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明細書 :アミノ糖連結抗がん性貴金属錯体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6099052号 (P6099052)
登録日 平成29年3月3日(2017.3.3)
発行日 平成29年3月22日(2017.3.22)
発明の名称または考案の名称 アミノ糖連結抗がん性貴金属錯体
国際特許分類 A61K  31/706       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C07H  23/00        (2006.01)
FI A61K 31/706
A61P 35/00
C07H 23/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 18
出願番号 特願2013-556396 (P2013-556396)
出願日 平成25年1月29日(2013.1.29)
国際出願番号 PCT/JP2013/051843
国際公開番号 WO2013/115157
国際公開日 平成25年8月8日(2013.8.8)
優先権出願番号 2012016735
優先日 平成24年1月30日(2012.1.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年10月30日(2015.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】矢野 重信
【氏名】柴原 隆志
【氏名】小倉 俊一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】吉田 佳代子
参考文献・文献 米国特許第05118499(US,A)
特開平01-113349(JP,A)
BULLETIN OF THE CHEMICAL SOCIETY OF JAPAN,1972年,VOL.45,NO.2,P.477-481
J.MED.CHEM.,1993年,VOL.36,P.1791-1795
SYNTH.REACT.INORG.MET.-ORG.CHEM.,2000年,VOL.30,NO.1,P.1-17
調査した分野 A61K 31/706
A61P 35/00
C07H 15/26
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【化1】
JP0006099052B2_000019t.gif
JP0006099052B2_000020t.gifR1~R5は、同一又は異なって、水素、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、ニトロ、アミノ、糖残基、又は発光性色素を表し、
Mは、パラジウム、白金、イリジウム、又はルテニウムを表し、
Xは、-O-を表し、
Yは、ハロゲンを表し、
Dは、単糖残基、オリゴ糖残基、又は糖連結ポリエチレングリコール残基を表し、
nは、1~3の整数を表す。〕
【請求項2】
R1~R5が水素である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
Mがパラジウム又は白金である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
Dがグルコース残基、ガラクトース残基、又はマンノース残基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
DがD(+)-グルコース残基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記D(+)-グルコース残基がβ-D(+)-グルコース残基である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
DがL(-)-グルコース残基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記L(-)-グルコース残基がβ-L(-)-グルコース残基である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記一般式(I)で表される化合物が式(II)で表される化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【化2】
JP0006099052B2_000021t.gif

【請求項10】
抗癌剤である、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
抗癌剤を製造するための、請求項1~9のいずれか一項に規定される一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗腫瘍活性を有する新規の医薬組成物、及び癌治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから知られている抗癌剤、シスプラチンは二価の白金にアンモニアと塩化物イオンがシス位に配位した平面正方形4配位の極めてシンプルな構造をしている。この抗癌剤は、現在でも臨床に使用されている有用な薬剤である。
【0003】
また、シスプラチンに続いて、様々な抗癌剤が開発され、日本ではカルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンが臨床応用されている。
【0004】
金属イオンと有機物を素材とする金属錯体は、生命活動に必須の微量金属イオンの役割やバイオメカニズムの解明の可能性をもたらすなど、近年生命科学の発展に大きなインパクトを与えている。既に10数年程前から金属イオンの動物及び人体内での挙動とその医薬としての有用性を見いだすための研究が開始されてきており、化学者、薬学者及び医学者が共同して無機薬理学(Inorganic Pharmacology)という新しい学問領域を創生している。
【0005】
糖は、生体内においてエネルギー源だけではなく、エネルギー貯蔵や構造構築材料、分子認識など、生命活動に必要不可欠な役割を担っている。グルコースに比べて配位力が増すアミンを導入したグルコサミンの重合体であるキチン、キトサンは、甲殻類の外骨格の主成分であり、セルロースの次に多く存在する。このように、グルコサミンが重要な糖類であるにも関わらず、グルコサミンを配位子に用いた錯体の報告は限られており、とりわけ貴金属錯体に関する報告はほとんどない。
【0006】
非特許文献1-4では、種々の糖骨格を有する新規の白金錯体が報告されている。これらの文献の白金錯体では、塩化物イオン又はヨウ化物イオンが2個配位した構造を取っている。
【0007】
非特許文献1では、白金(II)ジアミノ糖錯体の合成及び抗腫瘍活性について報告されている。非特許文献2では、モノ及びジヒドロキシジアミノテトラヒドロピラン誘導体を調製し、対応するジアミノシス-プラチナアナログに変換し、抗腫瘍活性を評価したことが報告されている。非特許文献3では、スクロース誘導配位子に結合した白金中心を有する白金錯体の合成と抗腫瘍活性について報告されている。非特許文献4では、炭水化物結合シスプラチンアナログの合成と細胞毒性が報告されている。
【0008】
また、非特許文献5-7では、N原子、及びS原子が3個と塩化物イオン1個が配位した構造を有する白金及びパラジウム錯体が開示されている。非特許文献8では、白金(II)及びパラジウム(II)DMSO錯体の合成について報告されている。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Tsubomura, T. et al., Inorg. Chem. 1990, 29, 2622-2626
【非特許文献2】Hanessian, S. et al., Can. J. Chem. 1993, 71, 886-895
【非特許文献3】Sachinvala, N. D. et al., J. Med. Chem. 1993, 36, 1791-1795
【非特許文献4】Chen, Y. et al., Angew. Chem. Int. Ed.1999, 38, 1768-1769
【非特許文献5】Ackley, M. C. et al., J. Biol. Inorg. Chem. 2004, 9, 453-461
【非特許文献6】Zhang, J. et al., J. Med. Chem. 2003, 46, 3502-3507
【非特許文献7】Yan, L. et al., J. Inorg. Biochem. 2012, 106, 46-51
【非特許文献8】Price, J.H., et al., Inorg. Chem. 1972, 11, 1280-1284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のシスプラチンなどの抗癌剤は、薬剤の水溶性の低さや重篤な副作用などの問題を抱えている。また、同じ抗癌剤を使用し続けることで癌に耐性を持たれるなどの重篤な問題もあり、新規抗癌剤の開発が切望されている。
【0011】
更に、非特許文献1-7で従来報告されている白金錯体は合成が複雑で容易ではないという問題があった。また、N原子、O原子及びS原子が3個と塩化物イオン1個が配位した構造を有する白金及びパラジウム錯体では糖が連結されている例は知られていない。
【0012】
そこで、本発明は、薬剤合成が簡単であり、且つ優れた生体適合性及び抗腫瘍活性を有する新規の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、天然に存在する生体適合性に優れたD(+)-グルコサミン塩酸塩を中和後、8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(HOqn)と反応させ、シッフ塩基(GlcN=qnO = N-(8-ヒドロキシキノリン-2-イルメチリデン)-β-D-グルコサミン)を配位子として含む新規Pd(II)錯体{[PdCl(GlcN=qnO)]}を合成し、このPd錯体のキャラクタリゼーション及びX線結晶構造解析を行った。そして、当該Pd錯体は、胃癌細胞MKN45及びMKN28に対しシスプラチン(CDDP)の約2~5倍という極めて高い抗がん活性(IC50)を示すという知見を得た。
【0014】
本発明は、これら知見に基づき完成されたものであり、次の医薬組成物等を提供するものである。
【0015】
項1.一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【0016】
【化1】
JP0006099052B2_000002t.gif

【0017】
JP0006099052B2_000003t.gifR1~R5は、同一又は異なって、水素、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、ニトロ、アミノ、糖残基、又は発光性色素を表し、
Mは、パラジウム、白金、金、イリジウム、又はルテニウムを表し、
Xは、-O-、-NH2-、-S-、-SH-、又は-OSO2-を表し、
Yは、ハロゲン、又は長鎖脂肪酸残基を表し、
Dは、単糖残基、オリゴ糖残基、又は糖連結ポリエチレングリコール残基を表し、
nは、0~3の整数を表す。〕
【0018】
項2.R1~R5が水素である、項1に記載の医薬組成物。
【0019】
項3.Mがパラジウム又は白金である、項1又は2に記載の医薬組成物。
【0020】
項4.Dがグルコース残基、ガラクトース残基、又はマンノース残基である、項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【0021】
項5.DがD(+)-グルコース残基である、項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【0022】
項6.前記D(+)-グルコース残基がβ-D(+)-グルコース残基である、項5に記載の医薬組成物。
【0023】
項7.DがL(-)-グルコース残基である、項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【0024】
項8.前記L(-)-グルコース残基がβ-L(-)-グルコース残基である、項7に記載の医薬組成物。
【0025】
項9.Xが-O-である、項1~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【0026】
項10.Yがハロゲンである、項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【0027】
項11.Yが塩素である、項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【0028】
項12.Mがパラジウムである、項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【0029】
項13.前記一般式(I)で表される化合物が式(II)で表される化合物である、項1~6及び9~12のいずれかに記載の医薬組成物。
【0030】
【化2】
JP0006099052B2_000004t.gif

【0031】
項14.抗癌剤である、項1~13のいずれかに記載の医薬組成物。
【0032】
項15.項1に規定される一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩を投与することを特徴とする癌治療方法。
【0033】
項16.抗癌剤を製造するための、項1に規定される一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩の使用。
【0034】
項17.癌治療に使用するための項1に規定される一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩。
【発明の効果】
【0035】
本発明の医薬組成物は、優れた生体適合性及び抗腫瘍活性を有する新規の医薬組成物である。また、本発明の医薬組成物が含有する化合物は、合成方法が極めて簡単であり、ワンポットでの合成も可能である。
【0036】
更には、本発明の医薬組成物が含有する化合物の合成において、アミノ糖の種類及び金属の種類を容易に選択できることから、耐性癌に対して有用な化合物の合成への貢献が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】MKN45に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【図2】MKN28に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【図3】MKN45に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【図4】MKN28に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【図5】Panc-1に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【図6】Panc-1に対するCDDP及びPd-Oqnの毒性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0039】
本発明の医薬組成物は、一般式(I)で表される化合物又はその生理的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。

【0040】
【化3】
JP0006099052B2_000005t.gif

【0041】
JP0006099052B2_000006t.gifR1~R5は、同一又は異なって、水素、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、ニトロ、アミノ、糖残基、又は発光性色素を表し、
Mは、パラジウム、白金、金、イリジウム、又はルテニウムを表し、
Xは、-O-、-NH2-、-S-、-SH-、又は-OSO2-を表し、
Yは、ハロゲン、又は長鎖脂肪酸残基を表し、
Dは、単糖残基(好ましくは、グルコース残基、ガラクトース残基、又はマンノース残基)、オリゴ糖残基、又は糖連結ポリエチレングリコール残基を表し、
nは、0~3の整数を表す。〕

【0042】
上記R1~R5としては、好ましくは水素又はアミノであり、より好ましくは水素である。上記Mとしては、好ましくはパラジウム又は白金ある。

【0043】
上記Dとしては、好ましくはD(+)-グルコース残基及びL(-)-グルコース残基であり、より好ましくはβ-D(+)-グルコース残基及びβ-L(-)-グルコース残基である。

【0044】
また、上記Dとしては、好ましくは以下の群から選択される。

【0045】
【化4】
JP0006099052B2_000007t.gif

【0046】
アルキルは、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、好ましくは炭素数が1~6のアルキル、より好ましくは炭素数が1~3のアルキルである。アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロビル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ヘキシル等が挙げられる。ここでのアルキルには、ヒドロキシアルキル及びアルコキシのアルキル部分も含まれる。糖残基としては、単糖残基、オリゴ糖残基、及び多糖残基が挙げられるが、好ましくは単糖残基、及びオリゴ糖残基である。

【0047】
発光性色素としては、例えば、NB(N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミン)が挙げられる。

【0048】
JP0006099052B2_000008t.gif上記Xとしては、好ましくは-O-である。上記Yとしては、好ましくはハロゲンである。

【0049】
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられるが、好ましくは塩素である。

【0050】
長鎖脂肪酸とは、炭素数が12以上の脂肪酸のことを意味し、例えば、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸などが挙げられる。

【0051】
nとしては、好ましくは1である。Mがパラジウム及び白金の場合はn=1となり、Mが金の場合はn=0又は2となり、Mがイリジウム及びルテニウムの場合はn=1~3となる。ここで、n=2の場合は以下に示すような形でYが2つ結合した構造となる(この場合は、2つのYは同一又は異なっている)。また、n=3の場合も以下に示すような形でYが3つ結合した構造となる(この場合は、3つのYは同一又は異なっている)。

【0052】
【化5】
JP0006099052B2_000009t.gif

【0053】
一般式(I)で表される化合物は、特に好ましくは式(II)で表される化合物である。

【0054】
【化6】
JP0006099052B2_000010t.gif

【0055】
一般式(I)で表される化合物の生理的に許容される塩は、生理的に許容される酸付加塩又は塩基との塩である。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、ヨウ化水素酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられ、塩基との塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩などが挙げられる。

【0056】
一般式(I)で表される化合物は、例えば、アミノ糖(グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン)、オリゴアミノ糖又は糖連結PEGアミンと下記一般式(III)で表される化合物を反応させ、得られた化合物を所望の中心金属に対応する金属塩と反応させることにより製造することができる。

【0057】
【化7】
JP0006099052B2_000011t.gif

【0058】
〔X’は、水酸基、アミノ基、又はチオール基を表す。〕
アミノ糖、オリゴアミノ糖又は糖連結PEGアミンと一般式(III)で表される化合物の反応に使用する溶媒は、使用する化合物の種類等によって適宜選択されるが、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本反応は、アミノ糖、オリゴアミノ糖又は糖連結PEGアミン1モルに対して一般式(III)で表される化合物を約1モルの割合で使用するのが望ましい。反応温度及び反応時間も使用する化合物の種類等に応じて適宜選択されるが、反応温度は通常約40℃であり、反応時間は通常約20時間である。アミノ糖、オリゴアミノ糖又は糖連結PEGアミンと下記一般式(III)で表される化合物の反応により下記一般式(IV)で表される化合物が得られる。

【0059】
【化8】
JP0006099052B2_000012t.gif

【0060】
一般式(IV)で表される化合物との反応に使用する金属塩としては、例えばNa2PdCl4、K2PtCl4等が挙げられる。また、一般式(IV)で表される化合物と金属塩の反応に使用する溶媒は、使用する化合物の種類等によって適宜選択されるが、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本反応は、一般式(IV)で表される化合物1モルに対して金属塩を0.9モルの割合で使用するのが望ましい。反応温度及び反応時間も使用する化合物の種類等に応じて適宜選択されるが、反応温度は通常10℃であり、反応時間は通常0.2時間である。

【0061】
上記の製造方法で原料として使用しているアミノ糖{グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン}、オリゴアミノ糖、糖連結PEGアミン、一般式(III)で表される化合物及び金属塩は、市販品を容易に入手できるか、又は公知の方法で製造することが可能である。

【0062】
上記の製造方法により得られた一般式(I)で表される化合物は、結晶化、再結晶、濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、クロマトグラフィー、蒸留、分留、転溶等の公知の手法により、単離及び精製することができる。

【0063】
一般式(I)で表される化合物がフリー体で得られる場合、常法により結晶を形成させることができる。また、一般式(I)で表される化合物が水及びアルコール付加物として結晶の形で得られた場合、常法に従ってフリー体に変換することができる。

【0064】
このように、本発明の化合物は、市販品として入手可能なアミノ糖、オリゴアミノ糖及び芳香族アルデヒドを原料として使用でき、且つ合成方法が極めて簡単であり、ワンポットでの合成も可能である。更には、合成において、アミノ糖の種類及び金属の種類を用意に選択することが可能なことから、耐性癌に対して有用な化合物の合成が期待される。

【0065】
本発明の医薬組成物は、好ましくは抗癌剤である。本発明における「抗癌剤」は、抗腫瘍剤、抗腫瘍薬剤、抗腫瘍医薬組成物等と表現される場合もある。

【0066】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与される。また、本発明の医薬組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の抗癌剤は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、エリキシル剤などとして経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤などとして経皮的、経鼻的若しくは経気管的に、又は水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。

【0067】
本発明の医薬組成物における有効成分である一般式(I)で表される化合物の配合量は、剤型、投与経路等に応じて適宜選択されるが、通常、製剤全量中0.001~70重量%程度である。

【0068】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。

【0069】
本発明の医薬組成物により治療できる癌の種類は、胃癌、直腸癌、結腸癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、咽頭癌、食道癌、腎癌、胆のう及び胆管癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌等が挙げられ、特に胃癌に対しては高い効果が期待される。更に、薬剤耐性の腫瘍に対しても効果が期待できる。

【0070】
本発明の医薬組成物は、優れた抗腫瘍活性を有する新規の医薬組成物であり、アミノ糖が連結しているため、腫瘍選択能と毒性の軽減が期待される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により制約を受けるものではない。
合成例1
【実施例】
【0072】
【化9】
JP0006099052B2_000013t.gif
【実施例】
【0073】
D(+)-グルコサミン塩酸塩(156.13 mg, 0.72 mmol)をカリウムt-ブトキシド(80.65 mg, 0.72 mmol)を使用して、メタノール(40 mL)中で中和した。そこに, メタノール(20 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(126.32 mg, 0.73 mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。40℃程度に加熱したウォーターバスで加温しながらロータリーエバポレーターで約5 mLまで濃縮した。濃縮後、18×3 cmのシリカゲルカラムで展開し(展開溶媒, メタノール)、着色層を全て回収した。そこに,メタノール(30 mL)に溶かした塩化パラジウム(II)酸ナトリウム(202.76 mg, 0.67 mmol)を加えると、約5秒後から懸濁が始まり、黒色粉末が析出した(粗収量と粗収率: 184.84 mg, 54%)。
【実施例】
【0074】
この黒色粉末をDMF/メタノール蒸気拡散法で再結晶した。具体的には、黒色粉末101.91 mgを秤量しDMF (20 mL)に溶解し、その溶液をメタノール雰囲気下・暗所・室温で2週間程度静置すると, 濃青色針状結晶が析出した(収量と収率: 37.29 mg, 37%)。このサンプルを用いて各種物性測定を行った。以後、得られた化合物をPd-Oqnと称することもある。
【実施例】
【0075】
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
D(+)-グルコサミン塩酸塩: Wako, 073-02792
カリウムt-ブトキシド: ナカライテスク, 28536-82
8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド: Wako, 352-12903
塩化パラジウム(II)酸ナトリウム: ALDRICH, 205818-25G
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級): ナカライ, 13016-65
シリカゲル60 (0.040~0.063 mm), メルク, 1.09385.1009[Pd(GlcN=Oqn)Cl] ・0.5MeOH・1.5H2O・(Pd-Oqn) Anal. Found (calcd for C16.5H22ClN2O8Pd)%: C, 38.37 (38.24); H, 3.90 (4.28); N, 5.42 (5.41).
FAB-MS m/z: [M - Cl]+calcd for C16H17N2O6Pd 439.0, found: 439.1.
【実施例】
【0076】
単結晶X線構造解析より析出した濃青色針状結晶は、非対称単位に[Pd(GlcN=Oqn)Cl]が2つ、MeOHが1つ、H2Oが3分子存在している(Pd-Oqn = [Pd(GlcN=Oqn)Cl]・0.5MeOH・1.5H2O)。錯体は、GlcN=OqnのN、N、Oの3点でPdに結合し、Clイオンとで通常の4配位平面正方形をとっている。
【実施例】
【0077】
単結晶X線構造解析及び1H NMRスペクトルの両者の測定によって、Pd-Oqnは結晶中でも溶液中でもグルコサミン部位の配座はβ-4C1であり、溶液中では配座異性化しない。なお、Pd-Oqnは配位子GlcN=HOqnの段階では、溶液中でグルコサミン部位に異性化が起こり、1H NMRスペクトルよりα体 : β体 = 20 : 80であることが分かった。このことから、β体の方が熱力学的に安定であり、その性質は錯体ではより顕著に現れていることが判明した。
合成例2
【実施例】
【0078】
【化10】
JP0006099052B2_000014t.gif
【実施例】
【0079】
D(+)‐グルコサミン塩酸塩(377.4 mg, 1.75 mmol)とカリウムt-ブトキシド(196.4 mg, 1.75 mmol)をメタノール(80 mL)に加えて中和した。そこに、メタノール(40 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(126.32 mg, 0.73 mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し約5 mLまで濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで展開し(展開溶媒はメタノール)、着色層を全て回収した。つぎに、メタノール(50 mL)にPt(DMSO)2Cl2(非特許文献8)(700.9 mg, 1.66 mmol)を加えて60℃に加熱し、ここに先程のメタノール溶液を滴下し、終夜撹拌した。すると赤色の沈殿が生じた(粗収量と粗収率: 288.6 mg, 33%)。この赤色粉末をDMFに溶解させ、メタノール雰囲気下で2週間放置すると赤褐色針状結晶が析出した(収量と収率: 209.9 mg, 22%)。
【実施例】
【0080】
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
D(+)‐グルコサミン塩酸塩: Wako, 073-02792
カリウムt‐ブトキシド: ナカライテスク, 28536-82
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級) : Wako, 045-02911
シリカゲル: 富士シリシア化学, PSQ100B
[Pt-Oqn=NGlc]2・HCl・MeOH Anal, Found (calcd for C33H39Cl3N4O13Pt2):
C: 32.92 (33.13), H: 3.24 (3.29), N: 4.96 (4.68).
【実施例】
【0081】
単結晶X線構造解析より析出した赤褐色針状結晶は、非対称単位に[Pt-Oqn=NGlc]が2つ、MeOHが1つ、HClが1分子存在している。([Pt-Oqn=NGlc]・0.5 HCl・0.5 MeOH)錯体はN、N、Oの3点でPtに配位しており、Clイオンとで4配位平面正方形をとっている。
合成例3
以下の化合物の製造:
【実施例】
【0082】
【化11】
JP0006099052B2_000015t.gif
【実施例】
【0083】
D(+)‐グルコサミン塩酸塩(52.0 mg, 0.24 mmol)とカリウムt-ブトキシド(80.7 mg, 0.24 mmol)をメタノール(15 mL)に加えて中和した。そこに、メタノール(8 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(41.5 mg, 0.24 mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し約5 mLまで濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで展開し(展開溶媒はメタノール)、着色層を全て回収した。つぎに、メタノール(10 mL)にNa3[IrCl6](99.2 mg, 0.22 mmol)を加えて60℃に加熱し、ここに先程のメタノール溶液を滴下し、終夜撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した。以後、得られた化合物をIr-Oqn=NGlcと称することもある。
【実施例】
【0084】
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
D(+)‐グルコサミン塩酸塩: Wako, 073-02792
カリウムt‐ブトキシド: ナカライテスク, 28536-82
Na3[IrCl6]: Strem Chemicals, 20197200
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級) : Wako, 045-02911
シリカゲル: 富士シリシア化学, PSQ100B
質量分析(Ir-Oqn=NGlc): (塩化物イオン脱離体として) ESI-TOF MS m/z found 526.1
合成例4
以下の化合物の製造:
【実施例】
【0085】
【化12】
JP0006099052B2_000016t.gif
【実施例】
【0086】
D(+)‐ガラクトサミン塩酸塩(13.0 mg, 0.060 mmol)とカリウムt-ブトキシド(10.0 mg, 0.060 mmol)をメタノール(5 mL)に加えて中和した。そこに、メタノール(5 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(10.4 mg, 0.060 mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。反応終了後、白い沈殿を吸引ろ過により除去した。次に、メタノール(20 mL)に塩化パラジウム(II)酸ナトリウム(17.7mg, 0.060 mmol)を加えて、ここに先程のメタノール溶液を滴下し、室温で終夜撹拌した。そして生じた紫色の沈殿を回収した(収量と収率 : 11.7 mg, 42%)。以後、得られた化合物をPd-Oqn=NGalと称することもある。
【実施例】
【0087】
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
D(+)‐ガラクトサミン塩酸塩: ナカライテスク, 16510-14
カリウムt‐ブトキシド: ナカライテスク, 28536-82
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級): Wako, 045-02911
シリカゲル: 富士シリシア化学, PSQ100B
質量分析(Pd-Oqn=NGal): (塩化物イオン脱離体として) ESI-TOF MS m/z found 439.0
合成例5
以下の化合物の製造:
【実施例】
【0088】
【化13】
JP0006099052B2_000017t.gif
【実施例】
【0089】
D(+)‐ガラクトサミン塩酸塩(13.0 mg, 0.060 mmol)とカリウムt-ブトキシド(10.0mg, 0.060 mmol)をメタノール(5 mL)に加えて中和した。そこに、メタノール(5 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(10.4mg, 0.060 mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。反応終了後、白い沈殿を吸引ろ過により除去した。次に、メタノール(20 mL)にPt(DMSO)2Cl2(非特許文献8)(25.3 mg, 0.060 mmol)を加えて60℃に加熱し、ここに先程のメタノール溶液を滴下し、終夜撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した。以後、得られた化合物をPt-Oqn=NGalと称することもある。
【実施例】
【0090】
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
D(+)‐ガラクトサミン塩酸塩: ナカライテスク, 16510-14
カリウムt‐ブトキシド: ナカライテスク, 28536-82
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級): Wako, 045-02911
シリカゲル: 富士シリシア化学, PSQ100B
質量分析(Pt-Oqn=NGal): (塩化物イオン脱離体として) ESI-TOF MS m/z found 528.1
合成例6
以下の化合物の製造:
【実施例】
【0091】
【化14】
JP0006099052B2_000018t.gif
【実施例】
【0092】
Glc-PEG-NH2 (255.9 mg, 0.72 mmol)をメタノール(30 mL)に溶かし、そこにメタノール(20 mL)に溶かした8-ヒドロキシ-2-キノリンカルバルデヒド(126.32 mg, 0.73 mmol)を、室温で20時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し約5 mLまで濃縮した。次に、メタノール(20 mL)に塩化パラジウム(II)酸ナトリウム(202.76 mg, 0.67 mmol)を溶かしたものを先程のメタノール溶液に加えた。反応終了後、溶媒を減圧留去した。以後、得られた化合物をPd-Oqn=N-PEG-Glcと称することもある。
(錯体合成に使用した薬品のメーカー名、型番)
メタノール(特級): ナカライ, 21915-64
DMF (特級): Wako, 045-02911
シリカゲル: 富士シリシア化学, PSQ100B
質量分析(Pd-Oqn=N-PEG-Glc): (塩化物イオン脱離体として) ESI-TOF MS m/z found 615.1
【実施例】
【0093】
試験例1
<抗癌活性試験の手順>
1.96穴プレート2枚に胃癌細胞株(MKN28、MKN45) 1×103 cells/100μL/wellを播種した(培地(RPMI1640)は10% FBS入りを使用した)。その後、37℃、5% CO2で68 hインキュベートした。
2.薬剤(CDDP ([PtCl2(NH3)2])又はPd-Oqn)と培地を混合して調製したものを各ウェルに投与した。その後、37℃、5% CO2で48 hインキュベートした。
3.MTTを10μL/well投与し、4時間、37℃でインキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度測定し、生存率を計算した。
【実施例】
【0094】
<結果>
抗癌活性試験の結果を図1~4に示す。MKN45(n=4)では、CDDPはIC50: 28.2μM、Pd-OqnはIC50: 11.7μMであった。MKN28(n=4)では、CDDPはIC50: 87.2μM、Pd-OqnはIC50: 17.5μMであった。このように、Pd-Oqnは、胃癌細胞MKN45及びMKN28に対しシスプラチンの約2~5倍と極めて高い抗癌活性(IC50)を示すことが観察された。
【実施例】
【0095】
この結果から、Pd-Oqn錯体は、胃癌細胞(MKN28及びMKN45)に対して優れた抗腫瘍活性を示すことが分かった。
【実施例】
【0096】
試験例2
<抗癌活性試験の手順>
1.96穴プレート2枚に膵臓癌細胞株(Panc-1) 1×103 cells/100μL/wellを播種した(培地(RPMI1640)は10% FBS入りを使用した)。その後、37℃、5% CO2で68 hインキュベートした。
2.薬剤(CDDP ([PtCl2(NH3)2])又はPd-Oqn)と培地を混合して調製したものを各ウェルに投与した。その後、37℃、5% CO2で48 hインキュベートした。
3.MTTを10μL/well投与し、4時間、37℃でインキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度測定し、生存率を計算した。
【実施例】
【0097】
<結果>
抗癌活性試験の結果を図5~6に示す。Panc-1 (n=4)では、CDDPはIC50: 124.2μM、Pd-OqnはIC50: 63.1μMであった。このように、Pd-Oqnは、膵臓癌細胞(Panc-1)に対しシスプラチン(CDDP)の約2倍と高い抗癌活性(IC50)を示すことが観察された。
【実施例】
【0098】
この結果から、Pd-Oqn錯体は、膵臓癌細胞に対して優れた抗腫瘍活性を示すことが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5