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明細書 :抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年7月30日(2015.7.30)
発明の名称または考案の名称 抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法
国際特許分類 A61K  41/00        (2006.01)
A61K  33/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 41/00
A61K 33/00
A61P 35/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 59
出願番号 特願2014-502035 (P2014-502035)
国際出願番号 PCT/JP2013/001139
国際公開番号 WO2013/128905
国際出願日 平成25年2月26日(2013.2.26)
国際公開日 平成25年9月6日(2013.9.6)
優先権出願番号 2012039645
優先日 平成24年2月27日(2012.2.27)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】堀 勝
【氏名】水野 正明
【氏名】吉川 史隆
【氏名】梶山 広明
【氏名】内海 史
【氏名】中村 香江
【氏名】石川 健治
【氏名】竹田 圭吾
【氏名】田中 宏昌
【氏名】加納 浩之
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】304036008
【氏名又は名称】NUエコ・エンジニアリング株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100087723、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 修
【識別番号】100165962、【弁理士】、【氏名又は名称】一色 昭則
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA11
4C084MA02
4C084MA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA02
4C086HA16
4C086HA19
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA17
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
要約 【課題】 正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を死滅させることのできる抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法を提供することである。
【解決手段】 癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液の製造方法は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する水溶液準備工程と、プラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを水溶液に照射するプラズマ照射工程と、を有する。
【選択図】図16
特許請求の範囲 【請求項1】
癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液の製造方法において、
リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する水溶液準備工程と、
プラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを前記水溶液に照射するプラズマ照射工程と、
を有すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記プラズマ照射工程では、
前記プラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、前記大気圧プラズマを前記水溶液に照射した時間との積であるプラズマ密度時間積を、
1.2×1018sec・cm-3以上とすること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記プラズマ照射工程の後に、
前記大気圧プラズマを照射した前記水溶液に培養成分を添加する培養成分添加工程を有すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記水溶液準備工程では、
前記水溶液として、水に培養成分を添加した培養液を準備し、
前記プラズマ照射工程では、
前記大気圧プラズマを前記培養液に照射すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記プラズマ照射工程では、
前記プラズマ発生領域を前記水溶液に接触させない位置に前記水溶液の液面を配置した状態で前記大気圧プラズマを前記水溶液に照射すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記プラズマ発生装置は、対向して配置されている第1の電極および第2の電極を有するものであり、
前記プラズマ照射工程では、
前記第1の電極および前記第2の電極を前記水溶液の外部であって前記水溶液の液面を挟まない位置に対向して配置し、前記大気圧プラズマを前記水溶液に照射すること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ対向面を有し、
前記対向面のそれぞれには、
微細な凹凸であるホローが形成されていること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液の製造方法において、
前記抗腫瘍水溶液は、
前記癌細胞を選択的に死滅させるものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液の製造方法。
【請求項9】
癌細胞を死滅させる抗腫瘍水溶液において、
リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に溶かした水溶液に大気圧プラズマを照射したものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項10】
請求項9に記載の抗腫瘍水溶液において、
前記大気圧プラズマを照射する際には、
前記大気圧プラズマのプラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、前記大気圧プラズマを前記水溶液に照射した時間との積であるプラズマ密度時間積を、
1.2×1018sec・cm-3以上としたものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の抗腫瘍水溶液において、
前記大気圧プラズマを照射した後の前記水溶液に培養成分を添加したものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項12】
請求項9または請求項10に記載の抗腫瘍水溶液において、
前記水溶液は培養液であり、
前記大気圧プラズマを前記培養液に照射したものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項13】
請求項9から請求項12までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液において、
前記癌細胞を選択的に死滅させるものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項14】
請求項9から請求項13までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液において、
癌細胞のAKTとERKとの少なくとも一方のシグナル伝達経路を遮断することにより癌細胞のアポトーシスを誘導するものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項15】
請求項9から請求項14までのいずれか1項に記載の抗腫瘍水溶液において、
抗癌剤耐性を有する癌細胞を死滅させるものであること
を特徴とする抗腫瘍水溶液。
【請求項16】
癌細胞を死滅させる抗癌剤の製造方法において、
リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する水溶液準備工程と、
プラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを前記水溶液に照射するプラズマ照射工程と、
を有すること
を特徴とする抗癌剤の製造方法。
【請求項17】
癌細胞を死滅させる抗癌剤において、
リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に溶かした水溶液に大気圧プラズマを照射したものであり、
癌細胞を選択的に死滅させるものであること
を特徴とする抗癌剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法に関する。さらに詳細には、癌細胞を死滅させることのできる抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。そして、近年においては、医療への応用が活発に研究されるようになってきた。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラズマの照射により、血液凝固(特許文献1の実施例4、段落[0063]-[0068]参照)と、組織滅菌(特許文献1の実施例5、段落[0069]-[0074]参照)と、リーシュマニア症(特許文献1の実施例6、段落[0075]-[0077]参照)といった、効果があることが記載されている。そして、メラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)を死滅させる効果があると記載されている(特許文献1の実施例7、段落[0078]参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特表2008-539007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような癌の治療においては一般に、1)癌細胞を死滅させるとともに、2)正常細胞に影響を与えないようにすることが好ましい。たとえ、癌細胞を死滅させることができたとしても、そのために多数の正常細胞を死滅させると、患者に加わる肉体的負担が大きいからである。そのため、このように癌細胞を選択的に死滅させる治療技術が望まれている。しかし、癌細胞を選択的に死滅させることは容易ではない。特許文献1では、正常細胞への影響の程度が明らかではない。
【0006】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を死滅させることのできる抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法は、癌細胞を死滅させる抗腫瘍効果を有する抗腫瘍水溶液の製造方法である。この抗腫瘍水溶液の製造方法は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する水溶液準備工程と、プラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを水溶液に照射するプラズマ照射工程と、を有する。
【0008】
この製造方法により製造された抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させるとともに、正常細胞をほとんど死滅させることがない。したがって、この抗腫瘍水溶液を直接癌細胞に接触させる方法や、患者に抗腫瘍水溶液を内服させる方法や、患者を開腹等して癌の発生している臓器の周囲を抗腫瘍水溶液で満たす方法を用いることにより、ヒトの癌を治療することができる。
【0009】
第2の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法において、プラズマ照射工程では、プラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、大気圧プラズマを水溶液に照射した時間との積であるプラズマ密度時間積を、1.2×1018sec・cm-3以上とする。
【0010】
第3の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法は、プラズマ照射工程の後に、大気圧プラズマを照射した水溶液に培養成分を添加する培養成分添加工程を有する。
【0011】
第4の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法において、水溶液準備工程では、水溶液として、水に培養成分を添加した培養液を準備する。プラズマ照射工程では、大気圧プラズマを培養液に照射する。
【0012】
第5の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法において、プラズマ照射工程では、プラズマ発生領域を水溶液に接触させない位置に水溶液の液面を配置した状態で大気圧プラズマを水溶液に照射する。
【0013】
第6の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法では、プラズマ発生装置は、対向して配置されている第1の電極および第2の電極を有するものである。プラズマ照射工程では、第1の電極および第2の電極を水溶液の外部であって水溶液の液面を挟まない位置に対向して配置し、大気圧プラズマを水溶液に照射する。
【0014】
第7の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法では、第1の電極および第2の電極は、それぞれ対向面を有する。そして、対向面のそれぞれには、微細な凹凸であるホローが形成されている。
【0015】
第8の態様における抗腫瘍水溶液の製造方法では、抗腫瘍水溶液は、癌細胞を選択的に死滅させるものである。
【0016】
第9の態様における抗腫瘍水溶液は、癌細胞を死滅させる抗腫瘍効果を有する。この抗腫瘍水溶液は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に溶かした水溶液に大気圧プラズマを照射したものである。
【0017】
第10の態様における抗腫瘍水溶液は、大気圧プラズマを照射する際には、大気圧プラズマのプラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、大気圧プラズマを水溶液に照射した時間との積であるプラズマ密度時間積を、1.2×1018sec・cm-3以上としたものである。
【0018】
第11の態様における抗腫瘍水溶液は、大気圧プラズマを照射した後の上記の水溶液に培養成分を添加したものである。
【0019】
第12の態様における抗腫瘍水溶液では、水溶液は培養液であり、大気圧プラズマを培養液に照射したものである。
【0020】
第13の態様における抗腫瘍水溶液は、癌細胞を選択的に死滅させるものである。
【0021】
第14の態様における抗腫瘍水溶液は、癌細胞のAKTとERKとの少なくとも一方のシグナル伝達経路を遮断することにより癌細胞のアポトーシスを誘導するものである。
【0022】
第15の態様における抗腫瘍水溶液は、抗癌剤耐性を有する癌細胞を死滅させるものである。
【0023】
第16の態様における抗癌剤の製造方法は、癌細胞を死滅させる抗癌剤を製造する方法である。この抗癌剤の製造方法は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する水溶液準備工程と、プラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを水溶液に照射するプラズマ照射工程と、を有する。
【0024】
第17の態様における抗癌剤は、癌細胞を死滅させるものである。この抗癌剤は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に溶かした水溶液に大気圧プラズマを照射したものであり、癌細胞を選択的に死滅させるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を死滅させることのできる抗腫瘍水溶液および抗癌剤とそれらの製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】プラズマ照射装置のガス噴出口を走査するロボットアームの構成を説明するための概念図である。
【図2】図2.Aは第1のプラズマ照射装置の構成を示す断面図であり、図2.Bは電極の形状を示す図である。
【図3】図3.Aは第2のプラズマ照射装置の構成を示す断面図であり、図3.Bはプラズマ領域の長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【図4】実験Aにおいて癌細胞培養地を「プラズマ培養液」に浸した場合の結果を示す顕微鏡写真である。
【図5】実験Aにおいて癌細胞培養地を「アルゴンガスを照射した培養液」に浸した場合の結果を示す顕微鏡写真である。
【図6】実験Aにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」に浸した場合の結果を示す顕微鏡写真である。
【図7】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数1000個:プラズマ照射時間1分)である。
【図8】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数5000個:プラズマ照射時間1分)である。
【図9】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数10000個:プラズマ照射時間1分)である。
【図10】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数1000個:プラズマ照射時間3分)である。
【図11】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数5000個:プラズマ照射時間3分)である。
【図12】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数10000個:プラズマ照射時間3分)である。
【図13】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数1000個:プラズマ照射時間5分)である。
【図14】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数5000個:プラズマ照射時間5分)である。
【図15】実験Bにおいて癌細胞培養地を「通常の培養液」および「アルゴンガスを照射した培養液」および「プラズマ培養液」に浸した場合の癌細胞生存率を比較するためのグラフ(細胞数10000個:プラズマ照射時間5分)である。
【図16】実験Cにおいて「プラズマ培養液」の効果を癌細胞と正常細胞とで比較したグラフである。
【図17】実験Dにおいて「プラズマ培養液」の抗腫瘍効果の持続時間を示すグラフである。
【図18】実験Eにおいて細胞のシグナル伝達経路のうちAKTのトータルの発現量と活性化の度合いを示す図である。
【図19】実験Eにおいて細胞のシグナル伝達経路のうちERKのトータルの発現量と活性化の度合いを示す図である。
【図20】実験Fにおいてアルゴン水素プラズマを照射した培養液の抗腫瘍効果を示す図である。
【図21】実験Fにおいてアルゴン水素プラズマを照射した培養液の抗腫瘍効果の選択性を示す図である。
【図22】実験Gにおいて水にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図23】実験Gにおいてリン酸水素二ナトリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図24】実験Gにおいて炭酸水素ナトリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図25】実験GにおいてL-グルタミン水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図26】実験GにおいてL-ヒスチジン水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図27】実験GにおいてL-チロシン二ナトリウム二水和物水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図28】実験Gにおいて種々の単一成分水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その1)である。
【図29】実験Gにおいて種々の単一成分水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その2)である。
【図30】実験Gにおいて種々の単一成分水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その3)である。
【図31】実験Gにおいて種々の単一成分水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その4)である。
【図32】実験Gにおいて5種類の溶質を溶解させた水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図33】実験Gにおいてリン酸水素二ナトリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果の濃度依存性を調べた結果を示すグラフである。
【図34】実験Gにおいて炭酸水素ナトリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果の濃度依存性を調べた結果を示すグラフである。
【図35】実験Gにおいて塩化カリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図36】実験Gにおいて塩化ナトリウム水溶液にプラズマ照射した後で培養液を添加したプラズマ溶液における抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。
【図37】実験Hにおいて抗癌剤耐性の卵巣癌細胞に対するプラズマ培養液の抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その1)である。
【図38】実験Hにおいて抗癌剤耐性の卵巣癌細胞に対するプラズマ培養液の抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフ(その2)である。
【図39】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その1)である。
【図40】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その2)である。
【図41】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その3)である。
【図42】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その4)である。
【図43】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その5)である。
【図44】実験Hにおいて通常の培養液もしくはプラズマ培養液を抗癌剤耐性のある細胞とない細胞とに対して投与した場合の細胞を示す顕微鏡写真(その6)である。
【図45】実験Iにおいて卵巣癌細胞を投与したヌードマウスにプラズマ培養液もしくは通常の培養液を投与した場合を比較する写真(その1)である。
【図46】実験Iにおいて卵巣癌細胞を投与したヌードマウスにプラズマ培養液もしくは通常の培養液を投与した場合を比較する写真(その2)である。
【図47】実験Iにおいて卵巣癌細胞を投与したヌードマウスにプラズマ培養液もしくは通常の培養液を投与した場合の腫瘍の体積変化を示すグラフ(その1)である。
【図48】実験Iにおいて卵巣癌細胞を投与したヌードマウスにプラズマ培養液もしくは通常の培養液を投与した場合の腫瘍の体積変化を示すグラフ(その1)である。
【図49】実験Iにおいて卵巣癌細胞を投与したヌードマウスにプラズマ培養液もしくは通常の培養液を投与して28日経過した場合の腫瘍の重さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、具体的な実施形態について、プラズマ溶液とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。

【0028】
1.プラズマ溶液製造装置
1-1.プラズマ溶液製造装置の構成
本実施形態のプラズマ溶液製造装置PMは、図1に示すように、プラズマ照射部P1と、アームロボットM1とを有している。プラズマ照射装置P1は、プラズマを発生させるとともに、そのプラズマを溶液に向けて照射するためのものである。プラズマ照射装置P1には、後述するように、2種類の方式(第1のプラズマ照射装置100および第2のプラズマ照射装置200)がある。そして、いずれの方式を用いてもよい。

【0029】
アームロボットM1は、図1に示すように、プラズマ照射装置P1の位置をx軸、y軸、z軸方向のそれぞれの方向に移動させることができるようになっている。なお、説明の便宜上、プラズマを照射する向きを-z軸方向としている。これにより、溶液の液面と、プラズマ照射部P1との間の距離を調整することができる。また、このプラズマ溶液製造装置PMは、予めプラズマ照射時間を設定することにより、その時間だけプラズマを照射することができるものである。

【0030】
1-2.第1のプラズマ照射装置
図2.Aはプラズマ照射装置100の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ照射装置100は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ照射装置である。図2.Bは、図2.Aのプラズマ照射装置100の電極2a、2bの形状を詳細を示す図である。

【0031】
プラズマ照射装置100は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2~3mmである。筐体部10の厚みは0.2~0.3mmである。筐体部10の長さは25cmである。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。

【0032】
電極2a、2bは、対向して配置されている対抗電極対である。電極2a、2bの対抗面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに凹部(ホロー)Hが多数形成されている。そのため、電極2a、2bの対抗面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。

【0033】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ照射装置100では、電極2aの対抗面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対抗面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。

【0034】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。

【0035】
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。

【0036】
1-3.第2のプラズマ照射装置
図3.Aはプラズマ照射装置110の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ照射装置110は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ照射装置である。図3.Bは、図3.Aのプラズマ照射装置110のプラズマ領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。

【0037】
プラズマ照射装置110は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ領域Pの直上までのスリット幅(図3.Bの左右方向の幅)は1mmである。

【0038】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1~2mmの範囲内である。また、スリット形状場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。

【0039】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、図1に示したプラズマ照射装置100と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。

【0040】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ照射装置110を図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。

【0041】
後述する実験では、ガス噴出口11oを複数配置することにより、ほぼ円形の平面領域にプラズマを噴出することができるプラズマ照射装置を用いた。

【0042】
2.プラズマ照射装置により発生されるプラズマ
プラズマ照射装置100、110により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。

【0043】
本実施の形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ照射装置100、110により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生する。また、このプラズマは大気中に放出されているため、酸素ラジカルや窒素ラジカルを発生させる。

【0044】
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3~1×1013cm-3程度である。したがって、プラズマ照射装置100、110により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。

【0045】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K~2500Kの範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K~2500Kである。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から癌細胞までの距離を異なる条件とすることにより、癌細胞の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。そのため、このプラズマを癌細胞および正常細胞に照射した場合に、これらの細胞に熱による損傷を与えるおそれはほとんどない。

【0046】
また、酸素ラジカル密度は、2×1014cm-3以上1.6×1015cm-3以下の範囲内である。アルゴンガスに対して混入する酸素ガスの量を調整することにより、この酸素ラジカル密度を調整することができる。

【0047】
3.プラズマ溶液
本実施形態のプラズマ溶液は、原材料溶液に予め定めた時間だけプラズマを照射したものである。ここで、原材料溶液とは、水系溶媒を用いる水溶液である。そして、原材料溶液として、水に培養成分を混入したものを用いるとよい。つまり、原材料溶液とは、細胞等を培養するための培養液である。培養液として、例えば、DMEMが挙げられる。そして、DMEMには、グルコース等の糖が含まれている。ここで、培養成分とは、細胞等を培養するための培養液に含まれる成分である。例えば、後述する表3(DMEM成分)および表9(RPMI1640成分)の双方に記載されているものである。

【0048】
4.プラズマ溶液の製造方法
本実施形態のプラズマ溶液の製造方法には、2種類の方法がある。よって、それぞれの方法について説明する。

【0049】
4-1.プラズマ溶液の製造方法(第1の方法)
4-1-1.水溶液準備工程(第1の方法)
まず、第1の方法について説明する。水溶液として、後述する表3(DMEM成分)および表9(RPMI1640成分)に示す成分を有する培養液を準備する。つまり、水にこれらの培養成分を添加した培養液を準備する。

【0050】
4-1-2.プラズマ照射工程(第1の方法)
次に、前述したプラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを培養液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、1cmである。また、この距離は、0.5cm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。そして、このプラズマにおけるプラズマ温度は、およそ1000K~2500Kの範囲内である。ただし、このプラズマ温度は、液面では、室温程度(300K程度)まで下げることもできる。また、酸素ラジカル密度は、2×1014cm-3以上1.6×1015cm-3以下の範囲内である。これらのプラズマ条件を表1に示す。

【0051】
[表1]
条件 数値範囲
液面-噴出口距離 0.5cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
酸素ラジカル密度 2×1014cm-3以上 1.6×1015cm-3以下

【0052】
なお、後述する実験のところで説明するように、抗腫瘍効果を有するプラズマ溶液を製造するためには、プラズマ密度時間積を、次の条件を満たすようにする。
1.2×1018sec・cm-3以上
ここで、プラズマ密度時間積とは、プラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、大気圧プラズマをこの水溶液に照射した時間(照射時間)との積である。

【0053】
4-2.プラズマ溶液の製造方法(第2の方法)
4-2-1.水溶液準備工程(第1の方法)
ここでは、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)とのうちの少なくとも1種類を含む溶質を水に添加した水溶液を準備する。

【0054】
4-2-2.プラズマ照射工程(第2の方法)
次に、前述したプラズマ発生装置によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを水溶液に照射する。プラズマを照射する際の種々の条件は、第1の方法と同様である。

【0055】
4-2-3.培養成分添加工程(第2の方法)
次に、大気圧プラズマを照射済みの水溶液に、後述する表3(DMEM成分)および表9(RPMI1640成分)に示す成分を添加する。

【0056】
5.プラズマ溶液を用いた癌の治療
5-1.プラズマ溶液の性質および用途(抗癌剤)
後の実験結果に示すように、このプラズマ溶液は、癌細胞を死滅させる抗腫瘍効果を有する抗腫瘍水溶液である。つまり、このプラズマ溶液は、抗癌作用を有する抗癌剤である。この抗癌作用は、プラズマの照射開始から18時間未満の時間内に発揮される。また、抗癌作用を有するのは、プラズマの照射時間が1分以上のプラズマ溶液である。そして、本実施形態のプラズマ溶液は、後述するように、正常細胞にはほとんどダメージを与えない。

【0057】
6.実験A(プラズマ培養液の抗腫瘍効果と浸漬時間)
本実験は、プラズマ培養液の抗腫瘍効果を調べるために行った実験である。また、癌細胞をどの程度の時間プラズマ培養液に曝せば癌細胞が死滅するかを確かめるために行った実験である。ここで、プラズマ培養液とは、培養液にプラズマを照射した溶液である。すなわち、プラズマ溶液の一種である。

【0058】
6-1.用いた癌細胞
本実験では、グリオーマを用いた。グリオーマは、神経膠細胞(グリア細胞)に発生する神経膠腫である。すなわち、脳腫瘍の一種である。グリオーマとして、具体的には、表2に示すものを用いた。つまり、U251SPおよびU87MGである。

【0059】
[表2]
細胞名 状態 種類
U251SP 癌細胞 グリオーマ
U87MG 癌細胞 グリオーマ
RI-371 正常細胞 アストロサイト

【0060】
6-2.実験方法
6-2-1.癌細胞培養地
上記の癌細胞を、プレートに培養して癌細胞培養地を作成した。プレートは、プラスチック製の容器である。そして、プレートの内部には、培養液を入れた。その培養液は、DMEMと血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合した溶液である。DMEMの成分を、表3に示す。

【0061】
[表3]
塩化カルシウム
硝酸第二鉄・9H2
硫酸マグネシウム(無水)
塩化カリウム
炭酸水素ナトリウム
塩化ナトリウム
リン酸-ナトリウム(無水)
L-アルギニン・HCl
L-シスチン・2HCl
L-グルタミン
グリシン
L-ヒスチジン・HCl・H2
L-イソロイシン
L-ロイシン
L-リジン・HCl
L-メチオニン
L-フェニルアラニン
L-セリン
L-スレオニン
L-トリプトファン
L-チロシン・2Na・2H2
L-バリン
塩化コリン
葉酸
myo-イノシトール
ナイアシンアミド
D-パントテン酸
ピリドキシン・HCl
リボフラビン
チアミン・HCl
D-グルコース
フェノールレッド・Na

【0062】
6-2-2.プラズマ培養液の作成
癌細胞培養地を用意するのとは別に、プラズマ培養液を作成した。本実験では、6個の穴が設けられたプレートを用いた。この穴は、非貫通孔である。そのため、穴の内部に溶液を入れることができるようになっている。まず、このプレートの穴に3mLの培養液を入れる。ここで用いた培養液は、前述したDMEMと血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合した溶液である。DMEMの成分は、表3のとおりである。

【0063】
次に、プラズマ溶液製造装置PMを用いて、プラズマを培養液に照射する。その際、プラズマ発生領域を培養液に接触させない位置に培養液の液面を配置した状態で大気圧プラズマを水溶液に照射した。そして、プラズマ溶液製造装置PMの対向電極を培養液の外部であって培養液の液面を挟まない位置に対向して配置した。その状態で、大気圧プラズマを水溶液に照射した。このように、プラズマ発生領域は、培養液に接触していないが、プラズマ中で生成される種々のラジカルが培養液に照射される。プラズマがプレートにおける培養液の上方の大気を押し出すようにする。そのため、プラズマ照射時間中には、培養液は大気に触れることがほとんどない。

【0064】
そのプラズマの条件を、表4に示す。プラズマを発生させるためのガスとしてアルゴンガスのみを用いた。ガスの流量は、2.0slmであった。また、プラズマ噴出口と液面との間の距離は、13mmであった。そして、プラズマ照射時間は、5分であった。また、プラズマ発生領域におけるプラズマ密度は、2×1016cm-3であった。

【0065】
[表4]
ガスの流量 2.0slm
プラズマ噴出口と液面との間の距離 13mm
プラズマ照射時間 5分
プラズマ密度(発生時) 2×1016cm-3

【0066】
6-2-3.癌細胞培養地へのプラズマ培養液の供給
次に、癌細胞培養地にプラズマ培養液を供給する。具体的には、癌細胞培養地から培養液を除去し、プラズマ培養液を癌細胞培養地に入れる。その際のプラズマ培養液の供給量は、0.2mLである。そして、培養液をプラズマ培養液に交換してから予め定めた時間が経過した後に、培養液を再び交換する。ここで癌細胞培養地に供給する培養液は、通常の培養液である。

【0067】
このように癌細胞をプラズマ培養液に浸す時間を変えて、癌細胞の生存率を調べた。そして、プラズマ培養液を癌細胞培養地に供給してから16時間経過後に、癌細胞の生存率を調べた。その際に、顕微鏡観察により、生存している癌細胞の数をカウントした。

【0068】
6-3.実験結果
実験結果を表5に示す。表5における各癌細胞(U251SP、U87MG)の下段の数値は、癌細胞の生存率を示している。この数値が「1」の場合には、癌細胞が生きていることを示している。「0」の場合には、癌細胞が全て死滅していることを示している。0.6の場合には、プラズマ培養液を供給する前に比べて60%程度の数の癌細胞が生きていることを示している。

【0069】
表5に示すように、浸漬時間が30分以上となると、癌細胞が死滅する。つまり、癌細胞を死滅させるためには、プラズマ培養液に30分以上浸漬する必要がある。そして、浸漬時間が30分以上60分未満の場合に、プラズマ培養液は抗腫瘍効果を奏する。

【0070】
なお、表5において、「処置無し」とは、プラズマ培養液ではなく、通常の培養液を用いた場合である。「Arガス」とは、培養液にプラズマでないArガスのみを吹きつけた場合である。これらは、プラズマ培養液に癌細胞の滅菌効果があることを示すための比較例である。

【0071】
[表5]
浸漬時間 U251SP U87MG
1分 1 1
5分 1 1
10分 1 1
30分 1 1
60分 0.1 0.6
120分 0 0
16時間 0 0
処置無し 1 1
Arガス 1 1

【0072】
ここで、実際の顕微鏡写真を図4から図6までに示す。これらの癌細胞は、いずれもU251SPである。図4は、プラズマ培養液による浸漬を行った場合の顕微鏡写真である。この場合は、表5の「16時間」の場合に対応している。図5は、アルゴンガスを吹きつけた培養液による浸漬を行った場合の顕微鏡写真である。この場合は、表5の「Arガス」の場合に対応している。図6は、通常の培養液を交換した場合の顕微鏡写真である。この場合は、表5の「処置無し」の場合に対応している。

【0073】
ここで、各図におけるバーは、100μmの長さを示している。図4の矢印の箇所に、アポトーシスの誘導により死滅した癌細胞を示す。

【0074】
このように、プラズマ培養液には、抗腫瘍効果がある。つまり、プラズマ培養液は、抗腫瘍効果のある抗癌剤である。

【0075】
7.実験B(プラズマ照射時間と抗腫瘍効果)
7-1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞として、表2に示したU251SP(グリオーマ)を用いた。

【0076】
7-2.実験方法
本実験では、実験Aと同じように、癌細胞培養地をプラズマ培養液で浸した。ここで、プラズマ培養液と、癌細胞培養地とを、組み合わせて抗腫瘍効果について調べた。プラズマ培養液として、プラズマ照射時間を変えた次の3通りのものを用意した。
プラズマ照射時間 1分
プラズマ照射時間 3分
プラズマ照射時間 5分

【0077】
そして、癌細胞培養地として、癌細胞の数を変えた。すなわち、癌細胞培養地における癌細胞の密度が異なっている。癌細胞の数として、次の3通りのものを用意した。
癌細胞(U251SP) 1000個
癌細胞(U251SP) 5000個
癌細胞(U251SP) 10000個

【0078】
そして、これらのプラズマ照射時間(3通り)と癌細胞の数(3通り)とを組み合わせることにより、「プラズマ培養液」に癌細胞を浸した9種類のサンプルについて実験を行った。また、比較例として、「アルゴンガスを照射した培養液」に癌細胞を浸した9種類のサンプルについても同様に実験を行った。また、別の比較例として、通常の培養液に癌細胞を浸した3種類のサンプルについて実験を行った。この場合には、癌細胞の数を変えた。以上、21種類のサンプルについて実験を行った。

【0079】
7-3.実験結果
実験結果を、図7から図15までに示す。各図の縦軸は、任意の単位である。ただし、癌細胞の数を示している。癌細胞が1000個の場合には、0.5程度の数値を示し、癌細胞が5000個の場合には、2程度の数値を示し、癌細胞が10000個の場合には、4程度の数値を示している。

【0080】
7-3-1.1分照射
図7は、癌細胞1000個に、プラズマ照射時間が1分のプラズマ培養液を浸したものである。図8は、癌細胞5000個に、プラズマ照射時間が1分のプラズマ培養液を浸したものである。図9は、癌細胞10000個に、プラズマ照射時間が1分のプラズマ培養液を浸したものである。図7(1分、1000個)に示すように、この場合には、プラズマ培養液による抗腫瘍効果がみられた。図8(1分、5000個)および図9(1分、10000個)の場合には、抗腫瘍効果が見られなかった。

【0081】
7-3-2.3分照射
図10は、癌細胞1000個に、プラズマ照射時間が3分のプラズマ培養液を浸したものである。図11は、癌細胞5000個に、プラズマ照射時間が3分のプラズマ培養液を浸したものである。図12は、癌細胞10000個に、プラズマ照射時間が3分のプラズマ培養液を浸したものである。図10から図12のまでのいずれの場合であっても、抗腫瘍効果が見られた。

【0082】
7-3-3.5分照射
図13は、癌細胞1000個に、プラズマ照射時間が5分のプラズマ培養液を浸したものである。図14は、癌細胞5000個に、プラズマ照射時間が5分のプラズマ培養液を浸したものである。図15は、癌細胞10000個に、プラズマ照射時間が5分のプラズマ培養液を浸したものである。図13から図15のまでのいずれの場合であっても、抗腫瘍効果が見られた。

【0083】
このように、プラズマ密度が2×1016cm-3の大気圧プラズマを、60sec以上照射することにより、プラズマ溶液は、抗腫瘍効果を有する。つまり、プラズマ密度時間積を、
1.2×1018sec・cm-3以上
とすればよい。

【0084】
そして、細胞数が増えるほど、癌細胞の生存率が高い。これは、プラズマ培養液の中で抗腫瘍効果を有する物質が生成され、その抗腫瘍効果を有する物質が癌細胞に効果を及ぼすとともに消費されていることを示している。そのため、プラズマ密度時間積を、
3.6×1018sec・cm-3以上
とすると、さらによい。これは、プラズマ密度が2×1016cm-3の大気圧プラズマを、180sec以上照射した場合に相当する。

【0085】
8.実験C(癌細胞への影響と正常細胞への影響との比較)
8-1.用いた癌細胞および正常細胞
本実験では、癌細胞として、表2に示したU251SP(グリオーマ)を用いた。一方、正常細胞として、表2に示したRI-371(アストロサイト)を用いた。プラズマ培養液の癌細胞への影響と正常細胞への影響とを比較するためである。

【0086】
8-2.実験方法
癌細胞培養地および正常細胞培養地にプラズマ培養液を供給した。その方法は、前述の実験Aと同様である。また、本実験では、いずれの培養地においても細胞の数を10000個とした。そして、これらの培養地をプラズマ培養液に浸した。

【0087】
8-3.実験結果
その実験結果を、図16に示す。図16に示すように、プラズマ培養液に浸した癌細胞(グリオーマ:U251SP)は死滅している。一方、プラズマ培養液に浸した正常細胞(アストロサイト:RI-371)はほとんど死滅していない。そして、プラズマ培養液に浸した正常細胞の数は、通常の培養液に浸した正常細胞の数とほとんど同じである。これは、癌細胞を死滅させるとともに、正常細胞を死滅させることがほとんどないことを示している。このように、プラズマ培養液を用いることで、癌細胞のみを選択的に死滅させることが可能である。つまり、脳腫瘍癌を治療することができる。

【0088】
9.実験D(抗腫瘍効果の持続時間)
ここで、プラズマ培養液の抗腫瘍効果の持続時間について行った実験について説明する。

【0089】
9-1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞として、表2に示したU251SP(グリオーマ)を用いた。

【0090】
9-2.実験方法
実験Aで説明したように、癌細胞培養地をプラズマ培養液に浸した。その場合に、プラズマの照射からの経過時間を変えたものをプラズマ培養液を用意して、それぞれの場合について抗腫瘍効果を調べた。用意したプラズマ培養液は、プラズマを1分照射してから、それぞれ0時間、1時間、8時間、18時間経過したものである。

【0091】
9-3.実験結果
その実験結果を、図17に示す。図17に示すように、プラズマ培養液の抗腫瘍効果は、プラズマ照射直後から少なくとも8時間以上持続する。そして、18時間を経過する前に、プラズマ培養液の抗腫瘍効果は消失する。すなわち、プラズマ培養液の抗腫瘍効果は、プラズマ照射開始以後プラズマ照射開始から18時間未満の経過時間だけ持続する。

【0092】
10.実験E(シグナル伝達経路)
10-1.用いた細胞
本実験では、癌細胞として、表6に示すように、U251SP(グリオーマ細胞)を用いるとともに、正常細胞として、WI-38(線維芽細胞)を用いた。

【0093】
[表6]
U251SP グリオーマ細胞(癌細胞)
WI-38 線維芽細胞(正常細胞)

【0094】
10-2.用いた溶液
また、本実験では、表7に示すように、3種類の溶液を用いた。溶液1は、単なる培養液である。溶液2は、培養液にアルゴンガスを5分間だけ照射したものである。溶液3は、培養液にアルゴンプラズマを5分間だけ照射したものである。ここで、培養成分は、実験Aと同じDMEMである。ただし、本実験では、血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合させていない。

【0095】
[表7]
名称 培養成分 照射
溶液1 DMEM 未照射(Untreated)
溶液2 DMEM Arガス照射(照射時間:5分)
溶液3 DMEM Arプラズマ照射(照射時間:5分)

【0096】
10-3.実験方法
10-3-1.サンプルの作製
前述したU251SP(グリオーマ細胞)とWI-38(線維芽細胞)とを、プレート(6ウェルプレート)に播種した。そして、プレート内で24時間、通常の培養液(DMEM)中でこれらを培養した。そして、U251SP(グリオーマ細胞)とWI-38(線維芽細胞)とのそれぞれについて、培養液1、培養液2、培養液3を投与した。これらの培養液1、2、3中で培養する時間を、4時間とした。このようにして、6種類のサンプルを得た。

【0097】
10-3-2.ウェスタンブロット法
得られた6種類のサンプルについて、RIPA細胞溶解液内で溶解させて6種類の細胞溶解液を得た。そして、6種類の細胞溶解液について、ウェスタンブロット法(ウェスタンブロッティング)を用いて、メンブレンに固定する。具体的には、細胞培養液を電気泳動により分離した各細胞をメンブレンに転写した後に、そのまま各細胞をメンブレンに固定する。

【0098】
この後、各細胞におけるシグナル伝達経路の活性化の程度について測定した。ここでは、AKTと、ERKとの2つのシグナル伝達経路について測定した。AKTについては、Phospho-AKT(Ser473)と、Phospho-AKT(Thr308)と、をそれぞれの活性化の度合いを測定するとともに、AKTの総量(Total-AKT)についても測定した。

【0099】
ERKについては、Phospho-ERK1(Thr202/Tyr204)の活性化の度合いについて測定した。ここで、活性化とは、AKTやERKがリン酸化していることをいう。なお、AKTを活性化するためには、Ser473と、Thr308との2箇所をリン酸化する必要がある。

【0100】
10-4.実験結果
10-4-1.AKT
図18は、AKTの活性化の度合いを示す図である。U251SP(グリオーマ細胞)では、アルゴンプラズマを照射した培養液3の場合のみ、AKTが活性化していない。ただし、Phospho-AKT(Thr308)については、わずかに抗体反応が見られる。培養液1、2を投与したU251SP(グリオーマ細胞)については、Phospho-AKT(Ser473)と、Phospho-AKT(Thr308)とのいずれも、活性化している。

【0101】
一方、正常細胞であるWI-38(線維芽細胞)では、いずれの培養液であっても、Phospho-AKT(Ser473)の反応が見られなかった。すなわち、Ser473でリン酸化がほとんど起きていない。したがって、AKTは活性化していない。

【0102】
10-4-2.ERK
図19は、ERKの活性化の度合いを示す図である。U251SP(グリオーマ細胞)については、アルゴンプラズマを照射した培養液3の場合のみ、ERKの活性化の度合いが弱い。培養液1、2を投与したU251SP(グリオーマ細胞)では、ERKの活性化が生じている。

【0103】
一方、正常細胞であるWI-38(線維芽細胞)では、いずれの培養液であっても、Phospho-ERKの反応が弱かった。すなわち、ERKのリン酸化はほとんど起きていない。したがって、ERKは活性化していない。

【0104】
10-5.本実施形態における癌細胞の死滅のメカニズム
本実験では、U251SP(グリオーマ細胞)のAKTやERKの活性化が抑制されていることが明らかとなった。つまり、本実施形態のプラズマ溶液は、U251SP(グリオーマ細胞)のAKTおよびERKの活性化を抑制する。これらのAKTやERKの活性化は、グリオーマ細胞のアポトーシスを起こさない方向に働く。本実験では、これらAKTおよびERKの活性化が起こらないようになったために、アポトーシスが積極的に引き起こされることとなる。このため、U251SP(グリオーマ細胞)を死滅させることができる。したがって、このプラズマ溶液は、正常細胞にほとんど影響を及ぼさないで癌細胞のみを死滅させる選択性を有していると考えられる。

【0105】
10-6.実験Eにおける発明の効果
本実施形態のプラズマ溶液は、AKTとERKとの双方の活性化を抑制することができる。つまり、癌細胞のシグナル伝達経路のうち2系統を抑制することができる。そして、その結果、癌細胞のアポトーシスを誘導する。

【0106】
従来の抗癌剤のうちの多くの分子標的薬は、ある特定の因子を標的として作用するのが一般的である。例えば、AKTのみに作用するものや、ERKのみに作用するものである。しかし、実際には、AKTのみの活性化を抑制したとしても、別のシグナル伝達経路、例えば、ERKをシグナル伝達経路として、癌細胞が増殖するおそれがある。したがって、本実施形態のプラズマ溶液は、従来の分子標的薬に比べて、高い抗癌作用が期待できる。また、従来の抗癌剤を投与しても十分に治療できなかった患者に対して、効果を発揮することが期待される。さらに、本実施形態のプラズマ溶液は、正常細胞にほとんど影響を与えない。そのため、副作用も小さいと考えられる。さらに、AKTやERKの活性化により増殖する種類の他の癌細胞に対しても効果を発揮することが期待される。

【0107】
10-7.実験Eの評価方法の利用分野
本実験のプラズマ溶液の評価方法は、例えば、患者から取り出した癌細胞におけるAKT活性とERK活性の程度を評価することができる。これにより、その患者の癌細胞のAKT活性とERK活性とで、効き方の違いの個人差について評価することができる。これはあくまで一例であり、これに限らない。

【0108】
11.実験F(アルゴン水素)
11-1.用いた細胞
本実験では、癌細胞として、表6に示すように、U251SP(グリオーマ細胞)を用いるとともに、正常細胞として、WI-38(線維芽細胞)を用いた。

【0109】
11-2.実験方法
プレートに1000細胞、5000細胞、10000細胞をそれぞれ播種した3種類の培養地を用意した。培養時間は、24時間であった。そして、培養液の成分は、実験Aと同じであった。また、プラズマの照射に関しては次の3パターンを採用した。
プラズマの種類 照射時間 供給ガス
(プラズマ未照射)
アルゴンプラズマ 2分 Ar
アルゴン水素プラズマ 2分 Ar+H2 (H2 ガス:1%)
ここで、H2 ガスは、ガスの供給量の総和の1%であった。そのため、合計9種類の実験結果が得られた。そして、細胞数の評価にMTSアッセイを用いた。

【0110】
11-3.実験結果
図20は、上記の9種類の実験結果を示すグラフである。図20に示すように、アルゴンプラズマおよびアルゴン水素プラズマのいずれも、抗腫瘍効果を示した。アルゴンプラズマを培養液に照射した場合には、10000細胞に照射した場合に、U251SP(グリオーマ細胞)の40%程度が生存していた。アルゴン水素プラズマを培養液に照射した場合には、10000細胞に照射した場合であっても、ほとんど全てのU251SP(グリオーマ細胞)が死滅した。

【0111】
図21は、アルゴン水素プラズマを照射した場合に、癌細胞を選択的に死滅させることができるか否かを調べた結果を示すグラフである。WI-38(線維芽細胞)に対しても、U251SP(グリオーマ細胞)と同様な条件の細胞を用意し、アルゴン水素プラズマを照射したものと照射しなかったものとで比較した。図21に示すように、アルゴン水素プラズマを培養液に照射した場合に、正常細胞であるWI-38(線維芽細胞)はほとんど死滅しなかった。この実験の結果では、アルゴン水素プラズマの照射は、アルゴンプラズマの照射よりも強い抗腫瘍効果を示す。また、アルゴン水素プラズマを照射した場合の選択性は、アルゴンプラズマを照射した場合の選択性とほぼ同等であった。

【0112】
11-4.アルゴン水素プラズマの効果
アルゴン水素プラズマは、水素ラジカルを発生させる。この水素ラジカルの働きとして、2種類の考え方がある。そのうちの一方は、水素ラジカルが細胞の増殖を促進するという考え方である。この細胞の増殖は、水素ラジカルが細胞内の活性酸素種(ROS)を還元するために起こると考えられている。他方は、水素ラジカルが細胞に毒性をもたらすという考え方である。水素ラジカルは、高い反応性を有しているからである。本実験では、癌細胞を死滅させる効果を示したが、実験条件によっては、癌細胞を死滅させない場合もありうる。

【0113】
12.実験G(培養成分と抗腫瘍効果)
前述した実験において、プラズマ溶液は、抗腫瘍効果を示している。本発明者らは当初、大気圧プラズマから発生したラジカルが抗腫瘍効果をもたらしたのであると考えていた。しかしながら、大気圧プラズマから発生したラジカルと、培養液に含まれるいずれか1以上の成分と、が反応することにより、癌細胞を選択的に死滅させる抗腫瘍効果を有する抗腫瘍物質が生成されていると考えるようになった。そのため、いずれかの単一成分水溶液にプラズマを照射して、いずれの成分が抗腫瘍効果をもたらすのかを調べることとした。

【0114】
12-1.用いた細胞
本実験では、癌細胞として、表8に示すように、SKOV3(卵巣癌細胞)を用いた。

【0115】
[表8]
SKOV3 卵巣癌細胞

【0116】
12-2.培養成分
培養液として、RPMI1640を用いた。その培養成分を表9に示す。

【0117】
[表9]
硝酸カルシウム・4H2
硫酸マグネシウム(無水)
塩化カリウム
炭酸水素ナトリウム
塩化ナトリウム
リン酸二ナトリウム(無水)
L-アルギニン
L-アスパラギン(無水)
L-アスパラギン酸
L-シスチン・2HCl
L-グルタミン酸
L-グルタミン
グリシン
L-ヒスチジン
ヒドロキシ-L-プロリン
L-イソロイシン
L-ロイシン
L-リジン・HCl
L-メチオニン
L-フェニルアラニン
L-プロリン
L-セリン
L-スレオニン
L-トリプトファン
L-チロシン・2Na・2H2
L-バリン
D-ビオチン
塩化コリン
葉酸
myo-イノシトール
ナイアシンアミド
p-アミノ安息香酸
D-パントテン酸(ヘミカルシウム)
ピリドキシン・HCl
リボフラビン
チアミン・HCl
ビタミンB12
D-グルコース
グルタチオン(還元)
フェノールレッド・Na

【0118】
また、上記の表9の他に、L-アラニル-L-グルタミン、コハク酸・6H2 O・Na、コハク酸(遊離酸)、重酒石産コリン、HEPESを培養液に混入してもよい。ただし、これらは必須ではない。

【0119】
12-3.プラズマ溶液の作製
本実験で用いたプラズマ溶液は、培養液にプラズマを照射したものでなく、単一成分水溶液にプラズマを照射した後に、培養液を添加したものである。ここで、単一成分水溶液とは、表9に示す具体的な成分のうちの1種類のみを水に溶かした水溶液である。例えば、L-グルタミン水溶液やL-アルギニン水溶液である。

【0120】
その手順を、表10に示す。まず、表10の手順1に示すように、水に表9に示す成分のうちのいずれか1つを混入して単一成分水溶液とする。ただし、このとき、通常の培養液(RPMI1640)に含まれている単一成分の含有量に対して10倍の濃度とする。手順2では、その単一成分水溶液を1時間放置する。手順3では、その単一成分水溶液にプラズマを照射する。ここでは、実験Aで用いたアルゴンプラズマを5分照射する。照射距離等、その他の条件は実験Aと同じである。

【0121】
手順4では、単一成分水溶液に培養液(RPMI1640)を添加してプラズマ溶液1を作製する。これにより、プラズマ溶液1における単一成分として選択した成分の濃度は11倍である。手順5では、プラズマ溶液1をろ過する。手順6では、プラズマ溶液1に血清(FBS)と、炭酸水素ナトリウムと、D-グルコースと、を添加する。この実験Hでは、手順6まで実施したプラズマ溶液を用いた。

【0122】
[表10]
手順1 単一成分水溶液を作製する
手順2 単一成分水溶液を1時間放置する
手順3 単一成分水溶液にプラズマを照射する(Arプラズマ、5分)
手順4 単一成分水溶液に培養液(RPMI1640)を添加してプラズマ溶液1を作製する(濃度11倍)
手順5 プラズマ溶液1をろ過する
手順6 プラズマ溶液1にFBS、炭酸水素ナトリウム、D-グルコースを添加する

【0123】
12-4.実験方法
上記のプラズマ溶液1と、単一成分水溶液の代わりに水を用いたプラズマ溶液2と、を用いた。プラズマ溶液2は、水にプラズマを照射し、プラズマを照射した水に培養液を加えたものである。96ウェルプレートに、SKOV3(卵巣癌細胞)を播種した。1つのサンプルに含まれている細胞数は5000細胞と、10000細胞と、2種類を用意した。そして、SKOV3(卵巣癌細胞)に複数のプラズマ溶液1と、プラズマ溶液2と、のいずれか1つを供給した。そして、各サンプルにおける細胞の生存率についてMTSアッセイにより調べた。なお、前述した手順1で一度に作製した単品水溶液の量は6mlであった。

【0124】
12-5.実験結果
実験結果を図22から図36に示す。各グラフの縦軸は、SKOV3(卵巣癌細胞)の生存率を示している。抗腫瘍効果がない溶液の場合には、SKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は、100%に近い値を示す。抗腫瘍効果のある溶液の場合には、SKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は、100%からずれる。この値が小さいほど、高い抗腫瘍効果を有しているといえる。

【0125】
図22から図27の左側には、プラズマ溶液2の結果が示されている。プラズマ溶液2は、抗腫瘍効果を有していない。つまり、大気圧プラズマにより発生したラジカル等が水中に供給されたとしても、水中で抗腫瘍効果を有する物質が生成されるわけではない。すなわち、ラジカル等が、1以上の培養成分と反応して、なんらかの抗腫瘍効果を有する物質が生成されていると考えられるのである。

【0126】
図23から図27に示すように、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)と、のいずれか1つを溶質とする単一成分水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えたものが抗腫瘍効果を示した。

【0127】
図23に示すように、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は5%以下であった。

【0128】
図24に示すように、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は40%程度であった。

【0129】
図25に示すように、L-グルタミン(L-Glutamine)の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は55%程度であった。

【0130】
図26に示すように、L-ヒスチジン(L-Histidine)の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は20%程度であった。

【0131】
図27に示すように、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は40%程度であった。

【0132】
図28から図31に示すように、上記以外の水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は100%程度であった。すなわち、抗腫瘍効果はみられなかった。

【0133】
図32に、抗腫瘍効果を有する物質の原材料となりうる5種類の物質、すなわち、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )と、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )と、L-グルタミン(L-Glutamine)と、L-ヒスチジン(L-Histidine)と、L-チロシン二ナトリウム二水和物(L-Tyrosine・2Na・2H2 O)と、を溶質とする水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液の抗腫瘍効果について調べた結果を示す。

【0134】
図32に示すように、5種類の溶質について11倍の濃度(図32中では「X10」と表記)とした溶液では、5000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率はほぼ0%であり、10000細胞の場合におけるSKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は10%程度であった。また、これらの溶質の濃度を小さくするほど、SKOV3(卵巣癌細胞)の生存率は上昇する。つまり、これらの5種類の溶質の量が、プラズマを照射することにより生成される抗腫瘍物質の量と結びついていることを示唆している。

【0135】
なお、図33は、リン酸水素二ナトリウム(Na2 HPO4 )について図32と同様の実験を行った結果を示すグラフであり、図34は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3 )について図32と同様の実験を行った結果を示すグラフである。これらの溶質の濃度を小さくしても、SKOV3(卵巣癌細胞)の生存率はそれほど変わらなかった。

【0136】
図35は、無機塩として、KClを溶質とする水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液について抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。図36は、無機塩としてNaClを溶質として同様に抗腫瘍効果を調べた結果を示すグラフである。図35および図36に示すように、これらの溶質は、抗腫瘍物質の原材料とはなりえない。

【0137】
12-6.実験の考察
以上説明したように、5種類の単一成分水溶液にプラズマを照射した後に培養液を加えた溶液で、抗腫瘍効果が確認された。つまり、必ずしも1種類の成分から抗腫瘍効果物質が生成されているわけではない。また、アミノ酸および無機塩のいずれもが、抗腫瘍効果物質の原材料となりうる。すなわち、これら5種類の物質がプラズマから供給される何らかのラジカル等と反応して、多段階反応の後、抗腫瘍効果物質が生成されると考えられる。

【0138】
13.実験H(抗癌剤耐性細胞)
13-1.用いた癌細胞
本実験では、表11に示すように、通常の卵巣癌細胞と、抗癌剤耐性のある卵巣癌細胞と、を用いた。

【0139】
[表11]
名称 細胞の種類 耐性の有無
NOS2 卵巣癌細胞 無し
NOS2TR 卵巣癌細胞 パクリタキセル耐性
NOS2CR 卵巣癌細胞 シスプラチン耐性
NOS3 卵巣癌細胞 無し
NOS3TR 卵巣癌細胞 パクリタキセル耐性
NOS3CR 卵巣癌細胞 シスプラチン耐性

【0140】
13-2.実験方法
96ウェルプレートに表11に示した卵巣癌細胞のそれぞれを10000細胞だけ播種して24時間、通常の培養液で培養した。そして、その後、培養液をプラズマ培養液と交換して24時間培養した。その後、MTSアッセイにより卵巣癌細胞の生存率を評価した。なお、用いた培養液は、RPMI1640である。そして、RPMI1640にプラズマを照射した。なお、実験Aと同様のアルゴンプラズマについて、1分照射(60秒)、2分照射(120秒)、3分照射(180秒)、の3パターンについて調べた。

【0141】
13-3.実験結果
図37に、NOS2系の卵巣癌細胞についての実験結果を示す。図37に示すように、NOS2と、NOS2TRと、NOS2CRとのいずれの細胞についても、抗腫瘍効果を示した。すなわち、抗癌剤耐性を備える癌細胞に対しても、本実施形態のプラズマ溶液は、抗腫瘍効果を示す。したがって、これらの抗癌剤耐性を有する腫瘍に対しても、本実施形態のプラズマ溶液は、効果を発揮する。特に、NOS2TRについては、抗癌剤耐性を有していないNOS2よりも、本実施形態の抗腫瘍効果が有効であった。

【0142】
図38にNOS3系の卵巣癌細胞についての実験結果を示す。図38に示すように、NOS3と、NOS3TRと、NOS3CRとのいずれの細胞についても、抗腫瘍効果を示した。そして、その効果は、NOS3と、NOS3TRと、NOS3CRとのいずれの細胞についても同程度であった。

【0143】
図39から図44までに、表11に示したNOS2系の卵巣癌細胞の顕微鏡写真を示す。図39は、NOS2にプラズマを照射していない培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。図40は、NOS2にプラズマを照射した培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。図41は、NOS2TRにプラズマを照射していない培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。図42は、NOS2TRにプラズマを照射した培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。図43は、NOS2CRにプラズマを照射していない培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。図44は、NOS2CRにプラズマを照射した培地で培養した卵巣癌細胞を示す写真である。これらの図に示すように、プラズマを照射した培地で培養した卵巣癌細胞(図40、図42、図44)では、アポトーシスによる細胞死が生じている。

【0144】
このように、本実施形態のプラズマ溶液は、抗癌剤耐性を有する癌細胞をも死滅させることができる。それは、前述したように、AKTおよびERKの双方のシグナル伝達経路を遮断することができるためであると考えられる。

【0145】
14.実験I(動物実験:抗癌剤耐性)
14-1.用いたマウス
本実験では、メスのヌードマウスを用いた動物実験を行った。ヌードマウスの両脇腹皮下に2種類の卵巣癌細胞のうちのいずれかを播種した。用いた卵巣癌細胞は、NOS2もしくはNOS2TRである。そして、1箇所当たり2000個の卵巣癌細胞を投与するとともに同量のマトリゲルを投与した。

【0146】
14-2.実験方法
マウスに卵巣癌細胞を播種した翌日から、1週間当たり3回だけプラズマ培養液を局所的に投与した。プラズマ培養液は、SFMに実験Aで用いたアルゴンプラズマを照射した。ここでは、3mlのSFMに対し、プラズマの照射時間を10分とした。そして、卵巣癌細胞を播種した1箇所当たり0.2mlを局所的に注入した。また、比較対象とするマウスには、プラズマを照射していない培養液を注入した。

【0147】
14-3.実験結果
図45は、NOS2を播種したマウスの4週目の様子を示す写真である。図45に左側に、通常の培養液を投与したマウスを示す。図45の右側に、プラズマ培養液を投与したマウスを示す。通常の培養液を投与したマウスでは、腫瘍による膨らみが見られるが、プラズマ培養液を投与したマウスでは、腫瘍による膨らみはほとんど見られない。

【0148】
図46は、NOS2TRを播種したマウスの4週目の様子を示す写真である。図46に左側に、通常の培養液を投与したマウスを示す。図46の右側に、プラズマ培養液を投与したマウスを示す。図45のNOS2の場合と同様に、通常の培養液を投与したマウスでは、腫瘍による膨らみが見られるが、プラズマ培養液を投与したマウスでは、腫瘍による膨らみはほとんど見られない。

【0149】
図47は、NOS2を播種したマウスにおける腫瘍の体積変化を示すグラフである。図47の横軸は、卵巣癌細胞を播種してからの経過日数である。図47の縦軸は、卵巣癌の腫瘍の体積である。図47の実線が、通常の培養液を投与したマウスの結果を示し、破線が、プラズマ培養液を投与したマウスの結果を示している。図47に示すように、プラズマ培養液を投与したマウスでは、通常の培養液を投与したマウスに比べて、腫瘍の大きさがそれほど大きくならない。すなわち、腫瘍の成長が抑制されている。

【0150】
図48は、NOS2TRを播種したマウスにおける図47と同様の腫瘍の体積変化を示すグラフである。NOS2TRの場合も、NOS2と同様の傾向が表れている。

【0151】
図49は、卵巣癌細胞を播種してから28日後のマウスにおける腫瘍の大きさを示すグラフである。NOS2を播種して通常の培養液を投与したマウスでは、腫瘍の大きさは90mg程度であった。NOS2を播種してプラズマ培養液を投与したマウスでは、腫瘍の大きさは30mg程度であった。NOS2TRを播種して通常の培養液を投与したマウスでは、腫瘍の大きさは80mg程度であった。NOS2TRを播種してプラズマ培養液を投与したマウスでは、腫瘍の大きさは40mg程度であった。

【0152】
以上のように、ヌードマウスを用いた動物実験においても、プラズマ培養液の抗腫瘍効果は確かめられた。

【0153】
15.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態に係るプラズマ溶液は、培養液にプラズマを照射したものである。もしくは、特定の培養成分を溶質とする水溶液にプラズマを照射し、その後に培養成分を添加したものである。このプラズマ溶液は、抗腫瘍効果を有している。さらには、癌細胞を死滅させるとともに、正常細胞を死滅させることがほとんどないという効能を有している。つまり、癌細胞を選択的に死滅させることができる。

【0154】
本実施形態のプラズマ溶液は、細胞だけでなく、生体にも有効である。つまり、癌細胞のみについてアポトーシスを誘導して、腫瘍を縮小させることができる抗癌剤である。また、この抗癌剤は選択性を有しているので、副作用をほとんど起こさないことが期待される。

【0155】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。前述の実験で取り扱った癌細胞の他に、AKTとERKとの少なくとも一方のシグナル伝達経路が活性化することにより増殖するタイプの癌に効果を発揮するものと考えられる。本実施形態のプラズマ溶液は、AKTとERKとの双方のシグナル伝達経路を遮断することにより、癌細胞のみをアポトーシスに導くものだからである。

【0156】
また、プラズマ照射装置におけるプラズマ条件を、真空紫外吸収分光法を用いることによりフィードバックをかけることとしてもよい。これにより、電子密度やガス温度、そして酸素ラジカル密度を調整することができる。
【符号の説明】
【0157】
100、110…プラズマ照射装置
10、11…筐体部
10i、11i…ガス導入口
10o、11o…ガス噴出口
2a、2b…電極
P…プラズマ領域
H…凹部(ホロー)
P1…プラズマ照射装置
M1…ロボットアーム
PM…プラズマ溶液製造装置
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図48】
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【図49】
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