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明細書 :固体の空準位測定方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年7月30日(2015.7.30)
発明の名称または考案の名称 固体の空準位測定方法及び装置
国際特許分類 G01N  21/62        (2006.01)
FI G01N 21/62 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 20
出願番号 特願2014-502245 (P2014-502245)
国際出願番号 PCT/JP2013/054952
国際公開番号 WO2013/129390
国際出願日 平成25年2月26日(2013.2.26)
国際公開日 平成25年9月6日(2013.9.6)
優先権出願番号 2012042213
優先日 平成24年2月28日(2012.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】吉田 弘幸
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
Fターム 2G043AA01
2G043BA14
2G043CA05
2G043EA06
2G043HA01
2G043HA05
2G043JA02
2G043LA02
2G043LA03
要約 電子線の運動エネルギー(加速エネルギー)を0-5 eVの範囲で順次変化させつつ、その間にそれを照射された有機半導体等の固体試料から放出される180-700 nmの近紫外光・可視光の強度を測定することによりスペクトルを得る。このスペクトルから山を検出し、そのエネルギーを該試料の空準位エネルギーとする。特に、最初の山の立ち上がり箇所のエネルギーがその試料の電子親和エネルギー(電子親和力)を表す。試料に照射する電子線のエネルギーが5 eV以下であるため、有機半導体試料であってもほとんど損傷がない。
特許請求の範囲 【請求項1】
a) 電子線を生成する工程と、
b) 生成された電子線の運動エネルギーを0-5 eVの範囲内で順次変化させ、固体試料に照射する工程と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち、180-700 nmの範囲内の所定波長の光の強度を測定する工程と、
d) 電子線の運動エネルギーに対する光強度により生成されるスペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する工程
を備えることを特徴とする固体の空準位測定方法。
【請求項2】
前記光強度測定工程において、180-700 nmの範囲内に透過域を有するバンドパスフィルターを用いることを特徴とする請求項1に記載の固体の空準位測定方法。
【請求項3】
前記光強度測定工程において、180-700 nmの範囲を波長走査する分光器と出口スリットを用いることを特徴とする請求項1に記載の固体の空準位測定方法。
【請求項4】
a) 電子線を生成する工程と、
b) 生成された電子線を0-5 eVの範囲内の所定のエネルギーで加速し、固体試料に照射する工程と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち180-700 nmの範囲内の光を分光し、各波長の強度を測定してスペクトルを生成する工程と、
d) 前記スペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する工程
を備えることを特徴とする固体の空準位測定方法。
【請求項5】
前記スペクトル生成工程において、分光器と出口スリットと光検出器を用い、分光器の位置(角度)を変化させることにより出口スリットを通過する光の波長を変化させてスペクトルを生成することを特徴とする請求項4に記載の固体の空準位測定方法。
【請求項6】
前記スペクトル生成工程において、試料からの光を分光器で分光し、分光された光をリニアセンサーで波長毎に測定することを特徴とする請求項4に記載の固体の空準位測定方法。
【請求項7】
a) 電子線生成手段と、
b) 電子線生成手段で生成された電子線の運動エネルギーを0-5 eVの範囲内で順次変化させ、固体試料に照射する電子線駆動手段と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち、180-700 nmの範囲内の所定波長の光の強度を測定する光強度測定手段と、
d) 電子線の運動エネルギーに対する光強度により生成されるスペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する空準位決定手段
を備えることを特徴とする固体の空準位測定装置。
【請求項8】
前記光強度測定手段が、180-700 nmの範囲内に透過域を有するバンドパスフィルターと、それを透過する光の強度を測定する光検出器を有することを特徴とする請求項7に記載の固体の空準位測定装置。
【請求項9】
前記光強度測定手段が、180-700 nmの範囲を波長走査する分光器と出口スリットを有することを特徴とする請求項7に記載の固体の空準位測定装置。
【請求項10】
a) 電子線生成手段と、
b) 電子線生成手段で生成された電子線を0-5 eVの範囲内の所定のエネルギーで加速し、固体試料に照射する電子線駆動手段と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち180-700 nmの範囲内の光を分光し、各波長の強度を測定してスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
d) 前記スペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する空準位決定手段
を備えることを特徴とする固体の空準位測定装置。
【請求項11】
前記スペクトル生成手段が、分光器と、その分光器の角度位置を変化させる分光器駆動機構と、出口スリットと、光検出器を備えることを特徴とする請求項10に記載の固体の空準位測定装置。
【請求項12】
前記スペクトル生成手段が、分光器とリニアセンサーを備えることを特徴とする請求項10に記載の固体の空準位測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や金属等の固体、特に有機半導体の空準位の値を測定するのに有効な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体デバイスは、安価な薄膜作製が可能であり、また機械的柔軟性を有するなどのユニークな特徴をもち、且つ、有機合成技術により容易に材料そのものの改良が可能であるなど、次世代半導体デバイスとして注目されている。すでに有機発光ダイオード(OLED)を使用したディスプレーが実用化され、フレキシブルディスプレーの駆動デバイスとして有機薄膜トランジスター(OFET)や有機薄膜太陽電池が実用化に向けて研究されている。
【0003】
このような有機半導体では、正の電荷をもつホールと負の電荷をもつ電子が半導体特性を担っている。これまで、ホール伝導をつかさどる価電子準位については光電子分光法や光収量分光法により正確に調べられてきた。一方、電子伝導準位である空準位については、正確に求める方法がないことから、有機半導体中の電子の挙動については、あまり明らかでなかった。そのようなことから、有機半導体の空準位を精密に測定する手段が必要とされている。
【0004】
有機半導体の空準位を簡便に測定する方法として、(1) 溶液での電気化学的手法(cyclic voltammetry)により求めた還元電位から、空準位の下端エネルギーである電子親和力を見積もる方法、(2) 光電子分光法によって決定したイオン化エネルギー(HOMO準位上端エネルギーに相当)に光吸収スペクトルから見積もったバンドギャップを足して空準位の下端を見積もるという方法、などが用いられている。
【0005】
しかし、(1)の電気化学的方法は、溶液中の分子の還元電位が固体での電子親和力と大きく異なることが多く、測定された値は正確なものとは言えない。また、(2)の方法は、光吸収スペクトルから求めたバンドギャップは、エキシトンの影響によりしばしば実際よりも小さくなること、分子系のような電子相関の大きな系では注入・放出した電荷と残る電子との相関が大きく正しい空準位のエネルギーが求まらない、という問題点がある。
【0006】
一方、空準位を測定する他の方法として、光電子分光法の時間反転過程である逆光電子分光法も知られている。逆光電子分光法は、エネルギーの揃った電子線を試料に照射し、放出される光を検出することで、空準位の状態密度を調べることができる。特に、このスペクトルから、伝導準位の指標である固体の電子親和力を求めることができる。この方法は、原理的には最も信頼できる値を与える方法であると考えられている(非特許文献1~非特許文献4)。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Denninger, G., V. Dose, et al., "VUV ISOCHROMAT SPECTROMETER FOR SURFACE-ANALYSIS." Appl. Phys. 18, 375-380 (1979)
【非特許文献2】Pendry, J. B., "NEW PROBE FOR UNOCCUPIED BANDS AT SURFACES", Phys. Rev. Lett. 45, 1356-1358 (1980)
【非特許文献3】Hill, IG; Kahn, A ; Soos, ZG ; Pascal, RA, "Charge-separation energy in films of pi-conjugated organic molecules".Chem. Phys. Lett. 327, 181-188 (2000)
【非特許文献4】Yoshida, H.; Tsutsumi, K.; Sato, N., "Unoccupied electronic states of 3d-transition metal phthalocyanines (MPc: M = Mn, Fe, Co, Ni, Cu and Zn) studied by inverse photoemission spectroscopy", J. Elect. Spectrosc. Relat. Phenom. 121, 83-91 (2001)
【非特許文献5】Boudaiffa, Cloutier, Hunting, Huels, Sanche, "Resonant Formation of DNA Strand Breaks by Low-Energy (3 to 20 eV) Electrons", Science 287, 1658 (2000)
【非特許文献6】Erdman, P. W. and E. C. Zipf (1982). "LOW-VOLTAGE, HIGH-CURRENT ELECTRON-GUN." Review of Scientific Instruments 53(2): 225-227.
【非特許文献7】Stoffel, N. G. and P. D. Johnson (1985). "A LOW-ENERGY HIGH-BRIGHTNESS ELECTRON-GUN FOR INVERSE PHOTOEMISSION." Nuclear Instruments & Methods in Physics Research Section a-Accelerators Spectrometers Detectors and Associated Equipment 234(2): 230-234
【非特許文献8】M. Adelt, R. Koerber, W. Drachsel, and H.-J. Freund, "A low stray light, high current, low energy electron source" Rev. Sci. Instrum. 70, 3886-3888 (1999)
【非特許文献9】J. E. Butler, "Efficient baffles for laser light scattering experiments", Applied Optics 21, 3617-3618 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逆光電子分光法では、電子線を試料に照射する。この際に、信号強度が弱いため、多量の電子線照射が必要であるが、従来の逆光電子分光法では試料に約10 eV程度の強い電子線を照射していたため、有機試料を測定する場合には、試料が測定により損傷を受けるという問題があった。
【0009】
また、できる限り高い効率で信号を観測するために、バンドパス検出器により光子を検出している。このバンドパス検出器は、フッ化カルシウムやフッ化ストロンチウムなどが10 eV以上のエネルギーの光を透過しないことを利用し、一方で9 eV以上に感度を持つ検出器として、ヨウ素やアセトンを検出ガスに使うガイガーミュラー管やNaClなどで増感した電子増倍管を組み合わせることで、約10 eVのバンドパス特性を得ている。このバンドパス検出器の特性は、フィルターの光透過特性や検出ガスのイオン化特性に基づくものであるため、エネルギー分解能が0.4-0.8 eVに制限されており、しかも光応答特性がエネルギーに対して著しく非対称である。このため、測定したスペクトルは分解能が低く、有機半導体デバイス開発など他の分野で必要とする精度での空準位測定が困難であった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、試料を損傷させることなく、かつ、高い分解能で半導体の他、金属や不導体を含む固体の空準位を測定する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る固体の空準位測定方法の第1の態様は、
a) 電子線を生成する工程と、
b) 生成された電子線の運動エネルギーを0-5 eVの範囲内で順次変化させ、固体試料に照射する工程と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち、180-700 nmの範囲内の所定波長の光の強度を測定する工程と、
d) 電子線の運動エネルギーに対する光強度により生成されるスペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する工程
を備えることを特徴とする。
【0012】
この第1の態様の方法(これをBISモードと呼ぶ)では、電子線の運動エネルギー(加速エネルギー)を順次変化させつつ、その間にそれを照射された固体試料から放出される光(ただし、一部、近紫外光を含む)の強度を測定することにより、横軸を電子線エネルギー、縦軸を光強度とするスペクトルが得られる。このスペクトルには山が現れるが、これが固体試料の空準位の状態密度に対応する。上記の空準位エネルギー決定工程ではこのスペクトルから山を検出し、そのエネルギーを空準位エネルギーとする。特に、最初の山の立ち上がり箇所のエネルギーと真空準位のエネルギー差がその固体試料の電子親和エネルギー(電子親和力)を表す。
【0013】
なお、固体の真空準位は従来より知られている方法で測定することができる。例えば、図13(a)に示すように、電子線の立ち上がりエネルギーから決定することができる。試料Sにピコアンメーターなど高感度の電流計Aを接続し、基板に流れる電子線の量を加速エネルギーの関数として測定する。Ag試料について、この試料電流を電子加速エネルギーに対してプロットしたのが図13(b)及び(c)グラフである。これらのグラフに現れているように、試料電流はあるエネルギーで立ち上がるが、その変曲点(=一次微分の極大値=二次微分が0になる点)を電子加速エネルギーの原点とする。これに、測定に用いるバンドパスフィルターの中心エネルギーを加えたのが「真空準位」となる。
【0014】
その他に、光電子分光法により決定する方法もある。これは、同じ試料について、光電子分光を同時に測定し、スペクトルの二次電子のカットオフエネルギーを求め、それに励起光エネルギーを加えて真空準位とするものである。
【0015】
測定する光の波長を180-700 nmとしたのは、図14に示すように、多くの有機半導体の電子親和力がこの範囲内に入るためである。なお、図14ではPTCDA, F16-CuPc, C60, PCBM, CuPc, ZnPc, pentacene, P3HT等、有機半導体のみを示したが、無機半導体や金属等についても概ね、この範囲内の波長の光を検出することにより、電子親和力を決定することができる。
【0016】
前記光強度測定工程においては、180-700 nmの範囲内に透過域を有するバンドパスフィルターを用い、それを透過する光の強度を測定するという構成を採ることができる。
【0017】
また、バンドパスフィルターに代え、前記波長域を選択する分光器と出口スリットを用いることもできる。
【0018】
上記課題を解決するために成された本発明に係る固体の空準位測定方法の第2の態様は、
a) 電子線を生成する工程と、
b) 生成された電子線を0-5 eVの範囲内の所定のエネルギーで加速し、固体試料に照射する工程と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち180-700 nmの範囲内の光を分光し、各波長の強度を測定してスペクトルを生成する工程と、
d) 前記スペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する工程
を備えることを特徴とする。
【0019】
第2の態様の方法(これをTPEモードと呼ぶ)では、スペクトル生成工程で得られる、測定光の波数を横軸、光強度を縦軸とするスペクトルに山が現れる。空準位エネルギー決定工程ではこのスペクトルから山を検出し、そのエネルギーを空準位エネルギーとする。特に、最初の山の立ち上がり箇所のエネルギーと真空準位のエネルギー差がその固体試料の電子親和エネルギー(電子親和力)を表す。
【0020】
前記スペクトル生成工程においては、分光器と出口スリットと光検出器を用い、分光器の位置(角度)を変化させることにより出口スリットを通過する光の波長を変化させてスペクトルを生成するという方法を採ることができる。
【0021】
また、分光器の位置は変化させることなく、分光された光を一挙にCCD等のリニアセンサーで波長毎に測定するという方法も採用することができる。
【0022】
上記課題を解決するために成された本発明に係る固体の空準位測定装置の第1の態様は、
a) 電子線生成手段と、
b) 電子線生成手段で生成された電子線の運動エネルギーを0-5 eVの範囲内で順次変化させ、固体試料に照射する電子線加速手段と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち、180-700 nmの範囲内の所定波長の光の強度を測定する光強度測定手段と、
d) 電子線の運動エネルギーに対する光強度により生成されるスペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する空準位決定手段
を備えることを特徴とする。
【0023】
前記光強度測定手段は、180-700 nmの範囲内に透過域を有するバンドパスフィルターと、それを透過する光の強度を測定する光検出器で構成することができる。
【0024】
また、バンドパスフィルターに代え、分光器と出口スリットを用いることもできる。
【0025】
上記課題を解決するために成された本発明に係る固体の空準位測定装置の第2の態様は、
a) 電子線生成手段と、
b) 電子線生成手段で生成された電子線を0-5 eVの範囲内の所定のエネルギーで加速し、固体試料に照射する電子線加速手段と、
c) 前記固体試料から放出される電磁波のうち180-700 nmの範囲内の光を分光し、各波長の強度を測定してスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
d) 前記スペクトルより、前記固体試料の空準位エネルギーを決定する空準位決定手段
を備えることを特徴とする。
【0026】
前記スペクトル生成手段には、分光器と、その分光器の位置(角度)を変化させる分光器駆動機構と、出口スリットと光検出器を備えた分光光度計を用いることができる。
【0027】
また、分光器の位置を変化させることなく、分光された光を一挙にCCD等のリニアセンサーで波長毎に測定するリニアセンサー型分光光度計を用いることもできる。
【発明の効果】
【0028】
従来の方法では試料に10 eV近いエネルギーの電子線を照射していたため、測定している間に測定対象である試料が変質或いは損傷し、正しい値が得られないという問題があったが、本発明に係る方法では、測定対象固体試料には5 eV以下の電子線しか照射しないため、固体試料、特に有機半導体試料の変質・損傷を抑制することができる(非特許文献5参照)。さらに、試料から放出される光が、従来の方法では真空紫外光(10-200 nm)であったのに対し、本発明に係る方法では電子線エネルギーを下げることで近紫外光又は可視光(180-700 nm)を検出することになり、合成石英などの光学材料(例えば、高分解能の光学フィルター)や高効率のフォトマルを使うことが可能になった。また、検出光が酸素(O2)で吸収されることがほとんどないため、光検出を大気中で行うことができ、装置の構成が容易となった。これらにより、装置分解能が従来の2-3倍に向上した。
【0029】
なお、本発明に係る方法は、原理的には不導体試料についても適用可能である。ただ、不導体試料では、電子銃から入射される電子による電荷蓄積(チャージアップ)を防止し、電流として流出させるため、できるだけ試料の厚さを薄くする等の試料設定における工夫が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例である固体空準位測定装置の概略構成図。
【図2】実施例の測定装置で用いた光検出器の、各種バンドパスフィルターを用いた場合の感度特性を示すグラフ。
【図3】(a)は従来のフッ化カルシウムCaF2及びフッ化ストロンチウムSrF2を使用したバンドパス検出器の分解能を表すグラフ、(b)は本実施例で使用するバンドパスフィルターの分解能を示すグラフ。
【図4】実施例で用いた光検出器のエネルギー分解能を測定するため、0.20 eVの分解能を有するバンドパスフィルターを使用し、銀Agのフェルミエッジ4.15 eV近傍における強度を測定した結果(上)と、その一次微分(下)のグラフ。
【図5】実施例の装置を用いて銅フタロシアニンCuPcの空準位を測定した結果を示すグラフ。
【図6】銅フタロシアニンCuPc試料の測定による損傷を表すグラフであり、(a)は本発明に係る方法(BISモード、入射電子エネルギー0-4 eV、電流1.4 μA)で測定を行った場合、(b)は従来の方法(TPEモード、入射電子エネルギー10 eV、電流1.4 μA)で測定を行った場合のグラフ。
【図7】本発明に係る方法を実施するための各種装置構成の概略構成図であり、(a)はバンドパスフィルターとフォトマルを用いた例、(b)は分光器とフォトマルを用いた例、(c)は分光器とリニアセンサーを用いた例である。
【図8】本発明に係る方法を実施するための各種実施形態のフローチャートであり、(a)はBISモード、(b)はTPEモードであって波長を走査する方法、(c)はTPEモードであってリニアセンサーを使用する方法を示す。
【図9】(a)は、銅フタロシアニンCuPcを図7(b)の装置で測定したスペクトル、(b)は、図7(c)の装置で測定したスペクトル。
【図10】電子銃と試料の間に湾曲電極を設けた構成の概略構成図。
【図11】電子銃と試料の間にバッフルを設けた構成の概略構成図であり、(a)は孔開き平板バッフル、(b)はスキマー型バッフル。
【図12】試料からの光を捕集するための各種装置の概略構成図で、(a)は反射法、(b)は反射凹面集光法、(c)は直交凹面集光法を示すもの。
【図13】固体の真空準位を測定する装置の概略構成図(a)、及びAgを試料として測定した場合の結果を示すグラフ(b)、(c)。
【図14】各種有機半導体の電子親和力を示すエネルギー図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の第1の態様に係る方法及び装置(BISモード)で、典型的な有機半導体の一種である銅フタロシアニン(CuPc)の空準位を測定した。

【0032】
[測定装置及び方法]
測定装置の概略を図1に示す。熱カソード11、電子レンズ12(以上2つが電子銃13を構成する)及び試料14は真空槽15内に設置し、真空槽15は超高真空(10-6Pa以下の圧力)に保持する。電子銃13によってエネルギーの揃った電子を試料14に照射し、試料14から放出された電磁波を真空槽15に設けた窓16から外に取り出し、凸レンズ17により光検出器18に集光する。本発明に係る装置では、紫外又は近紫外程度の光を測定するため、真空槽15の窓16やレンズ17は石英製のものを使用することができる。

【0033】
光検出器18はバンドパスフィルター19と電子増倍管(フォトマル)20から成り、試料14から放出された電磁波中、特定の波長の光のみがバンドパスフィルター19を通過し、フォトマル20により高感度で検出される。バンドパスフィルター19は、透過中心波長が180-700 nmの市販のもの(例えば、米国Semrock社製、朝日分光株式会社製等)を使用することができる。現在では、これらの波長域のものでは半値幅10-20 nm程度のものを入手することができる。

【0034】
電子銃13で用いられる熱カソード11には様々な金属や酸化物等を用いることができるが、中でも酸化バリウムBaOが望ましい。理由としては、(1)動作温度が他のカソードに比べて低い(絶対温度で約1150K)ため、エネルギー分解能が高いこと(分解能の半値幅が0.25 eVぐらいになる)、(2)取り出せる電流密度が高いこと、(3)入手しやすいこと(以前はテレビのブラウン管用の電子銃に使われていたので、安価で安定した性能の製品が入手できた)などを挙げることができる。本装置では、アメリカのKimball Physics社の製品を使用した。

【0035】
本発明に係る装置のような低速電子源としては、主に二つのタイプが使われる。
(1) エルドマン・ジップ(Erdman-Zipf)型:非特許文献6参照。
(2) シュトッフェル・ジョンソン(Stoffel-Johnson)型:非特許文献7参照。
本装置では、いずれの型のものも使用できることが確かめられた。
電子銃13は、その電子加速電圧が制御部21により制御される。また制御部21は、電子銃13から放出する電子の量(電流)及び試料14への照射面積を制御することにより、試料14の照射面における電流密度も制御する。電流密度は10-3~10-8 A/cm2程度が適切である。電流密度がこれよりも大きい場合、電子どうしのクーロン反発で広がってしまい、これよりも小さい場合には試料からの光の検出が難しくなる。

【0036】
制御部21は、電子銃の電子加速電圧を徐々に変化させるとともに、その間に光検出器18で検出される電磁波の強度(光子数)を測定し、それを照射電子の量(電流量)により規格化することでスペクトル(逆光電子スペクトル)を作成する。

【0037】
実際には、5 eV以下の低速電子線を発生させ、効率よく収束するために、試料14には負のバイアス電圧を印加することが望ましい(図13(a))。たとえば、15 eVの電子線を照射し、試料14に-10 Vを印加すると、5 eVの電子を照射したことになる。このとき、試料14に照射する電子の加速エネルギー(運動エネルギー)を掃引するには、以下の二つが可能である。
(1) 電子銃から出る電子の運動エネルギー(加速エネルギー)を掃引する方法
(2) 電子銃からの電子の運動エネルギーを一定にして、試料基板に印加したバイアス電圧を掃引する方法
本装置ではいずれも実施可能であることを確認した。

【0038】
[光検出器の特性]
図2に、光検出器18の感度特性を示す。これは、バンドパスフィルター19を、種々の透過特性を有するものに取り替えた場合の光検出器18の感度特性を示すものであり、ここに記載したバンドパスフィルター(A-E)はいずれもSemrock社製のものである。図3(a)に示すように、従来使われてきたバンドパス検出器は、中心波長が約10 eVであり、分解能は、フッ化カルシウムCaF2を使うとおおむね0.8 eVである。フッ化ストロンチウムSrF2では0.4 eVまで向上するが、これに伴い検出感度は大きく低下する。これらの感度曲線は、物質固有のものであり、変えることはできない。

【0039】
これに対して、本発明で使用する光検出器は前記のとおり、180 nmから700 nmの中心波長のもので、分解能は0.01-0.5 eVを有するバンドパスフィルターを自由に選ぶことで、感度特性を調節することができる(図3(b))。

【0040】
本測定装置の光検出器18によるエネルギー分解能を、銀Agを試料として測定した。図4は、0.20 eVの分解能を有するバンドパスフィルターを使用した場合の、銀Agのフェルミエッジ4.15 eV近傍における強度を上に、スペクトルの一次微分を下に示したものである。この場合、光検出器18全体としては0.33 eVのエネルギー分解能が得られることが分かった。同様にバンドパスフィルター19として分解能0.29 eVを有するものを使用した場合には0.37 eVが得られており、分解能0.11 eVのバンドパスフィルター19を用いた場合には装置としての分解能は0.27 eVとなると予測される。

【0041】
なお、ここでは感度と分解能のバランスをとるために上記のようなフィルターを選択したが、より高い分解能を有するバンドパスフィルターも得ることもできる。これらのフィルターでは透過率が65-80%と高く、しかも透過波長領域でほぼ一定であるため、高い分解能と感度を両立することができる。

【0042】
[有機半導体の測定結果]
上記構成の装置を用いて銅フタロシアニンCuPcの空準位を測定した結果を図5に示す。上段は中心波長5.0 eV(≒250 nm)のバンドパスフィルターを使用したとき、中段は中心波長4.5 eV(≒280 nm)のバンドパスフィルターを使用したとき、下段は3.7 eV(≒335 nm)のバンドパスフィルターを使用したときの測定結果である。バンドパスフィルターの中心波長を変えると、これに応じてスペクトルがシフトすることから、本測定により銅フタロシアニンCuPcの空準位が正しく測定されていることがわかる。
従来の方法で測定したスペクトルと比較すると、分解能が高いためスペクトルの立ち上がり(A点)がはっきりとわかる。ここから、銅フタロシアニンCuPcの電子親和力を3.1±0.1 eVと決定することができた。

【0043】
このスペクトル全体を測定するには、5 eV以下の電子線で測定が可能である。電子親和力を決定するだけであれば、スペクトルの立ち上がりのエネルギーが分かればよいので、1 eV以下の電子線でも測定が可能である。このように低速電子線により測定することで、電子線の照射による試料の損傷を大きく防ぐことができる。

【0044】
[試料の損傷]
測定による試料の損傷を調べるための実験を行った。図6(a)は本発明に係る方法(BISモード)で銅フタロシアニンCuPcの空準位測定を行った場合の、電子線照射時間(0 h, 6 h, 14 h)と検出スペクトルの関係を表したグラフである。図6(b)は従来の方法と同じ電子線照射条件(電子エネルギー10 eV)で電子線照射時間を0 min, 10 min, 30 min, 60 minとした場合の検出スペクトルを表したグラフである。電子電流は共に1.4 μAとした。

【0045】
図6(a)に示すように、本発明に係る測定方法では、14時間以上にわたって1.4 μAの電子線を照射して測定しても、スペクトルの形状に大きな変化は観測されなかった。一方、従来の測定では、図6(b)に示すように、わずか10分でも電子線照射によるダメージが観測された。通常の測定時間である1時間後には、ピークの形状が崩れ、スペクトルが低エネルギー側にシフトするという明瞭な変化がみられ、正確な電子親和力を求めることができない。銅フタロシアニンCuPcは電子線照射に対して強いことが知られているが、このような銅フタロシアニンCuPcでさえ、従来法では電子線照射による損傷により信頼できる測定が困難であることわかる。これに対して、低速電子線を用いた本発明方式では、銅フタロシアニンCuPcに対する電子線による損傷は無視できる程度である。

【0046】
[その他の装置構成例]
上記は、BISモードで、光検出器としてバンドパスフィルターBPFとフォトマルPMを使用した場合の例であるが、本発明に係る方法はそのような構成に限られることなく、様々な装置構成で実施することができる。例えば図7(b)に示すように、分光器SPとフォトマルPMで光検出器を構成することもできる。なお、比較のために図1の構成を同様の形態で図7(a)に示した。図7(b)の構成では、BISモードで使用する場合、分光器SPの分光素子SEの位置(角度)は、所定の波長の光が出口スリットを通過してフォトマルPMに入射するように固定しておき、電子銃EGから試料Sに照射する電子のエネルギーを変化させる。この方法(及び図7(a)の装置構成で行われる前記測定方法)のフローチャートを図8(a)に示す。なお、図7(b)においてLSは試料Sから放出された光を分光器SPの入口スリットに集光するレンズであるが、これは光ファイバーを用いることもできる。図7(a)及び後述の図7(c)においても同様である。

【0047】
図7(b)の構成はTPEモードでも使用することができ、この場合には、分光器SPの分光素子SEの位置(角度)を変化させることにより、出口スリットを通過してフォトマルPMに入射する光の波長を走査する。この方法のフローチャートを図8(b)に示す。

【0048】
図7(c)は、光検出器を分光器とリニアセンサーLDで構成した例である。リニアセンサーLDとしては、典型的にはCCDを用いることができるが、その他の受光素子を波長分散方向に並べてもよい。この構成は、TPEモードで用いる。この装置構成の場合、図8(c)のフローチャートに示すように、分光した波長はリニアセンサーで一挙に測定する。

【0049】
前述の銅フタロシアニンCuPcの空準位測定を、図7(b)の装置で行った結果のスペクトルを図9(a)に、図7(c)の装置で行った結果のスペクトルを図9(b)に示す。前者はBISモードで、後者は入射電子のエネルギーを1.18 eVとするTPE法で測定した。両スペクトルを比較すると分かるとおり、装置構成、方法に拘わらず、再現性の良い結果が得られている。

【0050】
なお、いずれの装置においても、電子銃からの光が光検出器に入射すると、高感度の測定を行うことができない。そのようなノイズを減らすための工夫は種々考えられるが、例えば図10に示すように、電子銃13と試料14の間に、電子の軌道を曲げる湾曲電極22を設けるようにしてもよい(非特許文献8参照)。これにより、電子銃13の熱カソード11(通常、1150 KのBaOが用いられる)の光が光検出器18に入ることはなくなる。この湾曲電極22を用いた場合、更に、これら電極22に印加する電圧を調整することにより、試料14に入射する電子のエネルギーを揃えることができ、エネルギー分解能を高めることができるようになる。

【0051】
もう一つの方法は、電子銃13と試料14の間にバッフルを設けることである。バッフルとしては図11(a)に示すような単純な孔空き板23(図に示すように、複数枚を離して配置することが望ましい。)でも良いが、図11(b)に示すように、電子の進行方向に向けて径が大きくなるスキマー型のもの24を用いてもよい(非特許文献9参照)。

【0052】
試料14から放出される可視光及び近紫外光を光検出器に捕集する方法についても、上記実施例以外に各種用いることができる。図12はそれらのうちいくつかの方法の装置構成を示したものであり、(a)は試料14の電子入射面と同じ面から放出される光を測定する方法(反射法)、(b)は同じく入射面から放出される光を凹面鏡を用いて集光し、検出する方法(反射凹面集光法)、(c)は入射方向とは別の方向に放出される光を凹面鏡で集光し、検出する方法(直交凹面集光法)の装置構成を示す。これらの装置では、不透明な試料(金属、半導体等)も測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の第一の適用分野は、有機半導体デバイスである。特に、有機薄膜太陽電池は安価で大量生産可能な次世代太陽電池として注目されており、現在、国内外の化学メーカーを中心に、太陽電池で使われる有機半導体材料の開発が急ピッチで進められている。また、有機発光素子は、現在広く使われている液晶、LED表示装置に代わる低電力、高輝度表示装置として期待されている。それら有機半導体デバイスの設計・開発に際しては、材料の正確な電子親和力の値が必要とされる。さらに、有機半導体だけでなく、他の有機固体或いは生体関連物質への応用も可能である。
【符号の説明】
【0054】
13…電子銃
11…熱カソード
12…電子レンズ
14…試料
15…真空槽
16…窓
17…レンズ
18…光検出器
19…バンドパスフィルター
20…フォトマル
21…制御部
22…湾曲電極
23…孔開き板型バッフル
24…スキマー型バッフル
EG…電子銃
S…試料
LS…レンズ
BPF…バンドパスフィルター
SP…分光器
SE…分光素子
LD…リニアセンサー
PM…フォトマル
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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