TOP > 国内特許検索 > 体内時計を指標にした低品質ES細胞およびiPS細胞の簡易判別法の開発、体内時計を指標にした細胞評価法の開発 > 明細書

明細書 :体内時計を指標にした低品質ES細胞およびiPS細胞の簡易判別法の開発、体内時計を指標にした細胞評価法の開発

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年5月11日(2015.5.11)
発明の名称または考案の名称 体内時計を指標にした低品質ES細胞およびiPS細胞の簡易判別法の開発、体内時計を指標にした細胞評価法の開発
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/02
C12N 5/00 102
C12N 5/00 202C
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 12
出願番号 特願2013-552394 (P2013-552394)
国際出願番号 PCT/JP2012/079552
国際公開番号 WO2013/103053
国際出願日 平成24年11月14日(2012.11.14)
国際公開日 平成25年7月11日(2013.7.11)
優先権出願番号 2012001506
優先日 平成24年1月6日(2012.1.6)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】八木田 和弘
【氏名】梅村 康浩
出願人 【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
4B065
Fターム 4B024AA20
4B024DA02
4B024DA03
4B024EA04
4B024FA02
4B024FA10
4B024GA11
4B024HA11
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QS05
4B063QS38
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB40
4B065BC50
4B065CA60
要約 本発明は、多能性幹細胞を評価する方法であって、多能性幹細胞から分化した細胞の時計遺伝子の発現を解析し、その発現の程度により多能性幹細胞を評価する方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
多能性幹細胞を評価する方法であって、多能性幹細胞から分化した細胞の時計遺伝子の発現を解析し、その発現の程度により多能性幹細胞を評価する方法。
【請求項2】
時計遺伝子がPer2及び/又はBmal1及び/又はDbpである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
評価対象の多能性幹細胞に時計遺伝子のプロモータと連結したレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入し、レポーター遺伝子の発現に基づき時計遺伝子の発現パターンを解析することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
レポーター遺伝子が蛍光蛋白質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
時計遺伝子のプロモータと連結したレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を備えた、多能性幹細胞を評価するためのキット。
【請求項7】
時計遺伝子がPer2及び/又はBmal1及び/又はDbpである、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項6に記載のキット。
【請求項9】
レポーター遺伝子が蛍光蛋白質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子である、請求項6に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、体内時計を指標にした多能性幹細胞の評価法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療を行う上でもっとも大きな問題は、発がんを始めとする移植細胞由来の疾患の発症である。この最大の原因は未分化な細胞の混入だと言われているが、これ以外にも,用いるES細胞やiPS細胞が低品質であることによる問題も指摘されている。このように細胞移植による再生医療の実現において、ES細胞およびiPS細胞の品質管理は非常に重要であり、現在内外の研究者が様々な方法を開発し、特にiPS細胞の品質評価基準を策定しようと努力している。
【0003】
非特許文献1は、ES細胞およびiPS細胞には体内時計がなく、試験管内で分化誘導することで体内時計が形成されることを開示するが、ES細胞やiPS細胞の品質評価に関するデータはない。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】K. yagita et al. Proc. Natl. AcadSci. USA. 2010 February 23; 107(8) 3846-3851.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、多能性幹細胞の評価法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
地球上のほとんどの生物には、1日の時刻を知るための約24時間周期の体内時計(概日時計)が備わっている。哺乳類では、ほぼ全身の細胞に体内時計があり、細胞機能の制御に関わっている。本発明者はこれまでの研究で、ES細胞およびiPS細胞など多能性幹細胞(いわゆる万能細胞)には体内時計がない、およびこれらを分化させると体内時計が形成されることを発見した。
【0007】
この発見をもとに、体内時計が細胞分化の過程で形成されるメカニズムを研究していたところ、癌遺伝子などの発現異常がある多能性幹細胞(例えばES細胞)では、分化させても正常に体内時計が形成されないことを見出した。この性質を利用し、再生医療に用いるiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞の細胞分化による体内時計形成能を調べることにより、少なくとも体細胞が備えている体内時計が形成されないような細胞を除外することができると考え、その方法の確立に取り組んだ。
【0008】
今回、本発明者は、体細胞が内在性に有している体内時計を指標にして、iPS細胞およびES細胞を含む多能性幹細胞の品質を簡便にかつ定量的に評価する方法を開発した。
【0009】
本発明は、以下の評価方法及びキットを提供するものである。
項1. 多能性幹細胞を評価する方法であって、多能性幹細胞から分化した細胞の時計遺伝子の発現を解析し、その発現の程度により多能性幹細胞を評価する方法。
項2. 時計遺伝子がPer2及び/又はBmal1及び/又はDbpである、項1に記載の方法。
項3. 多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、項1に記載の方法。
項4. 評価対象の多能性幹細胞に時計遺伝子のプロモータと連結したレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入し、レポーター遺伝子の発現に基づき時計遺伝子の発現パターンを解析することを特徴とする、項1に記載の方法。
項5. レポーター遺伝子が蛍光蛋白質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子である、項4に記載の方法。
項6. 時計遺伝子のプロモータと連結したレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を備えた、多能性幹細胞を評価するためのキット。
項7. 時計遺伝子がPer2及び/又はBmal1及び/又はDbpである、項6に記載のキット。
項8. 多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、項6に記載のキット。
項9. レポーター遺伝子が蛍光蛋白質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子である、項6に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、癌遺伝子などの発現異常がある多能性幹細胞は、分化させたときに正常に体内時計が形成されないことで、正常な多能性幹細胞から除外することができ、癌化などの心配のない多能性幹細胞を早期に選抜し、使用できるようになった。多能性幹細胞を用いて様々な研究が行われているが、癌化のおそれのない多能性幹細胞を本発明により選抜することで、より適切な研究が行われると期待される。
【0011】
本発明によれば、再生医療に用いるiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞の細胞分化による体内時計形成能を調べることにより、少なくとも体細胞が備えている体内時計が形成されないような細胞を除外することができ、iPS細胞およびES細胞を含む多能性幹細胞の品質を簡便にかつ定量的に評価する方法が確立された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、正常マウスES細胞(高品質iPS細胞のモデル)を本発明の方法で分化誘導したときに出現する体内時計の振動を示す。
【図2】図2は、がん遺伝子c-Mycのごく弱い発現特徴があるES細胞(低品質ES細胞/iPS細胞のモデル) を本発明の方法で分化誘導したときに出現する体内時計の振動及び高速フーリエ展開による周波数解析を示す。
【図3】図3は、正常ES細胞の分化誘導培養による体内時計形成能の定量的評価を示す。(A)分化誘導のDay7、Day14、Day21、Day28及びDay35の相対生物発光強度。(B)Day7、Day14、Day21、Day28及びDay35のRelative power。Relative powerが高値なほど明瞭な体内時計の振動があることを示す。
【図4】図4は、ヒトiPS細胞(hiPS)の分化前及びin vitro分化誘導4週間後の生物発光強度を示す。分化誘導で概日時計の形成が再現される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、時計遺伝子としては、Clock, Bmal1, Period (Per1, Per2, Per3), Cryptochrome(Cry1, Cry2)、Albmin D-boxbinding protein (Dbp)などが挙げられる。好ましい時計遺伝子は、Bmal1, Per2, Dbpである。

【0014】
本発明の方法では、少なくとも1種の時計遺伝子の発現を解析することができる。ここで、「発現を解析」するとは、時計遺伝子の発現量を測定することが挙げられる。時計遺伝子の発現量の測定は、例えば時計遺伝子のプロモータに発現可能に連結したレポーター遺伝子の発現量を測定することで、実行できる。

【0015】
多能性幹細胞は、少なくとも2種の細胞に分化可能であり、かつ、時計遺伝子が停止あるいはほとんど停止している細胞を指す。好ましい多能性幹細胞はES細胞、iPS細胞であるが、これら以外にも少なくとも2種の細胞に分化可能であり、かつ、時計遺伝子が停止あるいはほとんど停止している細胞であれば、本発明で評価対象になる多能性幹細胞に包含される。いわゆる成体幹細胞は、時計遺伝子が機能しているので、本発明の多能性幹細胞には含まれない。ダイレクトリプログラミングの途中の細胞は、発生の系統(内胚葉、中胚葉、外胚葉)が変わる場合のように性質の大きく異なる細胞に変化する場合などは、時計遺伝子が停止あるいはほとんど停止していれば、本発明の評価対象の多能性幹細胞に含まれ得る。

【0016】
多能性幹細胞の由来は、哺乳動物が挙げられ、例えばヒト、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタなどが挙げられる。

【0017】
本発明で使用するES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞は、細胞集団として存在する。このような細胞集団は均質な性質(品質)を有しているので、その一部を本発明の方法により評価することで、多能性幹細胞全体の評価が可能である。

【0018】
時計遺伝子の発現は、mRNAの発現をノーザンブロッティングにより測定してもよく、蛋白質の発現をウェスタンブロッティングあるいはELISAなどの抗体を用いた方法で測定してもよいが、好ましくは時計遺伝子のいずれかのプロモータの下流にレポーター遺伝子を連結し、そのレポーター遺伝子の発現量を測定することにより時計遺伝子の発現を評価するのがよい。レポーター遺伝子としては、蛍光蛋白質(例えば、GFP、CFP、BFP、YFP、DsREDなど)、ルシフェラーゼ(ホタル、ウミボタル、ウミシイタケなど)、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどの遺伝子が挙げられる。レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼが好ましい。

【0019】
好ましい実施形態において、本発明は、時計遺伝子のプロモータにレポーター遺伝子を連結した遺伝子構築物を評価対象の多能性幹細胞あるいはその分化した細胞に導入し、分化した多能性幹細胞においてレポーター遺伝子の発現量を評価することにより、多能性幹細胞を評価することができる。

【0020】
本発明のキットは、この遺伝子構築物を含むものである。該キットには、さらにES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞、分化誘導培地、多能性幹細胞の培養培地、シャーレなどの培養容器などの少なくとも1種が含まれていてもよい。

【0021】
本明細書において、多能性幹細胞を「評価」するとは、多能性幹細胞が癌細胞などの目的以外の細胞に分化せず、目的の細胞に分化できる能力(潜在性)を評価することを意味する。多能性幹細胞を分化させた細胞の時計遺伝子の発現割合が高いほど、多能性幹細胞は目的とする細胞に分化させたときにその機能を発揮することができる。例えば、実施例で示されるように、多能性幹細胞の92%以上、特に100%が分化4週間程度後に時計遺伝子を発現している場合、多能性幹細胞は、分化誘導後に機能的な細胞になると高評価することができ、多能性幹細胞の12%が分化4週間程度後に時計遺伝子を発現している場合、多能性幹細胞は、分化誘導後に機能的な細胞になり難い(低評価)と判定される。多能性幹細胞を分化させた細胞の時計遺伝子の発現の割合が高いほど、もとの多能性幹細胞は高評価となる。

【0022】
分化後に体内時計の障害が見られる低品質iPS細胞は、分化してヒトを含む哺乳動物に移植した際にがん化を含む様々な障害を生じることが懸念される。

【0023】
近年、体内時計とがんとの関連が注目されている。2007年には、世界保健機関(WHO)が「概日リズム障害を伴う交代制勤務」が、おそらく発がん性があるとされる「Group2A」のリスク因子として認定した。がんと体内時計の研究は、現在、世界中で精力的に行われており、全てではないものの、少なくとも一部のがん細胞では体内時計が障害されていることが報告され始めている(Shou-Jen Kuoら、Virchows Arch (2009) 454: 467-474)。がん細胞で体内時計の障害が見られるという報告は、低品質iPS細胞では体内時計の形成が障害されるという、本発明の理論を支持する知見である。本発明により分化された細胞の体内時計に障害のないことが証明された多能性幹細胞は、癌化のリスクがなく、得られた分化細胞の機能が優れているために、分化後に生体に移植する移植材料として好適に使用される。

【0024】
本発明の方法は、多能性幹細胞をシャーレなどの容器において、適当な培地で培養後、分化誘導培地で数週間培養する。培養は3週間以上行うのがよく、好ましくは3~5週間程度、特に4週間程度培養し、時計遺伝子の発現を評価する。分化誘導後の培養期間が5~6週間またはそれ以上になると細胞が徐々に弱ってきて時計遺伝子の発現が低下してくるので、分化誘導後の培養期間が長すぎるのは好ましくない。培養期間は、5週間未満が好ましい。分化誘導後の培養期間が3~4週間程度で細胞はコンフルエントの状態になる。分化誘導後の培養は、培地を交換しながら行うことができる。培地交換の頻度は、例えば2日に1回程度が挙げられるが、これに限定されることはなく、1日1回あるいはその他の期間で培地交換を行うことができる。

【0025】
レポーター遺伝子に、GFPなどの蛍光蛋白質を使用した場合には、多能性幹細胞から分化した細胞に光を照射して、蛍光を検出すればよく、ルシフェラーゼを用いた場合には、ルシフェリンを使用してルシフェラーゼにより発光量を測定すればよい。他のレポーター遺伝子を用いた場合にも、レポーター遺伝子に合わせてレポーター遺伝子産物の適切な評価方法により時計遺伝子の発現を評価することができる。

【0026】
本発明による分化誘導培養プロトコルにおける体内時計の形成実験の再現性は85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上あるいは100%であり、低品質と高品質の多能性幹細胞を再現性良く評価することができる。

【0027】
実施例では、高品質多能性幹細胞として、時計遺伝子(Per2、Bmal1)発現をモニターするレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を組み込んだES細胞を用い、低品質多能性幹細胞として、時計遺伝子(Per2、Bmal1) 発現をモニターするレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)に加え、野生型ES細胞における内在性c-Myc遺伝子発現量の約1.3倍から約4倍の発現量を示すc-Myc遺伝子導入ES細胞を用いた。このうち、c-Myc発現量が野生型ES細胞に比べ約1.3倍の発現量を示す低品質ES細胞は、細胞品質評価に一般的に用いられる定量PCR法によるc-Myc遺伝子発現量測定では野生型と統計学的な有意差はなく、遺伝子発現解析によるスクリーニング検査では野生型ES細胞と選別不可能であった。本発明の方法によれば、上述の癌遺伝子c-Mycの発現が微量に残存し,発がんリスクが高いES細胞を用いた低品質ES細胞の判別試験を繰り返し行った結果、全ての試験で低品質ES細胞を判別することができた。

【0028】
本発明の評価方法によれば、このような従来法では選別不可能な低品質の多能性幹細胞であっても、正しく品質評価できる。このように、本発明は、従来法では判別不可能であった多能性幹細胞の品質評価を実現できる点に特徴を有する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1
(1) Embryoid Body Formation
フィーダー細胞を除去したマウスES細胞を線維芽細胞用培地にて2×10細胞/mLに希釈し、低接着性の丸底96ウェルプレートに100μLずつ播種する。48時間、37℃、5%CO条件で培養する。
(2) differentiation culture of Embryoid Body
hanging drop cultureで作製した胚様体(Embryoid Body)を24ウェルプレートに移して、線維芽細胞用培地にて、25日間、37℃、5%CO条件で培養する。この間、継代はしない。また、培地交換は、1日から2日に1回ずつ、一定の間隔にならないように適度に間隔を変えながら行う。分化誘導培地25日後に体内時計を測定する。
【実施例】
【0030】
線維芽細胞用培地の組成を以下に示す。
[DMEM (Nakarai Tesque) / 10% FBS, 1 mM ピルビン酸ナトリウム(GibcoBRL), 0.1 mM MEM 非必須アミノ酸(Gibco BRL), 0.1 mM2-メルカプトエタノール(Sigma), 50 units/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Nakarai Tesque)]
なお、使用した低品質マウスES細胞及び高品質マウスES細胞は、いずれも時計遺伝子(Per2、Bmal1)のプロモータの後ろにホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結した遺伝子構築物(レポーターベクター)をマウスES細胞に導入したものである。レポーターベクターは、本発明者が常法に従い製造したものを用い、ルシフェラーゼ遺伝子はClontech(クロンテック社)で販売しているベクターから切り出した遺伝子を使用した。
【実施例】
【0031】
ES細胞としては、野生型の高品質マウスES細胞と低品質マウスES細胞を各々用いた。これらの高品質ES細胞と低品質ES細胞は、上記に記載したものを用いた。
【実施例】
【0032】
野生型マウスES細胞(高品質iPS細胞のモデル)を本発明の方法で評価した結果、正常に体内時計が形成されその振動が確認された例は100%であった。(196回の実験の結果)
図1は、実際に測定を行った実験の生データ(20回分)を示したものである。
【実施例】
【0033】
また、図2は、低品質iPS細胞のモデルとして、山中4因子として知られるiPS細胞作製に用いられるがん遺伝子c-Mycを弱く持続発現させたES細胞を樹立し、これを図1と同様に本方法で分化誘導培養したときの体内時計形成を見たデータである。高品質iPS細胞のモデルであった、野生型ES細胞のときとは大きく異なり、約12%程度(図2赤色トーンで示したもの)でしか体内時計の形成が認められなかった。
【実施例】
【0034】
また、体内時計の形成の有無を評価する定量的な方法として、高速フーリエ展開(FFT)解析法を用い、約24時間周期の周波数での振動の強さを評価している。(図3)このように、分化誘導後の時計遺伝子の発現を調べることで、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞など)の品質評価ができることが明らかになった。
実施例2:
ヒトiPS細胞の品質評価に向け、本発明者らの開発した「体内時計を指標としたin vitro細胞評価法」が実際にヒトiPS細胞でも応用できることを示すための実験を行った。京都大学iPS細胞研究所で樹立されたヒトiPS細胞を、本方法で分化誘導培養した結果、分化誘導4週間後に体内時計が正常に形成された(図4)。この結果から、本方法がヒトiPS細胞の品質評価法としても利用可能であることが強く示唆された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3