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明細書 :子宮外妊娠の治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成26年6月5日(2014.6.5)
発明の名称または考案の名称 子宮外妊娠の治療剤
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P  15/08        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  31/553       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  14/705       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 15/08
A61K 48/00
A61K 31/7105
A61K 31/7088
A61K 35/76
A61K 37/02
A61K 31/553
A61P 43/00 111
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
C12N 9/99 ZNA
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C07K 14/47
C07K 14/705
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 38
出願番号 特願2012-551052 (P2012-551052)
国際出願番号 PCT/JP2011/080466
国際公開番号 WO2012/091118
国際出願日 平成23年12月28日(2011.12.28)
国際公開日 平成24年7月5日(2012.7.5)
優先権出願番号 2010294391
優先日 平成22年12月29日(2010.12.29)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , MD , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN
発明者または考案者 【氏名】河村 和弘
出願人 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
Fターム 2G045AA29
2G045BB24
2G045CB01
2G045DA14
2G045DA80
2G045FA16
2G045GC22
4B024AA01
4B024CA04
4B024DA03
4B024GA30
4B024HA14
4B024HA15
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA17
4C084CA18
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA23
4C084MA31
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
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4C084MA55
4C084MA60
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA812
4C084ZC202
4C085AA13
4C085AA14
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4C085GG01
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4C085GG05
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4C085GG10
4C086AA01
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4C086CB22
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC20
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZC20
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA45
4H045DA50
4H045DA55
4H045EA21
要約 要約
子宮外妊娠、とりわけ未破裂子宮外妊娠に対して治療効果を有する、子宮外妊娠に対する新規な治療剤、及び子宮外妊娠に対する治療剤の新規なスクリーニング方法が開示されている。子宮外妊娠の治療剤は、脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB)の抑制剤を有効成分として含有する。また、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法は、被験試料の存在下におけるTrkBのキナーゼ活性と、被験試料の非存在下におけるTrkBのキナーゼ活性とを測定し、TrkBのキナーゼ活性を減少させる被験試料を選別する。
特許請求の範囲 【請求項1】
脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB)の抑制剤を有効成分として含有する子宮外妊娠の治療剤。
【請求項2】
チロシンキナーゼ抑制剤、遊離のTrkB若しくはBDNFとの結合性を有するその断片又は子宮外妊娠の治療効果を有するそれらの修飾体又はTrkB若しくは前記断片又は前記修飾体を細胞内で生産する組換えベクター、BDNF遺伝子若しくはTrkB遺伝子に対する干渉RNA又は該干渉RNAを細胞内で生産する組換えベクター、BDNF又はTrkBに対する抗体、及びBDNF遺伝子若しくはTrkB遺伝子に対するアンチセンス核酸又は該アンチセンス核酸を細胞内で生産する組換えベクターから成る群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
チロシンキナーゼ抑制剤、及び遊離のTrkB又はBDNFとの結合性を有するTrkB断片から成る群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
チロシンキナーゼ抑制剤が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項3記載の治療剤。
【化1】
JP2012091118A1_000008t.gif
(式中、
a)Z及びZは共に水素:
1)RはOH、1~6個の炭素原子のO-n-アルキル、及び、2~6個の炭素原子のO-アシルよりからなる群から選択され;
2)Xは下記の群より選択される;
H;
CONHC、但し、この場合にはR及びRは共にはBrでない;
CHY、ここに、Yは、OR(RはHまたは2~5個の炭素原子のアシル);
SOR、ここに、Rは1~3個の炭素原子のアルキル、アリール、若しくは、含窒素原子複素環基;
NR10、ここに、R及びR10は、独立して、H、1~3個の炭素原子のアルキル、Pro、Ser、Gly、Lys、若しくは、2~5個の炭素原子のアシル、但し、R及びR10のうちの一方のみがPro、Ser、Gly、Lys若しくはアシルである;
SR16、ここにR16はアリール、1~3個の炭素原子のアルキル、若しくは、含窒素原子複素環基;

COCH
S—Glc;
CONR1112、ここに、R11およびR12は、独立して、H、1~6個の炭素原子のアルキル、C若しくは1~6個の炭素原子のヒドロキシアルキルであるか、若しくは、R11及びR12は一緒になって-CHCHOCHCH-を形成する;
CH=NNHCONH
CONHOH;
CH=NOH;
CH=NNHC(=NH)NH
【化2】
JP2012091118A1_000009t.gif
CH=NN(R17、ここにR17はアリール;
CHNHCONHR18、ここに、R18は、低級アルキル若しくはアリール;又は、
X及びRは一緒になって、-CHNHCO-、CHOH(CHO—、=O若しくは-CHN(CH)CO-を形成する;
3)R、R、R及びRは各々独立してHであるか、あるいはそれらのうち2つまではF;Cl;Br;I;NO;CN;OH;NHCONHR13;CHOR13;1~3個の炭素原子のアルキル;CHOCONHR14若しくはNHCO14、ここに、R14は低級アルキル;CH(SC若しくはCH(-SCHCHS-);
はCHS(O)21であって、R、R及びRはH、ここに、pは0若しくは1で、R21はアリール、1~3個の炭素原子のアルキル、含窒素原子複素環基、
【化3】
JP2012091118A1_000010t.gif
若しくはCHCHN(CH
はCH=NHR2223であって、R、R及びRはH、ここに、R22及びR23は各々独立してH、1~3個の炭素原子のアルキル、C(=NH)NH、若しくは、含有窒素原子複素環基、あるいは、R22及びR23は一緒になって、-(CH-、-(CHCHOCHCH)-、若しくは、-CHCHN(CH)CHCH-を形成し、但し、R22及びR23は共にはHではあり得ず、かつ双方がアルキルである場合を除いてR22若しくはR23のうち少なくとも一方はH;
(b)Z及びZが一緒になってOを表す場合、XはCOCH、RはOHであって、R、R、R及びRは各々水素を意味する。)
【請求項5】
チロシンキナーゼ抑制剤が、K252aである請求項4記載の治療剤。
【請求項6】
遊離のTrkB又はBDNFとの結合性を有するその断片が、BDNFと結合するTrkBの細胞外ドメインを含むTrkB断片である請求項3記載の治療剤。
【請求項7】
子宮外妊娠が未破裂子宮外妊娠である請求項1~6のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項8】
被験試料の存在下におけるTrkBのキナーゼ活性と、被験試料の非存在下におけるTrkBのキナーゼ活性とを測定し、TrkBのキナーゼ活性を減少させる被験試料を選別することを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
次の(a)~(d)の工程を含むことを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法:
(a)ヒト由来の胎盤絨毛を、ヒト以外の哺乳動物の腎臓組織に移植したモデル動物を作製する工程;
(b)前記(a)の工程で作製したモデル動物のうち、一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料を投与して飼育し、他の一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料の担体のみを投与して飼育する工程;
(c)前記被験試料を投与したモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞と、前記被験試料を投与しなかったモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞とを比較する工程;
(d)被験試料を投与したモデル動物の細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞の方が減少していた場合に、この被験試料を子宮外妊娠の治療剤として選別する工程。
【請求項10】
子宮外妊娠の治療用の脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB) の抑制剤。
【請求項11】
有効量の脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB) の抑制剤を、子宮外妊娠患者に投与することを含む、子宮外妊娠の治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮外妊娠の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮外妊娠は、妊娠の最初の3ヶ月間における、生死に関わる状態である(非特許文献1)。近年の一連のホルモンアッセイ及び経膣超音波検査の進歩は、破裂前の子宮外妊娠の診断及び治療を促進している。初期の診断及び適時の治療は子宮外妊娠による死亡率を劇的に低下させた(非特許文献1)。1980年代の半ばまでは子宮外妊娠の治療はもっぱら外科的であった。1982年に本件出願人の研究者らは、1人の患者における15日クールの筋内メトトレキサート(MTX)を用いた間質部子宮外妊娠の治療について報告した(非特許文献2)。その後、MTX治療は未破裂の子宮外妊娠への治療法として受け入れられた。MTXは、DNA合成を阻害する葉酸拮抗薬であり、そのため急速に複製している組織及び悪性細胞に対して高い毒性がある。しかしながら、進行した子宮外妊娠の兆候、例えば胚性心臓活動、高レベルのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、大きいサイズの(>4 cm)受胎産物が検出された場合にはMTX治療には適応しない(非特許文献3)。さらに、胃部不快感、吐き気、嘔吐、口内炎、潰瘍性口内炎、及びめまいがMTX治療の副作用としてよく見られる(非特許文献3)。従って、より強力でより安全な治療法の開発が必要とされている。ヒト絨毛様栄養膜は細胞性栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞層を含む。細胞性栄養膜細胞は妊娠の最初の3ヶ月間において高い増殖及び侵入特性を示し、一方合胞体栄養膜細胞は細胞性栄養膜細胞が融合して分化し、妊娠期間を通じて増殖性をほとんど示さない。細胞性栄養膜細胞はまた、絨毛膜絨毛から出て母胎脱落膜へと移動して子宮筋層に侵入する、絨毛外性栄養膜細胞(EVT)と呼ばれる侵入性の高い細胞へと分化し、胎児成長のために母胎が必要としている血液を十分に供給するための子宮-胎盤動脈をリモデリングする。胎盤絨毛における栄養膜の増殖は、それらが絨毛から移動する前には、細胞性栄養膜細胞においてもEVTにおいても見られる(非特許文献4、非特許文献5)。
【0003】
脳由来神経栄養因子 (BDNF) は高親和性チロシンキナーゼB(TrkB)受容体を神経栄養因子(pan-neurotrophin)低親和性コレセプターp75(p75NTR)と共に活性化するタンパク質として知られる、ニューロトロフィンファミリーのメンバーである(非特許文献6)。BDNF結合の後、TrkB受容体は異なった細胞型での細胞分化、増殖及び生存において重要な役割を果たしている(非特許文献6、非特許文献7)。ニューロトロフィンは中枢神経系において広く発現し、神経の分化及び生存に重要であるが(非特許文献8)、これらは非神経性の組織においても重要な役割を果たしている(非特許文献9)。近年本願発明者らは、胚盤胞の発育段階にある着床前期胚の栄養外胚葉細胞におけるTrkBとそのリガンドであるBDNF及びニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)の発現が侵入性栄養膜細胞への分化を促進することを見いだし、そしてBDNFの着床前栄養外胚葉細胞の増殖及び生存の促進効果を示した(非特許文献10)。着床後も胎盤性栄養膜細胞におけるTrkBとそのリガンドの発現は持続し、本願発明者らは、マウスを用いて胎盤発生期の栄養膜細胞の増殖と生存におけるTrkB伝達系のオートクリン/パラクリンの調節的役割を示した(非特許文献11)。ヒトにおいてさらに本願発明者らは、悪性栄養膜細胞、すなわち絨毛癌細胞の増殖におけるBDNF/TrkB伝達系のオートクリンの重要な役割を示した(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【0004】

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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、子宮外妊娠、とりわけ未破裂子宮外妊娠に対して治療効果を有する、子宮外妊娠に対する新規な治療剤を提供することである。また、本発明の目的は、子宮外妊娠に対する新規な治療剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは鋭意研究の結果、BDNF及び/又はTrkBの作用を抑制することにより細胞性栄養膜細胞の増殖を抑制することができ、それによって子宮外妊娠が治療可能であることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB)の抑制剤を有効成分として含有する子宮外妊娠の治療剤を提供する。また、本発明は、被験試料の存在下におけるTrkBのキナーゼ活性と、被験試料の非存在下におけるTrkBのキナーゼ活性とを測定し、TrkBのキナーゼ活性を減少させる被験試料を選別することを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法を提供する。さらに、本発明は、次の(a)~(d)の工程を含むことを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
(a)ヒト由来の胎盤絨毛を、ヒト以外の哺乳動物の腎臓組織に移植したモデル動物を作製する工程;
(b)前記(a)の工程で作製したモデル動物のうち、一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料を投与して飼育し、他の一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料の担体のみを投与して飼育する工程;
(c)前記被験試料を投与したモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞と、前記被験試料を投与しなかったモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞とを比較する工程;
(d)被験試料を投与したモデル動物の細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞の方が減少していた場合に、この被験試料を子宮外妊娠の治療剤として選別する工程。
さらに、本発明は、子宮外妊娠の治療用の脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB)の抑制剤を提供する。
さらに、本発明は、有効量の脳由来神経栄養因子(BDNF)及び/又は脳由来神経栄養因子受容体(TrkB) の抑制剤を、子宮外妊娠患者に投与することを含む、子宮外妊娠の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、子宮外妊娠に対して優れた治療効果を有する新規な子宮外妊娠治療剤及びそのスクリーニング方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】下記実施例において観測された子宮内及び子宮外妊娠のヒト胎盤絨毛における、BDNF、NT-4/5、及びTrkBの時空間的発現を示す図である。(A)妊娠の最初の3ヶ月間でのヒト胎盤絨毛におけるBDNF、NT-4/5、及びTrkBの経時的発現。BDNF並びにNT-4/5タンパク質、又はTrkB転写産物レベルを、ELISA(BDNF及びNT-4/5)又はリアルタイムRT-PCR(TrkB)によってそれぞれ定量した。BDNF並びにNT-4/5タンパク質、及びTrkB mRNAのレベルを、異なる妊娠週数からのサンプル(n=4~6ドナー)を用いて測定した。TrkB mRNAのレベルは、同じサンプル中のβ-アクチンの転写産物レベルを用いて標準化した。平均をカラムで、SEを線で、妊娠6週に対するP<0.05を*で表す。それぞれ妊娠8週のドナーから得られたヒト胎盤絨毛(B)及び、妊娠8週の子宮外妊娠患者の組織(C)におけるBDNF及びTrkBを、免疫組織化学的検出胎盤絨毛においては、BDNFは合胞体栄養膜細胞(矢印)及び絨毛外性栄養膜細胞(EVT)で認められた。対照的にTrkBは細胞性栄養膜細胞(矢頭)及び絨毛外性栄養膜細胞で認められた。上段及び中段は特異的染色を示し、下段は対照として非免疫のIgGで染色した切片を示す。挿入図:原図において示した画像の高倍率像。(スケールバー、100μm)。
【図2】下記実施例において観測されたヒト栄養膜細胞分化における、内因性TrkBシグナルのin vitroでの抑制の効果を示す図である。妊娠6~8週の絨毛断片を、培地のみ(対照、C)、異なる量のTrkB細胞外ドメイン(TrkB EC)、K252a、又は細胞膜非透過型K252b添加培地で3%酸素下で培養した。(A)培養48及び96時間目における絨毛断片の形態学的変化。TrkB細胞外ドメイン(10 μg/ml)、K252a(1,000nM)、あるいはK252b(1,000 nM)を添加又は添加しないで培養した絨毛断片から得られた図を示す。絨毛の遠位端ではEVT増生が認められたが、TrkB EC又はK252aいずれかによりEVT増生が阻害された。(スケールバー、100μm)。培養96時間目の内因性TrkBシグナルの抑制による、EVT増生(B)及びヒト白血球抗原-G (HLA-G)転写産物レベル(C)の阻害。EVT増生は、EVT増生の割合に基づいて定量した。50%以上の接着した絨毛先端のうち、50%以上がEVT増生を示したものを、EVT増生陽性と分類した。(n=12~13)。HLA-Gの転写産物レベルは、リアルタイムRT-PCRによって決定した。データは、1.0として標準化した対照に対する相対的な低下倍率として示した。平均をカラムで、SEを線で、対照群に対するP<0.05を*で表す。
【図3】下記実施例において観測されたヒト栄養膜細胞バイアビリティにおける、内因性TrkBシグナルのin vitroでの抑制の効果を示す図である。妊娠6~8週の絨毛断片を、培地のみ(対照、C)、細胞外ドメイン(TrkB EC)(10 μg/ml)、K252a(1000 nM)、又は細胞膜非透過型K252b(1000 nM)添加培地で3%酸素下で96時間培養した。(A)HE染色(上段)、及びPCNA(中段)並びにKi-67(下段)を用いた、培養絨毛断片における細胞増殖の組織学的解析。TrkB EC又はK252aいずれかにより、HE染色では絨毛性細胞性栄養膜細胞(矢頭1)の数が減少し、合胞体栄養膜細胞(矢印)は減少せず、栄養膜細胞層(矢頭2)が部分的に脱離したことが示された。TrkB EC又はK252aいずれかによりに残存した細胞性栄養膜細胞(矢頭3)にでは、PCNA及びKi-67の双方のシグナルが減少した。挿入図:選択した領域の高倍率像;M:マトリゲル。(スケールバー、100μm)。(B)TrkB EC又はK252aいずれかの培養による絨毛断片におけるグルコース消費の低下。培養2日目に培地を交換し、サンプルを培養48時間後に得た(n=4)。培地中のグルコース濃度を酵素測定によって定量した。平均をカラムで、SEを線で、対照群に対するP < 0.05を*で表す。
【図4】下記実施例において観測されたヒト栄養膜細胞生存性における、内因性TrkBシグナルのin vitroでの抑制の効果。妊娠6~8週の絨毛断片を、培地のみ(対照、C)、TrkB細胞外ドメイン(TrkB EC)(10 μg/ml)、K252a(1000 nM)、又は細胞膜非透過型K252b(1000 nM)添加培地で3%酸素下で96時間培養した。(A)培養絨毛断片におけるDNA断片化のin situ TUNEL染色による検出。ヨウ化プロピジウムを用いて細胞の核酸を染色した。TrkB EC又はK252aにより、細胞性栄養膜細胞(矢頭)のアポトーシス陽性シグナル数が増加した。(スケールバー、100μm)。挿入図:選択した領域の高倍率像;矢印:合胞体栄養膜細胞。(B)TrkB EC又はK252aいずれかによる、培養絨毛断片におけるカスパーゼ-3/7活性の上昇。データは、1として標準化した対照に対する相対的な上昇倍率として示した(n=4)。平均をカラムで、SEを線で、対照群に対するP<0.05を*で表す。
【図5】下記実施例において観測された、子宮外妊娠のin vivoモデルとしてのヒト絨毛のSCIDマウスへの異種移植。妊娠7~8週の絨毛断片を、SCIDマウスの腎臓被膜の下に外科的に移植し、1~3週間後に組織学的(A)及び生化学的(B)解析を行った。(A)異種移植後3週間のマウス腎臓におけるヒト絨毛発育の組織学的評価。ヒト栄養膜細胞をサイトケラチン免疫組織化学法によって検出した。異種移植後1週間目には、ヒト栄養膜細胞は、絨毛柱(矢頭)によって位置づけられる元の移植部分からマウス腎臓の腎組織内(矢印)に浸潤した。3週目にはヒト栄養膜細胞によって占められるマウス腎臓の領域が拡大し、栄養膜細胞の浸潤は腎臓のより深い部位まで達した。(スケールバー、400μm)。(B)異種移植を受けた腎臓の組織ホモジネートにおける、移植後3週間のhCG-βレベルの変化。組織hCG-βレベルはRIAを用いて定量した(n=6~15)。平均を点で、SEを線で表す。(C)ヒト絨毛を異種移植して2週間後の腎臓におけるHLA-Gの免疫染色によるEVTの同定。HLA-Gは腎臓に浸潤した栄養膜細胞(矢頭)において認められたが、サイトケラチン陽性の他の細胞型の栄養膜細胞では、HLA-Gの発現は認められなかった(スケールバー、200μm)。
【図6】下記実施例において観測された子宮外妊娠のモデルにおける、内因性TrkBシグナルの抑制によるin vivoでのヒト栄養膜細胞の発育阻害の誘導。ヒト絨毛(妊娠7~8週)を腎臓被膜の下に異種移植して1週間後のSCIDマウスを、担体のみ、又はK252a(500 μg/kg)、K252b(500 μg /kg)、あるいはMTX(1 mg/kg)を7日間、毎日投与した。(A-C)移植された絨毛における栄養膜細胞の増殖およびアポトーシスの組織学的解析。薬剤投与後8日に摘出した腎臓から得られた図を示す。HLA-G(A、上段)、サイトケラチン(A、下段)、及びHE染色(B、上段)では、K252a投与後の浸潤EVT及び細胞性栄養膜細胞の数の減少が認められた。(スケールバー、A:400μm;B:100μm)。細胞増殖はPCNA(B、中段)及びKi-67(B、下段)を用いた免疫染色で検出し、アポトーシスはin situ TUNEL染色を用いて評価した(C)。K252a投与により、細胞性栄養膜細胞のPCNA及びKi-67のシグナルが減少し、TUNEL染色された核は増加した。(スケールバー、100μm)。(D-F)K252a投与により、HLA-G転写産物レベルの低下(D)及びhCG-βタンパク質レベルの低下(E)が認められ、移植した絨毛の腎臓ホモジネートにおけるカスパーゼ-3/7活性の上昇(F)も認められた。サンプルは薬剤投与後後8日目のマウスから採取した(n=10-15)。HLA-Gの転写産物レベル及びカスパーゼ-3/7活性を1として標準化した対照(担体のみ)に対する相対的な上昇倍率として示した。平均をカラムで、SEを線で、対照群に対するP<0.05を*で表す。
【図7】下記実施例において観測された、絨毛断片から遊走したEVTにおける細胞増殖活性の欠如を示す図である。3%酸素下で培養した妊娠6~8週の絨毛断片から得られた画像を示す。遊走したEVTにおける細胞増殖活性を、Ki-67並びに HLA-Gの免疫染色、及びHE染色によって決定した。このEVTは細胞増殖マーカーであるKi-67は陰性であり、EVTの特異的マーカーであるHLA-Gは陽性であった(矢印)。
【図8】下記実施例において観測された、BDNF、及びTrkBのヒト胎盤絨毛及びマウス腎組織における発現。BDNF、及びTrkBの転写産物レベルを、リアルタイムRT-PCRによって定量した。妊娠8週のヒト絨毛サンプルとマウス腎臓から摘出した腎組織サンプルにおいて、BDNF、及びTrkB mRNAレベルを測定した(n=4-6 ドナー、又はn=4 動物)。TrkB mRNAのレベルは、同じサンプル中のβ-アクチンの転写産物レベルを用いて標準化した。平均をカラムで、SEを線で、発現無しをN.D.で表す。
【図9】下記実施例において観測された、妊娠の最初の3ヶ月間でのヒト胎盤絨毛におけるTrkリガンド(NGF及びNT-3)及び受容体(TrkA及びTrkC)の発現。胎盤絨毛におけるTrkリガンド及び受容体のmRNAをRT-PCRによって検出した。β-アクチンのレベルをローディングコントロールとした。ネガティブコントロール(NC)としては、鋳型DNAを含まないものを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の通り、本発明の子宮外妊娠治療剤は、BDNF及び/又はTrkBの抑制剤を有効成分として含有する。ここで、「BDNF及び/又はTrkBの抑制剤」とは、(1)BDNF及びTrkBの少なくとも一方の生理作用を抑制する物質、(2) BDNFとTrkBの結合を抑制する物質、(3) BDNF及びTrkBの少なくとも一方の、細胞内における生産を抑制する物質を意味する。(1)の例として、チロシンキナーゼ抑制剤を挙げることができる。(2)の例として、(i)遊離のTrkB又はBDNFとの結合性を有するTrkB断片、及び、(ii)BDNF又はTrkBに対する抗体を挙げることができる。(3)の例として、(i)BDNF遺伝子若しくはTrkB遺伝子に対する干渉RNA又は該干渉RNAを細胞内で生産する組換えベクター、及び(ii) BDNF遺伝子若しくはTrkB遺伝子に対するアンチセンス核酸又は該アンチセンス核酸を細胞内で生産する組換えベクターを挙げることができる。以下、これらについて説明する。

【0011】
TrkBは、チロシンキナーゼ活性を有しており、下記実施例に具体的に記載されるように、チロシンキナーゼ活性を抑制することにより、細胞性栄養膜細胞の増殖を抑制することができ、それによって子宮外妊娠の治療効果が発揮される。従って、チロシンキナーゼ抑制剤(阻害剤)を、本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。チロシンキナーゼ抑制剤は、既に種々のものが公知であり、市販されているものも少なくない。市販品を好ましく用いることができる。公知のチロシンキナーゼ抑制剤の例として、K252a、AZ-23(Wang et al. J Med Chem 2008, 51, 4672-84; 非特許文献34)、CEP-701(Cephalon Inc., West Chester, PA)、CEP-751(Kyowa Hakko Kogyo, Tokyo, Japan)、CEP-2563(Cephalon Inc.)及びCEP-7801(Somaiah et al. J Thorac Oncol,2009,4, S1045-83; 非特許文献35)等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。

【0012】
また、チロシンキナーゼ抑制剤としては、特許第3,344,586号(特許文献1)により、チロシンキナーゼ阻害活性が実証されている、下記の一般式(1)又は(2)で示される化合物を用いることもできる。

【0013】
【化1】
JP2012091118A1_000003t.gif

【0014】
(式中、
a)Z及びZは共に水素:
1)RはOH、1~6個の炭素原子のO-n-アルキル、及び、2~6個の炭素原子のO-アシルよりからなる群から選択され;
2)Xは下記の群より選択される;
H;
CONHC、但し、この場合にはR及びRは共にはBrでない;
CHY、ここに、Yは、OR(RはHまたは2~5個の炭素原子のアシル);
SOR、ここに、Rは1~3個の炭素原子のアルキル、アリール、若しくは、含窒素原子複素環基;
NR10、ここに、R及びR10は、独立して、H、1~3個の炭素原子のアルキル、Pro、Ser、Gly、Lys、若しくは、2~5個の炭素原子のアシル、但し、R及びR10のうちの一方のみがPro、Ser、Gly、Lys若しくはアシルである;
SR16、ここにR16はアリール、1~3個の炭素原子のアルキル、若しくは、含窒素原子複素環基;

COCH
S—Glc;
CONR1112、ここに、R11およびR12は、独立して、H、1~6個の炭素原子のアルキル、C若しくは1~6個の炭素原子のヒドロキシアルキルであるか、若しくは、R11及びR12は一緒になって-CHCHOCHCH-を形成する;
CH=NNHCONH
CONHOH;
CH=NOH;
CH=NNHC(=NH)NH

【0015】
【化2】
JP2012091118A1_000004t.gif

【0016】
CH=NN(R17、ここにR17はアリール;
CHNHCONHR18、ここに、R18は、低級アルキル若しくはアリール;又は、
X及びRは一緒になって、-CHNHCO-、CHOH(CHO—、=O若しくは-CHN(CH)CO-を形成する;
3)R、R、R及びRは各々独立してHであるか、あるいはそれらのうち2つまではF;Cl;Br;I;NO;CN;OH;NHCONHR13;CHOR13;1~3個の炭素原子のアルキル;CHOCONHR14若しくはNHCO14、ここに、R14は低級アルキル;CH(SC若しくはCH(-SCHCHS-);
はCHS(O)21であって、R、R及びRはH、ここに、pは0若しくは1で、R21はアリール、1~3個の炭素原子のアルキル、含窒素原子複素環基、

【0017】
【化3】
JP2012091118A1_000005t.gif

【0018】
若しくはCHCHN(CH
はCH=NHR2223であって、R、R及びRはH、ここに、R22及びR23は各々独立してH、1~3個の炭素原子のアルキル、C(=NH)NH、若しくは、含有窒素原子複素環基、あるいは、R22及びR23は一緒になって、-(CH-、-(CHCHOCHCH)-、若しくは、-CHCHN(CH)CHCH-を形成し、但し、R22及びR23は共にはHではあり得ず、かつ双方がアルキルである場合を除いてR22若しくはR23のうち少なくとも一方はH;
(b)Z及びZが一緒になってOを表す場合、XはCOCH、RはOHであって、R、R、R及びRは各々水素を意味する。)
なお、ここで「低級」は炭素数1~6を意味する。

【0019】
以下に、一般式(2)に示されるチロシンキナーゼ抑制剤を示す。

【0020】
【化4】
JP2012091118A1_000006t.gif

【0021】
(式中、
及びRは、各々、独立して、H、1~6個の炭素原子のアルキル、1~3個の炭素原子のヒドロキシアルキル、及び3~6個の炭素原子のアルケニルよりなる群から選択され、但し、R及びRは共にはHではなく;
1)Z及びZは共に水素であって、
、R、R及びRは、各々独立して、H、又は、それらのうち2つまではF;Cl;Br;I;NO;CN;OH;NHCONHR13、ここに、R13はC若しくは1~3個の炭素原子のアルキル、但し、R,R,R及びRのうちの1つのみがNHCONHR13である;CHOR13;1~3個の炭素原子のアルキル;CHOCONHC;若しくは、NHCOCH
2)Z及びZが一緒になってOを表す場合、R、R、R及びRは各々水素を意味する。)

【0022】
これらのうち、下記実施例において採用したK252aは、下記の化学構造を有する、土壌真菌により生産される物質であり、チロシンキナーゼ抑制剤として広く用いられており、市販されているので市販品を好都合に用いることができる。

【0023】
【化5】
JP2012091118A1_000007t.gif

【0024】
チロシンキナーゼ抑制剤を本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いる場合、投与経路は、経口でも非経口でもよく、非経口の場合、子宮外妊娠部位への直接投与、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、直腸内、点眼等、通常の各種投与経路で投与可能である。投与量は、用いるチロシンキナーゼ抑制剤の種類や患者の状態等に応じて適宜設定されるが、通常、成人1日当たり、1 mg~100,000 mg、好ましくは1 mg~1,000 mg程度であるがもちろんこの範囲に限定されるものではない。

【0025】
チロシンキナーゼ抑制剤を本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いる場合、本発明の子宮外妊娠治療剤は、上記チロシンキナーゼ抑制剤のみから成っていてもよいし、また、各投与形態に適した、薬剤的に許容される担体及び/又は希釈剤を用いて製剤することもできる。製剤方法及びそのための各種担体は、医薬製剤の分野において周知である。薬剤的に許容される担体又は希釈剤は、例えば、生理緩衝液のような緩衝液や、賦形剤(砂糖、乳糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)であってよく、結合剤(シロップ、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、ポリビニルクロリド、トラガント等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、タルク、シリカ等)等が適宜混合されていてもよい。投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口剤、吸入剤、注射剤、座剤、液剤などによる非経口剤などを挙げることができる。これらの製剤は一般的に知られている製法によって作ることができる。

【0026】
上記の通り、BDNFとTrkBの結合を抑制する物質も本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。このような物質としては、まず、遊離のTrkB又はBDNFとの結合性を有するTrkB断片を挙げることができる。遊離のTrkBは、BDNFと結合するので、遊離のTrkBを投与すると、投与したTrkBは、細胞膜上の本来のTrkBと競合してBDNFと結合するので、細胞膜上の本来のTrkBと結合するBDNFの量が減少する。すなわち、遊離のTrkBは、細胞自体のTrkBとBDNFとの結合を競合的に抑制する。また、細胞膜上のTrkBがBDNFと結合する部分は、TrkBの細胞外ドメインである。従って、下記実施例に具体的に記載するように、TrkBの細胞外ドメイン、又は該細胞外ドメインを含むTrkBの断片も全長TrkBと同様、BDNFとTrkBの結合を競合的に抑制するので、本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。ヒトTrkB遺伝子のcDNAの塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に配列番号1に示し、アミノ酸配列のみを取り出したものを配列番号2に示す。なお、ヒトTrkB遺伝子のcDNA及びそれがコードするアミノ酸配列は公知であり、GenBank Accession No.NM_006180として登録されている。配列番号2に示すアミノ酸配列(すなわちTrkB全長のアミノ酸配列)のうち、細胞外ドメインは、N末端から-31番目のアミノ酸(以下、「-31aa」のように記載)~397aaまでである。この細胞外ドメインから成るTrkB断片も本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。一般に、ポリペプチドはサイズが小さい方が製造が容易で細胞に取り込まれやすいので、上記TrkB断片はこれらの観点から好ましい。

【0027】
一般に、生理活性を有するポリペプチドにおいて、少数のアミノ酸が置換し、欠失し又は挿入された場合であってもその生理活性が維持される場合があることは当業者にとって周知である。従って、上記したTrkB又はその断片に加え、アミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列、及び該アミノ酸配列のうち-31aa~397aaである細胞外ドメイン領域のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の配列同一性を有するポリペプチドであって、BDNFと結合して子宮外妊娠の治療効果を発揮するポリペプチドもそれぞれ遊離のTrkBやその細胞外ドメイン断片と同様に本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。ここで、アミノ酸配列の配列同一性とは、一致するアミノ酸残基の数が最大となるように(必要に応じてギャップを挿入する)、2つのアミノ酸配列を並べ、一致したアミノ酸残基の数を完全長の配列のアミノ酸残基(2つの配列間で全アミノ酸残基の数が異なる場合、長い方のアミノ酸残基)の数で除することよって求めた値を意味する。そのような相同性の計算は、BLASTのような周知のソフトウェアによって容易に入手し得る。特に、アミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列のうち-31aa~397aaである細胞外ドメイン領域のアミノ酸配列において、1個ないし数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は1個ないし数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列であるポリペプチドであって、BDNFとの結合性、ひいては子宮外妊娠の治療効果を有するポリペプチドも本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることができる。なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸(Phe, Tyr, Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。従って、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン領域のアミノ酸配列から成るポリペプチド中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、当該ポリペプチドのBDNF結合能が維持される可能性が高くなる。

【0028】
また、生理活性を有する2種類のポリペプチドが連結された融合ポリペプチドが、各ポリペプチドの生理活性を維持する場合があることからも明らかなように、生理活性を有するポリペプチドをそっくり含み、その一端又は両端に他のアミノ酸配列が連結されたポリペプチドであってもその生理活性が維持される場合があることは当業者にとって周知である。従って、上記したBDNFとの結合能を有するポリペプチドを含み、BDNFとの結合能を有するポリペプチドを本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることも可能である。この場合、上記したBDNFとの結合能を有するポリペプチドの一端又は両端に付加されるアミノ酸の数は、最終的なポリペプチドがBDNFとの結合能、ひいては子宮外妊娠の治療効果を発揮する限り特に限定されないが、合成の容易さ及び単位重量当たりの活性を高くする観点から、1個~数個であることが好ましい。

【0029】
なお、一般に、ポリペプチド製剤においては、生体内でのプロテアーゼによる分解を受けにくくするためにポリペプチドの一端にポリエチレングリコール(PEG)鎖等を結合したものが広く用いられている。本発明の子宮外妊娠治療剤においても、同様に、上記したポリペプチドをそっくり含み、その一端にPEG鎖等の安定化構造を付加したものを有効成分として用いることができる。なお、PEG化によりペプチドを安定化する場合には、PEGのサイズは分子量数千~5万、好ましくは1万~5万程度である。また、ポリペプチドの一端にPEGを結合する方法は周知である。

【0030】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、遊離のTrkB若しくはBDNFとの結合性を有するその断片の、子宮外妊娠の治療効果を有する「修飾体」とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン領域から成るアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を持ち、BDNFとの結合性ひいては子宮外妊娠の治療効果を有する、上記したポリペプチド並びにそれらにPEG鎖等の安定化構造を付加したものを意味する。

【0031】
上記した、遊離のTrkB、その細胞外ドメイン断片やそれらの上記修飾体(以下、便宜的に「BDNF結合性TrkB断片等」ということがある)を子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いる場合、投与経路は、経口でも非経口でもよく、非経口の場合、子宮外妊娠部位への直接投与、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、直腸内、点眼等、通常の各種投与経路で投与可能である。もっとも、体内への吸収性や消化酵素による分解を避ける観点から非経口投与が好ましい。投与量は、用いるチロシンキナーゼ抑制剤の種類や患者の状態等に応じて適宜設定されるが、非経口投与の場合、通常、成人1日当たり、1 mg~100,000 mg、好ましくは1 mg~1,000 mg程度であるがもちろんこの範囲に限定されるものではない。また、BDNF結合性TrkB断片等を有効成分として用いる場合も、上記と同様、常法に基づいて製剤することができる。

【0032】
BDNF結合性TrkB断片等は、それ自体を有効成分として用いることができるが、BDNF結合性TrkB断片等をコードする核酸を組み込んだ組換えベクターであって、細胞中でBDNF結合性TrkB断片等を発現することができる組換えベクターを有効成分として用いることもできる。哺乳動物の遺伝子治療用のベクターは、種々のものが公知であり、市販されているものも少なくないので、市販の遺伝子治療用ベクターのクローニング部位にBDNF結合性TrkB断片等をコードするDNAを挿入した組換えベクターを好ましく用いることができる。なお、所望の遺伝子をベクターに挿入して遺伝子治療用組換えベクターを作製する有料サービスも行われており、このような有料サービスを利用することも可能である。

【0033】
哺乳動物への組換えベクターの投与自体は、周知の方法により行うことができる。すなわち、好ましくは、治療すべき子宮外妊娠部位の近傍の組織に注射等の非経口投与により投与することができる。組換えベクターをリン酸緩衝液(PBS)等の緩衝液に懸濁したものを投与することができる。投与に際し、細胞内への遺伝子ワクチンの侵入を容易にするために、注射部位に電界パルスを与えてもよい。この場合、電界の強さは、特に限定されないが、通常、10V/cm~60V/cm程度、好ましくは25V/cm~35V/cm程度、パルスの持続時間は、通常、20ミリ秒~100ミリ秒、好ましくは、40ミリ秒~60ミリ秒程度であり、パルスを通常、1回~6回、好ましくは2回~4回程度当てることができる。組換えベクターの投与量は、症状や神経損傷部位の状態等に応じて適宜選択することができるが、通常、組換えベクターの重量で1ng~10mg程度、特に100ng~1mg程度である。

【0034】
BDNFとTrkBとの結合を抑制する物質として、BDNFに対する抗体又はBDNF結合性TrkB断片等に対する抗体を用いることもできる。BDNF及びBDNF結合性TrkB断片等は容易に入手可能であるので、これらに対する抗体は、BDNF又はTrkBを免疫原として動物(ヒトを除く)に投与して抗体を誘導することを含む常法により得ることができる。抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体も常法であるハイブリドーマ法により作製することができる。抗体は、BDNFとTrkBとの結合を抑制できるものである必要があるので、モノクローナル抗体の場合には、得られたモノクローナル抗体のうち、BDNFとTrkBとの結合を抑制するモノクローナル抗体をスクリーニングする。ポリクローナル抗体の場合には、免疫原の全エピトープに体する種々の抗体が含まれるので、このようなスクリーニングを行わなくてもBDNFとTrkBとの結合を抑制するが得られる。

【0035】
上記抗体を子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いる場合、投与経路は、経口でも非経口でもよく、非経口の場合、子宮外妊娠部位への直接投与、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、直腸内、点眼等、通常の各種投与経路で投与可能である。もっとも、体内への吸収性や消化酵素による分解を避ける観点から非経口投与が好ましい。投与量は、用いる抗体の力価や患者の状態等に応じて適宜設定されるが、非経口投与の場合、通常、成人1日当たり、1 mg~100,000 mg、好ましくは1 mg~1,000 mg程度であるがもちろんこの範囲に限定されるものではない。また、上記抗体を有効成分として用いる場合も、上記と同様、常法に基づいて製剤することができる。

【0036】
BDNF又はTrkBの、細胞内における生産を抑制する物質を本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として用いることもできる。このような物質として、BDNF遺伝子若しくはTrkB遺伝子に対する干渉RNA(iRNA)を挙げることができる。BDNF遺伝子又はTrkB遺伝子の発現を抑制する抑制剤としては、BDNF遺伝子又はTrkB遺伝子のmRNAを標的とするiRNA、好ましくはsiRNAを挙げることができる。iRNAは、標的となるmRNAと相補的な鎖を含む二本鎖RNAであり、標的となるmRNAと結合してこれを切断するものである。siRNAは、サイズが21~23塩基程度の短い(small)iRNAである。siRNAは、サイズが小さいので合成が容易で、それによるmRNAの切断部位を設定し易いので好ましい。siRNAによる遺伝子発現の抑制技術は、既に周知であり、mRNAの配列(cDNA配列)さえ提示すれば、それを標的とするsiRNAを設計し、そのsiRNAを発現ベクターに組み込んだ組換えベクターを作製するサービスを行なっている業者が多数存在するほどである。上記の通り、TrkB遺伝子のcDNAの配列は配列番号1に記載したとおりであり、また、BDNF遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank Accession No. NM_170735)は配列番号3に示す通りであるので、これらに対するsiRNAは当業者であれば容易に設定することができる。簡単に説明すると、siRNAは標的とするmRNAと相補的な鎖を含む二本鎖RNAで、そのサイズは通常、21~23塩基であり、通常、二本鎖RNAの両端にそれぞれハングオーバーを有する。ハングオーバーのサイズは、それぞれ1塩基~2塩基であり、ハングオーバー部分はデオキシヌクレオチドでもよい。また、mRNAとの相補性は、完全な相補性が好ましいが、1~2塩基程度のミスマッチがあっても十分な切断作用を発揮する場合も多い。また、ハングオーバー部分は相補的でなくてもよい。siRNAは、mRNAの塩基配列中のaaに続く19~21塩基として設定することが好ましい場合が多く、gc含量が50%前後(通常45~55%程度)のものが好ましい。また、成熟タンパク質で切断される部分に設定されないように、5'末端から50塩基以上離れた部位に設定することが多い。

【0037】
siRNAはそのまま投与することもできるが、該siRNAを発現するDNAを哺乳動物細胞用の発現ベクターに組み込み、得られた組換えベクターを投与することにより、細胞内でsiRNAを生産させBDNF遺伝子又はTrkB遺伝子の発現を抑制してもよい。哺乳動物細胞用の発現ベクターは種々市販されており、それらのマルチクローニング部位に上記DNAを挿入することができる。なお、上記の通り、siRNAを発現するDNAを組み込んだ発現ベクターを作製する業者のサービスも利用できる。

【0038】
投与量は、子宮外妊娠の進行程度、患者の状態等に応じて適宜選択されるが、抑制剤がsiRNAの場合、その投与量は、成人(体重60kg)1日当たり通常、0.01mg/kg~10mg/kg程度、特に0.1mg/kg~5mg/kg程度、siRNAを発現する組換えベクターの場合、治療全体を通して成人1日当たり0.01mg/kg~10mg/kg程度、特に0.1mg/kg~5mg/kg程度であるが、投与量はもちろんこれらに限定されるものではない。

【0039】
さらに、本発明の子宮外妊娠治療剤の有効成分として、BDNF遺伝子又はTrkB遺伝子のアンチセンスRNAを用いることもできる。アンチセンスRNAは、標的遺伝子のmRNAの全長又はその一部と相補的な塩基配列を有し、該mRNAとハイブリダイズして、mRNAが翻訳されることを抑制し、ひいては標的遺伝子の遺伝子産物が生産されることを抑制するものである。TrkB遺伝子及びBDNF遺伝子のcDNAの塩基配列はそれぞれ配列番号1及び配列番号3に記載されているので、これらのアンチセンスRNAも容易に調製することができる。アンチセンスRNAのサイズは、標的遺伝子のmRNAと特異的にハイブリダイズすることが可能で該mRNAの翻訳を抑制できるサイズであれば特に限定されないが、通常、20塩基~mRNAのコード領域の全長程度である。

【0040】
iRNAの場合と同様、アンチセンスRNAもそのまま投与することもできるが、該アンチセンスRNAを発現するDNAを哺乳動物細胞用の発現ベクターに組み込み、得られた組換えベクターを投与することにより、細胞内でアンチセンスRNAを生産させBDNF遺伝子又はTrkB遺伝子の発現を抑制してもよい。哺乳動物細胞用の発現ベクターは種々市販されており、それらのマルチクローニング部位に上記DNAを挿入することができる。

【0041】
アンチセンスRNAの投与量は、子宮外妊娠の進行程度、患者の状態等に応じて適宜選択されるが、上記したiRNAの投与量と同程度であってよい。

【0042】
本発明はまた、BDNF/TrkBのシグナル抑制が、子宮外妊娠での細胞性栄養膜細胞の増殖および細胞性栄養膜細胞から分化する絨毛外性栄養膜細胞を抑制するという知見から、以下のスクリーニング方法を提供するものである。

【0043】
すなわち、本発明は、被験試料の存在下におけるTrkBのキナーゼ活性と、被験試料の非存在下におけるTrkBのキナーゼ活性とを測定し、TrkBのキナーゼ活性を減少させる被験試料を選別することを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【0044】
ここで、被験試料とは、低分子化合物、ペプチド、核酸分子、抗体などを用いることができる。また、TrkBのキナーゼ活性は、これに限定されるわけではないが、例えば、TrkBの自己リン酸化を、抗-ホスホチロシン抗体を用いて検出することにより、測定することができる。ここで、TrkBのキナーゼ活性は、細胞内でのキナーゼ活性を測定することが好ましい。

【0045】
上記のTrkBのキナーゼ活性を効率的に測定するためには、数々の工夫を施すことができ、例えば、M.D.Sadick et al.,1997,Exp.Cell.Res., 234, 354-361(非特許文献36)に記載したような方法を用いることができる。すなわち、グリコプロテインDの26アミノ酸残基のペプチドを融合したTrkBをCHO細胞内で発現させ、これに細胞外からBDNFを投与して、TrkBを活性化させる。次に、この細胞を可溶化し、グリコプロテインDのペプチドに特異的な抗体をコートしたウェルを用いて、TrKBをウェルに捕捉し、標識した抗-ホスホチロシン抗体を用いてTrkBの自己リン酸化を検出することにより、TrkBのキナーゼ活性を測定することができる。

【0046】
上記の通り、本発明はまた、次の(a)~(d)の工程を含むことを特徴とする、子宮外妊娠の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
(a)ヒト由来の胎盤絨毛を、ヒト以外の哺乳動物の腎臓組織に移植したモデル動物を作製する工程;
(b)前記(a)の工程で作製したモデル動物のうち、一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料を投与して飼育し、他の一匹(又は一集団)のモデル動物には被験試料の担体のみ投与して飼育する工程;
(c)前記被験試料を投与したモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞と、前記被験試料を投与しなかったモデル動物の腎臓組織における細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞とを比較する工程;
(d)被験試料を投与したモデル動物の細胞性栄養膜細胞及び絨毛外性栄養膜細胞の方が減少していた場合に、この被験試料を子宮外妊娠の治療剤として選別する工程。

【0047】
ここで、上記(a)の工程におけるヒト以外の哺乳動物としては、齧歯目動物が好ましく、特に移植したヒト由来の胎盤絨毛に対して拒絶反応を起こさない重症免疫不全マウスが好ましい。また、上記(b)の工程における飼育の期間は、迅速にスクリーニングする観点からは、3~20日程度とするのがが好ましい。また、上記(b)の工程における担体とは、被検試料を投与するにあたって共に投与された溶媒等の希釈剤や、結合剤、賦形剤、ドラッグデリバリーシステム等のことであり、被検試料と担体を投与する試験とともに、対照として担体のみを投与する試験を行うものである。そして、上記(c)の細胞栄養膜細胞および絨毛外性栄養膜細胞の比較においては、これに限定されるわけではないが、例えば、両者の栄養膜細胞の同定のために、栄養膜細胞のマーカーであるサイトケラチンを、絨毛外性栄養膜細胞のマーカーであるHLA-Gを用いることが好ましい。また、細胞増殖を検出する目的で、PCNA抗体、Ki-67抗体などの、細胞増殖の指標となるタンパク質の抗体を用いることもできる。

【0048】
本発明の子宮外妊娠は、卵管の破裂が起きた場合には、通常、外科的手術が行われるので、本発明の子宮外妊娠治療剤により治療される子宮外妊娠は、通常、未破裂の子宮外妊娠である。

【0049】
下記実施例に具体的に示されるように、本発明の子宮外妊娠治療剤は、細胞性栄養膜細胞の増殖を抑制することができ、それによって効果的に子宮外妊娠を治療する。本発明の子宮外妊娠治療剤は、MTXのような抗癌剤ではないので、MTXのような全身的で重篤な副作用を発揮しない。

【0050】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
材料と方法
ヒト絨毛様組織
秋田大学医学部付属病院(秋田、日本)にて、妊娠の最初の3ヶ月(6~11週)のヒト胎盤絨毛は、心理社会的な理由により子宮内容掻爬術を施行された妊娠女性から得た。また、子宮外妊娠の組織サンプルは、妊娠8週の患者から腹腔鏡下での手術によって得た。妊娠週数は、最終月経の日付及び超音波による胎児頭殿長の測定から決定した。in vitro 及び in vivoの実験に用いた全ての組織サンプルは、18から30歳(平均23±4.5歳)の日本人女性から、当院の地域医療倫理委員会と共にインフォームドコンセントで患者から同意を得た後に採取した。
【実施例】
【0052】
ヒト絨毛断片の組織培養
妊娠の最初の3ヶ月間の胎盤からのヒト絨毛断片の準備と培養は、非特許文献13に記載の通りに行った。簡潔に述べると、妊娠6~8週の胎盤絨毛を、脱落膜組織および卵膜を除去するために無菌的に解剖し、実体顕微鏡(ライカマイクロシステムズ、東京、日本)下で、少量の胎盤絨毛(湿重量8mg)とした。それぞれの絨毛片を、200μlの希釈していないマトリゲルグロースファクターリデュースト(BDバイサイエンシズファーミンゲン)を用いて事前に被膜したミリセルCMカルチャーディッシュインサート(12mm径)(ミリポア、ベッドフォード、マサチューセッツ)上に乗せ、24穴培養プレート中に置いた。絨毛片を150μlの培地(血清を含まず、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び0.25μg/mlアスコルビン酸を添加した、pH7.4のDMEM/F12)(インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア)で覆い、底部チャンバーを500μlの同じ培地で満たした。絨毛片を異なった量のTrkBの可溶性細胞外領域(R&Dシステムズ、ミネアポリス、ミネソタ)、神経栄養因子(pan)特異的Trk受容体阻害薬K252a(カルビオケム、ラホーヤ、カリフォルニア)(非特許文献14)、若しくは不活化原形質膜非透過K252b(カルビオケム)(非特許文献15)を加えて又は加えないで、37℃、3%酸素/5%二酸化炭素/92%窒素中で96時間培養した。培地は48時間ごとに取り替え、グルコース濃度測定のために回収した。
【実施例】
【0053】
絨毛先端の遠位からのEVTの増生(EVT増生)及びそれらの周辺マトリゲルへ遊走を、実体顕微鏡を用いて毎日観測し、マトリゲルに接着した絨毛先端のうち、50%以上がEVT増生を示したものを、非特許文献13に記載されているようにEVT増生陽性と分類した。培養の終わりには、EVT増生を含むいくつかの絨毛片から、HLA-Gの転写産物レベルをリアルタイムRT-PCRにより定量するため、RNAを抽出した。絨毛様外稙片によるグルコース消費は、新しい培地と培養48時間後のコンディションドメディウムにおけるグルコース濃度の差を酵素測定(三菱BCL、東京、日本)によって算出した。結果は、48時間毎の組織湿重量0.1g当たりのmgで表した。
【実施例】
【0054】
いくつかの実験においては、絨毛片の形態学的な変化を、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)染色で評価した。さらに、細胞増殖活性を、核内増殖抗原(PCNA)及びKi-67抗原を免疫組織化学的に検出することによって決定した。アポトーシスの進行を測定するために、いくつかの絨毛片を非特許文献12及び16に記載の通りにカスパーゼ-3/7酵素活性定量に用いた。また、絨毛片におけるアポトーシスを、in situ terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUDP nick end-labeling法(TUNEL法)(非特許文献17)を用いてDNAの断片化を検出することによっても解析した。
【実施例】
【0055】
ヒト絨毛のSCIDマウスへの異種移植
ヒト子宮外妊娠における内因性TrkBシグナルの役割を調べるために、in vivoモデルとして妊娠7~8週のヒト胎盤絨毛を異種移植したSCIDマウス(C.B-17/Icr-scid/scidJcl)(日本クレア、東京、日本)を用いた。動物の飼育及び使用は、秋田大学医学部の動物研究委員会によって是認された。移植片の準備では、胎盤絨毛の小片を上記の通りに摘出し、氷冷したPBS中に移植まで保存した。8~11週齢のSCIDマウスをトリブロモエタノール(14~20 mg/kg)(シグマ、セントルイス、ミズーリ)を用いて麻酔した後、腹部を切開して左右の腎臓をそれぞれ体外に牽引した。その後、それぞれの腎臓被膜に0.5mmの切り口を作り、胎盤絨毛(湿重量5mg)の小片を、ブラントチップピンセットを用いてその被膜の下に移植した。動物へのTrk抑制剤投与は、細胞性栄養膜細胞が侵入した領域にマウス由来血管組織網が構築されることが知られている(非特許文献18)、移植1週間後から開始した。動物体重は、Trk抑制剤投与の日において19~22gの間であった。生理的食塩水に溶解したK252a(500 μg/kg)の腹腔内投与(ip)を毎日行った。ネガティブコントロールとしてはK252b(500μg/kg)での処理、または担体のみの処理を用いた。これらの実験でのK252aおよびK252bの量は、これまでの研究の成果をもとに選択した(非特許文献12、非特許文献19)。何匹かの動物には、子宮外妊娠の治療で用いられる治療用量に相当するメトトレキサート(ip;1 mg/kg)(シグマ)を毎日処理した(非特許文献3)。以下のアッセイには薬剤投与後7日目のマウスを用いた。hCG-βレベル及びカスパーゼ-3/7活性を測定するために、移植された絨毛を有する腎臓を摘出し、破砕した。腎臓における栄養膜細胞を同定するために、栄養膜細胞のマーカーであるサイトケラチン(非特許文献20)を免疫組織化学的手法で検出した。HE染色に加えて、摘出したサンプルにおけるin vivoの細胞増殖及びアポトーシスをそれぞれ、PCNA並びにKi-67の免疫染色及びTUNELアッセイによって評価した。
【実施例】
【0056】
統計学的分析
絨毛断片組織培養におけるEVT陽性の割合を比較するために、カイ二乗検定を行った。その他の差異を評価するために、一元配置分散分析の後に制約付最小有意差検定を行った。データは平均±標準誤差である。
【実施例】
【0057】
RT-PCR
ヒト胎盤絨毛におけるニューロトロフィン(神経成長因子、NGF、及びニューロトロフィン-3、NT-3)及びTrk受容体(TrkA及びTrkC)の発現を検討するための、通常のRT-PCRにおけるNGF、NT-3、TrkA、TrkC、及びβ-アクチン用のプライマーは、(非特許文献11)に記載されている。PCR反応は、94℃で30秒間の変性、57℃(TrkA)、60℃(TrkC及びβ-アクチン)、62℃(NGF及びNT-3)で30秒間のアニーリング、そして72℃で30秒間の伸長反応を35回繰り返した。ネガティブコントロールにはmRNAを加えなかった。
【実施例】
【0058】
リアルタイムRT-PCR
胎盤絨毛及び異種移植されたヒト絨毛を有するマウス腎臓におけるTrkB、断片化TrkB及びHLA-G転写産物レベルの定量的リアルタイムRT-PCRを、スマートサイクラー(SmartCycler、タカラバイオ株式会社、東京、日本)とTrkB並びにβ-アクチン用のプライマー及びハイブリダイゼーションプローブを用いて(非特許文献32)に記載の通りに行った。TrkB用のプライマーには不完全なアイソフォームの増幅を避けるために、受容体の触媒キナーゼドメインに相当する部分を用い(非特許文献33)、断片化Trkbは既報のprimerを用いて特異的に増幅した(非特許文献37)。HLA-G(アプライドバイオシステムズ、フォスターシティ、カリフォルニア)の発現の定量には、バリデート済みTaqman遺伝子発現アッセイ(Validated Taqman gene expression assay)を用いた。データはβ-アクチンの転写産物レベルに基づいて標準化した。
【実施例】
【0059】
免疫測定
ELISA用に胎盤絨毛を、137 mM NaCl、20 mM Tris-HCl、1% ノニデットP40、10%グリセロール、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ・アプライド・サイエンス、インディアナポリス、インディアナ)を含む緩衝液中で破砕し、その後8000xgで5分間、4℃において遠心分離した。胎盤絨毛における脳由来神経栄養因子(BDNF)及びニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)の定量は、ELISAによって(非特許文献32、非特許文献10)に記載の通りに行った。結果をタンパク質の濃度に基づいて標準化し、そして組織1mgあたりpgのBDNF又はNT-4/5として表示した。
【実施例】
【0060】
BDNFおよびTrkBの局在を調べるために、(非特許文献11)に記載の通りに子宮外妊娠の胎盤絨毛及び絨毛組織におけるBDNF及びTrkBの免疫染色を行った。BDNFおよびTrkB抗原は、ウサギ抗BDNFポリクローナル抗体(ケミコン、テメキュラ、カリフォルニア)または、完全長TrkBを認識するニワトリ抗TrkBポリクローナル抗体(プロメガ、マジソン、ウィスコンシン)を1:100希釈で用いて検出した。細胞増殖を評価するため一部のスライドには核内増殖抗原(PCNA)又はKi-67免疫染色を施し、異種移植されたヒト絨毛における栄養膜及び絨毛外性栄養膜細胞(EVT)の同定には、サイトケラチン及びHLA-G免疫染色をそれぞれ行った。脱パラフィン及び脱水の後、抗原回復は121℃で10分間のオートクレーブによる加熱(PCNA及びKi-67)、室温で5分間の0.4 mg/mlのプロテイナーゼK(シグマ、セントルイス、ミズーリ)処理、又は3分間で3回、クエン酸緩衝液(pH6)中での電子レンジによる加熱(HLA-G)で行った。内生ペルオキシダーゼ活性を0.3%ペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)を含むメタノール中で30分間処理することによって抑えた。10%のBSA-トリス緩衝生理食塩水(TBS、シグマ)で30分間ブロッキングした後、スライドを1:4000、1:200、1:1000、又は1:500に希釈したマウス抗-PCNAモノクローナル抗体(セルシグナリングテクノロジー、ダンヴァーズ、マサチューセッツ)、マウス抗-Ki-67モノクローナル抗体(ダコ、カーピンテリア、カリフォルニア)、ウサギ抗-サイトケラチンポリクローナル抗体(ダコ)、又はマウス抗-HLA-Gモノクローナル抗体(アブカム、ケンブリッジ、英国)のいずれかと、一晩、4℃でインキュベートした。TBSで3回洗った後、スライドをビオチン化抗-マウス又は抗-ウサギ二次抗体(インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア)と30分間、室温でインキュベートした。3回洗った後、結合した抗体をヒストステインSPキット(Histostain SP kit、インビトロジェン)を用いて可視化した。ネガティブコントロールは、一次抗体を非免疫性のマウスIgG1又は非免疫性のウサギIgG(ダコ)に置き換えて行った。
【実施例】
【0061】
移植された絨毛を有する腎臓ホモジネートにおけるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)-βタンパク質レベルは、RIA(三菱化学BCL、東京、日本)を用いて(非特許文献12)に記載の通りに決定した。
【実施例】
【0062】
結果
正常及び子宮外妊娠期間中のヒト胎盤絨毛におけるBDNF、NT-4/5,及びTrkBの発現
正常妊娠の最初の3ヶ月間での胎盤絨毛におけるBDNF、NT-4/5、及びTrkBの経時的な発現をELISA及びリアルタイムRT-PCRによって検査した。絨毛では、検査した全ての妊娠時期においてBDNFタンパク質レベルがNT-4/5レベルよりも1.3~5.0倍高いことがELISA解析によって示された(図1A)。BDNFタンパク質レベルが初期段階では安定していたが、妊娠11週で低下した一方、NT-4/5タンパク質レベルは妊娠7週後に低下し、検査した全ての妊娠段階を通じて低いレベルを維持した(図1A)。絨毛におけるTrkB転写産物レベルは、妊娠6週で高く、7週で低下し、その後妊娠が進行するにつれて徐々に増加することが定量的リアルタイムRT-PCR解析によって示された(図1A)。
【実施例】
【0063】
正常の胎盤絨毛においてBDNF及びTrkBタンパク質を発現している細胞型を免疫組織学的手法によって決定した。図1Bに示されるように、妊娠8週の絨毛の栄養膜細胞における、BDNFとその受容体であるTrkBの染色は細胞型特異的に見られた。BDNFのシグナルは合胞体栄養膜細胞及びEVTにおいて検出されたが(図1B)、TrkBの染色は細胞性栄養膜細胞及びEVTに局在していた(図1B)。同様のBDNF及びTrkBタンパク質の細胞型特異的発現は妊娠6~11週の期間の胎盤絨毛(データは示さない)及び子宮外妊娠の組織でも検出された(図1C)。
【実施例】
【0064】
内因性TrkB伝達をin vitroで阻害することによるヒト栄養膜細胞発育の低下
ヒト胎盤絨毛の特異的細胞型におけるTrkBリガンドと受容体両方の発現は、TrkBシグナルが栄養膜細胞発育においてオートクリン/パラクリンの役割を担っていることを示唆した。内因性TrkBリガンドが、細胞性栄養膜細胞に対する分化因子として作用しているかどうかを決定するために、TrkB細胞外ドメイン及びK252aを添加培養した絨毛片からのEVT増生を評価した。対照群においては、EVT増生は培養48時間で増加し、外稙片の大きさの収縮を伴って培養96時間で最大に達した(図2A)。細胞増殖マーカー(Ki-67)の発現が遊走した細胞では認められなかったことから(図7)、EVT増生はEVT細胞の分裂を含まなかった。TrkB細胞外ドメイン又は、K252aでの処理は、EVTの特異的マーカーであるHLA-G(非特許文献21)の転写産物レベルの低下を伴って(図2C)、EVT増生を用量依存的に同等の効果で抑制したが(図2A及びB)、不活化K252bではその効果は認められなかった。
【実施例】
【0065】
絨毛栄養膜細胞増殖における内因性TrkBシグナルの作用を検討するために、細胞機能を形態学的に及びグルコース代謝の測定によって評価した。細胞型特異的なTrkBの発現を反映して、TrkB細胞外ドメイン又は、K252aでの処理により、96時間培養後では絨毛細胞性栄養膜細胞数が減少し、栄養膜層の絨毛間質からの部分的な脱離が誘導された(図3A上段)が、不活化K252bではその効果は認められなかった。さらに、TrkB細胞外ドメイン又は、K252aで処理した後に残った絨毛細胞性栄養膜細胞では、2種類の細胞増殖マーカーPCNA(図3A中段)及びKi-67(図3A下段)のシグナルの低下を認めた。試験された全ての対照およびTrkB細胞外ドメイン又は、K252a、K252b群において、非増殖性合胞体栄養膜細胞はいずれの細胞増殖マーカーでも染色されなかった。また、TrkB細胞外ドメイン及びK252aでの処理では、細胞のバイアビリティの低下の指標とされる、絨毛片によるグルコース消費(>94%阻害)も低下した(図3B)。
【実施例】
【0066】
絨毛栄養膜細胞において、因性TrkBリガンドが生存因子として作用しているかどうかを決定するために、TrkB細胞外ドメイン及びK252aで処理した培養絨毛片のアポトーシスを評価した。図4Aに示されるように、TrkB細胞外ドメイン又は、K252aでの処理によって、96時間培養後にTUNEL陽性の核の割合が増加し、不活化K252bではその効果は認められなかった。このことは内因性TrkBリガンドの抑制により、細胞にアポトーシスが誘導されることを示唆している。TUNEL陽性の核の増加は、細胞性栄養膜細胞に選択的に見られた。デオキシリボヌクレアーゼIで処理した陽性コントロールにおいては、全ての核がTUNELシグナルを示し、陰性コントロールにおいてはTUNEL陽性の核は見られなかった(データは示さない)。さらに、TrkB細胞外ドメイン又は、K252aでの処理後の絨毛片において、カスパーゼ3/7活性の6倍の上昇が検出された(図4B)。
【実施例】
【0067】
子宮外妊娠のin vivo動物モデルでの栄養膜細胞成長におけるTrk受容体阻害剤の効果
正常及び子宮外妊娠のヒト絨毛におけるTrkBリガンドと受容体の発現、及びTrk阻害剤によってヒト栄養膜細胞発育がin vitroで阻害された結果を受け、子宮外妊娠の薬物療法としてのTrkBシグナル抑制の効果の可能性を検討した。子宮外妊娠のin vivoモデルとして、SCIDマウスにヒト胎盤絨毛を異種移植した。これまでの研究(非特許文献18)と一致して、マウス腎臓組織へのヒト栄養膜細胞浸潤は異種移植後1週間で見られ、その浸潤は、細胞数の増加を伴って、3週間後には腎臓のより深い領域に拡大した(図5A)。さらに、組織ホモジネートにおけるhCG-βレベルの増加(図5B)は、移植した絨毛が子宮外の部位で発育したことを示唆した。腎臓に浸潤した栄養膜細胞はHLA-Gによって染色され(図5C)、このことはそれらがEVTへ分化していることを示している。これらの結果から、本方法により子宮外妊娠のモデルが確立され、子宮外妊娠おける栄養膜細胞発育の抑制に対するTrk阻害薬の使用が試験できるようになった。
【実施例】
【0068】
ヒト絨毛を異種移植したマウスに異なる薬剤を7日間投与し、それらの子宮外妊娠モデルでの絨毛発育抑制効果を評価した。絨毛を移植した腎臓におけるサイトケラチン、HLA-G、並びにHE染色による組織病理学検査、及びリアルタイムRT-PCRによるHLA-G発現転写産物レベル解析の結果、K252a投与群では、浸潤EVTの細胞数及び絨毛柱における細胞性栄養膜細胞の減少が示された(図6A及びB)。また、HLA-Gの転写産物レベルも大きく低下し(図6D)、このことはK252aによる細胞分化と細胞増殖の抑制を示唆している。PCNA(図6B上段)及びKi-67(図6B中段)染色により、細胞増殖の抑制に対するK252a投与の効果が確認された。K252a投与後に組織ホモジネートにおいてhCG-βレベルが73.3%低下したことは、hCGを合成する細胞のバイアビリティが失われたことを示した(図6E)。これにはK252a投与による、細胞性栄養膜細胞におけるTUNEL陽性の核の増加を伴っていた(図6C)。さらにカスパーゼ活性の定量によって移植した絨毛におけるアポトーシスを解析し、K252aを投与したマウスの異種移植片中のカスパーゼ-3/7の活性が4.1倍上昇していることを認めた(図6F)。重要なことに、不活化細胞膜非透過型K252bは、試験したどの指標に対しても影響を与えなかった。さらに、1 mg/kgのメトトレキサートの投与は細胞性栄養膜細胞の分化、増殖及び生存を阻害しなかった(図6A~F)。本願発明者らのこれまでの研究と同様に(非特許文献12)、試験した全ての動物において、実験の期間を通して明白な副作用は認められず、また、K252aを投与した群においては研究の期間を通じて体重の変化は見られなかった(担体、19.62 ± 0.95 g:K252a、19.27 ± 1.03 g:及びK252b、20.14 ± 1.13 g)。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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