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明細書 :Aβペプチド酸化体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-017082 (P2015-017082A)
公開日 平成27年1月29日(2015.1.29)
発明の名称または考案の名称 Aβペプチド酸化体
国際特許分類 C07K  14/47        (2006.01)
C07K   1/02        (2006.01)
C07K   1/113       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI C07K 14/47 ZNA
C07K 1/02
C07K 1/113
A61K 37/02
A61P 25/28
A61K 45/00
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2013-239622 (P2013-239622)
出願日 平成25年11月20日(2013.11.20)
優先権出願番号 2013125797
優先日 平成25年6月14日(2013.6.14)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】金井 求
【氏名】相馬 洋平
【氏名】谷口 敦彦
【氏名】佐々木 大輔
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA06
4C084AA07
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA31
4C084CA18
4C084CA28
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA16
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA52
4H045FA65
要約 【課題】Aβペプチドの凝集抑制剤及び毒性低減剤、並びにアルツハイマー病の予防治療剤の提供。
【解決手段】Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)。
【請求項2】
少なくともTyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されている請求項1記載のAβペプチド酸化体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のAβペプチド酸化体を含有する医薬。
【請求項4】
請求項1又は2記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするAβペプチド凝集抑制剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするAβペプチド毒性低減剤。
【請求項6】
請求項1又は2記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
Aβペプチドを酸化することを特徴とする、Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)の製造法。
【請求項8】
Aβペプチド酸化体が、少なくともTyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体である請求項7記載の製造法。
【請求項9】
Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とする医薬。
【請求項10】
Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするAβペプチド凝集抑制剤。
【請求項11】
Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするAβペプチド毒性低減剤。
【請求項12】
Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療剤。
【請求項13】
Aβペプチドを酸化することを特徴とするAβペプチドの凝集抑制方法。
【請求項14】
Aβペプチドを酸化することを特徴とするAβペプチドの毒性低減方法。
【請求項15】
Aβペプチドを酸化することを特徴とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Aβペプチド酸化体及びこれを有効成分とするアルツハイマー病の予防治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は神経細胞の変性、脱落と共に老人斑の形成と神経原線維変化の病理学的特徴を有する神経変性疾患である。アルツハイマー病は記憶、認識、思考、判断等が進行的に損失する認知症状を引き起こし、最終的に死に至らせる。
脳内に沈着した老人斑を構成する主たる物質はアミロイドβペプチド(Aβペプチド)であり、39-43個のアミノ酸から成る。Aβペプチドは細胞毒性を示し、これによりアルツハイマー病が引き起こされると考えられている(非特許文献1)。細胞から分泌されるAβペプチドは主に40個或いは42個のアミノ酸から成るポリペプチドであり、特に42個から成るAβペプチドはより凝集性が強く早期に脳内に沈着すること、及び細胞毒性が強いことが知られている(非特許文献2)。従って、Aβペプチドの産生を阻害する薬剤及びAβペプチドの凝集を阻害する薬剤は、アルツハイマー病予防治療薬として期待されている。
Aβペプチドの産生を阻害する薬剤としては、Aβペプチド産生酵素であるβ-セクレターゼ及びγ-セクレターゼを阻害する薬剤が研究されている。また、Aβペプチドの分解酵素促進剤や抗Aβペプチド抗体、さらにAβペプチドの凝集を阻害する薬剤等が研究されている。
【0003】
一方、AβペプチドのMet酸化体(AβペプチドのMet残基の硫黄原子が酸化(O)された酸化体)が生体内に少量存在すること、及び当該Met酸化体はAβペプチドに比べて凝集性が低いことが報告されている(非特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】J. Hardy, D. J. Selkoe, Science 2002, 297, p353.
【非特許文献2】S. A. Gravina, et al. J. Biol. Chem., 1995, Vol. 270, p7013
【非特許文献3】Hou, L. et al. J. Biol. Chem., 2002, Vol.277, No.43, p40173-40176
【非特許文献4】Bitan, G. et al. J. Am. Chem. Soc., 2003, Vol.125, No.50, p15359-15365
【非特許文献5】Moskovitz, J. et al. Biochemistry, 2011, 50, p10687-10697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Aβペプチド産生酵素阻害剤では十分にAβペプチドの産生を阻害することができず、また抗Aβペプチド抗体は安全性の問題で未だ開発の成功に至っていない。
従って、全く新たな視点からAβペプチドの凝集を阻害し、Aβペプチドの毒性を低減することによるアルツハイマー病の予防治療剤を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、Aβペプチドを人工的に改変することにより凝集を抑制し、毒性を低減させるべく種々検討した。非特許文献3~5によれば、生体内に存在するAβペプチドのMet酸化体はそれ自身が低い凝集性しか示さないことが知られているが、Aβペプチドを人工的に酸化して得られた特定のAβペプチド酸化体が、それ自身凝集性を示さないだけでなく、ネイティブAβペプチドの凝集を強力に抑制し、かつネイティブAβペプチドの神経毒性を低減させることから、全く新たなアルツハイマー病の予防治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[15]を提供するものである。
【0008】
[1]Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)。
[2]少なくともTyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されている[1]記載のAβペプチド酸化体。
[3][1]又は[2]記載のAβペプチド酸化体を含有する医薬。
[4][1]又は[2]記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするAβペプチド凝集抑制剤。
[5][1]又は[2]記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするAβペプチド毒性低減剤。
[6][1]又は[2]記載のAβペプチド酸化体を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療剤。
[7]Aβペプチドを酸化することを特徴とする、Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)の製造法。
[8]Aβペプチド酸化体が、少なくともTyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体である[7]記載の製造法。
[9]Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とする医薬。
[10]Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするAβペプチド凝集抑制剤。
[11]Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするAβペプチド毒性低減剤。
[12]Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療剤。
[13]Aβペプチドを酸化することを特徴とするAβペプチドの凝集抑制方法。
[14]Aβペプチドを酸化することを特徴とするAβペプチドの毒性低減方法。
[15]Aβペプチドを酸化することを特徴とするアルツハイマー病の予防及び/又は治療方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のAβペプチド酸化体を用いれば、Aβの凝集を抑制でき、かつAβによる毒性を低減できるため、アルツハイマー病の予防及び/又は治療に有用である。また、Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を用いれば、生体内又は細胞内でAβペプチド酸化体が生成する結果としてAβペプチドの凝集を抑制し、Aβペプチドによる毒性を低減できるためアルツハイマー病の予防及び/又は治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】光触媒リボフラビンを利用したAβ1-42の酸化反応を示す。Aβ1-42配列中*印はLys-Cの切断部位。今回酸化が確認されたアミノ酸には下線を付した。
【図2】質量分析装置(MALD-TOF MS)によるAβ1-42の酸化反応解析を示す。tは反応時間を表す。
【図3】アミノ酸分析によるネイティブAβとAβ酸化体との比較を示す。括弧内はAβ中の理論的なアミノ酸の数を示す。Ratio of amino acidはフェニルアラニンを3としたときのサンプル中のアミノ酸のモル比。
【図4】酵素消化後のLC/MS解析のLCチャートを示す。LC条件:C18逆相カラム(150(4.6mm),0%-100%アセトニトリル/0.1%aqueous TFA 40minのグラジエントモード,流速0.9mL min-1,UV230nmで検出。酵素消化後のAβフラグメントの理論質量:Aβ1-16[M+2H]2+:977.9,Aβ17-28[M+2H]2+:663.3,Aβ29-42[M+H]+:1269.8.
【図5】酵素消化後の質量分析(MALD-TOF MS)を示す。
【図6】酵素消化後得られたAβ1-16のLC/MS/MS分析を示す。左3つは上部に記載の保持時間に検出されたMSスペクトル。右チャートは抽出クロマトグラフ。LC conditions: C18 reverse-phase column(100(1.0mm,40℃)with a binary solvent system: linear gradient of 2%-42%acetonitrile in 0.1%aqueous formic acid over 20min at a flow rate of 20μL min-1.
【図7】Aβ1-16+16DaのMS/MSスペクトル(図6中の保持時間9.2分のピーク)を示す。Adduct of 16 Da was observed from b10 to b13 and y7 to y10 ions,whereas b2 to b9 (except for b4) and y1 to y6 ions were intact, suggesting that+16 Da modification occurred at Tyr10 residue.
【図8】チロシンおよびヒスチジンにおける酸化修飾構造(推定)を示す。
【図9】Aβ1-16+14DaのMS/MSスペクトル(図6中の保持時間10.6分のピーク)を示す。Adduct of 14 Da was observed from b13 to b15 and y4 to y10 ions, whereas b6 to b12 and y1 to y3 ions were intact, suggesting that +14 Da modification occurred at His13 residue.
【図10】Aβ1-16+14DaのMS/MSスペクトル(図6中の保持時間11.5分のピーク)を示す。Adduct of 14 Da was observed from b14 and b15 and y3 to y6 ions, whereas b6 to b13 and y1 and y2 ions were intact, suggesting that + 14 Da modification occurred at His14 residue.
【図11】チオフラビンT蛍光アッセイ結果を示す。(n=6,mean((SD; **p<0.01versusnative Aβ1-42 by Student's t-test).【図13】円二色性分光分析を示す。tは反応時間を表す。
【図14】PC12細胞によるネイティブAβ(E,F,G)およびAβ酸化体(H)の毒性比較を示す。縦軸は細胞生存率。(n=5,mean±SEM; ***p<0.001 versus A or in indicated pair by Tukey's test).【図16】PC12細胞によるネイティブAβ単独(C)とネイティブAβ+Aβ酸化体(D)の毒性比較を示す。縦軸は細胞生存率。(n=6,mean±SEM; ***p<0.001 versus A or in indicated pair by Tukey's test)【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のAβペプチド酸化体は、Aβペプチドを構成する一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体(Metのみが酸化されているAβペプチド酸化体を除く)である。
Aβペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列(1-42)を有するか、又は配列番号1で示されるアミノ酸配列の1-40アミノ酸配列を有するペプチドである。

【0012】
本発明のAβペプチド酸化体は、Aβペプチドを構成する40又は42アミノ酸残基のうちの一以上のアミノ酸残基が酸化されていればよいが、少なくともTyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されているAβペプチド酸化体が好ましい。なお、Tyr及びHisから選ばれる一以上のアミノ酸残基が酸化されていれば、さらにMetも酸化されているAβペプチド酸化体も含まれる。好ましいAβペプチド酸化体としては、Tyr酸化体、His酸化体、Tyr及びHis酸化体、Tyr及びMet酸化体、His及びMet酸化体、Tyr、His及びMet酸化体、並びにこれらの混合物が挙げられる。なお、配列番号1中に、Tyr及びMetはそれぞれ1個存在するだけであるから、そのTyr及びMetが酸化される。一方、Hisは、6His、13His及び14Hisが存在するので、これらのHisの全てが酸化されていてもよいが、13His及び14Hisが酸化されているのがより好ましい。酸化の形態としては、酸素による酸化であるのが好ましく、具体的には各アミノ酸残基にヒドロキシ基又はオキソ基(オキシド)が付加した形態であるのがより好ましい。

【0013】
前記のアミノ酸残基の酸化体としては、マススペクトル分析結果から、Tyrの場合には、チロシン残基のフェニル基にヒドロキシ基が2個又は3個置換した構造(ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基)を有しているものと推定される。また、Hisの場合には、ヒスチジン残基のイミダゾール環が酸化された構造、すなわち、デヒドロイミダゾロン環、ヒドロキシイミダゾロン環を有しているものと推定される。また、Metの場合には、メチオニン残基中の硫黄原子に酸素が付加しているものと推定される。

【0014】
本発明のAβペプチド酸化体は、例えばAβペプチドを酸化することにより製造することができる。酸化反応は、Aβペプチドのアミノ酸残基に酸素原子を供給できる酸化反応であればよく、例えば、リボフラビン、チオフラビンT、コンゴレッド、メチレンブルー、ローズベンガル、アクリジン誘導体、ポルフィリンおよびその金属錯体(金属=鉄、マンガン、亜鉛)、ルテニウムトリスビピリジン錯体、これらの分子にAβペプチド親和性分子を結合させた化合物等の酸化触媒及び酸素の存在下に光を照射する方法、過酸化物、超原子価ヨウ素、過塩素酸等の酸化剤を反応させる方法が挙げられる。

【0015】
酸化触媒を用いる方法においては、空気中や溶液中の酸素が利用されるので反応の場合には、Aβペプチド及び酸化触媒を添加し、光を照射すればよい。照射する光は、酸化触媒の種類により決定すればよい。この反応は、生理的条件下、例えば30~40℃で反応が進行するので特に好ましい。

【0016】
酸化剤を用いる方法では、Aβペプチド含有液に酸化剤を添加して反応を行えばよい。

【0017】
本発明のAβペプチド酸化体は、後記実施例に示すように優れたAβペプチド凝集抑制作用、及びAβペプチド毒性低減作用を有するため、Aβペプチド凝集抑制剤、Aβペプチド毒性低減剤、またヒトを含む動物のアミロイド沈着、Aβペプチド凝集が関与する疾患、例えばアルツハイマー病、ダウン症等の予防治療薬として有用である。

【0018】
また、生体内又は細胞内でAβペプチドを酸化すれば、当該生体内又は細胞内で本発明のAβペプチド酸化体が生成するため、Aβペプチドの凝集抑制、Aβペプチドの毒性低減、またアルツハイマー病の予防及び/又は治療が可能である。

【0019】
生体内又は細胞内でAβペプチドを酸化するには、生体内又は細胞内に酸化剤又は酸化触媒を導入して酸化反応を生起させればよい。ここで用いられる酸化剤としては、前記Aβペプチド酸化体の製造において列挙した酸化剤、例えば過酸化物、超原子価ヨウ素、過塩素酸等が挙げられる。また、前記の酸化触媒と光の反応も用いることができる。光の照射は、例えば光力学的治療手段と同様に行えばよい。
具体的には、酸化触媒を生体内又は細胞内に導入し、酸化触媒が目的とする部位に移行した時点で光を照射すればよい。生体内への酸化触媒又は酸化剤の投与手段としては、筋肉内注射、静脈内注射、局所投与、経口投与等が挙げられる。

【0020】
生体内又は細胞内で、Aβペプチドを選択的に酸化するため、リボフラビンやチオフラビンTに、Aβペプチド親和性分子を結合させたリボフラビン誘導体を合成し、これを反応させることも可能である。Aβペプチド親和性分子としては、例えばチオフラビンT、コンゴレッド、スチルベン誘導体、ポリチオフェン誘導体、アクリジン誘導体、アミノナフチル誘導体、Lys-Leu-Val-Phe-Phe(配列番号2)誘導体、クルクミン、ミリセチン、リファンピシン、ノルジヒドログアイヤレチン酸が挙げられる。

【0021】
生体内又は細胞内でAβペプチド酸化体を生成させる成分、すなわち、Aβペプチドの酸化剤又は酸化触媒は、Aβペプチド凝集抑制剤、Aβペプチド毒性低減剤及びアルツハイマー病予防及び/又は治療剤として有用である。

【0022】
本発明の医薬は、前記Aβペプチド酸化体、あるいはAβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を有効成分として含有する。

【0023】
本発明のAβペプチド酸化体、あるいはAβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を人体用の医薬として使用する場合、投与量は成人1日当たり1mg~1g、好ましくは10mgから300mgの範囲である。

【0024】
本発明のAβペプチド酸化体、あるいはAβペプチドの酸化剤又は酸化触媒を含有する医薬組成物は投与法に応じ適当な製剤を選択し、薬学的に許容される担体を用いて各種製剤の調製法にて調製できる。本発明を主剤とする医薬組成物の剤形としては例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤や、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性ないし水性の懸濁液等を経口用製剤として例示できる。

【0025】
注射剤としては製剤中に安定剤、防腐剤、溶解補助剤を使用することもあり、これらの補助剤を含むこともある溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって固形製剤として用時調製の製剤としてもよい。また一回投与量を一の容器に収納してもよく、また多投与量を一の容器に収納してもよい。

【0026】
また外用製剤として液剤、懸濁液、乳濁液、軟膏、ゲル、クリーム、ローション、スプレー、貼付剤等を例示できる。

【0027】
固形製剤としては本発明のAβペプチド酸化体、あるいはAβペプチドの酸化剤又は酸化触媒とともに薬学上許容されている添加物を含み、例えば充填剤類や増量剤類、結合剤類、崩壊剤類、溶解促進剤類、湿潤剤類、潤滑剤類等を必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。
液体製剤としては溶液、懸濁液、乳液剤等を挙げることができるが添加剤として懸濁化剤、乳化剤等を含むこともある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0029】
実施例1(各実験方法の詳細)
(1)チオフラビンTアッセイの実験
Aβ1-42(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)37℃にてインキュベートした。反応液の一部(10μL)を、チオフラビンT(5μM)を含む50mMグリシン-NaOH緩衝液(pH8.5,400μL)に加え、直ちに混和しチオフラビンTの蛍光強度を測定した。蛍光強度測定において励起波長として440nm、蛍光波長として470nmを用いた。
【実施例】
【0030】
(2)原子間力顕微鏡分析の実験
Aβ1-42(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)37℃にてインキュベートした。反応液の一部(10μL)をマイカ上にのせ、室温で3分間インキュベートした後、20μLの水で洗浄し、風乾した。測定は、Nano Wizard II(JPK instruments AG, Berlin, Germany)を使用し、空気中室温にてタッピングモードにより行った。
【実施例】
【0031】
(3)円二色性分光分析の実験
Aβ1-42(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)37℃にてインキュベートした。反応液の一部をModel 202SF(AVIV Biomedical, Inc., Lakewood, NJ)を使用して分析した。
【実施例】
【0032】
(4)細胞実験
ラット副腎髄質由来褐色細胞腫であるPC12細胞(理化学研究所から購入)を使用した。Aβ1-42(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)室温にてインキュベートした。反応液の一部(50μL)を細胞培養培地(50μL)に加え(最終Aβ濃度は10μM)、5%CO2雰囲気下、37℃、48時間インキュベートした。細胞の観察および写真撮影はデジタルカメラDFC360 FX(Leica Microsystems GmbH)付き倒立顕微鏡DMI6000 B(Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, Germany)にて行った。WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム,モノナトリウム塩)を含む生細胞数測定試薬(10μL)を加え、5%CO2雰囲気下、37℃で6時間インキュベートした後、450nm(参照波長:655nm)の吸光度をiMarkTMプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA)により測定した。
【実施例】
【0033】
実施例2
酸化反応
Aβ1-42(配列番号1)(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)、37℃にてインキュベートし(図1)、質量分析装置(MALD-TOF MS)にて反応を追跡した(図2)。反応3時間後、原料のAβ1-42の消失とともに、酸素原子が1-8個付加した酸化Aβのスペクトルが観察された。同一試料をアミノ酸分析したところ、チロシンとヒスチジンの量が、酸化していないコントロールサンプルと比べ約半分に減少した(図3)。同一解析から、メチオニンの若干の減少も観察された。これらの結果から、チロシン、ヒスチジン、メチオニンにて酸化反応が進行したことおよびチロシンとヒスチジンはメチオニンと比べ酸化を受けやすいことが判明した。このように、質量分析測定の結果より、反応3時間後、ほとんどのAβ1-42が酸化されていることが判明した。
【実施例】
【0034】
さらに詳しく酸化構造を解析するために、酸化Aβ1-42のサンプルをエンドペプチダーゼであるLys-C(LysのC末端側を切断(図1参照)。Hoffmann-La Roche Ltd., Basel, Switzerlandから購入)で酵素消化し(酵素はAβに対して50分の1の量、37℃で約12時間反応)、得られた消化物をLC/MS(ESI-TOF)および質量分析装置(MALD-TOF MS)にて分析した。LC/MS分析において、Aβ29-42の16Da付加体が検出された(図4)。先のアミノ酸分析の結果と合わせると、35位のメチオニンの側鎖がスルホキシドに酸化されたものと考えられる。また、質量分析装置(MALD-TOF MS)によりAβ17-28が検出され、酸素原子付加体は観察されなかった(図5)。これは、Aβ17-28領域においては酸化を受けていないことを示すものである。一方、質量分析装置(MALD-TOF MS)にてAβ1-16に酸素原子が1-6個付加したピーク群が見られた(図5)。さらに、Aβ1-16をLC/MS/MS(ESI-Qq-TOF)解析したところ、Aβ1-16への16Da付加体が検出され(図6,左下のスペクトル図)、保持時間9.2分(図6、右のスペクトル)のピークは10位チロシンが+16Daの修飾を受けている分子種由来であった(図7)。これはおそらくチロシンが3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンへ酸化されたものと考えられる(図8)。また、LC/MS/MS(ESI-Qq-TOF)解析から、Aβ1-16への14Da付加体が検出され(図6、左真ん中のスペクトル)、保持時間10.6分と保持時間11.5分(図6、右のスペクトル)が、それぞれ13位ヒスチジンおよび14位ヒスチジンの14Da付加体であることが示唆された(それぞれ図9、図10)。これはおそらくヒスチジンがデヒドロ-2-イミダゾロン誘導体へ酸化されたものと考えられる(図8)。また、28Da付加体、30Da付加体、44Da付加体も検出され、これらは10位チロシン、13位ヒスチジン、14位ヒスチジンでの複合的な酸化に由来するものと考えられる。図5の質量分析(MALD-TOF MS)において酸素原子が1~6個付加したピーク群が見られることを考えると、一つのチロシンやヒスチジンに対して複数の酸素原子が付加した化合物の存在も示唆される。例えば、チロシンにおける3,4,5-トリヒドロキシフェニルアラニンやヒスチジンにおけるヒドロキシ-2-イミダゾロン誘導体が推定される(図8)。(1)Pattison, D. I., Rahmanto, A. S. & Davies, M. J. Photo-oxidation of proteins. Photochem. Photobiol. Sci. 11,38-53 (2012).2)Schey, K. L. & Finley, E. L. Identification of peptide oxidation by tandem mass spectrometry. Acc. Chem. Res. 33, 299-306 (2000)参照)以上のように、リボフラビン触媒システムにより10位チロシン、13位ヒスチジン、14位ヒスチジン、35位メチオニンにおける酸化の進行が確認された。
【実施例】
【0035】
実施例3
凝集性に関する検討
Aβ1-42(20μM)およびリボフラビン(4μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を、蛍光ランプ照射下(24W,昼白色,光源と反応液の距離約3cm)、37℃にてインキュベートしたサンプル(「Aβ酸化体」)と、コントロールとして光非照射下で反応したサンプル(「ネイティブAβ」)を使用し、それぞれの凝集性をチオフラビンTアッセイ(チオフラビンTの蛍光強度はβシート構造に富んだ凝集体の量と相関することが知られている。)により評価した(図11)。インキュベート3時間および6時間において、Aβ酸化体のチオフラビンT蛍光強度はネイティブAβと比べ顕著に低く、この結果は、Aβ酸化体の低い凝集性を示唆するものである。また、原子間力顕微鏡解析より、ネイティブAβでは明らかな繊維を形成する一方、酸化型Aβでは繊維形成がほとんど観察されなかった(図12)。さらに、円二色性分光分析法により、ネイティブAβではランダムコイル構造からβシート構造への転移が見られる一方、酸化型Aβではランダムコイル構造を維持することが分かった(図13)。
【実施例】
【0036】
実施例4
細胞毒性に関する検討
ラット副腎髄質由来褐色細胞腫であるPC12細胞(神経モデル細胞)を用いて、ネイティブAβとAβ酸化体の細胞毒性を比較した(図14)。ネイティブAβ(10μM)存在下では90%以上の細胞が死滅するのに対し、Aβ酸化体(10μM)存在下では50%以上の細胞生存率が維持された。また、ネイティブAβ存在下でのみアポトーシス様の細胞死が観察された。この結果は酸化修飾により細胞毒性が著しく低下することを示すものである。
【実施例】
【0037】
実施例5
ネイティブAβの凝集性および細胞毒性の阻害
原子間力顕微鏡解析より、Aβ酸化体(20μM)の共存下ネイティブAβ(20μM)をインキュベートした場合(37℃,6時間)、ネイティブAβ(20μM)単独に比べ、アミロイド繊維量が顕著に減少した(図15)。この結果はAβ酸化体がネイティブAβの凝集を阻害したことを示すものである。また、ネイティブAβ(10μM)存在下ではPC12細胞の生存率が20%程度であったのに対し、Aβ酸化体(10μM)をネイティブAβ(10μM)に共存させた場合、細胞生存率が60%以上であった(図16)。この結果は、Aβ酸化体がネイティブAβの細胞毒性を抑えることを示すものである。
【実施例】
【0038】
実施例6
ラット副腎髄質由来褐色細胞腫であるPC12細胞(理化学研究所から購入)を使用した。PC12細胞をシードしたプレートウェル内において、20μMのAβおよび触媒(4μMの1または20μMの2)を含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4,50μL)に対して500nmのLED(light emitting diode)を15分、37℃の条件で照射した。反応後、0.1%の馬血清を含む培地入りのHEPES緩衝液を50μL加え(最終Aβ濃度:10μM)、37℃、5%CO2雰囲気下48時間インキュベートした。WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム,モノナトリウム塩)を含む生細胞数測定試薬(10μL)を加え、5%CO2雰囲気下、37℃で6時間インキュベートした後、450nm(参照波長:655nm)の吸光度をiMarkTMプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA)により測定した。
【実施例】
【0039】
結果を図17に示す。Aβ選択的な酸素化を達成するために、Aβに対して高い親和性を持つペプチド、D-[Lys-Leu-Val-Phe(4-phenyl)-Phe](配列番号3)を同定し、これをAβに親和性を有するタグとしてフラビンに結合した(図17中Catalyst 2)。Catalyst 2またはリボフラビンそのもの(図17中Catalyst 1)を、Aβを含むリン酸緩衝液に添加し、細胞存在下光照射を行った。500nmのLEDを光源として使用し、15分間、37℃にて光照射した。ここで、Catalyst 2はリボフラビンそのものと比べて酸化活性が低かったためリボフラビンの5倍量使用しており、本条件において、Catalyst 1,2はAβを同程度(約60%程度)酸化することを確認した。本酸化反応後さらに細胞を二日間インキュベートした後の細胞生存率を調べた(図17の棒グラフ)。リボフラビンを光照射条件下で使用した際(fとhの比較)、Aβの有無に関わらずほとんどの細胞が死滅した。これは非特異的な酸化が起こったために細胞が傷害された結果と考えられる。一方、jの条件において、Aβ非存在下でCatalyst 2を用いた際、光照射後、50%以上の細胞が生存した。これは、Catalyst 2自身の酸化活性が相対的に低いために、生体分子へのランダムな酸化反応が妨げられた可能性が考えられる。一方、Aβ存在下では(kとlの比較)、光照射した場合、光がない時と比べ細胞生存率が有意に上昇した。これは、Aβが酸素化反応を受けて無毒化したために、細胞死が回避されたためと考えられる。以上のように、Catalyst 2を用いることによって、細胞存在下、Aβ選択的な酸素化反応により、Aβの毒性を低減することができた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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