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明細書 :生体用Co基合金及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4081537号 (P4081537)
公開番号 特開2002-363675 (P2002-363675A)
登録日 平成20年2月22日(2008.2.22)
発行日 平成20年4月30日(2008.4.30)
公開日 平成14年12月18日(2002.12.18)
発明の名称または考案の名称 生体用Co基合金及びその製造方法
国際特許分類 C22C  19/07        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
C22F   1/10        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22C 19/07 Z
A61L 27/00 L
C22F 1/10 J
C22F 1/10 K
C22F 1/00 603
C22F 1/00 630D
C22F 1/00 630G
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 675
C22F 1/00 681
C22F 1/00 682
C22F 1/00 683
C22F 1/00 691B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2001-172377 (P2001-172377)
出願日 平成13年6月7日(2001.6.7)
審査請求日 平成15年7月23日(2003.7.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
発明者または考案者 【氏名】千葉 晶彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】木村 孔一
参考文献・文献 特公平07-074409(JP,B2)
特公昭60-018744(JP,B1)
特公昭56-028980(JP,B1)
特許第3010378(JP,B2)
調査した分野 C22C 19/00-19/07
C22F 1/00- 1/10
特許請求の範囲 【請求項1】
Cr:26~30質量%,Mo:6~12質量%,C:0.3質量%以下,残部がCo及び不純物の組成をもち、平均結晶粒径:50μm以下の等軸結晶粒からなるマトリックスに粒状の第二相が微細分散した鍛造組織をもつことを特徴とする生体用Co基合金。
【請求項2】
Cr:26~30質量%,Mo:6~12質量%,C:0.3質量%以下,Ni:24質量%以下,残部がCo及び不純物の組成をもち、平均結晶粒径:50μm以下の等軸結晶粒からなるマトリックスに粒状の第二相が微細分散した鍛造組織をもつことを特徴とする生体用Co基合金。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成をもつCo基合金を水冷銅製鋳型に鋳込み、鋳込み温度から400℃までの温度域を1000℃/分以上の冷却速度で急冷し、得られた鋳塊を1000~1300℃で高温鍛造した後、水焼入れすることにより、平均結晶粒径:50μm以下の等軸結晶粒からなるマトリックスに粒状の第二相が微細分散した鍛造組織に調整することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耐食性,耐磨耗性,加工性に優れ、人工骨材の補綴材料として好適な生体用Co基合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体用合金には、Co-Cr系の鋳造用(HS-21),加工用(HS-25)のVitalliumやCo-Ni-Cr-Mo合金(MP35N)等が知られているが、臨床データや使用実績が多く安定度の高いことからVitalliumが多用されている。Vitalliumは、歯科用合金として開発されたが、その後の改良を経て整形外科領域にも用途が広がっており、他にAlivium,Endcast、Orthochrome,Orthochrome plus,Protasul,Zimaloy等の多くの商品名で市販されている。
Vitalliumの実用化は、ステンレス鋼よりも10年遅い1937年であるが、ステンレス鋼よりも耐食性に優れ、しかも十分な強度及び靭性を兼ね備えていることから、骨頭,ステム等の人工股関節用補綴材料として使用されている。
【0003】
鋳造用Vitallium(HS-21)は、5~7質量%のMoを含む高Cr(30質量%)-Co合金であり、Vitalliumの中でも最も耐食性に優れ、孔食,隙間腐食,粒界腐食,応力腐食割れ等は実用上でほとんど問題とならない。しかし、ヒケ巣,気泡,偏析等の内部欠陥が発生しやすく、低い疲労強度(250MPa)が欠点である。
加工用Vitallium(HS-25)は、Moに代えてWを含み、Crの一部をNiで置換することにより、鋳造材の欠点であるヒケ巣や偏析を解消するように改良された合金である。加工用Vitallium(HS-25)は、焼きなましステンレス鋼以上の展延性が溶体化処理で付与され、加工用ステンレス鋼と同程度の強度が冷間加工によって付与される。耐食性は、ステンレス鋼よりも優れているものの、長期のインプラント用としては十分でないため、ボーンプレート,ワイヤ等の短期固定用に使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
加工用VitalliumのMo含有量を増加させるとき、耐食性及び耐磨耗性が向上する。実際、Moを10質量%まで増量した高Mo-Vitalliumは、当初組成の合金に比較して優れた耐食性及び耐磨耗性を呈することが知られている。しかし、Moの増量に伴ってVitalliumの塑性加工性が低下するため、高Mo-Vitalliumの微細組織を塑性加工法で制御しがたい。
【0005】
鋳造用Vitalliumでは、熱履歴を調製することによって内部欠陥を解消することも検討されている。一般に、鋳造合金に生じているヒケ巣や気泡は鍛造で圧潰され、デンドライト組織も破壊され、後続する再結晶焼鈍によって均一な組織になる。しかし、Vitalliumでは、機械的性質の向上に関する数値的なデータはあるものの、熱履歴と組織との関係及びそれに伴う機械的性質の変化に関しては十分な知見が得られていない。
そのため、Vitalliumは、加工性に優れたステンレス鋼系と、強度,耐食性等の特性に優れたチタン系合金の両方の長所を兼ね備えた材料であるにも拘らず,需要が全体の20%程度と低く、広く実用化されるまでに至っていない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Moを増量すると共に、塑性加工で組織調整することにより、高耐食性で且つ高耐磨耗性を呈する生体用Co基合金を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の生体用Co基合金は、その目的を達成するため、Cr:26~30質量%,Mo:6~12質量%,C:0.3質量%以下,必要に応じNi:24質量%以下,残部がCo及び不純物の組成をもち、平均結晶粒径:50μm以下の等軸結晶粒からなるマトリックスに粒状の第二相が微細分散した鍛造組織をもつことを特徴とする。
【0008】
このCo基合金は、所定組成のCo基合金を水冷銅製鋳型に鋳込み、鋳込み温度から400℃までの温度域を1000℃/分以上の冷却速度で急冷し、得られた鋳塊を1000~1300℃(好ましくは、1100~1300℃)で高温鍛造した後、水焼入れすることにより製造される。
【0009】
【作用】
本発明では、Moの増量及び組織調整によってVitalliumの耐食性及び耐磨耗性を改善している。
耐食性及び耐磨耗性に及ぼすMoの効果は、Mo:6質量%以上で顕著になるが、12質量%で飽和し、過剰量のMo含有は塑性加工性に悪影響を及ぼす。Crは耐食性を確保する上で26質量%以上が必要であるが、30質量%を超える過剰量は塑性加工性に悪影響を及ぼす。Cは、耐磨耗性の向上に必要な成分であるが塑性加工性の観点から上限を0.3質量%に規制している
【0010】
組織調整では、水冷式の銅製鋳型を用いて急冷鋳造することにより析出物の成長を抑え、高温鍛造等の塑性加工により析出物、金属間化合物等の第二相を微細分散させている。鋳造時の急冷が析出物の成長抑制に及ぼす影響は、鋳込み温度から400℃までの温度域を1000℃/分以上の冷却速度で冷却するとき顕著になる。また、高温鍛造によりデンドライト等の鋳造組織が破壊され、50μm以下に微細化された等軸結晶粒からなるマトリックスが形成される。マトリックスの微細化は、耐磨耗性の向上にも有効である。しかし、Mo含有量を単に6質量%以上に増量すると、鍛造等の塑性加工性が失われるため、高Mo-Vitalliumの鍛造合金を製造できない。
【0011】
6質量%以上のMoを含む高Mo-Vitalliumでは、700℃付近の温度領域から低温側にかけて脆い金属間化合物相(σ相)が生成する。そこで、本発明では、熱処理方法及び加工温度の選定によってσ相の生成を防止している。具体的には、Mo含有量を6~12質量%に設定した本発明系においては高温鍛造温度を1100~1400℃の範囲に設定する。高温鍛造した高Mo-Vitalliumを室温に持ち来たす場合にも、水冷等の急冷を採用することによってσ相が防止され、第二相が成長することなく粒状の析出物又は晶出物としてマトリックスに微細分散する。
【0012】
【実施例1】
表1の組成をもつCo基合金600gを高周波真空溶解炉で溶解し、溶湯を水冷式銅製金型に流し込み、30秒で400℃以下の温度になる冷却速度(2300℃/分)で急冷鋳造した。
各鋳造まま材(as cast材)の室温における引張り特性を図1に示す。Co-Cr-Mo三元系合金では、Mo添加量が多くなるほど伸びが向上している。また、Ni添加したNo.4,5は、高い伸び延性を示していた。
【0013】
JP0004081537B2_000002t.gif【0014】
鋳造ままの状態で最も小さな伸び延性を示した試料No.1の合金について、伸び延性に及ぼす熱処理の影響を調査した結果を図2に示す。比較のため、1100℃の高温鍛造で組織調整した同じ試料No.1の伸び延性に及ぼす熱処理の影響を併せ示す。
図2から明らかなように、鍛造していない鋳造まま材では急冷効果が働いており、as cast材,急冷材(1050℃で2時間時効後、水焼入れ)共に低い伸び延性であった。なかでも、1050℃の時効処理後に炉冷した炉冷材では、著しく低い伸び延性を示した。伸び延性は、高温鍛造によって格段に向上した。
【0015】
As cast材と炉冷材との間で伸び延性が相違する理由を調査するため、それぞれの金属組織を光学顕微鏡で観察した。As cast材(図3)はMoリッチのb.c.c.相が粒状に析出した金属組織であったが、炉冷材(図4)ではσ相が直線状に成長していた。σ相は、破壊の起点として働く脆弱な析出物であることから、引張試験での低い伸び延性が示される原因であると推察される。また、高い伸び延性を示した高温鍛造材では、直線状σ相が検出されず、粒状b.c.c.相が微細分散した組織をもっていた。
【0016】
伸び延性及び金属組織の関係から、Moの増量はCo-Cr-Mo三元系合金の高温鍛造性を損なう直接の原因ではなく、σ相の析出が抑えられる1000℃以上(好ましくは、1100℃以上)に鍛造温度を設定して高温鍛造するとき、優れた伸び延性を示すCo基合金が得られることが判る。また、鍛造素材としては、σ相の析出を抑制するため水冷式銅製鋳型を用いて急冷鋳造したものが好ましい。
以上の結果から、鋳造条件及び鍛造条件を制御することにより、伸び延性、換言すると加工性の良好なCo-Cr-Mo三元系合金が得られることが確認された。そこで、表2に示すCo-Cr-Mo三元系合金を溶製し、急冷鋳造及び高温鍛造が及ぼす影響を調査した。
【0017】
JP0004081537B2_000003t.gif【0018】
合金No.1,2は、鋳込み後30秒で400℃以下の温度になる冷却速度で急冷鋳造した後、鋳塊を1100℃に加熱して高温鍛造した。鍛造後の金属組織を観察したところ、何れも等軸晶の結晶組織になっていることが判った(図5,6)。合金No.1は平均結晶粒径が約100μm,合金No.2は平均結晶粒径が約50μmであった。合金No.2を組織観察した結果、合金No.1では検出されなかった第二相が粒界に沿って析出又は晶出していた。析出物又は晶出物は、Thermo-Calcの計算状態図とEDS分析の結果から結晶構造がb.c.c.のMo富化相と考えられる。
合金No.3,4については、鋳塊を鍛造することなく、1100℃×4時間の熱処理を施した。熱処理後の金属組織を観察すると、何れもデンドライト状の凝固組織が観察された(図7,8)。
【0019】
各合金No.1~4から切り出した試験片の表面を4000番のラッピングフィルムで最終研磨仕上げした後、磨耗試験に供した。磨耗試験では、アルミナボールを用いたピンオンフラット型往復運動磨耗試験機を使用し、大気雰囲気,振幅10mm,辷り距離200000mm,辷り速度8.33Hzの条件を採用した。
図9の試験結果にみられるように、MP35N相当の合金No.1に比較して、Vitallium相当の合金No.2~4は耐磨耗性が格段に優れていた。このことから、Co-Cr-Mo三元組成にNiを高濃度で添加することは、伸び延性の点では有効であるが、高耐磨耗性を確保する上では得策でないといえる。
【0020】
更に、Vitallium相当合金No.2~4の磨耗量を詳細に調査した結果を図10に示す。合金No.4は、Moを最も多量に含む凝固組織のままであることから磨耗量が最も少なかった。他方、合金No.2は、Mo含有量が最も少ない材料であるにも拘らず、合金No.4とほぼ同程度の磨耗量であった。良好な耐磨耗性は、合金No.2では高温鍛造によって微細組織が調整された結果である。すなわち、耐磨耗性は、Moの増量によって向上するが、組織を微細に調整することによって更に向上することが判る。
次いで、鍛造温度,圧下率等の鍛造条件を種々変更した条件下でCo-Cr-Mo三元系合金を高温鍛造することにより鍛造材の結晶粒径を変化させ、結晶粒径が磨耗量に及ぼす影響を調査した。図11の調査結果にみられるように、結晶粒の微細化により耐磨耗性が向上し、結晶粒径15μm以下で磨耗量が顕著に減少した。
【0021】
【実施例2】
表2の合金No.3の組成をもつCo基合金600gを高周波真空溶解炉で溶解し、1550℃の溶湯を水冷式銅製金型に流し込み、実施例1と同様な冷却速度で急冷鋳造した。得られた鋳塊をSUS316Lステンレス鋼の中空棒でクラッドし、1100~1400℃で高温鍛造することにより組織調整した。ステンレス鋼でクラッドすることにより、鍛造工具と鋳塊との直接接触が避けられ、鍛造中の鋳塊を1100℃以上の高温状態に保持できた。その結果、高温鍛造中にσ相の析出が防止できた。クラッド材を含めて肉厚20mmになるまで高温鍛造-1250℃焼鈍を繰り返し、最終的には1250℃×2時間の焼鈍後に水焼入れした。
【0022】
次いで、鍛造材を冷間圧延し、板厚5mmの冷延材を得た。濃塩酸:濃硝酸=3:1(体積比)の混酸に冷延材を浸漬することにより、冷延材表面にあるステンレス鋼をエッチング除去した。更に、1250℃×1時間の焼鈍を施し、水焼入れ後、再度の冷間圧延により板厚50μmのシート材を製造した。
この製造実績から、本発明のCo基合金は、良好な加工性を活かし、各種人工骨材に適した形状に成形できることが判る。
【0023】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の生体用Co基合金は、Mo含有量を6~12質量%と多く設定すると共に、急冷鋳造により第二相を微細分散させ、σ相の生成を抑えた高温鍛造によって結晶組織を微細化している。これにより、耐磨耗性が一層改善され、Vitallium本来の優れた特性が活用される生体用材料として使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 各種Co基合金の歪-応力曲線を示すグラフ
【図2】 製造条件がCo基合金の歪-応力曲線に及ぼす影響を表したグラフ
【図3】 Co基合金as cast材の金属組織を示す写真
【図4】 Co基合金炉冷材の金属組織を示す写真
【図5】 実施例で使用した合金No.1高温鍛造材の金属組織を示す写真
【図6】 実施例で使用した合金No.2高温鍛造材の金属組織を示す写真
【図7】 実施例で使用した合金No.3熱処理材の金属組織を示す写真
【図8】 実施例で使用した合金No.4熱処理材の金属組織を示す写真
【図9】 各種Co基合金の磨耗特性を示すグラフ
【図10】 各種Co基合金の磨耗特性を示すグラフ
【図11】 結晶粒径がCo基合金鍛造材の耐磨耗性に及ぼす影響を表したグラフ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10