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明細書 :植物バイオマスから重金属を除去する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-231058 (P2014-231058A)
公開日 平成26年12月11日(2014.12.11)
発明の名称または考案の名称 植物バイオマスから重金属を除去する方法
国際特許分類 B09B   3/00        (2006.01)
C02F   1/62        (2006.01)
B09C   1/10        (2006.01)
C09K   3/00        (2006.01)
FI B09B 3/00 304Z
C02F 1/62 ZABC
C02F 1/62 D
C02F 1/62 E
C02F 1/62 Z
B09B 3/00 E
C09K 3/00 108C
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 28
出願番号 特願2014-093839 (P2014-093839)
出願日 平成26年4月30日(2014.4.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り
優先権出願番号 2013094945
優先日 平成25年4月30日(2013.4.30)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】頼 泰樹
【氏名】横山 咲
【氏名】進藤 昌
【氏名】服部 浩之
出願人 【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求 未請求
テーマコード 4D004
4D038
Fターム 4D004AA02
4D004AA41
4D004AB03
4D004AC04
4D004BA03
4D004CA04
4D004CA34
4D004CA40
4D004CB04
4D004CB31
4D004CC12
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
4D038AA08
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB71
4D038AB73
4D038AB74
4D038AB87
4D038BB13
4D038BB17
4D038BB18
要約 【課題】ファイトレメディエーション技術による土壌浄化後に収穫されるカドミウム高含有バイオマスの有効な利用技術を提供する。
【解決手段】重金属、特にカドミウムを高度に含む植物バイオマス(稲わら、葉菜、根菜類)に硫酸あるいは塩酸を添加することにより、植物バイオマス中のカドミウムを溶液中に溶解させた後に、ジチオカルバミン酸化合物およびまたは液体キレート樹脂を添加して、酸溶液中のカドミウムを固定、沈殿させ、植物バイオマス中のカドミウムを除去することにより、カドミウムフリーの有用なバイオマス資源を生産する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
重金属を0.4mg/kg以上含むバイオマスを、硫酸および/または塩酸を含む水系溶媒で処理し、重金属を溶媒中に溶出させる工程;
水系溶媒処理物を、固形の残渣と液体の重金属含有液とに分離する工程;
得られた重金属含有液に液体キレート剤を添加して、重金属を捕集する工程
を含む、バイオマス中の重金属を除去する方法。
【請求項2】
得られた重金属含有液のpHが4を超えるように調製した後に液体キレート剤を添加し、かつ液体キレート剤が、ジチオカルバミン酸基を有する水溶性化合物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重金属が、カドミウム、水銀、銅、鉛および亜鉛からなる群より選択されるいずれかである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水系溶媒が、硫酸1.5%以上または塩酸4.0%以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
残渣を洗浄液で洗浄する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
洗浄液が、水または希酸水溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バイオマス1重量部に対し、水系溶媒を2.5~50重量部、洗浄液を2~40重量部用いる、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
バイオマスが、イネ科植物、マメ科植物、アブラナ科植物またはキク科植物由来である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に定義された工程を含み、植物バイオマスが重金属で汚染された土壌で栽培されたものである、土壌からの汚染の除去方法。
【請求項10】
請求項1~10のいずれか1項に定義された工程を含む、エネルギーまたは有用物質の生産のための原料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、稲わらなどの植物バイオマスに含まれる重金属を効率的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛、カドミウム、ヒ素、亜鉛等の重金属成分は、人体や環境に悪影響を与えることはよく知られている。その中でもカドミウムは、廃鉱山や精錬所から土壌に混入し、近郊や河川下流域の水田に汚染された土壌を形成する。汚染された土壌で栽培されたコメには、高い濃度でカドミウムが蓄積されうる。
【0003】
食品衛生法においては、長らく玄米中のカドミウム許容濃度を1ppm未満としてきた。しかし、食品中のカドミウム濃度に関する基準の見直しが世界保健機構(WHO)により推進されるという流れの中で、我が国においては、平成22年に食品衛生法規格基準が改正され、平成23年に施行され、「玄米および精米中にカドミウムとして0.4ppmを超えて含有するものであってはならない」とされている。
【0004】
これらの農産物中のカドミウム濃度規制強化に対して、例えば玄米中のカドミウム濃度を低減させる方法として、汚染されていない土を水田に盛る方法(客土)がある。しかし、この客土法は、コストが非常に高くなることから、経済性の面から継続的に実用化は難しいとされている。そこで、重金属元素を含む汚染土壌の水田にからの重金属除去対策として、従来からいくつかの方法が提案されている。
【0005】
植物を用いた汚染土壌修復技術(ファイトレメディエーション)がある。稲、大豆、アブラナなどのある種の植物は、高濃度の重金属元素を吸収できるので、このような植物を鉛、カドミウム、亜鉛、ヒ素などが存在する汚染土壌地域で栽培して、これらの重金属元素を植物中に取り込ませる。
【0006】
土壌中のカドミウムは、その化学状態によって植物や農作物に吸収される量が大きく異なる。そのため、例えば、土壌を酸素不足の還元状態にすれば、玄米中のカドミウム濃度を低く抑えることが可能となる技術を活用して、出穂期の前後3週間に水田を完全に灌水する方法が取られている。また、カドミウムを含む水田土壌に塩化第二鉄を添加すると、生成する水素イオンと塩化物イオンの働きによって土壌に吸着したカドミウムが効率よく抽出できることが報告されている(特許文献1)。
【0007】
一方、重金属汚染されたバイオマスに対し、クエン酸、酒石酸等のカルボン酸を用いて、バイオマス中の重金属を溶出させる方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、重金属を除去したバイオマスから高純度の非晶質シリカを作成することとしている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2005-169381号公報
【特許文献2】特開2009-39601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法では、水田中で鉄イオンと塩素イオンが生成し、塩素イオンがカドミウムなどの重金属と反応して塩化物を形成する。この方法は、浄化のためのコストが非常に高くなり、かつ余剰に発生した塩素イオンが稲わらに吸収されるといった問題がある。また、特許文献2で使用されるカルボン酸は比較的高価である。
【0010】
そして、一般的なファイトレメディエーション技術においては、汚染された土壌で栽培した植物を収穫した後に焼却処理する。そのため、焼却によって大気中にカドミウムなどの重金属が放出されるといった環境問題を引き起こす可能性が高いという指摘もある。
【0011】
重金属元素を高濃度に蓄積した植物から重金属元素を低コストで、かつ効率的に除去する方法があれば望ましい。また、その方法から生じる生産物(重金属元素を除去した植物バイオマス)は、エネルギーや有用物質生産のための原料として適する形態であるとよい。
【0012】
一方、ホタテのウロやイカの中腸線など一部の魚介類の内臓は、比較的高濃度でカドミウムを含有していることが知られている。そのため、廃棄するには、通常、産業廃棄物として焼却処理するほかない。しかしこれらの内臓はタンパク含量が高く、養殖魚または家畜の飼料、および肥料としてきわめて有用な原料となりうる。したがって、これらの内臓からカドミウムを除去する有効な手段があれば、魚介類の内臓の飼料や肥料としての有効利用が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下を提供する。
[1] 重金属を0.4mg/kg以上含むバイオマス(植物バイオマス、または動物バイオマス)を、硫酸および/または塩酸を含む水系溶媒で処理し、重金属を溶媒中に溶出させる工程;
水系溶媒処理物を、固形の残渣と液体の重金属含有液とに分離する工程;
得られた重金属含有液に、液体キレート剤を添加して、重金属を捕集する工程
を含む、バイオマス中の重金属を除去する方法。
[2] 得られた重金属含有液のpHが4を超えるように調製した後に液体キレート剤を添加し、かつ液体キレート剤が、ジチオカルバミン酸基を有する水溶性化合物を含有する、[1]に記載の方法。
[3] 重金属が、カドミウム、水銀、銅、鉛および亜鉛からなる群より選択されるいずれかである、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 水系溶媒が、硫酸1.5%以上または塩酸4.0%以上を含む、[1]~[3]のいずれか一に記載の方法。
[5] 残渣を洗浄液で洗浄する工程を含む、[1]~[4]のいずれか一に記載の方法。
[6] 洗浄液が、水または希酸水溶液である、[5]に記載の方法。
[7] バイオマス(例えば、植物バイオマス)1重量部に対し、水系溶媒を2.5~50重量部、洗浄液を2~40重量部用いる、[5]または[6]に記載の方法。
[8] バイオマスが、イネ科植物、マメ科植物、アブラナ科植物またはキク科植物由来である、[1]~[7]のいずれか一に記載の方法。
[9] [1]~[8]のいずれか一に定義された工程を含み、植物バイオマスが重金属で汚染された土壌で栽培されたものである、土壌からの汚染の除去方法。
[10] [1]~[8]のいずれか一に定義された工程を含む、エネルギーまたは有用物質の生産のための原料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、重金属(特にカドミウム)を含む植物バイオマスから、硫酸または塩酸を用いて、当該重金属を溶液側に有効に溶出・移行させることができる。さらに得られた重金属溶液から、有効かつ効率的にカドミウムをキレート除去することができる。
【0015】
本発明により得られる重金属を除去した残渣および重金属をキレート除去した溶液は、重金属フリーの原料として、エネルギーまたは有用物質の生産のために用いることができる。
【0016】
本発明により、ファイトレメディエーションを利用した有効な汚染土壌の処理、詳細にはファイトレメディエーションにより生産される植物体がバイオマス資源として利用可能でもある汚染土壌の処理を行うことができる。
【0017】
本発明は、植物バイオマス以外のバイオマスに対しても実施することができる。動物バイオマスに対して実施した場合に、重金属を除去することが可能であるのみならず、豊富にアミノ酸が含まれた溶液も調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】H2SO4による稲わら(長香穀)からのカドミウムの抽出。酸溶液により稲わらを加熱処理した後の、上清中のカドミウム濃度を示した。
【図2】HClによる稲わら(長香穀)からのカドミウム抽出。酸溶液により稲わらを加熱処理した後の上清のカドミウム濃度を示した。
【図3】硫酸溶液を用いた加熱処理、および水または希硫酸溶液を用いた洗浄処理による、植物バイオマスからのカドミウムの除去。硫酸処理後の残渣および洗浄後の残渣のカドミウム濃度を示した。
【図4】カドミウム含有量が異なる稲わらにおける、硫酸処理および洗浄処理によるカドミウムの動態。
【図5】カドミウム含有量が異なる稲わらを硫酸処理および洗浄処理した場合の、カドミウムの液相への移行率。
【図6】ジチオカルバミン酸化合物の添加による植物バイオマスの酸抽出液からのカドミウムイオンの除去。
【図7】液体キレート剤の添加による植物バイオマスの酸抽出液からカドミウムイオンの除去。
【図8】カドミウムを含む稲わらの酸抽出液からのカドミウムイオンの除去。
【図9】カドミウムを含む稲わらの酸抽出液の着色状態。
【図10】カドミウムを含む稲わらからバイオエタノールを製造した場合の、酵素糖化残渣のカドミウム濃度。
【図11】カドミウムを含む稲わらからバイオエタノールを製造した場合の、酵素糖化液のカドミウム濃度。
【図12】希硫酸溶液添加後30分間の振とう処理で抽出されたカドミウム量。
【図13】120℃1時間の加熱処理により溶液中に抽出されたカドミウム量。
【図14】加熱抽出後にpH調整した抽出液中のカドミウム量。
【図15】カドミウム除去処理後の抽出液中のカドミウム量。
【図16】硝酸分解による全量分析。
【図17】固液比1:2で処理した際のCd抽出量。
【図18】1:2の希硫酸添加による振とう処理または加熱処理でのカドミウムの抽出率の違い
【図19】希硫酸添加・加熱処理後にpH調整・カドミウム除去処理を行った溶液中のカドミウム濃度。
【図20】固液比1:2の希硫酸抽出時の抽出液中の各アミノ酸濃度(ppm)
【図21】原材料1kg(湿重)から得られたアミノ酸量(g)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で数値範囲を「n~m」で表す場合は、特に記載した場合を除き、その範囲は両端の値nおよびmを含む。本発明に関し、「x%」や比「y:z」で示された値は、特に記載した場合を除き、重量に基づいて算出された値である。

【0020】
本発明でバイオマスというときは、植物バイオマス、動物バイオマスおよび微生物バイオマスを含む。本発明において、植物バイオマスに含まれるカドミウムの濃度をいうときは、特に記載した場合を除き、その濃度は、植物バイオマスの乾燥重量に基づいて計算された値である。また、本発明で植物バイオマスに関し、重量を表すときは、特に記載した場合を除き、その重量は乾燥物に基づく重量(乾燥重量)である。本発明において、動物バイオマスに含まれるカドミウムの濃度をいうときは、特に記載した場合を除き、その濃度は、水分を含んだ動物バイオマスの重量(湿重または湿重量)に基づいて計算された値である。また、本発明で動物バイオマスに関し、重量を表すときは、特に記載した場合を除き、その重量は水分を含んだ重量(湿重)である。

【0021】
本発明は、重金属を含有する植物体から重金属を除去するために、比較的小量の硫酸または塩酸を用いて、固体である植物バイオマスに代表されるバイオマスからカドミウムを中心とした重金属類をほぼ完全に溶液側に移行させる技術に関するものである。

【0022】
本発明の方法は、下記の工程を含む:
(1) 重金属を0.4mg/kg以上含むバイオマスを、硫酸および/または塩酸を含む水系溶媒で処理し、重金属を溶媒中に溶出させる工程;
(2) 水系溶媒処理物を、固形の残渣と液体の重金属含有液とに分離する工程;
(3) 得られた重金属含有液に、液体キレート剤を添加して、重金属を捕集する工程。

【0023】
工程(1)は、バイオマスから、重金属を溶媒中に溶出させる工程である。用いる水系溶媒は、硫酸および/または塩酸を含む。好ましい溶媒の例は、硫酸水溶液または塩酸水溶液である。硫酸を用いる場合、濃度は、0.50%以上とすることができ、1.00%以上とすることが好ましく、1.25%以上とすることがより好ましい。重金属を95%以上、水系溶媒中に移行させるとの観点からは、1.50%以上とすることが好ましく、1.75%とすることがより好ましく、2.00%とすることがさらに好ましい。塩酸を用いる場合、濃度は、1.00%以上とすることができ、2.00%以上とすることが好ましく、2.50%以上とすることがより好ましい。重金属を95%以上、水系溶媒中に移行させるとの観点からは、4.00%以上とすることが好ましく、4.39%とすることがより好ましく、6.58%とすることがさらに好ましい。酸濃度は、重金属含量を減じた生産物をエネルギーまたは有用物質生産のために用いるとの観点から、バイオマスに含まれる多糖類分解のためにも適した濃度とすることができる。

【0024】
工程(1)における植物バイオマスと水系溶媒の比は、当業者であれば抽出効率、生じる重金属含有液の量等を考慮して適宜設計することができる。例えば、2.00%以上の濃度の硫酸および/または6.50%以上の濃度の塩酸を用いる場合には、植物バイオマス1重量部に対して、2~20重量部用いることができ、2.5~15重量部用いることが好ましく、3~10重量部用いることがより好ましい。

【0025】
工程(1)における動物バイオマスと水系溶媒の比は、当業者であれば抽出効率、生じる重金属含有液の量等を考慮して適宜設計することができる。例えば、1.00%以上の濃度の硫酸を用いる場合には、動物バイオマス1重量部に対して、1.0~20重量部用いることができ、1.5~15重量部用いることが好ましく、1.8~10重量部用いることがより好ましい。

【0026】
工程(1)は、環境温度で実施することができるが、加熱下で、例えば80~121℃で実施することができる。必要に応じ、加圧してもよい。処理時間は、温度にも拠り、抽出率を勘案して適宜設計することができるが、80~121℃で実施する場合、数分間~数時間、例えば10~240分間とすることができる。

【0027】
工程(2)は、水系溶媒処理物を、固形の残渣と液体の重金属含有液とに分離する工程である。固液分離のための手段は、同様の目的で用いられる従来法を適宜適用することができる。従来技術の固液分離手段には、例えば、沈降分離、ろ過分離(膜分離)、遠心分離等がある。

【0028】
得られる液相、すなわち重金属含有液は、工程(3)に供される。

【0029】
得られる固相、すなわち残渣は、洗浄工程に供してもよい。洗浄工程を実施する場合、洗浄液としては、水または希酸水溶液を用いることが好ましい。洗浄工程を実施する好ましい場合の一つは、対象が植物バイオマスである場合である。

【0030】
洗浄工程を実施する場合、残渣と水系溶媒の比は、当業者であれば抽出効率、生じる重金属含有液の量等を考慮して適宜設計することができる。例えば、2.00%以上の濃度の硫酸および/または6.50%以上の濃度の塩酸を用いる場合には、植物バイオマス1重量部に対して、2~20重量部用いることができ、2.5~15重量部用いることが好ましく、3~10重量部用いることがより好ましい。重金属含有量を最終的に得られる残渣の乾燥重量当たり0.2ppm以下とするためには、出発バイオマス1重量部に対し、1.5%以下の濃度の硫酸溶液を溶媒として工程(1)を実施した場合は、1%以下(好ましくは0.5%以上)の希硫酸溶液の2重量部以上(例えば、4重量部)で洗浄することが好ましく、1.6%以上の硫酸溶液で工程(1)を実施したときには、水または希硫酸(例えば、1%以下、好ましくは0.5%以下、例えば0.25%以下)の1.5重量部以上(例えば3重量部)で洗浄することが好ましい。工程(1)で得られる液相と洗浄工程から得られる洗浄液とを合わせて、出発植物バイオマス1重量部に対し、20重量部以下となるように設計することが好ましく、15重量部以下とすることがより好ましく、10重量部以下とすることがさらに好ましい。

【0031】
最適条件の一つは、植物バイオマスに対し、1.5~3%硫酸を1:4~8(w/w)で添加し、100~130℃、30~120分間の処理を行った後に、固液分離し、得られた残渣を出発植物バイオマス2~6倍量の純水で洗浄を行うことである。この条件により、カドミウムを含む植物バイオマスの10倍量(重量)の溶液で、カドミウムを十分に除去できる。
洗浄液は、重金属含有液に加えて、次の工程(3)に供することができる。

【0032】
工程(3)は、得られた重金属含有液(洗浄液を含むことがある。)に、液体キレート剤を添加して、重金属を捕集する工程である。通常の廃水からの重金属除去に際しては、固体の樹脂にキレート基を結合したキレート樹脂を用いることが有効である。キレート樹脂は、重金属を選択的に吸着でき、かつ、液相からの除去も容易だからである。しかしながら、本発明者らの検討によると、有機物系の溶解物が多く含まれると考えられるバイオマスの酸抽出物においては、キレート樹脂ではなく液体のキレート剤を用いることにより、より効率的に重金属の捕集が行えることが分かった。

【0033】
したがって、本発明の方法においては、液体キレート剤を用いる。本発明で「液体キレート剤」というときは、特に記載した場合を除き、キレート形成基を有する有効成分が水溶性であるキレート剤をいう。液体キレート剤は、典型的には、水溶性の有効成分を水系溶媒に溶解した溶液状であるが、有効成分である水溶性物質そのもの(固体)であってもよい。

【0034】
本発明の方法においては、液体キレート剤のうち特に、ジチオカルバミン酸の金属塩、ジチオカルバミン酸基を有する水溶性の高分子化合物、ジチオカルバミン酸基を分子内に2個以上有する化合物の金属塩(具体的には、ジエチルジチオカルバミン酸のカリウム塩、N1,N2,N3,N5-テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミンの金属塩)、ピペラジンビスジチオカルバミン酸の金属塩(例えばジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート)、ジエチルアミン系キレート剤(例えば、カリウム=ジエチルアミン-N-カルボジチオアート)、硫化ソーダ、水硫化ソーダ、チオール系化合物(例えばチオール基を有する水溶性の高分子化合物(例えば、平均分子量80,000~120,000))等を好適に用いることができる。なお、本発明に関し、金属塩というときは、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、またはアンモニウムとの塩が使用でき、この内、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシム、カルシウム、バリウム、アンモニウムとの塩が好ましく用いられる。

【0035】
本発明者らの検討によると、液体キレート剤としては、キレート形成基としてチオカルバミン酸基を有するものを用いることが特に好適であることが確認されている。このような例は、ジチオカルバミン酸の金属塩、ジチオカルバミン酸基を有する水溶性の高分子化合物(例えば、平均分子量80,000~120,000)、およびチオカルバミン酸塩がある。より具体的な例として、タイキレートF-1(大明化学工業株式会社)、ジチオカルバミン酸の金属塩がある。

【0036】
ジチオカルバミン酸(ジアルキルジチオカルバミン酸ということもある。)の金属塩は、下記の構造で表される。
【化1】
JP2014231058A_000002t.gif

【0037】
R1およびR2は、低級アルキル基、または芳香族基であり、同じ基であっても異なる基であってもよい。よい具体的な例としては、ジメチルジチオカルバミン酸のナトリウム塩、ジエチルジチオカルバミン酸のナトリウム塩、ジベンジルジチオカルバミン酸のナトリウム塩が挙げられる。

【0038】
液体キレート剤としては、キレート形成基としてチオカルバミン酸基を有するものを用いる場合、添加する前に溶液のpH調整が行われていることが好ましい。調整後の好ましいpHは、4~10である。pH調整のためには、NaOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、FeCl2、FeCl3、Al2(SO4)3等を用いることができる。液体キレート剤の添加量は、当業者であれば、適宜決定できる。事前に模擬液を準備して確認することにより、より適切な添加量を決定することができる。例えば、上述したジチオカルバミン酸(ジアルキルジチオカルバミン酸ということもある。)の金属塩を用いる場合、溶液中の濃度が0.01~10.0mM、好ましくは0.1~1.0mMとなるように添加することができる。

【0039】
工程(3)は、環境温度で実施することができる。必要に応じ、撹拌しながら実施してもよい。処理時間は、重金属濃度、キレート剤濃度、キレート率を勘案して適宜設計することができるが、撹拌しながら、数分間~数時間、例えば5~240分間とすることができる。

【0040】
工程(3)により、工程(2)から得られた重金属含有液に含まれる重金属はキレート捕集される。キレート捕集した溶液には、必要であれば、高分子凝集剤等を添加してもよい。そして、キレート捕集された重金属は、従来技術の固液分離手段、例えば、沈降分離、ろ過分離(膜分離)、遠心分離等により、除去することができる。

【0041】
本発明の方法においては、植物バイオマスとして、ファイトレメディエーションに用いられた植物体を用いることができる。植物体は、イネ科植物(例えば、イネ、ソルガム、トウモロコシ、コムギ、)、マメ科植物(例えば、大豆)、キク科植物(例えば、ひまわり)、アブラナ科植物(例えば、ハクサンハタザオ、菜種、アブラナ、カラシナ(Brassica juncea)、アビシニアガラシ(Brassica carinata))、イノモトソウ科植物(例えば、モエジマシダ)、ヒユ科植物(例えば、アマランサス)、またはアカザ科植物(例えば、アカザ)由来であり得る。好ましくは、本発明に用いられる植物バイオマスは、イネ科植物、マメ科植物、アブラナ科植物、またはキク科植物由来である。他の例としては、インディアンマスタード、グンバイナズナ、アルファルファ、アセイタカアワダチソウ、ケナフ、ポプラ、トールフェスク、ホテイアオイ、緑豆、ヨシ、マツ、トウヒ等が挙げられる。また、遺伝子組み換えされた植物も利用することができる。植物の栽培方法には特に制限はない。

【0042】
本発明の方法においては、動物バイオマスとして、魚介類を用いることができる。魚介類は、魚類(軟骨魚類、硬骨魚類)、無顎類(ヤツメウナギ)、貝類、頭足類、棘皮動物、甲殻類、刺胞動物等であり得る。

【0043】
本発明の方法において用いられる植物バイオマスは、植物体の任意の部分に由来することができる。植物体全体を用いてもよく、地上部のみを用いてもよく、また、茎、葉、花、実、種)、もみ殻等の、植物体の一部を用いてもよい。回収・収穫の方法には特に制限はない。回収・収穫された植物バイオマスは、乾燥処理されていてもよい。

【0044】
本発明の方法において用いられる動物バイオマスは、動物体の任意の部分に由来することができる。動物体全体を用いてもよく、動物体の一部、例えば内臓、を用いることもできる。本発明に用いられる動物バイオマスの好ましい例は、ホタテ、イカ、タコ等の内臓(例えば、中腸線、エラ、生殖巣)である。

【0045】
本発明は、カドミウムの除去に特に優れている。特にファイトレメディエーションなどにより、土壌中のカドミウムを高度に吸収した稲わら、葉菜類等の植物バイオマス、カドミウムを多く含む魚介類の内臓からのカドミウム除去に優れている。本発明においては、最小量の硫酸あるいは塩酸を用いて、有効かつ効率的にバイオマス中のカドミウムを溶解・遊離させ、その後に、ジチオカルバミン酸化合物および/または液体キレート剤(例えば、タイキレート)を当該溶液に添加することにより、溶解状態にあるカドミウムイオンをこれらの化合物と反応、吸着および沈殿させることで、溶液中のカドミウムイオンを高度に除去することが可能になる。

【0046】
本発明により、カドミウムは、硫酸添加・加熱処理によりほぼ100%動物バイオマスから液相に抽出できる。フィルタープレスなどによる固液分離、脱水処理により、ほぼカドミウムフリーの動物バイオマスを得ることができる。魚介類の内臓にはきわめて豊富にたんぱく質が含まれていることが知られており、飼料や肥料などとして利用することが可能となる。また、溶液中のカドミウムイオンが高度に除去された動物バイオマス由来の溶液は、動物バイオマス由来の種々のアミノ酸を含有しうる。そのため、液肥としての有効利用が期待できる。また、そのような溶液は、アミノ酸の原料としても利用できる可能性がある。

【0047】
以下、本発明の実施例を示す。本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
カドミウムを含む植物バイオマス試料として、稲わら(品種;長香穀、カドミウム濃度;33.4mg/kg DW)の粉砕物を用いた。試料に対し、硫酸または塩酸を希釈して作成した酸溶液を1:5(w/w)となるように添加し(具体的には2gの稲わら粉砕物に対し、10gの酸溶液を添加し)、120℃、60分間の加熱処理の後、よく撹拌した。10000×g、10分間の遠心操作により得られた上清中の遊離カドミウム濃度を、ICP-MS装置(X series II、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により測定した。
【実施例1】
【0049】
硫酸を用いた分析結果を図1、塩酸を用いた分析結果を図2に示す。1.5%(0.54N)以上の濃度の硫酸、および4.39%(0.5N)以上の濃度の塩酸は、植物試料からカドミウムを95%以上遊離させることができた。このため、本研究で対象とするカドミウムを含む植物バイオマスから、カドミウムを95%以上除去するためには、酸濃度は、硫酸であれば1.5%以上、塩酸であれば4.39%以上が好ましいことが明らかとなった。
【実施例2】
【0050】
カドミウムを含む植物バイオマス試料として、稲わら(品種;長香穀、カドミウム含有量33.37mg/kg DW)粉砕物を用い、これからカドミウムを抽出液中に完全に遊離させるための条件の検討を行った。
【実施例2】
【0051】
上記の稲わら粉砕物5gに対し、0.5%、1%、1.5%、または2%の硫酸溶液30mlを添加し、120℃、60分間のオートクレーブ処理を行った。オートクレーブ処理後、柴田科学社製のφ25mmフィルター用のガラスろ過器を用い、ドライアスピレーターによる減圧により、ろ液を吸引ろ過しながら、20mlの円筒形ファンネルにオートクレーブ処理物を充填した。ろ紙はアドバンテック社製のGA-55(ガラス繊維ろ紙、孔経0.6μm)を用いた。充填の際、ろ紙上の残渣の体積が10cm3になるように圧縮した。ろ液が浸出しなくなった時点で、純水、0.5%硫酸または1.0%硫酸により、残渣の洗浄(5ml×洗浄回数)を行った。洗浄した残渣は乾燥後、硝酸で分解し、ICP-MSによりカドミウム含有量を定量した。
【実施例2】
【0052】
結果を図3に示す。カドミウム含有量を乾燥重量当たり0.2ppm以下とするためには、1.5%硫酸溶液で加熱処理した場合には0.5%または1%の希硫酸溶液20ml以上で洗浄することが好ましく、2%硫酸溶液で処理した場合には、希硫酸溶液15ml以上で洗浄することが好ましいことが明らかとなった。最適条件の一つは、カドミウムを含む植物バイオマスに対し、2%硫酸を1:6(w/w)で添加し、120℃、60分間のオートクレーブ処理を行った後に、固液分離し、得られた残渣を4容の(具体的には、原料バイオマス5gに対して、その4倍量の20gの)純水の洗浄を行うことである。この条件により、カドミウムを含む植物バイオマスの10倍量(重量)の溶液で、カドミウムを十分に除去できる。
【実施例3】
【0053】
実施例2に示した最適条件を用いて、稲わら粉砕物(長香穀、各ロットのカドミウム濃度 J90A;46.2mg/kg、JM-01;33.4mg/kg、HR-01;23mg/kg、HN-02;12.6mg/kg、および普通栽培のあきたこまち カドミウム濃度0.41mg/kg)からカドミウムを抽出した。除去操作後の残渣を硝酸で分解し、残渣に残ったカドミウム量と溶液に移行したカドミウム量をICP-MSにより測定した。
【実施例3】
【0054】
結果を図4に示す。またその際のカドミウムの除去率を図5に示す。品種に関わらず、カドミウムが高い効率で除去できることが示された。
【実施例4】
【0055】
植物バイオマスからカドミウムを抽出する工程の次の工程として、カドミウムを含む酸溶液からカドミウムを除去することを検討した。
【実施例4】
【0056】
ジチオカルバミン酸基は、強力にカドミウムや亜鉛イオンと錯体を形成することが知られている。通常はビーズ状の樹脂にこの官能基を導入したキレート樹脂がこれら重金属の除去に利用されるが、カドミウムを含む植物バイオマスを処理する系においては、本発明者らが実験した条件においては、廃棄物処理上で問題にならないレベルにまでカドミウムを除去することができなかった(後掲比較例参照)。
【実施例4】
【0057】
カドミウムを含む稲わら15gに2%硫酸100mlを添加し、120℃、60分間のオートクレーブ処理を行った。この処理液に蒸留水100mlを添加、混合し、ガラス繊維ろ紙(GA-55)でろ過し、酸抽出液(1%H2SO4溶液)を作成した。酸抽出液は、pH4.0~7.0に調整を行った。各pHの酸抽出液に低分子のジチオカルバミン酸系化合物を添加し、カドミウムイオンと錯体を形成させた後、沈殿させることにより固液分離が可能かを検討した。
【実施例4】
【0058】
ジチオカルバミン酸化合物としてジメチルジチオカルバメート(Sodium NN-Dimethyldithiocarbamate Dihydrate 和光純薬工業株式会社)、ジエチルジチオカルバメート(Sodium N.N-Diethyldithiocarbamate Trihydrate 和光純薬工業株式会社)、ジベンジルジチオカルバメート(Sodium Dibenzyldithiocarbamate Hydrate 東京化成工業株式会社)を用い、溶液中の濃度が0.1mM、0.25mM、0.5mM、1.0mMとなるように添加し、撹拌した。そして10000×g、10分間の遠心後に上清に含まれるカドミウムイオンを測定した。
【実施例4】
【0059】
結果を図6に示す。活性のある官能基は同じであるが、カドミウムイオンと錯体を形成したときに、沈殿を形成するのか溶存状態を維持するのかにより、異なる結果となったと考えられる。pH5.5において、ジベンジルジチオカルバメートの添加により、カドミウムイオン濃度が10ppb以下となった。特に0.5mM以上の濃度では、公共水域や地下水の環境基準である3ppb以下にまでカドミウムイオン濃度を低下させることが可能であった。
【実施例5】
【0060】
ジチオカルバミン酸化合物と同様に、カドミウムを含む植物サンプル抽出液に、液体キレート剤を添加し、溶液中からカドミウムを除去する方法を試みた。
【実施例5】
【0061】
カドミウムを含む稲わら15gに2%硫酸100mlを添加し、120℃、60分間のオートクレーブ処理を行った。この処理液に蒸留水100mlを添加、混合し、ガラス繊維ろ紙(GA-55)でろ過して、カドミウム含有溶液(1%H2SO4)を作成した。各pHに調整した溶液100mlに液体キレート剤(タイキレートF-1、大明化学工業株式)を添加、混合し、10000×g、5分間の遠心操作で固液分離を行い、上清のカドミウム濃度の測定を行った。液体キレートの添加量は添加する液量に対して、0.05%、0.03%、0.02%、0.015%、0.01%とした。
【実施例5】
【0062】
分析結果を図7に示す。溶液のpHを5.0または5.5に調整し、液体キレート剤を添加した場合、安定してカドミウムイオンを沈殿させ、溶液中の濃度を10ppb以下に低下させることが可能であった。添加する液体キレート剤の濃度は0.01%で十分であると考えられた。
【実施例5】
【0063】
また、他の溶存する陽イオンについて検討したところ、Znは、pH5.5においてそのほとんどが除去された。しかし、その他のイオンにはほとんど影響がなく、特異的にCdおよびZn(Cuも)を除去することができていると考えられた。またその際、生成される液体キレート剤の添加による沈殿物の重量は極めて少量であった。

【0064】
キレート樹脂を用い、カドミウムを含む稲わらの酸抽出液からのカドミウムイオンの除去について検討した。

【0065】
カドミウムを含む稲わら15gに2%硫酸100mlを添加し、120℃、60分間のオートクレーブ処理を行った。この処理液に蒸留水100mlを添加、混合し、ガラス繊維ろ紙(GA-55)でろ過して酸抽出液(1%H2SO4溶液)を作成した。得られた溶液100mlに、ビーズ状のキレート樹脂として、ダイアイオン(登録商標)セパビーズ(登録商標)CR11、およびCR20(三菱化学株式会社)、スミキレートMC600、MC700、MC760、およびMC960(住化ケムテックス株式会社)、ならびにQ10R(第一化成株式会社)をそれぞれ乾物重で溶液の1%相当量を添加し、NaOHでpHを調整し、各pHにおける溶液中に溶存している重金属イオン濃度をICP-MSで定量した。また各pHに調整した後に、各樹脂を添加した場合の上清に含まれるカドミウム濃度の測定も行った。

【0066】
結果を図8に示す。いずれの樹脂を添加した場合も、溶液中のほとんどのカドミウムが除去できたが、10ppbを下回ることはできなかった。

【0067】
ビーズ状の樹脂は、その構造から金属イオンが樹脂の表面または表面付近のみに吸着されることが多く、内部にまで金属イオンが浸透し難いと考えられる。樹脂をポーラス状に加工することが行われているが、本比較例のデータを見る限り、十分にカドミウムが吸着除去できなかった原因としては、カドミウムイオンが有機物質と錯体を形成した場合にはイオン単独の場合よりも分子量が大きくなるために樹脂の内部に侵入できないこと、またその電荷により樹脂と反発すること、などが考えられる。

【0068】
酸抽出処理後、稲わらの重量は処理前の約55%となり、45%近くは酸抽出液中に溶解する。また酸抽出液は図10に示すように、茶褐色に着色しており、キレート作用を有する有機物質がかなり溶け込んでいると考えられる。ビーズ状のキレート樹脂を用いた実験結果から、植物バイオマスの酸抽出液には、カドミウムイオンと競合する金属イオンとともにカドミウムイオンと錯体を形成する多様な有機物質も含まれ、酸抽出液中ではカドミウムイオンと結合した状態にあると予想される。

【0069】
そして、このカドミウムイオンと結合し、かつ溶存している有機物質からカドミウムを引き離して吸着除去するためには、当該有機物質よりも強いキレート力を有する物質が望ましい。そのようなキレート物質はまた、当該有機物質からカドミウムを脱離させ、キレート作用により吸着した後は、速やかに溶液中で沈殿し、固液分離により溶液中から除去できることが望ましい。

【0070】
ビーズ状のキレート樹脂は、固液分配によりカドミウムをキレート樹脂という固相に移行させて分離する技術であるといえる一方で、液体状のキレート物質は、液々分配の状態からカドミウムイオンを吸着し、錯体を形成した後に速やかに沈殿を形成し、すなわち固体となり、溶液中から容易に除去できるものであるので、カドミウムを含む植物バイオマスからの酸抽出液を処理するためには、より好ましい。
[参考例]

【0071】
実施例3で使用した各稲わら(品種;長香穀、各ロットのカドミウム濃度 J90A;46.2mg/kg、JM-01;33.4mg/kg、HR-01;23mg/kg、HN-02;12.6mg/kg、普通栽培のあきたこまち カドミウム濃度0.41mg/kg)15gに、100mlの2%H2SO4を添加して120℃、60minの加熱処理を行った。ろ過による固液分離を行わず、純水100mlを添加し、水酸化ナトリウムでpH6.5に調整した。セルラーゼ(メイセラーゼ、明治ファルマ株式会社)とヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム株式会社)を各1gずつ添加し(10%の酵素液をそれぞれ調整して、添加した。)、50℃、24時間、150rpmで振とうしながらセルロースの糖化を行った。酵素処理後、溶液をガラス繊維ろ紙(GA-55)により吸引ろ過を行い、酵素糖化残渣と酵素糖化液に固液分離を行った。

【0072】
酵素糖化液は前培養した酵母を添加し、エタノール醗酵を行った。得られた発酵液は遠心により酵母を回収後、ロータリーエバポレーターによる蒸留操作により、エタノールと蒸留残液に分離した。

【0073】
以上の各工程のサンプルの、カドミウムをはじめとする金属イオンの濃度の測定を行った。酵素糖化残渣、酵母は、乾燥・粉砕後、ガラス試験管に精秤し、硝酸分解を行い、ICP-MSによりカドミウムの含有量を測定した。酵素糖化液、蒸留残液は、希釈後にICP-MSによりカドミウムイオンの濃度を測定した。

【0074】
結果を図10および11に示す。酵素糖化残渣に含まれるカドミウム濃度は、原料稲わらに含まれていた濃度の2.4~3.4倍となった。バイオエタノールの製造工程において、植物バイオマスからはヘミセルロースおよびセルロースが糖化されて溶出し、糖化後の固形分は原料の34~38%となるが、カドミウムは、酵素糖化残渣に濃縮されることが明らかとなった。

【0075】
一方、原料の稲わらのカドミウム濃度が高い場合は、酵素糖化液のカドミウム濃度も高くなることが分かった。カドミウム濃度12.6mg/kgの稲わらを原料とした場合、酵素糖化
液のカドミウム濃度は93.5ppbであった。これより高い濃度の稲わらを原料とすると、工場からの排水基準100ppbを上回る可能性が高いことが分かった。

【0076】
また長香穀 JM-01(カドミウム濃度33.4mg/kg)の蒸留残液のカドミウム濃度は0.29
4ppmであり、酵母のカドミウム含有量は2.79mg/kg DWであった。いずれもカドミウム濃度
が高く、産業廃棄物としての処理が問題となるものであった。
【実施例6】
【0077】
カドミウムを含む動物バイオマス試料として、ホタテのウロ(中腸線)、エラ、雌個体の生殖巣、スルメイカの中腸線を用い、これらの魚介類の内臓からのカドミウム除去試験を行った。サンプルは水洗後、ミルサーでスラリー状になるまで粉砕して、PP製の50ml遠沈管に秤量し、これに1%もしくは2%硫酸を1:1(w/w)、1:2、1:3となるように添加した。添加後に次の操作を行い、それぞれから抽出液を調整した。往復振とう機により120rpmで30分間の振とう処理を行った。振とう処理を行った後、10000×g、10分間の遠心操作により固液分離を行い、さらにこの抽出液をNo.5Cのろ紙でろ過して抽出液を得た。
【実施例6】
【0078】
また120℃、60分間のオートクレーブによる加熱処理を行った。加熱処理を行った後、10000×g、10分間の遠心操作により固液分離を行い、抽出液を得た。
【実施例6】
【0079】
また加熱処理により得られた抽出液についてはpH5.0~5.2程度にpHの調整も行い、pH調整後の抽出液に対しタイキレートを0.1%となるように添加して撹拌、遠心により沈殿物を除去した。得られた上清について液中のカドミウム濃度を測定した。測定は適時希釈後にICP-MS装置(X series II、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により測定した。
【実施例6】
【0080】
振とう処理により抽出されたCd量を図12に示す。固液比が1:2の希硫酸添加についてみると振とう処理だけでもいずれのサンプルからも94%以上のカドミウムが抽出されることが明らかとなった(図18)。加熱処理によりこの抽出率はさらに高まる(図13)。もともとカドミウム濃度の低い生殖巣以外ではほぼ100%のカドミウムを抽出除去できることが明らかとなった(図18)。加熱処理による抽出液にpH調整を行った後のカドミウム濃度を図14に示す。pH調整後にさらに液体キレート(タイキレート)を0.1%となるように添加し、撹拌遠心により沈殿物を除去した後の抽出液中のカドミウム濃度を図15に示す。抽出液中にはカドミウムはほとんど含まれず(図19)、ほぼ完全にカドミウムは沈殿として分離除去できることが明らかとなった。
【実施例6】
【0081】
また全量分析の結果(図16)とともに、固液比1:2についての結果(図17)を、示す。抽出効果は1:2以上で高くなり、1:2程度以上でのカドミウム除去処理が好ましいと考えられた。
【実施例6】
【0082】
固液比1:2で希硫酸を添加後の振とう処理、加熱処理、加熱処理後にpH調整・液体キレートによるカドミウム除去処理を行った抽出液中の遊離アミノ酸量を定量した。
【実施例6】
【0083】
その結果、抽出液中には高濃度でアミノ酸が含まれており、液肥など農業分野で極めて有用であることが示された(図20、21)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、特にファイトレメディエーションなどにより、土壌中のカドミウムを高度に吸収した稲わら、葉菜類等の植物バイオマスから、少ない量の硫酸または塩酸を用いて、効率的にカドミウムを溶解遊離させることができる。また、その後に適切なキレート剤を用いることにより、溶液中のカドミウムイオンを沈殿・除去できる。本発明は、環境修復、土壌処理、植物バイオマスからのエネルギー生産が関連する産業において、利用可能である。本発明の方法は、動物バイオマスに対しても有効であり、産業廃棄物として処理されていた魚介類の内臓が、本発明により、飼料、肥料等として有効に利用可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20