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明細書 :放射線線量測定用のゲル線量計およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-209093 (P2014-209093A)
公開日 平成26年11月6日(2014.11.6)
発明の名称または考案の名称 放射線線量測定用のゲル線量計およびその製造方法
国際特許分類 G01T   1/04        (2006.01)
A61N   5/10        (2006.01)
G01T   1/29        (2006.01)
FI G01T 1/04
A61N 5/10 Q
G01T 1/29 C
請求項の数または発明の数 22
出願形態 OL
全頁数 30
出願番号 特願2014-017201 (P2014-017201)
出願日 平成26年1月31日(2014.1.31)
優先権出願番号 2013069797
優先日 平成25年3月28日(2013.3.28)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】前山 拓哉
【氏名】姫野 龍太郎
【氏名】高木 周
【氏名】福西 暢尚
【氏名】野田 茂穂
【氏名】古田 琢哉
【氏名】深作 和明
【氏名】石川 顕一
出願人 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100130960、【弁理士】、【氏名又は名称】岡本 正之
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
4C082
Fターム 2G188BB13
2G188BB14
2G188BB17
2G188BB19
2G188DD41
2G188KK01
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AN01
4C082AP01
4C082AP03
4C082AP20
要約 【課題】 ゲル線量計などの線量計により3次元線量分布を測定する。
【解決手段】 本発明のある実施形態のゲル線量計においては、溶媒または分散媒である水と、水により膨潤する粘土微粒子と、記録物質前駆体と互いに溶解または分散させて含んでいる放射線線量測定用のゲル線量計が提供される。記録物質前駆体は、放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカル、およびラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物の双方と反応して価数を変化させることとなる原子またはイオンを含んでいる。上記ゲル線量計においては、放射線が照射される前には分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存しておらず流動性が消失している。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
溶媒または分散媒である水と、
粘土微粒子と、
放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカル、および該ラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物の双方と反応して価数を変化させることとなる原子またはイオンを含む記録物質前駆体と
を互いに溶解または分散させて含んでおり、
放射線が照射される前には前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存しておらず、
放射線が照射される時点において流動性が消失している
放射線線量測定用のゲル線量計。
【請求項2】
前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存することを妨げるラジカル誘導物阻害物質をさらに含む請求項1に記載のゲル線量計。
【請求項3】
前記分子状ラジカル誘導物が酸素であり、
前記ラジカル誘導物阻害物質が酸素を含まない気体である、請求項2に記載のゲル線量計。
【請求項4】
前記ラジカル誘導物阻害物質は、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガスからなる群から選択される少なくとも1種の気体である、請求項3に記載のゲル線量計。
【請求項5】
前記ラジカル誘導物阻害物質が亜酸化窒素ガスである、請求項3に記載のゲル線量計。
【請求項6】
前記分子状ラジカル誘導物が酸素であり、
前記原子またはイオンは、前記ラジカルと前記分子状ラジカル誘導物との双方と反応して酸化されるものである、請求項1に記載のゲル線量計。
【請求項7】
前記記録物質前駆体がアンモニウム鉄(II)および硫酸第一鉄(II)の少なくともいずれかを含むものであり、
前記原子またはイオンが鉄(II)イオンである、請求項6に記載のゲル線量計。
【請求項8】
前記粘土微粒子は、前記分子状ラジカル誘導物により前記記録物質前駆体に含まれる原子またはイオンが価数を変化させる前記反応を促進する作用を有するものである、請求項1に記載のゲル線量計。
【請求項9】
前記粘土微粒子が、水膨潤性合成ヘクトライト、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、および水膨潤性合成雲母からなる群から選択される少なくとも1種の粘土微粒子である、請求項1~8のいずれか1項に記載のゲル線量計。
【請求項10】
湿潤状態にある前記粘土微粒子に対し前記原子またはイオンである鉄(II)イオンが作用して溶液または分散液が流動性を失うことにより前記線量計の流動性が消失している、請求項7に記載のゲル線量計。
【請求項11】
ゲル化するためのゲル化剤をさらに含む、請求項1に記載の放射線線量測定用のゲル線量計。
【請求項12】
溶媒または分散媒である水と、粘土微粒子と、放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカル、および該ラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物の双方と反応して価数を変化させることとなる原子またはイオンを含む記録物質前駆体とを、互いに溶解または分散させることによってゲル線量計を形成する工程
を含み、該線量計を形成する工程は、該線量計の流動性を消失させる工程を放射線が照射される時点までに含んでおり、
形成されるべき前記ゲル線量計において前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質を残存させなくする分子状ラジカル誘導物除去工程を、前記ゲル線量計が形成されるまでのいずれかの段階にさらに含む放射線線量測定用のゲル線量計の製造方法。
【請求項13】
前記粘土微粒子が、膨潤しゲル化する作用または粘度を増大させる作用を示すものであり、
前記線量計の流動性を消失させる工程が、前記水と、前記粘土微粒子と、前記記録物質前駆体とを含む溶液または分散液を前記粘土微粒子によってゲル化するかその粘度を増大させる工程を含むものである、請求項12に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項14】
前記分子状ラジカル誘導物除去工程が、流動性が消失する前のいずれかの段階において、減圧または加圧による置換脱気法、凍結置換脱気法、加熱置換脱気法のいずれかの脱気法により、前記溶媒または分散媒である水から酸素を除去する工程である、請求項12に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項15】
前記分子状ラジカル誘導物除去工程が、形成されるべき前記ゲル線量計において前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存することを妨げるラジカル誘導物阻害物質を前記ゲル線量計の組成の一部となるように混入する混入工程である、請求項12に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項16】
前記分子状ラジカル誘導物が酸素であり、
前記原子またはイオンは、前記ラジカルと前記分子状ラジカル誘導物との双方と反応して酸化されるものである、請求項12~14のいずれか1項に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項17】
前記記録物質前駆体がアンモニウム鉄(II)および硫酸第一鉄(II)の少なくともいずれかを含むものであり、
前記原子またはイオンが鉄(II)イオンである、請求項16に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項18】
前記粘土微粒子が、水膨潤性合成ヘクトライト、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、および水膨潤性合成雲母からなる群から選択される少なくとも1種の粘土微粒子である、請求項12~14のいずれか1項に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項19】
前記粘土微粒子は、前記分子状ラジカル誘導物により前記記録物質前駆体に含まれる原子またはイオンが価数を変化させる前記反応を促進する作用を有するものである、請求項12~14のいずれか1項に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項20】
前記分子状ラジカル誘導物除去工程は、粘土微粒子を添加するより前のいずれかの段階で実行される、請求項19に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項21】
前記線量計の流動性を消失させる工程が、湿潤状態にある前記粘土微粒子に対し前記原子またはイオンである鉄(II)イオンが作用して溶液または分散液が流動性を失う工程である、請求項17に記載のゲル線量計の製造方法。
【請求項22】
前記線量計の流動性を消失させる工程が、前記水と、前記粘土微粒子と、前記記録物質前駆体とを含む溶液または分散液を、ゲル化剤によってゲル化する工程を含むものである、請求項12に記載のゲル線量計の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は放射線線量測定用のゲル線量計およびその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、3次元線量分布を測定するための放射線線量測定用のゲル線量計およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子線や重粒子線(炭素線、ネオン線等)といった線量集中性の高い荷電粒子線を利用する粒子線治療が実施されている。粒子線治療は、従来のX線治療に比べ放射線照射の照
射位置および線量をより高精度に制御して腫瘍を治療することができる利点を有している。粒子線治療において求められるのは、生体組織中の病巣などの標的位置にて粒子線からのエネルギーを適正に放出させること、および、標的周囲の正常組織に対しては可能な限り影響を与えないこと、の両立である。これらを目的に、粒子線ビームの径方向の広がりや粒子線ビームのブラッグピークの位置が被照射体中の標的位置に対し位置合わせされる。また、IMPT(Intensity Modulated Particle Therapy: 強度変調粒子線治療)といった高精度な治療も導入されつつあり、その治療法では標的の3次元的な各位置に対する微視的エネルギー付与量の積算値(すなわち線量分布)が精密に調整される。なお、一つの粒子が物質中の分子の電離(励起も含む。以下同様)を生じさせる際の微視的エネルギー付与量は、線エネルギー付与(Linear Energy Transfer:LET)と呼ばれる一粒子が物質に与える単位長さあたりのエネルギー値であり、プラッグピークとは、飛程末端に位置するLETのピークである。詳細には、入射粒子の速度の二乗に反比例して物質との相互作用、つまり電離する量が増えるため、陽子線や重粒子線などの粒子線では、粒子の飛程末端付近の位置において多くのエネルギーが粒子線から物質に付与される。また、各位置における微視的エネルギー付与量を各粒子について積算すると各位置における線量となる。
【0003】
実際の粒子線治療における治療計画では、生体組織中における3次元での各位置における線量の分布が最適化される。典型的な治療計画では、放射線の影響が強い範囲を実際の標的組織の形状に合わせ、その標的組織における線量分布(各位置への放射線による線量)も治療目的に合わせて変形される。それと同時に、周辺の正常組織への放射線の影響も抑えられ、リスク臓器(organ at risk)に対する影響も可能な限り小さくされる。なお、粒子線治療に通常用いられる線量集中性の高い粒子線により幅および深さに広がりのある複雑な形状の領域に目的とする効果を与えるために、ビームが精密に制御され、多重に照射されることもある。この制御は、ペンシルビームを拡げたり、ブラッグピークを拡大することに加え、その領域に合わせてブラッグピークを整形したりするものである。このために、粒子照射装置には、各種の付属機器(ウォブラー、リッジフィルタ)や、被照射体に合わせて調整されるフィルター・コリメータ類(レンジシフター、マルチリーフコリメーター、ボーラス等)が装備される。そして、高度に制御された放射線治療を実現するためには、粒子照射装置や付属機器およびフィルター・コリメータ類等を含めた装置全体、ならびにそれら装置による照射処理において、高度な品質保証・品質管理(quality assurance and quality control, 以下「QA/QC」と略記する)が必要となる。
【0004】
このような治療計画および各種装置のQA/QCのためには、様々な方向から様々な加速エネルギーで入射する多数の粒子によるエネルギー付与量を適切に積算して実測できる技術が必要である。エネルギー付与量を積算して線量を各位置において精密に測定することができれば、上記QA/QCの裏付けとなる3次元でのエネルギー付与量の分布(線量分布)を測定する事が可能となるためである。この目的では従来、電離箱線量計、半導体検出器、フィルムといった1次元または2次元での線量計が用いられている。これらの線量計では、粒子線を標的位置に位置合わせする領域のうち、1次元または2次元の座標に対する上記線量分布が実測される。近年はこれらの線量計に加え、化学線量計の測定原理を利用したゲルにより3次元の線量分布を測定することが可能なゲル線量計が注目されている。ゲル線量計を利用すれば、さらに、生体と等価とみなしうる材質である水の各位置において放射線により付与されるエネルギー量を正確に測定すること、つまり、生体等価物質や水等価物質における放射線の影響が測定できる、という利点もある。ゲル線量計では、それ自体を固体ファントムとして利用しつつ、3次元での線量分布を取得できるのである。
【0005】
ゲル線量計には、大別すると、ポリマー・ゲル線量計、フリッケ・ゲル線量計、二クロム酸・ゲル線量計=重クロム酸・ゲル線量計(DCG線量計、dichromate gel dosimeter)が知られている。これらのうち、プレポリマーの架橋反応を記録するポリマー・ゲル線量計(例えば特許文献1)では拡散の問題を解決している。他方、アンモニウム鉄(II)や硫酸第一鉄(II)の水溶液をゲル化したフリッケ・ゲル線量計、および二酸化クロム(酸化クロム(IV))の水溶液をゲル化したDCG線量計は、放射線照射後の拡散に起因して記録された像が経時的に不明瞭になりやすいという課題がある。このため、本願の発明者らは、フリッケ・ゲル線量計の一種であるフリッケ・キシレノール・ゲル(FXG)線量計やDCG線量計を被照射体にして、ナノクレイと呼ばれる粘土微粒子を混合して拡散を抑制することを試行し、記録の経時的な保持性に関し一定の成果を得ている(非特許文献1)。

【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】米国特許出願公開2004/0211917A1号明細書
【0007】

【非特許文献1】T. Maeyama et al., “Diffusion suppression in gel dosimetry by addition of nanoclay”, World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering May 26-31, 2012, Beijing, China, IFMBE Proceedings Volume 39, pp 1183-1186 (2013)
【非特許文献2】Seven Back et al., “Ferrous sulphate gel dosimetry and MRI for proton beam dose measurements”, Phys Med Biol. Volume 44 No. 8, pp1983-96 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの課題以外にも、従来のゲル線量計ではその材質の線量応答性(dose response)が線質に依存するという課題がある。ゲル線量計の線量応答性とは、微視的エネルギー付与量を各粒子について積算した量と記録物質密度との間の量的な応答関係である。具体的には、記録物質密度とは、記録物質つまりそのゲル線量計の材質における何らかの物質における量または密度である。そして問題となるのは、微視的エネルギー付与量を局所的に積算して記録する際に必要となる線量応答性である。線量応答性を端的に説明すれば、微視的エネルギー付与量を積算することにより線量の増加を記録する際の、記録物質密度(ゲルの応答量)の変化の係数(傾き)ということもできる。放射線照射後のゲル線量計の内部における応答量は、MRI装置や光CT装置によって3次元の各位置における分布として読み出すことができる。特に問題となる線量応答性に影響する線質の一つが、線エネルギー付与(LET)である。LETは、照射される一粒子が物質にエネルギーを付与しながら飛程にて停止するまでの各位置における単位長さあたりのエネルギー付与量である。
【0009】
ここで、治療計画の立案時に照射を試行する際やQA/QCのためにゲル線量計にて測定する際に、物理線量を正しく算出することを想定する。このためには線量応答性が可能な限り線質に影響されず、各位置の微視的エネルギー付与量に対する線量応答性が一定でなくてはならない。なぜなら、人体やゲル線量計等の被照射体内部にて決定すべき物理線量は、各位置での個々の粒子のLETを入射したすべての粒子について積算したもの、と捉えられるためである。例えば複数の入射方向からの多数の粒子の照射条件やフィルター・コリメータ類を通過させる粒子の照射条件においては、様々なエネルギー値や深さとなってLETの異なる粒子、つまり線質の異なる粒子から各位置にエネルギーが付与される。その際に記録物質密度が実際の微視的エネルギー付与量に対して線形性を保って応答しなければ、ゲル線量計によって各位置の巨視的エネルギー付与量すなわち線量分布を正しく測定することはできない。
【0010】
ところが、従来のゲル線量計では、線量応答性が線質に依存してしまって線形性が崩れることから積算が不可能であり、各位置における巨視的エネルギー付与量つまり線量分布を決定することは原理的に不可能である。記録物質密度が微視的エネルギー付与量を正しく積算したもとなってなければその後の換算も難しい。このように、放射線照射装置による治療のための治療計画を立案する目的や、同装置自体および同装置による照射処理のQA/QCの用途のためには、従来のゲル線量計には改良の余地が残されている。
【0011】
さらに、従来のゲル線量計ではフリッケ・ゲル線量計、DCG線量計においてゲル化のためにゼラチンやアガロースといったゲル化剤(gelling agents)が利用されている。このため、これらのゲル線量計を調製する場合には、ゼラチンであれば加熱して攪拌し、それを冷却する必要がある。ゼラチンの場合、加熱が適温でなく温度が高すぎる場合には分解してしまう。また、温度変化を伴う調製は再現性を高める事が難しく、高精度の線量計を作製するには高い技術を要する。これは、温度によって溶存気体の飽和濃度が変化すること、および温度により酸化反応が生じる可能性があることによる。
【0012】
本発明は上述した問題の少なくともいくつかを解決することを課題とする。本発明は、粒子線照射装置および同装置による照射処理に関して、粒子線の3次元線量分布を正確に測定することを可能にするゲル線量計およびその製造方法を提供する。また本発明は、ゲル化剤(gelling agents)を使用せず、これにより調製が容易なばかりか感度も高いゲル線量計およびその製造方法も提供する。これらにより、本発明は、治療計画の立案や、粒子線照射装置および照射処理のQA/QCを可能にし、粒子線治療の実用性を高めることに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する具体的手段を探るため、本願の発明者らは、従来のゲル線量計において微視的乃至巨視的エネルギー付与量が測定される機構、特に、記録物質が生成される反応機構に着目した。そして、本願の発明者らは、これまで記録物質の生成のために利用されてこなかった反応機構をも記録物質の生成のために利用することが可能となれば、記録物質の応答量に対する線量応答性から線質依存性を軽減または排除しうるものと予測した。なお、記録物質の応答量とは、記録物質密度(単位体積あたりの量)である。本願の発明者らは、さらにその予測が正しいことを実験により確認し、当該反応機構を活かすゲル線量計の具体的態様を創出するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のある態様においては、溶媒または分散媒である水と、粘土微粒子と、放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカル、および該ラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物の双方と反応して価数を変化させることとなる原子またはイオンを含む記録物質前駆体とを互いに溶解または分散させて含んでおり、放射線が照射される前には前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存しておらず、放射線が照射される時点において流動性が消失している放射線線量測定用のゲル線量計が提供される。
【0015】
また、本発明のある態様においては、溶媒または分散媒である水と、粘土微粒子と、放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカル、および該ラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物の双方と反応して価数を変化させることとなる原子またはイオンを含む記録物質前駆体とを、互いに溶解または分散させることによってゲル線量計を形成する工程を含み、該線量計を形成する工程は、該線量計の流動性を消失させる工程を放射線が照射される時点までに含んでおり、形成されるべき前記ゲル線量計において前記分子状ラジカル誘導物と同種の物質を残存させなくする分子状ラジカル誘導物除去工程を、前記ゲル線量計が形成されるまでのいずれかの段階にさらに含む放射線線量測定用のゲル線量計の製造方法も提供される。
【0016】
本発明の各態様におけるゲル線量計(gel dosimeter)とは、典型的にはゲル状(ジェル状)とされることによって、材質の内部において放射線による線量を記録する性質をもちつつ3次元的に広がっている、流動性を失った物体そのものを指している。ただし、同ゲル線量計は、流動性を失った性質を示す限り、必ずしも厳密なゲル状となっていることは要さない。この流動性を失った状態の例えを卑近な物体で示せば、ヨーグルトやチーズなどの凝固体(curd)、パン生地、トマトケチャップ、ゼリーを挙げることができる。すなわち、本発明の各態様におけるゲル線量計における「ゲル」との表現は、慣用上の表現に基づいており、分散等により混合された状態で、全体として流動性を失って放射線の線量を記録しうる状態となっていることのみを示している。このゲル状の性状は、ゲル化剤やその他の構成材料の作用として顕れている。ゲル化剤を含まない場合であっても、すなわち、ゲル化を目的に添加されるゲル化剤(例えばゼラチン、アガロース等)が添加されない場合にも、水とともに粘土微粒子を含む場合には流動性を失う場合があることに留意されたい。後述するように、本願の発明者らの詳細な実験によれば、ゲル化剤が含まれている場合に加え、まったく含まれていなくても流動性が消失し、少なくともある程度の形状保持性(固形性)が保たれる線量計が作製されている。このような線量計での固形性は、ゲル化剤以外の物質、例えば、水を含む溶液または分散液と粘土微粒子の作用によって生じていることが確認されている。なお、発明を明確に説明する趣旨にて、仮に粘土微粒子が固形化の作用を持つ場合であっても、本出願における「ゲル化剤」の用語の範囲には粘土微粒子を含めないものとする。
【0017】
また、記録物質前駆体が含んでいる原子またはイオンには、例えば、ゲル線量計において水の影響によりイオン化して存在するなどの形態となって記録物質前駆体の一部をなしているものも含んでいる。
【0018】
なお、本発明の各態様における「分子状ラジカル誘導物」とは、放射線による水由来のラジカルから、ラジカル同士の反応(ラジカルが再結合する反応、以下「ラジカル自己消費反応」という)を経て(誘導されて)生成される物質のうち、当該ラジカル以外の物質を指している。さらにゲル線量計に「分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存していない」状態あるいは「分子状ラジカル誘導物と同種の物質を残存させなくする」操作とは、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が不存在であったり皆無であったり全く検出されない、という文字通りに完全な不存在の状態やそれを実現するための操作のみには限定されない。つまり、上記状態や操作のうちには、分子状ラジカル誘導物と同種の物質がゲル線量計に存在していても、実質的には残存していないといえる状態やそうするための操作も含むと解されるべきである。例示のために「分子状ラジカル誘導物と同種の物質がゲル線量計に存在していても、実質的には残存していない」という範囲に含まれる状態を示せば、一つには、分子状ラジカル誘導物と同種の物質がゲル線量計の放射線測定の動作と無関係な形態になるように析出する等、固定化されている状態である。別の例は、何ら問題を生じない程度に分子状ラジカル誘導物と同種の物質の存在量を減少させた状態である。「分子状ラジカル誘導物と同種の物質を残存させなくする」操作についても同様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のいずれかの態様において提供されるゲル線量計を利用することにより、ゲル線量計の線量応答性から線質依存性、とりわけLETへの依存性が軽減または排除され、粒子線の3次元線量分布を正確に測定することが可能となる。本発明のいずれかの態様を利用すれば、粒子線を利用した治療計画の立案または粒子線照射装置および照射処理のQA/QCのための3次元的な線量分布の測定のためにゲル線量計を採用する可能性が開ける。
【0020】
さらに、本発明のいずれかの態様においては、ゼラチンやアガロース等のゲル化剤を含まなくても3次元的な線量分布の測定が可能となり、かつ感度も高まり、実用性の高いゲル線量計が提供される。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来ならびに実施形態1および2のゲル線量計における粒子線の照射とその照射後の測定の様子を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態1および2のゲル線量計に粒子線を照射して測定するまでの工程を、治療計画を立案する例に基づいて示すフローチャートである。
【図3】粘土微粒子を添加しない従来のフリッケ・ゲル線量計の各位置により測定したフリッケ・ゲル線量計の各位置におけるFe(III)の密度の変化量を反映する変化量δR値を、巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。
【図4】従来のポリマー・ゲル線量計の各位置により測定したポリマー・ゲル線量計の各位置におけるポリマーの生成密度を反映する変化量δR値を、巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態1のゲル線量計を製造する典型例の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態1の実施例(実施例1)として作製したフリッケ・ゲル線量計の各位置におけるFe(III)の密度の変化量を反映する変化量δR値を、対応する位置における巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態2の実施例(実施例2)として作製したフリッケ・ゲル線量計の各位置におけるFe(III)の密度の変化量を反映する変化量δR値を、比較のための基準サンプルとともに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るゲル線量計の実施形態(実施形態1および実施形態2)を説明する。当該説明に際し特に言及がない限り、共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。実施形態の説明のために、まず従来のゲル線量計について説明し、それとの対比によってゲル化剤を含むゲル線量計の実施形態(実施形態1)を詳述する。さらに、実施形態1との対比によってゲル化剤を含まないゲル線量計の実施形態(実施形態2)を説明する。

【0023】
1.従来のゲル線量計
本発明における発明者らによる着想を説明するために、まず従来のゲル線量計およびその特性について説明する。

【0024】
1-1.線量測定の原理および測定例
図1は、従来ならびに実施形態1および2のゲル線量計における粒子線の照射とその照射後の測定の様子を示す模式図であり、図2は、実施形態1および2のゲル線量計に粒子線を照射して測定するまでの工程を、治療計画を立案する例に基づいて示すフローチャートである。

【0025】
図1のうち、図1(a)は粒子線をゲル線量計に照射するための照射構成を、また、図1(b)は照射後のゲル線量計から記録物質密度を測定するための測定構成を、それぞれ示す概略図である。図1(a)に示すように、粒子ビームBは、ゲル線量計118を被照射体にして照射される。このゲル線量計118は、それ自体が人体などの本来の被照射体の水等価物としてファントムとなりつつ、その内部に記録物質密度の形態で線量分布を記録する。その線量分布の様子を記録密度分布118Aにより模式的に図示している。このため、ゲル線量計118に照射する粒子ビームBの相対的な幾何配置が様々に制御される。粒子ビームBは、エネルギーがそろった単色ビームとして加速器(図示しない)により生成され、ウォブラーマグネット102、スキャッタラー104、アパーチャー付スクリーン106を経て所定の断面範囲に広げられる。モニターセンサー108は、その粒子ビームBの強度を監視するために設けられる。粒子ビームBは、次にリッジフィルター110を通過し、ブラッグピークが被照射体中の目的の照射範囲を内包する範囲をもつように、ビーム進行方向に垂直な幅方向に広げられる。次いで、粒子ビームBの飛程を調整するために、レンジシフター112を通過させる。レンジシフター112は、人体やゲル線量計118等の被照射体において入射面から目的の照射範囲に飛程を合わせる作用を持つ。そして粒子ビームBの断面における周縁を調整するために、コリメーター114Cにて概略周縁を、また、マルチリーフコリメーター114MLCにて目的の照射範囲に合わせた詳細な周縁を画定する。最後に粒子ビームBが通過するのは、目的の照射範囲の奥行き方向の前後の外面形状の間に粒子ビームBの拡大ブラッグピークが収まるように被照射体の照射範囲に合わせた3次元的表面形状が個別に仕立てられたコンペンセーター(ボーラス)116である。このようにして、被照射体に対応して精密に制御および調整された粒子ビームBの線量分布が、生体と等価性を有するゲル線量計118の記録密度分布118Aに記録される。

【0026】
図1(b)に示すように、照射されたゲル線量計118の記録密度分布118AはMRI装置200により測定される。ゲル線量計118の各位置における記録密度分布118Aは、一つの好ましい形態として微視的エネルギー付与量の局所的な積算値を記録しているものである場合、この測定により、物理線量の分布を測定することができる。具体的には、MRI装置200からは、回転する励起コイル202により交流磁場Hがゲル線量計118に印加され、ゲル線量計118の各部からの応答信号がピックアップコイル204により受信される。これにより、ゲル線量計118の各部における記録物質の密度が測定される。記録物質の密度は、例えばボクセルデータの形式にて記録され、各位置の濃度の値がその後に読み取られ、適当な位置での断層画像として表示可能にされる。このような照射および測定の処理は、ゲル線量計118が従来のゲル線量計である場合、実施形態1または2のゲル線量計である場合に共通である。またゲル線量計の種類が異なっても、MRI装置により測定する測定量(緩和速度の種類)が異なる以外には、上記処理は概略同一である。

【0027】
図2に示すように、粒子線治療の場合においては、まず各部への必要な線量分布を想定して、必要に応じてコンピューターの助けを借りて専門家が治療計画を立案する(ステップS100)。具体的には、配置や向き、線量(照射時間)、フィルター・コリメータ類の設定、といった照射条件を決定する。その際には、例えば照射領域とする各位置に必要な線量の目標値に合わせて、また、照射領域以外の各位置には可能な限り影響を与えないようにして、照射条件を決定する。この治療計画において少なくとも一の照射シーケンスが決定される。次に、ゲル線量計を調製する(ステップS200)。ゲル線量計は、基本的に、治療計画が適切であるかどうかの判断に利用するため、治療計画の一の照射シーケンスに対して1つ作製される。治療計画の立案(ステップS100)とゲル線量計の調製(ステップS200)の時間的順序は適宜に変更される。そして治療計画に沿って、ゲル線量計を被照射体として粒子線が照射される(ステップS300)。照射の後のゲル線量計は、例えばMRIにより記録物質密度が計測される(ステップS400)。この計測は、ゲル線量計における記録物質を測定するための任意の装置により行うことができ、例えばMRI以外にも、X線CT装置、超音波エコー装置、その他の任意の非破壊の測定装置や破壊を伴う測定装置を利用することができる。その計測データは適宜解析され(ステップS500)、さらに、その解析結果に対して判定者(医師、放射線技師等)による判定が加えられる(ステップS600)。判定結果が満足できるものであれば(分枝G)、この一連の処理は終了する。これに対し、判定結果が不満足なものであれば(分枝NG)、条件が変更されて(ステップS700)、再び治療計画の立案(ステップS100)が実施される。この条件の変更は、例えば、方向の調整、線量の調整、フィルター類やその設定条件の変更等が主なものである。実際の治療計画を立案するためにゲル線量計を使用する工程では、原理的にはこの工程に従いつつ、当業者に自明な実施上の変形が加えられることもある。例えば、複数のゲル線量計を利用して複数の照射シーケンスによる照射が続けて行われ、それらを対比しながら判断が加えられる。また、治療計画の立案ではなく、QA/QCのための工程では、例えばゲル線量計による線量分布の実測値を利用して、線量の再現性やビームの広がりといった粒子照射装置や付属機器の性能が確認され、必要に応じ装置や機器の動作条件を調整する。

【0028】
仮に十分な性能が得られたとしたときにこのように使用されることを想定しうる従来のゲル線量計は、典型的には、フリッケ・ゲル線量計、二クロム酸・ゲル線量計(DCG線量計)、ポリマー・ゲル線量計等である。

【0029】
線量分布を測定する最終的な目的は、人体等の被照射体に放射線を照射した際において、病巣などの標的位置にて粒子線からのエネルギーを制御して放出させること、および、標的周囲の正常組織に対しては可能な限り影響を与えないことを適切に両立させることである。つまり、放射線を照射すると、放射線により電離した水分子に由来する遊離基(ラジカル)は、例えばDNAの損傷または切断の作用を生体組織へ及ぼす。この作用の強さは、典型的には、被照射体の各部における線量に応じて定まる。なお、本出願の説明における線量分布とは位置的な分布を意図している。つまり、被照射体の各部における巨視的エネルギー付与量などの照射による影響量の分布を、少なくとも治療計画やQA/QCの目的に利用可能な程度の空間的な細かさで表現したものが線量分布である。また、物理的線量としての巨視的エネルギー付与量は、エネルギーの定まった個別の粒子のLETに、照射する粒子線のエネルギー毎のフルエンスを乗算して、当該粒子線に含まれる全エネルギーについて積分し、さらに照射時間について積分した量となる。

【0030】
ゲル線量計は、水由来のラジカルが関与する化学反応によって記録物質の密度が巨視的エネルギー付与量を記録するものとなるように機能する。上記各ゲル線量計のそれぞれにおいて、水由来のラジカルは、鉄(II)イオンの酸化(フリッケ・ゲル線量計)、Cr2-の還元(DCG線量計)、そして、プレポリマーからの重合(ポリマー・ゲル線量計)、といった化学反応に関与する。そして記録物質はそれぞれ、鉄(III)イオン(フリッケ・ゲル線量計)、Cr3+(DCG線量計)、そして、重合したポリマー(ポリマー・ゲル線量計)となる。

【0031】
ゲル線量計の動作をより詳細にみると、主成分の一つである水分子は、例えば炭素等の粒子線からエネルギーを得て電離によってイオン化されたり励起されたりする。そしてそのイオンまたは励起した水分子は直ちに分解し、比較的長い寿命を持つ水由来のラジカルが生成される。ここで、水由来のラジカルの中には、一旦ラジカルとして生成されたあとにラジカル同士が結合する反応(ラジカル自己消費反応)の結果、別の分子状生成物となるものも存在する。このラジカル自己消費反応を経ることによって当該ラジカルから誘導して生成される物質のうちの当該ラジカル以外の物質を、本出願において「分子状ラジカル誘導物」という。典型的な水由来のラジカルは、eaq(水和電子)、・H(水素ラジカル)、・OH(ヒドロキシルラジカル)である。これに対し、典型的な分子状ラジカル誘導物は、H(過酸化水素)、H(水素)、O(酸素)である。このように、分子状ラジカル誘導物は、原子や分子のみならず、電子、ラジカル、イオンなども含んでいる。

【0032】
物理線量を測定するための理想的なゲル線量計に必要となる特性は、ゲル線量計内の各位置の記録物質密度の増分が、積算可能性を保って各位置における微視的エネルギー付与量を反映することである。そして積算可能性のために成り立つべき関係は、端的には次のようなものである:
微視的エネルギー付与量∝記録物質密度の増分 式(1)。
なお、「∝」はその前後の量が互いに比例関係にあることを示す。また、微視的エネルギー付与量を積算して記録するゲル線量計の性質を踏まえれば、式(1)の微視的エネルギー付与量は、局所的なエネルギー付与量であり、かつ、次々に入射する粒子線が相互作用によって追加して与えるエネルギー付与量である。以降の説明において断りのない限り、ゲル線量計における微視的エネルギー付与量はこの意味である。

【0033】
従来のゲル線量計の場合、記録物質密度がそれを生成する反応を引き起こす水由来のラジカルの密度に応じて増加し、そのラジカル密度が線量計内の各位置における電離密度により決まり、そして各位置の電離密度が微視的エネルギー付与量により決まる。このため、従来のゲル線量計における式(1)の理想的な動作を担保するためには、
微視的エネルギー付与量∝電離密度∝ラジカル密度∝記録物質密度の増分 式(2)
という比例関係のチェーンが成立する必要がある。

【0034】
さて、放射線が水を通じて生体組織やゲル線量計に与えるエネルギーと、そのエネルギーにより生成されるこれらの化学種の平均的な数(ラジカル数、分子数またはイオン数)との間における数量的な生成効率(G値)が調べられている。G値は化学種ごとの100eVあたりの平均的な生成個数として表され、例えば酸性環境では、
G(eaq+・H)=3.7、
G(・OH)=2.9、
G(H)=0.4、そして
G(H)=0.8
である。これらの関係は、水を主成分としたいずれのゲル線量計についても、さらには実際の生体組織においても同様に成り立つ。

【0035】
以下、ゲル線量計のうちフリッケ・ゲル線量計を具体例として取り上げ、従来のゲル線量計において線量が測定される原理およびその測定例をさらに説明する。フリッケ・ゲル線量計に放射線を照射して引き起こされる反応メカニズムは、アンモニウム鉄(II)や硫酸第一鉄(II)の水溶液における、Fe(II)イオン(Fe2+)から鉄(III)イオン(Fe3+)への酸化反応である。このため、鉄(II)を含んでいたり生成したりする物質が記録物質前駆体(precursor for recording material)であり、鉄(III)イオンが記録物質である。鉄(II)イオンから鉄(III)イオンが生成される際のG値は15.6(1/100eV)であり、鉄(III)イオンのG値は、水に放射線を照射して生成されるラジカルおよび分子状ラジカル誘導物のG値と次の式(3)の関係を満たす:
G(Fe(III))=
G(・OH)+2(G(H))+3(G(eaq)+G(・H)+G(HO・))
式(3)。
なお、G(eaq)+G(・H)+G(HO・)=G(eaq+・H)である。

【0036】
そして各位置の線量を決定するためには、放射線を照射した後のフリッケ・ゲル線量計における各位置の鉄(III)イオンの生成量(記録密度)を何らかの方法により3次元的に測定する。図1に関連し説明したように、通常、フリッケ・ゲル線量計やDCG線量計など遷移金属由来のものやポリマー・ゲル線量計などは、記録物質密度をNMRにより測定することができる。フリッケ・ゲル線量計の記録物質である鉄(III)イオンの密度は鉄(III)イオンの磁気モーメントの縦緩和レート(スピン-格子緩和レート)R=1/Tに比例するため、縦緩和時間(スピン-格子緩和時間)TがNMRにより測定される。最終的に鉄(III)イオンの密度は、ゲル線量計内の各位置に対するスカラー量としてボクセルデータ化または画像化することができる。他のゲル線量計では、DCG線量計でも同様にR=1/Tが測定される。また、ポリマー・ゲル線量計では、横緩和レート(スピン-スピン緩和レート)R=1/Tが測定される。

【0037】
上述したように、ゲル線量計における記録物質の密度について注目を要する代表的性質が、線量応答性が一定であるか、または、式(1)の記録物質の密度の増分と微視的エネルギー付与量との間に比例関係が成り立つかどうかのいずれかである。本出願では、これら比例関係が成立していることを、ブラッグピークを持つ実測の巨視的エネルギー付与量の曲線すなわち線量分布の実測値のグラフと比較しやすいグラフにより示す。すなわち、まず、フリッケ・ゲル線量計では縦緩和時間Rにより記録物質の密度が直接的に求められるが、線量を変化させることに応じて変化する縦緩和時間Rの変化量δRを求める。そしてその変化量δRを、ゲル線量計の各位置における線量に対するRの変化量δRの値に代えて、ゲル線量計表面における線量に対するRの変化量δRの相対値のグラフにより表現する。このような変化量δRの表現では、各位置の変化量δRは、それがもし微視的エネルギー付与量の増分を正しく反映していれば、粒子線が示す線量の実測値(例えば電離箱による測定値でLETの増加を反映した形状を示すグラフ)と比例することとなる。このため、上記表現での変化量δRのグラフの形状は、実測線量に対して、互いにスケールの違いを除き同一の曲線となる。さらに比較を一層容易にするため、変化量δRをグラフにする際には、ゲル線量計表面における値により規格化した相対値(相対線量)でプロットする。その結果、フリッケを利用するゲル線量計の記録物質の密度の増分が微視的エネルギー付与量に比例している理想的な場合には、変化量δRのグラフと巨視的エネルギー付与量の実測値のグラフが図形的に重なる。理想的な特性となったグラフでは、エネルギーの揃った単色粒子ビームでのブラッグピークの形状まで含めて両者は一致する。これに対し、記録物質密度が微視的エネルギー付与量の増分に比例しない場合、変化量δRと上記実測値の不一致の程度が両グラフにおける図形的なずれとして現われる。この事情は、ポリマー・ゲル線量計において変化量δRを測定してグラフにより示す場合にも同様である。

【0038】
図3は、粘土微粒子を添加しない従来のフリッケ・ゲル線量計の各位置におけるFe(III)の密度の変化量を反映する変化量δR値を、巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。入射させた粒子は290MeV/uの炭素線(126+)である。なお、「MeV/u」は核子当りのエネルギーの意味をもつ粒子線の加速状態を示す単位である。グラフの横軸はフリッケ・ゲル線量計中での侵入方向の深さ方向の位置であり、縦軸は、それぞれ、変化量δRの相対値(入射側表面の値により規格化したもの)と、電離箱による実測値の相対値とである。なお、電離箱による実測値は、線量計の材質中の各位置に相当する厚みだけ線量計と同質の物質を透過させてから電離箱の検出部前面に炭素線を入射させ、各透過厚に対して測定した電離エネルギーの値である。また、図4は、従来のポリマー・ゲル線量計の各位置により測定したポリマー・ゲル線量計の各位置におけるポリマーの生成密度を反映する変化量δR値を、巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。入射させた粒子は135MeV/uの炭素線(126+)である。実測値については、図3と同様に電離箱による測定値である。δR値は、δR値と同様の処理によりR値から算出したものである。

【0039】
まず、本願の発明者らは、従来のフリッケ・ゲル線量計に粘土微粒子(ナノクレイ)を添加することにより、粘土微粒子によって記録物質の拡散を抑制する効果を観測しようとした。しかし、その実験はそれ自体が困難であった。この理由については後述する自動酸化が生じたためである。そこで、粘土微粒子を混入せず、従来のフリッケ・ゲル線量計による鉄(III)イオンの密度の変化量すなわち生成量を反映する変化量δRのグラフを取得した。すると、図3に示すように、変化量δRのグラフは線量の実測値のグラフとは一致しなかった。線量の実測値は、LETの特性を反映して鋭いブラッグピークを示しているものの、変化量δRつまり鉄(III)イオンの密度の変化はなだらかな変化しか示さず、特にブラッググピーク付近の線量の増大に対して過小な応答となっている。この不一致は二つの現象に起因していると考えている。一つは、従来のフリッケ・ゲル線量計では、LETが高まる位置すなわち微視的エネルギー付与量が大きく電離密度が高い位置において、線量応答性が小さくなっているということである。ただし、これに加えてもう一つ、粘土微粒子を添加しない条件のために、記録物質の密度が拡散によりなだらかとなる現象も同時に影響している。これらの要因がどの程度であるかはこの結果だけからは判然としない。そこで、放射線の照射条件や材質は異なるものの、拡散を考慮しなくて良いポリマー・ゲル線量計の実験を行ったのが、図4に示した結果である。

【0040】
図4に示すように、従来のポリマー・ゲル線量計によるポリマーの生成密度を反映する変化量δRのグラフも、線量の実測値のグラフとは一致しない結果となった。図4の不一致が示唆するのは、従来のゲル線量計では、LETが高まる位置すなわち微視的エネルギー付与量が大きく電離密度が高い位置において、線量応答性が小さくなっているということである。式(1)は従来のゲル線量計において成り立たず、各位置において実際の微視的エネルギー付与量に対して線形性を保った記録物質の密度は得られないのである。なお、粘土微粒子を添加しない従来のフリッケ・ゲル線量計においても電離密度が高い位置において線量応答性が小さくなる点について従来報告されている(例えば、非特許文献2)。実際にも非特許文献2には従来のフリッケ・ゲル線量計では炭素線ではなくLET依存性が緩やかな陽子ビームにおいてLETが増加することによる線量応答性の値が低下することが報告されている。図4の結果からは、実際の線量応答性の値は飛程付近において入射面付近の値の約半分またはそれ以下にまで減少しているものと本願の発明者は考えている。よって、鉄(III)イオンの生成量をNMRのRの値として正しく計測できたとしても従来のフリッケ・ゲル線量計では微視的エネルギー付与量は正しく積算できず、事後的な換算も不可能となる。

【0041】
1-2.線量応答性の線質依存性の原因
上述した従来のゲル線量計において線量応答性が線質、特にLETに依存してしまう原因は次のようなものと本願発明者らは予測している。まず本願発明者らはLETが大きい位置におけるラジカルの挙動に注目した。LETが高い位置では、ラジカルの密度が高まるために、ラジカル同士が互いに再結合する反応であるラジカル自己消費反応の割合が高くなるのではないかと予測した。最も典型的には、線量に比例して生成されたラジカルのうち消費されてしまうものがあり、そのようにして消費される比率がLETの高いところで増えるのではないか。この現象を別の表現で説明すれば、記録物質の生成反応に寄与するまで生残っているラジカル(反応ラジカル)が、LETが高く電離密度の大きい位置では、電離密度が小さい位置より増えるものの、電離密度に比例して生成されたラジカル(生成ラジカル)に対して比例するほどには増えないため、とも説明することができる。いずれにしても、そのような現象が生じれば、電離密度と記録物質の密度の増分との間の比例関係のチェーン(式(2))が成立せず、式(1)も成立しなくなることが説明できる。

【0042】
より具体的には、LETが小さい位置と大きい位置とを比較すると、LETが大きい位置では電離密度が高いためeaq(水和電子),・H(水素ラジカル)、・OH(ヒドロキシルラジカル)がより高い密度で生成され、互いの間の距離が近付くラジカルの割合が高まるに違いない。これらは互いにも反応するためLETが高い位置ほどラジカル自己消費反応が一層生じやすくなる。このラジカル自己消費反応は、フリッケ・ゲル線量計の場合に即して説明すれば、LETが高く水素ラジカル・Hが高い密度で生成されると生じやすくなる。この際、
・H+・H→H
といった反応が典型的なものである。この例においては、・H(水素ラジカル)が水素Hとなってしまい、記録物質前駆体からの記録物質の生成すなわち鉄(II)イオンから鉄(III)イオンが生成する酸化反応に寄与するべき水素ラジカルは、電離密度が高まったとしてもそれほどは増えないのである。たとえLETを反映した微視的エネルギー付与量に比例してラジカルが一旦生成しても、そのうちラジカル自己消費反応によりその後の反応に寄与しないものの割合が高まれば、記録物質の生成密度はLETの高い位置で巨視的エネルギー付与量に対して鈍感になる。例えば、ブラッグピーク付近の位置におけるゲル線量計の記録物質密度は本来得られるべきものよりも過小なものとなる。本願の発明者らは従来のフリッケ・ゲル線量計にて観察される線量応答性のLET依存性の主要な原因はこのような機構によるものと推測した。

【0043】
1-3.ゲル線量計への粘土微粒子添加
一般に、ポリマー・ゲル線量計では記録物質が固定されるものの、フリッケ・ゲル線量計、DCG線量計ではゲルの構成物質に不可避の熱揺らぎにより時間の経過とともに記録物質が拡散してしまう。本願の発明者らはフリッケ・ゲル線量計とDCG線量計に粘土微粒子を添加して拡散を抑制するアプローチを採用している(フリッケ・ゲル線量計、DCG線量計について:非特許文献1)。実際に添加した粘土微粒子は、例えば合成ヘクトライト(synthetic hectorite、商品名:Laponite XLG(Rockwood Additives Limited, Widnes, Cheshire UK,または Southern Clay Products, Inc., Gonzales, Texas USA)である。粘土微粒子はナノクレイとも呼ばれることがある。

【0044】
ただし、上述したように、粘土微粒子を添加すると特有の課題が生じる場合がある。本願の発明者らが実験したところでは、酸化を検出原理に含むフリッケ・ゲル線量計で粘土微粒子の添加量が過大であると、線量計として動作させることができないことがある。これは、粘土微粒子の添加量を増加させると、放射線の照射とは無関係な、自発的な酸化(「自動酸化(auto-oxidation)」と呼ぶ)が生じるためである。ラジカルによる反応の前すなわち放射線を照射する前において鉄(II)イオンが自動酸化される際に粘土微粒子が果たしている役割はかならずしもはっきりしない。しかし、粘土微粒子には酸化を促進する作用があることは確かである。このような記録物質前駆体が記録物質に変化する反応を促進する作用は、どのような原理に基づき得られる作用であるかにかかわらず本出願において「反応促進作用」と呼ぶ。なお、自動酸化を防止するための現実的な対策として、従来のゲル線量計において本願発明者らは粘土微粒子の添加量に上限を設けている。

【0045】
2.実施形態1のゲル線量計
次に、従来のゲル線量計に対する上述した考察を踏まえ本願の発明者らが着想した本実施形態の手法について説明する。

【0046】
2-1.メカニズム
2-1-1.分子状ラジカル誘導物による記録物質の生成
本願の発明者らは、ラジカル自己消費反応により生成されるH(過酸化水素)、H(水素)、O(酸素)等の物質すなわち分子状ラジカル誘導物と記録物質との関係に着目した。例えばフリッケ・ゲル線量計では、分子状ラジカル誘導物の一つであるOが鉄(III)イオンの生成に寄与することが知られている。このイオンの生成反応は、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が存在していれば、その物質がラジカル自己消費反応を経由したものであるかどうかとは無関係に生じる。実際にも、フリッケ・ゲル線量計に粘土微粒子を添加した場合の放射線の照射とは無関係な従来の鉄(III)イオンの生成(つまり自動酸化)では、従来のフリッケ・ゲル線量計の溶存酸素が原因となっている。

【0047】
2-1-2.放射線照射前における分子状ラジカル誘導物と同種の分子物質の除去
そこで本願の発明者らは、粘土微粒子を添加した場合に溶存酸素のために自動酸化が引き起こされることに着目した。そしてラジカルを経て分子状ラジカル誘導物として生成されるOの生成量が放射線による電離密度に対し相関を示すことにも着目した。本願の発明者がこれらから推測したのは、生成された分子状ラジカル誘導物(例えばO)の量または密度に応じて生成される記録物質(例えば鉄(III)イオン)の量または密度もまた、線量の増大につれて増加させることができるはず、という点である。さらに本願の発明者らが予測したのは、その性質を発現させることができたなら、記録物質を生成させるために利用可能な反応には、分子状ラジカル誘導物が関与する反応も含めることが可能ではないかという点である。そして上記性質を発現させるためには、特に、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が、放射線が照射される前のゲル線量計において存在しない状態を実現することが有効なはずである。そうすれば、分子状ラジカル誘導物と同種の物質は、放射線により実際に生成されたもののみに限定されるに違いないからである。

【0048】
ここで、例えば、水に容易に溶存する性質をもつ酸素は特段の処理をしない限り放射線を照射する前のゲル線量計にも溶存している。また、化学線量計として放射線の定量に利用される溶液のフリッケ線量計では、空気または酸素を飽和させて溶存酸素濃度を高めた状態にされて使用されることもある。しかし、上述した予測どおりの動作を実現するためには、それらとは正反対に、ゲル線量計から予めOを意図的に除去することが有効なはずである。この除去によって、記録物質の生成に寄与するOを、実際にラジカルから生成した分子状ラジカル誘導物としてのOに限定することができるからである。

【0049】
2-1-3.線量応答性から線質依存性が軽減されるメカニズムについての予測
そしてその場合、式(1)により示した微視的エネルギー付与量と記録物質密度の増分との間の関係は、
電離密度∝(ラジカル密度+分子状ラジカル誘導物密度)∝記録物質密度の増分
式(4)
という関係により維持される可能性が高いと予測している。式(2)に示したように、これまでは水由来のラジカルによる反応のみが着目されており、分子状ラジカル誘導物による反応は全く考慮されていなかった。これに対し、上述した予測が正しければ、ラジカル自己消費反応により水由来のラジカルが減少しても、ラジカル自己消費反応によるラジカル密度の不足分を分子状ラジカル誘導物が補完する関係とすることができる。分子状ラジカル誘導物による反応まで含め(ラジカル密度+分子状ラジカル誘導物密度)という量に記録物質密度の増分を比例させることができるならば、ラジカル密度と分子状ラジカル誘導物密度との間の量的バランスが例えばLETなどの線質に依存して変化したとしても、そのバランスの変化は記録物質密度の線量応答性に影響しなくなる。つまり、上記予測が正しく、さらに、式(4)の関係が成り立つのであれば、本実施形態においては、電離密度により生成したラジカルに記録物質密度の増分を比例させることができ、線質依存性(LET依存性)を持たないゲル線量計を実現できるのである。

【0050】
そして、本実施形態においては、式(4)の関係を成り立たせて微視的エネルギー付与量を反映した記録物質の生成に適するような状況を意図的に作り出す。そのために、放射線照射前における分子状ラジカル誘導物と同種の物質を除去する処理を行なう。分子状ラジカル誘導物と同種の物質が放射線照射前に含まれていると、放射線照射による分子状ラジカル誘導物の密度だけではなく、放射線照射前からの当該同種の物質の密度も式(4)の分子状ラジカル誘導物と同様に記録物質の生成に関与してしまう。しかし、そのような事態は、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が放射線照射前に残存しないようにすることにより防止できる。

【0051】
2-1-4.粘土微粒子の作用との親和性
上述したように粘土微粒子には拡散を抑制する作用(「拡散抑制作用」)以外に酸化についての反応促進作用がある(1-3欄参照)。この作用の詳細な機構は現時点では不明である。従来のゲル線量計にとっては、自動酸化を生じさせることから必ずしも好ましいとはいえない。これに対し実施形態1においては、反応促進作用はむしろ好ましい作用とさえいえる。まず、分子状ラジカル誘導物と同種の物質としての酸素を予め除去する本実施形態では、自動酸化は起こらない。したがって、放射線が照射されるまでに粘土微粒子の酸化についての反応促進作用が問題となることはない。それどころか、分子状ラジカル誘導物をも記録物質の生成に利用する実施形態1においては、粘土微粒子の反応促進作用は都合が良いのである。というのは、分子状ラジカル誘導物であるOによって鉄(III)イオンを生成する確実性が高まるためである。つまり、放射線によってラジカルを経て生成した分子状ラジカル誘導物が確実に記録物質の生成に寄与すれば、
(ラジカル密度+分子状ラジカル誘導物密度)∝記録物質密度の増分
という関係によって、例えば分子状ラジカル誘導物が記録物質の増加に確実に寄与するのである。

【0052】
発明者らは、この反応促進作用の原因の一つとして、2-1-3欄にて示した推測と矛盾しない説明が可能であると考えている。端的には、反応促進作用として、粘土微粒子が示す触媒作用が関連していると予測している。分子状ラジカル誘導物の一つであるHの分解が粘土微粒子による触媒作用によって促進されるとOが生成される。このOもまた分子状ラジカル誘導物であり、Oは上述したように酸化を通じて感度を高める効果(酸素増感効果)を持つ。つまり、式(2)において電離密度と記録物質密度の増分(つまり酸化量)との間の関係において、LET値が高いことによるずれ(感度低下)を、上記触媒作用によるOが結果的に補償またはキャンセルしている可能性が高い。これがLETに依存しない線量応答の原因ではないかと推測している。このため、本願の発明者らは、上記酸素増感効果は反応促進作用の典型例の一つであり、その酸素増感効果が粘土微粒子の触媒作用によってもたらされていると推測している。ただし、反応促進作用は、それがどのような原理に基づき得られる作用であったとしても実施形態1においては有用な作用となる。

【0053】
2-2.実施形態1のゲル線量計の具体的構成
上述した着想および予想を具現化するものとして本願の発明者らが提案する実施形態1のゲル線量計の具体的構成について説明する。

【0054】
実施形態1の放射線線量測定用のゲル線量計は、従来のゲル線量計に粘土微粒子(ナノクレイ)を添加したものと同様に、水、ゲル化剤、粘土微粒子、および記録物質前駆体を含んでいる。粘土微粒子を添加した従来のゲル線量計と共通する材質については、まず水が溶媒または分散媒となり、放射線によって電離する主たる物質となる。またゲル化剤は、溶液状、スラリー状(粘土微粒子を含むとき)、またはゾル状等、少なくともある程度の流動性を示す溶液または混合物(分散液)を、溶解または分散させたままゲル化するために利用される。粘土微粒子は記録物質の拡散を抑制する拡散抑制作用を一つの目的として添加される。そして記録物質前駆体は最終的に記録物質に変化する原子またはイオンを含んでいる。

【0055】
この記録物質前駆体に含まれている原子またはイオンは、価数を変化させることによって記録物質となる。例えば、フリッケ・ゲル線量計に本実施形態を適用すると、上記原子またはイオンとなるのは鉄(II)イオン(すなわちFe2+)であり、記録物質は鉄(III)イオン(すなわちFe3+)である。この例での記録物質前駆体は、水に溶解されたならばFe2+を少なくともある程度生成する材質である。上記記録物質前駆体は、価数を変化させることとなる原子またはイオンを含んでいる。その原子またはイオンは、放射線が照射されると水から電離して生成されるいずれかのラジカルと反応し、記録物質を生成する。

【0056】
実施形態1のゲル線量計では、記録物質前駆体に含まれる上記原子またはイオンは、上記水由来のラジカルに加え、水由来のラジカルが互いに結合して生成される分子である分子状ラジカル誘導物とも反応して、ラジカルにより生成されたのと同じ記録物質が生成される。つまり、実施形態1のゲル線量計において記録物質が生成される反応には、水由来のラジカルと分子状ラジカル誘導体との双方が関与する。

【0057】
そして、実施形態1のゲル線量計においては、放射線が照射される前にはゲル線量計中に分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存していないようにされている。ここで、「分子状ラジカル誘導物と同種の物質」とは、物質として分子状ラジカル誘導物との違いはないものの、任意の成因により存在しうる物質である。この分子状ラジカル誘導物と同種の物質に属するとされる物質には、従来のゲル線量計において、意図的に添加された物質や特段注意を払われることなく存在している物質も含まれている。フリッケ・ゲル線量計にて例示すれば、フリッケ・ゲル線量計を構成する水に放射線照射以前に溶存している溶存気体としての酸素は、「分子状ラジカル誘導物と同種の物質」の典型例である。フリッケ・ゲル線量計にて放射線照射によって水由来のラジカルから生成された酸素が分子状ラジカル誘導物となるためである。

【0058】
実施形態1のゲル線量計の製法では、分子状ラジカル誘導物除去工程と呼ぶ工程を実施する。分子状ラジカル誘導物除去工程は、ゲル線量計が形成されるまでの段階で、分子状ラジカル誘導物と同種の物質を残存させなくする処理、つまり最終的なゲル線量計から除去する任意の手段による任意の工程である。この分子状ラジカル誘導物除去工程の具体例については、2-2-1-1-5の欄にて後述する。

【0059】
次に、本願の発明者らが有望と考えているゲル線量計の具体的構成を、作製方法とともに説明する。

【0060】
2-2-1.具体的構成1:フリッケ・ゲル線量計
本願の発明者らが実施形態1の有望な具体的構成と考えているものは、溶液の化学線量計として知られるフリッケ水溶液線量計の材質をゲル化し、さらに粘土微粒子を添加し、さらにゲル化して作製するフリッケ・ゲル線量計である。

【0061】
2-2-1-1.材質および手順
粘土微粒子を添加するフリッケ・ゲル線量計における材質および手順は、典型的には、溶液の化学線量計であるフリッケ水溶液線量計のための材質に、粘土微粒子の一例であるナノクレイを添加し、さらにゲル化剤を追加してゲル化させる、というものである。そして、本実施形態では、溶存酸素を除去するための処理(分子状ラジカル誘導物除去工程)を適切なタイミングで実施する。以下さらに詳細に説明する。

【0062】
2-2-1-1-1.各論:水と溶存酸素
水は、他の材質の溶媒や分散媒となるとともに、放射線の電離作用によってラジカルを生成させる材質となる。本実施形態における水は、不純物を可能な限り除去した水を採用することができる。典型的には、RO水、イオン交換水等の超純水に加え、状況によっては蒸留水など、可能な限り高純度な水を採用する。一般に、超純水等には空気や酸素が一定程度溶存していることがあるが、本実施形態では分子状ラジカル誘導物除去工程により溶存酸素は除去または低減される。

【0063】
2-2-1-1-2.各論:記録物質前駆体
記録物質前駆体は、価数の変化を伴う変化によって最終的に記録物質となる分子またはイオンを含む物質である。実施形態1の場合を含むフリッケ・ゲル線量計の場合の典型例は、水溶液としたときに鉄イオン(II)イオン(Fe2+)を生成するアンモニウム鉄(II)や、硫酸第一鉄(II)である。この記録物質前駆体からの分子またはイオンに対し、放射線による電離に応じて生成された水由来のラジカルとラジカルから生成される分子状ラジカル誘導物とが作用すると、その価数が変化して記録物質となる。実施形態1の場合を含むフリッケ・ゲル線量計の場合には、記録物質として鉄(III)イオン(Fe3+)が生成される。その際の上記分子状ラジカル誘導物は酸素であり、記録物質となるイオンとして鉄(III)イオン(Fe3+)が生成されるため、価数の変化を伴う反応は酸化である。ここでの記録物質前駆体から記録物質が生成される機構は、実施形態1の本具体的構成においてはフリッケ溶液線量計における動作と同一である。このため、実施形態1の本具体的構成のフリッケ・ゲル線量計は、フリッケ溶液線量計が備えるものとほぼ同等またはそれ以上の感度を示し、実用に適する構成といえる。

【0064】
実施形態1でフリッケ・ゲル線量計を作製する場合には、記録物質前駆体の一例として、アンモニウム鉄(II)六水和物((NHFe(SO・6HO)を採用する。追加して、記録物質を生成する反応に必要な添加剤(例えばPH調整剤)を適宜添加することも有用である。本実施形態では、PH調整剤として例えば過塩素酸(HClO)を添加する。アンモニウム鉄(II)六水和物および過塩素酸の典型的な濃度は、最終的なゲル線量計に対し、それぞれ、1mM、および50mMである。

【0065】
実施形態1においてフリッケ・ゲル線量計アンモニウム鉄(II)以外の記録物質前駆体の例は、例えば硫酸第一鉄(II)であり、その場合には、PH調整剤として、例えば硫酸が採用され、さらに例えば食塩(NaCl)が適宜添加される。

【0066】
具体的構成においては、さらに、感度や記録保持性を高める目的で追加の薬剤が添加されることもある。例えば、生成後の記録物質である鉄(III)イオンの拡散を抑制するために、キシレノールオレンジ(Xylenol Orange)を添加することも有用である。

【0067】
2-2-1-1-3.各論:粘土微粒子
実施形態1のゲル線量計では、記録物質の拡散を防止または抑制する拡散抑制作用のため、および、酸化による反応促進作用を利用するため、という二つの目的で粘土微粒子を添加する。なお、この粘土微粒子として利用することができる典型的な物質は、個別の粒子粒径がナノメートルオーダー(すなわち、1nm以上1μm未満)に入るものを含むような粘土微粒子や、平均粒径がナノメートルオーダーであるような粘土微粒子である。以上のような粒径をもつ粘土微粒子はしばしば「ナノクレイ」とも総称される。ただし、本実施形態において粘土微粒子の粒径が限定されるものではない。粘土微粒子は、鉱物として天然に産出される物質や、それに物理的または化学的処理を施して性質を調整したもの、または、化学的に合成した人工鉱物を採用することができる。フリッケ・ゲル線量計以外のゲル線量計まで含めて、実施形態1においては、高純度で水に容易に分散可能なものが望ましい。特に好ましい粘土微粒子は、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、および水膨潤性合成雲母である。これらの好ましい粘土微粒子は、水膨潤性すなわち吸水性と吸水による膨張性を有しており、吸水によりデラミネーションを生じる。これらの性質から、上述した記録物質の拡散を防止する観点で有用である。また、記録物質の生成反応についての反応促進作用は、特にフリッケ・ゲル線量計においては酸化反応について明瞭な効果があり、上述した各粘土微粒子にその効果が期待できる。なお、本実施形態に採用される粘土微粒子は、上記好ましい粘土微粒子を含めて、同時に複数種の材質を組み合わせることもできる。さらに、複数種類を組み合わせて採用する粘土微粒子では、拡散防止作用と反応促進作用を別々の種類の粘土微粒子に担わせることも可能である。そのような手法は、拡散防止作用と反応促進作用の関係を調整できる点で有利である。

【0068】
実施形態1の典型的な粘土微粒子は、水膨潤性ヘクトライトに分類される合成粘土材料であるLaponite XLG(ロックウッド社製)であり、その典型的な添加量は、最終的なゲル線量計に対し1wt%である。

【0069】
また、実施形態1の具体的構成のフリッケ・ゲル線量計に適用される粘土微粒子には上述した酸化についての反応促進作用を期待することができる。このため、実施形態1の具体的構成としてフリッケを利用する場合、フリッケ溶液線量計よりも高い感度となる場合もある。フリッケ・ゲル線量計に限定せずに説明すれば、分子状ラジカル誘導物と記録物質前駆体との間において記録物質を生成する際に反応を促進する粘土微粒子の作用(反応促進作用)は、その反応が酸化であるか他の反応(例えば還元)であるかにかかわらず、好ましい性質である。

【0070】
2-2-1-1-4.各論:ゲル化剤
実施形態1においてゲル化剤は、それが無ければ溶液またはスラリーである状態の混合物に対し一定程度の形状保持性(shape retention nature)または固形性(solidity)を与えるために添加される任意のゲル化剤である。典型的なゲル化剤はゼラチンである。本実施形態のゲル化剤には、その他、ゲル線量計のゲル化剤として利用される他の任意のゲル化剤、例えばアガロースを採用することもできる。アガロースは、実施形態1の具体的構成では、最終的なゲル線量計に対し例えば3wt%とされる。これら以外にも、水を含んだ状態で一定程度の形状保持性を発現させる任意のゲル化剤を本実施形態において採用することができる。またゲル化剤をゲル化させる操作にも特段制限はない。ゼラチンを採用する場合、他の物質を含み溶液またはスラリー状となっている混合物を加熱しながら攪拌し、そこに秤量したゼラチンを溶解させる。その溶解物を、流動性をもつ状態でガラス容器等の最終的に使用する容器に収容して、例えば恒温槽(冷蔵庫)などにより冷却する。この間、酸素の混入等により特性が変化する可能性があるが、例えば気密に封止することにより防止することができる。アガロースを採用する場合にも類似の操作が行われる。これらのゲル化剤を利用する特有の操作には、一般には加熱攪拌の手間および冷却時間を要する。また、ゲル化剤は一般に有機物のものが採用される。

【0071】
2-2-1-1-5.各論:分子状ラジカル誘導物除去工程
次に、分子状ラジカル誘導物除去工程について説明する。この工程は、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が、ゲル線量計に残存していないようにするための処理である。分子状ラジカル誘導物と同種の物質が、放射線に暴露されるまでのゲル線量計に実際に存在したり存在する可能性がある場合に即して説明すれば、本工程は、当該物質を除去したり減少させたりさらにはその除去された状態を維持したりするために利用可能な任意の化学的または物理的操作を意味する。このための典型的な処理は以下のようなものである:
・加熱、冷却、電磁波や放射線等のエネルギー線の照射、加速度や加速度勾配の付与、吸着カラムの通過、といった刺激操作や物理的操作による除去、
・何らかの物質(反応物質、置換物質、触媒を含む)の添加による排出または除去、さらには化学反応、電圧または電流印加といった電気化学的操作を含む処理、
・吸収したり吸着させて沈殿等させることにより記録物質の生成に実質的に関与させなくする固定化による除去、
・分解等の変質による除去、
・共存し得ない物質を意図的に添加して分子状ラジカル誘導物と同種の物質を追い出す置換処理による除去、
・上記除去の処理の任意の組合せ。
実施形態1の具体的構成がフリッケ・ゲル線量計である場合、いずれかの分子状ラジカル誘導物除去工程がフリッケ・ゲル線量計を作製することの妨げとならない何れかのタイミングに行われる。なお、分子状ラジカル誘導物除去工程の後に、測定する放射線の照射以外の原因によって分子状ラジカル誘導物と同種の物質の存在量が再度増加する状況(「汚染」と呼ぶ)がありうる場合には、必要に応じて当該汚染も防止される。例えば水から溶存酸素を除去する場合、添加する他の材料からの酸素による汚染や、空気との接触による酸素の再混入等による汚染を防止する。例えば、分子状ラジカル誘導物除去工程の後には、酸素以外のガスにより置換された雰囲気下にて扱われ、使用時など外気に取出す時点を含めて十分に清浄な容器に気密に封じておくことができる。

【0072】
上記分子状ラジカル誘導物除去工程として、この分子状ラジカル誘導物と同種の物質が残存することを妨げる作用をもつ物質(ラジカル誘導物阻害物質)を積極的に添加することは実施が容易であり好ましい。特に、分子状ラジカル誘導物が酸素である場合、ラジカル誘導物阻害物質が酸素を含まない気体とすることや、その気体を水にバブリングすることが有用である。また、例えば酸素以外のガスをバブリングして飽和させていれば、その後の酸素の混入はある程度防止できるため汚染の防止の点からも有用である。なお、バブリングされる水には、酸素を除く物質、または酸素を増加させるおそれのある物質を除く他の物質が、バブリングの前後を問わず混入したり溶解されたりしてもよい。つまり、本実施形態の好ましい具体的構成においては、実施上の容易さから、気体によって置換することにより水に溶存している酸素の濃度を十分に低下させることが好ましい。

【0073】
上記ラジカル誘導物阻害物質は、好ましくは、亜酸化窒素ガス、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガスからなる群から選択される少なくとも1種の気体とされる。具体的には、亜酸化窒素(一酸化二窒素、NO)ガスを水にバブリングすることは好ましい実例の一つであり、この場合、ラジカル誘導物阻害物質がNOガスとなる。もちろん、例えば、不活性ガス等の他の種類のガスであっても、バブリング等の手段によって溶存酸素を減少させることは同様に可能である。ラジカル誘導物阻害物質としてNOのようなガスをバブリングすると、分子状ラジカル誘導物と同種の物質である酸素は水から追い出される。そればかりか、バブリングによってゲル線量計中にNOがわずかに溶存することとなるため、その後のゲル線量計において酸素による汚染が防止される。なお、ここに記載したガス以外を含め、ガスに放射線が作用しても実質上は特に問題は生じない。また、NOの酸素原子は遊離することはなく問題とならない。亜酸化窒素NOは笑気ガスとも呼ばれ、医療現場においては通常は麻酔に利用されるガスである。また、亜酸化窒素NOは液性によっては別の作用も持つがこの点については実施形態2にて詳述する。

【0074】
したがって、分子状ラジカル誘導物除去工程を、ゲル化される前のいずれかの段階において脱気により酸素を除去する工程とすることもまた、本実施形態の好適な実例である。具体的には、減圧または加圧による置換脱気法、凍結置換脱気法、加熱置換脱気法のいずれかの脱気法を採用することが好ましい。なお、ここでの「脱気」は、水を含む材料から分子状ラジカル誘導物と同種の物質(例えば酸素)を減少または除去する処理を表現したものであり、他のガス(例えば窒素)が残存しているかどうかは不問である。例えば減圧または加圧による置換脱気法では減圧や加圧、凍結置換脱気法では凍結、そして加熱置換脱気法では加熱、といった物理的な操作により、少なくとも分子状ラジカル誘導物と同種の物質が減少または除去される。

【0075】
2-2-1-1-6.粘土微粒子と分子状ラジカル誘導物除去との関連
酸化などの反応に関する粘土微粒子の反応促進作用は、分子状ラジカル誘導物と同種の物質に対しても同様になり立つ。このため、分子状ラジカル誘導物除去工程のタイミングとの関連で粘土微粒子の添加のタイミングには注意を要する。実施形態1の分子状ラジカル誘導物除去工程のタイミング、例えば溶存酸素を除去または低減するタイミングは、フリッケ・ゲル線量計を製造するまでのいずれかの段階である。しかし、上述した好ましい性質が粘土微粒子に備わっている場合には、分子状ラジカル誘導物除去工程を実施するタイミングより前に粘土微粒子が存在すると自動酸化が生じかねない。

【0076】
したがって、実施形態1において上記性質が粘土微粒子にある場合には、分子状ラジカル誘導物と同種の物質が減少または除去された後に粘土微粒子が添加されることが好ましい。すなわち、粘土微粒子が添加される前に分子状ラジカル誘導物除去工程の少なくとも一部が実行されることは好ましい実施形態の一つである。本具体的構成で粘土微粒子に酸化についての反応促進作用が備わっている場合には、分子状ラジカル誘導物除去工程である溶存酸素の除去工程を先に実施し、その後に粘土微粒子を添加するのが好ましい。

【0077】
2-2-1-2.典型的な製造方法
図5は、実施形態1のゲル線量計を製造する典型例の製造方法を示すフローチャートである。この製造方法は、図2に説明したゲル線量計の調製(ステップS200)の詳細な工程の典型例である。分子状ラジカル誘導物除去工程(ステップS202)は、例えば超純水をNOガスでバブリングする、といった工程である。そして、溶存酸素を除去した超純水中に粘土微粒子を攪拌しながら添加(ステップS204)する。実施形態1ではこの際にゲル化剤も混入する。さらに攪拌や必要に応じて加熱等により全体を均質に溶解または分散させる(ステップS206)。そして記録物質前駆体を必要な添加剤(PH調整剤等)とともに混入する(ステップS208)。このようにして調製された溶液は、例えば清浄なガラス製容器などに気密に封入する(ステップS210)。ゲル化剤が冷却によりゲル化できるようなものであれば、所要の時間だけ例えば冷蔵保存してゲル化させる(ステップS212)。この様な処理により実施形態1の具体的構成のフリッケ・ゲル線量計を製造することができる。なお、この典型例のゲル線量計の製造方法は、粒子線治療のための照射装置が設置されている現場において実施することに特段の困難はなく、十分な実用性を期待することができる。また、ゲル線量計のためのゲル化剤や粘土微粒子、記録部質前駆体等の材質によっては、図5に示した典型例以外の手順によってゲル線量計を製造することも可能である。

【0078】
2-3.実施形態1の実施例(実施例1)
次に、実施形態1の具体的構成として説明したフリッケ・ゲル線量計の実施例(実施例1)について説明する。本実施例では、実際にナノクレイを添加したフリッケ・ゲル線量計を作製し、同フリッケ・ゲル線量計により実測したδRの値を、電離箱により実測した線量分布と比較した。以下の実施例として示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順、要素または部材の向きや具体的配置等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の具体例に限定されるものではない。またすでに説明した図面についても引き続き参照する。これらは実施例1および実施例2(後述)について同様である。

【0079】
まず、分子状ラジカル誘導物除去工程として、超純水にNOガスを30分間バブリングし超純水中の溶存酸素を除去した(図5、ステップS202)。さらに当該超純水を攪拌しながらそこにゼラチンを最終的なゲル線量計に対し3wt%、Laponite XLGを最終的なゲル線量計に対し1wt%だけ加えて攪拌し(ステップS204)、加熱して溶解させることにより一様な分散状態とした(ステップS206)。その後にアンモニウム鉄(II)六水和物を最終的なゲル線量計に対し1mM、過塩素酸を最終的なゲル線量計に対し50mM加えた(ステップS208)。そしてこれらの混合した溶液をガラス製容器に封入し(ステップS210)、10時間以上10℃以下の環境に保存しゲル化させた(ステップS212)。このようにしてガラス製容器に封入された実施例1のフリッケ・ゲル線量計を合計4サンプル調製した。

【0080】
実施例1のフリッケ・ゲル線量計の各サンプルには、放射線医学総合研究所の重粒子線加速器HIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba、日本、千葉市)により炭素線(126+)を照射した。具体的には、各サンプルに、加速エネルギー290MeV/uの炭素線を100、200、300、400Gyだけ照射した。照射後の各サンプルは、1.5T MRI(Intera Achieva Nova Dual, Philips社製)によるMRI測定によって分析した。分析のためのパルス磁界は、Mixed turbo spin echo pulse sequenceを印加し、各サンプルの入射方向の位置に対してT緩和時間を取得して、R(つまり1/T)を算出した。また、比較のため、図4と同様の測定方法で電離箱により各位置における線量分布も測定した。

【0081】
MRI測定により得られる(1/T)値すなわちR値は、個別のサンプルにおいてはブラッグピークを反映した分布を示すとともに、線量の異なるサンプルで同一の位置同士の比較において照射した線量に応じ増加した。図6は、本実施形態の実施例1として作製したフリッケ・ゲル線量計の各位置における鉄(III)イオンの密度の変化量を反映するR値の線量に対する変化量δRを、対応する位置における巨視的エネルギー付与量(すなわち線量)の実測値と対比して示すグラフである。グラフの横軸はフリッケ・ゲル線量計中での侵入方向の深さ方向の位置であり、縦軸は、それぞれが、ゲル線量計表面における値により規格化したδR値の相対値と、電離箱による実測値の線量分布の相対値であり、左軸に示している。δR値の規格化前の値を読み取るための目盛を右軸に示した。このグラフに示されるように、本実施例のフリッケ・ゲル線量計では、実測の線量分布と非常に良い一致を示すδR値の分布が観測された。この一致は、これまでの3次元線量計において得られなかったほどのものである。両グラフの比較から明らかなように、実施例1のゲル線量計による鉄(III)イオンの生成量を反映するδR値の分布のグラフは、物質中での巨視的エネルギー付与量の実測値のグラフの変化を忠実に再現した。以上の実施例1により、本実施形態の具体的構成であるフリッケ・ゲル線量計において、放射線の線質によらずにδR値の分布から線量を評価することができることが確認された。

【0082】
3.実施形態2
次に、本発明の別の実施形態を実施形態2として説明する。実施形態2は、本願の発明者らが初めて確認したゲル化剤を利用しないゲル線量計の実施形態である。実施形態2では実用性および性能の両面で実施形態1からみてさらに有利な線量計が提供される。以下の実施形態2の説明において、上述した実施形態1と相違する思想や構成を中心に説明し、特段説明されない事項は、実施形態1と同様とする。実施形態1の記載全体はここに引用することにより実施形態2の一部をなすものとする。

【0083】
3-1.概要
本願の発明者らは、実施形態1に含まれるゲル線量計の示す性質をさらに明らかにするため、種々の組成の線量計を作製して実測する実験を重ねた。そしてゲル線量計をゲル状とする(ゲル化する)ために利用していたゲル化剤をまったく利用しなくても、実用上の問題を生じない線量計の構成やその作製方法に気づいた。

【0084】
3-2.実施形態1からの発展
従来のゲル線量計は、何らかの形でゲル化剤を利用している。実施形態1にて提供されるゲル線量計もこの点は同様である。また、実施形態1において採用した粘土微粒子は、本願の発明者らは本願以前に記録物質の拡散防止の観点から着目してきており、本願の実施形態1において説明したように、自動酸化の難点を克服することに成功し、かつ、LET依存性を排除することができた。

【0085】
実施形態1の知見において本願の発明者らが着目したのは、ゲル線量計の材料組成(材料の種類や比率)を一層自由に決定することができることである。つまり、実施形態1によりもたらされた最も直接的な知見は、LET依存性を排除できたことである。さらにLET依存性の排除はより一般の条件でも実現しうるということも実施形態1では示唆されている。反応プロセスに対する知見に基づいて各成分の役割やその量を変更する余地が生まれたのである。より端的には、実施形態1には、未だ粘土微粒子を増量しうる余地があり、反応プロセスに影響のある添加剤であるph調整剤の有無や混入量も未だ変更の余地がある。さらにゲル化剤の作用について知見を蓄積すべきとも考えた。

【0086】
3-3.実験的に確認された知見
そこで本願の発明者らは、ゲル線量計の組成を種々変更してその影響を実験的に調査した。特に、各成分が線量計の性能に及ぼす影響を分析する目的で、実際に各成分の有無や添加量を変更して特性を測定した。その結果得られた知見は次の事項を含んでいる。なお、各知見について、明示の記載の無いものは、ゲル化剤を含む実施形態1の場合に類似の条件を採用したことにより得られた知見である。
・過塩素酸を0~150mM(水との相対濃度)程度の範囲で添加量を調整したところ、0~50mMでは感度は変化せずに測定できたが、150mMでは応答を示さない。なお、この傾向は文献等の開示とは異なっている。従来、フリッケ・ゲル線量計において硫酸(HSO)により酸濃度を高めると感度が増加すること、硫酸が添加されないと感度が消失することが報告されていた(Schulz, R.J., et al., Phys Med Biol, 1990. 35(12): p. 1611-1622)。つまり従来の知見に基づけば酸性環境が前提となるが、実際にはその必要性はない。
・酸性環境にするために過塩素酸(HClO)を増大させると、流動性が高まりゲル化が阻害される。ただし、阻害されるゲル化を補う趣旨でのゲル化剤添加は必ずしも必要ない。
・粘土微粒子の添加量を増大すると、ゲル化剤を添加しなくても、流動性を示している溶液または分散液の流動性が低下し、ゲル線量計として実用できる程度となる。つまり、水と粘土微粒子を含んで流動性を示している溶液または分散液であっても、粘土微粒子がある程度含まれていれば、鉄(II)イオンを添加することにより、ゲル化剤がなくとも実用に問題が生じなくなる程度に固まる。
・ゲル化剤がゼラチンなどの有機物である場合、感度(線量に対するδR値)が低下している。ゲル化剤がないと感度が向上する。
・N0は、酸性条件および中性条件で、eaq(水和電子)を・OH(ヒドロキシルラジカル)に変換する作用を持つ。
・調製中の溶液または分散液は雰囲気中の酸素等の影響を強くうける。また調製中の溶液または分散液が冷却されたり加熱されたりする場合には、実験上、特性の再現性が低下する。
このように、ここに示した項目リストは、過去の文献等の知見の再確認事項および文献等の知見が適用できないことの確認事項も含んでいる。なお、この項目リストは、本願の発明者らが実験的に確認した知見の非限定的なリストである。

【0087】
とりわけ、従来のゲル線量計や実施形態1において採用していたゼラチンなどのゲル化剤を用いなくても、実用上問題がない程度に流動性がなくなること(以下、「固形化作用」という)は、ゲル化剤の添加が必須ではないことを意味している。このことは、ゲル線量計調製工程における加熱や冷却の必要性を無くし、調製の手間ばかりか再現性の向上にも役立つ。なお、固形化作用の原因は、必ずしも現時点でははっきりしていない。可能性として予測しているのは、ゲル化、またはチクソトロピー性による流動性の低下が生じているようだという点である。粘土微粒子は、各種のものが選択され、特に好ましい粘土微粒子として、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、および水膨潤性合成雲母から選択される。これらの好ましい粘土微粒子は、水膨潤性すなわち吸水性と吸水による膨張性を有している。特に、鉄(II)イオンが添加されることにより流動性が大きく失われる。例えば、3wt%のLaponite XLG水溶液に対し硫酸第一鉄アンモニウムを水に対し1mMの濃度で添加すると、5wt%のLaponite XLGを純水に添加した際と同様の高いチクソトロピーを得ることができた。つまり、Fe2+イオンが粘土微粒子と相互作用を示し、ゲル化強度を上げている。一般に粘土微粒子を水による湿潤状態とすると、層状構造の粘土微粒子にて層間に存在しているNaが水和している状態である。そこにFe2+イオンが近付くとFe2+が粘土層間のNaとイオン交換反応を引き起こし、Fe2+が粘土層間に入り込む。これが粘土の特性を変化させ、結果的に粘性を増加させる。これが本願発明者らによる推測である。実験において、水による湿潤状態になった粘土微粒子が形状保持性(固形性)を発現させていることは確かめられている。その程度も、線量計を収容する容器内での記録物質の流動が防止されて3次元的な3次元線量分布を記録後、測定が完了するまでの時点までは形状を保持することができるほどである。固形性発現のメカニズムの如何に関わらず、実施形態2としてゲル線量計が実施可能であることには留意されたい。

【0088】
3-4.実施例2
次に、実施形態2として実際に使用可能なゲル線量計の作製例を実施例2として説明する。実施例2として作製したゲル線量計では、ゲル化剤を全く混入せずとも実用上問題のない固形性が得られ、さらに作製された線量計は良好な性能を示した。その典型的な結果を実施形態2の実施例(実施例2)として説明する。実施例2の具体的作製例は次の通りの条件とした。まず、図5に示した製造方法において、分子状ラジカル誘導物除去工程(S202)にてラジカル誘導物阻害物質(置換物質)のガスとしてバブリングするガス種を2種類とし、各1サンプルを作製した。具体的には、分子状ラジカル誘導物除去工程(S202)の後、ゲル化剤を使用せず超純水を攪拌しながらLaponite XLGを最終的なゲル線量計に対し3wt%と増量して加え攪拌した(S204)。溶解・分散工程(S206)はゲル化剤を溶解させるための加熱が不要となるため攪拌のみの工程とした。その後、記録物質前駆体としてアンモニウム鉄(II)六水和物を最終的なゲル線量計に対し1mMを添加した(S208)。中性条件としたためph調整剤となる過塩素酸や硫酸などの酸性物質は添加していない。アンモニウム鉄(II)六水和物の混入(S208)によりゲル化させる工程(S212)は実質的には完了した。実施例2のサンプルを2つは、分子状ラジカル誘導物除去工程(S202)にArガスを用いたものを実施例2サンプルA、NOガスを用いたものを実施例2サンプルBと呼ぶ。さらに比較の基準のために、実施形態1のゲル線量計においてラジカル誘導物阻害物質のガスをArとしたことを除き、実施例1のサンプルと同様の分量であるゼラチン3wt%、Laponite XLGを1wt%とし、作製方法も実施例1と同様としたゲル線量計(基準サンプル)も作製した。

【0089】
各サンプルには実施例1と同様のビームを照射し、照射時間によって0~600Gy(ステップ150Gy)の5段階の各照射量について、侵入方向の深さ方向の各位置において、鉄(III)イオンの磁気モーメントの縦緩和レートR(つまり1/T)を測定した。そして測定した5段階の照射量に対するRのデータから、侵入方向の深さ方向の各位置における照射量あたりの変化量δRを算出した。図7は、作製したフリッケ・ゲル線量計の各サンプルにおいて、各位置におけるFe(III)の密度の変化量を反映する変化量δR値を、実施例2サンプルAおよびB(曲線E2AおよびE2B)、および基準サンプル(曲線S)について示すグラフである。なお各サンプルに照射したビームの種類およびエネルギーは実施例1と同様であり水等価物中の飛程も同様に150mm程度とした。ただし、本実施例の各サンプルでは、容器(ガラス製比色管)の縦方向中央位置にLETのピークが位置するように水等価厚75mm相当のPMMA製レンジシフター(図1、112)をビーム照射側に挿入した。これは、比色管の底部側から照射するビームが侵入深さの深い位置に位置する場合、比色管の開口付近の雰囲気(例えば空気中の酸素)等の影響によって分析が困難となる可能性があるためである。その結果、図7では図6と比べ約75mm程度浅い位置にピークが観察されている。

【0090】
まず、図7において曲線Sにて示される基準サンプルの測定値に比べ、ゲル化剤を使用しない実施例2サンプルAおよびBは共に高い感度が得られた。ラジカル誘導物阻害物質としてのガス種をArとした実施例2サンプルA(曲線E2A)は、基準サンプル(曲線S)の約2倍以上となり、LET値によらない線量応答性も得られた。さらに実施例2サンプルB(曲線E2B)では、実施例2サンプルAからみて約2倍、基準サンプルからみて約8~9倍、という高い感度による測定結果が得られた。

【0091】
実施例2サンプルはいずれも、ゲル化剤を含まない線量計でありながら、固形性を有するために、線形性を保って3次元での線量を記録しそれを測定することに支障はない。そして実施例2サンプルは、実施形態1と同様に、分子状ラジカル誘導物除去工程(S202)を実施することにより、2-1にて説明したメカニズムと同様に、自動酸化も生じず、反応促進作用も期待できる。このように実施形態2では、実施形態1と同様の記録物質の拡散防止の作用や反応促進作用を活用しつつ、固形化作用も実現している。そればかりか、実測のデータにおいて、4倍~8倍もの高い感度を得ることが確認された。本願の発明者らは、仮に分子状ラジカル誘導物除去工程(S202)を実施せず、分子状ラジカル誘導物と同種の物質(酸素等)が残存したままでは、実用性のある線量計を作製することは困難であったと考えている。実施形態2の実施例2のように粘土微粒子の添加量を増大させ固形化作用を利用しようとしたとしても、自動酸化の問題を克服できないためである。

【0092】
本願の発明者らは実施例2サンプルで得られた高い感度の原因について、二つの要因が関与していると現時点で予測している。一つは、サンプルA、Bに関連しており、ゲル化剤(ゼラチン)を採用しないためである。もう一つは、特にサンプルBにおいて、NOがラジカル誘導物阻害物質の置換物質としてのみならず、放射線による電離を記録する酸化反応に影響をしているためである。

【0093】
ゲル化剤は、ラジカルと反応しやすいゼラチンなどの有機物である場合、感度を低下させかねない。粘土微粒子を添加しない従来のフリッケ・ゲル線量計ではゲル化剤が利用されていたためこの点が明らかとならず特段注目されなかったものの、本願の発明者らは、有機物のゲル化剤を含む場合には実施形態1を含めこの感度低下が作用していたと考えている。そして粘土微粒子を採用してその固形化作用を利用することができれば、ゲル化剤を固形化作用の目的で添加する必要性は薄れる。特にゲル化を阻害する酸性物質を使用しない場合には、比較的少量の粘土微粒子によりその固形化作用を発揮させることができる。このことは、感度を低下させるゲル化剤を排除できる点で有利である。感度が高まれば、第1に短時間で照射が完了する利点がある。第2に、何らかの理由で感度を制御する必要性が生じた場合に、その制御範囲を広くとれるという利点もある。

【0094】
実用面を見ても、ゲル化剤が不要になることは有利である。基準サンプルではゼラチンのようなゲル化剤のゲル化の作用を高い再現性で発揮させるために加熱、攪拌、冷却を正確に実行する必要がある。別の典型的なゲル化剤であるアガロースについても類似の操作を正確に実行する必要がある。これらの要求は、製造される線量計の精度(正確さ)を維持するためのものであり、線量計を調製する際の作業負担を増してしまう。これに対し実施形態2では、実施例2のゲル化剤フリー線量計のサンプルでは、調製過程として上述したように加熱・冷却作業は不要である。ゲル化剤フリー線量計は、調整の際の作業負担が軽減されるのみならず、線量計の特性の再現性も高まり安定した線量測定が可能になる。このように実施形態2は線量計の実用性を高めるものである。

【0095】
このように、ゲル化剤を使用しないことは、ゲル線量計の感度を高め、実用性に大きく影響する。ただし、ゲル化剤は、有機物であったとしても、常に排除されるべきとは限らない。実施上の理由によりゲル化剤を利用する態様も、実施形態1に示したように高い実用性を有している。

【0096】
実施例2サンプルBは、サンプルAとの比較から一層改善された感度を示している。サンプルBのサンプルAからの改善分はNOに起因すると本願の発明者らは理解している。すなわち、NOは、ラジカル誘導物阻害物質の置換物質としてのみならず、酸性条件および中性条件で、eaq(水和電子)を・OH(ヒドロキシルラジカル)に変換する作用を持つ。この変換作用が放射線による電離を記録する酸化反応に影響している。具体的には、この変換作用は、酸性条件と中性条件で程度が異なっており、一方の中性条件では、
【化1】
JP2014209093A_000003t.gif
と示され、他方の酸性条件では、
【化2】
JP2014209093A_000004t.gif
となる。これらは両条件でeaq(水和電子)を・OH(ヒドロキシルラジカル)に変換する作用が生じることを示している。ただし、酸性条件でのeaq(水和電子)との反応はHとNOの競争反応により、大部分がHと反応する。その後に生成するH(水素ラジカル)とNOの反応は比較的遅いため、顕著な効果が見られるのは中性条件の場合である。実施例1の条件を振り返ると、過塩素酸の作用により酸性条件となっていたため、NOの役割は、ラジカル誘導物阻害物質としての作用に留まり、中性条件であるがラジカル誘導物阻害物質が希ガスのArである実施例2のサンプルAと大差ないと考えられる。これらに対し実施例2のサンプルBでのNOは、ラジカル誘導物阻害物質としての線質依存性軽減の作用に加え、上記の・OHへの変換作用によって感度を向上させる作用も発揮しているものと考えている。

【0097】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および構成例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は粒子線治療装置を使用する粒子線治療の治療計画の立案や同装置のQA/QCのために使用可能である。
【符号の説明】
【0099】
102 ウォブラーマグネット
104 スキャッタラー
106 アパーチャー付スクリーン
108 モニターセンサー
110 リッジフィルター
112 レンジシフター
114C コリメーター
114MLC マルチリーフコリメーター
116 コンペンセーター(ボーラス)
118 ゲル線量計
118A 記録密度分布
200 MRI装置
202 励起コイル
204 ピックアップコイル
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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