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明細書 :気管支喘息の予防又は治療薬及びそのスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年5月11日(2015.5.11)
発明の名称または考案の名称 気管支喘息の予防又は治療薬及びそのスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/4164      (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61P  11/06        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12Q   1/28        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A61K 45/00 ZNA
A61K 48/00
A61K 39/395 P
A61K 31/4164
A61K 31/7105
A61K 31/7088
A61P 11/06
A61P 43/00 111
C12Q 1/28
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
国際予備審査の請求
全頁数 34
出願番号 特願2013-555252 (P2013-555252)
国際出願番号 PCT/JP2013/051120
国際公開番号 WO2013/111714
国際出願日 平成25年1月22日(2013.1.22)
国際公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
優先権出願番号 2012011838
優先日 平成24年1月24日(2012.1.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】出原 賢治
【氏名】有馬 和彦
【氏名】鈴木 章一
【氏名】白石 裕士
【氏名】太田 昭一郎
出願人 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100149010、【弁理士】、【氏名又は名称】星川 亮
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
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4C085
4C086
Fターム 2G045AA25
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要約 本発明は、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する、気管支喘息の予防又は治療薬を提供する。これにより、吸入ステロイド剤と作用機序が異なり、吸入ステロイド剤に代わり得る気管支喘息の予防又は治療薬が提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する、気管支喘息の予防又は治療薬。
【請求項2】
ヘムペルオキシダーゼ阻害薬が、以下の(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の気管支喘息の予防又は治療薬:
(a)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物、
(b)ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物、
(c)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体、
(d)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNA、
(e)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的若しくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド、
(f)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するリボザイム、
(g)ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチド、及び
(h)ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマー。
【請求項3】
ヘムペルオキシダーゼ阻害薬がチアマゾールである、請求項1に記載の気管支喘息の予防又は治療薬。
【請求項4】
気管支喘息が、ステロイド抵抗性の気管支喘息である、請求項1~3のいずれか1項に記載の気管支喘息の予防又は治療薬。
【請求項5】
試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項6】
(i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させた場合と、(ii) 試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させない場合の、該細胞におけるヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量の比較を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量が、前記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量より低くなる試験化合物を、気管支喘息の予防又は治療薬の候補化合物として選択する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項9】
(i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させた場合と、(ii) 試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させない場合の、ヘムペルオキシダーゼの活性の比較を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性が、前記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性より低くなる試験化合物を、気管支喘息の予防又は治療薬の候補化合物として選択する、請求項9に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、気管支喘息の予防又は治療薬及びそのスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
気管支喘息は、非特異的な刺激物質に対して気道過敏性の亢進を示すことを特徴とした疾患であり、咳嗽、喀痰、呼吸困難などの臨床症状を引き起こす疾患である。気管支喘息の治療で用いられる治療薬は吸入ステロイド剤が中心であり、これにロイコトリエン受容体拮抗薬、β2受容体刺激薬、テオフィリン剤などが併用して用いられる。
【0003】
気管支喘息に対する吸入ステロイド剤の有効性は高いが、気管支喘息患者全体の10~15%の患者はステロイド抵抗性を示し、そのようなステロイド抵抗性を示す患者については吸入ステロイド剤以外の薬剤による治療が必要となる。また、小児の気管支喘息患者などにおいては、副作用の観点から吸入ステロイド剤の使用が控えられる場合がある。
【0004】
こうしたことから、吸入ステロイド剤の薬理学的効果とは全く異なり、吸入ステロイド剤に代わりうる気管支喘息治療薬の開発が望まれている。
【0005】
ところで、チアマゾールは、これまで甲状腺機能亢進症に対する治療薬として広く用いられてきており、その安全性が確認されている(非特許文献1)。
【0006】
また、非特許文献2には、チアマゾールの主な副作用として無顆粒球症、多発性関節炎が知られているが、その頻度は非常に低く1%未満であり、また湿疹や痒みなどの皮膚症状が現れたとしても軽度であることが記載されており、非特許文献3には、チアマゾールは精原細胞や精母細胞、ならびに骨髄細胞の染色体異常を引き起こさないことが記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】New England Journal of Medicine 352(9), 905-917, 2005, Cooper DS, Antithyroid Drugs
【非特許文献2】Expert Opinion Drug Safety 5(1), 107-116, 2006, Azizi F, The safety and efficacy of antithyroid drugs.
【非特許文献3】Journal of Toxicological Sciences 12(1), 23-32, 1987, Hashimoto T et al, Mutagenicity tests of the antithyroid agent thiamazole. Cytogenetic studies on male mice
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、吸入ステロイド剤と作用機序が異なり、吸入ステロイド剤に代わり得る気管支喘息の予防又は治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、気管組織内のヘムペルオキシダーゼは気管支喘息を増悪させる因子であること、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬が気管支喘息の病態の改善に有用であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す、気管支喘息の予防又は治療薬、気管支喘息の予防又は治療薬のスクリーニング方法などを提供する。
[1] ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する、気管支喘息の予防又は治療薬。
[2] ヘムペルオキシダーゼ阻害薬が、以下の(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも1つである上記[1]に記載の気管支喘息の予防又は治療薬:
(a)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物、
(b)ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物、
(c)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体、
(d)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNA、
(e)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的若しくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド、
(f)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するリボザイム、
(g)ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチド、及び
(h)ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマー。
[3] ヘムペルオキシダーゼ阻害薬がチアマゾールである、上記[1]に記載の気管支喘息の予防又は治療薬。
[4] 気管支喘息が、ステロイド抵抗性の気管支喘息である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の気管支喘息の予防又は治療薬。
[1a] 気管支喘息の予防または治療を必要とする患者に治療的有効量のヘムペルオキシダーゼ阻害薬を投与することを含む、気管支喘息の予防又は治療方法。
[2a] ヘムペルオキシダーゼ阻害薬が、以下の(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも1つである上記[1a]に記載の方法:
(a)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物、
(b)ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物、
(c)ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体、
(d)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNA、
(e)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的若しくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド、
(f)ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するリボザイム、
(g)ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチド、及び
(h)ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマー。
[3a] ヘムペルオキシダーゼ阻害薬がチアマゾールである、上記[1]に記載の方法。
[4a] 気管支喘息が、ステロイド抵抗性の気管支喘息である、上記[1a]~[3a]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法。
[6] (i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させた場合と、(ii) 試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させない場合の、該細胞におけるヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量の比較を行う上記[5]に記載の方法。
[7] 前記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量が、前記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量より低くなる試験化合物を、気管支喘息の予防又は治療薬の候補化合物として選択する上記[6]に記載の方法。
[8] 試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法。
[9] (i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させた場合と、(ii) 試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させない場合の、ヘムペルオキシダーゼの活性の比較を行う上記[8]に記載の方法。
[10] 前記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性が、前記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性より低くなる試験化合物を、気管支喘息の予防又は治療薬の候補化合物として選択する上記[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステロイド剤とは異なる作用機序により気管支喘息の病態を改善することができる気管支喘息の予防又は治療薬が提供される。本発明の好ましい態様の気管支喘息の予防又は治療薬は、ステロイド抵抗性の気管支喘息患者に対しても有効性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1(A)】気管支喘息モデルマウスに対するSCNイオンの作用を調べた実験結果を示す(実施例1)。実験のプロトコルを示す図である。
【図1(B)】気管支喘息モデルマウスに対するSCNイオンの作用を調べた実験結果を示す(実施例1)。メサコリン吸入により誘発した気道過敏性の測定結果を示す図である。
【図2】気道上皮細胞に対するOSCNイオンの作用を調べた実験結果を示す図である(実施例2)。
【図3(A)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた実験結果を示す(実施例3)。実験のプロトコルを示す図である。
【図3(B)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた実験結果を示す(実施例3)。メサコリン吸入により誘発した気道過敏性の測定結果を示す図である。
【図3(C)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた実験結果を示す(実施例3)。気管支肺胞洗浄液中の好酸球数を示す図である。
【図4(A)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた別の実験結果を示す(実施例4)。実験のプロトコルを示す図である。
【図4(B)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた別の実験結果を示す(実施例4)。メサコリン吸入により誘発した気道過敏性の測定結果を示す図である。
【図4(C)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた別の実験結果を示す(実施例4)。気管支肺胞洗浄液中の好酸球数、好中球数、マクロファージ数、及びT細胞数を示す図である。
【図4(D)】気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用を調べた別の実験結果を示す(実施例4)。気管支肺胞洗浄液中の総細胞数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2012-11838号(2012年1月24日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。

【0014】
1. 本発明の概要
本発明は、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する、気管支喘息の予防又は治療薬を提供する。また、本発明は、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法を提供する。

【0015】
以前、本発明者らは、陰イオンチャネルであるペンドリンの発現が喘息モデルマウスの肺組織において増強しており、強制的にペンドリンをマウス気道上皮細胞に発現させると、気道過敏性の亢進や粘液産生といった喘息様の病態が形成されることを見出した(Nakao I et al., J Immunol, vol.180, 6262-6269, 2008)。

【0016】
今回、本発明者らは、ペンドリンを透過する何らかの陰イオンがこの喘息様病態を形成していると考え、そのような陰イオンとしてSCNイオンに着目した。本発明者らは、喘息モデルマウスの飲水中にSCNイオンを加えたところマウスにおける喘息様病態が悪化するという結果を得たことから(図1(B))、SCNイオンが喘息に対して増悪因子であることを明らかにした。

【0017】
さらに、本発明者らは、SCNイオンは気道組織内のヘムペルオキシダーゼによって過酸化水素(H2O2)とともに、SCN + H2O2 → OSCN + H2Oの反応を受けると考えた。本発明者らは、実際に細胞培養系実験において細胞内でOSCNイオンを増加させると炎症に重要な分子であるNF-κBの活性が上昇するという結果を得たことから(図2)、OSCNイオンも喘息に対する増悪因子であることを明らかにした。

【0018】
これらのことより、本発明者らは、気道組織内のヘムペルオキシダーゼは喘息を増悪させる因子であることを明らかにした。本発明者は、さらに、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害すること、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害することなどが、気管支喘息の病態の改善につながることを明らかにした。実際に、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬の1つであり、抗甲状腺亢進症薬として用いられているチアマゾールをマウスに投与したところ、気道過敏性の亢進、好酸球性炎症などの喘息様病態の発現を抑制することができた(図3(A)~(C))。

【0019】
2. ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する気管支喘息の予防又は治療薬
本発明は、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する気管支喘息の予防又は治療薬を提供する。また、本発明は、気管支喘息の予防又は治療を必要とする患者に治療的有効量のヘムペルオキシダーゼ阻害薬を投与することを含む気管支喘息の予防又は治療方法を提供する。

【0020】
2.1. 本発明で用いられるヘムペルオキシダーゼ阻害薬
「ヘムペルオキシダーゼ」は、ペルオキダーゼのファミリーであり、活性部位にヘムを含むペルオキシダーゼの総称である。動物ではミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)、ラクトペルオキシダーゼ(LPO)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)などがこのファミリーに含まれる。これらのヘムペルオキダーゼは過酸化水素依存的に、基質となる物質の酸化反応を触媒する。

【0021】
本発明において、ヘムペルオキシダーゼは、特に限定されないが、例えば、ヒト由来のもの、マウス由来のものなどが挙げられる。各種ヘムペルオキシダーゼのcDNA配列とアミノ酸配列は下記の通りである。

【0022】
ヒトラクトペルオキシダーゼ(cDNA配列: 配列番号:1); アミノ酸配列: Accession No. NP_006142.1 (配列番号:2))
マウスラクトペルオキシダーゼ(cDNA配列: 配列番号:3; アミノ酸配列: Accession No. NP_536345(配列番号:4))

【0023】
ヒトミエロペルオキシダーゼ (cDNA配列: 配列番号:5; アミノ酸配列: Accession No. NP_000241.1(配列番号:6))
マウスミエロペルオキシダーゼ (cDNA配列: 配列番号:7; アミノ酸配列: Accession No. NP_034954.2(配列番号:8))

【0024】
ヒト好酸球ペルオキダーゼ(cDNA配列: 配列番号:9; アミノ酸配列: Accession No. NP_000493(配列番号:10))
マウス好酸球ペルオキダーゼ(cDNA配列: 配列番号:11; アミノ酸配列: Accession No. NP_031972.2(配列番号:12))

【0025】
ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ(cDNA配列: 配列番号:13; アミノ酸配列: Accession No. NP_000538.3 (配列番号:14))
マウス甲状腺ペルオキシダーゼ(cDNA配列: 配列番号:15; アミノ酸配列: Accession No. NP_033443.1(配列番号:16))

【0026】
本明細書中では、ヘムペルオキシダーゼは、それらと実質的に同質の活性を有する限り、その変異体をも包含する意味で用いられる。該変異体としては、例えば、上記ヘムペルオキシダーゼのアミノ酸配列中の1~複数個(例えば、1~30個、1~29個、1~28個、1~27個、1~26個、1~25個、1~24個、1~23個、1~22個、1~21個、1~20個、1~19個、1~18個、1~17個、1~16個、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個(1~数個)、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。欠失、置換、挿入もしくは付加したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。

【0027】
実質的に同質の活性としては、例えば、ヘムペルオキシダーゼの活性が挙げられる。実質的に同質とは、それらの活性が性質的に(例、生理学的に、または薬理学的に)同等であることを示す。したがって、ヘムペルオキシダーゼの活性等が同等(例、約0.01~100倍、好ましくは約0.1~10倍、より好ましくは0.5~2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。

【0028】
「ヘムペルオキシダーゼの活性」は、過酸化物による物質の酸化反応を触媒する酵素活性を意味する。

【0029】
「ヘムペルオキシダーゼ阻害薬」は、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する又はヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する活性を有する物質を意味する。かかる物質としては、低分子若しくは高分子化合物のほか、siRNA、shRNA、抗体、アンチセンス、ペプチド、タンパク質、酵素などを用いることができる。

【0030】
「ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する」とは、ヘムペルオキシダーゼの酵素活性を阻害することを意味する。

【0031】
「ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する」とは、当該タンパク質の遺伝子の発現阻害を含む、当該タンパク質をコードする遺伝子からタンパク質生成までの一連の事象(例えば、転写(mRNAの生成)、翻訳(タンパク質の生成)を含む)のうちのいずれかの事象を阻害することによって、当該タンパク質の生成を阻害することを意味する。

【0032】
本発明で用いられるヘムペルオキシダーゼ阻害薬としては、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する物質又はヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する物質等が用いられるが、具体的には、以下の(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも1つの物質等が挙げられる。

【0033】
(a) ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物、
(b) ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物、
(c) ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体、
(d) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNA、
(e) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的若しくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド、
(f) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するリボザイム、
(g) ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチド、及び
(h) ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマー。

【0034】
ここで、「化合物」には低分子化合物と高分子化合物が含まれる。「低分子化合物」とは、分子量10,000以下(好ましくは、分子量5,000以下、より好ましくは分子量2,000以下、特に好ましくは分子量700以下)の有機および無機物質を意味する。また「高分子化合物」とは、分子量10,000超(好ましくは、分子量50,000以上、より好ましくは分子量100,000以上)の有機物質を意味する。

【0035】
ヘムペルオキシダーゼの活性は、公知の方法又はそれに準ずる方法にて測定することができる。ヘムペルオキシダーゼの活性は、例えば、3,3',5,5'-tetramethylbenzidine (TMB)の酸化により生じる呈色反応を利用した方法(Thomas,EL et al, J Dent Res 73,544-555,1994)などにより測定することができる。

【0036】
ヘムペルオキシダーゼの発現量も、公知の方法又はそれに準ずる方法にて測定することができる。ヘムペルオキシダーゼの発現量は、例えば、ヘムペルオキシダーゼのタンパク質量を測定すること(Free Radic Biol Med,49,1354-60,2010)、ヘムペルオキシダーゼのmRNA量を測定すること(J Immunol,167, 1672-1682, 2001)、などにより測定することができる。

【0037】
(a) ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物
ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物(塩形態を含む)としては、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害しうる化合物であればよく特に制限はないが、例えば、ヘムペルオキシダーゼに結合してその酵素活性を阻害する化合物又はその塩などが挙げられる。

【0038】
このような化合物は、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などから選ばれた化合物であってもよい。該化合物は、新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。塩形態の化合物としては、例えば、生理学的に許容される金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。

【0039】
このうち、生理学的に許容し得る塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩,カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩,マグネシウム塩,バリウム塩など)などの無機塩、アンモニウム塩など、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸など無機酸との塩、又は酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。

【0040】
ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害し得る化合物としては、より具体的には、チアマゾール、プロピルチオウラシル、ダプソン、アザイドなどが挙げられる。あるいは、このような化合物は、後述するスクリーニング方法によっても得ることができる。これらのヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物は、単独で、又は必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。

【0041】
(b) ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物
ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物(塩形態を含む)は、ヘムペルオキシダーゼの発現を抑制することができるので、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する物質として好適に使用することができる。

【0042】
ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物としては、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害しうるものであればよく特に制限はないが、例えば、(i) ヘムペルオキシダーゼをコードする遺伝子(DNA)からヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAへの転写を阻害する化合物、(ii) ヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAからヘムペルオキシダーゼへの翻訳を阻害する化合物などが挙げられる。(i) ヘムペルオキシダーゼをコードする遺伝子(DNA)からヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAへの転写を阻害する化合物としては、ヘムペルオキシダーゼをコードする遺伝子(DNA)からmRNAへの転写を阻害するものであればよく特に制限はないが、例えば、ヘムペルオキシダーゼをコードする遺伝子(DNA)からmRNAへの転写に関与する因子に結合し、転写を阻害する化合物などが挙げられる。(ii) ヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAからヘムペルオキシダーゼへの翻訳を阻害する化合物としては、ヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAからヘムペルオキシダーゼへの翻訳を阻害するものであればよく特に制限はないが、例えば、ヘムペルオキシダーゼをコードするmRNAからヘムペルオキシダーゼへの翻訳に関与する因子に結合し、翻訳を阻害する化合物などが挙げられる。

【0043】
このような化合物は、例えば、後述するスクリーニング方法によって得ることができる。ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物は、単独で、又は必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。

【0044】
(c) ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体
本発明においては、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害することが目的であるから、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体であればいかなる抗体をも用いることができる。そのような抗体は、ヘムペルオキシダーゼ又はその部分ペプチドを認識し得る抗体であって、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する抗体などを含む。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。

【0045】
本発明で用いられるヘムペルオキシダーゼ若しくはその部分ペプチドに対する抗体は、ヘムペルオキシダーゼ若しくはその部分ペプチドを抗原として用い、自体公知の抗体又は抗血清の製造法に従って製造することができる。

【0046】
(d) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNA
ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対してRNAi作用を有する二重鎖RNA(例、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA又はshRNAなど)は、低毒性であり、ヘムペルオキシダーゼをコードする遺伝子の翻訳を抑制することができ、ヘムペルオキシダーゼの発現を抑制することができるので、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する物質として好適に使用することができる。このような、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対してRNAi作用を有する二重鎖RNAとしては、ヘムペルオキシダーゼをコードするRNAの一部を含有する二重鎖RNA(例、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するsiRNA(small (short) interfering RNA)、shRNA(small (short) hairpin RNA)など)などが挙げられる。

【0047】
このような二重鎖RNAは、公知の方法(例、Nature, 411巻, 494頁, 2001年; 特表2002-516062号公報; 米国特許出願公開第2002/086356号明細書; Nature Genetics, 24巻, 180-183頁, 2000年; Genesis, 26巻, 240-244頁, 2000年; Nature, 407巻, 319-320頁, 2002年; Genes & Dev.,16巻, 948-958頁, 2002年; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99巻, 5515-5520頁, 2002年; Science, 296巻, 550-553頁, 2002年; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99巻, 6047-6052頁, 2002年; Nature Biotechnology, 20巻, 497-500頁, 2002年; Nature Biotechnology, 20巻, 500-505頁, 2002年; Nucleic Acids Res., 30巻, e46, 2002年)に準じて、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。

【0048】
本発明で用いられるRNAi作用を有する二重鎖RNAの長さは、通常、17~30塩基、好ましくは19~27塩基、より好ましくは20~22塩基である。

【0049】
(e) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的若しくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド
ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチド(好ましくはDNA)(以下、アンチセンスポリヌクレオチドの説明においては、これらのDNAを「本発明で用いられるDNA」と略記する場合がある)の塩基配列に相補的な、又は実質的に相補的な塩基配列又はその一部を有するアンチセンスポリヌクレオチドとしては、本発明で用いられるDNAの塩基配列に相補的な、又は実質的に相補的な塩基配列又はその一部を有し、該DNAの発現を抑制し得る作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスポリヌクレオチドであってもよいが、アンチセンスDNAが好ましい。

【0050】
本発明で用いられるDNAに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、本発明で用いられるDNAに相補的な塩基配列(すなわち、本発明で用いられるDNAの相補鎖)の全塩基配列あるいは部分塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが挙げられる。特に、本発明で用いられるDNAの相補鎖の全塩基配列うち、(i)翻訳阻害を指向したアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、ヘムペルオキシダーゼのN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドが、(ii)RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、イントロンを含む本発明で用いられるDNAの全塩基配列の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドがそれぞれ好適である。

【0051】
アンチセンスポリヌクレオチドは通常、10~40個程度、好ましくは15~30個程度の塩基から構成される。

【0052】
ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンスDNAを構成する各ヌクレオチドのりん酸残基(ホスフェート)は、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾りん酸残基に置換されていてもよい。また、各ヌクレオチドの糖(デオキシリボース)は、2’-O-メチル化などの化学修飾糖構造に置換されていてもよいし、塩基部分(ピリミジン、プリン)も化学修飾を受けたものであってもよく、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を有するDNAにハイブリダイズするものであればいずれのものでもよい。これらのアンチセンスポリヌクレオチドは、公知のDNA合成装置などを用いて製造することができる。

【0053】
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、変化せしめられたり、修飾された糖、塩基、結合を含有していて良く、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するのに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端又は5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端又は5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。

【0054】
(f) ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対するリボザイム
ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドに対してリボザイム活性を有するポリヌクレオチドは、ヘムペルオキシダーゼの発現を抑制することができるので、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する物質として好適に使用することができる。このようなリボザイムは、公知の方法(例、TRENDS in Molecular Medicine, 7巻, 221頁, 2001年; FEBS Lett., 228巻, 228頁, 1988年; FEBS Lett., 239巻, 285頁, 1988年; Nucl. Acids. Res., 17巻, 7059頁, 1989年; Nature, 323巻, 349頁, 1986年; Nucl. Acids. Res., 19巻, 6751頁, 1991年; Protein Eng. 3巻, 733頁, 1990年; Nucl. Acids Res., 19巻, 3875頁, 1991年; Nucl. Acids Res., 19巻, 5125頁, 1991年; Biochem. Biophys. Res. Commun., 186巻, 1271頁, 1992年など参照)に準じて、ヘムペルオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。例えば、ヘムペルオキシダーゼをコードするRNAの一部に公知のリボザイムを連結することによって製造することができる。ヘムペルオキシダーゼをコードするRNAの一部としては、公知のリボザイムによって切断され得るヘムペルオキシダーゼをコードするRNA上の切断部位に近接した部分(RNA断片)が挙げられる。上記リボザイムには、グループIイントロン型やRNasePに含まれるM1 RNAなどのラージリボザイム、ハンマーヘッド型やヘアピン型などのスモールリボザイムなどが含まれる(タンパク質核酸酵素, 35巻, 2191頁, 1990年)。ハンマーヘッド型リボザイムについては、例えば、FEBS Lett., 228巻, 228頁, 1988年; FEBS Lett., 239巻, 285頁, 1988年; タンパク質核酸酵素, 35巻, 2191頁, 1990年; Nucl. Acids Res., 17巻, 7059頁, 1989年などを参照することができる。また、ヘアピン型リボザイムについては、例えば、Nature, 323巻, 349頁, 1986年; Nucl. Acids Res., 19巻, 6751頁, 1991年; 化学と生物, 30巻, 112頁, 1992年などを参照することができる。

【0055】
(g) ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチド
ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチドは、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害することができるので、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する物質として好適に使用することができる。本明細書において、「ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するタンパク質の変異体」とは、それが発現することによって、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害(消失若しくは低下)させる作用を有するタンパク質を意味する(多比良和誠編, 遺伝子の機能阻害実験法, 羊土社, 26~32頁, 2001年など参照)。

【0056】
(h) ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマー
ヘムペルオキシダーゼに対するアプタマーは、ヘムペルオキシダーゼの活性や機能を阻害することができるので、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する物質として好適に使用することができる。アプタマーは、公知の方法、例えばSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法(Annual Review of Medicine 56巻,555-583頁,2005年)を用いて取得する。アプタマーの構造は、公知の方法を用いて決定することができ、その構造を基に公知の方法に従いアプタマーを製造する。

【0057】
2.2. 本発明が対象とする疾患
本発明においては、上述したヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する医薬を、気管支喘息の予防又は治療薬として用いる。好ましい態様のヘムペルオキシダーゼ阻害薬は、気管支喘息に対する予防・治療効果を有するので、気管支喘息患者に治療目的で投与してよく、あるいは、気管支喘息の予防や再発を考慮しなければならない患者に予防目的で投与することもできる。本発明の好ましい態様においては、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬は、治療目的で投与される。

【0058】
「気管支喘息」は、非特異的な刺激物質に対して気道過敏性の亢進を示すことを特徴とした疾患であり、咳嗽、喀痰、呼吸困難などの臨床症状を引き起こす疾患である。本発明の予防又は治療薬により、これらの症状の少なくとも1つの症状を予防又は治療することができる。

【0059】
本発明の予防又は治療薬は、吸入ステロイド剤とは異なる作用機序により、気管支喘息の病態を改善することができる。このため、本発明の好ましい態様の予防又は治療薬は、ステロイド剤抵抗性の患者の治療に有用である。

【0060】
2.3.ヘムペルオキシダーゼ阻害薬を含有する製剤
本発明においては、上述のヘムペルオキシダーゼ阻害薬を常套手段に従って、製剤化し、気管支喘息の予防又は治療薬として用いることができる。本発明のいくつかの態様の気管支喘息の予防又は治療薬では、ヘムペルオキシダーゼ阻害薬はチアマゾールである。

【0061】
例えば、経口投与のための組成物としては、固体又は液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤若しくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。

【0062】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧吸入剤、塗布剤、貼付剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記活性成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性若しくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記活性成分を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。点眼剤、点鼻剤、噴霧吸入剤、坐剤、塗布剤、貼付剤等も、上記活性成分を用いて自体公知の方法に従って調製される。

【0063】
なお前記した各組成物は、上記活性成分との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分(例えば、他の気管支喘息の予防又は治療薬など)を含有してもよい。また、他の活性成分(例えば、他の気管支喘息の予防又は治療薬など)と併用してもよい。

【0064】
本発明の予防又は治療薬の活性成分の投与量は、その作用、対象疾患、投与対象、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該活性成分を、約0.1~100mg、好ましくは約1.0~50mg、より好ましくは約1.0~20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該活性成分の投与量は、対象疾患、投与対象、症状、投与ルートなどによっても異なるが、注射剤の形で投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該活性成分を、約0.01~30mg、好ましくは約0.1~20mg、より好ましくは約0.1~10mgを静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。

【0065】
上記アンチセンスポリヌクレオチドは、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。また、例えば、前記のアンチセンスポリヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒト又は哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的又は非経口的に投与することができる。該アンチセンスポリヌクレオチドは、そのままで、あるいは摂取促進のために補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記のアンチセンスポリヌクレオチドを単独又はリポゾームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈等に投与してもよい。上記二重鎖RNA、リボザイム、上記ヘムペルオキシダーゼに対してドミナントネガティブに作用するヘムペルオキシダーゼの変異体若しくはそれをコードするポリヌクレオチドなどは、上記アンチセンスポリヌクレオチドと同様にして製剤化し、投与することができる。

【0066】
上記抗体、アプタマーなどは、それ自体又は適当な医薬組成物として投与することができる。上記投与に用いられる医薬組成物は、上記抗体又はその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤若しくは賦形剤とを含むものである。かかる組成物は、経口又は非経口投与(例、静脈注射)に適する剤形として提供される。好ましくは吸入剤として提供される。

【0067】
3.気管支喘息の予防又は治療薬のスクリーニング方法
本発明は、試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性又はヘムペルオキシダーゼの発現量を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法を提供する。また、本発明は、試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させ、ヘムペルオキシダーゼの活性を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングする方法を提供する。

【0068】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様は、試験化合物のヘムペルオキシダーゼ阻害活性を評価し、ペルオキシダーゼ阻害活性を有する化合物を選択することを含む方法である。選択されたペルオキシダーゼ阻害活性を有する化合物は、気管支喘息の予防または治療薬のための候補化合物となる。

【0069】
「ヘムペルオキシダーゼ阻害活性」とは、ヘムペルオキシダーゼの活性又はヘムペルオキシダーゼの発現量を低下させ又は抑制する活性を意味する。

【0070】
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。試験化合物は塩を形成していてもよく、試験化合物の塩としては、生理学的に許容される金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。

【0071】
本発明のいくつかの態様の気管支喘息の予防または治療薬のスクリーニング方法では、 (i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞と接触させた場合と、(ii)試験化合物をヘムペルオキシダーゼを発現する細胞に接触させない場合の、該細胞におけるヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量の比較を行う。
本方法においては、ヘムペルオキシダーゼを発現する細胞に、試験化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、特に制限されないが、例えば、ヒト、マウスなど由来の細胞であり、好ましくは、ヒト由来の細胞である。本発明のスクリーニング方法で用いられる「ヘムペルオキシダーゼを発現する細胞」は、例えば、気道上皮細胞、好中球、好酸球等である。本発明のスクリーニング方法で用いられる「ヘムペルオキシダーゼを発現する細胞」は、一般的な遺伝子工学技術によって作製することもできる。

【0072】
次に、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を測定する。具体的には、例えば、上記(i)と(ii)の場合において、上記細胞を培養し、それぞれの場合のヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を測定する。ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量の測定は、例えば、前述のヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量の測定方法により行うことができる。

【0073】
次いで、試験化合物を接触させない場合(コントロール)と比較して、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現を阻害する化合物を選択する。例えば、上記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性が、上記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性より低くなる試験化合物、特には、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上低くなる試験化合物を、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物として選択することができる。あるいは、例えば、上記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの発現量が、上記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの発現量より低くなる試験化合物、特には、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上低くなる試験化合物を、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害する化合物として選択することができる。

【0074】
本発明の別のいくつかの態様の気管支喘息の予防又は治療薬のスクリーニング方法では、細胞を用いずに、ヘムペルオキシダーゼの活性の比較を行う。すなわち、(i)試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させた場合と、(ii)試験化合物をヘムペルオキシダーゼに接触させない場合の、ヘムペルオキシダーゼの活性の比較を行う。
本方法においては、試験化合物をヘムペルオキシダーゼと接触させる。具体的には、ヘムペルオキシダーゼを用いてSCN + H2O2 → OSCN + H2Oの反応を起こす反応系に、試験化合物を添加する。ヘムペルオキシダーゼは前記の通りであるが、ヘムペルオキシダーゼとして精製したものを用いるのが好ましい。また、反応は、試験管内で行うのが好ましい。

【0075】
次に、ヘムペルオキシダーゼの活性を測定する。具体的には、例えば、上記(i)と(ii)の場合において、それぞれの場合のヘムペルオキシダーゼの活性を測定する。ヘムペルオキシダーゼの活性の測定は、例えば、前述のヘムペルオキシダーゼの活性の測定方法により行うことができる。

【0076】
次いで、試験化合物を接触させない場合(コントロール)と比較して、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物を選択する。例えば、上記(i)の場合におけるヘムペルオキシダーゼの活性が、上記(ii)の場合のヘムペルオキシダーゼの活性より低くなる試験化合物、特には、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上低くなる試験化合物を、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害する化合物として選択することができる。

【0077】
さらに、選択された候補化合物を実験動物(例、マウス、ラットなど)に投与して、選択された候補化合物の気管支喘息予防又は治療効果を確認する。気管支喘息予防又は治療効果を確認するための試験法としては、後述の実施例に記載の方法のように、気管支喘息モデルマウスを用いて気道過敏性を測定すること、気管支肺胞洗浄液を解析することなどが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
実施例1:気管支喘息モデルマウスに対するSCNイオンの作用
図1(A)に実験のプロトコルを示す。図1(A)のプロトコルに示したように、Day 0より毎日20 mMのチオシアネートイオン(SCN)を含んだ飲み水を服用させた。Day0と12にアレルゲンである卵白アルブミンで感作を行い(感作1, 2)、Day 22, 23, 24で卵白アルブミンの曝露を行って(曝露1~3)、曝露3の24時間後に気道過敏性を測定した。このプロトコルにて実験を行った群を、喘息群(+SCN)又は感作あり(+SCN)群とする。
【実施例】
【0080】
対照として、非喘息群(-SCN)、非喘息群(+SCN)群、及び喘息群(-SCN)を用いた。
非喘息群(-SCN)は、図1(B)では感作なし(-SCN)群と表記しており、卵白アルブミンによる感作を行わなかったこと、並びにチオシアネートイオンの飲水投与の代わりにチオシアネートイオンを含有しない飲水を投与したことを除いて、感作あり(+SCN)群と同様のプロトコルにて実験を行った。
非喘息群(+SCN)群は、図1(B)では感作なし(+SCN)群と表記しており、卵白アルブミンによる感作を行わなかったことを除いて、感作あり(+SCN)群と同様のプロトコルにて実験を行った。
喘息群(-SCN)は、図1(B)では感作あり(-SCN)群と表記しており、チオシアネートイオンの飲水投与の代わりにチオシアネートイオンを含有しない飲水を投与したことを除いて、感作あり(+SCN)群と同様のプロトコルにて実験を行った。
【実施例】
【0081】
実験には、日本SLCから入手したBALB/c (6週齢、メス)マウスを用いた。
チオシアネートイオン(SCN)を含んだ飲み水を、次のように作製した。すなわち、1.94gのチオシアン酸カリウム(分子量97.18、和光純薬から購入)を1Lの滅菌蒸留水に溶かして調製した。
【実施例】
【0082】
気管支喘息モデルマウスを作製するための、卵白アルブミンの調製、感作、及び曝露は、Nakao I et al., J Immunol, vol.180, 6262-6269, 2008に記載の方法に従って行った。具体的には、生理食塩水に水酸化アルミニウム(ALUM, LSL CO., LTDから購入)と卵白アルブミン(OVA, sigmaから購入)を濃度がそれぞれ2mg/mlと0.1mg/mlになるように加えてALUM/ OVA溶液を調製した。調製したALUM/ OVA溶液を、1匹あたり500μlのALUM/ OVA溶液をマウスの腹腔内に投与することにより、感作を行った。曝露はOVAを1g/mlの濃度で生理食塩水に溶かし、このOVA溶液を密閉容器に入れたマウスに超音波霧化器を用いて噴霧し吸引させることにより行った。
【実施例】
【0083】
気道過敏性の測定方法は、Matsushita, H. et al. Int Immunol 22, 739-747, 2010に記載の方法に従って行った。具体的には、最終曝露から24時間後、非拘束式全身プレチスモグラフィー(BUXCO)を用いてメサコリンに対する気道過敏性を測定した。メサコリン(sigmaから購入)は生理食塩水で希釈し図1(B)に示した濃度で用いた。
【実施例】
【0084】
結果を図1(B)に示す。感作あり群では、感作なし群に比べて気道過敏性の亢進が認められた。そして、感作あり群の中で、SCN飲水あり群(感作あり(+SCN)群)では、SCN飲水なし群(感作あり(-SCN)群)に比べて気道過敏性のさらなる亢進が認められた。
以上の結果より、SCNイオンが喘息に対して増悪因子であることが明らかになった。
【実施例】
【0085】
実施例2:気道上皮細胞に対するOSCNイオンの作用
この実験では、細胞培養液中において次のような反応を起こさせた。
【実施例】
【0086】
【化1】
JP2013111714A1_000003t.gif

【実施例】
【0087】
つまり、GOXとLPOの両方が存在する場合にはOSCNが、GOXのみが存在する場合にはH2O2が存在することになる。
【実施例】
【0088】
具体的には、気道上皮細胞に対するOSCNイオンの作用を次のようにして調べた。気道上皮細胞(NCI-H292細胞)をRPMI1640/5%FCS/50mM HEPES培地に懸濁し、1.8x106個の細胞を6穴プレートに蒔いた。一晩培養後、細胞培養液にNaSCN(終濃度1mM)、GOX(終濃度9 mUnits/ml)、LPO(終濃度40U/ml)を添加した。さらに5時間培養後、Schreiber et alの方法(Nucleic Acids Res. 17, 6419,1989)を用いて核抽出液を調製し、Midwinteretal と同様の方法(Biochem. J.396, 71-78, 2006)でNF-κBの活性化の状態を解析した。NaSCNはsigmaから、GOXは和光純薬から、LPOはCALZYME Laboratoryから購入した。
【実施例】
【0089】
その結果を図2に示す。GOXとLPOの両方が存在する場合、つまりOSCNが存在する場合にのみ炎症反応に重要なNF-κBの活性化が認められた。
以上の結果より、OSCNイオンも喘息に対する増悪因子であることを明らかになった。
そして、気道組織内のヘムペルオキシダーゼは喘息を増悪させる因子であることが明らかになった。
【実施例】
【0090】
実施例3:気管支喘息モデルマウスに対するヘムペルオキシダーゼの作用
本実施例では、さらに、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害すること、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害することなどが、気管支喘息の病態の改善につながることを確認した。
図3(A)に実験のプロトコルを示す。図3(A)のプロトコルに示したように、Day0と12にアレルゲンである卵白アルブミンで感作を行い(感作1, 2)、Day 22, 26, 30で卵白アルブミンの曝露を行った(曝露1~3)。Day 20より毎日0.2 mg/mlのチアマゾールを含んだ飲み水を服用させた。3回目の曝露の24時間後に気道過敏性を測定し、48時間後に気管支肺胞洗浄液の解析を行った。このプロトコルにて実験を行った群を、喘息群(チアマゾールあり)とする。尚、喘息群(チアマゾールあり)は、図3(B), (C)ではチアマゾール投与群と表記されている。
【実施例】
【0091】
対照として、非喘息群、及び喘息群(チアマゾールなし)を用いた。
非喘息群は、図3(B),(C)ではコントロール群と表記されており、卵白アルブミンによる感作を行わなかったこと、並びにチアマゾールの飲水投与の代わりにチアマゾールを含有しない飲水を投与したことを除いて、喘息群(チアマゾールあり)と同様のプロトコルにて実験を行った群である。
喘息群(チアマゾールなし)は、図3(B),(C)では喘息群と表記されており、チアマゾールの飲水投与の代わりにチアマゾールを含有しない飲水を投与したことを除いて、喘息群(チアマゾールあり)と同様のプロトコルにて実験を行った群である。
【実施例】
【0092】
ここで、実験には、日本SLCから入手したBALB/c マウス(6週齢、オス)を用いた。
チアマゾールを含んだ飲み水は、20mgのチアマゾール(和光純薬)を100mlの滅菌蒸留水に溶かすことで調製した(終濃度は0.2mg/ml)。
【実施例】
【0093】
気管支喘息モデルマウスを作製するための、卵白アルブミンの調製、感作、及び曝露は、Nakao I et al., J Immunol, vol.180, 6262-6269, 2008に記載の方法に従って行った。具体的には、生理食塩水に水酸化アルミニウム(ALUM, LSL CO., LTDから購入)と卵白アルブミン(OVA, sigmaから購入)を濃度がそれぞれ2mg/mlと0.1mg/mlになるように加えてALUM/ OVA溶液を調製した。調製したALUM/ OVA溶液を、1匹あたり500μlのALUM/ OVA溶液をマウスの腹腔内に投与することで感作を行った。曝露はOVAを1g/mlの濃度で生理食塩水に溶かし、このOVA溶液を密閉容器に入れたマウスに超音波霧化器を用いて噴霧し吸引させることで行った。
【実施例】
【0094】
気道過敏性の測定方法は、Matsushita, H. et al. Int Immunol 22, 739-747, 2010に記載の方法に従って行った。具体的には、最終曝露から24時間後、非拘束式全身プレチスモグラフィー(BUXCO)を用いてメサコリンに対する気道過敏性を測定した。メサコリンは生理食塩水で希釈し図3(B)に示した濃度で用いた。
【実施例】
【0095】
気管支肺胞洗浄液の採取及び解析はMatsushita, H. et al. Int Immunol 22, 739-747, 2010に記載の方法に従って行った。具体的には、1.5mlの生理食塩水を用いて気管支肺胞洗浄液を調製し、この洗浄液中の細胞総数をhemocytometer (CDA500; Sysmex)で測定後、洗浄液中の細胞をサイトスピンし Diff-Quik (Sysmex)で染色して好酸球の数を測定した。
【実施例】
【0096】
気道過敏性の測定結果を図3(B)に示す。チアマゾール投与群では、チアマゾール投与を行っていない群(喘息群)に比べて気道過敏性の抑制が認められた。
また、気管支肺胞洗浄液の解析結果を図3(C)に示す。チアマゾール投与群では、チアマゾール投与を行っていない群(喘息群)に比べて気管支肺胞洗浄液中の好酸球数の抑制が認められた。
【実施例】
【0097】
以上のことから、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害すること、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害することなどが、気管支喘息の病態の改善につながることが明らかになった。
また、ヘムペルオキシダーゼの活性又は発現量を指標として、気管支喘息の予防又は治療薬をスクリーニングすることができることが明らかとなった。
【実施例】
【0098】
実施例4:気管支喘息モデルマウスにおけるチアマゾールとステロイド剤の効果の比較
本実施例では、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害すること、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害することなどが、ステロイド剤であるデキサメタゾン(DEX)を投与したときと比較しても、優れた気管支喘息の予防又は治療効果を示すことを確認した。
図4(A)に実験のプロトコルを示す。図4(A)のプロトコルに示したように、Day0と12にアレルゲンである卵白アルブミンで感作を行い(感作1, 2)、Day 22, 23, 24で卵白アルブミンの曝露を行った(曝露1~3)。喘息群(チアマゾール)では、Day 20より毎日0.2 mg/mlのチアマゾールを含んだ飲み水を服用させた。喘息群(DEX(5μg))と喘息群(DEX(15μg))では、チアマゾールを含有しない飲水を投与する一方で、DEXを生理食塩水に溶かし、マウス1匹あたり5μgまたは15μgを、1回目の曝露の2時間前と、各曝露の2時間前に腹腔内に投与した(Reber et al., J Immunol 2012; 188:3478-3487に準じた方法)。3回目の曝露の24時間後に気道過敏性を測定し、48時間後に気管支肺胞洗浄液の解析を行った。
【実施例】
【0099】
対照として、薬剤を投与しない非喘息群、及び薬剤を投与しない喘息群を用いた。
薬剤を投与しない非喘息群は、卵白アルブミンによる感作を行わなかったこと、並びにチアマゾールの飲水投与の代わりにチアマゾールを含有しない飲水を投与したことを除いて、喘息群(チアマゾール)と同様のプロトコルにて実験を行った群である。
薬剤を投与しない喘息群は、チアマゾールの飲水投与の代わりにチアマゾールを含有しない飲水を投与したことを除いて、喘息群(チアマゾール)と同様のプロトコルにて実験を行った群である。
【実施例】
【0100】
ここで、実験には、日本SLCから入手したBALB/c マウス(6週齢、メス)を用いた。
チアマゾールを含んだ飲み水は、20mgのチアマゾール(和光純薬)を100mlの滅菌蒸留水に溶かすことで調製した(終濃度は0.2mg/ml)。
DEXを含む生理食塩水は、具体的には次のようにして調製し、投与した。水可溶性のDEX(cat No.D2915,シグマアルドリッチ ジャパン)を25μg/mlまたは75μg/mlの濃度になるように生理食塩水で溶かし、各200μlを腹腔内に投与した。
卵白アルブミンの調製、感作、及び曝露の方法は、実施例3に記載の方法に準じて行った。
【実施例】
【0101】
気道過敏性の測定方法は、Matsushita, H. et al. Int Immunol 22, 739-747, 2010に記載の方法に従って行った。具体的には、最終曝露から24時間後、非拘束式全身プレチスモグラフィー(BUXCO)を用いてメサコリンに対する気道過敏性を測定した。メサコリンは生理食塩水で希釈し図4(B)に示した濃度で用いた。
【実施例】
【0102】
気管支肺胞洗浄液の採取及び解析はMatsushita, H. et al. Int Immunol 22, 739-747, 2010に記載の方法に従って行った。具体的には、1.5mlの生理食塩水を用いて気管支肺胞洗浄液を調製し、この洗浄液中の細胞総数をhemocytometer (CDA500; Sysmex)で測定した。さらに、洗浄液中の細胞をLy-6G抗原(好中球マーカー)、siglec-F抗原(好酸球マーカー)、CD3抗原(T細胞マーカー)、F4/80 抗原(マクロファージ マーカー)に対するそれぞれの抗体で染色後、フローサイトメーター(FACSCaliburTM; BD Biosciences)で解析し、各種細胞の割合と数を測定した。抗siglec-F抗体はBD Pharmingenから、これ以外の抗体はeBioscienceから購入した。
【実施例】
【0103】
気道過敏性の測定結果を図4(B)に示す。喘息群(チアマゾール)では、喘息群(DEX 5μg)や喘息群(DEX 15μg)と比較して、より一層の気道過敏性の抑制が認められた。
また、気管支肺胞洗浄液の解析結果を図4(C), (D)に示す。喘息群(チアマゾール)では、喘息群(DEX 5μg)や喘息群(DEX 15μg)と比較して、より一層の気管支肺胞洗浄液中の細胞数(好酸球数、好中球数、マクロファージ数、およびT細胞数)の抑制が認められた。
以上のことから、ヘムペルオキシダーゼの活性を阻害すること、ヘムペルオキシダーゼの発現を阻害することなどが、ステロイド剤を投与する場合と比較しても、気管支喘息の予防又は治療により効果的であることが確認できた。

【配列表フリ-テキスト】
【0104】
[配列番号:1] ヒトラクトペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:2] ヒトラクトペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:3] マウスラクトペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:4] マウスラクトペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:5] ヒトミエロペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:6] ヒトミエロペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:7] マウスミエロペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:8] マウスミエロペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:9] ヒト好酸球ペルオキダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:10] ヒト好酸球ペルオキダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:11] マウス好酸球ペルオキダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:12] マウス好酸球ペルオキダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:13] ヒト甲状腺ペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:14] ヒト甲状腺ペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
[配列番号:15] マウス甲状腺ペルオキシダーゼのcDNA配列である。
[配列番号:16] マウス甲状腺ペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。
図面
【図1(A)】
0
【図1(B)】
1
【図2】
2
【図3(A)】
3
【図3(B)】
4
【図3(C)】
5
【図4(A)】
6
【図4(B)】
7
【図4(C)】
8
【図4(D)】
9