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明細書 :IgA結合性ペプチド及びそれによるIgAの精製

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6103772号 (P6103772)
登録日 平成29年3月10日(2017.3.10)
発行日 平成29年3月29日(2017.3.29)
発明の名称または考案の名称 IgA結合性ペプチド及びそれによるIgAの精製
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
C07K  17/00        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K   1/22        (2006.01)
C07K  16/00        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  30/88        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 7/08
C07K 17/00
C07K 19/00
C07K 1/22
C07K 16/00
G01N 33/53 N
G01N 33/53 D
G01N 30/88 J
G01N 30/88 201R
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2013-547203 (P2013-547203)
出願日 平成24年11月29日(2012.11.29)
国際出願番号 PCT/JP2012/080875
国際公開番号 WO2013/081037
国際公開日 平成25年6月6日(2013.6.6)
優先権出願番号 2011262871
優先日 平成23年11月30日(2011.11.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年11月13日(2015.11.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】伊東 祐二
【氏名】伊東 治
【氏名】大薗 慎二
【氏名】石飛 宏幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100144794、【弁理士】、【氏名又は名称】大木 信人
審査官 【審査官】藤井 美穂
参考文献・文献 特許第5874118(JP,B2)
Kotaro Sakamoto,Journal of Biological Chemistry,2009年,Vol.284, No.15,Pages 9986-9993
Takaaki Hatanaka,第48回ペプチド討論会講演要旨集,2011年,Page 13
調査した分野 C12N 15/00
C07K 1/00
C07K 7/00
C07K 16/00
C07K 17/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の式I:
H-(X1)-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-(X7)-(X8) (I) (配列番号1)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X1は、グルタミン残基又はメチオニン残基であり、
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X7は、セリン残基又はnullであり、
X8は、ロイシン残基、トレオニン残基又はnullである
[但し、X1がメチオニン残基である場合、X7は、セリン残基又はnullであり、X8は、nullとする])
によって表される、14~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなり、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とするペプチド。
【請求項2】
下記の式II:
H-Q-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-S-(X8) (II) (配列番号2)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Qはグルタミン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Fはフェニルアラニン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X8は、ロイシン残基、又はトレオニン残基である)
によって表される、16~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
以下のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
HMVCLSYRGRPVCF (配列番号3)
HMVCLSYRGRPVCFS (配列番号4)
【請求項4】
以下1)~8)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載のペプチド。
1) HQVCLSYRGRPVCFSL (配列番号5)
2) HQVCLSYRGQPVCFSL (配列番号6)
3) HQVCLSYRGRPTCFSL (配列番号7)
4) HQVCLSYRGRPVCYSL (配列番号8)
5) HQVCLSYRGRPVCFST (配列番号9)
6) HQVCLSYRGQPVCFST (配列番号10)
7) HQVCLSYRGRPTCFST (配列番号11)
8) HQVCLSYRGQPTCFST (配列番号12)
【請求項5】
ペプチドが2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成している、請求項1~4のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項6】
IgAの血清型(単量体)及び分泌型(二量体)に結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
標識が結合されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチドと連結されたタンパク質からなる融合タンパク質。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチドを固相に結合してなる固定化ペプチド。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項9に記載の固定化ペプチドをIgAと結合させること、並びに、結合したIgAを遊離させてIgAを回収することを含む、IgAの精製方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項9に記載の固定化ペプチドにサンプル中のIgAを結合させ、結合したIgAを検出することを含む、IgAの検出方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項9に記載の固定化ペプチドの少なくとも1種を含む、ヒトIgAの分析又は精製のためのキット。
【請求項14】
請求項9に記載の固定化ペプチドを含有する、IgA分離用カラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムペプチドライブラリから得られたヒトIgA結合性ペプチド及び該ペプチドによるIgAの分析法又は精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノグロブリンA(IgA)は、粘膜免疫においては重要な抗体であるだけでなく、血中ではイムノグロブリンG(IgG)についで2番目に主要な抗体のクラスであり、細菌やウイルス感染に対する防御に働いている。IgAには、二量体構造をもつ分泌型IgA(sIgA)と単量体構造のIgA(mIgA)が存在する。sIgAは、SS結合によるJoining chain(J-chain)を介した二量体構造をもち、粘液中に分泌されるが、mIgAの多くは、血液中に存在する。また、IgAには、主にヒンジ領域の長さが異なる2種類のサブタイプ、IgA1とIgA2が存在し、IgA2ではProリッチな13残基の領域が欠如している。医薬品へ向けたIgAの機能は、感染免疫における重要性から、粘膜ワクチンの開発において焦点が絞られてきたが(非特許文献1及び2)、血液中のIgAは、特に好中球のサポートによる癌細胞に対するADCCが報告されている(非特許文献3及び4)ことから、癌や自己免疫疾患の治療薬としてその臨床応用が拡大している抗体医薬のフォーマットであるIgGと同様に、IgAもまた癌を標的にした抗体医薬として期待される(非特許文献5)。
【0003】
しかし、IgAの医薬品への開発を妨げる要因の一つとして、IgG製造におけるプロテインA/Gアフィニティカラムのような工業的、製薬的なスケールで対応できる精製法が確立されていないことが挙げられる。従来、IgAの精製法としていくつかの方法が報告されている(非特許文献6)。例えば、IgA1特異的な糖鎖を認識するレクチンJacalin(非特許文献7)やProtein Aミメティック合成リガンドであるTG19318(非特許文献8)によるIgAの精製法が報告されているが、それらは結合能力や特異性における問題で利用には限界があった。また、Streptococcus細菌由来の表面タンパク質M protein family (非特許文献9)のメンバーから、IgA結合タンパク質が見出されたが(非特許文献10、11及び特許文献1)、IgG等の他の血清中のタンパク質との相互作用等(非特許文献12)が問題となり、IgA特異的な親和性リガンドとして使用するには障害があった。一方、Sandinらは、このStreptococcal Sir22 (M22) proteinの中の48残基からなるドメインペプチド(Streptococcal IgA-binding peptide, Sap)を取り出し、Cysを介したSS結合で二量体化することにより、元のSir22タンパク質より親和性(Kd値で3~4nM)は落ちるものの、比較的親和性の高い(Kd値で20nM)IgAの精製用アフィニティリガンドを報告した(非特許文献13)。実際にこのリガンドは、IgAのFcに結合し、sIgA、mIgA双方の精製、さらには抗原特異的なIgA1, IgA2モノクローナル抗体の検出への応用も可能であった。
【0004】
上記のIgA結合タンパク質と同様に、IgGについても本発明者らによってIgG結合性ペプチドが開発されている(特許文献2)。しかし、IgG結合性ペプチドは、IgG特異的に結合するペプチドであるために、IgA結合性ペプチドとして利用する事はできず、またその特異性の違いから、IgAに特異的に結合するペプチドの開発には、IgG結合性ペプチドの開発とは全く別のアプローチが必要であった。
【0005】
したがって、当該分野においてはIgAの精製または分析(検出又は定量)のための新たな技術が依然として切望されていた。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第WO 1992/017588
【特許文献2】国際公開第WO 2000/063383
【0007】

【非特許文献1】Holmgren, J. (1991) Fems Microbiology Immunology 89(1), 1-9
【非特許文献2】Holmgren, J., and Czerkinsky, C. (2005) Nat. Med. 11(4), S45-S53
【非特許文献3】Dechant, M., Beyer, T., Schneider-Merck, T., Weisner, W., Peipp, M., van de Winkel, J. G., and Valerius, T. (2007) J Immunol 179(5), 2936-2943
【非特許文献4】Zhao, J., Kuroki, M., Shibaguchi, H., Wang, L., Huo, Q., Takami, N., Tanaka, T., Kinugasa, T., and Kuroki, M. (2008) Oncol. Res. 17(5), 217-222
【非特許文献5】Beyer, T., Lohse, S., Berger, S., Peipp, M., Valerius, T., and Dechant, M. (2009) Journal of Immunological Methods 346(1-2), 26-37
【非特許文献6】Pack, T. D. (2001) Current protocols in Immunology / edited by John E. Coligan et al Chapter 2, Unit 2 10B
【非特許文献7】Kondoh, H., Kobayashi, K., and Hagiwara, K. (1987) Molecular immunology 24(11), 1219-1222
【非特許文献8】Palombo, G., De Falco, S., Tortora, M., Cassani, G., and Fassina, G. (1998) J Mol Recognit 11(1-6), 243-246
【非特許文献9】Frithz, E., Heden, L. O., and Lindahl, G. (1989) Molecular Microbiology 3(8), 1111-1119
【非特許文献10】Russell-Jones, G. J., Gotschlich, E. C., and Blake, M. S. (1984) The Journal of Experimental Medicine 160(5), 1467-1475
【非特許文献11】Lindahl, G., Akerstrom, B., Vaerman, J. P., and Stenberg, L. (1990) European Journal of Immunology 20(10), 2241-2247
【非特許文献12】Stenberg, L., O'Toole, P. W., Mestecky, J., and Lindahl, G. (1994) The Journal of Biological Chemistry 269(18), 13458-13464
【非特許文献13】Sandin, C., Linse, S., Areschoug, T., Woof, J. M., Reinholdt, J., and Lindahl, G. (2002) J Immunol 169(3), 1357-1364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒトIgAに特異的又は選択的に結合性を有するペプチドを提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、該ペプチドを用いてヒトIgAを精製する又は分析(検出又は定量)する方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ヒトIgAは、背景技術に記載したように、粘膜及び血中に存在し、感染等に対する防御に重要な役割を果たしている。このような特性のために、IgAは抗体医薬として感染症や腫瘍等の疾患の治療に使用されようとしている。本発明は、このような状況を踏まえたものであり、ヒトIgAに特異的又は選択的に結合可能なペプチドを提供することによって医薬として使用可能なIgAの精製及び分析のために有用であると考えられる。
【0011】
本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
【0012】
[1] 下記の式I:
H-(X1)-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-(X7)-(X8) (I) (配列番号1)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X1は、グルタミン残基又はメチオニン残基であり、
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X7は、セリン残基又はnullであり、
X8は、ロイシン残基、トレオニン残基又はnullである
[但し、X1がメチオニン残基である場合、X7は、セリン残基又はnullであり、X8は、nullとする])
によって表される、14~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とするペプチド。
【0013】
[2] 下記の式II:
H-Q-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-S-(X8) (II) (配列番号2)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Qはグルタミン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Fはフェニルアラニン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X8は、ロイシン残基、又はトレオニン残基である)
によって表される、16~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする、[1]のペプチド。
【0014】
[3] 以下のいずれかのアミノ酸配列からなる、[1]のペプチド。
HMVCLSYRGRPVCF (配列番号3)
HMVCLSYRGRPVCFS (配列番号4)
【0015】
[4] 以下1)~8)のいずれかのアミノ酸配列からなる、[1]又は[2]のペプチド。
1) HQVCLSYRGRPVCFSL (配列番号5)
2) HQVCLSYRGQPVCFSL (配列番号6)
3) HQVCLSYRGRPTCFSL (配列番号7)
4) HQVCLSYRGRPVCYSL (配列番号8)
5) HQVCLSYRGRPVCFST (配列番号9)
6) HQVCLSYRGQPVCFST (配列番号10)
7) HQVCLSYRGRPTCFST (配列番号11)
8) HQVCLSYRGQPTCFST (配列番号12)
【0016】
[5] ペプチドが2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成している、[1]~[4]のいずれかのペプチド。
【0017】
[6] IgAの血清型(単量体)及び分泌型(二量体)に結合する、[1]~[5]のいずれかのペプチド。
【0018】
[7] 標識が結合されている、[1]~[6]のいずれかのペプチド。
【0019】
[8] [1]~[7]のいずれかのペプチドと連結されたタンパク質からなる融合タンパク質。
【0020】
[9] [1]~[7]のいずれかのペプチドを固相に結合してなる固定化ペプチド。
【0021】
[10] [1]~[7]のいずれかのペプチドをコードする核酸。
【0022】
[11] [1]~[7]のいずれかのペプチド又は[9]の固定化ペプチドをIgAと結合させること、並びに、結合したIgAを遊離させてIgAを回収することを含む、IgAの精製方法。
【0023】
[12] [1]~[7]のいずれかのペプチド又は[9]の固定化ペプチドにサンプル中のIgAを結合させ、結合したIgAを検出することを含む、IgAの検出方法。
【0024】
[13] [1]~[7]のいずれかのペプチド又は[9]の固定化ペプチドの少なくとも1種を含む、ヒトIgAの分析又は精製のためのキット。
【0025】
[14] [9]の固定化ペプチドを含有する、IgA分離用カラム。
【0026】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011-262871号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0027】
本発明のヒトIgA結合性ペプチドは、IgG、IgM及びIgEと比べてIgAに対し高い選択性をもってヒトIgAに結合可能であるという利点を有している。このことは、例えばヒト血清等からIgAを選択的に分離することを可能にすることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】表面プラズモンによる合成ペプチドOpt2 M2Q R10Q(配列番号6)のヒトIgAへの結合解析の結果を示す。
【図2】表面プラズモンによる合成ペプチドOpt2 M2Q V12T(配列番号7)のヒトIgAへの結合解析の結果を示す。
【図3】表面プラズモンによる合成ペプチドOpt2 M2Q L16T(配列番号9)のヒトIgAへの結合解析の結果を示す。
【図4】Opt2 M2Q R10Q(配列番号6)ペプチドを固定化(固定化量:458.62 nmol)したカラムによるヒト血清からのIgAの精製を示す。
【図5】Opt2 M2Q V12T(配列番号7)ペプチドを固定化(固定化量:490.06 nmol)したカラムによるヒト血清からのIgAの精製を示す。
【図6】Opt2 M2Q L16T(配列番号9)ペプチドを固定化(固定化量:515.32 nmol)したカラムによるヒト血清からのIgAの精製を示す。
【図7】ペプチドを固定化したカラムから回収されたIgAのSDS-PAGE(A)とWestern blotting(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
今回、本発明者らが見出したヒトIgAに対し特異的又は選択的な結合性を有するペプチドは、T7ファージ提示システムによって構築された分子内に1つのジスルフィド結合を含むランダムペプチドライブラリ( Sakamoto, K., Ito, Y., Hatanaka, T., Soni, P. B., Mori, T., and Sugimura, K. (2009) The Journal of biological chemistry 284(15), 9986-9993)を参考に、新たにデザイン、構築したライブラリからバイオパンニング法を利用して単離されたものであり、このとき得られた4種の特異的クローンは、互いに共通の配列の相同性が見られ、その配列を基に多様に置換又は欠失して調製した合成ペプチドは、IgAに対する特異性を示した。これらのペプチドのIgA結合に必須の残基の同定を行い、親和性増強へのアプローチ並びに該ペプチドを使ったヒト血清からのIgAの精製への応用を可能にした。本発明のIgA結合性ペプチドは、最もコンパクトなもので、14残基であり、非特許文献13に記載されたStreptococcus Sir22 (M22)由来の約50残基のSapペプチド(C末端に1つのCysを有する。)に比べて小さく、これにより低コストによるペプチドをベースにしたIgAの精製システムの構築が期待できる。

【0030】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。

【0031】
具体的には、本発明のIgA結合性ペプチド、該ペプチドによるIgAの精製法及び分析法、そのようなIgA精製又は検出のためのキットについて説明する。

【0032】
(IgA結合性ペプチド)
本発明のペプチドは、多数のランダムペプチドを含むファージライブラリのなかからヒトIgAと特異的に又は選択的に結合性を有するものとしてスクリーニングされたものであり、従来公知の非特許文献13に記載されるようなポリペプチドとはその由来や一次構造が異なるものである。

【0033】
本明細書中で使用するヒトIgAは、IgA1及びIgA2を指すものとする。

【0034】
すなわち、本発明のペプチドは、最も広義の一次構造として、下記の式I:
H-(X1)-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-(X7)-(X8) (I) (配列番号1)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X1は、グルタミン残基又はメチオニン残基であり、
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X7は、セリン残基又はnullであり、
X8は、ロイシン残基、トレオニン残基又はnullである
[但し、X1がメチオニン残基である場合、X7は、セリン残基又はnullであり、X8は、nullとする])
によって表される、14~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とするペプチドである。

【0035】
式Iの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Iのペプチドはジスルフィド結合している。

【0036】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIで表されるペプチドを以下に示す。

【0037】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
H-Q-V-C-L-S-Y-R-(X2)-(X3)-G-(X4)-P-(X5)-C-(X6)-S-(X8) (II) (配列番号2)
(式中、
Hはヒスチジン残基であり、
Qはグルタミン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Sはセリン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Rはアルギニン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Pはプロリン残基であり、
Fはフェニルアラニン残基であり、
Xの各々は独立的に、以下より選択される:
X2及びX3は、独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失しており、
X4は、アルギニン残基又はグルタミン残基であり、
X5は、バリン残基又はトレオニン残基であり、
X6は、フェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
X8は、ロイシン残基、又はトレオニン残基である)
によって表される、16~18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする。

【0038】
上記の式II~IVのペプチドのアミノ酸配列において、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xはともに欠失していることが好ましく、そのようなペプチドは16アミノ酸長からなる。

【0039】
本発明のペプチドの具体例のいくつかを以下の1)~10)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない。このようなペプチドはいずれもヒトIgAに対し他の種の免疫グロブリンと比べて格別に高い結合特異性又は結合選択性を有している。

【0040】
1) HMVCLSYRGRPVCF (配列番号3)
2) HMVCLSYRGRPVCFS (配列番号4)
3) HQVCLSYRGRPVCFSL (配列番号5)
4) HQVCLSYRGQPVCFSL (配列番号6)
5) HQVCLSYRGRPTCFSL (配列番号7)
6) HQVCLSYRGRPVCYSL (配列番号8)
7) HQVCLSYRGRPVCFST (配列番号9)
8) HQVCLSYRGQPVCFST (配列番号10)
9) HQVCLSYRGRPTCFST (配列番号11)
10) HQVCLSYRGQPTCFST (配列番号12)
下記実施例にて詳述するとおり、配列番号6(Opt2 M2Q R10Q)、配列番号7(Opt2 M2Q V12T )及び配列番号9(Opt2 M2Q L16T)のペプチドがとりわけヒトIgAに対して高い親和性を有する。

【0041】
前述のとおり、本発明に関わる上記式のペプチドは、各アミノ酸配列のなかに離間した2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基間でジスルフィド結合を形成しうるようにシステイン残基が配置されていることを特徴としており、好ましいペプチドは、2つのシステイン残基がジスルフィド結合して環状ペプチドを形成し、各システイン残基のN末端側及びC末端側には1~3個、好ましくは3個、のシステイン以外の任意のアミノ酸残基を有している。1~3、16~18番目のそのようなアミノ酸残基は、上記例示のものである。

【0042】
本発明のペプチドは、ヒトIgAとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgG, IgE, IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明のペプチドとヒトIgAとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-6M~1×10-7M未満、好ましくは1×10-8M未満である。

【0043】
固相に固定化した本発明のペプチドを用いて、実際にヒト血清中のIgAとの結合を試みたときには、IgAの血清型(単量体)及び分泌型(二量体)に結合することが判明し、そのいずれのIgAの分離も可能であることが示された。

【0044】
本発明のペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法などのペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成などによって製造することができる(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;S tewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人)。あるいは、本発明のペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法などによって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLCなどのクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、免疫吸着法などにより、回収又は精製することができる。

【0045】
ペプチド合成は、各アミノ酸の、結合しようとするα-アミノ基とα-カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。上で得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα-カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。

【0046】
遺伝子組換え法は、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、ウイルスなどのベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、 T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、λファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、センダイウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスなどが挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、Charomid9-42などが挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、pComb3Hなどが知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイトなどが含まれうる。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、ポリAサイトなどが含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられうる。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を含む。形質転換細胞を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養では、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有する。本発明のペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。そのために、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合する。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。

【0047】
それゆえに、本発明はさらに、本発明のペプチドをコードする核酸にも関する。ここで、核酸は、DNA又はRNA(例えばmRNA)を含む。

【0048】
本発明のペプチドは、IgAの検出を可能にするために、標識されていてもよい。標識は、限定されないが、例えば蛍光色素、化学発光色素、酵素、放射性同位元素、蛍光タンパク質、ビオチンなどを含む。好ましい標識の例は、フルオレセイン、FITCなどのフルオレセイン誘導体、ローダミン、テトラメチルローダミンなどのローダミン誘導体、テキサスレッドなどの蛍光色素である。

【0049】
本発明のペプチドは、任意のタンパク質と融合させてもよい。タンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質)のような蛍光タンパク質、ペルオキシダーゼなどの酵素などであれば、該タンパク質を標識として使用できる。この場合、本発明のペプチドと該タンパク質とを、必要に応じて適当なリンカーを介して融合タンパク質として遺伝子組換え法によって作製できる。このとき、本発明のペプチドがヒトIgAとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製するべきである。

【0050】
本発明のペプチドはさらに、ヒトIgAの分離精製、分析などに使用できるように、アフィニティカラムに充填可能な固相上に固定化されてもよい。

【0051】
ペプチドを固定化するのに用いる好適な固相としては、限定するものではないが、 例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、スチレン-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステルポリマー、フッ素樹脂、シリカゲル、架橋デキストラン、ポリサッカライド、アガロース等の多糖類、ガラス、金属、磁性物質、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。そのような固相の形状は、例えば、トレー、球、繊維、粒子、棒、平板、容器、セル、マイクロプレート、試験管、膜(フィルム又はメンブラン)、ゲル、チップなどの任意の形状でよい。具体的には例えば、磁性ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、セファロースビーズ、シリカゲルビーズ、多糖類ビーズ、ポリスチレンプレート、ガラスプレート、ポリスチレンチューブなどが挙げられる。これら固相への本発明のペプチドの固定化は、当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等によって行うことができる。固定化は共有結合にて行うことが好ましく、固相表面に化学官能基(例えばヒドロキシ基、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基など)、好ましくは炭素数約4~20のアルキレン鎖をスペーサーとして有する化学官能基を有しており、これとペプチドのカルボキシ末端を化学的に反応させてエステル結合又はアミド結合等を形成する。本発明のペプチドを固定化した固相は、アフィニティークロマトグラフィーカラム、HPLCカラム等のカラムに充填して、ヒトIgAを検出、精製又は分離するために用いることができる。

【0052】
(IgAの精製法)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドをIgAと結合させること、並びに、結合したIgAを遊離させてIgAを回収することを含む、IgAの精製方法を提供する。

【0053】
本発明のペプチドを固定化した固相を、アフィニティークロマトグラフィーカラム、HPLCカラム等のカラムに充填し、適当なバッファーで平衡化し、40℃~0℃、好ましくは室温でヒトIgAを含有する液をアプライし、固相上のペプチドにヒトIgAを結合させる。例えば血清中のIgAを分離する場合には、中性域のpH、例えばpH6.0~7.5のバッファーを使用してカラムにアプライし、結合操作を行うことができる。溶出は、酸性域のpH、例えばpH2~4のバッファー(例えば0.3MのNaClを含有するpH3.5からpH2.5の0.2Mグリシン-HClバッファー)をカラムに流して行うことができる。

【0054】
IgAが回収されたがどうかは、例えば、電気泳動、その後の抗ヒトIgA抗体を使用するWestern Blottingによって測定できる。泳動条件は、5~20%アクリルアミドグラジエントゲルを用いたSDS-PAGEを行い、また、Western Blotting条件は、泳動後のタンパク質をPVDF膜に転写し、スキムミルクでブロッキング後、抗ヒトIgAα鎖ヤギ抗体とHRP標識抗ヤギIgGマウス抗体で検出を行うことができる。

【0055】
本発明の方法は、種々の方法で生産されたIgA含有生産物からIgAを精製する工程のなかでIgAに富む画分を得る場合に有用である。それゆえに、アフィニティークロマトグラフィー、HPLC等のカラムクロマトグラフィーにおいて本発明の方法を使用することが好ましい。IgAの精製に際しては、このようなクロマトグラフィー法に加えて、タンパク質の慣用的な精製技術、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過などを適宜組み合わせることができる。

【0056】
(IgAの分析法)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドにサンプル中のIgAを結合させ、結合したIgAを検出することを含む、IgAの検出方法を提供する。ここで、検出には、定性又は定量のいずれかの分析を含むものとする。

【0057】
IgAの検出は、操作中に適するバッファーを使用しながら、メンブランやポリスチレンウエルプレートなどにサンプルを結合し、これに本発明の標識ペプチドを接触させ、必要に応じて洗浄後、標識のレベルを定性又は定量することによって行うことができる。

【0058】
あるいは、上記のような本発明のペプチドを固定化したHPLCカラムを使用する場合には、該カラムに、ヒトIgAを含有するサンプルを注入し、結合バッファーを流してペプチドにヒトIgAを結合し、例えば吸光度280nmで、もしくは280nmの励起光による350nmの蛍光で、タンパク質を検出し記録し、溶出緩衝液(例えば、0.15MのNaClを含む0.1Mグリシン塩酸緩衝液pH2.5へのグラジエント溶出)にてカラムから溶出させ、現れたピーク及びピーク面積により、IgAの定性及び定量を行うことができる。

【0059】
(キット及びカラム)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドの少なくとも1種を含む、ヒトIgAの分析(定性、定量等)又は精製のためのキットを提供する。

【0060】
本発明のキットに含まれる個々のペプチド又は固定化ペプチドは、個別の容器に収容される。また、必要であれば、ヒトIgAの分析手順や精製手順を記載した使用説明書をキットに備えてもよい。さらにキットには、分析に必要な試薬やバッファー、固定化ペプチド充填カラムなどを含めてもよい。

【0061】
本発明はさらに、上記の本発明の固定化ペプチドを含有する、IgA分離用カラムを提供する。

【0062】
固定化ペプチドは、ペプチドを、一般にクロマトグラフィー用の担体(充填材)に共有的に又は非共有的に結合することによって作製されうる。そのような担体の例は、アガロースやセファロースなどの多糖類ベースの担体、シリカゲルベースの担体、樹脂ベース若しくはポリマーベースの担体などである。ペプチドを担体に結合するときには、炭化水素鎖(例えばC4~C16)のようなスペーサーを介して結合してもよい。

【0063】
上記IgA分離用カラムは、IgAを分離するためのカラムであり、具体的には、IgAの分析又は精製・分取のための、クロマトグラフィーカラム、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラム等のカラムを包含する。カラムのサイズは、特に制限されないものとし、分析用、精製・分取用などの用途、アプライ(搭載)又は注入する量、などに応じて変化させうる。また、カラムの材質は、金属、プラスチック、ガラス等の、カラムとして通常使用されるようなものでよい。

【0064】
上記のカラムは、上記の手法に準じて作製した本発明の固定化ペプチド(乾燥又は湿潤状態)をカラムに密に充填することによって製造できる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、それらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
合成ペプチドの特異性評価
以下のペプチドを、公知の一般的な手法により合成した。なお、これらのペプチドの配列は本出願人らによるPCT/JP2011/061906に開示される方法により見出されたものである。特にIgA結合性ペプチドであるOpt2:HMVCLSYRGRPVCFSL(配列番号13)(PCT/JP2011/061906における配列番号44)に基づくものであり、当該ペプチドの親水性又は溶解性を向上させる、ならびに当該ペプチドの+のチャージを弱める目的で、特定のアミノ酸を置換又は欠失することにより得たものである。
【実施例】
【0067】
【表1】
JP0006103772B2_000002t.gif
【実施例】
【0068】
これらペプチドの結合特異性を確認するために、BiaCore T100(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴解析による結合力を評価した。
【実施例】
【0069】
各ペプチドのヒトIgAに対する結合親和性(KD)を表1に示す。
【実施例】
【0070】
また、代表的なペプチドの結合特異性に関する解析結果を図1-3に示す。これらの結果に示されるとおり、上記のいずれのペプチドも、IgGに対する親和性は無く、IgAに特異的に結合している事が確認できた。
【実施例】
【0071】
[実施例2]
IgA結合性ペプチドによるヒトIgAの精製
実施例1にて合成したペプチドが、ヒトIgAの精製用リガンドとして、機能するかどうかを検討するために、合成した各ペプチドをアミノPEG化して、1mlのHiTrap NHS-activated HP(GE Healthcare)に固定化し、ヒト血清からのIgAの精製を試みた。ヒト血清1mlをPBSで5倍に希釈した後、Profiniaタンパク質精製システム(BioRad)に接続したカラムにアプライした。PBSで洗浄後、0.15M NaClを含む0.1M glycine-HCl (pH2.5)で結合タンパク質を溶出した。代表的なペプチドの溶出結果を図4-6に示す。実施例1にて合成したペプチドのいずれを用いても、同様の結果が得られ、分画A-Dのうち、分画Dを回収した。
【実施例】
【0072】
[実施例3]
精製タンパクの同定
SDS-PAGEによる精製たんぱくの同定を行った。
【実施例】
【0073】
実施例2で得られた分画Dをそれぞれほぼ同じ濃度になるように137mM PBS溶液にて希釈し、さらに2×サンプルバッファー(0.5 M Tris塩酸緩衝液(pH 6.8) 1.25 ml、グリセロール2 mL、SDS 0.2 g、0.1%BPB 1mlを超純水にて10mlにメスアップして調製)にて2倍に希釈した(1:1で混合)。得られたサンプルを4~20%ポリアクリルアミドグラジェントゲル(ミニプロティアンTGXゲル;BioRad)に30μlアプライし、これをエレクトロードバッファー(Tris 9g、SDS 3g、グリシン43.2 gを蒸留水3Lにて溶解して調製)で満たした泳動槽にて35mAで45分間、電気泳動を行った。その後、ゲル板よりゲルを取り出し、蒸留水にて洗浄(20分間×3回)し、Gelcode Blue Reagentにゲルを浸し約1時間染色を行い、その後、ゲルを蒸留水にて洗浄、脱色の程度を確認し、ゲルの撮影を行った。代表的なペプチドを用いた実験結果を図7(A)に示す。
【実施例】
【0074】
続いて、Western Blotting法による精製たんぱくの同定を行った。
【実施例】
【0075】
得られたサンプルを4~20%ポリアクリルアミドグラジェントゲル(ミニプロティアンTGXゲル;BioRad)に対して10μlアプライする点を除いて、上記と同様に、実施例2で得られた分画Dを用いて電気泳動を行った。その後、ゲル板よりゲルを取り出し、トランスファーバッファー(Tris 36g、グリシン 43.2 gを蒸留水2.4Lにて溶解、メタノール600mlを混合して調製)にて洗浄した。転写装置へ濾紙4枚、メンブラン、ゲル、濾紙4枚の順にのせた後、80mAで90分間転写を行った。尚、使用する濾紙は予めトランスファーバッファーに、メンブレンはメタノールで浸してから使用した。転写後のメンブレンは以下の処理に付した:(1)5% skim/PBS溶液に浸し、1時間浸透、(2)その後メンブレンを1次抗体(抗ヒトIgAα鎖ヤギ抗体)溶液で1時間浸透、(3)PBSTにて10分間×3回洗浄、(4)二次抗体(HRP標識抗ヤギIgGマウス抗体)溶液で1時間浸透、(5)PBSTにて10分×3回洗浄。得られたメンブレンはChemiLumi Oneで発色し、撮影を行った。代表的なペプチドを用いた実験結果を図7(B)に示す。
【実施例】
【0076】
図7(A)に示すとおり、実施例2のクロマトグラフィーによって溶出された各酸性溶出画分(分画D)は、SDS-PAGE後のタンパク質染色によって、標品のIgAタンパク質とほぼ同様な130-180 kDaのスメアなバンドが検出された。また、Opt2を用いた場合には、25kDあたりにバンドが見られるが、実施例1にて合成したペプチドを用いた場合には、当該バンドは検出されないか、またはほとんど検出されない。
【実施例】
【0077】
一方、図7(B)に示すとおり、抗ヒトIgA抗体によるWestern Blottingで、実施例2のクロマトグラフィーによって溶出された各酸性溶出画分(分画D)、標品のIgA共に、先の130~180 kDaのバンド以外に、300kDa以上の位置にスメアなバンドが見られた。これは血清中のIgAは、単量体(血清型)が主要な成分であるが、一部、J鎖を介した二量体(分泌型)が含まれることから、このような2つのバンド帯が検出される。実施例2のクロマトグラフィーによって溶出された各酸性溶出分画分(分画D)では、同様にこの2つのバンド帯が検出された。このことから今回見出したIgA結合性ペプチド固定化カラムでは、血清型、分泌型両方の精製に用いることができることが分かった。
【実施例】
【0078】
以上の結果は、実施例1にて合成したペプチドが、ヒトIgAに特異的であり、精製用のアフィニティリガンドとして、高い有用性をもっていることを示している。今回開発されたペプチドによって、単にヒトIgAの検出、精製試薬に留まらず、将来的に新たな抗体医薬として期待されるヒトIgA抗体医薬に向けた標準的精製システムとしても有用である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、ヒトIgAと特異的又は選択的に結合可能なペプチドを提供するものであり、これによって、抗体医薬としてのIgAの製造におけるIgAの精製のために、またIgAの分析のために産業上有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0080】
配列番号1~13:IgA結合性ペプチド
【0081】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6