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明細書 :抗がん剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5798199号 (P5798199)
登録日 平成27年8月28日(2015.8.28)
発行日 平成27年10月21日(2015.10.21)
発明の名称または考案の名称 抗がん剤
国際特許分類 A61K  39/395       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 39/395 ZNAT
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 22
出願番号 特願2013-544897 (P2013-544897)
出願日 平成25年3月5日(2013.3.5)
国際出願番号 PCT/JP2013/055927
国際公開番号 WO2013/133253
国際公開日 平成25年9月12日(2013.9.12)
優先権出願番号 2012052334
優先日 平成24年3月8日(2012.3.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2014-008951(P2014-008951/J1)
審査請求日 平成25年9月27日(2013.9.27)
審判請求日 平成26年5月14日(2014.5.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宇田 泰三
【氏名】一二三 恵美
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
参考文献・文献 特表2011-521647(JP,A)
調査した分野 A61K38/00-45/08
CA、Biosis、Medline、Embase(STN)、JSTplus、JMEDplus、JST7580
特許請求の範囲 【請求項1】
可変領域が配列番号19のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域中のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失しており、かつ当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示され、かつ肺がん細胞に対する細胞障害性を有するポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖を含有することを特徴とする肺がんに対する抗がん剤。
【請求項2】
前記ヒト抗体κ型軽鎖が、配列番号20のアミノ酸配列中の219番目のシステインが削除又はシステイン以外のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域中のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失しており、かつ当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示され、かつ肺がん細胞に対する細胞障害性を有するポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖である、請求項1に記載の肺がんに対する抗がん剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞、特に肺がん細胞に対して細胞障害性を示すヒト抗体κ型軽鎖を含有する抗がん剤に関する。
本願は、2012年3月8日に、日本に出願された特願2012-52334号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、重鎖(H鎖:Heavy chain)および軽鎖(L鎖:Light chain)から構成されている。重鎖および軽鎖は、可変領域(VR:Variable Region)および定常領域(CR:Constant Region)から構成されており、可変領域は、超可変領域(CDR:Complementarity Determining Region)を有している。さらに、抗体の軽鎖は、κ型およびλ型に分類される。
【0003】
近年、酵素様活性をもつ抗体、即ち、抗体酵素が注目を集めている。抗体酵素は、抗体の高い分子認識能と酵素活性とを併せ持つため、医療、化学工業、食品工業等といった、多くの面で応用が期待されている。特に、標的分子への特異性が高く、かつ酵素活性によって標的分子に対する障害性を発揮し得る抗体酵素は、副作用の少ない優れた抗がん剤となることが期待される。
【0004】
本発明者らは、これまで、抗体酵素に関して種々の独創的な研究を行ってきている(例えば、特許文献1を参照のこと)。従来、完全ヒト型配列を有する抗体酵素は、多発性骨髄腫患者から得られるベンスジョーンズタンパク(BJP)以外には得ることができなかった。多発性骨髄腫患者の患者数は少なく、また酵素活性を有するBJPも少ないため、ヒト型の抗体酵素を取得することは困難であった。しかし、ヒト型の抗体酵素は、人体に投与した際の副作用が少ないと予想されるために、国内外の製薬会社などは、有用なヒト型の抗体酵素が開発されることを待ち望んでいる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2006-197930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、がん細胞、特に肺がん細胞に対して細胞障害性を示すヒト型抗体軽鎖を有効成分とする抗がん剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、狂犬病ウイルスのワクチンを用いて、複数回にわたって過剰免疫されたボランティアから得られた末梢血から新規なヒト型抗体軽鎖を取得し、これらについて検討したところ、驚くべきことに、得られたヒト抗体κ型軽鎖のいくつかが、がん細胞、特に肺がん細胞に対する高い細胞障害性を有していることを見出し、発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係る肺がんに対する抗がん剤は、可変領域が配列番号19のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列のうち、第24~39番目、第55~61番目、及び第94~101番目のアミノ酸残基以外の領域中のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失しており、かつ当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示され、かつ肺がん細胞に対する細胞障害性を有するポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、がん細胞、特に肺がん細胞に対する細胞傷害性が高い抗がん剤を提供できる。本発明の抗がん剤は抗体酵素を有効成分とするため、がん細胞に対する特異性が高い。さらに、当該抗体酵素のアミノ酸配列は完全にヒト型であるため、ヒトに対するアレルギー等の問題がない。このため、本発明の抗がん剤は、活性の高い画期的な新型医薬品、及びその開発のための試料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】(a)は、単量体のヒト型抗体軽鎖を得るためのcDNAの設計の概略を示し、(b)は、変異導入前のヒト型抗体軽鎖と変異導入後のヒト型抗体軽鎖との組成の概略を示す。
【図3】クローン#1のポリペプチドを精製した結果を示す図であり、(a)は、クローン#1のポリペプチドを新たに一次精製した結果を示し、(b)は、クローン#1のポリペプチドを新たに二次精製した結果を示す。
【図4】各クローンのがん細胞に対する細胞障害性を調べた結果を示すグラフである。
【図5】各クローンのがん細胞に対する細胞障害性を調べた結果を示すグラフである。
【図6A】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6B】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6C】図6Bの続きであり、野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6D】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6E】図6Dの続きであり、野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6F】図6Eの続きであり、野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6G】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6H】図6Gの続きであり、野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図6I】野生型のヒト抗体κ型軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
【図7】生体内におけるアッセイの結果を示す図である。
【図8】安全性試験(毒性試験)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、がん細胞に対する細胞障害性を有するヒト抗体κ型軽鎖を含む抗がん剤を提供する。本願明細書において、「ヒト抗体κ型軽鎖」は、ヒト由来の免疫グロブリンのκ型の軽鎖(Light chain)を指す。

【0012】
本願明細書において、「抗がん剤」とは、がん細胞を死滅させる、又は増殖を抑制若しくは阻害する活性を有する薬剤を意味する。
また、本願明細書において、「細胞傷害性」とは、細胞に対して死又は機能障害を与える性質を意味する。

【0013】
本発明に係る抗がん剤の有効成分であるヒト抗体κ型軽鎖(以下、「本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖」ということがある。)は、具体的には、下記(1)~(8)のいずれかである。
(1)可変領域が配列番号1のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(2)可変領域が配列番号7のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(3)可変領域が配列番号9のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(4)可変領域が配列番号13のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(5)可変領域が配列番号19のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(6)可変領域が配列番号38の1~113番目のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(7)可変領域が配列番号40の1~112番目のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。
(8)可変領域が配列番号41の1~107番目のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖。

【0014】
可変領域が配列番号1のアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖は、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#1)は、上述した可変領域に、公知のヒト抗体定常領域が付加されたものであり得、一実施形態において、全長のアミノ酸配列は、配列番号2に示される。ヒト抗体κ型軽鎖(#1)におけるCDR1は、配列番号1および2のアミノ酸配列における第24~39番目であり、CDR2は、配列番号1および2のアミノ酸配列における第55~61番目であり、CDR3は、配列番号1および2のアミノ酸配列における第94~102番目である。

【0015】
野生型の抗体κ型軽鎖には、ジスルフィド結合を形成するためのシステインが存在しており、二量体を形成する。ヒト抗体κ型軽鎖(#1)は、野生型と同様に、他の軽鎖とジスルフィド結合を形成するためのシステインを有している。例えばヒト抗体κ型軽鎖(#1)が配列番号2のアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなる場合、当該システインは、配列番号2のアミノ酸配列中の220番目のシステインである。

【0016】
ヒト抗体κ型軽鎖(#1)は、後記実施例に示すように、がん細胞、特に肺がん細胞に対する細胞障害性を有する。このため、抗がん剤の有効成分として好適である。ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の抗がん活性のためには、標的分子に対する高い分子認識能が重要であることから、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の抗がん活性の活性中心は、可変領域にある。

【0017】
ポリペプチドを構成するアミノ酸残基のうちのいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。なお、本願明細書において、特定のアミノ酸配列X中の1又は複数のアミノ酸を置換、付加、若しくは欠失させることを、変異させるという。

【0018】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、二量体を形成しており、可変領域が配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。当該ポリペプチドを、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の変異体と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の変異体は、配列番号2のアミノ酸配列において、220番目のシステイン以外の1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。

【0019】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖として用いられるヒト抗体κ型軽鎖(#1)の変異体は、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)と同様に抗がん作用を有する二量体である。このため、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号1又は2のアミノ酸配列と同一であり(保存されており)、配列番号2のアミノ酸配列中の220番目のシステインに相当するシステインも保存されている。つまり、ヒト抗体κ型軽鎖(#1)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3以外の領域中のアミノ酸が変異されており、可変領域の他の領域中のアミノ酸が変異されているものであることが好ましい。

【0020】
可変領域が配列番号9のアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖は、ヒト抗体κ型軽鎖(#4)と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#4)は、上述した可変領域に、公知のヒト抗体定常領域が付加されたものであり得、一実施形態において、全長のアミノ酸配列は、配列番号10に示される。ヒト抗体κ型軽鎖(#4)におけるCDR1は、配列番号9および10のアミノ酸配列における第24~40番目であり、CDR2は、配列番号9および10のアミノ酸配列における第56~62番目であり、CDR3は、配列番号9および10のアミノ酸配列における第95~102番目である。また、他の軽鎖とジスルフィド結合を形成するためのシステインは、配列番号10のアミノ酸配列中の220番目のシステインである。

【0021】
ヒト抗体κ型軽鎖(#4)は、後記実施例に示すように、がん細胞、特に肺がん細胞に対する細胞障害性を有する。このため、抗がん剤の有効成分として好適である。

【0022】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、二量体を形成しており、可変領域が配列番号9のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。当該ポリペプチドを、ヒト抗体κ型軽鎖(#4)の変異体と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#4)の変異体は、配列番号10のアミノ酸配列において、220番目のシステイン以外の1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。

【0023】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖として用いられるヒト抗体κ型軽鎖(#4)の変異体は、ヒト抗体κ型軽鎖(#4)と同様に抗がん作用を有する二量体である。このため、ヒト抗体κ型軽鎖(#4)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号9又は10のアミノ酸配列と同一であり(保存されており)、配列番号10のアミノ酸配列中の220番目のシステインに相当するシステインも保存されている。つまり、ヒト抗体κ型軽鎖(#4)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3以外の領域中のアミノ酸が変異されており、可変領域の他の領域中のアミノ酸が変異されているものであることが好ましい。

【0024】
可変領域が配列番号13のアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、二量体であるヒト抗体κ型軽鎖は、ヒト抗体κ型軽鎖(#7)と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#7)は、上述した可変領域に、公知のヒト抗体定常領域が付加されたものであり得、一実施形態において、全長のアミノ酸配列は、配列番号14に示される。ヒト抗体κ型軽鎖(#7)におけるCDR1は、配列番号13および14のアミノ酸配列における第24~39番目であり、CDR2は、配列番号13および14のアミノ酸配列における第55~61番目であり、CDR3は、配列番号13および14のアミノ酸配列における第94~101番目である。また、他の軽鎖とジスルフィド結合を形成するためのシステインは、配列番号14のアミノ酸配列中の219番目のシステインである。

【0025】
ヒト抗体κ型軽鎖(#7)は、後記実施例に示すように、がん細胞、特に肺がん細胞に対する細胞障害性を有する。このため、抗がん剤の有効成分として好適である。

【0026】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、二量体を形成しており、可変領域が配列番号13のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。当該ポリペプチドを、ヒト抗体κ型軽鎖(#7)の変異体と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(#7)の変異体は、配列番号14のアミノ酸配列において、219番目のシステイン以外の1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。

【0027】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖として用いられるヒト抗体κ型軽鎖(#7)の変異体は、ヒト抗体κ型軽鎖(#7)と同様に抗がん作用を有する二量体である。このため、ヒト抗体κ型軽鎖(#7)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号13又は14のアミノ酸配列と同一であり(保存されており)、配列番号14のアミノ酸配列中の219番目のシステインに相当するシステインも保存されている。つまり、ヒト抗体κ型軽鎖(#7)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3以外の領域中のアミノ酸が変異されており、可変領域の他の領域中のアミノ酸が変異されているものであることが好ましい。

【0028】
可変領域が配列番号19のアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなり、単量体であるヒト抗体κ型軽鎖は、ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)は、上述した可変領域に、公知のヒト抗体定常領域が付加されたものであり得、一実施形態において、全長のアミノ酸配列は、配列番号20のアミノ酸配列中の219番目のシステインが削除又はその他のアミノ酸(例えば、アラニン)に置換されたアミノ酸配列に示される。ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)におけるCDR1は、配列番号19および20のアミノ酸配列における第24~39番目であり、CDR2は、配列番号19および20のアミノ酸配列における第55~61番目であり、CDR3は、配列番号19および20のアミノ酸配列における第94~101番目である。

【0029】
ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)は、後記実施例に示すように、がん細胞、特に肺がん細胞に対する細胞障害性を有する。このため、抗がん剤の有効成分として好適である。

【0030】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、単量体であり、可変領域が配列番号20のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。当該ポリペプチドをヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)の変異体と称することもある。ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)の変異体は、配列番号20のアミノ酸配列において、219番目のシステインが削除又はその他のアミノ酸に置換されており、かつ219番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列によって示されるポリペプチドからなるものであってもよい。

【0031】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖として用いられるヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)の変異体は、ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)と同様に抗がん作用を有する単量体である。このため、ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号19又は20のアミノ酸配列と同一であり(保存されており)、配列番号20のアミノ酸配列中の219番目のシステインに相当するシステインは、削除又はその他のアミノ酸に置換されている。つまり、ヒト抗体κ型軽鎖(22F6_単量体)の変異体は、CDR1、CDR2、及びCDR3以外の領域中のアミノ酸が変異されており、可変領域の他の領域中のアミノ酸が変異されているものであることが好ましい。

【0032】
また、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、Hisタグ、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。

【0033】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドを構成するアミノ酸残基のうちの1又は数個のアミノ酸を容易に変異させたり、エピトープ標識ポリペプチド等を付加することができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。

【0034】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖はまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。

【0035】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。

【0036】
本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、当該ヒト抗体κ型軽鎖(ポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて、組換え発現系や無細胞発現系等の当該技術分野で公知の発現系を用いて製造することができる。

【0037】
組換え発現系を用いる場合、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖をコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主(形質転換体)内で翻訳されて得られるポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。

【0038】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。

【0039】
無細胞発現系(無細胞タンパク質合成系)を用いる場合、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖をコードするポリヌクレオチドを、リボソームやt-RNA等のタンパク質の翻訳・合成に必要な成分を含む溶液に添加し、適当な温度でインキュベートすることにより、合成されたポリペプチドを精製することが好ましい。

【0040】
無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液を用いる系が挙げられる。一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。これらの合成系としては、種々の市販のキットが用いられ得る。

【0041】
なお、種々のウイルス由来遺伝子産物は、その翻訳後に、小胞体、ゴルジ体等の細胞内膜が関与する複雑な生化学反応を経て活性を発現するものが多いので、各種生化学反応を試験管内で再現するためには細胞内膜成分(例えば、ミクロソーム膜)が添加される必要がある。植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液は、細胞内膜成分を保持した無細胞タンパク質合成液として利用し得るのでミクロソーム膜の添加が必要とされないので、好ましい。

【0042】
本明細書中で使用される場合、「細胞内膜成分」は、細胞質内に存在する脂質膜よりなる細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、液胞などの細胞内顆粒全般)が意図される。特に、小胞体およびゴルジ体はタンパク質の翻訳後修飾に重要な役割を果たしており、膜タンパク質および分泌タンパク質の成熟に必須な細胞成分である。

【0043】
宿主の発現系や無細胞タンパク質合成系により合成されたヒト抗体κ型軽鎖は、精製されることが好ましい。ヒト抗体κ型軽鎖を精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。

【0044】
また、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、当該ヒト抗体κ型軽鎖を天然に発現する細胞または組織から精製することもできる。例えば、抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖を天然に発現する細胞または組織を同定することができる。細胞や組織からのヒト抗体κ型軽鎖の精製は、宿主の発現系等を用いて合成されたヒト抗体κ型軽鎖を精製する場合と同様に行うこともできる。

【0045】
その他、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、化学合成することもできる。化学合成の方法は特に限定されず、ポリペプチドを化学合成する際に用いられるいずれの方法で行ってもよい。

【0046】
本発明に係る抗がん剤は、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖を有効成分とする。本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖ががん細胞に対する細胞傷害性を示す作用機序は未だ完全に明らかにされてはいないが、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖は、がん細胞表面の特定の分子又は構造を特異的に認識して結合すると同時に、自身が有する酵素活性によりがん細胞の一部成分を分解する結果、がん細胞の機能が損なわれ、増殖が阻害されたり、細胞死が誘導されるのではないかと推察される。

【0047】
本発明に係る抗がん剤は、ヒトまたは動物についての使用のために、直接注入により投与され得る。本発明に係る抗がん剤はまた、非経口投与、粘膜投与、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、眼内投与または経皮的投与のために処方され得る。代表的には、組成物中に含まれるタンパク質は、0.01~30mg/kg体重の用量、好ましくは、0.1~10mg/kg体重、より好ましくは、0.1~1mg/kg体重の用量で投与され得る。

【0048】
本発明に係る抗がん剤は、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖以外に、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含み得る。治療的使用のための薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤は、薬学分野で周知であり、そして例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的に使用可能なキャリア、賦形剤または希釈剤の選択は、意図された投与経路および標準的薬学的慣行に従って、当業者によって容易に選択され得る。また、本発明に係る抗がん剤は、任意の適切な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、被覆剤または可溶化剤をさらに含み得る。

【0049】
異なる送達系に依存して、組成/処方の必要条件は、異なり得る。例示として、本発明に係る抗がん剤は、ミニポンプを使用してまたは粘膜経路により、例えば、吸入のための鼻スプレーまたはエアロゾルとして、あるいは非経口的に送達するために処方され得る(ここで本発明に係る抗がん剤は、例えば、静脈内経路、筋肉内経路もしくは皮下経路による送達のために注射可能形態として処方される)。あるいは、この処方物は、両方の経路により送達されるように設計され得る。例えば本発明に係る抗がん剤は、特に肺がん細胞に対する細胞傷害性が高い。このため、本発明に係る抗がん剤は、吸入のための鼻スプレーまたはエアロゾル等の、鼻や気管支等から肺細胞まで効率よく送達することが可能な形態であることも好ましい。

【0050】
また、本発明に係る抗がん剤を生体内に投与する用途で用いる場合、有効成分であるヒト抗体κ型軽鎖の生体内における安定性(血中半減期)を向上させるための様々な技術が用いられ得る。例えば、neonatal Fc receptor(FcRn)がFcに結合すると、IgGなどの抗体の血中半減期が延長することが知られており(例えば、Roopenian,D.C.et.al.,Nat Rev Immunol vol.7 715-725(2007)参照)、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖のC末端を、FcRnとの結合活性を有するように改変することができる。また、本発明に係るヒト抗体κ型軽鎖をダイマー化すること、PEG(ポリエチレングリコール)を付加することもできる。

【0051】
本発明に係る抗がん剤は、例えば、服用の態様についての説明書等とともにキット化することもできる。当該キットには、その他、本発明に係る抗がん剤と併用可能な各種医薬を含めることもできる。

【0052】
また、本発明に係る抗がん剤は、標的分子の認識能が高い抗体κ型軽鎖を有効成分とするため、抗体κ型軽鎖の標的分子が細胞表面に存在していないがん細胞には細胞傷害性を発揮しない。このため、本発明の抗がん剤は、がんの種類の識別に有用であることが期待される。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
(1.ヒト末梢血cDNAの調製)
狂犬病ウイルスのワクチンを用いて、複数回にわたって過剰免疫されたボランティアから得られた末梢血から、Ficoll-paqueを用いてリンパ球を分離した。RNA extraction kit(Stratagene)を用いて、分離した約3.0×10個のリンパ球からトータルRNAを得た。TheromoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用い、oligo(dT)をプライマーとして、トータルRNAを逆転写することにより、目的とするcDNA(cDNAライブラリ-)を調製した。
【実施例】
【0055】
(2.ヒト抗体κ型軽鎖遺伝子の取得)
前記1.で取得したcDNAを鋳型として、サブグループIIに属するVκ遺伝子を有する抗体軽鎖遺伝子を増幅するためのプライマーを用いた2段階のPCR反応を行い、約750bpのPCR産物(サブグループIIに属するκ型軽鎖遺伝子)を得た。これらのPCR産物をクローニングし、シーケンス解析を行い、相同性検索により、それぞれの生殖細胞系列遺伝子(germline gene)におけるVκ遺伝子を推定した。この結果、得られた18クローンすべてがサブグループIIに属していた。このうち、クローン#1(生殖細胞系列遺伝子型:A18b)、クローン#2(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)、クローン#4(生殖細胞系列遺伝子型:O11/o1)、クローン#7(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)、クローン#8(生殖細胞系列遺伝子型:A18b)、クローン#9(生殖細胞系列遺伝子型:A18b)、クローン#11(生殖細胞系列遺伝子型:A18b)、クローン#13(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)、及びクローン#14(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)の9クローンを以降の実験に用いた。
【実施例】
【0056】
(3.ヒト抗体κ型軽鎖の発現)
前記2.で取得した各クローンをそれぞれ、Hisタグ配列サイトを有するプラスミドベクターに導入し、当該プラスミドベクターを大腸菌に導入して形質転換体を作製した。各形質転換体を培養し、IPTGによる発現誘導を行ったところ、SDS-PAGE分析及び抗ヒト型(Fab’)抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、大腸菌において発現したタンパク質がヒト型抗体軽鎖であることを同定することができた。得られたヒト型抗体軽鎖は、N末端にM(開始メチオニン)を、C末端にプラスミドベクター由来のLEHHHHHH(配列番号23)を有していた。
【実施例】
【0057】
(4.ヒト末梢血cDNAの調製)
狂犬病ウイルスのワクチンを用いて、複数回にわたって被験者を過剰免疫し、血清の中和活性を測定した。血清の中和活性が最も高かった(7.2IU)被験者をドナーとして末梢血を採取し、Ficoll-paqueを用いて当該末梢血からリンパ球を分離した。RNA extraction kit(Stratagene)を用いて、分離した約3.0×10個のリンパ球からトータルRNAを得た。TheromoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用い、oligo(dT)をプライマーとして、トータルRNAを逆転写することにより、後述するPCR反応において鋳型とするcDNAを調製した。
【実施例】
【0058】
(5.ヒト抗体κ型軽鎖遺伝子の取得)
前記4.で取得したcDNAを鋳型として、ヒト抗体軽鎖遺伝子を網羅的に増幅するためのプライマーセットを用いてPCR反応を行い、約660bpのPCR産物を得た。このPCR産物を精製し、大腸菌発現ベクターpET101/D-TOPOベクター(登録商標、Invitrogen)に挿入し、LCAライブラリを構築した。なお、pET101/D-TOPOベクターにPCR産物を挿入した発現ベクターからは、当該PCR産物がコードするタンパク質のC末端にHisタグを付加させたタンパク質が発現される。このLCAライブラリのcDNAを鋳型として、サブグループIIに属するVκ遺伝子を有するヒト抗体軽鎖遺伝子を増幅するためのプライマーを用いてPCR反応を行い、約660bpのPCR産物を得た。これらのPCR産物をクローニングし、シーケンス解析を行い、解析ソフトウェア(GENETIX(登録商標) Ver.8)を用いて、アミノ酸配列ならびに軽鎖の可変領域および定常領域を推定し、それぞれの生殖細胞系列遺伝子(germline gene)におけるVκ遺伝子を推定した。これらのクローンの中から、クローン22F6(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)及びクローン23D4(生殖細胞系列遺伝子型:A3/A19)の2クローンを以降の実験に用いた。得られたヒト型抗体軽鎖は、N末端にM(開始メチオニン)を、C末端にプラスミドベクター由来のLEHHHHHH(配列番号23)を有していた。
【実施例】
【0059】
各クローンのシーケンスの結果、クローン#1に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#1_WT))の全長は、配列番号27に示される塩基配列であり、クローン#8に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#8_WT))の全長は、配列番号28に示される塩基配列であり、クローン#9に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#9_WT))の全長は、配列番号29に示される塩基配列であり、クローン#11に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#11_WT))の全長は、配列番号30に示される塩基配列であり、クローン#4に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#4_WT))の全長は、配列番号31に示される塩基配列であり、クローン#2に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#2_WT))の全長は、配列番号32に示される塩基配列であり、クローン#7に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#7_WT))の全長は、配列番号33に示される塩基配列であり、クローン#13に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#13_WT))の全長は、配列番号34に示される塩基配列であり、クローン#14に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#14_WT))の全長は、配列番号35に示される塩基配列であり、クローン22F6に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(22F6_WT))の全長は、配列番号36に示される塩基配列であり、クローン23D4に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(23D4_WT))の全長は、配列番号37に示される塩基配列であった。
【実施例】
【0060】
各塩基配列から推定されるアミノ酸配列を図1に示す。また、図1には、可変領域、定常領域およびCDR1~3の位置も示した。クローン#1に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#1_WT))は配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、クローン#8に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#8_WT))は配列番号4に示されるアミノ酸配列であり、クローン#9に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#9_WT))は配列番号6に示されるアミノ酸配列であり、クローン#11に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#11_WT))は配列番号8に示されるアミノ酸配列であり、クローン#4に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#4_WT))は配列番号10に示されるアミノ酸配列であり、クローン#2に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#2_WT))は配列番号12に示されるアミノ酸配列であり、クローン#7に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#7_WT))は配列番号14に示されるアミノ酸配列であり、クローン#13に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#13_WT))は配列番号16に示されるアミノ酸配列であり、クローン#14に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(#14_WT))は配列番号18に示されるアミノ酸配列であり、クローン22F6に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(22F6_WT))は配列番号20に示されるアミノ酸配列であり、クローン23D4に係るヒト型抗体軽鎖(ヒト型抗体軽鎖(23D4_WT))は配列番号22に示されるアミノ酸配列であった。
【実施例】
【0061】
なお、本実施例で使用した野生型のヒト型抗体軽鎖は、図1に示す各アミノ酸配列のN末端にメチオニンが、C末端にプラスミドベクター由来のLEHHHHHH(配列番号23)が付加されたポリペプチドであった。
【実施例】
【0062】
(6.単量体のヒト型抗体軽鎖の作製)
前記2.及び5.で取得したクローンのヒト抗体κ型軽鎖は、C末端にあるシステインによりジスルフィド(S-S)結合が形成されるため、二量体を形成している。そこで、S-S結合に関与するシステイン(図1のアミノ酸配列のC末端のシステイン)をアラニンに置換する変異を導入して、単量体のヒト型抗体酵素のみが形成されるように、cDNAを設計した。C末端にプラスミドベクター由来のLEHHHHHHを付加したヒト型抗体軽鎖(#1_WT)に対するこの設計の詳細を図2に示す。図2の(a)に示すように、全長のヒト型抗体酵素の遺伝子における220番目のシステインをコードするTGTを、GCTに置換した。これによって、図2の(b)に示すように、元のアミノ酸配列では220番目がシステインであるために二量体が形成されるが、置換後のアミノ酸では220番目がアラニンであるために、S-S結合が形成されず、単量体となる。
【実施例】
【0063】
具体的には、野生型の全長のヒト型抗体酵素の遺伝子における上記システインをコードするTGTを、ALEHHHHHH(配列番号25)(+終止コドン)をコードするGCTCTCGAGCACCACCACCACCACCACTGA(配列番号26)に置換した。つまり、本実施例で使用した単量体のヒト型抗体軽鎖は、図1に示す各アミノ酸配列のN末端にメチオニンが付加されており、かつC末端のシステインに代えてALEHHHHHHが付加されたポリペプチドであった。なお、こうして得られたS-S結合に寄与するシステインをアラニンに置換した変異体のうち、ヒト型抗体軽鎖(#1_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#1_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#8_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#8_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#9_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#9_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#11_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#11_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#4_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#4_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#2_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#2_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#7_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#7_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#13_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#13_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(#14_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(#14_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(22F6_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(22F6_C220A)、ヒト型抗体軽鎖(23D4_WT)の変異体はヒト型抗体軽鎖(23D4_C220A)とそれぞれ称する。
【実施例】
【0064】
(7.ヒト型抗体軽鎖の精製)
各ヒト型抗体軽鎖を以下の様に一次精製および二次精製した。図3の(a)は、ヒト型抗体軽鎖(#1_WT)及びヒト型抗体軽鎖(#1_C220A)の一次精製におけるNi-NTAカラムクロマトグラムおよびSDS-PAGE分析の結果を示す図である。図3の(b)は、二次精製における陽イオン交換クロマトグラムおよびSDS-PAGE分析の結果を示す図である。
図3の(a)左段に示すように、サンプルのアプライ後に素通り画分が流れ切るまで、緩衝液A(25mMのTris-HCl(pH8.0)、0.25MのNaCl、40mMのイミダゾール、0.005%のTween20)を流した。そして、左段のグラフにおける破線に示されるように、イミダゾールの濃度を40mMから300mMまで漸次的に上昇させて、ゲルと結合した成分を溶出させた。カラムとしてNi-NTAアガロースカラム(直径1cm、2ml)を用い、精製を通して流速を0.1mL/分に維持した。図3の(a)の右段に示すように、目的とする約31kDaのバンドが、フラクション番号30~37に検出された。このサンプルを1つにまとめて、次の二次精製を行った。
【実施例】
【0065】
図3の(b)の左段に示すように、サンプルのアプライ後に素通り画分が流れ切るまで、緩衝液A(50mMの酢酸ナトリウム(pH5.4)、0.2MのNaCl、0.005%のTween20)を流した。そして、左段のグラフにおける破線に示されるように、NaClの濃度を0.2Mから0.4Mまで漸次的に上昇させて、ゲルと結合した成分を溶出させた。カラムとしてSP5PW(TOSHO)を用い、精製を通して流速を0.1ml/分に維持した。精製前のサンプル、グラフ中の破線に囲まれた「a」の領域(フラクション番号10~15)、およびグラフ中の破線に囲まれた「c」の領域(フラクション番号25~30)に含まれる成分について、SDS-PAGEによって分析した。図3の(b)の右段に示すように、還元サンプルにおいて目的とする約31kDaのバンドが、aおよびcにおいて検出された。また、非還元サンプルにおいて約31kDaのバンドがaのみにおいて検出され、約51kDaのバンドがcのみにおいて検出された。上述のように、抗体軽鎖の単量体は約31kDaであり、二量体は約51kDaである。したがって、サンプルaは抗体軽鎖の単量体の画分であり、サンプルcは抗体軽鎖の二量体の画分である。
【実施例】
【0066】
その他のクローンにおいても、クローン(#1)と同様に、野生型のヒト型抗体軽鎖の発現産物中には二量体と単量体が含まれており、Ni-NTAカラムクロマトグラムおよび陽イオン交換クロマトグラムによる2段階精製によって二量体が精製され、S-S結合に寄与するシステインをアラニンに変異させた変異体の発現産物中には単量体が含まれており、同様の2段階精製によって単量体が精製された。
【実施例】
【0067】
(8.がん細胞に対する細胞障害性)
各種ヒト抗体κ型軽鎖のがん細胞に対する細胞障害性について試験した。がん細胞は、ATCCより購入したA549(ヒト肺胞上皮がん細胞株)を用い、10%FCS(ウシ胎児血清)含有F-12K培地を用いる通常の方法で培養した。
【実施例】
【0068】
まず、凍結されたA549細胞を融解して回復させた後、5×10細胞/ウェルとなるように96ウェルプレートに100μLずつ播種した。37℃で24時間培養した後、当該96ウェルプレートに添加されている培地をデカンテーションで除去した後、約1mg/mLに調製した各ヒト抗体κ型軽鎖を、各ウェルに100μLずつ添加した。ヒト抗体κ型軽鎖を添加してから24時間後、及び48時間後(細胞を播種してから48時間後、72時間後)に、各ウェルにWST-1試薬(Roche社製)を10μLずつ添加し、1、1.5、及び2時間後に、生成されたホルマザン色素の吸光度(Abs450nm)を測定した。得られた吸光度の結果に基づき、ヒト抗体κ型軽鎖を添加しなかったウェル(N.C.)の細胞生存率を100%とし、各ウェルの細胞生存率を求め、添加したヒト抗体κ型軽鎖の細胞障害性を評価した。
【実施例】
【0069】
各ヒト抗体κ型軽鎖について、ヒト抗体κ型軽鎖を添加してから24時間後及び48時間後の細胞生存率を、図4、図5、表1及び表2に示す。生殖細胞系列遺伝子型がA18b又はO11/o1であったクローンの結果を図4及び表1に、生殖細胞系列遺伝子型がA3/A19であったクローンの結果を図5及び表2に示した。また、表1および2には、ウェル内におけるヒト抗体κ型軽鎖の濃度も示した。
【実施例】
【0070】
【表1】
JP0005798199B2_000002t.gif
【実施例】
【0071】
【表2】
JP0005798199B2_000003t.gif
【実施例】
【0072】
この結果、クローン(#1_WT)、クローン(#4_WT)、クローン(#7_WT)、及びクローン(22F6_C220A)の4つのクローンが、A549細胞に40~50%程度の細胞傷害性を示した。その他のクローンについては、A549細胞に対してがん細胞障害性は殆ど認められなかった。
当該4クローンのうち、クローン(#4_WT)及びクローン(#7_WT)は特に強い細胞傷害性を示した。中でもクローン(#7_WT)は、ヒト抗体κ型軽鎖添加前(0時間)とヒト抗体κ型軽鎖添加後(48時間)において、ウェル内の細胞数がほとんど変化しなかったことから、クローン(#7_WT)、すなわちヒト抗体κ型軽鎖(#7)は、A549細胞の増殖を抑制する効果があることが示唆された。
また、今回用いたクローンの結果から、二量体(WT)のほうが単量体よりも細胞傷害性が強い傾向が観察されたことから、二量体に強い細胞傷害性が存在することも示唆された。
また、他のクローンを含めたものについても、各種細胞株に対し、上記と同様にヒト抗体κ型軽鎖の細胞障害性を評価した。その結果を表3に示す。
【実施例】
【0073】
【表3】
JP0005798199B2_000004t.gif
【実施例】
【0074】
この結果、クローン(#1_H31Y C220A)が、A549細胞、MOLT-4細胞、ES-2細胞に対し高い細胞傷害性を示した。また、クローン(#7 RLI)、クローン(C51)が、MOLT-4細胞に対し高い細胞傷害性を示した。さらに、クローン(#4)が、ES-2細胞に対し高い細胞傷害性を示した。
なお、クローン(#1_H31Y C220A)のアミノ酸配列は配列番号38に、クローン(#7 VL(I))のアミノ酸配列は配列番号39に、クローン(#7 RLI)のアミノ酸配列は配列番号40に、クローン(C51)のアミノ酸配列は配列番号41に、クローン(C87)のアミノ酸配列は配列番号42に、クローン(#7 EI)のアミノ酸配列は配列番号43に、クローン(#7 TR)のアミノ酸配列は配列番号44に、クローン(#7 VL)のアミノ酸配列は配列番号45に、クローン(S13)のアミノ酸配列は配列番号46に、クローン(S21)のアミノ酸配列は配列番号47に、クローン(S38)のアミノ酸配列は配列番号48に、クローン(#10)のアミノ酸配列は配列番号49に、クローン(C67)のアミノ酸配列は配列番号50に、クローン(C82)のアミノ酸配列は配列番号51に、クローン(C88)のアミノ酸配列は配列番号52に、クローン(#7 G)のアミノ酸配列は配列番号53に、それぞれ記載されている。
また、図7、図8に示す通り、本願のヒト抗体κ型軽鎖を含有する抗がん剤は、動物実験において毒性を全く示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、新規抗がん剤の開発、がん治療の分野において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6A】
4
【図6B】
5
【図6C】
6
【図6D】
7
【図6E】
8
【図6F】
9
【図6G】
10
【図6H】
11
【図6I】
12
【図7】
13
【図3】
14
【図8】
15