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明細書 :電気銅の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5612145号 (P5612145)
公開番号 特開2014-173116 (P2014-173116A)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
公開日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明の名称または考案の名称 電気銅の製造方法
国際特許分類 C25C   1/12        (2006.01)
C22C   9/00        (2006.01)
FI C25C 1/12
C22C 9/00
請求項の数または発明の数 17
全頁数 14
出願番号 特願2013-045806 (P2013-045806)
出願日 平成25年3月7日(2013.3.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 資源・素材学会 平成24年度資源・素材関係学協会 合同秋季大会 主催者名:社団法人 資源・素材学会 秋田大学手形キャンパス 開催日 平成24年9月11日~9月13日 発表日 平成24年9月11日
審査請求日 平成26年3月19日(2014.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】下川 公博
【氏名】邑瀬 邦明
【氏名】北田 敦
【氏名】糟野 貴史
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000523、【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
審査官 【審査官】國方 康伸
参考文献・文献 特開平06-172881(JP,A)
特開平01-139788(JP,A)
特開平02-185990(JP,A)
特開2008-297565(JP,A)
調査した分野 C25C 1/12
C22C 9/00
特許請求の範囲 【請求項1】
Agを含む粗銅をアノードとして用い、アノード電位をAg溶出電位に対して相対的に低い電位に保持しながら、粗銅中に、Cuより卑な金属を存在させることで、Agの浸漬電位を低下させた状態で、且つ、硫酸酸性下で電解を行う工程を含む電気銅の製造方法。
【請求項2】
前記金属が、Pbである請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項3】
前記金属の品位を増加させた前記粗銅をアノードとして用いて電解を行う請求項1又は2に記載の電気銅の製造方法。
【請求項4】
前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが0.5以上である請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項5】
前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが2.0以上である請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項6】
前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが3.0以上である請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項7】
前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが5.0以上である請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項8】
解液中にAgを含む殿物が存在しており、前記殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属を電極以外の形態で電解液中に固体で存在させ、前記殿物中のAgと電気的に導通した状態で前記電解を行う請求項1~のいずれかに記載の電気銅の製造方法。
【請求項9】
前記殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属が、Pb及びCuからなる群から選択される1種又は2種である請求項に記載の電気銅の製造方法。
【請求項10】
前記電解は電解槽内で行われており、前記電解槽の電解液と接する領域の少なくとも一部が前記金属を用いた材料で形成されている請求項1~のいずれかに記載の電気銅の製造方法。
【請求項11】
前記電解を、Agイオンと結合してAg化合物を形成するイオンを供出する添加剤を含んだ電解液を用いて行う請求項1~10のいずれかに記載の電気銅の製造方法。
【請求項12】
前記添加剤が、チオ尿素及び塩化物イオンからなる群から選択される1種又は2種である請求項11に記載の電気銅の製造方法。
【請求項13】
Agを含む粗銅をアノードとして用い、電解液中の溶存酸素濃度を3mg/L以下に保持しながら、Agイオンと結合してAg化合物を形成するイオンを供出する添加剤であるチオ尿素を含んだ電解液を用いて、硫酸酸性下で電解を行う工程を含む電気銅の製造方法。
【請求項14】
前記電解液中の溶存酸素濃度の制御として、不活性ガスを用いた電解液のバブリングによる脱酸素処理を行う請求項13に記載の電気銅の製造方法。
【請求項15】
前記不活性ガスとして、酸素プラントから廃棄された窒素ガスを利用する請求項14に記載の電気銅の製造方法。
【請求項16】
前記電解は電解槽内で行われており、電解液に酸素を含む気体が気泡として混合することを防ぐ構造を備えた電解液の循環径路を用いて電解を行うことで、前記電解液中の溶存酸素濃度の制御を行う請求項1315のいずれかに記載の電気銅の製造方法。
【請求項17】
前記電解液が、前記添加剤として更に塩化物イオンを含む請求項13~16のいずれかに記載の電気銅の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は電気銅の製造方法に関し、とりわけ電解液のAg濃度を抑制することでAg品位の低い電気銅を製造するのに有用な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、電気銅の製造においては、銅品位が99%程度に精製された粗銅を用い硫酸系電解液中で電解精製している。粗銅中に不純物として含まれる金や銀といった貴金属はアノードスライムとして沈殿し、これらの回収率を上げることがプロセス全体の利益の向上につながる。
【0003】
もし、貴金属がアノードスライムに移行せず、電気銅中に取り込まれることがあれば、それは製品としての貴金属のロスとなることから、電気銅中のAg品位を低減するための有用な技術が求められている。現在、パンパシフィック・カッパー株式会社佐賀関製錬所では、電気銅中の銀品位(銀含有量)は10ppm程度である。これを5ppmにまで低減できれば、年間1トンの銀の増産につながると試算される。
【0004】
Agが電気銅中に取り込まれる原因として、アノードスライムの機械的な「巻き込み」も考えられるが、電解液に溶解したAgイオンがカソードで還元電着することも考えられる。電解液中のAgイオンを電解スライム化して電気銅中のAg品位を低減する方法の一つとして、電解液に微量の塩化物イオンを添加し、塩化銀の形でAgを電解スライムとして沈澱採取する方法が知られており、電解液中の塩化物イオン濃度を30mg/Lより高く60mg/L以下とし、且つ、カソード近傍の電解液温度を55℃以下に調整することで、塩化銀の溶解度を低下させ、銀イオンのスライム化を促進する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
このように、電気銅中のAg品位を抑制する方法は知られているものの、そもそもAgの溶出機構は十分に解明されていなかった。特許文献2には硫酸電解浴において電気銅を陽極としての再電解により高純度電気銅を製造するに当たり、電解液中の溶存酸素を3.0mg/L以下に保持することが提示されている。しかしながら、当該技術は、粗銅をアノードとして電気銅を製造する場合と条件が異なる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平8-176878号公報
【特許文献2】特開平1-139788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献1のように銅電解精製におけるAg回収率を向上させる技術や、特許文献2のように電気銅を作製するために、電気銅中のAg品位を抑制する技術については提案されているが、粗銅の電気分解において、粗銅からのAgの溶出を抑制して高品位の電気銅を作製する方法は別の技術であり、当該方法については未だ改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電解液のAg濃度を良好に抑制することでAg品位の低い電気銅を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、Agの溶出電位を粗銅であるアノードの電位に対して相対的に高い電位に保持しながら電解を行うこと、或いは、電解液中の溶存酸素濃度を所定値以下に保持しながら電解を行うことにより、電解液のAg濃度を良好に抑制することができることを見出した。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Agを含む粗銅をアノードとして用い、アノード電位をAg溶出電位に対して相対的に低い電位に保持しながら、硫酸酸性下で電解を行う工程を含む電気銅の製造方法である。
【0011】
本発明の電気銅の製造方法は一実施形態において、電解液中に、CuまたはCuより卑な金属を存在させることで、Agの浸漬電位を低下させた状態で前記電解を行う。
【0012】
本発明の電気銅の製造方法は別の一実施形態において、前記金属が、Pb及びCuからなる群から選択される1種又は2種である。
【0013】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記金属を電解液中に固体で存在させる。
【0014】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解液中にAgを含む殿物が存在しており、前記殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属を、前記殿物中のAgと電気的に導通した状態で前記電解を行う。
【0015】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属が、Pb及びCuからなる群から選択される1種又は2種である。
【0016】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解は電解槽内で行われており、前記電解槽の電解液と接する領域の少なくとも一部が前記金属を用いた材料で形成されている。
【0017】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記金属の品位を増加させた前記粗銅をアノードとして用いて電解を行う。
【0018】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが0.5以上である。
【0019】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが2.0以上である。
【0020】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが3.0以上である。
【0021】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記アノードとして用いる粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが5.0以上である。
【0022】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解を、Agイオンと結合してAg化合物を形成するイオンを供出する添加剤を含んだ電解液を用いて行う。
【0023】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記添加剤が、チオ尿素及び塩化物イオンからなる群から選択される1種又は2種である。
【0024】
本発明は別の一側面において、Agを含む粗銅をアノードとして用い、電解液中の溶存酸素濃度を3mg/L以下に保持しながら、硫酸酸性下で電解を行う工程を含む電気銅の製造方法である。
【0025】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解液中の溶存酸素濃度の制御として、不活性ガスを用いた電解液のバブリングによる脱酸素処理を行う。
【0026】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記不活性ガスとして、酸素プラントから廃棄された窒素ガスを利用する。
【0027】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解は電解槽内で行われており、電解液に酸素を含む気体が気泡として混合することを防ぐ構造を備えた電解液の循環径路を用いて電解を行うことで、前記電解液中の溶存酸素濃度の制御を行う。
【0028】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解を、Agイオンと結合してAg化合物を形成するイオンを供出する添加剤を含んだ電解液を用いて行う。
【0029】
本発明の電気銅の製造方法は更に別の一実施形態において、前記添加剤が、チオ尿素及び塩化物イオンからなる群から選択される1種又は2種である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電解液のAg濃度を良好に抑制することでAg品位の低い電気銅を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】通常の銅電解精製時のアノード電位とCuの電位pH図である。
【図2】通常の銅電解精製時のアノード電位とAgの電位pH図である。
【図3】実施例の溶存酸素の影響の調査試験における銅電解液を設けた導電性のない容器の模式図である。
【図4】例1の溶存酸素の影響の調査試験における撹拌開始からの時間と液中のAg濃度の推移を示す図である。
【図5】例2の鉛もしくは銅との接触の影響の調査試験における、Ag板と、Pb板又はCu板とを短絡させた場合のAg板の浸漬電位を示す図である。
【図6】例4の粗銅のPb/Agと電気銅のAg品位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る電気銅の製造方法の実施形態を詳細に説明する。

【0033】
<アノード>
本発明に係る電気銅の製造方法における電解精製に使用されるアノードは、転炉工程で得られる銅品位93~99質量%程度、典型的には97~99質量%の粗銅を酸化製錬、還元処理をした後に鋳造したものであり、通常は板状である。限定的ではないが、粗銅中のAg品位は一般に300~1000g/t程度である。

【0034】
<カソード>
本発明に係る電気銅の製造方法における電解精製に使用されるカソードとしては、限定的ではないが、種板を使用する方法の他、ステンレス板を使用してその表面に銅を電着させるパーマネントカソード法(PC法)と呼ばれる方式によるものが挙げられる。パーマネントカソードの材料としては特に制限はないが、電解液に対して不溶性であることからチタンやステンレスを用いるのが一般的であり、コストが安価で済むことからステンレスを用いるのが好ましい。ステンレスとしては特に制限はなく、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼、及び析出硬化ステンレス鋼の何れを用いても良い。

【0035】
<電解液>
本発明に係る電気銅の製造方法では、銅の電解精製を行うため、硫酸系電解液を使用することができる。限定的ではないが、一般には、硫酸濃度は120~220g/L、Cuイオン濃度は40~60g/Lの範囲にある。典型的には、硫酸濃度は160~180g/L、Cuイオン濃度は45~55g/Lの範囲にある。
銅の電解精製を行う場合には、一般的に、電解液中に添加剤が添加される。添加剤は、陰極板における銅の析出状態改善等のために用いられる。例えば、有機物系の添加剤としては、ニカワ、ゼラチン、リグニン(パルプ廃液)などのように保護コロイドを形成するような添加剤と、チオ尿素やアロインのような官能基を有する有機物などが共用される。一般に、析出の際の活性化分極は添加剤によって増加し、分極を大きくすることで均一電着性が向上するので、析出金属は緻密で表面が均一なものを得ることができる。
また、粗銅から溶解した銀イオンが電気銅中に取り込まれないようにするため、更には、有価物であるAgを回収するため、電解液中に銀イオンと結合してAg化合物を形成するイオンを供出する添加剤を加えて電解することが好ましい。添加剤としては、チオ尿素及び塩化物イオンからなる群から選択される1種又は2種が好ましい。特に、チオ尿素及び塩化物イオンは、電気銅の表面平滑化や均一電着を可能とする点でより好ましい。チオ尿素の分解によって発生する硫黄酸化物や、塩化物イオンと銀イオンが結合し、Ag粒子表面にAg化合物の皮膜を形成することにより、Agの酸化溶解を抑制することができる。このとき、チオ尿素を添加する場合は、電解液中のチオ尿素濃度は好ましくは2~8mg/Lであり、典型的には3~5mg/Lである。また、塩化物イオン供出源として塩酸を添加する場合は、電解液中の塩化物イオン濃度は、限定的ではないが、30~80mg/L程度であり、典型的には50~70mg/L程度である。このとき、AgCl(固体)の溶解度積(Ksp)は、1.6×10-10であるため、最適な電解液中の塩化物イオン濃度は、電解液中の銀イオン濃度との関係で調整することができる。

【0036】
<電解精製>
工業的な電気銅製造プロセスにおいては、カソードとアノードとが複数(例えば、各40~60枚)装入された電解槽が複数設置されており、銅電解液が電解槽に連続的に供給され、オーバーフローにより連続的に排出される。

【0037】
通常の銅電解精製時のアノード電位と、Cu及びAgの電位pH図を図1、図2に示す。通常のアノード電位は+0.37~0.40V(vs.SHE)となるので、図1のようにアノードのCuはCu2+の形態が安定であり溶解するが、Agは熱力学的にはAgの形態が安定のため溶出しないはずである。しかしながら、実際には電解液のAg濃度は電解を続けるにつれて上昇することから何らかの要因で電解液に溶出していると考えられる。粗銅からの電気銅の製造においては、粗銅からこのようにAgが溶出すると、電気銅にAgが不純物として混入し、電気銅の品位が低下する。そこで、本発明の電気銅の製造方法の電解精製においては、Agを含む粗銅をアノードとして用い、アノード電位をAg溶出電位に対して相対的に低い電位に保持しながら、硫酸酸性下で電解を行う。このような構成により、Agの電解液への溶出を良好に抑制することができる。ここで、「アノード電位」とは、電気分解によって電流が流れている場合の、アノード側の電位を示し、アノードの定点と参照電極(例えば銀-塩化銀電極)とを接続して得られる電位である。「Ag溶出電位」とは、粗銅中に含まれる固体のAgが電子を放出し、電解液中に溶出するために必要な電子エネルギーのレベルを示す。Agの溶出電位は0.79Vであるが、Agの溶出を抑えるためには、Ag溶出電位より低い電位でコントロールするか、あるいは犠牲電極の原理(Agの溶出電位よりも卑な金属と接触させ、卑な金属のほうが溶出し、Agの溶出は抑えられる)等を使うことが有効である。

【0038】
電解液中に、CuまたはCuより卑な金属を存在させることで、Agの浸漬電位を低下させた状態で電解を行ってもよい。「浸漬電位」とは、アノードとカソードとを電気的に接続して電解液に浸漬させた状態で発生する電位を示す。電解液中に、CuまたはCuより卑な金属を存在させると、異種金属接触腐食現象によって当該金属とAgとの間で電気化学的な相互作用が生じる。このため、イオン化傾向が卑な前記金属の腐食速度が増大する一方、イオン化傾向が貴なAgの腐食速度が減少する。このため、Agの浸漬電位が低下する。このようにAgの浸漬電位を低下させた状態で電解を行うことで、粗銅から電解液へのAgの溶出をより良好に抑制することができる。ここで用いる、CuまたはCuより卑な金属は、例えば、Pb及びCuからなる群から選択される1種又は2種である。また、前記金属を電解液中に固体で存在させてもよい。前記金属は、理論的には電解によって析出しないため、電解液中における濃度の上限は特に限定されない。また、当該濃度の下限値についても、短期的にはアノードや電解殿物と電気的にAgと短絡した状態であればどんなに少量であっても効果がある。ただし、効果を持続させるためにはアノード及び殿物に含まれるAgがAg+に酸化する電子量を補償できるだけの犠牲アノード金属の量が必要となる。例えば、Pbであれば通常2価の陽イオンになるため、Agのモル量の1/2が必要となる。なお、当該金属がPbであって、且つ、アノード中に含まれる際の濃度としては、上限値及び下限値が規定される。アノードには、Pbが一般的には100~5000ppm含まれており、典型的には500~1500ppm含まれている。従って、当該濃度の平均よりも多く含まれる方がよいという観点から、アノード中に含まれるPbの濃度について、下限は1000ppm程度となり、常識的な範囲を超えないという観点から上限は5000ppmとなる。

【0039】
電解のアノードとして用いる粗銅は、Pb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが0.5以上であるのが好ましい。粗銅においてPb/Agを0.5以上に制御することで、電解によって得られる電気銅のAg品位をより効果的に減少させることが可能となる。また、当該粗銅におけるPb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agは、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上、5.0以上とすると、それぞれ電気銅のAg品位の低減という観点から、より好ましい。

【0040】
電解液中にAgを含む殿物が存在しており、殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属を、殿物中のAgと電気的に導通した状態で電解を行ってもよい。殿物からのAgの溶出によっても、電気銅にAgが取り込まれてしまい、電気銅のAg品位が高くなる可能性がある。そのため、Agよりも卑な金属を、殿物中のAgと電気的に導通した状態で電解を行うことで、殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせ、Agの溶出を抑制させる。ここで、殿物は、例えば、粗銅中の貴金属が沈殿してなるアノードスライム等である。殿物中のAgの粒子表面の電位を卑な方向にシフトさせる、Agよりも卑な金属としては、Pb及びCuからなる群から選択される1種又は2種を用いることができる。また、Agよりも卑な金属を、電解液中の殿物中のAgと電気的に導通する手段としては、例えば、電解槽のライニングにPbライニングを施すことで殿物中のAgと電気的に導通させてもよく、電解槽の底にPb板等のPb塊を沈めておいて殿物中のAgと電気的に導通させてもよい。

【0041】
電解は電解槽内で行われており、電解槽の電解液と接する領域の少なくとも一部が前記金属を用いた材料で形成されていてもよい。さらに、前記金属の品位を増加させた粗銅をアノードとして用いて電解を行ってもよい。これらの構成によれば、容易に且つ安定的に電解液中に前記金属を供給することができる。

【0042】
本発明の電気銅の製造方法における電解精製では、Agを含む粗銅をアノードとして用い、電解液中の溶存酸素濃度を3mg/L以下に保持しながら、硫酸酸性下で電解を行ってもよい。本発明者らの検討により、電解の際の電解液中に溶存酸素の量と、粗銅からのAgの溶出量との間に密接な関係があることがわかっている。電解液排出液は、液に過剰に蓄積した銅分や不純物の除去のために造酸電解と呼ばれる工程に送られる場合がある。造酸電解ではアノードにPb板を用いて電解するため、アノードではH2O=1/2O2+2H++2e-の反応が起こり酸素が発生する。このため、造酸電解を経た液は溶存酸素濃度が4~5mg/Lまで上昇する。この溶存酸素濃度を少しでも下げられれば効果がある。このため、溶存酸素濃度を3mg/L以下に保持しながら、硫酸酸性下で電解を行うことで、電解液中の酸化剤が低減し、粗銅から電解液中へのAgの溶出を良好に抑制することができる。また、造酸電解を経ずに電解排液を濾過して戻すだけであれば送液中やろ過工程において空気を巻き込んで溶存酸素が上昇する程度と考えられる。このような場合は、給液前の溶存酸素濃度は約1mg/Lとなっていると考えられる。従って、当該濃度以下であればより効果的である。このため、電解液中の溶存酸素濃度は、1mg/L以下に保持するのが好ましい。さらに、電解排液の溶存酸素濃度は約0.05mg/Lであるため、給液中の溶存酸素濃度が0.1mg/L以下であればほとんど溶存酸素によるAgの溶解は起きないと考えられる。このため、電解液中の溶存酸素濃度は、0.1mg/L以下に保持するのがより好ましい。

【0043】
電解液中の溶存酸素濃度の制御としては、不活性ガスを用いた電解液のバブリングによる脱酸素処理を行うことが挙げられる。このときの不活性ガスとしては、酸素プラントから廃棄している窒素ガスを利用してもよい。より具体的な実施形態としては次のような方法が考えられる。電解液は常に循環しており、各電解槽から排出された液は排液タンクで集合し電解液中の浮遊固形物を除去するためのろ過器を通った後、給液タンクに送液され電解槽に戻される。このときの給液タンクにおいて不活性ガスによりバブリングさせた液を供給することで従来よりも溶存酸素濃度を低下した状態で電解することができる。また、電解液表面から空気中の酸素が溶存することも考えられることから、電解液に酸素を含む気体が気泡として混合することを防ぐ構造を備えた電解液の循環径路を用いて電解を行うことで、継続して電解液中の溶存酸素濃度を抑える方法も考えられる。より具体的には、電解液送液配管から給液タンクに戻す際に、タンク上部から落下させて液を給液するのではなく、タンク底部まで配管することで大気と接触することなく直接電解液内に戻すような構造の電解液の循環経路を用いることが考えられる。さらに、電解液中の溶存酸素濃度の制御として、加圧ポンプ等で電解液を加圧することで脱酸素処理を行ってもよく、脱酸素剤を電解液に添加してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【実施例】
【0045】
(例1:溶存酸素の影響)
図3に調査のために実施した試験の概念図を示す。試験は図3のように導電性のない容器に通常の銅電解液(CuSO4濃度:0.76mol/dm3、H2SO4濃度:1.94mol/dm3、液温度65℃)を300mL加え、その中に銀の粒子(粒径425~850μm)を10g添加して沈積させた状態で、撹拌速度200rpmで撹拌し続けた。このとき、浴温65℃とし、空気バブリング及び窒素バブリング下でそれぞれ6時間、24時間、48時間浸漬した。浸漬後、Ag粒子を回収してマイクロ天秤による重量測定を行った結果、Ag粒子に重量減がみられた。重量減少から計算した銀イオンの溶解量と浸漬時間の関係を図4に示す。
図4に示すように、空気バブリングをさせた場合はAg濃度が時間と共に上昇しAgが溶出していることがわかる。一方、窒素バブリングでは時間が経過してもAg濃度はほぼ一定であり、空気バブリングに比べてAg溶解量は著しく低下した。ICP発光分光分析法による定量結果も傾向は同様であった。以上から、Ag粒子は溶存酸素により徐々にではあるが酸化溶解することが実証された。粗銅中の銀の状態分析をXPSで行った結果、銀は単体Agとして存在していることが明らかになったことと合わせると、アノードスライム中の銀と溶存酸素との酸化還元反応によって溶解した銀イオンがカソードで析出し電気銅のAg品位を高める要因となっていることが確認された。
【実施例】
【0046】
(例2:鉛もしくは銅との接触の影響)
粗銅中のAgとPbとの電気化学的接触により、Agの酸化溶解が抑制されるとの仮説を検証するため、まず、銅電解液(CuSO4濃度:0.76mol/dm3、H2SO4濃度:1.94mol/dm3、液温度65℃)において、Ag板とPb板を短絡した状態でのAg板の浸漬電位を測定した。また粗銅中の銀は銅と接触した状態であることを考慮し、Cu板に関しても同様の測定を行った。電解浴に添加剤は加えず、リード線を用いて短絡を行った。浸漬電位の測定結果を、Ag板のみ、Cu板のみ、Pb板のみの浸漬電位とともに図5に示す。図5によれば、Pb板、Cu板に短絡した際のAg板の浸漬電位は、Ag板のみの浸漬電位からそれぞれ20mVおよび40mV程度卑にシフトしている。これより、PbやCuと接触することによりAgの酸化溶解が抑制される可能性が高いと考えられる。
Pb板およびCu板上にAg粒子をのせた状態で、浴に2日間浸漬させた際の、浴への銀溶解量をICP発光分光分析法にて定量した。なお、いずれの場合も空気を通気した。Pb板やCu板と接触させずに浸漬した際は、溶解量が400ppm程度であったのに対し、接触下で浸漬した際は、いずれも1ppm以下であった。以上から、Pb、Cuと接触することでAgの溶解が抑制されることがわかった。
【実施例】
【0047】
(例3:添加剤の影響)
電解浴中に含まれるチオ尿素、塩化物イオンといった添加剤が、Agの酸化溶解に及ぼす影響を検討するため、添加剤を加えた場合と加えない場合について、それぞれAg粒子の浸漬実験を行った。このとき、電解浴成分は、以下の通りとした。
添加剤を加えた電解浴:CuSO4濃度:0.76mol/dm3、H2SO4濃度:1.94mol/dm3、Cl- 60mg/dm3、チオ尿素 5.0mg/dm3、液温度65℃、液量300mL
添加剤を加えない電解浴:CuSO4濃度:0.76mol/dm3、H2SO4濃度:1.94mol/dm3、液温度65℃、液量300mL
また、それぞれ浸漬する銀粒子は10g(粒径425~850μm)とした。
上記浸漬を2日間行い、浴中の銀溶解量をICP発光分光分析法にて定量した。実験後、回収したAg粒子の表面を観察したところ、添加剤のない浴に浸漬した粒子は実験前と変わらず白色であったのに対し、添加剤を加えた浴では、粒子表面が黒変しているのが肉眼で観察できた。EDXにて表面の成分分析を行ったところ、添加剤を加えたほうの粒子からは、銀60%、塩素35%、硫黄3%の成分が確認された。すなわち、添加剤を加えた電解浴に浸漬したAg粒子では、酸化されたAgの一部が浴中の塩化物イオンやチオ尿素の分解により生成した硫黄成分と化合している可能性が高い。表面の黒変は硫化銀の生成によるものと考えられる。一方、各電解浴での銀溶解量を定量した結果、添加剤を加えない場合は400ppm程度であったのに対し、添加剤を加えた場合は170ppm程度に減少していることがわかった。以上から、浴中に添加剤が含まれる場合は、Ag粒子の表面に塩化銀や硫化銀の被膜が形成され、Agの酸化溶解が抑制されている可能性が高いといえる。
また、添加剤を加えた電解浴で、Pb板やCu板上にAg粒子を配置して2日間浸漬実験を行い、同様に銀溶解量を定量したところ、溶解量は1ppm以下となった。これより、添加剤の有無に関係なく、PbやCuとの接触によってAgの酸化溶解が飛躍的に抑制されることが明らかとなった。このときに回収した粒子は、添加剤を加えた電解浴に浸漬したにも関わらず、表面が黒変しておらず、銅板のAg粒子を配置していた周辺部分が一部黒変しているのが確認された。Pb、Cuとの接触によってAgの酸化が抑制され、付近の鉛や銅が優先的に酸化し、硫酸鉛や硫化銅といった化合物を形成しているためと考えられる。
【実施例】
【0048】
(例4:粗銅のPb/Agの影響)
アノードに用いる粗銅中のPb/Ag品位が電気銅のAg品位に及ぼす影響を検討するため、下記の電解実験を行った。
アノードとして、Pb及びAgを含む粗銅を用いた。粗銅としては、Pb品位(ppm)とAg品位(ppm)との比Pb/Agが異なるものを複数準備した。また、カソードとしてステンレス板を用いた。
次に、硫酸酸性下で電解を行った。電解条件は以下の範囲内に調整した。
・電解液の組成:CuSO4濃度 40~60g/L、H2SO4濃度 160~180g/L、Cl- 50~70mg/dm3、チオ尿素 3~5mg/dm3
電解液の温度:64~67℃
電解槽:長さ1280mm×幅5550mm×深さ1340mm
アノード:縦1060mm×横990mm×厚さ45mmの粗銅を50枚
カソード:縦1040mm×横1040mm×厚さ10mmの種板又はステンレス板を49枚
極間距離:100mm
電解液循環流量:34~36L/min
通電時間:9~10日間
図6に、当該実験で得られた粗銅のPb/Agと電気銅のAg品位との関係を描いたグラフを示す。グラフの直線は、プロットされたデータの近似曲線(y=-1.1504x+14.731、R2=0.3897)を示す。
【実施例】
【0049】
図6より、粗銅中のPb/Agは電気銅Ag品位と負の相関があるため、粗銅中のPb/Agが大きいほうが、電気銅Ag品位が低減できることがわかる。
また、粗銅中のPb/Agが0.5より小さくなると急激に電気銅Ag品位が上昇してしまうことがわかる。
また、粗銅中のPb/Agが2以上、2.5以上、さらには3以上になると、同じPb/Agにおける電気銅Ag品位の変動幅が小さくなり、近似曲線よりも極端に高い電気銅Ag品位が生じなくなるため好ましい。なお、図6において、粗銅中のPb/Agが特に1以上2未満の付近では、粗銅中のPb/Agが2以上である場合に比べて同じPb/Agにおける電気銅Ag品位の変動幅が小さいように見えるが、これは粗銅中のPb/Agが1以上2未満である実験例の数が少ないためであると考えられる。
さらに、粗銅中のPb/Agが4.5以上、さらには5以上になると、電気銅Ag品位について、近似曲線を下回る割合が非常に多くなり、確実にPbを添加することで効果が保証されるという観点から好ましい結果となった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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