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明細書 :新規抗腫瘍剤及びそのスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5854569号 (P5854569)
登録日 平成27年12月18日(2015.12.18)
発行日 平成28年2月9日(2016.2.9)
発明の名称または考案の名称 新規抗腫瘍剤及びそのスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  31/711       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI A61K 31/7088 ZNA
A61K 31/711
A61K 48/00
A61P 35/00
G01N 33/50 P
C12N 15/00 G
請求項の数または発明の数 7
全頁数 25
出願番号 特願2013-555340 (P2013-555340)
出願日 平成25年1月28日(2013.1.28)
国際出願番号 PCT/JP2013/051733
国際公開番号 WO2013/111897
国際公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
優先権出願番号 2012015982
優先日 平成24年1月27日(2012.1.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年7月7日(2014.7.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】石井 優
【氏名】賀川 義規
【氏名】森 正樹
【氏名】石井 秀始
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】佐々木 大輔
参考文献・文献 国際公開第2008/111464(WO,A1)
草間俊行 他,P190 RhoGTPによるRhoGTPase阻害を応用した膵がん細胞の転移浸潤抑制に関する検討,成人病,日本,2007年,Vol.47, No.3,pp.9-10
Besson, A., et al.,Regulation of the cytoskeleton: an oncogenic function for CDK inhibitors?,Nature Reviews Cancer,2004年,Vol.4, No.12,pp.948-955
Homo sapiens Rho GTPase activating protein 11A (ARHGAP11A),transcript variant 1, mRNA, DATABASE NCBI Nucleotide [online], accession No.NM_014783, 2011.11.27,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/197333716?sat=15&satkey=6322659
Homo sapiens Rho GTPase activating protein 11A (ARHGAP11A),transcript variant 2, mRNA, DATABASE NCBI Nucleotide [online], accession No.NM_199357, 2011.11.19,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/40788017?sat=15&satkey=6242735
調査した分野 A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
A61K 48/00
A61K 31/33-33/44
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
REGISTRY(STN)



特許請求の範囲 【請求項1】
ARHGAP11Aを阻害しうる物質を有効成分として含有する新規抗腫瘍剤であって、
当該ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、当該ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであ当該アンチセンスオリゴヌクレオチドを構成する塩基が14塩基~200塩基であり、当該塩基配列中に人工核酸を少なくとも1以上含むことを特徴とする新規抗腫瘍剤。
【請求項2】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、以下の1)~13)のいずれかに示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の新規抗腫瘍剤:
1)ARHGAP-625-BNA-16:5(L)T(L)5(L)aaatttgaa5(L)T(L)5(L)c(配列番号10);
2)ARHGAP-969-BNA-16:T(L)5(L)5(L)gaaaaagcc5(L)T(L)T(L)c (配列番号13)
3)ARHGAP-1344-BNA-16:T(L)5(L)T(L)tttcatgtc5(L)T(L)T(L)c(配列番号16);
4)ARHGAP-1447-BNA-16:T(L)5(L)5(L)aggataaaaT(L)5(L)T(L)g(配列番号17);
5)ARHGAP-1748-BNA-16:5(L)T(L)T(L)gatggactt5(L)5(L)T(L)t (配列番号19)
6)ARHGAP-1931-BNA-16:T(L)T(L)T(L)gcctgcaatT(L)5(L)T(L)t(配列番号21);
7)ARHGAP-2032-BNA-16:5(L)5(L)T(L)agattgaatT(L)T(L)5(L)a (配列番号22)
8)ARHGAPv1-3484-BNA-16:T(L)T(L)5(L)gagggtaacT(L)5(L)5(L)a(配列番号30);
9)ARHGAPv2-2215-BNA-16:5(L)T(L)5(L)taacagtagT(L)A(L)T(L)g(配列番号34);
10)ARHGAPv2-2285-BNA-16:T(L)5(L)T(L)agaacagtaA(L)A(L)T(L)t(配列番号35);
11)ARHGAPv2-2306-BNA-16:T(L)T(L)5(L)aaacatgaa5(L)T(L)T(L)t(配列番号36);
12)ARHGAPv2-2355-BNA-16:T(L)5(L)5(L)caattgttgA(L)T(L)A(L)g(配列番号37);
13)ARHGAPv2-2404-BNA-16:T(L)T(L)T(L)taacataagA(L)A(L)T(L)g(配列番号38)。
[ここにおいて、N(L)は人工核酸BNA、5(L)はL-mC(メチル化人工核酸BNA)、T(L)は人工核酸チミジン、A(L)は人工核酸アデニンを表す。]
【請求項3】
ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、RNA干渉を誘導するオリゴヌクレオチドであって、以下の14)又は15)に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の新規抗腫瘍剤:
14)ARHGAP11A #1 (TRCN0000047281):CCGGCGGTATCAGTTCACATCGATACTCGAGTATCGATGTGAACTGATACCGTTTTTG(配列番号1);
15)ARHGAP11A #2 (TRCN0000047282):CCGGCCTTCTATTACACCTCAAGAACTCGAGTTCTTGAGGTGTAATAGAAGGTTTTTG(配列番号2)。
【請求項4】
抗腫瘍剤が、悪性腫瘍の転移阻害作用及び/又は浸潤阻害作用を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の新規抗腫瘍剤。
【請求項5】
生体検体中のARHGAP11Aを定量し、ARHGAP11Aの発現が平均より高い場合に悪性腫瘍細胞を検出することを特徴とする悪性腫瘍の検査方法。
【請求項6】
悪性腫瘍が、大腸がんやすい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がんから選択される一種又は複数種である、請求項5に記載の悪性腫瘍の検査方法。
【請求項7】
悪性腫瘍の検査が、がんの進行度及び/又は予後を予測するための検査である、請求項5又は6に記載の悪性腫瘍の検査方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞周期依存性タンパク質を標的とし、新規なメカニズムにより作用する新規抗腫瘍剤に関する。さらには、新規なメカニズムによるがん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる抗腫瘍剤を選別するスクリーニング方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2012-015982号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
細胞は増殖する時に細胞周期と呼ばれる一定のプロセスを経る。すなわち、細胞はG1期(gap1)→S期(DNA synthesis)→G2期(gap2)→M期(mitosis)→G1期という順序で規則正しく細胞周期を繰り返して増殖してゆく。細胞周期の進行にとってひとつの重要な時期がG1期とS期の境目に存在する。その時期は哺乳動物培養細胞ではR点(restriction point)と呼ばれる。一旦、R点を通過すると、細胞周期は進行するように方向づけられて速やかにS期に進入し、続けてG2期、M期へと進んでいってG1期へ戻ってくる。細胞が増殖しない環境にあるときは、S期に進まずにそのままG1期にとどまるか、あるいは細胞周期からはずれて静止期(resting state; G0期)と呼ばれる特別な状態に入り休止状態となる。細胞の置かれた環境によっては、分化、老化、アポトーシス、減数分裂などへ進むべきシグナルを受け取ることもあるが、それらの状態への分岐点も現在のところはこのG1期のR点前に存在すると考えられている。
【0004】
がん細胞は細胞周期制御が異常となり、周りの細胞から来る分裂停止のシグナルを無視して増殖を続けてゆく細胞である。がん細胞は際限なく増殖し、浸潤・転移によりやがて全身の臓器の機能不全をもたらし患者を死に至らしめる。これまで悪性腫瘍治療薬としては、旧来より使用されている抗悪性腫瘍剤や、がん細胞特異的な増殖シグナルを抑制する分子標的薬剤など、いずれも増殖性の高いがん細胞を障害するものであった。また最近では、悪性腫瘍組織周囲の血管新生を抑制し、代謝の激しい悪性腫瘍組織への補給路を断つ治療もある。具体的には、乳がんに発現するHER2をターゲットにしたトラスツマブ、EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)のキナーゼ活性を阻害するゲフィチニブ、CML(慢性骨髄性白血病)の染色体転座による、Bcr-Ablキメラ遺伝子のチロシンキナーゼ活性を阻害するメシル酸イマチニブ、B細胞リンパ腫の特異的CD20抗原を認識するツキシマブ、AML(急性骨髄性白血病細胞)に発現する、細胞表面抗原CD33に対するモノクローナル抗体を含むリツキシマブ、EGFRのチロシンキナーゼ酵素を阻害するエルロチニブ、VEGF(血管内皮成長因子)に対する、モノクローナル抗体からなるバベシズマブ等が挙げられる。細胞周期進行に要するタンパク質を阻害してアポトーシスを誘導するボルテゾミブ(Bortezomib)も用いられている。また、ワクチン治療など、宿主の抗腫瘍免疫を高める治療も進められている。
【0005】
一方で、悪性腫瘍で致死的状況となる際に最も重要な過程は、浸潤・転移である。特に、がん化した細胞が局所に発生しても、細胞の増殖には生体内では様々な構造的制限があるので、十分な浸潤能を有していなければ、がん細胞は局所にとどまり、増殖・進展ができない。がん細胞は原発巣から離脱し、タンパク質分解酵素を産生し周囲の間質や基底膜を破壊して脈管内に侵入する。次に脈管内を移動して標的臓器の血管内皮細胞へ接着し、血管内から組織中へ同様の機序で浸潤していく.そしてその場で増殖することにより転移巣を形成すると考えられている。近年、原発巣からの離脱と標的組織への接着、浸潤の過程には細胞接着分子と特殊なタンパク質分解酵素が大きな役割を果たしていると考えられている。
【0006】
しかしながら、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制する薬剤は十分とはいえず、さらなる開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】NK4 (HGF-antagonist/angiogenesis inhibitor) in cancer biology and therapeutics. Matsumoto K, Nakamura T. (2003) Cancer Science 94: 321-327.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞周期依存性タンパク質を標的とし、新規メカニズムにより作用する新規抗腫瘍剤を提供することを課題とする。さらには、新規メカニズムによる、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる抗腫瘍剤を選別するスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、あるRhoGTP分解活性タンパク質(Rho GTPase activating protein:RhoGAP、以下単に「RhoGAP」という場合もある。)が、細胞周期に依存した調節を受けており、これがん細胞が浸潤能(細胞可動性)を獲得する過程で重要な役割を果たすことを初めて見出した。当該RhoGAPを標的とすることで、がん細胞の可動性及び/又は転移を制御しうることを確認し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.細胞周期依存性のRhoGTP分解活性タンパク質(RhoGAP)を阻害しうる物質を有効成分として含有する新規抗腫瘍剤。
2.細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質が、ARHGAP11Aを阻害しうる物質である、前項1に記載の新規抗腫瘍剤。
3.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNA干渉を誘導するオリゴヌクレオチドであり、或いはARHGAP11Aをコードする遺伝子の転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る低分子化合物、天然高分子から選択されるいずれかである前項2に記載の新規抗腫瘍剤。
4.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、当該ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、オリゴヌクレオチドを構成する塩基が14塩基~200塩基であり、当該塩基配列中に人工核酸を少なくとも1以上含むことを特徴とする前項3に記載の新規抗腫瘍剤。
5.アンチセンスオリゴヌクレオチドが、以下の1)~13)のいずれかに示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、前項4に記載の新規抗腫瘍剤:
1)ARHGAP-625-BNA-16:5(L)T(L)5(L)aaatttgaa5(L)T(L)5(L)c(配列番号10);
2)ARHGAP-969-BNA-16:T(L)5(L)5(L)gaaaaagcc5(L)T(L)T(L)c (配列番号13)
3)ARHGAP-1344-BNA-16:T(L)5(L)T(L)tttcatgtc5(L)T(L)T(L)c(配列番号16);
4)ARHGAP-1447-BNA-16:T(L)5(L)5(L)aggataaaaT(L)5(L)T(L)g(配列番号17);
5)ARHGAP-1748-BNA-16:5(L)T(L)T(L)gatggactt5(L)5(L)T(L)t (配列番号19)
6)ARHGAP-1931-BNA-16:T(L)T(L)T(L)gcctgcaatT(L)5(L)T(L)t(配列番号21);
7)ARHGAP-2032-BNA-16:5(L)5(L)T(L)agattgaatT(L)T(L)5(L)a (配列番号22)
8)ARHGAPv1-3484-BNA-16:T(L)T(L)5(L)gagggtaacT(L)5(L)5(L)a(配列番号30);
9)ARHGAPv2-2215-BNA-16:5(L)T(L)5(L)taacagtagT(L)A(L)T(L)g(配列番号34);
10)ARHGAPv2-2285-BNA-16:T(L)5(L)T(L)agaacagtaA(L)A(L)T(L)t(配列番号35);
11)ARHGAPv2-2306-BNA-16:T(L)T(L)5(L)aaacatgaa5(L)T(L)T(L)t(配列番号36);
12)ARHGAPv2-2355-BNA-16:T(L)5(L)5(L)caattgttgA(L)T(L)A(L)g(配列番号37);
13)ARHGAPv2-2404-BNA-16:T(L)T(L)T(L)taacataagA(L)A(L)T(L)g(配列番号38)。
[ここにおいて、N(L)は人工核酸BNA、5(L)はL-mC(メチル化人工核酸BNA)、T(L)は人工核酸チミジン、A(L)は人工核酸アデニンを表す。]
6.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、RNA干渉を誘導するオリゴヌクレオチドであって、以下の14)又は15)に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、前項3に記載の新規抗腫瘍剤:
14)ARHGAP11A #1 (TRCN0000047281):CCGGCGGTATCAGTTCACATCGATACTCGAGTATCGATGTGAACTGATACCGTTTTTG(配列番号1);
15)ARHGAP11A #2 (TRCN0000047282):CCGGCCTTCTATTACACCTCAAGAACTCGAGTTCTTGAGGTGTAATAGAAGGTTTTTG(配列番号2)。
7.抗腫瘍剤が、悪性腫瘍の転移阻害作用及び/又は浸潤阻害作用を有することを特徴とする、前項1~6のいずれか1項に記載の新規抗腫瘍剤。
8.細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質を選別することを特徴とする新規抗腫瘍剤のスクリーニング方法。
9.細胞周期依存性のRhoGAPが、ARHGAP11Aである、前項8に記載のスクリーニング方法。
10.少なくとも以下のA)~D)の工程を含むことを特徴とする前項9に記載のスクリーニング方法:
A)候補物質をがん細胞株と共に培養し、該細胞におけるARHGAP11Aをコードする遺伝子の発現量を測定する工程;
B)対照の系で同手法により測定されたARHGAP11Aをコードする遺伝子の発現量を測定する工程;
C)前記A)及びB)の工程により測定されたARHGAP11Aをコードする遺伝子の発現量と、比較する工程;
D)A)の工程により測定された遺伝子の発現量が、B)の工程により測定された遺伝子の発現量に比べて低い場合の候補物質を選別する工程。
11.生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAPを定量することを特徴とする悪性腫瘍の検査方法。
12.細胞周期依存性のRhoGAPが、ARHGAP11Aである、前項11に記載の悪性腫瘍の検査方法。
13.悪性腫瘍が、大腸がんやすい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がんから選択される一種又は複数種である、前項11又は12に記載の悪性腫瘍の検査方法。
14.悪性腫瘍の検査が、がんの進行度及び/又は予後を予測するための検査である、前項11~13のいずれか1項に記載の悪性腫瘍の検査方法。
15.細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質からなる悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤。
16.細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質が、ARHGAP11Aを阻害しうる物質である、前項15に記載の悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤。
17.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNA干渉を誘導するオリゴヌクレオチドであり、或いはARHGAP11Aをコードする遺伝子の転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る低分子化合物、天然高分子から選択されるいずれかである前項16に記載の悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤。
18.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、当該ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、オリゴヌクレオチドを構成する塩基が14塩基~200塩基であり、当該塩基配列中に人工核酸を少なくとも1以上含むことを特徴とする前項17に記載の悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤。
19.アンチセンスオリゴヌクレオチドが、以下の1)~13)のいずれかに示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、前項18に記載の悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤:
1)ARHGAP-625-BNA-16:5(L)T(L)5(L)aaatttgaa5(L)T(L)5(L)c(配列番号10);
2)ARHGAP-969-BNA-16:T(L)5(L)5(L)gaaaaagcc5(L)T(L)T(L)c (配列番号13)
3)ARHGAP-1344-BNA-16:T(L)5(L)T(L)tttcatgtc5(L)T(L)T(L)c(配列番号16);
4)ARHGAP-1447-BNA-16:T(L)5(L)5(L)aggataaaaT(L)5(L)T(L)g(配列番号17);
5)ARHGAP-1748-BNA-16:5(L)T(L)T(L)gatggactt5(L)5(L)T(L)t (配列番号19)
6)ARHGAP-1931-BNA-16:T(L)T(L)T(L)gcctgcaatT(L)5(L)T(L)t(配列番号21);
7)ARHGAP-2032-BNA-16:5(L)5(L)T(L)agattgaatT(L)T(L)5(L)a (配列番号22)
8)ARHGAPv1-3484-BNA-16:T(L)T(L)5(L)gagggtaacT(L)5(L)5(L)a(配列番号30);
9)ARHGAPv2-2215-BNA-16:5(L)T(L)5(L)taacagtagT(L)A(L)T(L)g(配列番号34);
10)ARHGAPv2-2285-BNA-16:T(L)5(L)T(L)agaacagtaA(L)A(L)T(L)t(配列番号35);
11)ARHGAPv2-2306-BNA-16:T(L)T(L)5(L)aaacatgaa5(L)T(L)T(L)t(配列番号36);
12)ARHGAPv2-2355-BNA-16:T(L)5(L)5(L)caattgttgA(L)T(L)A(L)g(配列番号37);
13)ARHGAPv2-2404-BNA-16:T(L)T(L)T(L)taacataagA(L)A(L)T(L)g(配列番号38)。
[ここにおいて、N(L)は人工核酸BNA、5(L)はL-mC(メチル化人工核酸BNA)、T(L)は人工核酸チミジン、A(L)は人工核酸アデニンを表す。]
20.ARHGAP11Aを阻害しうる物質が、RNA干渉を誘導するオリゴヌクレオチドであって、以下の14)又は15)に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、前項17に記載の悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤:
14)ARHGAP11A #1 (TRCN0000047281):CCGGCGGTATCAGTTCACATCGATACTCGAGTATCGATGTGAACTGATACCGTTTTTG(配列番号1);
15)ARHGAP11A #2 (TRCN0000047282):CCGGCCTTCTATTACACCTCAAGAACTCGAGTTCTTGAGGTGTAATAGAAGGTTTTTG(配列番号2)。
21.前項1~7のいずれかに記載の新規抗腫瘍剤を用いる悪性腫瘍の治療及び/又は予防方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質を有効成分として含有する新規抗腫瘍剤により、ARHGAP11Aを発現しうるがん、例えば大腸がん、すい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がん等に由来するがん細胞等について、がん細胞の浸潤及び/又は転移が抑制される。従来、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる抗腫瘍剤で有効な薬剤はほとんど存在しなかった。がんの悪性化に影響を及ぼす、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる薬剤の提供により、効果的ながん治療ができる。
さらに、生体検体中のARHGAP11Aの発現を例えばmRNAにより検査した結果、がんの進行度(病期ステージ分類)や、無再発生存期間との関係で有意な違いが認められた。このことから、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAPを定量することで、悪性腫瘍を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】がん組織における転移/浸潤がん細胞の組織免疫による組織を示す写真図である。(参考例1)
【図2】ヒト大腸がん細胞に細胞周期をリアルタイムで可視化するFucciを遺伝子導入し、蛍光顕微鏡とFACSで確認した写真図である。(参考例2)
【図3】NOD/SCIDマウスに移植したヒト大腸がん細胞について、細胞の細胞周期によって細胞の移動速度が違うことを確認した写真図である。S/G2/M期の細胞のほうが、G1期の細胞に比べて、細胞の可動性が大きい。(参考例2)
【図4】S/G2/M期の細胞(mAG)とG1期の細胞(mKO2)について、mRNAレベル及びタンパク質でのARHGAP11Aの発現を確認した写真図である。(参考例2)
【図5】細胞周期依存性転写因子の存在とARHGAP11Aの発現との関係を示す図である。(参考例3)
【図6】各種細胞におけるARHGAP11Aの発現を確認した図である。(参考例4)
【図7】ARHGAP11AをshRNAで阻害したヒト大腸がん細胞の変異株について、細胞増殖度及び可動性を確認した図である。(実施例1)
【図8】免疫不全マウス(NOD/SCID)に野生株のヒト大腸がん細胞を移植したのちに、ARHGA11Aに対するshRNAを局所投与したときの腫瘍の大きさを確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図9】大腸がんのステージと、mRNAレベルでのARHGAP11Aの発現を確認した図である。(実施例3)
【図10】大腸がん摘出手術を施行した患者について、ARHGAP11Aの発現が平均より低い患者群(n=38)と高い患者群(n=26)での、無再発生存期間を確認した結果を示す図である。(実施例4)
【図11】人工核酸を含む35種類のアンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスBNA)による、HCT116(ヒト大腸がん細胞株)でのARHGAP11A発現抑制効果を確認した結果を示す図である。(実施例5)
【図12】人工核酸を含む5種類のアンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスBNA)による、各種がん細胞でのARHGAP11A発現抑制効果を、ウエスタンブロッティングにより確認した結果を示す写真図である。(実施例6)
【図13】(A)アンチセンスBNA(#1748)を導入したHCT116における、ARHGAP11Aの発現抑制効果を確認した写真図である。(B)また、HCT116へのアンチセンスBNA(#1748)の取り込みをFITC(fluorescein isothiocyanate)標識アンチセンスBNA(#1748)を用いて確認した写真図である。(実施例7)
【図14】免疫不全マウス(NOD/SCID)について、FITC標識アンチセンスBNA(#1748)投与によるin vivoでの抗腫瘍効果を示す図である。(実施例8)
【図15】免疫不全マウス(NOD/SCID)について、FITC標識アンチセンスBNA(#1748)投与後14日目での各臓器へのFITC標識の取り込みを確認した結果を示す写真図である。(実施例8)
【図16】アンチセンスBNA(#1748)の腫瘍転移抑制効果を確認するための、各薬剤の投与スケジュールを示す図である。(実施例9)
【図17】ヒト線維肉腫細胞を静脈注射したヌードマウスについて、アンチセンスBNA(#1748)を投与したときの肺転移腫瘍の大きさをイメージングにて確認した結果を示す写真図である。(実施例9)
【図18】ヒト線維肉腫細胞を静脈注射したヌードマウスについて、アンチセンスBNA(#1748)を投与したときの肺重量及び体重を測定した結果を示す図である。(実施例9)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質を有効成分として含有する新規抗腫瘍剤に関する。本発明において、細胞周期依存性のRhoGAPとしては、ARHGAP11A(Rho GTPase activating protein 11A)が挙げられる。

【0014】
後述の実施例、実験例で具体的な事件結果を詳述するが、本欄では本発明をなすに至った経緯を、簡単に説明する。本発明者らは、独自に確立したがん組織の生体イメージング実験系を用いて、がん細胞が正常組織に浸潤していく様子をリアルタイムで解析し、S/G2/M期の細胞ではG1期の細胞に比べて可動性が高いことを見いだした。がん細胞のうち、S/G2/MとG1の細胞を分取してマイクロアレイ解析を行うことにより、細胞周期に依存する遺伝子を抽出し、その中で可動性に関連するARHGAP11AがS/G2/M期の細胞に高発現していることを初めて見出した。shRNA(低分子ヘアピンRNA)を用いてARHGAP11Aを阻害したがん細胞は、野生株のがん細胞よりも可動性が低く、腫瘍の進展速度が低下していることが確認された。さらに、免疫不全マウス(NOD/SCID)に野生株のがん細胞を移植したのちに、ARHGA11Aに対するsiRNA(低分子干渉RNA)をin vivoで局所投与すると、腫瘍の拡大を有意に抑制することができた。

【0015】
がん細胞が、培養器内で増殖する際には空間的制限がないが、生体内で増殖するためには、細胞分裂と同時に周囲の正常組織に浸潤していくことが必要である。本発明者らは、大腸がん細胞の細胞周期を可視化する蛍光タンパク質を取り込ませ、多光子励起顕微鏡を用いて生体内イメージングを行った。その結果、がん細胞の浸潤・遊走能が、細胞周期に依存するS/G2/M期で細胞可動性が亢進することを初めて見出した(図2、3)。G1期とS/G2/M期の細胞で発現する分子をマイクロアレイ法で解析した結果、細胞可動性を低下させるRhoGTP分解活性タンパク質(RhoGAP)の一種である「ARHGAP11A」がS/G2/M期の細胞でG1期の細胞に比べ10培以上高発現していることを確認した。

【0016】
本発明においてARHGAP11Aとは、代表的なものとして、GenBank Accession No. NM_014783.3(バリアント1)又はGenBank Accession No. NM_199357.1(バリアント2)で特定される塩基配列からなるmRNAより合成されるヒト由来タンパク質が挙げられる。また、ARHGAP11Aを別の視点から定義すると、GenBank Accession No.NM_014783.3又はNM_199357.1で特定される塩基配列から翻訳されるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において、一つ以上のアミノ酸の欠失、付加、置換又は挿入を有し、かつ、細胞周期依存性のRhoGTP分解活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が含まれる。さらに、ヒト以外の哺乳動物由来のARHGAP11Aも本発明のARHGAP11Aに含めることができる。

【0017】
本発明においてARHGAP11A遺伝子とは、GenBank Accession No. NM_014783.3又はNM_199357.1で特定される塩基配列からなるmRNAをコードするDNAの他、これら配列と類似の配列を保持するDNAも含めることができる。ここで「類似の配列」とは、GenBank Accession No. NM_014783.3又はNM_199357.1で特定される塩基配列から一つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、置換又は挿入を有し、細胞周期依存性のRhoGAP活性を有するタンパク質を合成しうる塩基配列からなるDNAとすることができる。さらに、上記で特定される塩基配列からなるDNA、若しくは当該特定される塩基配列から一つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、置換又は挿入を有し、細胞周期依存性のRhoGAP活性を有するタンパク質を合成しうる塩基配列からなるDNA、又はその一部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る配列を有するDNAも、本発明のARHGAP11A遺伝子に包含される。ストリンジェントな条件とは、一般に、ハイブリダイズの際又は洗浄の際に使用される緩衝液の塩濃度や温度により規定される。塩濃度としては、通常は「1×SSC、0.1% SDS」、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1% SDS」、さらに厳しい条件として「0.1×SSC、0.1% SDS」とすることができる。温度としては通常37℃、厳しい条件としては42℃、より厳しい条件として55℃、さらに厳しい条件としては65℃とすることができる。

【0018】
本明細書において、細胞周期依存性のRhoGTP分解活性タンパク質(Rho GTPase activating protein)、即ち細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質とは、当該RhoGAPの機能を阻害及び/又は発現を阻害する物質をいう。RhoGAPの機能を阻害するとは、RhoGAPのタンパク質としての機能を阻害することをいい、RhoGAPの発現を阻害するとは、RhoGAPの生合成を阻害することと同義である。RhoGAPの生合成を阻害しうる物質としては、RhoGAP遺伝子、又は転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る物質が挙げられる。RhoGAP遺伝子の転写産物とは、具体的にはRhoGAP mRNA及び前駆RNAなどが挙げられる。RhoGAPの生合成を阻害しうる物質であれば抗腫瘍効果が期待できる。より具体的には、当該RhoGAPをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやRNAi(RNA interference、RNA干渉)を誘導するオリゴヌクレオチド(shRNA、siRNA、microRNA)、転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る低分子化合物、天然高分子から選択されるいずれかが挙げられる。

【0019】
RhoGAPがARHGAP11Aの場合には、ARHGAP11Aを阻害しうる物質とは、当該ARHGAP11Aの機能を阻害及び/又は発現を阻害する物質をいう。ARHGAP11Aの機能を阻害するとは、ARHGAP11Aのタンパク質としての機能を阻害することをいい、ARHGAP11Aの発現を阻害するとは、ARHGAP11Aの生合成を阻害することと同義である。ARHGAP11Aの生合成を阻害しうる物質としては、ARHGAP11A遺伝子、又は転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る物質が挙げられる。より具体的には、当該RhoGAPをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやRNAi(RNA interference、RNA干渉)を誘導するオリゴヌクレオチド(shRNA、siRNA、microRNA)、転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る低分子化合物、天然高分子から選択されるいずれかが挙げられる。尚、本明細書における「核酸」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオシド」は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)の他に、PNA (Peptide Nucleic Acid)やBNA(Bridged Nucleic Acid)、及びこれらの類縁体などの人工的に合成された核酸(以下、「人工核酸」という)も含まれる。BNAは、例えば株式会社ジーンデザインが作製する核酸(Bridged Nucleic Acid:架橋化核酸)を使用することができる。

【0020】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば上記ARHGAP11A遺伝子転写産物の配列に基づき、該転写産物と対合し得るように配列をデザインすることができる。アンチセンスヌクレオチドはDNA又はRNAのいずれから構成されてもよく、然には存在しない人工核酸を含むオリゴヌクレオチドであるのが好適である。人工核酸を含むことで、より安定性の高いオリゴヌクレオチドを得ることができる。また、オリゴヌクレオチドの塩基配列の長さは、特に制限されないが、少なくとも対象とする遺伝子の特異性を保持し得る長さを有していればよく、長さの上限はmRNAと同等の長さとしてもよい。一般には、14塩基~200塩基、好ましくは15塩基から50塩基とすることができる。

【0021】
RNAi(RNA interference、RNA干渉)を誘導するdsRNA(二重鎖RNA)にはsiRNA、shRNA、microRNAなどの形態が知られており、本発明はこれら全てを包含し得る。dsRNAは、上記ARHGAP11A遺伝子の転写産物の一部領域と相補し得るアンチセンス鎖と、このアンチセンス鎖と対合し得る配列からなるセンス鎖とから構成される。すなわち、dsRNAの二重鎖領域は、ARHGAP11A遺伝子上の標的とする領域のDNA配列をリボ核酸に変更した配列に相当する。なお、ARHGAP11Aの発現を阻害し得る限り、アンチセンス鎖の配列中に標的とするARHGAP11A遺伝子と相補しない配列を有していてもよく、また、センス鎖配列中にアンチセンス鎖と対合しない配列を有していてもよい。上記dsRNAの二重鎖領域の長さは、一例を示せば、16~49塩基対、好適には16~30塩基対、さらに好適には19~21塩基対とすることができる。長いdsRNAは、細胞毒性を有することから、この毒性を与えない範囲で、長さの上限を決定することができる。また、dsRNAの長さの下限は、特異性を保持し得る範囲で調整することができる。

【0022】
細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aの発現を効果的に阻害し得るARHGAP11A遺伝子上の標的領域又は具体的なshRNA、siRNAやmicroRNAなどの配列は、例えば、DHARMACON社(http://design.dharmacon.com)、Ambion社(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)、タカラバイオ株式会社(http://www.takara-bio.co.jp/rnai/intro.htm)など、自体公知のデザインツールを利用してデザインすることもできる。また、合成器などにより人工的に合成した合成オリゴdsRNAとして調製してもよい。又は、dsRNAをコードしたDNAを担持した発現ベクターから細胞内でsiRNAを発現させる構成としてもよい。細胞内でdsRNAを発現させる際のベクターは、導入したい細胞などにより任意に選択することができる。例えば、哺乳動物細胞では、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクターなどのウイルスベクターなどが挙げられる。これら発現ベクターにはdsRNAを転写させるためのプロモータを備え、その下流にdsRNAをコードしたDNAを連結するすることができる。また、プロモータやdsRNAの構築方法などは、自体公知の方法を適用することができる。

【0023】
本発明の新規抗腫瘍剤に有効成分として含有される“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”が、当該細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、shRNA、siRNA、microRNAなどの核酸物質の場合は、当該核酸物質を作用させたい細胞内に導入することが好ましい。核酸物質の導入手法としては、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポーレション、ジーンガンなど、自体公知の方法、或いは開発されている遺伝子導入技術を適用することができ、市販の遺伝子導入試薬又はキットを利用することができる。また、感染力を保持したウイルスベクターを用いたdsRNA発現ベクターなどの場合には、ウイルスの感染力により細胞にベクターを取込ませることができる。

【0024】
本発明の新規抗腫瘍剤に有効成分として含有される“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”のうち、天然高分子の例として抗体が挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体であっても良いし、モノクローナル抗体であってもよい。抗体は、自体公知の方法により作製し、得ることができる。

【0025】
上述した本発明の新規抗腫瘍剤により、がん細胞の可動性・浸潤能が著しく低下し、浸潤及び/又は転移を抑制することができる。従って本発明は、“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”からなる悪性腫瘍の転移阻害剤及び/又は浸潤阻害剤にも及ぶ。

【0026】
本発明の“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”を有効成分とする新規抗腫瘍剤が標的とするがん細胞は、特に限定されないが、当該細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aの発現により、がん細胞の転移や浸潤が誘導される可能性のあるがん細胞を挙げることができる。具体的には、大腸がんやすい臓がんの他、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がん等に由来するがん細胞を挙げることができ、特に好適には大腸がんやすい臓がんが挙げられる。

【0027】
さらに、本発明の“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”を有効成分とする新規抗腫瘍剤は、がんが組織に浸潤し固有筋層、漿膜、漿膜外に達するT2、3、4ステージ(UICCのTNM分類による)のがんに対してより有効に作用しうることが考えられる。本発明において治療標的であるARHGAP11AなどのRhoGAPが、T2、3、4ステージのがんにおいて上昇することが明らかとなったからである。

【0028】
本発明の“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”を有効成分とする新規抗腫瘍剤には、本成分に必要に応じて、他の成分を混合処方してもよい。また、本新規抗腫瘍剤も公知の製剤学的製造法を利用して製剤化することができる。有効成分に応じて核酸製剤として、また低分子化合物製剤として製剤化することができる。製剤化する場合は、例えば、薬剤として一般的に用いられる媒体又は担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。従って本発明は、本発明の“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”を有効成分とする新規抗腫瘍剤を用いる悪性腫瘍の治療及び/又は予防方法にも及ぶ。

【0029】
本発明は、“細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質”を選別することを特徴とする新規抗腫瘍剤のスクリーニング方法にも及ぶ。本明細書における細胞周期依存性のRhoGAPの代表例としては、上述したごとくARHGAP11Aが挙げられる。具体的には少なくとも以下のA)~D)の工程を含むことを特徴とするスクリーニング方法に及ぶ。A)の工程及びB)の工程は、いずれの工程を先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。ここで、スクリーニングによって選別される候補物質としては、核酸物質、低分子化合物又は天然高分子を上げることができる。具体的には、当該ARHGAP11Aをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、shRNA、siRNA、microRNA、転写産物若しくは翻訳産物に結合し得る低分子化合物、天然高分子等が挙げられる。天然高分子の例として、抗体が挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体であっても良いし、モノクローナル抗体であってもよい。抗体は、自体公知の方法により作製し、得ることができる。

【0030】
A)候補物質をがん細胞株と共に培養し、該細胞における細胞周期依存性の特定のRhoGAP(例えば、ARHGAP11A)をコードする遺伝子の発現量を測定する工程;
B)対照の系で同手法により測定された特定のRhoGAPをコードする遺伝子の発現量を測定する工程;
C)前記A)及びB)の工程により測定された特定のRhoGAPをコードする遺伝子の発現量と、比較する工程;
D)A)の工程により測定された遺伝子の発現量が、B)の工程により測定された遺伝子の発現量に比べて低い場合の候補物質を選別する工程。

【0031】
上記スクリーニング方法の工程B)では、候補物質を含まない系でがん細胞を培養し、工程A)と同手法により測定された特定のRhoGAPをコードする遺伝子の発現量を測定する工程をいう。上記工程A)及び工程B)で使用しうるがん細胞は、特定のRhoGAP(例えば、ARHGAP11A)を発現しうる細胞であればよく、特に限定されないが、例えば大腸がんやすい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がん等に由来する細胞株が挙げられ、好ましくは大腸がん又はすい臓がんが挙げられる。特に具体的には、大腸がん細胞株であるHCT116を用いるのが最も好適である。

【0032】
細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aをコードする遺伝子の発現量の確認は、リアルタイムRT-PCR法、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、免疫染色等の自体公知の手法や今後開発される新たな手法によることができる。

【0033】
本発明は、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aをコードする遺伝子の発現量を定量することを特徴とする悪性腫瘍の検査方法にも及ぶ。細胞周期依存性のRhoGAPとしては、ARHGAP11Aが挙げられる。遺伝子の発現量は、マイクロアレイ法、リアルタイムRT-PCR法、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、免疫染色等の自体公知の手法や今後開発される新たな手法によることができる。

【0034】
本発明において生体検体とは、上記タンパク質を検出可能性な生体検体であればよく、特に制限されない。例えば組織、血漿、血清等の血液、脊髄液、リンパ液、尿、涙、乳等が広く例示され、好適な生体検体としては、組織が挙げられる。組織は、例えば摘出病変組織、バイオプシー、またはCTC(Circulating tumor cell)等により取得することができる。後述の実施例でも示すように、例えば大腸がん摘出手術を施行した患者について、ARHGAP11Aの発現が平均より低い患者群と高い患者群での、無再発生存期間を確認したところ、ARHGAP11Aの発現が低い患者群のほうが、有意に無再発生存率が低いことが確認された(図10)。このように、ARHGAP11Aが発現すると考えられる悪性腫瘍、例えば大腸がんやすい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がんから選択される一種又は複数種について、本発明の検査方法により、がんの進行度予測や予後予測を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を完成させるために行なった実験結果を参考例として示し、実施例において本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【実施例】
【0036】
(参考例1)細胞周期の確認
まずはじめに、外科的に切除された大腸がん組織Geminin(細胞周期:S/G2/Mステージ)に分類される細胞を抗Geminin(S/G2/M)ポリクローナル抗体を用いて組織免疫染色法により染色したところ、非がん部位(A)、がん細胞浸潤先端部位(B)及びがん中心部位(C)について確認した。その結果、(B)の部位でGemininが最も強く染色され、S/G2/M期の細胞がん細胞浸潤先端部位に多く存在することが確認された(図1)。
【実施例】
【0037】
(参考例2)運動型細胞の解析
がん組織の生体イメージング実験系を用いて、HCT116(ヒト大腸がん細胞株)が正常組織に浸潤していく様子をリアルタイムで解析した。S/G2/MとG1の細胞を分取してマイクロアレイ解析を行うことにより、細胞周期に依存する遺伝子を抽出し、その中で可動性に関連するARHGAP11AがS/G2/M期の細胞に高発現していることを初めて見出した。
【実施例】
【0038】
NOD/SCIDマウスの盲腸又は皮下に、蛍光プローブ(Fucci:Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator)で表現されたHCT116を移植し、HCT116の細胞周期進行を可視化した。FucciはG1期の核を赤色(mKO2)に、S/G2/M期の核を緑色(mAG)に光らせた。G1期の可視化には、Cdt1タンパク質の一部を、S/G2/M期の可視化には、Gemininタンパク質の一部を用いた。Fucciを表現する細胞は、FACSAria II(BDバイオサイエンス社)により、S/G2/M期の細胞を表現するmAGとG1期の細胞を表現するmKO2に分離された。Fucciを恒常的に発現させることで安定に細胞周期を可視化することができる。その結果、HCT116ではS/G2/M期の細胞が多く移動することが確認された(図2)。細胞トラッキング速度を確認した結果、S/G2/M期の細胞のほうがG1期の細胞に比べて平均移動距離が大きく、可動性のある細胞であることが確認された(図3)。
【実施例】
【0039】
次に、cDNAによるマイクロアレイを用いて、S/G2/M期の細胞及びG1期の細胞に発現しているmRNAを解析した。マイクロアレイ分析では、2倍以上上昇し統計学的に有意な1656遺伝子が抽出された(表1)。その結果、特にRhoGAPであるARHGAP11AがS/G2/M期の細胞に強く発現していることが、遺伝子レベル及びタンパク質レベルで確認された(表1、図4)。
【実施例】
【0040】
(参考例3)細胞周期依存性転写因子E2FによるARHGAP11Aの発現制御について
E2Fファミリーは、細胞周期依存性の転写調節因子であることが知られている。ARHGAP11A(chr15: 32907691)の転写開始部位から-20-28b(chr15: 32907663-32907671)の部位にE2Fsが結合する配列があることに気づき、ARHGAP11Aの発現は、細胞周期依存性の転写因子であるE2Fによって制御されていることを、ルシフェラーゼレポーターアッセイ(図5A)及びクロマチン免疫沈降法(ChIP)により確認した。ARHGAP11Aの発現を阻害すると、がん細胞の遊走・浸潤能が低下することが確認され、治療標的として有望であることが示された(図5B)。
【実施例】
【0041】
【表1】
JP0005854569B2_000002t.gif
【実施例】
【0042】
(参考例4)対象となる疾患について
本参考例では、本発明の新規抗腫瘍剤が標的とするがん細胞を確認した。即ちARHGAP11Aが発現することで、転移や浸潤が誘導される可能性のあるがん細胞が、本発明のARHGAP11Aを阻害しうる物質を有効成分とする新規抗腫瘍剤が標的とするがん細胞であると考えられた。ヒト大腸がん細胞(HCT116)、ヒト肝臓がん細胞(HepG2)、リンパ管線維芽細胞(Human Lymphatic Fibroblasts :HLF)、ヒト膵臓腺がん細胞(PSN1、MiaPaca2、Panc1)について、ARHGAP11Aの発現を定量的リアルタイムPCRの方法で確認した。βアクチンを内部コントロールとし、βアクチンの発現量を1としたときの相対値を示した。その結果、ARHGAP11Aの発現を認めたヒト大腸がん細胞やヒト膵臓腺がん細胞に由来するがん細胞(HCT116、PSN1)においてARHGAP11Aの発現が認められた(図6)。よって、これらのがん細胞に対して、本発明の新規抗腫瘍剤が有効に作用しうると考えられる。
また、GeneNoteのGeneCardsID:GC15P032907を参照したところ、マイクロアレイによるARHGAP11A発現が、大腸がん、すい臓がん、前立腺がん、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がん等に由来する各がん細胞において認められており、これらのがん細胞に対して、本発明の新規抗腫瘍剤が有効に作用しうると考えられる。なお、GeneNoteのGeneCardsID:GC15P032907では、各がん細胞において発現が認められたことが掲載されているのみであり、ARHGAP11Aの発現によるがん細胞に及ぼす影響や、ARHGAP11Aを阻害する場合の効果については一切言及されていない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)ARHGAP11A阻害作用による抗腫瘍効果の確認
本実施例では、細胞周期依存性RhoGAPのうちARHGAP11Aの機能を確認し、本発明の新規抗腫瘍剤の効果を確認した。以下の配列番号1又は2に示す塩基配列からなる2種類のshRNA(SH)を含むレンチウイルスベクターを作製し、HCT116(ヒト大腸がん細胞株)に各々を導入し、ARHGAP11A発現阻害株(SH#1、SH#2)を構築した。コントロールとして、以下の配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むレンチウイルスベクターを作製し、同手法によりHCT116に導入した。それぞれのARHGAP11A発現阻害株(SH#1、SH#2)について、細胞増殖能及び細胞浸潤を確認した。
【実施例】
【0044】
細胞増殖については、標識DNAの前駆物質(5-ブロモ-2'-デオキシウリジン:BrdU)を細胞に添加し、細胞周期(複製)のS期における、ゲノムDNAへのそれらの取込みを、定量化したものについて分析を行うBrdU増殖分析法により分析した。がん細胞浸潤アッセイは、BD BioCoatTM マトリゲルインベージョンチャンバーを用い、取扱説明書の方法に従い行った。その結果、細胞増殖能についてはコントロールとの違いは認められなかった(図7A)。細胞浸潤能は、コントロールに比べてARHGAP11A発現阻害株(SH#1、SH#2)のほうに低い値が認められた(図7B)。よって、ARHGAP11A発現阻害株で浸潤が抑制されることが観察された(図7A,B)。以上のことから、ARHGAP11Aを阻害する抗がん治療は、ヒトの大腸がんの浸潤を抑制する画期的な治療法であと考えられ、今後の創薬開発が強く期待される。
【実施例】
【0045】
ARHGAP11Aに対するshRNA及びコントロールのDNA配列は以下のとおりである。
shRNA target :Sequence Strand (5'-3')
1)ARHGAP11A #1 (TRCN0000047281):CCGGCGGTATCAGTTCACATCGATACTCGAGTATCGATGTGAACTGATACCGTTTTTG(配列番号1)
2)ARHGAP11A #2 (TRCN0000047282):CCGGCCTTCTATTACACCTCAAGAACTCGAGTTCTTGAGGTGTAATAGAAGGTTTTTG(配列番号2)
3)コントロール (SHC002): CCGGCAACAAGATGAAGAGCACCAACTCGAGTTGGTGCTCTTCATCTTGTTGTTTTT(配列番号3)
【実施例】
【0046】
(実施例2)ARHGAP11A阻害作用による抗腫瘍効果の確認
本実施例では、in vivoでのARHGAP11A阻害作用による抗腫瘍効果を確認した。
免疫不全マウス(NOD/SCID)に、レンチウイルスベクターを導入していない野生株のHCT116を1×106cell局注し、移植した。
その後、実施例1で作製した配列番号1又は2に示す塩基配列からなるshRNA(SH)を含むレンチウイルスベクター(SH#1、又はSH#2)をin vivo siRNA導入キットであるAteloGene(R)(Koken) を用いて局注した(siRNA投与群)。対照群として、(a)実施例1で作製した配列番号3からなる塩基配列からなるshRNAを含むレンチウイスルベクター(コントロールshRNA群)又は(b)遺伝子組換えしていないレンチウイルスベクター1をAteloGene(R)(Koken) を用いて上記の如く導入した(遺伝子導入試薬コントロール群)さらに、(c)レンチウイルスを局注していない系(コントロール群)についても対照とした。移植4週間経過後の腫瘍細胞の拡大を、腫瘍サイズの大きさで確認した。ARHGAP11Aに対するshRNAを腫瘍に投与すると、腫瘍の拡大を有意に抑制することができた(図8)。
【実施例】
【0047】
(実施例3)ARHGAP11Aの発現と大腸がん患病期分類との関係
大腸がん摘出手術を施行した患者について、手術標本よりがん組織部位をレーザーマイクロダイセクション法(laser microdissection)にて分取し、これよりmRNAを分離してARHGAP11Aの発現をマイクロアレイ法にて確認した。大腸がん及び正常大腸粘膜の手術切除標本について比較すると、がん部位でARHGAP11Aの発現が上昇しており、さらに大腸がんの病期分類によりステージが進行するにつれて、ARHGAP11Aの発現が上昇していることが確認された。例えば、がんが組織に浸潤し固有筋層に達するT1(UICCのTNM分類による)と比較してT2,T3,T4期で発現が上昇することが明らかとなった(図9)。
【実施例】
【0048】
(実施例4)がん摘出手術予後予測検査
大腸がん摘出手術を施行した患者について、がん摘出手術(根治的手術)が可能であった症例に対して、高発現群と低発現群に分類し、無再発生存期間を解析した。手術標本よりがん組織部位をレーザーマイクロダイセクション法(laser microdissection)にて分取し、これよりmRNAを分離してARHGAP11Aの発現をマイクロアレイ法にて確認した。その結果、ARHGAP11Aの発現が平均より低い患者群(n=38)と高い患者群(n=26)での、無再発生存期間を確認したところ、ARHGAP11Aが低い患者群のほうが有意に生存率が高く、高発現群で予後が悪い事が確認された(図10)。これにより、ARHGAP11Aの発現量を確認することで、がんの予後予測が可能と考えられる。なお実施例3及び4の内容は、国立大学法人九州大学の倫理委員会の了承を得、同大学の生体防御研究所でなされた試験結果に基づくものである。
【実施例】
【0049】
(実施例5)ARHGAP11Aに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(BNA)
本実施例では、人工核酸であるBNAを含む35種類のアンチセンスオリゴヌクレオチド((以下、「アンチセンスBNA」という。)について、HCT116(ヒト大腸がん細胞株)でのARHGAP11Aに対する発現抑制効果を確認した。
【実施例】
【0050】
まずはじめに、以下配列番号4~38に示す塩基配列からなる35種類のアンチセンスBNA及び配列番号39~41に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを作製した。ARHGAP11Aには、GenBank Accession No. NM_014783.3(バリアント1)又はGenBank Accession No. NM_199357.1(バリアント2)で特定される塩基配列からなるmRNAより合成されるヒト由来タンパク質が挙げられる。配列番号4~23で特定される各アンチセンスBNAは、バリアント1及びバリアント2の共通配列部分に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド鎖であり、配列番号24~33で特定される各アンチセンスBNAは、バリアント1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド鎖であり、配列番号34~38で特定される各アンチセンスBNAは、バリアント2に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド鎖である。
以下に示す各配列において、N(L)は人工核酸BNA、5は5-mC(メチルシトシン)、5(L)はL-mC(メチル化人工核酸BNA)、T(L)は人工核酸チミジン、T(A)は人工核酸アデニンを示す。ここで使用するBNAは、株式会社ジーンデザインにより作製されたものである。
ARHGAP-47-BNA-16:T(L)5(L)5(L)gcccccagcT(L)5(L)5(L)t (配列番号4)
ARHGAP-126-BNA-16:5(L)T(L)5(L)ccccatcag5(L)5(L)T(L)g (配列番号5)
ARHGAP-203-BNA-16:5(L)T(L)5(L)aggcaactcT(L)T(L)5(L)c (配列番号6)
ARHGAP-382-BNA-16:T(L)5(L)T(L)attgccagaT(L)T(L)5(L)t (配列番号7)
ARHGAP-406-BNA-16:5(L)T(L)T(L)tctgattctT(L)T(L)5(L)g (配列番号8)
ARHGAP-591-BNA-16:5(L)5(L)5(L)gtctggcacT(L)T(L)5(L)t (配列番号9)
ARHGAP-625-BNA-16:5(L)T(L)5(L)aaatttgaa5(L)T(L)5(L)c (配列番号10)
ARHGAP-720-BNA-16:T(L)5(L)T(L)gatcccacaT(L)T(L)5(L)c (配列番号11)
ARHGAP-843-BNA-16:T(L)T(L)T(L)taccccctaT(L)T(L)T(L)c (配列番号12)
ARHGAP-969-BNA-16:T(L)5(L)5(L)gaaaaagcc5(L)T(L)T(L)c (配列番号13)
ARHGAP-1006-BNA-16:T(L)T(L)5(L)tttagtgctT(L)T(L)T(L)a (配列番号14)
ARHGAP-1162-BNA-16:T(L)T(L)T(L)tcctctgtg5(L)5(L)T(L)a (配列番号15)
ARHGAP-1344-BNA-16:T(L)5(L)T(L)tttcatgtc5(L)T(L)T(L) (配列番号16)
ARHGAP-1447-BNA-16:T(L)5(L)5(L)aggataaaaT(L)5(L)T(L)g (配列番号17)
ARHGAP-1538-BNA-16:T(L)T(L)5(L)accaggagtT(L)T(L)5(L)a (配列番号18)
ARHGAP-1748-BNA-16:5(L)T(L)T(L)gatggactt5(L)5(L)T(L)t (配列番号19)
ARHGAP-1849-BNA-16:5(L)T(L)5(L)tgagatgac5(L)5(L)T(L)t (配列番号20)
ARHGAP-1931-BNA-16:T(L)T(L)T(L)gcctgcaatT(L)5(L)T(L)t (配列番号21)
ARHGAP-2032-BNA-16:5(L)5(L)T(L)agattgaatT(L)T(L)5(L)a (配列番号22)
ARHGAP-2176-BNA-16:T(L)T(L)T(L)tcatcaacaT(L)5(L)T(L)g (配列番号23)
ARHGAPv1-2262-BNA-16:T(L)5(L)5(L)ggtaatttgT(L)T(L)5(L)c (配列番号24)
ARHGAPv1-2311-BNA-16:T(L)T(L)T(L)gcatctactT(L)5(L)T(L)t (配列番号25)
ARHGAPv1-2628-BNA-16:5(L)5(L)T(L)ctgggctat5(L)T(L)T(L)c (配列番号26)
ARHGAPv1-2808-BNA-16:T(L)T(L)T(L)catgttccaT(L)5(L)T(L)t (配列番号27)
ARHGAPv1-2942-BNA-16:T(L)T(L)5(L)catcatatt5(L)T(L)5(L)a (配列番号28)
ARHGAPv1-3278-BNA-16:5(L)5(L)5(L)tgtaggttgT(L)5(L)T(L)g (配列番号29)
ARHGAPv1-3484-BNA-16:T(L)T(L)5(L)gagggtaacT(L)5(L)5(L)a (配列番号30)
ARHGAPv1-4399-BNA-16:5(L)T(L)T(L)gctccattcT(L)T(L)T(L)c (配列番号31)
ARHGAPv1-5140-BNA-16:5(L)T(L)T(L)cctctacaa5(L)5(L)T(L)a (配列番号32)
ARHGAPv1-5194-BNA-16:T(L)5(L)T(L)aacaaccaaT(L)5(L)T(L) (配列番号33)
ARHGAPv2-2215-BNA-16:5(L)T(L)5(L)taacagtagT(L)A(L)T(L)g (配列番号34)
ARHGAPv2-2285-BNA-16:T(L)5(L)T(L)agaacagtaA(L)A(L)T(L)t (配列番号35)
ARHGAPv2-2306-BNA-16:T(L)T(L)5(L)aaacatgaa5(L)T(L)T(L)t (配列番号36)
ARHGAPv2-2355-BNA-16:T(L)5(L)5(L)caattgttgA(L)T(L)A(L)g (配列番号37)
ARHGAPv2-2404-BNA-16:T(L)T(L)T(L)taacataagA(L)A(L)T(L)g (配列番号38)
【実施例】
【0051】
ARHGAP-1931-BNA-16-cont1:T(L)tT(L)gccT(L)gcaaT(L)t5(L)T(L)t (配列番号39)
ARHGAP-1931-BNA-16-cont2:T(L)tgT(L)ccT(L)gcT(L)aat5(L)T(L)t (配列番号40)
ARHGAP-1931-BNA-16-cont3:T(L)5(L)T(L)caatgcctgT(L)T(L)T(L)t (配列番号41)
【実施例】
【0052】
上記各配列からなるアンチセンスBNAをリポフェクタミン試薬を用いて各々HCT116に導入し、ARHGAP11AのmRNA発現抑制しうるアンチセンスBNAをqPCR法にて確認した。GAPDHを内部コントロールとし、GAPDHの発現量を1としたときの相対値を示した。その結果、配列番号10、13、16、17、19、21、22、30、34、35~38に示すアンチセンスBNAが、効果的にARHGAP11Aの発現を抑制していることが確認された(図11)。
【実施例】
【0053】
(実施例6)人工核酸を含むアンチセンスBNAによるARHGAP11Aの発現抑制効果の確認
本実施例では、実施例5でARHGAP11Aの発現抑制効果を認めたアンチセンスBNAについて各種がん細胞でのARHGAP11A発現抑制効果を確認した。
アンチセンスBNAは、ARHGAP-625-BNA-16(#625:配列番号10)、ARHGAP-969-BNA-16(#969:配列番号13)、ARHGAP-1344-BNA-16(#1344:配列番号16)、ARHGAP-1447-BNA-16(#1447:配列番号17)、ARHGAP-1748-BNA-16(#1748:配列番号19)、ARHGAP-1931-BNA-16(#1931:配列番号21)又はARHGAP-2032-BNA-16(#2032:配列番号22)を用いた。コントロールは配列番号40に示すARHGAP-1931-BNA-16-cont2を用いた。また、アンチセンスBNAやコントロールとしてのオリゴヌクレオチドを加えないものを野生型(wt)とした。がん細胞は、DLD1(ヒト結腸腺がん細胞株)、HT29(ヒト結腸腺がん細胞株)、Panc1(ヒト膵臓腺がん細胞株)、PSN1(ヒト膵臓腺がん)の4種類の各種がん細胞について確認した。
各々のアンチセンスBNAを実施例5に記載の方法と同手法により、リポフェクタミン試薬を用いて各がん細胞に導入し、ARHGAP11Aの発現抑制効果をウエスタンブロッティングにより確認した。
その結果、各細胞においてアンチセンスBNAによるARHGAP11Aの発現抑制が認められ、特にARHGAP-1748-BNA-16(#1748:配列番号19)により強い発現抑制が認められた(図12)。
【実施例】
【0054】
(実施例7)アンチセンスBNAの細胞内への取り込み量の確認(in vitro)
本実施例では、FITC標識アンチセンスBNA(ARHGAP-1748-BNA-16:#1748)について、リポフェクタミン試薬を用いてHCT116内への取り込み量を確認した。コントロールとしては、実施例1で作製した配列番号40からなる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。
その結果、ARHGAP-1748-BNA-16を導入した細胞では、ARHGAP11Aの発現が抑制されることが確認された(図13(A))。また、ARHGAP-1748-BNA-16の細胞内取込量はコントロールと同等であった(図13(B))。
【実施例】
【0055】
(実施例8)アンチセンスBNAの腫瘍細胞増殖抑制効果の確認(in vivo)
本実施例では、アンチセンスBNA(ARHGAP-1748-BNA-16:#1748)によるin vivoでの抗腫瘍効果を確認した。免疫不全マウス(NOD/SCID)に実施例2と同手法により、野生株のHCT116を移植したのちに、FITC標識ARHGAP-1748-BNA-16を実施例2と同手法によりAteloGene(R)(Koken) を用いて、腫瘍周囲に局注した。ARHGAP-1748-BNA-16の投与により、腫瘍の拡大を有意に抑制することが確認された(図14)。さらに、ARHGAP-1748-BNA-16の投与後14日目に、マウスの各臓器(脳:brain、肝臓:liver、脾臓:spleen、肺:lung、腎臓:kidney、胃:intestine)及び腫瘍部位へのFITC標識ARHGAP-1748-BNA-16の取り込みを確認した。その結果、ARHGAP-1748-BNA-16は腫瘍部のみに到達し、その他の臓器には到達していないことが確認された(図15)。
【実施例】
【0056】
(実施例9)アンチセンスBNAの腫瘍転移抑制効果の確認(in vivo)
本実施例では、アンチセンスBNA(ARHGAP-1748-BNA-16:#1748)によるin vivoでの悪性腫瘍細胞の転移抑制効果を確認した。ルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むレンチウイルスを作製し、HT1080(ヒト線維肉腫細胞)に感染させルシフェラーゼ遺伝子を導入し、ルシフェラーゼ導入細胞(HT1080/Luc)を作製した。ヌードマウスにHT1080/Lucを5×106cell静脈注射した。HT1080/Luc注射後14日間経過後に、アドリアマイシン8mg/kg又はアンチセンスBNA10mg/kgを静脈注射した。さらに7日経過後、ルシフェリンを150mg/kg投与し、HT1080/Lucの肺転移を発光イメージングで確認した(図16)。その結果、アドリアマイシン投与群(n=3)よりアンチセンスBNA投与群(n=3)の方が腫瘍は小さかった(図17)。また、肺の重量を測定した結果、各マウスについて、肺の重量はアンチセンスBNA投与群のほうがアドリアマイシン投与群に比べて軽量であった。一方、体重については両群に差を認めなかった(図18)。このことから、アンチセンスBNA投与群のほうがアドリアマイシン投与群に比べて腫瘍細胞の転移が抑制されていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳述したように、本発明の細胞周期依存性のRhoGAPを阻害しうる物質を有効成分として含有する新規抗腫瘍剤により、細胞周期依存性のRhoGAPを発現しうるがん、具体的にはARHGAP11Aを発現しうるがん、例えば大腸がん、すい臓がん、前立腺がん細胞、乳がん、頭頸部がん、黒色腫(メラノーマ)、卵巣がん、肺がん、脳がん、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、皮膚がん等に由来するがん細胞等について、がん細胞の浸潤及び/又は転移が抑制される。従来、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる抗腫瘍剤で有効な薬剤はほとんど存在しなかった。がんの悪性化に影響を及ぼす、がん細胞の浸潤及び/又は転移を抑制しうる薬剤の提供により、効果的ながん治療ができ、有用である。
さらに、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aの発現を、例えばmRNAにより検査した結果、がんの進行度(病期ステージ分類)や、無再発生存期間との関係で有意な違いが認められた。このことから、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAPを定量することで、悪性腫瘍を検査することができる。さらに、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAPの発現、例えばARHGAP11AのmRNA量によれば、悪性腫瘍の進行度(病期ステージ分類)や、無再発生存期間との関係で有意な違いが認められる。これにより、生体検体中の細胞周期依存性のRhoGAP、例えばARHGAP11Aの発現を測定することで、がんの進行度及び/又は予後の予測が可能と考えられ、有用である。
図面
【図6】
0
【図9】
1
【図10】
2
【図14】
3
【図18】
4
【図1】
5
【図2】
6
【図3】
7
【図4】
8
【図5】
9
【図7】
10
【図8】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図15】
15
【図16】
16
【図17】
17