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明細書 :多孔性足場材料及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5955326号 (P5955326)
登録日 平成28年6月24日(2016.6.24)
発行日 平成28年7月20日(2016.7.20)
発明の名称または考案の名称 多孔性足場材料及びその製造方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
FI A61L 27/00 V
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2013-531377 (P2013-531377)
出願日 平成24年8月29日(2012.8.29)
国際出願番号 PCT/JP2012/071902
国際公開番号 WO2013/031861
国際公開日 平成25年3月7日(2013.3.7)
優先権出願番号 2011187228
優先日 平成23年8月30日(2011.8.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年8月7日(2015.8.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】中田 顕
【氏名】茂野 啓示
【氏名】中村 達雄
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】山中 隆幸
参考文献・文献 国際公開第00/61045(WO,A1)
米国特許第4955893(US,A)
国際公開第2006/092718(WO,A2)
調査した分野 A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
1方向に配向したコラーゲン繊維から構成され、コラーゲン繊維の配向方向に沿って細孔が形成されたことを特徴とする多孔性足場材料であって、
生体内に埋入したときに少なくとも2週間異物反応を実質的に生じず、かつ生体内で少なくとも2週間足場材料として機能し得る、多孔性足場材料。
【請求項2】
圧縮弾性率が、0.05~1.0MPaである、請求項1に記載の多孔性足場材料。
【請求項3】
圧縮弾性率が、0.17~0.6MPaである、請求項2に記載の多孔性足場材料。
【請求項4】
細孔の直径が50~500μmである、請求項1~3のいずれかに記載の多孔性足場材料。
【請求項5】
コラーゲンがアテロコラーゲンである請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔性足場材料。
【請求項6】
足場材料の内部に異物巨細胞がほとんど或いは全く存在しない、請求項1に記載の多孔性足場材料。
【請求項7】
コラーゲン繊維の懸濁液を容器に入れて容器の底面からのみ冷却し、凍結乾燥し、熱変性させたものである、請求項1~6のいずれかに記載の多孔性足場材料。
【請求項8】
中性領域のコラーゲン繊維の懸濁液を容器に入れて容器の底面からのみ冷却し、凍結乾燥し、熱変性させることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の多孔性足場材料の製造方法。
【請求項9】
熱変性が120℃~150℃で行われる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記懸濁液の凍結温度が-5℃~-80℃である、請求項8又は9に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン繊維から構成される多孔性足場材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療に用いるいわゆる「足場」として、さまざまな材質が開発されている。合成高分子としては、ポリグリコール酸(PGA)やポリ-L-乳酸(PLLA)、さらには、それらの複合体である乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)が、天然高分子としては、コラーゲンやゼラチンがその代表的なものと言えよう。そして、これらは臨床ですでに使われており、ある一定の成果を上げている(非特許文献1-4)。しかし、例えばポリグリコール酸を生体内で用いた場合、局所的なpHの低下によって炎症反応が誘発され、不必要な癒着が生じてしまう可能性がある(非特許文献5)。また、コラーゲンは、組織親和性はあるものの、再生させたい臓器または部位によっては耐久性が不十分であるという問題を起こす可能性がある(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Kato, Y., et al., A novel technique to prevent intra-operative pneumothorax in awake coronary artery bypass grafting: biomaterial neo-pleura. European journal of cardio-thoracic surgery : official journal of the European Association for Cardio-thoracic Surgery, 2009. 35(1): p. 37-41.
【非特許文献2】Ueda, K., et al., Sutureless pneumostasis using bioabsorbable mesh and glue during major lung resection for cancer: who are the best candidates? The Journal of thoracic and cardiovascular surgery, 2010. 139(3): p. 600-5.
【非特許文献3】Akita, S., et al., Noncultured autologous adipose-derived stem cells therapy for chronic radiation injury. Stem cells international, 2010. 2010: p. 532704.
【非特許文献4】Bushnell, B.D., et al., Early clinical experience with collagen nerve tubes in digital nerve repair. The Journal of hand surgery, 2008. 33(7): p. 1081-7.
【非特許文献5】T.Nakamura, et al., An evaluation of the surgical morbidity of polyglycolic acid felt in pulmonary resections. Surgery today, 2010. 40(8): p. 734-737.
【非特許文献6】G.Chen, et al., Scaffolding technology for cartilage and osteochondral tissue engineering. Biomechanics at micro-and nanoscale levels 3, 2007: p. 118-129.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生体内で2週間以上足場材料として機能し、かつ、実質的に異物反応が生じない足場材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の足場材料及びその製造方法を提供するものである。
項1. 1方向に配向したコラーゲン繊維から構成され、コラーゲン繊維の配向方向に沿って細孔が形成されたことを特徴とする多孔性足場材料であって、生体内に埋入したときに少なくとも2週間異物反応を実質的に生じず、かつ生体内で少なくとも2週間足場材料として機能し得る、多孔性足場材料。
項2. 圧縮弾性率が、0.05~1.0MPaである、項1に記載の多孔性足場材料。
項3. 圧縮弾性率が、0.17~0.6MPaである、項2に記載の多孔性足場材料。
項4. 細孔の直径が50~500μmである、項1~3のいずれかに記載の多孔性足場材料。
項5. コラーゲンがアテロコラーゲンである項1~4のいずれか1項に記載の多孔性足場材料。
項6. 足場材料の内部に異物巨細胞がほとんど或いは全く存在しない、項1に記載の多孔性足場材料。
項7. コラーゲン繊維の懸濁液を容器に入れて容器の底面からのみ冷却し、凍結乾燥し、熱変性させたものである、項1~6のいずれかに記載の多孔性足場材料。
項8. 中性領域のコラーゲン繊維の懸濁液を容器に入れて容器の底面からのみ冷却し、凍結乾燥し、熱変性させることを特徴とする項1~7のいずれかに記載の多孔性足場材料の製造方法。
項9. 生体内で少なくとも2週間足場材料として機能し得る、項1~8のいずれか1項に記載の多孔性足場材料。
項10. 前記懸濁液の凍結温度が-5℃~-80℃である、項8又は9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の足場材料は、生体内で2週間以上残存して足場材料として機能し、同時に、異物巨細胞は実質的に存在せず、異物反応の生じない足場材料である。
【0007】
本発明の足場材料は異物反応を生じないで強度を高めることができるので、埋入される部位に応じて様々な強度の足場材料を製造できる。
【0008】
足場材料内のコラーゲン繊維に配向性を持たせることにより、足場材料内への細胞の浸潤性が高まり、さらに組織親和性が向上する。本発明の足場材料は、あらゆる組織の再生の「足場」として有用である。
【0009】
本発明の足場材料は、周囲から細胞、血管などが数多く入り込み周囲組織と一体化するので、組織の修復などに非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】温度とpHの違いによるコラーゲンの性状。陸上の恒温動物の水溶液状態のコラーゲンは、熱を加えると30℃を超えたころより徐々に3本のポリペプチド鎖が解ける現象、いわゆる変性が始まり、中性領域では、40℃前後でポリペプチド鎖の半分が解ける。そして、さらに高温で加熱するとコラーゲン分子は、熱変性してゼラチンになる。一旦ゼラチンになると、再びコラーゲン分子に戻すことは難しい。a. コラーゲンミクロフィブリル(5つのコラーゲン分子の束)の集合体。コラーゲンフィブリルはさらに集まって、コラーゲン繊維を形成する。b. さらに高温で加熱すると、らせん構造が完全に解けてゼラチン(ゾルの状態)となる。それを冷却すると近傍のポリペプチド鎖同士が部分的にらせん構造を形成し、ゲルとなって固まる。しかし、完全に元のコラーゲン分子に戻すことは難しい。
【図2】コラーゲン繊維に配向性がある場合とない場合の違い。コラーゲン繊維に配向性がない場合、細胞はコラーゲン繊維が貪食されてから足場材料の内部に浸潤することになる。抗原性が弱くて異物反応が問題とならない弱変性コラーゲン繊維の場合、耐久性に優れている為、このままでは、細胞の浸潤に時間がかかることになる。本発明の足場材料はコラーゲン繊維に配向性がある為、細胞が足場材料の内部にまで浸潤しやすくなっている。(A、Bどちらの場合も、細胞は、コラーゲン繊維に沿って足場材料内へ浸潤する)
【図3】コラーゲン繊維に配向性を持たせる為の容器。a(i)発泡スチロール製の外枠 (ii)アルミ板 (iii)発泡スチロール製の蓋 (iv)Parafilm (v)紙製の計量カップから作製した内枠 b:外枠の底にビニールテープでアルミ板を取り付け、さらに内枠を装着したところ c:Parafilmを被せたところ。コラーゲン懸濁液が凍結すると体積が膨張し、発泡スチロール製の蓋に接触することがある。その場合、発泡スチロールの細かな繊維がコラーゲンに混ざってしまう可能性があるので、それを防ぐ為にParafilmを被せる。d:発泡スチロール製の蓋を被せ、ビニールテープで留めたところ。冷却は、容器の下面からのみとなり、そのことによって、配向性を持ったコラーゲン繊維足場材料が出来る。
【図4】コラーゲン繊維足場材料と皮下に埋入した直後の様子。a:1cm×1cm×5mmに成型加工された、コラーゲン繊維足場材料 b:コラーゲン繊維足場材料をラットの背中の皮下に埋入した直後の様子
【図5】組織親和性が良くないコラーゲン繊維足場材料を皮下に埋入した際に見られた異物巨細胞。四角で囲まれた中に、多核の異物巨細胞が認められる。左下の図は、その部分の拡大図。(HE染色)
【図6】熱変性処理されたコラーゲン繊維足場材料(皮下埋入2W後)。 a.140℃-6H:異物巨細胞が殆ど認められないので、親和性スコアを3とした。b.140℃-9H:異物巨細胞が散見されるので、親和性スコアを2とした。(丸で囲ってある部分に、異物巨細胞が存在する)
【図7】熱変性処理を施していないコラーゲン繊維足場材料(皮下埋入1W後)周囲には異物巨細胞は認められない。足場材料内の細孔が維持されていない為、細胞の浸潤性が悪い。(HE染色)
【図8】熱変性処理を140℃-24H施したコラーゲン繊維足場材料(皮下埋入2W後)周囲には異物巨細胞が認められ、細胞の浸潤性も悪い。(HE染色)
【図9】熱変性処理時間とコラーゲン繊維足場材料の強度および組織親和性の関係の傾向(変性温度が140℃の場合)赤のラインは組織親和性を表わし、青のラインは強度を表わす。ラインAは、足場材料に求められる組織親和性の合格レベルを表わし、ラインBは、足場材料にとって必要な強度の合格レベルを表わすものとする。処理時間が短いと、強度面では劣るが組織親和性は良い。逆に、処理時間が長いと、強度は増すが、足場材料は異物となる為、組織親和性は悪くなる。
【図10】熱変性処理を140℃-24H施したコラーゲン繊維足場材料(皮下埋入1W後)この熱変性処理条件では、コラーゲン繊維足場材料の組織親和性は良くない。それでも、足場材料内にコラーゲン繊維の配向性を持たせると、細胞はコラーゲン繊維に沿ってある程度までは足場材料内へ浸潤してくる。(HE染色) a:コラーゲン繊維に配向性がない足場材料 b:コラーゲン繊維に配向性がある足場材料
【図11】熱変性処理されたコラーゲン繊維足場材料の皮下埋入2週間(2W)後および3週間(3W)後の比較左の2つの図は、皮下埋入2W後の組織所見。右の2つの図は、皮下埋入3W後の組織所見を表わす。それぞれの図の左上には、熱変性処理条件が、右上には、足場材料の厚さが記してある。異物巨細胞が認められる部位は、黄色のcircleで囲った(HE染色)。なお、右下の写真では、Scaffoldの中心部に、切片を作製する際に亀裂が生じたので、厚さは、上と下の厚さを足したものとする。
【図12】熱変性処理時間とコラーゲン繊維足場材料の強度および組織親和性の関係の傾向(変性温度が100℃、120℃、140℃の場合)赤および青のライン、さらにラインAおよびBは、図9と同じものを表す。時間xは、処理条件が140℃-6Hの時と同じような足場材料が作製出来るのではと推察される、変性温度が120℃の時の処理時間を表す。
【図13】実施例2で得られた本発明の多孔性足場材料の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、コラーゲンとしては、I型、II型、III型、IV型などの任意のコラーゲンが使用でき、これらコラーゲンを単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。好ましいコラーゲンは、I型コラーゲンであり、本発明の好ましい実施形態はI型コラーゲン単独であってもよく、I型コラーゲンとII型、III型、IV型のコラーゲンの少なくとも1種とのコラーゲン混合物であってもよい。コラーゲンとしてはアテロコラーゲンが好ましく使用できる。

【0012】
本発明では、コラーゲン繊維を使用する。コラーゲン繊維は、中性領域のpHの水に懸濁させることができる。中性領域のpHは、コラーゲン繊維が懸濁液の状態で存在する限り特に限定されないが例えば6~8程度、好ましくは6.5~7.5程度、特に7~7.4程度である。コラーゲン繊維の懸濁液は、コラーゲン繊維を中性領域の水又は緩衝液に懸濁させてもよく、コラーゲン繊維から構成される塊状コラーゲンを細切し、ミキサー等で繊維状にほぐした後、さらにホモジナイザーなどを用いて繊維同士がバラバラになるように処理して得ることができる。塊状コラーゲンを用いる場合、コラーゲン繊維の凝集物が足場材料に残ると、その部分の細孔が小さくなり、コラーゲン凝集物が細孔を塞ぐとそこで細胞の浸潤が止まるので、コラーゲン繊維の凝集物ができるだけ生じないようにコラーゲン繊維をミキサー、ホモジナイザーなどの装置を用いてほぐすのがよい。

【0013】
本発明の足場材料の細孔の直径は50μm以上、好ましくは70μm以上、特に100μm以上である。細孔径の上限は特に限定されないが、例えば500μm程度、400μm程度、300μm程度、あるいは200μm程度である。特に好ましい多孔性足場材料の細孔径は、100~300μm程度である。上記の細孔径があれば、足場材料内に周囲の細胞、血管などが十分に浸潤し組織の再生を行うことができる。足場材料の細孔の直径はSEMなどの電子顕微鏡写真により確認することができる。

【0014】
本発明の多孔性足場材料は、コラーゲン繊維が配向していることが好ましい。コラーゲン繊維の配向は、足場材料の強度を高め、細孔壁を構成するコラーゲン繊維が細孔内にはみ出すことを抑制して、細胞や血管が足場材料内に浸潤することを促進する。コラーゲン繊維が配向していることは、SEMなどの電子顕微鏡写真により確認することができる。従来のコラーゲンを構成要素とする足場材料は、コラーゲン分子又はコラーゲン繊維がランダムに存在するために細胞、血管等が足場材料内に浸潤するスピードが遅く、組織の再生も徐々にしか進まなかった。本発明の足場材料は、コラーゲン繊維の配向によりこのような欠点を解消した。本発明の好ましい足場材料の配向構造は、図13に示されている。本発明の好ましい足場材料は、コラーゲン繊維が一方向に配向し、その配向方向に沿って細孔が形成されている。コラーゲン繊維の束が無秩序に配列していると、それ自体が障壁となって足場材料内への細胞の浸潤性が悪くなる。これは、異物反応を伴う足場材料内への細胞の浸潤性低下とは異なる機序、つまり、物理的な阻害によるものと考えられる。コラーゲン繊維束を配向させると、細胞浸潤の物理的阻害が解消されるため、足場材料内に周辺の細胞がより浸潤しやすくなり、組織の再生、再建を容易に行うことができる。

【0015】
本発明の足場材料の圧縮弾性率は、0.05~1.0MPa程度、好ましくは0.1~0.8MPa程度、より好ましくは0.17~0.6MPa程度、さらに好ましくは0.23~0.5MPa程度、特に0.29~0.42MPa程度である。なお、圧縮弾性率は、圧縮試験機を用い、荷重が19Nに達するまで1mm/分の速さで圧縮し応力-ひずみ曲線を得て、得られた曲線上での弾性領域でひずみが0.5または0.5に近い部分の直線における応力とひずみの比率として計算することができる。

【0016】
本発明の足場材料は、生体内に埋入後、急性期である2週間その形状を保持し、足場材料として機能する。組織の欠損部位などの組織再生が必要な部位に足場材料を埋入した場合、急性期の2週間程度その形状を保持できれば、その後足場材料が吸収、消失しても組織再生は順調に行われる。さらに本発明の足場材料は、異物反応がほとんど或いは全くない。このことは、生体内に埋入後2週間の急性期の期間、足場材料内に異物巨細胞がほとんど或いは全く存在しないことにより確認できる。足場材料の強度を高めるためには、凍結乾燥した多孔性足場材料を熱処理或いは架橋剤処理し、コラーゲン繊維同士の架橋を生じさせることが従来行われてきた。一方、この架橋によりコラーゲン繊維から構成される足場材料の組織親和性が低下して異物反応が生じることが避けられなかった。これが、従来のコラーゲン足場材料が組織再生を十分に行うことができなかった理由である。

【0017】
コラーゲン足場材料が細胞浸潤に十分な細孔を有していたとしても、架橋により足場材料の組織親和性が低下すると、細胞は細孔内に浸潤しなくなる。好ましい本発明の足場材料は、コラーゲン繊維の配向性により強度が向上し、埋入後2週間の急性期の期間に形状を保つのに必要な架橋処理を緩和な条件で行うことが可能になり、これにより異物反応を問題ないレベルまで下げることができ、細胞、血管などが内部に速やかに入り込むことで組織再生が可能になった。

【0018】
本発明の多孔性足場材料の製造法を以下に説明する。

【0019】
最初に、コラーゲン繊維の懸濁液を調製する。コラーゲンは、酸性領域では分子構造を示すが、中性領域では繊維状の構造を示し、それらはpHに従い可逆的に変化する。さらに、熱によってポリペプチド鎖が解けて変性してゼラチンになるという特徴を持つ(図1;Peltonen, L., et al., Thermal stability of type I and type III procollagens from normal human fibroblasts and from a patient with osteogenesis imperfecta. Proceedings of the NationalAcademy of Sciences of the United States of America, 1980. 77(1): p. 162-6.)。図1中の40℃とは、水溶液もしくは懸濁液中に於いて、コラーゲン分子のちょうど半分が壊れる、いわゆる「変性温度」を示す。本発明は、凍結乾燥させた後に40℃以上の熱をかけて変性させたコラーゲン繊維から構成される多孔性足場材料を提供する。凍結乾燥後の熱処理によって、架橋が生じ、足場材料の強度が高められて、in situに於いて耐久性に優れたものとなる。一方、架橋に伴う異物反応は、実質的に問題にならないレベルであり、このことは、異物巨細胞が生体内に埋入した足場材料内にほとんど存在しないことから確認できる。

【0020】
コラーゲンの由来としては、ウシ、ブタ、ニワトリなどの脊椎動物が挙げられ、いずれの由来のコラーゲンを使用してもよく、2種以上のコラーゲンを併用してもよい。

【0021】
コラーゲン繊維の懸濁液は、変性しない程度の温度(例えば37℃以下)で調製することが好ましい。市販のコラーゲン繊維を使用する場合にはコラーゲン繊維を中性領域の水に懸濁し、必要に応じてミキサー、ホモジナイザーなどによりコラーゲン繊維を均一に分散させることで、コラーゲン分散液を調製できる。コラーゲン繊維の凝集物、塊状物などを原料として用いる場合、水を溶媒として用い、これらを解繊してコラーゲン繊維をバラバラにするのが好ましい。コラーゲン繊維の凝集物、塊状物が足場材料に含まれると、そこが行き止まりになって細胞、血管などの浸潤が抑制される。なお、コラーゲン繊維の懸濁液は中性領域の水中で調製するのが望ましいが、例えばpH3~6.5未満の酸性領域でコラーゲン分子の溶液を調製し、この溶液のpHを中性領域に調整してコラーゲン分子をコラーゲン繊維に変換し、コラーゲン繊維の懸濁液としてもよい。

【0022】
コラーゲン繊維の濃度は、例えば重量で0.3~8%程度、好ましくは0.5~6%程度、より好ましくは1~5%程度、さらに好ましくは1~4%程度、特に1~3%程度である。コラーゲン繊維の濃度が高すぎると粘度が高くなり、配向度が低くなる傾向にある。コラーゲン繊維の濃度が高くなると、足場材料におけるコラーゲン繊維の径が太くなり、強度が高くなるが、細孔径にはあまり影響しない。

【0023】
コラーゲン繊維の懸濁液は、1つの面が冷却可能な容器に入れて凍結後、凍結乾燥されるのが好ましい。例えば図3では、底面をアルミ板で構成し、底面のみを冷却可能とした容器が示されている。このような容器にコラーゲン懸濁液を入れて凍結すると、コラーゲン繊維を底面から鉛直方向に配向させることができる。凍結温度は、容器の大きさやコラーゲン繊維の濃度などによっても変化し、特に限定されないが、例えば-80℃~-1℃程度、好ましくは-50℃~-3℃程度、より好ましくは-30℃~-5℃程度、特に-20℃~-5℃程度である。凍結温度が低すぎると多孔性足場材料の孔径が小さくなり、細胞、血管などの足場材料への浸潤が遅くなるか、阻止される。例えば-196℃コラーゲン繊維の懸濁液を瞬間的に凍結させた場合、孔径が小さくなりすぎて細胞、血管などは足場材料にほとんど入らなかった。図3に示す小さな容器で3%程度のコラーゲン繊維の懸濁液の濃度の場合、凍結温度は-20℃~-10℃程度、特に-10℃程度が好ましいことが明らかになった。

【0024】
コラーゲン繊維懸濁液の凍結後に凍結乾燥させ、その後熱処理する。凍結乾燥は常法に従い行うことができる。得られた凍結乾燥物は、100~180℃程度、好ましくは120~150℃程度で0.5~48時間程度、好ましくは1~24時間程度、より好ましくは2~12時間程度熱処理することによりコラーゲン繊維の熱架橋を行うことができる。架橋の条件は足場材料が生体内に埋入したときの急性期の2週間程度その形状を少なくとも一部保持し、かつ、異物巨細胞が足場材料の内部にほとんど或いは全く見られず、実質的に異物反応が生じないように適宜選択することができる。例えば140℃で6時間の熱処理が好ましい条件として例示される。

【0025】
足場材料の細孔径が100~300μmのような十分な大きさがあっても、異物反応があると細胞や血管は足場材料の内部に浸潤するのが遅くなるか、ほとんど浸潤しなくなる。従って、異物反応をなくすことは非常に重要になる。一方、本発明の足場材料は、臓器や組織の欠損部位などに埋め込んで、その中に周囲の細胞、血管などを呼び込んで欠損部位を再生させて使用するためのものであり、周囲の細胞、血管などが足場材料の内部に入り込んで定着するまでの期間(急性期)、例えば2週間程度はその形状を完全にもしくは少なくとも部分的に維持し得ることが求められる。本発明の移植材料は、この相反する2つの要求を高い程度で両立したことで、組織/臓器の再生を良好に行うことができることを明らかにした。再生すべき部位によっては、本発明の足場材料に様々な細胞(例えばiPS細胞、間葉系幹細胞、唾液腺幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝臓前駆細胞、膵島前駆細胞、皮膚組織幹細胞、脂肪細胞前駆細胞、臍帯血細胞などの幹細胞、前駆細胞、或いは臓器ないし組織の修復/再生に有用な細胞)を取り込ませて増殖し、その後組織ないし臓器の修復、再生に必要な部位に埋入して使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1
変性コラーゲン繊維足場材料の作製方法
NMPコラーゲンPS(日本ハム)から、プロトコールに従って、pH7のコラーゲン塊を作製した(I型70~80%及びIII型30~20%)。これを、graterを用いて2×2×2mm3程度の大きさに細切し、そのうちの6gを滅菌ミリQ水200mLに添加した。添加後、Hybrid Mixer(Keyence,HM-500)で2分間攪拌し、その後、4℃の冷蔵庫に30分以上入れて十分に冷却させるという作業を5回繰り返し、均一な3%w/vのコラーゲン繊維懸濁液を作製した。さらに均一な懸濁液にする為に、そのまま4℃の冷蔵庫内に静置した。12時間後、pHを7.4に調節した後、コラーゲン繊維懸濁液をAce Homogenizer(Nissei, HM-500)を用いて、さらに5000 rpmで30分間攪拌した。これは、出来上がったコラーゲン繊維足場材料の内部構造が均一になる様にする為である。ペースト状になった懸濁液を容器に入れ(図3)、-10℃の冷凍庫で12時間冷却した。凍結後、凍結乾燥機で3日間乾燥させ、その後、低圧下(1×10-1Pa)で熱による変性処理(以下の表1に示す条件)を加えて変性コラーゲン繊維足場材料を作製した。
変性コラーゲン繊維足場材料の作製条件
【実施例】
【0027】
【表1】
JP0005955326B2_000002t.gif
【実施例】
【0028】
評価方法
上述の方法で足場材料を作製し1cm×1cm×5mmの大きさに切り出した、コラーゲン繊維足場材料をそれぞれ3匹ずつのラットの背中の皮下に埋入し(図4)、2週間後に以下の2つの点で評価した。
【実施例】
【0029】
(I)強度の評価方法
足場材料は、組織再生の為には、ある程度は体内に留まっていなくてはならない。よって、埋入した足場がどの程度残存しているかを、スコアー化して評価した。結果を表2に示す。
(強度スコア)
1:厚さ0mm。つまり、コラーゲン繊維足場材料は全く残存していない。
2:コラーゲン繊維足場材料は残存しているが、厚さは1mm以下。
3:厚さ1mm以上。
【実施例】
【0030】
一般的に、プレパラート標本を作製する過程に於いて、組織は収縮する。つまり、厚さ5mmのコラーゲン繊維足場材料の皮下埋入直後の組織標本を作製したとしても、プレパラート標本上では厚さは5mmよりも薄くなる。その為、皮下埋入2週間後のコラーゲン繊維足場材料の厚さは、プレパラート上よりも、実際には厚いことになる。本実験に於いては、プレパラート上の厚さでスコアー化して評価した。
【実施例】
【0031】
(II)生体親和性の評価方法
生体が体内に侵入してきた物を異物として認識した場合、マクロファージが動員されて、その排除にあたるが、さらに大きな異物の場合には、マクロファージが融合して異物巨細胞となり、異物の排除にあたる。つまり、異物巨細胞が認められた場合、それらによって取り囲まれた物は、生体が異物として認識したことになる(図5)。そこで、以下のようにスコアー化して、「異物としての度合い」を評価した。結果を表2に示す。
(親和性スコア)
1:埋入コラーゲン繊維足場材料の周囲全般に渡って、異物巨細胞が認められる
2:埋入コラーゲン繊維足場材料の周囲の一部分に異物巨細胞が認められる
3:埋入コラーゲン繊維足場材料の周囲に、異物巨細胞が殆ど認められない
【実施例】
【0032】
【表2】
JP0005955326B2_000003t.gif
【実施例】
【0033】
表2より、皮下埋入2W後に於いても、強度スコア2以上の強度が保たれ、さらに、生体内に於いて親和性スコア3を示すコラーゲン繊維足場材料の作製条件は、変性温度が140℃で、処理時間が6Hの時であることが分かる。その次に、組織親和性を示したのは、変性温度が140℃で、処理時間が9Hの時だった(図6)。変性温度が140℃の場合、処理時間が12H以上では組織親和性は示さなかった。
【実施例】
【0034】
表2中の「評価不能」とは、皮下埋入2週間後の時点で既に溶解している為、評価出来ないという意味である。しかし、これは変性が十分にされていなかったことを意味し、つまりは、組織親和性が良好であることに繋がる為、評価不能は親和性スコア3とした。
【実施例】
【0035】
考察
コラーゲン分子は、いわゆるトロポコラーゲンと呼ばれ、アミノ酸約1000残基からなるポリペプチド鎖(α鎖)が3本集まって構成されている。3本のα鎖は、それぞれ左巻きのらせん構造をとっているが、3本が寄り集まると、全体としては周期が104Åのゆっくりとした右巻き構造をとる。この構造をコイルドコイル構造または、スーパーヘリックス構造と呼ぶ。コラーゲン分子は5つ集まってコラーゲンミクロフィブリルを形成し、それらがさらにより集まってコラーゲンフィブリルを形成する。コラーゲン繊維とは、このコラーゲンフィブリルが集合して出来たものである。コラーゲン繊維の主な抗原決定基は、コラーゲン分子両端に存在する非らせん構造のテロペプチドの部分に存在し、その他の部分は、動物種間で大きな違いはない。本実験で用いたコラーゲンは、抗原性を有するテロペプチドの部分をペプシンを用いて取り除いたアテロコラーゲンである。熱による変性処理を加えないコラーゲン繊維足場材料を皮下に埋入した場合、1週間後の親和性スコアは3であることより、アテロコラーゲンの組織親和性は非常に高いことが分かる(図7)。しかし、強度が弱く、皮下埋入2週間後には、ほぼ溶解し、組織再生の為の十分な空間を確保することが出来なかった。一方、140℃で24Hの変性処理を施すと、強度は強くなり組織再生の為の空間は十分に確保されたが、コラーゲン繊維足場材料の抗原性は増した。つまり、コラーゲン繊維足場材料は生体にとっての異物として認識され、組織親和性は悪くなった(図8)。これらより、強度と組織親和性は、反比例関係にあることが分かる。つまり、本実験で見出した条件は、コラーゲン繊維足場材料の変性によって生じる抗原性を極力押さえ、しかも、ある程度の強度を持たせる条件であると言えるので、図中のラインA以上かつラインB以上の処理時間が6Hに近いものと推察される(図9)。
【実施例】
【0036】
コラーゲン繊維足場材料内に細胞が浸潤する際、細胞はコラーゲン繊維に沿って浸潤する(図10)。その為、足場材料内のコラーゲン繊維に配向性を持たせると、足場材料内への細胞の浸潤性が良くなる。このことは、新生血管の形成しやすさにも繋がると考えられる。組織再生の場に、血流が確保されることは、そこに浸潤してきた細胞を維持する上で大切なことである。また、細胞を播種した状態のコラーゲン繊維足場材料を組織再生の場に移植するような場合、播種された細胞が死滅しないようにする為にも、移植早期に足場材料内に血管が侵入してくることが必要である。よって、足場材料内のコラーゲン繊維に配向性を持たせることは、組織の再生にとって有利に働くものと考えられる。
【実施例】
【0037】
本実施例では、組織再生の為の足場として強度があり、さらに組織親和性に優れている条件は、変性温度が140℃で、処理時間が6Hの時だと結論付けた。さらに、その次に望ましいであろう作製条件は、変性温度が140℃で、処理時間が9Hの時だと推察した。この2つの条件で作製した足場材料を皮下に埋入して2W後および3W後に評価してみると、厚さは140℃-9Hで処理した足場材料の方が、2W後・3W後共に厚かったが、組織親和性は、140℃-6Hで処理した方が良く、それは、2W後よりも3W後の方が、さらに良くなっていた。140℃-9Hで処理した足場材料には、皮下埋入3W後でも異物巨細胞が認められた(図11)。このことより、改めて図9の傾向が正しいことが証明され、140℃-6Hで処理した足場材料には、組織親和性が保たれていることが分かった。
【実施例】
【0038】
ここで、図9に変性温度が100℃および120℃のラインを結果を元に追加してみる(図12)。すると、変性温度が120℃の場合でも、6H以上24H未満の間に、足場材料に耐久性があり、しかも組織親和性が保たれている処理時間xがあることが推察される。つまり、本実験で作製された足場材料と同じような足場材料を作製する条件が、他にもいくつかあるものと思われる。140℃-6Hと言う条件は、その中の一つである。変性温度50℃で処理時間が48Hの足場材料で調べた別の実験結果によると、組織親和性は保たれていたものの、強度的には弱いものであった。しかし、この場合でも、処理時間を48H以上にすれば、本実験で得られた足場材料と同じような足場材料が得られる可能性がある。
【実施例】
【0039】
実施例2
コラーゲン繊維の懸濁液中の濃度が重量で3%、凍結温度が-20℃、熱処理が140℃、6時間で得られた足場材料の縦断面図(図13)のSEM写真を示す。
【実施例】
【0040】
図13に示されるように、本発明の多孔性足場材料は、コラーゲン繊維が1方向に配向し、コラーゲン繊維に沿って細孔が形成された構造を有することが明らかである。
【実施例】
【0041】
実施例3
実施例1に記載の製造条件に従い、変性処理を140℃、6時間で実施して得た複数の多孔性足場材料のサンプルについてを10mm×10mm×高さ5mmの大きさに切り出し、圧縮試験機(小型卓上試験機 EZ Test, EZ-S, 20N, 島津製作所)を用いて、荷重が19Nに達するまで1mm/分の速さで圧縮し応力-ひずみ曲線を得た。圧縮弾性率は、曲線上での弾性領域でひずみが0.5に近い部分の直線に於ける応力とひずみの比率として計算した。その結果、圧縮弾性率は、最小値が0.29MPa、最大値が0.42MPaであり、全てのサンプルは、圧縮弾性率が0.29~0.42MPaの範囲内であった。これらのサンプルは全て良好な強度と生体親和性を有することを確認した。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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