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明細書 :セルロース水溶液の製造方法およびセルロース誘導体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6120266号 (P6120266)
公開番号 特開2013-139557 (P2013-139557A)
登録日 平成29年4月7日(2017.4.7)
発行日 平成29年4月26日(2017.4.26)
公開日 平成25年7月18日(2013.7.18)
発明の名称または考案の名称 セルロース水溶液の製造方法およびセルロース誘導体の製造方法
国際特許分類 C08B   1/00        (2006.01)
C08B  11/155       (2006.01)
C08B  11/02        (2006.01)
C08B   3/06        (2006.01)
C08B  11/12        (2006.01)
C08B  15/06        (2006.01)
D01F   2/02        (2006.01)
FI C08B 1/00
C08B 11/155
C08B 11/02
C08B 3/06
C08B 11/12
C08B 15/06
D01F 2/02
請求項の数または発明の数 8
全頁数 29
出願番号 特願2012-265440 (P2012-265440)
出願日 平成24年12月4日(2012.12.4)
優先権出願番号 2011270206
優先日 平成23年12月9日(2011.12.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年11月17日(2015.11.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】酒井 貴志
【氏名】依馬 正
【氏名】小原 則行
【氏名】小見山 拓三
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】伊藤 佑一
参考文献・文献 特開2008-266625(JP,A)
特開昭58-151217(JP,A)
Cellulose Chemistry and Technology,1984年,18,379-387
調査した分野 C08B
CAplus(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース原料と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる工程を含むセルロース水溶液の製造方法であって、
前記セルロース原料と前記水酸化四級アンモニウム水溶液との接触を環状ポリエーテルの存在下に行うことを特徴とするセルロース水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記環状ポリエーテルが、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6およびジアザ-18-クラウン-6からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項に記載のセルロース水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化四級アンモニウム水溶液中の環状ポリエーテルの濃度が0.01~5Mである請求項また2に記載のセルロース水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロース誘導体の原料となるヒドロキシ基反応性化合物とを混合する工程を含むことを特徴とする、セルロース誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシ基反応性化合物が、α,β-不飽和ニトリル、エポキシド、有機カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸エステルおよびハロゲン化アルキルからなる群より選択されるものである、請求項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロースの貧溶媒とを混合し、セルロース・四級アンモニウム複合体を析出させる工程を含むことを特徴とする、セルロース・四級アンモニウム複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液から、乾燥により溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする、セルロースフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液を紡糸することを特徴とする、セルロース繊維の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース水溶液の製造方法および当該製造方法により得られたセルロース水溶液を用いるセルロース誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルセルロース、ニトロセルロース、シアノエチルセルロースなどに代表されるセルロース誘導体は、包装、織物、プラスチック、写真、表面コート、軍需、飛行機、記録、化学薬品、医薬、タバコ、電気などの幅広い産業部門において様々な用途を有する、産業上極めて重要な素材である。
【0003】
セルロース誘導体は一般的に、セルロースが有するヒドロキシ基に様々な官能基を導入する(誘導体化する)ことで製造される。しかしながら、セルロースはグルコピラノース1単位あたり3つのヒドロキシ基を有し、これらのヒドロキシ基同士が分子内または分子間で起こす水素結合の力は極めて強いため、セルロースは水および大部分の有機溶媒に不溶ないし難溶である。そのため、セルロース誘導体の製造に先立って、セルロースが各種の溶媒に溶解できるようにするために、以下に挙げるような溶解法により水素結合の開裂と再形成防止のための処理が行われている。
【0004】
第一の溶解法として、セルロースの錯体を形成させる方法が慣用されている。たとえば、[Cu(NH3)4](OH)2を用いる銅アンモニア法では、セルロースのC(2)位およびC(3)位のヒドロキシ基に銅がδ配位する(下記(a)参照)。Ca(SCN)2を用いるチオシアン酸カルシウム法では、カルシウムイオンがC(5)位およびC(6)位に配位し、五員環構造をとると考えられる(下記(b)参照)。SO2/ジエチルアミン法は、セルロースのヒドロキシ基全てにSO2-アミン錯体が1:1の割合で錯体を形成する(下記(c)参照)。
【0005】
【化1】
JP0006120266B2_000002t.gif
第二の溶解法として、セルロースのヒドロキシ基を溶剤成分と共有結合させることで誘導体化する方法が知られている。なお、置換度0.1~0.5のセルロース誘導体はアルカリ水溶液に可溶であり、置換度1前後のセルロース誘導体は水に可溶である。二硫化炭素(CS2)/水酸化ナトリウム水溶液を用いて誘導体化するビスコース法(下記式参照)のほか、アルデヒド(パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド、クロラールCCl3CHOなど)、ニトロシル化合物(N2O4、NOCl)、硫黄含有化合物(SO3、SO2Cl2)などを溶剤として用いる方法がある。
【0006】
【化2】
JP0006120266B2_000003t.gif
第三の溶解法として、セルロースを溶媒和する方法が知られている。この方法には、濃厚無機酸/水系(硫酸、リン酸、ポリリン酸水溶液など)、濃厚無機塩/水系(ZnCl2水溶液など)、水酸化ナトリウム水溶液系などの溶解系が用いられ、全て含水系である。これらの溶解系では、まず水が溶剤成分に水和し水和構造を形成する。次に、この水和構造体がセルロースと相互作用(溶媒和)してセルロースを溶解させる。よって、水和構造の維持または溶媒和の促進のため、低温ほど溶解が進む低温溶解型の溶解系が多い。
【0007】
その他、近年では、DMAC(N,N-dimethylacetamide)/LiCl法、DMSO(dimethyl sulfoside)/TBAF(tetrabutylammonium fluoride trihydrate)法、イオン液体を用いる方法なども知られている。しかしながら、たとえばイオン液体を用いる方法には、イオン液体は高価であり、生成物の分離が難しいなど、工業的な利用には向かない面がある。
【0008】
また、非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3には、セルロースが各種アミン類とも付加化合物(アミンセルロース)を形成し、それによりセルロースを膨潤ないし溶解すること、当該アミンとしてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられること、当該アミンのアルキル基の大きなものほどセルロースが分散溶解する最低濃度が低いことなどが記載されている。
【0009】
非特許文献4には、tetrabutylphosphonium hydroxide(TBPH)またはtetrabutylammonium hydroxide(TBAH)を用いてセルロースを溶液化することが記載されている。しかしながら、TBPHは原材料コストおよび排水処理等の問題に関して大きな課題があるといえる。また、この文献のTable 2には、TBAH中の水の濃度とセルロースの量を変えた実験が示されているが、Run1のwater content 60%(TBAH 40%相当)の結果をみると、セルロースが0.5wt%であっても溶解しないことがわかる。
【0010】
上記のように様々な方法が提案されているにもかかわらず、今日まで、四級アンモニウム塩を用いてセルロースを溶解する方法は実用化されていなかった。
一方、代表的なセルロース誘導体の製造方法としては、次のようなものが知られている。
【0011】
シアノエチルセルロースの製造方法として、非特許文献5には、セルロースと水酸化ナトリウムおよび不飽和ニトリルとを反応させる方法が記載されている。しかしながらこの方法では水酸化ナトリウムを用いるので、副反応として、セルロースに導入したシアノ基における加水分解が起きるという問題がある。
【0012】
ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法としては、特許文献1に記載されているようにセルロースと水酸化ナトリウムとを反応させた後、エポキシド(グリシジル化合物)を反応させるという方法がある。しかしながらこの方法には、置換度や選択性が低い、水洗・乾燥後の副生成物(ナトリウム塩)が残留する、強塩基(水酸化ナトリウム)とエポキシドの直接反応による副生成物が生じる可能性があるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2001-122912号公報
【0014】

【非特許文献1】セルロースハンドブック、1958年、朝倉書店、祖父江寛 他
【非特許文献2】Th. Liser, Ann., 528, 276 (1937)
【非特許文献3】Th. Liser and Erich Leckzyck, Ann, 522, 56 (1936)
【非特許文献4】Chem.Commun., 2012, 48, 1808-1810
【非特許文献5】Zhou, J.; Li, Q.; Song, Y.; Zhangand, L.; Lin, X. Polym. Chem., 2010, 1, 1662-1668.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したような従来のセルロースの溶解方法、あるいはその溶解方法により得られたセルロース溶液からセルロースを回収する方法には、重金属やその塩、毒性や爆発性を有する物質、高価な物質の使用や、爆砕や極低温への冷却など過酷な操作が必要であった。
【0016】
また、セルロースを溶解するとともにシアノエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アセチルセルロースなどに誘導体化する従来の方法にも各種の問題点があった。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するため、比較的安全性の高い物質を用いて温和な条件下でセルロースを溶解する(換言すればセルロース溶液を製造する)ことのできる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)等の水酸化四級アンモニウム水溶液にセルロースを接触させることにより、セルロースを容易に溶解させることができるとの知見を得たが、この際、同じ種類の水酸化四級アンモニウム水溶液であっても、製品(ないしロット)によって、セルロースの溶解に常に成功するものと失敗しやすいものとがあることに気付いた。本発明者らはその原因を追究し、水酸化四級アンモニウム水溶液に混在している金属イオン(たとえばKBr等のアルカリ金属の無機塩)の濃度が所定の値以下の製品を選択することにより、セルロースを確実に溶解できる、実用的な溶解系を利用することができるようになることを見いだした。
【0019】
さらに、前記金属イオンの存在下でも、水酸化四級アンモニウム水溶液に環状ポリエーテル(「クラウンエーテル」と呼ばれることもある。)を添加するとセルロースが溶解することを見いだした。この際、環状ポリエーテルは、単に金属イオンの捕捉剤としてではなく、水酸化四級アンモニウムと協同してセルロースの水溶性を向上する促進剤としても機能しており、溶解速度を著しく促進するとともに得られる溶液の透明性を増す。このような効果は、DMSOや鎖状ポリエーテルであるPEGには見られず、環状ポリエーテルに特有のものである。
【0020】
また、上記のようにして得られるセルロース水溶液(溶解系)は、セルロース誘導体の製造やセルロースの回収等のために極めて有用であること、すなわち、セルロース水溶液にアクリロニトリル、エポキシド、無水酢酸、アクリル酸エステル、ハロゲン化アルキル等を添加し、室温下で混合するだけで、それぞれに対応するシアノエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アセチルセルロース等の誘導体が定量的に生成することや、セルロース水溶液にメタノール等のセルロースの貧溶媒を添加することにより容易にセルロースを析出させて回収することができることなどを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明は下記の発明を包含する。
[1] セルロース精製物またはセルロースを含有する物質(以下「セルロース原料」と総称する。)と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる工程を含むセルロース水溶液の製造方法であって、前記セルロース原料と接触した状態において、前記水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解しているアルカリ金属のハロゲン化物および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の合計の濃度が1重量%以下であることを特徴とする、セルロース水溶液の製造方法。
【0022】
[2] 前記水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度が35重量%以上である、[1]に記載のセルロース水溶液の製造方法。
[3] 前記水酸化四級アンモニウムが、置換もしくは非置換のアルキル基および/または置換もしくは非置換のアリール基を4つの置換基として有するものであり、当該4つの置換基の炭素原子数の合計が4~60である、[1]または[2]に記載のセルロース水溶液の製造方法。
【0023】
[4] セルロース原料と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる工程を含むセルロース水溶液の製造方法であって、前記セルロース原料と前記水酸化四級アンモニウム水溶液との接触を環状ポリエーテルの存在下に行うことを特徴とするセルロース水溶液の製造方法。
【0024】
[5] 前記環状ポリエーテルが、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6およびジアザ-18-クラウン-6からなる群から選ばれた少なくとも1種である、[4]に記載のセルロース水溶液の製造方法。
【0025】
[6] 前記水酸化四級アンモニウム水溶液中の環状ポリエーテルの濃度が0.01~5Mである[4]また[5]に記載のセルロース水溶液の製造方法。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られる、セルロース水溶液。
【0026】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液中に生成している、セルロースと水酸化四級アンモニウムとから形成された複合体。
[9] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロース誘導体の原料となるヒドロキシ基反応性化合物とを混合する工程を含むことを特徴とする、セルロース誘導体の製造方法。
【0027】
[10] 前記ヒドロキシ基反応性化合物が、α,β-不飽和ニトリル、エポキシド、有機カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸エステルおよびハロゲン化アルキルからなる群より選択されるものである、[9]に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【0028】
[11] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロースの貧溶媒とを混合し、セルロース・四級アンモニウム複合体を析出させる工程を含むことを特徴とする、セルロース・四級アンモニウム複合体の製造方法。
【0029】
[12] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液から、乾燥により溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする、セルロースフィルムの製造方法。
【0030】
[13] [12]に記載の製造方法により得られるセルロースフィルム。
[14] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られるセルロース水溶液を紡糸することを特徴とする、セルロース繊維の製造方法。
【0031】
[15] [14]に記載の製造方法により得られるセルロース繊維。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、セルロースを溶解させるための前処理は不要であり、セルロース原料と水酸化四級アンモニウム水溶液とを常温下で接触させるだけでセルロース水溶液を容易に製造することができる。セルロース原料としては、セルロースの精製物のみならず、濾紙のようなセルロース製品やおがくずのような植物廃材を用いることができる。
【0033】
また、本発明により得られるセルロース水溶液は、さらに各種の誘導体を製造したり、セルロースを回収したりするために利用できる、汎用性のある原料となる。すなわち、このセルロース水溶液に誘導体化のための各種の化合物を添加すれば、温和な条件下で混合するだけで各誘導体を定量的に製造することができるし、セルロース水溶液にメタノール等の貧溶媒を添加すれば、再沈殿によりセルロース誘導体を単離することができる。
【0034】
このような本発明は、特殊な装置や技術を要することなく、温和な条件下で実施できるため、セルロース精製物やセルロース誘導体、これらの加工品などを工業的な大規模で、安全に、低コストで製造することができるようになると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】[実施例1-1]におけるセルロースの溶解を示す、操作前(左)および操作後(右)の写真。
【図2】[実施例1-2]の操作手順等を示す図。
【図3】[実施例1-2]で回収した固体のIRスペクトル(上)および1H NMRスペクトル(下)。
【図4】[実施例2]におけるセルロースのフィルム化(上)および濾紙のフィルム化(下)を示す写真。
【図5】[実施例3-2]におけるセルロースの溶解性を示す写真。左:溶解性の評価が○のentry 3、右:溶解性の評価が×のentry 4。
【図6】[実施例5-1]で回収した固体のIRスペクトル。
【図7】[実施例5-1]で回収した固体の1H NMRスペクトル。
【図8】[実施例5-2]で用いた固体(左)およびこれから得られたフィルム(右)。
【図9】[実施例5-3]で回収した固体のIRスペクトル。
【図10】[実施例5-3]で回収した固体の1H NMRスペクトル。
【図11】[実施例6]で回収した固体のIRスペクトル。
【図12】[実施例6]で回収した固体の1H NMRスペクトル。
【図13】[実施例7-1]で回収した固体のIRスペクトル。
【図14】[実施例7-1]で回収した固体の1H NMRスペクトル。
【図15】[実施例7-2]で回収した固体のIRスペクトル。
【図16】[実施例7-3]で回収した固体の1H NMRスペクトル。
【図17】[実施例8](1)における、セルロースと水性アクリル樹脂とから調製した塗工液の、目視および光学顕微鏡による観察画像。
【図18】[実施例8](2)における、セルロースと40重量%TBAH水溶液とから調製した塗工液の、目視および光学顕微鏡による観察画像。
【図19】[実施例8](3)における、セルロースと55重量%TBAH水溶液とから調製した塗工液の、目視および光学顕微鏡による観察画像。
【図20】[実施例9]における、上澄みおよび残渣からのセルロースの・四級アンモニウム塩の析出を示す写真。
【図21】[実施例10-1]の試料A(上)、試料B(下)それぞれについての、40倍の明視野像(右)および偏光顕微鏡(POM)像(左)。
【図22】[実施例10-2]における、再沈殿試料の広角X-線解析プロファイル。
【図23】[実施例11-1](KBrの添加効果)における混合溶液の比較写真。
【図24】[実施例11-2](18C6の添加効果)における混合溶液の比較写真。
【図25】[実施例11-3](金属イオンとcrown etherの有無による溶解の違い)における混合溶液の比較写真。
【図26】[実施例11-4]の(1)(40% TBAH水溶液またはその代わりにイオン交換水を用いた場合)における混合溶液の比較写真。
【図27】[実施例11-4]の(2)(40% TBAH水溶液の代わりにKOHまたはNaOHを用いた場合)における混合溶液の比較写真。
【図28】[実施例11-4]の(3a)(18C6の代わりにDMSOを混合した場合)における混合溶液の比較写真。
【図29】[実施例11-4]の(3b)(18C6の代わりにPEGを混合した場合)における混合溶液の比較写真。
【発明を実施するための形態】
【0036】
-セルロース水溶液-
本発明によるセルロース水溶液の製造方法は、セルロース原料(セルロース精製物またはセルロースを含有する物質)と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる工程を含む。上記工程により得られる水溶液中に溶解している物質は、セルロースのいずれかのヒドロキシ基に水酸化四級アンモニウムが反応して生成したセルロース・四級アンモニウム複合体であると推定されるが、本発明ではそのような複合体が溶解していると推定される水溶液を「セルロース水溶液」と称することにする。

【0037】
・セルロース原料
本発明における「セルロース原料」は、セルロース精製物、すなわちセルロース粉末などとして一般的な製品やそれと同程度の純度を有するセルロースであってもよいし、その他のセルロースを含有する物質、すなわち植物原料(パルプ)から得られる紙製品等の加工品などであってもよいし、作物、植物廃棄物、その他の植物性の物質などであってもよい。なお、木質は通常、セルロース以外にも比較的多量のヘミセルロース、リグニン等を含有するが、本発明を適用することが可能である。セルロース原料は、必要に応じて適切なサイズに微細化、粉末化しておいてもよく、たとえば、製材の際に副製するおがくず、木質チップ等の形態でも利用できる。

【0038】
・水酸化四級アンモニウム
本発明のセルロース水溶液の製造方法に用いる水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度は、セルロースの溶解反応が進行する所定の値以上とする必要があり、好ましくは35重量%以上で行うことが望ましい。上記水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度に係る「所定の値」は、後記実施例の条件下では、32~35重量%の間に存在すると推測される。水酸化四級アンモニウム水溶液中の濃度が所定の値より低いと、セルロースが溶解せず、セルロース水溶液が得られないおそれがある。当該水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度の上限値は、必要であれば他の条件を考慮しながら設定することもできるが、通常は特に設定されるべきものではなく、製品として入手できる水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度が上記の濃度の条件を満たしていれば(たとえば当該濃度が40重量%の製品は容易に入手可能である)、それより高める必要はない。

【0039】
なお、用いる水酸化四級アンモニウムの種類を変化させても、上記のような水酸化四級アンモニウム水溶液の望ましい濃度には同じ傾向が見られるが、必要であれば、用いる水酸化四級アンモニウムに応じて濃度を調整してもよい。

【0040】
また、セルロース原料と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる際の、セルロース原料中のセルロースを構成するグルコピラノース単位の物質量に対する、水酸化四級アンモニウム水溶液中の水酸化四級アンモニウムの物質量の割合は、セルロースが十分に水に溶解するよう所定の値以上とする必要がある。水酸化四級アンモニウムの量が不足すると、セルロースが十分に溶解しないおそれがある。

【0041】
なお、上記割合の下限値は用いる水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度によって変動する可能性がある。たとえば、水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度が55重量%である場合は、上記のように下限値を1.5とすることができる。ところが、水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度が40重量%である場合は、上記割合が1.5ではセルロースの溶解性が悪く、下限値を2程度に引き上げることが適切である。セルロース原料の量および水酸化四級アンモニウム水溶液の濃度を勘案しながら、水酸化四級アンモニウムの量が不足してセルロースの溶解性に悪影響を与えることのないよう、水酸化四級アンモニウム水溶液の添加量を調整することが適切である。

【0042】
一方、上記割合の上限値は特に設定する必要はなく、通常は水酸化四級アンモニウムが過剰であってもセルロースの溶解性に悪影響はないと考えられるが、コストやその他の条件を勘案して水酸化四級アンモニウムの濃度は適度な範囲に留めておくことが適切である。

【0043】
本発明で用いる水酸化四級アンモニウムは、好ましくは、置換もしくは非置換のアルキル基および/または置換もしくは非置換のアリール基を4つの置換基として有するものである。つまり、上記水酸化四級アンモニウムの4つの置換基は、それぞれ独立に、置換アルキル基、非置換アルキル基、置換アリール基または非置換アリール基であり得る。

【0044】
また、上記水酸化四級アンモニウムの4つの置換基は、公知の水酸化四級アンモニウムが有する置換基の中から選択することが可能であるが、たとえば炭素原子数の合計が4~60、好ましくは4~24となるような置換基の組み合わせとすることが好ましい。

【0045】
このような炭素原子数に係る条件を満たす水酸化四級アンモニウムの具体例としては、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH、炭素原子数16)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH、炭素原子数4)、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(BTMAH、炭素原子数10)、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド(THAH、炭素原子数24)など実施例で用いられているものの他、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(炭素原子数8)、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド(炭素原子数13)、トリメチルペンチルアンモニウムヒドロキシド(炭素原子数8)、トリブチルエチルアンモニウムヒドロキシド(炭素原子数14)が挙げられる。

【0046】
・無機塩不純物
本発明のセルロース水溶液の製造方法は、セルロース原料と接触した状態における、水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解しているアルカリ金属のハロゲン化物および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物(本発明において「無機塩不純物」と称する場合もある。)の合計の濃度が、セルロースの溶解反応を阻害しない所定の値以下で行う必要があり、当該濃度が1重量%以下で行うことが好ましい。なお、後記実施例の条件下では、上記「所定の値」は1~2重量%の間に存在すると推測される。水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解している無機塩不純物の濃度が所定の値より高いと、セルロースの溶解反応が阻害され、セルロース水溶液が得られないおそれがある。無機塩不純物は実質的に全く含まれないことが理想的である、つまり濃度は極力低い方がよいと考えられるため、無機塩不純物の濃度の下限値は設けなくてもよい(0としてもよい)が、必要であれば他の条件を考慮しながら設定してもよい。ただし、後述するように、環状ポリエーテルを用いる場合は、水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解している無機塩不純物の濃度は上記範囲に限定されるものではなく、上記範囲を超えていてもセルロースを溶解することが可能である。

【0047】
なお、後記実施例に示されているように、用いる水酸化四級アンモニウムの種類および濃度(ただし前述のようなセルロースを溶解させることができる濃度の下限値以上の範囲)を変化させても、また無機塩不純物の種類を変化させても、上記のような無機塩不純物の望ましい濃度には同じ傾向が見られるが、必要であれば、上記の変化に応じて濃度を調整してもよい。

【0048】
無機塩不純物としては、たとえばKBr、LiBr、NaBrが挙げられるが、これらに限定されるものではない。複数種の無機塩不純物が混在する場合は、各無機塩不純物の濃度の合計により、上記の濃度の条件を考えるようにする。

【0049】
なお、たとえば40%TBAH水溶液に対して5重量%添加する場合、NaClおよびKClは水に溶解するがTBAH水溶液とは分離し(2層になる)、LiCl、KI、CaCl2、MgCl2は沈殿が生じるため、これらの化合物は水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解する無機塩不純物とはなりにくい。

【0050】
無機塩不純物について上記の条件を満たす水酸化四級アンモニウムは、特定の製品として入手することができる。たとえば、アルドリッチ社製の水酸化四級アンモニウム(TBAH等)水溶液には無機塩不純物(KBr等)が実質的に混在しておらず、上記の要件を満たす製品として好適である。また、上記の条件を満たさない水酸化四級アンモニウム水溶液(製品)について、所定の精製工程(膜精製、再結晶、抽出等)を施して無機塩不純物を除去し、上記の条件を満たすようにしたのちに用いることも可能である。

【0051】
水酸化四級アンモニウム水溶液中に溶解している無機塩不純物は、主として水酸化四級アンモニウム水溶液に含まれているもの(たとえば製品の製造工程で混入したもの)が想定されるが、セルロース原料に含まれているもの(たとえばセルロース原料に元から含まれていたものや、必要により行われる前処理で混入したもの)であることも想定されうる。

【0052】
・環状ポリエーテル
本発明によるセルロース水溶液の製造方法は、環状ポリエーテル(クラウンエーテル)の存在下に、セルロース原料と水酸化四級アンモニウムとを接触させると、セルロースの溶解速度を向上させるとともに得られる溶液の透明性を向上させることができるため、より好ましい。水酸化四級アンモニウムを用いずに、環状ポリエーテルを単独でセルロース原料と接触させても、セルロースはほとんど溶解することができない。

【0053】
環状ポリエーテルとしては、たとえば、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジアザ-18-クラウン-6などが挙げられる。本発明において、環状ポリエーテルは、金属イオンの捕捉剤としてだけではなく、水酸化四級アンモニウムと協同してセルロースの水溶性(溶解速度および透明性)を向上する促進剤としても機能すると考えられている。その効果を考慮しながら、水酸化四級アンモニウム水溶液中に存在しているアルカリ金蔵イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンの種類などの条件に応じて適切な環状ポリエーテルを用いればよいが、たとえば水酸化四級アンモニウム水溶液中にカリウムイオンが存在する場合は、15-クラウン-5および18-クラウン-6が好ましい。

【0054】
【化3】
JP0006120266B2_000004t.gif

【0055】
前記無機塩不純物の合計の濃度が1重量%より多い場合(すなわち水酸化四級アンモニウム単独では溶解しにくい場合)であっても、環状ポリエーテルを併用することにより、セルロースを溶解することが可能となる。すなわち、本発明における環状ポリエーテルの使用は、前記無機塩不純物の合計の濃度が1重量%以下の場合に限定されるものではなく、むしろ前記無機塩不純物の合計の濃度が1重量%より多い場合においてセルロースの溶解を可能にするための手段として好適である。環状ポリエーテルの使用量は特に限定されるものではなく、水酸化四級アンモニウムの濃度、セルロースの量、アルカリ金属のハロゲン化物および/またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の合計の濃度、環状ポリエーテルの種類、そして希望する効果の程度(溶解速度、透明度)などを考慮しながら適宜調整することができるが、水酸化四級アンモニウム水溶液中の環状ポリエーテルの濃度は、通常0.01~5M、好ましくは0.5~2Mである。

【0056】
・接触工程
セルロース原料と水酸化四級アンモニウム水溶液とを接触させる(すなわちセルロースと水酸化四級アンモニウムとを反応させる)工程は、これらを反応容器内で撹拌しながら混合することにより行うことができる。環状ポリエーテルを用いる場合は、たとえば、あらかじめ水酸化四級アンモニウム水溶液と環状ポリエーテルとを混合しておき、この溶液とセルロースとを混合するようにすればよい。

【0057】
反応時間は、用いるセルロース原料および水酸化四級アンモニウム水溶液の態様に応じて、セルロースが溶解するのに十分な時間をかければよいが、一般的には1時間~6時間程度である。環状ポリエーテルを用いる場合は、この時間を10分に短縮することも可能である。反応温度は、通常は室温とすることができるが、必要であれば適切な速度で反応が進行するよう加熱または冷却をしてもよい。

【0058】
-セルロース水溶液の用途-
・セルロース・四級アンモニウム複合体の製造方法
本発明によるセルロース・四級アンモニウム複合体の製造方法は、前述のような製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロースの貧溶媒とを混合し、セルロース・四級アンモニウム複合体を析出させる工程を含むことを特徴とする。

【0059】
なお、セルロースを溶解するために使用した水酸化四級アンモニウムは、セルロースを再沈殿させたメタノール等の貧溶媒を除去した後、再び利用することが可能になる。また、本発明のセルロース・四級アンモニウム複合体の製造方法は、所望の最終産物を得る製造方法の途中において、中間生成物としてセルロース・四級アンモニウム複合体を得るための方法として利用することができる。

【0060】
本発明の方法により回収されたセルロース・四級アンモニウム複合体の用途は特に限定されるものではない。たとえば、本発明を利用することにより、バイオエタノールの生産に利用されるセルロース系バイオマスの酵素糖化の効率を向上できる可能性がある。従来のセルロース系バイオマスの酵素糖化には、セルロースが結晶構造を有していること、結晶セルロースをヘミセルロースやリグニンが取り囲んだ複雑な構造を形成していること、糖化の最終段階まで固液反応である(セロオリゴ糖の溶解度が低い)こと、グルコース以外にヘミセルロース由来の種々の糖(キシロース、マンノース、アラビノースなど)が生成することなど、デンプン系資材の酵素糖化に比べて多くの問題点があった。そのため、複雑な構造のバイオマスに酵素を働かせるために、脱リグニンあるいはヘミセルロースの部分分解を中心とした前処理や、結晶セルロースを分解するために大量の酵素(セルラーゼ)を用いた処理が必要であるなどの課題があった。これに対し、本発明を利用すれば、セルロース系バイオマスから容易にセルロースを溶出させ、セルロース・四級アンモニウム複合体の形態で回収することができ、当該複合体を酵素糖化に用いれば、少量の酵素で速い速度で糖を生産することが可能となる。

【0061】
・セルロースフィルムの製造方法
本発明によるセルロースフィルムの製造方法は、前述のような製造方法により得られるセルロース水溶液から、乾燥により溶媒を除去する工程を含む。

【0062】
本発明のセルロース水溶液に用いられている溶媒は水なので、自然乾燥または一般的な乾燥手段を用いて容易に除去することができる。したがって、たとえばセルロース水溶液を平面上に展開した後に溶媒を除去することにより、セルロース水溶液中に溶解していた物質、すなわちセルロース・四級アンモニウム複合体から形成された、水に再溶解可能なフィルム(本発明ではこれを「セルロースフィルム」と称する。)を製造することができる。

【0063】
・セルロース繊維の製造方法
また、セルロース水溶液からは、たとえば溶液(湿式)紡糸法を用いてセルロース繊維を製造したりするなど、各種のセルロース製品の製造が可能となる。本発明のセルロース水溶液を用いたセルロース繊維の製造方法は、従来のセルロース繊維の製造方法を応用することが可能であるが、たとえば、セルロース水溶液を紡糸ノズルから適切な凝固液(たとえばメタノール等の貧溶媒)中に押し出し、回収、洗浄等することにより、セルロース・四級アンモニウム複合体からなるセルロース繊維を製造することができる。

【0064】
・セルロース誘導体の製造方法
本発明によるセルロース誘導体の製造方法は、前述のような製造方法により得られるセルロース水溶液と、セルロース誘導体の原料となるヒドロキシ基反応性化合物とを混合する工程を含む。

【0065】
「ヒドロキシ基反応性化合物」としては、セルロース溶液中で、望ましくは穏和な条件下で(たとえば室温における撹拌のみにより)、当該セルロースが有するヒドロキシ基と反応することのできる官能基を有する化合物を用いることができる。このような化合物は、目的とするセルロース誘導体に応じたものが選択され、従来のセルロース誘導体の製造方法に用いられている化合物を本発明で用いることもできる。

【0066】
ヒドロキシ基反応性化合物の具体例としては、α,β-不飽和ニトリル、エポキシド、無水酢酸などの有機カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸エステル、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。いずれの化合物も、セルロース水溶液に添加し、常温で十分な時間撹拌することにより、セルロース・四級アンモニウム複合体と反応し、所定の誘導体を生成することができる。

【0067】
上記具体例のうち、α,β-不飽和ニトリル、エポキシド、有機カルボン酸無水物(無水酢酸等)は、それぞれ順に、シアノエチルセルロース、ヒドロキシアルキル(エチル、プロピル、ヘキシル等)セルロース、アシル(アセチル等)セルロースを製造する際の原料として用いることができる。

【0068】
また、セルロース水溶液に二酸化炭素を添加した後、さらにハロゲン化アルキルを添加して反応させることにより、セルロースカーボネートを製造できる可能性がある。
さらに、ハロゲン化アルキル(塩化メチル等)をヒドロキシ基反応性化合物として用いることにより、アルキルセルロース(メチルセルロース等のエステル化合物)を製造できる可能性もある。

【0069】
さらに、アクリル酸エステルをヒドロキシ基反応性化合物として用いることにより、一旦生成するカルボアルコキシアルキル誘導体から、加水分解よりさらにカルボキシアルキルセルロース誘導体を製造できる可能性もある。

【0070】
セルロース水溶液中のセルロース・四級アンモニウム複合体とヒドロキシ基反応性化合物との反応の態様は特に限定されるものではない。たとえばエポキシヘキサンを用いる場合(後記[実施例6]参照)、前記複合体において水酸化四級アンモニウムが結合しているヒドロキシ基に、ヒドロキシ基反応性化合物が代わりに結合するものと推測される(得られるヒドロキシヘキシルセルロースからは水酸化四級アンモニウムが脱離している)。あるいは、アクリロニトリルを用いる場合(後記[実施例5-2]参照)、セルロース・四級アンモニウム複合体とアクリロニトリルとを反応させた段階では、セルロース中の一部のヒドロキシ基に水酸化四級アンモニウムが結合したままであり、さらに酸を添加してその水酸化四級アンモニウムを脱離させヒドロキシ基に戻す処理を行った後、シアノエチルセルロースを回収するという態様もある。

【0071】
このセルロース誘導体の製造方法における、セルロース水溶液とヒドロキシ基反応性化合物とを混合する工程は、前述したセルロース水溶液の製造方法から連続した工程として行うことができる。すなわち、本発明によりセルロース・四級アンモニウム複合体が生成しているセルロース水溶液が製造されたら、このセルロース水溶液にヒドロキシ基反応性化合物を添加し、当該工程を行うことができる。もちろん、連続的な工程とせず、セルロース・四級アンモニウム複合体を単離したのち、あらためてセルロース誘導体の製造方法の当該工程を行うようにしてもよい。

【0072】
また、セルロースの誘導体化の反応は、上述のように穏和な条件下で(たとえば室温における撹拌のみにより)進行させることが望ましいが、必要であれば加熱、冷却、その他の本発明の趣旨を没却させない程度の操作を加えて進行させるようにしてもよい。

【0073】
生成したセルロース誘導体は、たとえば貧溶媒を添加して析出させた後に濾過するなど、公知の手法を用いて回収することができる。
本発明の製造方法により得られるセルロース誘導体は、従来の方法により得られるセルロース誘導体と同様の用途において利用することができる。

【0074】
たとえば、包装(たとえば包装用フィルム:アセチルセルロース)、織物(たとえば繊維:アセチルセルロース)、プラスチック(たとえば成形品:アセチルセルロース、エチルセルロース)、写真(たとえばフィルム:アセチルセルロース)、表面コート(たとえばラッカー:ニトロセルロース、アセチルセルロース、エチルセルロース;塗料:カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース)、軍需(たとえば火薬:ニトロセルロース)、飛行機(たとえばロケット推進剤:ニトロセルロース)、記録(たとえばテープ:アセチルセルロース)、化学薬品(たとえば耐水性セロファン:ニトロセルロース)、医薬(たとえば下剤:カルボキシメチルセルロース;造粒剤:メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、タバコ(たとえばフィルター:アセチルセルロース)、電気(たとえば絶縁材料:ベンジルセルロース、シアノエチルセルロース)などがセルロース誘導体の用途として挙げられる。

【0075】
また、上記のような製造方法により得られるセルロース誘導体の水溶液を用いて、当該セルロース誘導体で形成される加工品を製造することも可能である。たとえば、セルロース誘導体水溶液の溶媒は自然乾燥または一般的な乾燥手段を用いて容易に除去することができるので、セルロース誘導体水溶液を展開した後に溶媒を除去することにより、当該セルロース誘導体からなるフィルムを作製することができる。

【0076】
さらに、一旦製造されたセルロース誘導体を原料として、さらに別のセルロース誘導体を製造することも可能である。たとえば、シアノエチルセルロースに水酸化ナトリウムを反応させることによりカルボキシエチルセルロースを製造することができる。
【実施例】
【0077】
[実施例1-1]
【実施例】
【0078】
【化4】
JP0006120266B2_000005t.gif
10ml二ツ口反応器に撹拌子およびセルロース103mg(MW162.14、0.64mmol)を入れてN2置換した。テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液1ml(アルドリッチ社、40 % in water、MW259.47、d0.99、1.53mmol)を加え、室温で撹拌した。約2時間でセルロースが完全に溶解した。
【実施例】
【0079】
[実施例1-2]
図2に示す手順に従って、セルロース・アンモニウム複合体を単離した。セルロース自体はDMSOに不溶であるが、セルロースとTBAHとの反応後の固体は、酢酸エチル、エタノールおよびアセトンでの洗浄後もDMSOに溶解したので、当該固体は(単にセルロースの表面にアンモニウム塩が付着した物質ではなく)セルロースのアンモニウム塩であると推定された。
【実施例】
【0080】
回収した固体のIRスペクトルを図3(上)に示す。回収した固体がセルロースとは異なる物質であることを示している。1H NMRスペクトルを図3(下)に示す。回収した固体にテトラブチルアンモニウム部があることを示しており、セルロースのいずれかのヒドロキシ基がアンモニウム化されているものと思われる。
【実施例】
【0081】
[実施例2]
セルロース、濾紙をそれぞれテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(アルドリッチ社、40 % in water)に溶解させ、得られた溶解液をシャーレに移して自然乾燥させたところ、それぞれからフィルムが形成された。
【実施例】
【0082】
[実施例3-1]
濾紙No.2に3種類のTBAH製品を10μl滴下し、50℃で3h乾燥した後、蛍光X線測定を行なった。濃度が既知のKBr水溶液を用いて蛍光X線測定を行い、検量線を作成し(K-KA:y=10104x-1644.4、Br-KA:y=950.24x-846.33、yはKBrの濃度[ppm]、xはピーク強度)、各TBAH製品に含まれるKおよびBrの濃度を求めた。結果は下記表に示すとおりである。TBAH製品2にはK+が約2.1重量%、Br-が約2.4重量%含まれており、TBAH製品3にはK+が約2.0重量%、Br-が約1.9重量%含まれているものと考えられるが(それぞれK-KAおよびBR-KAの列参照)、TBAH製品1(アルドリッチ社製)にはK+およびBr-は実質上ほとんど含まれていないものと考えられる。なお、TBAH製品1を用いると常にセルロースを溶解することができる一方、TBAH製品2および3を用いると(ロットによって)セルロースを溶解することができない場合があることが確認されている。
【実施例】
【0083】
【表1】
JP0006120266B2_000006t.gif
【実施例】
【0084】
[実施例3-2]
小さくカットした濾紙(定性濾紙No.2)を500mg入れた20ml試験管に、KBrを下記各水準で加えた前記TBAH製品1(アルドリッチ社製)を加えた。10℃で12h静置した後のセルロースの溶解性を目視で確認し、濾紙が溶解した状態を○、濾紙が溶解していない状態を×と評価した(図5参照)。結果を下記表に示す。TBAH中のKBr濃度が5重量%を超えたentry 4では、セルロースを溶解することができなかった。
【実施例】
【0085】
【表2】
JP0006120266B2_000007t.gif
【実施例】
【0086】
[実施例3-3]
水酸化四級アンモニウム塩水溶液10mlに塩を各水準で加え、20ml試験管に小さくカットした濾紙(定性濾紙No.2)を500mg加え、10℃で12h静置した。結果を下記表に示す。溶解性の評価基準は実施例3-2と同じである。なお、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(BTMAH)はいずれもアルドリッチ社製のものであり、いずれの製品も初期の(KBr無添加時の)KBr濃度はほぼ0重量%である。無機塩が1重量%以下の場合、どの四級アンモニウム塩の水溶液(濃度40重量%)にもセルロースは溶解した。一方、無機塩が2重量%以上の場合、どの四級アンモニウム塩の水溶液にも溶解せず、四級アンモニウム塩の濃度を上げても溶解しなかった。
【実施例】
【0087】
【表3】
JP0006120266B2_000008t.gif
【実施例】
【0088】
[実施例4]
20ml試験管に小さくカットした濾紙(定性濾紙No.2)を入れ、下記各水準の希釈テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)を10ml加え、10℃で24時間静置した。結果を下記表に示す。溶解性の評価基準は実施例3-2と同じである。TBAHの場合、濃度が35重量%以上でセルロースが溶解することが確認されたが、32重量%ではセルロースの量に関わりなくセルロースを溶解することができなかった。
【実施例】
【0089】
【表4】
JP0006120266B2_000009t.gif
【実施例】
【0090】
[実施例5-1]
シアノエチルセルロースアンモニウム塩の合成
【実施例】
【0091】
【化5】
JP0006120266B2_000010t.gif
10ml二ツ口反応器に撹拌子およびセルロース3.01g(MW162.14、18.6mmol)を入れてN2置換した。テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液24.0ml(アルドリッチ社、40 % in water、MW259.47、d0.99、36.0mmol)を加え、室温で24時間撹拌し、セルロースを完全に溶解させた。次いで、アクリロニトリル7.30ml(MW53.06、d0.81、11.1mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。メタノールを加えて再沈殿を行い、吸引濾過した。残渣を回収し、真空乾燥した。回収した固体は、DMSO、水どちらにも可溶だった。
【実施例】
【0092】
なお、従来のシアノエチルセルロースの製造方法(非特許文献4: Zhou, J.; Li, Q.; Song, Y.; Zhangand, L.; Lin, X. Polym. Chem., 2010, 1, 1662-1668.)ではNaOHを用いるので、副反応として、セルロースに導入したシアノ基における加水分解が起きるという問題がある。これに対して本発明による上記の方法では、弱塩基である水酸化四級アンモニウム(TBAH等)の水溶液を用いるので、加水分解が起きにくい点で有利である。
【実施例】
【0093】
回収した固体のIRスペクトルを図6に示す。2252.7 cm-1にシアノ基の吸収が確認できた。また、回収した固体の1H NMRスペクトルを図7に示す。CH2CNのプロトン、グルコピラノースのプロトンおよびテトラブチルアンモニウム部分のプロトンのピークが確認できた。これらの結果から、回収した固体はシアノエチルセルロースのアンモニウム塩であると推定された。
【実施例】
【0094】
[実施例5-2]
シアノエチルセルロースの合成
【実施例】
【0095】
【化6】
JP0006120266B2_000011t.gif
10ml二ツ口反応器に撹拌子および実施例5-1で回収した固体を入れてN2置換した。水を加えて撹拌を開始し、セルロースを完全に溶解させた。10%塩酸を加えて室温で1時間撹拌した。メタノールで再沈殿を行い、吸引濾過し、固体を回収した。回収量は2.32gであった。回収した固体は、DMSO、水どちらにも可溶だった。
【実施例】
【0096】
[実施例5-3]
実施例5-1で回収した固体(シアノエチルセルロース)160mgを水3mlに溶解させ、シャーレに移して36時間自然乾燥させたところフィルム化した。このフィルムは半透明だった。
【実施例】
【0097】
回収した固体のIRスペクトルを図9に示す。2252.7 cm-1にシアノ基の吸収が確認できた。また、1 NMRスペクトルを図10に示す。CH2CNのプロトンおよびグルコピラノースのプロトンは確認できたが、テトラブチルアンモニウム部分のプロトンのピークは消えていた。これらの結果から、回収した固体はシアノエチルセルロースであると推定された。
【実施例】
【0098】
[実施例6]
ヒドロキシヘキシルセルロースの合成
【実施例】
【0099】
【化7】
JP0006120266B2_000012t.gif
10ml二ツ口反応器に撹拌子およびセルロース503mg(MW162.14、3.10mmol)を入れてN2置換した。テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液4.00ml(アルドリッチ社、40 % in water、MW259.47、d0.99、6.10mmol)を加え、室温で6時間撹拌し、セルロースを完全に溶解させた。次いで、エポキシヘキサン1.10ml(MW100.16、d0.84、9.21mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。メタノールを加えて再沈殿を行い、吸引濾過した。残渣を回収し、真空乾燥した。回収量は133mgだった。回収した固体はDMSOに可溶だった。
【実施例】
【0100】
得られた白色固体のIRスペクトルを図11に示す。また、1H NMRスペクトルを図12に示す。1H NMR (300 MHz, DMSO) δ 0.80-1.00 (m), 1.20-1.48 (m) 3.00-5.80(m); IR (KBr) 3174, 2869, 2364, 2129, 2044, 1643, 1431, 1049, 675 cm-1 ;これらのスペクトルデータから、セルロースは修飾されていると判断した。
【実施例】
【0101】
[実施例7-1]
アセチルセルロースの合成
【実施例】
【0102】
【化8】
JP0006120266B2_000013t.gif
10ml二ツ口反応器に撹拌子およびセルロース509mg(MW162.14、3.13mmol)を入れてN2置換した。テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液4.00ml(アルドリッチ社、40 % in water、MW259.47、d0.99、6.10mmol)を加え、室温で19時間撹拌し、セルロースを完全に溶解させた。次いで、無水酢酸1.10ml(MW102.09、d1.08、9.21mmol)を加え、固体化したがそのまま室温で24時間撹拌した。メタノールを加えて再沈殿を行い、吸引濾過した。残渣を回収し、真空乾燥した。回収量は458mgだった。回収した固体はDMSOに可溶だった。
【実施例】
【0103】
得られた白色固体の外観およびIRスペクトルを図13に示す。1735.8 cm-1にカルボニル基の吸収が確認できた。また、1H NMRスペクトルを図14に示す。1H NMR (300 MHz, DMSO) δ 1.80-2.10 (m), 4.10 (q) 3.00-5.80(m); IR (KBr) 3228, 2896, 1735, 1654, 1375, 1244, 1033, 896, 613 cm-1 ; グルコピラノースおよびアセチル基のシグナルが確認できた。これらの結果からアセチルセルロースが生成していると判断した。なお、当該IRスペクトルは、市販品(キシダ化学社製アセチルセルロース、酢酸度55%)とのIRスペクトルと一致した。
【実施例】
【0104】
[実施例7-2]
アセチルセルロースの置換度の決定のためのプロピオニル化
【実施例】
【0105】
【化9】
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アセチルセルロース(299mg)、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(150mg,mmol)、無水プロピオン酸(4.5ml,mmol)を入れてN2置換し、DMSO(4ml)、pyridine(4.5ml)を加えて100℃で1h撹拌した。メタノール15mlを加えて生成物を沈殿させ、ろ過、真空ポンプで乾燥し、目的物321mgを白色固体として得た。
【実施例】
【0106】
得られた白色固体の外観およびIRスペクトルを図15に、1H NMRスペクトル(600MHz)を図16に示す。このIRスペクトルから、ヒドロキシ基がほぼプロピオニル化されたことを確認し、1H NMRスペクトル中のピーク面積の積分比から置換度は19%と算出された。なお、この手法についてはKelin, H.; Ben, W.; Yan, C.; Huiquan, L.; Jinshu, W.;Weijiang , L.; Chaoshi , M.; Dankui, L. J. Agric. Food Chem, 2011, 59 (10), 5376-538.を参考にした。
【実施例】
【0107】
[実施例8]
(1)セルロース(メルク社、102330)560mgと水性アクリル樹脂(和信ペイント水性艶出しニス、固形分30%)3gとを混合して塗工液を調製した。この塗工液を平板上に塗工し、溶解前のセルロースの状態を目視および光学顕微鏡で観察した。塗工サンプルは白く、光学顕微鏡で観察するとセルロースの微粒子がそのまま観察された(図17参照)。
【実施例】
【0108】
(2)次に、上記セルロースと濃度40重量%のTBAH水溶液(アルドリッチ社、178780-1L)とを、セルロース中のグルコピラノース単位/TBAHの比(mol/mol)が1/2となる量で混合した塗工液を調製し、同様に観察したところ、塗工サンプルは透明で、光学顕微鏡観察でもほぼセルロースは溶解していたが、上記の比を1/1.5に変更した塗工サンプルは白く、セルロースの溶け残りも多く見られた(図18参照)。
【実施例】
【0109】
(3)一方、上記セルロースと濃度55重量%のTBAH水溶液(アルドリッチ社、86863-100MLL)とを用いて塗工液を調製した場合、上記の比が1/2のとき、1/1.5のときいずれも、セルロースはほぼ溶解していた(図19参照)。
【実施例】
【0110】
[実施例9]
おが屑からのセルロース抽出
電動のこぎりで木材を切断しておがくずを用意した。10ml二ツ口反応器に撹拌子およびそのおがくず200mgを入れてN2置換した。テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液5ml(アルドリッチ社、40 % in water、MW259.47、d0.99、7.71mmol)を加え、室温で3日間撹拌した。上澄み(2.89g)をバイアルに移し、メタノール9mlを加えたところ、セルロース・四級アンモニウム塩が析出した。また、残渣にもメタノール9mlを加えたところ、こちらからもセルロース・四級アンモニウム塩が析出した。
【実施例】
【0111】
[実施例10-1]
セルロース515mg(3.2mmol)を、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)5ml(アルドリッチ社製、40重量%水溶液、セルロースに対して2.39当量)に少量ずつ撹拌しながら加えた。この溶液を1週間放置した後の試料Aおよび1日放置した後の試料Bについて、40倍の明視野と偏光顕微鏡(POM)で観察した。試料AおよびBいずれも、繊維状の物質は観られず、またPOM像でサンプルの異方性(結晶性)に基づく複屈折が観られなかったため、等方性溶液と考えられる。
【実施例】
【0112】
[実施例10-2]
セルロース(515 mg, 3.2 mmol)およびTBAH5ml(アルドリッチ社、40% 水溶液、2.39当量)を加え、5h後に、メタノール15mlを加えて再沈殿させた。濾過して白色固形物を回収し、真空ポンプで5h乾燥して、601mgのパリパリ状の固形物を得た。この固形物(再沈殿試料)の広角X-線解析プロファイル(測定条件:試料形状,乳鉢で2分間粉砕;室温;0.01°毎にサンプリング;スキャンスピード,2°/min)を図22に示す。明確なセルロースI型結晶の回折は観られないため非晶のサンプルが得られている。従って、溶解時に結晶の溶け残りは無いと考えられる。セルロースI型は天然のセルロースに特有な結晶系である。非晶ハローはbimodalになっており、ピーク位置はセルロースII結晶に相当する。セルロースIIは分子分散した溶解状態を経て析出(再生)させた試料に特有な結晶系で、セロハンやレーヨンなどが該当する。偏光顕微鏡観察の結果とあわせて、セルロースは見た目の通り本溶媒に溶解していると考えられる。
【実施例】
【0113】
[実施例11-1]KBrの添加効果
【実施例】
【0114】
【表5】
JP0006120266B2_000015t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量のKBr、40% TBAH水溶液(2.0 mL、アルドリッチ社製で、K+およびBr-は実質上ほとんど含まれていないものと考えられる(以下同様))を入れて室温で24時間撹拌し、混合溶液の状態を比較した(図23)。 KBrの濃度の増加に伴って溶液が懸濁した。
【実施例】
【0115】
[実施例11-2]18C6の添加効果
【実施例】
【0116】
【表6】
JP0006120266B2_000016t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量の18C6、20 mM KBr含有40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で24時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図24)。KBrを含む溶液のうち、18C6を添加したものは添加していないものに比べてより溶けている。KBrを含まないものと比較しても、18C6を添加したものの方が溶けている。18C6の濃度が高いほど溶液の透明性が高く、より短時間で溶解した(18C6を3.0 M添加した時は、約10分で溶解した)。これらの結果から、(a)18C6がK+を捕捉しセルロースが溶解した、(b)18C6がTBAHと相互作用してセルロースの溶解を促進した、(c)18C6そのものがセルロースを溶解した、という3つの可能性が考えられる。そこで、これらの可能性を検証するために以下の実験を行った。
【実施例】
【0117】
[実施例11-3]金属イオンとクラウンエーテルの有無による溶解の違い
(1)金属イオンが無い場合
【実施例】
【0118】
【表7】
JP0006120266B2_000017t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量のクラウンエーテル(無、18C6、15C5、12C4)、40% TBAH(2.0 mL)を入れ、室温で6 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図25:Metal無)。
【実施例】
【0119】
(2)Li+イオンの場合
【実施例】
【0120】
【表8】
JP0006120266B2_000018t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、LiCl(8.48 mg, 0.20 mmol)、上表に示す量のクラウンエーテル(無、18C6、15C5、12C4)、40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で6 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図25:LiCl)。
【実施例】
【0121】
(3)Na+イオンの場合
【実施例】
【0122】
【表9】
JP0006120266B2_000019t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、NaCl(11.7 mg, 0.20 mmol)、下表に示す量のクラウンエーテル(無、18C6、15C5、12C4)、40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で6 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図25:NaCl)。
【実施例】
【0123】
(4)K+イオンの場合
【実施例】
【0124】
【表10】
JP0006120266B2_000020t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、KBr(23.8 mg, 0.20 mmol)、下表に示す量のクラウンエーテル(無、18C6、15C5、12C4)、40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で6 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図25:KBr)。
【実施例】
【0125】
上記(1)~(4)より、アルカリ金属イオン、とくにK+イオンを添加するとセルロースの溶解が妨げられ懸濁液が得られることが分かる。これは、とくにK+イオンがセルロースに配位し架橋するためと考えられる(下図参照)。また、18C6を混合すると金属イオンの種類に関わらず透明な水溶液が得られた。15C5の場合にも同様の効果を確認できた。一方、12C4を混合した場合は、金属イオンの種類に関わらず懸濁したままであった。セルロースの溶解にはクラウンエーテルの環のサイズが重要である。
【実施例】
【0126】
【化10】
JP0006120266B2_000021t.gif
【実施例】
【0127】
[実施例11-4]18-crown-6の効果の検証
(1)40% TBAH水溶液またはその代わりにイオン交換水を用いた場合
【実施例】
【0128】
【表11】
JP0006120266B2_000022t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量の18C6、40% TBAH水溶液(2.0 mL)もしくはイオン交換水(2.0 mL)を入れ、室温で24 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図26)。TBAHが溶解していないイオン交換水を用いた場合、18C6のみを用いてもセルロースは溶解せず、混合液は白濁したままであった
(2)40% TBAH水溶液の代わりにKOHまたはNaOHを用いた場合
【実施例】
【0129】
【表12】
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5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、下表に示す量の18C6、3.66 M KOH水溶液もしくは3.95 M NaOH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で24 時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図27)。TBAHの代わりにKOHやNaOHを用いて18C6を添加した場合も、混合液は白濁したままであった。
【実施例】
【0130】
上記(1)および(2)の結果から、セルロースの溶解にはTBAHのような水酸化四級アンモニウム水溶液が必須であり、クラウンエーテル単独ではセルロースを溶解する力がないことが判明した。クラウンエーテルは、アルカリ金属イオンを捕捉する効果とTBAHによるセルロース溶解を補助する効果がある。例えば、TBAHのOHによるセルロースのヒドロキシ基のプロトンの引き抜きとクラウンエーテルによるセルロースのヒドロキシ基との水素結合による協同効果によって、セルロース分子間の水素結合を効率よく切断するために、セルロースの水溶性が向上したと推測される。
【実施例】
【0131】
(3)18C6の代わりにDMSOまたはPEGを混合した場合
(3a)DMSOの場合
【実施例】
【0132】
【表13】
JP0006120266B2_000024t.gif
5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量のDMSO、40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で24時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図28)。DMSOの濃度を上げても混合溶液は透明にならず、セルロースは懸濁した状態のままであった。
【実施例】
【0133】
(3b)PEGの場合
【実施例】
【0134】
【表14】
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5 mLサンプル管に撹拌子、セルロース(0.200 g)、上表に示す量のPEG、40% TBAH水溶液(2.0 mL)を入れ、室温で24時間撹拌後、混合溶液の状態を比較した(図29)。図中のPEG濃度は、モノマー単位(CH2CH2O)に換算した濃度である。PEGの濃度を上げても混合溶液は透明にならず、セルロースは懸濁した状態のままであった。
【実施例】
【0135】
上記(3a)および(3b)の結果に示されるように、DMSOや鎖状ポリエーテルであるPEGにはクラウンエーテルで見られた効果は観測できなかった。このことから、クラウンエーテル(特に18C6および15C5)に特有のセルロース溶解促進効果があることが判明した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28