触媒の割合は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましく、例えば、40質量%以上とすることができる。

【0038】
また、炭素系触媒と導電性炭素材料との接触は、上述のとおり任意のタイミングで実施することができる。例えば、(A)有機原料化合物含有液中で炭素系触媒が形成された後、液中から炭素系触媒を回収することなしに導電性炭素材料と接触させても良い。あるいは、(B)有機原料化合物含有液中に形成された炭素系触媒を当該液から回収したのち、任意のタイミングで導電性炭素材料と接触させても良い。

【0039】
上記(A)の場合は、(a1)上記工程3において、炭素系触媒を合成した後の有機原料化合物含有液に導電性炭素材料を投入し、有機原料化合物含有液を撹拌する等して、該有機原料化合物含有液中で炭素系触媒と導電性炭素材料とを接触させるようにしても良い。このとき、炭素系触媒は、撹拌状態にある有機原料化合物含有液中で導電性炭素材料と接触し、導電性炭素材料の表面に吸着され得る。炭素系触媒は、合成された後に回収されずに導電性炭素材料の表面に吸着されるため、一次粒子の凝集および粗大化が抑制される。これにより、炭素系触媒の汚染や凝集を抑制して、有機化合物触媒体を得ることができる。

【0040】
あるいは、(a2)上記工程3において、予め導電性炭素材料を含む有機原料化合物含有液を調製し、導電性炭素材料を液中に分散させた状態で有機原料化合物含有液中にプラズマを発生させるようにしてもよい。このとき、液中プラズマにより合成された炭素系触媒は、撹拌状態にある有機原料化合物含有液中で導電性炭素材料と接触し、導電性炭素材料の表面に吸着され得る。炭素系触媒が合成された後、より短時間で導電性炭素材料の表面に吸着されることにより、炭素系触媒の凝集および粗大化がより一層抑制される。なお、必ずしも限定されるものではないが、炭素系触媒が導電性炭素材料に吸着された(接触した)状態でプラズマ活性種の作用を受けることで、炭素系触媒と導電性炭素材料とは化学的に結合されていてもよい。これにより、炭素系触媒の汚染や凝集を抑制して、ここに開示される有機化合物触媒体を得ることができる。また、液中プラズマの活性種の作用により、新たな構成の有機化合物触媒体を得ることができる。
以上の接触手法(A)は、炭素系触媒の合成(工程S3)と、炭素系触媒および導電性炭素材料の接触(工程S4)とを、煩雑な操作を伴わずに簡便に行える点において好ましい。なお、このようにして得られた有機化合物触媒体は、濾過、洗浄等の操作により、有機原料化合物含有液から適宜回収することができる。

【0041】
上記(B)の場合は、上記工程3で合成された炭素系触媒を有機原料化合物含有液から回収し、その後、回収された炭素系触媒と導電性炭素材料とを任意の手法で混合すればよい。かかる混合の手法は特に制限されず、乾式混合であっても良いし、湿式混合であっても良い。例えば、超音波撹拌機、回転式ミキサー、ボールミル、ロールミル、ディスパー、ニーダ等の従来公知の種々の攪拌・混合装置を適宜採用して実施することができる。以上の接触手法(B)によると、炭素系触媒と導電性炭素材料との配合量を確実に把握し得る点で好ましい。

【0042】
なお、本発明者らの検討によると、上記(a1),(a2)および(B)の接触の手法で、得られる有機化合物触媒体の触媒性能に差異がもたらされる場合があることが判明している。このような差異が生じる原因については明らかではないが、より触媒活性の高い有機化合物触媒体を得るには、炭素系触媒ごとに接触の手法を適切に選択することが好ましい。
例えば、有機原料化合物として、6員環を1つ有する単環化合物からなる環式化合物を用いた場合は、上記(a2)の接触の手法を採用して導電性炭素材料の表面に炭素系触媒を付着させることで、より触媒性能の高い有機化合物触媒体が得られる傾向にある。
また、有機原料化合物として、少なくとも一部に5員環と6員環とが縮合した化学構造を有する環式化合物を用いた場合は、上記(B)の接触の手法により導電性炭素材料の表面に前記炭素系触媒を付着させることで、より触媒性能の高い有機化合物触媒体が得られる傾向にある。

【0043】
以上、好適な実施形態に基づき有機化合物触媒体の製造方法について説明したが、かかる製造方法はこの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、有機原料化合物を含む液には、本願発明の目的を損ねない範囲において、有機原料化合物以外の化合物が含まれていても良い。また、ソリューションプラズマの発生に際しては、必ずしもタングステンからなる針状電極を用いる必要はなく、例えば、他の導電性材料からなる任意の形状の電極を用いるようにしても良い。さらには、電極を用いることなく、低インダクタンスの誘導コイルによりソリューションプラズマを発生するようにしても良い。また、液中プラズマは、ソリューションプラズマ(グロー放電プラズマ)によるものに限定されず、例えば、液中でのアーク放電プラズマ等を利用して実施しても良い。
有機化合物触媒体は、例えば、粉末の状態で提供されても良いし、任意の媒体に分散された状態で提供されてもよい。炭素系触媒と導電性炭素材料が任意の分散媒に分散された形態の有機化合物触媒体においては、炭素系触媒および導電性炭素材料の他に、例えば、これら炭素系触媒および導電性炭素材料を任意の基材(典型的には電極板)に付着させるためのバインダが含まれていても良い。このとき、特に限定されるものではないが、バインダは、例えば導電性バインダとすることができる。

【0044】
以上詳しく説明したとおり、本発明は、液中プラズマにより合成された炭素系触媒のより高度な利用を実現するものであって、炭素系触媒の使用量を抑えつつも、高いORR活性を備える新規な有機化合物触媒体を提供する。かかる触媒活性の発現の機構は明らかではないが、新規な特性を有する触媒物質の創製あるいは触媒設計の可能性を含むものである。

【0045】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。

【0046】
<実施形態1>
(例1~9)
有機原料化合物としてインドール(和光純薬工業(株)製、和光特級)を用い、このインドールをベンゼン(和光純薬工業(株)製、和光特級)に溶解して、濃度が3Mのインドールのベンゼン溶液(有機原料化合物含有液)を200mL調製した。
次いで、図1に示した液中プラズマ発生装置10を用い、有機原料化合物含有液中でソリューションプラズマを発生させた。なお、本実施形態において、有機原料化合物含有液2であるインドール含有液はガラス製のビーカー5に入れ、マグネチックスターラー7により撹拌を行っている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は、電極間距離1.0mmで有機原料化合物含有液2中に配置されるように、絶縁部材9を介してビーカー5に固定されている。電極6は、電界を局所的に集中できるように、フッ素樹脂でコーティングされた直径1.0mmのタングステンワイヤー(ニラコ社製)を用い、先端部(例えば、数mm程度)のみワイヤを露出させるようにした。電極6は外部電源(株式会社栗田製作所製、バイポーラパルス電源:MPS-R06K02C-WP1F)8に接続されており、この外部電源8から電極6に、電圧:2kV,繰り返し周波数:20kHz,電圧パルス幅:2.0μsのパルスを印加することで、各有機原料化合物含有液2中にソリューションプラズマを20分間発生させた。

【0047】
有機原料化合物含有液は無色透明であったが、ソリューションプラズマの発生直後から黄色みを帯び、約5分後には褐色に変色し、約10分後には黒色で不透明に変化した。このプラズマ処理後の溶液をろ過、洗浄し、室温で乾燥させることで黒色粉末状の炭素系触媒を得た。
そしてこの炭素系触媒とカーボンナノチューブ(CNT、昭和電工(株)製,VGCF-H)とを、所定の割合で混合することで、例1~9の混合物を用意した。各例の混合物における炭素系触媒とCNTとの配合比は、質量%基準で炭素系触媒:CNとして、(例1)0:100(すなわちCNTのみ),(例2)20:80,(例3)30:70,(例4)40:60,(例5)50:50,(例6)60:40,(例7)70:30,(例8)80:20,(例9)100:0(すなわち炭素系触媒のみ)とした。

【0048】
<CV測定>
例1~9の混合物について、三電極電気化学セルを用いたCV測定を行うことにより、電気化学的特性の評価を行った。このCV測定では、酸性溶液中の溶存酸素の還元反応についての触媒作用を評価した。まず、上記で用意した例1~5の混合物20mgと、バインダとしての5%ナフィオン(登録商標)溶液150μLと、分散媒としてのエタノール2.0mLとを混合し、超音波にて30分間ほど撹拌して触媒ペーストを調製した。次いで、この触媒ペーストをグラッシーカーボン電極の表面に20μL滴下して乾燥させることで触媒層を形成し、例1~9の測定用触媒電極(作用極)とした。

【0049】
三電極電気化学セルの構成は以下のとおりとした。
作用極 :例1~5の測定用触媒電極
参照極 :Ag/AgCl(飽和KCl)
対極 :Pt
電解液:0.5M硫酸水溶液(1N,HSO・aq)

【0050】
具体的には、25℃に保持された0.5M硫酸水溶液中に上記作用電極を浸漬し、対極として白金電極、参照極として飽和KCl溶液に浸漬させた銀塩化銀電極を用いて、三電極式電気化学セルを構築した。そしてこの電気化学セルをポテンショスタットに接続して、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定は、電解質溶液中に酸素ガスを30分間以上バブリングさせて酸素を飽和させた後、掃引速度100mV/sec、掃引範囲-0.2~1.2(または1.3)Vで掃引行い、50サイクル目の掃引を行ったときの電流と電位とを100msごとに記録した。その結果をサイクリックボルタモグラムとして図2に示した。

【0051】
図2に示されるように、例1のCNT100質量%の場合は電流密度が殆ど得られなかったのに対し、例2~8の混合物および例9の炭素系触媒100質量%については電位250mV付近に還元ピークが明瞭に観測され、ORR活性を示すことが確認された。これにより、液中プラズマにより合成された炭素系触媒は、そのもの単体としてのみではなく、CNT等の導電性炭素材料との混合物(有機化合物触媒体)としても、触媒として利用できることが確認できた。このことは、触媒自体の使用量を低減できるとの効果が得られることから実際の応用に際して有益である。

【0052】
図3に、掃引曲線における還元ピークのピーク(最大)電流密度と炭素系触媒の割合との関係を示した。本実施形態では、図3から明らかなように、例4~8の炭素系触媒の割合が40質量%から80質量%の有機化合物触媒体について、例9の炭素系触媒100質量%の場合よりも高い電流密度が得られることがわかった。また、例5~7の炭素系触媒の割合が50質量%から70質量%の有機化合物触媒体については、安定して高い電流密度が得られ、具体的には示していないが、白金触媒を20質量%の割合で担体(カーボンブラック)に担持させた20%PtC触媒よりも電流密度が高くなることがわかった。このことから、炭素系触媒の電子伝導性を導電性炭素材料により補い、炭素系触媒による触媒作用と導電性炭素材料による電子伝導性とのバランスを良好に整えることで、触媒の使用量を低減させながら、実際の触媒としての性能がより一層高められた有機化合物触媒体が実現されることがわかった。

【0053】
なお、有機原料化合物としてインドールを用いる場合、後述の実施形態3で示すように、有機原料化合物含有液中にCNTを分散させた状態でプラズマを発生させて有機化合物触媒体を得ることもできる。具体的なデータは示さないが、このようにして得た有機化合物触媒体は、本例で示したように合成されたインドール由来の炭素系触媒と導電性炭素材料とを混合して得た有機化合物触媒体と比較して、触媒活性が低下することがあり得る。

【0054】
(参考例1~5)
なお、参考のために、インドールのベンゼン溶液を用いて液中プラズマにより炭素系触媒を合成する場合、インドールの濃度が触媒性能に与える影響を確認した。すなわち、有機原料化合物として上記と同じインドールを用い、このインドールをベンゼンに溶解させて、(参考例1)0M,(参考例2)0.05M(3.33質量%),(参考例3)1.00M(15.5質量%),(参考例4)3.00M(40.5質量%),(参考例5)6.00M(69.3質量%)の濃度のインドールのベンゼン溶液(有機原料化合物含有液)を200mLずつ調製した。参考例5の6Mのインドール溶液は、溶解度限界に近いものである。また参考例4は、上記例9に相当する。そして、上記例1~9と同様の条件で、この有機原料化合物含有液中にソリューションプラズマを発生させることで、参考例1~5の黒色粉末状の炭素系触媒を得た。

【0055】
参考例1~5の炭素系触媒について、上記と同様の条件でCV測定を行い、その結果をサイクリックボルタモグラムとして図4に示した。
図4に示されるように、有機原料化合物含有液中の有機原料化合物の濃度により、得られた炭素系触媒の触媒活性が影響を受けることがわかった。なお、インドールは水にも溶解するが、その溶解度はベンゼンに対する溶解度よりも低く、液中プラズマによる炭素系触媒の生成効率は低い。このことから、液中プラズマにより有機原料化合物であるインドールと溶媒として用いたベンゼンとがいくらか反応して有機化合物を合成し、触媒活性に影響を与え得ることが考えられた。

【0056】
そして溶媒としてベンゼンを用いる場合、インドールの濃度が3M程度のときに電流密度に極大値がみられ、かかる有機原料化合物濃度で活性の高い炭素系触媒が得られることがわかった。この3Mとのインドール濃度は、例えば、溶解度限界の半分程度の濃度に相当する。インドールの濃度が(参考例4)3Mの場合、還元ピークにおける電流密度は-1.46mA/cm,還元電位は270mVであり、電流密度および還元電位ともにベンゼン100質量%(参考例1:-1.37mA/cm,210mV)の場合よりも高く、白金触媒(-2.9mA/cm,395mV)により近い値であった。このことから、有機原料化合物含有液の濃度を適切に調整して炭素系触媒を合成することで、より触媒活性の高い有機化合物触媒体を作製できることがわかる。

【0057】
(参考例6~8)
また、参考のために、有機原料化合物として複数の化合物を用いて液中プラズマにより炭素系触媒を合成したときの、炭素系触媒の触媒性能に及ぼす影響を確認した。すなわち、有機原料化合物として、インドール(和光純薬工業(株)製、和光特級)と、ベンゾチアゾール(和光純薬工業(株)製、和光一級)とを用意し、これらを適宜配合してベンゼン(和光純薬工業(株)製、和光特級)に溶解させることで、(参考例6)3Mインドール溶液,(参考例7)0.5Mベンゾチアゾール溶液,(参考例8)3Mインドール+0.5Mベンゾチアゾール溶液、をそれぞれ200mLずつ調製した。なお、ベンゾチアゾールの0.5M溶液とは、上記参考例1~5と同様にして、ベンゾチアゾールのベンゼン溶液について様々な濃度で炭素系触媒を合成し、最も良好な触媒活性を示す炭素系触媒が安定して得られた濃度である。

【0058】
参考例6~8の炭素系触媒について、上記と同様の条件でCV測定を行い、その結果をサイクリックボルタモグラムとして図5に示した。なお、参考例8については、CV測定における掃引範囲を-0.2~1.2Vとしたが、参考例6~8の比較の上で問題はないものと考える。
図5に示す通り、参考例6のインドールのみを用いて得た炭素系触媒よりも、参考例7のベンゾチアゾールのみを用いて得た炭素系触媒の方が還元電位が低くなる傾向にある。これに対し、インドールとベンゾチアゾールの両者を用いて得た炭素系触媒については、還元電位の低下を極わずかに抑えながら、電流密度を最も高い値に増大させ得ることがわかった。このような電流密度の増加の理由は定かではないが、液中プラズマにより合成される炭素系触媒においては、極わずかな化学構造や共存原子の差異によりその物性(ここでは触媒活性)が変化してくることがわかった。特に、5員環と6員環とが縮合した化学構造を有するインドールやベンゾチアゾールについてはその傾向が強く、両者を混合することで予想外に高い触媒活性が実現されることが確認された。

【0059】
<実施形態2>
(例10~16)
有機原料化合物としてピリジン(和光純薬工業(株)製、和光特級)を用い、このピリジンをベンゼン(和光純薬工業(株)製、和光特級)に溶解して、濃度が70質量%のピリジンのベンゼン溶液を200mLずつ用意した。そしてこのベンゼン溶液に、カーボンナノチューブ(CNT、昭和電工(株)製,VGCF-H)を、(例10)30mg,(例11)60mg,(例12)120mg,(例13)300mg,(例14)1500mg加えて超音波撹拌することで、例10~14の有機原料化合物含有液を用意した。

【0060】
次いで、図1に示した液中プラズマ発生装置10を用い、例10~14の有機原料化合物含有液中でソリューションプラズマを発生させた。ソリューションプラズマの発生条件は、上記と同様にした。その結果、当初は無色透明であった有機原料化合物含有液が、ソリューションプラズマの発生直後から黄色みを帯び、約5分後には褐色に変色し、約10分後には黒色で不透明に変化した。このプラズマ処理後の溶液をろ過、洗浄し、室温で乾燥させることで、黒色粉末状の例10~14の有機化合物触媒体を得た。

【0061】
<CV測定>
次いで、例10~14の有機化合物触媒体について、上記と同様の条件でCV測定を行い、その結果をサイクリックボルタモグラムとして図6に示した。なお、参考のために、図6には、CNTを加えずに作製したピリジン由来の炭素系触媒の単体(例15)の掃引曲線も示した。また、図7に、例10~15の有機化合物触媒体の掃引曲線における還元ピークのピーク電流密度と、添加したCNT質量との関係を示した。なお、図7には、CNT単体(例1)についてのピーク電流密度と、ピリジン由来の炭素系触媒の単体(例15)についてのピーク電流密度についても示した。

【0062】
図6に示されるように、例10~14の全ての有機化合物触媒体または炭素系触媒の単体について還元ピークが見られた。しかしながら、ピリジン由来の炭素系触媒の単体(例23)については還元ピークが極めて小さく、触媒活性がさほど高くないことが確認された。これに対し、CNTを加えて作製した例18~24の有機化合物触媒体については、例23よりも高い活性(20~85倍)が確認された。特に、CNTを60mg~120mg添加して合成した例19~20の有機化合物触媒体については、ピーク電流密度が例23の80倍程度となり、CNTを加えることのみで極めて高い電流密度が得られることが確認された。CNTを加えずに合成された例23のピリジン由来の炭素系触媒の量は100mg程度であったことから、ピリジン由来の炭素系触媒とCNTとの割合が、質量比で、60:100~120:100程度(例えば1:1程度)で極めて高い触媒性の発現効果が得られることがわかった。

【0063】
なお、有機原料化合物としてピリジンを用いる場合、上記実施形態1で示したように、合成されたインドール由来の炭素系触媒と導電性炭素材料とを混合して有機化合物触媒体を得ることもできる。具体的なデータは示さないが、このようにして得た有機化合物触媒体は、本例で示したように有機原料化合物含有液中にCNTを分散させた状態でプラズマを発生させて得た有機化合物触媒体と比較して、触媒活性が低下することがあり得る。

【0064】
<TEM観察>
そこで、上記で得た例10~14の有機化合物触媒体を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により観察した。参考のために、例11の有機化合物触媒体についての観察結果を図8および図9に示した。
図8および図9に示されるように、有機化合物触媒体においては、CNTの表面に直径が10nmから20nm程度の球形粒子(一次粒子)が、単独で、あるいは、凝集して付着しているのが確認された。この球形粒子が、有機原料化合物含有液中でソリューションプラズマを発生することにより合成された炭素系触媒である。この炭素系触媒における球形粒子は、20nmを大きく超えて粗大化したものは観察されず、また、凝集している場合であってもCNTの表面からおよそ200~300nm以下の厚みで付着していることが確認された。すなわち、有機化合物触媒体において、大きく凝集した二次粒子がCNTに付着した様子は見られず、一次粒子がCNTの表面に順次堆積したり、少量の一次粒子が凝集してなる二次粒子がCNTの表面に堆積する様子がうかがえた。

【0065】
具体的には示さないが、炭素系触媒が単独の粉末状で回収されると、炭素系触媒からなる球形粒子は凝集して平均粒子径が100nm~1μm程度の比較的粗大な二次粒子を構成し得る。したがって、有機原料化合物含有液中に導電性炭素材料(ここではCNT)を分散させた状態でソリューションプラズマにより炭素系触媒を合成することで、合成される炭素系触媒の凝集を抑制して、比較的高分散な状態で導電性炭素材料に接触(担持)させ得ると考えられる。そしてこのようなピリジン由来の炭素系触媒とCNTとの接触により、炭素系触媒の触媒活性が極めて効果的に高められ得ることが確認された。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。
【符号の説明】
【0066】
2 有機原料化合物含有液(液相)
4 プラズマ(プラズマ相)
5 ビーカー
6 電極
7 マグネチックスターラー
8 外部電源
9 絶縁部材
10 液中プラズマ発生装置
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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