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明細書 :魚類の生殖細胞の性決定方法、性判別方法、被検物質の性分化の攪乱作用の評価方法、雌雄同体の作製方法、早期成熟個体の作製方法、生殖細胞、魚類個体、配偶子、及び培養細胞

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-126729 (P2015-126729A)
公開日 平成27年7月9日(2015.7.9)
発明の名称または考案の名称 魚類の生殖細胞の性決定方法、性判別方法、被検物質の性分化の攪乱作用の評価方法、雌雄同体の作製方法、早期成熟個体の作製方法、生殖細胞、魚類個体、配偶子、及び培養細胞
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/01        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12N   5/076       (2010.01)
C12N   5/075       (2010.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 X
C12N 5/00 102
C12N 5/00 202A
C12N 5/00 202F
C12N 5/00 202E
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 P
G01N 33/68
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 17
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2014-241331 (P2014-241331)
出願日 平成26年11月28日(2014.11.28)
優先権出願番号 2013248269
優先日 平成25年11月29日(2013.11.29)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】田中 実
【氏名】西村 俊哉
出願人 【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100121821、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 強
【識別番号】100139480、【弁理士】、【氏名又は名称】日野 京子
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
4B065
Fターム 2G045AA39
2G045CB01
2G045DA14
2G045DA36
4B024AA11
4B024AA20
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4B063QA01
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4B063QR32
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4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065BA04
4B065BA16
4B065CA46
要約 【課題】魚類の生殖細胞の性を制御することができる生殖細胞の性決定方法、並びにこの性決定方法により性が決定された生殖細胞、魚類個体、配偶子及び培養細胞を提供する。
【解決手段】魚類の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、生殖細胞の性を制御する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
魚類の生殖細胞の性を決定する方法であって、
前記生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、前記生殖細胞を精子に分化させることを特徴とする性決定方法。
【請求項2】
性的未分化の生殖細胞又は性的可塑性を保っている生殖細胞のfoxl2b遺伝子の発現を抑制する、請求項1に記載の性決定方法。
【請求項3】
生殖細胞でfoxl2b遺伝子が発現する時期にその発現を抑制することにより前記生殖細胞を精子に分化させる、請求項2に記載の性決定方法。
【請求項4】
前記生殖細胞を遺伝子型とは異なる性に分化させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の性決定方法。
【請求項5】
foxl2b遺伝子の発現が抑制された魚類の生殖細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の生殖細胞を有する魚類個体。
【請求項7】
foxl2b遺伝子のホモ接合変異を持つ、請求項6に記載の魚類個体。
【請求項8】
雌雄同体である、請求項6又は7に記載の魚類個体。
【請求項9】
早期成熟個体である、請求項6~8のいずれか一項に記載の魚類個体。
【請求項10】
請求項5に記載の生殖細胞に由来する配偶子。
【請求項11】
請求項10に記載の配偶子を用いて受精を行い、その受精卵を孵化させて得られる魚類個体。
【請求項12】
請求項5に記載の生殖細胞を培養して得られる培養細胞。
【請求項13】
魚類の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより雌雄同体の魚類個体を作製する、雌雄同体の作製方法。
【請求項14】
魚類の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、早期成熟個体である魚類個体を作製する、早期成熟個体の作製方法。
【請求項15】
魚類の生殖細胞の雌雄を判別する方法であって、
前記生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記検出工程による検出結果に基づいて前記生殖細胞の雌雄を判別する工程と、を含む性判別方法。
【請求項16】
前記検出工程は、幹細胞型生殖細胞又はシスト型生殖細胞でのfoxl2b遺伝子の発現を検出する工程である、請求項15に記載の性判別方法。
【請求項17】
被験物質の性分化の攪乱作用を評価する方法であって、
前記被験物質を魚類個体に投与する工程と、
前記魚類個体の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出する工程と、
該検出結果と前記生殖細胞の遺伝子型の性とに基づいて、前記被験物質によって性分化が攪乱作用を受けたか否かを判定する工程と、を含む評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の生殖細胞の性決定方法、性判別方法、被検物質の性分化の攪乱作用の評価方法、雌雄同体の作製方法、早期成熟個体の作製方法、生殖細胞、魚類個体、配偶子、及び培養細胞に関する。詳しくは、foxl2b遺伝子を用いた性決定方法、性判別方法、被検物質の性分化の攪乱作用の評価方法、雌雄同体の作製方法、及び早期成熟個体の作製方法、並びにfoxl2b遺伝子を操作して得られる生殖細胞、魚類個体、配偶子、及び培養細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
生殖細胞は、将来の卵や精子になる生殖において重要な細胞である。生殖細胞は、発生初期に体内を移動し、生殖腺が形成されるタイミングで生殖腺へと入り込む。その後、卵になるか精子になるかの決定や配偶子形成は、生殖腺を構成する体細胞に依存している。すなわち、生殖過程の制御は、生殖細胞非自律的に制御され、体細胞や内分泌環境に依存していると考えられてきた。そして、この制御の主要な部分は、哺乳類から魚類までのすべての脊椎動物で保存されていると予想されている。
【0003】
哺乳類の場合には、体細胞側で決まる性によって生殖細胞の運命も異なることが明らかにされている。すなわち、哺乳類では発生初期の生殖腺原基に雌雄の違いはなく、精巣にも卵巣にも分化することが可能である。ところが、Y染色体を持つ通常の雄ではやがてY染色体上のSRY遺伝子が体細胞で発現し、このSRY遺伝子によって生殖腺原基から精巣への分化が誘導されることが分かってきている(非特許文献1参照)。また、メダカでもY染色体上のDmy遺伝子が生殖腺の体細胞で発現することで雄になることが明らかにされている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Sinclar et al. Nature (1990) 346巻240-244
【非特許文献2】Matsuda et al. Nature (2002) 417巻559-563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体細胞の性の影響を受けて生殖細胞がどのようにして卵及び精子のいずれに分化するか、その選択の機構は生殖細胞内では未だ明らかにされていない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、魚類の生殖細胞の性を制御することができる生殖細胞の性決定方法、並びに当該性決定方法により性が操作された生殖細胞、魚類個体、配偶子及び培養細胞を提供することを一つの目的とする。また、雌雄同体又は早期成熟個体の魚類個体を得るための方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、生殖細胞の段階で雌雄を判別することができる性判別方法を提供することを他の一つの目的とする。また更に、被検物質における性分化の攪乱作用について評価することができる評価方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
メダカは通常、XYの組み合わせで性染色体を持つと雄となり、XXの組み合わせで持つと雌へと分化する。メダカ胚発生における生殖細胞の分化はこのXY型とXX型とで異なる。XY型では、胚発生の期間から幼魚までの期間では生殖細胞は幹細胞型のみが存在し、孵化後1月ほど経って初めてシスト型生殖細胞が出現し精子形成が開始される。一方、XX型では、まだ孵化する前の胚の発生段階33では幹細胞型生殖細胞のみが存在するが、発生段階35以降になると、幹細胞型生殖細胞から卵形成にコミットしたシスト型生殖細胞も分化出現し、孵化後10日までには初期卵母細胞が分化する。幹細胞型生殖細胞は性的に可塑的であると予想されることから、本発明者らは、生殖細胞の性決定は幹細胞型生殖細胞から初期卵母細胞が分化するまでの期間のどこかで起きていると考えた。
【0008】
こうした着眼点に基づき、本発明者らは、XX型/XY型を区別した発生段階33と35のメダカから生殖細胞をタイプ別に分離して遺伝子発現を調べ、性決定遺伝子の解析を行った。その結果、発生段階35まではXX型/XY型ともに幹細胞型生殖細胞で発現があるが、孵化(発生段階40)後にやがてXY型で発現がなくなり、XX型の幹細胞型生殖細胞及びシスト型生殖細胞では発現が継続する遺伝子が存在することを見出し、その遺伝子にfoxl2b遺伝子があることを特定した。
【0009】
本発明者らは更に鋭意検討し、XX型のメダカ胚においてfoxl2b遺伝子を欠損させることを試みた。上記のように、通常のXX型のメダカでは、孵化後10日までには卵母細胞が出現し、生殖腺も卵巣化する。また、XY型のメダカでは、孵化直後の時点において生殖腺には幹細胞型生殖細胞のみが存在し、精子形成は行われておらず、孵化後1月以降に精子形成が始まる。ところが、驚くべきことに、foxl2b遺伝子を欠損させたホモ接合変異を持つXX型個体の生殖腺は、遺伝的性と一致して卵巣構造を発達させるが、その卵巣構造の中で1ヶ月も待たずに、受精可能な精子を早くから作り出すことが明らかになった(早期成熟個体)。このことから、foxl2b遺伝子は、生殖細胞が雄化(精子形成)を開始することを抑制していることで性決定に関与している遺伝子であり、生殖細胞が卵になるか精子になるかを切り替えるスイッチ遺伝子であることが判明した。さらには、この遺伝子欠損個体では少量の受精可能な卵も形成されることが判り、雌雄同体個体であることが判明した。そして、本発明者らは、こうした新たな知見が得られたことに基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1]魚類の生殖細胞の性を決定する方法であって、前記生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、前記生殖細胞を精子に分化させることを特徴とする性決定方法。
[2]性的未分化の生殖細胞又は性的可塑性を保っている生殖細胞に対してfoxl2b遺伝子の発現を制御する、上記[1]に記載の性決定方法。
[3]生殖細胞でfoxl2b遺伝子が発現する時期にその発現を抑制することにより前記生殖細胞を精子に分化させる、上記[2]に記載の性決定方法。
[4]前記生殖細胞を遺伝子型とは異なる性に分化させる、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の性決定方法。
[5]foxl2b遺伝子の発現が抑制された魚類の生殖細胞。
[6]上記[5]に記載の生殖細胞を有する魚類個体。
[7]foxl2b遺伝子のホモ接合変異を持つ、上記[6]に記載の魚類個体。
[8]雌雄同体である上記[6]又は上記[7]に記載の魚類個体。
[9]早期成熟個体である上記[6]~[8]のいずれか一項に記載の魚類個体。
[10]上記[5]に記載の生殖細胞に由来する配偶子。
[11]上記[10]に記載の配偶子を用いて受精を行い、その受精卵を孵化させて得られる魚類個体。
[12]上記[5]に記載の生殖細胞を培養して得られる培養細胞。
[13]魚類の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより雌雄同体の魚類個体を作製する、雌雄同体の作製方法。
[14]魚類の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、早期成熟個体である魚類個体を作製する、早期成熟個体の作製方法。
[15]魚類の生殖細胞の雌雄を判別する方法であって、
前記生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記検出工程による検出結果に基づいて前記生殖細胞の雌雄を判別する工程と、を含む性判別方法。
[16]前記検出工程は、幹細胞型生殖細胞又はシスト型生殖細胞でのfoxl2b遺伝子の発現を検出する工程である、上記[15]に記載の性判別方法。
[17]被験物質の性分化の攪乱作用を評価する方法であって、
前記被験物質を魚類個体に投与する工程と、
前記魚類個体の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出する工程と、
該検出結果と前記生殖細胞の遺伝子型の性とに基づいて、前記被験物質によって性分化が攪乱作用を受けたか否かを判定する工程と、を含む評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、foxl2b遺伝子の発現を抑制することにより、魚類の生殖細胞の性を制御することができる。また、身体とは別に生殖細胞のみを雄化(精子化)させることができる。さらに、早期成熟で精子を作り出す魚類個体及び雌雄同体の魚類個体を得ることができる。また、生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出することにより、生殖細胞の段階で雌雄を判別することができる。また、foxl2b遺伝子を指標とすることにより、被検物質における性分化の攪乱作用について評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】olvas-GFP XY雄メダカとolvas-GFP YY雄メダカとを区別する際に用いたXY/YY判定図。
【図2】セルソーターによる蛍光測定結果を示す図。
【図3】RNA in situ hybridization法によるfoxl2b RNAの発現の検出結果を示す図。左図は幼魚で形成中の卵巣の組織図、右図は幼魚で形成中の精巣の拡大組織図である。
【図4】免疫組織化学法によるfoxl2b蛋白質の発現の検出結果を示す図。
【図5】孵化後10日目のXXホモ接合変異体の生殖腺の形態観察図。
【図6】RNA in situ hybridization法によるプロタミン蛋白質のRNA検出結果を示す図。
【図7】成熟したXXホモ接合変異体の生殖腺の形態観察図。左図は成熟したXXホモ接合変異体の生殖腺、右図は左図の白枠部分の拡大図である。
【図8】RNA in situ hybridization法によるP450 aromataseのRNA検出結果を示す図。上図はXXホモ接合変異体(foxl2b -/-)の生殖腺、下図はXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)の生殖腺である。共に発達中の生殖腺である。
【図9】RNA in situ hybridization法による雌特異的遺伝子foxl2aのRNA検出結果を示す図。上図はXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)の生殖腺、下図はXXホモ接合変異体(foxl2b -/-)の生殖腺である。共に発達中の生殖腺である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、foxl2b遺伝子の雌雄における発現の相違を利用して魚類の生殖細胞の性決定及び雌雄の判別を行うものである。また、こうした性決定方法を利用して性が操作された生殖細胞及び魚類個体に関する。以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書における「個体」は、受精によって発生が開始された後の全ての形態を含み、魚類胚、幼魚及び成魚を含む意味である。また、魚類胚には受精卵が含まれる。

【0014】
(魚類)
本発明に適用される魚類は特に限定されず、実験又は研究用、食用、観賞用、養殖用など種々の用途の魚類に適用することができる。具体的には、例えばメダカ、ゼブラフィッシュ、キンギョ、ドジョウ、ティラピア、ウナギ、アナゴ、コイ、フナ、ヘダイ、マダイ、サケ、ニジマス、アマゴ、ブリ、マグロ、フグ、ヒラメ、ヤマメ等が挙げられる。当該魚類は、硬骨魚類、軟骨魚類、顎口魚類等のいずれの分類に属するものも適用することができる。硬骨魚類に好ましく適用可能であり、例えばメダカ属(Oryzias)及びその近縁に属する魚類などが挙げられる。メダカとしては、例えば野生型や、特開2001-346480号公報に記載の透明メダカなどの突然変異型、vasa-GFP遺伝子をヒメダカの受精卵に導入して発現させることにより生殖細胞だけが緑色蛍光を発するトランスジェニックメダカ(PNAS,2001,98,2544-2549)などを用いることができる。このトランスジェニックメダカを用いた場合、生殖細胞が可視化され、個体からの生殖細胞の単離を容易に行うことが可能となる。

【0015】
(foxl2b遺伝子)
foxl2b遺伝子は、フォークヘッド型のDNA結合ドメインを持つ蛋白質ファミリーに属し、ゲノムデータベース上では魚類に見出される遺伝子である。したがって、魚類で共通の機能を持つと生物学的に考えられる。foxl2b遺伝子は、種を超えて保存されているfoxl2遺伝子と同じ蛋白質ファミリーに属している。ここで、一般的にfoxl2遺伝子は、卵ろ胞の体細胞で発現する雌特異的遺伝子を意味することが多く、哺乳類や鳥類、魚類でも広く見出される。なお、魚類ではfoxl2をfoxl2aとも表記する。一方、foxl2b遺伝子はfoxl2aとは別の遺伝子であり、その機能については、本出願前において未だ詳細は明らかにされていない。foxl2b遺伝子はfoxl2a遺伝子とは異なり、生殖細胞中で発現する遺伝子であることが本発明者らによって今回初めて明らかにされた。また、foxl2b遺伝子は、遺伝子型が雄か雌かに応じて発現時期が異なり、XY型の生殖細胞では発生が進むにつれてやがて発現がなくなるのに対し、XX型の生殖細胞では、幹細胞型生殖細胞及びシスト型生殖細胞において継続して発現していることが本発明者らの検討結果により明らかになった。配列表の配列番号1はメダカ(Oryzias latipes)のfoxl2b遺伝子の塩基配列、配列番号2はfoxl2b遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列である。なお、foxl2b遺伝子は、分類や呼称の仕方によっては「foxl3遺伝子」と呼ばれることがある。

【0016】
<生殖細胞の性決定方法>
本発明の性決定方法は、魚類の生殖細胞中のfox2b遺伝子の発現を抑制することにより、その生殖細胞の性を人為的に決定するものである。ここで、「遺伝子の発現を抑制」とは、遺伝子発現をmRNAレベル又は蛋白質レベルで抑制すること、及びその蛋白質の機能を抑制することを含む概念である。

【0017】
生殖細胞におけるfoxl2b遺伝子の発現の抑制は、性的に未分化、あるいは性的可塑性を保っている生殖細胞に対して行うことが好ましい。foxl2b遺伝子の発現を制御する対象の生殖細胞は、その遺伝子型の性が雌雄いずれであってもよい。例えば通常のメダカの場合、性染色体に従って性分化した生殖細胞は、性染色体がXY型であれば雄(精子)となり、XX型であれば雌(卵)となる。これに対し、本方法により生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を人為的に制御することにより、生殖細胞を遺伝子型とは異なる性に分化させることができる。具体的には、生殖細胞中においてfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより生殖細胞を精子に分化させることができる。

【0018】
生殖細胞中のfoxl2b遺伝子を制御する好ましい時期は、性決定の制御対象となる魚類の生殖腺の発達に応じて適宜選択することができる。具体的には、生殖細胞を精子に分化させるには、生殖細胞でfoxl2b遺伝子が発現する時期にその発現を抑制することが好ましい。例えばメダカでは生殖腺の分化時期が孵化前後であり、この時期に生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を抑制することが可能である。また、幹細胞型及びシスト型生殖細胞は性的未分化又は性的可塑性を保っていると考えられるので、性分化後の幼魚の時期、成熟生殖腺(卵巣)においても制御することが可能である。また、ヌタウナギのように孵化から数年後に性分化すると考えられている個体については、個体に応じた性分化の時期に合わせて生殖細胞中のfoxl2bの遺伝子の発現を抑制することができる。

【0019】
生殖細胞中においてfoxl2b遺伝子の発現を抑制させる方法としては、標的遺伝子の非活性化が可能であれば特に制限されるものではない。例えば遺伝子学的手法、環境ホルモンの投与、温度などの環境的要因などを利用する各種手法を採用することができる。なお、foxl2b遺伝子の発現を抑制する化学物質はケミカル・スクリーニングにより取得することができる。

【0020】
遺伝子学的手法によって生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を抑制するには、標的遺伝子であるfoxl2b遺伝子を欠損又は改変することにより行うことができる。遺伝子の欠損又は改変の対象とする生殖細胞は、受精卵を含む魚類胚、幼魚及び成魚のいずれの生殖細胞であってもよい。また、遺伝子を欠損又は改変する手法としては、例えばENUなどの化学変異剤処理、放射線照射処理、人工のDNA切断酵素による処理などが挙げられる。これらの中でも、目的部位の遺伝子配列の欠損及び改変の精度が高い点でDNA切断酵素による方法を用いて行うことが好ましい。その具体例としては、foxl2b遺伝子の破壊ベクターを構築し、その破壊ベクターをfoxl2b遺伝子保有の個体(魚類胚、幼魚及び成魚を含む。)又は個体から採取した生殖細胞に導入することによって行う方法が挙げられる。なお、こうした破壊ベクターの構築は、例えばGolden Gate Assembly System(Golden Gate Bridge社製)などを用いて行うことができる。遺伝子導入は、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法などの周知の方法によって行うことができる。

【0021】
foxl2b遺伝子の欠損又は改変の部位は、標的遺伝子の活性化を抑制可能であれば特に限定しない。例えばメダカの場合、開始コドンより27-45塩基目の塩基配列(5’-TAL)及び148-156番目の塩基配列(FH-TAL)のうちの少なくともいずれかを含む部位を破壊することにより、foxl2b遺伝子をコードする蛋白質における主要ドメインの形成を阻害することが可能である。標的遺伝子の所望の塩基配列が欠損又は改変されたかどうかは、例えば標的配列の塩基配列の配列決定によって確認することができる。

【0022】
遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子から転写されたmRNA及び標的遺伝子によってコードされる蛋白質の少なくともいずれかを検出することにより評価することができる。具体的には、mRNAに基づき評価する場合には、標的遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、定量的PCR、マイクロアレイなどにより、標的遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより行うことができる。蛋白質に基づき評価する場合には、標的遺伝子によってコードされる蛋白質に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング、ELISAなどの免疫学的な方法により、その蛋白質の発現量を測定することにより行うことができる。

【0023】
<性判別方法>
本発明の性判別方法は、生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を検出することにより、その生殖細胞が卵になるか精子になるかを判別するものである。foxl2b遺伝子の発現の検出は、標的遺伝子に対応するmRNA及び蛋白質の少なくともいずれかを検出することによって行うことができる。これらのmRNA及び蛋白質の検出方法については上記に説明した通りである。

【0024】
生殖細胞の雌雄の判定は、生殖細胞の発生過程において遺伝子型の性が雄か雌かでfoxl2b遺伝子の発現態様が異なる時期に行えばよい。上述した通り、XY型の生殖細胞では、発生が進むにつれてやがてfoxl2b遺伝子の発現がなくなるのに対し、XX型の生殖細胞では、幹細胞型生殖細胞及びシスト型生殖細胞においてfoxl2b遺伝子が継続して発現する。このような点に鑑み、幹細胞型生殖細胞又はシスト型生殖細胞でのfoxl2b遺伝子の発現を検出し、その発現に基づいて生殖細胞の雌雄を判定するとよい。例えばメダカでは、foxl2b遺伝子の発現量の差が雌雄の間でより明確である点から、孵化後10日前後以降で検出することが好ましい。

【0025】
foxl2b遺伝子の発現の検出結果に基づく判定は、次のようにして実施することができる。すなわち、生殖細胞中でのfoxl2b遺伝子の発現有りと検出された場合又はその発現量が所定以上であった場合には、表現型の性は雌性である、つまり卵に分化すると判定する。一方、生殖細胞中でのfoxl2b遺伝子の発現が検出されなかった場合又はその発現量が所定未満であった場合には、表現型の性は雄性である、つまり精子に分化すると判定する。雌雄判定に用いるためには、魚類胚全体を用いてもよく、個体の全体もしくは一部を用いてもよく、これらにおいてfoxl2b遺伝子の発現の相違が検出されればよい。また、生殖細胞を単離するときは、魚類胚、幼魚及び成魚のいずれから採取した生殖細胞であってもよい。このとき、魚類胚又は幼魚から生殖細胞を採取し、その生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を検出することにより、魚類個体が卵を作るか精子を作るか(雌雄)をできるだけ早期に判別することができる。

【0026】
<生殖細胞及び魚類個体>
本発明の生殖細胞は、上記のようにしてfoxl2b遺伝子の発現が抑制された細胞を含む。また、本発明の魚類個体は、foxl2b遺伝子の発現が抑制された生殖細胞を有する個体を含む。一旦、foxl2b遺伝子の発現が抑制された形質転換体が得られれば、その個体から子孫を得ることが可能である。また、その形質転換体やその子孫又はクローンを基に魚類個体を量産することも可能である。

【0027】
本発明の生殖細胞は、foxl2b遺伝子の個体内操作によって得ることもできるし、あるいは個体から生殖細胞を採取し、その採取した生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の試験管内操作によって得ることもできる。いずれの場合にも、遺伝子操作の対象となる個体は魚類胚であってもよく、幼魚であってもよく、あるいは成魚であってもよい。生殖細胞中のfoxl2b遺伝子を制御する方法については上述の通りである。

【0028】
また、本発明の生殖細胞を有する個体は、例えば(I)生殖細胞中のfoxl2b遺伝子を個体内で操作する方法、(II)生殖細胞中のfoxl2b遺伝子を試験管内で操作し、その生殖細胞を用いた受精により個体を作製する方法、(III)生殖細胞中のfoxl2b遺伝子を試験管内で操作してその生殖細胞を個体に戻す方法、等によって得ることができる。

【0029】
上記(II)について詳しくは、例えば(1)魚類個体から生殖細胞を採取する工程、(2)採取した生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を抑制することにより生殖細胞の性を制御する工程、及び(3)foxl2b遺伝子の発現を抑制した生殖細胞を用いて魚類個体を作製する工程、を含む方法とすることができる。これらの工程のうち(3)では、foxl2b遺伝子の発現を抑制した生殖細胞を培養して配偶子を作製し、その配偶子を用いた受精によって受精卵を得た後、これを孵化させることにより魚類個体を作製することができる。このとき、foxl2b遺伝子の発現が人為的に抑制された生殖細胞に由来する配偶子(卵又は精子)と、foxl2b遺伝子の発現が抑制されていない配偶子(精子又は卵)とを用いた受精によって魚類個体を作製してもよいし、あるいはfoxl2b遺伝子の発現が人為的に制御された生殖細胞に由来する配偶子を用いた受精によって魚類個体を作製してもよい。なお、上記工程(3)では、表現型の性が人為的に決定された魚類の配偶子を作製することもできる。配偶子を得るための生殖細胞の培養条件及び培養方法については、生殖細胞が卵又は精子に成育する範囲で適宜設定することができる。

【0030】
また、上記(III)では、上記工程(1)及び工程(2)によってfoxl2b遺伝子の発現が抑制された生殖細胞を作製した後、この生殖細胞を個体の生殖腺に戻すことにより、foxl2b遺伝子の発現が抑制された生殖細胞を有する個体を得ることができる。このとき、生殖細胞を戻す対象となる個体は、上記工程(1)で生殖細胞の採取の対象とした個体であってもよいし、あるいは細胞を採取した個体とは別の個体であってもよい。個体に戻された生殖細胞はその個体内で精子に分化する。なお、遺伝子操作した生殖細胞を魚類個体の生殖腺に戻す操作は従来公知の方法に従って行うことができる。

【0031】
本発明の生殖細胞を有する個体は、foxl2b遺伝子のヘテロ接合変異(foxl2b +/-)を持つ魚類個体であってもよく、foxl2b遺伝子のホモ接合変異(foxl2b -/-)を持つ魚類個体であってもよい。このホモ接合変異体の遺伝子型が雌である場合には雌雄同体となる場合があり、遺伝的性と一致して卵巣を発達させるとともに、その生殖腺で受精可能な精子を作り出す。なお、孵化させるための培養条件は魚類に応じて適宜設定することができる。また、foxl2b遺伝子を操作して得られる本発明の生殖細胞を培養することにより、所望の性になるように制御された生殖細胞を大量生産することができる。なお、生殖細胞の培養は従来公知の方法に従って行えばよく、その培養条件等については適宜設定することができる。

【0032】
本発明により、foxl2b遺伝子のホモ接合変異(foxl2b -/-)を持つ魚類個体が受精可能な卵を同時に発達させることがあることから、雌雄同体になりうることが明らかになった。この雌雄同体によって形成された配偶子を用いて受精を行い、その受精卵を孵化させることにより、子孫を更に得ることもできる。このとき、雌雄同体によって形成された卵又は精子と、通常の魚類(雌雄異体)によって形成された精子又は卵子との間での受精(他家受精)によって子孫を作製してもよいし、あるいは雌雄同体によって形成された卵と精子との間での受精(自家受精)によって子孫を作製することもできる。後者の場合、1個体で子孫を作製可能であり、魚類個体の増殖をより効率よく実施できる点で好ましい。例えばステロイドホルモンによる従来の性転換では、一旦成魚又は幼魚にまで生育させ、その魚類個体にステロイドホルモンを投与して性転換することによって雌雄を揃える必要がある。これに対し、foxl2b遺伝子のホモ接合変異を持つ魚類個体は、身体とは別に生殖細胞のみを雄化することが可能であり、孵化させるだけで卵及び精子を揃えることができる。また、配偶子が形成されるまでの時間が通常の魚類個体よりも短い早期成熟個体を得ることも可能である。

【0033】
こうして得られた生殖細胞及び配偶子は、例えば養殖業における稚魚の確保に有用である。養殖される主な魚類としては、例えばタイ、マグロ、ウナギなどが挙げられる。ところが、タイなどの性転換魚では雌雄が揃うまでに時間がかかり、マグロなどの大型魚では成熟するまでに時間がかかる。また、ウナギなどの魚類は一方の性しか養殖ができないといった面もある。この点、本発明によれば、遺伝子的性がコントロールされた生殖細胞及び配偶子の作製が可能あり、したがって、養殖業の生産性の向上や稚魚の確保といった点で有意である。また、自然界の資源減少を抑制することも可能である。

【0034】
<被験物質の評価方法>
本発明の評価方法は、foxl2b遺伝子の発現を指標として、被験物質が性分化の撹乱作用を有するかどうかを評価するものである。具体的には以下の工程を含む。
(2-1)被験物質を魚類個体に投与する工程。
(2-2)魚類個体の生殖細胞中におけるfoxl2b遺伝子の発現を検出する工程。
(2-3)該検出結果と、生殖細胞の遺伝子型の性とに基づいて、被験物質によって性分化が攪乱作用を受けたか否かを判定する工程。

【0035】
本発明において評価する「性分化の撹乱作用」としては、遺伝子型の性に従って表現型の性が現れない場合や、表現型の性が途中で変化した場合などが挙げられる。上記評価の対象となる被験物質としては特に制限はなく、天然の化学物質や、人工的に合成された化学物質のほか、河川水や海水、湖水、土壌などの環境由来の検体などが挙げられる。用いる被験物質は1種であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。

【0036】
上記工程(2-2)において、foxl2b遺伝子の発現の検出対象となる生殖細胞は、Foxl2bの発現の増減が検出されればどの時期の生殖細胞でもよく、魚類胚、幼魚及び成魚のいずれから採取した生殖細胞であってもよい。生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現を検出する方法は上記の説明の通りである。

【0037】
生殖細胞の遺伝子型の性を判定するには、例えば生殖細胞の採取対象となった魚類個体の性染色体を遺伝子解析する方法などによって行うことができる。また、性染色体の遺伝子解析の方法としては特に制限はないが、例えば性染色体上の雄特異的遺伝子を検出する方法などが挙げられる。

【0038】
被験物質が性分化の撹乱作用を有するかどうかは、生殖細胞中のfoxl2b遺伝子の発現検出結果と、その同一個体の生殖細胞の遺伝子型の性とを比較することによって評価できる。具体的には、(I)生殖細胞の遺伝子型の性が雌であるにもかかわらず、生殖細胞中においてfoxl2b遺伝子の発現が現れる時期にその発現が検出されないか又はその発現量が所定以下である場合、(II)生殖細胞の遺伝子型の性が雄であるにもかかわらず、生殖細胞中においてfoxl2b遺伝子の発現が消失するはずの時期の後にその発現が検出された場合に、その被験物質は性分化の撹乱作用を有する化学物質である旨確定する。こうした評価方法によれば、foxl2b遺伝子を指標として被験対象がヒト及び非ヒト動物の生体に及ぼす影響を評価することができるとともに、その被験物質が環境中に放出された場合の生体及び生態系への影響を評価することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0040】
メダカはY染色体を持つ(XY)と雄となり、ない(XX)と雌になる。ただし性転換を起こさせるとXYでも雌となり、XXでも雄となることがある。以下では、XY/XXは染色体レベルの性を、雄/雌は表現型レベルの性を示す。
【実施例】
【0041】
1.性決定遺伝子の解析
(1-1)生殖細胞単離のためのトランスジェニックメダカ
緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子を生殖細胞特異的に発現したトランスジェニックメダカ(PNAS 2001 98,2544-2549、以下「olvas-GFPメダカ」と記載する。)を用いた。
【実施例】
【0042】
(1-2)染色体XX集団/XY集団の胚の作成
XX集団:olvas-GFP XX雌メダカ胚を、雄性ホルモンである11-ケトテストステロン100ng/mlで処理し、olvas-GFP XX雄性転換体を作製した。このXX雄性転換体に通常のolvas-GFP XX雌メダカを交配させ、全てがXXのolvas-GFP雌メダカ胚を得た。
XY集団:olvas-GFP XY雄メダカ胚を、雌性ホルモンであるエストロゲン(Estrogen)200ng/mlで処理し、olvas-GFP XY雌性転換体を作製した。このXY雌性転換体と通常のolvas-GFP XY雄メダカとを交配させ、olvas-GFP YY雄メダカを得た。さらに、このolvas-GFP YY雄メダカと通常のolvas-GFP XX雌メダカとを交配し、全てがXYのolvas-GFP雄メダカ胚を得た。
【実施例】
【0043】
XY/YYの検定は、DMY遺伝子のゲノム上のコピー数をABI StepOnePlus Real-Time PCR systemにて測定して行った。DMY遺伝子は、Y染色体にのみ存在する遺伝子である。DMY遺伝子のゲノム上のコピー数はΔΔCt法にて算出し、cyp19aにて標準化した。図1は、XY/YYの判定図である。図1に示すように、XY1~XY6の6つの個体ではほぼ1であり、YY1及びYY2の2つの個体ではほぼ2を示した。この結果から、XY1~XY6はY染色体を1本、YY1及びYY2はY染色体を2本持つ個体であることが判った。
【実施例】
【0044】
以上の交配により、olvas-GFP XYメダカ及びolvas-GFP XXメダカの発生段階33と発生段階35の胚をおよそ500匹ずつ準備した。
【実施例】
【0045】
(1-3)幹細胞型生殖細胞/シスト型生殖細胞/初期卵母細胞のRNA精製
メダカ胚の頭部と尾部とを切り離し、体幹部を酵素液(Leibovitz L15に溶解した1%トリプシン(Worthington社製)と0.2%コラゲナーゼ(Worthington社製))で2時間29℃にて処理を行った。処理中15分おきに10回のピペッティングを行った。遠心後、10% FBS入りのLeibovitz L15で再懸濁し、35μmメッシュのセルストレーナーで残渣を除いた後、軽く遠心して溶液を取り除き、得られた細胞をシース液に再懸濁した。
再懸濁液をセルソーター(Beckman Coulter社製COULTER EPICS ALTR)にかけ、発生段階が異なる種類の生殖細胞を分取した。分取に際しては、空冷アルゴンレーザー(488nm)による励起光を525BP(バンドパス)フィルターに通し、生殖細胞の蛍光を検出することにより行った。EGFPの蛍光強度と細胞サイズ(FS peak)のゲーティングにより取得した。
【実施例】
【0046】
分取パラメータは以下のとおりとした。予備実験により生殖細胞の形態観察を行い、幹細胞型生殖細胞、シスト型生殖細胞及び初期卵母細胞をその形態から互いに区別できることを確認できれば(図2下図)、この条件は一例であり下記の値に厳密に依存するものではない。
・幹細胞型生殖細胞(図2 Gate A):蛍光強度(Y軸)が525nm Log:102以上、かつFS peak(X軸):2-32 (値は共にディテクターが検出した電圧をデジタル変換したもの)
・シスト型生殖細胞(図2 Gate E):蛍光強度(Y軸)が525nm Log:102以上、かつFS peak(X軸):2-4
・初期卵母細胞(図2 Gate F):蛍光強度(Y軸)が525nm Log:102以上、かつFS peak(X軸):16-32
【実施例】
【0047】
(1-4)RNA解析
分取された各生殖細胞から、RNAqueous-Micro Kit (Ambion社製)を用いてRNAを精製し、マイクロアレイ解析と次世代シークエンサーによるRNA網羅的解析とを行った。
・マイクロアレイ解析
Low Input Quick Amp Labeling kit(アジレント・テクノロジー社)を用いてRNAから蛍光ラベルされたプローブを作製し、毎分10回転させながら65℃で17時間ハイブリダイゼーションを行った。Gene Expression洗浄バッファ1(5188-5325)で室温1分、Gene Expression洗浄バッファ2(5188-5326)で37℃1分の洗浄を行い、シグナルをGenePix4000B(Axon Instruments)で読み取った。シグナルの数値化はFeature Extraction(アジレント・テクノロジー社)のソフトウェアを用いて行った。メダカマイクロアレイはアジレント・テクノロジー社のアレイ(ID: 027381)を用いた。
・次世代シークエンサー解析
TruSeq SBS Kit v3-HS(イルミナ社)とTruSeq PE Cluster Kit v3-cBot-HS(イルミナ社)を用いてRNAからcDNAの合成を行い、発現遺伝子の塩基配列を得た。Tophatソフトウェアを用いて得られた塩基配列をNBRPとEnsemblの公共データベースに対応させ、cufflinksソフトウェアで出現頻度から発現量(FPKM値)を推測した。
以上の解析結果から、発生段階33と35のXX型及びXY型の両方の幹細胞型生殖細胞と、XX型のシスト型生殖細胞でfoxl2b遺伝子が発現すると予想された。
【実施例】
【0048】
(1-5)RNA及び蛋白質の確認
上記(1-4)の結果につき、RNAレベルと蛋白質レベルで以下の実験により確認した。
・RNAレベル
in situ hybridization法によりfoxl2b RNAの発現を調べた。その結果を図3に示す。図3中、左図は幼魚で形成中の卵巣、右図は幼魚で形成中の精巣の拡大図である。図中、点線で囲まれた領域はシスト型生殖細胞を示し、その中に黒く濃染色されたfoxl2b の発現が認められた。矢印は幹細胞型生殖細胞を示し、うす黒色の楕円は細胞核を示している。この結果では、卵巣ではシスト型生殖細胞に強く、幹細胞型生殖細胞に弱くfoxl2b RNAの発現が見られたのに対して、精巣ではfoxl2b RNAの発現が検出されなかった。このことから、foxl2b RNAは、孵化後の幼魚のXY幹細胞型生殖細胞では発現が消失するが、XXではシスト型生殖細胞まで発現が継続することが明らかとなった。
【実施例】
【0049】
・蛋白質レベル
foxl2b cDNA配列から予想されるアミノ酸配列(246-262: CAPYGRQTESPALGFQSD(配列番号3))を持つ合成ペプチド、及びそのペプチドを抗原とした抗体の作製を医学生物学研究所(MBL)に依頼した。作製されたfoxl2b抗体を行い、免疫組織化学法でFOXL2b蛋白質の発現を調べた。FOXL2b蛋白質の発現の確認は、幼魚で形成中の卵巣を用いて行った。その結果を図4に示す。FOXL2b 蛋白質は、大きな初期卵母細胞や体細胞では発現が見られないのに対し、点線で例示した小さなシスト型生殖細胞と幹細胞型生殖細胞の核で検出された。なお、黒く抜けた大きな白い円は初期卵母細胞で発現ではない。すなわち、foxl2b RNAの発現と同じ時期及び種類の生殖細胞でFOXL2bの蛋白質が検出された。
以上の結果から、得られた発現パターンはfoxl2bが生殖細胞の性分化に関与する遺伝子である可能性が示唆された。
【実施例】
【0050】
2.foxl2b遺伝子の機能検証
(2-1)foxl2bホモ接合変異体の作成
foxl2b遺伝子の機能検証のため、TALEN法によるfoxl2bの遺伝子破壊実験を行った。遺伝子破壊実験では、Golden Gate Bridge 社のGolden Gate Assembly Systemを用いて2種類の遺伝子破壊ベクターを作製した。予定破壊箇所は、予想開始コドンよりそれぞれ27-45塩基目(5’-TAL)、148-156塩基目(FH-TAL)とした。このベクターを、受精直後から4細胞胚ぐらいまでの時期のメダカ胚に顕微微量注入し、幼魚にしてからゲノムを抽出した。抽出したゲノムにつき、上記の遺伝子破壊ベクターによって予定破壊箇所が壊されているかを塩基配列決定により確認した。その結果、いずれのベクターも破壊機能を持つことが確認されたので、顕微微量注入したメダカ胚を親にまで育て(F0世代)、通常olvas-GFP メダカと交配を行った。
この交配から得られた次世代(F1世代)メダカのfoxl2b遺伝子の塩基配列を確認し、foxl2b遺伝子が壊れていること確認した。foxl2b遺伝子の5’-TGAGCGGGGAGTGCAGCTCCTGGA-3’配列(配列番号4)が5’-TGAGCGG-3’になっているolvas-GFPメダカ(foxl2b-FHΔ17)と、5’-CCAGAGAAAAACCCTGG-3’配列(配列番号5)が5’-CCAGACTGG-3’になっているolvas-GFPメダカ(foxl2b-NΔ8)は、予想アミノ酸配列から蛋白質の重要なドメインが作られないと予想された。そこで、ヘテロ接合変異(foxl2b +/-)をもつこの2種類の遺伝子破壊メダカを親にまで育て、集団内交配(インクロス)を行った。ここから得られた次世代(F2)でホモ接合変異(foxl2b -/-)を持つ個体の表現型解析を行った。
なお、表現型解析を行った個体が変異を持つか否かは、qPCR法を用いた融解曲線、もしくは変異箇所のDNAをPCRで増幅しその塩基配列を読むことで判定した。また、生殖腺中の生殖細胞は、GFPを免疫組織化学法で検出することで同定した。
【実施例】
【0051】
(2-2)XXホモ接合変異体における卵巣及び精子形成
通常のXXメダカでは、孵化後10日までには卵母細胞が出現し、生殖腺も卵巣化する。また、通常のXYメダカの生殖腺では、孵化後10日目では幹細胞型生殖細胞のみ存在し、精子形成は行われていない(孵化後1ヶ月以降に精子形成が始まる。)。XXホモ接合変異体の形態を確認するために以下の解析を行った。
【実施例】
【0052】
・孵化後10日目のXXホモ接合変異体生殖腺の形態観察
孵化後10日目のXXホモ接合変異体の生殖腺を共焦点レーザー顕微鏡により観察した。ここでは、ホモ接合変異体foxl2b-FHΔ17の生殖腺組織をそのままで観察した。その結果を図5に示す。図5のうち、左図は孵化後10日目のXXホモ接合変異体の生殖腺、右図は左図の白枠部分の拡大図である。
図5に示すように、XXホモ接合変異体の生殖腺では、白い小さな核として判別される精子が多数観察された(図5右図中の白く小さな丸状のもの。)。この結果はホモ接合変異体foxl2b-NΔ8でも同じであったことから、この表現型はfoxl2b 遺伝子が欠損したときの表現型と判断される。
・in situ hybridizationによる精子特有蛋白質のRNA検出
さらに、孵化後10日目のXXホモ接合変異体の生殖腺において、精子特有の蛋白質であるプロタミンが発現しているかどうかをin situ hybridizationによって確認した。その結果を図6に示す。図6に示すように、XXホモ接合変異体の生殖腺ではプロタミンRNAが発達中の卵巣で検出された(図中の黒く濃く染まっているところ。矢印で例示)。
XXホモ接合変異体の生殖腺の形態観察及びプロタミン発現の検出結果から、XXホモ接合変異体は、孵化後10日までには生殖腺に精子を作り出すことが判明した。これは、通常のXYメダカで精子形成が始まるまでの時期(孵化後の第二次性徴発現後(約1ヶ月以降))よりも短く、XXホモ接合変異体によれば精子を第二次性徴発現前の早期に形成できることが判明した。
【実施例】
【0053】
・成熟XXホモ接合変異体生殖腺の形態観察
さらに、成熟したXXホモ接合変異体の生殖腺の形態を共焦点レーザー顕微鏡によって観察した。ここでは生殖腺を切片にしてから観察した。その結果を図7に示す。図7のうち、左図は成熟したXXホモ接合変異体の生殖腺、右図は左図の白枠部分の拡大図である。
図7の左図に示すように、成熟したXXホモ接合変異体の生殖腺では、上部の卵巣腔(T字型の黒く抜けている箇所)やその下部のストローマ領域など、卵巣に特徴的な構造が見いだされ、外見も卵巣様を呈していた。このXXホモ接合変異体では、通常だと卵が存在する卵巣のストローマ中に、白い小さな細胞核として認識される精子が多数充填していた(白枠部分)。また、卵もストローマ中に少量ながら見いだされた。
さらに、成熟XXホモ接合変異体と野性型雄とを交配すると受精卵が得られた。このことから、成熟XXホモ接合変異体が発達させる卵は機能的な卵であり、かつ前述のように精子も多数作り出すため、成熟XXホモ接合変異体は雌雄同体としても成育することがあることが明らかとなった。
【実施例】
【0054】
この精子を抽出して未受精卵4つと混ぜたところ、4つの卵ともが受精してメダカ個体にまで育った。このことは、卵巣の中で産生された精子は完全に機能的な精子であることを示している。
【実施例】
【0055】
・in situ hybridizationによるaromataseのRNA検出
XXホモ接合変異体において、雌のステロイド産生に必須の蛋白質であるP450 aromataseが発達中の生殖腺で発現しているかどうかをRNA in situ hybridization法によって確認した。その結果を図8に示す。図8中、上図はXXホモ接合変異体(foxl2b -/-)の生殖腺であり、下図はXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)の生殖腺である。XXホモ接合変異体(foxl2b -/-)及びXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)のいずれの生殖腺でも蛋白質P450 aromataseの遺伝子が発現していることが確認された(図中黒く濃く染まっているところ。矢印で例示)。
・in situ hybridizationによるfoxl2a遺伝子のRNA検出
また同様に、XXホモ接合変異体において、卵ろ胞の体細胞で発現する雌特異的遺伝子foxl2aが発達中の生殖腺で発現しているかどうかをRNA in situ hybridization法によって確認した。その結果を図9に示す。図9中、上図はXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)の生殖腺であり、下図はXXホモ接合変異体(foxl2b -/-)の生殖腺である。XXホモ接合変異体(foxl2b -/-)及びXXヘテロ接合変異体(foxl2b +/-)のいずれの生殖腺でもfoxl2a遺伝子が発現していることが確認された(図中黒く濃く染まっているところ。矢印で例示)。
これらのRNA in situ hybridizationの結果から、foxl2b遺伝子を欠損させたXXホモ接合変異体では生殖腺が卵巣構造を示すことと一致し、体細胞は遺伝子レベルでも雌化していることが明らかとなった。
【実施例】
【0056】
また、細胞の雄化の指標となるdmrt1遺伝子及びgsdf遺伝子の発現についてもin situ hybridization法で確認したが、これらの遺伝子は検出されなかった。
なお、XYホモ接合変異体では通常のXYメダカと同様に精巣が発達し、通常のXX雌に交配させたところ次世代が得られたことから、機能的精子を作り出していると判定された。
【実施例】
【0057】
以上の結果、foxl2b遺伝子は生殖腺の発達につれてXYの生殖細胞での発現がなくなり、XX生殖細胞でのみ発現が継続することが確認された。さらには、XXホモ接合変異体の体細胞は雌化し、卵巣を発達させているにも関わらず、機能的な精子が産生されることから、foxl2b遺伝子は生殖細胞が雄化(精子形成)を開始することを抑制していることで性決定に関与している遺伝子であるといえる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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