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明細書 :抗菌作用を有する物質の候補の選択方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-195452 (P2014-195452A)
公開日 平成26年10月16日(2014.10.16)
発明の名称または考案の名称 抗菌作用を有する物質の候補の選択方法
国際特許分類 C12Q   1/18        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/18 ZNA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2014-045677 (P2014-045677)
出願日 平成26年3月7日(2014.3.7)
優先権出願番号 2013046887
優先日 平成25年3月8日(2013.3.8)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】小堂 直彦
出願人 【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
Fターム 4B024AA11
4B024CA04
4B024CA09
4B024CA20
4B024DA12
4B024EA04
4B024HA12
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QQ98
4B063QR76
4B063QR80
4B063QS25
4B063QS38
要約 【課題】本発明は、抗菌剤に対する耐性変異株に抗菌作用を示す物質の候補を選択する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法であって、第1の抗菌剤と異なる第2の抗菌剤に対する第2の耐性変異株が、ある物質に対して抵抗性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを特徴とする方法を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法であって、第1の抗菌剤と異なる第2の抗菌剤に対する第2の耐性変異株が、ある物質に対して抵抗性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを特徴とする、方法。
【請求項2】
第1の耐性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の耐性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の抗菌剤に対する第1の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補から除外することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1の感受性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子に変異を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第2の抗菌剤に対する第2の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第2の感受性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子に変異を有する、請求項6に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法に関する。より具体的には、本発明は、抗菌剤に対して耐性を示す変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菌類が原因となる疾患は、数多く知られている。たとえば、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコックスなどの真菌は、アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコックス症、白癬(水虫、たむし、およびしらくも)などの疾患の原因となることが知られている(非特許文献1参照)。このような疾患の治療には、抗菌剤が用いられている。
【0003】
抗菌剤による治療を行うと、その抗菌剤に対して耐性を有する耐性菌が出現し、その抗菌剤を用いても治療を継続することができなくなる場合があることが知られている(非特許文献2~3参照)。このような疾患を治療するために、抗菌剤に対する耐性菌に対して抗菌作用を有する物質を取得することが求められている。
【0004】
真菌類は、ウイルスや細菌と異なり、進化学的にヒトなどの高等真核生物と近縁であり、真菌が備える生命機構やそれに関与する蛋白質がかなり共通するため、新規薬剤の開発は困難を極める。現在上市される薬剤も、細胞壁や細胞膜のごく限られた違いをターゲットとして、限られた数があるにすぎない。これまでの真菌症治療において、個々の薬剤に対する耐性菌出現の報告は頻繁にあるが、現在のところ重大な多剤耐性真菌出現の報告はない。しかし、近年、糖尿病、エイズ、臓器移植、抗癌剤治療に係る免疫低下した患者が増加したことにより、真菌症に罹患する患者が増加の一途をたどっている。したがって、抗真菌薬の使用が増加することにより、病原性真菌が薬剤耐性を獲得する確率も飛躍的に高まっている。今後出現が予測される多剤耐性真菌は、限られた抗真菌薬しかない現状で、人類にとって大変な脅威となる。したがって、今後も新薬を開発する事が求められるだけでなく、多剤耐性真菌にも対応することができる新薬を開発する必要がある。
【0005】
菌類が薬剤耐性を獲得する原因となる現象として、薬剤排出ポンプと呼ばれるタンパク質が変異導入によって菌類内で過剰に発現し、抗菌剤が菌類内部から外部に排出される現象が知られている。薬剤排出ポンプは、生物において高度に保存された膜輸送体であり、その発現量を制御する一連の転写因子が存在することが知られている(非特許文献4~5参照)。
【0006】
抗菌剤耐性菌に対して抗菌作用を有する物質を探索する方法として、薬剤排出ポンプの機能に異常がある変異株を用いる方法が知られている(特許文献1~3参照)。これらの方法は、薬剤排出ポンプの排出を阻害する物質を探索することなどを目的としており、変異株が感受性を示す化合物を抗菌剤の候補として選択している。なお、抗真菌剤の感受性の試験方法は、各種の方法が開発されている(非特許文献6~8)。
【0007】
しかしながら、現実に抗菌作用を有する物質は、単一の探索方法のみによって即座に得られるものではなく、効率的に取得するためには、様々な観点からの選別基準を適切に組み合せることが必要であり、候補物質についての様々な選別基準が求められる。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2001-503857号公報
【特許文献2】特開2010-11851号公報
【特許文献3】特表平9-504716号公報
【0009】

【非特許文献1】化学と生物 Vol.42,No.12,2004
【非特許文献2】モダンメディア 56巻6号2010[真菌]119
【非特許文献3】医学のあゆみ Vol.209,No.9,2004.5.29
【非特許文献4】MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY REVIEWS,Sept.2006,p.583-604
【非特許文献5】METHODS IN ENZYMOLOGY,VOL.400 phase ii conjugation enzymes and transport systems
【非特許文献6】Jpn.J.Med.Mycol.Vol.51,153-163,2010
【非特許文献7】日本臨床微生物学雑誌 Vol.14,No.3,2004
【非特許文献8】モダンメディア 55巻12号2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、抗菌剤に対する耐性変異株に抗菌作用を示す物質の候補を選択する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、遺伝学的手法を用いて、薬剤排出ポンプとこれを制御する転写因子について、薬剤排出機序を研究していたところ、全く意外なことに、ある抗菌剤に対する耐性変異株が特定の物質に対して抵抗性を示すことは、その物質が、その抗菌剤とは別異の抗菌剤に対する耐性変異株に抗菌作用を示す指標として有用であり、そのような物質を選択することによって、抗菌剤の耐性変異株に対する抗菌剤の候補を絞り込むことができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法であって、第1の抗菌剤と異なる第2の抗菌剤に対する第2の耐性変異株が、ある物質に対して抵抗性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを特徴とする方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、第1の耐性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する、上記の方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、第2の耐性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する、上記の方法を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、第1の抗菌剤に対する第1の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補から除外することを含む、上記の方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、第1の感受性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子に変異を有する、上記の方法を提供するものである。
【0017】
さらに、本発明は、第2の抗菌剤に対する第2の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを含む、上記の方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、第2の感受性変異株が、薬剤排出ポンプ遺伝子に変異を有する、上記の方法を提供するものである。
【0019】
抗菌剤に耐性を示す変異株に被験物質を投与して、その変異株を殺傷した被験物質を抗菌剤の候補として選択する方法は、従来行われてきたことが推測される。この方法は、変異株が特定の物質に対して感受性を示した場合に、その物質を候補として選択する。したがって、その変異株が抵抗性を示す化合物は、抗菌剤の候補化合物から除外されることとなる。本発明の方法は、薬剤耐性を示す変異株に対する抗菌剤をスクリーニングするに際して、本来ならば候補物質から除外されるこのような化合物を候補物質として選択することによって、別の薬剤に対する耐性変異株に抗菌作用を示す物質を取得する確率を向上させるという斬新な方法である。また、本発明の方法は、従来の候補物質をスクリーニングする過程で蓄積した情報を解析する指標を工夫することによって、目的とする物質を取得する確率を高めることができ、特段の設備投資なしに簡便に実施することができる点で、画期的である。
【0020】
本発明の選択方法の原理は、後述するように、ある薬剤に対する耐性変異株に抗菌作用を示す化合物が、その薬剤を排出する薬剤排出ポンプとは異なる薬剤排出ポンプによって排出されるという、本発明者らの実験結果をもとに得た薬剤排出機序のモデルと整合的である。このことと、薬剤排出ポンプとそれを制御する転写因子が高度に保存されていることを考え合わせると、この選択方法は、多くの菌類において有用であることが期待でき、抗菌剤の候補を選択する方法として十分な効果を有するといえる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法は、以前に行われた探索方法によって得られた解析結果を活用することによって実施することができる。したがって、本発明の方法によれば、特段の設備投資を要することなく、簡便に、目的とする抗菌剤の候補を選択することができ、これにより、抗菌剤に対して耐性を示す変異株に対して抗菌作用を有する抗菌剤の開発を容易に行うことができる。本発明の方法は、医学、畜産、農業、その他の産業(医療器具、食品、建材、生活用品)での抗菌剤開発において活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施例1の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)の結果を示す写真である。
【図2】図2は、実施例1の薬剤感受性試験の結果を整合的に説明するモデル図である。
【図3-1】図3は、実施例2の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)の結果を示す写真である。薬剤名の下の数値は濃度(μg/ml)を示す。
【図3-2】図3は、実施例2の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)の結果を示す写真である。薬剤名の下の数値は濃度(μg/ml)を示す。
【図3-3】図3は、実施例2の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)の結果を示す写真である。薬剤名の下の数値は濃度(μg/ml)を示す。
【図4】図4は、実施例1および実施例2の薬剤感受性試験の結果を整合的に説明するモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択する方法を提供する。

【0024】
第1の抗菌剤は、菌の増殖を抑制する作用を有する薬剤である。菌としては、真核生物、真正細菌、および古細菌などが挙げられる。真核生物としては、真菌、メソミセトゾア(偽粘菌・中動菌)などのオピストコンタ;動菌、変形菌・粘菌、原生粘菌(プロトステリウム類)、タマホコリカビ類、およびアクラシス類などのアメーボゾア;卵菌、ラビリンチュラ類、およびネコブカビ類などのストラメノパイル、などが挙げられる。真菌としては、ツボカビ門;クモノスカビなどのケカビ属(ムコール症)などの接合菌門;子嚢菌門;クリプトコッカスなどの担子菌門;白癬、スポロトリックス、黒色真菌などの不完全菌などが挙げられる。子嚢菌門としては、アスペルギルス、カンジダ、ニューモシスチス;出芽酵母、分裂酵母などの酵母;アオカビ、コウジカビ、アカパンカビなどのカビ;アミガサタケ、トリュフなどのキノコなどが挙げられる。また、菌としては、病原性菌が挙げられる。

【0025】
真菌の増殖を抑制する作用を有する薬剤は、抗真菌剤と呼ばれる。抗真菌剤としては、アムホテリシンB(AMPH-B)、オリゴマイシンなどのポリエンマクロライド系の抗真菌剤;フルシトシン(5-FC)などのピリミジン誘導体の抗真菌剤;ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、イソコナゾール、スルコナゾール、オキシコナゾール、クロコナゾール、ビホナゾール、ネチコナゾール、ラノコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールなどのアゾール系の抗真菌剤;ミカファンギン、カスポファンギン、アニデュラファンギンなどのキャンディン系の抗真菌剤;テルビナフィンなどのアリルアミン系の抗真菌剤;ブテナフィンなどのベンジルアミン系の抗真菌剤;サリチル酸、ヨードチンキ、エキサラミドなどのサリチル酸系の抗真菌剤などが挙げられる。また、抗真菌剤としては、4-ニトロキノリン1-オキシド(4-NQO)などの化学発癌剤なども挙げられる。またさらに、抗真菌剤としては、マンコゼブ、ベノミルなどの農薬や、リベロマイシンA、セルレニン、アルテスナート、シクロヘキシミドなども挙げられる。このうち、アムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、およびミカファンギンは、日本で深在性真菌症治療薬として使用されている。なお、ポリエンマクロライド系、アゾール系、アリルアミン系、およびベンジルアミン系の抗真菌剤は、細胞膜構成成分であるエルゴステロールを創薬のターゲットとする。また、キャンディン系の抗真菌剤は、細胞壁を創薬のターゲットとする。

【0026】
第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株は、第1の抗菌剤に対して耐性を有する変異株である。ある変異株およびその変異株の野生株に対して抗菌剤を投与したとき、その変異株の増殖度が野生株に比して高い場合には、その変異株は、その抗菌剤に対して耐性を有するといえる。

【0027】
第1の抗菌剤に対する第1の耐性変異株は、自然発生的な突然変異によって生じたものであってもよい。また、第1の耐性変異株は、公知の方法によって野生株にランダムに突然変異を導入し、その導入された変異株の中から、第1の抗菌剤に対して耐性を示す変異株を選択することによって取得したものであってもよい。

【0028】
第1の耐性変異株は、第1の抗菌剤に対して耐性を有するだけでなく、他の抗菌剤に対して耐性を有するものであってもよい。複数の抗菌剤に対して耐性を有する耐性変異株は、多剤耐性変異株と呼ばれることがある。後述するように、本発明の方法の原理は、第1の薬剤耐性変異株において、特定の薬剤排出ポンプを含む薬剤排出経路が活性化していることを前提としている。そして、特定の薬剤排出経路が活性化した場合、その変異株は、複数の薬剤に対して耐性を示すことが通常である。単剤耐性の薬剤耐性は、標的部位の構造的変化によるものであり、薬剤排出ポンプ群の強発現によるものでない場合がある。したがって、本発明の方法は、第1の薬剤耐性変異株が多剤耐性変異株である場合において、より確実に高い効果を実現することができる。第1の耐性変異株の菌の種類としては、前述したものが挙げられる。

【0029】
本発明の方法は、第1の抗菌剤と異なる第2の抗菌剤に対する第2の耐性変異株が、ある物質に対して抵抗性を示す場合に、その物質を選択することを特徴とする。ある物質は、第2の抗菌剤自体であってもよい。

【0030】
第2の耐性変異株は、第2の抗菌剤に対して耐性を有する変異株である。第2の抗菌剤は、第1の抗菌剤と異なる。第1の抗菌剤と第2の抗菌剤の組み合わせとしては、両者が、それぞれ、ポリエンマクロライド系、アゾール系、ピリミジン誘導体、キャンディン系、アリルアミン系、ベンジルアミン系、サリチル酸系、または化学発癌剤などからなる群から選ばれる特定の系統に属し、かつ、両者が異なる系統に属する場合などが挙げられる。たとえば、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤の組み合わせとしては、第1の抗菌剤が、ポリエンマクロライド系の抗菌剤、アゾール系の抗菌剤、または化学発癌剤であり、かつ、第2の抗菌剤が、サリチル酸系の抗菌剤である組み合わせが挙げられる。

【0031】
第2の耐性変異株は、第1の抗菌剤に対して耐性であってもよいし、感受性であってもよい。第2の耐性変異株が第1の抗菌剤に対して感受性である場合には、後述のモデルによれば、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤は、異なる薬剤排出経路によって排出されるといえる。後述のように、本発明の方法の原理は、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤が異なる薬剤排出経路によって排出されることを利用する。したがって、この場合、より確実に本発明における所望の効果が得られる。

【0032】
第2の耐性変異株が、第1の抗菌剤に対しても耐性である場合には、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤の薬剤排出経路が異ならない可能性がある。この場合には、第1の耐性変異株として、第2の抗菌剤に対して感受性を示す変異株を用いることが好ましい。この組み合わせの場合、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤の排出経路が異なるといえるため、本発明の方法の原理に基づき、より確実に本発明における所望の効果を得ることができる。

【0033】
第2の耐性変異株は、第1の耐性変異株と同様に、自然発生的な突然変異によって生じたものであってもよく、また、ランダムに突然変異を導入して得た変異株の中から選択して取得したものであってもよい。

【0034】
また、本発明の方法は、第1の耐性変異株の場合と同一の理由により、第2の耐性変異株が多剤耐性変異株である場合において、より高い効果を実現することができる。

【0035】
第2の耐性変異株の菌の種類としては、先に菌として列挙したものが挙げられる。後述のように、本発明の方法が依拠する原理は、第1の耐性変異株の野生株と第2の耐性変異株の野生株が共通の薬剤耐性排出経路を有することを前提とする。したがって、本発明の方法の原理に基づく高い効果を得る観点から、第1の耐性変異株と第2の耐性変異株は、同一の野生株に由来することが好ましい。

【0036】
本発明の方法が選択する物質は、第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質である。第2の耐性変異株およびその野生株に対して特定の物質を投与した場合において、その野生株の増殖が低下し、かつ、第2の耐性変異株が野生株よりも高い増殖度を示す場合には、投与したその物質は、第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質であるということができる。野生株または第2の耐性変異株の増殖度の測定は、後述の実施例において行われたスポット・アッセイによって行ってもよいし、日本医真菌学会の「酵母の抗真菌薬感受性試験法」(Jpn.J.Med.Mycol.,Vol.51,153-163,2010)に基づいて行ってもよい。なお、抗菌剤の開発にあたって、スクリーニングが行われる場合、抗菌作用を有する物質の膨大なストックが蓄積される。これらのストックの中には、上市された抗菌剤よりも薬効が劣るために、実用化されていないものもあると考えられる。このストックについては、スクリーニングの結果として、どの薬剤耐性の変異株に対してどの物質が感受性を示すか否かについての情報が存在する。したがって、新たな実験を行うことなく、抗菌剤に対する耐性変異株が抵抗性を示す物質を選択することができる。しかも、これらのストックは、重篤な副作用を引き起こすかどうかなど、医薬品としての臨床に必要な複数の項目が既に検査されていることが多い。したがって、検討する物質としてこのストックを用いれば、迅速に臨床化することができる有効な抗菌剤を低価格で開発できる。耐性変異株が抵抗性を示す物質は、従来のスクリーニング方法では無用なものとして活用されていなかったものであり、これを活用する点でも、本発明の方法は画期的である。

【0037】
本発明の方法が行う選択は、単独の物質を用いる方法として行ってもよいが、複数の物質を用いるハイコンテンツスクリーニング方法として行ってもよい。ある物質に対して第2の耐性変異株が抵抗性を示すかどうかは、その物質を第2の耐性変異株およびその野生株に投与した後の増殖度に基づき判断することができるが、増殖度は、視覚的に容易に把握することが可能である。したがって、本発明の方法は、ハイコンテンツスクリーニング方法に適している。

【0038】
本発明の方法は、第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質を選択することを特徴とする。後述の実施例において示すモデルによっても明らかなように、ある物質に対して第2の耐性変異株が抵抗性を示すことは、その物質が第1の抗菌剤とは異なる薬剤排出経路によって排出されることの指標としての意義を有する。そして、後述の実施例において明らかになったモデルによれば、ある物質が目的とする抗菌剤と異なる薬剤排出経路によって排出される場合には、その物質は、目的とする抗菌剤に対する耐性変異株に対して抗菌作用を有する可能性が高い。したがって、複数の候補物質の中から、その物質を選択することによって、第1の抗菌剤に対する耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を選択することができる。なお、ここで、物質の候補の選択とは、複数の物質の中から、最適な物質を選択するための絞り込みの手段として、候補物質の数を減らすことの意味を包含する。したがって、選択した化合物の全てが所望の抗菌作用を有しない場合であっても、候補物質の数を減らすことができれば、本発明の目的の効果は得られたといえる。

【0039】
以下、好ましい態様の本発明の方法について説明する。好ましい態様の本発明の方法において、第1の耐性変異株は、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する。

【0040】
薬剤排出ポンプは、細胞内に侵入した生体外物質を細胞外へ排出する膜輸送体である。多くの生物が、様々な薬剤排出ポンプを有することが知られている。薬剤排出ポンプとしては、ABCトランスポーター、主要促進因子スーパーファミリー(Major facilitator super family(MFS))などが挙げられる。これらの薬剤排出ポンプは基質特異性がゆるく、同一ポンプにおいても複数の薬剤が排出される。出芽酵母の薬剤排出ポンプとしては、Azr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1p、Pdr10p、Pdr5p、Pdr15p、Pdr12p、Tpo1pなどが挙げられる。薬剤排出ポンプ遺伝子は、薬剤排出ポンプをコードする遺伝子である。

【0041】
薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子は、薬剤排出ポンプ遺伝子の発現を制御する転写因子である。この転写因子に機能獲得性突然変異(優性の形質)が生じると、発現制御している薬剤排出ポンプ群を恒常的に強発現する。薬剤排出ポンプ群が強発現することで、細胞内に侵入した多種類の薬剤が速やかに細胞外へ排出されて多剤耐性形質を示すこととなる。出芽酵母の場合、この転写因子としては、たとえば、Yrm1p、Yrr1p、Pdr1p、Pdr3pなどが挙げられる。Yrm1pは、たとえば、Azr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1pの発現を制御する。Yrr1pは、たとえば、Azr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1pの発現を制御する。Pdr1pは、たとえば、Snq2p、Yor1p、Pdr5p、Pdr15p、Tpo1pの発現を制御する。Pdr3pは、たとえば、Snq2p、Yor1p、Pdr5p、Pdr15pの発現を制御する。

【0042】
個々の詳細な遺伝子情報、DNA配列、アミノ酸配列は、Saccharomyces GENOME DATABASE(www.yeastgenome.org)などの公知のデータベースにより得ることができる。

【0043】
薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する第1の耐性変異株は、たとえば、公知の方法によって野生株にランダムに突然変異を導入し、その導入された変異株のゲノムの塩基配列を解読し、所望の遺伝子に変異が導入されていた変異株を選択することによって取得することができる。

【0044】
第1の耐性変異株が出芽酵母である場合には、第1の耐性変異株としては、たとえば、以下の表1~3に示すPdr1p、Pdr3p、Yrr1pの変異株が挙げられる。Pdr1pは、1068アミノ酸残基からなる121.8kDaである。Pdr3pは、976アミノ酸残基からなる112.6kDaである。Yrr1pは、810アミノ酸残基からなる92.5kDaである。Pdr1p、Pdr3p、Yrr1pは、いずれも、DNA結合ドメインであるジンク・フィンガー・モチーフを有する。
【表1】
JP2014195452A_000002t.gif
【表2】
JP2014195452A_000003t.gif
【表3】
JP2014195452A_000004t.gif

【0045】
これらの変異株は、複数の抗真菌剤に対して耐性を示す。関連する文献を以下に示す。
Reid, R. J., et al., J. Biol. Chem., 272, 12091-12099, 1997
Kean, L. S., et al., J. Cell Biol., 138, 255-270, 1997
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Mizoguchi, H., et al., J. Biosci. Bioeng., 93, 221-227, 2002
Cui, Z., et al., Mol. Microbiol., 29, 1307-1315, 1998
Zhang, X., et al., J. Biol. Chem., 276, 8812-8819, 2001
Keeven, J., et al., Curr. Genet., 41, 11-19, 2002

【0046】
ポリエンマクロライド系、アゾール系、キャンディン系、または化学発癌剤に属する多くの抗真菌剤に対する耐性変異株としては、たとえば、Pdr1pの変異株、およびPdr3pの変異株が挙げられる。また、サリチル酸系の抗真菌剤に対する耐性変異株としては、たとえば、Yrr1pの変異株、およびYrm1pの変異株が挙げられる。第1の耐性変異株として、Pdr1pの変異株、またはPdr3pの変異株を用いる場合には、多剤耐性菌として臨床上問題となる多くの突然変異株に有効な抗真菌剤を開発することができ、実用性が高い。

【0047】
薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する第1の耐性変異株は、当該転写因子によって制御される薬剤排出ポンプの発現量が向上している変異株、特に、その発現量が常時向上している変異株が好ましい。その場合、本発明の方法が依拠する後述の原理との整合性が高く、より確実に本発明の所望の効果が得られる。薬剤排出ポンプの発現量が向上している変異株は、ランダムに突然変異を導入し、その導入された変異株における薬剤排出ポンプの発現量を公知の方法によって測定し、野生株に比して発現量が向上している変異株を選択することによって取得することができる。

【0048】
別の好ましい態様の本発明の方法において、第2の耐性変異株は、薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子の遺伝子に変異を有する。第2の耐性変異株の例としては、第1の耐性変異株について説明したものが挙げられる。好ましくは、第2の耐性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子は、第1の耐性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプ遺伝子を制御する転写因子と異なる。第1の耐性変異株と第2の耐性変異株の組み合わせとしては、たとえば、第1の耐性変異株としてPdr1pの変異株、またはPdr3pの変異株を用いて、かつ、第2の耐性変異株としてYrr1pの変異株、またはYrm1pの変異株を用いる組み合わせが挙げられる。第2の耐性変異株が、Yrr1pの変異株、またはYrm1pの変異株である場合には、多剤耐性菌として臨床上問題となる多くの突然変異株に有効な抗真菌剤を開発することができ、実用性が高い。

【0049】
別の好ましい態様の本発明の方法は、第1の抗菌剤に対する第1の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補から除外することを含む。

【0050】
第1の感受性変異株は、第1の抗菌剤に対して感受性を示す変異株である。ある変異株およびその変異株の野生株に対して抗菌剤を投与したとき、その変異株の増殖度が野生株に比して低い場合には、その変異株は、その抗菌剤に対して感受性を示すといえる。

【0051】
第1の抗菌剤に対する第1の感受性変異株は、自然発生的な突然変異によって生じたものであってもよい。また、第1の感受性変異株は、公知の方法によって野生株にランダムに突然変異を導入し、その導入された変異株の中から、第1の抗菌剤に対して感受性を示す変異株を選択することによって取得したものであってもよい。

【0052】
第1の感受性変異株の菌の種類としては、前述したものなどが挙げられる。後述のように、本発明の方法が依拠する原理は、第1の耐性変異株の野生株と第1の感受性変異株の野生株が共通の薬剤耐性排出経路を有することを前提とする。したがって、本発明の方法の原理に基づく高い効果を得る観点から、第1の耐性変異株と第1の感受性変異株は、同一の野生株に由来することが好ましい。

【0053】
この好ましい態様の本発明の方法は、第1の感受性変異株が感受性を示す物質を候補から除外することを含む。第1の感受性変異株およびその野生株に対してある物質を投与した場合において、第1の感受性変異株が野生株よりも低い増殖度を示す場合には、投与したその物質は、第1の耐性変異株が感受性を示す物質であるということができる。

【0054】
後述のモデルによれば、薬剤排出ポンプを制御する転写因子は、複数の薬剤排出ポンプを制御し、かつ、薬剤排出ポンプを制御する転写因子には重複がありうるため、第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質であっても、第1の耐性変異株において活性化している薬剤排出ポンプによって排出されることがありうる。このような転写因子の重複のために、本発明の方法によって第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質を取得しても、所望の効果が得られない場合がある。第1の感受性変異株が感受性を示す物質を除外することによって、薬剤排出経路の活性化の重複に伴う偽陽性の物質を除外することができ、より高い精度で候補を絞り込むことができる。

【0055】
第1の感受性変異株が、薬剤排出ポンプに変異を有する場合には、後述するモデルに一層合致し、本発明の方法の原理に一層適合するため、候補を絞り込む精度が一層高い。第1の感受性変異株における薬剤排出ポンプの変異としては、たとえば、薬剤排出ポンプの機能低下型変異が挙げられる。機能低下型変異は、野生型に比して遺伝子の機能が低下している変異である。機能低下型変異としては、機能を欠損した変異である機能欠損変異などが挙げられる。遺伝子全体を欠失した変異は、機能欠損変異の一例である。

【0056】
たとえば、第1の感受性変異株は、1又は複数の株であってもよく、各々の株が1又は複数の種類の薬剤排出ポンプに変異を有していてもよい。たとえば、各第1の感受性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプは、第1の耐性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプを制御する転写因子と同じ転写因子によって制御されるものであってもよい。第1の耐性変異株、第2の耐性変異株、および第1の感受性変異株の組み合わせとしては、たとえば、第1の耐性変異株が、Pdr1pの変異株、またはPdr3pの変異株であり、第2の耐性変異株が、Yrr1pの変異株、またはYrm1pの変異株であり、第1の感受性変異株が、Pdr5pの変異株、Snq2pの変異株、Yor1pの変異株、および/またはPdr15pの変異株である場合が挙げられる。

【0057】
別の好ましい態様の本発明の方法は、第2の抗菌剤に対する第2の感受性変異株が、ある物質に対して感受性を示す場合に、前記物質を前記候補として選択することを含む。

【0058】
第2の感受性変異株は、第2の抗菌剤に対して感受性を示す変異株である。ある変異株およびその変異株の野生株に対して抗菌剤を投与したとき、その変異株の増殖度が野生株に比して低い場合には、その変異株は、その抗菌剤に対して感受性を示す変異株ということができる。

【0059】
第2の感受性変異株は、自然発生的な突然変異によって生じたものであってもよい。また、第2の感受性変異株は、公知の方法によって野生株にランダムに突然変異を導入し、その導入された変異株の中から、第2の抗菌剤に対して感受性を示す変異株を選択することによって取得したものであってもよい。

【0060】
第2の感受性変異株の菌の種類としては、前述のものなどが挙げられる。後述のモデルから明らかなように、本発明の方法が依拠する原理は、第1の耐性変異株の野生株と第2の感受性変異株の野生株が共通の薬剤耐性排出経路を有することを前提とする。したがって、本発明の方法の原理に基づく高い効果を得る観点から、第1の耐性変異株と第2の感受性変異株は、同一の野生株に由来することが好ましい。

【0061】
第2の感受性変異株が感受性を示す物質の選択は、第2の感受性変異株およびその野生株に対してある物質を投与した結果、第2の感受性変異株が野生株よりも低い増殖度を示す場合に、投与したその物質を選択することによって行うことができる。

【0062】
後述のモデルによれば、薬剤排出ポンプを制御する転写因子は、複数の薬剤排出ポンプを制御し、かつ、薬剤排出ポンプを制御する転写因子には重複がありうるため、第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質であっても、第1の耐性変異株において活性化している薬剤排出ポンプによって排出されることがありうる。このような転写因子の重複のために、本発明の方法によって第2の耐性変異株が抵抗性を示す物質を取得しても、所望の効果が得られない場合がある。第2の感受性変異株が感受性を示す物質を選択することによって、薬剤排出経路の活性化の重複に伴う偽陽性の物質を除外することができ、より高い精度で候補を絞り込むことができる。

【0063】
別の好ましい態様の本発明の方法において、第2の感受性変異株は、薬剤排出ポンプ遺伝子に変異を有する。第2の感受性変異株が、薬剤排出ポンプに変異を有する場合には、後述するモデルに一層合致し、本発明の方法の原理に整合するため、候補を絞り込む精度が高い。第2の感受性変異株における薬剤排出ポンプの変異としては、たとえば、薬剤排出ポンプの機能低下型変異が挙げられる。機能低下型変異とは、野生型に比して、遺伝子の機能が低下している変異をいう。機能低下型変異は、機能を欠損した変異である機能欠損変異を含む。遺伝子全体を欠失した変異は、機能欠損変異の一例である。

【0064】
たとえば、第2の感受性変異株は、1又は複数の株であってもよく、各々の株が1又は複数の種類の薬剤排出ポンプに変異を有していてもよい。たとえば、各第2の感受性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプは、第2の耐性変異株において変異を有する薬剤排出ポンプを制御する転写因子と同じ転写因子によって制御されるものであってもよい。たとえば、第1の耐性変異株、第2の耐性変異株、および第2の感受性変異株の組み合わせとしては、第1の耐性変異株が、Pdr1pの変異株、またはPdr3pの変異株であり、第2の耐性変異株が、Yrr1pの変異株、またはYrm1pの変異株であり、第2の感受性変異株が、Sng1pの変異株、Azr1pの変異株、および/またはFlr1pの変異株である場合などが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
実験手法:
以下の実施例において、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の分子遺伝学的実験手法は、以下の実験書に基づいて行った。
・D.C.Amberg,D.J.Burke,and J.N.Strathern,Methods in yeast genetics:a Cold Spring Harbor Laboratory course manual,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 2005.
・水野貴之、バイオ実験イラストレイテッド7 使おう酵母 できるTwo Hybrid、秀潤社.
また、分子生物学実験の各種方法は、以下のマニュアルを用いて行った。
・J.Sambrook,E.F.Fritsch,and T.Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1989.
【実施例】
【0067】
試験例1.出芽酵母変異株の入手:
yrr1-52株(YRR1突然変異による多剤耐性株)、pdr1-3株(PDR1突然変異による多剤耐性株)、pdr3-11株(PDR3突然変異による多剤耐性株)、sng1欠損株(薬剤排出ポンプ欠損株)、pdr5欠損株(薬剤排出ポンプ欠損株)、snq2欠損株(薬剤排出ポンプ欠損株)、およびyor1欠損株(薬剤排出ポンプ欠損株)を以下のようにして入手した。これらは、いずれも、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のBY4742株の派生株である。
【実施例】
【0068】
(1)BY4742株:
BY4742株は、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト[National Bio-Resource Project(NBRP)]「酵母」より購入した。
【実施例】
【0069】
(2)sng1欠損株、pdr5欠損株、snq2欠損株、yor1欠損株:
sng1欠損株、pdr5欠損株、snq2欠損株、yor1欠損株は、Open Biosystems,Inc.(USA)より購入した。
【実施例】
【0070】
(3)yrr1-52株、pdr1-3、pdr3-11株:
YCplac111(NBRPより購入)プラスミドに各々の突然変異型遺伝子を連結した各構築物を、各遺伝子欠損酵母株(yrr1欠損株、pdr1欠損株、pdr3欠損株)に導入して、上記の突然変異株を得た。なお、yrr1欠損株、pdr1欠損株、pdr3欠損株は、Open Biosystems,Inc.(USA)より購入した(これらは全てBY4742派生株である)。変異導入用の各構築物の構築方法を以下に記す。
【実施例】
【0071】
a.YCplac111にyrr1-52突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp-yrr1-52):
「バイオ実験イラストレイテッド 7 使おう酵母できる Two Hybrid」に記すガラス・ビーズを用いたゲノムDNA抽出法により、突然変異を有するKinSal052株(論文未発表)からゲノムDNAを抽出した。なお、KinSal052株は、Yrr1pの616番目のSerがPheに置換する変異有する。このDNAを鋳型にして、PCRを行うことにより、突然変異yrr1コード領域とその上流・下流を含むDNAを増幅した。使用したプライマーは、5’-AATGGATCCTACTGGCAGAAATCATAGTG-3’(配列番号1)と5’-AACGGATCCAGTGGGCTTGCCAAAATCT-3’(配列番号2)である。これらのプライマーの5’末端側には制限酵素BamHI認識配列を付加した。東洋紡のKOD-FX DNAポリメラーゼを用いて、その添付文書に記す通りにPCR反応を行い、PCR反応溶液を作製した。PCR反応は、アプライドバイオシステムズのGeneAmp PCR System 2400を用いた。PCRプログラムは、95℃2分に続き、95℃30秒と55℃30秒と68℃3分を30サイクル行った。反応終了後、反応溶液をキアゲン社の「QIAquick PCR Purification Kit」を用いて増幅断片の精製を行った。増幅断片とベクターは制限酵素BamHIで消化を行い、実験マニュアルに記すようにライゲーションと大腸菌に形質転換を行うことにより、構築物(YCp-yrr1-52)を得た。本構築物のyrr1欠損株への導入は、実験書に記す酢酸リチウム法により行った。そして、YCplac111プラスミドのロイシン要求性マーカーを指標にして組換え体を選択し、yrr1-52株を取得した。
【実施例】
【0072】
b.YCplac111にpdr1-3突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp-pdr1-3):
本構築物もYCp-yrr1-52の場合と同様の方法によって取得した。pdr1-3株は、Pdr1pの815番目のアミノ酸がPheからSerに置換した変異株である。以下、YCp-yrr1-52の場合との変更点を記す。PCRに使用したゲノムDNAは、BY4742株から取得した。このDNAを鋳型にして、まず野生型PDR1遺伝子を増幅した。使用したプライマーは、フォワード・プライマーが5’-AAATGGATCCTGGAAACCCGATCAGCATAC-3’(配列番号3)であり、この5’末端側には制限酵素BamHIの認識配列を新たに付加した。そして、リバース・プライマーは5’-ATTTAGTCGACGTTTCGGAGCCAATGATTCT-3’(配列番号4)であり、これも5’末端側に制限酵素SalIの認識配列を新たに付加した。PCR反応は上記と同様に行い精製を行った。プラスミドへの連結も使用した制限酵素以外は同様に行い、大腸菌に形質転換を行うことにより、野生型PDR1構築物を作製した(YCp-pdr1)。つづいて突然変異型pdr1遺伝子を作製するために、上記構築物YCp-PDR1を鋳型にしてPCRを行った。それに用いたリン酸基を付加したプライマーは、フォワード・プライマーが5’-CCTGACAATCGTCACTCGTA-3’(配列番号5)であり、リバース・プライマーが5’-GAAGAAAAAGCTCTTGTATA-3’(配列番号6)である。PCR条件も上記と基本的に同様であるが、プログラムを以下の通りとした。すなわち、94℃で2分のあと、94℃30秒と55℃30秒と68℃11分を30サイクル行った。反応溶液を精製後、増幅産物のみを用いてセルフ・ライゲーション(自己環状化)を行って、大腸菌に形質転換を行うことで、構築物(YCp-pdr1-3)を得た。
【実施例】
【0073】
c.YCplac111にpdr3-11突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp-pdr3-11):
本構築物はYCp-pdr1-3と同様に、2段階のPCRにより作製した。pdr3-11株は、Pdr3pの957番目のアミノ酸がGlyからAspに置換した変異株である。一回目のPCRは、BY4742株のゲノムDNAを鋳型にして、フォワード・プライマー(5’-AAAAGGATCCGCTGGCGTGGCACATAACTG-3’[配列番号7])とリバース・プライマー(5’-AAATTGTCGACTTCCTCATTCCGTTTTATAT-3’[配列番号8])を用いて増幅を行った。これらのプライマーにも制限酵素BamHIとSalIの認識配列を新たに付加した。二回目のPCRには、一回目のPCRに基づき構築されたYCp-pdr3を鋳型に、フォワード・プライマー(5’-TGACCTGACTGATTTATATC-3’[配列番号9])とリバース・プライマー(5’-TCACTGCTGACAAACTCCTC-3’[配列番号10])を用いて増幅を行った。この増幅産物をセルフ・ライゲーションし、大腸菌に形質転換することにより、構築物(YCp-pdr3-11)を得た。
【実施例】
【0074】
実施例1.出芽酵母の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)1:
試験例1によって入手した酵母を用いて、以下のようにして薬剤感受性試験を行った。
(1)酵母終夜培養希釈液の調製:
a. 出芽酵母BY4742野生株と試験例1で得たその派生変異株を、クリーンベンチ内でYPD固形培地に植菌した。培地を30℃に設定した培養器内で3日程度保温して、コロニーを形成させた。次に、クリーンベンチ内で、各々の株のコロニーを一つ滅菌した竹串でかきとり、試験管内の1mlのYPD液体培地に移植した。その試験管を同様に30℃の培養器内で24時間以上振とう培養を行った。
b. 培養が終了した試験管を用いて、クリーンベンチ内で以下の操作を行った。まず、滅菌したサンプルチューブに0.9mlのYPD液体培地を加え、それを一株につき5本用意した。良く撹拌した液体培養から0.1mlをマイクロピペットで取り出し、用意した一本のチューブに加えて混合した。この操作により、10倍希釈液を作製した。さらに、この希釈液から0.1ml取り出し、新しいチューブへ移し混合することで、さらに原液の100倍希釈液を作製した。この操作を繰り返して、最終的に5本の希釈系列(10倍、100倍、・・・)を各株で作製した。
【実施例】
【0075】
(2)薬剤を含有するYPD固形培地の作製:
目的の薬剤を含有する試験用固形培地は、以下のようにして作製した。サリチル酸および4-ニトロキノリン1-オキシド(4-NQO)は和光純薬より、ケトコナゾール、ミコナゾール、およびフルコナゾールは東京化成工業より購入した。各々の抗真菌剤をDMSOで溶解したストック溶液を作製した。メディウム瓶にYPDと最終濃度2%になるように寒天末を加えて、オートクレーブ滅菌を行った。終了後、培地はウォーター・バスで65℃に保温した。クリーンベンチ内で、30mlの培地を滅菌ピペットで取り出し、滅菌済のカップへ移した。そこへ、目的の最終濃度となるように、薬剤のストック溶液をマイクロピペットを用いて加えて、十分に混合を行った。そして、滅菌シャーレに本液体を注ぎ、クリーンベンチ内で固化させると共に十分に乾燥を行った。
【実施例】
【0076】
(3)スポット・アッセイの実施:
各種薬剤を含む固形培地をクリーンベンチ内に並べて、各株の液体培養の希釈系列をスポットした。スポットする際は、液体培養の入ったチューブを十分に攪拌したのち、マイクロピペットで10μlずつ固形培地の数ミリ上方から培地上に滴下を行った。全ての培養希釈系列を滴下して乾燥を行い、シャーレのふたをして、30℃の培養器で2日間培養を行った。コロニー形成したシャーレは、野生株、多剤耐性株、排出ポンプ遺伝子欠損株の生育状況を観察するとともに、写真撮影を行った。なお、対照実験としては、薬剤を含まないYPD固形培地を用いた。
【実施例】
【0077】
結果を図1に示す。図1C~Fに示すように、pdr1-3株およびpdr3-11株は、4-NQO、ケトコナゾール、ミコナゾール、およびフルコナゾールを含む培地において、出芽酵母BY4742野生株よりも、高い増殖度を示した。このことから、pdr1-3株およびpdr3-11株は、4-NQO、ケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾールなどの多数の薬剤に対して耐性を示す多剤耐性真菌であることがわかる。
【実施例】
【0078】
図1Bと図1Aとの比較から、サリチル酸は、出芽酵母BY4742野生株の増殖を低下させる作用を有することがわかる。図1Bに示すように、多剤耐性菌であるpdr1-3株およびpdr3-11株は、サリチル酸を含む培地上において、出芽酵母BY4742野生株と同程度にしか増殖しなかった。このことから、サリチル酸は、多剤耐性真菌であるpdr1-3株およびpdr3-11株を、野生株と同程度に殺傷する抗真菌作用を有し、多剤耐性真菌に対して有効であることがわかる。
【実施例】
【0079】
試験例2.Yrr1p、Pdr1p、Pdr3p、Sng1p、Pdr5p、Snq2p、Yor1p、Azr1p、Flr1p、およびPdr15pの作用機序の解析:
Yrr1p、Pdr1p、Pdr3p、Sng1p、Pdr5p、Snq2p、Yor1p、Azr1p、Flr1p、およびPdr15pの作用機序を検討すべく、yrr1-52株、pdr1-3株、およびpdr3-11株におけるSng1p、Pdr5p、Snq2p、Yor1p、Azr1p、Flr1p、およびPdr15pの各種の薬剤排出ポンプの遺伝子発現量をリアルタイムPCRの方法によって定量的に調べた。各酵母株をYPD液体培地中で対数増殖期まで培養を行い、得られた菌体からニッポンジーン社のISOGENを用いて全RNA抽出を行い、東洋紡社のReverTra Aceを用いて逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAは、遺伝子特異的プライマーと東洋紡社のTHUNDERBIRD qPCR Mixを用いてPCR反応を行い、アプライドバイオシステムズ社のABI7700遺伝子解析装置により、アクチン遺伝子を内部標準にして定量を行った。測定結果を表4に示す。
【表4】
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【実施例】
【0080】
表4に示すように、yrr1-52株においては、AZR1yrr1-52株/野生株=23.38/0.78)、SNG1yrr1-52株/野生株=10.54/1.17)、FLR1yrr1-52株/野生株=3.47/0.82)、SNQ2yrr1-52株/野生株=3.95/1.02)、およびYOR1yrr1-52株/野生株=2.57/0.74)の発現量が、野生株に比して亢進していた。一方で、yrr1-52株において、PDR5yrr1-52株/野生株=1.23/1.18)とPDR15yrr1-52株/野生株=1.18/0.99)の発現量の変化は観察されなかった。pdr1-3株、およびpdr3-11株においては、SNQ2pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=5.79/2.73/1.02)、YOR1pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=14.39/1.93/0.74)、PDR5pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=18.98/12.97/1.18)、およびPDR15pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=2.81/16.04/0.99)の発現量が、野生株に比して亢進していた。しかし、両株では、AZR1pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=1.40/1.26/0.78)、SNG1pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=1.20/1.01/1.17)、およびFLR1pdr1-3株/pdr3-11株/野生株=1.57/1.15/0.82)の発現量の亢進は観察されなかった。
【実施例】
【0081】
この結果と図1A~Fの結果を合わせると、以下のように考察することができる。
まず、サリチル酸に関しては、図1Bの結果に基づき以下のように考察することができる。
(1)サリチル酸の排出ポンプはSng1pであるので、sng1欠損株ではサリチル酸に対して感受性を示す(図1Bのsng1Δ参照)。
(2)Yrr1pは、SNG1の発現制御を行うので、その突然変異株であるyrr1-52株はSng1pを強発現することで、サリチル酸に対して抵抗性を示す(図1Bのyrr1-52参照)。
(3)Pdr1pとPdr3pはSNG1の発現制御を行わないので、それらの突然変異株であるpdr1-3株、およびpdr3-11株はSng1pが強発現しない。そのため、pdr1-3株、およびpdr3-11株は、サリチル酸に対して野生株と同等の感受性を示す(図1Bのpdr1-3およびpdr3-11参照)。
【実施例】
【0082】
アゾール系の代表的な抗真菌剤であるケトコナゾール、ミコナゾール、およびフルコナゾールに関しては、図1D~Fの結果に基づき以下のように考察することができる。
(1)これらはPdr5pによって排出されるので、pdr5欠損株は、これらの抗真菌剤に高い感受性を示す(図1D~Fのpdr5Δ参照)。
(2)Pdr5pは、Pdr1pとPdr3pにより発現制御されるので、それらの突然変異株であるpdr1-3株、およびpdr3-11株では、Pdr5pが強発現する。したがって、pdr1-3株、およびpdr3-11株は、これらの抗真菌剤に抵抗性を示す(図1D~Fのpdr1-3およびpdr3-11参照)。
(3)Yrr1pはPdr5pの発現制御を行わないので、その突然変異株であるyrr1-52株は、これらの抗真菌剤に対して野生株と同等の感受性を示す(図1D~Fのyrr1-52参照)。
【実施例】
【0083】
化学発癌剤である4-ニトロキノリン1-オキシド(4-NQO)に関しては、図1Cの結果に基づき以下のように考察することができる。
(1)4-NQOは排出ポンプSnq2pにより排出されるので、snq2欠損株は、4-NQOに対して強感受性を示す(図1Cのsnq2Δ参照)。
(2)Snq2pは、Yrr1p、Pdr1p、およびPdr3pのいずれによっても発現制御されるので、これらの突然変異株であるyrr1-52株、pdr1-3株、およびpdr3-11株の全てにおいて、Snq2pが強発現する。そのため、yrr1-52株、pdr1-3株、およびpdr3-11株の全てが、4-NQOに対して抵抗性を示す(図1Cのyrr1-52、pdr1-3、およびpdr3-11参照)。
【実施例】
【0084】
以上の実験結果の考察を整合的に説明するモデルを図2に提示する。図2のモデルを以下に説明する。図2のモデルにおいて、Yrr1p、Pdr1p、およびPdr3pは、転写因子である。Azr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1p、Pdr5p、およびPdr15pは、薬剤排出ポンプである。薬剤排出ポンプと転写因子を結ぶ矢印は、その薬剤排出ポンプの発現量が、その転写因子によって制御されていることを示している。図2のモデルにおいては、薬剤排出ポンプと排出薬剤とが矢印によって結ばれている。これは、その排出薬剤が、その薬剤排出ポンプによって特異的に排出されることを示している。なお、転写因子Yrm1pとその制御ポンプについて(J Biol Chem. 2003 Dec 26;278(52):52641-50)、および薬剤排出ポンプYor1pとその排出薬剤オリゴマイシンについて(Mol Cell Biol. 1995 Dec;15(12):6875-83)は、すでに知られている情報に基づく。
【実施例】
【0085】
以上のモデルと実験結果をもとにして、以下のように考察することができる。
(1)排出ポンプ遺伝子群は、上流の転写因子により厳密に発現制御を受けている。
(2)各々の転写因子は、転写調節する下流遺伝子群が決まっているが、それらは他の転写因子の制御遺伝子群とかなり共通している。
(3)各転写因子に優性の突然変異が生じると、恒常的に下流の排出ポンプ群の遺伝子が強発現する。
(4)その結果、それらの変異株では、恒常的に強発現された排出ポンプ群により、多剤耐性が引き起こされる。
(5)薬剤耐性といっても、突然変異が生じる転写因子により、抵抗性が高まる薬剤は異なる。たとえば、ケトコナゾールなどのアゾール系抗真菌剤やその他の抗真菌剤(キャンディン系)は、転写因子Pdr1pやPdr3pの制御下で、排出ポンプPdr5pにより排出される。サリチル酸は、転写因子Yrr1pやYrm1pの制御下で、排出ポンプSng1pにより排出される。4-NQOおよびオリゴマイシンは、転写因子Yrr1p、Yrm1p、Pdr1およびPdr3pの制御下で、それぞれ排出ポンプSnq2pおよびYor1pにより排出される。
(6)薬剤排出ポンプと、その薬剤排出ポンプによって排出される薬剤との間には、特異的な関係がある。ある薬剤を排出する薬剤排出ポンプの種類は、その薬剤の種類に応じて異なる。
【実施例】
【0086】
以上をもとにすれば、図1Bにおいて、yrr1-52株がサリチル酸に対して抵抗性を示し、サリチル酸がpdr1-3株およびpdr3-11株などの多剤耐性変異株に対して抗菌作用を示したことの原因は、サリチル酸がpdr1-3株およびpdr3-11株において活性化している薬剤排出経路(特に、薬剤排出ポンプ)とは異なる経路によって排出されることにあると説明することができる。これを敷衍すると、目的とする抗菌剤に対して耐性を示す変異株に対して抗菌作用を有する化合物を取得するためには、目的とする抗菌剤とは異なる薬剤排出経路によって排出される薬剤を選択すればよいことがわかる。また、以上のモデルおよび実験結果から、目的とする抗菌剤と異なる抗菌剤に対する耐性変異株が特定の物質に対して抵抗性を示すことは、その物質が目的とする抗菌剤とは異なる薬剤排出経路によって排出されることの指標となりうることもわかる。
【実施例】
【0087】
実施例2.出芽酵母の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法)2:
試験例1によって入手した酵母を用いて、実施例1と同様にして薬剤感受性試験を行った。但し、薬剤を含有するYPD固形培地の作製には、4-ニトロキノリン1-オキシド(4-NQO)(和光純薬)、ケトコナゾール(東京化成工業)、ミコナゾール(東京化成工業)、フルコナゾール(東京化成工業)、5-フルシトシン(和光純薬)、カスポファンギン(シグマアルドリッチ)、アムホテリシンB(和光純薬)、イトラコナゾール(和光純薬)、クロトリマゾール(和光純薬)、イソコナゾール(東京化成工業)、ボリコナゾール(東京化成工業)、ブテナフィン(東京化成工業)、テルビナフィン(東京化成工業)、マンコゼブ(和光純薬)、ベノミル(和光純薬)、リベロマイシンA(和光純薬)、セルレニン(東京化成工業)、アルテスナート(東京化成工業)、およびシクロヘキシミド(和光純薬)を用いた。
【実施例】
【0088】
結果を図3に示す。図3に示すように、pdr1-3株およびpdr3-11株は、4-NQO、ケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾール、クロトリマゾール、イソコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、テルビナフィン、ベノミル、リベロマイシンA、セルレニン、アルテスナート、およびシクロヘキシミドを含む培地において、出芽酵母BY4742野生株よりも、高い増殖度を示した。このことから、pdr1-3株およびpdr3-11株は、4-NQO、ケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾール、クロトリマゾール、イソコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、テルビナフィン、ベノミル、リベロマイシンA、セルレニン、アルテスナート、シクロヘキシミドなどの多数の薬剤に対して耐性を示す多剤耐性真菌であることがわかる。
【実施例】
【0089】
アゾール系の抗真菌剤であるケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、クロトリマゾール、イソコナゾール、およびボリコナゾール、アゾール系抗真菌剤と同様にエルゴステロールの生合成を阻害するブテナフィンおよびテルビナフィン、ならびにセルレニン、アルテスナート、およびシクロヘキシミドに関しては、図3の結果に基づき以下のように考察することができる。
(1)これらの抗真菌剤はPdr5pによって排出されるので、pdr5欠損株はこれらの抗真菌剤に対して高い感受性を示した(図3のpdr5Δ参照)。
(2)Pdr5pは、Pdr1pとPdr3pにより発現制御されるので、突然変異株pdr1-3株およびpdr3-11株では、Pdr5pが強発現する。したがって、pdr1-3株およびpdr3-11株は、これらの抗真菌剤に対して抵抗性を示した(図3のpdr1-3およびpdr3-11参照)。
(3)Yrr1pはPdr5pの発現制御を行わないので、その突然変異株であるyrr1-52株は、これらの抗真菌剤に対して野生株と同等の感受性を示した(図3のyrr1-52参照)。
【実施例】
【0090】
4-NQOおよびベノミルに関しては、図3の結果に基づき以下のように考察することができる。
(1)これらの薬剤は、排出ポンプSnq2pにより排出されるので、snq2欠損株は、これらの薬剤に対して強感受性を示した(図3のsnq2Δ参照)。
(2)Snq2pは、Yrr1p、Pdr1p、およびPdr3pのいずれによっても発現制御されるので、これらの突然変異株であるyrr1-52株、pdr1-3株、およびpdr3-11株の全てにおいて、Snq2pが強発現する。そのため、yrr1-52株、pdr1-3株、およびpdr3-11株の全てが、これらの薬剤に対して抵抗性を示した(図3のyrr1-52、pdr1-3、およびpdr3-11参照)。
【実施例】
【0091】
リベロマイシンAに関しては、Yor1pにより排出されるので、Yor1pを強発現するyrr1-52株およびpdr1-3株がこれら薬剤に対して耐性を示した(図3参照)。
【実施例】
【0092】
アムホテリシンBに対しては、pdr1-3株およびpdr3-11株が耐性を示し、yrr1-52株は野生株と同等の感受性を示した。しかし、供試した薬剤排出ポンプ欠損株群も野生株と同等の感受性を示した。したがって、アムホテリシンBは、pdr1-3株およびpdr3-11株において発現が亢進された未同定の薬剤排出ポンプにより排出がされていると考えられる。
【実施例】
【0093】
5-フルシトシン、カスポファンギン、マンコゼブに関しては、pdr1-3株、pdr3-11株、およびyrr1-52株のいずれにおいても、野生株と同等の感受性が示された。したがって、これらの多剤耐性変異株では、これらの薬剤を排出するポンプが亢進していないか、またはこれらの薬剤を排出できるポンプが存在していないと考えられる。
【実施例】
【0094】
実施例1および実施例2の実験結果の考察を整合的に説明するモデルを図4に提示する。図4のモデルにおいて、転写因子Yrm1p、Yrr1p、Pdr1p、およびPdr3pの下流に、Sng1p、Azr1p、Flr1p、Snq2p、Yor1p、Pdr5p、Pdr15p、および2つの未同定の薬剤排出ポンプが示され、その下に排出薬剤が例示される。薬剤排出ポンプと転写因子を結ぶ矢印は、その薬剤排出ポンプの発現量が、その転写因子によって制御されていることを示している。薬剤排出ポンプと排出薬剤とを結ぶ矢印は、その排出薬剤が、その薬剤排出ポンプによって特異的に排出されることを示している。
【実施例】
【0095】
以上の実験結果から、現在使用されている抗真菌剤、特に深在性真菌症治療の治療に使用されている抗真菌剤の多くがPdr1pおよび/またはPdr3pによって制御される薬剤排出ポンプで排出されることが分かった。したがって、本発明の方法によれば、このような主要な抗真菌剤に対する耐性変異株に対して抗菌作用を有する物質の候補を得るには、Pdr1pおよび/またはPdr3pによって制御されない薬剤排出経路(特に、薬剤排出ポンプ)によって排出される薬剤を選択すればよい。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3-1】
2
【図3-2】
3
【図3-3】
4
【図4】
5