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明細書 :海洋バイオマスからのエタノール生産

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4845070号 (P4845070)
登録日 平成23年10月21日(2011.10.21)
発行日 平成23年12月28日(2011.12.28)
発明の名称または考案の名称 海洋バイオマスからのエタノール生産
国際特許分類 C12P   7/06        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12P 7/06 ZNA
C12N 1/21
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 31
出願番号 特願2010-550772 (P2010-550772)
出願日 平成22年8月25日(2010.8.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会 大会講演要旨集 社団法人日本農芸化学会発行 第98頁に発表
国際出願番号 PCT/JP2010/064383
国際公開番号 WO2011/024858
国際公開日 平成23年3月3日(2011.3.3)
優先権出願番号 2009198972
優先日 平成21年8月28日(2009.8.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月24日(2010.12.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】507254894
【氏名又は名称】株式会社 マルハニチロホールディングス
発明者または考案者 【氏名】村田 幸作
【氏名】橋本 渉
【氏名】河井 重幸
【氏名】織田 浩司
【氏名】庵原 啓司
【氏名】三上 文三
【氏名】竹田 浩之
【氏名】米山 史紀
【氏名】落合 秋人
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 特表2009-529905(JP,A)
特表平06-505875(JP,A)
特表平05-502366(JP,A)
日本農芸化学会関西支部講演会講演要旨集, 2008, Vol.454, p10
日本農芸化学会関西支部講演会講演要旨集, 2008, Vol.454, p9
ビタミン, 2009, Vol.83, No.4, p.225
バイオニクス, 2006, Vol.3, No.4, p.70-71
調査した分野 C12P 7/00-7/66
C12N 15/00-15/90
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
アルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素であるABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼを有するSphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換Sphingomonas sp. A1株を、アルギン酸を含む培地中で培養することを含む、アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法であって、培養3日目から培養液100mL当たり一日一回1gのアルギン酸またはアルギン酸オリゴを培地中に追加し、さらに、5~7日目まで培養することにより、培地中に0.7%(w/v)以上のエタノールが蓄積し得る、方法
【請求項2】
形質転換Sphingomonas sp. A1株がさらに以下の(i)~(iii)の特性の少なくとも一つの特性を有する、請求項1に記載のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法:
(i) Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する;
(ii) Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子が多数コピー導入されている;及び
(iii) NADH再生系酵素であるギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が共存している。
【請求項3】
形質転換Sphingomonas sp. A1株において、さらに乳酸合成に関する遺伝子がノックアウトされている、請求項1または2に記載のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【請求項4】
固定化した形質転換Sphingomonas sp. A1株を用いる、請求項1~のいずれか1項に記載のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【請求項5】
アルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素であるABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼを有するSphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換Sphingomonas sp. A1株である、培養3日目から培養液100mL当たり一日一回1gのアルギン酸またはアルギン酸オリゴを培地中に追加し、さらに、5~7日目まで培養することにより、培地中に0.7%(w/v)以上のエタノールが蓄積し得る、アルギン酸を原料としてエタノールを生産し得る微生物。
【請求項6】
さらに以下の(i)~(iii)の特性の少なくとも一つの特性を有する、請求項記載の微生物:
(i) Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する;
(ii) Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子が多数コピー導入されている;及び
(iii) NADH再生系酵素であるギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が共存している。
【請求項7】
さらに乳酸合成に関する遺伝子がノックアウトされている、請求項5または6に記載の微生物。
【請求項8】
アルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素であるABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼを有するSphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入し、Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する形質転換Sphingomonas sp. A1株を、アルギン酸を含む培地中で培養することを含む、アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【請求項9】
アルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素であるABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼを有するSphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換Sphingomonas sp. A1株であZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する、アルギン酸を原料としてエタノールを生産し得る微生物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
海域由来のバイオマス、とりわけ褐藻類に多量含有される多糖アルギン酸からのエタノール生産を可能ならしめる技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
ホンダワラ類等の褐藻は大量増殖が可能であり、かつ食糧資源と競合しないことからバイオ燃料への生産原料として期待されている。しかし、褐藻の主要成分は乾燥藻体の約30~60%含まれるアルギン酸(酸性多糖)である。これまでの研究では、その利用は主に褐藻中のセルロースに焦点があたっており、主成分であるアルギン酸(ウロン酸(主鎖の末端(6位)がカルボキシル化された糖)からなる多糖)のエタノールへの変換法は確立されていなかった。
【0003】
アルギン酸からエタノールを生産させる技術はこれまで検討されており、体腔形成細菌Sphingomonas sp. A1株(以下A1株)が、アルギン酸から極微量のエタノールを生産することが報告されている(非特許文献1を参照)。しかし、A1株のエタノール生産性は、極めて微量であり、商業ベースでの生産・事業化は極めて困難である。
【0004】
アルギン酸からのエタノールの代謝経路はこれまである程度明らかにされており、A1株においては、アルギン酸をエンド型とエキソ型リアーゼにより単糖(α-ケト酸)にまで分解し、α-ケト酸還元酵素により2-keto-3-deoxy-D-gluconate (KDG)に変換し、酵素A1-K(キナーゼ)とA1-A(アルドラーゼ)による反応でピルビン酸に変換されることが推定されている(非特許文献2を参照)。ピルビン酸は、好気的条件下においては主にTCA回路に入りATP(エネルギー源)の生産に利用されるが、微好気環境下においてエタノールを生産するものである。
【0005】
ウロン酸(単糖)からピルビン酸へ至る経路に関しては、Pseudomonas属細菌でも報告されており、α-ケト酸還元酵素の存在が報告されている(非特許文献3及び4を参照)。また、2-keto-3-deoxy-D-gluconate (KDG)の代謝に関する酵素群(KDG-キナーゼ、KDG-アルドラーゼ)やそれら遺伝子は大腸菌で明らかにされている(http://www.genome.jp/dbget-bin/get_pathway?org_name=eco&mapno=00040)。
【0006】
一方、強力なエタノール生産能を持つ細菌として、グラム陰性細菌Zymomonas mobilis(アルギン酸資化能はない)が知られており、グルコース、フルクトース、スクロースから酵母の2.5倍という高効率でエタノール生産を行うことが報告されている。また、Zymomonas mobilis由来ピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素を大腸菌に組み込み、グルコースからエタノールを生産させる技術について報告されている(特許文献1を参照)。この株はKO11(ATCC55124)株として現在、セルロース系バイオマスからのバイオエタノール生産に工業利用されている。また、大腸菌以外のグラム陰性菌(Erwinia、Klebsiella、Xanthomonas)に組み込むことも報告されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特表平5-502366号公報
【特許文献2】特表平6-505875号公報
【0008】

【非特許文献1】落合秋人ら,「細菌によるアルギン酸からのエタノール生産:アルギン酸糖化産物(α-ケト酸)還元酵素の分子同定」,日本農芸化学会関西支部第454回講演会要旨集,発表番号9(2008)
【非特許文献2】高瀬隆一ら,「細菌によるアルギン酸からのエタノール生産:アルギン酸糖化産物(α-ケト酸)還元酵素の分子同定」,日本農芸化学会関西支部第454回講演会要旨集,発表番号10(2008)
【非特許文献3】Preiss, J., and Ashwell, G. (1962) J. Biol. Chem. 237, 309-316
【非特許文献4】Preiss, J., and Ashwell, G. (1962) J. Biol. Chem. 237, 317-321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilis等の細菌が有する強力なエタノール生産能を利用した、褐藻類に多量含有される多糖アルギン酸からのエタノール生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
エタノール生産に関する酵素をアルギン酸資化能を有する微生物の中に組み込み、アルギン酸からエタノールを生産する方法はこれまで開示されておらず、Zymomonas mobilis等の強力なエタノール生産能を持つ細菌が有する能力を褐藻類からのエタノール生産に利用する試みはこれまでに行われていなかった。また、A1株等のアルギン酸資化に関する酵素系をエタノール生産性が高い微生物(K011株などの大腸菌等)に組み込み、アルギン酸を代謝できるようになった形質転換株も報告されていない。
【0011】
本発明者等は、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilis等の細菌が有する強力なエタノール生産能を利用して褐藻類に多量含有される多糖アルギン酸からエタノールを生産すべく、Zymomonas mobilis等の強力なエタノール生産能を持つ細菌由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素を、A1株に導入し、形質転換株を得た。
【0012】
一方、A1株のアルギン酸取り込み・資化能をエタノール生産菌(大腸菌KO11株)に賦与した形質転換株を得た。
【0013】
その結果、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilis等の細菌が有する強力なエタノール生産能を1つの微生物に付与することができた。これらの微生物の育種によりアルギン酸から効率的に大量のエタノールを生産することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
[1] 1つの微生物に、Sphingomonas sp. A1株由来のアルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素をコードする遺伝子とエタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子を共存させ、該微生物をアルギン酸を含む培地中で培養することを含む、アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0016】
[2] Sphingomonas sp. A1株由来のアルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素が、ABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼである[1]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0017】
[3] エタノール生産に関する酵素が、ピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素である[1]又は[2]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0018】
[4] エタノール生産に関する酵素が、Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素である[3]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0019】
[5] 微生物がさらに以下の(i)~(iii)の特性の少なくとも一つの特性を有する、[1]~[4]のいずれかのアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法:
(i) エタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する;
(ii) エタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子が多数コピー導入されている;及び
(iii) NADH再生系酵素であるギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が共存している。
【0020】
[6] 微生物において、さらに乳酸合成に関する遺伝子がノックアウトされている、[1]~[5]のいずれかのアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0021】
[7] アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法であって、Sphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換Sphingomonas sp. A1株を、アルギン酸を含む培地中で培養することを含む、[1]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0022】
[8] Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌KO11株にSphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素をコードする遺伝子を導入し、該微生物をアルギン酸を含む培地中で培養することを含む、[1]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0023】
[9] Sphingomonas sp. A1株由来のアルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素が、ABCトランスポーター、アルギン酸結合タンパク質、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼ、ケト酸還元酵素、キナーゼ及びアルドラーゼである[8]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0024】
[10] 固定化微生物を用いる、[1]~[9]のいずれかのアルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法。
【0025】
[11] Sphingomonas sp. A1株由来のアルギン酸資化に関するタンパク質及び酵素をコードする遺伝子とエタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子を共存して有する、アルギン酸を原料としてエタノールを生産し得る微生物。
【0026】
[12] エタノール生産に関する酵素がピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素である[11]のアルギン酸を原料としてエタノールを生産し得る微生物。
【0027】
[13] Sphingomonas sp. A1株にZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換Sphingomonas sp. A1株である[12]の微生物。
【0028】
[14] Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌KO11株にSphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌KO11株である[12]の微生物。
【0029】
[15] さらに以下の(i)~(iii)の特性の少なくとも一つの特性を有する、[11]~[14]のいずれかの微生物:
(i) エタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子がSphingomonas sp. A1株由来のSPH2987遺伝子のプロモーターにより制御され高発現する;
(ii) エタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子が多数コピー導入されている;及び
(iii) NADH再生系酵素であるギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子が共存している。
【0030】
[16] さらに乳酸合成に関する遺伝子がノックアウトされている、[11]~[15]のいずれかの微生物。
【0031】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-198972号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0032】
海域由来のバイオマス、とりわけ褐藻類に多量含有される多糖アルギン酸からのエタノール生産が可能となる。食糧との競合が不可避のグルコースを主体とした原料(セルロース質やデンプン質)ではなく、食糧と競合せず、且つ海域での再生産が可能でウロン酸を主体としたバイオマスを原料とした斬新なエタノール生産法を達成することになり、大きな社会的効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】微生物体内で起こるアルギン酸の取り込みからエタノールの生成までの反応経路を示す図である。
【図2】大腸菌KO11株のエタノール生産経路を示す図である。
【図3】A1株にピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)及びアルコール脱水素酵素(ADH)をコードする遺伝子を導入するためのプラスミドの模式図である。
【図4】野生型A1株と遺伝子導入A1株(EPv2株)の細胞抽出物のピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)及びアルコール脱水素酵素(ADH)の活性を示す図である。
【図5A】EPv2株の増殖を示す図である。
【図5B】EPv2株のエタノール(EtOH)生産を示す図である。
【図5C】EPv2株のアルギン酸の消費を示す図である。
【図6】A1株のエタノール耐性化を示す図である。
【図7】固定化菌体によるアルギン酸の分解を示す図である。
【図8】KO11株にA1-R、A1-K、及びA1-Aをコードする遺伝子を導入するためのプラスミドの模式図である。
【図9】遺伝子導入KO11株のアルギン酸リアーゼ活性を示す図である。
【図10】実施例6で用いた各種プロモーターを導入したプラスミドの模式図であり、図10AはpUC18-sph####p-adhプラスミド、図10BはpKS13-sph####p-adhプラスミド、図10CはpUC18-sph2987p-pdcプラスミド、図10DはpKS13-sph2987p-pdc-sph2987p-adhプラスミドの模式図である。図中、####は遺伝子番号を示す。
【図11】A1株の各プロモーターの活性を示す図である。エラーバーは標準偏差を示す(n=3)。
【図12】EPv2株とEPv14株におけるPDC及びADH活性を示す図である。エラーバーは標準偏差を示す(n=3)。
【図13】EPv14株によるエタノール生産の結果を示す図である。図13Aは生育曲線を、図13Bは培地中アルギン酸濃度を示す。図中の矢印はアルギン酸添加を示す(長矢印は1g添加を、短矢印は0.5g添加を示す)。図13Cは培地中エタノール濃度を示す。図13において、黒丸はEPv14株の結果を、白丸は野生型A1株の結果を示す。
【図14】実施例7で用いた多コピー数の遺伝子を導入したプラスミドの模式図である。図14AはpUC18-sph2987p-adh-pdcプラスミドであり、図14BはpKS13-sph2987p-adh-pdcプラスミドであり、図14CはpKS13-(sph2987p-adh-pdc)2プラスミドの模式図である。
【図15】改変A1株におけるPDC及びADH活性を示す図である。エラーバーは標準偏差を示す(n=3)。
【図16】EPv77株によるエタノール生産の結果を示す図である。図16Aは生育曲線を、図16Bは培地中アルギン酸濃度を示す。図中の矢印はアルギン酸添加を示す(長矢印は1g添加を、短矢印は0.5g添加を示す)。図16Cは培地中エタノール濃度を示す。
【図17】実施例8で用いたプラスミドの模式図である。図17AはPDC及びADH発現用プラスミドを示しEPv2株に導入済みである。図17BはFDH1発現用プラスミドを示す。EPv10株はA及びBに示す2つのプラスミドを保持する。
【図18】EPv10によるエタノール生産の結果を示す図である。図18Aは生育曲線を、図18Bは培地中アルギン酸濃度を示す。図中の矢印はアルギン酸添加を示す(長矢印は1g添加を、短矢印は0.5g添加を示す)。図18Cは培地中エタノール濃度を示す。図18において、黒丸はEPv10株の結果を、白丸はEPv2の結果を示す。
【図19】A1株のメタボローム解析の結果を示す図である。乳酸は各培養条件に関わらず高い蓄積が認められた。コハク酸はいずれの条件においてもある程度蓄積していたが、定常期において比較的高い値を示した。ピルビン酸は定常期で蓄積が認められた。
【図20】A1株ldh遺伝子ホモログの塩基配列を示す図である。図中、矢印P1~P4はプライマーの位置を示す。
【図21】A1株sdh遺伝子ホモログの塩基配列を示す図である。図中、矢印P1~P4はプライマーの位置を示す。
【図22】実施例9で用いたプラスミドの模式図である。白い太矢印はldhまたはsdhのORF断片を、グレーはKmrカセットを示す。細矢印はPCRに用いたプライマーの位置を示す。図22Aは破壊対象の遺伝子断片をpUC18にクローニングしたプラスミドを示す。図22Bは破壊対象遺伝子の中央にデザインしたプライマー(細矢印)を用いて図22AのプラスミドをインバースPCRにかけ、直鎖状にした遺伝子断片を示す。図22Cは図22B の遺伝子断片とKmrカセットを連結したプラスミドを示す。図22Dは図22Cで示す細矢印を用いて増幅したインサート断片をpKTY320に挿入して生じたプラスミドを示す。図22Dに示すプラスミドを野生型A1株に導入し遺伝子破壊を行った。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0035】
本発明においては、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilis等の細菌が有する強力なエタノール生産能を利用し、褐藻類に多量含有される多糖アルギン酸を原料として、エタノールを生産する。すなわち、微生物体中に、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素とZymomonas mobilis等の強力なエタノール生産能を有する細菌由来のピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)及びアルコール脱水素酵素(ADH)を共存させ、アルギン酸を微生物体中に取り込み、微生物体内でアルギン酸を原料としてエタノールを生産させる。ここで、アルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素とは、アルギン酸の微生物体内への取込みに関わるタンパク質、アルギン酸を分解してα-ケト酸を生成する酵素及びケト酸からピルビン酸を形成するケト酸代謝酵素を含む。アルギン酸の微生物体内への取込みに関わるタンパク質としては、ABCトランスポーター及びアルギン酸結合タンパク質があり、アルギン酸を分解してα-ケト酸を生成する酵素としては、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼがあり、ケト酸代謝酵素としては、ケト酸還元酵素、キナーゼ(2-keto-3-deoxygluconokinase(EC 2.7.1.45)など)、アルドラーゼ(2-keto-3-deoxy-6-phosphogluconate aldolase(EC 4.1.2.14)など)がある。

【0036】
図1に微生物体内で起こるアルギン酸の取込みからエタノールの生成までの反応経路を示す。

【0037】
後記のSphingomonas sp. A1株は、元来これらのアルギン酸資化能に関する酵素を有している。

【0038】
Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilisが有するエタノール生産能を利用し、多糖アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法として、Sphingomonas sp. A1株にピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入し、Sphingomonas sp. A1株中で該2種類の酵素を共発現させる方法が挙げられる。Sphingomonas sp. A1株は、アルギン酸存在下で細胞表層に体腔を形成し、アルギン酸を多糖のまま菌体内に取込み、分解する。すなわち、Sphingomonas sp. A1株は多糖アルギン酸を体腔及びABCトランスポーターを介して細胞内へ取り込み、エンド/エキソ型アルギン酸リアーゼによって単糖まで分解する。単糖は非酵素的に開裂しケト酸になり、ケト酸代謝酵素群によってピルビン酸、グリセルアルデヒド-3-リン酸(G-3-P)と変換される。これらのほとんどはTCAサイクルでエネルギー生産に用いられると考えられるが、ごく一部はエタノールとなり、培地中に放出される。0.003~0.005%程度のエタノールが野性型A1株の培地から検出される。

【0039】
Sphingomonas sp. A1株は、Hisano, T. et al, Biochem. Biophys. Res. Commun., 220, 979-982に記載されており、京都大学大学院農学研究科 村田幸作教授らにより単離されたものである。

【0040】
Sphingomonas sp. A1株は、エタノール耐性を付与したもの(エタノール耐性化又はエタノール寛容化されたもの)でもよい。例えば、エタノールを含有する培地中で馴養培養、及び紫外線照射によりランダム変異を誘発することにより、エタノール耐性株を得ることができる。本発明においては、このようにして単離した、3~10%、例えば6%エタノール耐性株を用いればよい。

【0041】
Sphingomonas sp. A1株に導入するピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子の由来は限定されないが、Zymomonas mobilisなどのZymomonas属微生物、Saccharomyces cerevisiaeなどのSaccharomyces属微生物、Schizosaccharomyces pombeなどのSchizosaccharomyces属微生物等の強力なエタノール生産能を持つ細菌に由来する酵素をコードする遺伝子を用いることができる。好ましくはZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を用いる。テキーラなどの醸造に用いられるグラム陰性菌Zymomonas mobilisはエントナー・ドウドロフ経路(ED経路)と不完全なTCA回路により非常に高いエタノール生産能を持っている。ピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子は、それぞれの遺伝子の公知の配列情報をもとに微生物からPCR等により増幅単離することができる。

【0042】
Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子の塩基配列を、それぞれ配列番号1及び配列番号2に示す。

【0043】
本発明においては、配列番号1に表される塩基配列からなるDNAの代わりに、配列番号1に表される塩基配列からなるDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであってピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを用いることができ、配列番号2に表される塩基配列からなるDNAの代わりに、配列番号2に表される塩基配列からなるDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであってアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを用いることもできる。ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAとは、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt, s)溶液、100μg/mlサケ精子DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAである。さらに、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、配列番号1に表される塩基配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しており、ピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号2に表される塩基配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しており、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAも用いることができる。

【0044】
本発明においては、上記の2種類の酵素をコードする遺伝子をSphingomonas sp. A1株に導入し、2種類の酵素をコードする外来遺伝子を含むSphingomonas sp. A1株の組換え体を作製する。

【0045】
組換え体は、上記の酵素をコードする遺伝子を発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを用いてSphingomonas sp. A1株を形質転換すればよい。

【0046】
上記の2種類の酵素をコードする遺伝子を導入した発現ベクターとしては、2種類の酵素をコードする遺伝子をそれぞれ、別々に2つの発現ベクターに挿入したもの、及び2種類の酵素をコードする遺伝子を1つの発現ベクターに挿入したもの(2遺伝子発現ベクター)の何れも用いることができる。1つの発現ベクターに複数の遺伝子を挿入する際は、別々のプロモーターで発現を制御してもよいし、1つのプロモーターの下流に複数の遺伝子を連結し、1つのプロモーターの制御により複数の遺伝子の発現を制御することもできる。好ましくは、1つのプロモーターで両方の遺伝子の発現を制御する。この際、複数のマルチクローニングサイトを含む発現ベクターを用いればよい。酵素をコードする遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるように発現ベクターに組み込まれることが必要である。そこで、用いる発現ベクターには、プロモーター、上記酵素をコードする遺伝子のほか、ターミネーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、イントロンの5’末端側に存在するスプライス供与部位及びイントロンの3’末端側に存在するスプライス受容部位からなるスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有するものを作動可能に連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。

【0047】
発現ベクターに酵素をコードする遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して発現ベクターに連結する方法などが採用される。また、1つの発現ベクターに2種類の酵素をコードする遺伝子を同時に挿入して、共発現させる場合、複数のマルチクローニングサイトを含む発現ベクターを用いてもよい。

【0048】
一例として、1つの発現ベクター中に、pdc遺伝子プロモーター領域、pdc遺伝子ORF、adh遺伝子ORF、adh遺伝子ターミネーター領域を連結したものを導入すればよい。

【0049】
また、プロモーターとして、pdc遺伝子プロモーターやadh遺伝子プロモーター以外の高発現を可能にする高発現プロモーターを用いても高いエタノール生産能を有する微生物を得ることができる。このような高発現プロモーターはSphingomonas sp. A1株が有する遺伝子プロモーターの中から高発現プロモーターを選択することにより得ることができる。例えば、Sphingomonas sp. A1株のゲノム配列情報をもとに高発現している遺伝子を選択し、該遺伝子のプロモーターを用いることができる。すなわち、エタノール生産に関する酵素をコードする遺伝子をSphingomonas sp. A1株由来の高発現プロモーターにより制御することにより高発現を達成することができる。選択したプロモーターが本発明のpdc遺伝子やadh遺伝子の高発現をもたらすかは、選択したプロモーターにpdc遺伝子やadh遺伝子を連結し、発現が上昇するかどうかを調べればよい。このような高発現プロモーターとして、配列番号25に塩基配列を示すSPH2987遺伝子のプロモーターが挙げられる。

【0050】
さらに、Sphingomonas sp. A1株に導入するpdc遺伝子とadh遺伝子のコピー数を増加させても高いエタノール生産能を有する微生物を得ることができる。そのためには、プラスミドに複数の多数コピーのpdc遺伝子及びadh遺伝子を組込み、該プラスミドをSphingomonas sp. A1株に導入すればよい。コピー数は限定されないが、2~100コピー、好ましくは2~50コピー、さらに好ましくは2~40コピー、2~30コピー、2~20コピー、2~10コピー、2~5コピー又は2コピーである。

【0051】
酵素をコードする遺伝子を挿入するための発現ベクターは、Sphingomonas sp. A1株中で複製可能な広宿主ベクター(IncP,IncQ,IncW型プラスミド)であれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられ、pKS13、pJRD215、pUFR027等が挙げられる。

【0052】
形質転換体は、酵素をコードする遺伝子を挿入した組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。

【0053】
微生物への組換えベクターの導入方法は、微生物にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972)]、エレクトロポレーション法、トリペアレンタルメイティング(tri-parental mating)法等が挙げられる。

【0054】
さらに、微生物にADHの活性に必要な補酵素(NADH)を再生するNADH再生系酵素を導入してもよい。NADH再生系酵素とは、還元型補酵素(NADH)を必要とする酵素反応において、酵素反応の進行に伴い酸化型に変換されたNADを還元型に変換する活性(補酵素再生活性)を有する酵素をいう。補酵素再生系酵素としては、ギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素(GDH)、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素等を挙げることができる。この中でもギ酸脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)(FDH)が好ましい。補酵素再生系酵素は微生物由来のものを用いることができ、例えば、酵母、バシラス属(Bacillus)、チオバシラス属(Thiobacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)等に属する微生物のものを用いることができる。この中でも酵母(Saccharomyces cerevisiae)のものが好ましい。補酵素再生系酵素をコードする遺伝子は、微生物から公知の配列情報に基づいて、PCR等の増幅手段を用いる方法、化学的に合成する方法等の公知の方法を利用して調製することができる。補酵素再生系酵素をコードする遺伝子をプラスミドに組込みSphingomonas sp. A1株に導入すればよい。この際、プロモーターとして、上記のSPH2987遺伝子のプロモーターを用いてもよい。

【0055】
さらに、ピルビン酸からの代謝産物であり、高レベルに蓄積される乳酸及び/又はコハク酸合成経路、好ましくは乳酸合成経路を遮断してもよい。乳酸及びコハク酸合成経路を部分的に又は完全に遮断することにより、エタノールがさらに高レベルで産生される可能性がある。乳酸及び/又はコハク酸合成経路を部分的に又は完全に遮断するためには、これらの物質の合成に関与する酵素をコードする遺伝子をノックアウトすればよい。乳酸を合成する酵素として乳酸脱水素酵素(LDH)が挙げられ、コハク酸を合成する酵素としてフマル酸還元酵素(SDH)が挙げられる。遺伝子のノックアウトは公知の方法で行うことができ、例えば、相同組換えにより行うことができる。

【0056】
さらに、Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能とZymomonas mobilis等の細菌が有するエタノール生産能を利用し、多糖アルギン酸を原料としてエタノールを生産する方法として、Zymomonas mobilis等の細菌由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を有する微生物にSphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素をコードする遺伝子を導入し、該微生物にアルギン酸を取り込ませ微生物体内でアルギン酸を原料にしてエタノールを産生させる方法が挙げられる。Zymomonas mobilis等の細菌由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を有する微生物は、上記のZymomonas mobilis等の細菌由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した微生物であり、微生物としては、大腸菌(E.coli.)、Sphingomonas属微生物、Pseudomonas属微生物、Bacillus属微生物、Corynebacterium属微生物等が挙げられる。特に、Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌KO11株を好適に用いることができる。大腸菌KO11株については、Ohta, K.et al., Appl. Environ. Microbiol., 57, 893-900やUS Patent 5,821,093号公報に記載されている。また、大腸菌KO11株は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手できる(ATCC55124)。

【0057】
大腸菌にはもともとアセチルCoAを基質としてエタノール合成を行う経路が存在しているが、副産物として酢酸が生成するなど、その生成効率は高くなかった。KO11株は、Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素とアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した高エタノール生産株である(図2)。アルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素とは、アルギン酸の微生物体内への取込みに関わるタンパク質、アルギン酸を分解してα-ケト酸を生成する酵素及びケト酸からピルビン酸を形成するケト酸代謝酵素を含む。アルギン酸の微生物体内への取込みに関わるタンパク質としては、ABCトランスポーター及びアルギン酸結合タンパク質があり、アルギン酸を分解してα-ケト酸を生成する酵素としては、エンド型/エキソ型アルギン酸リアーゼがあり、ケト酸代謝酵素としては、NADH依存性α-ケト酸還元酵素(A1-R)、キナーゼ(A1-K)、アルドラーゼ(A1-A)がある。アルギン酸取込みに関わる遺伝子及びアルギン酸の分解に関わる遺伝子群は、Sphingomonas sp. A1株ゲノム中でクラスターを形成している。ABCトランスポーターはヘテロ4量体(AlgM1-AlgM2/AlgS-AlgS)を形成しており、AlgM1、AlgM2及びAlgSをコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号3、4及び5に示す。アルギン酸結合タンパク質には、AlgQ1とAlgQ2が存在し、AlgQ1及びAlgQ2をコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号6及び7に示す。エンド型アルギン酸リアーゼ(Aly)は、分子内にA1-I、A1-II及びA1-IIIの3分子種を含む。エンド型アルギン酸リアーゼ(Aly)をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号8に示す。エキソ型アルギン酸リアーゼ(A1-IV)をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号9に示す。ケト酸還元酵素(A1-R)をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号10に示す。

【0058】
これらの遺伝子の導入は、広宿主ベクター(IncP,IncQ,IncW型プラスミド)を用いて行うことができ、広宿主ベクターとして、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられ、pKS13、pJRD215、pUFR027等が挙げられる。それぞれの遺伝子を別々のベクターに挿入してもよいし、複数の遺伝子を1つのベクターに挿入してもよい。複数のベクターを用いる場合は、ベクター同士の不和合性に注意してベクターを選択する。微生物への組換えベクターの導入方法は、微生物にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972)]、エレクトロポレーション法、トリペアレンタルメイティング(tri-parental mating)法等が挙げられる。

【0059】
Sphingomonas sp. A1株が有するアルギン酸資化能に関するタンパク質及び酵素とZymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)及びアルコール脱水素酵素(ADH)が共存した微生物を、アルギン酸存在下で培養することにより、生物体内でアルギン酸を原料としてエタノールを生産させることができる。すなわち、導入した酵素をコードする遺伝子が発現可能な条件で培養することにより、微生物内で酵素が発現する。原料となるアルギン酸や補酵素を添加することにより、それぞれの酵素の触媒反応が起こり、エタノールが生成する。この際、酵素を十分発現させてから、アルギン酸を添加してもよいし、酵素をコードする遺伝子を含む微生物を培養する際に、アルギン酸等を添加し、酵素の発現と酵素反応を同時に行わせてもよい。また、酵素反応が進むにつれアルギン酸が少なくなるので、定期的にアルギン酸を追加添加してもよい。

【0060】
微生物を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われ、公知の培地にアルギン酸を添加すればよい。原料となるアルギン酸としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸塩、及びアルギン酸オリゴ糖を用いることができる。アルギン酸ナトリウムを用いる場合、3~10%(w/v)の濃度で添加し、アルギン酸オリゴ糖を用いる場合、5~15%(w/v)の濃度で添加すればよい。また、経時的にアルギン酸をフィードしても良い。アルギン酸の定量は、例えばKnutson, C.A. et al., (1968) Anal. Biochem., 24, 470-481に記載の方法で行うことができる。

【0061】
培養、酵素反応は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、20~40℃、好ましくは28~32℃、pH6.0~9.0、好ましくは7.4~8.4で数時間~数日間、例えば5~7日間行う。培地のpHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行えばよい。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。

【0062】
上記の条件での培養により、培地中に0.1~5%(w/v)、好ましくは0.7%以上(w/v)のエタノールが蓄積する。

【0063】
エタノールは、蒸留により回収することができる。また、エタノールの定量は、公知のアルコール脱水素酵素を用いた方法やガスクロマトグラフィーを用いた方法により行うことができる。

【0064】
以下に具体的な培養条件を示すが、一例でありこの条件には限定されず、当業者ならば適宜条件を変更して行うことができる。

【0065】
培養条件
(1)培地組成:
(i) アルギン酸培地:3~10% アルギン酸ナトリウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.1%リン酸1カリウム、0.1%リン酸2ナトリウム、0.01%酵母エキス、0.01%硫酸マグネシウム7水和物
(ii) アルギン酸オリゴ糖培地:5~15% アルギン酸オリゴ糖、0.1%硫酸アンモニウム、0.1%リン酸1カリウム、0.1%リン酸2ナトリウム、0.01%酵母エキス、0.01%硫酸マグネシウム7水和物
(2)pH:pH 6.0~9.0
(3)培養温度:28~37℃
(4)振とう数:静置~100往復/分
(5)培養時間:5~7日
(6)Feeding(アルギン酸枯渇予防):3日目から1%アルギン酸ナトリウム或いはアルギン酸オリゴ糖を添加(1回/日)
(7)産生エタノール濃度:0.3~0.7%
(8)エタノール回収:蒸留
(9)エタノール生産(0.7%)至適条件:培地(3% アルギン酸ナトリウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.1%リン酸1カリウム、0.1%リン酸2ナトリウム、0.01%酵母エキス、0.01%硫酸マグネシウム7水和物)、pH(8.0)、温度(32℃)、振とう数(50往復/分)、培養時間(6日)、Feeding(3日目から1%アルギン酸オリゴ糖)
形質転換した微生物を固定化して酵素反応を行い、エタノールを生産することもできる。微生物の固定化には、包括法、架橋法、担体結合法等がある。包括法とは微生物を高分子ゲルの微細な格子の中に包み込むか、あるいは半透膜性の高分子の皮膜によって被覆する方法であり、架橋法とは微生物を2個又はそれ以上の官能基を持った試薬(多官能性架橋剤)で架橋する方法であり、担体結合法とは水不溶性の担体に酵素を結合させる方法である。固定化に用いられる固定化担体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸、寒天、ゼラチン等がある。
【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1:Sphingomonas属細菌A1株の分子育種(1)
材料 Sphingomonas属細菌A1株(以下、A1株)は、京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻村田研究室にグリセロールストックとして保管されている凍結菌体を種菌として用いた。Zymomonas mobilis ZM4株(ATCC31821)は、American Type Culture Collection(ATCC)より購入した。Eisenia bicyclis由来アルギン酸ナトリウム(平均分子サイズ, 110 kDa; 重合度, ~650)は、ナカライテスクより購入した。制限酵素はタカラバイオ及びフェルメンタス、DNA修飾酵素は東洋紡より各々購入した。その他の化合物は、和光純薬工業より特級グレード品を購入した。
【実施例】
【0068】
微生物と培養条件 A1株細胞をアルギン酸培地で30℃或いは32℃、100strokes per minute(spm) (2cmストローク)で好気的に培養した。アルギン酸培地の組成は以下の通りである。0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、及び0.5%或いは3%アルギン酸ナトリウム(pH 8.0)。また、必要に応じて寒天を1.5%加え、固体培地で培養した。ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)とアルコール脱水素酵素(ADH)の各遺伝子をクローニングするため、Z. mobilis ZM4株細胞を、2%グルコース、1%酵母エキス、及び0.2% KH2PO4を含む培地(pH 6.0)で、30℃、100 spm、48時間、好気的に培養した。プラスミドの増幅或いはヘルパー細胞の調製のため、大腸菌Escherichia coli K-12 DH5α或いはHB101株細胞を、Luria-Bertani(LB)培地(Sambrook et al., 1989)を用いて37℃で培養した。培養の際、適当な抗生物質アンピシリン或いはテトラサイクリンを添加した。
【実施例】
【0069】
DNAシーケンスとDNA操作 PDCとADHの各遺伝子の塩基配列を、自動シーケンサー(モデル377, アプライドバイシステムズ)を用いてダイデオキシ法で決定した(Sanger et al., 1977)。Z. mobilis ZM4株ゲノムDNAの抽出はDNeasy Blood & Tissue Kit(キアゲン)を用いた。サブクローニング、形質転換やゲル電気泳動は、文献(Sambrook et al., 1989)に従い行った。
【実施例】
【0070】
プラスミドの構築 A1株にPDCとADHの各遺伝子を導入するため、両遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。KOD-Plusポリメラーゼ(東洋紡)、鋳型としてZ. mobilis ZM4株のゲノムDNA、プライマーとして2種類の合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRを行った。PDC遺伝子の増幅には、BamHIサイト(下線)をもつ5'-GAGGATCCTCACTTAATCCAGAAACGGGCG-3'(配列番号11)及びPstIサイト(下線)をもつ5'-GACTGCAGACGGGCTTTTCGCCTTAAGC-3'(配列番号12)をプライマーとして用いた。PCRで増幅した遺伝子断片をBamHI / PstI制限酵素処理後、BamHI / PstI処理したpUC18ベクターにサブクローニングした(pUC18-pdcプラスミド)。ADH遺伝子の増幅には、PstIサイト(下線)をもつ5'-GACTGCAGAAAGGCAAAATCGGTAACCACATCTC-3'(配列番号13)及びXbaIサイト(下線)をもつ5'-GGTCTAGATTATGACGGTAGGCTTAATAGCCTG-3'(配列番号14)をプライマーとして用いた。PCRで増幅した遺伝子断片をHincII制限酵素処理及びアルカリフォスファターゼ処理したpUC18ベクターにサブクローニングした(pUC18-adhプラスミド)。pUC18-adhプラスミドからPstI処理によりADHを含む遺伝子断片を切り出し、PstI及びアルカリフォスファターゼ処理したpUC18-pdcプラスミドに連結した(pUC18-pdc-adh-1)。続いてインバースPCRにより、PDC遺伝子ターミネーターとADH遺伝子プロモーターを除いた(pUC18-pdc-adh-2)。インバースPCRはpUC18-pdc-adh-1を鋳型として、5’-CCGGAATTCTTACTAGAGGAGCTTGTTAACAGGCTTACG-3’(配列番号15)及び5’-ACTAGTATGTAGGGTGAGGTTATAGCTATGGCT-3’(配列番号16)をプライマーとして用いた。pUC18-pdc-adh-2のPDCとADH遺伝子の塩基配列をDNAシーケンスにより確認した。pUC18-pdc-adh-2をBamHIとXbaIで切断後、PDCとADH遺伝子を含む断片をBamHIとXbaIで処理した広宿主ベクターpKS13(テトラサイクリン耐性マーカーをもつ:Kimbara et al., 1989)に連結した。最終的に構築したプラスミド(pKS13-pdc-adh)では、PDC遺伝子のプロモーターによりPDCとADHの両遺伝子が転写されるように設計した(図3)。また、比較検討のため、種々のプラスミドを構築した。
【実施例】
【0071】
トリペアレンタルメイティング トリペアレンタルメイティング(接合伝達)法(Ruvkun & Ausubel, 1981)により、プラスミドpKS13-pdc-adhをA1株に導入した。A1株、大腸菌DH5α/pKS13-pdc-adh、及び大腸菌HB101/pRK2013(ヘルパー細胞)を各々対数増殖期まで培養し、3種類の微生物を混合した後0.5%酵母エキスを含むアルギン酸寒天培地で終夜培養した。その後20μg/mLテトラサイクリンを含むアルギン酸寒天培地で培養し、テトラサイクリン耐性を示す形質転換体を取得し、PCRによりPDCとADH遺伝子の導入を確認した。得られた形質転換体を遺伝子導入A1株(EPv2株)とした。
【実施例】
【0072】
酵素活性とタンパク質濃度の測定 遺伝子導入A1株におけるPDCとADHの活性測定は、文献Conway et al., 1987aとConway et al., 1987bに従った。
【実施例】
【0073】
(粗酵素液の調製) 野生型A1株とEPv2株を、各々3%アルギン酸培地を用いて50 rpm、32℃で3日間培養した。6,000×g、4℃、5分間の遠心分離により回収した菌体を50 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)で洗浄し、再度同緩衝液で懸濁した。超音波発生器(モデル201M、クボタ)を用いて、0℃、9 kHz、10分間の条件で細胞を超音波破砕した。その後、15,000×g、4℃、5分間の遠心分離により得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液のタンパク質定量は牛血清アルブミンを標準タンパク質としたBradford(Bradford, 1976)の方法で行い、タンパク質濃度が0.5~2 mg/mLの範囲に収まるように50 mM リン酸ナトリウム緩衝液で希釈した。
【実施例】
【0074】
(PDC活性測定) PDC活性はNADHの減少に伴う波長340 nmにおける吸光度の変化を測定することで評価した。30℃において1分間当たりに1μmolのNADHを減少させる酵素量を1単位(U)と定義した。具体的には以下のように行った。100 mM Tris-マレイン酸緩衝液(pH 6.0)457μL、300 mM ピルビン酸ナトリウム20μL、0.4 U ADH (ロシュ)1μL、60 mM NADH・2Na 2μL、及び粗酵素液20 μLを測定直前にキュベット中で混和し、340 nmにおける吸光度の減少(Δ340)を吸光光度計(MPS-2000、島津)で測定し、比活性を以下の計算式で算出した。
【実施例】
【0075】
PDC比活性(U/mgタンパク質)=Δ340 × 全反応液量(mL)÷ [酵素液タンパク質濃度(mg/mL)× 酵素液量(mL)× 6.22 × 光路長(cm)
ここでΔ340は1分間あたりの340 nmにおける吸光度の減少量、6.22はNADHのmmol分子吸光係数である。
【実施例】
【0076】
(ADH活性測定) ADH活性はNADHの減少に伴う波長340 nmにおける吸光度の変化を測定することで評価した。30℃において1分間当たりに1μmolのNADHを減少させる酵素量を1単位(U)と定義した。具体的には以下のように行った。100 mM Tris-マレイン酸緩衝液(pH 6.5)457μL、500 mM アセトアルデヒド10μL、60 mM NADH・2Na 2μL、及び粗酵素液20μLを測定直前にキュベット中で混和し、340 nmにおける吸光度の減少(Δ340)を吸光光度計(MPS-2000、島津)で測定し、比活性を以下の計算式で算出した。
【実施例】
【0077】
ADH比活性(U/mgタンパク質)=Δ340 × 全反応液量(mL)÷ [酵素液タンパク質濃度(mg/mL)× 酵素液量(mL)× 6.22 × 光路長(cm)
ここでΔ340は1分間あたりの340 nmにおける吸光度の減少量、6.22はNADHのmmol分子吸光係数である。
【実施例】
【0078】
(結果) 野生型A1株とEPv2株の細胞抽出物に含まれるPDCとADH活性を測定した(図4)。その結果、EPv2株は、野生型A1株と比較して2倍のPDC活性と70倍のADH活性を示し、本菌をエタノール生産試験に供した(実施例2)。
【実施例】
【0079】
本実施例の参照文献
Bradford, M.M. (1976) Anal. Biochem., 72, 248-254.
Conway, T., Osman, Y.O., Konnan, J.I., Hoffmann, E.M., and Ingram, L.O. (1987a) Promoter and nucleotide sequences of the Zymomonas mobilis pyruvate decarboxylase. J. Bacteriol., 169, 949-954.
Conway, T., Sewell, G.W., Osman, Y.O., and Ingram, L.O. (1987b) Cloning and sequencing of the alcohol dehydrogenase II gene from Zymomonas mobilis. J. Bacteriol., 169, 2591-2597.
Kimbara, K., Hashimoto, T., Fukuda, M., Koana, T., Takagi, M., Oishi, M., and Yano, K. (1989) J. Bacteriol., 171, 2740-2747.
Ruvkun, G.B., and Ausubel, F.M. (1981) Nature, 289, 85-88.
Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York.
Sanger, F., Nicklen, S., and Coulson, A.R. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 74, 5463-5467.
【実施例】
【0080】
実施例2:Sphingomonas属細菌A1株によるエタノール生産
材料 Eisenia bicyclis由来アルギン酸ナトリウム(平均分子サイズ, 110 kDa; 重合度, ~650)は、ナカライテスクより購入した。酵素法によるエタノール定量のため、F-キット(エタノール)をロシュ・ダイアグノスティックスより購入した。その他の化合物は、和光純薬工業より特級グレード品を購入した。
【実施例】
【0081】
アルギン酸オリゴ糖の調製 Sphingomonas属細菌A1株(A1株)由来エンド型アルギン酸リアーゼA1-IIIの大腸菌大量発現株(HMS174(DE3)pLysS/pET3a-A1-III)(Yoon et al., 2000)を、アンピシリン(0.1 mg/mL)を含むLuria-Bertani(LB)培地(Sambrook et al., 1989)を用いて30℃、100 rpmで前培養した。その後、600 nmにおける濁度が0.5になった時にイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを終濃度0.1 mMになるように培地に添加し、さらに16℃、100 rpmで48時間培養を続けた。6,000×g、4℃、5分間の遠心分離により回収した大腸菌細胞を20 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)で洗浄し、再度同緩衝液で懸濁した。超音波発生器(モデル201M、クボタ)を用いて、0℃、9 kHz、20分間の条件で細胞を超音波破砕した。その後、15,000×g、4℃、20分間の遠心分離により得られた上清を細胞抽出物とした。3%アルギン酸ナトリウムに細胞抽出物を加え、粘性が低下するまでアルギン酸を分解した。その後、2倍量のエタノールを添加し、未分解或いは高分子のアルギン酸を15,000×g、4℃、20分間の遠心分離により沈殿除去した。アルギン酸オリゴ糖(2糖と3糖が主成分)を含む上清を、ロータリーエバポレーター(モデルN-1000、東京理化器械)で濃縮乾固した。
【実施例】
【0082】
アルギン酸定量 培地中のアルギン酸濃度は、硫酸-カルバゾール法(Knutson & Jeanes, 1968)により決定した。
【実施例】
【0083】
エタノール定量 遺伝子導入A1株細胞の培養液におけるエタノール濃度を、酵素法或いはヘッドスペースガスクロマトグラフ法で測定した。両方法とも感度よく再現性のある値を示す。酵素法では、試料中に存在するエタノールをアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素で酢酸に変換しその過程で生成するNADHを波長340nmにおける吸光度から定量することにより、試料中のエタノール量を見積もることができる。同原理に基づくFキット(エタノール)を用いて検量線を作製後、試料中のエタノールを定量した。ヘッドスペースガスクロマトグラフ法は、以下の通り行った。試料50μL、内部標準(0.2% n-プロパノール)100μL及び純水900μLをセプタム付きのガラスバイアル(7 mL)に封入し、55℃、20分間静置した。静置後、蒸発したアルコールを含むバイアル中の気相1 mLをガスタイトシリンジでガスクロマトグラフに注入した。ガスクロマトグラフはGC-2014(島津)、カラムはRtx(登録商標)-Wax(30 m、内径0.53 mm、Restec)、キャリアガスは窒素ガスを用いた(カラム流量4.16 mL/min)。試料注入モードはスプリット、カラム温度は試料注入後40℃で5分間保持後10℃/minで昇温し100℃で1分間保持するように設定した。検出機はFIDを用いた。エタノールと内部標準のピーク面積をもとめ、エタノール/内部標準比を算出し、検量線に基づいて試料中のエタノールを定量した。
【実施例】
【0084】
微生物と培養条件 実施例1で育種したEPv2株細胞をアルギン酸培地で培養した。アルギン酸培地の組成は以下の通りである。0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、及び0.5~3%アルギン酸ナトリウム。培養条件(アルギン酸の重合度(ポリマー或いはオリゴ糖)、アルギン酸濃度、液量/容器容量比、温度、振とう数、pHなど)を種々検討し、増殖とエタノール産生レベルの高い条件を以下のように決定した。アルギン酸重合度、ポリマー;アルギン酸濃度、3%;液量/容器容量比、100 mL/300 mL;温度、32℃;振とう数、50 spm(2cmストローク);pH、7.4~8.4。
【実施例】
【0085】
エタノール生産 野生型A1株をアルギン酸培地で培養すると、その培養液には0.003%~0.005%のエタノールしか含まれていない。一方、EPv2株細胞を上記の最適条件で培養した結果、培養140時間で0.45%のエタノールが培地中に蓄積していた(図5B、添加なし)。この際、培養48時間頃から培地中のアルギン酸消費が高くなり、約1%/日くらいの速度でアルギン酸が培地中から減少していた(図5C、添加無し)。その後、培養120時間前後で培地中のアルギン酸はほぼ枯渇した。このアルギン酸の枯渇がエタノール生産の律速になっていると考え、培養中のアルギン酸の添加を試みた。培養72時間目から一日一回1g(粉末)のアルギン酸又はアルギン酸オリゴ糖を培地中に添加した。添加により生育は向上するが(図5A)、生育曲線のピーク時間は添加有無で変化が無かった(140時間)。エタノール生産に関しては(図5B)、コントロールの添加なしサンプルでは培養120時間から140時間が最大となりその後減少するのに対し、アルギン酸を添加した場合では170時間頃までエタノールが蓄積し続けた(最大0.6%)。アルギン酸オリゴ糖を添加した場合ではアルギン酸添加に比べてエタノール生成速度が大きくなり(72~120時間)、170時間にエタノール濃度は最大になった(0.72%)。培地中のアルギン酸量を測定したところ、アルギン酸(オリゴ)を添加したものでは120時間までは1%/日の速度でアルギン酸が減少しているが、120~140時間頃ではアルギン酸消費が緩やかになり140時間以降はアルギン酸をほとんど消費していなかった(図5C)。
【実施例】
【0086】
本実施例の参照文献
Knutson, C.A., and Jeanes, A. (1968) Anal. Biochem., 24, 470-481.
Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York.
Yoon, H.-J., Hashimoto, W., Miyake, O., Okamoto, M., Mikami, B., and Murata, K. 2000. Protein Expr. Purif., 19, 84-90.
【実施例】
【0087】
実施例3:Sphingomonas属細菌A1株のエタノール耐性(寛容)化
材料 Sphingomonas属細菌A1株(以下、A1株)は、京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻村田研究室にグリセロールストックとして保管されている凍結菌体を種菌として用いた。Eisenia bicyclis由来アルギン酸ナトリウム(平均分子サイズ, 110 kDa; 重合度, ~650)は、ナカライテスクより購入した。その他の化合物は、和光純薬工業より特級グレード品を購入した。
【実施例】
【0088】
微生物と培養条件 A1株細胞をアルギン酸培地で30℃、100 spm、48時間、好気的に培養した。アルギン酸培地の組成は以下の通りである。0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、及び0.5%アルギン酸ナトリウム(pH 7.2)。また、必要に応じてエタノールを添加した。
【実施例】
【0089】
エタノール寛容化 野生型A1株をエタノール(1~5%)を含むアルギン酸培地で培養し、その生育を波長600 nmにおける濁度で評価した(図6)。その結果、1%エタノールでは生育は阻害されないが、3%になると顕著な生育遅延を示し、5%では全く生育しなかった。高エタノール生産を可能とするA1株を育種するため、A1株のエタノール寛容化を目指した。4%以上のエタノール濃度で、A1株を馴養した。また、適時、紫外線照射(15秒)を行い、ランダム変異を誘発した。馴養と変異を組み合わせることにより、現在までに6%エタノール存在下でも生育可能なA1株を育種した(図6)。
【実施例】
【0090】
実施例4:固定化菌体を用いたアルギン酸オリゴ糖の調製
材料 Eisenia bicyclis由来アルギン酸ナトリウム(平均分子サイズ, 110 kDa; 重合度, ~650)は、ナカライテスクより購入した。その他の化合物は、和光純薬工業より特級グレード品を購入した。
【実施例】
【0091】
微生物と培養条件 Sphingomonas属細菌A1株(A1株)由来エンド型アルギン酸リアーゼA1-IIIの大腸菌大量発現株(HMS174(DE3)pLysS/pET3a-A1-III)(Yoon et al., 2000)を、アンピシリン(0.1 mg/mL)を含むLuria-Bertani(LB)培地(Sambrook et al., 1989)を用いて30℃、100 rpmで前培養した。その後、600 nmにおける濁度が0.5になった時にイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを終濃度0.1 mMになるように培地に添加し、さらに16℃、100 rpmで48時間培養を続けた。6,000×g、4℃、5分間の遠心分離により回収した大腸菌細胞(9 g)を20 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で洗浄し、再度同緩衝液12 mLに懸濁した。
【実施例】
【0092】
固定化菌体の調製 大腸菌懸濁液を200 mL容ビーカーに移し、アクリルアミド溶液(アクリルアミド3 g, ビスアクリルアミド54 mg, 25%過硫酸アンモニウム水溶液100μLを混合し、蒸留水で9 mLに調製)にテトラメチルエチレンジアミン24μLを添加し、直ちに大腸菌液に加えた。氷上で、重合化を行った。重合化(菌固定化)後、5 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)100 mLで2回洗浄した。固定化菌体を約5 mmのサイコロ状に切断した後、氷上で固定化菌体にアセトン100 mLを添加し5分間穏やかに混ぜた。固定化菌体を5 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)100 mLで3回洗浄し、同緩衝液中で4℃保存した。
【実施例】
【0093】
アルギン酸オリゴ糖の調製 アルギン酸溶液(3%アルギン酸ナトリウム, 50 mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0))2.0 mLに170~200 mgの固定化菌体を添加し、30℃でゆっくり振とう(50spm)しながら1~48時間インキュベートした。固定化菌体添加後2時間程度でアルギン酸溶液の粘性が低下した。反応後、固定化菌体を回収し、反応液の一部を薄層クロマトグラフィーTLC (Hashimoto et al., 2000)で展開した(図7)。反応開始1時間目から3糖以上のオリゴ糖と若干の2糖が確認され、時間とともに2糖と3糖の量が増えていた。反応液に冷エタノールを濃度75%になるように添加し、多糖とオリゴ糖を分画し、各画分の酸性糖量を測定した(表1)。反応2時間目以降では1/3程度のアルギン酸が低分子化していた。以上の結果より、A1-IIIを発現する大腸菌固定化菌体によりアルギン酸を分解し、アルギン酸オリゴ糖を調製できることが分かった。
【表1】
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【実施例】
【0094】
アルギン酸リアーゼの活性収率 固定化菌体におけるアルギン酸リアーゼの全酵素活性と活性収率を評価した。固定化菌体500 mgを20 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)5 mLに加え、ダウンス型ホモジナイザーでスラリー状に破砕した。比較のため、固定化菌体作製に用いたものと同じ大腸菌細胞9 gを50 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)に懸濁し、超音波発生器(モデル201M、クボタ)を用いて、0℃、9 kHz、10分間の条件で細胞を超音波破砕した。その後、15,000×g、4℃、5分間の遠心分離により得られた上清を回収し、20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)で50 mLに調製し粗酵素液とした。アルギン酸リアーゼ活性測定は文献(Yoon et al., 2000)に従い行った。0.05% アルギン酸ナトリウム、100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、及び固定化菌体スラリー或いは粗酵素液10μLを含む反応液(500μL)を調製し、波長235 nmにおける吸光度の上昇を測定した。1分間に波長235 nmにおける吸光度を1上昇させる酵素活性を1 Uと定義した。その結果、固定化菌体におけるアルギン酸リアーゼの全酵素活性は1,950 Uであり、一方同量の大腸菌細胞を超音波破砕した粗酵素液の全酵素活性は5,600 Uであった。以上の結果より、固定化菌体作製におけるアルギン酸リアーゼ活性の固定化効率は約35%と見積もられた。
【実施例】
【0095】
本実施例の参照文献
Hashimoto, W., Miyake, O., Momma, K., Kawai, S., and Murata, K. (2000) J. Bacteriol., 182, 4572-4577.
Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York.
Yoon, H.-J., Hashimoto, W., Miyake, O., Okamoto, M., Mikami, B., and Murata, K. 2000. Protein Expr. Purif., 19, 84-90.
【実施例】
【0096】
実施例5:大腸菌KO11株の分子育種
材料 大腸菌Escherichia coli KO11株(以下、KO11株)(ATCC 55124)は、American Type Culture Collection(ATCC)より購入した。Eisenia bicyclis由来アルギン酸ナトリウム(平均分子サイズ, 110 kDa; 重合度, ~650)は、ナカライテスクより購入した。制限酵素はタカラバイオ、DNA修飾酵素は東洋紡より各々購入した。その他の化合物は、和光純薬工業より特級グレード品を購入した。
【実施例】
【0097】
微生物と培養条件 Sphingomonas属細菌A1株(以下、A1株)由来アルギン酸取り込みと分解に関わる遺伝子クラスターは、広宿主ベクター(pKS13)にクローニングされている(プラスミドpBE11)(図8)(Momma et al., 2000)。プラスミド増幅のため、大腸菌E. coli K-12 DH5α株細胞を、Luria-Bertani(LB)培地(Sambrook et al., 1989)を用いて37℃で培養した。培養の際、適当な抗生物質アンピシリン或いはテトラサイクリンを添加した。プラスミド導入(形質転換)のため、KO11株をグルコースを含むLB培地で好気的に37℃で培養し、塩化カルシウム法によりコンピテントセルを作製した(Sambrook et al., 1989)。
【実施例】
【0098】
DNAシーケンスとDNA操作 A1株は、アルギン酸単糖(α-ケト酸)を、還元酵素(A1-R)、キナーゼ(A1-K)、及びアルドラーゼ(A1-A)の逐次反応により代謝する。各酵素(A1-R、A1-K、及びA1-A)遺伝子の各塩基配列を、自動シーケンサー(モデル377, アプライドバイシステムズ)を用いてダイデオキシ法で決定した(Sanger et al., 1977)。A1株ゲノムDNAの抽出、サブクローニング、形質転換やゲル電気泳動は、文献(Sambrook et al., 1989)に従い行った。
【実施例】
【0099】
プラスミドの構築 KO11株にA1-R、A1-K、及びA1-Aの遺伝子を導入するため、各遺伝子をKOD-Plusポリメラーゼ(東洋紡)、鋳型としてA1株ゲノムDNA、及びプライマーとして2種類の合成オリゴヌクレオチドを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。A1-R遺伝子の増幅には、XbaIサイト(下線)をもつ5'- AACCTCTAGACCGTGATGCTGGGTGACGACCACGCTG -3'(配列番号17)及びHindIIIサイト(下線)をもつ5'- AACCAAGCTTCGGCGCTGATTCGGGGCGAATGTTCGTC -3'(配列番号18)をプライマーとして用いた。A1-K遺伝子の増幅には、SacIサイト及びXhoIサイト(下線)をもつ5'- AACCGAGCTCGAGGGAACCGCAGCGGCGGATCGTGTCG -3'(配列番号19)及びBamHIサイト(下線)をもつ5'- AACCGGATCCGCGCCTATTGTCAGAAGGCGCCGACCTC -3'(配列番号20)をプライマーとして用いた。A1-A遺伝子の増幅には、BamHIサイト(下線)をもつ5'- TTGCGGATCCGCAGCTCGAAAAGGCTTCCTCGATCG -3'(配列番号21)及びXbaIサイト(下線)をもつ5'- TTGCTCTAGACCCACACCTGGAAGGTGCGGGTGTTGC -3'(配列番号22)をプライマーとして用いた。PCRで増幅したA1-K遺伝子断片をBamHI / SacI制限酵素処理後、BamHI / SacI処理したpUC18ベクターにサブクローニングした(pUC18-A1-Kプラスミド)。次いでPCRで増幅したA1-K遺伝子断片をHindIII / XbaI制限酵素処理後、HindIII / XbaI処理したpUC18-A1-Kプラスミドにサブクローニングした(pUC18-A1-K,Rプラスミド)。さらにPCRで増幅したA1-A遺伝子断片をBamHI / XbaI制限酵素処理後、BamHI / XbaI処理したpUC18-A1-K,Rプラスミドにサブクローニングした(pUC18-A1-A,K,Rプラスミド)。最終的にpUC18-A1-A,K,RプラスミドをHindIII / XhoI制限酵素処理し、A1-R、A1-K、及びA1-A遺伝子を含む断片をHindIII / XhoI処理したpACYC177ベクターにサブクローニングし、構築したプラスミドをpACYC177-A1-A,K,Rとした(図8)。KO11株をpBE11とpACYC177-A1-A,K,Rで形質転換し、形質転換株を遺伝子導入KO11株とした。遺伝子導入は、コロニーPCRによる目的遺伝子の増幅により確認した。
【実施例】
【0100】
酵素活性とタンパク質濃度の測定 遺伝子導入KO11株におけるアルギン酸分解(リアーゼ)活性をTLCで確認した。
【実施例】
【0101】
(粗酵素液の調製) 遺伝子導入KO11株を、0.5%アルギン酸ナトリウムを含むLB培地を用いて100 spm、37℃で1日培養した。6,000×g、4℃、5分間の遠心分離により回収した菌体を50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)で洗浄し、再度同緩衝液で懸濁した。超音波発生器(モデル201M、クボタ)を用いて、0℃、9 kHz、10分間の条件で細胞を超音波破砕した。その後、15,000×g、4℃、5分間の遠心分離により得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液のタンパク質定量は牛血清アルブミンを標準タンパク質としたBradford(Bradford, 1976)の方法で行い、タンパク質濃度が0.5~2 mg/mLの範囲に収まるように50 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)で希釈した。
【実施例】
【0102】
(アルギン酸分解活性) 遺伝子導入KO11株の細胞抽出物に含まれるアルギン酸分解活性を測定した。尚、遺伝子を導入していないKO11株を対照とした。アルギン酸溶液(0.5%アルギン酸ナトリウム:10μL)に各細胞抽出物(10μL)を加え、30℃で一晩反応させた。反応液の一部を薄層クロマトグラフィーTLCで展開し、アルギン酸分解物を検出した(Hashimoto et al., 2000)。対照株ではアルギン酸分解活性は認められないが、遺伝子導入KO11株ではアルギン酸の低分子化が認められることから、アルギン酸リアーゼが発現していることが示唆された(図9)。
【実施例】
【0103】
本実施例の参照文献
Bradford, M.M. (1976) Anal. Biochem., 72, 248-254.
Momma, K., Okamoto, M., Mishima, Y., Mori, S., Hashimoto, W., and Murata, K. (2000) J. Bacteriol., 182, 3998-4004.
Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York.
Sanger, F., Nicklen, S., and Coulson, A.R. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 74, 5463-5467.
Yoon, H.-J., Hashimoto, W., Miyake, O., Okamoto, M., Mikami, B., and Murata, K. (2000) Protein Expr. Purif., 19, 84-90.
【実施例】
【0104】
実施例6:Sphingomonas属細菌A1株の分子育種 (2)
Sphingomonas属細菌A1株由来高発現プロモーターの同定及びエタノール合成遺伝子高発現系の作製
DNAマイクロアレイ A1株における強力なプロモーターを探索するため、種々の培養条件(炭素源、振盪速度、アルギン酸濃度)に関わらず恒常的に高発現している遺伝子を標準化したマイクロアレイデータを基に選抜した。野生型A1株を以下の諸条件で培養した。培地:0.5%または3%アルギン酸培地(0.5%または3%アルギン酸ナトリウム、0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。振盪数:50 spmまたは100 spm。培養時間:(OD600, 0.8付近)或いは定常期(OD600, 2.0付近)まで。以下の条件は同一とした。培養液量:30 mL(100 mLフラスコ)。温度:32℃。集菌した菌体を速やかにRNAprotect Bacteria Reagent(キアゲン)に懸濁し、RNAの分解を阻害した。その後、ホットフェノール法により全RNAを抽出し、RNeasy Midi Kit(キアゲン)を用いて精製した。得られたRNAをDNAマイクロアレイ(ロシュ・ダイアグノスティックス)に供し、遺伝子発現レベルを網羅的に解析した。A1株のゲノム配列とオープンリーディングフレームに関する情報は、京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻村田研究室で構築したデータベースより取得した。3,985の標的遺伝子をアレイチップに設計した。特異性を高めるために1 プローブ当たり60 merの合成オリゴヌクレオチドを使用し、1 遺伝子当たり9 プローブを2 セット用意してチップに固定した。ハイブリダイゼーション後、Genepix 4000B(Axon)を用いてアレイを波長532 nmと分解能5μmでスキャンした。得られたデータはRMAアルゴリズムにより標準化した。その結果、SPH828, 1616, 1617, 2330, 2357, 2611, 2661, 2987, 3626, 3746の各遺伝子が、培養条件に依存せず、高発現していることが分かった。
【実施例】
【0105】
プロモーターアッセイ 各遺伝子のプロモーター活性を比較するため、候補遺伝子の推定プロモーター領域にadh遺伝子を連結し、A1株に導入した。実施例1で作製したpUC18-adhプラスミドをインバースPCR法で直鎖状にし、adhのネイティブプロモーター領域を除いた。DNAポリメラーゼはKOD-Plus、プライマーは5'- GCTTCTTCAACTTTTTATATTCCTTTCGTCAACGAAATG-3'(配列番号23)及び5'- CGGGATCCCCGGGTACCGAGCTCGAATTC-3'(配列番号24)を用いた。また、上記10遺伝子のプロモーター領域2 kbの各断片をPCRで増幅した。DNAポリメラーゼはKOD-Plus、鋳型DNAとしてA1株ゲノムDNA、プライマーとして2種類の合成オリゴヌクレオチドを用いた。増幅した断片をIn Fusion cloning kit(タカラバイオ)を用いて直鎖状にしたpUC18-adh断片と連結した(pUC18-sph####p-adhプラスミド、####は遺伝子番号を示す、図10A)。これらのプラスミドをBamHI及びXbaIで切断し、BamHI/XbaI処理したpKS13ベクターと連結し(pKS13-sph####p-adhプラスミド、図10B)、トリペアレンタルメイティングにより野生型A1株に導入した。
【実施例】
【0106】
A1株からの粗酵素画分の調製及びADHの活性測定は、実施例2と同様に行った。上記10遺伝子の推定プロモーター領域と連結したadhを導入した遺伝子導入A1株のADH活性を測定した結果、SPH2987遺伝子のプロモーター(sph2987プロモーター、配列番号25)においてADH活性が最大となった(図11)。
【実施例】
【0107】
遺伝子導入A1株EPv 14の作製 sph2987プロモーターを用いてA1株においてPDCとADHを高発現させる系を構築した。プロモーターアッセイで用いたpUC-sph2987p-adhプラスミドのadh ORF及びターミネーターを除くDNA断片をインバースPCRで増幅した。DNAポリメラーゼはKOD-Plus、プライマーは5'- CATGGTTGTCTGCCCTTTTTACATAGTATGCGTTGAACAC-3'(配列番号26)及びXbaI/BamHIサイト(下線)をもつ5'- TGCTCTAGAGGATCCGTCGACCTGCAGGCATGCAAGCTTGG-3'(配列番号27)を用いた。同様に、pdc遺伝子のORFおよびターミネーター領域をPCRで増幅した。実施例1で作製したpUC18-pdcプラスミドをテンプレートに、プライマーは5'- AGTTATACTGTCGGTACCTATTTAGCGGAGC-3'(配列番号28)及びXbaIサイト(下線)をもつ5'- TGCTCTAGAACGGGCTTTTCGCCTTAAGCTCTAAG-3'(配列番号29)を用いた。PCRで増幅した両遺伝子断片をXbaI制限酵素処理後、ライゲーション反応により連結した(pUC18-sph2987p-pdcプラスミド、図10C)。pUC18-sph2987p-pdcをBamHI切断後、pdc遺伝子を含む断片をBamHI処理したpKS13-sph2987p-adhプラスミドに連結した(pKS13-sph2987p-pdc-sph2987p-adhプラスミド、図10D)。作製したプラスミドはトリペアレンタルメイティングによりA1株に導入した(EPv14株)。
【実施例】
【0108】
EPv14株の酵素活性 野生型A1株と遺伝子導入A1株EPv14の細胞抽出物に含まれるADHとPDC活性を測定した(図12)。EPv14株を4%アルギン酸培地(100 mL/300 mL容フラスコ)、32℃、50 spm(ストローク2cm往復振盪)で96時間培養した.超音波破砕により粗酵素液画分を取得し、ADH活性(白)及びPDC活性(グレー)を測定した。改変A1株は、EPv2株と比べてADH活性は3.2倍、PDC活性は2.3倍高い値を示した。このことからSPH2987遺伝子のプロモーターは高発現に有効であることがわかった。また、その他の酵素遺伝子の高発現にも有効と考えられる。
【実施例】
【0109】
EPv14株によるエタノール生産 EPv14を用いてエタノール生産を行った。培養条件は以下のとおりである。培地: 4%アルギン酸培地(4%アルギン酸ナトリウム、0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。容器:300 mL容フラスコ。温度:32℃。振盪:50 spm(2 cmストローク)。培養3日目、4日目にフラスコあたり1g、培養5日目、6日目に0.5gの粉末アルギン酸を追加した。培養7日目に培地中に1%を超えるエタノールの蓄積を確認した(図13)。
【実施例】
【0110】
実施例7:Sphingomonas属細菌A1株の分子育種 (3)
pdc及びadh遺伝子を2コピー導入した遺伝子改変A1株の作製とエタノール生産
遺伝子導入A1株EPv 77の作製 以下のようにsph2987プロモーター、adh遺伝子、pdc遺伝子を直列に連結した。pUC18-2987adhプラスミドをインバースPCR法で直鎖状にした。プライマーは5'-AATTAGAAAGCGCTCAGGAAGAGTTCTTCAACTTC-3'(配列番号30)及びXbaI/BamHIサイト(下線)をもつ5'-TGCTCTAGAGGATCCGTCGACCTGCAGGCATGCAAGCTTGG-3'(配列番号31)を用いた。同様に、pdc遺伝子のORF及びターミネーター領域をPCRで増幅した。実施例1で作製したpUC18-pdcプラスミドをテンプレートに、プライマーは5'-GGAGTAAGCAATGAGTTATACTGTCGGTACCTATTTAG-3'(配列番号32)及びXbaIサイト(下線)をもつ5'-TGCTCTAGAACGGGCTTTTCGCCTTAAGCTCTAAG-3'(配列番号33)を用いた。PCRで増幅した両遺伝子断片をXbaI制限酵素処理後、ライゲーション反応により連結した(pUC18-sph2987p-adh-pdcプラスミド、図14A)。pUC18-sph2987p-adh-pdcプラスミドをBamHIとXbaIで切断後、pdcとadh遺伝子を含むDNA断片をBamHI/XbaI処理したpKS13ベクターに連結した(pKS13-sph2987p-adh-pdcプラスミド、図14B)。さらにpUC18-sph2987p-adh-pdc プラスミドのBamHI処理によりpdcとadh遺伝子を含む断片を切り出し精製し、BamHI処理したpKS13-sph2987p-adh-pdcプラスミドに連結した(pKS13-(sph2987p-adh-pdc)2プラスミド、図14C)。作製したプラスミドはトリペアレンタルメイティングによりA1株に導入した(EPv77株)。
【実施例】
【0111】
EPv77株の酵素活性活性 作製したEPv77株のPDC活性、ADH活性を測定した(図15)。EPv77株を4%アルギン酸培地(100 mL/300 mL容フラスコ)、32℃、50 spm(ストローク2cm往復振盪)で96時間培養した.超音波破砕により粗酵素液画分を取得し、ADH活性(白)及びPDC活性(グレー)を測定した。EPv77はADH活性がEPv14株の0.55倍に低下していたが、PDC活性は1.73倍高かった。
【実施例】
【0112】
EPv77株によるエタノール生産 エタノール生産のための培養条件は以下のとおりである。培地: 4%アルギン酸培地(4%アルギン酸ナトリウム、0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。容器:300 mL容フラスコ。温度:32℃。振盪:50 spm(2 cmストローク)。培養3日目、4日目にフラスコあたり1g、培養5日目、6日目に0.5gの粉末アルギン酸を追加した。EPv77を用いてエタノール生産を行ったところ、良好な生育と高いアルギン酸消費及びエタノール生産能を示し、培養7日目に培地中に1.13%エタノールの蓄積を確認した(図16)。
【実施例】
【0113】
実施例8:Sphingomonas属細菌A1株の分子育種 (4)
補酵素再生系の導入
エタノール生産(ADH反応)には補酵素NADHが必要であり、NADHの供給がエタノール生産の律速になっている可能性がある。ギ酸とNAD+からCO2とNADHを生成するNAD+依存型ギ酸脱水素酵素遺伝子(FDH1, NM_001183808)を酵母Saccharomyces cerevisiaeからクローニングし、改変A1株EPv2に導入した。
【実施例】
【0114】
プラスミドの構築 FDH1遺伝子のORFをPCRで増幅した。KOD-Plusポリメラーゼ、鋳型としてS. cerevisiae BY4742株のゲノムDNA、プライマーとして5'-GGGCAGACAACCATGTCGAAGGGAAAGGTTTTGCTGGTTCTTTAC-3'(配列番号34)及び5'-TTTCCTGTTTTGAAATTATTTCTTCTGTCCATAAGCTCTGGTGGC-3'(配列番号35)を用いた。また、プロモーターアッセイで用いたpUC18-sph2987p-adhプラスミド(実施例6)のadh ORFを除くDNA断片をインバースPCRで増幅した。DNAポリメラーゼはKOD-Plus、プライマーは5'- TTTCAAAACAGGAAAACGGTTTTCCGTCCTGTCTTGAT-3'(配列番号36)及び5'- CATGGTTGTCTGCCCTTTTTACATAGTATGCGTTGAACAC-3'(配列番号37)を用いた。両断片をIn Fusion cloning kitを用いて連結した(pUC18-sph2987p-FDH1プラスミド)。このプラスミドをBamHI及びXbaIで切断し、BamHI/XbaI処理したpJRD215ベクター(Davison et al. 1987)と連結し(pJRD215-sph2987p-FDH1プラスミド、図17B)、トリペアレンタルメイティングにより遺伝子導入A1株EPv2(実施例1)に導入した(EPv10株)。
【実施例】
【0115】
細胞内NAD+及びNADH濃度の比較 野生型、遺伝子導入A1株EPv2、及びEPv10を培養し、細胞内NAD+及びNADH濃度を測定した。細胞からのNAD+及びNADHの抽出、濃度測定はLeonado et al. (1996)に従った。培養条件は以下の通り。培地:3%アルギン酸培地(3%アルギン酸ナトリウム、0.1% 硫酸アンモニウム(野生株、EPv2)または0.1% ギ酸アンモニウム(EPv10)、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。液量:100 mL/300 mL容フラスコ。振盪数:50 spm (ストローク2cm)。温度:32℃。時間:3日間。培養後、それぞれ1×109 細胞の菌体を遠心分離により回収し、速やかに液体窒素中で凍結し、-80℃で保存した。測定直前に凍結菌体に0.2 M 塩酸(NAD+抽出)または0.2 M 水酸化ナトリウム(NADH抽出)を500μL加え懸濁し、100℃で10分間静置し、5,000×gで5分間の遠心後、上清を回収しNAD+/NADH抽出サンプルとした。サイクリックアッセイによるNAD+/NADHの定量は以下のように行った。1 M Bicine-NaOHバッファー (pH8.0) 50μL, NAD+/NADH抽出サンプル 125μL, 0.1 M NaOH (NAD+測定)または0.1 M HCl (NADH測定) 125μL, 16.6 mM phenazine ethosulfate 50μL, 4.2 mM 3-(4,5- dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide 50μL, エタノール 50μL, 40 mM EDTA-2Na (pH 8.0) 50μLをキュベット中で混和し30℃で3分静置した。0.5U/μL ADH(ロシュ)を添加、混和し反応を開始し、570 nmにおける吸光度の増加の初速度を吸光光度計(MPS-2000、島津)で測定した。同様にNAD+及びNADH標品を用いて測定を行い検量線を作製し、サンプル中のNAD+及びNADH濃度を求めた。FDH1を導入したEPv10株の細胞内NADH/NAD+比は野生株、EPv2株に比べて上昇しており、NADH再生系が機能していることを示している(表2)。
【表2】
JP0004845070B2_000003t.gif
*NADHとNAD+の濃度は2.5 × 108 細胞あたりのμmoleで示す.
【実施例】
【0116】
EPv10株によるエタノール生産 エタノール生産のための培養条件は以下のとおりである。培地: 3%アルギン酸培地(3%アルギン酸ナトリウム、0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。容器:300 mL容フラスコ。温度:32℃。振盪:50 spm(2 cmストローク)。培養3日目、4日目にフラスコあたり1g、培養5~9日目に0.5gの粉末アルギン酸オリゴ糖を追加した。EPv10を用いてエタノール生産を行ったところ、エタノール生産速度はEPv2と大差なかったが、より長い期間エタノール生産を行っており、培養10日目に培地中に1%を超えるエタノールの蓄積を確認した(図18C)。
【実施例】
【0117】
本実施例の参照文献
Davison, J., Heusterspreute, M., Chevalier, N., Ha-Thi, V. and Brunel, F. (1987) Gene 51, 275-280.
Leonardo, M.R., Dailly, Y. and Clark, D.P. (1996) J. Bacteriol. 178, 6013-6018.
【実施例】
【0118】
実施例9:Sphingomonas属細菌A1株の分子育種 (5)
副生物の合成遺伝子破壊株の作製
メタボローム解析 エタノール生産と競合する代謝経路がないか探索するため、メタボローム解析を行った。野生型A1株を以下の諸条件で培養した。培地:0.5%または3%アルギン酸培地(0.5%または3%アルギン酸ナトリウム、0.1% (NH4)2SO4、0.1% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.01% MgSO4・7H2O、0.01%酵母エキス、pH 8.0)。振盪数:50 spmまたは100 spm。培養時間:(OD600, 0.8付近)或いは定常期(OD600, 2.0付近)まで。以下の条件は同一とした。培養液量:30mL(100 mL容フラスコ)。温度:32℃。培養後、菌体を遠心分離で回収し、氷冷した蒸留水で3回洗浄し、冷メタノールに懸濁することで固定した。メタボライトの液液抽出、キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析による解析はヒューマンメタボロームテクノロジーにおいて行われた。メタボライトの変動を観察した結果、ピルビン酸については、定常期にのみ蓄積が確認された。また、ピルビン酸からの代謝産物である乳酸とコハク酸は、すべてのサンプルにおいて高レベルな蓄積が確認された(図19)。
【実施例】
【0119】
乳酸合成経路及びコハク酸合成経路の遮断 乳酸とコハク酸への経路を遮断するため、乳酸合成に関わる乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子及びコハク酸合成に関わるフマル酸還元酵素(SDH)の遺伝子破壊を試みた。A1株のldh及びsdhホモログを相同性検索により特定し、それぞれ最も相同性の高かった遺伝子を破壊対象とした。PCRによりそれぞれの遺伝子断片を増幅した。DNAポリメラーゼはKOD-Plusを、テンプレートにはA1株ゲノムDNAを用いた。ldh遺伝子の増幅には、XbaIサイト(下線)をもつ5'- CCGTCTAGATGCACGCGTCCTGTTGGCCGTCAG-3'(配列38)(図20、P1)及びBamHIサイト(下線)をもつ5'- CGCGGATCCAGATCACCTCGTTGGCCAGCGGTTCCTTG -3'(配列番号39)(図20、P2)をプライマーとして用いた。sdh遺伝子の増幅には、XbaIサイト(下線)をもつ5'- CCGTCTAGACGATTCAACTCTCCGAATCCGGCCTGAAGAC-3'(配列番号40)(図21、P1)及びBamHIサイト(下線)をもつ5'- ATCGGATCCGCGTCTTCAGCGCGATCGTTTCAACG -3'(配列番号41)(図21、P2)をプライマーとして用いた。PCRで増幅した遺伝子断片をBamHI及びXbaI処理し、BamHIとXbaIで処理したpUC18ベクターに連結した。このプラスミドをインバースPCRで各遺伝子の中央を開く形で直鎖状にし、pUC4Kプラスミド由来のカナマイシン耐性遺伝子(Kmr)を挿入した。ldh遺伝子のインバースPCRには5'- TGCGCCGAGCGAACCGAAGGTCTTG-3’ (配列番号42)(図20、P3)及び5'- GGCCGCATTGGCCAATGCTCGATGC-3'(配列番号43)(図20、P4)、sdhは5'- GCGCCCTGCACCACCGGTAGCGAAC -3'(配列番号44)(図21、P3)及び5'- CACGAATTCGCTGCTCGACCTGCTTGTG -3'(配列番号45)(図21、P4)をプライマーとして用いた。KmrはBamHI処理によりpUC4Kより切り出し、Klenowフラグメント処理により末端を平滑化し、インバースPCR産物と接続した。生じたプラスミドをテンプレートにして、Kmrが挿入されたldhまたはsdh断片を上記のプライマーペアで増幅し、HincII処理したpKTY320ベクター(Kimbara et al. 1989)に接続した(図22)。作製したプラスミドはトリペアレンタルメイティングにより野生型A1株に導入し、カナマイシンによる選抜とPCRによるダブルクロスオーバーの確認により破壊株を選抜した。
【実施例】
【0120】
ldh 遺伝子の破壊株についてそのLDH酵素活性を測定したところ、野生株と比較してLDH活性が1/5程度に低下した。LDH遺伝子破壊株にpdcとadh両遺伝子(pKS13-sph2987p-pdc-sph2987p-adhプラスミド、実施例6)を導入した場合、EPv14と比較して有為なエタノール生産性の向上の可能性がある。一方、sdhの遺伝子破壊は困難であったため、SDHはTCAサイクルによるエネルギー生産に関与していることが強く示唆された。
【実施例】
【0121】
本実施例の参照文献
Kimbara, K. Hashimoto, T., Fukuda, M., Koana, T., Takagi, M., Oishi, M. and Yano, K. (1989) J. Bacteriol. 171, 2740-2747.
【実施例】
【0122】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0123】
配列番号11~24、26~45 プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5A】
4
【図5B】
5
【図5C】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図14】
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【図15】
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【図16】
17
【図17】
18
【図18】
19
【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
23