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明細書 :プロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-019763 (P2017-019763A)
公開日 平成29年1月26日(2017.1.26)
発明の名称または考案の名称 プロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害剤
国際特許分類 C07K  14/415       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   1/02        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61K   8/64        (2006.01)
A61Q  11/00        (2006.01)
A61K  36/899       (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
C12Q   1/37        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07K 14/415 ZNA
A61K 37/02
A61P 43/00 111
A61P 1/02
A61P 31/04
A61K 8/64
A61Q 11/00
A61K 36/899
C12N 9/99
C12Q 1/37
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2015-141260 (P2015-141260)
出願日 平成27年7月15日(2015.7.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 平成27年3月5日 http://www.jsbba.or.jp/2015/ およびhttps://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2015/download_pdf.php?p_code=2C22a07 を通じた発表
発明者または考案者 【氏名】芳本 忠
【氏名】中嶋 義隆
【氏名】西村 仁
【氏名】伊藤 潔
【氏名】安形 博菜
出願人 【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
4C083
4C084
4C088
4H045
Fターム 4B024AA01
4B024AA11
4B024BA19
4B024CA04
4B024CA07
4B024DA06
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA03
4B024HA09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ04
4B063QQ95
4B063QR16
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS36
4B063QX02
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB55
4C083CC41
4C083EE33
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA22
4C084CA14
4C084DC32
4C084MA16
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA57
4C084NA14
4C084ZA672
4C084ZB352
4C084ZC202
4C088AB74
4C088AC04
4C088BA16
4C088MA52
4C088MA57
4C088NA14
4C088ZA67
4C088ZB35
4C088ZC20
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA31
4H045DA56
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA20
4H045GA22
4H045GA23
要約 【課題】安全性に優れたプロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤の提供、および、歯肉におけるPTP阻害効果を簡易に検出し得る検出方法を提供。
【解決手段】Oryza sativa由来の特定のアミノ酸配列からなるタンパク質を有効成分として含有する、PTP阻害剤。前記アミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PTPに対する阻害活性を有するタンパク質又は、前記アミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、PTPに対する阻害活性を有するタンパク質を有効成として含有するPTP阻害剤。また、PTP阻害剤の存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させ、PTP活性を検出する工程を含む、PTP阻害活性の検出方法。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(c)より選択されるいずれかのタンパク質を有効成分として含有する、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)に対する阻害活性を有するタンパク質;
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)に対する阻害活性を有するタンパク質。
【請求項2】
有効成分が、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質である、請求項1に記載のプロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤。
【請求項3】
有効成分のタンパク質の分子量が25kDaである、請求項1又は2に記載のプロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤。
【請求項4】
配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質を有効成分として含有する、歯周病菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)のプロテアーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載の阻害剤を含有する、歯周病菌増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1に記載の阻害剤または請求項5に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含有する、歯周病予防および/または治療剤。
【請求項7】
穀類植物由来材料から有効成分を単離することを含む、請求項1~4のいずれか1に記載の阻害剤、請求項5に記載の歯周病菌増殖抑制剤、あるいは、請求項6に記載の歯周病予防および/または治療剤の製造方法。
【請求項8】
PTP阻害剤の存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させ、PTP活性を検出する工程を含む、PTP阻害活性の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物類植物由来材料に含まれるタンパク質を有効成分として含有するプロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害剤および歯周病予防および/または治療剤に関する。また本発明は、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害効果の簡易な検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は成人の約60%が罹患していると言われている。歯周病は、発症すると歯肉の腫れ、出血、不快感をはじめ、歯を支える歯肉の退行・減少、歯肉の痛み、口臭などを呈し、悪化すると歯が抜け落ちてしまうことが知られている。歯周病菌の原因菌には、好気性あるいは嫌気性の十数種類の細菌がある。歯周病菌には、歯周病のみならず動脈硬化等の疾患への関与が認知されているものもあり、社会的問題となっている。
【0003】
歯周病菌は特殊な代謝系を持ち、エネルギー源として糖を利用することができず、歯肉のコラーゲンを分解してアミノ酸を摂取してエネルギーを得ている。嫌気性の細菌のポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis (以下単に「P. gingivalis」と称する))は、歯周病の主な原因菌と考えられている。P. gingivalisは菌体内外に多くの強力なペプチダーゼ等のプロテアーゼ酵素群を産生し、これら酵素群が歯肉のコラーゲンを分解することが知らている。P. gingivalisの産生する酵素群として、コラーゲナーゼ、ジンジパイン(トリプシン様プロテアーゼ)、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(以下単に「PTP」と称する)、ジペプチジルペプチダーゼIV、アミノペプチダーゼN(以下単に「APN」と称する)等が挙げられる。
【0004】
歯肉に含まれるコラーゲンは、3本螺旋構造をとり、プロリンを多く含むタンパク質である。一般的なプロテアーゼは3本螺旋構造のコラーゲンには作用できないが、コラーゲナーゼであれば作用することができる。コラーゲナーゼにより分解されて生成したペプチド断片は、プロリン(Pro)を多く含むため、APNでアミノ酸へ簡単には分解できない。PTPやジペプチジルペプチダーゼIVは、X-X-Pro単位やX-Pro単位での切断を触媒することにより、ペプチド断片からプロリンを除去する作用を有する。プロリンが除去されたペプチド断片は、APNによりアミノ酸単位にまで分解される。したがってX-X-Pro単位で切断するPTPは、Gly-X-Proの繰り返しが多いコラーゲンの分解において極めて重要な役割を持つ。
【0005】
PTPをコードする遺伝子はPotempaらによって単離された(非特許文献1)。本発明者らは、PTPをコードする遺伝子を大腸菌にて発現させて結晶化を行い、得られた結晶についてX線結晶回折を行うことにより、酵素の立体構造を明らかにした(非特許文献2および3)。PTPは二量体で構成されており、単量体はプロペラドメインと触媒ドメインで構成されている。活性部位はSer、His、Aspの触媒三残基で構成されている。基質を認識する機構として疎水ポケットが存在しており、基質に含まれるプロリンがPTPのポケットにはまり込むことにより認識されることが報告されている。歯周病の治療や予防を目的として、プロテアーゼ阻害剤の開発が進められており、PTPに特異的な阻害剤として、H-Ala-Ile-pyrrolidin-2-yl boronic acidが化学合成されている(非特許文献5)。PTPと当該阻害剤との複合体について構造が解明され、PTPの触媒機構の詳細が明らかとなっている。しかしながら、かかる阻害剤はPTPと共有結合してしまうため、安全性に疑問があり、医薬品としての実用化は困難である。
【0006】
安全性の高い歯周病の予防剤または治療剤の有効成分の開発のために、植物等の天然物に由来するプロテアーゼ阻害剤の探索が行われている。精白米から抽出したタンパク質が、アルギニン-ジンジパインに対する阻害活性を持つことが報告されている(特許文献1)。また、イネ由来成分であるタンパク質(Os03g0277300)が、歯周病菌に対して抗菌作用を発揮することが報告されている(特許文献2)。一方、イネ由来成分であるタンパク質(Os03g0277300)には抗微生物活性が見られなかったという報告もなされている(非特許文献4)。
【0007】
また従来、PTP阻害活性の検出はアラニル・フェニールアラニル・プロリル・ベータナフチルアミド(Ala-Phe-Pro-beta-naphthylamide(以下「Ala-Phe-Pro-βNA」と称する))を基質として用いて行われていた(非特許文献5)。しかしながら、かかる従来法の基質は僅か3つのアミノ酸を含む合成基質であり、更にPTP阻害活性の測定には複雑な操作を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2009-84161号公報
【特許文献2】特開2013-60416号公報
【0009】

【非特許文献1】Banbula, A., Mark, P., Bugno, M., Silberring, J., Dubin, A., Nelson D., Travis, J., and Potempa, J., (1999). J. Biol. Chem. 274, 9246-9252
【非特許文献2】Nakajima, Y., Ito, K., Xu, Y., Yamada, N., Onohara, Y., Ito T., and Yoshimoto, T., Acta Cryst. F61, 1046-1048 (2005)
【非特許文献3】Ito, K., Nakajima, Y., Ichihara, E., Ogawa, K., Egawa, T., Xu, Y., and Yoshimoto, T., J. Mol. Biol., 362, 228-240 (2006)
【非特許文献4】Taniguchi M1, Ikeda A, Nakamichi S, Ishiyama Y, Saitoh E, Kato T, Ochiai A, Tanaka T., Peptides. 2013 Oct;48:147-55. doi: 10.1016/j.peptides.2013.08.011. Epub 2013 Aug 21.
【非特許文献5】Xu, Y., Nakajima, Y., Ito, K., Zheng, H., Oyama, H., Heiser, U., Hoffmann, T., Gaertner, U-T., Demuth. H-U., and Yoshimoto, T., J. Mol. Biol., 375 (3), 708-719 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性に優れたプロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害剤および歯周病予防および/または治療剤を提供することを課題とする。また本発明は、歯肉におけるプロリルトリペプチジルペプチダーゼ阻害効果を簡易に検出し得る検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはPTP阻害活性を有する物質につき鋭意検討した結果、米糠にPTP阻害活性を有するタンパク質が含有されていることに着目し、PTP阻害活性を有するタンパク質が、分子量25KDaのタンパク質であることを見出し、さらに当該タンパク質を精製・同定して機能の解析を行うことにより、本発明を完成した。
また本発明者らは、ゼラチンを含む構造体を歯周病モデルとして用いることにより、PTP阻害活性の検出が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下からなる。
1.以下の(a)~(c)より選択されるいずれかのタンパク質を有効成分として含有する、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)に対する阻害活性を有するタンパク質;
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)に対する阻害活性を有するタンパク質。
2.有効成分が、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質である、前項1に記載のプロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤。
3.有効成分のタンパク質の分子量が25kDaである、前項1又は2に記載のプロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP)阻害剤。
4.配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質を有効成分として含有する、歯周病菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)のプロテアーゼ阻害剤。
5.前項1~4のいずれか1に記載の阻害剤を含有する、歯周病菌増殖抑制剤。
6.前項1~4のいずれか1に記載の阻害剤または前項5に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含有する、歯周病予防および/または治療剤。
7.穀類植物由来材料から有効成分を単離することを含む、前項1~4のいずれか1に記載の阻害剤、前項5に記載の歯周病菌増殖抑制剤、あるいは、前項6に記載の歯周病予防および/または治療剤の製造方法。
8.PTP阻害剤の存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させ、PTP活性を検出する工程を含む、PTP阻害活性の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるPTP阻害剤は、歯周病菌プロテアーゼ阻害剤として作用する。本発明のPTP阻害剤は穀類植物由来材料に含まれるタンパク質を有効成分とすることから、有効性のみならず安全性にも優れているという効果を奏する。さらに本発明のPTP阻害剤は、歯周病菌の増殖を抑制する作用を発揮するため有用である。本発明のPTP阻害剤は、有効成分がタンパク質であり、当該タンパク質は胃で分解されることから、副作用の可能性が低い。本発明のPTP阻害剤の有効成分は、可食部(例えば古米)または可食部を分離した後の廃棄物(例えば米糠)から製造することができる。廃棄物を有効利用することができるとともに、安価に製造することができる。
また従来のPTP阻害活性の検出方法では、合成基質(Ala-Phe-Pro-βNA)へのPTPの作用に対する阻害活性を確認していたが、本発明のPTP阻害活性の検出方法では、合成基質より歯肉のコラーゲンに近いゼラチンを基質として用いることにより、生体内における歯周病菌の生育阻害作用や歯周病における歯肉退行を抑制する作用をより正確に予測することができる。ゼラチンは天然物であるコラーゲンが変性および/または分解して得られるものであるためである。また本検出方法によれば、簡便かつ容易にPTP阻害活性、ひいては歯周病菌の生育阻害作用や歯周病における歯肉退行抑制作用を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】米糠から、PTP阻害活性を有するタンパク質を単離・精製する工程を示す図である。(実施例1)
【図2】米糠からのPTP阻害活性を有するタンパク質の単離・精製の各工程における、クロマトグラフィーの分画結果(図2a~d)とSDS-電気泳動の結果(図2e)を示す図である。(実施例1)
【図3】SDS-電気泳動して得られた25kDaのタンパク質について、TOF-MSを用いてアミノ酸配列の解析を行った結果を示す図である。(実施例1)
【図4】本発明のPTP阻害活性を有するタンパク質を遺伝子組換えにより発現させるための組換え遺伝子の構造(図4a)と、タンパク質をSDS-電気泳動した結果(図4b)を示す図である。(実施例2)
【図5】遺伝子組換えにより得られたタンパク質について、PTP阻害活性を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図6】米糠から精製した本発明のタンパク質の安定性を確認した結果を示す図である。(実験例1)
【図7】歯周病モデルを用いて本発明のタンパク質によるPTP阻害活性を確認した結果を示す写真図である。(実施例3)
【図8】米糠から精製した本発明のタンパク質による、歯周病菌増殖抑制効果を確認した結果を示す写真図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はPTP阻害剤に関するものであり、本発明のPTP阻害剤は歯周病菌プロテアーゼ阻害剤として作用する。歯周病の原因菌である歯周病菌として、好気性または嫌気性の十数種類の細菌が知られている。歯周病菌としては、例えば、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis (以下単に「P. gingivalis」と称する))、 タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、アクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)などが挙げられる。本発明において歯周病菌とは好ましくは、P. gingivalisである。

【0016】
PTPは、歯肉コラーゲンの分解に関与する酵素である。PTPは、プロリルオリゴペプチダーゼファミリ(POPファミリ)に属するセリンプロテアーゼであり、N末端から3番目の残基がProであるペプチドに対して分解活性を示す。本発明のPTP阻害剤は、PTPの分解活性を阻害する作用を有するものである。PTPは歯周病菌プロテアーゼの一つである。歯周病菌プロテアーゼとは、ペプチド結合 (-CO-NH-) の加水分解を触媒する酵素の総称であり、プロテイナーゼとペプチダーゼとが含まれる。本発明におけるP. gingivalisのプロテアーゼとしては、P. gingivalisが産生する、ジンジパイン(トリプシン様プロテアーゼ)、PTP等が例示される。

【0017】
本発明のPTP阻害剤に有効成分として含まれるタンパク質は、(a)~(c)より選択されるいずれかのタンパク質である。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質。
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個(好ましくは1個~15個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PTPに対する阻害活性を有するタンパク質。
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上)の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、PTPに対する阻害活性を有するタンパク質。
上記(b)欠失、置換、挿入および/または付加等の変異を有するタンパク質や(c)の特定の相同性を有するタンパク質は、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)などを単独でまたは適宜組合せて使用できる。例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666-671)を利用することもできる。タンパク質の場合、変異の導入において、当該タンパク質の基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。

【0018】
配列番号1に示すアミノ酸配列を以下に示す:
Met Ala Leu Arg Thr Leu Ala Ser Arg Lys Thr Leu Ala Ala Ala Ala Leu Pro Leu Ala Ala Ala Ala Ala Ala Arg Gly Val Thr Thr Val Ala Leu Pro Asp Leu Pro Tyr Asp Tyr Gly Ala Leu Glu Pro Ala Ile Ser Gly Glu Ile Met Arg Leu His His Gln Lys His His Ala Thr Tyr Val Ala Asn Tyr Asn Lys Ala Leu Glu Gln Leu Asp Ala Ala Val Ala Lys Gly Asp Ala Pro Ala Ile Val His Leu Gln Ser Ala Ile Lys Phe Asn Gly Gly Gly His Val Asn His Ser Ile Phe Trp Asn Asn Leu Lys Pro Ile Ser Glu Gly Gly Gly Asp Pro Pro His Ala Lys Leu Gly Trp Ala Ile Asp Glu Asp Phe Gly Ser Phe Glu Ala Leu Val Lys Lys Met Ser Ala Glu Gly Ala Ala Leu Gln Gly Ser Gly Trp Val Trp Leu Ala Leu Asp Lys Glu Ala Lys Lys Leu Ser Val Glu Thr Thr Ala Asn Gln Asp Pro Leu Val Thr Lys Gly Ala Asn Leu Val Pro Leu Leu Gly Ile Asp Val Trp Glu His Ala Tyr Tyr Leu Gln Tyr Lys Asn Val Arg Pro Asp Tyr Leu Ser Asn Ile Trp Lys Val Met Asn Trp Lys Tyr Ala Gly Glu Val Tyr Glu Asn Ala Thr Ala
配列番号1のアミノ酸配列は、Os05g0323900として、Rice Annotation Project Database(RAP-DB、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)に登録された遺伝子の塩基配列に基づくものである。配列番号1のアミノ酸配列は、Os05g0323900の遺伝子の1~693番目の塩基配列によりコードされるものであり、アミノ酸残基数は231個、推定分子量は24998.26である。上記配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質は、液体に溶解した状態であっても経時安定性が高く、応用面での有用性に優れている。また当該タンパク質は、合成基質より歯肉のコラーゲンに近いゼラチンに対するPTPの作用を阻害する活性を有する。歯周病においてPTPは、コラーゲナーゼにより分解されたペプチド断片に対して作用するものであり、歯周病菌の生育・増殖または歯周病における歯肉退行の律速になる酵素であると考えられる。本発明のPTP阻害剤は、歯周病菌の生育・増殖や、歯周病においてPTPが引き起こす歯肉退行を、効果的に抑制し得ることが期待される。

【0019】
本発明の有効成分であるタンパク質は、当該タンパク質の一部であっても全部であってもよい。本発明の有効成分であるタンパク質は、全体としては、SDS電気泳動を用いて検出した場合に約25kDaの分子量を持つ。また、本発明の阻害剤として用いることのできるタンパク質の一部(部分ペプチド)は、PTP阻害活性を示しうる活性部位の領域を含んでなるものである。かかる部分ペプチドのサイズは特に限定されないが、総アミノ酸残基数が約100以下、より好ましくは約50残基以下、さらに好ましくは約20残基以下である。サイズが小さいほど取り扱いが簡便であり、製造効率が向上し、抗原性等の副作用が軽減されると考えられる。さらに本発明の有効成分であるタンパク質は、当該タンパク質がPTP阻害活性を示しうる構造であれば、他のタンパク質や低分子化合物等の他の物質との複合体であってもよい。当該複合体の分子量は、いかなるものであってもよい。当該複合体における他のタンパク質は、例えば、本発明の有効成分であるタンパク質を可溶化させる機能を有するもの等が挙げられる。

【0020】
また本発明の有効成分であるタンパク質は、PTP阻害活性を示し得るものであれば、当該タンパク質の誘導体であってもよい。当該タンパク質の誘導体は、タンパク質のアミノ酸配列のアミノ基やカルボキシル基、水酸基やチオール基等の官能基の一部若しくは全部が、適当な他の置換基(リン酸基やアセチル基など)によって修飾を受けた場合をいう。さらに本発明のタンパク質の誘導体には、当該タンパク質の薬学上許容されうる塩も包含されうる。塩の好ましい例としては、ナトリウム塩またはカルシウム塩のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、フッ化水素酸塩、塩酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルキルスルホン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酢酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。さらには、タンパク質を溶媒和物としてもよい。このような溶媒和物としては、水和物、エタノール和物などのアルコール和物、およびエーテル和物などが挙げられる。

【0021】
本発明の有効成分であるタンパク質は、穀類植物由来材料から抽出して製造することができる。穀類植物由来材料としては、穀類植物、好ましくはイネ科植物、より好ましくは、米、大麦、小麦、ライ麦、あわ、ひえ、とうもろこし等が挙げられ、最も好ましくは米である。本発明の穀類植物由来材料としては、穀類植物から可食部を採取した後に生じる廃棄物が挙げられ、例えば、精米後に生じる米糠が例示される。なお穀類植物由来材料は、廃棄物のみならず、可食部を含んでいてもよい。穀類植物由来材料は、米の胚乳部分を主要材料としてもよく、古米を利用することもできる。穀類植物由来材料からは、慣用の方法に従って、タンパク質画分を分離することができる。例えば、タンパク質画分は、穀類植物由来材料を水またはリン酸緩衝液のような溶媒中で磨砕または懸濁した後、ろ過または遠心分離により上清を集め、必要に応じて希釈や濃縮することにより得ることができる。その後、硫酸アンモニウム等を用いた塩析、有機溶媒による沈殿、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびゲル濾過クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法など、タンパク質の分離精製に一般に用いられる方法を使用することにより、目的のタンパク質画分を分離することができる。なお、有効成分であるタンパク質は、分離精製して用いてもよいが、当該タンパク質を有効量含むものであれば、分離精製したものではなく、抽出物等をそのままを使用してもよい。本発明のタンパク質は、穀類植物由来材料を溶媒中で磨砕または懸濁した後、ろ過または遠心分離により上清を集め、希釈や濃縮を行った後に塩析を行い、有機溶媒により沈殿させ、その後疎水性クロマトグラフィーにかけて、活性を有する画分を回収して得たタンパク質画分を用いてもよい。

【0022】
有効成分であるタンパク質は、公知の遺伝子工学的手法によっても製造できる。すなわち、Os05g0323900に示される塩基配列に基づき、有効成分であるタンパク質をコードする遺伝子を単離または合成して、組換え発現ベクターを構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組換えタンパク質として発現させることにより製造することができる。または、in vitro転写・翻訳系によって製造することができる。本発明の有効成分であるタンパク質が他のタンパク質との複合体である場合は、公知の手法によりこれらのタンパク質を融合タンパク質として発現させて製造することもできる。宿主細胞が大腸菌である場合は、後述する配列番号2に示す塩基配列からなるDNAにより、組換えタンパク質を作製することができる。

【0023】
有効成分であるタンパク質は、公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)もしくは液相合成法により製造することもできる。

【0024】
得られたタンパク質がPTP阻害活性を有することは、公知のPTP活性測定方法により確認することができる。具体的には、後述する実施例に記載のAla-Phe-Pro-βNAを基質として用いたPTP阻害活性確認実験により行うことができる。あるいは、歯肉のコラーゲンにより近いゼラチンを基質として用いた本発明のPTP阻害活性の検出方法により行うことができる。さらにタンパク質が歯周病菌プロテアーゼ阻害作用を有することは、公知の歯周病菌プロテアーゼ活性測定方法により確認することができる。

【0025】
さらに本発明のPTP阻害剤は、歯周病菌の増殖を抑制する作用を発揮するものであり、歯周病菌増殖抑制剤としても利用可能なものである。加えて本発明のPTP阻害剤は、歯周病予防および/または治療剤に使用することができる。また本発明は、PTP阻害剤を用いた歯周病の予防方法および/または治療方法にも及ぶ。生体内においては、コラーゲナーゼの作用により歯肉組織から大きなペプチド断片としてゼラチンが生成する。しかしながらゼラチンの状態では歯周病菌はこれを資化できない。生成したゼラチンをPTPの作用によりさらに小さなアミノ酸にまで分解することで、初めて歯周病菌に取り込まれて歯周病菌の生育が可能になる。本発明のPTP阻害剤は、PTPによるゼラチンの分解を阻害することから歯周病菌の生育を阻害することができると考えられる。本発明のPTP阻害剤によれば、歯周病菌の増殖も抑制し得、歯肉の退行を抑制し得ることから、歯周病の予防および/または治療に有利に用いられる。

【0026】
本発明のPTP阻害剤は組成物であってもよく、当該組成物における有効成分の配合割合または含有割合は、所望のPTP阻害効果が得られるのに十分な量であれば特に限定されない。通常全組成物の約0.0001~20質量%であり、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.001~5質量%である。本発明のPTP阻害剤は有効成分のPTP阻害作用を妨げない範囲で、有効成分以外の成分を含有してもよい。有効成分以外の成分はとくに限定されず、後述する用途に応じて適宜選択することができる。

【0027】
本発明のPTP阻害剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等として用いることができる。なかでも、飲食品、医薬品、医薬部外品に用いることが好ましい。本発明のPTP阻害剤は、口腔用組成物であることが好ましい。本発明の歯周病菌プロテアーゼ阻害剤は、ヒトを含む哺乳動物に投与される口腔用組成物であり、家畜動物や愛玩動物等の非ヒト哺乳動物への投与も可能である。

【0028】
本発明のPTP阻害剤を含有してなる飲食品は、食品衛生上許容される添加剤を混合して、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、栄養補助食品、経腸栄養食品、飲料等に加工することができる。飲食品の形態は特に限定されず、固形食品、飲料を含む液状食品、その他の各種の形態の飲食品として提供することができる。飲料としては、具体的には、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等が挙げられる。また、摂取時に水等を用いて希釈して摂取される形態であってもよい。固形食品としては、例えば、飴、トローチ等を含む錠剤(タブレット)や糖衣錠の形態、顆粒の形態、粉末飲料等の粉末形態、ビスケット等のブロック菓子類の形態、カプセル、ゼリー等の形態等、種々の形態の食品が挙げられる。半固形食品としては、例えば、ジャム等のペーストの形態、チューイングガム等のガムの形態が挙げられる。

【0029】
飲食品には本発明のPTP阻害剤の他に、目的の効果が損なわれない範囲で、食品素材、食品添加物を配合することができる。食品素材とは、一般に食品の原材料として使用される素材のことであり、薬事法で規定される医薬品および医薬部外品と、食品衛生法で規定される食品添加物を除き、飲食に供される全てのものが含まれる。食品添加物とは、食品の加工または保存の目的で添加される物質のことである。食品添加物の例としては、厚生労働省の「指定添加物リスト」、「既存添加物名簿収載品目リスト」、「天然香料基原物質リスト」、「一般に食品として飲食に供させている物であって添加物として使用される品目リスト」等に収載される食品添加物、JECFA等の国際機関で安全性が確認されたもの、米国・欧州等の諸外国で使用が認可されている食品添加物等が挙げられ、保存料・日持向上剤、酸化防止剤、甘味料、着色料・色素、乳化剤、増粘ゲル化剤、品質改良剤、調味料、酸味料、強化剤、香料、酵素等に分類される。

【0030】
本発明のPTP阻害剤を含有してなる医薬品、医薬部外品は、当該PTP阻害剤以外に、薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤とすることができる。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。

【0031】
添加剤としては結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。

【0032】
また本発明のPTP阻害剤を含有してなる口腔用組成物は、有効成分の加えて、公知の有効(薬効)成分、研磨剤、湿潤剤、増粘剤、界面活性剤、香料、甘味料、着色料、防腐剤、pH調整剤等を、適宜選択して配合することができる。具体的には、酵素、抗歯垢剤、抗菌剤、ビタミン類、フッ化物、金属塩等の有効(薬効)成分;リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、無水ケイ酸等の研磨剤;ラクチトールのような糖アルコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールのような多価アルコール等の湿潤剤;ポリエチレングリコール、グリセリン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC・ナトリウム塩)、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤;メントール、ハッカ油、l-カルボン等の香料、サッカリン、ステビオサイド類等の甘味料、各種色素等の着色料等が例示される。

【0033】
本発明のPTP阻害剤の有効成分は、穀類植物由来材料に含有される成分であり、安全性が高く、作用がマイルドであり、長期間の摂取または使用が好ましい。また、本発明のPTP阻害剤について、他の抗菌剤等と併用することにより、相加的または相乗的な効果の向上が期待できる。また本発明のPTP阻害剤は、ヒト以外のイヌ等の哺乳動物の歯周病菌プロテアーゼに対しても阻害作用を有することが期待される。

【0034】
本発明は、PTP阻害剤の存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させ、PTP活性を検出する工程を含む、PTP阻害活性の検出方法を包含する。本発明の検出方法においては、PTP阻害剤の非存在下におけるPTP活性もしくは別のPTP阻害剤の存在下におけるPTP活性を基準とし、目的のPTP阻害剤の存在下におけるPTP活性を当該基準となるPTP活性と比較することにより、PTP阻害活性を検出することができる。基準となるPTP活性は、目的のPTP阻害剤の存在下におけるPTP活性と同時に検出したものであってもよいし、予め検出したものを用いてもよい。

【0035】
さらに、本検出方法は、以下の1)および2)の工程を含むことが好ましい。
1)PTP阻害剤の存在下および非存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させる工程;
2)PTP阻害剤の存在下と非存在下におけるPTP活性を比較することにより、PTP阻害剤によるPTP阻害活性を検出する工程。
本発明のPTP阻害活性の検出方法における、ゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させる実験系は、歯肉のコラーゲンに近いゼラチンを基質として用いることから、歯周病モデル(歯肉モデル)として利用可能であると考えられる。また、本発明の検出方法に用いられるPTP阻害剤はPTP阻害剤の候補物質であってもよく、PTP阻害活性が確認されていないものであってもよい。本発明の検出方法は、PTP阻害剤のスクリーニング方法としても利用可能である。生体内においては、コラーゲナーゼの作用により歯肉組織から大きなペプチド断片としてゼラチンが生成し、生成したゼラチンをPTPの作用によりさらに小さなアミノ酸にまで分解する。アミノ酸まで分解されて初めて歯周病菌に取り込まれて歯周病菌の生育が可能になる。本発明のPTP阻害活性を検出する方法は、歯肉の退行を抑制する作用および/または歯周病菌の生育を阻害する作用を有する物質をスクリーニングする方法として用いることができ、さらには歯周病菌の治療剤および/または抑制剤をスクリーニングする方法として用いることができる。
なお、PTP阻害剤の非存在下で、媒体中にてゼラチンを含む構造体とPTPとを接触させる工程を含む方法は、PTP活性の検出方法としても利用可能である。

【0036】
工程1)において、媒体とは水や緩衝液等のPTPの作用および/またはPTP阻害剤の作用に影響を与えないものであればよい。好ましくはTris-HCl緩衝液、リン酸緩衝液等を用いることができる。ゼラチンを含む構造体とPTPを接触させる条件(温度、時間等)は、PTPの作用およびPTP阻害剤の作用を確認可能であればよく、特に限定されない。例えば、室温で、1時間~7日間接触させればよい。

【0037】
分解酵素阻害剤による分解酵素阻害効果の検出方法としては、分解酵素が媒体(水性液体)に含まれる系と、分解酵素と分解酵素阻害剤が媒体(水性液体)に含まれる系との二つの系の基質に対する作用を対比して、阻害活性が確認される。阻害活性の確認には、指標物質を用いることが簡便である。本発明のPTP阻害活性の検出方法では、ゼラチンを含む構造体が上記二つの系の媒体に接触し、PTPがゼラチンを分解する。ゼラチンが分解されることにより、ゼラチン層中に含まれている指標物質が媒体(水性液体)中に流出し、又はゼラチン層が分解して消失することによりゼラチン層の下層にあった指標物質が媒体(水性液体)中に流出し、指標物質が媒体中に含まれるようになる。その結果、媒体に含まれることとなった指標物質を、外観、濃度測定等により検知し、PTP阻害物質の効果を検出または判定することができる。構造体に含まれる指標物質は、それ自体が呈色を示す色素等であってもよい。あるいは、本発明のPTP阻害活性の検出方法では、指標物質が、ゼラチン又はゼラチンがPTPにより分解されて生成する分解物質と反応することにより呈色等するものであってもよい。かかる指標物質を媒体(水性液体)中に含有させておき、呈色等により検知し、PTP阻害活性を検出または判定してもよい。指標物質が色素であれば、外観でも、簡単な比色計でも検知が容易なため好ましい。

【0038】
ゼラチンを含む構造体とは、少なくともゼラチンを含んでいる構造体であって、表面の一部または全部がゼラチンで被覆されてなる構造体、又は、例えば板ゼラチンのようなゼラチン単体でもよい。当該構造体は、単一または複数のゼラチン層を含むゼラチン膜により、その表面の一部または全部が被覆されているものでもよい。PTP阻害活性の検出を短時間で行うためには、構造体の表面積が大きいことが好ましい。表面積の大きな構造体として、例えばシート状の構造体が好ましい。ゼラチンを含む構造体は、指標物質、好ましくは色素を含むものが好適である。指標物質は、構造体表面のゼラチン層が分解されることにより、指標物質が溶出する態様で、構造体に含まれていればよい。例えば、一定の厚みのゼラチン層の下に指標物質があれば、一定の厚みのゼラチンが分解される時間を評価することができる。指標物質は、ゼラチン層の下に別途指標物質層を設けることにより構造体に含まれてもよく、ゼラチン層に含まれることにより構造体に含まれてもよい。可溶性の指標物質がゼラチン層に含まれていれば、ゼラチンの分解に応じて指標物質が媒体液中に溶出する。ゼラチンの品質、ゼラチン層の厚み、指標物質の濃度、指標物質層の厚み等の均一性を適宜調節することにより、精度よくPTP阻害活性を検出することが可能となる。PTPによりゼラチンが分解されると、構造体の形態が変化したり、あるいは構造体に含まれる指標物質が媒体に溶出されることとなり、PTP活性を検出することができる。

【0039】
ゼラチンは、約10万の分子量を持つコラーゲン分子をもとにして、これを熱や酸、アルカリ等を用いて処理することにより、水に可溶性である1本鎖のポリペプチド鎖に変性および/または分解したものであり、数万~数百万の範囲の分子量分布を有する高分子鎖の集合体である。本発明におけるゼラチンには、写真フィルムや印画紙等に用いられている酸処理ゼラチンやその他の各種変性ゼラチン(重合ゼラチンを含む)も好ましく用いることが出来る。

【0040】
本発明のゼラチンを含む構造体として、銀塩カラー写真フィルム(好ましくはカラーネガフィルム又はカラーポジフィルム、リバーサルフィルム)を用いることが好ましい。或いは、紙ベースのカラー写真印画紙も同様に好ましく用いることが出来る。銀塩カラー写真フィルムやカラー写真印画紙等は量産されている市販のものを用いることができる。これらは、安価で入手が容易であり、ゼラチンの品質、ゼラチン層の厚み、色素の濃度、色素層の厚み等の均一性が極めて高いからである。銀塩写真フィルムは、ポリエステル、アセテート等のシート状(もしくはフィルム状)のベース材料に、銀粒子や発色剤(カプラー)を、ゼラチンとともに塗布して乾燥させて製造されたものであり、ベース材料上にゼラチン層を設けた構造を持つものである。ポリエステルとして具体的にはポリエチレンテレフタレートが例示され、アセテートとして具体的にはセルロースアセテートが例示される。銀粒子は、ハロゲン化銀粒子である。銀粒子とカプラーをゼラチンとともに多層同時塗布して乾燥することにより、ベース材料上に積層ゼラチン層を設けた構造を持つ銀塩写真フィルムが得られる。なお、ゼラチン層は適当な架橋剤により架橋耐水化されており、現像処理中に溶解することを防止されていることが好ましい。銀塩カラー写真フィルムとしては、3層乳剤内式カラーフィルムが好ましい。3層乳剤内式カラーフィルムは、赤感性層 、緑感性層、青感性層を有し、結果として赤、緑、青に発色する各々のカプラーがゼラチン中に分散した各層を積層して構成されるものである。銀塩カラー写真フィルムは露光させ現像処理を行ったものを用いることができる。露光光は白色光であっても、特定の波長光、例えば赤、青、緑、等であってもよく、露光条件を調整して現像後に吸光分析に適した色相に発色させてもよい。露光させたフィルムは通常の現像処理を行い、現像処理でカプラーが発色現像されるのと並行して、還元し生成した銀粒子は漂白工程でハイポ銀に酸化され、定着工程で溶解除去されたものを用いるのが好ましい。現像処理された銀塩カラー写真フィルムにおいては、カプラーにより形成された色素分子がゼラチン層中に含まれることとなる。

【0041】
また「PTP」はPTP酵素であれば限定されず、抽出物でも、合成物であってもよい。例えば非特許文献3の記載に沿って遺伝子組換えにより発現させた可溶性のPTPを用いればよい。

【0042】
工程2)においては、PTP阻害剤の存在下と非存在下において、PTP活性を比較する。PTP活性はゼラチンの分解による溶解の程度を確認することにより検出することができる。本検出方法においては、ゼラチンの分解の程度を、ゼラチン自体の形態変化(水中への溶解や膨潤の程度)や、指標物質量(例えば指標物質の媒体への溶出)を確認すればよい。PTP阻害剤の存在下または非存在下におけるPTP活性を比較することにより、PTP阻害剤によるPTP阻害活性を検出することができる。本検出方法において、PTP阻害剤の非存在下におけるPTP活性の検出は毎回行っても、行わなくてもよいが、毎回行うことが好ましい。ゼラチンの形態の変化および指標物質の溶出は視認することができ、簡便にPTP阻害剤によるPTP阻害活性を測定または検出することができる。特に色素の溶出によれば、特定の波長の吸光度を測定すること等により定量することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の代表例を実施例により説明するが、本発明の技術範囲は実施例および実験例により限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)米糠からのPTP阻害活性を有するタンパク質の精製
1.試薬
非特許文献3に記載の方法に従って、歯周病菌のPTP遺伝子を大腸菌で発現させ、可溶性のPTPを調製した。ネスラー試薬は、和光純薬より購入した。合成基質のAla-Phe-Pro-βNAはBACHEMより購入した。電気泳動用ゲル(e-PAGELはアトーより購入した)、Toyopearl HW-65、DEAE-Toyopearlは東洋ソーダ社製品を用いた。Sephacryl S-200とNi-Sepharose Fast FlowはGEヘルスケア・ジャパン株式会社製を用いた
【実施例】
【0045】
2.米糠からのサンプルの調製
まず、米糠に緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.2)を混合して、原料液を調製した。原料液を遠沈管にいれ、遠心分離機で15000rpm、10分間、5℃で遠心分離した。遠心分離後に上清をサンプル保管用のガラス容器に入れた。使用するまで、-80℃で保存した。
【実施例】
【0046】
3.PTP阻害活性確認実験
96穴プレートに緩衝液(20mM Tris-Hcl pH7.2)70μL、合成基質2mM(Ala-Phe-Pro-βNA)10μL、タンパク質溶液(阻害剤)10μLを加えて、37℃の恒温槽で少し保温した。酵素10μl加えた後、10分後にFast Garnet GBC(4M酢酸緩衝液pH4.0にTriton X-100 10%を含む)を50μL加えて、反応を停止させた。反応を停止させた後、吸光度計でOD550nmの吸光度を測定した。
酵素阻害率は次のようにして算出した。まず測定した吸光度(OD)から、ブランクのODを引いた値ΔODを算出した。ブランクはサンプルの代わりに緩衝液を10μL加えたものである。次いで、次の式で酵素阻害率を算出した。
酵素阻害率=100-{ΔOD(阻害剤あり)/ΔOD(阻害剤なし)}×100
【実施例】
【0047】
4.PTP阻害活性を有するタンパク質の精製
米糠約500gを、20g/50mLで緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.2)を添加して、医療用ガーゼでろ過したものを15000rpm、15分間、5℃で遠心分離した。遠心分離後に分離した上清に硫酸アンモニウムを40%飽和になるように加え、冷蔵庫中5℃で約1日放置し、再び、15000rpm、15分間、5℃で遠心分離した。
遠心分離後に分離した上清に硫酸アンモニウムを80%飽和になるように加え、冷蔵庫中5℃で約1日放置し、再び、15000rpm、15分間、5℃で遠心分離した。なおPTP阻害活性を有するタンパク質の精製実験では、タンパク質の失活を防ぐため、保管、クロマトグラフィーおよび遠心分離を含む全ての操作を5℃で行った。
【実施例】
【0048】
遠心分離後に上清を廃棄して沈殿物を得た。沈殿物を、40%飽和硫酸アンモニウムを含む20mM Tris-HCl pH7.2の溶液に溶解し、低温室(4℃)にてToyopearl HW-65Cで疎水性クロマトグラフィーにかけた(カラムサイズ5cm X 15 cm)。各フラクションについて280nmの吸光度を測定してタンパク質量を測定するとともに、PTP阻害活性確認実験によりPTP阻害活性の測定を行った。結果を図2aに示す。PTP阻害活性がピークである部分を回収し、回収した溶液に硫酸アンモニウムが80%飽和になるように加え、冷蔵庫で約1日間放置し、15000rpm、15分間、5℃で遠心分離した。
【実施例】
【0049】
遠心分離後に上清を廃棄して沈殿物を得た。沈殿物を、20mM Tris-HCl pH7.2で溶解した。溶液をヴィスキングチューブを用いて透析した。透析は、ネスラー試薬が変色しなくなるまで外液を交換して行った。透析後の溶液を低温室(4℃)でDEAE Toyopearlでイオン交換クロマトグラフィーにかけた(カラムサイズ 5cm X 15 cm)。結果を図2bに示す。各フラクションについて280nmの吸光度を測定してタンパク質量を測定するとともに、PTP阻害活性確認実験によりPTP阻害活性の測定を行った。PTP阻害活性がピークである部分を回収した。回収した溶液に硫酸アンモニウムが80%飽和になるように加え、冷蔵庫で約1日間放置し、15000rpm、15分間、5℃で遠心分離した。
【実施例】
【0050】
遠心分離後に上清を廃棄して沈殿物を得た。沈殿物をTris-HCl pH7.2で溶解した。溶液をヴィスキングチューブを用いて透析を行った。透析は、ネスラー試薬が変色しなくなるまで外液を交換して行った。透析後の溶液を低温室(4℃)でSephacryl S-200でゲル濾過クロマトグラフィーにかけた(カラムサイズ 2.5cm X 35cm)。結果を図2cに示す。各フラクションについて280nmの吸光度を測定してタンパク質量を測定するとともに、PTP阻害活性確認実験によりPTP阻害活性の測定を行った。PTP阻害活性がピークである部分を回収した。回収した溶液に硫酸アンモニウムが80%飽和になるように加え、冷蔵庫で約1日間放置し、15000rpm、15分間、遠心分離し上清を廃棄して沈殿物を得た。
【実施例】
【0051】
得られたタンパク質は、不純物を少し含んでいたので、再度上記と同じ方法によりSephacryl S-200でゲル濾過クロマトグラフィー(リクロマト)を行った。PTP阻害活性がピークである部分を回収し、常法に従ってサンプルを加熱と非加熱でSDS電気泳動を行った。共通して25kDaの分子量を有する濃いバンドと、非加熱でマイナーなバンドが見られた(図2e)。
【実施例】
【0052】
5.PTP阻害活性を有するタンパク質の同定
分離したタンパク質のうち、25kDaの分子量を有するタンパク質画分について、常法により電気泳動ゲルから切り取り、マトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)-飛行時間型(TOF)質量分析計(AXIMA Performance:(株)島津製作所製)を用いてMS/MS分析を行った(図3a)。得られたMS/MSデータから、データベース(Rice Annotation Project DataBase(http://rapdb.dna.affrc.go.jp/index.html))を用いて配列を検索し、タンパク質を同定した(図3b)。
その結果、精製して得られた25kDaの分子量を有するタンパク質が、イネのOs05g0323900に該当することがわかった。
【実施例】
【0053】
(実施例2)遺伝子組換えによるPTP阻害活性を有するタンパク質の作製
常法により、Os05g0323900タンパク質をコードするcDNAを制限酵素処理した後、制限酵素処理した断片を、Trx(チオレドキシン)をコードするポリヌクレオチドおよびHis-Tagと融合させ、ベクターpET-32aに導入した(図4a)。なおOs05g0323900タンパク質をコードするcDNAは、大腸菌で発現させるために、イネデータベースからの当該タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を大腸菌コドンに最適化させ、化学合成により調製した。化学合成したcDNAを以下に示す。以下の塩基配列では、5'側にBamHIサイト(ggatcc)、3'側にXhoIサイト(ctcgag)がクローニング用に付加されている。
Os05g0323900タンパク質をコードするcDNA(配列番号2):
ggatccATGGCCCTTCGGACTCTCGCCTCGCGCAAAACCTTGGCCGCCGCAGCGCTGCCACTCGCTGCGGCAGCAGCTGCACGTGGTGTTACCACAGTGGCATTGCCGGATCTGCCCTATGACTATGGCGCGTTAGAACCGGCCATTAGTGGCGAGATTATGCGCCTGCATCACCAGAAACACCATGCCACGTATGTGGCGAACTACAACAAAGCCCTTGAACAGCTGGATGCTGCAGTAGCGAAAGGGGATGCACCAGCGATTGTCCATCTGCAGAGTGCGATCAAGTTCAATGGTGGAGGCCACGTGAATCACAGCATCTTCTGGAACAACCTCAAACCGATCTCTGAAGGAGGTGGTGATCCGCCTCATGCGAAACTGGGTTGGGCAATTGACGAGGATTTTGGCTCCTTTGAAGCTCTGGTCAAAAAGATGAGCGCGGAAGGTGCGGCGTTGCAAGGCTCAGGGTGGGTTTGGTTAGCCCTGGACAAAGAAGCGAAAAAGCTGTCGGTGGAAACCACTGCGAATCAAGACCCTCTTGTAACGAAAGGCGCTAATCTGGTTCCGTTACTAGGGATAGATGTCTGGGAGCATGCCTATTACCTGCAGTACAAGAACGTTCGTCCGGATTATCTGAGCAACATCTGGAAAGTGATGAACTGGAAATATGCGGGCGAAGTGTACGAGAATGCTACCGCCctcgag
【実施例】
【0054】
当該ベクターを大腸菌に導入して、大腸菌内にて、TrxとOs05g0323900が融合したタンパク質(Trx-Os05g0323900融合タンパク質)を発現させた。大腸菌を培養した後、大腸菌を遠心分離(15000rpm,15min)して回収した。回収した大腸菌を、10 mM Naを含む20 mM Tris-HCl, pH7.4で洗浄し、ヌクレアーゼを含む溶液で溶菌し、遠心分離後、上清に7倍量の20 mM Naリン酸緩衝液に溶かし、Ni-Sepharose カラム(Ni-Sepharose Fast Flow、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に吸着させ、250 mM Imidazoleを含む同じリン酸緩衝液で溶出し、Trx-Os05g0323900融合タンパク質を単離精製した(図4b)。Trxの分子量は18786であり、Trx-Os05g0323900融合タンパク質の分子量は約44kDaであった。
精製したTrx-Os05g0323900融合タンパク質を、タンパク質量が430μg/mLとなるように20 mM Tris緩衝液に溶解し、サンプルを調製した。なおタンパク質量は280nmの吸光度により定量した。調製したサンプルを用いて、タンパク質溶液の添加量を変化させる以外は実施例1と同様にして、PTP阻害活性確認実験を行った。なお対照として、Trxのみを含むタンパク質をTrx-Os05g0323900融合タンパク質と同様にして発現させ、タンパク質量が430μg/mLとなるように20 mM Tris緩衝液に溶解し、対照サンプルを調製した。
【実施例】
【0055】
その結果、対照のTrxのみを含むタンパク質はPTP阻害活性を示さなかったのに対して、Trx-Os05g0323900融合タンパク質(図5中の「Trx-Os05g0323900」)は、PTP阻害活性を示すことが分かった(図5)。
【実施例】
【0056】
(実験例1) 米糠から精製したPTP阻害活性を有するタンパク質の安定性の確認
PTP阻害活性を有するタンパク質として、実施例1と同様にして、疎水性クロマトグラフィーまでの工程により精製したタンパク質を用いた。当該タンパク質は精製後、凍結乾燥をし、室温にて約2カ月間、保管していたものを用いた。タンパク質を、20mM Tris-HCl pH7.2の緩衝液に溶解して1mg/mLのPTP阻害剤溶液を調製した。調製したPTP阻害剤溶液を37℃にて保温し、0時間後、0.25時間後、1日後、4日後、6日後、12日後、15日後に阻害活性を確認した。阻害活性の確認は、実施例1の3.と同様の実験により行った。
【実施例】
【0057】
その結果を図6に示す。PTP阻害剤は溶液に溶解した状態で、2週間37℃で保温した場合であっても90%以上の阻害活性を維持しており、安定性が高いことがわかった。
【実施例】
【0058】
(実施例3) 歯周病モデルにおけるPTP阻害活性を有するタンパク質の作用の確認
本発明のPTP阻害活性を有するタンパク質による、歯肉の分解抑制作用を確認するために、写真フィルムに用いられるゼラチン膜に対するPTPの分解抑制を評価した。PTP阻害活性を有するタンパク質として、実施例1と同様にして、疎水性クロマトグラフィーまでの工程により精製したタンパク質を用いた。カラー写真フィルムは、発色剤であるカプラーとともにハロゲン化銀粒子を含むゼラチン膜がプラスチックフィルム表面に多層コーティングされたものである。ゼラチン膜は架橋剤を用いて耐水化されているため、通常、室温で長時間水に浸漬しても溶解することはない。本実施例では、写真フィルムとしてカラー写真ネガフィルムを白色光により露光させ、現像・漂白・定着処理を行った後のフィルム(富士写真フイルム社製、品番:FUJICOLOR SUPERIA X-TRA400)を用いた。3色のカプラーによる発色からゼラチン膜中に3色の色素がそれぞれのゼラチン層に含まれることで全体として灰色に着色した写真フィルムを本実施例で使用した。PTP 1mg/mL(実施例1で調製したもの)と、実施例1に記載の米糠から精製したPTP阻害活性を有するタンパク質 5mg/mLを含む20mM Tris-HCl pH7.2溶液中に上記写真フィルムを浸漬し、4時間後、4日後に変化を観察した。本実験は、室温で行った。
【実施例】
【0059】
その結果を、図7に示す。図7上段は4時間後の結果であり、図7下段は4日後の結果である。(A)はPTP阻害活性を有するタンパク質を含まず、PTPのみを含むコントロールの溶液、(B)はPTPとPTP阻害活性を有するタンパク質を含む溶液の結果である。写真フィルム上の架橋したゼラチン膜をPTPが溶解することで、ゼラチン膜中に含まれる色素分子が溶解し、溶液が着色された。(A)では4時間後には溶液の着色が認められたことからゼラチン膜の少なくとも部分的な溶解が認められたが、(B)では外観上変化が認められず、ゼラチン膜に変化は認められなかった。さらに、(A)では4日後に写真フィルム表面に存在したゼラチン膜が完全に溶解したことが確認されたが、一方(B)ではゼラチン膜がフィルムから剥離したものの、剥離したゼラチン膜自体は溶解せずに元のままの膜形状で残っていた。よって本発明のPTP阻害活性を有するタンパク質は、ゼラチンに対するPTPの作用も阻害し得ることが示された。
【実施例】
【0060】
(実施例4)PTP阻害活性を有するタンパク質の歯周病菌(P. gingivalis)の増殖への影響
米ぬかから精製したPTP阻害活性を有するタンパク質について、歯周病菌(P. gingivalis)(JCM12257株:理化学研バイオリソースセンターより入手(ATCC 33277株))の増殖への影響を確認した。培地は、トリプティカーゼ大豆血液(Trypticase Soy blood agar)培地を用いた。同培地は、トリプティカーゼ大豆寒天(Trypticase soy agar)(ベクトン・ディッキンソン社)40g、ウマ血液(Horse blood)(コスモバイオ社)50ml、滅菌水 950mlを含むものであり、通常の殺菌条件により殺菌したものを用いた。PTP阻害活性を有するタンパク質としては、実施例1と同様の手法により、疎水性クロマトグラフィーにより精製し凍結乾燥したものを、緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.2)に、1mg/mlで溶解した溶液を用いた。培養は、37℃で、三菱ガス化学(株)製の嫌気培養キットを用いてプレートを用いて嫌気条件で行った。
【実施例】
【0061】
下記(A)および(B)の2通りの方法により、PTP阻害活性を有するタンパク質の添加と歯周病菌の植菌を行った。なお(A)および(B)では、プレートの裏面にマジックで線を引き、プレートを左右に分けた。また歯周病菌は予め別のプレート上で生育させておいたものを用いた。
(A)植菌前に、プレート左半分のみに、PTP阻害活性を有するタンパク質の溶液(1mg/ml)をピペットを用いて無菌的に均一に滴下して培地に吸収させ、乾燥させた。プレート右半分はPTP阻害活性を有するタンパク質の溶液(1mg/ml)は吸収させなかった。予め生育させておいた歯周病菌(P. gingivalis)を、通常の植菌方法に従ってエーゼを左右に動かしながらプレートの全面に塗布した。
(B)プレート上の全面に(A)と同様にしてエーゼで歯周病菌を塗布した。その後プレート左半分にPTP阻害活性を有するタンパク質の溶液(1mg/ml)を注意深く(A)と同様にして吸収させた。プレート右半分はPTP阻害活性を有するタンパク質の溶液(1mg/ml)は吸収させなかった。
【実施例】
【0062】
結果を図8に示す。図8の上段は各々、上記(A)および(B)の方法により植菌した後、37℃で2日間培養した後の写真である。写真に示された左右の境界線は、プレートの裏面の線に基づくものである。図8の下段はコントロールであり、PTP阻害活性を有するタンパク質の溶液を吸収させていないプレートに歯周病菌を植菌した後、37℃で2日間培養した後の写真である。
(A)および(B)の両方において、プレート左半分(図中「(PTPI)と示した側)では、歯周病菌の増殖が阻害されており、プレート右半分(図中「(NON)」と示した側)では、増殖は阻害されなかった。よって、米ぬかから精製したPTP阻害活性を有するタンパク質は、歯周病菌の増殖を阻止する傾向が確認された。トリプティカーゼ大豆寒天に含まれるタンパク質(プロリン結合部を含む)の歯周病菌PTPによる分解を、本発明のタンパク質が阻害したことにより、歯周病菌の増殖が抑制されたと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したとおり、穀類植物由来材料から、新規なPTP阻害活性を有するタンパク質を単離し、精製することができた。当該タンパク質は、遺伝子組換えにより発現させた場合であっても、PTP阻害活性を有するものであった。当該タンパク質を有効成分とする本発明のPTP阻害剤は、有効性のみならず安全性にも優れているという効果を奏する。さらに本発明のPTP阻害剤は、歯周病菌の増殖を抑制する作用を発揮することから、歯周病の治療や予防に幅広く使用することができ、オ-ラルケアを中心とした健康管理に大きく貢献することができる。加えて、本発明のPTP阻害剤は、有効成分がタンパク質であり、当該タンパク質は胃で分解されることから、副作用の可能性が低い。さらには、本発明のPTP阻害剤の有効成分は、可食部(例えば古米)または可食部を分離した後の廃棄物(例えば米糠)から製造することができる。廃棄物を有効利用することができるとともに、安価に製造することができる。
また本発明のPTP阻害活性の検出方法によると、合成基質より歯肉のコラーゲンに近いゼラチンへのPTPの作用に対する阻害活性を確認することができる。本検出方法によれば、歯周病菌の生育阻害作用や歯周病における歯肉退行を抑制する作用をより正確に予測することができる。また本発明は簡便かつ容易に検出を行うことができ、有用である。
図面
【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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